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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01J
審判 全部無効 2項進歩性  B01J
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
管理番号 1339368
審判番号 無効2015-800212  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-11-17 
確定日 2018-02-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5762816号発明「8員環細孔開口構造を有するモレキュラーシーブまたはゼオライトを含んで成る新規マイクロポーラス結晶性物質およびその製法およびその使用」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5762816号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8、29、31〕、〔9?15〕、〔16?28、30、32〕について訂正することを認める。 特許第5762816号の請求項1?10、12、13、15?22、24?32に係る発明についての特許を無効とする。 請求項11、14、23についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5762816号は、2008年3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年3月26日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2010-500962号の一部を、平成23年5月9日に新たな特許出願とした特願2011-104243号の特許請求の範囲に記載された請求項1?32に係る発明について、平成27年6月19日に特許権の設定登録がされたものである。

本件審判は、請求項1?32に係る発明の特許(以下、「本件特許」ともいう。)の無効を請求するものであり、主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年11月17日付け:審判請求書の提出
平成28年 3月 7日付け:審判事件答弁書、訂正請求書の提出
同年 7月 6日付け:審理事項通知
同年 9月21日付け:口頭審理陳述要領書、証拠説明書の提出(両当事者)
同年10月 6日付け:口頭審理陳述要領書、証拠説明書の提出(両当事者)
同年10月20日 :口頭審理の実施、上申書の提出(両当事者)
平成29年 3月28日付け:審決の予告
同年 7月 3日付け:訂正請求書、上申書の提出(被請求人)
同年 7月13日付け:上申書の提出(被請求人)
同年 7月24日付け:訂正拒絶理由通知
同年 7月26日付け:職権審理結果通知
同年 8月28日付け:意見書の提出(請求人)
同年 9月15日付け:訂正請求取下書の提出
同年 9月19日付け:意見書の提出(被請求人)

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成28年3月7日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という)による、請求項1?32に係る訂正事項1?17の内容は、以下の(1)?(17)のとおりである。(下線は訂正箇所)
なお、平成29年9月15日付けの訂正請求取下書により、同年7月3日付けの訂正請求書は取り下げられている。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する」とあるのを、「前記結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成る」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?8、29及び31も同様に訂正する)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「接触させることを含んでなり」とあるのを、「アンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んでなり」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?8、29及び31も同様に訂正する)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に、「前記結晶性物質は鉄および/または銅を含んで成ることを特徴とする」とあるのを、「前記銅は、前記SAPO-34の陽イオン交換部位にある」に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、「鉄および/または銅」とあるのを、「銅」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に、「液相もしくは固体のイオン交換によって前記固体へ導入され、または直接合成によって組込まれる」とあるのを、「液相もしくは固体のイオン交換によって前記固体へ導入される」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に、「0.3ミクロンを超える結晶寸法を有する鉄および/または銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」とあるのを、「0.3ミクロンを超える結晶寸法を有する銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」に訂正する。(請求項9の記載を引用する請求項10?15も同様に訂正する)

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に、「接触させることを含んで成る」とあるのを、「アンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んで成る」に訂正する。(請求項9の記載を引用する請求項10?15も同様に訂正する)

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に、「鉄および/または銅」とあるのを、「銅」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に、「液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入され、または直接合成によって組込まれる」とあるのを、「液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入される」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14を削除する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項16に、「前記マイクロポーラス結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する」とあるのを、「前記マイクロポーラス結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成る」に訂正する。(請求項16の記載を引用する請求項17?24、30及び32も同様に訂正する)

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項16に、「接触させる工程を含んで成り」とあるのを、「アンモニアまたは尿素の存在下に接触させる工程を含んで成り」に訂正する。(請求項16の記載を引用する請求項17?24、30及び32も同様に訂正する)

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項17に、「前記結晶性物質は鉄および/または銅を含んで成る」とあるのを、「前記銅は、前記SAPO-34の陽イオン交換部位にある」に訂正する。(請求項17の記載を引用する請求項18も同様に訂正する)

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項18に、「鉄および/または銅」とあるのを、「銅」に訂正する。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項18に、「液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入され、または直接合成によって組込まれる」とあるのを、「液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入される」に訂正する。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項23を削除する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
(1)検討の手順
本件訂正請求の適否について、下記(a)?(g)の順に検討する。
(a)特定の水熱安定性を有する結晶性物質に、「銅を含んで成る」ものとする訂正事項1、12
(b)「鉄および/または銅含有SAPO-34」を、「銅含有SAPO-34」とする訂正事項6
(c)排ガスを、「アンモニアまたは尿素の存在下に」接触させるものとする訂正事項2、7、13
(d)結晶性物質に含まれる金属を「銅」とし、更に、当該「銅」が「SAPO-34の陽イオン交換部位にある」ものとする訂正事項3、14
(e)結晶性物質に含まれる金属を「銅」とする訂正事項4、8、15
(f)結晶性物質に含まれる金属の導入手段について、択一的記載の要素を削除する訂正事項5、9、16
(g)請求項を削除する訂正事項10、11、17

(2)訂正事項1、12について
ア 訂正の目的
訂正事項1について、訂正前の請求項1における「結晶性物質」が、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する」と特定されていたところ、これを「・・・結晶性物質に銅を含んで成る」とする訂正は、訂正前の、特定の水熱安定性を有する結晶性物質に、更に銅を含有させたことを直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項12についても、上記訂正事項1と同様に、訂正前の請求項16における、特定の水熱安定性を有するマイクロポーラス結晶性物質に、更に銅を含有させたことを直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
上記特定の水熱安定性を有する(マイクロポーラス)結晶性物質は、本件明細書【0059】の【表1】の「実施例2」に、「新鮮な触媒」として記載されており、同表には、これを「Cuイオン交換」したものも記載されている。
してみれば、訂正事項1、12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1、12は、特許請求の範囲を減縮するものであり、発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 請求人の主張について
請求人は、平成28年9月21日付け口頭審理陳述要領書の「第1」において、訂正前の請求項2の「前記結晶性物質」は、訂正前の請求項1で規定の水熱安定性を有している「前記結晶性物質」に該当することから、訂正前の請求項2における鉄および/または銅を含んで成る結晶性物質は、訂正前の請求項1で規定の水熱安定性を有していることが必要とされるのに対して、訂正後の請求項1に係る発明は、「銅を含んで成り、請求項1で規定の水熱安定性を有する結晶性物質を使用する態様」、及び「銅を含んで成り、請求項1で規定の水熱安定性を有さない結晶性物質を使用する態様」の両方が含まれることとなり、その結果、本件特許明細書に記載されている範囲を超えるものとなるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するものであると主張する。
しかしながら、上記「ア」に説示するとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1における特定の水熱安定性を有する結晶性物質に、更に銅を含有させるものであって、訂正前の請求項2に係る発明を拡張し、又は変更しようとするものではない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。
請求人は、訂正事項12についても同様の主張をしているが、上記と同様の理由により、かかる主張は採用できない。

(3)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項9における「鉄および/または銅含有SAPO-34」という択一的記載の要素を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。

(4)訂正事項2、7、13について
ア 訂正の目的
訂正事項2、7、13は、それぞれ訂正前の請求項1、9、16における「排ガス」を「接触させる工程」について、いずれも「アンモニアまたは尿素の存在下に」接触させるという特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
アンモニアまたは尿素の存在下に排ガスを接触させることは、訂正前の請求項8、14、23や、本件明細書【0013】に記載された事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2、7、13は、特許請求の範囲を減縮するものであり、発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(5)訂正事項3、14について
ア 訂正の目的
訂正事項3、14は、まず、それぞれ訂正前の請求項2、17において、「前記結晶性物質は鉄および/または銅を含んで成ることを特徴とする」と特定されていたところ、引用する請求項1、16において、結晶性物質に含有される金属が「銅」のみに限定されたから、訂正後の請求項2、17をこれと整合させるものであり、更に、当該「銅」が「SAPO-34の陽イオン交換部位にある」という特定事項を直列的に付加するものである。
したがって、訂正事項3、14は、特許法第134条の2ただし書き第3項に規定する明瞭でない記載の釈明、及び同第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
銅がSAPO-34の陽イオン交換部位にあることは、訂正前の請求項3、18の、「前記・・・銅は、液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入され、」という記載や、本件明細書【0012】の、「SAPO-34・・・は銅でイオン交換されており、」という記載から導かれる事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3、14は、特許請求の範囲を減縮するものであり、発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(6)訂正事項4、8、15について
訂正事項4、8、15は、それぞれ訂正前の請求項3、10、18において、「鉄および/または銅」と特定されていたところ、引用する請求項1、9、16において、含有される金属が「銅」のみに限定されたから、訂正後の請求項3、10、18をこれと整合させるものである。
したがって、訂正事項4、8、15は、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。

(7)訂正事項5、9、16について
訂正事項5、9、16は、それぞれ訂正前の請求項3、10、18における「銅」の導入方法について、訂正前の「液相もしくは固体のイオン交換によって前記固体へ導入され、または直接合成によって組込まれる」という択一的記載の要素を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。

(9)訂正事項10、11、17について
訂正事項10、11、17は、それぞれ訂正前の請求項11、14、23を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。

(10)一群の請求項
ア 訂正事項1?5について、訂正事項1を含む訂正前の請求項1を、訂正前の請求項2?8、29、31は直接ないし間接的に引用していたから、訂正前の請求項1?8、29、31は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
よって、この訂正は、一群の請求項〔1?8、29、31〕ごとに請求したものと認められる。

イ 訂正事項6?11について、訂正事項6を含む訂正前の請求項9を、訂正前の請求項10?15は引用していたから、訂正前の請求項9?15は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
よって、この訂正は、一群の請求項〔9?15〕ごとに請求したものと認められる。

ウ 訂正事項12?17について、訂正事項12を含む訂正前の請求項16を、訂正前の請求項17?28、30、32は直接ないし間接的に引用していたから、訂正前の請求項16?28、30、32は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
よって、この訂正は、一群の請求項〔16?28、30、32〕ごとに請求したものと認められる。

(11)訂正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?8、29、31〕、〔9?15〕、〔16?28、30、32〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?10、12、13、15?22、24?32に係る発明(以下、「本件発明1?10、12、13、15?22、24?32」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?10、12、13、15?22、24?32に記載された次の事項により特定されるものである。(下線部は訂正箇所である。)

【請求項1】
排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
排ガスを、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質とアンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んでなり、
前記結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成る、方法。
【請求項2】
前記銅は、前記SAPO-34の陽イオン交換部位にある、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記銅は、液相もしくは固体のイオン交換によって前記固体へ導入される、請求項2に記載された方法。
【請求項4】
前記SAPO-34は1?20%の範囲の量でSiO_(2)を含む、請求項1に記載された方法。
【請求項5】
前記SAPO-34は0.3から5.0ミクロンの範囲の結晶寸法を有する、請求項1に記載された方法。
【請求項6】
前記結晶性物質は少なくとも650m^(2)/gの初期表面積を有する、請求項1に記載された方法。
【請求項7】
前記結晶性物質は少なくとも0.25cc/gの初期マイクロ細孔体積を有する、請求項1に記載された方法。
【請求項8】
前記接触工程はアンモニアまたは尿素の存在下に実施される、請求項1に記載された方法。
【請求項9】
排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後にその表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持する、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有する銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質に、排ガスをアンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んで成る、方法。
【請求項10】
前記銅は、液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入される、請求項9に記載された方法。
【請求項11】 (削除)
【請求項12】
前記銅が前記物質の総重量の少なくとも1.0重量パーセントを含んで成る、請求項9に記載された方法。
【請求項13】
前記SAPO-34は1?20%のSiO_(2)を含む、請求項9に記載された方法。
【請求項14】 (削除)
【請求項15】
前記SAPO-34は0.3から5.0ミクロンの範囲の結晶寸法を有する、請求項9に記載された方法。
【請求項16】
排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んで成るマイクロポーラス結晶性物質を含んで成る物品を用意する工程、NOxを含んで成る排ガスと該物品をアンモニアまたは尿素の存在下に接触させる工程を含んで成り、
前記マイクロポーラス結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成る、方法。
【請求項17】
前記銅は、前記SAPO-34の陽イオン交換部位にある、請求項16に記載された方法。
【請求項18】
前記銅は液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入される、請求項17に記載された方法。
【請求項19】
前記SAPO-34はSiO_(2)を1?20%の範囲の量で含む、請求項16に記載された方法。
【請求項20】
前記SAPO-34は0.3から5.0ミクロンの範囲の結晶寸法を有する、請求項16に記載された方法。
【請求項21】
前記結晶性物質は少なくとも650m^(2)/gの初期表面積を有する、請求項16に記載された方法。
【請求項22】
前記結晶性物質は少なくとも0.25cc/gの初期マイクロ細孔体積を有する、請求項16に記載された方法。
【請求項23】 (削除)
【請求項24】
前記物品はチャネル構造またはハニカム構造の本体;充てん床;マイクロスフィア;または構造片の形態にある、請求項16に記載された方法。
【請求項25】
前記充てん床は球状物、破砕物、ペレット、タブレット、押出物、他の粒子状物質、またはそれらの結合を含んで成る、請求項24に記載された方法。
【請求項26】
前記構造片は板状体またはチューブの形態にある、請求項24に記載された方法。
【請求項27】
チャネル構造またはハニカム構造の本体または構造片は、SAPO-34モレキュラーシーブを含んで成る混合物を押出して形成される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
チャネル構造またはハニカム構造の本体または構造片は、予め形成された基板上にSAPO-34モレキュラーシーブを含んで成る混合物を塗布または被着させることによって形成される、請求項24に記載された方法。
【請求項29】
前記結晶性物質は、0.40 mmol/g?0.57 mmol/gの範囲の酸性度を保持する、請求項1記載の方法。
【請求項30】
前記結晶性物質は、0.40 mmol/g?0.57 mmol/gの範囲の酸性度を保持する、請求項16記載の方法。
【請求項31】
前記結晶性物質は、0.40 mmol/gまたは0.57 mmol/gの酸性度を保持する、請求項1記載の方法。
【請求項32】
前記結晶性物質は、0.40 mmol/gまたは0.57 mmol/gの酸性度を保持する、請求項16記載の方法。

第4 当事者の主張
1.請求人
請求人は、甲第1?41号証(以下、「甲1?41」ということがある。)を提出し、「特許第5762816号の訂正特許請求の範囲の請求項1?10、12、13、15?22、24?32に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、口頭審理にて確認した次の無効理由1?6を主張している。

無効理由1:甲8、9、31、32の記載を考慮すると、本件発明1?10、12、13、15?22、29?32は、甲4に記載された発明に甲1、5、6、30に記載された発明及び甲20?22、24、41に記載の周知技術(以下、「甲20等周知技術」という。)を適用することによって、また、本件発明24?28は、甲4に記載された発明に甲1、5?7、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、その一部が本件特許に係る新たな特許出願とされた原出願の、優先権の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

無効理由2:甲8、9、11、31、32の記載を考慮すると、本件発明1?10、12、13、15?22、29?32は、甲4に記載された発明に甲10、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、また、本件発明24?28は、甲4に記載された発明に甲10、5?7、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、その一部が本件特許に係る新たな特許出願とされた原出願の、優先権の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

無効理由3:甲8、9、31、32の記載を考慮すると、本件発明1?4、6、8?10、12、13、16?19、21、29?32は、甲4に記載された発明に甲12、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術に記載された発明を適用することによって、また、本件発明24?28は、甲4に記載された発明に甲12、5?7、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、その一部が本件特許に係る新たな特許出願とされた原出願の、優先権の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

無効理由4:甲8、9、11、31、32の記載を考慮すると、本件発明1、2、4?9、13、15?17、19?22、29?32は、甲5に記載された発明に甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、また、本件発明3、10、12、18は、甲5に記載された発明に甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、更に、本件発明24?28は、甲5に記載された発明に甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、その一部が本件特許に係る新たな特許出願とされた原出願の、優先権の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

無効理由5:甲16?18、34?39の記載を考慮すると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないことから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。

無効理由6:甲19、33の記載を考慮すると、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。

2.被請求人
被請求人は、乙第1?37号証(以下、「乙1?37」ということがある。)を提出し、「本件無効審判請求は成り立たない、審判請求費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。

3.証拠方法
甲第1号証:特開昭59-35018号公報
甲第2号証:国際ゼオライト協会の構造委員会のURLに記載のデータベース、平成27年(印刷日)
http://izasc.ethz.ch/fmi/xsl/IZA-SC/ftc_rm.xsl?-db=Atlas_main&-lay=ref&STC=CHA&-find
甲第3号証:Brent M. LOK et al., "Silicoaluminophosphate Molecular Sieves: Another New Class of Microporous Crystalline Inorganic Solids", J. Am. Chem. Soc., 1984, vol.106, pp.6092-6093(乙第2号証に同じ)
甲第4号証:T. ISHIHARA et al., "Copper Ion-Exchanged SAPO-34 as a Thermostable Catalyst for Selective Reduction of NO with C_(3)C_(6"), JOURNAL OF CATALYSIS, 1997, vol.169, pp.93-102
甲第5号証:米国特許第5,589,147号明細書
甲第6号証:H. YAHIRO et al., "Copper ion-exchanged zeolite catalysts in deNO_(x) reaction", Applied Catalysis A: General, 2001, vol.222, pp.163-181
甲第7号証:特開平2-251246号公報
甲第8号証:審判請求人の指示を受けて試験を行った者である堀田氏の実験成績証明書、2015年11月13日
甲第9号証:審判請求人の指示を受けて試験を行った者である西岡氏の宣誓供述書、2010年9月17日
甲第10号証:特開2004-43296号公報
甲第11号証:審判請求人の指示を受けて試験を行った者である堀田氏の実験成績証明書、2015年11月13日
甲第12号証:特開2003-183020号公報
甲第13号証:W. Addy MAJEWSKI, Magdi K. KHAIR, "Diesel Emissions and Their Control", SAE International, Warrendale, PA, 2006, pp.418-421,450-451(乙第3号証に同じ)
甲第14号証:Joo-Hyoung PARK et al., "Hydrothermal stability of CuZSM5 catalyst in reducing NO by NH_(3) for the urea selective catalytic reduction process", JOURNAL OF CATALYSIS, 2006, vol.240, pp.47-57(乙第4号証に同じ)
甲第15号証:Katariina Rahkamaa-TOLONEN et al., "The effect of NO_(2) on the activity of fresh and aged zeolite catalysts in the NH_(3)-SCR reaction", Catalysis Today, 2005, vol.100, pp.217-222
甲第16号証:審判請求人の指示を受けて試験を行った者である西岡氏の宣誓供述書、2010年9月27日
甲第17号証:「高機能ゼオライトの合成と応用」、第1刷、株式会社シーエムシー、1995年12月12日
甲第18号証:Di WANG et al., "NH_(3)-SCR over Cu/SAPO-34-Zeolite acidity and Cu structure changes as a function of Cu loading", Catalysis Today, 2014, vol.231, pp.64-74
甲第19号証:J. ROUQUEROL et al., "RECOMMENDATIONS FOR THE CHARACTERIZATION OF POROUS SOLIDS", Pure & Appl. Chem., 1994, Vol.66, No.8, pp.1739-1758
甲第20号証:Masakazu IWAMOTO et al., "HANDBOOK OF ZEOLITE SCIENCE AND TECHNOLOGY" 19 Zeolites in the Science and Technology of Nitrogen Monoxide Removal, Marcel Dekker, Inc., 2003, pp.952-953,982-988
甲第21号証:特開平5-31328号公報
甲第22号証:W. Addy MAJEWSKI, Magdi K. KHAIR, "Diesel Emissions and Their Control", SAE International, Warrendale, PA, 2006, pp.403-457
甲第23号証:V. I. PARVULESCU et al., "Catalytic removal of NO", Catalysis Today, 1998, vol.46, pp.233-316
甲第24号証:滝田祐作、「NO_(x)除去SAPO触媒の開発」、季刊化学総説、1999年7月、第41号、第180?188頁
甲第25号証:Bonnie K. MARCUS et al., "Going Green with Zeolites", CHEMICAL ENGINEERING PROGRESS, 1999, pp.47-53
甲第26号証:米国特許第5,248,647号明細書
甲第27号証:Stephen WILSON et al., "The characteristics of SAPO-34 which influence the conversion of methanol to light olefins", Microporous and Mesoporous Materials, 1999, vol.29, pp.117-126
甲第28号証:Grigore POP et al., "NEW APPROACH TOWARD THE SYNTHESIS AND STABILITY OF SAPO-34 AND SAPO-44 MOLECULAR SIEVES", Progress in catalysis, Bucharest, 1993, pp.1-17
甲第29号証:特開2000-271447号公報
甲第30号証:国際公開第2006/064805号
甲第31号証:石原達己博士の陳述書、2016年9月16日
甲第32号証:Zhendong Liu博士の宣誓陳述書、2016年3月4日
甲第33号証:Can LI et al., "HANDBOOK OF ZEOLITE SCIENCE AND TECHNOLOGY" 11 Microporous Materials Characterized by Vibrational Spectroscopies, Marcel Dekker, Inc., 2003, pp.423-425,442-453,502-513
甲第34号証:国際公開第2010/084930号
甲第35号証:西岡氏の宣誓陳述書、2016年3月3日
甲第36号証:2012年の国際学会に提示したポスター表示物
甲第37号証:西岡氏の実験ノート、2009年1月16日
甲第38号証:Zhendong Liu博士の宣誓陳述書、2016年3月4日
甲第39号証:Zhendong Liu博士の宣誓陳述書、2016年10月3日
甲第40号証:特表2002-534487号公報
甲第41号証:James J. SPIVEY, "Catalysis Volume 12", THE ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY, 1996.05.24, pp.21-51

参考資料1:本件特許の発明者ホン-シン・リ氏による宣誓供述書
参考資料2:米国特許第3,972,983号明細書

乙第1号証:米国特許第4,440,871号明細書
乙第2号証:Brent M. LOK et al., "Silicoaluminophosphate Molecular Sieves: Another New Class of Microporous Crystalline Inorganic Solids", J. Am. Chem. Soc., 1984, vol.106, pp.6092-6093(甲第3号証に同じ)
乙第3号証:W. Addy MAJEWSKI, Magdi K. KHAIR, "Diesel Emissions and Their Control", SAE International, Warrendale, PA, 2006, pp.418-421,450-451(甲第13号証に同じ)
乙第4号証:Joo-Hyoung PARK et al., "Hydrothermal stability of CuZSM5 catalyst in reducing NO by NH_(3) for the urea selective catalytic reduction process", JOURNAL OF CATALYSIS, 2006, vol.240, pp.47-57(甲第14号証に同じ)
乙第5号証:Y. WATANABE et al., "Multinuclear NMR Studies on the Thermal Stability of SAPO-34", J. Catalysis, 1993, vol.143, pp.430-436
乙第6号証:T. ISHIHARA et al., "Copper Ion Exchanged Silicoaluminophosphate (SAPO) as a Thermostable Catalyst for Selective Reduction of NO_(x) with Hydrocarbons", Studies in Surface Science and Catalysis, 1994 vol.84, pp.1493-1500
乙第7号証:米国特許第7,578,987号明細書
乙第8号証:米国特許第5,233,117号明細書
乙第9号証:本件特許に対応する米国特許第7,645,718号(米国特許出願第12/055639号)の審査経過においてUSPTOに提出したHong-Xin Li博士による宣誓供述書、2009年4月30日
乙第10号証:Haijun CHEN et al., "Novel Catalysts Supported on AlPO Type AQSOA Zeolites for Selective Catalytic Reduction of NO_(x"), 要約およびポスター, International Symposium of Zeolites and MicroPorous Crystals, 日本, 広島, 2012年7月18日?8月1日
乙第11号証:Pramatha PAYRA et al., "HANDBOOK OF ZEOLITE SCIENCE AND TECHNOLOGY" 1 Zeolites: A Primer, Marcel Dekker, Inc., 2003, pp.9-10
乙第12号証:J. M. THOMAS et al., "Structural Elucidation of Microporous and Mesoporous Catalysts and Molecular Sieves by High-Resolution Electron Microscopy", Acc. Chem. Res., 2001, vol.34, pp.583-594
乙第13号証:Jiri CEJKA et al., "Studies in Surface Science and Catalysis 168 INTRODUCTION TO ZEOLITE SCIENCE AND PRACTICE", 2007, vol.168, pp.196-205,804-819
乙第14号証:米国特許出願公開第2012/0020875号明細書
乙第15号証:Hong-Xin Li博士による宣誓供述書、2015年12月10日
乙第16号証:Alexander Katz博士による宣誓供述書、2016年9月16日
乙第17号証:米国特許第6,696,032号明細書
乙第18号証:国際公開第01/36328号
乙第19号証:Mehdi SEDIGHI et al., "Effect of phosphorus and water contents on physico-chemical properties of SAPO-34 molecular sieve", Powder Technology, 2014, vol.259, pp.81-86
乙第20号証:乙第16号証の作成時に、PQ社よりKarz博士に提供された社内データの写し
乙第21号証:Joseph C. POSHUSTA et al., "Synthesis and Permeation Properties of SAPO-34 Tubular", Ind. Eng. Chem. Res., 1998, vol.37, pp.3924-3929
乙第22号証:Joseph C. POSHUSTA et al., "Separation of Light Gas Mixtures Using SAPO-34 Membranes", AIChE Journal, April 2000, Vol.46, No.4, pp.779-789
乙第23号証:Y. IWASE et al., "Influence of Si distribution in framework of SAPO-34 and its particle size on propylene selectivity and production rate for conversion of ethylene to propylene", Phys. Chem. Chem. Phys., 2009, vol.11, pp.9268-9277
乙第24号証:米国特許第6,903,240号明細書
乙第25号証:Michael G. ABRAHA et al., "Effects of Particle Size and Modified SAPO-34 on Conversion of Methanol to Light Olefins and Dimethyl Ether", Studies in Surface Science and Catalysis, 2001, vol.133, pp.211-218
乙第26号証:Huaqun ZHOU et al., "In situ synthesis of SAPO-34 crystals onto α-Al_(2)O_(3) sphere supports as the catalyst for the fluidized bed conversion of dimethyl ether to olefins", Applied Catalysis A: General, 2008, vol.341, pp.112-118
乙第27号証:Average Grain Intercept (AGI) Method
乙第28号証:Standard Test Methods for Determining Average Grain Size, ASTM Designation: E112-13, 2013.10.01
乙第29号証:O. KRESNAWAHJUESA et al., "A simple, inexpensive, and reliable method for measuring Brφnsted-acid site densities in solid acids", Catalysis Letters, October 2002, Vol.82, No.3-4, pp.155-160
乙第30号証:W. E. FARNETH et al., "Methods for Characterizing Zeolite Acidity", Chem. Rev., 1995, vol.95, pp.615-635
乙第31号証:特開平11-335164号公報
乙第32号証:特開2014-15353号公報
乙第33号証:国際公開第2008/132452号
乙第34号証:米国特許出願公開第2010/0310440号明細書
乙第35号証:"HANDBOOK OF ZEOLITE SCIENCE AND TECHNOLOGY", Marcel Dekker, Inc., 2003, pp.156,157,159
乙第36号証:米国特許第6,709,644号明細書
乙第37号証:Hong-Xin Li博士による宣誓供述書、2017年9月13日

第5 甲各号証、乙各号証の記載
翻訳文について、「(訳)」と記載されているものは、甲各号証については請求人が、乙各号証については被請求人が提出した翻訳文に基づくものであり、「(当審訳)」と記載されているものは、当審において作成した翻訳文である。
なお、宣誓供述書、陳述書、宣誓陳述書については、両当事者から提出された翻訳文を記載事項として摘示する。(甲第9、16、31、32、38、39号証、乙第9、15、16号証)

甲第1号証
●[甲1-A](第31頁左下欄?第32頁左下欄)
「例32(SAPO-34の製造)
・・・最終反応混合物のモル酸化物比における組成は次の通りであつた:
1.6(TEA)_(2)O:1.2Na_(2)O:4SiO_(2):2Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):112H_(2)O。
反応混合物の1部を・・・200℃にて自生圧力下に168時間加熱した。
・・・
例33(SAPO-34の製造)
・・・最終反応混合物のモル酸化物比における組成は次の通りであつた:
0.5(TEA)_(2)O:0.1SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):57H_(2)O。
このゲルを150℃にて自生圧力下に133時間結晶化させ・・・
例34(SAPO-34の製造)
・・・次の組成:
0.5(TEA)_(2)O:0.6SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):52H_(2)O
を有する反応混合物を調製した。この組成物を200℃にて自生圧力下に48時間結晶化させてSAPO-34を生成させ、・・・」

●[甲1-B](第33頁左上欄第18行?左下欄第9行)
「例35(SAPO-34の製造)
(a)81.7gのアルミニウムイソプロポキシド(Al(OC_(3)H_(7))_(3))を水104.9g中の85重量%オルト燐酸46.1gの溶液と攪拌しながら合することにより反応混合物を調製した。この混合物へ30重量%SiO_(2)の水性ゾル12gと水5gとを加え、混合物を均質になるまで攪拌した。この混合物へ40重量%水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)水溶液73.7gを加えた。1/2重量のこの混合物を36.8gの40%TEAOHと混合し、この混合物を均質になるまで攪拌した。最終反応混合物のモル酸化物比における組成は次の通りであつた:
(TEA)_(2):0.3SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):50.0H_(2)O。
この反応混合物を不活性プラスチツク材料(ポリテトラフルオロエチレン)でライニングされたステンレス鋼の圧力容器中に入れ、そしてオーブン内で200℃にて自生圧力下に120時間加熱した。固体反応生成物(SAPO-34)を遠心分離により回収し、水洗し、かつ100℃にて風乾させた。化学分析により、この生成物は10.5重量%C、1.6重量%N、34.1重量%Al_(2)O、39.2重量%P_(2)O_(5)、6.8重量%SiO_(2)及び19.1重量%LOI、からなることが確認され、これはモル酸化物比における次の生成物組成:
0.17(TEA)_(2)O:.33SiO_(2):Al_(2)O_(3):0.82P_(2)O_(5):0.40H_(2)O、を与え、これは式(無水基準):
0.09(TEA)・(Si_(0.08)Al_(0.51)P_(0.41))O_(2)
に相当する。上記生成物は例32におけるとほぼ同一のX線粉末回折パターンを有した。
(b)上記(a)の固体結晶質SAPO-34の1部を550℃にて2時間焼成した。」

●[甲1-C](第34頁右上欄?第35頁左上欄)
「例36(SAPO-34の製造)
・・・組成:
i-PrNH_(2):0.6SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):50H_(2)O
を有し、・・・この反応ゲルを200℃にて自生圧力下に51時間結晶化させた。
・・・
例37(SAPO-34の製造)
・・・酸化物のモル比として次の組成:
Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):0.6SiO_(2):0.5(TEA)_(2)O:1.5(Pr_(2)NH):50H_(2)O
を有する反応混合物・・・温浸しかつ200℃にて24時間結晶化させた後・・・
例38(SAPO-34の製造)
・・・
最終混合物の組成は次の通りであつた:
0.5(TEA)_(2)O:0.3Na_(2)O:1.3Al_(2)O_(3):0.6SiO_(2):P_(2)O_(5):60H_(2)O。
密封反応器中で200℃にて187時間結晶化させた後、・・・」

●[甲1-D](第35頁)
「例38(SAPO-34の製造)
・・・ここに記載した種類のSAPO-34はPO_(2)^(+)、AlO_(2)^(-)及びSiO_(2)四面体単位の三次元微孔質結晶骨格構造を有するシリコアルミノ燐酸塩物質であり、かつその主たる実験化学組成は合成されたままの形態及び無水基準において式:
mR:(Si_(x)Al_(y)P_(z))O_(2)
〔・・・〕
を有し、前記シリコアルミノ燐酸塩は第XI表に下記するd-間隔を少なくとも有する特性的X線粉末回折パターンを有する。

X線粉末回折データが現在得られている合成されたままのSAPO-34組成物の全ては下記第XII表の一般化パターン内にあるパターンを有する。



甲第4号証
●[甲4-A](第93頁 1. INTRODUCTION 左欄下から第2行?右欄第2行))
「Selective reduction of NO_(x) under an oxidizing atmosphere with hydrocarbons has attracted attention as a new process for the catalytic removal of NO_(x) in the exhaust gas of diesel or lean-burn engines (3-6).」
(訳)「炭化水素を有する酸化雰囲気下のNOxの選択的還元は、ディーゼルまたはリーンバーンエンジンの排気ガス中のNOxの触媒除去用の新たな方法として注目されている(3-6)。」

●[甲4-B](第93?94頁 2. EXPERIMENTAL Catalyst Preparationの項)
「SAPO-5, 11, and 34 (Si, Al and P contents: 1.77, 12.09, and 10.03 mmol g^(-1), respectively)・・・were synthesized according to U.S. patents (14, 15). To prepare SAPO-n, colloidal SiO_(2), Al compound [・・・, Al[OCH(CH_(3))_(2)]_(3) for SAPO-34], phosphoric acid (85%), and template amine (・・・10% tetraethylammonium hydroxide for SAPO-34) were mixed at room temperature for a few hours. The precursor of SAPO-n obtained in this way was heated (・・・483 K, 24 h for SAPO-34) in autoclaves (Taiatsu Glass TAF-150) in which all parts were coated with Teflon. The synthesized SAPO-n・・・were ion-exchanged with Cu^(2+) in a 0.01 M Cu^(2+) acetate aqueous solution. At the final stage of Cu ion exchange, ammonia water was added to adjust the pH to 7.5 to control the amount of Cu ion-exchanged. Exchanged amounts of Cu^(2+) for each type of SAPO-n,・・・were estimated to be about 3 wt% from ICP analysis.」
(訳)「SAPO-5、11、および34(Si、AlおよびPの含有量:それぞれ、1.77、12.09、10.03mmol g^(-1))・・・を、米国特許に従って合成した(14、15)。SAPO-nを準備するために、コロイド状のSiO_(2)、Al化合物[・・・SAPO-34用のAl[OCH(CH_(3))_(2)]_(3))]、リン酸(85%)、およびテンプレートアミン(・・・SAPO-34用の10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を、数時間室温で混合した。この方法で得られたSAPO-nの前駆体は、すべての部分がテフロンでコーティングされた加圧減菌器(耐圧硝子 TAF-150)で加熱した(・・・SAPO-34に対して483Kで24時間)。合成されたSAPO-n・・・は、0.01M Cu^(2+)酢酸水溶液でCu^(2+)を用いてイオン交換した。Cuイオン交換の最終段階で、pHを7.5に調整し、イオン交換されたCuの量を制御するためにアンモニア水を追加した。SAPO-n・・・に対するCu^(2+)の交換された量は、ICP分析から約3重量%であると推定された。」

●[甲4-C](第95頁 図2)


●[甲4-D](第96頁 3. RESULTS AND DISCUSSION Thermal Stability of Cu-SAPO-34の項 第1パラグラフ)
「Exhaust gases from engines contain humidity at high concentration. The influence of calcination in a humidified atmosphere on NO reduction activity is shown in Fig. 5. Although the activity of Cu-SAPO-34 to NO reduction was unaffected by the calcination up to 1073 K in a dry atmosphere, calcination at 1073 K in a humidified atmosphere decreased the activity for NO reduction.」
(訳)「エンジンからの排気ガスは、高濃度での湿気を含む。NO還元活性での加湿雰囲気における焼成の影響を図5に示す。NO還元に対するCu-SAPO-34の活性は、乾燥雰囲気における1073Kまでの焼成によって影響されなかったが、加湿雰囲気における1073Kでの焼成は、NO還元に対する活性を低減させた。」

●[甲4-E](第96頁 図5)

FIG. 5. Effects of heat treatment under an atmosphere containing 3 vol% H_(2)O on the activity for NO reduction with C_(3)H_(6) (P_(NO)=5000 ppm,P_(C3H6)=1000 ppm, P_(O2)=5%, W/F=0.3g・s cm^(-3)). (a) Cu-SAPO-34: (○) 773 K, (△) 973 K, (□) 1073 K. (b) Cu-ZSM-5: (●) 773 K, (▲) 973 K,(■) 1073 K.

●[甲4-F](第102頁 4. CONCLUSION)
「This study has revealed that Cu ion-exchanged SAPO-34 is promising as a thermostable catalyst for NO_(x) removal by hydrocarbons in an oxidizing atmosphere.」
(訳)「本研究は、Cuイオン交換したSAPO-34は、酸化雰囲気中の炭化水素によるNOxの除去用の熱安定性触媒として有望であることを明らかにした。」

●[甲4-G](第102頁 REFERENCES)
「14. Ciric, J., U.S. Patent 3972983 (1973)
15. Lok, B. M.,・・・U.S. Patent 4440871 (1984)」
(当審訳)「14.Ciricによる米国特許第3972983号(1973)
15.Lokらによる米国特許第4440871号(1984)」

甲第5号証
●[甲5-A](第2欄第38?50行)
「One embodiment of this invention is a method for treating an exhaust gas comprising NO_(x) and ammonia, said method comprising directing the exhaust gas along with a source of oxygen over a catalyst under treating conditions effective for the selective catalytic reduction of NO_(x) ; said catalyst comprising a molecular sieve which has been physically mixed with a metal and a binder or binder precursor under contacting conditions effective to produce a metal loading with reference to the molecular sieve of about 0.01 wt. % to about 5 wt. %; said binder or binder precursor comprising at least one selected from the group consisting of titania, zirconia, and silica; said catalyst having been finished in a humidified atmosphere.」
(訳)「本発明の1つの実施態様は、NOxとアンモニアを含む排気ガスを処理する方法であって、該方法は、NOxの選択的接触還元に有効な処理条件下で、排気ガスを酸素と共に触媒に移動させることを含み;当該触媒は、分子篩に対して約0.01重量%?約5重量%の金属充填量を生成するのに有効な接触条件下で、金属及びバインダー又はバインダー前駆体と物理的に混合された分子篩を含み;当該バインダー又はバインダー前駆体は、チタニア、ジルコニア、及びシリカから成る群から選択される少なくとも1つを含み;当該触媒は、加湿環境において処理された、該方法である。」

●[甲5-B](第6欄第50?65行)
「The molecular sieve useful in this invention・・・, in general, includes all・・・silicoaluminophosphates,・・・. ・・・Other molecular sieves contemplated include, for example,・・・SAPO-34,・・・.」
(訳)「本発明に有用な分子篩は、・・・一般に、全ての・・・シリコアルミノフォスフェート・・・が挙げられる。・・・他の検討される分子篩としては、例えば、・・・SAPO-34・・・が挙げられる。」

●[甲5-C](第9欄第30?36行)
「・・・Examples of these metals include at least one of copper,・・・」
(訳)「これら金属の例として、銅・・・が挙げられる。」

甲第6号証
●[甲6-A](第163頁右欄第16?20行)
「In 1990, one epoch-making result has been reported, which breaks through the deadlock in the removal of NO. It is the selective catalytic reduction of NO with hydrocarbons in an oxidizing atmosphere (HC-SCR).」
(訳)「1990年に、1つの画期的な結果が報告され、これはNOの除去におけるこう着状態を打ち破った。それは、酸化雰囲気中で炭化水素を用いたNOの選択的接触還元である(HC-SCR)。」

●[甲6-B](第164頁左欄第21?27行)
「Copper-containing zeolites are active in wider range of reactions of nitrogen monoxide such as・・・selective catalytic reduction of NO with ammonia [12-17],・・・and HC-SCR.」
(訳)「銅を含むゼオライトは、・・・アンモニアを用いたNOの選択的接触還元[12-17]、・・・及びHC-SCRなどの一酸化窒素の広範囲な反応で活性である。」

甲第7号証
●[甲7-A](特許請求の範囲)
「(1)排気ガス中のNO_(x)を酸化雰囲気中で除去するための触媒であって、結晶質シリコアルミノホスフェート多孔質担体と、該結晶質シリコアルミノホスフェート多孔質担体に担持した活性元素とからなることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。」

●[甲7-B](第2頁左下欄第1?4行)
「本第1発明に係る触媒は結晶質シリコアルミノホスフェートの固体酸性によりHC-NO_(x)反応を選択的に促進する。」

甲第9号証
●[甲9-A](第8節)
(訳)「I.調製
試験-1:Takewaki特許出願の実施例2に記載されている手順に則り、試料1(SAPO-34)を調製した。
水180gに85%リン酸87.1gを加え、これに擬ベーマイト(25%水含有、Sasol製)57.2gをゆっくりと加え、混合物を3時間攪拌した。これをA液とした。A液とは別に、fumedシリカ(アエロジル200)5.04g、モルホリン36.6g、及び水240gを混合した液を調製した。これをA液にゆっくりと加えた。さらにトリエチルアミン47.0gを加え、これを3時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。
0.2SiO_(2):Al_(2)O_(3):0.9P_(2)O_(5):1モルホリン:1.1トリエチルアミン:60H_(2)O
こうして得られた混合物をフッ素樹脂内筒の入った1Lのステンレス製オートクレーブに仕込み、100rpmで攪拌しながら190℃で60時間反応させた。反応後、混合物を冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、100℃で乾燥した。
こうして得られたゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造であることが分かった。その後、560℃で空気気流下焼成を行い、テンプレートを除去したゼオライトを加熱し、塩酸水溶液中に溶解し、ICP分析により元素分析を行った。その結果、ケイ素とアルミニウムとリンの合計に対する各成分の構成割合(モル比)は、ケイ素が7.3%、アルミニウムが49.1%、リンが43.6%であった。」

●[甲9-B](表1)


●[甲9-C](図1)


甲第10号証
●[甲10-A]
「【0011】
通常、8員環SAPOを合成する場合、水熱処理する混合物を下式(1)に示す組成式で表わして、使用する鋳型剤Rの量は、混合物中のAl_(2)O_(3)のモル数に対して1?3倍量(a/c=1?3)用いるのが一般的である。
aR,bSiO_(2),cAl_(2)O_(3),dP_(2)O_(5),eH_(2)O ・・・・ 式(1)
【0012】
8員環SAPOの合成に用いられている鋳型剤の使用量について、種々の特許、文献を調べたところ、純粋で結晶化度の高いシャバサイト型の8員環SAPOを得るために、鋳型剤は少なくとも水熱処理をする混合物中のAl_(2)O_(3)のモル数に対して1倍量以上が用いられており、それより少ない場合、International Zeolite Association(IZA)が定めているIUPAC構造コードで表してAFI型に帰属される構造体(SAPO-5)やリン酸アルミニウムクリストバライト、ベルリナイトなどが不純物として存在するようになることが述べられている。
【0013】
水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)を鋳型剤に用いたSAPO-34の合成法について述べられた文献があり(例えば、非特許文献1参照)、純粋なSAPO-34はTEAOH/Al_(2)O_(3)のモル比が2?3の範囲で生成し、1?2の範囲ではSAPO-5が、1以下では高密度相が生成することが記載されている。そして3以上のTEAOHを用いると、非結晶のアモルファス構造を有する粒子が生成することが記載されている。」

●[甲10-B]
「【0064】
本発明の8員環SAPOは、そのまま、圧縮成型、打錠成型又は押し出し成型して、メタノールとアンモニアとの反応、メタノールとモノメチルアミンの反応、或いはモノメチルアミンの不均化反応の触媒として使用される。また、メタノールからの低級オレフィン類の製造(MTO反応)など他の触媒反応へ適用することも可能である。」

●[甲10-C]
「【0067】
1.8員環SAPOの合成(鋳型剤使用量及び水熱処理条件との関係)
・・・
実施例1
85wt%リン酸(46.12g)と純水(191.16g)の均一な混合物を30℃以下に冷却し、これに擬ベーマイト(26.32g:SASOL GERMANY GmbH,PURAL SB,Al_(2)O_(3)含有量77.5%)を撹拌しながら添加した。この混合物を30分間攪拌した後、35wt%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液(79.94g)を30℃以下に冷却および攪拌しながら添加した。この混合物を1時間撹拌した後、シリカゾル(18.04g:日産化学工業株式会社,スノーテックスN,SiO_(2)含有量20wt%)を添加し更に30分間撹拌した。この混合物のモル酸化物比における組成は次の通りであった:0.95TEAOH:1.0Al_(2)O_(3):1.0P_(2)O_(5):0.3SiO_(2):75H_(2)O(TEAOHは水酸化テトラエチルアンモニウムを表す)。得られた混合物を内容積0.6Lのステンレス製オートクレーブ中、400rpmで撹拌しながら水熱処理した。水熱処理は、第1工程として、内容物の温度で、25℃から170℃までを25℃/hで昇温し、第1工程の結晶化工程の一部と第2工程として170℃で35時間保持して行った。水熱処理時の圧力は自生圧とした。室温まで冷却した後、オートクレーブを開け、生成スラリーを遠心分離して沈殿を得た。得られた沈殿を200mlの純水で3回、洗浄・遠心分離したのち、80℃で12h乾燥した。更に空気気流下、600℃で4時間焼成して、白色粉末(40.35g)を得た。触媒収率は77%であった。この粉末はX線回折の結果、純粋なシャバサイト型構造を有する8員環SAPOであり、AFI型構造体、JCPDS番号20-0045化合物のピークは見られなかった。結晶化度は良好で、1.00であった。粒子性状は、立方体状の結晶であり、大きさ、形とも良く揃っていた。平均粒子径は、1.8μmであった。」

甲第11号証
●[甲11-A](第7節)
「I.調製
【試験-1】:Higuchi特許出願の実施例1に記載されている手順に則り、試料1(SAPO-34)を調製した。
水10.49gに85%リン酸2.54gを加え、これに擬ベーマイト(25%水含有、Sasol製)1.50gをゆっくりと加え、混合物を30分攪拌した。これに、35重量%の水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)4.40gを加え、1時間撹拌した。さらにスノーテックスN(79.5%水含有、日産化学工業製)を加え、これを30分攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。
0.3SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):0.95TEAOH:75H_(2)O
こうして得られた混合物をフッ素樹脂内筒の入った100mlのステンレス製オートクレーブに仕込み、15rpmでオートクレーブを回転しながら170℃まで25℃/hで昇温した後に35時間反応させた。反応後、混合物を冷却して沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、100℃で乾燥した。
こうして得られたゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造であることが分かった。その後、600℃で空気気流下焼成を行い、テンプレートを除去したゼオライトをXRF分析により元素分析を行った。その結果、ケイ素とアルミニウムとリンの合計に対する各成分の構成割合(モル比)は、ケイ素が7.7%、アルミニウムが48.2%、リンが44.1%であった。
また、SAPO-34はPO_(2)^(+)、AlO_(2)^(-)、およびSiO_(2)より構成されていることに鑑み、SiO_(2)の重量に換算すると7.6重量%となる。」

●[甲11-B](表1)


甲第12号証
●[甲12-A]
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、骨格にSi,Al,Pを含むゼオライト(以下SAPOと言う)の製造方法、該製造方法により得られるゼオライト及び該ゼオライトを含む水蒸気吸着材に関する。」

●[甲12-B]
「【0031】・・・
実施例2
水180gに85%リン酸87.1gを加え、これに擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)57.2gをゆっくりと加え、3時間攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)5.04g、モルホリン36.6g、水240gを混合した液を調製した。これをA液にゆっくりと加えた。さらにトリエチルアミン47.0gを加え、これを3時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。0.2SiO_(2):Al_(2)O_(3):0.9P_(2)O_(5):1モルホリン:1.1トリエチルアミン:60H_(2)Oこうして得られた混合物をフッ素樹脂内筒の入った1lのステンレス製オートクレーブに仕込み、100rpmで攪拌しながら190℃で60時間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、120℃で乾燥した。
【0032】こうして得られたゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造であった。XRDの測定結果を図2に示す。その後、560℃で空気気流下焼成を行いテンプレートを除去したゼオライトを塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行った。その結果、ケイ素とアルミニウムとリンの合計に対する各成分の構成割合(モル比)は、ケイ素が7.9%、アルミニウムが48.7%、リンが43.3%であった。」

●[甲12-C]
「【0038】
【発明の効果】本発明により、安価なテンプレートを用い、Si含有量をコントロールできるシリコアルミノフォスフェートを製造する事が可能となる。このようなゼオライトは工業的に所望な触媒や吸着材に広く使用する事ができる。例えば、水吸着材とし、特殊な吸着性能を示すものが安価で製造可能となる。」

●[甲12-D](【図2】)


甲第13号証
●[甲13-A](第420頁左欄第13?15行)
「Zeolite based catalysis may be prone to stability problems when exposed to high temperatures in the presence of water vapor.」
(訳)「ゼオライト系の触媒は、高温、水蒸気存在下に暴露されたときに、熱安定性が問題となる傾向がある。」

●[甲13-B](第451頁左欄第15?21行)
「For the purpose of catalyst development and comparison of thermal stability between catalyst formulations, oven aging is commonly used by catalyst manufacturers. Oven aging of diesel formulation is typically performed over a number hours at elevated temperature - typically between 600 and 900℃ - in a controlled atmosphere containing oxygen and usually about 10% water vapor.」
(訳)「触媒の開発及び触媒処方間での熱安定性の比較の目的で、オーブンエージング(老化)が触媒製造者により一般的に使用されている。ディーゼル方式のオーブンエージングは、通常、酸素と通常水蒸気約10%を含む制御された空気中で、高温-典型的には600℃と900℃の間で、数時間行われる。」

甲第14号証
●[甲14-A](第47頁左欄最下行?右欄第3行)
「Consequently, achieving hydrothermal stability of the catalyst is a critical issue in the commercial application of urea SCR technology to the exhaust stream from diesel engines.」
(訳)「従って、触媒の水熱安定性を達成することは、ディーゼルエンジンから排気流への尿素SCR技術の商業的応用における重要な問題である。」

●[甲14-B](第48頁右欄第14?17行)
「To investigate the hydrothermal stability of CuZSM5, the catalyst samples were sintered under a simulated feed gas stream containing 10% H_(2)O in air balance with a flow rate of 500 cc/min at 600, 700, and 800℃ for 24 h.」
(訳)「CuZSM5の水熱安定性を評価するため、触媒試料を、10%のH_(2)Oを含有し残部が空気である人工の供給ガス流れ下、流速500cc/分で、600、700、及び800℃で24時間焼結させた。」
(当審注:下線部は翻訳文の誤記と認められるので、当審において修正している。)

甲第15号証
●[甲15-A](第218頁左欄第15?23行)
「The limited hydrothermal stability of zeolites may restrict their use, and therefore also the hydrothermal stability of catalysts was examined. In addition, the effect of NO_(2) in the gas feed as well as acidity of the catalysts for the SCR activity was investigated. The adsorption and desorption experiments of ammonia were used to study the acidity of fresh and aged zeolite catalysts and the influence of the acidity on the activity of zeolite catalysts.」
(訳)「ゼオライトはその限られた水熱安定性のために用途が制限され得、従って、触媒の水熱安定性を評価した。更に、ガス流れ中のNO_(2)の効果とSCR活性用の触媒の酸性度を調べた。新鮮なゼオライト及び老化したゼオライトの酸性度及びゼオライト触媒の活性に対する酸性度の影響を調べるためにアンモニアの吸着及び脱着実験を行った。」

●[甲15-B](第218頁右欄第8?10行)
「The catalysts were aged for 20 h at 600℃ in hydrothermal conditions (10% H_(2)O in air) to evaluate the durability.」
(訳)「触媒を水熱条件(空気中10%H_(2)O)において600℃で20時間老化させて耐久性を評価した。」

●[甲15-C](第222頁左欄第14?17行)
「The results allow us to conclude that in SCR reaction of NO with NH_(3), there is no doubt that the acidic function of the catalyst is one of the main factors which control the high activity.」
(訳)「これらの結果から、NH_(3)によるNOのSCR反応では、触媒の酸性度が高活性を調整する主要因のひとつであることは疑いないことが結論づけできる。」

●[甲15-D](第222頁右欄第6?7行)
「The higher the acidity retains, the better the hydrothermal stability for the SCR activity.」
(訳)「酸性度が水熱老化後により高く残存しているほど、SCR活性に対して水熱安定性が良好になる。」

甲第16号証
●[甲16-A](第5節)
(訳)「I.調製
純粋なSAPO-CHAを製造するためには、反応混合物中の水の量、室温から結晶化温度までの加熱速度、及び結晶化の間の撹拌速度についての知識が必要となる。しかしながら、これらの特徴は対象特許には開示されていない。本宣誓供述書での試料の調製は、表1に記載の合成条件に則り行った。これらの条件はSAPO-CHA合成に一般的なものである。

対象特許の実施例1に記載の手順に則り、試料1-1を調製した。
201.1gの水に85%のリン酸92.2gを加え、擬ベーマイト(水25%含有、Sasol製)54.4gをゆっくり加え、混合物を30分間撹拌した。この混合物に30重量%コロイドSiO_(2)(Ludox LS)32.3gを加え、35重量%の水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)168.1gを更に添加し、混合物を30分間撹拌して以下の組成の水性ゲルを得た。
0.4SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):TEAOH:50H_(2)O
得られた混合物をフッ素樹脂内筒の入った1lのステンレス製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブを1.7℃/分の速度で室温から100℃まで、0.28℃/分の速度で100℃から150℃まで加熱した。100rpmで撹拌しながら、150℃で60時間結晶化を行った。反応後、混合物を冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、100℃で乾燥した。
・・・
対象特許の実施例2に記載の手順に則り、試料2-1を調製した。
227.1gの水に85%のリン酸92.3gを加え、擬ベーマイト(水25%含有、Sasol製)54.4gをゆっくり加え、混合物を30分間撹拌した。この混合物に40重量%コロイドSiO_(2)(Ludox AS-40)36.1gを加え、12.0gの水、35重量%の水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)117.6gを更に添加し、混合物を30分間撹拌して以下の組成の水性ゲルを得た。
0.6SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):0.7TEAOH:50H_(2)O
得られた混合物をフッ素樹脂内筒の入った1lのステンレス製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブを1.7℃/分の速度で室温から100℃まで、0.44℃/分の速度で100℃から180℃まで加熱した。100rpmで撹拌しながら、180℃で12時間結晶化を行った。反応後、混合物を冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、100℃で乾燥した。」

●[甲16-B](【表1】;訳)


●[甲16-C](第6節)
(訳)「6.上の表及び図で示されるように、対象特許に則って化合物を製造することを試みたところ、いずれもAFI及びCHA相の混合物が得られ、純粋なSAPO-CHAを得ることはできなかった。」

甲第17号証
●[甲17-A](第172頁第5?6行)
「プロトン交換ゼオライトは代表的な固体酸であり,酸化還元反応に用いられた研究例はほとんどない。」

甲第18号証
●[甲18-A](3.2 NH_(3)-SCR performance 第1パラグラフ)
「・・・The maximum NO conversion did not exceed 14% over the H-SAPO-34 sample.」
(訳)「H-SAPO-34の試料では、NOの最大転化率が14%を超えなかった。」

甲第19号証
●[甲19-A](第1757頁 IV Conclusions and Recommendations)
「2. No experimental method provides the absolute value of parameters such as porosity, surface area, pore-size, surface roughness : each gives a characteristic value which depends on the principles involved and the nature of the probe used (atom or molecule, radiation wavelength ...). One cannot speak of the surface area of an adsorbent but, instead, of its "BET-nitrogen surface area", "equivalent BET-nitrogen surface area", modified HJ-calorimetric surface area, cumulative water thermoporometry surface area etc...」
(訳)「2.細孔体積、表面積、細孔径、表面粗さなどのパラメータの絶対値を与える実験方法はない:各々は、関係する原理及び使用されるプローブの特性(原子又は分子、照射波長・・・)に依存した特性値を与える。吸着剤の表面積とは言うことはできず、その代わりに、吸着剤の「BET-窒素表面積」、「等価BET-窒素表面積」、修正HJ-熱量表面積、累積水熱ポロメトリー表面積などと言うことができる。」

甲第20号証
●[甲20-A](第952頁第39?41行)
「The catalytic reduction processes employing NH_(3), CO, or hydrocarbon reductants on TiO_(2)(-V_(2)O_(5))-WO_(3) or Pt-Pd(-Rh) catalysts have been put to practical use.」
(訳)「NH_(3)、CO又は炭化水素の還元剤を使用するTiO_(2)(-V_(2)O_(5))-WO_(3)やPt-Pd(-Rh)の触媒の接触還元法が実用的に使用されている。」

●[甲20-B](第953頁第21?26行)
「In 1990, a breakthrough in NO removal was reported concerning the selective catalytic reduction of NO with hydrocarbons in an oxidizing atomosphere (HC-SCR).・・・This novel HC-SCR process was first reported on copper ion-exchanged zeolites by Iwamoto et al. (17) and by Held et al. (18) independently.」
(訳)「1990年に、酸化雰囲気中で炭化水素を用いるNOの選択的接触還元(HC-SCR)に関してNO除去に飛躍的進歩が報告された。・・・この新規なHC-SCR法は、初めて、イワモトら(17)とヘルドら(18)による銅イオン交換したゼオライトに対して別々に報告された。」

甲第21号証
●[甲21-A]
「【0048】実施例4
(SAPO-34のCu交換体の調製)実施例3で調製したSAPO-34を10g採り、塩化第二銅4gを用いて調製した銅アンミン錯塩水溶液200mlに攪拌しながら一夜浸漬してCuイオン交換を行わせた。生成した交換体は、水洗、乾燥後、500℃で3時間空気中焼成した。このCu交換体の化学組成は、Si,Al,P,Cu夫々8.7,18.0,17.0,6.3wt%であった。
【0049】(NOxの除去反応)上記のようにして調製したCu交換体触媒を用い、1000ppmのNOと300ppmのプロピレンと10%の酸素を含むHe混合ガスを使用する以外は、実施例1と同様にしてNOの還元分解率を調べた。この結果を表1の1に併せて示した。」

●[甲21-B]
「【0075】
【表1の1】



甲第22号証
●[甲22-A](第418頁右欄第21行?最終行)
「The selective catalytic reduction of NO_(x) with ammonia was first discovered over a platinum catalyst.・・・A comparison of the operating temperature ranges for various catalyst technologies available for SCR NO_(x) [54] is shown in Figure 19.13.」
(当審訳)「アンモニアを用いたNOxの選択的触媒還元は、始めにプラチナ触媒で発見された。・・・NOxのSCRに利用できるさまざまな触媒の操作温度の比較を、図19.13に示した。」

●[甲22-B](図19.13)


●[甲22-C](図19.20)


甲第24号証
●[甲24-A](図1)


●[甲24-B](第182頁第6?9行)
「Cu-SAPO-34はCu-ZSM-5に比べ,N_(2)への転化率は高くなった.特に,400?600℃の温度域ではほぼ等しい転化率を示している.実用触媒としては広い温度域で反応活性であることが要求されるのでCu-SAPO-34の優位性がわかる.この高い活性は数百時間の反応時間が経過しても低下することがない.」

甲第30号証
●[甲30-A]([0042])
「・・・排気ガス電気式処理装置51の上流側に、NOx還元触媒コンバータ53のNOx還元触媒の種類に応じたNOx還元剤の添加装置54を配置し、該添加装置54によりNOx還元剤である燃料やその他の炭化水素、尿素水を排気ガス中に適宜添加できるようにしたものである。
・・・
なお、NOx還元触媒としては、Cu-SAPO-34(シリコンアルミノホスフェート)やCu-ZMS-5(銅イオン交換ゼオライト)等を用いる。また、NOx触媒としては、公知の尿素水を還元剤として用いるNOx還元触媒あるいはNOx吸蔵還元触媒を用いることができる。」

甲第31号証
●[甲31-A](第5?8節)
(訳)「5.私は、甲第9号証等の執筆時以前に、酸素雰囲気下での窒素酸化物の選択的還元(以下、「NOのSCR」という。)において、還元剤としてアンモニアや尿素を用いることが当業者の間で周知であったことを陳述する。
・・・少なくとも特許第4889807号及び特許第5762816号の優先日前において、HC-SCR法で適用可能な触媒をNH_(3)-SCR法で適用できないとする技術的根拠は見当たらなかったことを私は陳述する。

6.私は、甲9号証等の「4.結論」において、SAPO-34の有用な応用の1つは熱安定性触媒であり、NOのSCRに対して高活性を有する熱安定性触媒は、NO_(x)の除去用の触媒の開発に重要である(102頁左欄「4.結論」の5?9行目)と記述している。
これは甲第9号証等に記載のCu-SAPO-34が高い熱安定性を有する触媒であり、甲第9号証等で実証した炭化水素のみならず、他の還元剤(アンモニアや尿素)を使用したNOxの除去用触媒としてもCu-SAPO-34が応用できることを意味することを陳述する。

7.私は、甲第9号証等に記載した、Cu-ZSM-5よりもNOのSCRに対してより高い活性を示し、かつ、加湿雰囲気におけるNOのSCRに対する活性の減少がCu-ZSM-5よりも小さいCu-SAPO-34は、少なくとも特許第4889807号及び特許第5762816号の優先日前において、酸化雰囲気中のアンモニア又は尿素によるNO_(x)の除去用の触媒としても当然に応用できたであろうことを陳述する。
その理由は、前述のとおりアンモニア及び尿素が炭化水素よりも還元力が高いため、還元剤として炭化水素を用いるNOのSCRにおいて高い活性を有する触媒であれば、還元剤としてアンモニア又は尿素を用いるNOのSCRにおいても同様に高い活性を示し、また、還元剤の違いによるNOのSCRでのCu-SAPO-34の加湿雰囲気での熱安定性(水熱安定性)への影響は、還元剤として炭化水素を用いた場合と、アンモニア又は尿素を用いた場合とでは大差はなく、さらに、還元剤としてアンモニア又は尿素を用いたCu-ZSM-5のSCRは、Cuイオン及び固体酸点を活性点として進行すると報告されているが、Cu-SAPO-34もCuイオン及び固体酸点を有し、ほぼ同じ反応機構でアンモニア又は尿素によるNOのSCRが生じると考えられるからである。

8.以上のとおり、私は、・・・甲第9号証等に記載された内容に接した当業者であれば、甲第9号証等に記載されているCu-SAPO-34を還元剤としてアンモニア又は尿素を用いたNO_(x)のSCR用の触媒として使用することを着想するのに何ら困難性はないことを陳述する。」
(当審注:上記「甲第9号証」は、無効2015-800146号(特許第4889807号)におけるものであり、請求人による平成28年10月6日付けの証拠説明書2に記載のとおり、本件では「甲第4号証」に相当する。)

甲第32号証
●[甲32-A](第9節)
(訳)「I.調製
E3(SAPO-34)は、Ishihara文献の触媒調製に記載される手順に従って調製した。
水1.767gにリン酸1.983gを加え、これにアルミニウムイソプロポキシド3.509gを加え、その混合物を3時間攪拌した。次いで、これにコロイダルシリカ(Ludox^((R))LS30)0.516gを加え、30分間攪拌した。最後に、先の混合物にテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)(35重量%水溶液)7.225gを加えた。更に30分攪拌し、以下の組成を有する最終合成ゲルを得た:
0.3SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):(TEA)_(2)O:50.0H_(2)O
23mlのテフロンでライニングされたオートクレーブに上記合成ゲルを移し、静的条件下、210℃にて24時間水熱処理を施した。水熱処理後、そのオートクレーブを冷却し、内部の生成物を集めて分けた。固相の生成物を慎重に洗浄し、80℃で一晩乾燥させて、E3試料を得た。
XRD測定では、E3試料はCHA構造であることが示された。その後、空気蒸気下での焼成を550℃で6時間行い、有機構造制御剤を除去し、得られた試料をE3-calとした。AES-ICP解析を行い、E3-calの化学組成を測定した。その結果、ケイ素、アルミニウム及びリンの合計に対する各成分の構成比(モル比)はそれぞれ8.4%、48.9%及び42.7%であった。
銅イオン交換した試料(Cu-SAPO-34)はIshihara文献の実験項に記載のものと同様な手順で調製した。
まず、以下の手順でアンモニウムイオン交換を行った。1mol/LのNH_(4)NO_(3)溶液60g中にE3-cal試料2.3gを分散させてスラリーを得、次いで、温度が予め80℃に設定されたオーブンに8時間置かれた。その後、スラリーをろ過し、固体の沈殿物を慎重に洗浄し、80℃にて一晩乾燥させた。これらの手順を再度繰り返し行い、SAPO-34のNH_(4)-型を得た。
次いで、銅イオン交換を以下の通り行った。酢酸銅溶液(3重量%)20ml中に2.0gのNH_(4)-型SAPO-34を分散させ、このスラリーを攪拌しながら70℃で30分間加熱した。次いで、スラリーをろ過し、固体の沈殿物を慎重に洗浄し、80℃にて一晩乾燥させた。その後、乾燥沈殿物を更に550℃で3時間焼成して、最終的なSAPO-34のCu-型(Cu-SAPO-34)を得た。これをE3-Cu-型とする。」
(当審注:(R)はRの囲み文字である。)

甲第33号証
●[甲33-A](第443頁第18?23行)
「・・・This section will provide a description of the acidity of zeolites characterized by probing molecules.
Acid sites and their properties are most efficiently analyzed at a molecular level by suitably selected probe molecules. Ammonia, pyridine, and less basic molecules (e.g., CO, benzene, alkanes, C_(2)Cl_(4), H_(2), and N_(2)) are often used to probe acid sites of zeolites. The spectral properties of different probes are briefly described as follows.」
(訳)「・・・本セクションではプローブ分子によって特徴付けられるゼオライトの酸性について記述する。
酸性部位およびそれらの特性は、適切に選択したプローブ分子によって分子レベルで最も効率的に分析される。アンモニア、ピリジン、およびより塩基性の低い分子(例えば、CO、ベンゼン、アルカン、C_(2)Cl_(4)、H_(2)、およびN_(2)など)はゼオライトの酸性部位を探索するのにしばしば使用される。異なるプローブの分光学的特性を以下に簡単に記述する。」

●[甲33-B](第443頁第37行?末尾)
「b. Aliphatic Amines
・・・The most frequently used molecule is n-butylamine.・・・Since the kinetic diameter of aliphatic amines can be varied by choosing different alkyl groups, the accessibility of acid sites can be probed by selecting a series of amines with varied molecular size (122).」
(訳)「b.脂肪族アミン
・・・最も頻繁に使用される分子はn-ブチルアミンである。・・・脂肪族アミンの動的直径は異なるアルキル基を選択することによって変動するので、異なる分子サイズを有する一連のアミンを選択することによって、酸性部位の到達可能性が探索できる(122)。」

甲第38号証
●[甲38-A](第5節)
(訳)「I.調製
E2(SAPO-34)は、対象特許の実施例2に記載される手順に従って調製した。
水5.828gにリン酸2.709gを加え、更に擬ベーマイト(25重量%水含有、Sasol製)1.598gを加えた。次いで、これにコロイダルシリカ(Ludox^((R))LS30)1.410gを加えた。最後に、先の混合物にテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)(35重量%水溶液)3.454gを加えた。更に30分攪拌し、以下の組成を有する最終混合物を得た:
0.35(TEA)_(2)O:0.6SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):50H_(2)O
23mlのテフロンでライニングされたオートクレーブに合成ゲルを移し、静的条件下、180℃にて12時間水熱処理を施した。水熱処理後、そのオートクレーブを冷却し、内部の生成物を集めて分けた。固相の生成物を慎重に洗浄し、80℃で一晩乾燥させて、E2試料を得た。」
(当審注:(R)はRの囲み文字である。)

●[甲38-B](図2)


●[甲38-C](第6節)
(訳)「6,上記の図に示されるように、対象特許に従ってE2試料を作製する試みはAFI相及びCHA相の混合物をもたらし、そのほとんどがAFI構造であった。純粋なSAPO-34-CHAを得ることはできなかった。」

甲第39号証
●[甲39-A](第5節)
(訳)「I.調製
E6試料は、対象特許の実施例2に記載される手順に従って調製した。
リン酸2.709g、擬ベーマイト(25重量%水含有、Sasol製)1.598g、コロイダルシリカ(Ludox^((R))LS30)1.410g、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)(35重量%水溶液)3.454g、及び水5.828gに一緒に混合し、ゲルを形成させた。そのゲルを室温にて30分攪拌し、以下の組成を有する最終混合物を得た:
0.35(TEA)_(2)O:0.6SiO_(2):Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):50H_(2)O
23mlのテフロンでライニングされたオートクレーブに合成ゲルを移し、静的条件下、180℃にて12時間水熱処理を施した。水熱処理後、そのオートクレーブを冷却し、内部の生成物を集めて分けた。固相の生成物を慎重に洗浄し、80℃で一晩乾燥させて、E6試料を得た。」
(当審注:(R)はRの囲み文字である。)

●[甲39-B](図2)


●[甲39-C](第6節)
(訳)「6,上記の図に示されるように、対象特許に従ってE6試料を作製する試みは、E2試料と同様に、AFI相及びCHA相の混合物をもたらし、そのほとんどがAFI構造であり、純粋なSAPO-34-CHAを得ることはできなかった。」

甲第41号証
●[甲41-A](第40頁第4行)
「5.2.1 Thermostable NO Reduction Catalyst with Hydrocarbon」
(当審訳)「5.2.1 炭化水素を用いたNO還元触媒の熱安定性」

●[甲41-B](第40頁第4?7行)
「At present, it is well-known that nitrogen oxides formed in vehicles with gasoline engines and large-scale industrial plants are removed with three-way catalysts and selective reduction with NH_(3), respectively.」
(訳)「現在、ガソリンエンジン自動車及び大型産業用プラントで生成される酸化窒素は、三元系触媒及びNH_(3)を用いた選択的還元により除去されることは周知である。」

●[甲41-C](第42頁第36?37行)
「The thermal stability of Cu-SAPO-34 thus appears to be adequate for automotive exhaust gases.」
(訳)「従って、Cu-SAPO-34の熱安定性は自動車排ガスに適しているようである。」

乙第7号証
●[乙7-A](第5欄第12?16行)
「The crystal size can be determined by procedures known to persons skilled in the art. One method of determining crystal size is Scanning Electron Microscopy (SEM) of representative samples of crystals.」
(訳)「結晶サイズは当業者に既知の手順により決定することができる。結晶サイズを決定する一方法は、結晶の代表的試料の走査電子顕微鏡(SEM)である。」

乙9号証
●[乙9-A](第9節 II. TESTING PROCEDURE)
(訳)「表面積:以下の手順を用いて、それぞれ再現されたSAPO-34試料についての表面積特性を老化前後において決定した。パーセント値で示される表面積保持率は、新鮮材料に対する老化材料の表面積の比である。SAPO-34材料の表面積は、当分野において当業者によく知られたBET法に従う窒素ガス吸着法を用いて計測した。特に、ここに示した表面積データは、市販のQuantachrome Autosorbユニットで相対圧力(P/P_(0))から0.01および0.05の間で液体窒素温度にて収集した。
マイクロ細孔体積:以下の手順を用いて、それぞれ再現されたSAPO-34試料についての細孔体積特性を老化前後において決定した。表面積測定と同時に収集した窒素吸着データを用いて、当業者によく知られた、いわゆるt-プロット法を用いてマイクロ細孔体積を計算した。」

乙第11号証
●[乙11-A](V. ZEOLITE CHARACTERIZATION 第2パラグラフ)
「Scanning electron microscopy (SEM) is the method of choice for determining the size and morphology of zeolite crystallites. High-resolution transmission electron microscopy has been extensively used to study intergrowth fault planes and stacking faults and recently for structural analysis (27).」
(訳)「走査型電子顕微鏡(SEM)は、ゼオライト結晶の寸法及び形態を決定するための選択の方法である。高解像度透過型電子顕微鏡は、連晶断層面および積層断層を研究するために、および最近では構造分析のために広く用いられている(27)。」

乙第12号証
●[乙12-A](第592頁右欄下から第3行?第593頁左欄第12行)
「6. Future Trends
In addition to being able to cope with the structure determination of beam-sensitive micro- and mesoporous materials by the various methods described above, many other developments in electron microscopy now underway are likely to contribute to further structural and physicochemical elucidation. Prominent among these are the following:
・・・
(c) combined HR(S)TEM and low-voltage scanning electron microscopy (SEM) for surface analysis;」
(訳)「6.将来動向
上記の種々の方法によりビーム官能性マイクロ多孔質およびメソ多孔質物質の構造的決定に対処できることに加えて、多くの他の開発が、現在用いられている電子顕微鏡において、更なる構造的および物理化学的解明に寄与できる可能性がある。これらの中でも顕著なものは以下である:
・・・
(c)表面分析のための低電圧走査型電子顕微鏡(SEM)と組み合わさったHR(S)TEM;」

乙第13号証
●[乙13-A](第196頁第38?45行)
「3.1. Static characterization methods
Scanning electron microscopy (SEM), coupled with energy dispersive X-ray analysis, is the most classical method used to study zeolite membranes. It gives access to the homogeneity, morphology, adhesion, infiltration and thickness of the zeolite layer. Crystal sizes can be also evaluated (the length of crystal boundaries influences the permeation properties). HR-TEM and coupled analysis are useful to study the zeolite structure and composition, also within the pores of the support [109].」
(訳)「3.1 静的特徴評価法
エネルギー分散X線分析と結びついた走査型電子顕微鏡(SEM)は、ゼオライト膜を研究するための最も古典的な方法である。ゼオライト層の均一性、形態、接着性、侵入性及び厚みへ接近できる。結晶寸法もまた評価することができる(結晶境界の長さは透過性について影響を及ぼす)。HR-TEMと連結した分析は、支持体の細孔内においてもまた、ゼオライト構造および組成物を研究するために有用である。」

乙第14号証
●[乙14-A]([0142])
「The particle size of zeolite as referred to in the invention means the mean value of the primary particle diameter of arbitrarily-selected, 10 to 30 zeolite particles in observation of zeolite with an electron microscope; and the particle size is generally at least 1 μm, preferably at least 2 μm, more preferably at least 3 μm, and is generally at most 15 μm, preferably at most 10 μm.」
(訳)「本発明のゼオライトの粒度は、電子顕微鏡でのゼオライトの観察において任意に選択される10?30個のゼオライト粒子の一次粒子径の平均値を意味し、その粒度は一般に、小さくとも1μm、好ましくは小さくとも2μm、より好ましくは小さくとも3μmであり、一般に大きくとも15μm、好ましくは大きくとも10μmである。」

乙第15号証
●[乙15-A](第24節)
(訳)「24.請求項に記載される結晶寸法は周知技術の走査型電子顕微鏡法を用いて測定した。実施例1および2で得られた結晶のSEM写真を得た。これらの測定可能な結晶の各々は、(例えば、明瞭な稜線を有する結晶は、その最長軸の差し渡しを測定することが可能である。)最長軸の差し渡し長さで0.3ミクロン(赤線で示す)を有する。実施例2のSEMについていかに示すように、小さめの結晶ひとつひとつ全てが、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有している。他の測定可能な結晶はいずれも上記測定した結晶よりも大きく、かくして、これらも0.3ミクロンを超える。」

乙第16号証
●[乙16-A](第10?13節)
(訳)「10.Li特許は実施例1(1.0μmの中サイズの微結晶)と実施例2(1.4μmの平均的なサイズの微結晶)並びに比較例1(0.2μm未満の小サイズの微結晶)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。本発明による実施例の微結晶の平均的な大きさを知ることにより、当業者は、水の役割と具体的にはSAPO-34の合成用のH_(2)O:Si比とその結晶寸法への影響に関して明確なガイダンスが提供されている米国特許6,696,032号(・・・以下「’032B2米国特許」と称する)のような公報に目を向けた。Katz乙第1号証として添付する。’032B2米国特許の実施例1と実施例2における合成の混合物の組成は水とシリコンの量において異なる。H_(2)O:Si比を実施例1の125から実施例2の133.3に増大することによりSiの希釈が増大されると平均SAPO-34結晶寸法における減少が、粉末X線回折データに基づいてシェラーの式を用いて計算するとそれぞれ50nmから36nmへ観察される。同傾向はそれより前に公開されたWO01/36328(・・・)でも言及された:「合成混合物中のシリコン濃度の減少が直径を減少した。」Katz乙第2号証として添付する。
11.実際にWO01/36328では「合成混合中のシリコンの濃度を変化させることにより回転楕円体粒子の寸法が調整可能であることが発見された。合成混合中のシリコンの濃度が増大するにつれ、回転楕円体粒子の直径が増大する。同様に反応混合中の含有シリコンが減少するにつれ回転楕円体粒子の直径が減少する。」と記載されている。・・・WO01/36328ではH_(2)O:Si比が・・・減少するにつれ、SAPO-34の平均結晶寸法の増大傾向が・・・認められた。
12.H_(2)O:Si比がどのようにSAPO-34結晶寸法に影響を及ぼすかについての上記傾向は更に、2014年3月17日に出版されたパウダーテクノロジー2014、第259巻、第81?86頁(・・・)において再確認される。Katz乙第3号証として添付する。当該文献では、図6のデータは、SAPO-34合成での水分量のみを増大し、全ての他の材料のモル量をそのままにした場合の影響を示す。これらの合成では、H_(2)O:Si比は・・・増大し、・・・SAPO-34平均結晶寸法が減少する傾向が認められた。加えて、H_(2)O:Si比を更に250に引き上げた際(図6c)、走査型電子顕微鏡の写真は、3つの合成のうち最も小さい平均結晶寸法を示し、著者達はこの合成から得られたSAPO-34は「区別できる形態を有さず、歪んだ半立方体粒子の組み合わせが含まれていた。これは高い含水量の為である。」と記した。
13.・・・表1にはWO01/36328からの走査型電子顕微鏡を用いて決定された平均結晶寸法の測定と上記パウダーテクノロジーに基づいたデータにまとめられている。図1はそのデータをグラフ形態で表しており、走査型電子顕微鏡を用いて決定されたSAPO-34の平均結晶寸法と合成混合のH_(2)O:Siモル比との間の相対関係を表す、見て分かる通り、SAPO-34の結晶寸法が増大するにつれ、H_(2)O:Siモル比が減少するというのが共通の傾向である。」
(当審注:下線部は誤訳ないし誤記と認められるので、当審において修正している。また、上記で「Katz乙第1?3号証」と記載されている文献は、乙17?19である。)

●[乙16-B](図1)


●[乙16-C](表1)


●[乙16-D](第18節)
(訳)「18.それ故にSAPO-34を含むゼオライトの合成についての知識を有する当業者にとってLi特許の出願が行われた当時、Li特許の実施例1と実施例2に於けるより大きい結晶の合成を再現することを試みる上で50未満(比較例2の値)の合成ゲルのH_(2)Oモル組成を減少することは明白であったとの結論に達する。SAPO-34合成の当業者は実施例1と実施例2により与えられた合成ゲル組成と機能する全範囲に亘るより望ましいSi:H_(2)O比を探ることに興味を抱くであろうと推測するならば、上記で挙げられている水モル量での最初の一連の実験である上記で計算されたLi特許の実施例1と実施例2のそれぞれの31と37の平均を試してみることは理に適うことである。これはLi特許の実施例1と実施例2の合成をそれぞれ78と62のSi:H_(2)O比で実施するのに相当する。

●[乙16-E](第22節)
(訳)「22.合成ゲルにおいて50よりかなり下回るH_(2)Oモル組成を使用することは当業者に取っては明白である故、西岡氏がLi特許の実施例1と実施例2(上記参照)の両方を再現する際に用いた合成ゲルのH_(2)Oモル組成がサンプル1-1の場合は50、サンプル1-2の場合は60、サンプル1-3の場合は50、サンプル2-1の場合は50、サンプル2-2の場合は50というのは全て高めと見受けられる。Li特許の実施例1と実施例2に関して上記でそれぞれ31と37と平均値が計算されたあたりの中央値により近いH_(2)Oモル組成を使用することの方がより理に適う様である。実施例1と実施例2を再現しようとする際に使用する合成ゲルのH_(2)Oモル組成を50以上のみにするやり方はより高いSi:H_(2)O比の方向へ傾いていると結論付ける。特許の比較例2のデータは高いSi:H_(2)O比では50のH_(2)Oモル組成を使用する場合にはより望ましいSAPO-34の欠乏に導くことをすでに示している。」

●[乙16-F](第33節)
(訳)「33.西岡甲第14号証宣言書(・・・)同様に、Liu博士もLi特許の実施例2を再現しようとする際は合成ゲルに使用するH_(2)O量(・・・)は多い。上記で説明した様に、Li特許の実施例2の再現を試みる場合は上記で説明されている様に相似関係を利用し、計算される範囲の平均37位でのs合成ゲル内のH_(2)Oのより低いモル量を使うことが発明の分野の当業者に取ってよりバランスが取れたとらえ方が明白である。SAPO-34の合成の分野の当業者は高いH_(2)O:SiO_(2)比はLi特許ではより好ましくない比較例2の方に類似する可能性があるより小さいSAPO-34結晶をもたらすことは分かっている。」

●[乙16-G](第40節)
(訳)「40.・・・走査型電子顕微鏡を用いての視覚観察はゼオライト微結晶径の測定に広く使われ、認められている方法である。公開文献中には数多くの走査型電子顕微鏡を用いてのSAPO-34結晶寸法の推測の例があり、参照できるものとして下記がある:i)「150の粒子の大きさを走査型電子顕微鏡を用いて測定することによりSAPO-34の粒子の平均径を推測した」との記載がある2011年に出版されたPhysical Chemistry Chemical Physics の第11巻の9269?9277頁(Katz添付書類7として添付する)、ii)「走査型電子顕微鏡を用いた[・・・]点検で粒子の平均径を測定すくことができる」と記載されている米国特許6,903,240 B2(Katz添付書類8として添付する)、iii)2001年に出版されたStudies in Science and Catalysis 第133巻(211?218頁)(Katz添付書類9として添付)では「結晶の大きさの測定は3,500倍の拡大率を用いて走査型電子顕微鏡で行った」と記載されている、iv)上記2014年に出版されたPowder Technology 第259巻(81?86頁)と1999年出版のMicroporus and Mesoporous Materials 第29巻(159?171頁)とWO 01/36328特許は全てSAPO-34の結晶寸法を測定するのに走査型電子顕微鏡を用いている、v)2008年に出版されたApplied Catalysis A: General(112?118頁)の図2aと図2dはレーザー解析で測定されたSAPO-34のフリー結晶の結晶寸法とそれを確認する為の走査型電子顕微鏡の測定を示し、これらの手法での差が認められなかったことからSAPO-34の結晶寸法に関してはレーザー解析と信頼性が確立されている走査型電子顕微鏡との間で同じ結果が得られることを指す。」
(当審注:上記で「Katz添付書類7?9」と記載されている文献は、乙23?25であり、「Applied Catalysis A: General(112?118頁)」は乙26である。)

●[乙16-H](第41節)
(訳)「41.一旦走査型電子顕微鏡の画像を入手すると広く用いられていて認められている結晶寸法を割り出す為の方法は偶発的に位置付けられた線のセグメントを顕微鏡写真上に描き、各線が結晶の境界を交差する回数を数えて、交差と線の長さの比率を求める方法である。この方法は一般的にはAverage Grain Intercept(略して「AGI」)方法と呼ばれていて、粒子や結晶の大きさを定量化するのにある物質について偶発的に設置した線のセグメントを顕微鏡写真上に描き、各線が粒子の境界と交差する回数を数えて、その交差と長さの比率を求めるためによく知られた方法である。当該AGI方法の「Average Grain Intercept (AGI) Method」と題する説明・描写はKatz添付書類11として添付する。この方法が如何に広く認められているかはそれがASTM(・・・)であり、そのActive Standard ASTM E112-13(粒子径の平均を決めるための標準試験方法)(Katz添付書類12として添付する)では「これらの金属製の材質の粒子の平均径を決める為の方法は主として測定方法である故、それらの根拠は純粋に幾何学的である故その金属若しくは合金に左右されることがない。実際には基本的な基準は金属製でない粒子や結晶や細胞の大きさを推測するにも用いることができる」と記載されている。AGI方法が如何に広範囲に亘り認められているかについては4.1.3 Intercept ProcedureとASTM E112におけるIntercept Procedureに関するデスカションを参照されたい。」
(当審注:上記で「Katz添付書類11、12」と記載されている文献は、乙27、28である。)

●[乙16-I](第43節)
(訳)「43.Li特許の実施例2で得られた結晶の高画質の走査型電子顕微鏡を入手した。それらを分析した結果、これらの顕微鏡写真で示されているのは0.3ミクロンを上回る大きさの結晶により形成されているのであることは極めて明白である。」

●[乙16-J](第44節)
(訳)「44.ゼオライトの酸性度もその応用に影響があり得る。表面の酸性の性質評価の為の大半の方法は間接的な方法である。即ち、活性がある箇所にプローブを投入し、吸着と脱着を探る訳である。ゼオライトの酸性箇所の検討や性質評価の為に最もよく用いられるプローブは単純な有機塩基である。Li特許の出願当時のゼオライトの酸性度を測定する理由(例えば、酸性度の度合いに対して何か所の測定を行うか)やゼオライトの細孔径等は適切なプローブの選択に影響を及ぼすことはその当時の当業者にとっては知られていたことである。甲第26号証であるHandbook of Science and Technology(443?447頁)を参照されたい。例えば、酸性若しくは塩基性部位での濃度を知るのには脂肪族アミンは便利である。Li特許では記載の老化条件に晒された後でも発明の物質の酸性箇所において濃度測定を行う。測定の目的と物質の細孔径が分かっているので、当業者は脂肪族アミンを酸性箇所での濃度を調べるのに用いただろうというのが私の意見である。Li特許の出願が行われた当時の文献ではn-プロピルアミンがゼオライト酸性箇所での濃度測定には他のプローブより低コストであるより好ましい手法の内の一つとして認められていた。n-プロピルアミンは物質上の酸性箇所との反応が生じるタイプのn-プロピルアミンは高温ではホフマン脱離反応が生じるので実験室では非常に安定的によく使われ、分析対象の物質の加熱と同時の重量測定に基づく熱重量的に幾つかの酸性化小の測定を行うのに特に便利な方法である。このホフマン脱離反応でプロペンガスが発生し、それが熱重量測定では減量として記録される。2002年10月に出版されたCatalysis Letter誌の「A Simple, inexpensive, and reliable method for measuring Bronsted acid site densities in solid acids」をKatz添付書類13として添付する。メチルアミンの様な他のアミンでは、さほどきれいな特徴的な減量が加熱した場合認められないので、その観点から見て、さほど好ましくない。1995年に出版されたChemical Review誌第95巻の615?635頁のゼオライトの酸性の性質評価に付いての権威ある論文の第622頁に下記の記載がある:「固体酸の性質評価にはアンモニアではなく、反応アミンの内のTPDの使用を我々のグループは推奨してきた。H-ZSM-5を始めとして、-/Aのカバレージに対応する明確に定義された量論的な吸着コンプレクスが一連のメチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミンとtert-ブチルアミンを含むアミン様に得ることが可能であることを我々は立証した。」(Katz添付書類14として添付)。メチルアミンのみが例外であるが、吸着コンプレクスはアルカリ基にのみ依存するTPDの特定温度領域ないのオルフィンとアンモニアに対する反応で容易に見分けることができる。Li博士の乙第9号証として提出された宣誓書を検討した結果、PQ社の特許の発明者達はn-プロピルアミンをSAPO-34の酸性部位上へ吸着される塩基プローブ分子として使用して発明されたゼオライトの酸性度測定を行ったと理解する。物理的に吸着したn-プロピルアミンが280℃までの加熱により除去される様な熱重量分析器(Thermal Gravimetric Analyzer - TGA)が測定に用いられている。化学的に吸着されたn-プロピルアミンは280℃?500℃の温度範囲内で決定され、これは酸性度をmmol/gの単位で表す。Li特許の出願が行われた当時その様な手順は酸性度の測定法としてかなりルーチン化しており、標準的なやり方として認められていた。」
(当審注:上記「甲第26号証」は、無効2015-800146号(特許第4889807号)におけるものであり、請求人による平成28年10月6日付けの証拠説明書2に記載のとおり、本件では「甲第33号証」に相当する。また、上記で「Katz添付書類13、14」と記載されている文献は、乙29、30である。)

乙第17号証
●[乙17-A](第4欄第33行?第5欄第7行)
「Example 1
・・・
A synthesis mixture was prepared as follows:
・・・to yield a synthesis mixture of molar composition:
Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):0.4 SiO_(2):2 TEAOH:50 H_(2)O:8 C_(2)H_(5)OH
・・・
Analysis of the peak widths of the XRD pattern and application of the Scherrer equation,・・・, gave a mean crystal size of about 50 nm.
Example 2
In a procedure similar to that of Example 1, a synthesis mixture was prepared of molar composition:
Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):0.3 SiO_(2):2 TEAOH:40 H_(2)O:8 C_(2)H_(5)OH
・・・, and analysis of the XRD pattern peak width and use of the Scherrer equation gave a mean crystal size of about 36 nm.」
(当審訳)「実施例1
・・・
合成混合物は下記のように準備された:
・・・次のモル組成の合成混合物を得るために:
Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):0.4SiO_(2):2TEAOH:50H_(2)O:8C_(2)H_(5)OH
・・・
XRDパターンのピーク幅の分析及びScherrerの式の適用は、約50nmの平均結晶サイズを与えた。
実施例2
実施例1と同様の手順で、次のモル組成の合成混合物が準備された:
Al_(2)O_(3):P_(2)O_(5):0.3SiO_(2):2TEAOH:40H_(2)O:8C_(2)H_(5)OH
・・・そして、XRDパターンのピーク幅の分析及びScherrerの式の使用は、約36nmの平均結晶サイズを与えた。」

乙第18号証
●[乙18-A](第12頁第16?20行)
「In a desired embodiment of the invention, the process described above forms a SAPO-34 molecular sieve having a novel crystal morphology. This morphology is shown in Figs. 1-3. This morphology is described as being an isocrystalline spheroidal particle comprising a silicoaluminophosphate molecular sieve.」
(当審訳)「本発明の望ましい態様において、上記に記載された方法は、新規な結晶形態を有するSAPO-34分子篩を形成する。この形態は図1?3に示されている。この形態は、シリコアルミノホスフェート分子篩を含む結晶類似回転楕円体粒子と表現される。」

●[乙18-B](第12頁第28行?第13頁第2行)
「The particle itself has a diameter of from about 0.5μ to about 30μ. The crystallites have a width, at their largest dimension, of from about 0.05μ to about 2.5μ. The diameter of the particle and the size of the crystallites can be determined by scanning electron microscopy (SEM).」
(当審訳)「粒子自体は約0.5μから約30μの直径を有する。結晶は、最大幅で、約0.05μから約2.5μの幅を有する。粒子の直径及び結晶のサイズは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって決定することができる。」

●[乙18-C](第13頁第26行?第16頁第7行)
「Example 1.・・・Scanning electron microscopy showed spheroidal isocrystalline particles having a particle size of 2-5 μm. These particles are shown in Figure 1.
Example 2.・・・Scanning electron microscopy showed the majority of the product to comprise spheroidal isocrystalline particles having a particle size of 3-6 μm. These particles are shown in Figure 2.
Example 3.・・・Scanning electron microscopy showed the majority of the product to comprise spheroidal isocrystalline particles having a particle size of 8-12 μm. These particles are shown in Figure 3.」
(当審訳)「実施例1.・・・走査型電子顕微鏡は、回転楕円体結晶類似粒子が、2?5μmの粒子サイズを有することを示した。これらの粒子は図1に示されている。
実施例2.・・・走査型電子顕微鏡は、大多数の生成物が、3?6μmの粒子サイズを有する回転楕円体結晶類似粒子を含むことを示した。これらの粒子は図2に示されている。
実施例3.・・・走査型電子顕微鏡は、大多数の生成物が、8?12μmの粒子サイズを有する回転楕円体結晶類似粒子を含むことを示した。これらの粒子は図3に示されている。」

●[乙18-D](図1)


●[乙18-E](図2)


●[乙18-F](図3)


乙第35号証
●[乙35-A](第156頁第1?18行)
「5. Dilution of Crystallizing System
Following a general principle that the rate of crystal growth is proportional to the concentration of reactants, expressed by the concentration function f(C)(67,88), that is,
dL/dt_(c)=k_(g)f(C)
it is not unexpected that dilution of crystallizing system (e.g., an increase of water content) causes a decrease of the concentration of reactive species in the liquid phase, and thus a decrease of the crystal growth rate. Iwasaki et al.(92) found that the growth rates for all faces of silicalite-1 crystals crystallized at 150℃ from reaction mixture 0.1TPABr/0.05Na_(2)O/SiO_(2):xH_(2)O decreased with an increase of the ratio x = H_(2)O/SiO_(2) (increased dilution), although the dependence of the growth rate was slightly different for each face (Fig. 38).
The observed influence of dilution of the system on the crystal growth rate is caused by the fact that the growth condition of silicalite crystals is mainly characterized by the superasaturation of the primary building units for the crystallization(134). By systematic study of the influence of the ratio x = H_(2)O/SiO_(2) (x = 100-1000) on the length [K_(g)(L)] and width [K_(g)(W)] growth rate of silicalite-1 crystals at 160℃ it was found that the growth rates are proportional to a power of x(134), that is:
K_(g)(L)∝x^(-0.75)
K_(g)(W)∝x^(-1.12)」
(当審訳)「5.結晶化系の希釈
結晶成長速度は、反応物質の濃度に比例し、濃度関数f(C)で表されるという一般則、すなわち、
dL/dt_(c)=k_(g)f(C)
に従えば、結晶化系の希釈(例えば、水の量の増加)が反応種の濃度を低下させ、その結果、結晶成長速度の低減を招くことは、予期できないことではない。Iwasakiらは、反応混合物0.1TPABr/0.05Na_(2)O/SiO_(2):xH_(2)Oから150℃で結晶化させたシリカライト-1結晶のすべての面の成長速度が、比率x=H_(2)O/SiO_(2)の増加(希釈の増加)とともに減少することを見いだしたが、成長速度の依存性は面ごとにわずかに異なっていた。
観察された系の希釈による結晶成長速度への影響は、シリカライト結晶の成長条件が、主に結晶化の一次構造単位の過飽和によって特徴付けられるという事実に起因する。160℃における、シリカライト-1結晶の長さ[K_(g)(L)]及び幅[K_(g)(W)]の成長速度について、比率x=H_(2)O/SiO_(2)(x=100?1000)の影響に関する体系的な研究によって、成長速度はxの累乗に比例することが見いだされた。すなわち、
K_(g)(L)=x^(-0.75)
K_(g)(W)=x^(-1.12)」

●[乙35-B](第156頁第23行?第157頁第2行)
「On the other hand, Twomey et al.(100) observed that the growth rate of silicalite-1 crystals from the system 25SiO_(2)/Na_(2)O/9TPAOH/yH_(2)O (x = y/25 = H_(2)O/SiO_(2) = 12-120) remained almost constant for any given temperature, and even that in some cases crystal growth rate of silicalite-1 increases with increasing H_(2)O/SiO_(2) ratio (K_(g) ∝ x^(n) with n > 0)(53,58).」
(当審訳)一方、Twomeyらは、25SiO_(2)/Na_(2)O/9TPAOH/yH_(2)O(x=y/25=H_(2)O/SiO_(2)=12-120)の系からのシリカライト-1の成長速度は、いかなる温度においてもほとんど一定であり、いくつかのケースでは、シリカライト-1の結晶成長速度がH_(2)O/SiO_(2)比の増大とともに増大したことさえも観察した。

乙第36号証
●[乙36-A](第6欄第35?37行)
「Using greater or lesser mole ratios of water/silica (ratios of 44, 8, 3.5 as compared with 16 above) results in products with larger crystals.」
(当審訳)「より大きな又はより小さな水/シリカのモル比(モル比44、8、3.5)は、上記したモル比16と比較して、より大きな結晶の生成物を生じる。」

また、その余の甲各号証、乙各号証には以下の事項が記載されている。
甲第2号証:SAPO-34は、CHA(chabazite)型構造に関連する物質の一つであること
甲第3号証(乙第2号証):SAPO-34がシリコアルミノホスフェート系のchabazite型構造であること
甲第8号証:甲第9号証の「試験-3」で調製したSAPO-34に対する試験結果
甲第23号証:NOの選択的な触媒的還元において、アンモニアないし炭化水素が用いられること
甲第25号証:SAPOは、ZSM-5などの第2世代のゼオライトに続く、第3世代のアルミノシリコホスフェートに属していること
甲第26、27号証:0.3μmより大きい結晶寸法を有し、水熱安定性を有するSAPO-34が公知であったこと
甲第28号証:SAPO-34の結晶寸法については、0.3μmより大きい結晶寸法のものが公知であったこと
甲第29号証:SCR法において、アンモニアの方が炭化水素よりも高い選択性を有すること
甲第34号証:甲第37号証に記載のCu/SAPO-34(a)の^(29)Si-NMRの測定結果と同一の位置にピークを有する測定結果が示されていること
甲第35号証:自らが発表したポスターの表記に誤りがあったことを認め、訂正すること
甲第36号証:International Symposium of Zeolites and MicroPorous Crystalsでの発表に使用したポスター
甲第37号証:西岡氏が、甲第35号証の比較例3Bと同様にして、ゼオライトの合成及びCu担持触媒の調製を行っていたこと
甲第40号証:0.3μmを超える結晶寸法を有するSAPO-34は、水熱的に安定な特性を有すること
乙第1号証:甲第4号証で「文献15」として引用された、SAPO-34に関する文献(なお、甲第1号証は、乙第1号証の日本語ファミリー文献である)
乙第2号証:甲第3号証に同じ
乙第3、4号証:モレキュラーシーブは熱安定性が悪く、窒素酸化物の選択的接触還元(SCR)の典型的な操作条件下で不活化されること
乙第5号証:SAPO-34は、微細孔構造及び高耐熱を有する排気ガス触媒として有望であること
乙第6号証:銅含有SAPO-34は、水熱老化するとNOxのSCR特性が著しく低下すること
乙第8号証:SAPO-34の酸性度を変更してメタノールからオレフィンへの触媒の転化効率を向上させること
乙第10号証:Cu/SAPO-34(a)を、米国特許第7883678号に従って調製したこと
乙第19号証:1Al_(2)O_(3):0.4SiO_(2):1P_(2)O_(5):0.5TEAOH:1.5MOR,xH_(2)O(x=60、75、100)から得られたSAPO-34の結晶寸法
乙第20号証:1.0Al_(2)O_(3)/1.0P_(2)O_(5)/0.4SiO_(2)/32.2-51H_(2)O/0.72TEAOHから得られた物質のX線回折データ及びSEM写真
乙第21号証:TEAOHモル量を下げた結果、SAPO-34の結晶形成時間が短縮されたこと
乙第22号証:合成温度の減少により、SAPO-34の結晶形成速度が低減すること
乙第23?25号証:SAPO-34の結晶寸法を測定するために走査型電子顕微鏡を用いること
乙第26号証:SAPO-34の結晶寸法に関しては、レーザー解析と走査型電子顕微鏡との間で同じ結果が得られること
乙第27号証:「Average Grain Intercept (AGI) Method」の説明
乙第28号証:AGI方法が結晶の大きさを推測するにも用いることができること
乙第29、30号証:ゼオライトの酸性度を測定する際のプローブ分子としてn-プロピルアミンを用いること
乙第31号証:三菱マテリアル株式会社を出願人とする特許出願において、石原氏が発明者であること
乙第32号証:三菱瓦斯化学株式会社を出願人の一とする特許出願において、石原氏が発明者であること
乙第33号証:NH_(3)又は尿素によるNOxのSCRに使用するための遷移金属含有アルミノリン酸塩ゼオライトの研究は、どの文献にも報告されていないこと
乙第34号証:Cuイオン交換SAPO-34は、3%蒸気の存在下、800℃で老化させると、著しい不活性化が起こること
乙第37号証:甲第1号証に記載された複数のSAPO-34の実施例について再現試験を行った結果、表面積とマイクロ細孔体積との間に高い相関性を有すること

第6 当審の判断
1.検討の手順
進歩性要件に係る無効理由1?4の検討に先立ち、まず、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32の明確性要件に係る無効理由6について検討し、続いて、実施可能要件及びサポート要件に係る無効理由5について検討する。

2.無効理由6について
請求人は、「結晶寸法」に関する無効理由6-1、「表面積」、「マイクロ細孔体積」に関する無効理由6-2、「酸性度」に関する無効理由6-3、及び「水熱安定性」に関する無効理由6-4を主張しているので、順次検討する。

ア 「結晶寸法」について(無効理由6-1)
請求人は、審判請求書の「第7 (2)」において、請求項1、9、16に記載され、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32に共通する発明特定事項である「結晶寸法」の用語は不明確であると主張している。

ここで、請求項1、9、16に記載された「結晶寸法」は、「0.3ミクロンを超える結晶寸法」として特定されている。

まず、「結晶寸法」に係る本件明細書及び図面の記載をみると、本件明細書【0029】に、
「本発明のSAPO-34構造は・・・0.3ミクロンより大きい結晶寸法を有してもよい。」
と記載され、図1、2、7にはそれぞれ、実施例1、実施例2、比較例2に記載した、「老化または陽イオン交換する前の、SAPO-34物質のSEM」が開示されるとともに、同【0058】には、該比較例2について、
「・・・得られた生成物は小さな結晶(0.2ミクロン未満の寸法)であった。」
と記載されている。
しかしながら、(a)「結晶寸法」が、「個々の結晶の結晶寸法」のことを意味するのか、又は、「複数の結晶の結晶寸法の平均値」のことを意味するのか、及び(b)前記(a)においていずれの意味であるとしても、「個々の結晶の結晶寸法」はどのようにして測定されるのか、について、本件明細書及び図面には記載がない。

被請求人は、答弁書の「第7 I.(3)」及び平成28年10月6日付け口頭審理陳述要領書の「V.(1)」において、(a)走査型電子顕微鏡(SEM)が、ゼオライト結晶の寸法及び形態を決定するために当業者が選択する方法であること([乙7-A]、[乙11-A]、[乙12-A]、[乙13-A]、[乙16-G])、(b)走査型電子顕微鏡の画像から結晶寸法を割り出すための方法として、Average Grain Intercept (AGI) methodがよく知られており、広く用いられていること([乙16-H]、以下に示す図面)、(c)請求人自らも、ゼオライトの「粒度」をSEM観察により決定していること([乙14-A])、及び(d)本件明細書に添付したSEM写真は、本件発明の物質が0.3μmを超える寸法を有していることを明らかに示していること([乙15-A])、を主張している。

上記主張について検討するに、口頭審理と同日に被請求人から提出された上申書の第17頁に原図が示された、本件実施例2のSEM写真(図2;以下に図を示す)は、個々の結晶の境界を把握することができ、また、個々の結晶の結晶寸法を測定することもできるから、結晶寸法の平均値を算出することもできる。
しかしながら、本件実施例1や比較例2のSEM写真(図1、7;以下に図を示す)は、複数の粒子が凝集ないし結合しており、どこまでが1つの結晶であるかも明らかではなく、個々の結晶の境界を把握することができないから、個々の結晶の結晶寸法を測定することができない。
また、Katz博士の宣誓供述書(乙16)の第41節([乙16-H])にも、「粒子や結晶の大きさを定量化するのにある物質について偶発的に設置した線のセグメントを顕微鏡写真上に描き、各線が粒子の境界と交差する回数を数えて、その交差と長さの比率を求めるために用いられる」(下線部は当審において付した。)と記載されるように、AGI法により結晶寸法を測定するためには、例えば多結晶体の断面のように、個々の結晶の境界が把握できるものでなければならない。
しかしながら、本件の図1、7は、個々の結晶の境界を把握することができないから、AGI法により結晶寸法を測定することもできない。

※ Average Grain Intercept (AGI) method
(口頭審理と同日に被請求人から提出された上申書の第18頁)


※ 本件実施例2のSEM写真
(口頭審理と同日に被請求人から提出された上申書の第17頁)

※ 本件実施例1のSEM写真
(口頭審理と同日に請求人から提出された上申書の第7頁)


※ 本件比較例2のSEM写真(本件図7)


更に、被請求人から提出されたLi博士の宣誓供述書(乙15)の第24節([乙15-A])には、「実施例2のSEMについていかに示すように、小さめの結晶ひとつひとつ全てが、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有している。他の測定可能な結晶はいずれも上記測定した結晶よりも大きく、かくして、これらも0.3ミクロンを超える。」と記載され、Katz博士の宣誓供述書(乙16)の第43節([乙16-I])には、「Li特許の実施例2で得られた結晶の高画質の走査型電子顕微鏡写真を入手した。それらを分析した結果、これらの顕微鏡写真で示されているのは0.3ミクロンを上回る大きさの結晶により形成されているのであることは極めて明白である。」と記載されており、これらの記載は「個々の結晶の結晶寸法」について言及するものである。
一方、同じくKatz博士の宣誓供述書(乙16)の第40節([乙16-G])に記載された、「走査型電子顕微鏡を用いてのSAPO-34結晶寸法の推測の例」には、「平均径」について言及する文献が記載されている。
すなわち、被請求人の提出した証拠の記載内容は、結晶寸法について、互いに異なる定義を主張するものとなっている。
してみれば、請求項1、9、16に記載された「結晶寸法」が、「個々の結晶の結晶寸法」を意味するのか、又は、「複数の結晶の結晶寸法の平均値」を意味するのかは、被請求人の主張からは明らかでない。

これに対し被請求人は、平成29年7月13日付け上申書及び同年9月19日付け意見書において、本件実施例1(図1)及び比較例2(図7)においては、AGI法の適用が困難であるとしても、実施例2においてAGI法の適用が可能であり、総合的に勘案すれば、本件発明における「結晶寸法」とは、「複数の結晶の結晶寸法の平均値」を意味することは明確であると主張している。
しかしながら、SEM写真が開示されている本件実施例1、2、比較例2のうち、本件明細書に「0.2ミクロン未満の寸法」と結晶寸法が明示されているのは、AGI法の適用が可能であると主張する本件実施例2ではなく比較例2であって、比較例2では適用困難なAGI法が採用されていると認めることはできない。
更に、本件明細書【0029】には、「本発明のSAPO-34構造は、・・・0.3ミクロンより大きい結晶寸法を有していてもよい。」と記載されているが、かかる記載は、単に0.3ミクロンより大きい結晶の存在を許容することを説明したものと解することもでき、その場合、かかる記載における「結晶寸法」は、結晶寸法の平均値ではなく、結晶寸法の最大値(上限値)を意味することになる。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

上記のとおりであるから、請求項1、9、16に記載された「0.3ミクロンを超える結晶寸法」は明確ではない。

よって、無効理由6-1には理由がある。

イ 「表面積」、「マイクロ細孔体積」について(無効理由6-2)
「表面積」、「マイクロ細孔体積」について、請求項1、16では、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し」と特定され、請求項9では、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後にその表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持する」と特定されている。

ここで、「表面積」、「マイクロ細孔体積」に係る本件明細書の記載をみると、本件明細書【0020】、同【0021】に、
「【0020】
「初期表面積」とは、いかなる老化条件へも暴露する前の、製造したままの新鮮な結晶性物質の表面積を意味する。
【0021】
「初期のマイクロ細孔体積」とは、いかなる老化条件へも暴露する前の、製造したままの新鮮な結晶性物質のマイクロ細孔体積を意味する。」
と記載されているが、「表面積」、「マイクロ細孔体積」の測定方法について、本件明細書には記載がない。

この点について、請求人は、審判請求書の「第7 (3)」において、甲19には、「2. 細孔体積、表面積、細孔径、表面粗さなどのパラメータの絶対値を与える実験方法はない:各々は、関係する原理及び使用されるプローブの特性(原子又は分子、照射波長・・・)に依存した特性値を与える。吸着剤の表面積とは言うことはできず、その代わりに、吸着剤の『BET-窒素表面積』、『等価BET-窒素表面積』、修正HJ-熱量表面積、累積水熱ポロメトリー表面積などと言うことができる。」と記載されているように([甲19-A])、「表面積」、「マイクロ細孔体積」は、使用される測定方法により異なる結果が得られるものであると主張している。
そして、請求項1、9、16に記載された「表面積」及び「マイクロ細孔体積」の水熱安定性の保持率についても、選択される測定方法に応じて、請求項1、9、16に記載された範囲内となったり範囲外となったりする場合が生じ、一義的に決まらないこととなるから、請求項1、9、16に記載され、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32に共通する発明特定事項である「表面積」、「マイクロ細孔体積」の用語は不明確であると主張している。

一方、被請求人は答弁書の「第7 I.(4)」、平成28年10月6日付け口頭審理陳述要領書の「V.(2)」、及び口頭審理において提出した上申書の第28、29頁において、「SAPO-34物質の表面積は、当分野において当業者によく知られたBET法に従う窒素ガス吸着法を用いて計測した。特に、ここに示した表面積データは、市販のQuantachrome Autosorbユニットで相対圧力(P/P_(0))から0.01および0.05の間で液体窒素温度にて収集した」こと、及び「表面積測定と同時に収集した窒素吸着データを用いて、当業者によく知られた、いわゆるt-プロット法を用いてマイクロ細孔体積を計算した」と主張している。([乙9-A])

両者の主張について検討するに、甲19は、その表題に「RECOMMENDATIONS FOR THE CHARACTERIZATION OF POROUS SOLIDS」と記載されるように、多孔質固体(POROUS SOLIDS)一般の分析に係るものである。
そして、甲19に記載された測定方法のうち、「修正HJ-熱量表面積」、「累積水熱ポロメトリー表面積」について、ゼオライトの比表面積の測定方法として当業者に用いられていることを示す証拠はない。
また、「BET-窒素表面積」と「等価BET-窒素表面積」とは、いずれも窒素ガスをプローブ分子とし、BET式を用いて表面積を計算する点で同じものであり、本件発明のSAPO-34の場合には、SAPO-34がマイクロ細孔を有することから、SAPO-34において窒素ガスをプローブ分子とし、BET式を用いて表面積を計算したとき、これを「等価BET-窒素表面積」と呼ぶことは、当業者の技術常識である。
したがって、請求項1、9、16に記載された「表面積」は、被請求人が主張するとおり、当業者によく知られたBET法に従う窒素ガス吸着法を用いて計測したものであるといえるから、請求人の主張は採用できない。

そして、BET法に従う窒素ガス吸着法を用いて表面積を求めるものであれば、当業者は、その吸着等温線から周知のt-プロット法などによりマイクロ細孔体積を求めることができ、表面積とマイクロ細孔体積の値を求めることができるのであれば、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後」や、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後」の保持率を求めることもできる。

したがって、請求項1、16に記載された「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し」、及び請求項9に記載された「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後」はいずれも明確である。

よって、無効理由6-2には理由がない。

ウ 「酸性度」について(無効理由6-3)
請求人は、請求項1、16に記載され、本件発明1?8、16?22、24?32に共通する発明特定事項である「酸性度」の文言は不明確であると主張している。

ここで、請求項1、16に記載された「酸性度」は、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、・・・少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する」ものとして特定されている。

そこでまず、「酸性度」について本件明細書の記載をみると、本件明細書【0059】の【表1】に、「新鮮な触媒」及び「10vol%の水存在下、900℃で16時間老化後」について、「酸性度(mmol/g)」の値が記載されるのみであり、「酸性度」の測定方法について、本件明細書には記載がない。

被請求人は、答弁書の「第7 I.(5)」において、酸性度は、ゼオライトの一般的に測定される特徴であり、本発明者等により用いられたものも含む酸性度を測定するための方法は、本件発明がなされた時点で広く知られていたこと、そして、本件発明における酸性度は、本件発明物質の酸部位に化学吸着するn-プロピルアミンを探査分子として用いて測定したことを主張している。
また、平成28年10月6日付け口頭審理陳述要領書の「V.(3)」において、n-プロピルアミンをゼオライトの酸性度の定量に採用することは、ゼオライトの酸性度測定にとって「簡便、安価かつ信頼性のある方法である」と認識されていたと主張している。([乙16-J])

上記主張について検討するに、Katz博士の宣誓供述書(乙16)の第44節には、酸性度を測定する際のプローブ分子として、n-プロピルアミンを用い得ることが記載されているにとどまり([乙16-J])、本件発明の「酸性度」を、n-プロピルアミンを探査分子として用いて測定したことが自明であるとまではいえないから、被請求人の主張は採用できない。
そして、甲33にも記載のとおり、プローブ分子の種類により塩基強度や分子サイズは異なるから([甲33-A、B])、プローブ分子の種類により「酸性度」の測定結果が異なることは、当業者の技術常識である。

してみれば、測定方法が不明である、請求項1、16に記載された「少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する」ことは、明確ではない。

よって、無効理由6-3には理由がある。

エ 水熱安定性について(無効理由6-4)
請求人は、審判請求書の「第7 (4)」において、請求項1、9、16には、それぞれ、
請求項1、16:「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、・・・」
請求項9:「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後に・・・」
と記載されているが、上記各請求項において、水熱安定性の要件を充足するためには、各試験条件において幅をもって記載されている条件のうち、いずれか1点を満足すればよいのか、あるいは試験条件の範囲全てを満足する必要があるのか明確ではない、と主張している。

これに対し、被請求人は、答弁書の「第7 I.(2)」において、マイクロポーラス結晶性物質が水熱安定性の要件を充足するためには、試験条件の範囲全てを満足する必要があることは明らかである、と釈明した。

本件明細書【0009】には、「本開示・・・は、SAPO-34・・・を含むマイクロポーラス結晶性組成物のような、・・・水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質を提供する」と記載されているように、本件発明は、高い水熱安定性を得ることを解決すべき課題としており、上記被請求人の釈明はこれと矛盾するものではない。

したがって、請求項1、9、16に記載された水熱安定性に係る上記特定事項は、いずれも明確なものといえる。
(なお、銅を含んで成るSAPO-34の水熱安定性については、無効理由5の実施可能要件、サポート要件において検討する。)

よって、無効理由6-4には理由がない。

オ 無効理由6についてのまとめ
上記のとおりであるから、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32について、「結晶寸法」及び「酸性度」に関する無効理由6は理由があり、「表面積」及び「マイクロ細孔体積」、並びに「水熱安定性」に関する無効理由6には理由がない。

なお、以下の無効理由においては、「結晶寸法」について、「複数の結晶の結晶寸法の平均値」、「酸性度」について、「n-プロピルアミンを探査分子として用いて測定した酸性度」として検討する。

3.無効理由5について
請求人は、具体的には、「0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質」に関する無効理由5-1、「金属イオンが担持されていないSAPO-34」に関する無効理由5-2、及び「銅を含んで成るSAPO-34の水熱安定性」に関する無効理由5-3を主張しているので、無効理由5-2、無効理由5-3、無効理由5-1の順に検討する。

ア 金属イオンが担持されていないSAPO-34について(無効理由5-2)
請求人は、審判請求書の「第6 (1)オ、カ」において、甲17、甲18を示し、金属イオンが担持されていないゼオライトは、アンモニアや炭化水素によるNOxのSCR法において有効な触媒として使用し得ないことは技術常識であるから([甲17-A]、[甲18-A])、本件明細書は、金属イオンが担持されていない訂正前の本件発明を当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また、金属イオンが担持されていない訂正前の本件発明について、本件明細書に記載されたものではないと主張する。

しかしながら、訂正により本件発明は、「SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質・・・に銅を含んで成る」もの(本件発明1、16)、ないし「銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」(本件発明9)に限定された。

よって、無効理由5-2には理由がない。

イ 銅を含んで成るSAPO-34の水熱安定性について(無効理由5-3)
請求人は、審判請求書の「第6 (2)イ」、及び平成28年10月6日付け口頭審理陳述要領書の「第1 (3)」において、本件明細書の実施例に記載されたCuイオン交換したSAPO-34は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下、700?900℃の範囲の温度に16時間の暴露後に、その表面積の少なくとも80%を保持するという要件は充足せず、水熱安定性試験前後のマイクロ細孔体積及び酸性度の試験結果も示されていないから、本件発明1、16は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、16を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張する。

上記主張について検討するに、本件発明1、16は、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40 mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質」に「銅を含んで成る」ものであり、水熱安定性の要件は、「銅を含んで成る」前の「結晶性物質」を特定するものである。
そして、本件明細書【0059】の【表1】には、実施例1、2の「新鮮な触媒」、すなわち「銅を含んで成る」前のSAPO-34について、「10vol%の水存在下、900℃で16時間老化後」の「表面積」及び「マイクロ細孔体積」が、「新鮮な触媒」の少なくとも80%を保持すること、及び、少なくとも0.40mmol/gの「酸性度」を保持することが記載されている。

(以下省略)

したがって、本件発明1、16について、請求人の上記主張は採用できない。

請求人はまた、本件発明9について、本件明細書には、銅含有SAPO-34が、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間暴露の後に、マイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持することは具体的に記載されていないから、本件発明9は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明9を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張する。

上記主張について検討するに、本件明細書【0059】の【表1】及び同【0061】の【表2】には、「Cuイオン交換」した「実施例1、2」の「マイクロ細孔体積」は記載されていない。

この点について被請求人は、平成29年9月19日付け意見書において、窒素ガス吸着法を用いてマイクロポーラス結晶性物質の表面積を求めるのであれば、当業者は、その吸着等温線から周知のt-プロット法などによりマイクロ細孔体積を求めることもでき、理論上、表面積とマイクロ細孔体積とは高い相関性を有すること、そして、甲1の実施例32?38に開示されているSAPO-34を再現し、それらの表面積とマイクロ細孔体積との相関を確認したところ、非常に高い線形性相関を有することが示され(乙37)、この高い線形性相関は、本件特許の実施例によるSAPO-34にも当てはまることから、BET法により測定された表面積が、水熱処理前の少なくとも80%を保持するのであれば、マイクロ細孔体積も、水熱処理前の少なくとも80%を保持することは、当業者にとって自明のことであり、Cuイオン交換した触媒につき、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間暴露の後において、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持することは、実質的に開示されていると主張している。
しかしながら、表面積とマイクロ細孔体積とが、共に吸着等温線から求められるというだけでは、高い相関性を有する理由にはならないし、事後的な試験結果をもって、本件特許の出願時における技術常識とすることはできない。
また、被請求人が主張する上記相関性は、Cuイオン交換する前のSAPO-34に関するものであって、本件発明9の「銅含有SAPO-34」において同様の相関性を有するとただちに認めることもできない。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

よって、本件発明9、及びそれを引用する本件発明10、12、13、15について、無効理由5-3には理由があり、本件発明1?8、16?22、24?32について、無効理由5-3には理由がない。

ウ 0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質について(無効理由5-1)
請求人は、審判請求書の「第6」において、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明1、9、16の方法で使用される、0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質を製造できるように記載されておらず、また、0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張している。

(ア)まず、サポート要件の判断に係る知財高裁大合議判決(平成17年(行ケ)第10042号)に従い、本件発明1、9、16の方法で使用される、0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質が、本件明細書の発明の詳細な説明において具体的な裏付けをもって記載されているか否かについて検討する。

本件明細書には、本件発明の実施例として「実施例1、2」が記載されている。
しかしながら、上記「第6 2.ア」に記載のとおり、本件実施例1のSEM写真(図1)は、個々の結晶の境界を把握することができず、AGI法により結晶寸法を測定することもできないから、実施例1に、「0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34」が記載されているとはいえない。

一方、本件実施例2のSEM写真(図2)は、個々の結晶の境界を把握することができ、また、個々の結晶の結晶寸法を測定することもできるから、結晶寸法の平均値を算出することもできる。
そして、上記本件図2からは、本件実施例2のSAPO-34が、0.3ミクロンを超える結晶寸法(平均値)を有することを確認することができ、また、上記本件【表1】からは、本件実施例のSAPO-34が、水熱的に安定であることを確認できる。

したがって、本件発明1、9、16の方法で使用される、0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(イ)次に、実施可能要件について検討する。
被請求人は、答弁書の「第6 II.」において、本件発明は、使用方法に関するものであるから、実施可能要件に関する請求人の主張は法的に適切でないと主張している。

しかしながら、物の使用方法の発明であっても、その実施にあたっては、その物の入手方法が明らかでなければならない。
そして、その物が新規な物質であるならば、その製造方法が明らかでなければならず、上記被請求人の主張は採用できない。

また、被請求人は、答弁書の「第6 III.」において、本件明細書は、水熱安定性SAPO-34を製造するための十分な情報を開示すると主張している。

この点について、上記「(ア)」で説示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明において、本件発明1、9、16の方法で使用される、0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質について具体的に開示しているのは、本件実施例2のみと認められる。
そこで、当該実施例2の開示により、本件発明1、9、16の方法で使用される、0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質を製造することができるか否かについて検討する。

本件発明の具体的な製造方法が開示された実施例2をみると、
「【0053】
実施例2(SAPO 34-大きな均一な結晶)
擬ベーマイト・アルミナ、リン酸、シリカ・ゾル(Nyacol 2040NH_(4))、TEAOH溶液および脱イオン水を一緒に混合して、ゲルを形成した。ゲルを室温で約30分間、オートクレーブに添加する前に撹拌した。オートクレーブを180℃に加熱し、その温度で12時間保った。冷却後、生成物をろ過によって回収し、脱イオン水で洗浄した。その後、有機物を除去するために生成物を乾燥し焼成した。得られた生成物は大きな均一な結晶であった。得られた特性を、以下の表1に示す。」
と記載されており、表1(上記「イ」にて摘示)には、実施例2のゲル組成が、「0.6SiO_(2)・1.0Al_(2)O_(3)・1.0P_(2)O_(5)・0.7TEA」であることが記載されている。

この点について請求人は、審判請求書の「第6 (1)」において、SAPO-34の製造において、水の量や昇温速度等の製造条件は、得られる結晶の純度、結晶化度、粒子径状などの結晶の特性に影響を及ぼすことが知られているが、本件明細書の実施例には、各原料の添加量、水の量、昇温速度、攪拌速度などは何ら記載されていないことを主張するとともに、本件実施例の追試として甲16、38、39を提出し、本件明細書の実施例2を追試しても、SAPO-34の大きな均一な結晶は得られず、本件発明で特定される水熱安定性も示さないと主張している。([甲16-A?C]、[甲38-A?C]、[甲39-A?C])
また、甲10には、鋳型剤(TEAOH)がAl_(2)O_(3)のモル数に対して1より少ない場合、不純物が存在するようになり、純粋なSAPO-34は生成しないことが記載されているところ([甲10-A])、本件実施例2のTEA/Al_(2)O_(3)モル比は0.7である。

一方、この点について被請求人は、平成28年9月21日付け口頭審理陳述要領書の第6頁第24?29行において、SAPO-34合成混合物のH_(2)O:Si比が小さいほど、すなわち、合成において水の量が少ないほど、SEMによるSAPO-34の平均結晶寸法は大きくなり、水の量を選択することによって、得られるSAPO-34の平均結晶寸法を制御することができると主張している。([乙16-A?F])

そこで検討するに、まず、本件明細書において、SAPO-34合成混合物のH_(2)O:Si比について記載されているのは、比較例2の、
「【0057】
比較例2(SAPO34 -小さな不均一な結晶)
Alイソプロポキシド、リン酸、テトラエチル・オルトシリケート、TEAOH溶液および脱イオン水を一緒に混合して、以下の組成を有するゲルを形成した:
0.33 SiO_(2) : 1.0 Al_(2)O_(3) : 1.0 P_(2)O_(5) : 1.0 TEAOH: 51 H_(2)O」
のみであり、H_(2)O:Si比と、SAPO-34の平均結晶寸法との関連については記載も示唆もない。

また、被請求人が上記主張の根拠とする乙16の図1には、「H_(2)O:Si比とSEMによるSAPO-34平均結晶寸法との間の相関関係」と題して、乙18の実施例1?3(-×-)及び乙19(-●-)に記載されたデータが示されている。([乙16-B、C])
しかしながら、乙18の実施例1、2、3には、回転楕円体結晶類似粒子(spheroidal isocrystalline particle)の粒径がそれぞれ2?5μm、3?6μm、8?12μmであったことが記載されているにすぎず、また、粒子の粒径と、粒子を構成する結晶の粒径とは区別されることも記載されている([乙18-A?C])。
そして、乙18の実施例1?3には、結晶の粒径について具体的な記載はなく、実施例1?3に対応する図1?3([乙18-D?F])から結晶の粒径を測定することもできない。
また、乙19については、本件特許が優先権を主張する出願の出願日よりも後に公開された文献である。

したがって、乙16の図1に記載されたデータは、いずれも本件発明の実施可能要件を検討するにあたり、技術常識として考慮し得るものではない。

更に、乙16の第10節には、乙17の実施例1、2から、H_(2)O:Si比を増大することによりSiの希釈が増大されると、平均SAPO-34結晶寸法における減少が観察されると記載されている。([乙16-A])
しかしながら、乙17は、H_(2)O:Si比とSAPO-34の平均粒径との関係についての知見が記載されるものではなく、実施例1、2について、単に得られたSAPO-34の平均結晶サイズが記載されているにすぎない。([乙17-A])

これに対して被請求人は、平成29年7月13日付け上申書において、乙35、36の記載から、本件特許の出願時において、当業者が、シリコアルミノホスフェートなどのゼオライトの合成で得られる結晶の寸法を変化させるために、合成ゲル中の水対シリカの比率を変更することは、設計事項であったと主張し、同年9月19日付け意見書においても同様の主張を行っている。
しかしながら、乙35に記載されているのは、H_(2)O/SiO_(2)比の増加、すなわち反応種であるSi濃度の低下により、結晶成長速度が低減することにすぎず([乙35-A])、結晶寸法について記載されるものではない。
また、乙35には、逆にH_(2)O/SiO_(2)比の増大とともに結晶成長速度が増大する例も記載されている。([乙35-B])
更に、H_(2)O/SiO_(2)比の減少により反応種であるSi濃度が高くなれば、結晶成長速度だけでなく核生成速度も増加するから、結晶寸法の大きな単結晶粒子ではなく、粒径の大きい多結晶粒子が生成することも予想され、乙18の図1([乙18-B])にデータが示されている、乙20の回転楕円体結晶類似粒子は、上記予想を裏付けるものといえる。([乙20-B、D?F])
加えて、乙36の記載は、特定の水/シリカのモル比において、結晶寸法が極小値となることが記載されているものであり([乙36-A])、合成において水の量が少ないほど、SEMによるSAPO-34の平均結晶寸法は大きくなる、という被請求人の主張([乙16-A?F])と整合しない。

上記のとおりであるから、H_(2)O/SiO_(2)比がゼオライトの結晶成長速度に影響を与えることが技術常識であるとしても、本件明細書の比較例2の記載からH_(2)O/SiO_(2)比を減少させることにより、結晶寸法が大きくなった実施例2のマイクロポーラス結晶性物質を製造することが、当業者にとって設計事項にすぎないものであるとはいえない。

したがって、本件明細書は、請求項1、16に記載された「0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」、及び請求項9に記載された「0.3ミクロンを超える結晶寸法を有する銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」なる発明特定事項について、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

よって、無効理由5-1には理由がある。

エ 無効理由5についてのまとめ
上記のとおりであるから、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32についての「0.3ミクロンを超える結晶寸法のSAPO-34を含んで成る水熱的に安定なマイクロポーラス結晶性物質」に関する無効理由5、及び、本件発明9、10、12、13、15についての「銅を含んで成るSAPO-34の水熱安定性」に関する無効理由5は理由があり、その余の無効理由5には理由がない。

4.無効理由1について
(1)甲4発明
甲4には、炭化水素を有する酸化雰囲気下のNOxの選択的還元は、排気ガス中のNOxの触媒除去用の新たな方法として注目されていること([甲4-A、F])、そして、Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換したSAPO-34が、C_(3)H_(6)を用いたNOの還元において、高温条件で高い転化率を示すこと([甲4-B、C])が記載されている。

したがって、甲4には、次の発明(甲4発明)が記載されている。
「C_(3)H_(6)を用いた排ガス中のNOの選択的還元において、Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換したSAPO-34を用いる方法。」

(2)本件発明1
ア 本件発明1と甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「SAPO-34」は、本件発明1の「SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」に相当し、甲4発明のSAPO-34が「Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換した」ことは、本件発明1の「前記結晶性物質は、結晶性物質に銅を含んで成ること」に相当する。
そして、甲4発明の「排ガス中のNOの選択的還元」は、本件発明1の「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)であって、該方法は」「排ガスを、」「SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質と」「接触させることを含んでな」ることに相当する。

してみれば、本件発明1と甲4発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
排ガスを、SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質と接触させることを含んでなり、前記結晶性物質は、結晶性物質に銅を含んで成る、方法。」

相違点1:本件発明1は、マイクロポーラス結晶性物質が、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなり、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、並びに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成るものであるのに対し、甲4発明は、SAPO-34の結晶寸法、並びに、Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換する前のSAPO-34において、前記本件発明1で特定する条件で水熱処理した際の、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、並びに酸性度の保持量が不明である点。

相違点2:本件発明1は、排ガスと、SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質とを、アンモニア又は尿素の存在下に接触させるものであるのに対し、甲4発明は、C_(3)H_(6)を用いたものである点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記相違点1について、請求人は、平成28年9月21付け口頭審理陳述要領書の第29?31頁において、甲4発明のより正確な再現試験であると主張する甲32から、甲4には、「0.3ミクロンを越える結晶寸法を有する銅含有SAPO-34を含んで成るマイクロポーラス結晶性物質と、当該マイクロポーラス結晶性物質が『10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700?900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%ならびに少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する』ことは実質的に開示されている」としている。

ここで、甲4には、SAPO-34を、「米国特許」に従って合成したこと、及び、コロイド状のSiO_(2)、Al化合物としてAl[OCH(CH_(3))_(2)]_(3)、リン酸、及びテンプレートアミンとして10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシドを用い、数時間混合して得られたSAPO-34の前駆体を、483Kで24時間加熱してSAPO-34を合成したことが記載されている([甲4-B、G])。
そして、上記記載で引用された文献のうち、米国特許第3972983号は、SAPO-34に関するものではないから、上記甲4に記載された「米国特許」は、米国特許第4440871号(乙1)である。

しかしながら、甲4には、乙1の特定の実施例に則してSAPO-34を合成したとは記載されていないし、乙1に記載されたSAPO-34の焼成条件は、上記甲4の記載と整合しない([甲1-A?C];甲1は乙1の日本語ファミリー文献である)。
してみれば、甲32に、水、リン酸、アルミニウムイソプロポキシド、コロイダルシリカ、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドを順に混合し、撹拌して得られた合成ゲルを、静的条件下、210℃にて24時間水熱処理を施し、洗浄、乾燥、焼成を行い、SAPO-34(E3-cal)を得たこと、及び、該「E3-cal」に銅イオン交換を行うことにより、Cu-SAPO-34(E3-Cu-型)を得たことが記載されている([甲32-A])としても、上記のとおり、甲4と甲1とは焼成条件が整合していないうえに、甲4に記載のない製造条件について甲1の特定の実施例の記載を参酌することが妥当であるとはいえない。

また、甲4には、Cu-SAPO-34を、3体積%H_(2)Oを含む加湿雰囲気下、1073K(800℃)で焼成(熱処理)すると、NO還元に対する活性が低下したことが記載されている([甲4-D、E])が、仮に、甲4発明の「SAPO-34」が、「0.3ミクロンを越える結晶寸法を有」し、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700?900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%ならびに少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する」ような水熱安定性を有するのであれば、Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換した後、上記甲4に記載された低加湿雰囲気下かつ低温で熱処理しても、NO還元に対する活性は低下しないと理解される。

よって、甲32の記載をもって、上記相違点1が実質的な相違点ではないと直ちに認めることはできない。

更に、仮に甲32の追試が妥当なものであったとしても、測定された結晶寸法や水熱安定性は、追試をしなければ得られない知見であって、甲4に、「0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなり、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、並びに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質」が記載されていることにはならない。

(イ)相違点2について
甲4は、その表題に「Copper Ion-Exchanged SAPO-34 as a Thermostable Catalyst for Selective Reduction of NO with C_(3)C_(6)(訳:C_(3)H_(6)を用いたNOの選択的還元に向けた熱安定性触媒としての銅イオン交換したSAPO-34)」と記載されるとおり、C_(3)H_(6)を用いたNOの選択的接触還元に関するものであり、甲4には、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明1のアンモニア又は尿素に変更する動機付けとなるような記載がない。

この点について、請求人は、口頭審理と同日に請求人から提出された上申書の第23?26頁において、甲5、6、30に記載された発明及び甲20?22、24、41に記載の周知技術に基づけば、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明1のアンモニア又は尿素に変更する動機付けがあると主張するので、更に検討する。

甲5には、NOxとアンモニアを含む排気ガスを酸素と共に触媒に移動させることを含む、NOxの選択的接触還元において、前記触媒として、約0.01重量%?約5重量%の銅充填量を有するSAPO-34を用いることが記載されている。([甲5-A?C])

甲6には、銅を含むゼオライトが、アンモニアを用いたNOの選択的接触還元、及び酸化雰囲気中で炭化水素を用いたNOの選択的接触還元(HC-SCR)において活性であることが記載されている。([甲6-A、B])

甲30には、NOx還元剤として、燃料やその他の炭化水素、尿素水を排気ガス中に添加し得ること、及びNOx還元触媒としてCu-SAPO-34を用い得ることが記載されている。([甲30-A])

甲20には、NOの除去技術として、NH_(3)、CO又は炭化水素の還元剤を使用する、TiO_(2)(-V_(2)O_(5))-WO_(3)やPt-Pd(-Rh)の触媒の接触還元法が実用的に使用されていること([甲20-A])、及び銅イオン交換したゼオライトが、酸化雰囲気中で炭化水素を用いたNOの選択的接触還元(HC-SCR)に用い得ることが記載されている。([甲20-B])

甲21には、酸化雰囲気中、炭化水素類の存在下における、排ガス中の窒素酸化物の除去において、SAPO-34のCu交換体を用い得ることが記載されている。([甲21-A、B])

甲22には、「Pt」、「Modified Pt」、「V_(2)O_(5)/TiO_(2)」、「Zeolite」がアンモニアを用いた選択的接触還元(SCR)の触媒として用いられること、及び「Pt/Al_(2)O_(3)」、「Cu/ZSM5」が炭化水素を用いたSCRの触媒として用いられることが記載されている。([甲22-A?C])

甲24には、Cu-SAPO-34が、C_(3)H_(6)を用いたNOの選択還元反応の触媒として用いられることが記載されている。([甲24-A、B])

甲41には、ガソリンエンジン自動車や大型産業用プラントで生成される酸化窒素を、三元触媒やNH_(3)を用いた選択的還元により除去することはよく知られていること([甲41-B])、及びCu-SAPO-34の熱安定性は自動車排ガスに適していることが記載されている。([甲41-C])

しかしながら、まず、甲5の「約0.01重量%?約5重量%の銅充填量を有するSAPO-34」は、モレキュラーシーブ(SAPO-34)と金属ないし金属酸化物とを物理的に混合して製造されるものであり([甲5-A])、甲4発明の「Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換したSAPO-34」とは異なる物質である。

そして、甲6、甲30、甲20?22、甲24、甲41には、「NOxの選択的接触還元における還元剤としてアンモニアや尿素を用いること」、及び「NOxの選択的接触還元における触媒として、銅を含有するSAPO-34を用いること」がそれぞれ独立して記載されているとまではいえるが、「還元剤としてアンモニアや尿素を用いるNOxの選択的接触還元における触媒として、銅を含有するSAPO-34を用いること」について記載するものはない。
甲41の、「Cu-SAPO-34の熱安定性は自動車排ガスに適している」という記載も、該記載は、「5.2.1 Thermostable NO Reduction Catalyst with Hydrocarbon(当審訳:炭化水素を用いたNO還元触媒の熱安定性)」の項におけるものであるから([甲41-A])、還元剤としてアンモニアや尿素を用いるNOxの選択的接触還元に関する記載であるとはいえない。

また、請求人は更に甲31を提出し、平成28年9月21日付け口頭審理陳述要領書の「第2 III.(1)」において、甲4発明の「Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換したSAPO-34」は、炭化水素以外のアンモニア又は尿素を還元剤として用いたSCR用触媒としても応用できること、甲4発明の還元剤である炭化水素にかえて、還元剤として当業者に周知のアンモニアを用いることに困難性はないこと、及び還元剤として炭化水素を用いたSCRにおいて活性を示す触媒であれば、還元剤としてアンモニアを用いるSCRにおいても同様の効果が得られることを予測できることを主張する。([甲31-A])

上記主張について検討するに、還元剤として炭化水素を用いるNOxの選択的接触還元と、還元剤としてアンモニア又は尿素を用いるNOxの選択的接触還元との反応機構や反応効率などが同様であることを示す証拠はなく、還元剤として炭化水素を用いるNOxの選択的接触還元に用いられる触媒が、還元剤としてアンモニア又は尿素を用いるNOxの選択的接触還元に用いる場合においても同様の作用効果が得られる、とする根拠はない。
してみると、仮に甲4発明において、C_(3)H_(6)にかえてアンモニアを用いたとしても、本件明細書に記載された作用効果(水熱安定性やNOx転化率)を奏することは、甲4並びに上記甲5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術から当業者に予期し得たものとはいえない。

よって、本件発明1は、甲4発明に、甲1、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?8、29、31
本件発明2?8、29、31は、本件発明1を更に限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲1、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明9
ア 本件発明9と甲4発明との対比
本件発明9と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換したSAPO-34」は、本件発明9の「銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」に相当し、甲4発明の「排ガス中のNOの選択的還元」は、本件発明9の「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は」「銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質に、排ガスを」「接触させることを含んで成る」ものに相当する。

してみれば、本件発明9と甲4発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質に、排ガスを接触させることを含んで成る、方法。」

相違点1:本件発明9は、銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質が、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後にその表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するのに対し、甲4発明は、Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換したSAPO-34において、前記本件発明9の条件で水熱処理した際の、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、及び結晶寸法が不明である点。

相違点2:本件発明9は、銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質と排ガスとを、アンモニア又は尿素の存在下に接触させるものであるのに対し、甲4発明は、C_(3)H_(6)を用いたものである点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記「第6 4.(2)イ(ア)」に記載のとおり、甲32に記載された「E3-Cu-型」が、甲4発明の「Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換したSAPO-34」であるとはいえず、甲4発明の「Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換したSAPO-34」が、本件発明9で特定された結晶寸法や、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、並びに酸性度の保持量の要件を満たすことを直ちに認めることはできない。
また、少なくとも、甲4には、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後にその表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持する、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有する銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」が記載されているとはいえない。

(イ)相違点2について
上記「第6 4.(2)イ(イ)」に記載のとおり、甲4には、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明9のアンモニア又は尿素に変更する動機付けがない。
また、甲5、6、30に記載された発明及び甲20?22、24、41に記載の周知技術に基づいて、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明9のアンモニア又は尿素に変更することができるとしても、本件明細書に記載された作用効果を奏することを、当業者が予期し得たとはいえない。

よって、本件発明9は、甲4発明に、甲1、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明10、12、13、15
本件発明10、12、13、15は、本件発明9を更に限定したものであるから、上記本件発明9についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲1、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明16
ア 本件発明16と甲4発明との対比
本件発明16と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「SAPO-34」は、本件発明16の「SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質を含んで成る物品」に相当し、甲4発明のSAPO-34が「Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換した」ことは、本件発明16の「前記結晶性物質は、結晶性物質に銅を含んで成ること」に相当する。
そして、甲4発明の「排ガス中のNOの選択的還元」は、本件発明16の「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)であって、該方法は」「NOxを含んで成る排ガスと該物品を」「接触させることを含んで成」ることに相当する。

してみれば、本件発明16と甲4発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
SAPO-34を含んで成るマイクロポーラス結晶性物質を含んで成る物品を用意する工程、NOxを含んで成る排ガスと該物品を接触させる工程を含んで成り、
前記マイクロポーラス結晶性物質は、結晶性物質に銅を含んで成る、方法。」

相違点1:本件発明16は、マイクロポーラス結晶性物質が、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなり、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、並びに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成るものであるのに対し、甲4発明は、SAPO-34の結晶寸法、並びに、Cu^(2+)イオンを用いてイオン交換する前のSAPO-34において、前記本件発明16の条件で水熱処理した際の、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、並びに酸性度の保持量が不明である点。

相違点2:本件発明16は、NOxを含んで成る排ガスと、SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質を含んで成る物品とを、アンモニア又は尿素の存在下に接触させるものであるのに対し、甲4発明は、C_(3)H_(6)を用いたものである点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記「第6 4.(2)イ(ア)」に記載のとおり、甲32に記載された「E3-cal」が、甲4発明の「SAPO-34」であるとはいえず、甲4発明の「SAPO-34」が、本件発明16で特定された結晶寸法や、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、並びに酸性度の保持量の要件を満たすことを直ちに認めることはできない。
また、少なくとも、甲4には、「0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなり、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、並びに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質」が記載されているとはいえない。

(イ)相違点2について
上記「第6 4.(2)イ(イ)」に記載のとおり、甲4には、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明16のアンモニア又は尿素に変更する動機付けがない。
また、甲5、6、30に記載された発明及び甲20?22、24、41に記載の周知技術に基づいて、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明16のアンモニア又は尿素に変更することができるとしても、本件明細書に記載された作用効果を奏することを、当業者が予期し得たとはいえない。

よって、本件発明16は、甲4発明に、甲1、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件発明17?22、30、32
本件発明17?22、30、32は、本件発明16を更に限定したものであるから、上記本件発明16についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲1、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)本件発明24?28
本件発明24?28は、本件発明16を更に限定したものである。
また、甲7にも、結晶質シリコアルミノホスフェートが、HC-NOx反応を選択的に促進することが記載されるにすぎない。([甲7-A、B])

したがって、上記本件発明16についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲1、5?7、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)無効理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、無効理由1には理由がない。

5.無効理由2について
(1)本件発明1
ア 甲4発明の認定、及び本件発明1と甲4発明との対比
甲4発明の認定、及び本件発明1と甲4発明との一致点、相違点については、上記「4.(1)」及び「4.(2)ア」に記載のとおりである。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記相違点1について、請求人は、審判請求書の第77?80頁、及び請求人の平成28年9月21付け口頭審理陳述要領書の第34?35頁において、甲11の記載を考慮すると、甲10の実施例1に記載されている手順にのっとり調製されたSAPO-34は、本件発明1に規定されている水熱的に安定な特性を有しており、甲4発明のSAPO-34にかえて、甲10に記載されたSAPO-34を適用することは当業者が容易になし得るものであるとしている。

しかしながら、甲10は、特にメチルアミン類の製造に適した触媒に関する文献であって([甲10-B])、NOxの選択的接触還元について記載されるものではなく、甲4発明のSAPO-34にかえて、甲10に記載されたSAPO-34を適用する動機付けがない。
請求人は、平成28年9月21付け口頭審理陳述要領書の第36頁において、甲10には、アミン類の製造触媒以外にも、他の触媒反応へ適用できることの記載があり([甲10-B])、NOxのSCR触媒への適用の示唆を含み得ると主張するが、甲10には、NOxの選択的接触還元について何ら具体的に記載されていないから、かかる主張は採用できない。

また、仮に甲4発明の「SAPO-34」にかえて、甲10に記載のSAPO-34を用いたとしても、以下のとおり相違点1は解消されない。

甲10には、鋳型剤である水酸化テトラエチルアンモニウム、アルミニウム化合物である擬ベーマイト、リン酸、シリカゾル、及び水を含む原料混合物を水熱処理して、立方体状の結晶であり、平均粒子径が1.8μmであり、純粋なシャバサイト型構造を有する8員環SAPOの粉末を得たことが記載されている。([甲10-C])

そして、甲11には、甲10(Higuchi特許)の実施例1に記載されている手順にのっとり、「試料1(SAPO-34)」を調製したこと、及び、該「試料1」について900℃、H_(2)O10%、16時間の条件でエージングを行い、エージング前後における表面積、マイクロ細孔体積、酸性度を測定したことが記載されている。([甲11-A、B])

しかしながら、甲11に記載された「試料1」の調製方法は、使用する原料の量が異なり、また、甲10の実施例1では、混合物を400rpmで撹拌しながら水熱処理したのに対し([甲10-C])、甲11では15rpmでオートクレーブを回転しながら昇温、反応させており([甲11-A])、水熱処理条件が異なるから、甲11の「試料1」は、甲10発明を再現したものとはいえない。

この点について、請求人は平成28年9月21日付け口頭審理陳述要領書の第43?44頁、「V.(1)」において、甲11の「試料1」は、甲10と比較して、使用した材料がおよそ20分の1のスケールであり、容積の小さなオートクレーブを用いているため、その容器自体を回転させたものであり、回転の手段や速度に差異があっても、甲11では甲10と同程度の撹拌速度で混合物を撹拌させているといえるため、SAPO-34の特性に影響を及ぼすものではないと主張する。
また、甲10にも撹拌速度の異なる実施例が開示されており、撹拌速度の違いによりSAPO-34の特性に影響を及ぼしたとしても、その影響は小さいものと考えられることを主張する。
しかしながら、製造スケールや回転手段の差異を考慮すれば、上記甲10と甲11との回転速度に上記のとおり大きな差異があっても、同程度の撹拌速度になるといえる根拠は不明である。
また、撹拌速度の差が、SAPO-34の特性に及ぼす影響が小さいとする根拠も不明である。
したがって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。

上記のとおりであるから、甲10に記載のSAPO-34が、本件発明1で特定された、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、並びに酸性度の保持量の要件を満たすとはいえない。

(イ)相違点2について
上記「(ア)」でも説示したとおり、甲10は、特にメチルアミン類の製造に適した触媒に関する文献であって、還元剤としてアンモニアや尿素を用いるNOxの選択的接触還元について記載されるものではない。
以下、「第6 4.(2)イ(イ)」に記載のとおりであり、甲4には、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明1のアンモニア又は尿素に変更する動機付けがなく、また、甲10、5、6、30に記載された発明及び甲20?22、24、41に記載の周知技術に基づいて、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明1のアンモニア又は尿素に変更することができるとしても、本件明細書に記載された作用効果を奏することを、当業者が予期し得たとはいえない。

よって、本件発明1は、甲4発明に、甲10、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2?8、29、31
本件発明2?8、29、31は、本件発明1を更に限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲10、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明9、10、12、13、15
本件発明9と甲4発明との一致点、相違点については、上記「第6 4.(4)ア」に記載のとおりであり、該相違点についての判断は、上記「第6 5.(1)イ」と同様である。

すなわち、相違点1について、甲10は、特にメチルアミン類の製造に適した触媒に関する文献であって、NOxの選択的接触還元について記載も示唆もないから、甲4発明のSAPO-34にかえて、甲10に記載されたSAPO-34を適用する動機付けがない。
また、仮に甲4発明の「SAPO-34」にかえて、甲10に記載のSAPO-34を用いたとしても、相違点1は解消されない。
相違点2について、甲4には、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明9のアンモニア又は尿素に変更する動機付けがなく、また、甲10、5、6、30に記載された発明及び甲20?22、24、41に記載の周知技術に基づいて、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明9のアンモニア又は尿素に変更することができるとしても、本件明細書に記載された作用効果を奏することを、当業者が予期し得たとはいえない。

よって、本件発明9は、甲4発明に、甲10、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件発明10、12、13、15は、本件発明9を更に限定したものであるから、上記本件発明9についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲10、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明16?22、30、32
本件発明16と甲4発明との一致点、相違点については、上記「第6 4.(6)ア」に記載のとおりであり、該相違点についての判断は、上記「第6 5.(1)イ」と同様である。
また、本件発明17?22、30、32は、本件発明16を更に限定したものである
したがって、本件発明16?22、30、32は、甲4発明に、甲10、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明24?28
本件発明24?28は、本件発明16を更に限定したものである。
また、甲7にも、結晶質シリコアルミノホスフェートが、HC-NOx反応を選択的に促進することが記載されるにすぎない。([甲7-A、B])
したがって、上記本件発明16についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲10、5?7、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)無効理由2についてのまとめ
上記のとおりであるから、無効理由2には理由がない。

6.無効理由3について
(1)本件発明1
ア 甲4発明の認定、及び本件発明1と甲4発明との対比
甲4発明の認定、及び本件発明1と甲4発明との一致点、相違点については、上記「4.(1)」及び「4.(2)ア」に記載のとおりである。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記相違点1について、請求人は、審判請求書の第94?98頁において、甲9の記載を考慮すると、甲12の実施例2に記載されている手順にのっとり調製されたSAPO-34は、本件発明1に規定されている水熱的に安定な特性を有しており、甲4発明のSAPO-34にかえて、甲12に記載されたSAPO-34を適用することは当業者が容易になし得るものであるとしている。

しかしながら、甲12は、特に水蒸気吸着材に適したゼオライトに関する文献であって、NOxの選択的接触還元について記載されるものではなく、甲4発明のSAPO-34にかえて、甲12に記載されたゼオライトを適用する動機付けがない。
請求人は、審判請求書の第97頁において、甲12には、工業的に所望な触媒や吸着材に広く使用することができることの記載があり([甲12-C])、排ガス中のNOxのSCR方法に用いる触媒が工業的に所望な触媒の一つであることは当業者に自明であると主張するが、甲12には、NOxの選択的接触還元について何ら具体的に記載されていないから、かかる主張は採用できない。

また、仮に甲4発明の「SAPO-34」にかえて、甲12に記載のゼオライトを用いたとしても、以下のとおり相違点1は解消されない。

甲12の実施例2には、テンプレートとしてモルホリン及びトリエチルアミンを用いた水性ゲルをオートクレーブ中で撹拌しながら反応させて、CHA構造を有するゼオライトを得たことが記載されている。([甲12-B])

そして、甲9の「試験-1」には、甲12(Takewaki特許)の実施例2に記載されている手順にのっとり、「試料1(SAPO-34)」を調製したこと、及び、該「試料1」について900℃、H_(2)O10%、16時間の条件でエージングを行い、エージング前後における表面積、マイクロ細孔体積、酸性度を測定したことが記載されている。([甲9-A、B])

しかしながら、甲12には、製造されたゼオライトが、ケイ素、アルミニウム、リンを含有するゼオライト、すなわち「SAPO」であって、CHA構造を有することは記載されている([甲12-A、B])ものの、それが「SAPO-34」であるとまでは記載されていない。
この点について、請求人は平成28年9月21付け口頭審理陳述要領書の第38?41頁の「IV.(1)」において、甲1の「例38」には、SAPO-34が第XI表([甲1-D])に示す特性的X線粉末回折パターンを有することが記載され、甲12の図2([甲12-D])に記載されたX線回折図は、前記甲1の第XI表に記載のピークをすべて含んでいるから、上記甲12の実施例2に記載されたSAPOは、SAPO-34と同等であると主張する。
上記主張について検討するに、甲1の第XI表は、相対強度が「w」、「m」、「s」、「vs」という記号で記載されているにすぎず、その関係は明確でない。
一方、甲1の第35頁左下欄には、「X線粉末回折データが現在得られている合成されたままのSAPO-34組成物の全ては下記第XII表の一般化パターン内にあるパターンを有する」ことが記載されており、2θが9.45-9.65のピークは、「100×I/I_(0)」が「81-100」、2θが20.55-20.9のピークは、「100×I/I_(0)」が「44-100」であることが記載されている。([甲1-D])
そして、甲12の図2は、2θ=約20.5に最も強いピークを有し、2θ=約9.5のピーク強度は、2θ=約20.5のピーク強度の60%程度であることが読み取れる。([甲12-D])
また、甲12の実施例2に基づいて調製された、甲9の「試験-1」のXRDスペクトルである図1も、2θ=約20.5に最も強いピークを有しており、2θ=約9.5のピーク強度は、2θ=約20.5のピーク強度の70%程度であることが読み取れる。([甲9-C])
すなわち、甲12の図2に記載されたX線回折図、及び甲9の図1に記載されたXRDスペクトルは、いずれも甲1に、「合成されたままのSAPO-34組成物の全ては下記第XII表の一般化パターン内にあるパターンを有する」と記載された第XII表と一致しない。
したがって、甲12に記載の「CHA構造を有するSAPO」が、「SAPO-34」であるということはできない。

イ 相違点2について
上記「(ア)」でも説示したとおり、甲12は、特に水蒸気吸着材に適したゼオライトに関する文献であって、還元剤としてアンモニアや尿素を用いるNOxの選択的接触還元について記載されるものではない。
以下、「第6 4.(2)イ(イ)」に記載のとおりであり、甲4には、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明9のアンモニア又は尿素に変更する動機付けがなく、また、甲12、5、6、30に記載された発明及び甲20?22、24、41に記載の周知技術に基づいて、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明9のアンモニア又は尿素に変更することができるとしても、本件明細書に記載された作用効果を奏することを、当業者が予期し得たとはいえない。

よって、本件発明1は、甲4発明に、甲12、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2?8、29、31
本件発明2?8、29、31は、本件発明1を更に限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲12、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明9、10、12、13、15
本件発明9と甲4発明との一致点、相違点については、上記「第6 4.(4)ア」に記載のとおりであり、該相違点についての判断は、上記「第6 6.(1)イ」と同様である。

すなわち、相違点1について、甲12は、特に水蒸気吸着材に適したゼオライトに関する文献であって、NOxの選択的接触還元について記載も示唆もないから、甲4発明のSAPO-34に、甲12に記載されたゼオライトを適用する動機付けがない。
また、仮に甲4発明の「SAPO-34」にかえて、甲12に記載のゼオライトを用いたとしても、相違点1は解消されない。
相違点2について、甲4には、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明9のアンモニア又は尿素に変更する動機付けがなく、また、甲12、5、6、30に記載された発明及び甲20?22、24、41に記載の周知技術に基づいて、甲4発明のC_(3)H_(6)を、本件発明9のアンモニア又は尿素に変更することができるとしても、本件明細書に記載された作用効果を奏することを、当業者が予期し得たとはいえない。

よって、本件発明9は、甲4発明に、甲12、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件発明10、12、13、15は、本件発明9を更に限定したものであるから、上記本件発明9についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲12、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明16?22、30、32
本件発明16と甲4発明との一致点、相違点については、上記「第6 4.(6)ア」に記載のとおりであり、該相違点についての判断は、上記「第6 6.(1)イ」と同様である。
また、本件発明17?22、30、32は、本件発明16を更に限定したものである
したがって、本件発明16?22、30、32は、甲4発明に、甲12、5、6、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明24?28
本件発明24?28は、本件発明16を更に限定したものである。
また、甲7にも、結晶質シリコアルミノホスフェートが、HC-NOx反応を選択的に促進することが記載されるにすぎない。([甲7-A、B])
したがって、上記本件発明16についての判断と同様の理由により、甲4発明に、甲12、5?7、30に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)無効理由3についてのまとめ
上記のとおりであるから、無効理由3には理由がない。

7.無効理由4について
(1)甲5発明
甲5には、NOxの選択的接触還元に有効な処理条件下で、NOxとアンモニアを含む排気ガスを酸素と共に触媒に移動させることを含む、排気ガスを処理する方法が記載され、該触媒として、約0.01重量%?約5重量%の銅充填量を有するSAPO-34を用い得ることが記載されている([甲5-A?C])。

したがって、甲5には、次の発明(甲5発明)が記載されている。
「NOxとアンモニアを含む排気ガスを酸素と共に触媒に移動させることを含む、NOxの選択的接触還元において、該触媒として、約0.01重量%?約5重量%の銅充填量を有するSAPO-34を用いる方法。」

(2)本件発明1
ア 本件発明1と甲5発明との対比
本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「SAPO-34」は、本件発明1の「SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」に相当し、甲5発明のSAPO-34が「約0.01重量%?約5重量%の銅充填量を有する」ことは、本件発明1の「結晶性物質は、結晶性物質に銅を含んで成る」ことに相当する。
そして、甲5発明の「NOxとアンモニアを含む排気ガスを酸素と共に触媒に移動させることを含む、NOxの選択的接触還元」は、本件発明1の「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)であって、該方法は」「排ガスを、」「SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質とアンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んでな」ることに相当する。

してみれば、本件発明1と甲5発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
排ガスを、SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質とアンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んでなり、前記結晶性物質は、結晶性物質に銅を含んで成る、方法。」

相違点:本件発明1は、マイクロポーラス結晶性物質が、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなり、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、並びに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成るものであるのに対し、甲5発明は、SAPO-34の結晶寸法、並びに、銅を充填する前のSAPO-34において、前記本件発明1の条件で水熱処理した際の、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、並びに酸性度の保持量が不明である点。

イ 相違点についての判断
上記相違点について、請求人は、審判請求書の第113頁において、甲10には、「0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んで成るマイクロポーラス結晶性物質」であって、「前記結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する」ことが実質的に開示されているものであり、甲5発明のSAPO-34にかえて、甲10に記載されているSAPO-34を用いることは当業者であれば容易になし得ることであるとしている。

しかしながら、上記「第6 5.(1)イ(ア)」で既に説示したとおり、甲10は、特にメチルアミン類の製造に適した触媒に関する文献であって、NOxの選択的接触還元について記載も示唆もないから、甲5発明のSAPO-34にかえて、甲10に記載されたSAPO-34を適用する動機付けがない。

また、仮に甲5発明の「SAPO-34」にかえて、甲10に記載のSAPO-34を用いたとしても、上記「第6 5.(1)イ(ア)」で既に説示したとおり、甲11の「試料1」は、甲10発明を再現したものとはいえず、甲10に記載されたSAPO-34が、「10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、並びに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する」ものであるとはいえないから、上記相違点は解消されない。

甲13?15には、アンモニアや尿素を用いたNOxの還元に用いられる触媒には水熱安定性が要求されることが記載されているにとどまり、SAPO-34についての記載はない。([甲13-A、B]、[甲14-A、B]、[甲15-A?D])

更に、甲4について検討するに、上記「第6 4.(2)イ(ア)」に記載のとおり、甲4には、「0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなり、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、並びに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質」が記載されているとはいえない。
また、甲4は、C_(3)H_(6)を用いたNOの選択的接触還元に関するものであるから、甲5発明のSAPO-34にかえて、甲4に記載されたSAPO-34を適用する動機付けもない。

そして、上記「第6 4.(2)イ(イ)」に記載のとおり、甲20?22、24、41にも、「還元剤としてアンモニアや尿素を用いるNOxの選択的接触還元における触媒として、銅を含有するSAPO-34を用いること」について記載するものはない。

上記のとおりであるから、甲5発明において上記相違点を解消することは、当業者が容易になし得ることではない。

よって、本件発明1は、甲5発明に、甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?8、29、31
本件発明2?8、29、31は、本件発明1を更に限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲5発明に、甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明9
ア 本件発明9と甲5発明との対比
本件発明9と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「約0.01重量%?約5重量%の銅充填量を有するSAPO-34」は、本件発明9の「銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質」に相当し、甲5発明の「NOxとアンモニアを含む排気ガスを酸素と共に触媒に移動させることを含む、NOxの選択的接触還元」は、本件発明9の「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は」「銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質に、排ガスをアンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んで成る」ものに相当する。

してみれば、本件発明9と甲5発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質に、排ガスをアンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んで成る、方法。」

相違点:本件発明9は、銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質が、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後にその表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するのに対し、甲5発明は、約0.01重量%?約5重量%の銅充填量を有するSAPO-34において、前記本件発明9の条件で水熱処理した際の、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、及び結晶寸法が不明である点。

イ 相違点について
上記「第6 7.(2)イ」で既に説示したとおり、甲10は、特にメチルアミン類の製造に適した触媒に関する文献であって、NOxの選択的接触還元について記載も示唆もないから、甲5発明のSAPO-34にかえて、甲10に記載されたSAPO-34を適用する動機付けがない。
また、仮に甲5発明の「SAPO-34」にかえて、甲10に記載のSAPO-34を用いたとしても、上記「第6 7.(2)イ」にて説示したとおり、上記相違点は解消されない。

甲13?15、4、20?22、24、41についても、上記「第6 7.(2)イ」にて説示したとおり、上記相違点を解消するものではない。

よって、本件発明9は、甲5発明に、甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明10、12、13、15
本件発明10、12、13、15は、本件発明9を更に限定したものであるから、上記本件発明9についての判断と同様の理由により、甲5発明に、甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明16
ア 本件発明16と甲5発明との対比
本件発明16と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「SAPO-34」は、本件発明16の「SAPO-34を含んで成るマイクロポーラス結晶性物質を含んで成る物品」に相当し、甲5発明のSAPO-34が「約0.01重量%?約5重量%の銅充填量を有する」ことは、本件発明1の「マイクロポーラス結晶性物質は、結晶性物質に銅を含んで成る」ことに相当する。
そして、甲5発明の「NOxとアンモニアを含む排気ガスを酸素と共に触媒に移動させることを含む、NOxの選択的接触還元」は、本件発明16の「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)であって、該方法は」「NOxを含んで成る排ガスと該物品をアンモニアまたは尿素の存在下に接触させる工程を含んで成」ることに相当する。

してみれば、本件発明16と甲5発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
SAPO-34を含んで成るマイクロポーラス結晶性物質を含んで成る物品を用意する工程、NOxを含んで成る排ガスと該物品をアンモニアまたは尿素の存在下に接触させる工程を含んで成り、
前記マイクロポーラス結晶性物質は、結晶性物質に銅を含んで成る、方法。」

相違点:本件発明16は、マイクロポーラス結晶性物質が、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなり、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700℃から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積及びマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、並びに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成るものであるのに対し、甲5発明は、SAPO-34の結晶寸法、並びに、銅を充填する前のSAPO-34において、前記本件発明16の条件で水熱処理した際の、表面積及びマイクロ細孔体積の保持率、並びに酸性度の保持量が不明である点。

イ 相違点について
上記「第6 7.(2)イ」で既に説示したとおり、甲10は、特にメチルアミン類の製造に適した触媒に関する文献であって、NOxの選択的接触還元について記載も示唆もないから、甲5発明のSAPO-34にかえて、甲10に記載されたSAPO-34を適用する動機付けがない。
また、仮に甲5発明の「SAPO-34」にかえて、甲10に記載のSAPO-34を用いたとしても、上記「第6 7.(2)イ」にて説示したとおり、上記相違点は解消されない。

甲13?15、4、20?22、24、41についても、上記「第6 7.(2)イ」にて説示したとおり、上記相違点を解消するものではない。

よって、本件発明16は、甲5発明に、甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件発明17?22、24?28、30、32
本件発明17?22、24?28、30、32は、本件発明16を更に限定したものであるから、上記本件発明16についての判断と同様の理由により、甲5発明に、甲10、13?15、4に記載された発明及び甲20等周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)無効理由4についてのまとめ
上記のとおりであるから、無効理由4には理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1?10、12、13、15?22、24?32の特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号ないし第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、発明の詳細な説明の記載が、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもあるから、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
そして、本件請求項11、14、23は、訂正により削除されたため、本件請求項11、14、23に対する特許無効の請求については、対象となる請求項が存在しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
排ガスを、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質とアンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んでなり、
前記結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成る、方法。
【請求項2】
前記銅は、前記SAPO-34の陽イオン交換部位にある、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記銅は、液相もしくは固体のイオン交換によって前記固体へ導入される、請求項2に記載された方法。
【請求項4】
前記SAPO-34は1?20%の範囲の量でSiO_(2)を含む、請求項1に記載された方法。
【請求項5】
前記SAPO-34は0.3から5.0ミクロンの範囲の結晶寸法を有する、請求項1に記載された方法。
【請求項6】
前記結晶性物質は少なくとも650m^(2)/gの初期表面積を有する、請求項1に記載された方法。
【請求項7】
前記結晶性物質は少なくとも0.25cc/gの初期マイクロ細孔体積を有する、請求項1に記載された方法。
【請求項8】
前記接触工程はアンモニアまたは尿素の存在下に実施される、請求項1に記載された方法。
【請求項9】
排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に900℃までの温度に1時間までの暴露の後にその表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持する、0.3ミクロンを超える結晶寸法を有する銅含有SAPO-34を含んでなるマイクロポーラス結晶性物質に、排ガスをアンモニアまたは尿素の存在下に接触させることを含んで成る、方法。
【請求項10】
前記銅は、液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入される、請求項9に記載された方法。
【請求項11】 (削除)
【請求項12】
前記銅が前記物質の総重量の少なくとも1.0重量パーセントを含んで成る、請求項9に記載された方法。
【請求項13】
前記SAPO-34は1?20%のSiO_(2)を含む、請求項9に記載された方法。
【請求項14】 (削除)
【請求項15】 前記SAPO-34は0.3から5.0ミクロンの範囲の結晶寸法を有する、請求項9に記載された方法。
【請求項16】
排ガス中のNOxの選択的な触媒的還元(SCR)方法であって、該方法は
0.3ミクロンを超える結晶寸法を有するSAPO-34を含んで成るマイクロポーラス結晶性物質を含んで成る物品を用意する工程、NOxを含んで成る排ガスと該物品をアンモニアまたは尿素の存在下に接触させる工程を含んで成り、
前記マイクロポーラス結晶性物質は、10体積パーセントまでの水蒸気の存在下に700から900℃の範囲の温度に16時間の暴露の後に、その表面積およびマイクロ細孔体積の少なくとも80%を保持し、ならびに、少なくとも0.40mmol/gの酸性度を保持する結晶性物質に銅を含んで成る、方法。
【請求項17】
前記銅は、前記SAPO-34の陽イオン交換部位にある、請求項16に記載された方法。
【請求項18】
前記銅は、液相もしくは固体のイオン交換によって前記結晶性物質へ導入される、請求項17に記載された方法。
【請求項19】
前記SAPO-34はSiO_(2)を1?20%の範囲の量で含む、請求項16に記載された方法。
【請求項20】
前記SAPO-34は0.3から5.0ミクロンの範囲の結晶寸法を有する、請求項16に記載された方法。
【請求項21】
前記結晶性物質は少なくとも650m^(2)/gの初期表面積を有する、請求項16に記載された方法。
【請求項22】
前記結晶性物質は少なくとも0.25cc/gの初期マイクロ細孔体積を有する、請求項16に記載された方法。
【請求項23】 (削除)
【請求項24】
前記物品はチャネル構造またはハニカム構造の本体;充てん床;マイクロスフィア;または構造片の形態にある、請求項16に記載された方法。
【請求項25】
前記充てん床は球状物、破砕物、ペレット、タブレット、押出物、他の粒子状物質、またはそれらの結合を含んで成る、請求項24に記載された方法。
【請求項26】
前記構造片は板状体またはチューブの形態にある、請求項24に記載された方法。
【請求項27】
チャネル構造またはハニカム構造の本体または構造片は、SAPO-34モレキュラーシーブを含んで成る混合物を押出して形成される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
チャネル構造またはハニカム構造の本体または構造片は、予め形成された基板上にSAPO-34モレキュラーシーブを含んで成る混合物を塗布または被着させることによって形成される、請求項24に記載された方法。
【請求項29】
前記結晶性物質は、0.40mmol/g?0.57mmol/gの範囲の酸性度を保持する、請求項1記載の方法。
【請求項30】
前記結晶性物質は、0.40mmol/g?0.57mmol/gの範囲の酸性度を保持する、請求項16記載の方法。
【請求項31】
前記結晶性物質は、0.40mmol/gまたは0.57mmol/gの酸性度を保持する、請求項1記載の方法。
【請求項32】
前記結晶性物質は、0.40mmol/gまたは0.57mmol/gの酸性度を保持する、請求項16記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-09-29 
結審通知日 2017-10-04 
審決日 2017-10-17 
出願番号 特願2011-104243(P2011-104243)
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (B01J)
P 1 113・ 121- ZAA (B01J)
P 1 113・ 536- ZAA (B01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大工原 大二原田 隆興  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 新居田 知生
永田 史泰
登録日 2015-06-19 
登録番号 特許第5762816号(P5762816)
発明の名称 8員環細孔開口構造を有するモレキュラーシーブまたはゼオライトを含んで成る新規マイクロポーラス結晶性物質およびその製法およびその使用  
代理人 尼崎 匡  
代理人 田村 啓  
復代理人 竹本 晋也  
代理人 尼崎 匡  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 田村 啓  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 佐藤 剛  
復代理人 赤羽 良之  
代理人 城山 康文  
代理人 村上 遼  
代理人 飯野 陽一  
代理人 金山 賢教  
代理人 森本 靖  
代理人 森本 靖  
代理人 佐藤 剛  

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