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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1339739
審判番号 不服2017-9027  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-21 
確定日 2018-05-15 
事件の表示 特願2015-536382「情報表示システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年3月19日国際公開、WO2015/037117、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年9月13日を国際出願日とする出願であって、平成28年8月30日付けで拒絶理由が通知され、平成28年11月4日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成29年3月14日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年6月21日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成29年3月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

●特許法第29条第2項について

・請求項1
・引用文献1ないし3及び9
障害物と重複させて表示する虚像を危険度に応じて切り替えることは、引用文献9に記載された発明にあるよう周知の技術であり(段落【0056】)、引用文献1、または2に記載された発明において、輪郭を示す虚像を危険度に応じて切り替えることは当業者であれば容易になし得ることである。そして、危険度に応じて切り替える具体的な表示形態は、運転者に対する認識のし易さや危険性が伝わる形態等を鑑み、当業者が適宜選択する設計的事項である。また、全体を明示する状態と部分を明示する状態とで切り替えを行うことに格別の困難性はなく、得られる効果も当業者の予測の範囲内のものである。

・請求項2
・引用文献1ないし4及び9
引用文献4には、障害物の予測動線を虚像として生成し、生成された虚像を予測動線位置に重畳することが記載されている(段落【0071】及び【0072】、図10)。

・請求項3及び4
・引用文献1ないし5及び9
引用文献5には、他車両(障害物)の移動方向、速度の大きさに応じて動線の形状を変化させることが記載されている(段落【0031】)。また、マークによる移動方向や速度の大きさの表示は一般的に用いられるものであり、動線の形状を変化させることにかえて、マークの増減により移動方向や速度の大きさを表現することは当業者であれば容易になし得ることである。

・請求項6ないし8
・引用文献1ないし3及び9
上記請求項1についての拒絶の理由を参照。

引用文献等一覧

1.特開2008-62762号公報
2.特開2010-143411号公報
3.特開2011-119917号公報
4.特開2006-350934号公報
5.特開2006-327527号公報
6.特開2010-73032号公報
7.特開2008-193339号公報
8.特開2012-212351号公報
9.特開2012-69154号公報

第3 本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成29年6月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
虚像を自車前方スクリーンに表示することにより、運転支援情報を運転者に通知する情報表示システムであって、
前記虚像を生成する画像処理部と、生成された虚像を表示する表示部と、
運転者の視点位置を取得する視点位置取得部と、取得した視点位置に応じて前記虚像の前記スクリーン上の表示位置を調整する調整部と、
自車前方周辺の情報を取得する車外情報取得部と、前記取得した情報により障害物を判定する障害物判定部と、
前記障害物の判定情報と自車状況に基づき前記障害物の危険度を判定する危険度判定部と、を備え、
前記画像処理部は、前記障害物に関する輪郭を示す第1の虚像を、前記危険度に応じて前記障害物全体を明示する状態と前記障害物の部分を明示する状態とに切り替えて生成し、さらに前記障害物の判定情報に基づき、前記障害物の予測動線を示す第2の虚像を生成し、
前記第2の虚像が示す前記予測動線は、前記障害物の進行方向および速度予測に基づいて生成され、
前記表示部は、前記第1の虚像を前記障害物と重畳するように前記スクリーンに表示し、さらに前記第2の虚像を前記障害物と重ならないように前記障害物の予測動線位置に重畳するように、前記スクリーンに表示し、前記第1の虚像が前記障害物の部分を明示する状態において、前記第2の虚像を表示し、かつ前記障害物の進行方向が前記自車の予測動線に近づく方向の場合に遠ざかる方向の場合に比べて前記第1の虚像を大きく前記スクリーンに表示することを特徴とする情報表示システム。」
また、本願発明2ないし本願発明4は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載事項

原査定に引用され、本願の出願前に頒布された特開2008-62762号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面(特に、図1及び図5参照。)とともに記載されている。

(1)「【0025】
本実施例1における運転支援装置を搭載した車両の概要構成を図1に示す。同図に示すように、車両において運転支援装置40は、画像認識装置10、ブレーキ41、エンジン制御装置(EFI)42、ディスプレイ43、スピーカ44、フロントガラス投影機構51、車室カメラ52および座席調節機構53と接続している。さらに、画像認識装置10は、ナビゲーション装置30、カメラ31、レーダ33と接続している。」(下線は、理解の一助のために当審で付した。以下同様。)

(2)「【0027】
カメラ31は、自車両周辺を撮影し、撮影結果を画像認識装置10に入力する。レーダ33は、自車両の周辺の物体検知、および物体までの距離測定を行なって画像認識装置10に入力する。
【0028】
画像認識装置10は、その内部に前処理部11、車両認識部16、白線認識部17、歩行者認識部18および衝突判定部20を有する。ここで、車両認識部16、白線認識部17、歩行者認識部18および衝突判定部20は、例えば単一のマイコン10a(CPU、ROM、RAMの組み合わせからなる演算処理ユニット)などによって実現することが好適である。
【0029】
前処理部11は、カメラ31が撮影した画像に対してフィルタリングやエッジ検出、輪郭抽出などの処理を施した後、車両認識部16、白線認識部17および歩行者認識部18に出力する。
【0030】
車両認識部16は、前処理部11が出力した画像に対してパターンマッチングなどを施して車両を認識し、認識結果を衝突判定部20に出力する。同様に、白線認識部17は、前処理部11が出力した画像に対してパターンマッチングなどを施して白線を認識し、認識結果を衝突判定部20に出力する。そして歩行者認識部18は、前処理部11が出力した画像(入力画像)から歩行者像を認識し、衝突判定部20に出力する。
【0031】
衝突判定部20は、車両認識部16、白線認識部17、歩行者認識部18による認識結果、レーダ33による検知結果およびナビゲーション装置30が出力する位置情報を用いて、歩行者や他車両と自車両との衝突危険度を判定し、運転支援装置40に出力する。」

(3)「【0035】
運転者への情報提供については、運転支援装置40は、ディスプレイ43、スピーカ44およびフロントガラス投影機構51を使用する。ディスプレイ43はユーザ、すなわち自車両乗員に対して表示による通知を行なう出力手段であり、スピーカ44は音声による通知を行なう出力手段である。ディスプレイ43およびスピーカ44は、運転支援装置40からの制御を受けて出力を行なう他、ナビゲーション装置30や図示しない車載オーディオ装置など各種車載装置で共用することができる。
【0036】
フロントガラス投影機構51は、所定形状の光線をフロントガラスに投射する投射機構であり、例えばレーザやスポット光源によって実現する。また、光線の投射方向はフロントガラスの任意の位置を照射可能とすることが好ましい。
【0037】
さらに、運転者に対して注意を促す歩行者の数を一人とするならば、出射機構は一つでよいが、同時に複数の歩行者について注意を促す場合には、その最大数に合わせて出射機構を設ける必要がある。
【0038】
このフロントガラス投影機構51による通知を行なうため、運転支援装置40は、その内部に通知歩行者選択部40a、投射位置補正部40bおよび投射制御部40cを有する。
【0039】
通知歩行者選択部40aは、画像認識装置10によって認識された物体のうち歩行者を選択し、さらに歩行者が複数認識されている場合には衝突判定部20によって判定された衝突危険度が最も高い歩行者を運転者に対して通知すべき対象として選択する。
【0040】
投射制御部40cは、通知歩行者選択部40aによって選択された歩行者の位置に運転者に注意を促す情報表示を行なうようフロントガラス投影機構51による投射を制御する処理部である。
【0041】
ここで、フロントガラス上に投射した表示が運転者から見て歩行者の位置と重なるように制御するためには、運転者の視点の位置に合わせて投射位置を補正する必要がある。そこで投射位置補正部40bは、座席調節機構53が出力する運転席の調節状態からの運転者視点の推定や、車室カメラ52の撮影結果に対する画像認識による運転者の目の位置の特定を行なって投射位置を補正する。」

(4)「【0046】
フロントガラス投影機構51から投影する光線の形状は、例えば図5に示すように丸型の投影像M1を通知対象である歩行者に重ね合わせて(もしくは囲んで)もよいし、図6に示すように横方向のライン型投影像M2と縦方向のライン型投影像M3との組み合わせによって表示してもよい。
【0047】
さらに、図7に示すように矢印型の投影像M4で歩行者位置を指し示すように投影するなど、任意の形状を用いることが可能である。
【0048】
また、表示にあたっては、その形状や大きさ、色、濃度、点滅の有無や点滅周期などに変化を持たせ、通知する情報量を増やすこともできる。例えば、危険度が比較的高い場合は赤色、比較的低い場合は黄色、などのように色の変化で危険度を通知してもよいし、距離によって形状を変化させ、図6に示すように縦横のラインで通知する場合に自車両からの距離が近い歩行者ほど横方向のライン表示M2の幅を太くする、などとすることもできる。」

(5)上記(1)ないし(3)及び図1の記載によれば、車両は運転支援装置40を有し、運転支援装置40は、フロントガラス投影機構51を使用することで、投影像をフロントガラスに投射することにより、運転者への情報提供を行うものであるから、車両は、投影像をフロントガラスに投射することにより、運転者への情報提供を行うことが分かる。

(6)上記(3)、(4)の記載によれば、投射制御部40cは、フロントガラス投影機構51による投影像の投射を制御するものであるから(段落【0040】)、投影像の表示で変化を持たせること、例えば、危険度に応じて投影像を変えるように投射制御部40cが制御すること(段落【0048】)が分かる。

(7)引用発明1

上記(1)ないし(6)を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

<引用発明1>

「投影像をフロントガラスに投射することにより、運転者への情報提供を行う車両において、
投射制御部40cと、投影像を投射するフロントガラス投影機構51と、車室カメラ52の撮影結果に対する画像認識による運転者の目の位置の特定を行なって投射位置を補正する投射位置補正部40bと、
自車両周辺を撮影するカメラ31と、カメラ31が撮影した画像に対して前処理部11が処理を施した画像から歩行者像を認識する歩行者認識部18と、
歩行者認識部18の認識結果とナビゲーション装置30が出力する位置情報を用いて、歩行者と自車両との衝突危険度を判定する衝突判定部20と、を有し、
投射制御部40cは、投影像を、危険度に応じて変えるよう制御し、
フロントガラス投影機構51は、投影像を歩行者と重ね合わすようにフロントガラスに投射する車両。」

2 引用文献2の記載事項

原査定に引用され、本願の出願前に頒布された特開2010-143411号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面(特に、図1ないし図4参照。)とともに記載されている。

(1)「【0015】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態によるHUD装置1の概略的構成を示している。HUD装置1は表示ユニット10及び制御ユニット30等から構成されて、車両に搭載されている。ここで、車両のインストルメントパネル5内に設置される表示ユニット10は、表示器12、光学系14及び駆動部16を備えている。
【0016】
表示器12は例えば液晶モニタ等からなり、画像を表示する画面120を有している。光学系14は、例えばミラー及びレンズ等を組み合わせてなり、表示器12の画面120に表示された画像を光学像として車両のフロントウインドシールド2へと投射する。かかる投射により表示器12の表示画像は、フロントウインドシールド2の前方にて結像されることで、虚像として車両内の運転席3側へと表示される。したがって、運転席3上の乗員4は、前方に表示された虚像を視認することで、表示器12の表示画像が表す情報を伝達されることになる。
【0017】
駆動部16は、表示器12及び光学系14を収容するハウジング160と、当該ハウジング160の配置位置や配置角度等の配置状態を調整するアクチュエータ162とを有している。アクチュエータ162は、例えば電動モータ及び運動変換機構等からなり、ハウジング160を任意の位置や角度等に駆動可能となっている。かかる駆動によりハウジング160の配置状態が調整されることで、表示器12の表示画像について光学系14により虚像を結像させる位置(以下、単に「結像位置」という)が調整される。」

(2)「【0018】
制御ユニット30は、眼球情報取得部32、通信部34、撮像部36及び制御回路38を備えている。
【0019】
眼球情報取得部32は、眼球センサ320及び解析処理回路322を有している。眼球センサ320は、例えばCCD等の撮像素子を複数組み合わせてなり、インストルメントパネル5の上面又はステアリングコラムの上面等に設置されている。眼球センサ320は運転席3上における乗員4の少なくとも顔面を撮影して、当該乗員4の眼球状態を検出する。
【0020】
解析処理回路322は、例えば画像処理用のICチップ等からなり、車両の表示ユニット10近傍に設置されて眼球センサ320と電気接続されている。解析処理回路322は、眼球センサ320による眼球状態の検出結果を表す画像信号を所定のフレームレートで連続処理することにより、当該眼球状態に関する眼球情報を取得する。ここで眼球情報については、運転席3上における乗員4の眼球位置及び視線方向を少なくとも含むように、本実施形態では設定される。また特に本実施形態では、眼球情報としての眼球位置及び視線方向についてそれぞれ、設定時間内(例えば1秒間)に眼球状態を設定回数(例えば30回)にて検出した結果の平均位置及び平均方向が採用される。
【0021】
通信部34は、車載通信機340及び情報処理回路342を備えている。車載通信機340は、例えば通信種類に応じた無線機器を複数組み合わせてなり、車両において外部と通信可能に設置されている。ここで通信種類としては、DSRCビーコンやETCビーコン、路肩カメラ等の交通インフラを利用する路車間通信、他車両の車載通信機を利用する車車間通信、GPSや衛星カメラ等を利用する衛星通信、並びに携帯電話を利用する携帯通信のうち少なくとも一つが、本実施形態では採用される。車載通信機340は、自車両外部の交通情報を表す無線信号を随時受信して、当該信号の増幅処理並びに復調処理を行う。
【0022】
情報処理回路342は、例えば通信処理用のICチップ等からなり、車両の表示ユニット10近傍に設置されて車載通信機340と電気接続されている。情報処理回路342は、車載通信機340から出力の無線信号を所定のサンプリングで連続処理することにより、自車両との衝突が予測される衝突対象6(例えば図2を参照)を検出して当該対象6に関する衝突予測情報を取得する。ここで衝突対象6には、例えば自車両外部の人間や動物、他車両等が含まれている。また、衝突予測情報については、検出した衝突対象6の存在位置、移動方向及び移動速度を少なくとも含むように、本実施形態では設定される。」

(3)「【0024】
撮像部36は、外界カメラ360及び画像処理回路362を備えている。外界カメラ360は、例えばCCD等の撮像素子を主体に構成されて車両のフロントバンパー又はバックミラー近傍等に設置されており、当該車両の前方に広がる外界領域を随時撮影する。
【0025】
画像処理回路362は、例えば画像処理用のICチップ等からなり、車両の表示ユニット10近傍に設置されて外界カメラ360と電気接続されている。画像処理回路362は、外界カメラ360による外界領域の撮影結果を表す画像信号を所定のフレームレートで連続処理することにより、上述の情報処理回路342に準じた衝突対象6の検出並びに衝突予測情報の取得を行う。
【0026】
制御回路38は、例えばマイクロコンピュータを主体に構成されてメモリ380を有しており、車両の表示ユニット10近傍に設置されて表示器12、駆動部16のアクチュエータ162及び回路322,342,362と電気接続されている。制御回路38は、メモリ380に記憶の制御プログラムを実行することにより、表示器12と駆動部16のアクチュエータ162とを各回路322,342,362の取得情報に基づき制御する。」

(4)「【0027】
特に本実施形態の制御回路38は、回路342,362の少なくとも一方により衝突対象6が検出されて衝突予測情報が取得された場合に、図3の如き警告画像50を図2に示す虚像52として表示するように、表示器12による画像の表示と駆動部16による結像位置の調整とを制御する。以下、かかる場合の制御フローについて、図4に示すフローチャートに従って説明する。尚、この制御フローは、車両のイグニッションスイッチのオンに応じて開始し、当該スイッチのオフに応じて終了するようにプログラムされている。。
【0028】
まず、制御フローのステップS100では、自車両の前進走行中に衝突対象6が情報処理回路342及び画像処理回路362の少なくとも一方により検出されることで、当該衝突対象6の存在位置、移動方向及び移動速度を含む衝突予測情報を取得したか否かを判定する。その結果、否定判定がなされている間は、ステップS100が繰り返し実行されるが、肯定判定がなされると、ステップS101へ移行する。
【0029】
ステップS101では、自車両の運転席3上における乗員4の眼球状態を眼球センサ320により検出することで、当該眼球状態に関する眼球情報を解析処理回路322により取得する。このとき本実施形態では、上述したように眼球位置の平均位置及び視線方向の平均方向を含む眼球情報が、取得されることになる。
【0030】
また続くステップS102では、ステップS101により取得された眼球情報のうち眼球位置の平均位置及び視線方向の平均方向に基づくことで、自車両の運転席3上における乗員4に関して、図2に示す中心視野60を推定する。ここで、中心視野60は例えば、眼球位置の平均位置から視線方向の平均方向に存在する視点中央600の周囲において、視線方向の平均方向に対して眼球位置の平均位置から所定角度(一般に約20度)をなす視野として、本実施形態では推定されるようになっている。
【0031】
さらに続くステップS103では、自車両の予定の進行方向に関する進行方向情報を情報処理回路342により取得する。そして、この後のステップS104では、ステップS103により取得された進行方向情報に加え、ステップS100により取得された衝突予測情報にも基づくことで、当該予測情報に対応する衝突対象6について自車両との衝突確率が設定確率以上になったか否かを判定する。ここで衝突確率は、進行方向情報が示す進行方向へ自車両が予定通り前進走行し続けて衝突対象6に接近した場合に、道路のカーブや死角等に起因して自車両が当該対象6と衝突する確率であって、例えば本実施形態では、制御プログラム上において実行されるシミュレータにより算出される。また、設定確率については、車両の安全確保上の注意喚起が必要な衝突確率のうち最も安全側の確率に設定されるが、例えば本実施形態では、30%程度に設定されることとなる。
【0032】
ステップS104において否定判定がなされている間は、ステップS100へと戻って当該S100及び後続ステップS101?S104が繰り返し実行されるが、肯定判定がなされると、ステップS105へ移行する。このステップS105では、駆動部16のアクチュエータ162を制御することで、後続ステップS106により表示される警告画像50の虚像52が、ステップS102により推定された中心視野60に図2の如く重畳されるように、当該虚像52の結像位置を調整する。
【0033】
具体的にステップS105では、ステップS100により取得された衝突予測情報のうち衝突対象6の存在位置と、ステップS101により取得された眼球情報のうち眼球位置の平均位置との間を結ぶ仮想線上に、虚像52の結像位置を調整する。このとき特に本実施形態では、図5に示すように、乗員4の眼球位置の平均位置Pから車両水平方向Hへ設定距離Dをもって離間し且つ当該平均位置Pに対して俯角が設定角度θとなる位置に、結像位置が調整されることになる。尚、車両水平方向Hとは、水平面上における自車両の当該水平面に沿った方向をいう。
【0034】
ここで設定距離Dについては、自車両の運転席3上における乗員4の眼球の輻輳角φ(図6を参照)が図7(a)の如く実質的に0度となることで、当該眼球の焦点調節量が図7(b)の如く実質的に0となるように、8m以上の距離とされる。さらに、設定距離Dについて好ましくは、表示ユニット10の特に光学系14の体格を各種車両に搭載可能な程度に小さくしてHUD装置1の設置自由度を高めるように、15m以下の距離とされる。加えて、俯角の設定角度θについては、自車両の運転席3上の乗員4が中心視野60にて視認する前方実景への虚像52の影響を最低限に抑えつつ、虚像52を当該中心視野60に適正に重畳させるために、1度以上5度以下の範囲内、さらに好ましくは3度程度とされるのである。
【0035】
このように虚像52の結像位置が調整された後のステップS106では、表示器12を制御することで、ステップS103により算出された衝突確率に応じて形態が変化する警告画像50を、図3の如く当該表示器12の画面120に表示する。ここで警告画像50は、ステップS100により取得された衝突予測情報に対応する衝突対象6の存在を、自車両の運転席3上の乗員4に警告して注意喚起するための画像であって、変化形態に対応した複数の画像データとしてメモリ380に予め記憶されている。そして、特に本実施形態では、衝突確率が上昇するほど警告性を増す変化形態となるように、衝突確率に応じた警告画像50をメモリ380から読み出して表示するのである。
【0036】
尚、警告性を増す変化形態とは例えば、信号機に準じて表示色を黄色から赤色へ変化させる形態や、表示を点滅させてその点滅速度を上昇変化させる形態等が採用される。また、ステップS106では、警告画像50の可変表示に連動して、車両に搭載された音声出力システム(図示しない)により、衝突対象6の存在を音声にて警告するようにしてもよい。
【0037】
こうして可変表示された警告画像50についての虚像52は、フロントウインドシールド2の前方のうち、乗員4の眼球位置の平均位置Pに対して設定距離Dをもって離間し且つ俯角が設定角度θとなる衝突対象6の近傍位置に結像されて、図2の如く当該乗員4の中心視野60に重畳されることになる。ここで特に本実施形態では、ステップS106の実行時点における乗員4の眼球状態、例えば自車両の進行方向に対する脇見状態等にも拘らず、先に推定された中心視野60に対して警告画像50の虚像52が重畳されるようになっている。」

(5)上記(1)及び図1の記載によれば、車両は、表示ユニット10及び制御ユニット30を備え、表示ユニット10は、表示器12、光学系14及び駆動部16を備え、光学系14は、虚像52をフロントウインドシールド2に表示することにより、情報を乗員4に伝達するから、車両は、虚像52をフロントウインドシールド2に表示することにより、情報を乗員4に伝達することが分かる。

(6)上記(3)、(4)及び図4の記載によれば、制御回路38は、図4のフローチャートのプログラムを実行するものであるから(段落【0026】及び【0027】)、制御回路38は、衝突確率に応じて警告画像50をメモリ380から読み出すこと(段落【0035】)、外界カメラ360の撮影結果に基づき衝突予測情報を取得すること(段落【0025】)、及び、衝突予測情報と進行方向情報に基づいて衝突確率を判定すること(段落【0031】)が分かる。

(7)引用発明2

上記(1)ないし(6)を総合すると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

<引用発明2>

「虚像52をフロントウインドシールド2に表示することにより、情報を乗員4に伝達する車両であって、
警告画像50をメモリ380から読み出す制御回路38と、警告画像50の虚像52を表示する光学系14と、
乗員4の眼球情報を取得する解析処理回路322と、眼球情報に基づいて推定された中心視野60に重畳するように虚像52の結像位置を調整する制御回路38と、
車両の前方に広がる外界領域を撮影する外界カメラ360と、外界カメラ360の撮影結果に基づいて衝突予測情報を取得する画像処理回路362と、
衝突予測情報と進行方向情報に基づき衝突確率を判定する制御回路38と、備え、
制御回路38は、警告画像50を、衝突確率に応じてメモリ380から読み出し、
光学系14は、虚像52を中心視野60と重畳するようにフロントウインドシールド2に表示する車両。」

第5 対比・判断

1 本願発明1について

本願発明1と引用発明1とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、引用発明1における「投影像」は、本願発明1における「虚像」に相当し、以下同様に、「フロントガラス」は「自車前方スクリーン」に、「投射する」ことは「表示する」ことに、「運転者への情報提供を行う」ことは「運転支援情報を運転者に通知する」ことに、「車両」は「情報表示システム」に、「フロントガラス投影機構51」は「表示部」に、「車室カメラ52の撮影結果に対する画像認識による運転者の目の位置の特定を行な」うことは「運転者の視点位置を取得する」ことに、「運転者の目の位置の特定を行なって投射位置を補正する」ことは「取得した視点位置に応じて虚像のスクリーン上の表示位置を調整する」ことに、「投射位置補正部40b」は「視点位置取得部」及び「調整部」に、「自車両周辺を撮影する」ことは「自車前方周辺の情報を取得する」ことに、「カメラ31」は「車外情報取得部」に、「歩行者像」は「障害物」に、「カメラ31が撮影した画像に対して前処理部11が処理を施した画像から歩行者像を認識する歩行者認識部18」は「取得した情報により障害物を判定する障害物判定部」に、「歩行者認識部18の認識結果」は「障害物の判定情報」に、「ナビゲーション装置30が出力する位置情報」は「自車状況」に、「歩行者認識部18の認識結果とナビゲーション装置30が出力する位置情報を用いて」は「障害物の判定情報と自車状況に基づき」に、「歩行者と自車両との衝突危険度」は「障害物の危険度」に、「衝突判定部20」は「危険度判定部」に、「有」することは「備え」ることに、「重ね合わす」ことは「重畳する」ことに、それぞれ相当する。
引用発明1における「投射制御部40c」は、フロントガラス投影機構51による投影像の投射を制御するものであり、投影像の投射のためのデータを生成するものであるから、本願発明1における「虚像を生成する画像処理部」に相当する。
また、引用発明1における「投影像を、危険度に応じて変えるよう制御」することは、本願発明1における「障害物に関する輪郭を示す第1の虚像を、危険度に応じて障害物全体を明示する状態と障害物の部分を明示する状態とに切り替えて生成」することと、「虚像を、危険度に応じて切り替えて生成」するという限りにおいて共通し、引用発明1における「投影像を歩行者と重ね合わすようにフロントガラスに投射する」ことは、本願発明1における「第1の虚像を前記障害物と重畳するようにスクリーンに表示」することと、「虚像を障害物と重畳するようにスクリーンに表示する」という限りにおいて共通している。

してみると、本願発明1と引用発明1とは、
「虚像を自車前方スクリーンに表示することにより、運転支援情報を運転者に通知する情報表示システムであって、
前記虚像を生成する画像処理部と、生成された虚像を表示する表示部と、
運転者の視点位置を取得する視点位置取得部と、取得した視点位置に応じて前記虚像の前記スクリーン上の表示位置を調整する調整部と、
自車前方周辺の情報を取得する車外情報取得部と、前記取得した情報により障害物を判定する障害物判定部と、
前記障害物の判定情報と自車状況に基づき前記障害物の危険度を判定する危険度判定部と、を備え、
前記画像処理部は、前記虚像を、前記危険度に応じて切り替えて生成し、
前記表示部は、前記虚像を前記障害物と重畳するように前記スクリーンに表示する情報表示システム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明1では、画像処理部は、「前記障害物に関する輪郭を示す第1の」虚像を、前記危険度に応じて「前記障害物全体を明示する状態と前記障害物の部分を明示する状態とに」切り替えて生成し、「さらに前記障害物の判定情報に基づき、前記障害物の予測動線を示す第2の虚像を生成し、前記第2の虚像が示す前記予測動線は、前記障害物の進行方向および速度予測に基づいて生成され」、表示部は、「前記第1の」虚像を前記障害物と重畳するようにスクリーンに表示し、「さらに前記第2の虚像を前記障害物と重ならないように前記障害物の予測動線位置に重畳するように、前記スクリーンに表示し、前記第1の虚像が前記障害物の部分を明示する状態において、前記第2の虚像を表示し、かつ前記障害物の進行方向が前記自車の予測動線に近づく方向の場合に遠ざかる方向の場合に比べて前記第1の虚像を大きく前記スクリーンに表示する」のに対し、
引用発明1では、投射制御部40cは、投影像を、危険度に応じて変えるよう制御し、フロントガラス投影機構51は、投影像を歩行者と重ね合わすようにフロントガラスに投射する点。

上記相違点について検討する。

本願発明1と引用発明2とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、引用発明2における「虚像52」は、本願発明1における「虚像」に相当し、以下同様に、「フロントウインドシールド2」は「自車前方スクリーン」に、「情報」は「運転支援情報」に、「乗員4」は「運転者」に、「伝達する」ことは「通知する」ことに、「車両」は「情報表示システム」に、「警告画像50の虚像52」は「虚像」に、「制御回路38」は「画像処理部」に、「調整部」及び「危険度判定部」に、「眼球情報」は「視野位置」に、「解析処理回路322」は「視野位置取得部」に、「眼球情報に基づいて推定された中心視野60に重畳するように虚像52の結像位置を調整する」ことは「取得した視点位置に応じて記虚像のスクリーン上の表示位置を調整する」ことに、「車両の前方に広がる外界領域を撮影する外界カメラ360」は「自車前方周辺の情報を取得する車外情報取得部」に、「外界カメラ360の撮影結果に基づいて衝突予測情報を取得する画像処理回路362」は「取得した情報により障害物を判定する障害物判定部」に、「衝突予測情報」は「障害物の判定情報」に、「進行方向情報」は「自車状況」に、「衝突確率」は「危険度」に、それぞれ相当する。
また、引用発明2における「警告画像50をメモリ380から読み出す制御回路38」は、本願発明1における「虚像を生成する画像処理部」と、「像を生成する画像処理部」という限りにおいて共通し、引用発明2における「警告画像50の虚像52を表示する光学系14」は、本願発明1における「生成された虚像を表示する表示部」と、「虚像を表示する表示部」という限りにおいて共通し、引用発明2における「警告画像50を、衝突確率に応じてメモリ380から読み出」すことは、本願発明1における「虚像を、危険度に応じて切り替えて生成」することと、「像を、危険度に応じて生成」するという限りにおいて共通している。

してみると、引用発明2は、本願発明1の用語を用いると、以下のものといえる。

「虚像を自車前方スクリーンに表示することにより、運転支援情報を運転者に通知する情報表示システムであって、
像を生成する画像処理部と、虚像を表示する表示部と、
運転者の視点位置を取得する視点位置取得部と、取得した視点位置に応じて前記虚像の前記スクリーン上の表示位置を調整する調整部と、
自車前方周辺の情報を取得する車外情報取得部と、前記取得した情報により障害物を判定する障害物判定部と、
前記障害物の判定情報と自車状況に基づき前記障害物の危険度を判定する危険度判定部と、を備え、
前記画像処理部は、前記像を、前記危険度に応じて生成し、
前記表示部は、前記虚像を中心視野と重畳するように前記スクリーンに表示する情報表示システム。」

そうすると、引用発明2は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項のうち、少なくとも「画像処理部は、前記障害物に関する輪郭を示す第1の虚像を、前記危険度に応じて前記障害物全体を明示する状態と前記障害物の部分を明示する状態とに切り替えて生成し、」「表示部は、前記第1の虚像が前記障害物の部分を明示する状態において、前記第2の虚像を表示し、かつ前記障害物の進行方向が前記自車の予測動線に近づく方向の場合に遠ざかる方向の場合に比べて前記第1の虚像を大きく前記スクリーンに表示する」との事項に相当する構成を有しない。
また、原査定で引用され、本願の出願前に頒布された特開2011-119917号公報(以下、「引用文献3」という。)及び特開2012-69154号公報(以下、「引用文献9」という。)にも、上記相違点に係る本願発明1の少なくとも上記事項についての開示も示唆もない。
そうすると、引用発明1又は引用発明2において、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、引用文献3及び引用文献9に記載された技術事項の適用でもなく、設計的事項でもない。

よって、本願発明1は、引用発明1、引用文献3及び引用文献9に記載された技術事項に基いて、又は、引用発明2、引用文献3及び引用文献9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、他の請求項に対応して原査定で引用され、本願の出願前に頒布された特開2006-350934号公報(以下、「引用文献4」という。)及び特開2006-327527号公報(以下、「引用文献5」という。)にも、上記相違点に係る本願発明1の上記事項についての開示も示唆もない。

よって、本願発明1は、引用発明1、引用文献3ないし引用文献5及び引用文献9に記載された技術事項に基いて、又は、引用発明2、引用文献3ないし引用文献5及び引用文献9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 本願発明2ないし4について

本願発明2ないし4は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし4は、それぞれ、本願発明1と同様に、引用発明1、引用文献3ないし引用文献5及び引用文献9に記載された技術事項に基いて、又は、引用発明2、引用文献3ないし引用文献5及び引用文献9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 原査定について

本願発明1ないし4は、「画像処理部は、前記障害物に関する輪郭を示す第1の虚像を、前記危険度に応じて前記障害物全体を明示する状態と前記障害物の部分を明示する状態とに切り替えて生成し、」「表示部は、前記第1の虚像が前記障害物の部分を明示する状態において、前記第2の虚像を表示し、かつ前記障害物の進行方向が前記自車の予測動線に近づく方向の場合に遠ざかる方向の場合に比べて前記第1の虚像を大きく前記スクリーンに表示する」との事項を有するものであるから、上記「第5」で検討したとおり、当業者であっても、原査定で引用された引用文献1ないし5及び9に基いて、容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-04-27 
出願番号 特願2015-536382(P2015-536382)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 麻乃  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 鈴木 充
金澤 俊郎
発明の名称 情報表示システム  
代理人 特許業務法人筒井国際特許事務所  

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