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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21F
管理番号 1339591
審判番号 不服2016-15573  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-18 
確定日 2018-03-29 
事件の表示 特願2012- 83260「地殻様組成体の製造方法、ペースト状地殻様組成体、及び、地殻様組成体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日出願公開、特開2013-213701〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月30日を出願日とする特願2012-83260号であって、平成28年1月13日付けで拒絶理由が通知され、同年3月14日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年7月13日付け(送達 同年同月19日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して、同年10月18日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日に手続補正がされ、その後、前置審査において、平成28年12月26日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成29年3月21日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、当審において、同年10月30日付けで拒絶理由が通知され(以下「当審拒絶理由」という。)、同年12月28日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成29年12月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1ないし6に係る発明は、次のものである(以下、それぞれを「本願発明1」ないし「本願発明6」といい、それらをまとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物とを焼成して得られる固相組成物を微粉砕して成る粉砕材と、
セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と
を水で混練してペースト状組成物を生成させ、
上記ペースト状組成物には、測定下限値を超える放射能濃度で上記放射性物質を含んだ汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成して得られた焼却灰が混練されて成り、
全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下であることを特徴とする地殻様組成体の製造方法。
【請求項2】
炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物である固相組成物の微粉砕物である粉砕材と、
セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材との混合物で、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と
測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材の上記放射性物質の気化温度未満の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰と
水との混練物であり、
全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下であることを特徴とするペースト状地殻様組成体。
【請求項3】
炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物である固相組成物の微粉砕物である粉砕材と、
セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材の混合物で、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と
測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材の上記放射性物質の気化温度未満の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰と
水との混練物であるペースト状組成体の固化物であり、
全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下であることを特徴とする地殻様組成体。
【請求項4】
前記ペースト状組成体は、硬化速度及び/又は水和反応速度を調整するための反応速度調整材との混練物の固化物であることを特徴とする請求項3に記載の地殻様組成体。
【請求項5】
前記ペースト状組成体は、細骨材との混練物の固化物であることを特徴とする請求項3又は4に記載の地殻様組成体。
【請求項6】
前記ペースト状組成体は、粗骨材との混練物の固化物であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の地殻様組成体。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

「[理由1]
本件出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



・「放射性物質の気化温度未満で焼成した」点について
ア 本願請求項1に係る発明は、「焼成汚染材」に係り、「放射性物質の気化温度未満で焼成した」ことを発明特定事項とする。

イ ここで、本件明細書の発明の詳細な説明には、「焼成汚染材」を「放射性物質の気化温度未満で焼成した」ことに係り、下記の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ)。
(ア)「【0017】
[1.放射能無能化処理システムについて]
図1に示すように、本発明は、放射能無能化処理システム10によって、放射能汚染物質を無能化して、放射性物質の濃度を国内外の基準値以内にした本発明の地殻様組成体20を製造する。より具体的に、図2に示すように、放射能無能化処理システム10は、例えば、放射能汚染物質を含むがれき、汚泥、砂、スラッジ等を焼却等することによって、放射性物質と共に含まれる有機物を無くしながら、無機化処理された放射性物質を他の物質と例えば同時的に混合して希釈化し、放射性物質の濃度を基準値以内にした地殻様組成体20を製造する。地殻様組成体20は、放射性物質を固定し閉じ込め、また、封じ込めることによって、放射能が外部に放出されないように遮蔽することが出来る。つまり、希釈化するために混合される混合材として、放射線減衰性を有する無機物質を用いることで、効果的に放射性物質から放出される放射線を減衰させることが可能となる上、この混合材が更に物理的、化学的に安定な固化が成されて安定固相体となる物であることが望ましく、これによって長期的に放射性物質を閉じ込めて、放射能を実質的に無能化することが出来るようになる。」

(イ)「【0130】
[5-2.前処理工程の説明]
[5-2-1.汚染材の焼成処理の説明]
上記表2に示すように、放射能汚染材は、魚貝類、野菜類、焼却灰、汚泥スラッジ、海洋泥砂、河川泥砂、湖泥砂、街路樹木、がれき(コンクリ、木材、ガラス、金属、プラスチック)、汚染水、土砂、路面材等である。なお、ここで用いられる放射能汚染材は、放射能濃度(密度)が測定下限値でも良いが、測定下限値を超える放射能濃度(密度)で放射性物質を含んだ汚染材も用いることが出来る。このような汚染材に有機物が含まれると、地殻様組成体20が成形された後、時間経過に伴って、有機物が膨潤したり、腐敗したり、ガスを発生し、地殻様組成体20が脆弱化してしまう虞れがある。そこで、前処理工程1001では、図15に示すように、汚染材を地殻様組成体20の原料として使用する前に、汚染材の焼成処理を行う。ここでの焼成温度は、放射性物質の気化温度未満とし、放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする。このように、汚染材は、焼成処理されることで、有機物を気化若しくは無機化させることが出来る。
【0131】
【表3】

【0132】
上記表3は、代表的放射性物質の沸点表である。セシウム-134は、沸点が671℃である。従って、例えば、焼成温度を671℃未満としたときには、大分部分の放射性物質が気化することを防止することが出来る。なお、密閉空間で汚染材の焼成処理を行うときには、酸素を供給しながら行うことで、有機物質を炭酸ガス等の気体と、水分や灰分等の無機物質に変えることが出来る。」

ウ 上記「イ」「(イ)」によれば、本願請求項1に係る発明は、「汚染材に有機物が含まれると、地殻様組成体20が成形された後、時間経過に伴って、有機物が膨潤したり、腐敗したり、ガスを発生し、地殻様組成体20が脆弱化してしまう虞れ」があるために、「汚染材を地殻様組成体20の原料として使用する前に、汚染材の焼成処理を行う」ことで、「放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させること」を解決すべく、「放射性物質の気化温度未満で焼成」するものであると理解される。

エ ここで、一般的な有機物の燃焼温度は、紙(450℃前後)、木材(400?470℃)であることが本願出願前に周知の事項である。
また、一般的なゴミ焼却場の焼却温度は850?1150℃であることが本願出願前に周知の事項である。
これに対して、上記「イ」「(ウ)」の「【表3】」によれば、代表的放射性物質の沸点として、I-129(184.3℃)、Cs-134/137(671℃)及びSr-90(1382℃)が知られている。

オ(ア)そうすると、本願請求項1に係る発明は、「放射性物質」を特定しないところ、「放射性物質」がI-129の場合は、沸点が184.3℃であるため、「放射性物質の気化温度未満で焼成」して、「放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させること」は不可能であると理解される。
(イ)また、「放射性物質」がSr-90の場合は、沸点が1382℃であるため、一般的なゴミ焼却場の焼却温度を含むため、「放射性物質」を特定しない場合は、微量に放射性物質を含むゴミを焼却している一般的なゴミ焼却場での焼却を含むことになるところ、本願請求項1に係る発明がそのようなものを含む趣旨であるのか不明である。
さらに、このような場合は、I-129(184.3℃)、Cs-134/137(671℃)は気化することとなるため、やはり、「放射性物質の気化温度未満で焼成」して、「放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させること」は不可能であると理解される。
(ウ)したがって、本願請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていない、「放射性物質の気化温度未満で焼成」して、「放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させる」という本願発明の課題を解決できない発明を含み、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものとは認められない。

[理由2]
本件出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1には「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成して得られた放射性物質を含有する焼却灰が混練されて成り」と記載されている。
しかしながら、上記記載は、概略「Aを超えるBを含んだ汚染材を、Cを含有するDが混練されて成り」となり、「を」が3回使用されていて、全体としての文章の関係が不明確である。

(2)上記[理由1]「オ」で述べたとおり、本願請求項1に係る発明は、「放射性物質」を特定しないため、「放射性物質」としてI-129あるいはSr-90を含み得るが、このような場合はどのようにして、「放射性物質の気化温度未満で焼成」して、「放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させること」を実現するのか理解できない。

[理由3]
(1)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・引用文献 「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分にむけた検討状況」、川崎市ホームページ、2012年3月27日、
(http://www.city.kawasaki.jp/170/cmsfiles/contents/0000015/15973/file1504.pdf)

1 本願発明について
特許請求の範囲に記載された請求項1ないし5に係る発明を、それぞれ本願発明1ないし5という。

2 引用刊行物及び引用発明
(1)本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審が付した。なお、「2」の括弧書きの見出し等は、それぞれの先頭に記載するものとした。)。
「1 これまでの経緯と今後の予定
◆平成23年9月?
『放射性物質対策検討特別部会』
【下水汚泥焼却灰等の安全な処分に向けた検討】
◆平成23年10月?
【焼却灰処分の安全性評価、モニタリング計画の考え方】
・汚染焼却灰等処分安全性評価委員会(3回開催)(委託先有識者委員会)
【汚染焼却灰等の処分に係る安全性評価の確認及び処分の方向性について】
・有識者から適宜意見聴取を行い検討に反映
◆平成24年3月
『東日本大震災対策本部会議』
【処分に向けた検討の方向性について確認】
◆平成24年4月?
【実現に向けた課題の抽出・整理】

2 第1?3回汚染焼却灰等処分安全性評価委員会での有識者からの主な意見
(前 提)
・今回の安全性評価の中では、セシウム(Cs134、Cs137)を対象としたことを前提条件として明示することが望ましい
・下水脱水汚泥からヨウ素(I131)が検出されつづけているのは、医療用として検査や治療で使用されたものと考えて差し支えない(国から医療用ヨウ素の安全性に関する通知発出)

(・・・途中省略・・・)

(方 針)
・再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原料化)の再開を目指すことは望ましい
・めやす値より低いからそれで良しとするのではなく、さらに、できる限り影響が小さくなるよう対策する姿勢が重要

(・・・途中省略・・・)

(モニタリング)
・埋立作業前に周辺の空間線量を測定することが、焼却灰の影響を確認するうえで非常に重要となる
・海底土壌の核種分析においては、河川由来の放射性物質が想定され、長期間にわたり分析していくと濃度が上昇する可能性があるので.モニタリングの際には注意が必要」
(引用文献1左側の頁)

(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134、Cs137)とし、放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う、下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法。」

3 対比・判断
(1)請求項1に対して
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は、「下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う、下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法」であるから、セメントを製造するものであるところ、セメントの製造に際しては、石灰石、粘土、珪石、鉄原料等を焼成してクリンカを製造する工程を含むことは本願出願前に周知の事項である。
また、当該クリンカは、炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物とを焼成して得られる固相組成物であるといえる。
そして、セメントの製造に際しては、当該クリンカは微粉砕されるから、引用発明の「下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う、下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法」は、本願発明1の「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物とを焼成して得られる固相組成物を微粉砕して成る粉砕材」「を水で混練してペースト状組成物を生成させ」「る地殻様組成体の製造方法」である点に相当する。

(イ)引用発明の「放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134、Cs137)とし、放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する」「下水汚泥焼却灰」は、本願発明1の「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成して得られた放射性物質を含有する」「焼却灰」と、「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を、焼成して得られた放射性物質を含有する焼却灰」である点で一致する。

(ウ)引用発明は、「放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う、下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法」であるから、セメントを製造するものであるところ、セメントを使用するに際しては、水で混練することは本願出願前に周知の事項である。
また、セメントを使用して、コンクリート構造物やレンガ等を製造することは常套手段であり、また、その成分からみて、引用発明において、「下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行」って製造したセメントは(石灰石、粘土、珪石、鉄原料等を焼成してクリンカを製造する工程を含むから)地殻様組成体といえるものであると認められる。
そして、場所と時期によってはコンクリートを製造するに際して使用する水には放射性物質(特にセシウム)が含まれ得るところ、クリンカは吸水性であって、放射性物質(特にセシウム)を吸着するものといえるから、「放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う」際に当然製造させるクリンカが、本願発明1の「放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた」「処理材」に相当する。
さらに、引用発明の「放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する」ことは、本願発明1の「全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下である」ことに相当する。
そうすると、上記(ア)及び(イ)での検討を踏まえると、引用発明の「放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う」「下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法」は、本願発明1の「放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材とを水で混練してペースト状組成物を生成させ、上記ペースト状組成物には、測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成して得られた放射性物質を含有する焼却灰が混練されて成り、全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下である」「地殻様組成体の製造方法」と「放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材とを水で混練してペースト状組成物を生成させ、上記ペースト状組成物には、測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を、焼成して得られた放射性物質を含有する焼却灰が混練されて成り、全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下である」「地殻様組成体の製造方法」の点で一致する。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば、両者は
「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物とを焼成して得られる固相組成物を微粉砕して成る粉砕材と、
放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と
を水で混練してペースト状組成物を生成させ、
上記ペースト状組成物には、測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を、焼成して得られた放射性物質を含有する焼却灰が混練されて成り、
全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下であることを特徴とする地殻様組成体の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・本願発明1の「焼成」は、「放射性物質の気化温度未満」でなされるのに対して、引用発明はこのように特定されない点(以下「相違点1」という。)。

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
上記[理由2]「(2)」で述べたとおり、本願請求項1に係る発明は、「放射性物質」を特定しないため、「放射性物質」としてI-129あるいはSr-90を含み得ることになり、「放射性物質の気化温度未満」が特定されないが、引用発明は、「放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134、Cs137)とし、放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う、下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法」であって具体的な下水汚泥の焼却温度は特定されないが、下水汚泥を焼却した灰に含まれるセシウム(Cs134、Cs137)をモニタリングしていることに照らして、下水汚泥を焼却しても、汚泥灰にセシウム(Cs134、Cs137)が含まれる温度(沸点以下)で焼却しているものと推認される。
そうすると、実質的には、引用発明も本願発明1と同じく、放射性物質の気化温度未満で焼成しているといえるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

ウ 小括
以上の検討によれば、本願発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明2について
上記(1)アでの検討を踏まえて、本願発明2と引用発明とを対比すると、両者は、
「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物である固相組成物の微粉砕物である粉砕材と、
放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材との混合物で、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と
測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰と
水との混練物であり、
全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下であるペースト状地殻様組成体。」
で一致する。
そうすると、引用発明は本願発明2の構成をすべて備えている。
よって、本願発明2は、引用文献に記載された発明である。

(3)本願発明3について
上記(1)アでの検討を踏まえて、本願発明3と引用発明とを対比すると、両者は、
「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物である固相組成物の微粉砕物である粉砕材と、
放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材の混合物で、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と
測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰と
水との混練物であるペースト状組成体の固化物であり、
全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下である地殻様組成体。」
で一致する。
そうすると、引用発明は本願発明3の構成をすべて備えている。
よって、本願発明3は、引用文献に記載された発明である。

(2)本願発明4ないし6について
本願発明4ないし6は、本願発明3に、セメントの製造あるいはセメントの使用に関する設計的な事項を付加するにすぎないものであるから、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明2及び3は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明1、4ないし6は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。」

第4 平成29年12月28日付けで請求人が提出した意見書(以下、単に「意見書」という。)の概要
「4.拒絶理由について
(A)理由1(特許法第36条第6項第1号)について
各独立請求項1-3において、放射性物質はセシウム及び/又はストロンチウムを主として含むことを特定する補正を行いました。
これにより、審判長殿が拒絶理由通知書において指摘された、
『(ア)そうすると、本願請求項1に係る発明は、「放射性物質」を特定しないところ、「放射性物質」がI-129の場合は、沸点が184.3℃であるため、「放射性物質の気化温度未満で焼成」して、「放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させること」は不可能であると理解される。』
という点について解消するものと思料致します。
なお、審判長殿は、セシウムの沸点は671℃であり、ストロンチウムの沸点が1382℃であるときに、焼却温度をストロンチウムの沸点に合わせた場合(例えば、一般的なゴミ焼却温度で焼却した場合)、セシウムは気化すると指摘されるかも知れませんが、当業者であれば焼却物質が沸点の異なる物質を含んでいたときに、両物質の気化を防ぐために焼却温度を沸点が低い物質に合わせて設定することは極めて容易に理解されるものと思料致します。
また、審判長殿は、一般的なゴミ焼却炉の焼却温度を唐突に持ち出して、850℃?1150℃であることが本願出願前に周知とした上で、この焼却温度はストロンチウムの沸点1382℃よりも低いことを理由に記載不備であることを指摘されていますが、一般的なゴミ焼却では焼却時の温暖化ガス削減対策(亜酸化窒素(N_(2)O)の発生を防止するために、被焼却物質を完全燃焼させることを技術的な思想としているのに対し、本願発明では、焼成温度を放射性物質の気化温度未満に設定することで、放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする(本願明細書段落0130)という、いわば不完全燃焼させることを技術的な思想とするものであって、そもそも一般的なゴミ焼却の概念と本願発明の技術的思想は異なるものです。
従って、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されてものであって、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものです。
(B)理由2(特許法第36条第6項第2号)について
審判長殿は、拒絶理由通知書において、
『(1)請求項1には「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成して得られた放射性物質を含有する焼却灰が混練されて成り」と記載されている。
しかしながら、上記記載は、概略「Aを超えるBを含んだ汚染材を、Cを含有するDが混練されて成り」となり、「を」が3回使用されていて、全体としての文章の関係が不明確である。』
旨、指摘されました。
そこで本件出願人は、「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成して得られた放射性物質を含有する焼却灰が混練されて成り」を「測定下限値を超える放射能濃度で上記放射性物質を含んだ汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成して得られた焼却灰が混練されて成り」と補正しました。
これにより、文章の関係が明確になるものと思料致します。
また、理由2の(2)の指摘については、上記理由1で述べた通りです。
(C)理由3(特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項)について
審判長殿は拒絶理由通知書において、
「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分にむけた検討状況」、川崎市ホームページ、2012年3月27日、
(http://www.city.kawasaki.jp/170/cmsfiles/contents/0000015/15973/file1504.pdf)を引用文献として、本願発明との一致点・相違点を認定された上で、相違点についても引用文献から推認されるため実質的な相違点ではないとして、本願発明は、引用文献に基づいて当業者が容易に発明することができたものである旨、認定されました。
審判長殿が「2 引用刊行物及び引用発明」で指摘された部分については、
(・・・途中省略・・・)
とあります。
(C-1) 引用文献の証拠能力について
上記引用文献には、「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた検討状況2012.3.27」と掲載されていますが、2012.3.27という記載のみをもって、現にその日に頒布された刊行物であったかどうかについては不明です。すなわち、2012.3.27は単に資料の作成日を示すかも知れません。さらに、上記引用文献の記載内容から、引用文献は、東日本大震災に関連する会議資料と推測されますが、この頃は、東日本大震災から1年が経過していたとは言え、未だ世間では放射能汚染に対しての風評被害が多く発生していたため、場合によっては、引用文献のような放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分については秘密状態が保持された会議で話し合われていたことも考えられます。
以上のことから、単に資料に日付が記載されているからと言って、その日が当該引用文献の公開日であるとの根拠にはなりません。
(C-2) 引用文献の説明
上記引用文献において、「処分に向けた検討」、「検討の方向性」、「実現に向けた課題」、「望ましい」、「対策する姿勢が重要」と記載されているように、引用文献は、単にこれから放射性物質を処分していく上での要望や方向性について述べられた検討資料に過ぎず、具体的な発明の構成要件が記載された技術資料といった類の資料では全くなく、引用発明と呼べる文献ではないと思料致します。
上記引用文献には、「少なくともセシウムが含まれる下水汚泥焼却灰を、セメント原料化して再利用を目指すこと、及び、再利用に際してめやす値だけでなくそれ以下を目指すこと」が記載されています。
なお、引用文献には、下水汚泥焼却灰をセメント原料化することまでが記載及び示唆されています。(原料化したセメントを利用してコンクリートを製造することについては全く記載されておりません)
(C-3) 引用文献と本願発明との相違点
審判長殿が拒絶理由通知書の「3 対比・判断」において認定された点について意見を述べる形式で以下に引用文献と本願発明との相違点を説明します。
まず、審判長殿は、3(1)(ウ)において、引用文献は、「放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う、下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法」であるから、本願発明1の「放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた」「処理材」に相当すると認定されました。
しかしながら、引用文献は、下水汚泥焼却灰のセメント原料化が示唆されているに過ぎず、これを利用してコンクリートを製造することについては全く記載されておりません。そうすると、単に汚染水と、吸水性のあるクリンカが知られているという理由で「放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた」「処理材」に相当するとした判断には発想の飛躍があるように思われます。
引用文献には、下水汚泥焼却灰のセメント原料化をどのように行うのかについて何ら具体的な記載はされていません。
また、上記で再三説明しているように引用文献の開示範囲はセメント原料に留まり、セメント原料を利用してコンクリートを製造することについては全く記載も示唆もされていないことから、審判長が3(1)(ア)でした、引用文献が「を水で混練してペースト状組成物を生成させ」に相当する記載があるとの判断は誤りです。
従って、本願発明1の「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材とを水で混練してペースト状組成物を生成させ」は引用文献に記載も示唆もされていません。
相違点1に関しても、モニタリングは、埋立作業前に周辺の空間線量を測定することが記載されているのみです。例えば、下水汚泥灰にセシウムが含まれる状況としては下水汚泥を完全燃焼させて排ガスを処理することで放射性物質が外部に出ないようにして、セシウムを含む下水汚泥灰を収集する方法も考えられるため、上記モニタリングの記載のみ、すなわち、下水汚泥灰にセシウムが含まれていることのみをもって、下水汚泥を、放射線物質の気化温度未満で焼成していると推認するのは論理の飛躍があるものと思料致します。
さらに、審判長は、3(1)(ウ)において引用文献の「放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する」ことは、本願発明1の「全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下である」ことに相当すると認定されました。
しかしながら、引用文献では単にめやす値より低いよう対策するという指針が示されているに過ぎず、何ら具体的な構成を示していないため、引用文献の記載から本願発明は導き出されません。すなわち、本願発明は、粉砕材と、特定の処理材と、特定の焼却灰とを混練するという具体的な方法によって、放射能濃度を調整するのに対し、引用文献は、単に指針を示しているに過ぎず、何ら具体的な構成を示していません。従って、引用文献の記載から本願発明は導き出されません。
以上に説明したように、本願発明における、「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材を水で混練してペースト状組成物を生成され」を有する点と、「汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成し」、得られる地殻組成体を「全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下」とする構成については、引用文献には記載も示唆もされていない構成です。
このような引用文献には記載されていない構成を備えることにより、本願発明は、有機物が含まれないようにし、且つ放射性濃度を下げた地殻様組成体を安定的に製造することが、初めてできるようになったものです。
すなわち、本願発明は、気化温度未満で焼成することで、安定した所定濃度の放射性濃度の焼成汚染材を採取することができるようになり、さらに、これを放射性物質を含んだ汚染水と担持材、さらに、粉砕材を適宜な割合で加えて、水と混練することによって、放射能濃度を下げて法令基準値以下のレベルまで容易に調整することができます。
このような技術的思想は、引用文献には記載も示唆もされていません。
また、ペースト状地殻様組成体に関する本願請求項2、及び、地殻様組成体に関する本願請求項3?6についても、「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材の混合物で、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と、測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材の上記放射性物質の気化温度未満の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰と、水との混練物」であること、及び、「全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下である」ことに関して上記主張と同様の理由により、引用文献には記載も示唆もされていない技術的思想に基づく発明です。
以上より、上記引用文献は引用発明が記載されていると呼べるような文献ではなく、本願発明は、上記引用文献に記載の発明とは異なり、且つ、引用文献の記載に基づいて当業者が容易に想到できるものではありません。」

第5 特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていないことについて
1 本願請求項1ないし3における「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質」との発明特定事項について
本願請求項1ないし3の「放射性物質」は、「セシウム及び/又はストロンチウムを『主として含む』」と特定されるから、セシウム、ストロンチウム以外の放射性物質(例えば、I-129)が含まれるものも特定されている(排除されていない)ということができる。
そこで、上記の放射性物質には、「主として」ではないが、他の放射性物質としてI-129も含まれているとして検討する。
そうすると、本願発明1ないし3の「放射性物質」は、
(1)セシウム(主として含む)及び他の放射性物質(I-129)
(2)ストロンチウム(主として含む)及び他の放射性物質(I-129)
(3)セシウム及びストロンチウム(主として含む)及び他の放射性物質(I-129)
のいずれかであることを特定すると解される。

2 本願請求項1ないし3における「上記放射性物質の気化温度未満」との発明特定事項について
(1)本願請求項1ないし3における「上記放射性物質」は、「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質」を引用するから、上記1で検討した「1」「(1)」ないし「(3)」のいずれかを特定すると解される。
しかしながら、「上記放射性物質の気化温度未満」の「上記放射性物質の気化温度」が、下記の場合のいずれの温度を意味するのか不明確である。
ア 上記放射性物質の全てが気化する温度(上記放射性物質の中で気化温度が一番高い放射性物質の気化温度)
イ 上記放射性物質の一部でも気化する温度(上記放射性物質の中で気化温度が一番低い放射性物質の気化温度)

(2)ここで、放射性物質の沸点として、I-129(184.3℃)、Cs-134/137(671℃)及びSr-90(1382℃)が知られている(上記「第3」[理由1]「エ」参照)こと、及び、上記(1)での検討を踏まえると、「上記放射性物質の気化温度未満」の「放射性物質の気化温度」は、
ア 上記「(1)」「ア」の場合は、上記「1」「(1)」ないし「(3)」のいずれの場合も、「他の放射性物質」が特定されないため、「上記放射性物質の中で気化温度が一番高い放射性物質の気化温度」が特定できず、「上記放射性物質の気化温度」は不明である。
しかしながら、上記「1」「(1)」の場合はセシウムの気化温度(沸点 671℃)以上であり、上記「1」「(2)」及び「(3)」の場合は、ストロンチウムの気化温度(沸点 1382℃)以上であることは特定されていると解される。

イ 上記「(1)」「イ」の場合も、上記アと同様に、「上記放射性物質の気化温度」が不明である。
しかしながら、上記1で検討したとおり、「他の放射性物質」にヨウ素が含まれることを排除しないから、上記「(1)」「イ」の場合の「上記放射性物質の気化温度」はヨウ素の気化温度(沸点 184.3℃)である場合を含むと解される。
したがって、「上記放射性物質の気化温度」は184.3℃となる。

3(1)上記「2」「(2)」「ア」の場合は、1382℃未満の温度(例えば1000℃)で焼成するものが含まれることとなるが、1382℃未満の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰を得るに際しては、上記「第3」[理由1]「エ」及び「オ」「(イ)」で検討したとおり、他の放射性物質に含まれ得るヨウ素(184.3℃)やセシウム(671℃)が気化するため、「放射性物質の気化温度未満で焼成」して、「放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させること」を実現できない。

(2)上記「2」「(2)」「イ」の場合は、184.3℃未満の温度で焼成することとなるが、上記「第3」[理由1]「エ」及び「オ」「(ア)」で検討したとおり、一般的な有機物の燃焼温度は、紙(450℃前後)、木材(400?470℃)であるから、184.3℃未満の温度で焼成しても、「有機物を気化若しくは無機化させること」を実施できない。

4 以上の検討によれば、上記「第3」[理由1]「エ」及び「オ」で検討したとおり、本願請求項1ないし3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていない、「放射性物質の気化温度未満で焼成」して、「放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させる」という本願発明の課題を解決できない発明を含み、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5 また、上記1のとおり本願請求項1ないし3は、「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質」との発明特定事項に「主として」との記載を含むから、上記「2」及び「3」で検討したとおり、記載が不明確であって、上記「第3」[理由2]「(2)」で指摘した特許法第36条第6項第2号に係る拒絶の理由は解消されていない。

6 意見書における請求人の主張について
(1)請求人は、意見書において、
「なお、審判長殿は、セシウムの沸点は671℃であり、ストロンチウムの沸点が1382℃であるときに、焼却温度をストロンチウムの沸点に合わせた場合(例えば、一般的なゴミ焼却温度で焼却した場合)、セシウムは気化すると指摘されるかも知れませんが、当業者であれば焼却物質が沸点の異なる物質を含んでいたときに、両物質の気化を防ぐために焼却温度を沸点が低い物質に合わせて設定することは極めて容易に理解されるものと思料致します。」(上記「第4」「4.」「(A)」)
と主張する。
しかしながら、本願請求項1ないし3は、「気化を防ぐために焼却温度を沸点が低い物質に合わせて設定する」ことを発明特定事項とするものではなく、請求人の「当業者であれば焼却物質が沸点の異なる物質を含んでいたときに、両物質の気化を防ぐために焼却温度を沸点が低い物質に合わせて設定することは極めて容易に理解される」との主張は、特許請求の範囲の記載に基づく主張ではなく採用できない。
なお、たとえ、「気化を防ぐために焼却温度を沸点が低い物質に合わせて設定する」ことが容易に理解されることであったとしても、セシウム、ストロンチウム以外の放射性物質(例えば、I-129)が含まれるものも特定されているため、上記2ないし6で検討したとおり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)また、請求人は、意見書において、
「また、審判長殿は、一般的なゴミ焼却炉の焼却温度を唐突に持ち出して、850℃?1150℃であることが本願出願前に周知とした上で、この焼却温度はストロンチウムの沸点1382℃よりも低いことを理由に記載不備であることを指摘されていますが、一般的なゴミ焼却では焼却時の温暖化ガス削減対策(亜酸化窒素(N_(2)O)の発生を防止するために、被焼却物質を完全燃焼させることを技術的な思想としているのに対し、本願発明では、焼成温度を放射性物質の気化温度未満に設定することで、放射性物質や灰分が残渣として残り、放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする(本願明細書段落0130)という、いわば不完全燃焼させることを技術的な思想とするものであって、そもそも一般的なゴミ焼却の概念と本願発明の技術的思想は異なるものです。」(上記「第4」「4.」「(A)」)
とも主張する。
しかしながら、本願発明1ないし3は、「ペースト状組成物(体)」に「混練され」る「焼却灰」は、「上記放射性物質の気化温度未満」で焼成したと特定するにとどまるため、「放射性物質の気化温度未満」で焼成して得られた「焼却灰」であれば、「一般的なゴミ焼却」で得られた焼却灰も含まれ、両者に差異はない。
そして、上記1で検討したとおり、「上記放射性物質」が「ストロンチウム」の場合の本願発明1ないし3の焼成温度は1382℃未満であるところ、一般的なゴミ焼却炉の焼却温度850℃?1150℃で焼成して得られた「焼却灰」も、発明の技術的思想の同、不同に関わらず含むから、上記請求人の主張は採用できない。

7 以上のとおりであって、上記「第3」[理由1]で示した当審拒絶理由、及び、上記「第3」[理由2]「(2)」で示した当審拒絶理由は、平成29年12月28日付けの補正及び同日付けの意見書の主張を踏まえても解消されない。

8 まとめ
以上によれば、本願請求項1ないし3及び同項を引用する本願請求項4ないし6が本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているものとは認められないから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願請求項1ないし3及び同項を引用する本願請求項4ないし6は特許を受けようとする発明が明確ではなく、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第6 特許法第29条第1項第3号に規定する要件を満たしていないことについて
1 本願発明について
上記第2のとおりである。

2 引用文献及び引用発明
引用文献及び引用発明については、上記「第3」[理由3]「2」のとおりである。

3 対比
(1)本願発明2は、補正前(平成29年3月21日付け補正書)の請求項2において、「放射性物質」とあったものを「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質」と限定し、「焼成物」とあったものを「上記放射性物質の気化温度未満の焼成物」と補正したものである。

(2)上記(1)の補正事項、及び、上記「第3」[理由3]「3」「(1)」及び「(2)」を踏まえて、本願発明2と引用発明を対比すると、両者は、
「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物である固相組成物の微粉砕物である粉砕材と、
水と放射性物質を担持する担持材との混合物で、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と
測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰と
水との混練物であり、
全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下であるペースト状地殻様組成体。」
である点で一致し、以下の各点で一応相違する。

ア 担持材と混合物をなす「水」について、本願発明2は「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水」と特定するのに対して、引用発明はこのように特定されない点(以下「相違点1」という。)

イ 「焼成物」について、本願発明2は「上記放射性物質の気化温度未満」で焼成されると特定されるのに対して、引用発明はこのように特定されない点(以下「相違点2」という。)。

4 判断
(1)上記相違点1について検討する。
引用発明は、「放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134、Cs137)とし、放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う」発明であるから、引用発明の「セメント原料」にはめやす値より低いセシウム(Cs134、Cs137)が含まれると解される。
これに対して、本願発明2は、「粉砕材と」、「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材との混合物で、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材と」「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材の上記放射性物質の気化温度未満の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰と」「水との混練物であ」「るペースト状地殻様組成体」という物の発明である。
そして、「ペースト状地殻様組成体」という物においては、含まれている「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質」が、発明を構成する特定事項となるのであって、それが、「粉砕材」、「汚染水」、「担持材」、「焼却灰」及び「水」のどの素材由来であるのかは、「ペースト状地殻様組成体」という物となった発明においては、発明を構成する事項とはならない。
そうすると、本願発明2は、「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ」「ペースト状地殻様組成体」と解され、引用発明の「セシウム(Cs134、Cs137)が含まれる」「セメント原料」と、本願発明2の「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ」「ペースト状地殻様組成体」との間には実質的な差異はない。
よって、本願発明2は、「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質」の由来となる素材の違いによらない「セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ」「ペースト状地殻様組成体」の発明であるから、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

(2)上記相違点2について検討する。
上記「第5」「4」「(1)」で検討したとおり、本願発明2は、「他の放射性物質」を特定しないため、「放射性物質」としてヨウ素(沸点 184.3℃)、セシウム(沸点 671℃)あるいはストロンチウム(沸点 1382℃)を含み得ることになり、「放射性物質の気化温度」が必ずしも1つの温度に特定されないが、ストロンチウムの気化温度(1382℃)である場合を含んでいるといえる。
引用発明は、「放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134、Cs137)とし、放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う、下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法」であって具体的な下水汚泥の焼却温度は特定されないが、下水汚泥を焼却した灰に含まれるセシウム(沸点 671℃)をモニタリングしていることに照らして、下水汚泥を焼却しても、汚泥焼却灰にセシウム(沸点 671℃)が含まれる温度(沸点以下)で焼却しているものと推認される。
そうすると、実質的には、引用発明も本願発明2と同じくストロンチウム(沸点 1382℃)の気化温度未満で焼成しているといえるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)小括
以上の検討によれば、引用発明は本願発明2の構成をすべて備えている。
よって、本願発明2は、引用文献に記載された発明である。

5 意見書における請求人の主張について
(1)請求人は、意見書において、
「(C-1) 引用文献の証拠能力について
上記引用文献には、「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた検討状況2012.3.27」と掲載されていますが、2012.3.27という記載のみをもって、現にその日に頒布された刊行物であったかどうかについては不明です。すなわち、2012.3.27は単に資料の作成日を示すかも知れません。さらに、上記引用文献の記載内容から、引用文献は、東日本大震災に関連する会議資料と推測されますが、この頃は、東日本大震災から1年が経過していたとは言え、未だ世間では放射能汚染に対しての風評被害が多く発生していたため、場合によっては、引用文献のような放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分については秘密状態が保持された会議で話し合われていたことも考えられます。
以上のことから、単に資料に日付が記載されているからと言って、その日が当該引用文献の公開日であるとの根拠にはなりません。」(上記「第4」「4.」「(c)」「(C-1)」)
と主張する。
しかしながら、上記請求人の「単に資料の作成日を示す」及び「秘密状態が保持された会議で話し合われていた」との主張は推測、憶測にすぎず、証拠に基づく主張ではなく採用できない。
また、引用文献は、川崎市(公的な機関である地方自治体)が市の施策を市民に広く公表するために作成したもので、資料の日付が「単に資料の作成日を示す」ものであるとか、「秘密状態が保持された会議で話し合われていた」ものであると推認すべき理由は見当たらない。

(2)請求人は、続けて意見書において、
「(C-2) 引用文献の説明
上記引用文献において、「処分に向けた検討」、「検討の方向性」、「実現に向けた課題」、「望ましい」、「対策する姿勢が重要」と記載されているように、引用文献は、単にこれから放射性物質を処分していく上での要望や方向性について述べられた検討資料に過ぎず、具体的な発明の構成要件が記載された技術資料といった類の資料では全くなく、引用発明と呼べる文献ではないと思料致します。
上記引用文献には、「少なくともセシウムが含まれる下水汚泥焼却灰を、セメント原料化して再利用を目指すこと、及び、再利用に際してめやす値だけでなくそれ以下を目指すこと」が記載されています。
なお、引用文献には、下水汚泥焼却灰をセメント原料化することまでが記載及び示唆されています。(原料化したセメントを利用してコンクリートを製造することについては全く記載されておりません)」(上記「第4」「4.」「(c)」「(C-2)」)
と主張する。
しかしながら、引用文献には、公知の技術(自然法則)を利用して、「下水汚泥焼却灰等の処分」をどのように行うか(技術的思想)について記載されていることから見て、特許法第2条にいう「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」である「発明」が記載されているものと認められるから、請求人の上記主張は採用できない。

(3)請求人は、さらに意見書において、
「(C-3) 引用文献と本願発明との相違点
審判長殿が拒絶理由通知書の『3 対比・判断』において認定された点について意見を述べる形式で以下に引用文献と本願発明との相違点を説明します。
まず、審判長殿は、3(1)(ウ)において、引用文献は、『放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する、下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う、下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法』であるから、本願発明1の『放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた』『処理材』に相当すると認定されました。
しかしながら、引用文献は、下水汚泥焼却灰のセメント原料化が示唆されているに過ぎず、これを利用してコンクリートを製造することについては全く記載されておりません。そうすると、単に汚染水と、吸水性のあるクリンカが知られているという理由で『放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた』『処理材』に相当するとした判断には発想の飛躍があるように思われます。
引用文献には、下水汚泥焼却灰のセメント原料化をどのように行うのかについて何ら具体的な記載はされていません。
また、上記で再三説明しているように引用文献の開示範囲はセメント原料に留まり、セメント原料を利用してコンクリートを製造することについては全く記載も示唆もされていないことから、審判長が3(1)(ア)でした、引用文献が『を水で混練してペースト状組成物を生成させ』に相当する記載があるとの判断は誤りです。
従って、本願発明1の『セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材とを水で混練してペースト状組成物を生成させ』は引用文献に記載も示唆もされていません。
相違点1に関しても、モニタリングは、埋立作業前に周辺の空間線量を測定することが記載されているのみです。例えば、下水汚泥灰にセシウムが含まれる状況としては下水汚泥を完全燃焼させて排ガスを処理することで放射性物質が外部に出ないようにして、セシウムを含む下水汚泥灰を収集する方法も考えられるため、上記モニタリングの記載のみ、すなわち、下水汚泥灰にセシウムが含まれていることのみをもって、下水汚泥を、放射線物質の気化温度未満で焼成していると推認するのは論理の飛躍があるものと思料致します。
さらに、審判長は、3(1)(ウ)において引用文献の『放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する』ことは、本願発明1の『全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下である』ことに相当すると認定されました。
しかしながら、引用文献では単にめやす値より低いよう対策するという指針が示されているに過ぎず、何ら具体的な構成を示していないため、引用文献の記載から本願発明は導き出されません。すなわち、本願発明は、粉砕材と、特定の処理材と、特定の焼却灰とを混練するという具体的な方法によって、放射能濃度を調整するのに対し、引用文献は、単に指針を示しているに過ぎず、何ら具体的な構成を示していません。従って、引用文献の記載から本願発明は導き出されません。
以上に説明したように、本願発明における、『セシウム及び/又はストロンチウムを主として含む放射性物質を含んだ汚染水と前記放射性物質を担持する担持材とを混合し、前記担持材に前記放射性物質を担持させた処理材を水で混練してペースト状組成物を生成され』を有する点と、『汚染材を、上記放射性物質の気化温度未満で焼成し』、得られる地殻組成体を『全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下』とする構成については、引用文献には記載も示唆もされていない構成です。
このような引用文献には記載されていない構成を備えることにより、本願発明は、有機物が含まれないようにし、且つ放射性濃度を下げた地殻様組成体を安定的に製造することが、初めてできるようになったものです。
すなわち、本願発明は、気化温度未満で焼成することで、安定した所定濃度の放射性濃度の焼成汚染材を採取することができるようになり、さらに、これを放射性物質を含んだ汚染水と担持材、さらに、粉砕材を適宜な割合で加えて、水と混練することによって、放射能濃度を下げて法令基準値以下のレベルまで容易に調整することができます。
このような技術的思想は、引用文献には記載も示唆もされていません。」(上記「第4」「4.」「(c)」「(C-3)」)
と主張する。
しかしながら、上記「4」で検討したとおりであって、引用発明が「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」の発明である以上、当該「セメント原料」が「セメント」製造に使われるものであることは、当業者が当然に想起することであって、「セメント原料」に水等を混練して「セメント」製造することが本願出願前の周知技術にすぎないことを踏まえれば、引用発明が「セメント原料を利用してコンクリートを製造することについては全く記載も示唆もされていない」ものであっても、引用発明の「セメント原料」から「セメント」を製造することは当然のことであり、さらには、本願発明2は「地殻様組成体」という物の発明であって、「セメント原料を利用してコンクリートを製造する」発明であるとも特定されるものではないから、上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく採用できない。
また、「引用文献では単にめやす値より低いよう対策するという指針が示されているに過ぎず、何ら具体的な構成を示していない」との主張も、本願請求項2は「全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下である」と特定するにとどまり、「めやす値」である「法令基準値」より低いよう対策するという指針と大差なく、そのための構成も、「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材の上記放射性物質の気化温度未満の焼成物である放射性物質を含有する焼却灰と水との混練物であ」ると特定するにとどまる。

第7 むすび
上記第5で検討したとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。
また、上記第6で検討したとおり、本願発明2は、引用文献に記載された発明であるから、他の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第1項第3号の規定により、本願は、特許を受けることができないものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-18 
結審通知日 2018-01-23 
審決日 2018-02-14 
出願番号 特願2012-83260(P2012-83260)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G21F)
P 1 8・ 113- WZ (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 孝平関根 裕  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 野村 伸雄
松川 直樹
発明の名称 地殻様組成体の製造方法、ペースト状地殻様組成体、及び、地殻様組成体  
代理人 小池 晃  

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