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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B |
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管理番号 | 1339160 |
異議申立番号 | 異議2017-700615 |
総通号数 | 221 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-05-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-06-16 |
確定日 | 2018-02-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6051012号発明「通気性積層体及びそれを用いた使い捨てカイロ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6051012号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6051012号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6051012号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年10月25日に特許出願され、平成28年12月2日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人株式会社ニトムズ(以下、「申立人」という。)より請求項1?7に対して特許異議の申立てがされ、平成29年8月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年10月3日付けで意見書の提出及び訂正の請求がされ、その訂正の請求に対して平成29年11月9日に申立人から意見書が提出されたものである。 第2.訂正の適否 1.訂正の内容 本件特許の特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正する。(訂正事項1。下線部は訂正箇所を表す。また、本件の訂正の請求を「本件訂正」という。) 「【請求項1】 不織布と多孔質フィルムとが接着剤で部分的に接合されている通気性積層体であって、前記不織布は部分熱圧着率が5?25%および目付けが15?50g/m^(2)の熱可塑性長繊維不織布からなり、前記多孔質フィルムは、該多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%、無機充填剤が35?50wt%を混合した組成であり、厚み40?100μmの無機充填剤含有ポリエチレン系樹脂フィルムの同一素材の複数層からなる、水銀圧入法のメディアン径が1μm以下、細孔体積が0.3ml/g以上、および10%伸長時の応力が5N/10mm以上の多孔質フィルムであり、王研式透気度が13300?240000秒/100ccであることを特徴とする通気性積層体。」 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、「多孔質フィルム」についてその組成を「該多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%、無機充填剤が35?50wt%を混合した組成」に、多孔質フィルムの「複数層」からなる構成について「同一素材の」複数層からなるものに、「5000?240000秒/100cc」である通気性積層体の王研式透気度について「13300?240000秒/100cc」に、それぞれ減縮するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、「多孔質フィルム」の組成について、本件訂正前の請求項7に「前記多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%および無機充填剤が35?50wt%からなる該混合樹脂を2軸混練押出機で混合分散させ」るとの記載がある。そして、本件特許明細書の段落0023に「本発明において多層構造、例えば3層構成の多孔質フィルムは、(イ)3層が同一素材からなること」との記載があり、同一素材の複数層から多孔質フィルムを構成する旨が記載されている。さらに、王研式透気度について同段落0063の表2には、13300秒/100ccである実施例1が記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内でしたものである。 3.一群の請求項 本件訂正は、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであるところ、訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。 4.小括 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 不織布と多孔質フィルムとが接着剤で部分的に接合されている通気性積層体であって、前記不織布は部分熱圧着率が5?25%および目付けが15?50g/m^(2)の熱可塑性長繊維不織布からなり、前記多孔質フィルムは、該多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%、無機充填剤が35?50wt%を混合した組成であり、厚み40?100μmの無機充填剤含有ポリエチレン系樹脂フィルムの同一素材の複数層からなる、水銀圧入法のメディアン径が1μm以下、細孔体積が0.3ml/g以上、および10%伸長時の応力が5N/10mm以上の多孔質フィルムであり、王研式透気度が13300?240000秒/100ccであることを特徴とする通気性積層体。 【請求項2】 前記無機充填剤が炭酸カルシュウムであり、その50%平均粒径が1?10μmであることを特徴とする請求項1に記載の通気性積層体。 【請求項3】 前記熱可塑性長繊維不織布がポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維およびポリオレフィン系繊維から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1または2に記載の通気性積層体。 【請求項4】 前記多孔質フィルムが3層からなることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の通気性積層体。 【請求項5】 前記部分的接合の非接合面積率が15?55%であることの特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の通気性積層体。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか一項に記載の通気性積層体を袋体構成部材として用いた使い捨てカイロ。 【請求項7】 スパンボンド法で熱可塑性樹脂を溶融紡糸して得られた目付15?50g/m^(2)の部分熱圧着された熱可塑性長繊維不織布と、前記多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%および無機充填剤が35?50wt%からなる該混合樹脂を2軸混練押出機で混合分散させた後、少なくとも3層のTダイ共押出機を用いて溶融成膜した未延伸フィルムを、延伸温度40?100℃で1軸に3?5倍延伸した厚み40?100μmの多孔質フィルムとを、接着剤を用い、非接合面積率が15?55%となるように部分的に接合することを特徴とする通気性積層体の製造方法。」 2.取消理由の概要 当審において通知した取消理由の概要は、以下のとおりのものである。なお、特許異議申立書に記載された取消理由は全て通知した。 以下、甲第1号証等を「甲1」等という。また、甲1等に記載された発明を「甲1発明」等、甲1等に記載の事項を「甲1事項」等という。 (1)特許法第29条第1項第3号について 本件発明1-3、5、6は、甲2?5事項に鑑みれば、甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)特許法第29条第2項について 本件発明4、7は、甲2?5事項に鑑みれば、甲1発明から容易想到であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (3)特許法第36条第6項第1号について (ア) 本件明細書における比較例3は、本件請求項1?7の要件を満たすにも関わらず、製袋加工性が「×」とされている(本件明細書の特に段落0059、表1、表2を参照)。 このため、本件の請求項1?7に係る発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (イ) 本件明細書の段落0062、0063の表1、2に記載の実施例では、本件発明が解決しようとする課題が解決され所望の効果が奏されているのは、不織布のエンボス率(部分圧着率)について6%および11%、目付けに関して30g/m^(2)および40g/m^(2)、多孔質フィルムの厚みについて60μmおよび70μm、構成する層について3層、メディアン径について0.4μm、細孔体積について0.3ml/gおよび0.4ml/g、10%伸張応力について9N/mm、11N/mm、12N/mm、王研式透気度について7000?35000秒/100ccであるもののみである。 このため、本件発明1?7の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 甲1:特開2011-104993号公報 甲2:実験成績証明書、株式会社ニトムズ、重松義武、平成29年6月15日 甲3:特許異議申立人が作成したナイロン系スパンボンド不織布(商品名「エルタスN03040」)の顕微鏡拡大写真 甲4:測定分析結果報告書、株式会社島津テクノリサーチ、平成29年2月23日 甲5:測定分析結果報告書、株式会社島津テクノリサーチ、平成29年5月29日 3.甲各号証の記載 (1)甲1発明 甲1の特に段落0066、0069、0102?0104、0110の記載から、甲1には、実施例7として以下の「甲1発明-1」が、また製造方法として以下の「甲1発明-2」が記載されている。 《甲1発明-1》 「不織布層13と、表面層(A層11a)及び下層(B層11b)からなる多孔質フィルム11とが、B層11b上に設けられた接着材層12を介して貼り合わされている、通気性を有する袋体構成部材であって、 多孔質フィルムは、 メタロセン系触媒を用いて調製された直鎖状低密度ポリエチレン(メタロセン系LLDPE)[三井化学(株)製、「エボリュー(SP0540)」]100重量部を樹脂成分とし、無機充填剤として炭酸カルシウム(無機微粒子)90重量部を配合した混合原料(A層原料)と、 メタロセン系触媒を用いて調製された直鎖状低密度ポリエチレン(メタロセン系LLDPE)[三井化学(株)製、「エボリュー(SP3010)]100重量部を樹脂成分とし、無機充填剤として炭酸カルシウム(無機微粒子)90重量部を配合した混合原料(B層原料)と からなるA層/B層の2層積層構造のフィルムである袋体構成部材。」 《甲1発明-2》 「目付けが40g/m^(2)のナイロン系スパンボンド不織布と、メタセロン触媒の直鎖状低密度ポリエチレン及び無機充填剤を配合し2軸混練押出機にて溶融し、2層成型用Tダイスで共押出しした2層積層構造の未延伸フィルムを延伸温度80℃で1軸ロール延伸方式により延伸倍率4.0倍で延伸した、表面層(A層)の厚み10μm、裏層(B層)の厚み60μmの多孔質フィルムとを、接着剤を用い接合するものである、通気性を有する袋体構成部材の製造方法。」 (2)甲2事項 甲2には、以下の甲2事項が記載されている。 《甲2事項》 「甲1事項は、本件特許明細書の段落0038-0043に記載の方法に準拠して測定すると、 実施例1では、不織布の部分熱圧着率(エンボス面積率)が14%であり、多孔質フィルムの水銀圧入法のメディアン径が0.4μm、細孔体積が0.5ml/g、10%伸長時の応力が6N/10mm、袋体構成部材の王研式透気度が7088秒/100ccであり、非接合面積率が30%であり、 実施例7では、不織布の部分圧着率(エンボス面積率)が14%であり、多孔質フィルムの水銀圧入法のメディアン径が0.3μm、細孔体積が0.5ml/g、10%伸長時の応力が13N/10mm、袋体構成部材の王研式透気度が12340秒/100ccであり、非接合面積率が30%である。」 (3)甲3事項 甲3には、以下の甲3事項が記載されている。 《甲3事項》 「『エルタスN03040』のエンボス面積率は14%である。」 (4)甲4事項 甲4には、以下の甲4事項が記載されている。 《甲4事項》 「甲1発明は、本件特許明細書の段落0041に記載の方法に準拠して測定すると、 実施例1では、多孔質フィルムの水銀圧入法のメディアン径が0.4μm(0.39μm)、細孔体積が0.5ml/g(0.461mL/g)である。」 (5)甲5事項 甲5には、以下の甲5事項が記載されている。 《甲5事項》 「甲1発明は、本件特許明細書の段落0041に記載の方法に準拠して測定すると、 実施例7では、多孔質フィルムの水銀圧入法のメディアン径が0.3μm(0.31μm)、細孔体積が0.5ml/g(0.452mL/g)である。」 4.判断 (1)理由(1)(特許法第29条第1項第3号)について ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明-1とを対比すると、少なくとも以下の点で一応相違する。 《相違点1》 本件発明1では多孔質フィルムが、該多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%、無機充填剤が35?50wt%を混合した組成であり、無機充填剤含有ポリエチレン系樹脂フィルムの同一素材の複数層からなるものであるのに対し、甲1発明-1では多孔質フィルムがメタセロン触媒の直鎖状低密度ポリエチレン及び無機充填材を混成した無機充填剤含有ポリエチレン樹脂フィルムの異なる素材の2層からなるものである点。 《相違点2》 本件発明1は通気性積層体の王研式透気度が13300?240000秒/100ccであるのに対し、甲1発明-1はこのような特性を有するか否かが不明である点。 (イ)判断 a.相違点1について 相違点1は、多孔質フィルムを構成する複数層の各々の層の素材についての相違点であるから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。 b.相違点2について 相違点2は通気性積層体の王砥式透気度についての具体的な数値の相違点であるから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。 (ウ)小括 したがって、本件発明1は、甲1発明ではない。 イ.本件発明2、3、5、6について 本件発明2、3、5、6は、本件発明1の特定事項をすべて含むものである。そして、上記ア.に示したとおり本件発明1は、甲1発明ではない。したがって、本件発明1の特定事項を全て含みさらに限定された本件発明2、3、5、6は、甲1発明ではない。 ウ.理由(1)(特許法第29条第1項第3号)についての結論 以上のことから、本件発明1?3、5、6は特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明1?3、5、6に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。 (2)理由(2)(特許法第29条第2項)について ア.本件発明4について (ア)対比 本件発明4と甲1発明-1とを対比すると、少なくとも、上記ア.(ア)で示した相違点1、2のほか、以下の点で相違する。 《相違点3》 本件発明1は多孔質フィルムが3層からなるものであるのに対し、甲1発明-1は多孔質フィルムが表面層(A層)及び下層(B層)の2層からなるものである点。 (イ)判断 a.相違点1について 上記ア.(イ)で示したとおり相違点1は、多孔質フィルムを構成する複数層の各々の層の素材についての相違点であるから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。 そして、甲1には、多孔質フィルムについて、高圧法の低密度ポリエチレンを混合することや、同一素材の複数層からなるものとすることは、記載がなく、そして示唆する記載もない。 そもそも、甲1発明は、比較的低い融点のポリエチレンを主たる樹脂成分とするA層と、比較的高い融点のポリエチレンを主たる樹脂成分とするB層とを有する多孔質フィルムによって、ヒートシール時のシール性とエッジ切れ抑制性を両立することで、比較的幅広いシール条件でヒートシール可能な加工性(袋体の生産性)に優れたヒートシール用体構成部材用多孔質フィルムを得るものである(甲1の段落0010、0011、0125等参照)。 このように、甲1発明の上記効果を得るためには、A層とB層との間で融点を異なるものとする、すなわち異なる素材とせざるを得ないのであるから、甲1発明において多孔質フィルムを構成するA層原料及びB層原料を同一素材とすることには阻害事由がある。 これに対し本件発明1は、このように構成することで、本件特許明細書の段落0013に記載のように「中間モジュラスが向上でき、未延伸フィルムの延伸加工を行うことで多孔質化でき、且つ延伸ムラが減少できるなど」の格別な効果を奏するものである。 さらに、甲1には、多孔質フィルムに用いる無機充填剤含有ポリエチレン系樹脂フィルムの組成について、該多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%、無機充填剤が35?50wt%の割合とすることも、記載がなく、示唆する記載もない。 そして、本件発明1は、このようにすることで、本件特許明細書の段落0021に記載のように「目的とするフィルム特性およびヒートシール性が得られる」という格別な効果を奏するものである。他の証拠にもそのような記載はなく、また示唆する記載もない。 よって、甲1発明-1において相違点1に係る本件発明4のように構成することは、当業者が容易になし得たものではない。 b.相違点2について 上記ア.(イ)で示したとおり相違点2は、通気性積層体の王砥式透気度についての具体的な数値の相違点であるから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。 甲1には、通気性積層体の王砥式透気度について、本件発明1のように13300から240000秒/100ccの範囲に高めることは、記載も示唆もされていない。他の証拠にもそのような記載はなく、また示唆する記載もない。 なお、甲2は、甲1発明-1における王砥式透気度は12340秒/100ccである旨を示すものではあるが、本件発明1のように13300から240000秒/100ccの範囲に高めることは記載していないし、示唆する記載もない。 そして、本件発明1は、このように構成することで、本件特許明細書の段落0063の表2において実施例1、2、4及び比較例3で示されるとおり、使い捨てカイロの製品特性に優れつつ、製袋加工性にも優れるという格別な効果を奏するものである。このような効果を得ることは、甲1には記載も示唆もされていない。 よって、甲1発明-1において相違点2に係る本件発明4のように構成することは、当業者が容易になし得たことではない。 (ウ)申立人の意見について 平成29年11月9日付け意見書の第(1-3-2)段落(第7頁)において申立人は、複数の樹脂フィルムが積層された多孔性フィルムにおいて、各層(樹脂フィルム)の原料を同一素材とすることは最初に行うべき設計事項であり、甲1発明の多孔質フィルムを構成するA層原料及びB層原料を同一素材とすることは、容易になし得る設計事項であると主張する。 しかし、上記(イ)a.に示したように、甲1発明において多孔質フィルムを構成するA層原料及びB層原料を同一素材とすることには阻害事由があるから、申立人の主張は採用することができない。 (エ)小括 以上のことから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明7について (ア)対比 本件発明7と甲1発明-2とを対比すると、少なくとも以下の点で一応相違する。 《相違点4》 本件発明1は多孔質フィルムの材料が「混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%および無機充填剤が35?50wt%からなる該混合樹脂」であるのに対し、甲1発明-2はメタセロン触媒の直鎖状低密度ポリエチレン及び無機充填材を配合したものである点。 (イ)相違点4についての判断 甲1には、多孔質フィルムについて、高圧法の低密度ポリエチレンを混合することや、同一素材の複数層からなるものとすることは、記載も示唆もされていない。 そして、本件発明7は、このように構成することで、本件特許明細書の段落0013に記載のように「中間モジュラスが向上でき、未延伸フィルムの延伸加工を行うことで多孔質化でき、且つ延伸ムラが減少できるなど」の効果を奏するものである。このような効果を得ることは、甲1には記載も示唆もされていない。 さらに、甲1には、多孔質フィルムに用いる無機充填剤含有ポリエチレン系樹脂フィルムの組成について、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%、無機充填剤が35?50wt%の割合とすることも、記載も示唆もされていない。 そして、本件発明7は、このようにすることで、本件特許明細書の段落0021に記載のように「目的とするフィルム特性およびヒートシール性が得られる」という格別な効果を奏するものである。このような効果を得ることは、甲1には記載も示唆もされていない。 よって、甲1発明-2において相違点4に係る本件発明7のように構成することは、当業者が容易になし得たものではない。 (ウ)小括 したがって、本件発明7は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.理由(2)(特許法第29条第2項)についての結論 以上のことから、本件発明4、7は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、本件発明4、7に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。 (3)理由(3)(特許法第36条第6項第1号)について ア.比較例3について 本件訂正により本件発明1は減縮され、本件発明1は「王研式透気度が13300?240000秒/100cc」であるものとなった。このため、本件特許明細書の段落0063の表2において製袋加工性が「×」(製袋加工時の破れ、エッジ切れ、シール不良が多く発生する。:段落0047参照)である比較例3は、王研式透気度は8500秒/100ccであるから、本件発明1の範囲に含まれないものとなった。 よって、訂正後の本件発明1?6は、本件特許明細書の段落0063の表2の評価結果から、本件特許明細書の段落0005に記載の「使い捨てカイロの袋体構成部材に使用した際に、熱シール性が良く、発熱最高温度および発熱持続時間などの使い捨てカイロの製品特性に優れ、且つ熱シール時のエッジ切れなどが少なく生産性に優れた、不織布と多孔質フィルムとの通気性積層体を提供する」という発明の課題を解決するものであることが理解できるから、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 イ.発明の詳細な説明に開示された内容の拡張ないし一般化について (ア)訂正後の本件発明1?6について 本件訂正により、本件発明1?6は、「多孔質フィルム」についてその組成が「該多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%、無機充填剤が35?50wt%を混合した組成」であるものに、多孔質フィルムの「複数層」からなる構成について「同一素材の」複数層からなるものに、「5000?240000秒/100cc」である通気性積層体の王研式透気度について「13300?240000秒/100cc」に、それぞれ減縮された。 そして、本件特許明細書の段落0011、0020?0023、0026?0029、0063の表2等には、「エンボス率」、「目付」、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレン等の重量割合、多孔質フィルムの「層」の数等の好ましい数値の範囲や、数値範囲を逸脱した際に生じる事象との関係が記載されているから、訂正後の本件発明1?6が本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できないとはいえない。 (イ)本件発明7について 本件発明7についても、本件特許明細書の段落0011、0020?0023、0026?0029、0063の表2等には、「目付」、「フィルムの厚み」、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレン等の重量割合、多孔質フィルムの「層」の数等の好ましい数値の範囲や、数値範囲を逸脱した際に生じる事象との関係が記載されているから、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できないとはいえない。 ウ.申立人の意見について (ア)平成29年11月9日付け意見書の第(1-1)段落(第2?4段落)において申立人は、多孔質フィルムを構成する樹脂フィルムの積層数が異なると多孔質フィルムの構造が変化するので多孔質フィルムの物性(例えば透気度や強度など)が変化することは明らかであるから、本件特許明細書を参照しても、多孔質フィルムが3層以外の複数層、特に2層積層構造である場合の通気性積層体において必ず課題を解決できることは認識できない旨を主張する。 しかし、多孔質フィルムが2層積層構造である場合も、3層からなる多孔質フィルムと同様に、積層された全体の物性を変化させることで、多孔質フィルム全体での水銀圧入法のメディアン径、細孔体積、10%伸長時の応力や、通気性積層体全体での王研式透気度を本件発明1に規定の範囲に設定できない、とする理由はないから、申立人の主張は採用することができない。 (イ)また、同意見書の第(1-2)段落(第4?5頁)において申立人は、本件特許明細書の段落0025の記載をもとに、本件発明の多孔質フィルムは、未延伸フィルムを3?5倍延伸したフィルムである構成が必須である旨を主張する。 しかし、本件特許明細書の段落0063の表2の評価結果から、多孔質フィルム全体での水銀圧入法のメディアン径、細孔体積、10%伸長時の応力や、通気性積層体全体での王研式透気度を本件発明1に規定の範囲に設定することで本件発明が課題を解決するのは明らかであって、その設定を実現する手段である製造方法(例えば延伸方法等)は、問わないことが理解できる。したがって、延伸倍率は必須の構成ではなく、段落0025の記載は1軸に延伸する場合は倍率課題を解決する効果がさらに高まることを示すに過ぎず、申立人の主張は採用することができない。 ウ.理由(3)(特許法第36条第6項第1号)についての結論 以上のことから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできず、特許法第113条第4号の規定により取り消すことはできない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 不織布と多孔質フィルムとが接着剤で部分的に接合されている通気性積層体であって、前記不織布は部分熱圧着率が5?25%および目付けが15?50g/m^(2)の熱可塑性長繊維不織布からなり、前記多孔質フィルムは、該多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%および無機充填剤が35?50wt%を混合した組成であり、厚み40?100μmの無機充填剤含有ポリエチレン系樹脂フィルムの同一素材の複数層からなる、水銀圧入法のメディアン径が1μm以下、細孔体積が0.3ml/g以上、および10%伸長時の応力が5N/10mm以上の多孔質フィルムであり、王研式透気度が13300?240000秒/100ccであることを特徴とする通気性積層体。 【請求項2】 前記無機充填剤が炭酸カルシュウムであり、その50%平均粒径が1?10μmであることを特徴とする請求項1に記載の通気性積層体。 【請求項3】 前記熱可塑性長繊維不織布がポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維およびポリオレフィン系繊維から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1または2に記載の通気性積層体。 【請求項4】 前記多孔質フィルムが3層からなることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の通気性積層体。 【請求項5】 前記部分的接合の非接合面積率が15?55%であることの特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の通気性積層体。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか一項に記載の通気性積層体を袋体構成部材として用いた使い捨てカイロ。 【請求項7】 スパンボンド法で熱可塑性樹脂を溶融紡糸して得られた目付15?50g/m^(2)の部分熱圧着された熱可塑性長繊維不織布と、前記多孔質フィルムの混合分散前原料である混合樹脂を100wt%としたとき、メタロセン触媒の直鎖状低密度ポリエチレンが40?62wt%、高圧法の低密度ポリエチレンが2?10wt%および無機充填剤が35?50wt%からなる該混合樹脂を2軸混練押出機で混合分散させた後、少なくとも3層のTダイ共押出機を用いて溶融成膜した未延伸フィルムを、延伸温度40?100℃で1軸に3?5倍延伸した厚み40?100μmの多孔質フィルムとを、接着剤を用い、非接合面積率が15?55%となるように部分的に接合することを特徴とする通気性積層体の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-02-13 |
出願番号 | 特願2012-235759(P2012-235759) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B) P 1 651・ 113- YAA (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 清水 晋治 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
久保 克彦 谿花 正由輝 |
登録日 | 2016-12-02 |
登録番号 | 特許第6051012号(P6051012) |
権利者 | 大化工業株式会社 旭化成株式会社 |
発明の名称 | 通気性積層体及びそれを用いた使い捨てカイロ |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 山岸 忠義 |
代理人 | 岡本 寛之 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 青木 篤 |