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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62D 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B62D |
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管理番号 | 1339780 |
審判番号 | 不服2017-2995 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-03-01 |
確定日 | 2018-05-15 |
事件の表示 | 特願2013-533261号「自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリーを保持する構造」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月19日国際公開、WO2012/049418、平成26年 4月24日国内公表、特表2014-509974号、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2011年10月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年10月13日仏国(FR))を国際出願日とする出願であって、平成27年9月11日付けで拒絶理由が通知され、同年12月15日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月29日付けで拒絶理由が通知され、同年9月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年3月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年11月9日付けで平成29年3月1日にされた手続補正について補正の却下の決定がされるとともに拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成30年2月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1?8に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明及び引用文献B?Dに記載された技術的事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 A.特開2007-15588号公報 B.特開2009-274665号公報 C.特開2008-184015号公報 D.特開2008-114736号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1 理由1(進歩性) 本願請求項1?8に係る発明は、引用文献(特開平7-117726号公報)に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 理由2(明確性) (1)請求項1における「横断方向Yに延びる少なくとも2つのエネルギー吸収エレメント(5a、5b)、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つのエネルギー吸収エレメント(4a、4b)、を備え」るという記載は明確でない。 (2)請求項1における「前記剛性エレメント(7)の長さはバッテリーの横断方向の幅Lより大きく」という記載は明確でない。 したがって、本願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 本願発明 本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成30年2月14日に提出された手続補正書に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 電気モータに電力供給するための電気バッテリー(3)、すなわち自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリー(3)を保持することを意図した構造(2)であって、当該構造は、 その上方および/またはその下方に前記電気バッテリー(3)が配置されるように意図された剛性エレメント、を備え、当該剛性エレメントは、 横断方向Yに延びる少なくとも2つのクロスメンバー(7)、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つの長手方向部材(6a、6b)、を備え、前記構造(2)は、 (a)横断方向Yに延びる少なくとも2つの変形可能部材(5a、5b)、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つのビーム(4a、4b)、を備え、 (b)前記クロスメンバー(7)の長さはバッテリーの横断方向の幅Lより大きく、前記電気バッテリーと前記クロスメンバー(7)の末端との間にクリアランスJが残っており、そして (c)前記電気バッテリー(3)を前記構造(2)上にクランプ留めする手段を備え、構造(2)は前記(a)、(b)、(c)を全て備え、 前記変形可能部材(5a、5b)は、前記長手方向部材(6a、6b)の両側に横断方向Yに配置されており、前記長手方向部材(6a、6b)と前記ビーム(4a、4b)とを機械的に接続し、 前記少なくとも2つの長手方向部材(6a、6b)が、前記少なくとも2つのクロスメンバー(7)によって互いに接続されており、 前記変形可能部材(5a、5b)の断面は矩形であり、 前記変形可能部材(5a、5b)は、孔(8a、8b)を備える、 ことを特徴とする構造(2)。 【請求項2】 請求項1に記載の構造を備える自動車のフレーム(1)。 【請求項3】 請求項1に記載の構造、または請求項2に記載のフレームを備える、ハイブリッド自動車または電気自動車、すなわち電気四輪車。」 第5 引用文献の記載 当審拒絶理由に引用文献として示され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-117726(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。また、以下「(1a)」?「(1e)」の記載事項は、それぞれ「記載事項(1a)」?「記載事項(1e)」という。以下同様。)。 (1a)「【請求項1】 フロアパネルの下面に接合配置したフロアメンバのサイドメンバおよびクロスメンバに、バッテリフレームのサイドフレームおよびフロントフレーム、リヤフレームを結合し、該バッテリフレーム上にバッテリを搭載して、該バッテリをフロアパネルとバッテリフレームとの間に密閉、格納した構造であって、かつ、前記サイドメンバの外側に配置されてフロアパネルの側縁部を接合したサイドシルの少なくともサイドシル上に立設したピラー結合部近傍部位と、サイドメンバとに跨って複数個のアウトリガを結合する一方、サイドシル上に立設したピラーの内部とサイドシルの内部とに跨って、ピラーアウタの裏面とシルインナ裏面のアウトリガ接合部分とを接続するテンション部材を配設したことを特徴とする車体フロア構造。」 (1b)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は自動車の車体フロア構造、とりわけ、バッテリを動力源とする電気自動車の車体フロア構造に関する。」 (1c)「【0009】図5は本発明の一実施例の全体構造を示すもので、1はフロアパネル、2はフロアパネル1の下面に接合配置されてフロア骨格を構成するフロアメンバで、車体前後方向に延在する一対のサイドメンバ3,3と、これらサイドメンバ3,3間に跨って結合されて車幅方向に延在するクロスメンバ4,5,6と、サイドメンバ3,3とクロスメンバ5とに跨って結合されたガセットメンバ7とを備えている。 【0010】また、前記サイドメンバ3,3の各外側には、フロアパネル1の側縁部を接合すると共に上面部に後述するピラーを立設したサイドシル8の該ピラー結合部近傍部位を、複数個のアウトリガ9を介して結合してある。 【0011】サイドメンバ3、クロスメンバ4,5,6、ガセットメンバ7、およびアウトリガ9は何れもフロアパネル1の下面に接合されて閉断面を形成する逆ハット形断面に形成してある。 【0012】サイドシル8は、シルインナ8aとシルアウタ8bとで閉断面に形成されていて、フロアパネル1およびアウトリガ9は該シルインナ8aに接合してある。 【0013】10は複数個のバッテリ11を搭載する有底のバッテリフレームで、フロントフレーム12、両側のサイドフレーム13、およびリヤフレーム14を有し、これらフロントフレーム12、サイドフレーム13、リヤフレーム14を、前記フロアメンバ2の各対応するサイドメンバ3、クロスメンバ4、およびクロスメンバ5とガセットメンバ7に図1,2に示すようにボルト・ナット15によって結合して、前記バッテリ11をフロアパネル1とバッテリフレーム10との間に密閉、格納するようにしている。」 (1d)「【0019】以上の実施例構造によれば、車両の側面衝突によりセンターピラー18にバリヤ21の衝突入力が、該センターピラー18の内倒れ荷重として作用すると、アウトリガ9の底壁側にはテンション部材17を介して引張り荷重が発生して、フロアパネル1の側部のスムーズな圧潰変形を開始させるトリガを生じさせ、このフロアパネル1の側部の圧潰変形に伴って、図2に示すようにアウトリガ9全体のスムーズな圧潰変形が開始される。 【0020】ここで、前記衝突入力の発生と同時に、バッテリフレーム10には、該バッテリフレーム10自体の荷重とバッテリ11の荷重とによって、衝突入力方向aと反対方向bに慣性力が働くため、アウトリガ9全体の圧潰変形が促進される。 【0021】このように、バッテリフレーム10を結合したサイドメンバ3の外側で、アウトリガ9のスムーズな圧潰変形が行われるため、衝突エネルギー吸収効果が著しく増大し、以てサイドメンバ3およびバッテリフレーム10に変形が波及するのを可及的に少なく抑えて、バッテリ11を安全に保護することができる。」 (1e)引用文献1には以下の図が示されている。 また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。 (1f)段落【0013】の「10は複数個のバッテリ11を搭載する有底のバッテリフレームで、フロントフレーム12、両側のサイドフレーム13、およびリヤフレーム14を有し、これらフロントフレーム12、サイドフレーム13、リヤフレーム14を、前記フロアメンバ2の各対応するサイドメンバ3、クロスメンバ4、およびクロスメンバ5とガセットメンバ7に図1,2に示すようにボルト・ナット15によって結合して、前記バッテリ11をフロアパネル1とバッテリフレーム10との間に密閉、格納するようにしている。」(記載事項(1c))という記載及び図5(記載事項(1e))の図示内容によれば、両側のサイドフレーム13の間を、符号の付されていないものも含め複数の車幅方向のフレームで接続していることが看て取れる。 (1g)段落【0013】の「10は複数個のバッテリ11を搭載する有底のバッテリフレームで、フロントフレーム12、両側のサイドフレーム13、およびリヤフレーム14を有し、これらフロントフレーム12、サイドフレーム13、リヤフレーム14を、前記フロアメンバ2の各対応するサイドメンバ3、クロスメンバ4、およびクロスメンバ5とガセットメンバ7に図1,2に示すようにボルト・ナット15によって結合して、前記バッテリ11をフロアパネル1とバッテリフレーム10との間に密閉、格納するようにしている。」(記載事項(1c))という記載及び図1,5(記載事項(1e))の図示内容によれば、両側のサイドフレーム13間の長さは、複数個のバッテリ11全体にわたる車幅方向の幅より大きく、バッテリ11と車幅方向のフレームの末端との間にクリアランスが残っていることが看て取れる。 (1h)段落【0012】の「サイドシル8は、シルインナ8aとシルアウタ8bとで閉断面に形成されていて、フロアパネル1およびアウトリガ9は該シルインナ8aに接合してある。」(記載事項(1c))という記載及び図5(記載事項(1e))の図示内容によれば、サイドメンバ3及びバッテリフレーム10の両側に対して、2つのサイドシル8が車体前後方向に延在し、複数のアウトリガ9が車幅方向に延在することが看て取れる。 以上の記載事項(1a)?(1e)及び認定事項(1f)?(1h)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「フロアパネル1の下面に接合配置したフロアメンバ2のサイドメンバ3およびクロスメンバ4,5,6に、バッテリフレーム10のサイドフレーム13およびフロントフレーム12、リヤフレーム14を結合し、該バッテリフレーム10上にバッテリ11を搭載して、該バッテリ11をフロアパネル1とバッテリフレーム10との間に密閉、格納した構造であって、かつ、前記サイドメンバ3の外側に配置されてフロアパネル1の側縁部を接合したサイドシル8の少なくともサイドシル8上に立設したピラー結合部近傍部位と、サイドメンバ3とに跨って複数個のアウトリガ9を結合する一方、サイドシル8上に立設したピラーの内部とサイドシル8の内部とに跨って、ピラーアウタの裏面とシルインナ裏面のアウトリガ接合部分とを接続するテンション部材を配設した車体フロア構造であって、 バッテリ11を動力源とする電気自動車の車体フロア構造であり、 アウトリガ9はフロアパネル1の下面に接合されて閉断面を形成する逆ハット形断面に形成してあり、 車体前後方向に延在する一対のサイドメンバ3,3と、車幅方向に延在するクロスメンバ4,5,6とを備え、 前記サイドメンバ3,3の各外側には、フロアパネル1の側縁部を接合すると共に上面部に後述するピラーを立設したサイドシル8の該ピラー結合部近傍部位を、複数個のアウトリガ9を介して結合してあり、 バッテリフレーム10は、フロントフレーム12、両側のサイドフレーム13、およびリヤフレーム14を有し、これらフロントフレーム12、サイドフレーム13、リヤフレーム14を、前記フロアメンバ2の各対応するサイドメンバ3、クロスメンバ4、およびクロスメンバ5とガセットメンバ7にボルト・ナット15によって結合し、 車両の側面衝突によりセンターピラー18にバリヤ21の衝突入力が、該センターピラー18の内倒れ荷重として作用すると、アウトリガ9の底壁側にはテンション部材17を介して引張り荷重が発生して、フロアパネル1の側部のスムーズな圧潰変形を開始させるトリガを生じさせ、このフロアパネル1の側部の圧潰変形に伴って、アウトリガ9全体のスムーズな圧潰変形が開始され、 両側のサイドフレーム13の間を、複数の車幅方向のフレームで接続し、 両側のサイドフレーム13間の長さは、複数個のバッテリ11全体にわたる車幅方向の幅より大きく、バッテリ11と車幅方向のフレームの末端との間にクリアランスが残っている、 サイドメンバ3及びバッテリフレーム10の両側に対して、2つのサイドシル8が車体前後方向に延在し、複数のアウトリガ9が車幅方向に延在する 車体フロア構造。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「車体フロア構造」は、「バッテリ11を動力源とする電気自動車の車体フロア構造」であって「バッテリフレーム10のサイドフレーム13およびフロントフレーム12、リヤフレーム14を結合し、該バッテリフレーム10上にバッテリ11を搭載して、該バッテリ11をフロアパネル1とバッテリフレーム10との間に密閉、格納」しているから、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「電気モータに電力供給するための電気バッテリー(3)、すなわち自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリー(3)を保持することを意図した構造(2)」に相当する。 イ 本願明細書の段落【0022】の「フレームは長手方向xに延び、前記長手方向は、直線における車両の変位方向である。yは、長手方向に直行する横断方向に延び」という記載を参照すると、本願発明1の「長手方向X」の意味は「直線における車両の変位方向」であるから、車両の前後方向であると解される。また、「横断方向Y」の意味はこれに直交する方向であると解される。 そうすると、引用発明の「車体前後方向」及び「車幅方向」は、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「長手方向X」及び「横断方向Y」にそれぞれ相当する。 ウ 引用発明の「車体フロア構造」は「フロアパネル1の下面に接合配置したフロアメンバ2のサイドメンバ3およびクロスメンバ4,5,6に、バッテリフレーム10のサイドフレーム13およびフロントフレーム12、リヤフレーム14を結合し、該バッテリフレーム10上にバッテリ11を搭載して、該バッテリ11をフロアパネル1とバッテリフレーム10との間に密閉、格納した構造」であるから、その上方および/またはその下方にバッテリーが配置されるように意図されたサイドメンバ3、クロスメンバ4,5,6及びバッテリフレーム10を備えており、かつ、サイドメンバ3、クロスメンバ4,5,6及びバッテリフレーム10が剛性であることは明らかである。 また、「一対のサイドメンバ3,3」は「車体前後方向に延在」し、「クロスメンバ4,5,6」は「車幅方向に延在」しているから、サイドフレーム13及びサイドメンバ3,3は車体前後方向に延在し、両側のサイドフレーム13の間を接続するフレーム及びクロスメンバ4,5,6は車幅方向に延在することは明らかである。 したがって、引用発明の「クロスメンバ4,5,6」及び「両側のサイドフレーム13の間を接続するフレーム」は本願発明1の「横断方向Yに延びる少なくとも2つのクロスメンバー(7)」に、前者の「サイドフレーム13」及び「サイドメンバ3,3」は後者の「長手方向Xに延びる少なくとも2つの長手方向部材(6a、6b)」に、それぞれ相当し、上記イも踏まえると、引用発明の「フロアパネル1の下面に接合配置したフロアメンバ2のサイドメンバ3およびクロスメンバ4,5,6に、バッテリフレーム10のサイドフレーム13およびフロントフレーム12、リヤフレーム14を結合し、該バッテリフレーム10上にバッテリ11を搭載して、該バッテリ11をフロアパネル1とバッテリフレーム10との間に密閉、格納した構造」であって、「車体前後方向に延在する一対のサイドメンバ3,3と、車幅方向に延在するクロスメンバ4,5,6とを備えている」ことは、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「当該構造は、その上方および/またはその下方に前記電気バッテリー(3)が配置されるように意図された剛性エレメント、を備え、当該剛性エレメントは、横断方向Yに延びる少なくとも2つのクロスメンバー(7)、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つの長手方向部材(6a、6b)、を備え」ていることに相当する。 エ 引用発明の「2つのサイドシル8」は「車体前後方向に」、「複数のアウトリガ9」は「車幅方向に」それぞれ延在しており、「ピラーを立設したサイドシル8の該ピラー結合部近傍部位を、複数個のアウトリガ9を介して結合し」ているものであって、「車両の側面衝突によりセンターピラー18にバリヤ21の衝突入力が、該センターピラー18の内倒れ荷重として作用する」と、「フロアパネル1の側部の圧潰変形に伴って、アウトリガ9全体のスムーズな圧潰変形が開始され」るものであるから、引用発明の「アウトリガ9」及び「サイドシル8」は、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「横断方向Yに延びる少なくとも2つの変形可能部材(5a、5b)」及び「長手方向Xに延びる少なくとも2つのビーム(4a、4b)」にそれぞれ相当する。 オ a 本願発明1における「前記クロスメンバー(7)の長さはバッテリーの横断方向の幅Lより大き」いことの意義は、本願明細書の段落【0028】の「クロスメンバーの長さは、好ましくは、バッテリーの幅Lよりも大きい。したがって、バッテリーは、長手方向部材間のクロスメンバー上に配置することができる。」という記載を参照すると、バッテリーを長手方向部材間に配置することができることであると解される。 引用発明は「両側のサイドフレーム13の間を、複数の車幅方向のフレームで接続し」、「サイドメンバ3およびクロスメンバ4,5,6に、バッテリフレーム10のサイドフレーム13およびフロントフレーム12、リヤフレーム14を結合し」ているから、「両側のサイドフレーム13間の長さ」は車幅方向のフレーム及びクロスメンバ4,5,6の長さと等しいことは明らかである。また、「両側のサイドフレーム13間の長さ」が「複数個のバッテリ11全体にわたる車幅方向の幅より大きく」なっていることで、複数個のバッテリ11全体として、両側のサイドフレーム13間に配置することができることも明らかである。 b 引用発明は「バッテリ11と車幅方向のフレームの末端との間にクリアランスが残っている」ものであるから、上記aを踏まえると、引用発明において、「両側のサイドフレーム13間の長さは、複数個のバッテリ11全体にわたる車幅方向の幅より大きく、複数個のバッテリ11全体と両側のサイドフレーム13との間にクリアランスが残っている」ことは、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「前記クロスメンバー(7)の長さはバッテリーの横断方向の幅Lより大きく、前記電気バッテリーと前記クロスメンバー(7)の末端との間にクリアランスJが残って」いることに相当する。 カ 上記エを踏まえると、引用発明において「前記サイドメンバ3の外側に配置されてフロアパネル1の側縁部を接合したサイドシル8の少なくともサイドシル8上に立設したピラー結合部近傍部位と、サイドメンバ3とに跨って複数個のアウトリガ9を結合」するとともに、「アウトリガ9」が「車幅方向に延在する」ことは、本願発明1の「前記変形可能部材(5a、5b)は、前記長手方向部材(6a、6b)の両側に横断方向Yに配置されており、前記長手方向部材(6a、6b)と前記ビーム(4a、4b)とを機械的に接続」することに相当する。 キ 上記ウを踏まえると、引用発明において「両側のサイドフレーム13の間を、複数の車幅方向のフレームで接続し」ていることは、本願発明1の「前記少なくとも2つの長手方向部材(6a、6b)が、前記少なくとも2つのクロスメンバー(7)によって互いに接続されて」いることに相当する。 以上のことから、本願発明1と引用発明とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。 <一致点> 「電気モータに電力供給するための電気バッテリー、すなわち自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリーを保持することを意図した構造であって、当該構造は、 その上方および/またはその下方に前記電気バッテリーが配置されるように意図された剛性エレメント、を備え、当該剛性エレメントは、 横断方向Yに延びる少なくとも2つのクロスメンバー、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つの長手方向部材、を備え、前記構造は、 (a)横断方向Yに延びる少なくとも2つの変形可能部材、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つのビーム、を備え、 (b)前記クロスメンバーの長さはバッテリーの横断方向の幅Lより大きく、前記電気バッテリーと前記クロスメンバーの末端との間にクリアランスJが残っており、そして 構造は前記(a)、(b)を備え、 前記変形可能部材は、前記長手方向部材の両側に横断方向Yに配置されており、前記長手方向部材と前記ビームとを機械的に接続し、 前記少なくとも2つの長手方向部材が、前記少なくとも2つのクロスメンバーによって互いに接続されている構造。」 <相違点1> 本願発明1は、「前記バッテリー(3)を、前記構造(2)上に、クランプ留めする手段を備え」ているのに対し、 引用発明は、そのように特定されていない点。 <相違点2> 「変形可能部材(5a、5b)」に関し、 本願発明1は「断面」が「矩形」であり、「孔(8a、8b)を備え」るのに対し、 引用発明は、「フロアパネル1の下面に接合されて閉断面を形成する逆ハット形断面に形成」され、孔を備えていない点。 (2)判断 以下、事案に鑑み相違点2について検討する。 ア 引用発明では、「アウトリガ9」が「フロアパネル1の下面に接合されて閉断面を形成する逆ハット形断面に形成」されることで、「車両の側面衝突」の際に「フロアパネル1の側部の圧潰変形に伴って、アウトリガ9全体のスムーズな圧潰変形が開始され」ているから、引用発明の「アウトリガ9」は「フロアパネル1」と一体的な圧潰変形を生じるように設計されたものといえる。また、引用文献1の段落【0019】の「フロアパネル1の側部のスムーズな圧潰変形を開始させるトリガを生じさせ、このフロアパネル1の側部の圧潰変形に伴って、・・・アウトリガ9全体のスムーズな圧潰変形が開始される。」(記載事項(1d))という記載及び引用発明の「フロアパネル1」がその「側縁部」を「サイドシル8」に接合していることに鑑みれば、引用発明は、フロアパネル1の存在を前提とした圧潰変形の構造となっており、「車両の側面衝突」の際には「フロアパネル1」が必然的に圧潰変形するといえる。 そうすると、「車両の側面衝突」の際には「フロアパネル1」が圧潰変形することを必須とし、これと「アウトリガ9」が一体的に圧潰変形する引用発明において、「アウトリガ9」のみの「断面」を「矩形」としたり、「孔を備え」させたりすることには動機付けもなく、むしろ阻害要因があるといえる。したがって、当業者が、引用発明から、相違点2に係る本願発明1の、「断面」が「矩形」であり、「孔(8a、8b)を備え」る構成を容易に想到し得るとはいえない。 イ 上記アを踏まえると、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2?5について 本願発明2?3は、本願発明1を直接的又は間接的に引用し、少なくとも本願発明1の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記1のとおり、本願発明1が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に、本願発明2?3は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 第7 原査定について 上記「第6 1(1)」で述べた相違点2に係る構成は、原査定における引用文献A?Dにも記載されておらず、本願の請求項1?3に係る発明は、引用文献Aに記載された発明及び引用文献B?Dに記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第8 当審拒絶理由について 1 理由1(進歩性) 上記「第6 1(2)」、「第6 2」で述べたとおり、本願の請求項1?3に係る発明は、引用文献1(当審拒絶理由における引用文献)に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 理由2(明確性) 平成30年2月14日に提出された手続補正書により、請求項1における「横断方向Yに延びる少なくとも2つのエネルギー吸収エレメント(5a、5b)、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つのエネルギー吸収エレメント(4a、4b)、を備え」るという記載は、「横断方向Yに延びる少なくとも2つの変形可能部材(5a、5b)」と補正され、「前記剛性エレメント(7)の長さはバッテリーの横断方向の幅Lより大きく」という記載は「前記クロスメンバー(7)の長さはバッテリーの横断方向の幅Lより大きく」と補正された。 したがって、この拒絶の理由は解消した。 第9 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-05-01 |
出願番号 | 特願2013-533261(P2013-533261) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B62D)
P 1 8・ 537- WY (B62D) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 須山 直紀 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
中田 善邦 氏原 康宏 |
発明の名称 | 自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリーを保持する構造 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |