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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1339605
審判番号 不服2017-5490  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-18 
確定日 2018-04-16 
事件の表示 特願2012-146165「防眩性フィルム、偏光板、画像表示装置および防眩性フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月14日出願公開、特開2013- 33240〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成24年6月28日(優先権主張平成23年6月29日)の出願であって、平成27年12月9日付けで拒絶の理由が通知され、平成28年2月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年6月27日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月26日に意見書が提出され、平成29年1月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、明りょうでない記載の釈明を目的とする、平成29年4月18日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「透光性基材の少なくとも一方の面に、防眩層を有する防眩性フィルムであって、
前記防眩層が、防眩層形成材料を用いて形成されており、前記防眩層形成材料が、樹脂、粒子およびチキソトロピー付与剤を含み、
前記防眩層が、前記粒子および前記チキソトロピー付与剤が凝集することによって、前記防眩層の表面に凸状部を形成する凝集部を有しており、
前記凸状部を形成する凝集部において、前記粒子が、前記防眩層の面方向に、複数集まった状態で存在し、
前記凸状部の前記防眩層の粗さ平均線からの高さが、前記防眩層の厚みの0.4倍未満であることを特徴とする防眩性フィルム。」

3 拒絶査定の拒絶の理由の概要
(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・本件補正前の請求項1ないし10
・引用文献1ないし4
引用文献1に記載された発明において、引用文献2及び3に記載の周知の技術事項にもとづき、防眩層表面より突出する微粒子の防眩層粗さ平均線からの高さが、防眩層の厚みの0.4倍未満となる防眩性フィルムを製造することは、当業者が容易に想到し得た事項である。

<引用文献等一覧>
1.特開2008-3426号公報
2.特開2009-20288号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2008-180852号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2008-268939号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2007-293303号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2008-262190号公報(周知技術を示す文献)

4 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-3426号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含有する、a層及びb層を少なくとも含んでなり、前記a層の曲げ弾性率がb層の曲げ弾性率より大きく、かつ前記a層が視認側に存在する保護層A、
偏光子、および
保護層Bが、
視認側から少なくともこの順で積層されてなる、
ヘイズが10?60%である偏光板。
【請求項2】
前記a層とb層の曲げ弾性率の差が0.2GPa?2.5GPaである請求項1記載の偏光板。
【請求項3】
前記保護層Aが、共押出法により得られたものであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の偏光板。
【請求項4】
保護層Aの視認側の面に、直接または他の層を介して、防眩層が積層されている請求項1又は2に記載の液晶表示用偏光板。
【請求項5】
保護層Aの視認側の面に、直接または他の層を介して、防眩層及び反射防止層が積層されている請求項1又は2に記載の液晶表示用偏光板。
【請求項6】
保護層Aは紫外線吸収剤を含む請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示用偏光板。
【請求項7】
保護層Aの視認側の面が凹凸形状になっている請求項1?6のいずれかに記載の液晶表示用偏光板。
【請求項8】
保護層Aの視認側の面に、直接または他の層を介して、屈折率が不連続である領域を含む層を有する請求項1?7のいずれかに記載の偏光板。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の偏光板を備える液晶表示装置。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、強靭で表面硬度が高く、防眩性に優れた偏光板、及びこの偏光板を備える液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等に用いられる偏光板は、偏光子と保護フィルムとからなる積層体である。この偏光板を構成する偏光子としては、ポリビニルアルコールを溶液流延法により製膜したフィルムにヨウ素又は二色性染料を吸着させ、ホウ酸溶液中で延伸させたフィルムが通常使用されている。
一方、偏光板を構成する保護フィルムとしてトリアセチルセルロースフィルムが広く用いられている。しかし、トリアセチルセルロースフィルムは、防湿性とガスバリア性が悪いので、偏光板の耐久性、耐熱性、機械的強度などが不十分である。
・・・略・・・
【0007】
一方、透明樹脂基材上に防眩層が積層された防眩フィルムが、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの表面の反射防止用フィルム等として用いられている。そして、このような防眩フィルムには、優れた防眩性能に加えて、強靭で表面硬度の高いものが求められている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献に記載された多層フィルムに関する技術は、いずれも強靭で優れた表面硬度を有する偏光板を得ることはできず、さらなる改良が求められている。」

(3)「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、曲げ弾性率が相対的に大きい熱可塑性樹脂を含むa層と、曲げ弾性率が相対的に小さい熱可塑性樹脂を含むb層を積層してなる積層フィルムのa層上に反射防止層を形成すると、反射防止機能、靭性及び表面硬度のすべての面に優れた反射防止フィルムが得られ、これを偏光子に積層すると強靭で表面硬度が高く、反射防止性、防眩性に優れた偏光板を得ることができることを見出した。本発明をこの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0012】
かくして本発明は、下記のものを含む。
(1) 熱可塑性樹脂を含有する、a層及びb層を少なくとも含んでなり、前記a層の曲
げ弾性率がb層の曲げ弾性率より大きく、かつ前記a層が視認側に存在する保護層A、
偏光子、および
保護層Bが、
視認側から少なくともこの順で積層されてなる、
ヘイズが10?60%である偏光板。
(2) 前記a層とb層の曲げ弾性率の差が0.2GPa?2.5GPaである(1)に記載の偏光板。
【0013】
(3) 前記保護層Aが、共押出法により得られたものであることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載の偏光板。
(4) 保護層Aの視認側の面に、直接または他の層を介して、防眩層が積層されている(1)又は(2)に記載の液晶表示用偏光板。
(5) 保護層Aの視認側の面に、直接または他の層を介して、防眩層及び反射防止層が積層されている(1)又は(2)に記載の液晶表示用偏光板。
(6) 保護層Aは紫外線吸収剤を含む(1)?(5)のいずれかに記載の液晶表示用偏光板。
(7) 保護層Aの視認側の面が凹凸形状になっている(1)?(6)のいずれかに記載の液晶表示用偏光板。
(8) 保護層Aの視認側の面に、直接または他の層を介して、屈折率が不連続である領域を含む層を有する(1)?(7)のいずれかに記載の偏光板。
(9) (1)?(8)のいずれかに記載の偏光板を備える液晶表示装置。」

(4)「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の偏光板は、保護層A、偏光子、及び保護層Bが視認側から少なくともこの順で積層されてなるものである。偏光子に保護層A(視認側の保護層)と保護層B(液晶セル側の保護層)を積層する方法に格別な制限はなく、例えば、保護層Aとなる保護フィルムと保護層Bとなる保護フィルムとを、必要に応じてアクリル系接着剤などを介して偏光子に積層する一般的な方法を採用すればよい。
本発明の偏光板は、ヘイズが、10?60%、好ましくは30?60%である。このような範囲のヘイズを持つことによって、映り込みを防ぎ、防眩性を向上させることができる。偏光板のヘイズを調整する方法は特に限定されないが、後述するような、視認側保護層となる、保護層Aの視認側表面に凹凸を形成させる方法や防眩層を積層させる方法などを施すことによればよい。
・・・略・・・
【0070】
保護層Aの層構成としては、強靭で表面硬度に優れる保護層Aが得られることから、a層-x層-b層の3層構造からなる保護層A、a層-x層-b層-x層-a層の5層構造からなる保護層Aが好ましい。
【0071】
本発明の偏光板のヘイズ値を調整するために、保護層Aの外表面に適宜な防眩手段を有することができる。防眩手段としては、例えば、(a)視認側に微細凹凸を形成し、光散乱を生じさせるもの、(b)視認側に屈折率差のある2種以上の成分で構成する層を形成することにより、屈折率差による光散乱を生じさせるものなどが挙げられる。
【0072】
(防眩手段)
微細凹凸の形成方法は特に制限されず、適宜な方式を採用することができる。たとえば、保護層Aに直接またはその他の層が積層された状態で、サンドブラスト、エンボスロール、化学エッチング等の方式で粗面化処理して微細凹凸を付与する方法や賦形フィルムにより凹凸を転写する方法(例えば、特開2005-331901号公報)の他、保護層を構成する樹脂中に微粒子を分散させる方法や、保護層A上に微粒子を含む透明樹脂材料からなる防眩層を形成する方法(特開平11-305010号公報、特開2002-107512号公報、特開平10-246802号公報など)が挙げられる。これらの方法は、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
また、凹凸の程度は前記ヘイズ値が前記範囲になる限り、特別な制限はないが、通常、中心線平均粗さ(Ra)0.04?0.5μm、平均山谷間隔(Sm)20?100μmである。
【0073】
防眩層を形成するために用いる透明樹脂材料としては、微粒子の分散が可能で、皮膜として十分な強度を与えることができ、透明性のあるものを特に制限なく使用できる。該樹脂としては熱硬化型樹脂、熱可塑型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などが挙げられる。これらのなかでも紫外線照射による硬化処理にて、簡単な加工操作にて効率よく防眩層を形成することができる紫外線硬化型樹脂が好適である。
・・・略・・・
【0076】
微粒子は無機微粒子でも、有機微粒子でもよく、また無機微粒子を有機材料で被覆したものなど、改質された微粒子であっても良い。例えば、透明樹脂材料との屈折率差によって拡散効果を発現する微粒子と樹脂層表面に凹凸を形成することにより拡散効果を発現させる微粒子を併用することもできる。
【0077】
微粒子の形状は、真球状、楕円状などのものであってよく、好ましくは真球状のものが挙げられる。無機微粒子としては、シリカ、アルミナを例示することができる。有機微粒子としては、好ましくは屈折率1.40?1.60の樹脂ビーズを例示することができる。樹脂ビーズとしては、ポリメタクリル酸メチルビーズ(屈折率:1.49)、メラミンビーズ(屈折率1.57)、ポリカーボネートビーズ(屈折率:1.58)、ポリスチレンビーズ(屈折率:1.60)、アクリルスチレン樹脂ビーズ(屈折率:1.57)、ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率:1.54)、ポリエチレンビーズなどが挙げられる。
【0078】
これらの樹脂ビーズは、粒径1?8μmのものが好適であり、樹脂100重量部に対して5?22重量部、好ましくは10?25重量部用いられる。このような樹脂ビーズを混入させると、塗工時に容器の底に沈澱した樹脂ビーズを攪拌して良く分散させる必要がある。このような不都合を無くすために、塗料液に樹脂ビーズの沈降防止剤として粒径0.5μm以下、好ましくは0.1?0.25μmのシリカビーズを含ませてもよい。なお、このシリカビーズを添加すればするほど樹脂ビーズの沈降防止に有効であるが、塗膜の透明性に悪影響を与える。したがって、沈降防止剤の量は、樹脂100重量部に対して、防眩層としての透明性を損なわない程度に、しかも沈降防止することのできる範囲である0.1重量部未満が好ましい。
【0079】
硬化膜中において微粒子は均一に分散した形で存在しても、膜厚方向に対して偏在した形であってもよい。また、微粒子は表面から突出する形で存在していても構わないが、後述の透過画像鮮明度の向上の観点から、防眩層の表面より突出する微粒子は0.5μm以下とすることが好ましい。
【0080】
防眩層を形成するための上記の透明樹脂材料には、必要に応じて、帯電防止剤、レベリング剤、紫外線吸収剤等の他の材料を配合することができる。
・・・略・・・
【0090】
防眩層の膜厚(硬化時)は0.1?20μm、好ましくは0.8?10μmの範囲にあることが好ましい。膜厚がこの範囲にあることにより、防眩層としての機能を十分に発揮することができる。」

(5)「【実施例】
【0129】
本発明について、実施例および比較例により、より詳細に説明する。なお、部及び%は特に断りが無い限り質量基準である。
・・・略・・・
【0134】
製造例1
(保護フィルム1の作製)
ポリメチルメタクリレート樹脂(ガラス転移温度Tg=110℃;以下「PMMA1」と記すことがある)を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを設置したダブルフライト型一軸押出機に投入し、押出機出口温度260℃で溶融樹脂をダイスリップの表面粗さRaが0.1μmであるマルチマニホールドダイの一方に供給した。
【0135】
一方、脂環式オレフィンポリマー(日本ゼオン社製「ゼオノア1060R」;吸水率0.01%未満、以下「NB」と記すことがある)を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを設置したダブルフライト型の一軸押出機に導入し、押出機出口温度260℃で溶融樹脂をダイスリップの表面粗さRaが0.1μmであるマルチマニホールドダイの他方に供給した。
同様に、エチレン-酢酸ビニル共重合体(三井デュポンケミカル社製「EVAFLEX」;以下、「EVA」と記す)についてもマルチマニホールドダイの他方に供給した。
【0136】
そして、溶融状態のポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA1)、脂環式オレフィンポリマー(NB)、及び接着剤として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を、それぞれマルチマニホールドダイから260℃で吐出させ、130℃に温度調整された冷却ロールにキャストし、その後、50℃に温度調整された冷却ロールに通して、PMMA1からなるa層(15μm)-接着層(4μm)-NBからなるb層(32μm)-接着層(4μm)-PMMA1からなるa層(15μm)の3層構成からなる、幅600mm、厚さ80μmの保護フィルム1を共押出成形により得た。保護フィルム1のa層の曲げ弾性率は3.3GPaであり、b層の曲げ弾性率は2.0GPaであった。
【0137】
(防眩性保護フィルム1の作成〈防眩層の付加〉)
アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂(ウレタンアクリレート系モノマー)100部に対し、平均粒子径が3.5μmのポリスチレン粒子12部、ベンゾフェノン系光重合開始剤5部、チキソトロピー化剤(雲母)2.5部を、トルエン溶媒を介し混合した固形分濃度40重量%塗工液を、保護フィルム1の上面に塗布し、120℃で5分間乾燥した後、紫外線照射により硬化処理して、塗膜の膜厚が7μmの微細凹凸構造表面の防眩層を有する防眩性保護フィルム1を作製した。」

(6)上記(1)ないし(5)からみて、引用例には、偏光子の視認側に積層される防眩性保護フィルム(【0015】)であって、製造例1(【0134】ないし【0137】)として示されたように、保護フィルム1の上面に防眩層を付加した防眩性保護フィルム1の発明として、次の発明が記載されている。
「偏光子の視認側に積層される防眩性保護フィルムであって、
アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂(ウレタンアクリレート系モノマー)100部に対し、平均粒子径が3.5μmのポリスチレン粒子12部、ベンゾフェノン系光重合開始剤5部、チキソトロピー化剤(雲母)2.5部を、トルエン溶媒を介し混合した固形分濃度40重量%塗工液を、保護フィルム1の上面に塗布し、120℃で5分間乾燥した後、紫外線照射により硬化処理して、塗膜の膜厚が7μmの微細凹凸構造表面の防眩層を有するように作製した、
防眩性保護フィルム1。」(以下「引用発明」という。)

5 周知の事項
(1)拒絶査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-20288号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
この発明は、防眩性フィルムおよびその製造方法、偏光子ならびに表示装置に関する。詳しくは、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)、プラズマディスプレイ(Plasma Display Panel:PDP)、エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)ディスプレイ、リアプロジェクションディスプレイ、光源にレーザを用いたリアプロジェクションディスプレイ(レーザTV)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイなどの各種表示装置の表示面に用いられる防眩性フィルムに関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、防眩性と白濁感の抑制との両特性はトレードオフの関係にあることから、従来の技術では、これらの特性を両立させた防眩性フィルムを設計することは困難である。
【0014】
例えば、上述の特許文献1のように、三次元立体構造の凝集部により凹凸形状を形成すると、表面に急峻な突起が形成されてしまい、その結果、表面散乱が増加し、白濁感が強くなってしまう。
【0015】
また、上述の特許文献2のように、ヘイズ、光沢度、表面粗さを制御するだけでは、十分な防眩性とコントラストを得ることは困難である。
【0016】
また、上述の特許文献3のように、周期性のある凹凸形状を設けることで適度な防眩性を得ることはできるが、十分なコントラストを得ることは困難であり、また、周期性のある形状によりモアレを発生してしまう虞もある。
【0017】
また、図8に示すように、表面の微細凹凸形状の周期を長くすることで防眩性を抑えると、図9に示すように、表面から突出した微粒子113の間に平坦部ができるため、防眩性が低下してしまう。
【0018】
したがって、この発明の目的は、防眩性と白濁感の抑制とを両立することができる防眩性フィルムおよびその製造方法、偏光子ならびに表示装置を提供することにある。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、鋭意検討の結果、表面から個々の粒子を突き出させることにより、表面に急峻な凹凸形状を形成するのではなく、微粒子を主として面内方向に凝集させることにより、表面に緩やかで周期の長い、なだらかな凹凸を形成することで、防眩性を保持しつつ、コントラストに優れた防眩性フィルムを発明するに至った。
【0020】
この発明の防眩性フィルムは、
基材と、
基材の少なくとも一方の面に設けられた、微粒子および樹脂を含む防眩層と
を有し、
微粒子は主として面内方向に凝集しており、
微粒子の凝集により防眩層の表面になだらかな凹凸が形成されていることを特徴とする。
【0021】
この発明の防眩性フィルムでは、表面になだらかな凹凸が形成されているので、なだらかな凹凸により光を散乱することができる。
【0022】
この発明の偏光子は、防眩層フィルムを備えることを特徴とする。この発明の表示装置は、防眩層フィルムを表示面に備えることを特徴とする。
【0023】
この発明の防眩性フィルムの製造方法は、
樹脂と微粒子と溶剤とを含む塗料を基材上に塗工する工程と、
塗料を乾燥させることにより、微粒子を主として面内方向に凝集させて、塗料の表面になだらかな凹凸を形成する工程と、
なだらかな凹凸が形成された塗料を硬化させる工程と
を備えることを特徴とする。
【0024】
この発明の防眩性フィルムの製造方法では、基材上に塗工された塗料を乾燥させることにより、微粒子を主として面内方向に凝集させるので、表面になだらかな凹凸を形成することができる。」
エ 「【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、この発明によれば、表面に形成する凹凸形状を制御し、なだらかな凹凸によって拡散反射特性を制御するので、コントラストと防眩性という相反する特性を両立することができる。したがって、高コントラストを有し、かつ、防眩性を保持する防眩性フィルムを提供することができる。」
オ 「【0038】
(防眩層)
防眩層12は樹脂と微粒子13とを含んでいる。微粒子13は、主として防眩層12の面内方向に凝集し、2次元的な凝集体となっている。この凝集体は、例えば、防眩層表面において寄り集まることなく存在しており、この凝集体により防眩層12の表面に連続的でなだらかなうねりの微細凹凸形状が形成されている。ここで、「微粒子13が主として防眩層12の面内方向に凝集する」とは、(1)すべての微粒子13が防眩層12の厚さ方向に重ならず面内方向にのみ凝集していること、もしくは、(2)ほとんどの微粒子13が面内方向に凝集すると共に、それ以外の残りの微粒子13が白濁度の増大を招く(白濁度2.0を超える)ことのない範囲で厚さ方向に重なり合っていることをいう。
【0039】
防眩層の表面において、微粒子13は樹脂により覆われている。ここで、微粒子13が樹脂により完全に覆われていることが、白濁感の抑制の観点から好ましいが、白濁度の増大を招く(白濁度2.0を超える)ことがない範囲であれば、微粒子13の一部が樹脂により覆われず露出されていてもよい。また、すべての微粒子13が2次元的な凝集体を形成していることが理想的であるが、白濁度の増大を招くことがない範囲で、一部の微粒子13が凝集体とならず孤立して存在していてもよい。
【0040】
防眩層12の平均膜厚は、好ましくは3?20μm、より好ましくは4?15μmである。この範囲にすることで、十分な防眩性と硬度を得ることができる。また、20μmを超える厚みになるとカールが大きく、後工程での作業性に支障をきたすことがある。防眩層12の表面における粗さ曲線の算術平均粗さRaは、好ましくは0.05?0.5μmである。粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.05μm未満であると、防眩性が低下してしまい、0.5μmを超えると、コントラストが低下してしまう。
【0041】
フィラーとしての微粒子13は、例えば、無機微粒子または有機微粒子などの球形微粒子である。微粒子13の平均粒径は、好ましくは0.01?10μmである。0.01?10μmであると、塗布後、乾燥前の膜厚の調節で、適度な対流とベナードセル形成が可能となる。すなわち、0.01μm未満であると乾燥前の膜厚が薄くベナードセルが形成しにくくなる。10μmを超えると乾燥前の膜厚が厚くベナードセルが大きくなり、微粒子13が三次元立体構造の凝集体を形成し、この凝集体により形成される突起は急峻となり、白濁感が増加する。また、微粒子13としては、防眩層12の作製の際に用いる塗液に含まれる溶剤の表面張力よりも大きい表面エネルギーを有するものを用いることが好ましい。
【0042】
有機微粒子としては、例えば、アクリル樹脂(PMMA)、ポリスチレン(PS)、アクリル-スチレン共重合体、メラミン樹脂、ポリカーボート(PC)などからなるものを用いることができる。有機微粒子は、架橋や未架橋などの反応には特に限定されるものではなく、プラスチックなどからなるものであれば用いることができる。
【0043】
無機微粒子としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、硫酸カルシウムなどからなるものを用いることができる。これらの無機微粒子に対して有機物処理を施すことによりその表面を非極性にすることが好ましい。後述する乾燥工程において微粒子13の対流や凝集が適度に生じて、所定のベナードセルが形成されやすくなるからである。
【0044】
第1の実施形態による防眩性フィルム1は、図2に示すように、連続的でなだらかな微細凹凸形状を有するのに対して、従来の防眩性フィルムは、図7に示すように、急峻な角度成分を含む微細凹凸形状を有している。したがって、この第1の実施形態による防眩性フィルム1では、光が広角にわたり拡散することを抑え、表示画面の白濁化を低減できるのに対して、従来の防眩性フィルムでは、光が広角にわたり拡散するため、表示画面が白濁化してしまう。なお、図7に示す従来の防眩性フィルムでは、粒子サイズと微粒子の突出量とにより微細凹凸形状が決定される。」
カ 「【図2】



(2)拒絶査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-180852号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩性フィルムに関するものである。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
即ち、本発明の目的は、上記の問題点を解決し、PDPの特徴ある優れた透過映像を有すると共に、優れた防眩特性を併せ持つ防眩性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、特殊な形状のハードコート層をフィルムの少なくとも片面に形成させることにより相反する特性を満足させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1)透明フィルムと透明フィルム上に形成されるハードコート層からなる防眩性フィルムであって、該防眩性フィルムのハードコート層側表面の中心線平均粗さRaが0.01?0.30μm、平均傾斜勾配Δaが0.005?0.10ラジアン、10点平均粗さRzが0.1?1.5μmであり、該防眩性フィルムのヘーズ値が1.0?5.0%であることを特徴とする防眩性フィルム。
(2)該フィルムのハードコート層が、シリカ微粒子とバインダーを含み、平均粒子径が5?200nmのシリカ微粒子の凝集構造を含むことを特徴とする上記(1)に記載の防眩性フィルム。
(3)該ハードコート層の厚みが1?30μmであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の防眩性フィルム。
(4)該ハードコート層の表面にさらに低屈折率層が形成されてなることを特徴とする上記(1)?(3)のいずれかに記載の防眩性フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた透過映像を表示できると共に、優れた防眩特性を併せ持つ防眩性フィルムを提供することができ、そのため各種画像表示装置、特にPDPにおいて外光などの映り込みに対して有用であり、外光がある場合でもPDPの優れた透過映像を外光によるコントラストの低下を抑えて表示することができる。」
ウ 「【0022】
本発明においてシリカ微粒子の凝集構造は、防眩性フィルムの表面形状に反映している。防眩性フィルム表面は、株式会社小坂研究所製高精度微細形状測定器サーフコーダET4000を用いて測定でき、横500μm、縦200μmの範囲でハードコート層の3次元表面形状測定を行った結果の一例を図1?3に示した。図1は本発明のハードコート層を測定した3次元鳥瞰図であり、図2に表面形状高低差微分像の一例を示す。また、図3に同じハードコート層のZ原点での断面像の一例を示す。Z原点は最小二乗法による0点として表現される。
図2からシリカ微粒子の凝集構造が表面形状に反映している様が示されている。これらはエネルギー分散型X線分析装置(EDX)にてSi元素の面分布をマッピングすることで形状に反映していることを明確にすることができる。このシリカ微粒子の凝集構造からなる形状として、Z原点における断面像から、その断面の平均面積を代表値として用いることができる。この断面(以後シリカ微粒子の凝集体の断面と同義語とする。)の平均面積が400?5000μm^(2)であることが好ましく、特に500?2000μm^(2)であることが好ましく用いられる。防眩性フィルムのシリカ微粒子の凝集体は、ハードコート層の表面の10点平均粗さRzが0.1?1.5μmと低く、シリカ微粒子の凝集体の断面の平均面積が400?5000μm^(2)と大きい、緩やかな凝集構造をしている。
【0023】
これはシリカ粒子の凝集構造が塗布液の状態で緩やかな凝集状態であるため、塗布後の防眩性フィルムとして、凝集体の平面面積が大きいわりに高さが低く、突起は傾斜がゆるく且つ広い傾斜面積をもつことができる。このために反射像のボヤケが生じるとともに表面が白くなることなく、コントラストを高く維持できていると考えられる。また、シリカが緻密に凝集していないために内部散乱も生じにくい構造となっていると考えられる。凝集構造の断面が大きすぎると外光によって映り込んだ像がぼやけにくくなる傾向があり、断面が小さいと表面の散乱が大きくなり、透過映像の歪みや表面散乱によるコントラストの低下が生じる傾向がある。このようなシリカ微粒子の凝集体の断面の割合(面積率)は、防眩性フィルム表面に対して45?60%のものが好ましい。これは適度な傾斜角度を持つための好ましい割合である。」

(3)上記(1)及び(2)からみて、以下の事項が周知である。
「基材と、該基材の少なくとも一方の面に設けられた、微粒子および樹脂を含む防眩層とを有する防眩フィルムであって、
防眩性と白濁感の抑制とを両立するために、防眩層の表面になだらかな凹凸を形成すること。」(以下「周知技術」という。)

6 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「防眩層」、「防眩性保護フィルム1」、「アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂」、「ポリスチレン粒子」及び「チキソトロピー化剤(雲母)」は、それぞれ本願発明の「防眩層」、「防眩性フィルム」、「樹脂」、「粒子」及び「チキソトロピー付与剤」に相当する。

(2)引用発明の「保護フィルム1」は、それにより構成される「防眩性保護フィルム」が偏光子の視認側に積層されるものであり、透光性を有することは技術的に明らかであるから、本願発明の「透光性基材」に相当する。

(3)引用発明は、「アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂(ウレタンアクリレート系モノマー)」(樹脂)100部に対し、平均粒子径が3.5μmの「ポリスチレン粒子」(粒子)12部、ベンゾフェノン系光重合開始剤5部、「チキソトロピー化剤(雲母)」(チキソトロピー付与剤)2.5部を、トルエン溶媒を介し混合した固形分濃度40重量%塗工液を、「保護フィルム1」(透光性基材)の上面に塗布し、120℃で5分間乾燥した後、紫外線照射により硬化処理して、塗膜の膜厚が7μmの微細凹凸構造表面の「防眩層」を有するようにしたものである。そうすると、引用発明は、本願発明の「透光性基材の少なくとも一方の面に、防眩層を有する防眩性フィルム」との構成及び「前記防眩層が、防眩層形成材料を用いて形成されており、前記防眩層形成材料が、樹脂、粒子およびチキソトロピー付与剤を含」むとの構成を備える。

(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明と引用発明とは、
「透光性基材の少なくとも一方の面に、防眩層を有する防眩性フィルムであって、
前記防眩層が、防眩層形成材料を用いて形成されており、前記防眩層形成材料が、樹脂、粒子およびチキソトロピー付与剤を含む、
防眩性フィルム。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1:
本願発明では、「前記防眩層が、前記粒子および前記チキソトロピー付与剤が凝集することによって、前記防眩層の表面に凸状部を形成する凝集部を有しており、前記凸状部を形成する凝集部において、前記粒子が、前記防眩層の面方向に、複数集まった状態で存在」するものであるのに対し、
引用発明では、防眩層がそのような構成を有しているかどうか明らかでない点。

・相違点2:
本願発明では、「前記凸状部の前記防眩層の粗さ平均線からの高さが、前記防眩層の厚みの0.4倍未満である」であるのに対し、
引用発明では、そのような構成を有しているかどうか明らかでない点。

7 判断
(1)相違点1について
ア 本願の特許請求の範囲及び明細書には以下の記載がある。
(ア)「【請求項4】
前記防眩層の厚み(d)が3?12μmの範囲内にあり、かつ、前記粒子の粒子径(D)が2.5?10μmの範囲内にあることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の防眩性フィルム。
【請求項5】
前記厚み(d)と前記粒子径(D)との関係が、0.3≦D/d≦0.9の範囲内にあることを特徴とする、請求項4記載の防眩性フィルム。
【請求項6】
前記防眩層において、前記樹脂100重量部に対し、前記粒子が0.2?12重量部の範囲で含まれ、前記チキソトロピー付与剤が0.2?5重量部の範囲で含まれていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の防眩性フィルム。」
(イ)「【0023】
本発明の防眩性フィルムにおいて、前記防眩層の厚み(d)が3?12μmの範囲内にあり、かつ、前記粒子の粒子径(D)が2.5?10μmの範囲内にあることが好ましい。この場合において、前記厚み(d)と前記粒子径(D)との関係が、0.3≦D/d≦0.9の範囲内にあることが好ましい。
【0024】
本発明の防眩性フィルムにおいて、前記防眩層において、前記樹脂100重量部に対し、前記粒子が0.2?12重量部の範囲で含まれ、前記チキソトロピー付与剤が0.2?5重量部の範囲で含まれていることが好ましい。」
(ウ)「【0054】
以下、図10Aを参照して、前述のような、なだらかな凸状部が形成されるメカニズムを説明する。図10A(a)および(b)に示すように、前記塗膜に含まれる溶媒を除去することで、塗膜の膜厚は収縮(減少)する。塗膜の下面側(裏面側)は前記透光性基材でとまっているため、前記塗膜の収縮は、前記塗膜の上面側(表面側)から起こる。図10A(a)において、前記塗膜の膜厚が減った部分に存在する粒子(例えば、粒子1、粒子4および粒子5)は、この膜厚減少により、前記塗膜の下面側に移動しようとする。これに対し、膜厚変化の影響を受けないか、影響を受けにくい下面寄りの比較的低い位置に存在する粒子(例えば、粒子2、粒子3および粒子6)は、防眩層形成材料に含まれるチキソトロピー付与剤の沈降防止効果(チキソトロピー効果)により、下面側への移動が抑制されている(例えば、二点鎖線10より下面側には移動しない)。このため、前記塗膜の収縮が起こっても、下面側の粒子(粒子2、粒子3および粒子6)は、表面側から移動しようとする粒子(粒子1、粒子4および粒子5)により、下方(裏面側)へ押されず、ほぼその位置に留まっている。前記下面側の粒子(粒子2、粒子3および粒子6)がほぼその位置に留まるため、前記表面側から移動しようとする粒子(粒子1、粒子4および粒子5)は、前記下面側の粒子が存在していない、前記下面側の粒子の隣(前記塗膜の面方向)に移動する。このようにして、本発明の防眩性フィルムでは、前記防眩層において、前記粒子が前記防眩層の面方向に複数集まった状態で存在していると推察される。」
イ 引用発明は、アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂(ウレタンアクリレート系モノマー)100部に対し、平均粒子径が3.5μmのポリスチレン粒子12部、チキソトロピー化剤(雲母)2.5部及びトルエン溶媒を含む塗工液を塗布して乾燥することにより、膜厚7μmの防眩層を得ており、引用発明は、上記アで示された、本願の防眩層の厚み、粒子の粒子径、厚みと粒子径との関係、樹脂に対する粒子及びチキソトロピー付与剤の含有量、並びに、防眩層の製造工程を含む点で同様であるから、ポリスチレン粒子及びチキソトロピー化剤が凝集し、防眩層の表面になだらかな凸状部を形成しており、凸状部を形成する凝集部において、粒子が防眩層の面方向に複数集まった状態で存在する蓋然性が高い。
ウ 以上のとおりであるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
ア 引用例の【0072】(上記4(4))には「(防眩手段) 微細凹凸の形成方法は特に制限されず、適宜な方式を採用することができる。・・・、保護層A上に微粒子を含む透明樹脂材料からなる防眩層を形成する方法・・・が挙げられる。これらの方法は、2種類以上を組み合わせて用いても良い。 また、凹凸の程度は前記ヘイズ値が前記範囲になる限り、特別な制限はないが、通常、中心線平均粗さ(Ra)0.04?0.5μm、平均山谷間隔(Sm)20?100μmである。」と記載されている。
イ 上記アからみて、引用発明における防眩層表面の中心線平均粗さは、通常の範囲として、最大でも0.5μm程度であるところ、引用発明の防眩層の膜厚が7.0μmであるから、中心線平均粗さは防眩層の厚みの最大でも0.07倍(=0.5÷7.0)程度である。引用発明において、防眩層の厚みの0.4倍が2.8μmであり、仮にこのような高さの凸状部が存在すると、中心線平均粗さ0.5μmに比べて極端に高く、かなり目立つ凸状部となるから、2.8μm以上の高さを基準として該凸状部を欠陥(外観欠点)と定めることは当業者が適宜決定し得ることである。そして、上記(1)での検討のように、引用発明の防眩層の表面はなだらかな凸状部を形成する蓋然性が高いこと、及び、防眩層の表面になだらかな凹凸を形成することにより、防眩性と白濁感の抑制とを両立させるという上記周知技術(上記5(3))とを踏まえれば、引用発明においても、防眩性と白濁感の抑制とを両立させることはその明示がなくても当然に考慮されるべき課題である。してみると、引用発明において、ポリスチレン粒子(粒子)およびチキソトロピー化剤(チキソトロピー付与剤)の配合量を調整する等して、そもそも、欠陥である前記凸状部が発生しないようにようにすることは当業者が適宜なし得たことである。もしくは、引用発明において、製造過程において欠陥と見なせる凸状部が生じた場合に、前記凸状部を含まないように切断し、防眩性フィルムとすることも当業者が適宜なし得たことである。
ウ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例の記載事項及び周知技術に基づいて、適宜なし得たことである。

(3)効果について
本願発明が奏する、防眩性と、白ボケの防止とを両立し、外観欠点となる防眩層表面の突起状物の発生を防止するという効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。

(4)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、審判請求書において、概略、以下のとおり主張している。
対流によるベナードセル形成では生産性およびコストに問題があり、本願発明のように、チキソトロピー付与剤を用いて、この問題点を解決することは、引用文献2および3に記載も示唆もない。よって、当業者において、引用文献2または3を他の文献と組み合わせて本願発明に想到し得る動機づけがあるとは考えられない。
さらに、本願発明において、凸状部の防眩層の粗さ平均線からの高さが、防眩層の厚みの0.4倍未満であることにより、本願明細書実施例[0134]に記載のとおり、外観欠点が存在しないという、引用文献1?6に記載も示唆もない有利な効果を奏する。このように、突起状物に基づく外観欠点をなくすという目的および効果については、引用文献2および3にも、他の引用文献にも記載も示唆もない。

イ 審判請求人の主張について検討する。
上記5及び上記7(2)で説示したとおり、引用文献2及び3は、防眩性と白濁感の抑制とを両立するために、防眩層の表面になだらかな凹凸を形成することが周知技術であることを認定するために引用したものであり、防眩性フィルム一般における周知の課題及びその解決手段を示すための例示にすぎない文献である。
また、上記7(2)イで説示したとおり、どの程度の高さの凸状部を欠陥(外観欠点)と見なすか、すなわち、基準高さを如何に設定するかは求める品質等に応じて当業者であれば適宜決定し得ることであるから、「凸状部の防眩層の粗さ平均線からの高さが、防眩層の厚みの0.4倍未満である」ことに臨界的意義が見出せない。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。

8 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-20 
結審通知日 2018-02-21 
審決日 2018-03-06 
出願番号 特願2012-146165(P2012-146165)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡▲辺▼ 純也大隈 俊哉関口 英樹  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 鉄 豊郎
多田 達也
発明の名称 防眩性フィルム、偏光板、画像表示装置および防眩性フィルムの製造方法  
代理人 中山 ゆみ  
代理人 伊佐治 創  
代理人 辻丸 光一郎  

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