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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23F
管理番号 1339407
審判番号 不服2017-1968  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-10 
確定日 2018-04-12 
事件の表示 特願2012-274756号「紅茶風味飲料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月30日出願公開、特開2014-117224号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件拒絶査定不服審判に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成24年12月17日の特許出願であって、平成28年5月11日付けの拒絶理由通知書に対し、平成28年6月24日に意見書及び手続補正書が提出された後、平成28年10月28日付けで拒絶査定がされ(発送日:平成28年11月15日)、これに対し、平成29年2月10日に本件拒絶査定不服審判が請求された。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「飲料に対して0.1mg/100ml以上10mg/100ml以下のタンニンと、
飲料に対して1.0×10^(-4)質量%以上、かつ、0.9×10^(-3)質量%以下(ただし、0.9×10^(-3)質量%を除く)のカフェインと、を含む紅茶風味飲料。」

2.引用発明
(1) 原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2011-155891号公報(以下、「引用例」という。)は、容器詰紅茶飲料に関するものであって、以下の事項が記載されている。
ア 「従来の果汁入り紅茶飲料は、前述のように、紅茶の渋味と果汁・酸味料による爽快感が好まれて飲用されてきたが、最近は嗜好の変化により、渋味を強く感じたり、後味として収斂味を感じたり、刺激が強いと感じる人が増加する傾向にある。
そこで本発明は、苦渋味や収斂味が抑制されていて低刺激でやさしく感じられる、新たな酸性紅茶飲料を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
本発明は、カフェインを0.001?0.005質量%含有し、かつ、甘味料と果汁を含有する容器詰紅茶飲料であって、酸度が0.02?0.08%の範囲にあり、かつ酸度が前記範囲にある時の糖度と酸度で表される甘辛度が1.50?2.50の範囲にあることを特徴とする容器詰紅茶飲料を提案する。」(段落【0007】?【0008】)
イ 「(果汁)
本紅茶飲料に加える果汁の種類は特に限定するものではない。例えばオレンジ、ピーチ、ホワイトグレープ、りんご、レモン、いちご、グレープフルーツ、マンゴー、梨、ベルガモットなどを挙げることができ、1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
なお、紅茶葉の種類と果汁の相性、組み合わせる果汁同士の相性を考慮して果汁を選択するのが好ましい。
また、本紅茶飲料の後味及び果汁の質感を高める観点から、加える果汁の酸度は3.0%以下、特に0.1%以上、2.0%以下、その中でも特に0.2%以上、1.0%以下であるのが好ましい。かかる観点からは、レモン以外の果汁、例えばりんご、オレンジ、ピーチなどが好ましい。
(果汁量)
本紅茶飲料における果汁量(日本農林規格(JAS)準拠)は、適度な紅茶感と果汁感を得る観点から、0.05質量%以上、5.0質量%以下であるのが好ましく、特に0.1質量%以上、3.0質量%以下であるのがより好ましい。
(甘味料)
本紅茶飲料は、甘味料を含むものであるが、甘味料の種類は特に限定するものではなく、糖類、人工甘味料のいずれであってもよい。
糖類としては、例えば砂糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、還元麦芽糖などを挙げることができる。
人工甘味料としては、例えばキシリトール、ステビア抽出物、パラチノース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア、サッカリン、サッカリンナトリウム、スクラロースなどを挙げることができる。
甘辛度と酸味をバランスよく調整する観点からは、甘辛度に影響する糖類と、甘辛度には影響しないが、香味の調整を行う点とから、人工甘味料とを併用するのが好ましい。
(カフェイン)
本紅茶飲料におけるカフェイン含有量は、0.001?0.005質量%であるのが重要である。カフェイン含有量が0.001質量%以上であれば、のどごしが良好である一方、0.005質量%以下であれば苦味が強いこともない。
よって、かかる観点から、カフェイン含有量は0.001?0.005質量%であるのが重要であり、好ましくは0.002以上、0.004以下、中でも特に0.0025以上、0.0035以下であるのがさらに好ましい。
なお、本紅茶飲料におけるカフェイン含有量は、上述のようにカフェインを低減した葉を使用したり、抽出条件を調整したりするなどによって調整することができる。」(段落【0019】?【0023】)
ウ 「(酸度)
本紅茶飲料の酸度は0.02?0.08%であることが重要である。
酸度が0.02%以上であれば、爽快感を感じることができ、0.08%以下であれば、酸味が強すぎて刺激が強いと感じることがない。
かかる観点から、本紅茶飲料における酸度は0.02?0.08%であるのが重要であり、特に0.035以上、0.065以下、その中でも特に0.04以上、0.055以下であるのが好ましい。
なお、本紅茶飲料の酸度は、主に果汁の種類と含有量、酸味料の種類と添加量等によって調整することができる。
(甘辛度)
甘辛度は、糖度(全体固形量)と酸度で表される指標である。
本紅茶飲料においては、酸度が0.02?0.08%にある時の甘辛度が1.50?2.50にあることが重要である。甘辛度が1.50以上であれば、酸味が強過ぎることがなく刺激が強いこともない一方、甘辛度が2.50以下であれば、甘味が強過ぎることがなく、残味を感じることもないから好ましい。
よって、本紅茶飲料においては、酸度が0.02?0.08%にある時の甘辛度は1.50?2.50であるのが好ましく、特に1.65以上、2.35以下であるのがより好ましく、その中でも1.80以上、2.20以下であるのがさらに好ましい。
なお、本紅茶飲料の甘辛度は、例えば糖類(砂糖・果糖)の種類と量、果汁の種類と量、紅茶抽出物の添加量、酸味料の添加量など調整によって調整することができる。」((段落【0026】?【0027】)
エ 「(カテキン類含有量)
また、本紅茶飲料におけるカテキン類含有量は、0.002質量%?0.006質量%であるのが好ましい。0.002質量%以上であれば、コク味(紅茶の濃度感)を感じられる点で好ましい一方、0.006質量%以下であれば、渋味及び収斂味を感じることがない点で好ましい。
よって、かかる観点から、本紅茶飲料におけるカテキン類含有量は0.002質量%?0.005質量%であるのが好ましく、特に0.0025質量%以上、0.0045質量%以下、その中でも特に0.0030質量%以上、0.0040質量%以下であるのがさらに好ましい。
なお、カテキン類含有量は、紅茶抽出液及び、紅茶濃縮物の添加量により調整することができる。」(段落【0031】)
オ 「<実施例1>
紅茶抽出液A500.0g、紅茶濃縮物21.0gに、りんご果汁(ストレート)を40.0g、酒石酸を1.1g、クエン酸を1.0g、グラニュー糖を183g、果糖を100g加えて希釈後、pHが3.80になるように重曹を添加し、さらに香料を10g添加し、そして全量が10000gになるように純水でメスアップした。
このように調合した紅茶飲料を、95℃達温まで加熱して殺菌した後、PETボトル容器に充填し冷却して、容器詰紅茶飲料(サンプル)を得た。
<実施例2-12、比較例1-10>
実施例1のサンプル作成方法を基準とし、表1及び表2に示すように、紅茶抽出液A乃至B、紅茶濃縮物および各種添加物の添加量を変更して、容器詰紅茶飲料(サンプル)を作製した。」(段落【0055】?【0056】)
カ 「表2

」(段落【0063】)
(2) 上記カの「比較例7」とは、上記オも参照すれば、紅茶抽出液125.0g、紅茶濃縮物28.0gに、りんご果汁(ストレート)を40.0g、酒石酸を2.9g、クエン酸を2.5g、グラニュー糖を205g加えて希釈後、pHが3.80になるように重曹を添加し、さらに香料を10g添加し、そして全量が10000gになるように純水でメスアップしてなるものであって、紅茶飲料である。
この「比較例7」に係る紅茶飲料は、カフェインを0.0009質量%、カテキン類等を0.0030質量%含むものである。
(3) 引用例の「比較例7」に係る紅茶飲料に着目し、本願発明の表現にならって整理すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「飲料に対して0.0030質量%のカテキン類と、飲料に対して0.00054質量%のテアフラビン類と、
飲料に対して0.9×10^(-3)質量%のカフェインと、を含む紅茶飲料。」
3.発明の対比・判断
(1)本件発明(以下、「前者」ということがある。)と引用発明(以下、「後者」ということがある。)を対比する。
ア 後者の「紅茶飲料」は、紅茶抽出液及び紅茶濃縮物を含み、苦渋味評価も「2」とされ(表2参照)、苦渋味を感じさせるものであり、紅茶の風味を呈する飲料といえるから、前者の「紅茶風味飲料」に相当する。
イ 後者の「カテキン類」は、前者の「タンニン」に相当する。
ウ 後者の「カテキン類」の量は、「0.0030質量%」である。
後者を開示する引用例は、比較例7に係る紅茶飲料の密度を記載するものではないが、前記2(2)からすると、重曹の重量は不明なものの、それ以外の材料が総計で413.4gであるのだから、これに合わせる純水は、9586.6g程度必要となる。この純水の量を紅茶飲料の体積(9586.6ml)として計算すると、密度は、1.04程度となり、この値を踏まえれば、後者において含まれる「カテキン類」の量は、多くても「3.12mg/100ml」程度と算出される。
そうしてみると、後者の密度に多少のずれがあったとしても、後者のタンニンとして含まれる「カテキン類」及び「テアフラビン類」の合計量が、前者で「タンニン」についていう「0.1mg/100ml以上10mg/100ml以下」の範囲に含まれることは明らかである。
エ 以上を踏まえると、両者は、
「飲料に対して0.1mg/100ml以上10mg/100ml以下のタンニンと、
カフェインと、を含む紅茶風味飲料。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点] カフェインの量として、前者では「1.0×10^(-4)質量%以上、かつ、0.9×10^(-3)質量%以下(ただし、0.9×10^(-3)質量%を除く)」と特定されているのに対して、後者では「0.9×10^(-3)質量%」である点。
(2)上記相違点について検討する。
ア 引用発明は、それを開示する引用例において“比較例”に位置づけられるものである。しかしながら、引用例において、“実施例”、“比較例”という名称は、飲料としてより優れたものを得るために種々のサンプルを作製し、それらの評価から好適な範囲を決め、それに沿ってそれらサンプルに付されたものである。そうすると、引用発明が比較の対象の飲料として認識できる以上、当業者がその飲料における添加物の量を変更する等の工夫をし得ない、というものではない。
また、一般的に、飲料として健康等を配慮してカフェインの量が少ないものが好まれることは良く知られている(必要であれば、特開2010-94043号公報の【0015】等参照。)。
イ 本件発明は、含まれるカフェインの量を特定の範囲としたものであるが、そのことにより顕著な効果(臨界的な意義)がもたらされるものではない。
すなわち、本願の明細書には、本件発明の効果を確認するための材料として、実施例6、実施例8,実施例9が記載されているが、それらについての評価と、“比較例”、例えば、本件発明のカフェイン量の上限を少し超えた「0.001質量%」の“比較例2”“比較例4”の評価からは、本件発明がカフェイン量の違いにより明らかな利点を有しているとはいえない。本願の明細書には、本件発明カフェイン量の上限値(0.9×10^(-3)質量%以下(ただし、0.9×10^(-3)質量%を除く))近傍での実施例が存在せず、それを少し超えた含有量「0.001質量%」のもの(比較例2,比較例4)でも特に変わらないか、あるいはかえって優れた効果を奏していると理解できる。
ウ 本件発明において、カフェイン量は、0.9×10^(-3)質量%を若干下回ったもの(例えば、0.89×10^(-3)質量%、0.88×10^(-3)質量%といった値。)も含まれ、引用発明において、カフェイン量が若干低減したものとすること(例えば、0.89×10^(-3)質量%、0.88×10^(-3)質量%といった値にすること。)自体は、当業者にとって通常の創作能力を発揮してなし得たことである。
しかも、本件発明による効果は、既にイで述べたように、格別顕著なものではない。
そうすると、本件発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ なお、引用発明を開示する引用例には、カフェイン量の下限として「0.001」(質量%)という値が示されているが(前記2(1)ア、イ参照)、これは、引用例において、“苦渋味や収斂味が抑制されていて低刺激でやさしく感じられる”という課題に照らして、酸度及び甘辛度を特定の範囲内にすることと合わせて決められたものであって、もとよりカフェイン量がこの値を下回る比較例7に当てはまる制約ではない。

4.むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができない。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-07 
結審通知日 2018-02-13 
審決日 2018-02-26 
出願番号 特願2012-274756(P2012-274756)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上村 直子  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 莊司 英史
窪田 治彦
発明の名称 紅茶風味飲料  
代理人 正林 真之  

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