• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1339578
審判番号 不服2017-10335  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-11 
確定日 2018-04-19 
事件の表示 特願2013-207367「撮像素子および撮像装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月16日出願公開、特開2015- 72982〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月2日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 9月 7日 審査請求
平成28年12月 6日 拒絶理由通知
平成29年 2月10日 意見書・手続補正書
平成29年 4月 3日 拒絶査定
平成29年 7月11日 審判請求・手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
審判請求と同時にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし17を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし15に補正すると共に、補正前の【図3】を、補正後の【図3】に補正するものであり、本件補正前の請求項1の記載と、本件補正後の請求項1の記載は、各々次のとおりである。(当審注.補正箇所に下線を付した。)
・本件補正前
「【請求項1】
光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号を出力する第1画素と、前記第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号を出力する第2画素と、を有し、第1撮像条件で被写体を撮像するように設定された第1撮像領域と、
光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号を出力する第3画素と、前記第3信号に含まれるノイズの除去に用いる第4信号を出力する第4画素と、を有し、前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定された第2撮像領域と、
を備える撮像素子。」
・本件補正後
「【請求項1】
光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号を出力する第1画素と、前記第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号を出力する第2画素と、前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線と、前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線と、を有し、第1撮像条件で被写体を撮像するように設定された第1撮像領域と、
光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号を出力する第3画素と、前記第3信号に含まれるノイズの除去に用いる第4信号を出力する第4画素と、前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線と、前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線と、を有し、前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定された第2撮像領域と、
を備える撮像素子。」

2 補正事項
本件補正における請求項1についての補正は、次のとおりである。(当審注.補正箇所に下線を付した。)
・補正事項1
本件補正前の請求項1の
「光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号を出力する第1画素と、前記第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号を出力する第2画素と、を有し、第1撮像条件で被写体を撮像するように設定された第1撮像領域」を、
「光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号を出力する第1画素と、前記第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号を出力する第2画素と、前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線と、前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線と、を有し、第1撮像条件で被写体を撮像するように設定された第1撮像領域」に補正すること。
すなわち、本件補正前の請求項1の「第1撮像領域」に、「前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線」及び「前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線」との発明特定事項を付加すること。
・補正事項2
本件補正前の請求項1の
「光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号を出力する第3画素と、前記第3信号に含まれるノイズの除去に用いる第4信号を出力する第4画素と、を有し、前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定された第2撮像領域」を、
「光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号を出力する第3画素と、前記第3信号に含まれるノイズの除去に用いる第4信号を出力する第4画素と、前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線と、前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線と、を有し、前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定された第2撮像領域」に補正すること。
すなわち、本件補正前の請求項1の「第2撮像領域」に、「前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線」及び「前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線」との発明特定事項を付加すること。

3 補正の適否
(1)特許法第17条の2第3項について
ア はじめに、補正事項1及び2における用語の意義について検討する。
本願の発明の詳細な説明には「読出回路」との記載がなく、補正事項1の「第1読出回路」と、発明の詳細な説明に記載された事項との対応関係が明確ではないが、本件補正後の請求項1の記載より、「第1読出回路」は「第1画素」が出力した「第1信号」を「第1信号線」に読み出すための回路であると認められ、上記「第1画素」及び「第1信号線」との語は、それぞれ、発明の詳細な説明に記載された「光電変換画素部」及び「信号線」に対応するものと認められるから、補正事項1の「第1読出回路」は、【図3】に記載された、「光電変換画素部20-1」と「信号線54-1」との間に形成された回路(又は、「光電変換画素部20-2」と「信号線54-2」との間に形成された回路)に対応するものであると解される。
また、本件補正後の請求項1の記載より、補正事項1の「第2読出回路」は、「第2画素」が出力した「第2信号」を「第1信号線」に読み出すものであって、上記「第2画素」は、「第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号を出力する」もの、すなわち、発明の詳細な説明に記載された「基準画素部」に対応するものと認められるから、補正事項1の「第2読出回路」は、【図3】に記載された、「基準画素部22-3」と「信号線54-3」との間に形成された回路に対応するものであると解される。
次に、補正事項2の「第3読出回路」は、「第1読出回路」を有する「第1撮像領域」とは異なる撮像領域である「第2撮像領域」が有するものであり、当該「撮像領域」との語は、発明の詳細な説明に記載された「光電変換ブロック」に対応するものと認められる。そして、その他の点については「第1読出回路」と同様であるから、補正事項2の「第3読出回路」は、【図3】に記載された、「光電変換画素部20-1」と「信号線54-1」との間に形成された回路(又は、「光電変換画素部20-2」と「信号線54-2」との間に形成された回路)であって、「第1読出回路」を有する「光電変換ブロック」とは異なる「光電変換ブロック」が有するものに対応するものであると解される。
また、補正事項2の「第4読出回路」は、「第2読出回路」を有する「第1撮像領域」とは異なる撮像領域である「第2撮像領域」が有するものであり、その他の点については「第2読出回路」と同様であるから、【図3】に記載された、「基準画素部22-3」と「信号線54-3」との間に形成された回路であって、「第2読出回路」を有する「光電変換ブロック」とは異なる「光電変換ブロック」が有するものに対応するものであると解される。
そして、補正事項1及び2の「制御信号」は、発明の詳細な説明に記載された、「駆動回路70」が出力する「制御信号」(TX、RST及びSEL)に対応するものと解される。
イ 上記を踏まえて、補正事項1及び2が、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入しないものであるか否かについて、検討する。
ウ まず、補正事項1の「第1制御線」について検討するに、当初明細書等には、「駆動回路70」が出力する制御信号(TX、RST及びSEL)を「第1読出回路」及び「第2読出回路」に供給するための制御線の具体的な構造について記載されておらず、「第1読出回路」及び「第2読出回路」に対し、同一の「第1制御線」を介して制御信号を供給することが記載されているとはいえない。
したがって、当初明細書等に、補正事項1の「前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線」が記載されているとはいえない。
エ 次に、補正事項1の「第1信号線」について検討するに、当初明細書等の【図3】の記載によれば、「第1信号」(「第1画素」が出力する信号)を出力するための信号線(54-1又は54-2)と、「第2信号」(「第2画素」が出力する信号)を出力するための信号線(54-3)とは、異なる信号線であるから、当初明細書等の【図3】には、「第1信号」と「第2信号」を、同一の「第1信号線」に出力することが記載されているとはいえない。また、当初明細書等のその他の箇所にも、「第1信号」と「第2信号」を同一の「第1信号線」に出力することが記載されているとはいえない。
したがって、当初明細書等に、補正事項1の「前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線」が記載されているとはいえない。
オ 次に、補正事項2の「第2制御線」について検討するに、上記ウにおいて検討したのと同様の理由により、当初明細書等には、「第3読出回路」及び「第4読出回路」に対し、同一の「第2制御線」を介して制御信号を供給することが記載されているとはいえない。
また、補正事項2の「第2制御線」は、補正事項1の「第1制御線」とは異なる制御線を意味するものと解されるところ、当初明細書等には、「第1撮像領域」と「第2撮像領域」が異なる制御線を有することが記載されているとはいえない。
したがって、当初明細書等には、補正事項2の「前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線」が記載されているとはいえない。
カ 次に、補正事項2の「第2信号線」について検討するに、上記エにおいて検討したのと同様の理由により、当初明細書等には、「第3信号」と「第4信号」を同一の「第2信号線」に出力することが記載されているとはいえない。
また、補正事項2の「第2信号線」は、補正事項1の「第1信号線」とは異なる信号線を意味するものと解されるところ、当初明細書等には、「第1撮像領域」と「第2撮像領域」が異なる信号線を有することが記載されているとはいえない。
したがって、当初明細書等には、補正事項2の「前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線」が記載されているとはいえない。
キ 上記のとおり、補正事項1及び2が当初明細書等に記載されているとはいえない。また、本願出願時の技術常識に照らしても、補正事項1及び2が当初明細書等に記載されているのと同然であるということもできない。
ク したがって、補正事項1及び2は、当初明細書等に記載された事項、又は、当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえないから、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入しないものであるとはいえず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(2)特許法第17条の2第5項について
上記2において検討したとおり、本件補正における請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1の「第1撮像領域」に、「前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線」及び「前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線」との発明特定事項を付加し(補正事項1)、本件補正前の請求項1の「第2撮像領域」に、「前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線」及び「前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線」との発明特定事項を付加する(補正事項2)ものと認められるところ、本件補正前の請求項1に記載された「第1撮像領域」及び「第2撮像領域」と、本件補正により「第1撮像領域」及び「第2撮像領域」に付加された上記各発明特定事項とは、その作用を異にするものであるから、本件補正における請求項1についての補正が、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「第1撮像領域」及び「第2撮像領域」を下位概念化する補正であるということはできない。
したがって、本件補正における請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定するものであるとはいえないから、本件補正における請求項1についての補正が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとはいえない。
さらに、本件補正における請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第1号、第3号又は第4号に掲げるいずれの事項を目的とするものであるともいえない。
以上より、本件補正における請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものであるともいえないから、同項柱書の規定に違反するものである。

(3)特許法第17条の2第6項について
上記(2)のとおり、本件補正における請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとはいえないが、以下では、本件補正における請求項1についての補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであると仮定した上で、本件補正が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものであるか否か、すなわち、本件補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、さらに検討する。
ア 本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、平成29年7月11日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである。(再掲)
「【請求項1】
光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号を出力する第1画素と、前記第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号を出力する第2画素と、前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線と、前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線と、を有し、第1撮像条件で被写体を撮像するように設定された第1撮像領域と、
光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号を出力する第3画素と、前記第3信号に含まれるノイズの除去に用いる第4信号を出力する第4画素と、前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線と、前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線と、を有し、前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定された第2撮像領域と、
を備える撮像素子。」
イ 特許法第36条第6項第1号について
(ア)本件補正発明は、「第1読出回路」及び「第2読出回路」に対し、同一の「第1制御線」を介して制御信号を供給すると共に、「第1信号」及び「第2信号」を、同一の「第1信号線」に読み出すものであり、また、「第3読出回路」及び「第4読出回路」に対し、上記「第1制御線」とは異なる、同一の「第2制御線」を介して制御信号を供給すると共に、「第3信号」及び「第4信号」を、上記「第1信号線」とは異なる、同一の「第2信号線」に読み出すものであると認められる。
(イ)しかしながら、本件補正発明の「第1読出回路」、「第2読出回路」、「第3読出回路」、「第4読出回路」、「第1光電変換部」、「第2光電変換部」、「第1制御線」、「第2制御線」、「第1撮像条件」、「第2撮像条件」、「第1撮像領域」及び「第2撮像領域」との用語が、発明の詳細な説明において用いられておらず、上記各用語と、発明の詳細な説明に記載された各事項との対応関係が不明であり、本件補正発明の「第1信号線」及び「第2信号線」が、発明の詳細な説明に記載された「信号線54-1」、「信号線54-2」及び「信号線54-3」の、いずれに対応するものであるのかが不明であるところ、仮にそれらの対応関係を上記3(1)アのように認定したとしても、上記3(1)ウ及びエに記載したように、本願の発明の詳細な説明にそのような発明が記載されているとはいえない。
(ウ)したがって、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
ウ 特許法第36条第6項第2号について
(ア)発明の詳細な説明の段落【0042】には、光電変換画素部20において光電変換された電荷量に対応する信号と基準画素部22において検出された暗電流に対応する信号が信号処理部60に出力され、信号処理部60は、複数の基準画素部22において生成された電圧基準レベルを用いて、複数の光電変換画素部20から出力される信号を補正することが記載されている。そうすると、光電変換画素部20において光電変換された信号と基準画素部22において検出された信号は、区別できるように別々に信号処理部60へ出力され、信号処理部60は、それぞれ別々に入力された基準画素部22において検出された信号により光電変換画素部20において光電変換された信号を補正するものである。
(イ)本件補正発明は、第1光電変換部の電荷を用いて生成された「第1信号」を読み出す「第1読出回路」と、第1信号に含まれるノイズの除去に用いる「第2信号」を読み出す「第2読出回路」に対し、同一の「第1制御線」を介して制御信号が供給されるものであると認められ、また、「第1読出回路」及び「第2読出回路」に対し、「第1制御線」から供給される制御信号以外の制御信号が供給されるとは特定しておらず、「第1信号」と「第2信号」は、同時に読み出されるものと解するのが自然であるから、本件補正発明においては、「第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号」と、「第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号」は、同時に同一の「第1信号線」に出力されるものと認められる。
(ウ)そうすると、発明の詳細な説明の記載では、基準画素部22において検出された信号により光電変換画素部20において光電変換された信号を補正するため、光電変換画素部20において光電変換された信号と基準画素部22において検出された信号とは区別される必要がある構成であるのに対し、本件補正発明の構成では、「第1信号線」から「第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号」と「第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号」は区別できず、ノイズ除去のための補正ができなくなるものであるから、本件補正発明の技術的意義を理解することができず、不明確なものである。
(エ)したがって、本件補正発明は、特許を受けようとする発明が明確でない。
エ 特許法第29条第2項について
(ア)本件補正発明について
上記ウのとおり、本件補正発明は不明確なものであるが、本件補正発明の「第1信号線」及び「第2信号線」との語を、それぞれ、「複数の信号線」を意味するものと解した場合には、本件補正発明の技術的意義を一応理解することができるから、以下では、本件補正発明の「第1信号線」及び「第2信号線」との語が、それぞれ、「複数の信号線」を意味するものであると仮定した上で、本件補正発明の進歩性の有無について、さらに検討する。
(イ)引用文献の記載事項及び引用発明
a 引用文献1の記載事項
原査定において引用された国際公開第2012/111401号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(当審注.下線は当審において付した。以下同様。)
(a)「[0001] 本発明は、撮像装置、撮像素子、および撮像制御方法、並びにプログラムに関する。さらに、詳細には領域単位の露光制御を行う撮像装置、撮像素子、および撮像制御方法、並びにプログラムに関する。」
(b)「[0037] 本発明の一実施例の構成によれば、撮像素子の撮像面の複数の画素を分割した画素グループ単位で異なる露光制御を実行する構成が実現される。
複数画素から構成される画素グループ単位の輝度評価を実行し、評価結果に応じて、画素グループ単位の露光制御値を算出する。撮像素子は、算出された画素グループ単位の露光制御値に応じた制御信号を画素グループ各々の構成画素に出力して画素グループ単位の露光制御を実行する。制御信号として、例えば画素グループ内の複数画素に対して同一パターンからなる露光制御信号を時系列に順次、出力し、1つの画素グループに属する複数画素の露光時間を同一としたグループ単位の露光制御を実現する。」
(c)「[0059] [3.撮像素子(イメージセンサ)の構成および露光制御機構について]
次に、撮像素子(イメージセンサ)103の構成と内部の露光制御機構について説明する。
図3は本実施例の撮像素子(イメージセンサ)の構成を説明する図である。図中の小さな正方形の各々が、撮像面に2次元格子状に配置された画素を表す。すなわち光電変換素子を持つ画素を表す。各画素は、水平方向に延びる3種類の制御線を介して制御信号RSr,TRr,SLrを入力し、さらに垂直方向に延びる1種類の制御線を介して制御信号RSTRcを入力する。
また、垂直方向に延びる信号線を介して画素信号SIGc、すなわち各画素が入射光に応じて蓄積した電荷を出力するようになっている。
[0060] 水平方向の3種類の制御信号(RSr,TRr,SLr)を伝送する制御線は全てRowセレクタ(行セレクタ)119に接続し、Rowセレクタ119から制御信号が各画素に向けて伝達される。
また垂直方向の制御線は全てColumnセレクタ(列セレクタ)120に接続し、Columnセレクタ120から制御信号が各画素に向けて伝達される。
[0061] Rowセレクタ119およびColumnセレクタ120は、タイミングジェネレータ(TG)118に接続し、タイミングジェネレータ(TG)118は撮像素子(イメージセンサ)103に対して外部からの露光制御信号の入力を受け付けるようになっている。
ここで外部から入力する露光制御信号とは、図2を参照して説明した露光制御値116、すなわち、ブロック単位の露光制御値である。
[0062] タイミングジェネレータ(TG)118は、ブロック単位の露光制御値をブロック単位のシャッター制御のタイミング情報に変換し、それをRowセレクタ119およびColumnセレクタ120に伝達する。Rowセレクタ119およびColumnセレクタ120はそれを受けてRow毎およびColumn毎の制御信号を発生させて、制御信号RSr,TRr,SLrおよびRSTRcを各画素に伝達する。
[0063] 各画素から出力される出力画素信号SIGcはColumn単位で選択するためのスイッチを通過するようになっている。スイッチはColumnセレクタ120によるColumn選択信号SLcによって開閉する。Column選択信号SLcによって選択されたColumnの各画素からの画素信号SIGcは、CDS(Correlated Double Sampling回路)121に入力され、そこでリセットノイズが抑制され、次にADC(Analog-Digital Converter回路)に入力し、そこでアナログ信号からデジタル信号へと変換された後、画像出力として撮像素子(イメージセンサ)から出力される。
[0064] 図4は本実施例の撮像素子(イメージセンサ)内の1つの画素の構成例を説明する等価回路である。図4の破線の四角形で囲まれた部分が1画素に相当する構成である。1つの画素は水平に延びる3種類の制御線から各制御信号RSr,TRr,SLrを入力する。
[0065] これらの制御信号RSr,TRr,SLrについては、同じRow(行)に属する画素は全て同じ制御線から入力するようになっている。また、1つの画素は垂直に延びる制御線を介して制御信号RSTRcを入力する。この制御信号RSTRcは同じColumn(列)に属する画素は全て同じ制御線から入力するようになっている。
[0066] 画素に光が入射されるとフォトダイオードPDにおいて光電変換により光量に応じた電荷が発生する。フォトダイオードPDに蓄積した電荷はトランジスタM2を介してフローティングディフュージョンFDに転送される。トランジスタM2のゲートはトランジスタM1を介して、制御信号TRrとRSTRcによって制御される。トランジスタM4は、それが通電することによって、フローティングディフュージョンFDに蓄積された電荷をリセットする動作をおこなう。トランジスタM4のゲートはトランジスタM3を介して、制御信号RSrとRSTRcによって制御される。フローティングディフュージョンFDに蓄積された電荷はトランジスタM5によって増幅され、トランジスタM6を介して出力画素信号SIGcが出力される。トランジスタM6のゲートは制御信号SLrによって制御される。」
(d)「[0072] 図6を参照して、Rowセレクタの内部構成と、撮像素子103に設定されたブロック(画素グループ)との対応関係例について説明する。
本発明を実現する撮像素子(イメージセンサ)103は、複数の画素からなる画素グループ毎に異なる露光時間(シャッター時間)となるように制御することが1つの特徴である。
ここで説明する実施例では、撮像素子(イメージセンサ)103の撮像面を矩形ブロック状に分割した領域毎にブロック(画素グループ)を形成し、ブロック(画素グループ)それぞれに異なる露光時間(シャッター時間)とする制御を行う例である。
[0073] 図6には撮像素子103に設定される矩形状のブロック(画素グループ)を破線四角形で示している。
図6においては、1つのブロックは、P行(Row)、Q列(Column)の画素によって構成された例を一例として示している。なお、ブロック設定は様々な設定が可能である。
撮像素子全体の画素列(Column)の総数はW列とする。
[0074] ブロック(画素グループ)は、水平方向をx方向、垂直方向をy方向とし、例えば図6の左上のブロック(画素グループ)のブロック識別子(アドレス)を(x1,yi)としている。
ブロック(x1,yi)の右隣りのブロックは、ブロック(x2,yi)である。
ブロック(x1,yi)の下に隣接するブロックは、ブロック(x1,yi+1)である。
[0075] ブロック(x1,yi)の水平方向の右端のブロックは、ブロック(xN,yi)であり、1つのブロックの水平方向には(x1,yi)?(xN,yi)のN個のブロックが設定される。
[0076] ブロック(画素グループ)単位の露光時間の制御、すなわちシャッター制御を実現するために、本実施例のRowセレクタ(行セレクタ)119の内部構成は、図6に示す構成を有する。
図6に示すように、Rowセレクタ(行セレクタ)119は、ブロック(画素グループ)単位の制御信号(SHy,RDy)を生成するRowグループセレクタ123と、Rowグループセレクタ123からブロック(画素グループ)単位の制御信号(SHy,RDy)を入力して、ブロック(画素グループ)内の画素に出力する制御信号を生成する複数のRowラインセレクタ124の階層構造となっている。
[0077] Rowグループセレクタ123は、各Rowラインセレクタ124に対して、
(a)SHUTTER制御開始(SHy)、または、
(b)READ制御開始(RDy)、
上記の2種類の制御信号を選択して伝達する。
[0078] (a)SHUTTER制御開始(SHy)、
(b)READ制御開始(RDy)、
これらの制御信号は、ブロック(画素グループ)単位での(a)露光開始または(b)読み取り開始のタイミングの伝達であると同時に、1つのRowラインセレクタ124が担当する水平方向に並んだ複数のブロック(画素グループ)のうちのどれに対する制御であるかの指定情報を含んでいる。Rowラインセレクタ124は、Rowグループセレクタ123からの制御信号SHyもしくはRDyを入力して、入力制御信号に含まれるブロック指定情報に該当するブロック(画素グループ)の全画素に対して、先に図5を参照して説明した、
(a)露光処理「SHUTTER(シャッター)」に基づく電荷蓄積処理
(b)読み出し処理「READ(リード)」に基づく蓄積電荷出力処理
これら2つの処理いずれかの制御信号パターンを伝達する。
[0079] 1つのブロック(画素グループ)には、数行(Row)および数列(Column)にわたる複数のブロックが含まれる。例えば図6に示す例ではP×Qの画素が1つのブロックに含まれる。従って、1つのブロック(画素グループ)の動作を完結させるには、ブロック内の各画素に与える制御信号を、適切に時間をずらして与える必要がある。図6に示すRowラインセレクタ124は、画素グループ内の全画素が適切なタイミングで動作するように制御信号を生成する。
[0080] ちなみに、本実施例では、Column方向(列方向)にはColumn単位で順次走査するだけの動作をおこなうので、Columnセレクタの階層構造は必要ない。」
(e)引用文献1の【図6】には、「ブロック(x1,yi+1)」の右隣の、「ブロック(x2,yi+1)」が記載されている。
b 引用発明1
上記aより、引用文献1には、下記の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「複数の画素を2次元格子状に配置してなる撮像素子であって、
上記画素は、フォトダイオードPD、フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6を備え、
上記画素には、水平方向に延びる3種類の制御線を介して制御信号RSr,TRr,SLrを入力し、これらの制御信号RSr,TRr,SLrは、同じRow(行)に属する画素は全て同じ制御線から入力するようになっており、
上記画素には、垂直方向に延びる1種類の制御線を介して制御信号RSTRcを入力し、この制御信号RSTRcは同じColumn(列)に属する画素は全て同じ制御線から入力するようになっており、
上記画素に光が入射されると、上記フォトダイオードPDにおいて光電変換により光量に応じた電荷が発生し、上記フォトダイオードPDに蓄積した電荷は上記トランジスタM2を介して上記フローティングディフュージョンFDに転送され、上記トランジスタM2のゲートは上記トランジスタM1を介して、上記制御信号TRrとRSTRcによって制御され、
上記トランジスタM4は、それが通電することによって、上記フローティングディフュージョンFDに蓄積された電荷をリセットする動作をおこない、上記トランジスタM4のゲートは上記トランジスタM3を介して、上記制御信号RSrとRSTRcによって制御され、
上記フローティングディフュージョンFDに蓄積された電荷は、上記トランジスタM5によって増幅され、上記トランジスタM6を介して出力画素信号SIGcが出力され、上記トランジスタM6のゲートは上記制御信号SLrによって制御され、
垂直方向に延びる信号線を介して、上記出力画素信号SIGcを出力するようになっており、
上記画素は、P行(Row)、Q列(Column)の画素からなる矩形ブロック状の複数のブロックに分割され、上記複数のブロックは、ブロック(x1,yi)と、上記ブロック(x1,yi)の右隣のブロック(x2,yi)と、上記ブロック(x1,yi)の下に隣接するブロック(x1,yi+1)と、上記ブロック(x1,yi+1)の右隣のブロック(x2,yi+1)を含み、
上記ブロック毎に異なる露光時間となるように制御されることを特徴とする、撮像素子。」
c 引用文献2の記載事項
原査定において引用された特開2009-89219号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】
光電変換素子を含む画素が2次元状に配列された画素領域内の被写体像に係る画像信号が出力される有効画素領域に、画素の、入射光量によらないノイズ信号を出力するノイズ抽出用の画素が複数、前記有効画素領域内のN×N(Nは2以上の整数)画素を単位ブロックとしたとき、その単位ブロック内の各行及び各列に少なくとも1画素設けて2次元に分散させて配置されてなる固体撮像素子。」
(b)「【技術分野】
【0001】
この発明は、固体撮像素子及びその固体撮像素子を用いた固体撮像システムに関するものであり、特に固体撮像素子出力のノイズ補正に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ等で用いられている固体撮像素子においては、その種々の要因によりパターンノイズが発生することが知られている。パターンノイズとしては、行方向あるいは列方向に配置された回路のばらつきによって発生する縦あるいは横方向の筋状のパターンノイズ、また、画素で発生する暗電流のばらつき等、画素特性のばらつきに起因するムラ状のパターンノイズがある。これらのノイズの発生位置は固定されているので、固定パターンノイズと呼ばれる。
【0003】
更に、パターンノイズとして、被写体の明るさやその形状に依存するパターンノイズが知られている。例えば、図13の(A)に示すようなハイライトパターンを持つ被写体を撮像したときに、固体撮像素子から得られる画像信号には、図13の(B)に示すようなハイライトパターンaに対して左右に帯状のパターンノイズbが発生する場合がある。この帯状のパターンノイズbは、固体撮像素子内に設けられた画素信号を読み出すための回路部や外部から入力するバイアス等がハイライトパターンaにおける信号レベルの変動の影響を受けるなどして発生するものであり、画像信号上では画像信号にオフセットが重畳したように見える。また、固体撮像素子を形成する半導体基板中の電荷の拡散により、ハイライトパターンaを中心に像が拡がって見えることもある。
(中略)
【0007】
また、特開2007-19820号公報に開示されている図15に示すような固体撮像素子が知られている。図15は、該公報開示の固体撮像素子の画素領域の構成を示す図であり、501は有効画素領域、502は遮光領域(OB領域)をそれぞれ示している。そして、有効画素領域501中に503で示す遮光画素が点在して配置されている。このように有効画素領域501内に遮光画素503を配置することにより、有効画素領域501全体の黒レベルが把握可能となるので、この有効画素領域501内に設けた遮光画素503を用いて、暗電流のばらつきに起因するムラ状のパターンノイズを補正することが可能となる。
(中略)
【0009】
また、特開2007-19820号公報開示の手法においては、パターンノイズにおいてエッジがはっきりしている場合に、有効画素領域中に配置されている遮光画素が点在されているため、正確なエッジ情報が得られずパターンノイズの補正が不十分であるという問題があった。
(中略)
【0011】
本発明は、従来の固体撮像素子における上記課題を解決するためになされたもので、光入射状態で発生するパターンノイズも含めて2次元状に分布するパターンノイズを、時間をかけずに精度よくノイズ補正を行うことができるようにした固体撮像素子、及びそれを用いた固体撮像システムを提供することを目的としている。」
(c)「【0020】
(実施例1)
まず、実施例1について説明する。図1は、本発明に係る固体撮像システムの実施例1の構成を示すブロック図である。図1において、1は撮影のための撮像光学系であり、光学系制御回路12により焦点距離や絞りが制御される。2は固体撮像素子であり、その駆動は駆動回路8により制御される。そして、固体撮像素子2は、撮像光学系1によって結像される被写体像を画像信号として出力する。また、固体撮像素子2の有効画素領域には、後で詳述するように、ノイズ信号を出力するノイズ抽出用の画素が複数設けられている。
【0021】
固体撮像素子2の構成を図2に示す。図2において、100は画素領域であり、P11?Pnmで示すn列×m行の画素を配列した場合を示している。200は画素の動作を制御する垂直走査回路であり、行単位で画素を選択し、選択した行の画素信号を、列毎に設けられている垂直信号線50へ出力させる。400は水平読み出し回路であり、垂直走査回路200により選択され、垂直信号線50に出力された1行分の画素信号を、取り込みパルスΦTで制御する取り込みスイッチ40を介して取り込み、その行の画素の信号を水平方向の並びの順で時系列に出力端子70から出力する。60は垂直信号線50に接続された電流源である。
【0022】
この固体撮像素子2で用いられる画素の構成を図3に示す。図3において、PDはフォトダイオード(光電変換素子)であり、FDはフォトダイオードPDで発生し蓄積した信号電荷を検出する容量素子から構成される電荷検出部である。ここで、電荷検出部FDは遮光されている。M1はフォトダイオードPDの信号を電荷検出部FDへ転送するトランジスタであり、転送パルスΦTR-i(i=1,2,・・・m)により制御される。M3は増幅用トランジスタであり、垂直信号線50に設けられた電流源60とでソースフォロアンプを構成する。電荷検出部FDの信号は増幅用トランジスタM3により増幅され、選択トランジスタM4を介して垂直信号線50に出力される。選択トランジスタM4は、選択パルスΦSE-iにより制御される。M2は電荷検出部FD及び増幅用トランジスタM3の入力部と画素電源VDDとの接続を制御するリセットトランジスタであり、リセットパルスΦRS-iにより制御される。ここで、選択パルスΦSE-i,転送パルスΦTR-i,リセットパルスΦRS-iは、図2に示す垂直走査回路200 により出力され、図2中では、ΦSE-1?ΦSE-m,ΦTR-1?ΦTR-m,ΦRS-1?ΦRS-mで示している。
【0023】
図4は、図3に示す画素の動作を説明するためのタイミングチャートである。図4中の時刻t1の時点で、ある選択された1水平ライン上の画素のフォトダイオードPDには光信号により発生した信号電荷が蓄積されているものとする。時刻t1で、リセットトランジスタM2をオンする“H”レベルのリセットパルスΦRS-iを与えると、電荷検出部FDは画素電源VDDにリセットされる。次いで、リセットトランジスタM2をオフにし、時刻t2で選択された行の画素の転送トランジスタM1をオンするための“H”レベルの転送パルスΦTR-iを与えることで、フォトダイオードPDに蓄積された信号電荷を電荷検出部FDに転送する。この後、転送パルスΦTR-iを“L”レベルにして転送トランジスタM1をオフにしても、電荷検出部FDは上記信号電荷に基づいた値に保持される。一方、フォトダイオードPDは蓄積されていた信号電荷が全て電荷検出部FDに転送され、信号電荷が空の状態、すなわちフォトダイオードPDはリセットされたこととなる。そして、フォトダイオードPDは、これ以降に光信号によって発生する信号電荷の蓄積を開始
する。そして、時刻t3で選択パルスΦSE-iを“H”レベルにし、電荷検出部FDの信号を増幅した画素信号を垂直信号線50に出力する。その後は取り込みスイッチ40,水平信号読み出し回路400 を介して、出力端子70から画素信号を出力する。
【0024】
この固体撮像素子2の画素領域100の構成を図5に示す。画素領域100は、黒レベル信号を出力するOB領域102と実際に被写体像の撮像に寄与する有効画素領域101とから構成されている。そして、有効画素領域101には、図3で説明した画素(通常画素)111-1とノイズ抽出用の画素111-2とが設けられており、ノイズ抽出用の画素111-2は、フォトダイオードPDに光が入射されないように、配線用メタル層などを用いて遮光されている。またノイズ抽出用の画素111-2は、図示のように、4×4画素ブロック100a中、行及び列方向に各1画素ずつ計4画素設けている。
【0025】
再び図1に戻り、3は固体撮像素子2の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換装置である。4は固体撮像素子2より得られた画像信号S1中のノイズを補正するノイズ補正信号処理回路であり、固体撮像素子2の有効画素領域101中に設けられたノイズ抽出用の画素111-2から補正用画像信号S2を生成する補正用画像生成部5と固体撮像素子2の画像信号S1を補正用画像信号S2で補正する補正部6から構成されている。7は信号処理回路であり、ノイズ補正信号処理回路4でノイズ補正された画像信号S3を処理する。13は前記信号処理回路7で処理された信号を一時的に記憶するメモリー装置、14は最終的な画像を記録する記録装置である。また、11は固体撮像システム全体の制御をつかさどる制御装置であり、撮像光学系、固体撮像素子の駆動、補正用画像信号の生成から補正までの補正動作、信号処理、記録等の撮像に関わる動作の制御全てをつかさどる。
【0026】
次に、図1の固体撮像システムの全体動作について説明する。ここでは、図13の(A)に示したハイライトパターンを有する被写体を撮像する場合について説明する。図1の固体撮像システムは、制御装置11の指示により、光学系制御回路12と駆動回路8が制御され、固体撮像素子2により被写体の撮像が行われる。そして固体撮像素子2により得られる画像信号は、A/D変換装置3でジデタル信号に変換する。ここで撮像された撮影画像信号S1は、前述したような帯状のパターンノイズが生じ、図6の(A)に示す画像となっているものとする。なお、図6の(A)に示す画像は、固体撮像素子2の有効画素領域中の通常画素111-1から得られる画像のみを示している。デジタル化された撮影画像信号S1は、ノイズ補正信号処理回路4に入力される。
【0027】
ここで、補正用画像信号生成部5では、デジタル化された撮影画像信号S1の中からノイズ抽出用の画素111-2による信号のみ抽出し、その信号からノイズ補正用画像信号S2を生成する。ここでノイズ抽出用の画素111-2は、遮光された画素であるので、その信号は入射光には依存せず、固体撮像素子2内に設けられた回路のオフセット変動分に相当する信号となる。この補正用画像信号S2を図6の(B)に示す。そして、補正部6では、補正用画像信号S2を用いて、撮影画像信号S1を補正する。ここでは、補正すべき帯状のパターンノイズは、オフセット変動分であるため、補正動作としては、撮影画像信号S1から補正用画像S2の減算処理となる。この減算処理により補正された補正後の画像信号S3を図6の(C)に示す。補正後の画像信号S3は、信号処理回路7に入力され、色処理、補間処理、γ処理などが施され、最終的な撮影データは、記録装置14に保存される。
【0028】
以上説明したように、本実施例の固体撮像システムにおいては、固体撮像素子の有効画素領域中に遮光されたノイズ抽出用の画素を設けることにより、固体撮像素子2で発生する回路オフセット変動によるパターンノイズ成分を抽出することが可能となる。そして、抽出されたパターンノイズ成分を撮影画像から減算して補正することにより、パターンノイズのない良好な画像を得ることが可能となる。また、このパターンノイズは、撮影動作を行うと同時に抽出することか可能であるため、余分な撮像動作を行う必要はなく、また被写体の明るさやその形状に依存して発生するパターンノイズについても補正することが可能となる。」
d 引用発明2
上記cより、引用文献2には、下記の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「光電変換素子を含む画素が2次元状に配列された画素領域内の被写体像に係る画像信号が出力される有効画素領域に、画素の、入射光量によらないノイズ信号を出力するノイズ抽出用の画素が複数、前記有効画素領域内のN×N(Nは2以上の整数)画素を単位ブロックとしたとき、その単位ブロック内の各行及び各列に少なくとも1画素設けて2次元に分散させて配置されてなる固体撮像素子であって、
前記有効画素領域には、通常画素と前記ノイズ抽出用の画素が設けられており、
前記通常画素から得られる画像には、帯状のパターンノイズが生じており、
前記ノイズ抽出用の画素による信号からノイズ補正用画像信号を生成し、撮影画像信号から該ノイズ補正用画像信号を減算することによって、前記帯状のパターンノイズのない良好な画像を得ることを特徴とする、固体撮像素子。」
(ウ)対比
本件補正発明と引用発明1を対比する。
a 引用発明1の各「ブロック」は、撮像素子の画素を分割した矩形ブロック状のものであるから、「撮像領域」であるといえる。
そうすると、引用発明1の「ブロック(x1,yi)」及び「ブロック(x2,yi+1)」は、それぞれ、本件補正発明の「第1撮像領域」及び「第2撮像領域」に対応するといえる。
また、引用発明1は、「上記ブロック毎に異なる露光時間となるように制御され」るものであり、上記「露光時間」は、被写体を撮像する際の「撮像条件」であるといえる。
そうすると、引用発明1は、「ブロック(x1,yi)」は「第1撮像条件で被写体を撮像するように設定」され、「ブロック(x2,yi+1)」は「前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定」されているといえる。
また、本件補正発明と引用発明1は、「撮像素子」である点において共通するといえる。
以上より、本件補正発明と引用発明1は、「第1撮像条件で被写体を撮像するように設定された第1撮像領域」と、「前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定された第2撮像領域」とを備える「撮像素子」である点において、共通するといえる。
b 引用発明1の各「ブロック」は、「P行(Row)、Q列(Column)の画素からなる」ものであり、引用文献1の【図6】の記載より、上記P及びQは、いずれも2以上であると認められる。
以下では、引用発明1の「ブロック(x1,yi)」の画素のうち、左上端(1行1列)に位置する画素を、「画素A」といい、当該「画素A」の右隣(1行2列)に位置する画素を、「画素B」という。また、以下では、引用発明1の「ブロック(x2,yi+1)」の画素のうち、左上端(1行1列)に位置する画素を、「画素C」といい、当該「画素C」の右隣(1行2列)に位置する画素を、「画素D」という。
c 引用発明1の「画素B」が備える「フォトダイオードPD」は、本件補正発明1の「光を電荷に変換する第1光電変換部」に相当するといえ、引用発明1の「画素B」が出力する「出力画素信号SIGc」は、本件補正発明の「光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号」に相当するといえ、引用発明1の「画素B」は、本件補正発明の「第1画素」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「第1撮像領域」が、「光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号を出力する第1画素」を有する点において共通するといえる。
c 引用発明1の「画素A」が出力する「出力画素信号SIGc」は、後述する相違点1を除き、本件補正発明の「第2信号」に相当するといえ、引用発明1の「画素A」は、後述する相違点1を除き、本件補正発明の「第2画素」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「第1撮像領域」が「第2信号を出力する第2画素」を有する点において共通し、後述する相違点1において相違するといえる。
d 引用発明1の「信号線」は「垂直方向に延びる」ものであり、また、「画素A」と「画素B」は、異なる列に配置されたものであるから、「画素A」と「画素B」には、異なる「信号線」が接続されるものと認められる。
また、引用文献1の【図6】の記載より、これらの「信号線」は「ブロック(x1,yi)」内に配置されるものと認められる。
ここで、上記(ア)において検討したとおり、本件補正発明の「第1信号線」は「複数の信号線」を意味するものと解されるところ、引用発明1の「画素A」に接続された「信号線」と、「画素B」に接続された「信号線」を併せたものは、本件補正発明の「前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「第1撮像領域」が「前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線」を有する点において共通するといえる。
e 引用発明1においては、「上記画素に光が入射されると、上記フォトダイオードPDにおいて光電変換により光量に応じた電荷が発生し、上記フォトダイオードPDに蓄積した電荷は上記トランジスタM2を介して上記フローティングディフュージョンFDに転送」され、「上記フローティングディフュージョンFDに蓄積された電荷は、上記トランジスタM5によって増幅され、上記トランジスタM6を介して出力画素信号SIGcが出力」され、「垂直方向に延びる信号線を介して、上記出力画素信号SIGcを出力する」から、引用発明1の「フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6」は、「フォトダイオードPD」の電荷を用いて生成された「出力画素信号SIGc」を、「信号線」に読み出す回路であるといえる。
そうすると、引用発明1の「画素B」が有する「フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6」は、本件補正発明の「前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路」に相当するといえる。
また、引用発明1の「画素A」が有する「フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6」は、本件補正発明の「前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路」に相当するといえる。
そして、引用発明1の「制御信号RSr,TRr,SLr」は、「フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6」からなる回路を制御する制御信号であるといえ、また、引用発明1は、「上記画素には、水平方向に延びる3種類の制御線を介して制御信号RSr,TRr,SLrを入力」するものであり、「これらの制御信号RSr,TRr,SLrは、同じRow(行)に属する画素は全て同じ制御線から入力するようになって」いるから、同じ行に配置された「画素A」と「画素B」には、同じ制御線が接続されるものと認められ、さらに、引用文献1の【図6】の記載より、当該制御線は「ブロック(x1,yi)」内に配置されるものと認められるから、当該制御線は、本件補正発明の「第1制御線」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「第1撮像領域」が「前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線」を有する点において共通するといえる。
f 引用発明1の「画素D」が備える「フォトダイオードPD」は、本件補正発明1の「光を電荷に変換する第2光電変換部」に相当するといえ、引用発明1の「画素D」が出力する「出力画素信号SIGc」は、本件補正発明の「光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号」に相当するといえ、引用発明1の「画素D」は、本件補正発明の「第3画素」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「第2撮像領域」が、「光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号を出力する第3画素」を有する点において共通するといえる。
g 引用発明1の「画素C」が出力する「出力画素信号SIGc」は、後述する相違点1を除き、本件補正発明の「第4信号」に相当するといえ、引用発明1の「画素C」は、後述する相違点1を除き、本件補正発明の「第4画素」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「第2撮像領域」が「第4信号を出力する第4画素」を有する点において共通し、後述する相違点1において相違するといえる。
h 引用発明1の「信号線」は「垂直方向に延びる」ものであり、また、「画素A」ないし「画素D」はいずれも、異なる列に配置されたものであるから、「画素A」ないし「画素D」には、いずれも異なる「信号線」が接続されるものと認められる。
また、引用文献1の【図6】の記載より、「画素C」に接続された「信号線」と、「画素D」に接続された「信号線」は、「ブロック(x2,yi+1)」内に配置されるものと認められる。
ここで、上記(ア)において検討したとおり、本件補正発明の「第2信号線」は「複数の信号線」を意味するものと解されるところ、引用発明1の「画素C」に接続された「信号線」と、「画素D」に接続された「信号線」を併せたものは、本件補正発明の「前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「第2撮像領域」が「前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線」を有する点において共通するといえる。
i 上記eにおいて検討したとおり、引用発明1の「フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6」は、「フォトダイオードPD」の電荷を用いて生成された「出力画素信号SIGc」を「信号線」に読み出す回路であるといえる。
そうすると、引用発明1の「画素D」が有する「フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6」は、本件補正発明の「前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路」に相当するといえる。
また、引用発明1の「画素C」が有する「フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6」は、本件補正発明の「前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路」に相当するといえる。
そして、引用発明1の「制御信号RSr,TRr,SLr」は、「フローティングディフュージョンFD、トランジスタM1、トランジスタM2、トランジスタM3、トランジスタM4、トランジスタM5及びトランジスタM6」からなる回路を制御する制御信号であるといえ、また、引用発明1は、「上記画素には、水平方向に延びる3種類の制御線を介して制御信号RSr,TRr,SLrを入力」するものであり、「これらの制御信号RSr,TRr,SLrは、同じRow(行)に属する画素は全て同じ制御線から入力するようになって」いるから、同じ行に配置された「画素C」と「画素D」には、同じ制御線が接続されるものと認められ、また、「画素C」と「画素D」は、「画素A」及び「画素B」とは異なる行に配置されているから、「画素C」及び「画素D」に接続された制御線と、「画素A」及び「画素B」に接続された制御線とは、異なる制御線であるといえる。
さらに、引用文献1の【図6】の記載より、「画素C」及び「画素D」に接続された制御線は、「ブロック(x2,yi+1)」内に配置されるものと認められる。
以上より、「画素C」及び「画素D」に接続された制御線は、本件補正発明の「第2制御線」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「第2撮像領域」が「前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線と、前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線」を有する点において共通するといえる。
j 以上より、本件補正発明と引用発明1は、下記(a)において一致し、下記(b)において相違すると認める。
(a)一致点
「光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号を出力する第1画素と、第2信号を出力する第2画素と、前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線と、前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線と、を有し、第1撮像条件で被写体を撮像するように設定された第1撮像領域と、
光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号を出力する第3画素と、第4信号を出力する第4画素と、前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線と、前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線と、を有し、前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定された第2撮像領域と、
を備える撮像素子。」
(b)相違点
・相違点1
本件補正発明の「第2信号」は「第1信号に含まれるノイズの除去に用いる」ものであり、「第4信号」は「第3信号に含まれるノイズの除去に用いる」ものであるのに対し、引用発明1はこれらの構成を特定しない点。
(エ)判断
a 上記(イ)dのとおり、引用文献2には、
「光電変換素子を含む画素が2次元状に配列された画素領域内の被写体像に係る画像信号が出力される有効画素領域に、画素の、入射光量によらないノイズ信号を出力するノイズ抽出用の画素が複数、前記有効画素領域内のN×N(Nは2以上の整数)画素を単位ブロックとしたとき、その単位ブロック内の各行及び各列に少なくとも1画素設けて2次元に分散させて配置されてなる固体撮像素子であって、
前記有効画素領域には、通常画素と前記ノイズ抽出用の画素が設けられており、
前記通常画素から得られる画像には、帯状のパターンノイズが生じており、
前記ノイズ抽出用の画素による信号からノイズ補正用画像信号を生成し、撮影画像信号から該ノイズ補正用画像信号を減算することによって、前記帯状のパターンノイズのない良好な画像を得ることを特徴とする、固体撮像素子。」(引用発明2)
が記載されている。
b 引用発明1と引用発明2は、いずれも撮像素子に係るものであるから、技術分野が共通し、また、引用発明2が解決しようとする課題である、「時間を掛けずに精度良くノイズ補正を行うこと」(引用文献2の段落【0011】)は、当該技術分野において一般的な技術課題であり、引用発明1においても当然考慮される技術的課題であるから、引用発明1において、時間を掛けずに精度良くノイズ補正を行うために、引用発明2を適用することには、動機付けが認められる。
c ここで、引用発明2は、「特開2007-19820号公報開示の手法においては、パターンノイズにおいてエッジがはっきりしている場合に、有効画素領域中に配置されている遮光画素が点在されているため、正確なエッジ情報が得られずパターンノイズの補正が不十分である」(引用文献2の段落【0009】)との問題を解決するために、「ノイズ信号を出力するノイズ抽出用の画素」を「有効画素領域内のN×N(Nは2以上の整数)画素を単位ブロックとしたとき、その単位ブロック内の各行及び各列に少なくとも1画素設けて2次元に分散させて配置」したものであって、全有効画素領域において「ノイズ抽出用の画素」を万遍なく配置することを意図したものであることは当業者にとって明らかであるから、引用発明1に対して引用発明2を適用する際に、全ての「ブロック」に「ノイズ抽出用の画素」が含まれるように「ノイズ抽出用の画素」を配置することは、当業者であれば普通になし得たことである。
そして、引用発明1に対して引用発明2を適用する際に、いずれの位置の画素を「ノイズ抽出用の画素」とするのかは任意であるから、各「ブロック」の左上端に位置する画素を「ノイズ抽出用の画素」とし、その右隣の画素を「通常画素」とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。
d また、引用発明2は、「前記ノイズ抽出用の画素による信号からノイズ補正用画像信号を生成し、撮影画像信号から該ノイズ補正用画像信号を減算することによって、前記帯状のパターンノイズのない良好な画像を得る」ものであり、引用文献2の【図6】の記載より、「通常画素」から得られる画像に含まれるパターンノイズを除去する際に、当該「通常画素」に近接する「ノイズ抽出用の画素」による信号を用いていることは、当業者には明らかである。
e そうすると、引用発明1に対して引用発明2を適用し、ブロックの左上端に位置する「画素A」及び「画素C」を「ノイズ信号を出力するノイズ抽出用の画素」とし、「画素B」から出力される「出力画素信号SIGc」に含まれるノイズを、「画素B」に近接する「画素A」から出力される「ノイズ信号」(相違点1の「第2信号」に相当)を用いて除去し、「画素D」から出力される「出力画素信号SIGc」に含まれるノイズを、「画素D」に近接する「画素C」から出力される「ノイズ信号」(相違点1の「第4信号」に相当)を用いて除去することによって、相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
f また、本件補正発明の作用効果は、引用発明1及び2の構成から当業者が予測できるものであり、格別のものではない。
g したがって、本件補正発明は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 特許法第17条の2第6項についてのまとめ
以上イのとおり、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
また、上記ウのとおり、本件補正発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
さらに、上記エ(エ)のとおり、本件補正発明は、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正における請求項1についての補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。

4 補正の却下の決定についてのむすび
上記3(1)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、上記3(2)のとおり、本件補正における請求項1についての補正は、同条第5項柱書に規定する要件を満たしていないから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。
また、上記3(3)のとおり、仮に、本件補正における請求項1についての補正が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであったとしても、本件補正における請求項1についての補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 補正の却下の決定を踏まえた検討
1 本願発明
本件補正(平成29年7月11日付けの手続補正)は上記第2のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成29年2月10日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。(再掲)
「【請求項1】
光を電荷に変換する第1光電変換部の電荷を用いて生成された第1信号を出力する第1画素と、前記第1信号に含まれるノイズの除去に用いる第2信号を出力する第2画素と、を有し、第1撮像条件で被写体を撮像するように設定された第1撮像領域と、
光を電荷に変換する第2光電変換部の電荷を用いて生成された第3信号を出力する第3画素と、前記第3信号に含まれるノイズの除去に用いる第4信号を出力する第4画素と、を有し、前記第1撮像条件とは異なる第2撮像条件で被写体を撮像するように設定された第2撮像領域と、
を備える撮像素子。」

2 引用文献及び引用発明
原査定において引用された引用文献1及び2の記載事項並びに引用発明1及び2は、上記第2の3(3)エ(イ)aないしdに記載したとおりである。

3 対比・判断
上記第2の2で検討したとおり、本件補正発明は本願発明に対し、「前記第1信号及び前記第2信号を出力するための第1信号線」、「前記第1信号を前記第1信号線に読み出す第1読出回路と前記第2信号を前記第1信号線に読み出す第2読出回路とを制御する制御信号が供給される第1制御線」、「前記第3信号及び前記第4信号を出力するための第2信号線」及び「前記第3信号を前記第2信号線に読み出す第3読出回路と前記第4信号を前記第2信号線に読み出す第4読出回路とを制御する制御信号が供給される第2制御線」との発明特定事項を付加したものであり、本願発明は、本件補正発明から上記各発明特定事項を除いたものである。
そして、本願発明の構成要素を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の3(3)エ(エ)に記載したとおり、引用発明1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-19 
結審通知日 2018-02-20 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2013-207367(P2013-207367)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 肇  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 大嶋 洋一
須藤 竜也
発明の名称 撮像素子および撮像装置  
代理人 龍華国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ