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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11B
管理番号 1339980
審判番号 不服2015-21901  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-10 
確定日 2018-05-09 
事件の表示 特願2013-145955「ラノリン代替物、その取得方法と用途」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 9日出願公開、特開2014- 1391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年6月28日(優先権主張 2001年7月2日、フランス共和国(FR))を出願日とする特願2009-60378号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成25年7月12日に新たな特許出願として分割したものであって、平成27年8月4日付けで拒絶査定がなされ、同年12月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされたところ、これに対し、当審より、平成29年1月25日付けで拒絶理由が通知され、同年7月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願請求項1に係る発明は、平成29年7月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「40℃での粘度が1000cPを越えるラノリン代替物の製造方法であって、少なくともその重量の二倍まで水、水溶液または水性懸濁液を吸収し、ラノリンを上回る水分保持能力をもつ、経時的に安定した真のエマルジョンを形成するように、触媒あり又はなしで、通常の又は酸素の制御された大気雰囲気内で、以後「OH試薬」と称する、移動性の水素を有するか発生する化合物0.1?30%と、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体70?99.9%を、熱処理することによって得られることを特徴とし、触媒あり又はなしで、通常の又は酸素の制御された大気雰囲気内で、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体と、ヒドロキシル基を有するか発生する化合物との混合物からの半合成によって得られることを特徴とする、ラノリン代替物の製造方法。」

第3 平成29年1月25日付けの当審拒絶理由の理由2及び3の概要

当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

理由2:この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

理由3:本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断

1 理由2について

(1)本願明細書の記載事項

本願明細書には、以下の記載がある。

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
今日まで、提案された代替物は、完全には満足をもたらしていない。つまり、それらは緩和性、保湿性を有するが、吸水性がないのである。
くわえて、組成の複雑さや、酸価などのいくつかの物理化学的特徴が高いこと、および/または製造コストについては、なお最適化する必要がある。
【0028】
したがって、ラノリンの真の代替物を見つけることには大きな、周知の必要性がある。」

「【0040】
本発明の特徴は、ヒドロキシル基を有するか発生する試薬を反応媒質に添加することに由来する。単純化のために、これらの試薬を「OH試薬」と呼ぶ。
【0041】
重合塩基とその特性
本出願人は、誘電加熱の独創的方法に関する仏国特許出願第9813770号と国際公開第00/26265号(PCT/FR99/02646)を出願した。この方法はとくに本書の対象であるラノリン代替物の調製に適用される。
【0042】
これらの特許によれば、単体または混合物の、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、これらの化合物の不飽和誘導体の重合法は、重合を実施するために試薬または反応混合物が誘電加熱にかけられることを特徴とする。
【0043】
好適には、以下の通りである。
-加熱はマイクロ波周波数を用いて行われる。
加熱は無線周波数を用いて行われる。
-触媒の有無をとわず実施される。
-不均質または均質の触媒を試薬または反応混合物に添加できる。
-モンモリロナイトのような、無線周波数またはマイクロ波周波数に反応する触媒を試薬または反応混合物に添加できる。
-試薬または反応混合物、また場合によって触媒は、マイクロ波周波数または無線周波数を受けるのに適したバッチまたは不連続型の反応炉内に置かれる。
-試薬または反応混合物、また場合によって触媒は、連続反応を行うのに適した反応炉内に置かれる。
-周波数は、約30GHzと約300MHzの間に含まれる。
-周波数は、2.45GHzまたは915MHzである。
-周波数は、約300MHzと約3MHzの間に含まれる。
-周波数は、13.56MHzまたは27.12MHzである。
-試薬または反応混合物、また場合によって触媒にかけられる温度は、200と400℃の間に、好適には220と350℃の間に含まれる。
-昇温時間は、3と60分の間で、好適には3と20分の間で選択される。
-反応時間は、15分と15時間の間に、好適には15分と360分の間に、さらに好適には15と120分の間に含まれる。
-酸素が通常の、または濃い、好適には不活性の雰囲気下で;減圧して、好適には50と10mm水銀柱の間で;雰囲気を定期的に更新して、重合を実施する。
-所望の粘度に応じて、重合温度未満の温度まで試薬または反応混合物を自然冷却させ、あるいは強制冷却して、重合を停止する。
【0044】
しかしながら、従来の熱処理で実施することもできる。
【0045】
これらの「OH試薬」を添加せずに、出願人は上述の方法で、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素またはこれらの物質の誘導体の重合体を得る。
【0046】
これらの重合体は、化粧品の配合物に推奨される緩和性、保湿性、および吸蔵性を、それら単独で有する。それらはまた吸水能力も有するが、この能力はラノリンのそれと比較すると限定されている:重合体は、その重量の80%まで水分を吸収する。形成された重合格子構造は、水を蓄え、エマルジョンを形成するのに十分である。しかしながら、これらのエマルジョンは安定していない:水分は24時間未満で放出される。
【0047】
技術的問題は、得られた重合体の特性をラノリンのそれにできる限り近づけるようにすることであった。この理由のために、反応媒質の中に、すなわちヒドロキシル基を有するか発生する十分な量の「OH試薬」を添加する。
【0048】
意外なことに、得られた生成物は当初の特性(緩和性、保湿性、吸蔵性)を保っているが、今度は水分を少なくともその重量の二倍まで吸収するということがわかった。くわえて、形成されたエマルジョンは、経時的に、また40℃で複数回乾燥器にかけた後でも安定している。この現象は、15日未満に水を全て放出するラノリンでは見られない。
これらの生成物は、ラノリンのそれを上回る水分保持能力を有する。
【0049】
ヒドロキシル基を有するか発生するOH試薬を添加することによって、エステル化および/またはアミド化によって形成された生成物の酸性度が低下し、それによって熱劣化のおそれと加水分解反応が制限されることに注目すべきである。したがって、形成された生成物ははるかに安定している。
【0050】
同様に、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、それらの不飽和誘導体の所与の初期混合物にOH試薬を添加することによって、最終生成物の粘度が変化する。」

「【0051】
これらのラノリン代替物の製造
ラノリン代替物は、好適には触媒なしで、酸素のない雰囲気内で、ヒドロキシル基を有するか発生する一つまたは複数のOH試薬とともに、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、それらの不飽和誘導体、あるいは様々な比率のこれら化合物の混合物を熱処理することによって得られる。
【0052】
熱処理は、出願人の前述の特許に記載のごとく、試薬を、従来のまたは誘電式の加熱にかけることによって実施される。
【0053】
A 従来の熱処理:
従来の熱処理は、常に攪拌しながら、好適には触媒なしに、不活性の雰囲気下で、100と400℃の間、より良くは230と350℃の間で実施される。反応温度は、混合物の成分の沸騰および/または劣化の温度に依存する。
【0054】
合計反応時間は、使用された一つまたは複数の試薬と得ようとする粘度に依存する。これは好適には3時間と24時間の間であり、好適には3時間と10時間の間に位置する。
【0055】
B 誘電加熱による熱処理:
より低い投資コストに結びつく、時間とエネルギーの利得を理由に、上述の特許に記載のごとく、誘電加熱、すなわちマイクロ波周波数または高周波数での加熱を好適に利用するが、当業者の便宜のために上述の特許の抜粋を以下に掲載するので、当業者はその実施の詳細について有利に参照することができるだろう。さらに当業者は、出願人が同日に出願した、誘電加熱実施のために改良した装置に関する特許出願も参照できるだろう。
【0056】
好適には触媒なしに実施するのであるが、全く意外なことに、触媒なしで、グリセロールなどの反応物質によって遊離脂肪酸のエステル化が実現できることが確認された。
【0057】
同じくきわめて意外なことに、予想に反して、妨害または競合する反応が発生してこの手段の研究が阻止されるようなことはなく、良い結果が得られることが確認された。
【0058】
マイクロ波周波数MWは、約300MHzと約30GHzの間に含まれ、好適には915MHz(許容差1.4%の周波数)または2.45GHz(許容差2%の周波数)である。
【0059】
高周波HFは、約3MHzと約300MHzの間に含まれ、好適には13.56MHz(許容差0.05%の周波数)または27.12MHz(許容差0.6の周波数)である。
【0060】
反応温度は、常に攪拌しながら、好適には触媒なしに、不活性の雰囲気下で、100と400℃の間、より良くは230と350℃の間に位置する。反応温度は、混合物の成分の沸騰および/または劣化温度に依存する。
【0061】
合計反応時間は、使用された一つまたは複数の試薬と、得ようとする粘度に依存する。これは好適には15分と15時間の間であり、好適には15分と2時間の間に位置する。
【0062】
反応媒質に添加するOH試薬の量は、結果として得られる重合体で達成しようとする水分吸収レベルと、所期の粘度に依存する。「OH試薬」は、反応の最初に、途中で、あるいは最後に、反応媒質内に導入することができる。
反応の終わりにこれらの物質を添加することは、反応時間が増加するため、一般に、経済的に有利ではない。しかしながら、場合によってはこれを利用することができる。
【0063】
この方法で得られた物質は、その処理によって臭い、色などの追加の特性がもたらされるならば、水素添加、脱色、脱臭、その他の機能化など、追加の処理にかけることができる。」

「【0064】
試薬(従来のまたは誘電加熱による熱処理)
本発明において、試薬は植物性の油脂の中から、およびそのいくつかが前記油脂に由来するポリテルペンの中から選択することができる。
【0065】
植物性の油として、とりわけ、菜種油、ひまわり油、落花生油、オリーブ油、クルミ油、トウモロコシ油、大豆油、亜麻油、紅花油、杏仁油、甘扁桃油、大麻油、グレープシード油、コプラ油、パーム油、綿実油、ババス油、ホホバ油、ゴマ油、アルガン油、アザミ油、パンプキンシード油、ラズベリー油、カランジャ(Karanja)油、ニーム油、ナデシコ油、ブラジルナッツ油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、ヘーゼルナッツ油、小麦胚芽油、ルリヂサ油、月見草油、キリ油、トール油などを挙げることができる。
【0066】
これらの植物性の油脂、ならびにその誘導体は、それらの反応性を高めたり、反対に反応性を低下させたりするために、事前に処理することができる。本発明は単体の試薬、ならびに二つ以上の成分からなる反応混合物にも関するものである。これらの反応混合物は、それぞれの成分を同じ比率で有することもできるし、特定の成分比率を多くすることもできる。
【0067】
不飽和炭化水素として、単体または混合物で、かつ非制限的な例として、アルケン、例えば、一つまたは複数のテルペン炭化水素、すなわち一つまたは複数のイソプレン重合体、あるいはイソブテン、スチレン、エチレン、ブタジエン、イソプレン、プロペンの一つまたは複数の重合体、あるいはこれらのアルケンの共重合体を挙げることができる。
【0068】
不飽和脂肪酸としては、単体または混合物で、かつ非制限的な例として、オレイン酸、パルミトレイン酸、ミリスチン酸、ペトロセレン酸、エルカ酸などの一つまたは複数の一価不飽和脂肪酸;例えば、リノール酸、アルファおよびガンマリノール酸、アラキドン酸などの一つまたは複数の多価不飽和脂肪酸;リカン酸、リノールおよびリノレン酸の異性体などの共役ジエンまたは共役トリエンを含む一つまたは複数の酸;リシノール酸などの一つまたは複数のヒドロキシル基を含む一つまたは複数の酸、を用いることができる。
【0069】
不飽和脂肪酸エステルとして、単体または混合物で、かつ非制限的な例として、モノアルコールおよび/またはポリオールと少なくとも一つの不飽和脂肪酸との間のエステル化によって得られた一つまたは複数のエステル;ワックス;リン脂質;スフィンゴ脂質;糖脂質、を用いることができる。
【0070】
植物性の油脂、炭化水素ならびにその誘導体は、それらの反応性を高めたり、反対に反応性を低下させたりするための事前処理、例えば、水素添加、ヒドロキシル化、エポキシ化、亜リン酸化、スルホン化、などにかけることができる。
【0071】
動物性の油脂は好適には使用できないが、とくにマッコウクジラ油、イルカ油、鯨油、アザラシ油、鰯油、鰊油、鮫油、肝油、牛脚油、豚や馬の脂を挙げることができる。
【0072】
本発明において、ヒドロキシル基を有するか発生するOH試薬は、アルコール、アミノアルコール、エポキシドの中から選択することができる。
【0073】
アルコールとして、単体または混合物で、一級、二級および/または三級のモノまたはポリアルコールを用いることができる。これは、非制限的な例として、メタノール、エタノール、ブタノール、グリセロール、グリコール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリトリトール、ビタミン(例えば、トコフェロール、アスコルビン酸、レチノール)、ステロール(フィトステロールを含む)、ヘミアセタール(例えば、1-エトキシ-1-エタノール)およびそれらの類似体、とすることができる。
【0074】
アミノアルコールとしては、単体または混合物で、かつ非制限的な例として、モノエタノールアミンMEA、ジエタノールアミンDEA、トリエタノールアミンTEA、3-アミノ-1,2プロパンジオール、1-アミノ-2-プロパノール、2-2’-アミノエトキシエタノール、を用いることができる。
【0075】
エポキシドとして、単体または混合物で、かつ非制限的な例として、1,2-エポキシ-9-デセン、3-4エポキシ-1-ブテン、2-3エポキシ-1-プロパノール、2-3エポキシ-1-プロパノールと脂肪酸の間のエステル化によって得られた脂肪エステル(例えば、Cardura E10(登録商標))、を用いることができる。
アルコール、アミノアルコール、エポキシドならびにそれらの誘導体は、それらの反応性を高めたり、反対に反応性を低下させたりするための事前処理、例えば、水素添加、ヒドロキシル化、エポキシ化、亜リン酸化、スルホン化、などにかけることができる。
【0076】・・・
【0077】
本発明は、0.1から30%の、好適には0.1から6%の「OH試薬」、好適には1または3%を添加し、とくに0.1から5、好適には1または3%のグリセロールを添加することを特徴とし、OH試薬がグリセロール、ソルビトール、MEA、ポリグリセロール、ビタミンCまたはEから選択されることを特徴とする方法に関するものである。」

「【0083】
c-凡例
CAE(1)=%で表した、手順1によって得られた吸水能力
CAE(2)=%で表した、手順2によって得られた吸水能力
S(1)=日数で表した、手順1によって得られたエマルジョンの安定性
S(2)=日数で表した、手順2によって得られたエマルジョンの安定性
R(2)=有無で表した、遠心分離後の水の放出
【0084】
2-吸水能力に対するグリセロール添加と粘度の影響
下表に記載の物質は、同じ不飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸エステルおよび/または不飽和炭化水素および/またはそれらの不飽和誘導体の熱処理から得られたものである。
合成の終わりに所望の粘度が得られるように、混合物内の各化合物の比率だけが変動する。
【0085】
【表4】

【0086】
目的は次の二つの基準を達成することである:200%を超える吸水能力と、形成されたエマルジョンの経時的安定性。」

「【0089】
【表6】

【0090】
グリセロールを最初の混合物に添加してから合成を開始する。
【0091】
このとき、得られた生成物は、少なくともその重量の二倍まで吸水する。
形成されたエマルジョンは、粘度の低い生成物(40℃で600と1000cP)の場合を除いて、常温で安定している。これらの生成物が安定するためには、吸水量を減らさなければならない。それらの吸水能力は、80と200%の間にある。
【0092】
生成物とその粘度の選択は、所望の用途と効果に依存する。生成物の粘度が高いほど、得られたエマルジョンが濃くなる。
【0093】
3-エマルジョンの安定性
形成されたエマルジョンは、その安定性を制御するために「40℃で高熱処理-遠心分離器」のいくつかのサイクルにかけられる。
得られた結果は下表に示されている。
【0094】
【表7】

【0095】
(40℃で)1000cPを越える粘度の生成物は、その重量の二倍を超える水を吸収し、真のエマルジョンを形成する。
これらのエマルジョンは、40℃の乾燥器にかけてから15日でその水分を全て放出するラノリンとは反対に、安定している。
したがって、これらのラノリン代替物は、ラノリンに匹敵する吸水能力を有するが、その保持力はより優れている。」

「【0096】
4-グリセロールの割合の影響
下表に示す生成物は、不飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸エステルおよび/または不飽和炭化水素および/またはそれらの不飽和誘導体の、同じ混合物(生成物の性質と割合が同一)の熱処理から得られたものである。
混合物に導入されるグリセロールの量だけが異なる
【0097】
【表8】

【0098】
水分吸収能力はグリセロールの割合とともに増加する。
形成されたエマルジョンは安定していない。先の場合と同様、生成物は十分な粘性を持たない。つまり、重合塩基は粘り気を十分には生じない。
所与の混合物の粘性がグリセロールの割合とともに減少することに注目すべきである。」

「【0099】
5-様々な試薬の吸収能力の比較
下表に示す生成物は、不飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸エステルおよび/または不飽和炭化水素および/またはそれらの不飽和誘導体の、同じ混合物(生成物の性質と割合が同一)の熱処理から得られたものである。
【0100】
ヒドロキシル基を有するか発生する化合物だけが変化する。反応媒質に添加する量は、合成の途中で反応することがあるOH試薬のヒドロキシル基および立体障害のために反応しないヒドロキシル基に応じて変動する。
【0101】
【表9】



(2)理由2についての検討

(実施例について)

まず、本願発明の実施例について見ると、段落【0089】【表6】及び段落【0094】【表7】で開示されているグリセロール(OH試薬)を3%用いて合成されたラノリン代替物「CM76/01」?「CM99/01」のうち、「CM80/01」?「CM99/01」は、「40℃での粘度が1000cPを越え」ており、かつ、「少なくともその重量の二倍まで水、水溶液または水性懸濁液を吸収し、」「経時的に安定した真のエマルジョンを形成する」(なお、本願明細書の【0085】【表4】によれば、ラノリンの吸水能力を示すCAE(2)も「200超」であるから、ラノリン代替物「CM80/01」?「CM99/01」とラノリンのCAE(2)は、いずれも、「200超」であって、当該ラノリン代替物が「ラノリンを上回る水分保持能力をもつ」のか不明である。)ラノリン代替物であるから、本願発明のラノリン代替物の実施例として開示されたものと一応理解される。
しかしながら、これらの例の製造方法は、「グリセロールを最初の混合物に添加してから合成を開始」(【0090】)するとしか記載されておらず、当該「混合物」の具体的内容が不明であり、また、「合成」の条件(触媒の有無、大気雰囲気の状態、熱処理の具体的条件等)も不明であり、さらに、生成物として得られたラノリン代替物を意味しているといえる「CM80/01」等が、具体的にどの様なものを意味しているのか不明であるから、当業者は、この実施例を見たとしても、本願発明のラノリン代替物の製造方法を実施することができるとはいえない。
仮に、混合物が、本願発明に特定される「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」であるとしても、「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」に共通する化学構造である「不飽和」の構造とヒドロキシル基を有するか発生する化合物との間に何らかの化学的な反応の関係を見いだせないこと、例えば、段落【0097】【表8】に示される結果によれば、混合物に対し、グリセロールを1?5%添加しているのに、「CM28/01」、「CM38/01」、「CM29/01」は、「粘度cP」及び「CAE(1)」が本願発明の条件を満たすものとはなっていないこと、段落【0101】【表9】に示される結果によれば、原料として同じ「混合物」を用いたとしても、OH試薬の種類のよって、合成物(ラノリン代替物)の吸水性が相当異なってくる結果(例えば、「ソルビトール」は「グリセロール」と同様にOH試薬といえるものであるが、「水%」は、グリセロールの240に対して、150(ソルビトール3%)となっている。)が示されているように、合成物の水分保持能力や経時的安定性等の特性は、用いる「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」やOH試薬の具体的な種類、組合せ、組成等によって相当異なることが予想されるし、また、何らかの化学的な合成物を合成する場合に、その合成温度等が生成する化学物質の構造に影響を与えることは技術的な常識であるから、本願発明に記載される「熱処理」の条件によっても、生成するラノリン代替物の構造は変化し、合成物の水分保持能力や経時的安定性等の特性が変わってくるといえる。
そうすると、ラノリン代替物の製造方法について、「グリセロールを最初の混合物に添加してから合成を開始」(【0090】)するとしか記載されていない実施例を見たとしても、当業者が本願発明のラノリン代替物の製造方法を実施することができるとはいえない。

(明細書のその他の記載について)

本願発明のラノリン代替物の製造方法に関係する本願明細書のその他の記載についても、検討するに、原料である「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、これらの化合物の不飽和誘導体」の反応について、段落【0042】の「これらの特許によれば、単体または混合物の、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、これらの化合物の不飽和誘導体の重合法は、重合を実施するために試薬または反応混合物が誘電加熱にかけられることを特徴とする。」との記載、段落【0045】の「これらの「OH試薬」を添加せずに、出願人は上述の方法で、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素またはこれらの物質の誘導体の重合体を得る。」との記載、段落【0047】の「技術的問題は、得られた重合体の特性をラノリンのそれにできる限り近づけるようにすることであった。この理由のために、反応媒質の中に、すなわちヒドロキシル基を有するか発生する十分な量の「OH試薬」を添加する。」との記載、段落【0049】の「ヒドロキシル基を有するか発生するOH試薬を添加することによって、エステル化および/またはアミド化によって形成された生成物の酸性度が低下し、それによって熱劣化のおそれと加水分解反応が制限されることに注目すべきである。」との記載、及び段落【0056】の「好適には触媒なしに実施するのであるが、全く意外なことに、触媒なしで、グリセロールなどの反応物質によって遊離脂肪酸のエステル化が実現できることが確認された。」との記載等によれば、ラノリン代替物を得るのに、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体を加熱(熱処理)して重合する際に、ヒドロキシル基を有するか発生する「OH試薬」を添加することが記載されているといえる。
しかしながら、本願発明は、ラノリン代替物の製造方法について、「触媒あり又はなしで、通常の又は酸素の制御された大気雰囲気内で、以後「OH試薬」と称する、移動性の水素を有するか発生する化合物0.1?30%と、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体70?99.9%を、熱処理することによって得られる」、「触媒あり又はなしで、通常の又は酸素の制御された大気雰囲気内で、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体と、ヒドロキシル基を有するか発生する化合物との混合物からの半合成によって得られる」と特定しているように、本願発明のラノリン代替物の製造方法は「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」の重合を行うことを必須とするものではなく、上記本願明細書の記載は、本願発明の特定に対応するものではない。
さらに、上記本願明細書の記載内容について、さらに検討するに、本願明細書に直接的な記載はないが、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体のいずれにも、不飽和の構造があるので、仮に、この不飽和の構造により重合が行われたとしても、この重合した構造に、「OH試薬」の反応につながる構造があるのか不明で、段落【0049】の「エステル化および/またはアミド化によって形成された生成物」、及び段落【0056】の「グリセロールなどの反応物質によって遊離脂肪酸のエステル化」が何を意味しているのかを理解することができないから、結局のところ、ラノリン代替物の原料となる「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」と「OH試薬」がどの様な反応をするのか理解することができず、ひいては、製造される「ラノリン代替物」自体もどの様なものであるのかを理解することができない。
なお、本願発明には「半合成」との特定があり、平成27年3月31日に提出された意見書に添付された翻訳文の第1頁第8?10行には、「半合成とは、要するに、天然分子を出発点として用いて、それに人工的修正を加えることにより、出発点となった分子に比べて性能の向上した誘導体を入手することを言う。」としているが、この内容を加味し、「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」が天然分子であるとしても、やはり「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」と「OH試薬」がどの様な反応をするのか理解することができず、上述の事情に変わるところはない。

ラノリン代替物の原料について段落【0064】には、試薬が植物性の油脂の中から選択されること、段落【0067】には、不飽和炭化水素の例として、「アルケン」等が、段落【0068】には、不飽和脂肪酸の例として、「オレイン酸」等が、段落【0069】には不飽和脂肪酸エステルの例として、「モノアルコールおよび/またはポリオールと少なくとも一つの不飽和脂肪酸との間のエステル化によって得られたエステル」等が記載され、段落【0072】?【0075】には、ヒドロキシル基を有するか発生するOH試薬の例としてグリセロール等が記載されているが、これらの例示を見ても、依然として、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体から、どの様な重合物が得られ、「OH試薬」とどの様な反応して、どの様な生成物が生じているのかを理解することができない。

また、ラノリン代替物の製造の条件について、段落【0053】及び【0054】の「A 従来の熱処理:従来の熱処理は、常に攪拌しながら、好適には触媒なしに、不活性の雰囲気下で、100と400℃の間、より良くは230と350℃の間で実施される。反応温度は、混合物の成分の沸騰および/または劣化の温度に依存する。合計反応時間は、使用された一つまたは複数の試薬と得ようとする粘度に依存する。これは好適には3時間と24時間の間であり、好適には3時間と10時間の間に位置する。」との記載、段落【0055】?【0061】の「B 誘電加熱による熱処理:
より低い投資コストに結びつく、時間とエネルギーの利得を理由に、上述の特許に記載のごとく、誘電加熱、すなわちマイクロ波周波数または高周波数での加熱を好適に利用するが、当業者の便宜のために上述の特許の抜粋を以下に掲載するので、当業者はその実施の詳細について有利に参照することができるだろう。・・・マイクロ波周波数MWは、約300MHzと約30GHzの間に含まれ、好適には915MHz(許容差1.4%の周波数)または2.45GHz(許容差2%の周波数)である。
高周波HFは、約3MHzと約300MHzの間に含まれ、好適には13.56MHz(許容差0.05%の周波数)または27.12MHz(許容差0.6の周波数)である。
反応温度は、常に攪拌しながら、好適には触媒なしに、不活性の雰囲気下で、100と400℃の間、より良くは230と350℃の間に位置する。反応温度は、混合物の成分の沸騰および/または劣化温度に依存する。
合計反応時間は、使用された一つまたは複数の試薬と、得ようとする粘度に依存する。これは好適には15分と15時間の間であり、好適には15分と2時間の間に位置する。」との記載によれば、OH試薬とともに、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、それらの不飽和誘導体を熱処理する際の温度及び時間の条件が記載されているが、本願発明の原料を「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」及び「OH試薬」の様な包括的な表現をしている以上、熱処理する際の温度及び時間の条件が記載されているとしても、「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」の重合物と「OH試薬」がどの様に反応して、どの様なラノリン代替物ができるのかを理解することができないし、段落【0064】、【0067】、【0068】に記載される「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」の具体的な化合物を見ても、やはり、どの様なラノリン代替物ができるのかを理解することができない。

(3)まとめ

以上を踏まえると、本願親出願の優先日当時の技術常識に照らして、実施例の記載、本願明細書に記載される合成の条件を含め、その他の本願明細書の発明の詳細な説明全体を見ても、「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」と「OH試薬」がどの様な反応して、どの様なラノリン代替物が生じているのかを理解することができないから、実際に本願発明に特定されるような「40℃での粘度が1000cPを越え」「少なくともその重量の二倍まで水、水溶液または水性懸濁液を吸収し、ラノリンを上回る水分保持能力をもつ、経時的に安定した真のエマルジョンを形成」するラノリン代替物を製造することができるということはできず、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

2 理由3について

本願発明の発明特定事項である「40℃での粘度が1000cPを越える」、「少なくともその重量の二倍まで水、水溶液または水性懸濁液を吸収し、ラノリンを上回る水分保持能力をもつ、経時的に安定した真のエマルジョンを形成する」ラノリン代替物として、本願明細書に具体的に開示されているのは、段落【0089】【表6】、【0094】【表7】の「CM78/01」?「CM99/01」の5種のラノリン代替物(他に、可能性があるのは段落【0101】【表9】の「CM110/01」、「CM118/01」)のみである。そして、本願発明の課題は、段落【0027】に記載されるように、ラノリン代替物の最適化された製造コストでの製造方法の提供にあると認められるところ、上記「1 理由2について」で述べたように、本願明細書には、本願発明の「40℃での粘度が1000cPを越え」「少なくともその重量の二倍まで水、水溶液または水性懸濁液を吸収し、ラノリンを上回る水分保持能力をもつ、経時的に安定した真のエマルジョンを形成」するラノリン代替物を、実際製造することができる製造方法の記載がないから、本願発明の発明の詳細な説明には、本願発明の課題に対応する「ラノリン代替物の最適化された製造コストでの製造方法」に関する事項は開示されていないことになる。
そうすると、ラノリン代替物の製造方法である本願発明は、本願親出願の優先日当時の技術常識に照らしても、本願発明の課題を解決することができるものであるとはいえないから、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。

3 平成29年7月28日に提出された意見書(以下、「意見書1」という。)、及び平成27年3月31日に提出された意見書(以下、「意見書2」という。)について

(1)意見書1について

ア 請求人の上記理由2に対する主張について

請求人は、意見書1で、上記理由2に対して、「本願明細書は、2つの加熱モード(熱または誘電性(マイクロ波))の明確な温度範囲を提供し、また、グリセロールの割合の影響に関して、また本発明の重要な特徴である製品の安定性に関しても数字データを提供しています。
また、本願明細書の実施例の記載は、何が最良で何が幾分劣るかという非常に有益な情報を当業者に提供するものです。
さらに、実施例からのデータの全体は、当業者が目的(どれくらいの水分%を閉じ込めるか、粘度はどれくらいか、最終製品のコストなど)に応じて方法の最善の操作条件を設計することを可能にします。
よって、本願明細書の実施例で提供されたデータの全体が価値のあるものです。
・・・そして、合成物の水分保持能力や経時的安定性等の特性は、温度、反応物質や添加物が変化すると異なります。これは、本願明細書において比較例を含む様々な実施例が提供される理由です。すなわち、実施例と比較例の助けを借りて、当業者は、グリセロールの割合、OH試薬の性質、温度などの要因の影響について明確な指針とともに、操作条件の設定を明白に設計できます。
本願発明は多数の組み合わせに適用されるものであり、これは本願明細書に記載の様々なリストや操作範囲から直接導けるものであり、実施例に記載の基準に基づいて本発明を再現できるように、十分な作用や比較データが当業者に提供されています。
この種の化学において、すべてのOH試薬は公知ですので、OH試薬の性質やOH試薬の割合の変化、温度変化が何をもたらすかを当業者は認識できます。
よって、本願明細書全体を参照して当業者が本願発明に係るラノリン代替物を製造するために求められるのは、非常に限られた数の試行錯誤の試験だけであると思料いたします。」と主張している。
しかしながら、本願明細書の記載では、上記「1 理由2について」で述べたように、実施例の具体的な製造方法として、「グリセロールを最初の混合物に添加してから合成を開始」(【0090】)するとしか記載されておらず、どの様な原料(混合物)に対して、どの様な反応条件で合成を行うのか明らかにされていないから、実施例、比較例としてラノリン代替物に関する複数のデータを開示しているとしても、「40℃での粘度が1000cPを越え」「少なくともその重量の二倍まで水、水溶液または水性懸濁液を吸収し、ラノリンを上回る水分保持能力をもつ、経時的に安定した真のエマルジョンを形成」するラノリン代替物を製造することができるとはいえない。
また、本願明細書の記載では、「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」と「OH試薬」がどの様な反応をして、どの様なラノリン代替物が生じているのか明らかにされておらず、ラノリン代替物の製造方法における本質的な事項が明らかにされていないから、上記意見書の主張の「実施例と比較例の助けを借りて、当業者は、グリセロールの割合、OH試薬の性質、温度などの要因の影響について明確な指針とともに、操作条件の設定を明白に設計できます。」及び「実施例に記載の基準に基づいて本発明を再現できるように、十分な作用や比較データが当業者に提供されています。」における「明確な指針」及び「実施例に記載の基準」といったものが明らかでなく、実際、「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」及び「OH試薬」から、熱処理により「40℃での粘度が1000cPを越え」「少なくともその重量の二倍まで水、水溶液または水性懸濁液を吸収し、ラノリンを上回る水分保持能力をもつ、経時的に安定した真のエマルジョンを形成」するラノリン代替物を製造するには、過度の試行錯誤を要するといえる。

イ 請求人の上記理由3に対する主張について

請求人は、意見書1で、上記理由3に対して、「すなわち、当業者は、表8と表9を組み合わせることによって、以下のことを直ちに理解します。
- 本発明のベストモードは3%のグリセロールであり、5%でさらに良くなりそうである(しかし、より高価であり、製作に明らかな妥協がある)。
- もう一つの良い解決策は、3%のポリグリセロールである。
- 他の解決策は、ソルビトール(表9は6%のソルビトールが3%のソルビトールよりも良い結果を与えることを示し、これは表8と首尾一貫しているので、9%のソルビトールは200%の水分吸収能力を提供するだろう)、3%以上だが明らかに30%以下のポリグリセロール(30%は液体である劣った製品を与える)、または6%より高いMEA、明らかに3%超で10%に近いビタミンC、及び6%より高くおそらく10か12%辺りのビタミンEである。
ここで限定する要因は、a)コスト、b)過多なポリグリセロールの割合である30%を有するCM121/01のように液体製品を得ないようにする上限です。
そのような指針は明確であり、当業者はすぐに理解可能です。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明には、特定の物性を有するラノリン代替物の製造方法である本願発明が、当業者であれば理解できる程度の実態をもって記載されているものと思料いたします。」と主張している。
しかしながら、上記理由3で指摘しているのは、特定の物性を有するラノリン代替物の「製造方法」が、実態をもって本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていないということであり、上記の意見書での主張は、上記理由3の指摘に対応するものではない。
そして、上記アで述べたように、本願明細書の発明の詳細な説明には、特定の物性を有するラノリン代替物の「製造方法」が、実態をもって記載されているとはいえない。

(2)意見書2について

請求人は、意見書2に「反応の詳細」と題する翻訳文を添付し、本願発明の説明としており、その第7頁に、従来のラノリン代替物の製造工程(重合工程)と、同第8頁には、該重合体とOH試薬との反応工程が記載されているが、この内容は、本願明細書に記載された範囲内の事項であるとはいえない。
特に、本願発明の原料は、「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」であり、上記翻訳文に記載される特定のトリグリセリドに対応するものではない。
また、上記1(2)で述べた様に本願明細書に記載の事項からは、具体的なラノリン代替物の構造を理解することができないのであるから、上記翻訳文に記載されるラノリン代替物の製造工程(重合工程)と、該重合体とOH試薬との反応工程は、本願明細書の記載の事項の範囲内のものであるいうことはできない。
さらに、上記翻訳文の第1頁第8?10行には、「半合成とは、要するに、天然分子を出発点として用いて、それに人工的修正を加えることにより、出発点となった分子に比べて性能の向上した誘導体を入手することを言う。」としているが、この主張を認めたとしても、天然分子である「不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、不飽和炭化水素、またはそれらの不飽和誘導体」は、多種多様に存在するものであり、上記翻訳文に記載される特定のトリグリセリドに対応するものということはできない。

よって、上記翻訳文に基づく意見書2における主張は、本願明細書の記載の事項に対応するものではない。

(3)意見書1及び意見書2に関するまとめ

上記(1)及び(2)で述べたとおり、意見書1及び意見書2での請求人の主張は、いずれも採用することができない。

第5 むすび

したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-21 
結審通知日 2017-11-28 
審決日 2017-12-11 
出願番号 特願2013-145955(P2013-145955)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11B)
P 1 8・ 536- WZ (C11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
原 賢一
発明の名称 ラノリン代替物、その取得方法と用途  
代理人 太田 恵一  

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