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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H04M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H04M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H04M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04M
管理番号 1339200
異議申立番号 異議2017-701231  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-25 
確定日 2018-04-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6159048号発明「情報管理システムおよび情報管理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6159048号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6159048号は、平成27年4月28日(優先権主張 平成26年7月29日、平成26年10月24日)に出願した特願2015-92283号の一部を平成28年1月13日に新たに特許出願した特願2016-4055号の一部を平成29年5月25日に新たに特許出願したものであって、同年6月16日に特許権の設定登録がなされたものである。その後、当該特許に対し、平成29年12月25日に特許異議申立人篠田育孝により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件特許発明
特許第6159048号の請求項1ないし7の特許に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1・・・請求項7の特許に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」・・・「本件特許発明7」という。)

「【請求項1】
再生対象音を表す音響信号を取得する音響信号取得手段と、
前記再生対象音の発音内容を表す関連情報を取得する関連情報取得手段と、
前記音響信号が示す前記再生対象音と当該再生対象音を識別するための識別情報を示す音響成分とを含む音響を放音する放音装置と、
前記放音装置による放音で端末装置に通知される識別情報と前記関連情報取得手段が当該再生対象音について取得した関連情報とを対応させる対応管理手段と
を具備する情報管理システム。
【請求項2】
前記端末装置に通知された識別情報を含む情報要求を当該端末装置から受信し、前記対応管理手段が当該識別情報に対応させた関連情報を当該端末装置に送信する情報提供手段
を具備する請求項1の情報管理システム。
【請求項3】
前記音響信号取得手段が取得した音響信号と前記識別情報を含む変調信号とを含む音響信号を生成する信号処理手段
を具備する請求項1または請求項2の情報管理システム。
【請求項4】
前記信号処理手段は、前記音響信号取得手段が取得した音響信号を時間軸上で区分した複数の再生区間の各々について、相異なる識別情報を含む変調信号を付加し、
前記対応管理手段は、前記関連情報取得手段が前記再生区間毎に取得した関連情報と当該再生区間に対応する識別情報とを対応させる
請求項3の情報管理システム。
【請求項5】
前記音響信号取得手段は、利用者からの指示に応じた文字列を発音した前記再生対象音を示す音響信号を音声合成により生成する
請求項1から請求項4の何れかの情報管理システム。
【請求項6】
前記関連情報取得手段は、前記再生対象音の発音内容を示す文字列に対する機械翻訳で、当該再生対象音の翻訳を示す前記関連情報を生成する
請求項1から請求項5の何れかの情報管理システム。
【請求項7】
情報管理システムが、
再生対象音を表す音響信号を取得し、
前記再生対象音の発音内容を表す関連情報を取得し、
前記音響信号が示す前記再生対象音と当該再生対象音を識別するための識別情報を示す音響成分とを含む音響を放音装置から放音することで端末装置に通知される識別情報と、当該再生対象音について取得した関連情報とを対応させる
情報管理方法。」


第3 申立理由の概要
特許異議申立人篠田育孝(以下、「異議申立人」という。)は、以下の理由を申し立て、請求項1ないし7に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。(特許異議申立書34?35頁)

1 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)について
請求項1ないし3、および7に係る特許は、甲第1号証に記載された発明と同一である。(以下、「理由1」という。)

2 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
請求項4ないし6に係る特許は、甲第1号証、甲第2号証ないし甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下、「理由2」という。)

3 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
請求項1ないし7に係る特許は、甲第5号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下、「理由3」という。)

4 特許法第36条第6項第1号(同法113条第4号)について
請求項1ないし7に係る特許は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(以下、「理由4」という。)

5 特許法第36条第6項第2号(同法113条第4号)について
請求項1ないし7に係る特許は、不明確である。(以下、「理由5」という。)

6 特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)について
請求項7に係る特許は、実施可能要件を満たさない。(以下、理由6」という。)


第4 理由1についての判断
1 甲第1号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第1号証(特開2012-227921号公報)には、「情報提供システム、識別情報解決サーバおよび携帯端末装置」について、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア 「【0015】図面を参照してこの発明の実施形態である情報提供システムについて説明する。図1は、情報提供システムの構成を説明する図である。この情報提供システムは、テレビ(TV;放音装置)1で放送される番組に音響ID(識別情報)を重畳し、携帯端末装置2がこの音響IDを用いて特定のインターネットサイト(URL)にアクセスしてユーザ6(視聴者)に利益のあるクーポン等を取得できるようにすることにより、番組のリアルタイムの視聴を向上させるシステムである。携帯端末装置2としてはスマートフォンなどが用いられる。」

イ 「【0016】まず、本情報提供システムの概略を説明する。テレビ1が、所定のテレビ番組(CMを含む)の放映中に放送音声及び音響IDを放音する。音響IDは、放送音声に重畳されて放音される。なお、音響IDの重畳はテレビ1が行っても良いし、放送局または中継機器が行なっても良い。放音された音響IDは、携帯端末装置2によって収音される。携帯端末装置2は、この音響IDをIDコードに復調し、このIDコードを用いて特定のインターネットサイト(URL)にアクセスする。そうすることにより、上記インターネットサイトから、携帯端末装置2に対してクーポンなどの特定情報が送られて来る。このように、携帯端末装置2のユーザ6(視聴者)は、上記所定のテレビ番組を視聴することでクーポンなどのコンテンツを獲得できるため、このテレビ番組を視聴しようとする。これにより、このテレビ番組の視聴の向上を図ることができる。」

ウ 「【0018】テレビ1は、テレビ放送を受信して映像を表示するとともに音声を放音する放送受信装置の一例である。このテレビ放送の音声に、音響信号に変調されたIDコードである音響IDが重畳されている。音響IDは、テレビ放送の冒頭に1回のみ重畳されてもよく、適宜適当なタイミングに複数回重畳されてもよい。また、音響IDは、テレビ放送の全時間帯にわたって繰り返し重畳されてもよい。音響IDの重畳方式については後述する。音響IDが重畳された音声を携帯端末装置2が収音する。ユーザ6が携帯端末装置2を所持している。携帯端末装置2には、後述する制御部22が実行する音響IDアプリケーションプログラムがインストールされている。音響IDアプリケーションプログラムは、収音した音声から音響IDを分離し、IDコードに復調し、このIDコードをID解決サーバ4に送信することで、ID解決サーバ4からコンテンツサーバ5のURLを取得するアプリケーションソフトウェアである。図4に示すように、携帯端末装置2は制御部22を含む。制御部22は、音響ID処理部23を有しており、制御部22が音響IDアプリケーションプログラムを実行することにより音響ID処理部23を実現する。音響ID処理部23の詳細動作は図6のフローチャートで説明する。携帯端末装置2は、音響ID処理部23により、音声に含まれる音響IDをIDコードに復調し、このIDコードをネットワーク3を介してID解決サーバ4に送信する。ID解決サーバ4は、ID/URL対応テーブル40を備えており、受信した音響IDを用いて、ID/URL対応テーブル40を検索して対応するURLを読み出して携帯端末装置2に返信する。」

エ 「【0021】音響IDをURLに解決するために、ID解決サーバ4には図3に示すようなID/URL対応テーブル40が設けられる。「音響IDをURLに解決する」とは、この明細書では、「音響IDを復調して得られるIDコードに対応したURL(アドレス情報)を特定する」ことを意味する。ID/URL対応テーブル40には、複数のIDコードとそのIDコードに対応する番組名、提供するコンテンツタイプ(クーポン、特典画像など)、有効時間帯(有効時間情報)、および、コンテンツのURLが対応づけて記憶されている。このように、URLより短いデータ長のIDコード(たとえば4桁の数字、図3参照)にコンテンツのURLを対応づけることにより、送信レートの高くない音響によるデータ送信であっても、IDコードより長いデータ長のURL(英数字等の所定の文字列)をユーザの携帯端末装置2に提供することが可能になる。」

上記イ及びウによれば、放送受信装置(テレビ)はテレビ放送を受信して映像を表示するとともに音声を放音するものであり、放送局または中継機器から放送音声を受け取るものである。
上記アないしウによれば、放送受信装置(テレビ)から放音する放送音声には、音響IDが重畳されているものである。そして、音響IDが重畳された音声を収音した携帯端末装置が、音響IDから復調したIDコードをID解決サーバに送信することで、コンテンツサーバのURLを取得するものである。
上記ウ及びエによれば、ID解決サーバは、音響IDとコンテンツ(クーポン、特典画像など)サーバのURLとを対応づけて記憶しているID/URL対応テーブルを備えたものである。

よって、甲第1号証の「情報提供システム」には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「放送局または中継機器から放送音声を受信し、音響IDが重畳された放送音声を放音する放送受信装置と、
音響IDとコンテンツ(クーポン、特典画像など)サーバのURLとを対応づけて記憶しているID/URL対応テーブルを備えたID解決サーバを有し、
音響IDが重畳された放送音声を収音した携帯端末装置が、音響IDから復調したIDコードをID解決サーバに送信することで、コンテンツサーバのURLを取得する
情報提供システム。」

2 本件特許発明1と甲1発明との対比、判断
(1)甲1発明の「放送音声」は、放送受信装置において「信号」として受信されることは明らかであるから、本件特許発明1の「再生対象音を表す音響信号」に相当する。
よって、甲1発明の「放送局または中継機器から放送音声を受信・・・する放送受信装置」は、本件特許発明1の「再生対象音を表す音響信号を取得する音響信号取得手段」に相当する構成を備えている。

(2)甲1発明の「放送受信装置」は、放送音声を放音するものであるから、本件特許発明1の「放音装置」に相当する構成を備えているものである。
そして、甲1発明の「音響ID」は、上記アによれば、(放送音声の)テレビ番組をリアルタイムに視聴させることによってクーポン等の利益を視聴者に取得させるために、当該テレビ番組に対して付与したものであるから、本件特許発明1の「再生対象音を識別するための識別情報」に相当する。
よって、甲1発明の「音響IDが重畳された放送音声を放音する放送受信装置」は、本件特許発明1の「前記音響信号が示す前記再生対象音と当該再生対象音を識別するための識別情報を示す音響成分とを含む音響を放音する放音装置」に相当する構成を備えている。

(3)甲1発明の「コンテンツ(クーポン、特典画像など)サーバのURL」は、それ自体が発音内容を表すものではないから、本件特許発明1の「再生対象音の発音内容を表す関連情報」には相当しない。
この点について、異議申立人は、「請求項1の構成Bである『前記再生対象音の発音内容を表す関連情報を取得する関連情報取得手段』について、明細書の段落[0052]の『案内音声に関連する関連情報Qを取得する要素』の例示として、段落[0045]には、『関連情報取得部24は、案内音声に関連する画像(静止画または動画)を関連情報Qとして取得する』と記載されているので、構成Bは、『再生対象音の発音内容に関連する動画等を取得し、取得した動画等を記憶する』という手段も含む。」旨(異議申立書第11頁)を主張している。
この異議申立人の主張は本件特許明細書を参酌してのものであるから、本件特許発明1の「再生対象音の発音内容を表す関連情報」における「発音内容を表す」とはどのようなものか、本件特許明細書を参照して検討する。そこで、本件特許明細書の「発音内容」についての記載がある箇所を参照すると、以下の記載が認められる。なお、下線は当審で付与した。
・「図10に例示された態様1において、情報管理システム14の音響信号取得部22は、第1実施形態と同様に、指定文字列に対する音声合成で案内音声の音響信号SGを生成する。他方、関連情報取得部24は、管理者が指示した指定文字列を関連情報Qとして取得する。すなわち、関連情報Qは、案内音声と共通の第1言語で当該案内音声の発音内容を表現する文字列である。以上の構成では、放音システム16による案内音声の再生に並行して端末装置12では当該案内音声の発音内容の文字列が表示される。したがって、難聴者(聴覚障碍者)が案内音声の内容を確認できるという利点がある。」(段落【0041】)
・「図15に例示される態様6において、情報管理システム14の音響信号取得部22は、図13(態様4)と同様の信号供給装置200から案内音声の音響信号SGを取得する。他方、関連情報取得部24は、信号供給装置200から供給される音響信号SGに対する音声認識により、案内音声の発音内容を表現する文字列を関連情報Qとして生成する。音響信号SGの音声認識には、例えばHMM等の音響モデルと言語的な制約を示す言語モデルとを利用した認識技術等の公知の技術が任意に採用され得る。以上の説明から理解される通り、態様6では、前掲の態様1(図10)と同様に、放音システム16による案内音声の再生に並行して端末装置12では当該案内音声の発音内容の文字列が表示される。したがって、例えば難聴者が案内音声の内容を確認できるという利点がある。」(段落【0046】)
上記本件特許明細書の記載によれば、「発音内容を表す関連情報」とは、「音声内容を表現(表示)した文字列」である。
そして、特許権者(当時出願人)も、本件の審査時に提出された平成29年5月26日付け「早期審査に関する事情説明」において、「本願の請求項1および請求項7は、例えば原出願の段落0007の記載や、段落0041における『関連情報Qは、案内音声と共通の第1言語で当該案内音声の発音内容を表現する文字列である』という記載を根拠とする。」と説明しているように、関連情報は「案内音声の発音内容を表現する文字列」であるとしている。
そうすると、本件特許明細書を参酌して本件特許発明1の「再生対象音の発音内容を表す関連情報」を解釈しても、異議申立人が主張する「発音内容に関連する動画等」ではなく、再生対象音の内容を文字列として表したものといえる。
結局のところ、文言通り解釈しても、本件特許明細書の記載を参酌し解釈しても、甲1発明の「コンテンツ(クーポン、特典画像など)サーバのURL」(及び当該URLから得られるクーポン、画像)は、本件特許発明1の「再生対象音の発音内容を表す関連情報」ではない。
したがって、甲1発明は、「再生対象音の発音内容を表す関連情報」に相当するものがないので、本件特許発明1の「前記再生対象音の発音内容を表す関連情報を取得する関連情報取得手段」と「前記放音装置による放音で端末装置に通知される識別情報と前記関連情報取得手段が当該再生対象音について取得した関連情報とを対応させる対応管理手段」を備えていない。

(4)甲1発明の「情報提供システム」は、上記(1)ないし(3)によれば、再生対象音と識別情報とを取得し放音する構成、識別情報からある種の情報を取得する構成が認められるから、本件特許発明1の「情報管理システム」に相当する。

上記(1)ないし(4)から、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
<一致点>
再生対象音を表す音響信号を取得する音響信号取得手段と、
前記音響信号が示す前記再生対象音と当該再生対象音を識別するための識別情報を示す音響成分とを含む音響を放音する放音装置と、
を具備する情報管理システム。

<相違点>
本件特許発明1は、「前記再生対象音の発音内容を表す関連情報を取得する関連情報取得手段」及び「前記放音装置による放音で端末装置に通知される識別情報と前記関連情報取得手段が当該再生対象音について取得した関連情報とを対応させる対応管理手段」とを具備しているのに対し、甲1発明は、「再生対象音の発音内容を表す関連情報」に相当するものがないので、これらの手段を具備していない。

3 本件特許発明7と甲1発明との対比、判断
同様に、本件特許発明7は、「前記再生対象音の発音内容を表す関連情報を取得」すること、及び「端末装置に通知される識別情報と、当該再生対象音について取得した関連情報とを対応」させることを行うのに対し、甲1発明は「再生対象音の発音内容を表す関連情報」に相当するものがないので、これらの事項を行っていない点で相違する。

4 まとめ
本件特許発明1及び7は、甲1発明と同一ではない。
そして、本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の構成を含むものであるから、同様に、甲1発明と同一ではない。
したがって、理由1を採用することはできない。


第5 理由2についての判断
本件特許発明4ないし6が容易であるとの異議申立人の主張は、本件特許発明1ないし3が甲1発明と同一である(相違点がない)ことを前提にしたものであるが、上記のとおり、本件特許発明1は甲1発明と同一ではなく相違点が認められるから、「本件特許発明4が甲1発明及び甲第2号証に記載された事項から容易」、「本件特許発明5が甲1発明及び甲第3号証に記載された事項から容易」、「本件特許発明6が甲1発明及び甲第4号証に記載された事項から容易」とすることはできない。
なお、仮に、本件特許発明1及び7の「再生対象音の発音内容を表す関連情報」が、甲第2号証、甲第3号証、及び甲第4号証に記載されていたとしても、甲1発明はそもそもクーポンや特典画像を得るためのシステムを構築したものであるから、「コンテンツ(クーポン、特典画像など)サーバのURL」の取得に代えて「再生対象音の発音内容を表す関連情報」の取得をするように変更する動機付けはない。
したがって、理由2を採用することはできない。


第6 理由3についての判断
異議申立人は、「本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明の記載内容を超えるものである」旨(特許異議申立書第28頁)を主張している。この主張が分割要件を満たさない理由としているかは定かではないが、下記「第7」のとおり、異議申立人の主張を採用することはできない。
また、異議申立人は、「本件特許出願の親出願及び本件特許出願の親出願の親出願のいずれの出願にも、本件特許出願の課題を解決できるような本件特許発明1?7は、一切開示されていない。したがって、本件特許出願は、原出願に記載されていない発明が追加されたものである。すなわち、本件特許出願は、分割の要件を満たさない。」(特許異議申立書第28?29頁)と主張している。しかしながら、本件特許発明1ないし7に係る構成要件の全ては、異議申立人も認めているように原出願(特願2015-92283号)に記載されており、特別な機能を付加したわけではないから、本件特許は分割の要件を満たすものである。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、本件特許発明1ないし7が原出願である甲第5号証(特願2015-92283号;特開2016-75890号公報)に記載された発明から容易になし得たとすることはできず、理由3を採用することはできない。


第7 理由4についての判断
異議申立人は、本件特許の課題が解決されるためには端末装置が少なくとも「複数の関連情報Qを記憶装置52に格納しない」という要件が必要であるにも係わらず、本件特許発明1ないし7には発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものである旨(特許異議申立書第29?31頁)を主張している。
しかしながら、そもそも本件特許発明1ないし7は、「情報管理システム」または「情報管理方法」に係る発明であり、関連情報を取得すること(関連情報取得手段)、再生対象音を識別するための識別情報を放音すること(放音装置)、識別情報と関連情報とを対応させること(対応管理手段)を備えたものであって、情報を受け取る端末装置を構成要件にはしていない。そして、これらの構成(手段)を備えていれば、端末装置の記憶装置に関連情報を格納しなくても、端末装置が(識別情報から)関連情報を取得できることは明らかである。よって、本件特許発明1ないし7において、わざわざ端末装置に関連情報を格納しないことを特定しなくても、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものにはならないから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、本件特許発明1ないし7は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものではないから、理由4を採用することはできない。


第8 理由5についての判断
異議申立人は、本件特許発明1及び7における「取得」は、包括的な意味での「取得」であるのか、「外部装置から音響信号SGを取得する」という狭義の「取得」であるのか、いずれの意味であるのか不明である旨(特許異議申立書第31?32頁)を主張している。
しかしながら、本件特許明細書及び図面には、「入力された指定文字列を音声合成して音響信号SGを取得する」実施例や「信号供給装置(外部装置)から音響信号SGを取得する」実施例が記載されているように、狭義の取得に限定解釈する必要はなく、包括的な意味での取得であることは明らかである。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
また、異議申立人は、本件特許発明1及び7における「対応させる」は、識別情報と関連情報の形成の都度両者を対応付けて記憶装置に格納させるのか、識別情報と関連情報とが対応付けられた対応データを記憶装置に格納させるのか不明確である旨(特許異議申立書第32?33頁)を主張している。
しかしながら、識別情報により関連情報を取得するためには、識別情報と関連情報とが対応付けられること(対応管理手段)が特定されていれば十分であるから、「対応付けて記憶させる」タイミングまで明らかにさせる必要はない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、本件特許発明1ないし7は不明確ではないから、理由5を採用することはできない。


第9 理由6についての判断
異議申立人は、「関連情報が画像情報等である場合」を前提に、本件特許発明7は実施可能要件を満たさない旨(特許異議申立書第33?34頁)を主張している。
しかしながら、本件特許発明7の「関連情報」は、上記「第4 2(3)」及び「第4 3}で指摘したように、画像情報ではないから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、本件特許発明7は実施可能要件を満たしていないとはいえず、理由6を採用することはできない。


第10 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
異議決定日 2018-03-26 
出願番号 特願2017-103874(P2017-103874)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H04M)
P 1 651・ 113- Y (H04M)
P 1 651・ 121- Y (H04M)
P 1 651・ 537- Y (H04M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大野 弘  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 酒井 朋広
國分 直樹
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6159048号(P6159048)
権利者 ヤマハ株式会社
発明の名称 情報管理システムおよび情報管理方法  
代理人 高橋 太朗  
代理人 大林 章  
代理人 高田 聖一  

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