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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B21D
管理番号 1339195
異議申立番号 異議2018-700002  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-04 
確定日 2018-04-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6156854号発明「プレス機械のワーク搬送装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6156854号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6156854号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年2月23日に特許出願され、平成29年6月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月4日に、その特許について、特許異議申立人 土田 修史(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明

特許第6156854号の請求項1ないし3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
プレス機械に用いられるワーク搬送装置であって、
ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置される固定フレームに対して上下方向であるZ軸方向に移動可能に支持される昇降フレームと、
該昇降フレームにその基端側が第1関節を介して水平面内を回転自在に支持される第1アームと、
該第1アームの先端側にその基端側が第2関節を介して水平面内を回転自在に支持される第2アームと、
第1アームを昇降フレームに対して第1関節廻りに回転駆動する第1アーム駆動機構と、
第2アームを第1アームに対して第2関節廻りに回転駆動する第2アーム駆動機構と、
を含んで構成されたロボットをワーク搬送中心を通るXZ平面に関して対称に2台備えると共に、
前記2台のロボットに対応して備えられる2台の昇降機構であって、それぞれが対応する昇降フレームを相互独立にZ軸方向に移動可能に構成された昇降機構と、
XZ平面を挟んで両側の第2アームの先端同士を、第3関節を介して水平面内を回転自在に、かつ、第4関節を介して垂直面内を回転自在に連結するクロスアームと、
クロスアームに接続されると共に、ワークを解放可能に保持するワーク保持ユニットと、
を含んで構成されたことを特徴とするプレス機械のワーク搬送装置。
【請求項2】
前記ワーク保持ユニットが、前記クロスアームに対して着脱可能であることを特徴とする請求項1に記載のプレス機械のワーク搬送装置。
【請求項3】
前記クロスアーム或いはワーク保持ユニットを、その長手方向に平行な回転軸廻りに回転させるチルト機構が備えられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレス機械のワーク搬送装置。」
(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)

第3 特許異議申立の理由の概要

(1)特許異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証及び参考資料1ないし10を提出し、特許異議の申立ての理由として、概略、以下のとおり主張している。

ア 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)

本件特許の請求項1ないし3に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

イ 取消理由2(特許法第29条第2項)

本件特許の請求項1ないし3に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2007-216254号公報

第4 刊行物の記載

1.甲第1号証
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、ワーク搬送装置について、次の事項が記載されている。

(1)「【0020】
プレス(I)及びプレス(II)間のスペース適所において、アプライト3に横架されたビーム11にメイン基体12が固定され、このメイン基体12の両側にはピン14を介してサブ基体13が結合する。
これらメイン基体12およびサブ基体13には、アームユニット15を昇降させる昇降機構が設けられる。
後述するように、ワーク把持機構によって保持したワークWを、アームユニット15の作動によりプレスステージ間で搬送する。」

(2)「【0021】
各サブ基体13にはリフトモータベース16が固定され、このリフトモータベース16に搭載されたリフトモータ17によって、ロッド18を介して両側のリフトスライダ19を上下動させるようになっている。
両側のリフトスライダ19はサブ基体13の内部でスライドし、また、メイン基体12の内部で中央のリフトスライダ19がスライドする。」

(3)「【0023】
各リフトスライダ19の下端にはそれぞれピン21を介して、アームユニット15のアームユニット基体22が連結支持される。
アームユニット15は、ワーク搬送方向と平行且つ水平に回動可能な第1アーム23と、第1アーム23の端部に結合してワーク搬送方向と平行且つ水平に回動可能な第2アーム24とを含む。
また、第2アーム24の先端に長短対をなして構成されるスライドアーム25が回動可能に結合する。
ここで、スライドアーム25は、一方の第2アーム24に備わった長尺側のスライドアーム25Aと他方の第2アーム24に備わった短尺側のスライドアーム25Bにより構成される。」

(4)「【0024】
また、長尺側のスライドアーム25Aにはアタッチメント27を介して、ハンドバー26が着脱自在に支持され、このハンドバー26は、少なくともワーク搬送方向と平行に水平移動可能である。
またハンドバー26にはワーク把持機構が搭載支持される。
ワーク把持機構は、ハンドバー26に着脱自在に設けられたワーク保持手段28を備え、このワーク保持手段28としては、例えば、吸着パッド等が好適である。
この吸着パッドは、ワークWの形状等に合わせてバランスよく複数配設されており、適宜取り外し可能である。」

(5)「【0027】
また、スライドアーム25はその長手軸33のまわりに回転可能(矢印B参照)となるように、各スライドアーム25A及びスライドアーム25Bがそれぞれ各第2アーム24の先端に回転可能に支持される。
この場合、スライドアーム25Bの基部に図示しない回転駆動部を有し、この回転駆動部によってスライドアーム25全体が所望角度だけ回転するようになっている。
なお、この回転駆動部により、後述するようにチルト機構が構成される。」

(6)「【0028】
上記構成において、ワーク搬送装置10によってワークWをプレス(I)からプレス(II)へと搬送する。
その際、各第2アーム24は相互にスライドアーム25を介して連結されており、典型的には駆動モータ29を作動させて図6の矢印のように第1アーム23を回動することで、アームユニット15をプレス(I)側からプレス(II)側へ所定軌道に沿って作動させることができる。
なお、各プレス(I)及び(II)で吸着し、あるいは開放する際、リフトスライダ19によってアームユニット15全体を適度に上下動させる。」

(7)「【0033】
例えば図10(a)のように、図において左側のリフトスライダ19の上下スライド量を右側よりも少なくすることで、図示のように左上がりに傾動させ、また逆にすれば図10(b)のように右上がりに傾動させることができる。」

(8)図2の図示によると、リフトスライダ19、第1アーム23、第2アーム24、駆動モータ29及び駆動モータ30は、鉛直面に対して対称に備えられていることが見て取れる。

(9)図4の図示によると、ビーム11は、プレス(I)プレス(II)間のワークWの搬送方向をX軸とすると、X軸に直交する方向すなわちY軸に沿って配置されていることが読み取れる。

(10)図5の図示によると、第2アーム24が水平である場合に、スライドアーム25のその長手方向のまわりの回転は、鉛直面内の回転になることが見て取れる。

(11)図6の図示によると、第1アーム23及び第2アーム24は、ワーク搬送中心を通る軸を含む鉛直面すなわちXZ平面に関して対称に備えられていることが見て取れる。

(12)図10の図示によると、アームユニット基体22が水平でないと、第1アーム23、第2アーム24、及び、スライドアーム25も水平でなく、アームユニット基体22が傾くと、第1アーム23、第2アーム24、及び、スライドアーム25の各々は同じ程度だけ傾くことが見て取れる。

上記摘記事項(1)ないし(7)、及び、図示事項(8)ないし(12)からみて、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「ワークWをプレスステージ間で搬送するワーク搬送装置であって、
ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置されるビーム11に固定されたメイン基体12に対してピン14を介して結合されたサブ基体13の内部で上下方向にスライドするリフトスライダ19と、
該リフトスライダ19にピン21を介して鉛直方向に傾動可能に連結支持されるアームユニット基体22にその端部が水平以外にも回動可能に結合する第1アーム23と、
該第1アーム23の端部にその端部が水平以外にも回動可能に結合する第2アーム24と、
第1アーム23をアームユニット基体22に対して回転駆動する駆動モータ29と、
第2アーム24を第1アーム23に対して回転駆動する駆動モータ30と、
を含んで構成されたロボットをワーク搬送中心を通るXZ平面に関して対称に2台備えると共に、
前記2台のロボットに対応して備えられる2台のリフトモータ17であって、それぞれが対応するリフトスライダ19の上下スライド量を異ならせることができるリフトモータ17と、
XZ平面を挟んで両側の第2アーム24の先端に、水平以外にも回動可能に、かつ、その長手軸33まわりに回転可能に結合するスライドアーム25と、
スライドアーム25のアタッチメント27に着脱自在なハンドバー26を介して支持されると共に、ワークWを解放可能に保持するワーク保持手段28と、
を含んで構成された、ワークWをプレスステージ間で搬送するワーク搬送装置。」

第5 判断

1.取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について

ア 本件発明1について

(ア)本件発明1と甲1発明との対比

a 甲1発明における「ワークWをプレスステージ間で搬送するワーク搬送装置」は、本件発明1における「プレス機械に用いられるワーク搬送装置」に相当し、以下同様に、「リフトスライダ19」は「昇降フレーム」に、「第1アーム23」は「第1アーム」に、「第2アーム24」は「第2アーム」に、相当する。

b 甲1発明において、「サブ基体13」は、「ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置されるビーム11に固定されたメイン基体12に対してピン14を介して結合され」ており、また、「リフトスライダ19」はその「サブ基体13の内部で上下方向にスライドする」とされている。
よって、甲1発明における「ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置されるビーム11に固定されたメイン基体12に対してピン14を介して結合されたサブ基体13の内部で上下方向にスライドするリフトスライダ19」は、本件発明1における「ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置される固定フレームに対して上下方向であるZ軸方向に移動可能に支持される昇降フレーム」に相当する。

c 甲1発明において、「アームユニット基体22」と「第1アーム23」との「回動可能」な「結合」が、関節を介して行われていることは技術的に明らかである。
よって、甲1発明における「該リフトスライダ19にピン21を介して鉛直方向に傾動可能に連結支持されるアームユニット基体22にその端部が水平以外にも回動可能に結合する第1アーム23」と、本件発明1の「該昇降フレームにその基端側が第1関節を介して水平面内を回転自在に支持される第1アーム」とは、「その基端側が第1関節を介して」「少なくとも水平面内を回転自在に支持される第1アーム」である点で一致する。

d 甲1発明において、「第1アーム23」と「第2アーム24」との「回動可能」な「結合」が、関節を介して行われていることは技術的に明らかである。
よって、甲1発明における「該第1アーム23の端部にその端部が水平以外にも回動可能に結合する第2アーム24」と、本件発明1における「該第1アームの先端側にその基端側が第2関節を介して水平面内を回転自在に支持される第2アーム」とは、「該第1アームの先端側にその基端側が第2関節を介して」「少なくとも水平面内を回転自在に支持される第2アーム」である点で一致する。

e 上記cで述べたように、甲1発明において、「アームユニット基体22」と「第1アーム23」との「回動可能」が関節で行われていることは技術的に明らかである。
よって、甲1発明における「第1アーム23をアームユニット基体22に対して回転駆動する駆動モータ29」と、本件発明1における「第1アームを昇降フレームに対して第1関節廻りに回転駆動する第1アーム駆動機構」とは、「第1アームを」「昇降フレームに対して第1関節廻りに回転駆動する第1アーム駆動機構」である点で一致する。

f 上記dで述べたように、甲1発明において、「第1アーム23」と「第2アーム24」との「回動可能」が関節で行われていることは技術的に明らかである。
よって、甲1発明における「第2アーム24を第1アーム23に対して回転駆動する駆動モータ30」は、本件発明1における「第2アームを第1アームに対して第2関節廻りに回転駆動する第2アーム駆動機構」に相当する。

g 上記bないしfからみて、甲1発明における
「ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置されるビーム11に固定されたメイン基体12に対してピン14を介して結合されたサブ基体13の内部で上下方向にスライドするリフトスライダ19と、
該リフトスライダ19にピン21を介して鉛直方向に傾動可能に連結支持されるアームユニット基体22にその端部が水平以外にも回動可能に結合する第1アーム23と、
該第1アーム23の端部にその端部が水平以外にも回動可能に結合する第2アーム24と、
第1アーム23をアームユニット基体22に対して回転駆動する駆動モータ29と、
第2アーム24を第1アーム23に対して回転駆動する駆動モータ30と、
を含んで構成されたロボットをワーク搬送中心を通るXZ平面に関して対称に2台備えると共に、」と、
本件発明1における
「ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置される固定フレームに対して上下方向であるZ軸方向に移動可能に支持される昇降フレームと、
該昇降フレームにその基端側が第1関節を介して水平面内を回転自在に支持される第1アームと、
該第1アームの先端側にその基端側が第2関節を介して水平面内を回転自在に支持される第2アームと、
第1アームを昇降フレームに対して第1関節廻りに回転駆動する第1アーム駆動機構と、
第2アームを第1アームに対して第2関節廻りに回転駆動する第2アーム駆動機構と、 を含んで構成されたロボットをワーク搬送中心を通るXZ平面に関して対称に2台備えると共に、」とは、
「ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置される固定フレームに対して上下方向であるZ軸方向に移動可能に支持される昇降フレームと、
その基端側が第1関節を介して少なくとも水平面内を回転自在に支持される第1アームと、
該第1アームの先端側にその基端側が第2関節を介して少なくとも水平面内を回転自在に支持される第2アームと、
第1アームを昇降フレームに対して第1関節廻りに回転駆動する第1アーム駆動機構と、
第2アームを第1アームに対して第2関節廻りに回転駆動する第2アーム駆動機構と、を含んで構成されたロボットをワーク搬送中心を通るXZ平面に関して対称に2台備えると共に、」
である点で一致する。

h 甲1発明において、「リフトスライダ19の上下スライド量を異ならせる」ということは、2つのリフトスライダ19が相互独立に移動可能であることを意味する。
よって、甲1発明における「前記2台のロボットに対応して備えられる2台のリフトモータ17であって、それぞれが対応するリフトスライダ19の上下スライド量を異ならせることができるリフトモータ17」は、本件発明1における「前記2台のロボットに対応して備えられる2台の昇降機構であって、それぞれが対応する昇降フレームを相互独立にZ軸方向に移動可能に構成された昇降機構」に相当する。

i 甲1発明において、「第2アーム24」と「スライドアーム25」との「回動可能」な「結合」が、関節を介して行われていることは技術的に明らかである。
よって、甲1発明における「XZ平面を挟んで両側の第2アーム24の先端に、水平以外にも回動可能に、かつ、その長手軸33まわりに回転可能に結合するスライドアーム25」と、本件発明1における「XZ平面を挟んで両側の第2アームの先端同士を、第3関節を介して水平面内を回転自在に、かつ、第4関節を介して垂直面内を回転自在に連結するクロスアーム」とは、「XZ平面を挟んで両側の第2アームの先端同士を、第3関節を介して」「少なくとも水平面内を回転自在に、かつ、第4関節を介して」「回転自在に連結するクロスアーム」である点で一致する。

j 甲1発明において、「ハンドバー26」が「スライドアーム25のアタッチメント27」に対して着脱自在であり、「ワーク保持手段28」が「スライドアーム25」と離れた状態では、「ハンドバー26」は「ワーク保持手段28」側に付属しているので、「ハンドバー26」は「ワーク保持手段28」の付属品であると言える。
よって、甲1発明における「スライドアーム25のアタッチメント27に着脱自在なハンドバー26を介して支持されると共に、ワークWを解放可能に保持するワーク保持手段28」は、本件発明1における「クロスアームに接続されると共に、ワークを解放可能に保持するワーク保持ユニット」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、また、相違するものと認められる。

<一致点>
「プレス機械に用いられるワーク搬送装置であって、
ワーク搬送方向であるX軸方向の幅方向であるY軸方向に沿って設置される固定フレームに対して上下方向であるZ軸方向に移動可能に支持される昇降フレームと、
その基端側が第1関節を介して少なくとも水平面内を回転自在に支持される第1アームと、
該第1アームの先端側にその基端側が第2関節を介して少なくとも水平面内を回転自在に支持される第2アームと、
第1アームを昇降フレームに対して第1関節廻りに回転駆動する第1アーム駆動機構と、
第2アームを第1アームに対して第2関節廻りに回転駆動する第2アーム駆動機構と、を含んで構成されたロボットをワーク搬送中心を通るXZ平面に関して対称に2台備えると共に、
前記2台のロボットに対応して備えられる2台の昇降機構であって、それぞれが対応する昇降フレームを相互独立にZ軸方向に移動可能に構成された昇降機構と、
XZ平面を挟んで両側の第2アームの先端同士を、第3関節を介して少なくとも水平面内を回転自在に、かつ、第4関節を介して回転自在に連結するクロスアームと、
クロスアームに接続されると共に、ワークを解放可能に保持するワーク保持ユニットと、
を含んで構成されたプレス機械のワーク搬送装置。」

<相違点>
本件発明1では、第1、第2及び第3関節は、「水平面内」で回転し、クロスアームは、「第4関節を介して垂直面内」を回転するのに対して、甲1発明では、第1、第2及び第3関節は、「少なくとも水平面内」で回転し、クロスアームは、「長手軸33まわりに」回転する点。

(イ)相違点についての判断

本件発明1と甲1発明は、いずれもワークを、ワーク搬送方向であるX軸の回りに傾けることができるものであるが、上記相違点により、X軸回りの傾動が、本件発明1では第4関節の垂直面内の回転で行われ、第1、第2及び第3関節は、水平面内での回転が維持されるのに対して、甲1発明ではアームユニット基体22で行われ、第1、第2及び第3関節は、水平面から、アームユニット基体22の傾動と同じだけ傾いた面内で回転し、クロスアームの長手軸33も傾くことになる。
そうすると、甲1発明では、X軸回りの傾動時、クロスアームの長手軸33回りの回転は垂直面内のものとはなり得ない。
したがって、クロスアームは、X軸回りの傾動時、第1、第2及び第3関節が水平面内で回転せず、さらに、「第4関節を介して垂直面内」で回転するものでもない。
よって、甲1発明は、相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有さないので、本件発明1は甲1発明と同一ではない。

イ 本件発明2ないし3について

本件発明2ないし3は、いずれも本件発明1を引用しており、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様の理由で、本件発明2ないし3は、甲1発明と同一ではない。

2.取消理由2(特許法第29条第2項)について

ア 本件発明1について

(ア)本件発明1と甲1発明との対比

上記した1.ア(ア)を参照。

(イ)相違点についての判断

上記のとおり、本件発明1と甲1発明は、いずれもワークを、ワーク搬送方向であるX軸の回りに傾けることができるものであるが、X軸回りの傾動が、甲1発明ではアームユニット基体22の傾動で行われ、第1、第2及び第3関節は、水平面から、アームユニット基体22の傾動と同じだけ傾いた面内で回転し、クロスアームの長手軸33も傾くのであるから、これを本件発明1のように、第1、第2及び第3関節の水平面内での回転が維持されたまま、第4関節の垂直面内の回転で行うためには、第1、第2及び第3関節の水平面内の回転を行う機構と、第4関節の垂直面内の回転を行う機構が、個別に公知であるというだけでは足りず、第1、第2及び第3関節の水平面内での回転が維持され、第4関節の垂直面内の回転で傾動が行われる機構が公知である場合に限って、甲1発明の機構との置換が可能となるというべきところ、第1、第2及び第3関節の水平面内での回転が維持され、第4関節の垂直面内の回転で傾動が行われる機構は公知ではない。
よって、相違点に係る本件発明1の構成について、甲1発明及び参考資料1ないし10に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

異議申立人は、特許異議申立書の第16ページ第7行ないし第9行において、本件発明1における「第4関節を介して垂直面内を回転自在に」の「垂直面」について、「前出の「水平面内を回転自在に」に対して無数の垂直(鉛直)方向の面が含まれるものであることを付言しておく。」と主張している。
これについて、上記1.ア(イ)で述べたように、本件発明1は、ワークを、ワーク搬送方向であるX軸の回りに傾けることができるものであり、X軸回りの傾動は、第4関節の垂直面内の回転で行われるものであるから、本件発明1における「第4関節を介して垂直面内を回転自在に」の「垂直面」は、X軸と垂直な面すなわちYZ平面に特定されるものである。
よって、異議申立人の係る主張は理由がない。

イ 本件発明2ないし3について

本件発明2ないし3は、いずれも本件発明1を引用しており、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様の理由で、本件発明2ないし3は、甲1発明及び参考資料1ないし10に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-23 
出願番号 特願2016-31923(P2016-31923)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B21D)
P 1 651・ 113- Y (B21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯田 義久塩治 雅也  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 柏原 郁昭
刈間 宏信
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6156854号(P6156854)
権利者 アイダエンジニアリング株式会社
発明の名称 プレス機械のワーク搬送装置  
代理人 提中 清彦  

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