• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1339665
審判番号 不服2015-21204  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-30 
確定日 2018-04-23 
事件の表示 特願2012-544806「シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの組成物及び使用」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月14日国際公開、WO2011/084553、平成25年 4月25日国内公表、特表2013-514450〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年12月16日、2010年12月15日、ともに米国(US))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成24年 8年 1日 翻訳文提出
平成26年10月 2日付 拒絶理由通知
平成27年 1月 6日 意見書・手続補正書提出
同年 7年27日付 拒絶査定
同年11月30日 審判請求書・手続補正書提出
平成28年 1月19日付 前置報告
平成29年 5年11日付 当審拒絶理由通知
同年10月11日 意見書・手続補正書提出

第2 本願発明

本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成29年10月11日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン及びシクロペンタンを含む発泡剤組成物を用いて形成されるポリウレタンを含むパネル用フォームであって、
発泡剤組成物の総重量基準で50重量%?80重量%の量でシス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含む、パネル用フォーム。」

第3 平成29年5月11日付けの当審拒絶理由(理由4:進歩性)の概要

標記拒絶理由は、要するに、本願発明は、本願優先日前に頒布された下記の刊行物(引用刊行物A)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 理由4(進歩性)についての当審の判断

1 引用刊行物
A:国際公開第2009/085857号
(公開日:2009年7月9日)

2 引用刊行物Aの記載
便宜上、当該引用刊行物Aの記載の摘示にあたっては、パテントファミリーである特表2011-508020号公報における対応箇所を、段落番号等も含めて、そのまま訳文として記載した。
(1) 引用刊行物Aの「Claims」(27?30頁)には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項10】
(a)シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとシクロペンタンとの共沸混合物と;
(b)2個またはそれ以上の活性水素を有する活性水素含有化合物と
を含む発泡体形成組成物。
【請求項11】
(a)シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとシクロペンタンとの共沸様混合物と;
(b)2個またはそれ以上の活性水素を有する活性水素含有化合物と
を含む発泡体形成組成物。
・・・
【請求項15】
請求項1?14のいずれか一項に記載の有効量の発泡体形成組成物と適したポリイソシアネートとの反応から製造される独立気泡のポリウレタンまたはポリイソシアヌレートポリマー発泡体。」
(2) 引用刊行物Aの9頁3?19行には、上記特許請求の範囲に記載された発泡体形成組成物(共沸様混合物)に関する、次の記載がある。
「【0038】
本発明の幾つかの実施形態では、発泡体形成組成物は、(a)Z-FC-1336mzzとシクロペンタンとの共沸もしくは共沸様混合物と;(b)ヒドロキシル基の形態での、2個以上の活性水素を有する活性水素含有化合物とを含む。本開示では、Z-FC-1336mzzとシクロペンタンとの共沸もしくは共沸様混合物が発泡剤として使用される。発泡剤Z-FC-1336mzzおよびシクロペンタンは、共沸様混合物を形成する。典型的にはこれらは、発泡体形成組成物中の他の成分と混合する前に組み合わせられる。あるいはまた、他のものが混ぜ込まれる前に他の成分の幾らかまたは全てと混合することができる。例えば、Z-FC-1336mzzを、シクロペンタンが加えられる前に発泡体形成組成物中の他の成分と先ず混合することができる。一実施形態では、共沸様混合物は、75?88重量%のZ-FC-1336mzzと、25?12重量%のシクロペンタンとを含有する。一実施形態では、共沸様混合物は、77?87重量%のZ-FC-1336mzzと23?13重量%のシクロペンタンとを含有する。一実施形態では、共沸様混合物は、85重量%のZ-FC-1336mzzと15重量%のシクロペンタンとを含有する。」
(3) 引用刊行物Aの「EXAMPLE7」(24頁)には、上記特許請求の範囲に記載された発泡体形成組成物(共沸様混合物)及び発泡体の具体的な態様に関する、次の記載がある。
「【0094】
実施例7
Z-FC-1336mzzおよびシクロペンタン共沸様混合物から製造されるポリウレタンフォーム
発泡剤Z-FC-1336mzzおよびシクロペンタンをプレミックスして85重量%のZ-FC-1336mzzと15重量%のシクロペンタンとを含有する共沸様混合物を形成した。
【0095】
ポリオール、界面活性剤、触媒、水および発泡剤(15重量%のシクロペンタンおよび85重量%のZ-FC-1336mzz)を手動によりプレミックスし、次にポリイソシアネートと混合した。生じた混合物を8インチ×8インチ×2.5インチ紙箱に注ぎ込み、ポリウレタンフォームを形成した。発泡体の調合物および特性を下の表13および14に示す。
【0096】
【表13】

【0097】
【表14】


(4) 引用刊行物Aの1頁21?28行及び16頁10?14行には、上記特許請求の範囲に記載された発泡体の用途に関する、次の記載がある。
「【0003】
独立気泡ポリイソシアネートベースの発泡体は、断熱目的のために、例えば、ビルディング建築におよびエネルギー効率的な電化製品の製造に広く使用されている。建設業界では、ポリウレタン/ポリイソシアヌレート・ボードストックは、その断熱および荷重負荷容量のために屋根材料および羽目板に使用されている。現場打ちおよび溶射ポリウレタンフォームは、断熱屋根、貯蔵タンプなどの断熱性の大構造物、冷蔵庫および冷凍庫などの断熱電化製品、断熱性の冷蔵トラックおよび列車などをはじめとする様々な用途向けに広く使用されている。」
「【0061】
本発明組成物および方法は、例えば、インテグラルスキン、RIMおよび可撓性発泡体、ならびに現場注入電化製品発泡体として、または硬質の断熱性ボードストックおよびラミネートとして、スプレー断熱に有用な特に硬質の独立気泡ポリマー発泡体をはじめとする、あらゆる種類の発泡ポリウレタンフォームの製造に適用できる。」

3 引用刊行物Aに記載された発明(引用発明)
上記2(3)に摘示した実施例7に着目すると、引用刊行物Aに記載された発明(以下、「引用発明」という。)として、次の発明を認めることができる。
「85重量%のZ-FC-1336mzz(すなわちシス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン)と15重量%のシクロペンタンとを含有する共沸様混合物を発泡剤として含有する、上記表13記載のポリウレタン調合物を、8インチ×8インチ×2.5インチ紙箱に注ぎ込んで形成した、ポリウレタンフォーム」

4 本願発明と引用発明の対比・判断
(1) 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン及びシクロペンタンを含む発泡剤組成物(発泡体)を用いて形成されるポリウレタンを含むフォームである点で一致し、次の点で相違するといえる。
・相違点1(発泡剤組成物の組成):発泡剤組成物(発泡剤)の組成につき、本願発明は「発泡剤組成物の総重量基準で50重量%?80重量%の量でシス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含む」と特定しているのに対して、引用発明におけるシス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量は、85重量%である点
・相違点2(フォームの用途):フォームの用途につき、本願発明は「パネル用」と特定しているのに対して、引用発明は用途についての明示がない点
(2) 相違点の検討
ア 相違点1について
(ア) 確かに、引用発明の発泡剤におけるZ-FC-1336mzz(シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン)とシクロペンタンの組成比は、85重量%:15重量%という限定されたものである。
しかし、当該組成比に関し、引用刊行物Aには、「一実施形態では、共沸様混合物は、75?88重量%のZ-FC-1336mzzと、25?12重量%のシクロペンタンとを含有する。一実施形態では、共沸様混合物は、77?87重量%のZ-FC-1336mzzと23?13重量%のシクロペンタンとを含有する。一実施形態では、共沸様混合物は、85重量%のZ-FC-1336mzzと15重量%のシクロペンタンとを含有する。」(上記2(2)参照)と記載されていることから、引用発明における上記「85重量%:15重量%」という組成比は、引用刊行物Aが教示するもっとも具体的な態様を具現したものにすぎないといえる。そして、当該組成比は、この態様に限られるものではなく、「75?88重量%:25?12重量%」、さらには「77?87重量%:23?13重量%」といった特定の組成比の範囲内において適宜調整可能なものであることを、引用刊行物Aは教示していると解するのが合理的である。
ここで、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量に着目しながら、当該特定の組成比の範囲を、本願発明が特定する「発泡剤組成物の総重量基準で50重量%?80重量%の量でシス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含む」と比較してみると、両者は「75?80重量%」あるいは「77?80重量%」において重複することが分かる。
(イ) そして、本願発明は、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量につき「50重量%?80重量%」と規定するところ、本願明細書を仔細にみても、当該含有量につき、【0054】などには、「約1重量%?約99重量%」といった広範な組成比が示され、また、【0064】?【0072】には、「パネル用フォームの例」として、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとシクロペンタンの組成比が「80重量%:20重量%」のもの、すなわち、当該含有量が「80重量%」の場合のみが記載されるにとどまり、本願発明が規定する「50重量%?80重量%」という数値範囲に特段の臨界的意義を認めるに足りる記載は見当たらない。
(ウ) そうすると、上記引用刊行物Aの教示に基づいて、引用発明の発泡剤における上記組成比を調整し、本願発明と重複する組成比とすることは、当業者が容易に想到し得るものというべきである。
イ 相違点2について
(ア) 引用刊行物Aには、フォームの用途に関し、「建設業界では、ポリウレタン/ポリイソシアヌレート・ボードストックは、その断熱および荷重負荷容量のために屋根材料および羽目板に使用されている。」、「本発明組成物および方法は、・・・硬質の断熱性ボードストックおよびラミネートとして・・・有用な特に硬質の独立気泡ポリマー発泡体をはじめとする、あらゆる種類の発泡ポリウレタンフォームの製造に適用できる。」(上記2(4)参照)と記載されている。
また、「パネル」とは、一般に「鏡板。羽目板。」を意味する用語として使用されており(広辞苑第6版を参酌した。)、一枚板のような形態のものを総じて呼称するものと解されるから、上記引用刊行物Aに記載された、羽目板(原文では「siding」)として使用されているボードストックも、広義に解釈すれば、「パネル」に該当するものということができる。
加えて、「ボードストック」や「パネル」といった用途は、当業者がよく知る、硬質ウレタンフォームの一般的な用途というべきである(審判請求人提出の平成29年10月11日付け意見書に添付された参考資料1や原査定において引用文献2として引用された特表2008-546892号公報の【0062】などを参酌した。)。
(イ) これらを併せ考えると、引用発明のポリウレタンフォームは、ボードストックの用途を予定したものであり、これは広義の「パネル」に該当するものと解するのが合理的であるから、上記相違点2は実質的なものとは言い難い。
(ウ) また、仮に、当該相違点が実質的なものであるとしても、引用刊行物Aは、当該引用発明のフォームの用途として、硬質の断熱性ボードストックなどとして有用な硬質の独立気泡ポリマー発泡体をはじめとする、あらゆる種類の発泡ポリウレタンフォームを教示するところ、上記のとおり、当業者は、既に硬質ウレタンフォームの一般的な用途として、「パネル」を認知しているのであるから、当業者にとって、引用発明のポリウレタンフォームを、パネル用とすることに何ら困難なところは見いだせない。
(エ) そして、本願明細書の【0053】、【0059】、【0060】などには、フォームの用途について記載されているところ、そこに記載された「パネル用フォーム」は、噴霧フォーム、冷蔵庫用フォームといった他の用途と同列に扱われて列記されたものであり、特に「パネル用フォーム」特有の技術的事項に関連する説明は見当たらない。
(オ) したがって、上記相違点2は実質的なものではないか、仮に実質的なものであるとしても容易想到の事項というべきである。
ウ 効果について
確かに、同【0064】?【0072】には、上記のとおり「パネル用フォームの例」として、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとシクロペンタンの組成比が「80重量%:20重量%」である発泡体組成物を用いた具体的態様が記載され、同態様のものが、n-ペンタンやイソペンタンを用いた場合と比較して、その反応性(【0069】)や圧縮強さ(【0070】)において優れている旨説明されている。しかし、本願発明は、発泡剤組成物を、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとシクロペンタンからなる二元系に限定したものではない上、その組成比についても、単に、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量が「50重量%?80重量%」であることのみを規定するものであるから、本願発明の発泡剤組成物は、例えば、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとシクロペンタンのほかに、n-ペンタンやイソペンタンといった他の化合物を相当程度含有することを許容するものといわざるを得ない。そうである以上、本願明細書に記載された上記具体的態様に係る効果は、本願発明の発泡剤組成物全体にわたって奏されるものとは到底いえないから、当該効果に基づいて、本願発明の進歩性を認めることもできない。
エ 平成29年10月11日提出の意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、標記意見書において、ボードストックとパネルとは異なる旨主張する。
しかし、本願発明は、単に「パネル用」と特定するにとどまり、例えば、パネル工法において、住宅の床、壁などの構造体として使用するパネルにまで限定したものではないし、ボードストックと区別して定義付けされたものでもないから、本願発明における「パネル」は、上記イ(ア)において説示した広義の意味合いとして捉えるのが妥当である。
したがって、ボードストックと、本願発明でいうところのパネルとを区別して理解することはできないから、当該主張を採用することはできない。
仮に、両者を区別することができたとしても、これによる相違が容易想到の範疇のことであることは、上記イにおいて説示したとおりである。
オ 小括
以上のとおり、相違点1及び相違点2に係る本願発明の各技術的事項に格別の創意は認められない上、これらの技術的事項による相乗的効果も認められないから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-30 
結審通知日 2017-12-01 
審決日 2017-12-12 
出願番号 特願2012-544806(P2012-544806)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古妻 泰一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 佐々木 秀次
日比野 隆治
発明の名称 シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの組成物及び使用  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 松田 豊治  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ