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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1339993
審判番号 不服2016-17890  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-30 
確定日 2018-05-09 
事件の表示 特願2013-544711「PVDにより形成される窒化アルミニウム緩衝層を有する窒化ガリウムベースのLEDの製造」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日国際公開、WO2012/082788、平成26年 3月13日国内公表、特表2014-506396〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2011年12月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年2月28日、2010年12月16日、いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出された。その後当審において、平成29年7月6日付けで拒絶理由が通知され、同年10月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 当審の拒絶理由
当審において平成29年7月6日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願の請求項1ないし5に係る発明は、周知技術を勘案することにより、本願の優先日前に日本国内において頒布された「特開2010-251705号公報」(以下「引用例1」という。)に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年10月6日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
発光ダイオード(LED)構造を製造する方法であって、前記方法は、
(i) マルチチャンバシステムの物理的気相堆積(PVD)チャンバ内で、基板の上に窒化アルミニウム層を形成することであって、該窒化アルミニウム層を形成することが該PVDチャンバ内に収容された窒化アルミニウムターゲットからの非反応性スパッタリングを含む、形成すること、
(ii) 前記マルチチャンバシステムの第1の有機金属化学気相堆積(MOCVD)チャンバ内で、窒化アルミニウム層の上にアンドープ窒化ガリウムまたはn型窒化ガリウムの層を形成すること、
(iii) 前記マルチチャンバシステムの第2のMOCVDチャンバ内で、前記アンドープ窒化ガリウムまたはn型窒化ガリウムの層の上に多重量子井戸(MQW)構造を形成すること、および
(iv) 前記マルチチャンバシステムの第3のMOCVDチャンバ内で、前記MQW構造の上にp型窒化アルミニウムガリウムまたはp型窒化ガリウムの層を形成すること、であって、
前記(i)-(iv)の工程を複数の基板のそれぞれに対して所定のサイクル時間毎に順次実施することを含み、
前記(i)-(iv)の工程が前記複数の基板の別基板に対して同時に進行することをさらに含む方法。」

4 引用例の記載と引用発明
(1)引用例の記載
引用例1には、図1、2とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同じ。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
…(略)…
【0006】
したがって、この従来技術に基づき、例えば、青色発光ダイオードの構成材をMOCVD法にしたがって作製しようとする場合、バッファ層の形成されたサファイア基板の上に、n型GaN層、多重量子井戸(MQW;Multi Quantum-well)活性層およびp型GaN層を同一の処理チャンバ内で順次積層して成膜処理していた。
【0007】
しかし、同一の処理チャンバ内で異なる膜の成膜処理を行う場合、例えば、ドーパントにSi等を用いたn型GaN層、ドーパントにSiやMg等を用いたInGaN層を含むこともあるMQW活性層およびドーパントにMg等を用いたp型GaN層を形成する各プロセスの間には、処理チャンバ内におけるドーパントや原料ガスの置換のための時間が必要となる。ここで、ガス置換が十分に行われないと、得られる製品の性能が劣化する。したがって、ガス置換にかける時間を安易に短縮することは許されない。つまり、得られる製品の性能を高レベルに維持しようとすると、ガス置換の時間を十分に長くする必要があり、装置の実質的な稼働率を十分に向上させることができなかった。その結果、成膜処理をして得られる製品のスループットを向上するのは困難であった。
…(略)…
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、有機金属気相成長法により、成膜室内に載置される基板に成膜処理を行う成膜装置であって、
前記成膜室を3室以上備え、
前記3室以上の成膜室は、互いに独立に、少なくとも原料ガスの組成と、原料ガスの流量と、室内の温度と、室内の圧力とが制御され、それぞれが異なる膜を基板上に形成するよう構成されたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第1の態様では、3室以上の成膜室は、少なくとも1つの成膜室でn型GaN層の膜を基板上に形成し、少なくとも1つの成膜室でMQW(MQW;Multi Quantum-well)活性層の膜を基板上に形成し、さらに少なくとも1つの成膜室でp型GaN層の膜を基板に形成するよう構成されており、
1枚の基板を3室以上の成膜室の間で搬送させて膜を形成することにより、青色発光ダイオードの構成材を製造するよう構成することができる。
…(略)…
【0018】
本発明の第2の態様は、基板が載置されたサセプタを3室以上の異なる成膜室内に順次自動的に搬送し、各成膜室内でそれぞれ異なる条件で、有機金属気相成長法により、それぞれ異なる膜を、順次基板上に積層した後、サセプタの表面に付着した膜を成膜室の外部に設けられた洗浄部で除去する成膜方法であって、
異なる積層膜は、n型GaN層と、多重量子井戸(MQW;Multi Quantum-well)活性層の膜と、p型GaN層の膜とであることを特徴とする成膜方法に関する。」

ウ 「【0024】
図1は、本実施の形態における成膜装置の模式的な平面図である。この図に示すように、成膜装置1は、サセプタ上に載置された基板の表面に膜を形成する第1の成膜室2、第2の成膜室102、および第3の成膜室202と、第1の開閉部3を介して第1の成膜室2に接続し、第2の開閉部103を介して第2の成膜室102に接続し、第3の開閉部203を介して第3の成膜室202と接続する基板待機部4と、各成膜室から基板待機部4を通って取り出されたサセプタ、特に第3の成膜室202から基板待機部4を通って取り出されたサセプタを洗浄する洗浄部5とを有する。
【0025】
成膜装置1は、MOCVD法により、成膜室内に載置される基板に成膜処理を行うものであるが、その特徴の一つは、上述のように、サセプタ上に載置された基板の表面に膜を形成する成膜室が第1から第3まで、3つ設けられていることである。…(略)…そして、各成膜室のそれぞれが、成膜処理時の加熱温度や、原料ガスおよびキャリアガスとの反応性を考慮して選択されたヒータを備え、室内の温度を調整し、適当な成膜条件となるようそれぞれ独立に制御され、基板の表面に所望の層がそれぞれ形成されるよう成膜処理が行われる。このとき、成膜装置1では、第1の成膜室2で成膜処理された後、第2の成膜室102で異なる層の成膜処理が行われ、最後に第3の成膜室202でさらに異なる層の成膜処理がなされて、基板の一連の成膜処理が終了するように構成されている。
【0026】
成膜装置1の別の特徴の1つは、第1の成膜室2、第2の成膜室102および第3の成膜室202内に複数の基板を搬入し、これらの基板に対して同時に成膜処理を行う点にある。すなわち、本発明では、枚葉処理とバッチ処理を組み合わせて成膜を行う。これにより、従来の枚葉型成膜装置で1枚ずつ行っていた処理が複数枚ずつ行えるようになるので、成膜装置1の稼働率を向上させることができる。」

エ 「【0030】
次に、成膜装置1の動作と本発明による成膜方法について、図1および図2を用いて詳しく説明する。
【0031】
第1の成膜室2、第2の成膜室102および第3の成膜室202のそれぞれ室内で基板Wを支持するサセプタSは、サセプタ待機チャンバ6内に収納されている。サセプタ待機チャンバ6内のサセプタSは、第1の成膜室2、第2の成膜室102、第3の成膜室202および基板待機部4の外部に設けられた洗浄部5で洗浄されたものである。成膜処理を行う際には、サセプタ搬送用ロボット7によって、サセプタ待機チャンバ6からサセプタSを取り出し、基板-サセプタ載置部8に載置する。
【0032】
一方、成膜処理が行われる基板Wは、カセット9に収納されている。…(略)…また、基板Wとしては、例えば、青色発光ダイオードなどの用途で使用されるサファイア(α-Al_(2)O_(3))、炭化珪素(SiC)、酸化亜鉛(ZnO)などを挙げることができる。そして、例えばサファイア基板においては、基板上に高品質の膜形成を行うため、表面に10nm程度の厚さのアモルファスGaNバッファ層を形成する。…(略)…
【0033】
尚、本発明の別の実施形態として、成膜装置において、第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室とは別にプラズマCVD法による成膜を行う成膜室を設け、サファイア基板の表面に上述の条件でアモルファスGaNバッファ層を成膜し、そのバッファ層の形成された基板を使用して、第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室でそれぞれ固有の成膜処理を行うように構成することも可能である。
…(略)…
【0035】
成膜装置1には、複数の基板が載置されたサセプタを複数投入することができる。本実施の形態では、基板W1が載置されたサセプタS1と、基板W2が載置されたサセプタS2と、基板W3が載置されたサセプタS3と、基板W4が載置されたサセプタS4とが投入されている。具体的には、図1に示すように、基板-サセプタ載置部8にサセプタS1が、基板待機部4にサセプタS2が、第1の成膜室2にサセプタS3が、第2の成膜室102にサセプタS4がそれぞれ搬入されている。ここで、基板W1は成膜未処理の基板、基板W2は成膜処理済みの基板、基板W3および基板W4は成膜処理中の基板であるとする。以下では、基板W1とサセプタS1を中心に説明する。
…(略)…
【0053】
尚、説明を省いたが、基板W2が載置されたサセプタS2や、基板W3が載置されたサセプタS3や、基板W4が載置されたサセプタS4についても、基板W1が載置されたサセプタS1と同様にして基板-サセプタ載置部8から大気中に取り出される。その後、基板W2や基板W3や基板W4は、カセット9の所定位置に収納される。また、サセプタS2やサセプタS3やサセプタS4は、洗浄部5で表面に付着した膜や汚れを除去された後、サセプタ待機チャンバ6に収納される。洗浄部5での洗浄は、各成膜室で他の基板が処理されている間に行われる。すなわち、洗浄のために成膜処理が中断されることがないので、第1?第3の各成膜室での稼働率を向上させて効率良く成膜することができる。一方、次に成膜処理が行われる基板WとサセプタSが、カセット9とサセプタ待機チャンバ6から取り出され、上記と同様にして、基板待機部4や基板-サセプタ載置部8に搬入される。」

オ「【0054】
次に、サセプタS1に載置された基板W1について、第1?第3の各成膜室内で行われる成膜処理、成膜方法についてより詳細に説明する。
【0055】
サセプタS1に載置された基板W1に対し行われる成膜処理は、上述の成膜装置1を使用し、MOCVD法により、青色発光ダイオードの構成材を製造するよう構成されたものである。図2は、本実施の形態の成膜方法により製造される部材の層構成の一例を示す模式的な断面図である。
【0056】
基板には、サファイア基板を使用することができる。本実施の形態では、サファイア基板として、上述のように、基板上に高品質の膜形成を行うため、表面に10nm程度の厚さのアモルファスGaNバッファ層を備えるものを使用する。このアモルファスGaNバッファ層は、500℃程度で水素ガスによるサファイア基板表面の水素ラジカルクリーニングをした後、水素ガスをキャリアガスとし、1.33×10^(4)?2.67×10^(4)Pa(100?200Torr)程度の低圧下、500℃程度の低温度でサファイア基板上に形成することが可能である。
【0057】
このバッファ層の形成されたサファイア基板を上述のようにサセプタ上に載置し、成膜装置1の第1の成膜室2に搬入する。そして、第1の成膜室2内にあるサセプタ台の上に載置する。第1の成膜室2には、高温プロセスに好適なタングステンヒータが設けられている。そして、1.33×10^(4)?2.67×10^(4)Pa(100?200Torr)程度の減圧下、キャリアガスである水素ガスを流しながら、サファイア基板を1050℃±1℃の高温に加熱する。尚、基板加熱のために設けられたヒータには、高温プロセスに好適なRFコイルやモリブデンヒータを選択して使用することも可能である。そして、原料ガスを導入しつつサファイア基板の載置されたサセプタ台を回転させることにより、全てのサファイア基板を回転させ、全てのサファイア基板の上に均一な厚さのn型GaN層の成膜を行う。ここで、原料ガスの導入は、第1の成膜室2の上部に設けられたシャワーヘッド(図示せず)から、サファイア基板に対して垂直にフローするように行う。また、例えば、300rpm?1000rpmの高速でサセプタ台を回転させながら成膜する。n型GaN層の厚さは、例えば3?4μmとすることができる。原料ガスとしては、例えば、III族原料ガスにトリメチルガリウム(TMG)を用い、V族原料ガスにアンモニア(NH_(3))を用い、n型ドーパントにはSiを用いる。
【0058】
サファイア基板上へのn型GaN層の成膜の後、サセプタ上の処理済み基板を第1の成膜室2から搬出し、第2の成膜室102に搬入する。そして、第2の成膜室102内にあるサセプタ台の上に載置する。そして、常圧条件下、キャリアガスである窒素ガスを流しながら、サファイア基板を(700℃?800℃)±1℃の比較的低温に加熱する。このとき、第2の成膜室102には、SiCヒータが基板加熱のために配設されている。
【0059】
…(略)…
【0060】
原料ガスを導入しつつ、サファイア基板の載置されたサセプタ台を回転させることにより、全てのサファイア基板を回転させ、全てのサファイア基板の上に均一な形態のMQW活性層の成膜を行う。ここで、原料ガスの導入は、第2の成膜室102の上部に設けられたシャワーヘッド(図示せず)から、サファイア基板に対して垂直にフローするように行う。また、例えば、300rpm?1000rpmの高速でサセプタ台を回転させながら成膜する。本実施形態におけるMQW活性層は、InGaNを含むMQW構造を備えており、電子と正孔とが再結合することにより発せられる光を増幅する作用を有する層である。MQW活性層は、数nm?数十nmの複数のInGaN層と、数nm?数十nmの複数のGaN層または先のInGaN層とはInの組成比が異なる(In)GaN層とが交互に20層程度積層されて構成された多層膜である。上記のInGaN層は、In組成比を15%程度とすることにより、バンドギャップが比較的小さくなるとされており、MQW活性層における井戸層構造を可能にしている。上記(In)GaN層は、MQW活性層のバリア層を形成している。MQW活性層の成膜のための原料ガスとしては、例えば、III族原料ガスにトリメチルガリウム(TMG)を用い、トリメチルインジウム(TMI)を用い、V族原料ガスにアンモニア(NH_(3))を用いる。
【0061】
…(略)…
【0062】
サファイア基板上へのMQW活性層の成膜の後、サセプタ上の処理済み基板を第2の成膜室102から搬出し、第3の成膜室202に搬入する。そして、第3の成膜室202内にあるサセプタ台の上に載置する。第3の成膜室202には高温プロセスに好適なタングステンヒータが選択されて配設されている。そして、おおよそ常圧の環境(若干の減圧環境)の下、キャリアガスである水素ガスを流しながら、第1および第2の成膜室で成膜処理を施したサファイア基板を1000℃±1℃の高温に加熱する。尚、基板加熱のために設けられたヒータは高温プロセスに好適なRFコイルやモリブデンヒータを選択して使用することも可能である。
【0063】
そして、原料ガスを導入しつつ、サファイア基板の載置されたサセプタ台を回転させることにより、全てのサファイア基板を回転させ、全てのサファイア基板の上に均一な厚さのp型半導体層の成膜を行う。ここで、原料ガスの導入は、第3の成膜室202の上部に設けられたシャワーヘッド(図示せず)から、サファイア基板に対して垂直にフローするように行う。例えば、300rpm?1000rpmの高速でサセプタ台を回転させながら成膜する。p型半導体層は、p型AlGaN層とp型GaN層とを順次積層して構成された膜であり、第1および第2の成膜室で成膜処理を施したサファイア基板上のMQW活性層の上に1μm程度の厚さを持って均一に成膜される。原料ガスとしては、例えば、III族原料ガスにトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)を用い、IV族原料ガスにアンモニア(NH_(3))を用い、p型ドーパントにはMgを用いる。
【0064】
サファイア基板上へのp型半導体層の成膜により、サファイア基板上には、n型GaN層と、MQW活性層と、p型半導体層であるp型AlGaN層およびp型GaN層とが順次成膜され、成膜処理は終了する。そして、この成膜処理済みの基板は、第3の成膜室202から搬出され、基板-サセプタ搬送用ロボット17によって、基板-サセプタ載置部8内に搬送され所定位置に載置される。
【0065】
そして、上述のように、基板搬送用ロボット10により、成膜済のサファイア基板をカセット9の所定位置に収納し、一方、サセプタは、サセプタ搬送用ロボット7によって洗浄部5に搬送され、洗浄がなされる。
【0066】
以上より、MOCVD法により、青色発光ダイオードの構成材を製造する成膜方法を説明したが、必要なn型半導体層とMQW活性層とp型半導体層の成膜工程を個別の成膜室を用いて実施している。従来装置を使用した従来成膜方法によれば、一つの成膜室で全成膜工程を実施するため、n型の膜とp型の膜を形成する工程の間では、ドーパントガスの置換が必須となる。このガス置換が十分でないと、得られる構成材の性能劣化が生じてしまうからである。しかし、本実施形態の成膜装置を用いた成膜方法では、各工程に対応した個別の成膜室を使用することを可能としており、ガス置換に要する時間を短縮でき成膜工程の高効率化が可能となり、また、得られる構成材の性能についてもそれを高めること容易となる。」

カ 図1は、「本実施の形態における成膜装置の模式的な平面図」であり、図2は、「本実施の形態の成膜方法により製造される部材の層構成の一例を示す模式的な断面図」であり、それぞれ以下のとおりのものである。


(2)引用発明
ア 上記(1)イの段落【0018】に記載の基板上に積層される「異なる積層膜」は、「n型GaN層と、多重量子井戸(MQW;Multi Quantum-well)活性層の膜と、p型GaN層の膜とである」から、段落【0006】、【0032】及び【0055】、【0064】、【0066】の記載を勘案すると、当該「異なる積層膜」は、「青色発光ダイオードの構成材」であることは明らかである。

イ 上記(1)イの段落【0018】に記載の「それぞれ異なる膜」は、「各成膜室内でそれぞれ異なる条件で、有機金属気相成長法により」、「順次基板上に積層」されるものである。したがって、上記(1)ウの段落【0025】、エの【0031】?【0033】の記載及び図1を勘案すると、引用例1には、マルチチャンバシステムの成膜装置において、MOCVD法により成膜を行う、第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室、並びにプラズマCVD法による成膜を行うアモルファスGaNバッファ層用の成膜室を設け、サファイア基板の表面に、アモルファスGaNバッファ層を成膜し、そのバッファ層の形成された基板を使用して、第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室で、上記それぞれ異なる膜を、順次基板上に積層することが開示されている。

ウ したがって、図1、2を参酌してまとめると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「青色発光ダイオードの構成材であり、基板上に積層される異なる積層膜の成膜方法であって、
有機金属気相成長法(MOCVD法)により成膜を行う、第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室、並びにプラズマCVD法による成膜を行うアモルファスGaNバッファ層用の成膜室が設けられた成膜装置において、
サファイア基板の表面に、アモルファスGaNバッファ層を成膜し、
そのバッファ層の形成された基板を使用して、基板が載置されたサセプタを第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室内に順次自動的に搬送し、各成膜室内でそれぞれ異なる条件で、有機金属気相成長法により、それぞれ異なる膜を、順次基板上に積層した後、サセプタの表面に付着した膜を成膜室の外部に設けられた洗浄部で除去する成膜方法であり、
前記異なる積層膜は、n型GaN層と、多重量子井戸(MQW;Multi Quantum-well)活性層の膜と、p型GaN層の膜とであり、
成膜装置には、前記基板が載置されたサセプタを複数投入することができる成膜方法。」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「青色発光ダイオードの構成材であり、基板上に積層される異なる積層膜」は、本願発明の「発光ダイオード(LED)構造」に相当する。

(2)引用発明の「第1の成膜室」、「第2の成膜室」、「第3の成膜室」は、それぞれ本願発明の「マルチチャンバシステムの第1の有機金属化学気相堆積(MOCVD)チャンバ」、「マルチチャンバシステムの第2のMOCVDチャンバ」、「マルチチャンバシステムの第3のMOCVDチャンバ」に相当する。
また、本願発明の「マルチチャンバシステムの物理的気相堆積(PVD)チャンバ」と引用発明の「プラズマCVD法による成膜を行うアモルファスGaNバッファ層用の成膜室」とは、「マルチチャンバシステムのチャンバ」である点で共通する。

(3)本願発明の「窒化アルミニウム層」と引用発明の「アモルファスGaNバッファ層」とは、III族窒化物系化合物層である点で共通する。
更に、引用発明の「n型GaN層」、「多重量子井戸(MQW;Multi Quantum-well)活性層の膜」、「p型GaN層の膜」は、それぞれ本願発明の「n型窒化ガリウムの層」、「多重量子井戸(MQW)構造」、「p型窒化ガリウムの層」に相当する。

(4)引用発明は、「有機金属気相成長法(MOCVD法)により成膜を行う、第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室、並びにプラズマCVD法による成膜を行うアモルファスGaNバッファ層用の成膜室が設けられた成膜装置において、サファイア基板の表面に、アモルファスGaNバッファ層を成膜し、そのバッファ層の形成された基板を使用して、基板が載置されたサセプタを第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室内に順次自動的に搬送し、各成膜室内でそれぞれ異なる条件で、有機金属気相成長法により、それぞれ異なる膜を、順次基板上に積層」するものである。
したがって、引用発明では、(1)サファイア基板の表面に、アモルファスGaNバッファ層用の成膜室内で、アモルファスGaNバッファ層を成膜する工程、(2)第1の成膜室内で、n型GaN層を形成する工程、(3)第2の成膜室内で、多重量子井戸(MQW;Multi Quantum-well)活性層の膜を形成する工程、(4)第3の成膜室内で、p型GaN層の膜を形成する工程を、各工程毎の所定の時間(本願発明の「サイクル時間」に相当する。)で、順次実施すること、すなわち、所定のサイクル時間で順次実施すること、及び上記4(1)エの段落【0035】等の記載から、これらの(1)?(4)の工程は、複数のサセプタS1ないしS4に載置された基板のそれぞれに対して所定のサイクル時間毎に順次実施するものであることは、いずれも明らかである。
よって、本願発明と引用発明とは、「前記(i)-(iv)の工程を複数の基板それぞれに対して所定のサイクル時間毎に順次実施する」ものである点で一致する。

(5)したがって、本願発明と引用発明との、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「発光ダイオード(LED)構造を製造する方法であって、前記方法は、
(i) マルチチャンバシステムのチャンバ内で、基板の上にIII族窒化物系化合物層を形成することであって、該III 族窒化物系化合物層を形成すること、
(ii) 前記マルチチャンバシステムの第1の有機金属化学気相堆積(MOCVD)チャンバ内で、III族窒化物系化合物層の上にn型窒化ガリウムの層を形成すること、
(iii) 前記マルチチャンバシステムの第2のMOCVDチャンバ内で、前記n型窒化ガリウムの層の上に多重量子井戸(MQW)構造を形成すること、および
(iv) 前記マルチチャンバシステムの第3のMOCVDチャンバ内で、前記MQW構造の上にp型窒化アルミニウムガリウムまたはp型窒化ガリウムの層を形成することと、であって、
前記(i)-(iv)の工程を複数の基板それぞれに対して所定のサイクル時間毎に順次実施することを含む方法。」

<相違点1>
基板の上にIII族窒化物系化合物層を形成することについて、本願発明では、III族窒化物系化合物層が窒化アルミニウム層であり、「マルチチャンバシステムの物理的気相堆積(PVD)チャンバ内で、基板の上に窒化アルミニウム層を形成することであって、該窒化アルミニウム層を形成することが該PVDチャンバ内に収容された窒化アルミニウムターゲットからの非反応性スパッタリングを含む、形成すること」であるのに対し、引用発明では、「プラズマCVD法による成膜を行う成膜室」内で、サファイア基板の上に「アモルファスGaNバッファ層」を形成するものであり、本願発明のこのような特定はなされていない点。

<相違点2>
本願発明は、「前記(i)-(iv)の工程が前記複数の基板の別基板に対して同時に進行することをさらに含む」のに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

6 当審の判断
(1)相違点1について
ア 引用例1には、基板上に高品質の膜形成を行うため、サファイア基板として、表面にアモルファスGaN層からなるバッファ層が形成された基板を使用する旨が記載されている(上記4(1)エの段落【0032】?【0033】、オの段落【0056】?【0057】を参照。)。

イ 一方、サファイア基板上に窒化ガリウムを直接エピタキシャル成長させた場合、結晶性の良好な結晶が得られないという問題があり、そこで、サファイア基板上に、MOCVD法で、アンドープまたはn型窒化ガリウムの層を形成し、その上にMQW構造の発光層を形成し、その上にp型窒化アルミニウムガリウムまたはp型窒化ガリウムの層を形成することを含む方法において、まず、サファイア基板上に、窒化アルミニウム層からなるバッファ層をスパッタ法で形成し、その上に、アンドープまたはn型の窒化ガリウムの層などをMOCVD法で形成することは周知技術(以下「周知技術1」という。)であり、例えば、下記の周知例1?4に記載されている。
また、周知例3には、AlNがサファイアとGaNの中間的な格子定数と熱膨張係数を持つため、格子不整合と熱歪みが効率的に緩和される結果、エピタキシャル膜品質を向上することができる旨が開示されている。

ウ 周知例2、周知例4に記載の技術において、窒化アルミニウム層を形成するスパッタ法は、非反応性スパッタリングではなく、反応性スパッタリングであるものの、周知例1(段落【0009】を参照。)には、「有機金属を原材料に用いない方法にはリアクティブスパッタ法を含むスパッタ法…がある。」、「第1のIII族窒化物系化合物自体をターゲットとしてそのまま用いる場合もある。」と記載され、すなわち「リアクティブスパッタ法以外のスパッタ法」、「AlNをターゲットとすること」が示唆されており、周知例3(段落【0065】、【0067】を参照。)には、プラズマスパッタ法によりAlNを成膜するために、高純度AlNをターゲットとする場合と高純度AlをターゲットとしてガスにN_(2)を入れて分解したAlとNとを反応させる場合とが考えられる旨が記載されている。
すなわち、周知例1及び周知例3には、窒化アルミニウムターゲットからの非反応性スパッタリングで窒化アルミニウム層を形成することが示唆されている。

エ 引用発明において、「アモルファスGaNバッファ層」は、サファイア基板上に高品質の膜形成を行うためのバッファ層であり、上記周知技術1における窒化アルミニウム層も、周知例3に記載のように、エピタキシャル膜品質を向上するための膜であり、かつ格子不整合等を緩和させることができる膜であるといえる。
したがって、引用発明において、周知例1?4に記載の周知技術1に基づき、バッファ層として、「アモルファスGaNバッファ層」に替えて、窒化アルミニウム層を採用することは、当業者であれば容易になし得たことであり、その際の窒化アルミニウム層の形成法として、周知例1、3に記載の窒化アルミニウムターゲットからの非反応性スパッタリングを採用することも当業者であれば適宜なし得たことである。

オ また、周知例4には、スパッタチャンバとMOCVDチャンバを備えたマルチチャンバシステムが開示されているから、上記エのとおり、バッファ層として、窒化アルミニウムターゲットからの非反応性スパッタリングで形成する窒化アルミニウム層を採用することに伴い、窒化アルミニウム層を形成するチャンバについては、プラズマCVD法による成膜を行う成膜室を、スパッタリングを行うチャンバ、すなわちPVDチャンバに替えることは、当業者であれば当然なすことと認められる。

カ したがって、引用発明において、周知例1?4に記載の周知技術1に基づき、相違点1に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(ア)周知例1:特開2001-94150号公報
・「【請求項15】 400℃以上のサファイア基板へスパッタ法によりAlNからなるバッファ層を形成し、
前記サファイア基板を昇温してMOCVD法を実行し、前記バッファ層の上にIII族窒化物系化合物半導体層を形成する、ことを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体素子の製造方法。」
・「【0009】
有機金属を原材料に用いない方法にはリアクティブスパッタ法を含むスパッタ法(特にDCマグネトロンスパッタ法)、蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法及びECR法がある。かかる方法によれば、第1のIII族窒化物系化合物からなるバッファ層を形成する原材料として金属アルミニウム、金属ガリウム、金属インジウムと窒素ガス若しくはアンモニアガスが用いられる。また第1のIII族窒化物系化合物自体をターゲットしてそのまま用いる場合もある。いずれにしても有機アルミニウムに比べてこれら原材料は安価である。」
・「【0019】
【実施例】次にこの発明の実施例について説明する。実施例は発光ダイオード10であり、その構成を図2に示す。
【0020】各層のスペックは次の通りである。
層 : 組成:ドーパント (膜厚)
透光性電極19
p型クラッド層 18 : p-GaN:Mg (0.3μm)
発光層 17 : 超格子構造
量子井戸層 : In_(0.15)Ga_(0.85)N (35Å)
バリア層 : GaN (35Å)
量子井戸層とバリア層の繰り返し数:1?10
n型クラッド層 16 : n-GaN:Si (4μm)
バッファ層 15 : AlN (640Å)
基板 11 : サファイア(a面) (300μm)」

(イ)周知例2:特開2009-81406号公報
・「【0004】
従来、III族窒化物半導体の単結晶ウェーハは市販されておらず、III族窒化物半導体としては、異なる材料の単結晶ウェーハ上に結晶を成長させて得る方法が一般的である。このような、異種基板と、その上にエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体結晶との間には、大きな格子不整合が存在する。例えば、サファイア(Al_(2)O_(3))基板上に窒化ガリウム(GaN)を成長させた場合、両者の間には16%の格子不整合が存在し、SiC基板上に窒化ガリウムを成長させた場合には、両者の間に6%の格子不整合が存在する。一般に、上述のような大きな格子不整合が存在する場合、基板上に結晶を直接エピタキシャル成長させることが困難となり、また、成長させた場合であっても結晶性の良好な結晶が得られないという問題がある。
【0005】
そこで、有機金属化学気相成長(MOCVD)法により、サファイア単結晶基板もしくはSiC単結晶基板の上に、III族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる際、まず、基板上に窒化アルミニウム(AlN)や窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる低温バッファ層と呼ばれる層を積層し、その上に高温でIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる方法が提案されており、一般に行われている(例えば、特許文献1、2)。」
・「【0019】
<発光素子の積層構造>
図1は、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の一例を説明するための図であり、基板上にIII族窒化物半導体が形成された積層半導体の一例を示す概略断面図である。
図1に示す積層半導体10は、基板11上にIII族窒化物化合物からなるバッファ層12が積層され、該バッファ層12上に、n型半導体層14、発光層15、及びp型半導体層16が順次積層されてなる半導体層20が形成されている。本実施形態のバッファ層12は、上述したように、反応性スパッタ法によって形成される層であり、酸素濃度が1原子%以下とされている。
そして、上述の積層半導体10には、図2の平面図及び図3の断面図に示す例のように、p型半導体層16上に透光性正極17が積層され、その上に正極ボンディングパッド18が形成されるとともに、n型半導体層14のn型コンタクト層14bに形成された露出領域14dに負極19が積層され、本実施形態の発光素子1が構成される。
以下、本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子の積層構造について詳述する。」
・「【0026】
本実施形態では、バッファ層12がAlNからなる組成であることが好ましい。
一般に、基板上に積層させるバッファ層としては、Alを含有する組成とされていることが好ましく、一般式AlGaInNで表されるIII族窒化物化合物であれば、如何なる材料でも用いることができ、さらに、V族としてAsやPが含有される組成とすることもできる。なかでも、バッファ層を、Alを含んだ組成とした場合、GaAlNとすることが好ましく、この場合には、Alの組成が50%以上とされていることがより好ましい。また、バッファ層12は、AlNからなる構成とすることが最も好ましい。」
・「【0058】
本実施形態の製造方法では、基板11上にIII族窒化物半導体の結晶をエピタキシャル成長させ、図1に示すような積層半導体10を形成する際、基板11上にバッファ層12を成膜し、その上に半導体層20を形成する。本実施形態では、バッファ層12を、金属Al原料と窒素元素を含んだガスとをプラズマで活性化させる反応性スパッタ法によっってAlNから形成し、その上に、n型半導体層14の下地層14aをMOCVD法によって形成した後、n型コンタクト層14bをスパッタ法で形成し、その上のn型クラッド層14c及び発光層15の各層をMOCVD法で形成し、そして、p型半導体層16をスパッタ法で形成する方法としている。」
・「【0088】
「発光層の形成」
n型クラッド層14c上には、発光層15を、従来公知のMOCVD法によって形成する。
本実施形態で形成する、図1に例示するような発光層15は、GaN障壁層に始まりGaN障壁層に終わる積層構造を有しており、GaNからなる6層の障壁層15aと、ノンドープのIn_(0.2)Ga_(0.8)Nからなる5層の井戸層15bとを交互に積層して形成する。
また、本実施形態の製造方法では、n型クラッド層14cの成膜に用いるMOCVD炉と同じものを使用することにより、従来公知のMOCVD法で発光層15を成膜することができる。」

(ウ)周知例3:特開2010-21439号公報
・「【0002】
III族窒化物半導体GaN,AlN,InGaN、AlGaNでは大型のバルク単結晶を成長することが極めて困難であるので、サファイアを基板として用いたヘテロエピタキシャル成長が一般に行われてきた。しかし、サファイアと上記III族窒化物半導体の間には11?23%の格子不整合および?2×10^(-6)/℃の熱膨張係数差が存在する。また、両者の化学的性質が違うために、サファイア上に直接成長したIII族窒化物半導体エピタキシャル膜は、基板の単結晶としての性質を部分的にしか受け継がないで、三次元的に成長してしまい、表面の形を平坦に保つことも非常に難しいとされてきた。GaNの単結晶膜を成長させるための基板に必要な特性としてまず、1200℃までの耐熱性と、その温度においてNH_(3)に反応しないことが要求される。この点から、使用可能なコストで製造可能な基板としてはサファイアとSiCしか現在存在しない。そのなかでもコストを比較するとサファイアが圧倒的に有利であり、実際世の中で生産されているGaN系の発光素子(LED)の90%以上がサファイア基板を使用するものである。しかし、サファイアとGaNとは格子定数が違い、熱膨張係数の違い、さらに化学的特性が違うために直接GaN単結晶は成長させることができないとされている。この結果、サファイア基板上に作製したGaN系発光素子はいろいろな工夫で大幅な改善がなされてきたとはいえ内部にかなり高密度の欠陥を包含しており、発光効率や素子寿命を十分に向上させることに限界があるという問題があった。
【0003】
一般的に、格子不整合の大きなヘテロエピタキシャル成長で結晶性の良い単結晶膜を得る方法としては以下の2通りの考え方の流れがある。
(i)基板とエピタキシャル膜の中間的な物理定数をもつ材料を介して成長を行うことによりエピタキシャル膜の品質を向上することができる。すなわち、格子定数、化学的性質、熱膨張係数などが中間的な性質を持つ薄膜を間に挟む。その場合には、基板の単結晶の性質をできるだけそのまま単結晶で受け継ぎたいので単結晶薄膜を挿入する必要がある。
(ii)目的の単結晶薄膜と同じ物質の多結晶あるいは非晶質の膜を挟む。…(略)…
【0004】
まず(i) の考え方は、基板とエピタキシャル膜の中間的な物理定数をもつ材料を介して成長を行うことによりエピタキシャル膜の品質を向上することができるとする考え方である。したがって、サファイア上のGaN層を成長させるためにはAlN層を介した成長が有効であると考えられる。これはAlNがサファイアとGaNの中間的な格子定数と熱膨張係数を持つため、格子不整合と熱歪みが効率的に緩和される結果である。また、AlNとGaNの化学的特性が近く、両者の間の界面エネルギも小さい。これは見方を変えると以下のようにも理解できる。サファイア、すなわちAl_(2)O_(3)は酸化物であり、これに化学的に最も近い窒化物はAlを共通にしているAlNである。格子の不整合は11%で比較的大きいが、Alを共通にしていることによりAlN単結晶が成長しやすい。またAlNはGaNが唯一全率固溶で混ざり合う化合物であるので、化学的性質は最も近いし、格子不整合は2%しかない。したがって、Al_(2)O_(3)/GaNを直接成長させるのは難しくても、Al_(2)O_(3)/AlN/GaNのようにAlNを挟めばサファイア(Al_(2)O_(3))の結晶性を引き継いでGaNの単結晶を成長させ得る。したがって、平坦なAlN層を単結晶のまま形成できさえすればその上に成長するヘテロエピタキシャル膜のGaNの膜質を飛躍的に向上させることができる。」
・「【0065】
本発明のAlNシード層の製造法におけるその他の重要なパラメーターとしては、ターゲットの種類、電圧・磁場印加方法、ガスの種類、ターゲットと基板の距離、プラズマの形状とプラズマを閉じ込める体積、ガス圧力、印加パワー、成膜温度である。それらについて順次説明する。
(ターゲットの種類・電圧・磁場印加方法)
チャンバー内にプラズマを起こす方法は大きく分けると印加する電圧がDCかRFか、チャンバーをアースした場合電圧をかける対象がターゲットか基板か、で4種類に分類される。AlNを成膜するためのターゲットとしては高純度AlNをターゲットとする場合と高純度AlをターゲットとしてガスにN_(2)を入れてプラズマでN_(2)を分解してAlとNとを反応させる場合とが考えられる。…(略)…」
・「【0067】
以上を総合してAlNシード層を成膜する場合は高純度Alターゲットを用いたRF放電が最も適している。
(ガスの種類)
プラズマを発生させるガスの種類は、ターゲットがAlNならばAr,Xe、Kr等の有効な質量を持つ希ガス(好ましくはAr)のみでも可能である(以下、希ガスとしてArについて説明する)が、ターゲットがAlの場合はArとN_(2)が必要である。N_(2)のみであるとAl原子が叩き出される前にAlNとなってしまってほとんど成膜速度が出てこない。Arのみであると金属Alの薄膜が成膜される。N_(2)の量を増やしていくとAlNが形成されていくが、N_(2)のガス分圧が低いとAlNのN_(2)が不足し膜に色がついてしまう。Alで飛び出した原子を丁度窒素化するためには活性化したN_(2)が叩き出されてくるAl原子の数にあっている必要がある。…(略)…」
・「【0070】
本発明においては、ついでAlN結晶膜のシード層(12)上に、n型半導体層(14)、発光層(15)およびp型半導体層(16)からなるIII族窒化物半導体層(20)を積層してIII族窒化物半導体積層構造体(10)を得る。サファイア基板(11)の上にシード層(12)が形成されるとその上にGaN系単結晶を成長させるのはホモエピタキシャル成長に近いので比較的容易である。広く行われているMOCVD法で欠陥密度の小さいGaN系単結晶構造の成長が実現される。MOCVD法は一般的な方法でよい。その概略は以下の通りである。」
・「【0081】
p型コンタクト層(16b)としては、たとえばGaN、AlGaNが好適に使用され、その膜厚としては50?300nmが好ましく、さらに好ましくは1 00?200nmである。p型不純物としては、特に限定されないが、好ましくはMgが挙げられる。
(発光層)
発光層(15)も特に制限されないが、障壁層(バリア層)(15a)となるn型GaN層と井戸層(15b)となるGaInN層を交互に積層させた多重量子井戸構造を有するのが好適である。」
・「【0124】
積層構造体は、サファイアのC面((0001)結晶面)からなる基板上に、AlN単結晶のシード層25nm, その上にアンドープGaN下地層(膜厚=6μm)、Siドープn型GaNコンタクト層(膜厚=2μm)、Siドープn型In_(0.01)Ga_(0.99)Nクラッド層(膜厚=50nm)、6層のSiドープGaNバリア層(膜厚=14.0nm)と5層のアンドープIn_(0.20)Ga_(0.80)Nの井戸層(層厚=2.5nm)からなる多重量子構造の発光層、Mgドープp型Al_(0.07)Ga_(0.93)Nクラッド層(層厚=10nm)及びMgドープp型Al_(0.02)Ga_(0.98)Nコンタクト層(層厚=150nm)を積層して構成した。」

(エ)周知例4:特開2008-91470号公報
・「【0004】
III族窒化物化合物半導体の単結晶ウエーハはいまだ市販されておらず、III族窒化物化合物半導体は異なる材料の単結晶ウエーハ上に結晶を成長させる方法が一般的である。このような異種基板と、その上にエピタキシャル成長させるIII族窒化物化合物半導体結晶の間には大きな格子不整合が存在する。例えばサファイア(Al_(2)O_(3))と窒化ガリウム(GaN)の間には16%、SiCと窒化ガリウムの間には6%の格子不整合が存在する。一般にこのような大きな格子不整合が存在する場合には、基板上に結晶を直接エピタキシャル成長させることが困難であり、成長させても結晶性の良好な結晶は得られない。そこで、有機金属化学気相成長(MOCVD)法によりサファイア単結晶基板やSiC単結晶基板の上にIII族窒化物化合物半導体結晶をエピタキシャル成長する場合、特許第3026087号公報(特許文献1)や特開平4-297023号公報(特許文献2)に示されているように、窒化アルミニウム(AlN)やAlGaNで構成される低温バッファ層と呼ばれる層を基板の上にまず堆積し、その上に高温でIII族窒化物化合物半導体結晶をエピタキシャル成長させる方法が一般に行われてきた。
【0005】
バッファ層としてAlNなどの層を、MOCVD以外の方法で成膜し、それ以降の層をMOCVD法で成膜する技術に関しても、いくつか報告がある。例えば、特公平5-86646号公報(特許文献3)には高周波スパッタで成膜したバッファ層上に、MOCVD法で同じ組成の結晶を成長させる技術が記載されている。しかし、特許第3440873号公報(特許文献4)および特許第3700492号公報(特許文献5)のなかで、この特公平5-86646号公報(特許文献3)に記載されている技術だけでは安定して良好な結晶を得ることができない旨が記載されている。安定して良好な結晶を得るために、特許第3440873号公報(特許文献4)ではバッファ層成長後にアンモニアと水素からなる混合ガス中でアニールすることが、そして特許第3700492号公報(特許文献5)ではバッファ層を400℃以上の温度でDCスパッタにより成膜することが重要であるとされている。」
・「【0012】
本発明のIII族窒化物化合物半導体積層構造体は、最も膜厚が厚く良好な均一性が必要な下地層を、量産性、均一性の良好なスパッタ法で形成し、かつ、良好な結晶性と組成やドーピングの制御が必要な発光層とコンタクト層を、原料の反応の制御性が良好なMOCVD法で作製するなどするので、均一性の良い結晶膜を短時間で得ることができ、生産性が改良され、かつ、特性の良好な素子を形成できる。すなわち、本発明によれば、スパッタ法とMOCVD法を組み合わせてIII族窒化物化合物半導体積層構造体を成膜する技術を提供しうる。」
・「【0025】
…(略)…
<バッファ層の成膜>
バッファ層は、スパッタ法を用いて成膜することが好適である。
…(略)…
【0027】
スパッタ法には、RFスパッタとDCスパッタがある。一般的に、本発明のように金属と窒素を反応させて成膜するリアクティブスパッタを用いた場合には、連続的に放電させるDCスパッタでは帯電が激しく、成膜レートのコントロールが困難である。…(略)…」
・「【0060】
…(略)…
<装置に関して>
本発明における工程で積層構造を成膜させるための装置としては、1つの装置内にスパッタチャンバとMOCVDチャンバを併せ持つ装置とすることが望ましい。」
・「【0063】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例では、バッファ層、下地層、nコンタクト層をスパッタ工程で、nクラッド層、発光層、pクラッド層、pコンタクト層をMOCVD工程で成膜した。成膜に使用した装置は、2つのスパッタチャンバと1つのMOCVDチャンバを備え、各チャンバ間は真空のコアで接続されている。コア内にはロボットアームが設置され、ウエーハトレイごとウエーハを搬送する形式となっている。
【0064】
まず、第一のスパッタチャンバを用いて、c面サファイア基板上にプラズマ処理を施した後にバッファ層としてRFスパッタ法を用いてAlNの柱状結晶の集合体を形成し、その上に下地層およびnコンタクト層として、第二のスパッタチャンバ内でRFスパッタを用いてGaNの層を形成した。nコンタクト層には、Siをドープした。以下に詳細な手順を述べる。
…(略)…
【0075】
以上の手順にて作製したSiドープGaN層上に、途中で取り出さずに、MOCVDチャンバへ搬送して、nクラッド層、発光層、pクラッド層、pコンタクト層からなる素子機能構造を形成し、最終的に図1に示す半導体発光素子用の層構造を有するエピタキシャルウェーハを作製した。
【0076】
つまりエピタキシャルウェーハは、c面を有するサファイア基板9上に、柱状の構造を持つAlN層8(バッファ層)を形成したのち、基板側から順に、6μmのアンドープGaN層7(下地層)、1×10^(19)cm^(-3)の電子濃度を持つ2μmのSiドープGaN層6(nコンタクト層)、1×10^(18)cm^(-3)の電子濃度を持つ200ÅのIn_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層5(nクラッド層)、GaN障壁層に始まりGaN障壁層に終わる、層厚を160Åとする6層のGaN障壁層3と、層厚を30Åとする5層のノンドープのIn_(0.2)Ga_(0.8)N井戸層4とからなる多重量子井戸構造20(発光層)、50ÅのMgをドープしたAl_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層2(pクラッド層)、膜厚0.2μmのMgドープAl_(0.02)Ga_(0.98)N層1(pコンタクト層)、を積層した構造を有する。」

(2)相違点2について
ア 引用発明は、上記4(1)アの段落【0007】に記載のようにスループットを向上するのは困難であったことを課題の一つとしており、引用発明における「成膜装置」は、「第1の成膜室、第2の成膜室および第3の成膜室、並びにプラズマCVD法による成膜を行うアモルファスGaNバッファ層用の成膜室が設けられた」もの、すなわち、マルチチャンバシステムであり、「成膜装置には、前記基板が載置されたサセプタを複数投入することができる」ものである。
更に、上記4(1)エの段落【0035】には、複数のサセプタS_(1)、S_(2)、S_(3)及びS_(4)それぞれに載置された基板は、成膜未処理の基板、成膜済みの基板、成膜処理中の基板である旨が記載されており、図1には、第1の成膜室2にサセプタS_(3)が搬入されており、第2の成膜室102にサセプタS_(4)が搬入されている成膜装置が示されている。
同段落【0053】には、「洗浄部5で洗浄は、各成膜室で他の基板が処理されている間に行われる。…(略)…、第1?第3の成膜室での稼働率を向上させて効率良く成膜することができる。」と記載されている。

イ 一方、マルチチャンバシステムを用いて、基板の上に、発光ダイオード構造などの窒化物系半導体構造を形成する方法において、異なるチャンバにおける処理を同時に進行させることは周知技術(以下「周知技術2」という。)であり、例えば、下記の周知例5及び6に記載されている。
また、周知例5の段落[0023]には、一実施形態において、HVPEチャンバ内で第1層が基板上に堆積され、MOCVDチャンバで第2層が第1層上に堆積される旨が開示されており、段落[0049]には、2つのMOCVDチャンバ及び1つのHVPEチャンバを備える処理ステムの実施形態において、別々のキャリアプレートに積載された基板を各MOCVDチャンバ及びHVPEチャンバで並行して処理する旨が記載されている。

ウ したがって、引用発明において、上記周知例5及び6に記載の周知技術2に基づき、スループットを向上させるために、複数のサセプタのそれぞれに載置された基板に対して、異なるチャンバにおける成膜を同時に進行させるものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
よって、引用発明において、上記周知例5及び6に記載の周知技術2に基づき、相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(ア)周知例5:国際公開第2009/099721号
・「BACKGROUND OF THE INVENTION
Field of the Invention
[0001] Embodiments of the present invention generally relate to the manufacture of compound nitride semiconductor devices, such as light emitting diodes (LEDs), and, more particularly, to a processing system integrating one or more processing chambers that implement hydride vapor phase epitaxial (HVPE) deposition and/or metal-organic chemical vapor deposition (MOCVD) techniques to fabricate such devices.」
(「発明の背景
発明の技術分野
【0001】 本発明の実施形態は概して、発光ダイオード(LED)等の窒化物系化合物半導体デバイスの製造に関し、より詳細にはこのようなデバイスを作製するための水素化物気相エピタキシャル(HVPE)堆積及び/又は有機金属化学気相蒸着(MOCVD)技術を実行するための1つ以上の処理チャンバを統合する処理システムに関する。」)(審決注:翻訳文は合議体にて作成した。以下同じ。)
・「[0023] The present invention generally provides an apparatus and method for simultaneously processing substrates using a multi-chamber processing system (e.g. a cluster tool) that has an increased system throughput, increased system reliability, and increased substrate to substrate uniformity. In one embodiment, the processing system is adapted to fabricate compound nitride semiconductor devices in which a substrate is disposed in a HVPE chamber where a first layer is deposited on the substrate and then the substrate is transferred to a MOCVD chamber where a second layer is deposited over the first layer. In one embodiment, the first layer is deposited over the substrate with a thermal chemical-vapor-deposition process using a first group-III element and a nitrogen precursor and the second layer is deposited over the first layer with a thermal chemical-vapor deposition process using a second group-III precursor and a second nitrogen precursor. Although described in connection to a processing system that comprises one MOCVD chamber and one HVPE chamber, alternate embodiments may integrate one or more MOCVD and HVPE chambers. …(略)…」
(「【0023】 本発明は、概して、高いシステムスループット、高いシステム信頼性及び高い基板間均一性を有するマルチチャンバ処理システム(例えば、クラスタツール)を使用した、基板を同時処理するための装置及び方法を提供する。一実施形態において、処理システムは複合窒化物半導体デバイスを作製するように構成されており、基板はHVPEチャンバ内に配置され第1層が基板上に堆積され、次に基板はMOCVDチャンバに搬送され、そこで第2層が第1層上に堆積される。一実施形態において、第1層は、第1のIII族元素及び窒素前駆体を使用して熱化学気相蒸着法で基板上に堆積され、第2層は、第2のIII族前駆体及び第2の窒素前駆体を使用して熱化学気相蒸着法で第1層上に堆積される。1つのMOCVDチャンバ及び1つのHVPEチャンバを備えた処理システムについて説明したが、他の実施形態では1つ以上のMOCVD及びHVPEチャンバを統合し得る。…(略)…」)
・「[0049] While the foregoing embodiments have been described in connection to a processing system that comprises one MOCVD chamber and one HVPE chamber, alternate embodiments may integrate one or more MOCVD and HVPE chambers in the processing system, as shown in FIGS. 11 and 12. FIG. 11 illustrates an embodiment of a processing system 1100 that comprises two MOCVD chambers 102 and one HVPE chamber 104 coupled to the transfer chamber 106. In the processing system 1100, the robot blade is operable to respectively transfer a carrier plate into each of the MOCVD chambers 102 and HVPE chamber 104. Multiple batches of substrates loaded on separate carrier plates thus can be processed in parallel in each of the MOCVD chambers 102 and HVPE chamber 104.」
(「【0049】 上記の実施形態を1つのMOCVDチャンバ及び1つのHVPEチャンバを備えた処理システムに関連させて説明してきたが、他の実施形態では、図11及び図12に図示されるように、処理システム内で1つ以上のMOCVD及びHVPEチャンバを統合する。図11は、搬送チャンバ106に連結された2つのMOCVDチャンバ102及び1つのHVPEチャンバ104を備える処理システム1100の実施形態を示す。処理システム1100において、ロボットブレードは、キャリアプレートを各MOCVDチャンバ102及びHVPEチャンバ104にそれぞれ搬送することができる。次に、別々のキャリアプレートに積載された複数のバッチの基板を各MOCVDチャンバ102及びHVPEチャンバ104で並行して処理することが可能である。」)

(イ)周知例6:特表2009-533879号公報
・「【0011】
1.全体像
[0018]窒化化合物半導体構造の従来の作製においては、多数のエピタキシャル堆積ステップが、全てのステップが完了するまで、基板をリアクタから出さずに、単一のプロセスリアクタ内で実行される。図1における説明図は、形成することができる構造の一種と、このような構造を製造するのに使用されるステップのシーケンスの両方を示す。この場合、該基板は、Ga-NベースのLED構造100である。該構造は、サファイア(0001)基板104上に製造され、該基板は、ウェーハ洗浄処理手順に従う。適切な洗浄時間は、1050℃において10分であり、加熱及び冷却のために10分程度の追加時間を加えてもよい。
【0012】
[0019]GaN緩衝層112は、有機金属化学気相堆積プロセス(metalorganic chemical vapor deposition;MOCVD)を用いて、洗浄された基板104を覆って堆積される。このことは、Ga及びN前駆物質のフローを該リアクタに提供し、熱プロセスを用いて堆積を達成することにより遂行することができる。該図は、約300Åの厚さを有する典型的な緩衝層112を図示し、該緩衝層は、5分間、約550℃の温度で堆積することができる。次のn-GaN層116の堆積は、典型的には、該図で1050℃で実行されると示されているように高温で行われる。n-GaN層116は、比較的厚く、約140分を要する、4μm程度の厚さの堆積を伴う。この後には、InGaN多重量子井戸層120の堆積が続き、該量子井戸層は、750℃、約40分で、約750Åの厚さを有するように堆積することができる。p-AlGaN層124は、多重量子井戸層120を覆って堆積され、950℃、約5分間で完了する200Åの層の堆積を伴う。該構造は、約25分間、約1050℃の温度で堆積されるp-GaN接触層128の堆積によって完了することができる。
【0013】
[0020]単一の期間で、単一のリアクタ内で実行される、多数のエピタキシャル堆積ステップを伴う従来の製造は、通常、4?6時間程度の長い処理時間をもたらす。この長い処理時間は、多くの場合、バッチ処理技術の使用によって対処される、リアクタの低いスループットによって顕在化する。例えば、製造プロセスに使用される工業用リアクタは、20?50枚の2インチウェーハに対して同時に作動することができ、これは、比較的不十分な歩留まりをもたらす。
【0014】
[0021]窒化化合物半導体構造を製造する技術において、歩留まり及びスループットをどのように改善させるかを検討する際、本発明者らは、可能な改善を確認するために、従来のプロセスの系統的研究に従事した。多くの可能性が確認されたが、それらの実施に対しては、いくつかの障壁が残っていた。多くの場合において、該プロセスの一部の改善が、該プロセスの1つ以上の部分に悪影響を与えるという特徴がある。この種の障壁の系統的本質の結果として、この課題は、本発明者等に、単一リアクタというアプローチが、該プロセスにおける個々のステップのためのリアクタハードウェアの最適化を妨げるように作用したという、より全般的な認識を促した。このような限定は、温度、圧力、前駆物質の相対流量等のパラメータによって決まる、異なる化合物構造の成長に対して、限定されたプロセスウィンドウをもたらす。例えば、GaNの最適な堆積は、必ずしも、InGaNの最適な堆積と同じ条件下で、又は、AlGaNの最適な堆積と同じ条件下で実行される必要はない。
【0015】
[0022]本発明者らは、マルチチャンバクラスタツールの一部としての多数の処理チャンバの使用が、異なる化合物構造に対して使用可能なプロセスウィンドウを拡大する可能性を有すると判断した。このことは、特定の処理手順を強化するように適合された構造を有する異なる処理チャンバ内で、異なる化合物のエピタキシャル成長を実行することによって達成される。このようなアプローチの実際の実施において直面する1つのさらなる困難は、該クラスタツール内でのチャンバ間の移送が、界面欠陥状態の発生を引き起こす可能性のある、成長シーケンスの中断を生じるというさらなる認識であった。」
・「【0057】
[0063]他の効果的な働きは、多数の処理チャンバの使用の結果として起きる。例えば、図1に示す構造の場合、n-GaN層116の堆積は、該層が最も厚いため、最も時間がかかることは前に言及した。n-GaN層を堆積するために、多数の処理チャンバが同時に、及び互い違いの開始時間(合議体注:「開示時間」は「start times」の誤訳。)を伴って使用される構成を用いることができる。単一の追加的処理チャンバが、残りの構造の堆積のために使用され、該残りの構造は、急速なGaN堆積に適合された処理チャンバから交互に収容される。このことは、n-GaN層の堆積が行われている間に、該追加的処理チャンバを休止させることを回避し、それによって、特に、該追加的処理チャンバの洗浄サイクルを縮める能力と結合した場合には、全体のスループットが改善される。ある場合においては、この能力は、例えば、10μmに近い厚さのGaNを含むデバイスの場合、他の処理方法に対しては経済的ではない特定の窒化物構造の製造に有利な実現可能性を提供する。」

(3)また、本願発明が奏する作用効果について、本願の明細書の段落【0011】、【0020】、【0025】には、LED構造に使用されるマルチチャンバ製造ツールにおいて、より高いスループットを実現可能とする旨が記載されている。
上記「6(2)相違点2について」のアで検討したように、引用発明も、「スループットを向上するのは困難であったことを課題の一つとしており」、且つ同イで検討したように、「マルチチャンバシステムを用いて、基板の上に、発光ダイオード構造などの窒化物系半導体構造を形成する方法において、異なるチャンバにおける処理を同時に進行させることは周知技術」である。
したがって、本願発明が奏する作用効果についても、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2から当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとは認められない。

(4)判断についてのまとめ
したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-21 
結審通知日 2017-11-28 
審決日 2017-12-12 
出願番号 特願2013-544711(P2013-544711)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 恩田 春香
近藤 幸浩
発明の名称 PVDにより形成される窒化アルミニウム緩衝層を有する窒化ガリウムベースのLEDの製造  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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