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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部無効 特174条1項  A23L
審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  A23L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1339457
審判番号 無効2017-800075  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-06-02 
確定日 2018-04-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第5903130号発明「海苔製造機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5903130号は、平成26年7月9日に出願され、平成28年3月18日に設定登録されたものである。
また、本件無効審判請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 6月 2日 無効審判請求
平成29年 8月31日 審判事件答弁書提出
平成29年10月31日 審判事件弁駁書提出
平成29年11月16日 上申書提出(請求人)

なお、本件では、被請求人から平成29年8月31日付け審判事件答弁書で、また、請求人から平成29年11月16日付け上申書で、書面審理の申立てがなされているので口頭審理は不実施とされた。


第2 特許請求の範囲
本件特許の請求項1及び2には、次のような記載がある。

「【請求項1】
建屋の内部に設置された海苔製造機であって、抄製した海苔生地を加熱空気で乾燥させる乾燥室と、乾燥室に加熱空気を供給する加熱室とを有し、加熱室の吸気部から吸気した空気を加熱して乾燥室に供給するとともに、海苔生地の乾燥に使用した加熱空気を乾燥室の排気部から排気する海苔製造機において、乾燥室の排気部と加熱室の吸気部との間に乾燥室の排気部から加熱室の吸気部へと流入する空気の流入量を規制するための空気流入量規制装置を介設し、前記加熱室に複数の加熱装置を設けるとともに、各加熱装置に対応する空気流入量規制装置を設け、乾燥室の内部の湿度に応じて空気の流入量を規制するよう空気流入量規制装置を制御するコントローラーを有し、コントローラーは、各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させることを特徴とする海苔製造機。

【請求項2】
前記コントローラーは、乾燥室の後側部分の湿度が前記第2後側所定湿度よりも高い所定湿度(第1後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の海苔製造機。」


第3 無効理由及び無効理由に対する答弁
1.請求人主張の無効理由
請求人は、「特許第5903130号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。
その理由の概要は以下のとおりである。

(1)無効理由1(特許法第17条の2第3項)
平成27年12月16日付けでなされた手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本件特許発明に係る特許は特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(特許法第29条第1項柱書)
本件特許発明は、特許法第2条第1項でいう発明ではなく、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしておらず、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3(特許法第36条第4項第1号)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件特許発明に係る特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(4)無効理由4(特許法第36条第6項第1号)
本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許発明に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(5)無効理由5(特許法第36条第6項第2号)
本件特許発明は明確でないから、本件特許発明に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

なお、請求人は審判事件弁駁書において、進歩性(特許法第29条第2項)違反についての主張(3頁最終行?4頁14行)を行っているが、この主張は審判請求書において主張されておらず要旨変更にあたるので審理の対象としなかった。
また、同審判事件弁駁書において、明確性(特許法第36条6項2号)違反について「本審判請求書では指摘しなかった事項を含めて、以下にその理由を詳しく述べる。」(6頁14-15行)と主張しているが、当該主張も審判請求書では指摘しなかった事項についての主張は要旨変更にあたるので、審判請求書に記載された範囲で審理を行った。

2.無効理由に対する被請求人の答弁
被請求人は、答弁書において、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めている。

3.証拠方法
請求人及び被請求人は証拠方法を提出しなかった。


第4 当審の判断
事案に鑑み、無効理由5から検討する。

1.無効理由5(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求人は、「本件特許の特許請求の範囲の請求項1の『乾燥室の排気部と加熱室の吸気部との間に乾燥室の排気部から加熱室の吸気部へと流入する空気の流入量を規制するための空気流入量規制装置』(以下、「空気流入量規制装置A」という。)と、『各加熱装置に対応する空気流入量規制装置』(以下、「空気流入量規制装置B」という。)と、『後側部分の空気流入量規制装置』(以下、「空気流入量規制装置C」という。)とは、同じ空気流入量規制装置であるか異なる空気規制装置であるか、それらの関係が明瞭でない。」(審判請求書13頁19?23行)と主張している。
しかし、空気流入量規制装置Aは、「乾燥室の排気部から加熱室の吸気部へと流入する空気の流入量を規制するため」のものであり、空気流入量規制装置Bの「各加熱装置」は、「加熱室」に設けられて、空気の流入量を規制するものであり、空気流入量規制装置Cの「後側部分」は、「加熱室」の「後側部分」で、「空気流入量」を規制するものであるから、これらの前後関係を踏まえて、各空気流入量規制装置は同じものを意味していると理解できる。
よって、請求項1に係る発明は明確である。

(2)請求人は、「請求項1の『加熱室の吸気部』と『加熱室の前側の吸気部』と、請求項2の『加熱室の後側の吸気部』とは、同じ吸気部であるか異なる吸気部であるか、それらの関係が明瞭でない。」(審判請求書13頁24行?14頁1行)と主張している。
しかし、明細書の段落0024?0032及び図1?4の記載から、吸気部22が前側、吸気部30が後側の加熱室の吸気部を指すことは明らかであり、請求項1の「加熱室の吸気部」と「加熱室の前側の吸気部」と、請求項2の「加熱室の後側の吸気部」の関係は明確である。

(3)請求人は、「請求項1の『乾燥室の後側部分』は、『焼成した海苔生地を加熱空気で乾燥させる乾燥室』のどの部分であるのか明瞭でない。」(審判請求書14頁2?3行)と主張している。
この点、特許請求の範囲の記載から直ちに明らかであるとはいえない。そこで、発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌すると、明細書の段落0020?0032及び図1?4の記載から、乾燥室の加熱装置16が設けられた側(すなわち、抄製装置3が設けられた側)の半分が前側部分に、反対側の半分が後側部分にあたることは理解できる。
よって、「乾燥室の後側部分」が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

(4)請求人は、「請求項1の『各加熱装置』と『乾燥室の後側部分』と、『後側部分の空気流入量規制装置』と、『加熱室の前側の吸気部』と、請求項2の『加熱室の後側の吸気部』とは、それらの位置関係が明瞭でない。」(審判請求書14頁4?6行)と主張している。
この点も、特許請求の範囲の記載から直ちに明らかであるとはいえない。そこで、発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌すると、明細書の段落0024?0032及び図1?4の記載から、「各加熱装置16,17」が対面しており、 乾燥室の加熱装置17が設けられた側の半分が「乾燥室の後側部分」であり、加熱室の加熱装置16が設けられた側の半分に対応する吸気部が「加熱室の前側の吸気部22」であり、加熱室の加熱装置17が設けられた側の半分に対応する吸気部が「加熱室の後側の吸気部30」にあたるという位置関係が理解できる。
よって、上記位置関係が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

(5)請求人は、「請求項1及び請求項2のコントローラーは、『乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度より高い場合』に『後側部分の空気流入量規制装置を制御』するところ、乾燥室等には『乾燥室の後段部分の湿度を検出する手段』が備えられている必要があるが、請求項1及び請求項2に記載の海苔製造機には『乾燥室の後段部分の湿度を検出する手段』を特定する記載はなく、いずれの手段で『乾燥室の後側部分の湿度を検出する』のか明瞭でない。」(審判請求書7?12行)と主張している。
しかし、当業者にとって、センサーを用いて湿度を検出できることは自明であり、検知を必要とする場所に適宜必要なセンサーを設けることもまた自明であるから、『乾燥室の後段部分の湿度を検出する手段』を明示的に特定していないことが請求項1及び2の記載を不明確にしているとはいえない。

(6)小括
以上のとおりであるから、請求項1及び2についての特許は、無効理由5によって無効とすることはできない。

してみれば、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。また、これらをまとめて単に「本件特許発明」と言うことがある。)は、その明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記第2の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認める。

2.無効理由1(特許法第17条の2第3項)について
(1)本件特許発明1について
請求人は、請求項1に係る本件手続補正による「コントローラーは、各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」の発明特定事項(以下、「発明特定事項1」という。)について、「補正の根拠とされる段落0035の上記の記載(「なお、コントローラーは、・・・前側の吸気部22に流入する空気の量を減少させてもよい。」の記載)は独立した記載ではなく、段落0034,0035に示されている『コントローラー42は、乾燥室12の前側部分の湿度が所定湿度よりも高くなっている場合には、前側の加熱装置16に対応する空気流入量規制装置36,37を制御して乾燥室12の排気部34から加熱室13の前側の吸気部22に流入する空気の量を減少させ、さらに、乾燥室12の後側部分の湿度が所定湿度よりも高くなっている場合には、必要により、後側の加熱装置17に対応する空気流入量規制装置38,39を制御して乾燥室12の排気部34から加熱室13の前側の吸気部22に流入する空気の量を減少させてもよい。』(当審注:以下、「特定事項A」という)との記載の一部である。
すなわち、本件特許発明1の発明特定事項のコントローラーは、段落0034,0035に記載も示唆もされておらず、出願当初の明細書等のその余の記載事項を参酌しても、記載も示唆もされておらず、当業者においてそのような技術的事項が自明であると認められる根拠記載事項もないので、当該補正事項は新規事項の追加である。」(審判請求書5頁22行?6頁8行)と主張している。
しかし、請求人が審判請求書で段落0034,0035に示されているとした特定事項Aは、請求人が付け加えた内容を含むものであり、明細書の段落0034,0035に記載された内容そのままではなく、請求人の主張は前提において誤っている。
そして、本件手続補正後の上記発明特定事項1は、願書に最初に添付した明細書の段落0035に記載された「コントローラー42は、センサー43によって乾燥室12の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度:後述する第1後側所定湿度よりも低く設定された湿度)よりも高くなっていることを検出した場合にのみ、後側の加熱装置17に対応する空気流入量規制装置38,39を制御して乾燥室12の排気部34から加熱室13の前側の吸気部22に流入する空気の量を減少させてもよい。」の記載と実質的に一致している。
してみれば、本件手続補正後の請求項1の上記発明特定事項1は出願当初の段落0035に記載された範囲内のものであり、新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、本件手続補正は新規事項の追加にはあたらない。

(2)本件特許発明2について
請求人は、請求項2に係る本件手続補正による「コントローラーは、乾燥室の後側部分の湿度が前記第2後側所定湿度よりも高い所定湿度(第1後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」の発明特定事項(以下、「発明特定事項2」という。)について、「補正の根拠とされる段落0036の上記の記載(「同様に、・・・空気の量を減少させる。」の記載)は本件特許発明1に従属するものではなく、段落0034,0035とは独立した発明特定事項のコントローラーを記載したものである。」(審判請求書6頁21?23行)と主張して、上記請求項2に係る本件手続補正は新規事項の追加にあたるとしている。
しかし、段落0036の記載は「同様に」として、段落0034,0035の前側部分の制御と並列して後側部分の制御について特定するものであり、後側部分の制御について特定する段落0036に記載された内容と前側部分の制御について特定する段落0034,0035に記載された内容を併用することについても示唆しているといえるから、本件手続補正後の上記発明特定事項2は、願書に最初に添付した明細書に記載されているといえる。
よって、請求項2に係る本件手続補正が新たな技術的事項を導入するものとはいえず、新規事項の追加にあたらない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び2についての特許は、無効理由1によって無効とすることはできない。

3.無効理由2(特許法第29条第1項柱書)について
請求人は審判請求書において、「本件特許発明1及び2において、『コントローラーが、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる』と、『その分、加熱室の後側に流入する空気の量が増大してしまい、乾燥室の後側部分の湿度が増大して、乾燥不良が発生する』ことになり、明細書の段落0009に記載されている『湿度の高い空気が再び加熱室で加熱されて乾燥室に供給されるために、乾燥室の内部の湿度が高くなってしまい、海苔生地を良好に乾燥させることができず、乾燥海苔の商品価値を損ねる』という本件特許発明1及び2の発明が解決しようとする課題を解決することができず、逆に発明が解決しようとする課題を増長させる効果を奏することになる。
つまり、本件特許発明1及び2には、発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、発明の課題を解決することは明らかに不可能なものであり、よって本件特許発明1及び2は発明ではない。」(審判請求書8頁14?最終行)と主張している。
しかし、請求人が主張するとおり、本件発明は「湿度の高い空気が再び加熱室で加熱されて乾燥室に供給されるために、乾燥室の内部の湿度が高くなってしまい、海苔生地を良好に乾燥させることができず、乾燥海苔の商品価値を損ねる」(段落0009)という課題を解決するものであるところ、本件特許発明1及び2は、後側部分の空気流入量規制装置を制御することにより、本件特許発明1では前側の吸気部に流入する空気の量を、また、本件特許発明2ではさらに後側の吸気部に流入する空気の量を減少させるものである。
そして、当該前側及び後側の吸気部に流入する空気の量を減少すれば、排気部からの湿度の高い空気の加熱室への流入を防げることになり、海苔生地を良好に乾燥させるという本件発明の上記課題が解決できることは自明であり、本件特許発明1及び2が、上記発明の課題を解決することが不可能であるとはいえない。
なお、請求人は、「コントローラーが、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」と、「その分、加熱室の後側に流入する空気の量が増大してしまい、乾燥室の後側部分の湿度が増大して、乾燥不良が発生する」と主張するが、当該主張は乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させると、その分、加熱室の後側に流入する空気の量が増大するという関係が必ず生じることを前提とするものである。
しかし、そのような前提は本件明細書に記載されておらず、上述のように、後側部分の空気流入量規制装置を制御することにより、前側の吸気部に流入する空気の量と後側の吸気部に流入する空気の量を減少させることができることは当業者にとって明らかである。
よって、本件特許発明1及び2についての特許は、無効理由2によって無効とすることはできない。

4.無効理由3(特許法第36条第4項第1号)について
(1)請求人は、明細書の記載を参酌しても、出願時の当業者の通常の知識を用いても、明細書の段落0009に記載された「湿度の高い空気が再び加熱室で加熱されて乾燥室に供給されるために、乾燥室の内部の湿度が高くなってしまい、海苔生地を良好に乾燥させることができず、乾燥海苔の商品価値を損ねる」という課題を解決するという作用効果を奏することはできず、本件特許発明は実施できないと主張している。
ここで、当該請求人の主張は、「発明の課題を解決するための本件特許発明1のコントローラーは、『各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度よりも高い場合に、後側の空気流入量規制装置を制御して、乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を増加させることなく、乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる』もの(当審注:以下、「特定事項B」という。)である必要がある。また、発明の課題を解決するための本件特許発明2のコントローラーは、『各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して、乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を増加させることなく、乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させ、さらに、乾燥室の後側部分の湿度が前記第2後側所定湿度よりも高い所定湿度(第1後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を減少させる』もの(当審注:以下、「特定事項C」という。)である必要がある。」(審判請求書9頁18行?10頁5行)ことを前提とするものである。
しかし、上記記載中の特定事項B及びCは、本件特許明細書の発明の詳細な説明中に記載されたものではない。すなわち、上記特定事項B及びCの下線が付された部分は、明細書に記載されていない。
そして、本件特許発明1は、後側部分の空気流入量規制装置を制御することにより、前側の吸気部に流入する空気の量を減少させ、また本件特許発明2は、さらに後側の吸気部に流入する空気の量を減少させるものであり、前側又は後側の吸気部に流入する空気の量を減少させるにあたって、乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量をどのようにするかについては、何ら特定していないから、上記特定事項B及びCの「乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を増加させることなく、」という事項を前提とする請求人の主張は失当である。
よって、請求人の上記主張は認められない。

(2)また、請求人は、「空気流入量規制装置を制御した場合に、吸気部に流入する空気の量にもたらす効果に関する記載が不十分(空気流入量規制装置を開くのか、閉じるのか、具体的に記載されていない)で当業者が実施できない。」(審判請求書11頁7?9行)と主張している。
しかし、発明の詳細な説明の段落【0031】?【0039】に記載されているように、空気流入量規制装置は前側、後側を別個に制御できることから、本件特許発明1の「コントローラーは、各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」ことが、乾燥室の後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させるために、後側部分の空気流入量規制装置を開くことであることは当業者にとって自明である。
同様に、本件特許発明2の「コントローラーは、乾燥室の後側部分の湿度が前記第2後側所定湿度よりも高い所定湿度(第1後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」ことが、乾燥室の後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を減少させるためには、後側部分の空気流入量規制装置を閉じることであることも当業者にとって自明である。
そして、本件特許発明1に係る上記「コントローラーは、各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」との構成と本件特許発明2に係る上記「コントローラーは、乾燥室の後側部分の湿度が前記第2後側所定湿度よりも高い所定湿度(第1後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」との構成では、制御にあたっての閾値としての第1後側所定湿度及び第2後側所定湿度が異なっており、発明の詳細な説明には両者を併用するにあたっての阻害要因があることについての記載はなされていない。
してみれば、空気流入量規制装置を制御するにあたって、具体的に空気流入量規制装置を開くのか、閉じるのかが、発明の詳細な説明の記載から明らかでなく、当業者が実施できないとはいえない。
よって、請求人の上記主張は認められない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び2についての特許は、無効理由3によって無効とすることはできない。

5.無効理由4(特許法第36条第6項第1号)について
請求人は、審判請求書において、請求項1記載の「空気流入量規制装置」並びに請求項1及び2記載の「コントローラー」について明細書に開示されていない旨主張している。
そこで、以下それぞれについて検討する。

(1)空気流入量規制装置について
請求項1記載の空気流入量規制装置は、明細書及び図面記載の空気流入量規制装置36?39を指すものと認められるから、本件特許発明にサポート要件違反はない。
なお、請求人は、「本件特許の特許請求の範囲の請求項1の『B.乾燥室の排気部と加熱室の吸気部との間に乾燥室の排気部から加熱室の吸気部へと流入する空気の流入量を規制するための空気流入量規制装置を介設し、前記加熱室に複数の加熱装置を設けるとともに、各加熱装置に対応する空気流入量規制装置を設け』には、『乾燥室の排気部と加熱室の吸気部との間に設けられ、乾燥室の排気部から加熱室の吸気部へと流入する空気の流入量を規制するための空気流入量規制装置(以下、「空気流入量規制装置A」という。)』と『前記加熱室に設けた複数の加熱装置のそれぞれに対応する空気流入量規制装置(以下、「空気流入量規制装置B」という。)』という、設置位置の異なる2種類の空気流入量規制装置A、空気流入量規制装置Bが含まれている。」(審判請求書11頁14?23行)ことを前提として、空気流入量規制装置の開示がない旨主張している。
しかし、明細書の段落0024?0032及び図1?4には、上記空気流入量規制装置Aと空気流入量規制装置Bが区別されたものとの記載はなく、空気流入量規制装置36?39が記載されている。
そして、図1?4において、空気流入量規制装置36?39は、乾燥室12の排気部34と加熱室13の吸気部22,30との間に設けられ、乾燥室12の排気部34から加熱室13の吸気部22,30へと流入する空気の流入量を規制するものであると同時に、加熱室13に設けた複数の加熱装置16,17のそれぞれに対応するように構成されている。
よって、請求項1に、設置位置の異なる2種類の空気流入量規制装置(空気流入量規制装置A、空気流入量規制装置B)が含まれていることを前提とする請求人の主張は失当である。
また、請求人は、「加熱室に設けた複数の加熱装置のそれぞれに対応する空気流入量規制装置B」については明細書に開示されていない旨主張しているが、特に図3の記載を参照すれば、空気流入量規制装置36?39のうち空気流入量規制装置36,37及び空気流入量規制装置38,39は、複数の加熱装置16及び加熱装置17のそれぞれに対応するように構成されているものと認められる。
よって、請求人の空気流入量規制装置A及び空気流入量規制装置Bに基づく主張は採用できない。

(2)コントローラーについて
請求人は、請求項1記載の「各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」コントローラーは、段落0034に記載のものでも、段落0036に記載のものでもない旨主張している(審判請求書12頁17行?13頁5行)。
しかし、当該請求項1記載のコントローラが、段落0034や段落0036に記載されたものでないことは、湿度の検知対象や制御対象の相違から明らかであり、湿度の検知対象や制御対象からすれば、段落0035に記載の「センサー43によって乾燥室12の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度:後述する第1後側所定湿度よりも低く設定された湿度)よりも高くなっていることを検出した場合にのみ、後側の加熱装置17に対応する空気流入量規制装置38,39を制御して乾燥室12の排気部34から加熱室13の前側の吸気部22に流入する空気の量を減少させ」る制御を行うコントローラーを意味することは明らかである。
よって、請求項1記載のコントローラが段落0034や段落0036に記載されたものでなく、段落0035に記載されたものであるから、請求人の主張を考慮しても、請求項1記載のコントローラが発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。
また、請求項2記載のコントローラについても、段落0034に記載のものでも、段落0036に記載のものでもない旨主張している(審判請求書13頁6?16行)。
しかし、当該請求項2記載のコントローラは、請求項1記載の制御に加えて、段落0036に記載の「センサー43によって乾燥室12の後側部分の湿度が所定湿度(第1後側所定湿度)よりも高くなっていることを検出した場合には、後側の加熱装置17に対応する空気流入量規制装置38,39を制御して乾燥室12の排気部34から加熱室13の後側の吸気部30に流入する空気の量を減少させる」制御を行うコントローラにあたる。
よって、請求項2記載のコントローラは、段落0036に記載されており、請求人の主張は失当である。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び2についての特許は、無効理由4によって無効とすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1?5はいずれも理由がなく、請求人の主張によっては本件特許発明1及び2に係る特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-21 
結審通知日 2018-02-26 
審決日 2018-03-09 
出願番号 特願2014-141300(P2014-141300)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (A23L)
P 1 113・ 537- Y (A23L)
P 1 113・ 55- Y (A23L)
P 1 113・ 1- Y (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 中村 則夫
特許庁審判官 山崎 勝司
井上 哲男
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5903130号(P5903130)
発明の名称 海苔製造機  
代理人 高松 宏行  
代理人 内野 美洋  

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