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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1339963
審判番号 不服2017-3915  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-17 
確定日 2018-05-10 
事件の表示 特願2012-148137「有機EL素子用基板および有機EL素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年1月20日出願公開,特開2014- 11094〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2012-148137号(以下「本件出願」という。)は,平成24年7月2日に出願された特許出願であって,その手続等の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成28年 5月30日付け:拒絶理由通知書
平成28年 7月27日付け:意見書
平成28年12月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年 3月17日付け:審判請求書
平成29年 3月17日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年3月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,請求項1の記載は,次のとおり補正された。なお,下線は当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。
「 算術平均粗さが5?1000nm,かつ,最大高さが5?10000nmである凹凸構造を有する基材の凹凸構造側に,一方の面が凹凸構造を包埋し,他方の面が凹凸構造不凹面よりも平滑である凹凸構造を包埋する層が積層された有機EL素子用基板であって,凹凸構造を包埋する層が,下記一般式(1)で表されるオルガノシラン化合物で表面処理された無機酸化物微粒子を活性エネルギー線を照射して硬化した層である有機EL素子用基板。
(R_(1))_(m)-Si-(X)_(4-m) (1)
(ただし,一般式(1)中,R_(1) は,水素原子,アルキル基もしくはアリール基,または不飽和結合を有する置換基で置換されたアルキル基もしくはアリール基を表し,Xは,水酸基または加水分解可能な基を表し,mは,1?3の整数を表す。)」

(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 凹凸構造を有する基材に,凹凸構造を包埋する層が積層された有機EL素子用基板であって,凹凸構造を包埋する層が,下記一般式(1)で表されるオルガノシラン化合物で表面処理された無機酸化物微粒子を活性エネルギー線を照射して硬化した層である有機EL素子用基板。
(R^(1))_(m)-Si-(X)_(4-m) (1)
(ただし,一般式(1)中,R^(1) は,水素原子,アルキル基もしくはアリール基,または不飽和結合を有する置換基で置換されたアルキル基もしくはアリール基を表し,Xは,水酸基または加水分解可能な基を表し,mは,1?3の整数を表す。)」

2 補正の適否
(1) 新規事項違反
本件補正は,凹凸構造の最大高さを「5?10000nm」に補正すること,すなわち凹凸構造の最大高さの下限値を「5nm」とする補正を含むものである。
しかしながら,本件出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)に開示された凹凸構造の最大高さの下限値は,【0029】に記載の「10nm」又は「50nm」であり,出願当初明細書等には,凹凸構造の最大高さの下限値を,特に「5nm」と規定する根拠となる記載はない(凹凸構造の最大高さに関する記載は,【0029】のみである。)。そして,出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係においてみても,凹凸構造の最大高さの下限値を「5nm」と補正することが,新たな技術的事項を導入しないものであるということはできない。
したがって,本件補正は,出願当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであるということができず,特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものである。

ところで,本件補正は,少なくとも「凹凸構造」を「算術平均粗さが5?1000nm,かつ,最大高さが5?10000nmである」と限定する補正を含む。したがって,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とする補正ということができる。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が同法同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(2) 36条6項2号違反
本件補正後発明の「凹凸構造を包埋する層」は,「一方の面が凹凸構造を包埋し,他方の面が凹凸構造不凹面よりも平滑である」という構成を具備する。
ここで,「凹凸構造不凹面」という用語は,一般的な用語ではない。また,本件出願の発明の詳細な説明には,「凹凸構造不凹面」という用語は記載されておらず,この用語の意味を明らかにする記載もない。
そうしてみると,本件補正後発明は,「凹凸構造不凹面」という用語が意味する構造において明確であるということができない。
また,本件補正後発明の「凹凸構造」は,「算術平均粗さが5?1000nm,かつ,最大高さが5?10000nmである」とされているが,本件出願の発明の詳細な説明には,測定方法等に関する記載が一切ない。また,表面粗さの値が測定方法に応じて変化することは当業者における技術常識である。
そうしてみると,本件補正後発明の「凹凸構造」の算術平均粗さ及び最大高さの範囲を確定することができないから,この点においても,本件補正後発明は明確であるということできない。
以上のとおり,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に適合するものとはいえないから,本件補正後発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

さらに進んで,本件補正後の請求項1の「最大高さが5?10000nm」及び「凹凸構造不凹面」(outotukouzouhuoumen)が,それぞれ,「最大高さが10?10000nm」及び「凹凸構造表面」(outotukouzouhyoumen)の誤記であり,また,表面粗さはJIS B0601-1994の面粗さ計測にしたがい計測されたものであると仮定した上で(このように本件補正後発明を認定し直した上で),本件補正後発明が特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるかについて,以下,検討する。
(当合議体注:本件出願の発明の詳細な説明の【0028】及び【0029】では,「算術平均粗さ」及び「最大高さ」を,それぞれ「Ra」及び「Ry」という,JIS B0601-1994において使用されている記号で表しており,推測の域を出ないとしても,本件補正後発明の表面粗さは,JIS B0601-1994の面粗さ計測にしたがい計測された可能性が最も高いといえる。)

(3) 引用例1の記載
本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2012/043828号(以下「引用例1」という。)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。また,記載に誤記等がある場合は,注記を入れている。ただし,文字の上付き及び下付き,不要なスペースについては,注記なく修正している。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,微細凹凸構造を表面に有するモールド,該モールドを用いた微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法,およびこの製造方法で得られた物品の用途に関する。また,本発明は,虹彩色を発現する積層体および面発光体にも関する。
…(省略)…
背景技術
[0002] 面発光体としては,有機EL素子や無機EL素子を利用したものが知られている。
…(省略)…
[0004]しかし,この面発光体においては,透明電極,透明基板,外部空気等に入射する光の入射角が,入射元の材料の屈折率と入射先の材料の屈折率によって決まる臨界角以上である光は,発光層と透明電極との界面,透明電極と透明基板との界面,透明基板と外部空気との界面(放射面)等にて全反射し,面発光体の内部に閉じ込められてしまう。そのため,一部の光を外部に取り出すことができず,光の取り出し効率が低いという問題がある。
…(省略)…
[0007] また,この問題を解決する面発光体として,下記のものが提案されている。
(2)透明基材として,凹凸の周期が幅広い分布を有し,かつ凹凸が不規則な方向に延びる微細凹凸構造(すなわち,皺状の微細凹凸構造)が表面に形成されたものを用いた有機EL素子(非特許文献1)。
…(省略)…
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0014] 本発明は,モールド基材の表面にアンダーコート層および金属薄膜が順に形成され,金属薄膜側の表面に皺状の微細凹凸構造を有するモールドであって,アンダーコート層と金属薄膜との界面の接着性に優れるモールド;該モールドを用いた微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法;および該製造方法で得られた物品の用途を提供する。
[0015] また,本発明は上記事情に鑑みてなされたもので,光の取り出し効率が高く,広い範囲を均一に照射できる面発光体の提供を目的とする。」

イ 「課題を解決するための手段
[0017]本発明は,以下の態様を有する。
(1)凹凸構造を有するモールドであって,凹凸構造の面粗さRaと,線粗さRa’の最大値Ra’(max)と最小値Ra’(min)とが,下記式(1)を満足するモールド。
0.13≦(Ra’(max)-Ra’(min))/Ra≦0.82 (1)
…(省略)…
[0033]<微細凹凸構造を表面に有するモールド>
図1は,本発明の微細凹凸構造を表面に有するモールド(以下,単にモールドとも記す。)の一例を示す断面図である。
モールド110は,モールド基材112と,モールド基材112の表面に形成されたアンダーコート層114と,アンダーコート層114の表面に形成された金属薄膜116とを有する積層体である。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


ウ 「[0034] モールド110は,モールド基材112の表面に形成された後述するアンダーコート層形成用組成物の硬化物からなるアンダーコート層114の表面に,アルミニウムまたはその合金を蒸着し,金属薄膜116を形成したものである。
…(省略)…
[0038](微細凹凸構造)
アンダーコート層114の表面および金属薄膜116に形成される皺状の微細凹凸構造は,凹凸の周期が幅広い分布を有し,かつ凹凸が不規則な方向に延びるものである。
…(省略)…
[0072]<微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法>
本発明の微細凹凸構造を表面に有する物品(以下,単に物品とも記す。)の製造方法は,本発明のモールドを用い,該モールドの微細凹凸構造が反転した微細凹凸構造を表面に有する物品を得る方法である。該方法としては,例えば,モールドと物品本体との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を挟持し,これに活性エネルギー線を照射して硬化させて,モールドの微細凹凸構造が転写された微細凹凸構造を表面に有する硬化樹脂層を物品本体の表面に形成し,硬化樹脂層が表面に形成された物品本体をモールドから剥離する方法(いわゆる光インプリント法)が挙げられる。
[0073] 光インプリント法による物品の製造方法としては,具体的には,下記の工程(a)?(d)を有する方法が挙げられる。
(a)図3に示すように,必要に応じて表面が離型剤で処理されたモールド10の微細凹凸構造側の表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物22を塗布する工程。
(b)図3に示すように,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物22の上に物品本体124を重ね,モールド110と物品本体124との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物122を挟持する工程。
(c)図3に示すように,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物122に活性エネルギー線を照射し,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物122を硬化させて微細凹凸構造を有する硬化樹脂層126を形成する工程。
(d)図3に示すように,物品本体124の表面の硬化樹脂層126からモールド110を離型し,微細凹凸構造を表面に有する物品120を得る工程。
…(省略)…
[0097]<面発光体>
図4は,本発明の面発光体の一例を示す断面図である。
面発光体130は,皺状の微細凹凸構造を表面に有する物品120からなる透明基材132と,透明基材132の微細凹凸構造側の表面に設けられた透明電極134と,透明電極134と離間して設けられた金属薄膜からなる背面電極136と,透明電極134と背面電極136との間に設けられた発光層138とを有するものである。」
(当合議体注:図3は以下の図である。)


(当合議体注:図4は以下の図である。)


エ 「[0098] 本発明に係る面発光体としては,前記記載の面発光体用光取り出し基板と,該面発光体用光取り出し基板の表面に設けられた透明電極と,該透明電極と離間して設けられた金属薄膜からなる背面電極と,前記透明電極と前記背面電極との間に設けられた発光層とを有する面発光体が好ましい。
…(省略)…
[0100](透明基材)
透明基材132は,本発明の物品の製造方法で得られた物品120であり,物品本体124と,物品本体124の表面に形成された皺状の微細凹凸構造を表面に有する硬化樹脂層126とを有する積層体である。
[0101] 微細凹凸構造における凸(または凹)の平均周期は,光の取り出し効率を十分に高くすることができる点から,10?10000nmが好ましく,200?5000nmがより好ましい。
微細凹凸構造における凸(または凹)の算術平均高さ(粗さ)は,透明基材132を備えた面発光体130の光の取り出し効率を十分に高くすることができる点から,10?1000nmが好ましく,50?700nmがより好ましい。
…(省略)…
[0103](第1電極)
第1電極134は,硬化樹脂層126の皺状の微細凹凸構造の表面に形成されるため,硬化樹脂層126の皺状の微細凹凸構造とほぼ同じ皺状の微細凹凸構造を有する。
…(省略)…
[0106](第2電極)
第2電極136は,発光層138の皺状の微細凹凸構造の表面に形成されるため,発光層138の皺状の微細凹凸構造とほぼ同じ皺状の微細凹凸構造を有する。
…(省略)…
[0110](発光層)
発光層138は,第1電極134の皺状の微細凹凸構造の表面に形成されるため,第1電極134の皺状の微細凹凸構造とほぼ同じ皺状の微細凹凸構造を有する。
…(省略)…
[0120](作用効果)
以上説明した面発光体130にあっては,透明基材132が,凹凸の周期が幅広い分布を有し,かつ凹凸が不規則な方向に延びる微細凹凸構造(すなわち,皺状の微細凹凸構造)を表面に有する物品120であるため,皺状の微細凹凸構造によって有効に回折または散乱される光の角度,波長に偏りが少ない。そのため,従来の面発光体に比べ,光の取り出し効率が高く,広い範囲を均一に照射できる。
[0121](他の実施形態)
本発明の面発光体は,図示例の面発光体130に限定されない。
…(省略)…
[0217] 積層体を有機EL素子の基材として使用する場合,積層体の凹凸構造を有する表面側に導電性下地層と発光層と透明電極とを順次形成させて有機EL素子を得る。
本発明の積層体を有する有機EL素子は,内部に積層体の凹凸構造に起因した回折・散乱構造が形成されているため,光取り出し効率が高まる。
…(省略)…
[0226] (デバイスG)
図21は,本実施形態に係るデバイス(有機EL素子)410の別の構成を示す。このデバイスGは,基板414上に,第1電極411,高屈折率膜418,有機半導体層413及び第2電極412がこの順に積層されている(当合議体注:「第1電極411,高屈折率膜418」の記載は,「高屈折率膜418,第1電極411」の誤記である。)。デバイスGの基板414,第1電極411,有機半導体層413及び第2電極412は,前記デバイスCと同様のものが用いられる。デバイスGは,有機半導体層413で生じた光を基板414側から放出するボトムエミッション型である。」
(当合議体注:図21は,以下の図である。)


オ 「実施例
[0236](AFM測定)
5cm□で作製した対象測定範囲を均等に9分割し,その分割範囲に対しそれぞれ任意に3点ずつ,計27点の測定ポイントについて50μm□及び200μm□の範囲を原子間力顕微鏡(キーエンス社製,VN-8010,カンチレバーDFM/SS-Mode)にて測定した。
[0237](面粗さ計測)
50μm□範囲で測定した27点において,50μm□の範囲の全範囲を解析範囲として,算術平均粗さ,十点平均高さを,JIS B0601-1994の面粗さ計測にしたがい計測し,27点の平均値の算術平均面粗さRa,十点平均高さRzを計算する。
…(省略)…
[0239]実施例1?12,及び比較例3,4の平均粒子径/濃度,算術平均粗さRa,十点平均高さRz,凹凸平均間隔の平均値Sm,線粗さRa’の最大値Ra’(max)と最小値Ra’(min)及び上記式(1)の値を表A1に示す。
[0240](表A1)


[0241]また,実施例1?12で用いたベース樹脂,平均粒子径/濃度,アンダーコート液,モールド及び基板の構成を表A2に示す。
[0242](表A2)


…(省略)…
[0244](アンダーコート液作製)
…(省略)…
(アンダーコート液(a-2)調整)
<ウレタン(メタ)アクリレート(A)の調製>
(1)蒸留塔を備え付けた3Lの4つ口フラスコにアジピン酸1,606gとエチレングリコール589gとプロピレングリコール152gを仕込み,200℃で加熱しながら生成する水を留去した。水の流出が無くなり,酸価が1.0以下になった時点を終点とし,ポリエステルジオールを得た。
(2)別途,3Lの4つ口フラスコに,トリレンジイソシアネート174g,及びジブチル錫ジラウレート0.3gを仕込んでウォーターバスで内温が50℃になるように加熱した。
(3)上記(1)にて合成したポリエステルジオール1,950gを側管付きの保温滴下ロート(60℃保温)に仕込んだ。上記(2)で調整したフラスコ内容物を攪拌しつつ,フラスコ内温を50℃に保ちながら,この滴下ロート内のポリエステルジオールを4時間かけて等速滴下した後,同温度で2時間攪拌して反応させた。
(4)ついで,フラスコ内容物の温度を60℃に上げ,同温度で1時間攪拌した。2-ヒドロキシエチルアクリレート116g,2,6-ジ-ターシャリブチル-4-メチルフェノール0.3g,及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.3gを均一に混合溶解させた液を別の滴下ロートに仕込んだ。フラスコ内温を75℃に保ちながら,この滴下ロート内の液を2時間かけて等速滴下した後,同温度で4時間反応させて,GPC測定によるポリスチレン換算の数平均分子量が4,600となるウレタンアクリレート(UA)を調製した。
表1に示す配合組成(当合議体注:「表1」に対応する配合組成表が見当たらない。)に従って各成分をステンレス容器に計量し,約30分間,全取り出し体が均一になるまで攪拌してアンダーコート層形成用組成物(a-2)を調製した。
…(省略)…
[0245] (活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-1))
1,6-ヘキサンジオールアクリレート(以下C6DAと記す。)の45質量部,トリメチロールエタン/アクリル酸/コハク酸(2/4/1)の縮合物(以下TASと記す。)の45質量部,シリコーン(ジ)(メタ)アクリレート(X-22-1602,信越化学社製)10質量部を混合し,ベンソイル(当合議体注:「ベンソイル」は「ベンゾイル」の誤記である。)エチルエーテル(以下BEEと記す。)を3質量部が溶解するまで攪拌し,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-1)を得た。
[0246] (活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2))
C6DAを50質量部,TASを50質量部,BEEを3質量部が溶解するまで攪拌し,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)を得た。
…(省略)…
[0252](実施例1)
…(省略)…
(デバイスC評価)
基板(X-1)を25mm□にカットした後,イソプロピルアルコールで煮沸洗浄した後,基板(X-1)を真空乾燥装置中100℃で一昼夜乾燥させた。
その後,スパッタリング装置のチャンバ内にセットし,ラインパターンの孔を有するマスク越しにITOを蒸着し,厚さ:200nmのITO透明電極を形成した。
UVオゾン処理した後,透明電極が形成された面発光体用透明基材を真空蒸着装置のチャンバ内にセットし,有機蒸着チャンバ内の圧力:10^(-4)Pa,蒸着速度(デポレート):0.5?2.0Å/secの条件下で,透明電極の上に,正孔注入層のCuPc(20nm),正孔輸送層のTPD(40nm),発光層のCBP:Ir(ppy)_(3)(20nm),正孔阻止層のBCP(10nm),電子輸送層のAlq_(3)(30nm)を順次蒸着し,透明電極の上に選択的に発光層および他の機能層を形成した。
さらに,蒸着速度(デポレート):0.059Å/secの条件下で金属蒸着チャンバ内の圧力:10^(-4)Pa,蒸着速度(デポレート):0.25Å/secの条件下で電子注入層のフッ化リチウム(0.5nm),蒸着速度(デポレート):0.5?4.0Å/secの条件下で背面電極のアルミニウム(100nm)を順次蒸着し,2mm□の発光部を形成した。
20mm□の掘り込みガラスを用い,2mm□の発光部が掘り込みガラス内に入るように,エポキシ系封止剤(ナガセケムテック社製)で封止を行い,外周をUV照射して硬化させ,有機EL素子(E-1)を得た。
…(省略)…
[0253](実施例2)
(モールド(x-2)作製)
PET樹脂で成型された縦10cm,横10cm,厚さ188μmの長方形のテストフィルムをアクリル板の代わりに使用し,またアンダーコート層形成用組成物(a-1)の代わりに,(a-2)を用いる以外は,実施例1と同様の方法で,モールド(x-2),(x´-2)を得た。
…(省略)…
(基板(X-2)作製)
ガラス板(コーニング社製,イーグルXG,5cm□)の表面に,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)を滴下し,その上にモールド(x-2)を被せ,ハンドロールで活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)を押し広げた。モールド(x-2)越しに積算光量:1000mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)を硬化させた。ガラス板および凹凸樹脂層からモールド(x-2)を剥離し,基板(X-2)を得た。基板(X-2)の表面粗さを測定した。AFM測定結果を表A3(当合議体注:「表A3」は「表A1」の誤記である。)に示す。
(基板(X´-2)作製)
基板(X-2)の表面上に,高屈ジルコニウム液(CIKナノテック社製,ZRT15WT%-E28)をスピンコーターを用いて塗布し,室温で15分間静置後,200℃で1時間ホットプレート上でベーキングを行う操作を2回行い,表面Raが10nm以下になるように,1.5μm程度の高屈折率膜を形成し,基板(X´-2)を得た。
(デバイスG評価)
基板(X-1)の代わりに(X´-2)を使用する以外は実施例1のデバイスCと同様にして,有機EL素子(E-4)を得た。
…(省略)…
[0271][実施例C1]
表C1に示す配合組成に従って各成分をステンレス容器に計量し,約30分間,全体が均一になるまで攪拌してアンダーコート層形成用組成物を調製した。
…(省略)…
[0273] (表C1)


[0274] なお,表C1中の略号は以下の通りである。
UA:ウレタンアクリレート
THFA:アクリル酸テトラヒドロフルフリル(大阪有機化学工業株式会社製)
TDIHPA:トリレンジイソシアネートとアクリル酸2-ヒドロキシプロピルからなるウレタンジアクリレート
BNP:ベンゾフェノン
HCPK:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
トスパール130:シリコーン樹脂微粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製,「トスパール130」,平均粒子径3.0μm,真比重(25℃)1.32,かさ比重0.36,比表面積20m^(2)/g)
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
…(省略)…
産業上の利用可能性
[0276] 本発明の有機EL素子は光取り出し効率が高いため,有機EL素子からなる面発光体等に好適に利用することができる。」

(4) 引用発明
引用例1の[0253]には,実施例2として,「モールド(x-2)」から「基板(X-2)」を作製し,さらに「基板(X´-2)」を作製して「有機EL素子(E-4)」を得たことが記載されている。
ここで,引用例1の[0253]の記載からみて,実施例2の「基板(X´-2)」は,「有機EL素子の基板(X´-2)」といえる。また,[0245]及び[0246]の記載からみて,「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)は,1,6-ヘキサンジオールアクリレートを50質量部,トリメチロールエタン/アクリル酸/コハク酸(2/4/1)の縮合物を50質量部,ベンゾイルエチルエーテルを3質量部からなる組成物」である。また,[0237]及び[0240]の記載からみて,「JIS B0601-1994の面粗さ計測にしたがい計測した基板(X-2)の表面の算術平均面粗さRa及び十点平均高さRzは,それぞれ128.3nm及び764.5nmである」。
なお,引用例1の[0244]の記載からは,モールド(x-2)を製造するために必要なアンダーコート層形成用組成物(a-2)の正確な組成は判らない([0244]に記載の「表1」に対応する配合組成表が見当たらない。)。ただし,当業者ならば,[0270]-[0273]の記載(表C1の配合組成表)を参考にしつつ技術常識に基づいて,同等のモールド(x-2)を製造することができるといえる。
そうしてみると,引用例1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 ガラス板(コーニング社製,イーグルXG,5cm□)の表面に,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)を滴下し,その上にモールド(x-2)を被せ,ハンドロールで活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)を押し広げ,
モールド(x-2)越しに積算光量:1000mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)を硬化させ,
ガラス板および凹凸樹脂層からモールド(x-2)を剥離し,基板(X-2)を得,
基板(X-2)の表面上に,高屈ジルコニウム液(CIKナノテック社製,ZRT15WT%-E28)をスピンコーターを用いて塗布し,室温で15分間静置後,200℃で1時間ホットプレート上でベーキングを行う操作を2回行い,表面Raが10nm以下になるように,1.5μm程度の高屈折率膜を形成して得た有機EL素子の基板(X´-2)であって,
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A-2)は,1,6-ヘキサンジオールアクリレートを50質量部,トリメチロールエタン/アクリル酸/コハク酸(2/4/1)の縮合物を50質量部,ベンゾイルエチルエーテルを3質量部からなる組成物であり,
JIS B0601-1994の面粗さ計測にしたがい計測した基板(X-2)の表面の算術平均面粗さRa及び十点平均高さRzは,それぞれ128.3nm及び764.5nmである,
有機EL素子の基板(X´-2)。」

(5) 引用例2の記載
本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2012/086748号(以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。
ア 「[0267]
…(省略)…
「M400」:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成(株)製,商品名;アロニックスM400)
…(省略)…
「DAROCUR」:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASFジャパン(株)製,商品名;DAROCUR TPO)
…(省略)…
「KBM503」:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製,商品名;信越シリコーン KBM503)
…(省略)…
「IPA」:イソプロパノール(和光純薬工業(株)製,試薬1級)
「トルエン」:トルエン(和光純薬工業(株)製,試薬1級)
「ZRT-E28」:ジルコニアのトルエン分散体(固形分濃度15%),KBM503とジルコニア微粒子の合計量中のジルコニア微粒子の割合77質量%,(CIKナノテック(株)製,商品名;ZRT15WT%-E28)
…(省略)…
「KBM602」:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業(株)製,商品名;信越シリコーン KBM602)
「KBM603」:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製,商品名;信越シリコーン KBM603)」

イ 「[0292][表2]



ウ 「[0299] 更に,コロナ処理を行った低屈折率膜の表面にHRM組成物(1)を,10号バーコーターを用いて塗付し,100℃で1.5分間および150℃で1分間乾燥させてHRM組成物の塗膜を形成し,空気下で9.6kWの高圧水銀ランプ(出力設定100%)の下20cmの位置のところを,4.5m/分の速度で通過させてHRM組成物の塗膜を硬化させて高屈折率膜が積層された剥離用フィルムを得た。なお,高圧水銀ランプは2灯点灯させた。このときの積算光量は800mJ/cm^(2)で,ピーク照度は260mW/cm^(2)であった。」

(6) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 凹凸構造を有する基材
引用発明において,「JIS B0601-1994の面粗さ計測にしたがい計測した基板(X-2)の表面の算術平均面粗さRa及び十点平均高さRzは,それぞれ128.3nm及び764.5nmである」。
そうしてみると,引用発明の「基板(X-2)」は,その表面に凹凸構造を有するものである。また,「基材」は,通常,「製品や加工品の基となる材料。」(広辞苑6版)を意味するが,本件補正後発明において,「基材」が「基板」の意味で用いられていることは明らかである。
したがって,引用発明の「基板(X-2)」は,本件補正後発明の「凹凸構造を有する基材」に相当する。

ところで,本件補正後発明の「算術平均粗さ」及び「最大高さ」は,前記「第2」[理由]2(2)で述べたとおり明確であるとはいえないけれども,一応,JIS B0601-1994の面粗さ計測にしたがい計測したRa及びRyと推認することができる。
そうしてみると,引用発明の「基板(X-2)」は,本件補正後発明の「凹凸構造を有する基材」における,「算術平均粗さが5?1000nm,かつ,最大高さが10?10000nmである」という要件を満たす。
(当合議体注:Ry及びRzの定義上,RyはRzの1-5倍の範囲となる。したがって,引用発明のRyは,764.5?3822.5nmの範囲にあることが判るから,本件補正後発明の最大高さの要件を満たす。)

イ 凹凸構造を包埋する層
引用発明の「高屈折率膜」は,「基板(X-2)の表面上に」「表面Raが10nm以下になるように」形成した,「1.5μm程度」のものである。
そうしてみると,引用発明の「高屈折率膜」は,基板(X-2)の表面側に,一方の面が基板(X-2)の表面の凹凸構造を包埋し,他方の面が凹凸構造表面よりも平滑である凹凸構造を包埋する層ということができる。
したがって,引用発明の「高屈折率膜」は,本件補正後発明の「凹凸構造を包埋する層」に相当する。また,引用発明の「高屈折率膜」は,本件補正後発明の「凹凸構造を包埋する層」の,「凹凸構造を有する基材の凹凸構造側に,一方の面が凹凸構造を包埋し,他方の面が凹凸構造表面よりも平滑である」という要件を満たすものである。

ウ 硬化した層
引用発明の「高屈折率膜」は,「基板(X-2)の表面上に,高屈ジルコニウム液(CIKナノテック社製,ZRT15WT%-E28)をスピンコーターを用いて塗布し,室温で15分間静置後,200℃で1時間ホットプレート上でベーキングを行う操作を2回行い」形成されたものである。ここで,引用発明の「高屈ジルコニウム液(CIKナノテック社製,ZRT15WT%-E28)」は,引用例2の[0267]の記載(前記(5)ア)からみて,シランカップリング剤「KBM503」(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)で表面処理されたジルコニア微粒子と理解される。
したがって,引用発明の「高屈折率膜」と本件補正後発明の「凹凸構造を包埋する層」は,「一般式(1)で表されるオルガノシラン化合物で表面処理された無機酸化物微粒子を」「硬化した層」の点で共通する。
(当合議体注:KBM503は,一般式(1)において,R_(1)を「3-メタクリロキシプロピル基」,Xを「メトキシ基」,m=1としたオルガノシラン化合物である。)

エ 有機EL素子用基板
引用発明の「基板(X´-2)」は,「基板(X-2)の表面上に」,「高屈折率膜を形成して得た有機EL素子の基板」であるから,有機EL素子用基板ということができる。また,上記ア及びイで述べたとおりである。
したがって,引用発明の「基板(X´-2)」は,本件補正後発明の「有機EL素子用基板」に相当する。また,引用発明の「基板(X´-2)」は,本件補正後発明の「有機EL素子用基板」の「算術平均粗さが5?1000nm,かつ,最大高さが10?10000nmである凹凸構造を有する基材の凹凸構造側に,一方の面が凹凸構造を包埋し,他方の面が凹凸構造不凹面よりも平滑である凹凸構造を包埋する層が積層された」という要件を満たすものである。

(7) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 算術平均粗さが5?1000nm,かつ,最大高さが10?10000nmである凹凸構造を有する基材の凹凸構造側に,一方の面が凹凸構造を包埋し,他方の面が凹凸構造表面よりも平滑である凹凸構造を包埋する層が積層された有機EL素子用基板であって,凹凸構造を包埋する層が,下記一般式(1)で表されるオルガノシラン化合物で表面処理された無機酸化物微粒子を硬化した層である有機EL素子用基板。
(R_(1))_(m)-Si-(X)_(4-m) (1)
(ただし,一般式(1)中,R_(1) は,水素原子,アルキル基もしくはアリール基,または不飽和結合を有する置換基で置換されたアルキル基もしくはアリール基を表し,Xは,水酸基または加水分解可能な基を表し,mは,1?3の整数を表す。)」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
「凹凸構造を包埋する層」が,本件補正後発明は,「活性エネルギー線を照射して」硬化した層であるのに対して,引用発明は,「200℃で1時間ホットプレート上でベーキングを行う」ことにより硬化した(熱硬化した)層である点。

(8) 判断
シランカップリング剤「KBM503」のようなオルガノシラン化合物は,活性エネルギー線(紫外線)を照射して硬化させることも可能なように設計された化合物である。したがって,硬化方法として,活性エネルギー線硬化とするか,熱硬化とするかは,当業者が適宜選択しうる事項に過ぎず,引用例2においても,「CIKナノテック社製,ZRT15WT%-E28」を用いた膜を活性ネルギー線を照射して硬化する実施例が記載されている([0292]及び[0299](上記(5)イ参照。)。
そうしてみると,引用発明における「スピンコーターを用いて塗布し,室温で15分間静置後,200℃で1時間ホットプレート上でベーキングを行う操作を2回行い」という製造工程を,活性エネルギー線を照射して硬化する製造工程に変更することは,例えば,製造時間の短縮を検討する当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。

(9) 審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書((2)拒絶査定の理由に対する反論)において,本願発明の課題は,高精細な微小凹凸構造に対し高屈折材料層を温和な条件で形成することに加えて,平坦化された有機EL素子用基板を得ることにあるのに対して,引用例1では光取出し側が平坦化されておらず,かかる課題は解決に到らない旨,主張している。
確かに,引用例1には,図4のように,光取出し側が平坦化されていない有機EL素子用基板が開示されている。しかしながら,引用例1には,引用発明のように(図でいえば,図21のように)光取り出し側が平坦化されている有機EL素子用基板も開示されている。したがって,引用例1に図4のような態様が開示されているとしても,引用発明に接した当業者ならば,少なくとも,基板(X-2)の表面よりも平滑な表面の高屈折率膜を形成するといえる。
なお,本件出願の発明の詳細な説明の【0010】には,発明の効果として,概略,以下の事項が記載されている。
ア 本発明の有機EL素子用基板によれば,高精細な微小凹凸構造を有する有機EL素子用基板を得ることができ,また,高精細な微小凹凸構造が500nm以上の厚みの膜で平坦化された有機EL素子用基板を得ることができる。
イ 本発明の有機EL素子用基板によれば,200℃以下の温和なプロセスで有機EL素子用基板を製造することができる。
ウ 本発明の有機EL素子用基板を用いれば,有機EL素子の発光効率を向上させることができる。
エ 本発明の有機EL素子は,発光効率が高い。
オ 本発明の有機EL素子は,表示装置の画素としての用途だけではなく,照明器具の発光素子としても用いることができる。

しかしながら,上記ア及びウ-オの効果は,引用発明も奏する効果である。また,上記イの効果も,引用発明が奏する効果である(当合議体注:引用発明のベーキング温度は200℃である。)。仮に,「200℃以下の温和なプロセス」を「活性エネルギー線を照射して硬化するプロセス」と解しても,そのような効果は,前記(8)で述べたように創意工夫してなる引用発明の効果にすぎない。
したがって,審判請求人の主張は,採用できない。

(10) 小括
本件補正後発明は,本件出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものであり,又は同法同条6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]に記載したとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1-請求項6に係る発明は,願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1-請求項6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明は,前記「第2」[理由]1(2)に記載したとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,本件出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例1の記載等
引用例1の記載及び引用発明,並びに,引用例2の記載は,前記「第2」[理由]2(3)-(5)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2において検討した本件補正後発明から,[1]凹凸構造が「算術平均粗さが5?1000nm,かつ,最大高さが10?10000nmである」という発明特定事項,[2]凹凸構造を包埋する層が「一方の面が凹凸構造を包埋し,他方の面が凹凸構造不凹面よりも平滑である」という発明特定事項,[3]凹凸構造を有する基材に対して凹凸構造を包埋する層が積層される側が「凹凸構造側」であるという発明特定事項を除いたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正後発明が,前記「第2」[理由]2(6)-(9)に記載したとおり,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-12 
結審通知日 2018-03-13 
審決日 2018-03-26 
出願番号 特願2012-148137(P2012-148137)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H05B)
P 1 8・ 561- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横川 美穂  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
樋口 信宏
発明の名称 有機EL素子用基板および有機EL素子  

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