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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1339565
審判番号 不服2017-3504  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-08 
確定日 2018-04-19 
事件の表示 特願2013-224612「電子機器及び制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月 7日出願公開、特開2015- 88851〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月29日の出願であって、平成28年9月16日付けで拒絶理由が通知され、同年11月24日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月7日付けで拒絶査定されたところ、平成29年3月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-3に係る発明は、平成28年11月24日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
第1通信方式で通信を行う第1通信部と、
第2通信方式で通信を行う第2通信部と、
前記第1通信部が第1通信装置と通信可能な場合に、前記第1通信装置と第2通信装置との間の通信のデータを、前記第2通信部を介して中継させる制御部と
を備え、
前記制御部は、前記第2通信部を介して前記データを中継させている場合に、前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合、前記第2通信部と前記第2通信装置との再通信を試みずに、前記第1通信部と前記第1通信装置との通信を切断させる電子機器。」
(下線は、平成28年11月24日の手続補正により、新たに追加された事項を示す。)

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.特開2008-92600号公報
2.特開2005-277474号公報(周知技術を示す文献)
3.HANDS FREE PROFILE テクニカルリファレンス、MCPC TR-002、2004年2月17日、Ver.1.0、p.18(周知技術を示す文献)
(上記「2」及び「3」は、拒絶査定時に追加された周知文献である。)

第4 引用例の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2008-92600号公報(平成20年4月17日公開。以下「引用例」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審において付したものである。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ローカル無線通信により通信装置と中継装置との間を接続し、ユーザが通信装置を用い、中継装置を介して相手方通信装置と通話することができるハンズフリー通話システムに関する。ここで、ローカル無線通信とは、例えば、Bluetooth(登録商標)に代表されるような、一定の周波数帯の無線を用いて、近接する装置同士の接続を可能とする近距離無線通信方式をいい、以下、ローカル無線通信をこの意味において用いるものとする。」

(2)「【0008】
このように、従来における無線を用いた通信システムにおいて、無線により接続される区間が不通状態となっている場合には、中継装置である基地局2が、相手方通信装置4に不在メッセージを送信するという対応策が、一般的に講じられている。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の対応策を、前記ハンズフリー通話システムにおけるローカル無線通信により接続される区間の不通状態に適用することは、ローカル無線通信により接続される区間においては、瞬断が多いため、適当ではない。ここで、一般に、瞬断とは、落雷等によって、きわめて短い時間停電することをいうが、ここでいう瞬断とは、電波状況の変化等によって、きわめて短い時間、ローカル無線通信の通信状態が不通状態になることをいう。
【0011】
すなわち、ローカル無線通信により接続される区間においては、通信状態が、接続状態から短時間の不通状態に陥り、再び接続状態となることが多いため、「電波の範囲外にあり通信不能です。」等の不在メッセージを送信することは、相手方に誤解を生じさせ、中継装置と相手方通信装置とは、通話可能状態であるのに、相手方が通話を切断してしまうおそれがあり、ローカル無線通信により接続される区間に瞬断が生じた場合の対策として、適当といえない。特に、相手方が、ローカル無線通信により通信装置と中継装置との間を接続するハンズフリー通話システムを、ユーザが使用していることを、想定していなければ、瞬断によって生じる通信の途切れ、音声の途切れ等の原因が判断できず、相手方の誤解を招く可能性が高い。
【0012】
さらに、ローカル無線通信により接続される区間に瞬断が生じて、通信状態が不通状態に陥り、わずかな時間内に、接続状態に回復しない場合であっても、中継装置と相手方通信装置との通話は、継続されたままの状態であるので、通話継続に伴い、通話に対する課金が増加し続けてしまうという問題もある。
【0013】
そこで、ローカル無線通信により接続される区間に瞬断が生じて、通信状態が不通状態に陥り、わずかな時間内に、接続状態に回復しない場合に、不要な通話に対する課金を抑えることができるローカル無線通信を用いたハンズフリー通話システムを提供することを目的とする。」

(3)「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るローカル無線通信を利用したハンズフリー通話システムおよび本システムにおける中継装置の構成を表す機能ブロック図である。
【0019】
このハンズフリー通話システムは、通信装置と中継装置との間をローカル無線通信により接続し、中継装置を介して、一の通信装置と、遠隔に位置する他の通信装置との間における通話を実現する通信システムであり、通信装置11と中継装置12とネットワーク通信網13と相手方通信装置14とから構成される。
(中略)
【0026】
中継装置12は、ローカル無線通信機能を備えた携帯電話機であり、中継装置側マイク121と、中継装置制御部122と、中継装置側ローカル無線通信部123と、中継装置側ネットワーク通信部124とを備える。なお、この中継装置12は、一の携帯電話機としても使用されうる。
(中略)
【0028】
中継装置制御部122は、中継装置12を構成する他の各部を制御するCPU等であり、ローカル無線通信機能を備えた携帯電話機としての機能、例えば、発着信機能、ローカル無線通信機能等を制御する。すなわち、この中継装置制御部122は、中継装置側ネットワーク通信部124への発信指示、着信指示、音声信号の送信指示や、中継装置側ローカル無線通信部123への通信指示、音声信号の送信指示等の処理を行なう。そして、この中継装置制御部122は、通信制御部122aと、中継装置マイク切替部122bと、メッセージ生成部122cと、メッセージ記憶部122dとを備える。
【0029】
通信制御部122aは、中継装置側ローカル無線通信部123および中継装置側ネットワーク通信部124に対する通信制御を行なう処理部であり、中継装置マイク切替部122bおよびメッセージ生成部122cに、前記通信制御に伴う指示を送る処理部である。ここで、前記通信制御には、通信状態検出信号の判断、ローカル無線通信区間接続の再確立を試行する指示、通信状態の時間計測等があり、通信制御部122aは、通信状態の時間を計測するためのタイマーを内部に備えている。また、通信制御に伴う指示には、中継装置側マイク121における音声入力受け付けのONまたはOFFへの切替指示や通話終了予告メッセージ生成指示等がある。そして、この通信制御部122aは、中継装置側ローカル無線通信部123の通信状態検出信号を判断し、当該通信状態検出信号の情報に基づいて、前記通信制御に関する処理および前記通信制御に伴う指示に関する処理を行なう。
(中略)
【0033】
中継装置側ローカル無線通信部123は、通信装置側ローカル無線通信部114と、ローカル無線通信を行なうアンテナ等の近距離無線通信方式の通信インターフェースであり、ローカル無線通信区間の通信状態を検出し、通信制御部122aに通信状態検出信号を送る機能を備える。なお、この中継装置側ローカル無線通信部123は、通信装置側ローカル無線通信部114からのパケット受信の有無によって、ローカル無線通信区間の通信状態が接続状態にあるか、不通状態にあるかを検出し、通信制御部122aに通信状態検出信号を送る。
【0034】
中継装置側ネットワーク通信部124は、無線により、基地局等と通信を行なうアンテナや通信インターフェース等からなり、ネットワーク通信網13を介して、相手方通信装置側ネットワーク通信部144と、通信を行なう。
【0035】
ネットワーク通信網13は、電話回線等であり、有線回線、無線回線の別を問わず、基地局や電信線をも含めた通信回線である。」

(4)「【0044】
まず、このローカル無線通信を用いたハンズフリー通話システムにおける通話を開始すると、本ハンズフリー通話システムは、通常時における通話動作処理を行なう(S1)。ここで、通常時における通話動作処理は、以下のような動作となる。
【0045】
すなわち、通信装置側マイク111は、ユーザからの音声入力を受け付け、ユーザの音声を、音声信号に変換して、通信装置制御部113に送る。そして、通信装置制御部113は、通信装置側ローカル無線通信部114に、当該音声信号の送信指示を送り、当該指示に基づいて、通信装置側ローカル無線通信部114は、中継装置側ローカル無線通信部123に、当該音声信号を送信する。
【0046】
次に、中継装置側ローカル無線通信部123は、受信した前記音声信号を通信制御部122aに送り、通信制御部122aが、中継装置側ネットワーク通信部124に、当該音声信号の送信指示を送り、当該指示に基づいて、中継装置側ネットワーク通信部124は、ネットワーク通信網13を介して、相手方通信装置側ネットワーク通信部144に、当該音声信号を送信する。
(中略)
【0049】
次に、中継装置側ネットワーク通信部124は、受信した前記音声信号を通信制御部122aに送り、通信制御部122aが、中継装置側ローカル無線通信部123に、当該音声信号の送信指示を送り、当該指示に基づいて、中継装置側ローカル無線通信部123は、通信装置側ローカル無線通信部114に、当該音声信号を送信する。
(中略)
【0053】
ここで、ユーザから、現存する通話を終了する指示がなく(S2)、通話を継続する場合に、通信装置側ローカル無線通信部114と中継装置側ローカル無線通信部123とのローカル無線通信区間に瞬断が生じると、通信装置側ローカル無線通信部114と中継装置側ローカル無線通信部123とが、ローカル無線通信区間の瞬断を検出する(S3)。そして、通信装置側ローカル無線通信部114は、ローカル無線通信が不通状態であることを示す通信状態検出信号を、通信装置制御部113に送り、中継装置側ローカル無線通信部123は、ローカル無線通信区間が不通状態であることを示す通信状態検出信号を、通信制御部122aに送る。
(中略)
【0066】
一方、前記動作処理によって、ローカル無線通信区間接続の再確立がなされない場合(S7)、通信制御部122aは、内部に備えているタイマーによって、一定時間の経過の有無を計測する(S9)。このとき、一定時間の経過を計測するまで、通信制御部122aは、前記ローカル無線通信区間接続の再確立を試行する指示を、中継装置側ローカル無線通信部123に送り、前述の処理を繰り返す(S6)。
【0067】
そして、一定時間の経過を計測すると、通信制御部122aは、通話終了予告メッセージ生成指示を、メッセージ生成部122cに送り、当該通話終了予告メッセージ生成指示に基づいて、メッセージ生成部122cは、メッセージ記憶部122dを参照して、通話終了予告メッセージを生成する。次に、メッセージ生成部122cは、生成した通話終了予告メッセージを、通信制御部122aに送り、通信制御部122aが、前記通話終了予告メッセージの送信指示を、中継装置側ネットワーク通信部124に送り、当該送信指示に基づいて、中継装置側ネットワーク通信部124は、ネットワーク通信網13を介して、前記通話終了予告メッセージを相手方通信装置側ネットワーク通信部144に送信する(S10)。その後、相手方通信装置側ネットワーク通信部144を介して、前記通話終了予告メッセージを受信した相手方通信装置制御部143は、通話終了予告メッセージ表示を行なう指示を、相手方通信装置表示部145に送り、相手方通信装置表示部145は、前記通話終了予告メッセージを表示する。
(中略)
【0069】
その後、通信制御部122aは、内部に備えているタイマーによって、前記通話終了予告メッセージの送信指示を送った後から、一定時間の経過を計測し、当該一定時間を経過すると、現存する通話を切断する指示を中継装置側ネットワーク通信部124に送り、当該指示に基づいて、中継装置側ネットワーク通信部124は相手方通信装置14との通話を切断し、通話が終了する(S11)。」

(5)「【0079】
図5は、本発明に係るローカル無線通信を用いたハンズフリー通話システムにおいて、ローカル無線通信区間に瞬断が生じた後、接続の再確立がなされない場合における本システムを構成する各装置の動作処理の流れを示すシーケンス図である。
【0080】
まず、上記のローカル無線通信区間の瞬断を検出した後、接続再確立が検出される場合における動作処理と同様に、通信装置11、中継装置12および相手方通信装置14は、再びローカル無線通信区間の瞬断が検出される前においては、前述したように、本ハンズフリー通話システムの通常時における通話動作処理を行ない(S31)、通信装置11と中継装置12とのローカル無線通信区間に瞬断が生じると、通信装置11は、通信装置側ローカル無線通信部114によって、ローカル無線通信区間の通信状態が不通状態にあることを検出し、中継装置12は、中継装置側ローカル無線通信部123によって、ローカル無線通信区間の通信状態が不通状態にあることを検出する(S32)。
(中略)
【0082】
さらに、上記の動作処理と同様に、中継装置12は、通信装置11に向けて接続要求パケットを送信し、ローカル無線通信区間接続の再確立を数回試行する(S35)とともに、中継装置側マイク121を介して、ユーザからの音声入力を受け付け、音声信号に変換して、相手方通信装置14に送信し、相手方通信装置14は、前記音声信号を受信し、相手方通信装置側スピーカ142を介して、音声に変換して、ユーザの音声を出力し(S36)、中継装置12がローカル無線通信区間接続の再確立を試行する間、中継装置12と相手方通信装置14は、この処理を繰り返す。
【0083】
その後、中継装置12は、内部に備えているタイマーによって、ローカル無線通信区間の不通状態を検出してから、一定時間t1の経過を計測すると、メッセージ生成部122cによって、通話終了予告メッセージを生成し、生成した通話終了予告メッセージを相手方通信装置14に送信し、相手方通信装置14は、相手方通信装置表示部145を介して、前記通話終了予告メッセージを表示する(S37)。さらに、中継装置12は、内部に備えているタイマーによって、前記通話終了予告メッセージを送信してから、一定時間t2の経過を計測すると、相手方通信装置14との通話を切断する(S38)。そして、中継装置12は、相手方通信装置14との通話を切断した後においても、次の通話に備えて、通信装置11に向けて接続要求パケットを送信し、ローカル無線通信区間接続の再確立試行を続ける(S39)。」

(6)図1及び図5は以下のとおりである。
図1

図5


上記(1)?(5)の記載及び図面、並びに当業者の技術常識を考慮すると、

a 上記(1)、(3)の記載及び図1によれば、「中継装置12」は、Bluetooth(登録商標)に代表されるような近距離無線通信方式のローカル無線通信により、ユーザが用いる通信装置と接続され、相手方通信装置と通話することができるハンズフリー通話システムの中継装置である。

b 上記(2)の【発明が解決しようとする課題】欄によれば、「瞬断」とは、「電波状況の変化等によって、きわめて短い時間、ローカル無線通信の通信状態が不通状態になること」(【0010】)であり、「ローカル無線通信により接続される区間においては、通信状態が、接続状態から短時間の不通状態に陥り、再び接続状態となることが多いため、「電波の範囲外にあり通信不能です。」等の不在メッセージを送信することは、相手方に誤解を生じさせ、中継装置と相手方通信装置とは、通話可能状態であるのに、相手方が通話を切断してしまうおそれがあり、ローカル無線通信により接続される区間に瞬断が生じた場合の対策として、適当といえない。特に、相手方が、ローカル無線通信により通信装置と中継装置との間を接続するハンズフリー通話システムを、ユーザが使用していることを、想定していなければ、瞬断によって生じる通信の途切れ、音声の途切れ等の原因が判断できず、相手方の誤解を招く可能性が高い。」(【0011】)との記載からみて、ローカル無線通信がきわめて短い時間不通状態になっても再び接続状態になる瞬断の場合は、通信の途切れ、音声の途切れ等の原因とはなるものの、相手方との通話を切断すべき状況ではないとみているといえる。
一方、「ローカル無線通信により接続される区間に瞬断が生じて、通信状態が不通状態に陥り、わずかな時間内に、接続状態に回復しない場合」には、通話に対する課金が増加し続けてしまうという問題(【0012】)に対して、不要な通話に対する課金を抑えることができるローカル無線通信を用いたハンズフリー通話システムを提供することを目的(【0013】)としていることからみて、ローカル無線通信が接続状態に回復しない場合には、不要な通話に対する課金を抑える必要があるとみているといえる。

c 上記(3)の記載及び図1によれば、「中継装置12」は、無線により、基地局等と通信を行なうアンテナや通信インターフェース等からなり、電話回線等のネットワーク通信網13を介して、相手方通信装置側ネットワーク通信部144と、通信を行なう中継装置側ネットワーク通信部124を備える。
また、「中継装置12」は、通信装置側ローカル無線通信部114とローカル無線通信を行なうアンテナ等の近距離無線通信方式の通信インターフェースであり、ローカル無線通信区間の通信状態を検出し、通信制御部122aに通信状態検出信号を送る機能を備える中継装置側ローカル無線通信部123を備える。

d 上記(3)、(4)の記載によれば、「中継装置12」は、ローカル無線通信機能を備えた携帯電話機としての機能、例えば、発着信機能、ローカル無線通信機能等を制御するCPU等であって、通信制御部122aを含む中継装置制御部122を備える。
ここで、上記通信制御部122aは、中継装置側ローカル無線通信部123および中継装置側ネットワーク通信部124に対する通信制御を行なう処理部であり、通信状態の時間を計測するためのタイマーを内部に備えている。
そして、このローカル無線通信を用いたハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理では、中継装置側ネットワーク通信部124が相手方通信装置から受信した音声信号が、通信制御部122aに送られると、通信制御部122aは、中継装置側ローカル無線通信部123に当該音声信号の送信指示を送り、中継装置側ローカル無線通信部123は、当該指示に基づいて、通信装置側ローカル無線通信部114に、当該音声信号を送信する。
また、中継装置側ローカル無線通信部123がユーザが用いる通信装置から受信した音声信号が、通信制御部122aに送られると、通信制御部122aは、中継装置側ネットワーク通信部124に当該音声信号の送信指示を送り、中継装置側ネットワーク通信部124は、当該指示に基づいて、ネットワーク通信網13を介して、相手方通信装置側ネットワーク通信部144に、当該音声信号を送信する。
そうすると、上記通信制御部122aは、ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理において、中継装置側ネットワーク通信部124が相手方通信装置から受信した音声信号を、中継装置側ローカル無線通信部123を介してユーザが用いる通信装置に送信するとともに、中継装置側ローカル無線通信部123がユーザが用いる通信装置から受信した音声信号を、中継装置側ネットワーク通信部124を介して相手方通信装置に送信するように、通信制御を行なうものといえる。

e 上記(3)、(5)の記載及び図5によれば、ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理中に、通信装置11と中継装置12とのローカル無線通信区間に瞬断が生じると、中継装置12は、中継装置側ローカル無線通信部123によって、ローカル無線通信区間の通信状態が不通状態にあることを検出する(S32)。
そして、通信制御部122aは、内部に備えているタイマーによって、ローカル無線通信区間の不通状態を検出してから、一定時間t1の経過を計測すると、メッセージ生成部122cに通話終了予告メッセージ生成指示を生成させ、中継装置側ネットワーク通信部124に前記通話終了予告メッセージの送信指示を送る。さらに、通信制御部122aは、内部に備えているタイマーによって、前記通話終了予告メッセージを送信してから、一定時間t2の経過を計測すると、上記bにいう「ローカル無線通信が接続状態に回復しない場合」に至ったと判断して、現存する通話を切断する指示を中継装置側ネットワーク通信部124に送り、相手方通信装置14との通話を切断させる(S38)。ここで、図5を参照すると、上記一定時間t2経過後は、再確立を試行することなく直ちに通話を切断していることが認められる。
そうすると、上記通信制御部122aは、ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理中に通信装置11と中継装置12とのローカル無線通信区間の通信状態が不通状態にあることを検出してから、一定時間(t1+t2)の経過を計測した場合に、ローカル無線通信が接続状態に回復しない場合に至ったと判断して、不要な通話に対する課金を抑えるために、現存する通話を切断する指示を中継装置側ネットワーク通信部124に送り、再確立を試行することなく直ちに相手方通信装置14との通話を切断させるものといえる。

以上を総合すると、引用例には、「ローカル無線通信が接続状態に回復しない場合」に、不要な通話に対する課金を抑えるための、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「Bluetooth(登録商標)に代表されるような近距離無線通信方式のローカル無線通信により、ユーザが用いる通信装置と接続され、相手方通信装置と通話することができるハンズフリー通話システムの中継装置であって、
無線により、基地局等と通信を行なうアンテナや通信インターフェース等からなり、電話回線等のネットワーク通信網13を介して、相手方通信装置側ネットワーク通信部144と、通信を行なう中継装置側ネットワーク通信部124と、
通信装置側ローカル無線通信部114とローカル無線通信を行なうアンテナ等の近距離無線通信方式の通信インターフェースであり、ローカル無線通信区間の通信状態を検出し、通信制御部122aに通信状態検出信号を送る機能を備える中継装置側ローカル無線通信部123と、
ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理において、中継装置側ネットワーク通信部124が相手方通信装置から受信した音声信号を、中継装置側ローカル無線通信部123を介してユーザが用いる通信装置に送信するとともに、中継装置側ローカル無線通信部123がユーザが用いる通信装置から受信した音声信号を、中継装置側ネットワーク通信部124を介して相手方通信装置に送信するように、通信制御を行なう通信制御部122aと、
を備え、
前記通信制御部122aは、ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理中に通信装置11と中継装置12とのローカル無線通信区間の通信状態が不通状態にあることを検出してから、一定時間(t1+t2)の経過を計測した場合に、ローカル無線通信が接続状態に回復しない場合に至ったと判断して、現存する通話を切断する指示を中継装置側ネットワーク通信部124に送り、再確立を試行することなく直ちに相手方通信装置14との通話を切断させる、中継装置。」

第5 対比
(1)引用発明の「無線により、基地局等と通信を行なうアンテナや通信インターフェース等からなり、電話回線等のネットワーク通信網13を介して」通信を行う「中継装置側ネットワーク通信部124」、及び、「Bluetooth(登録商標)に代表されるような近距離無線通信方式のローカル無線通信により」通信を行う「中継装置側ローカル無線通信部123」は、それぞれ本願発明の「第1通信方式で通信を行う第1通信部」、及び、「第2通信方式で通信を行う第2通信部」に相当する。

(2)引用発明の「通信制御部122a」は、ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理において、中継装置側ネットワーク通信部124が相手方通信装置から受信した音声信号を、中継装置側ローカル無線通信部123を介してユーザが用いる通信装置に送信するとともに、中継装置側ローカル無線通信部123がユーザが用いる通信装置から受信した音声信号を、中継装置側ネットワーク通信部124を介して相手方通信装置に送信するように、通信制御を行なうものであるから、引用発明の「相手方通信装置」及び「ユーザが用いる通信装置」は、それぞれ本願発明の「第1通信装置」及び「第2通信装置」に相当する。
また、引用発明の「中継装置側ネットワーク通信部124が相手方通信装置から受信した音声信号」及び「中継装置側ローカル無線通信部123がユーザが用いる通信装置から受信した音声信号」は、本願発明にいう「前記第1通信装置と第2通信装置との間の通信のデータ」に相当し、引用発明の「通信制御部122a」は、ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理において、「相手方通信装置」と「ユーザが用いる通信装置」との間で「中継装置側ローカル無線通信部123」を介してこれらの音声信号を中継させる制御部であるから、本願発明の「前記第1通信部が第1通信装置と通信可能な場合に、前記第1通信装置と第2通信装置との間の通信のデータを、前記第2通信部を介して中継させる制御部」に対応する。

(3)引用発明の「通信制御部122a」は、ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理中に、通信装置11と中継装置12とのローカル無線通信区間の通信状態が不通状態にあることを検出してから一定時間(t1+t2)の経過を計測した場合に、ローカル無線通信が接続状態に回復しない場合に至ったと判断して、再確立を試行することなく直ちに相手方通信装置14との通話を切断させている。
そうすると、引用発明にいう「ハンズフリー通話システムの通常時の通話動作処理中に」は、本願発明にいう「前記第2通信部を介して前記データを中継させている場合に」に相当し、引用発明の「ローカル無線通信」は、中継装置側ローカル無線通信部123とユーザが用いる通信装置との通信であるから、本願発明にいう「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信」に相当する。
そして、引用発明において、上記「ローカル無線通信」(本願発明にいう「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信」)が「接続状態に回復しない場合に至ったと判断」される場合が、本願発明にいう「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合」といえるかどうかは一応別として、本願発明と引用発明とは、「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が特定の状態になったことを検出した場合、前記第2通信部と前記第2通信装置との再通信を試みずに、前記第1通信部と前記第1通信装置との通信を切断させる」点で共通するといえる。

したがって、本願発明と引用発明との一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「第1通信方式で通信を行う第1通信部と、
第2通信方式で通信を行う第2通信部と、
前記第1通信部が第1通信装置と通信可能な場合に、前記第1通信装置と第2通信装置との間の通信のデータを、前記第2通信部を介して中継させる制御部と
を備え、
前記制御部は、前記第2通信部を介して前記データを中継させている場合に、前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が特定の状態になったことを検出した場合、前記第2通信部と前記第2通信装置との再通信を試みずに、前記第1通信部と前記第1通信装置との通信を切断させる電子機器。」

[相違点]
第1通信部と第1通信装置との通信を切断させるための条件である「第2通信部と前記第2通信装置との通信が特定の状態になったことを検出した場合」が、本願発明では、「第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合」であるのに対し、引用発明では、当該通信が「接続状態に回復しない場合に至ったと判断」される場合である点。

第6 判断
本願発明の「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合」に関し、明細書には、「上記の通信部6bによる近距離無線通信が不能になった場合には、例えば、近距離無線通信の電波強度が劣化した場合、やりとりする信号にノイズが多く品質が悪い場合、受信エラーが閾値よりも多い場合、接続及び切断が発生する頻度が閾値よりも多い場合等が含まれる。」(【0024】)との記載がある。
上記記載によれば、本願発明は、切断が発生しても、「接続及び切断が発生する頻度」が閾値以下の場合は、直ちに通信部6bによる近距離無線通信が不能になったとは検出しないことを含むものといえる。

そして、引用発明は、「通信状態が不通状態にあることを検出」しても、直ちに「接続状態に回復しない場合」とはせず、ローカル無線通信が「接続状態に回復しない場合に至ったと判断」される場合に、相手方通信装置14との通話を切断させるものであるから、引用発明の「接続状態に回復しない場合に至ったと判断」される場合と、切断が発生しても直ちに通信部6bによる近距離無線通信が不能とはしないことを含む本願発明の「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合」とは実質的に相違しない。
したがって、引用例に記載された発明に基づいて、当該発明と実質的に相違しない本願発明をすることは、当業者が容易になし得る。

(請求人の主張について)
請求人は、審判請求書において、「引用文献1は、『ローカル無線通信により接続される区間においては、通信状態が、接続状態から短時間の不通状態に陥り、再び接続状態となることが多いため、「電波の範囲外にあり通信不能です。」等の不在メッセージを送信することは、相手方に誤解を生じさせ、中継装置と相手方通信装置とは、通話可能状態であるのに、相手方が通話を切断してしまうおそれがあり、ローカル無線通信により接続される区間に瞬断が生じた場合の対策として、適当といえない。特に、相手方が、ローカル無線通信により通信装置と中継装置との間を接続するハンズフリー通話システムを、ユーザが使用していることを、想定していなければ、瞬断によって生じる通信の途切れ、音声の途切れ等の原因が判断できず、相手方の誤解を招く可能性が高い。さらに、ローカル無線通信により接続される区間に瞬断が生じて、通信状態が不通状態に陥り、わずかな時間内に、接続状態に回復しない場合であっても、中継装置と相手方通信装置との通話は、継続されたままの状態であるので、通話継続に伴い、通話に対する課金が増加し続けてしまうという問題もある。』との課題を解決することを目的とした発明です。引用文献1の発明は、この課題を解決するために、通信装置との間のローカル無線通信区間瞬断が発生し不通状態を検出すると、無線通信区間の再確立を試みるとともに不通状態を検出してから一定時間経過する場合において、ネットワーク通信部による通話を切断するものです。(中略)
しかしながら、引用文献1の発明に上記周知技術を適用して、引用文献1の発明において、通信装置との間のローカル無線通信区間瞬断が発生し不通状態を検出すると、直ちにネットワーク通信部による通話を切断することは、引用文献1の発明の目的に反して変更することになりますので、当業者が引用文献1の発明に当該周知技術を適用することに想到することは困難であると思料します。」等と主張しているので、この点について更に検討する(下線は、請求人が付したものである。)。

請求人の上記主張は、請求項1の「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合、前記第2通信部と前記第2通信装置との再通信を試みずに、前記第1通信部と前記第1通信装置との通信を切断させる」との特定事項を根拠とするものであるところ、上記下線を付した事項は、平成28年11月24日の手続補正により、出願当初の明細書の段落0044-0046、図面の図5等の記載を根拠として(平成28年11月24日意見書)、追加されたものである。

ここで、明細書には、以下の記載がある。
「【0044】
図5に示すように、携帯電話機20の制御部10は、ステップS101として、通信部6bの通信状態を判定する。具体的には、制御部10は、携帯電話機30の通信部6bとの通信が不能であるか否かを判定する。通信部6bによる通信が不能でない場合、すなわち、通信のデータの中継が可能である場合(ステップS102,No)、制御部10は、図5に示す処理手順を終了する。
【0045】
通信部6bによる通信が不能である場合、すなわち、通信のデータの中継が不能である場合(ステップS102,Yes)、制御部10は、ステップS103として、通信部6aの接続状態を判定する。具体的には、制御部10は、通信部6aによる無線通信を介して、通信相手の通信装置と通信が接続されている場合に、通信部6aは接続中であると判定する。通信部6aは接続中ではない場合(ステップS104,No)、制御部10は、図5に示す処理手順を終了する。
【0046】
通信部6aは接続中である場合(ステップS104,Yes)、制御部10は、ステップS105として、通信部6aの通信を切断する。制御部10は、ステップS106として、中継機能を停止したことを示す画面を自機の表示部2に表示させる。その後、制御部10は、図5に示す処理手順を終了する。」、
「【0048】
上記の実施形態では、携帯電話機20は、通信部6bによる通信が不能になった場合に、通信部6aの通信を直ちに切断する場合について説明したが、これに限定されない。(以下、略)」、
「【0024】
上記の通信部6bによる近距離無線通信が不能になった場合には、例えば、近距離無線通信の電波強度が劣化した場合、やりとりする信号にノイズが多く品質が悪い場合、受信エラーが閾値よりも多い場合、接続及び切断が発生する頻度が閾値よりも多い場合等が含まれる。」

上記記載によれば、通信部6bによる通信が不能になった場合に、通信部6aの通信を直ちに切断することが認められるものの、上記「第6 判断」で述べたとおり、本願発明は、切断が発生しても、「接続及び切断が発生する頻度」が閾値以下の場合は、直ちに通信部6bによる近距離無線通信が不能とはしないことを含むものである。
そうすると、本願発明は、引用発明において、瞬断が生じて「通信状態が不通状態にあることを検出」しても、直ちに「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合」とはしないことも含んでいるといえる。

そして、請求項1の「前記第2通信部と前記第2通信装置との再通信を試みずに、前記第1通信部と前記第1通信装置との通信を切断させる」との特定事項は、「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合」を前提とするものであって、最初に切断が発生した後、「接続及び切断が発生する頻度が閾値よりも多」くなり「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出」するまでの間も、「前記第2通信部と前記第2通信装置との再通信」を試みないことまで特定したものではないから、請求人の「引用文献1の発明において、通信装置との間のローカル無線通信区間瞬断が発生し不通状態を検出すると、直ちにネットワーク通信部による通話を切断することは、引用文献1の発明の目的に反して変更することになります」との主張は採用できない。

(予備的検討)
仮に、上記特定事項を根拠に、切断が発生すると、直ちに「前記第2通信部と前記第2通信装置との通信が不能になったことを検出した場合」であるとして、前記第2通信部と前記第2通信装置との再通信を試みずに、通信部6aの通信を切断するものと解釈するとすると、上記下線を付した事項を追加した平成28年11月24日の手続補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえ、また、上記下線を付した事項を含む発明は、発明の詳細な説明に記載されたものともいえない。

さらに、仮に、そのように解釈したとしても、拒絶査定時に例示した特開2005-277474号公報(特に、段落【0002】?【0005】参照。Bluetooth技術を使用した通信のリンクロスが検出された際の3通りの実装方法のうち、「通話中の呼をすぐ切断」する場合に注目。)、HANDS FREE PROFILE テクニカルリファレンス、MCPC TR-002、2004年2月17日、Ver.1.0、p.18(特に、電話通話中のService Level Connectionのリンクロスが検出された時のアクションとして、通話中呼をすぐ切断する点)にあるように、リンクロス(切断)が発生すると直ちに通話中の呼を切断することは、当該技術分野における周知の選択肢にすぎない。
そして、引用発明において、不要な通話に対する課金を抑えることを重視して、上記周知の選択肢を採用することに格別の困難はないし、そのような選択肢の採用を排除する理由もない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、上記引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-16 
結審通知日 2018-02-20 
審決日 2018-03-06 
出願番号 特願2013-224612(P2013-224612)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊東 和重  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 北岡 浩
松永 稔
発明の名称 電子機器及び制御方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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