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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1339191
異議申立番号 異議2017-700910  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-27 
確定日 2018-03-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6106075号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6106075号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6106075号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成21年1月9日に出願した特願2009-3737号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年12月20日に新たな特許出願としたものであって、平成29年3月10日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年9月27日に特許異議申立人 家田 亘久より特許異議の申立てがされ、当審において、平成29年11月24日付けで取消理由を通知し、平成30年1月29日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第6106075号の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部と、各ビード部に埋設されたビードコア間にトロイド状に延在させた、少なくとも一枚のカーカスプライからなるカーカスと、カーカスのクラウン域の外周側に配設した、二層以上のコード交錯ベルト層からなるベルトとを具える空気入りタイヤにおいて、
タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲にあり、
タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、
ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
カーカスは、各ビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側に向けて巻き付けた巻き付け部を有してなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記空気入りタイヤを適用リムに組み付けて、規定の内圧を充填したときの、前記コード交錯ベルト層の最小幅の端部位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、前記カーカスの径成長が、0?0.1%の範囲である請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。」

第3 取消理由の概要
当審において、本件発明1?3に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1.本件特許の請求項1?3に係る発明は、その出願日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2.本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
3.本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

刊行物1:特開平6-48108号公報
刊行物2:特開平6-48109号公報
刊行物3:特開昭57-47203号公報
刊行物4:特開昭64-18705号公報
刊行物5:特開平9-202110号公報
刊行物6:特開平9-263108号公報
刊行物7:特開平10-35219号公報
刊行物8:JATMA YEAR BOOK 日本自動車タイヤ協会規格
2007
刊行物9:特開平11-321244号公報
刊行物10:特開2004-352172号公報
刊行物11:特開平3-200403号公報
刊行物12:特開2007-283867号公報
なお、刊行物1?12は、それぞれ、特許異議申立人 家田 亘久による特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)の甲第2?8、1、9?12号証である。

第4 刊行物の記載
1 刊行物1に記載された事項及び発明
本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。また、以下「1a」?「1d」の記載事項は、それぞれ「記載事項(1a)」?「記載事項(1d)」という。)。

(1a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、タイヤのカーカス形状は、タイヤの諸性能を得るために、一般に内圧を充填前後のタイヤの形状変化が均一な膨出変形を示す、いわゆる自然平衡形状がとられてきた。
【0004】これに対し、図5に一例として示すように、従来の偏平率90S、100S等の重荷重用空気入りラジアルタイヤ100におけるカーカス形状は、ビード部におけるカーカスプライ端の故障およびベルト端のセパレーションの防止を重視して設定されており、リム組みして正規内圧を充填した状態では、カーカス12のカーカスラインの曲率半径をトレッド26の中心部でR1、最大幅を有するベルト端部直下でR2としたときに、R1とR2との関係がR1>R2に設定されている。
【0005】カーカスラインは、内圧の充填に伴い曲率半径が大きい部位の円弧の中心部付近がタイヤの外側に向かって凸となるように変形し、隣接する曲率半径が小さい部位がタイヤの内側に凹むように変形す傾向がある。すなわち、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤ100では、内圧を充填するとカーカスラインは、赤道面付近がタイヤ半径方向外方(図5の矢印A方向)へ、カーカスライン最大幅位置12Cとビード部16との間がタイヤ外方(図5の矢印B方向)へ、そして、ベルト端部直下付近がタイヤ内方(図5の矢印C方向)へ移動する。
【0006】これによって、カーカスプライ折返し端部に適度な圧縮応力を充填内圧下にかけることができ、プライ端の故障を防止するとともに、トレッド部においては、ベルト張力を増加させて、ベルト層間の歪みを低減しベルト端でのセパレーションを防止することが図られた。
【0007】このような、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤ100のトレッド26においては、内圧充填時にはショルダー側の径が、赤道面の径に対して小さくなる傾向となるが、新品時にはそれほどではなく、特に問題はなかった。」

(1b)「【0014】図1に示される本発明の重荷重用空気入りラジアルタイヤ10においては、放射状に延設するカーカスプライ12は、タイヤ周方向に対して直交する方向に沿って配列されたカーカスコードと、これを被覆するコーティングゴムとで構成されている。
【0015】このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されており、それぞれ折り返し端部12Aとされている。
【0016】このビードコア14近傍のビード部16においては、カーカスプライ12と反対側にスチールコード保護層18が隣接配置されている。このスチール保護層18は、スチールコードがコーティングゴムで被覆されたものである。
【0017】さらに、スチールコード層18のカーカスプライ12と反対側には、有機繊維保護層20及び有機繊維保護層22が隣接配置されている。この有機繊維保護層20、22は、ナイロン等の有機繊維コードがコーティングゴムで被覆されたものである。
【0018】一方、カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されており、このベルト層24のタイヤ半径方向外側には、トレッド26が配設されている。なお、トレッド26には、図示はしないが所定のトレッドパターンが形成されている。
【0019】このような構造を有する重荷重用空気入りラジアルタイヤ10においては、正規内圧の10%の内圧を充填した状態で、カーカスラインの曲率半径をトレッド24の中心部でR1(曲率中心はタイヤ赤道面上)、最大幅を有するベルト端部直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたときに、R1とR2とR3の関係がR2>R1>R3とされており、また、カーカスプライ12のタイヤ半径方向最内位置からのカーカス高さをH、カーカス最大幅位置高さをhとしたときに、Hとhの関係が0.45≦h/H≦0.65とされている。さらに、カーカスラインは、カーカス最大幅位置高hの70%の高さ位置での曲率半径をR4としたときに、R4とR3の関係がR4>R3とされている。
【0020】また、R1とR2の境界点aのタイヤ赤道面からの距離wとトレッド最大幅Wとの関係w/Wは、0.6≦w/W≦0.9とされている。なお、ここでいうトレッド最大幅Wとは、タイヤ赤道面からタイヤ軸方向片側のショルダー側端部までのタイヤ軸芯に沿った方向の寸法をいう。」

(1c)「【0030】試験に使用した従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤは、タイヤサイズTBR-10.00R20であり、偏平率は100%である。また、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいては、内圧10%時のカーカスラインの曲率半径は、R1が400mm、R2が80mm、R3が120mm、R4が100mmとされ、カーカス高さHが278mm、カーカス最大幅位置高さhが160mmとされている。また、曲率半径R1と曲率半径R2との交点aのトレッドセンターCLからの寸法wは、130mmであり、トレッドセンターCLからベルト層24の端部までの寸法Wは、190mmである。」

(1d)刊行物1には以下の図が示されている。


また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。
(1e)段落【0004】?【0005】の「図5に一例として示すように、従来の偏平率90S、100S等の重荷重用空気入りラジアルタイヤ100におけるカーカス形状は、ビード部におけるカーカスプライ端の故障およびベルト端のセパレーションの防止を重視して設定され・・・カーカスラインは、内圧の充填に伴い曲率半径が大きい部位の円弧の中心部付近がタイヤの外側に向かって凸となるように変形し、隣接する曲率半径が小さい部位がタイヤの内側に凹むように変形す傾向がある。すなわち、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤ100では、内圧を充填するとカーカスラインは、赤道面付近がタイヤ半径方向外方(図5の矢印A方向)へ、カーカスライン最大幅位置12Cとビード部16との間がタイヤ外方(図5の矢印B方向)へ、そして、ベルト端部直下付近がタイヤ内方(図5の矢印C方向)へ移動する。」(記載事項(1a))という記載、段落【0014】?【0018】の「本発明の重荷重用空気入りラジアルタイヤ10においては、放射状に延設するカーカスプライ12は、タイヤ周方向に対して直交する方向に沿って配列されたカーカスコードと、これを被覆するコーティングゴムとで構成されている。・・・このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されており、それぞれ折り返し端部12Aとされている。・・・カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されており、このベルト層24のタイヤ半径方向外側には、トレッド26が配設されている。」(記載事項(1b))という記載及び図5(記載事項(1d))の図示内容によれば、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤ100においては、放射状に延設するカーカスプライ12は、タイヤ周方向に対して直交する方向に沿って配列されたカーカスコードと、これを被覆するコーティングゴムとで構成され、このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されて、それぞれ折り返し端部12Aとされており、カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されており、このベルト層24のタイヤ半径方向外側には、トレッド26が配設されていることが明らかである。

(1f)図5(記載事項(1d))の図示内容によれば、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤ100は一対のサイドウォール部を具えることが看て取れる。

以上の記載事項(1a)?(1d)及び認定事項(1e)?(1f)を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「放射状に延設するカーカスプライ12は、タイヤ周方向に対して直交する方向に沿って配列されたカーカスコードと、これを被覆するコーティングゴムとで構成され、
このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されて、それぞれ折り返し端部12Aとされており、
カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されており、このベルト層24のタイヤ半径方向外側には、トレッド26が配設され、
一対のサイドウォール部を具えている重荷重用空気入りラジアルタイヤ100であって、
正規内圧の10%の内圧を充填した状態で、カーカスラインの曲率半径を最大幅を有するベルト端部直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたとき、
タイヤサイズTBR-10.00R20であり、内圧10%時のカーカスラインの曲率半径は、R2が80mm、R3が120mmとされた、
重荷重用空気入りラジアルタイヤ100。」

2 刊行物2に記載された事項及び発明
本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、空気入りタイヤでは、内圧を充填する前と後ではカーカスの形状が変化し、トレッドの幅方向中央部は内圧の充填によって半径が若干大きくなる。
【0005】ところで、タイヤのカーカス形状は、タイヤの諸性能を得るために、一般に内圧を充填前後のタイヤの形状変化が均一な膨出変形を示す、いわゆる自然平衡形状がとられてきた。
【0006】これに対し、従来の偏平率90S、100S等の重荷重用空気入りラジアルタイヤにおけるカーカス形状は、ビード部におけるカーカスプライ端の故障およびベルト端のセパレーションの防止を重視して設定されており、リム組みして正規内圧を充填した状態では、カーカスのカーカスラインの曲率半径をトレッドの中心部でR1、最大幅を有するベルト端直下でR2としたときに、R1とR2との関係がR1>R2に設定されている。
【0007】カーカスラインは、内圧の充填に伴い曲率半径が大きい部位の円弧の中心部付近がタイヤの外側に向かって凸となるように変形し、隣接する曲率半径が小さい部位がタイヤの内側に凹むように変形す傾向がある。すなわち、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤでは、内圧を充填するとカーカスラインは、赤道面付近がタイヤ半径方向外方へ、カーカスライン最大幅位置とビード部との間がタイヤ外方へ、そして、ベルト端直下付近がタイヤ内方へ移動する。
【0008】これによって、カーカスプライ折返し端部に適度な圧縮応力を充填内圧下にかけることができ、プライ端の故障を防止するとともに、トレッド部においては、ベルト張力を増加させて、ベルト層間の歪みを低減しベルト端でのセパレーションを防止することが図られた。
【0009】このような、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤのトレッドにおいては、内圧充填時にはショルダー側の径が、赤道面の径に対して小さくなる傾向となるが、新品時にはそれほどではなく、特に問題はなかった。」

(2b)「【0018】図1に示される本発明の重荷重用空気入りラジアルタイヤ10においては、放射状に延設するカーカスプライ12は、タイヤ周方向に対して直交する方向に沿って配列されたカーカスコードと、これを被覆するコーティングゴムとで構成されている。
【0019】このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されており、それぞれ折り返し端部12Aとされている。
【0020】このビードコア14近傍のビード部16においては、カーカスプライ12と反対側にスチールコード保護層18が隣接配置されている。このスチール保護層18は、スチールコードがコーティングゴムで被覆されたものである。
【0021】さらに、スチールコード層18のカーカスプライ12と反対側には、有機繊維保護層20及び有機繊維保護層22が隣接配置されている。この有機繊維保護層20、22は、ナイロン等の有機繊維コードがコーティングゴムで被覆されたものである。
【0022】一方、カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されており、このベルト層24のタイヤ半径方向外側には、トレッド26が配設されている。なお、トレッド26には、図示はしないが所定のトレッドパターンが形成されている。
【0023】このような構造を有する重荷重用空気入りラジアルタイヤ10においては、正規内圧の10%の内圧を充填した状態で、カーカスラインの曲率半径をトレッド24の中心部でR1(曲率中心はタイヤ赤道面上)、最大幅を有するベルト端直下でR2、カーカス最大幅位置でR3、カーカスプライ12のタイヤ半径方向最内位置からのカーカス最大幅位置高さhの70%の位置でR4としたときに、R1とR2との関係をR1>R2、R2とR3との関係を1>R3/R2>0.55、また、R4とR3との関係をR4>R3としており、さらに、カーカスプライ12のタイヤ半径方向最内位置からのカーカス高さをHとしたときに、Hとhの関係が0.45≦h/H≦0.65とされている。」

(2c)「【0036】試験に使用した従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤは、タイヤサイズTBR-10.00R20であり、偏平率は100%である。また、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいては、内圧10%時のカーカスラインの曲率半径は、R1が400mm、R2が100mm、R3が120mm、R4が80mmとされ、カーカス高さHが278、カーカス最大幅位置高さhが166mmとされている。また、曲率半径R1と曲率半径R2との交点aのトレッドセンターCLからの寸法wは、130mmであり、トレッドセンターCLからベルト層24の端部までの寸法Wは、190mmである。」

(2d)刊行物2には以下の図が示されている。


また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。
(2e)段落【0006】?【0007】の「従来の偏平率90S、100S等の重荷重用空気入りラジアルタイヤにおけるカーカス形状は、ビード部におけるカーカスプライ端の故障およびベルト端のセパレーションの防止を重視して設定され・・・カーカスラインは、内圧の充填に伴い曲率半径が大きい部位の円弧の中心部付近がタイヤの外側に向かって凸となるように変形し、隣接する曲率半径が小さい部位がタイヤの内側に凹むように変形す傾向がある。すなわち、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤでは、内圧を充填するとカーカスラインは、赤道面付近がタイヤ半径方向外方へ、カーカスライン最大幅位置とビード部との間がタイヤ外方へ、そして、ベルト端直下付近がタイヤ内方へ移動する。」(記載事項(2a))という記載、段落【0018】?【0022】の「本発明の重荷重用空気入りラジアルタイヤ10においては、放射状に延設するカーカスプライ12は、タイヤ周方向に対して直交する方向に沿って配列されたカーカスコードと、これを被覆するコーティングゴムとで構成されている。・・・このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されており、それぞれ折り返し端部12Aとされている。・・・このビードコア14近傍のビード部16においては、カーカスプライ12と反対側にスチールコード保護層18が隣接配置されている。このスチール保護層18は、スチールコードがコーティングゴムで被覆されたものである。・・・カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されており、このベルト層24のタイヤ半径方向外側には、トレッド26が配設されている。」(記載事項(2b))という記載及び図1(記載事項(2d))の図示内容によれば、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいても、放射状に延設するカーカスプライ12は、タイヤ周方向に対して直交する方向に沿って配列されたカーカスコードと、これを被覆するコーティングゴムとで構成され、このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されて、それぞれ折り返し端部12Aとされており、カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されており、このベルト層24のタイヤ半径方向外側には、トレッド26が配設されていることが明らかである。

(2f)上記認定事項(2e)及び図1(記載事項(2d))の図示内容によれば、従来の重荷重用空気入りラジアルタイヤは一対のサイドウォール部を具えることが明らかである。

以上の記載事項(2a)?(2d)及び認定事項(2e)?(2f)を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「放射状に延設するカーカスプライ12は、タイヤ周方向に対して直交する方向に沿って配列されたカーカスコードと、これを被覆するコーティングゴムとで構成され、
このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されて、それぞれ折り返し端部12Aとされており、
カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されており、このベルト層24のタイヤ半径方向外側には、トレッド26が配設され、
一対のサイドウォール部を具えている重荷重用空気入りラジアルタイヤであって、
正規内圧の10%の内圧を充填した状態で、カーカスラインの曲率半径を最大幅を有するベルト端直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたとき、
タイヤサイズTBR-10.00R20であり、内圧10%時のカーカスラインの曲率半径は、R2が100mm、R3が120mmとされた、
重荷重用空気入りラジアルタイヤ。」

3 刊行物3の記載事項
本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(3a)第4ページ左下欄第13行?第5ページ左上欄第4行
「第1図はこの発明によるタイヤの左半断面のみを、正規リムに取付け内圧0.3kg/cm^(2)を充てんした仮組み姿勢で示し、図にあらわれない右半は、左半と対称であるのはいうまでもなく、このタイヤの諸元は、次のとおりである。
タイヤサイズ 11/70R22.5 16PR
使用正規リム 8.25×22.5
正規内圧 8.75 bar

図においてタイヤTはクラウン部l内にカーカス3のまわりを取囲んで通常のスチールコードよりなるベルト2を配置し、このベルト2はタイヤの赤道に対して上記コードが比較的小さい角度で互いに交差する4枚のゴム引きコード層からなるものとし、カーカス3はタイヤの半径面内における実質上の配置を占める金属、とくにスチールコードを用いてビードコアー4を内から外へ巻返した1枚のゴム引きコード層からなるものとした。
図中5は正規リム、6はそのフランジfに抑止されたビード部、7はシヨルダ部であり、そして8はサイド部である。
この例で正規リム5のリムフランジfと接触したタイヤのビード部6のフランジfからの離反点Aを通るカーカスラインの法線とそのカーカスラインとの交点をPとし(ここでPはカーカス3が実質上殆ど変形しないカーカス3の固定端であることを意味する)、またこの交点Pを通るタイヤの半径線Rすなわちタイヤ回転軸線に対する垂線が再びカーカスラインを横切る交点をQとして、これらを結ぶ線分を弦とするカーカスラインの断面弓形をなす輪郭につき、その弦PQの長さhは、127mmであり、そしてこの弦PQのタイヤ赤道面Eからの距りwは100mmとした。」

(3b)第5ページ右上欄第10行?第13行
「またベルト3の側縁についてはその最も広幅のものを弦PQの延長上に位置させてあるが、それより狭ますぎると偏摩耗が生じやすく、そして広すぎるとその側縁においてせん断歪が増大する。」

(3c)刊行物3には以下の図が示されている。


4 刊行物4の記載事項
本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物4には、以下の事項が記載されている。

(4a)第2ページ右下欄第12行?第3ページ右上欄第10行
「第1?2図において、重車両用ラジアルタイヤ1は、ビードコア2が通る両側のビード部3、3と、該ビード部3から半径方向外向きにのびるサイドウオール部4、4と、その上端を継ぐトレッド部5とを具えるとともに、ビード部3、サイドウオール部4、トレッド部5には、前記ビードコア2のまわりを内側から外側に向かって折返したカーカス6の本体部6Aが跨設される。又トレッド部5には、カーカス6の半径方向外側にベルト層7を配置するとともに、カーカス6の本体部6Aとその折返し部6Bとの間にはビードエーペックス9を設ける一方、ビード部3には、ビードコア2下端から、カーカス6の折返し部6Bに沿って前記ビードエーペックス9の上端をこえて延びる補強層8が設けられる。
さらにタイヤ1は、リム10のフランジ11、11に、ビード部3を嵌合わせることにより、該リム10に装着される。
前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ赤道Cに対して70°?90°の角度に配列した、いわゆるラジアル方向配列体であり、又カーカスコードとしてスチールコードの他、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の繊維コードが採用されるとともに、このカーカス6は1?3層のプライからなる。
前記ベルト層7は、本例では、カーカス6側からトレッド部に向かって配される、第1のベルトプライ7A、第2のベルトプライ7B、第3のベルトプライ7C、第4のベルトプライ7Dを有する4層体であり、第2のベルトプライ7Bは、その巾W7Bを、第1のベルトプライ7Aの巾W7Aに比して大としている。又第3のベルトプライ7Cの巾W7Cは、前記第1のベルトプライ7Aの巾W7Aと略同一、又第4のベルトプライ7Dの巾W7Dは、前記巾W7Aよりもさらに巾狭に形成されている。なお第2のベルトプライ7Bの巾W7Bは、比較的大であることにより、その縁部aは、トレッド部5の両縁b下方に位置している。」

(4b)第4ページ右上欄第19行?右下欄第9行(注:第2表は文末に移動した。)
「〔実施例〕
タイヤサイズ10.00R20-14PRのタイヤを第2表の実施例に示す仕様により試作するとともに、比較例に示す従来の構造のものと下記の試験条件で性能を比較した。
試験条件 荷重 : 5000 kg
速度 : 30km/h
スラット高さ :25.4mm 4枚
両者の比較結果を第2表に示す。
実施例のものは比較例のものに対して耐久性が優れている。



(4c)刊行物4には以下の図が示されている。


5 刊行物5の記載事項
本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物5には、以下の事項が記載されている。

(5a)「【0016】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。本発明の重荷重用空気入りラジアルタイヤは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5の回りを折り返して係止されるカーカス6と、このカーカス6の半径方向外側かつトレッド部内方に配されるベルト層7とを具え、主としてトラック、バスなどに使用されかつ15°深底リムに装着されるチューブレスタイプを例示している。
【0017】前記カーカス6は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4に至る本体部6aと、この本体部に連なりかつ前記ビードコア5の回りを本例ではタイヤ軸方向内から外へ折り返される折返し部6bとを有している。
【0018】又前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ赤道CLに対して75゜?90゜の角度で配列したラジアル構造かつ1枚以上のカーカスプライからなり、前記カーカスコードとしては、金属コードを好ましく採用しうる。なお必要に応じてナイロン、レーヨン若しくはポリエステル等の有機繊維コードを採用することができる。
【0019】本例では、カーカス6は、1枚のカーカスプライから構成されるとともに、カーカスコードとして、テーバー剛性指数が、35(g・cm)以下、好ましくは16?33(g・cm)の柔らかい金属コードを採用することにより、後で述べるようにコードの曲げを容易とし、カーカスの損傷を防止するのに役立たせている。
【0020】次に、ベルト層7は、ベルトコードをタイヤ赤道CLに対して傾けて配列した2枚以上、例えば4枚のベルトプライから形成され、前記カーカス6に締め付け効果を与え、トレッド部2の剛性を高めている。そしてベルトコードとしては、カーカスコードと同様に、金属コードが好ましく、必要に応じてナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維コードをも使用しうる。なお本例では、ベルト層7は、金属コードを配列した4枚のベルトプライから構成されている。」

(5b)「【0033】
【実施例】タイヤサイズが、10.00 R22.5、リムサイズ:7.50×22.5(15°深底リム)、内圧8.0kg/cm^(2) である本発明のタイヤ(実施例1?6)並びに本発明に含まれない比較用のタイヤ(比較例1?4)を試作し、以下に示すテストにより性能を比較した。
【0034】(1)転がり抵抗
転がり抵抗試験機を用い、時速80km/h、荷重2725kgfで転がり抵抗を測定し、比較例1のタイヤを100とする指数で表示した。指数が大きいほど転がり抵抗が小さく良好である。
【0035】(2)新品ビード耐久性
ドラム試験機を用い、荷重7200kgfの下、時速20km/hの低速で、試供タイヤを回転させるとともに、ビード部が破壊又はクラックが大となったときまでの時間を測定し、比較例1を100とする指数で表示した。指数が大きいほどビード耐久性に優れる。なお、このテストでは、速度が低いため、バットレス部付近では損傷は生ぜず、ビード部の耐久性をチェックすることができる。
【0036】(3)操縦性能
2-D4車(10トン積載)に試供タイヤをリム組みして装着し、ドライバーの官能により5点刻みの100点法にて評価した。数値の大きい方が良好である。なおカーカス、ベルトの構成(各タイヤ共通)を表1に、テストの結果を表2に示す。
【0037】
【表1】



(5c)刊行物5には以下の図が示されている。


6 刊行物6の記載事項
本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物6には、以下の事項が記載されている。

(6a)【0028】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態の一例を図1?図12に基づき説明する。図1、図4、5及び図7?10は重荷重用空気入りラジアルタイヤの回転軸心を含む平面による左半要部断面図である。図2は図1に示すベルト端部とその近傍との一部拡大図であり、図3は狭幅コード層の配列コード群の一部展開図であり、図6は狭幅コード層端部の配列コードに直交する方向の拡大断面である。図11は狭幅コード層端部の一部展開図であり、そして図12は狭幅コード層のコード配列の断面図である。
【0029】タイヤ赤道面Eよりの左半要部断面を示す各図において、ラジアルカーカス1は一対のビード部(図示省略)に埋設したビードコア(図示省略)相互間にわたりトロイド状に連なり、その外周にトレッド部2を強化するベルト3を備える。なお各図に示すトレッドゴム2tの例はキャップゴム2tcとベースゴム2tbの2層構成になる。
【0030】ベルト3は少なくとも3層、図示例は4層のゴム被覆コード層3-1、3-2、3-3、3-4よりなり、ラジアルカーカス1寄りから順に符号3-1?3-4を付し、これらコード層3-1?3-4内にて隣接する2層のコード層3-2、3-3は、それらのコードがタイヤ赤道面Eを挟み90°以下の鋭角をなして互いに交差するコード交差層を形成する。コード交角は、ベルト3の機能を十分に発揮させるため好適には30?50°の範囲内とする。またコード交差層3-2、3-3の各層内コードはタイヤ赤道面Eに対し15?25°の傾斜配列になるのが望ましい。なお上記例のコ-ド交差層は1組であるが、それ以外にベルト3内に2組以上存在する場合を含む。」

(6b)「【0068】
【実施例】トラック及びバス用ラジアルプライタイヤで、サイズが10.00R20であり、構成は図1?図12の何れかに従い、カーカス1はゴム被覆のラジアル配列スチールコードの1プライからなり、ベルト3は4層のコード層からなり、各層のコードは3×0.20+6×0.36構造のスチールコードである。ベルト3のコード層3-1?コード層3-4の幅はこの順で、160mm(第1層)、185mm(第2層)、160mm(第3層)、80mm(第4層)であり、各層のコードのタイヤ赤道面Eに対する傾斜角度は第1層?第4層まで順次R52°、R18°、L18°、L18°(ただしRは右上がり配列、Lは左上がり配列を指す)とした。よってコード交差層は第2層と第3層である。」

(6c)刊行物6には以下の図が示されている。


7 刊行物7の記載事項
本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物7には、以下の事項が記載されている。

(7a)「【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図示例とともに説明する。図1は、重荷重用ラジアルタイヤ1(以下タイヤ1という)が、JATMA、TRA、ETRTO等の規格適用リムである標準リムFにリム組されかつ0.5kgf/cm^(2) の保形用の内圧を充填した状態Qのタイヤ子午断面を示している。
【0013】図において、タイヤ1は、呼称偏平率を60%以下としたトラック・バス用等のチューブレスタイヤであって、トレッド部2と、その両端からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3と、各サイドウオール部3の内方端に位置するビード部4とを具える。又タイヤ1は、前記ビード部4、4間に跨るカーカス6と、このカーカス6の半径方向外側かつトレッド部2内方に配置されるベルト層7とによって補強される。
【0014】前記ベルト層7は、2枚以上のベルトプライ、本例では、カーカス側からトレッド面側に向かって順に配される第1、第2、第3、第4のベルトプライ11?14の4枚からなり、例えば第1のベルトプライ11は、ベルトコードをタイヤ赤道COに対して45?70度程度の角度で配列するとともに、第2、第3、第4のベルトプライ12?14は10?25度程度の角度でベルトコードを配列している。又第2、第3のベルトプライ12、13間では、コードのタイヤ赤道COに対する傾斜方向が異なり、従って前記コード角度及び傾斜方向の相違等によってトラス構造を構成しベルト剛性を高めトレッド部2を補強する。」

(7b)「【0032】
【実施例】タイヤサイズが295/60R22.5、及び425/55R19.5でありかつ図1に示す構成を有する重荷重用ラジアルタイヤを、表1に示す仕様に基づき試作するとともに、本願の実施例品のタイヤの高速耐久性を、比H0/Rが0.36未満の比較例品のタイヤと夫々比較し、その結果を表1に記載する。
【0033】なお、高速耐久性は、タイヤサイズ295/60R22.5のタイヤにおいては、標準リム(9.00×22.5)に装着しかつ規格内圧(9.0kgf/cm^(2))、荷重(3750kgf)を負荷した条件の基で回転ドラム試験機を用いてテストし、又タイヤサイズ425/55R19.5のタイヤにおいては、標準リム(13.00×19.5)に装着しかつ規格内圧(9.0kgf/cm^(2) )、荷重(5360kgf)を負荷した条件の基でテストした。又テストは、80km/hの走行速度から開始し、2時間毎に速度を10km/hずつステップアップさせて走行させた時の損傷発生速度を基に、次式を用いて算出した。
{120・(V/Vo)+(T-To)}/120
式中、Voは比較例品1の損傷発生速度、Vは実施例品の損傷発生速度、Toは比較例品1の損傷発生時間(分)、Vは実施例品の損傷発生時間(分)であり、値が大なほど優れている。
【0034】
【表1】



(7c)刊行物7には以下の図が示されている。


8 刊行物8の記載事項
本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物8には、以下の事項が記載されている。

(8a)A20-3


(8b)C04-1


(8c)C04-2


(8d)C20-3


第5 当審の判断
1 取消理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)本件発明1について
(1-1)主引用発明を引用発明1とした場合
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「重荷重用空気入りラジアルタイヤ100」、「トレッド26」、「ビードコア14」、「カーカスプライ12」及び「サイドウォール部」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「空気入りタイヤ」、「トレッド部」、「ビードコア」、「カーカスプライ」及び「サイドウォール部」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明1の「このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されて、それぞれ折り返し端部12Aとされて」いることは、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「一対のビード部と、各ビード部に埋設されたビードコア間にトロイド状に延在させた、少なくとも一枚のカーカスプライからなるカーカス」とを具えることに相当する。

(ウ)引用発明1は「重荷重用空気入りラジアルタイヤ100」であって「カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されて」いるものであるが、重荷重用空気入りラジアルタイヤにおける技術常識を踏まえると、3層以上からなるベルト層24がコード交錯ベルト層からなることは明らかである。したがって、引用発明1の「カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されて」いることは、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「カーカスのクラウン域の外周側に配設した、二層以上のコード交錯ベルト層からなるベルト」を具えることに相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点1>
「トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部と、各ビード部に埋設されたビードコア間にトロイド状に延在させた、少なくとも一枚のカーカスプライからなるカーカスと、カーカスのクラウン域の外周側に配設した、二層以上のコード交錯ベルト層からなるベルトとを具える空気入りタイヤ。」

<相違点1>
本件発明1は、「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲」にあるのに対し、
引用発明1は、そのように特定されていない点。

<相違点2>
本件発明1は、「タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」のに対し、
引用発明1は、「正規内圧の10%の内圧を充填した状態で、カーカスラインの曲率半径を最大幅を有するベルト端部直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたとき、タイヤサイズTBR-10.00R20であり、内圧10%時のカーカスラインの曲率半径は、R2が80mm、R3が120mmとされた」ものである点。

イ 判断
以下相違点について検討する。

(ア)相違点1について
「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅」の「適用リムのリム幅に対」する比について、本件発明1では具体的数値範囲が特定されているので検討する。
a 刊行物3(記載事項(3a)?(3c)を参照。)、刊行物4(記載事項(4a)?(4c)及び技術常識として刊行物8の記載事項(8b)を参照。)、刊行物5(記載事項(5a)?(5c)を参照。)、刊行物6(記載事項(6a)?(6c)及び技術常識として刊行物8の記載事項(8b)を参照。)、刊行物7(記載事項(7a)?(7c)を参照。)には、「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲」を充足するベルト及び適用リムの組合せが記載されている。
しかしながら、刊行物3、刊行物5及び刊行物7に記載されたベルト及び適用リムの組合せは、引用発明1のタイヤサイズ(10.00R20)とは異なるタイヤサイズについてのものであるし、特定のタイヤサイズであっても、ショルダ領域で必要な剛性等によってベルト幅は様々に設計されることが技術常識である。そうすると、刊行物3?7の上記各記載から、10.00R20というタイヤサイズにおける通常のベルト幅であれば、上記「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲」を充足するとまではいえない。
したがって、引用発明1における「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅」の「適用リムのリム幅に対」する比が、実質的に上記具体的数値範囲内のものであるということはできない。

b また、刊行物3?刊行物7には、ベルトの最大幅及び適用リムの具体例が個別に記載されているにすぎず、ベルトの最大幅及び適用リムのリム幅の関係について何らかの技術思想を提供するような記載はない。すなわち、刊行物3には、11/70R22.5のタイヤサイズにおける弦PQのタイヤ赤道面Eからの距りw(100mm)(記載事項(3a))が、刊行物4には、10.00R20のタイヤサイズにおけるコード巾(180mm)(記載事項(4b))が、刊行物5には、10.00 R22.5のタイヤサイズにおけるベルトプライの巾(182mm)(記載事項(5b))が、刊行物6には、10.00R20のタイヤサイズにおけるベルト3のコード層の幅(185mm)(記載事項(6b))が、刊行物7には、295/60R22.5のタイヤサイズにおけるベルトプライの巾(224mm)、425/55R19.5のタイヤサイズにおけるベルトプライの巾(324mm)(記載事項(7b))がそれぞれ記載されているが、そうすることの意義等については記載されていない。そうすると、これらの記載は、ベルトの最大幅及びリム幅に関し、ひとまとまりの構成や技術思想を認定するに足りない。
したがって、刊行物3?7の記載は、ベルトの最大幅及び適用リムのリム幅の関係についての技術思想を提供するものではないから、当業者といえども、引用発明1及び刊行物3?7に記載された技術的事項から、相違点1に係る本願発明1の、「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲」であるという構成を容易に想到することはできない。

(イ)相違点2について
次に「タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」ことについて検討する。
a 引用発明1は「正規内圧の10%の内圧を充填した状態で、カーカスラインの曲率半径を最大幅を有するベルト端部直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたとき、タイヤサイズTBR-10.00R20であり、内圧10%時のカーカスラインの曲率半径は、R2が80mm、R3が120mmとされた」ものであるから、タイヤを適用リムに装着し、正規内圧の10%を充填した状態において、「ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して」0.67倍であることは明らかである。
しかしながら、刊行物1には、「正規内圧」の値が記載されておらず、曲率半径を測定する条件となっている「正規内圧の10%」の具体的な空気圧が不明である。ここで、技術常識として刊行物8を参照すると、「タイヤサイズTBR-10.00R20」に想定される負荷能力に対応する空気圧の範囲が500kPa?725kPaである(記載事項(8c))ことから、「正規内圧」はこの範囲のいずれかの値であるといえ、引用発明1における「正規内圧の10%」は、50?72.5kPaの範囲のいずれかの空気圧といえるが、負荷能力の下限に対応する空気圧である500kPaを正規内圧とすれば、わずかに空気圧が低下しただけで、当該タイヤに想定される負荷能力の範囲を外れることが明らかであるから、引用発明1における「正規内圧」は500kPaとは異なる、すなわち「正規内圧の10%」は50kPaとは異なると理解するのが自然である。さらに、内圧が異なればタイヤの形状、ひいてはカーカスの形状も異なることが技術常識であるから、仮に50kPaを除く上記「50?72.5kPa」の範囲のいずれかの値において、カーカスラインの曲率半径が上記数値範囲を充足するとしても、引用発明1が「50kPaの内圧を充填した状態において」、「ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」ものとはいえない。
そうすると、引用発明1が、上記「タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」ものであるということはできない。

b また、刊行物1には、10.00R20のタイヤサイズについて、正規内圧の10%の内圧を充填した状態における、カーカスラインの曲率半径を最大幅を有するベルト端部直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたとき、R2が80mm、R3が120mmであることが記載されているが、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径及びタイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径の比について何らかの技術思想を提供するような記載はない。
そうすると、当業者といえども、引用発明1において、相違点2に係る本願発明1の、「タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」という構成を容易に想到することはできない。

(1-2)主引用発明を引用発明2とした場合
ア 対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。

(ア)引用発明2の「重荷重用空気入りラジアルタイヤ」、「トレッド26」、「ビードコア14」、「カーカスプライ12」及び「サイドウォール部」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「空気入りタイヤ」、「トレッド部」、「ビードコア」、「カーカスプライ」及び「サイドウォール部」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明2の「このカーカスプライ12のタイヤ幅方向両端部は、一対のビードコア14の周りにタイヤ軸方向内側から外側へ向けて折り返されて、それぞれ折り返し端部12Aとされて」いることは、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「一対のビード部と、各ビード部に埋設されたビードコア間にトロイド状に延在させた、少なくとも一枚のカーカスプライからなるカーカス」とを具えることに相当する。

(ウ)引用発明2は「重荷重用空気入りラジアルタイヤ」であって「カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されて」いるものであるが、重荷重用空気入りラジアルタイヤにおける技術常識を踏まえると、3層以上からなるベルト層24がコード交錯ベルト層からなることは明らかである。したがって、引用発明2の「カーカスプライ12のタイヤ半径方向外側には、少なくとも3層以上からなるベルト層24が配設されて」いることは、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「カーカスのクラウン域の外周側に配設した、二層以上のコード交錯ベルト層からなるベルト」を具えることに相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点2>
「トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部と、各ビード部に埋設されたビードコア間にトロイド状に延在させた、少なくとも一枚のカーカスプライからなるカーカスと、カーカスのクラウン域の外周側に配設した、二層以上のコード交錯ベルト層からなるベルトとを具える空気入りタイヤ。」

<相違点3>
本件発明1は、「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲」にあるのに対し、
引用発明2は、そのように特定されていない点。

<相違点4>
本件発明1は、「タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」のに対し、
引用発明2は、「正規内圧の10%の内圧を充填した状態で、カーカスラインの曲率半径を最大幅を有するベルト端部直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたとき、タイヤサイズTBR-10.00R20であり、内圧10%時のカーカスラインの曲率半径は、R2が100mm、R3が120mmとされた」ものである点。

イ 判断
以下相違点について検討する。

(ア)相違点3について
「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅」の「適用リムのリム幅に対」する比について、本件発明1では具体的数値範囲が特定されているので検討する。
a 刊行物3(記載事項(3a)?(3c)を参照。)、刊行物4(記載事項(4a)?(4c)及び技術常識として刊行物8の記載事項(8b)を参照。)、刊行物5(記載事項(5a)?(5c)を参照。)、刊行物6(記載事項(6a)?(6c)及び技術常識として刊行物8の記載事項(8b)を参照。)、刊行物7(記載事項(7a)?(7c)を参照。)には、「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲」を充足するベルト及び適用リムの組合せが記載されている。
しかしながら、刊行物3、刊行物5及び刊行物7に記載されたベルト及び適用リムの組合せは、引用発明2のタイヤサイズ(10.00R20)とは異なるタイヤサイズについてのものであるし、特定のタイヤサイズであっても、ショルダ領域で必要な剛性等によってベルト幅は様々に設計されることが技術常識である。そうすると、刊行物3?7の上記各記載から、10.00R20というタイヤサイズにおける通常のベルト幅であれば、上記「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲」を充足するとまではいえない。
したがって、引用発明2における「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅」の「適用リムのリム幅に対」する比が、実質的に上記具体的数値範囲内のものであるということはできない。

b また、刊行物3?刊行物7には、ベルトの最大幅及び適用リムの具体例が個別に記載されているにすぎず、ベルトの最大幅及び適用リムのリム幅の関係について何らかの技術思想を提供するような記載はない。すなわち、刊行物3には、11/70R22.5のタイヤサイズにおける弦PQのタイヤ赤道面Eからの距りw(100mm)(記載事項(3a))が、刊行物4には、10.00R20のタイヤサイズにおけるコード巾(180mm)(記載事項(4b))が、刊行物5には、10.00 R22.5のタイヤサイズにおけるベルトプライの巾(182mm)(記載事項(5b))が、刊行物6には、10.00R20のタイヤサイズにおけるベルト3のコード層の幅(185mm)(記載事項(6b))が、刊行物7には、295/60R22.5のタイヤサイズにおけるベルトプライの巾(224mm)、425/55R19.5のタイヤサイズにおけるベルトプライの巾(324mm)(記載事項(7b))がそれぞれ記載されているが、そうすることの意義等については記載されていない。そうすると、これらの記載は、ベルトの最大幅及びリム幅に関し、ひとまとまりの構成や技術思想を認定するに足りない。
したがって、刊行物3?7の記載は、ベルトの最大幅及び適用リムのリム幅の関係についての技術思想を提供するものではないから、当業者といえども、引用発明2及び刊行物3?7に記載された技術的事項から、相違点3に係る本願発明1の、「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲」であるという構成を容易に想到することはできない。

(イ)相違点4について
次に「タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」ことについて検討する。
a 引用発明2は「正規内圧の10%の内圧を充填した状態で、カーカスラインの曲率半径を最大幅を有するベルト端部直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたとき、タイヤサイズTBR-10.00R20であり、内圧10%時のカーカスラインの曲率半径は、R2が100mm、R3が120mmとされた」ものであるから、タイヤを適用リムに装着し、正規内圧の10%を充填した状態において、「ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して」0.83倍であることは明らかである。
しかしながら、刊行物2には、「正規内圧」の値が記載されておらず、曲率半径を測定する条件となっている「正規内圧の10%」の具体的な空気圧が不明である。ここで、技術常識として刊行物8を参照すると、「タイヤサイズTBR-10.00R20」に想定される負荷能力に対応する空気圧の範囲が500kPa?725kPaである(記載事項(8c))ことから、「正規内圧」はこの範囲のいずれかの値であるといえ、引用発明2における「正規内圧の10%」は、50?72.5kPaの範囲のいずれかの空気圧といえるが、負荷能力の下限に対応する空気圧である500kPaを正規内圧とすれば、わずかに空気圧が低下しただけで、当該タイヤに想定される負荷能力の範囲を外れることが明らかであるから、引用発明2における「正規内圧」は500kPaとは異なる、すなわち「正規内圧の10%」は50kPaとは異なると理解するのが自然である。さらに、内圧が異なればタイヤの形状、ひいてはカーカスの形状も異なることが技術常識であるから、仮に50kPaを除く上記「50?72.5kPa」の範囲のいずれかの値において、カーカスラインの曲率半径が上記数値範囲を充足するとしても、引用発明2が「50kPaの内圧を充填した状態において」、「ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」ものとはいえない。
そうすると、引用発明2が、上記「タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」ものであるということはできない。

b また、刊行物2には、10.00R20のタイヤサイズについて、正規内圧の10%の内圧を充填した状態における、カーカスラインの曲率半径を最大幅を有するベルト端部直下でR2、カーカス最大幅位置でR3としたとき、R2が100mm、R3が120mmであることが記載されているが、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径及びタイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径の比について何らかの技術思想を提供するような記載はない。
そうすると、当業者といえども、引用発明2において、相違点4に係る本願発明1の、「タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲を満たしてなる」という構成を容易に想到することはできない。

(2)本件発明2?3について
本件発明2?3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に、本件発明2?3は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について
請求項1における「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲にあり」という記載における、「適用リム」について、本件特許明細書の段落【0009】には、「ここで、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会) YEAR BOOK、欧州ではETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation) STANDARD MANUAL、米国ではTRA(THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.)YEAR BOOK等に規定されたリムをいうものとする。」と記載されている。
そこで、刊行物8(JATMA YEAR BOOK 日本自動車タイヤ協会規格 2007)における記載事項(8a)、(8d)を参照すると、タイヤサイズによっては、一のタイヤに対して「適用リム」が複数存在する場合もあることが明らかである。
しかしながら、「適用リム」が一意に定まる必要がある場合、当業者は、「適用リム」を、「適用リム」のうちの最も標準的に用いられる「標準リム」を意味するものと理解するといえ、本件発明1に含まれる具体的な事物の範囲を一義的に特定することができないとまではいえない。
したがって、本件発明1が明確でないとはいえない。

請求項1を引用する請求項2?3についても同様であるから、本件発明2?3が明確でないとはいえない。

3 取消理由3(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)発明の課題
本件特許明細書の段落【0007】を参照すると、本件発明1の課題は「タイヤの重量を増やすことなしに、タイヤの横剛性を向上させた空気入りタイヤを提供する」ことであると理解できる。

(2)検討
請求項1における「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲にあり、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲」を満たしてなるという記載について、本件特許明細書には、実施例が1つだけ、すなわち、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9倍であり、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態で、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.75倍であるもののみが記載されている。
また、タイヤのサイズや適用リム幅等上記数値範囲の前提条件を変化させた実施例は記載されていない。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0012】?【0014】には、「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅を適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲とし、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点Bでの、カーカスの曲率半径Cbを、タイヤ断面幅の最大位置Cでの、カーカスの曲率半径Ccに対して0.60?0.85倍の範囲を満たすことで、従来のタイヤに比べて、タイヤ最大断面幅が狭くなるとともに、ショルダー部に位置することになるカーカスの点Bがタイヤ幅方向外側に位置することになる。その結果、適用リムに組付けて規定の空気圧で充填する際の、カーカスのサイド部のパスラインの径成長率が0.1%以下となり、適用リムの動きをベルトが付随することで、タイヤの横剛性を向上させることができる。そして、この横剛性の向上により、例えばビード部のゴム量を削減しても、横剛性の変化が起こり難くなる。」、「ベルトの最大幅が適用リムのリム幅の0.9倍未満では、タイヤの内圧を保持することに対し、タイヤ内の空気充填容積を小さくなりすぎて、ベルト耐久性が低下し、一方1.1倍を超えると、トレッド部等のゴム量が増加し、所望の軽量化を達成できないおそれがある。」及び「カーカスの曲率半径Cbが曲率半径Ccの0.60未満では、タイヤへの内圧充填時にベルト端部の径成長率が低くなり、ベルト耐久性が低下して、ビード部およびベルトの耐久性が低下するおそれがあり、一方0.85を超えると、カーカスのサイド部のパスラインの径成長率が増加して、横剛性の向上の効果を得ることができないおそれがある。」という説明が記載され、実験結果として上記実施例に加えて、比較例1、2として、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9倍であり、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態で、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.94倍(=85/90)であるものが、比較例3として、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して1.0倍であり、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態で、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して1.11倍(=100/90)であるものが、比較例4として、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して1.2倍であり、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態で、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.85倍(=85/100)であるものが、比較例5として、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.8倍であり、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態で、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.94倍(=85/90)であるものが記載されている。また、タイヤのサイズや適用リム幅等が特定されないと、上記の説明等が妥当しないという技術常識等があるともいえない。
そうすると、上記本件特許明細書の段落【0012】?【0014】の説明と実施例及び比較例の記載とを併せて参照しても、「タイヤ幅方向断面内で、ベルトの最大幅が適用リムのリム幅に対して0.9?1.1倍の範囲にあり、タイヤを適用リムに装着し、50kPaの内圧を充填した状態において、ベルトの最大幅位置を通る半径方向線分の、前記カーカスとの交点のうち、最も半径方向外方に位置する点での、カーカスの曲率半径が、タイヤ断面幅の最大位置での、カーカスの曲率半径に対して0.60?0.85倍の範囲」において、本件特許の課題を解決できると当業者が理解できないとまではいえない。
よって、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。

請求項1を引用する請求項2?3についても同様であるから、本件発明2?3が、発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないことから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、本件特許が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないことから、特許法第113条第4号の規定に該当するものとして取り消すことがはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-15 
出願番号 特願2013-264228(P2013-264228)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60C)
P 1 651・ 537- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
中田 善邦
登録日 2017-03-10 
登録番号 特許第6106075号(P6106075)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 杉村 憲司  
代理人 鈴木 治  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 田浦 弘達  

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