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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C |
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管理番号 | 1340024 |
審判番号 | 不服2016-13867 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-09-15 |
確定日 | 2018-05-07 |
事件の表示 | 特願2015-103541「発光性トリアリール」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日出願公開、特開2015-180662〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成22年6月28日〔パリ条約による優先権主張2009年6月29日(US)米国〕を出願日とする特願2010-146534号(以下「親出願」という。)の一部を、平成27年5月21日に新たな特許出願としたものであって、 平成27年6月11日付けで上申書が提出されるとともに手続補正がなされ、 平成28年1月8日付けの拒絶理由通知に対して、平成28年3月9日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされ、 平成28年6月17日付けの拒絶査定に対して、平成8年9月15日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、平成29年1月13日付けで上申書の提出がなされ、 平成29年6月2日付けの拒絶理由通知に対して、平成29年8月3日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正(以下「第4回目の手続補正」という。)がなされ、さらに、平成29年8月8日付けで手続補足書の提出がなされ、 平成29年8月18日付けの審尋に対して、平成29年11月22日付けで回答書の提出がなされたものである。 2.本願発明 本願の特許を受けようとする発明は、第4回目の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された「発光性トリアリール」に関するものであって、その請求項1?13の記載は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 式: 【化1】 ![]() (式中、R^(2)およびR^(3)は、独立して、F、または、Clであり; R^(4)およびR^(5)は、独立して、H、F、または、Clであり; 各Arは、独立して、1,4-フェニレンであり; nは、1、2または3であり、 R^(6)は、ジフェニルアミノ、カルバゾリル-9-イル、ジフェニルアミノフェノキシ、または、カルバゾリル-9-イル-フェノキシである) で表わされる化合物。 【請求項2】 R^(2)およびR^(3)がFである、請求項1に記載の化合物。 【請求項3】 nが^(2)または^(3)である、請求項2に記載の化合物。 【請求項4】 R^(6)が 【化2】 ![]() である、請求項3に記載の化合物。 【請求項5】 少なくとも1つのArが非置換である、請求項1に記載の化合物。 【請求項6】 式: 【化3】 ![]() で表わされる、請求項1に記載の化合物。 【請求項7】 式: 【化4】 ![]() で表わされる、請求項1に記載の化合物。 【請求項8】 アノード層; カソード層;および アノード層とカソード層との間に配置され、請求項1に記載の化合物を含む発光層を含む発光素子。 【請求項9】 R2およびR3が、独立してFである、請求項8記載の素子。 【請求項10】 nが2または3である、請求項8に記載の素子。 【請求項11】 R6が 【化5】 ![]() である、請求項8に記載の素子。 【請求項12】 少なくとも1つのArが非置換である、請求項8に記載の素子。 【請求項13】 前記化合物が 【化6】 ![]() または 【化7】 ![]() である、請求項8に記載の素子。」 3.当審による拒絶理由通知の概要 平成29年6月2日付けの拒絶理由通知においては、その「理由2」として『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。』との理由が示され、その「下記の点」として『本願明細書の発明の詳細な説明には、上記「化合物8」以外の化合物の有用性について、実際に試験を行った試験結果が示されておらず、上記「化合物8」の「CH_(3)O-」基と、本願請求項7の化合物の「カルバゾール-9-イル」基とが、本願所定の課題における有用性の点において「同等な置換基」として機能できるといえる具体的な根拠(実験データや技術常識の存在)も見当たらない。このため、本願請求項1の式における「R^(6)」が、本願明細書の段落0023?0024に記載された「ジアリールアミン」及び「ジアリールアミノフェノキシ」などである場合のもの全てが、実際に「製造」及び「使用」でき、上記『消費電力の効果的低減』や『良好な安定性』や『高いルミネセンス効率』や『濃青色発光体』として有用な『化合物若しくは発光素子の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。また、例えば本願明細書の段落0032には『置換基の違いによって化合物の発光特性や有用性に様々な違いが生じる』という旨が記載されているところ、例えば、本願請求項1のArの「1,4-フェニレン」に置換される「C_(1?3)アルキル」と「FおよびCl」の選択肢は、前者が電子供与性基であり、後者が電子吸引性基になっているので、これらの置換基の選択肢の各々が電子的特性や立体的特性において同等な範囲にあるとは解せない。このため、本願請求項1の式における「R^(2)およびR^(3)」が「F」以外のもの、同「R^(4)およびR^(5)」が「H」以外のもの、同「Ar」が無置換の「1,4-フェニレン」以外のものについては、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び/又は本願出願時の技術常識を参酌しても、これらの全てが実際に「製造」及び「使用」でき、上記『消費電力の効果的低減』や『良好な安定性』や『高いルミネセンス効率』や『濃青色発光体』として有用な『化合物若しくは発光素子の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。』という旨の指摘がなされている。 4.当審の判断 (1)サポート要件について 一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。 そこで、このような観点から、本願の請求項1を引用する請求項8に係る発明(以下「本8発明」という。)が、サポート要件を満たす範囲のものであるか否かについて検討する。 (2)特許請求の範囲及び明細書の記載 本願特許請求の範囲の請求項1?13の記載は、上記「2.本願発明」の項に示したとおりである。 また、本願明細書の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がなされている。 摘示a:課題と解決手段 「【0005】ある種のトリフェニル化合物は、電気光学的な光屈折性液晶用途の有機光屈折性ポリマー複合材料の添加剤として使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これらの化合物はいずれも、青色発光蛍光化合物であるとは報告されていなかった。したがって、消費電力を効果的に低減させ、種々の色の発光をもたらすために、良好な安定性および高いルミネセンス効率を有する濃青色発光体の開発が望まれている。… 【発明の概要】 【課題を解決するための手段】 【0007】一部の実施形態において、濃青色発光体として有用な化合物を提供する。一部の実施形態において、一連の2個、3個または4個が直接結合されたアリール環、例えば3個または4個が直接結合された、任意選択で置換されているフェニル環またはインターフェニレン環を含み、該アリール環のうち2個は、少なくとも1つの電子供与性置換基を含む第1の末端アリール環、および少なくとも1つの電子求引性置換基を含む第2の末端アリール環であり、第1の末端アリール環および第2の末端アリール環が、残りの任意選択で置換されている環によって任意選択で架橋されている、濃青色発光体として有用であり得る化合物を提供する。」 摘示b:シフトされ得る程度の影響 「【0032】なんら特定の理論または機構に拘束されないが、青色発光化合物を、「プッシュ」(電子供与)末端および「プル」(電子求引または電子受容)末端を有するように構築することは、発光性分子の軌道構造に、分子のエネルギーレベルが紫外光発光化合物から濃青色発光化合物にシフトされ得る程度に影響を及ぼし得ると考えられる。 【0033】したがって、一実施形態において、青色発光化合物の「プッシュ」末端の末端フェニルは、電子供与ヘテロ原子、例えば、N、OまたはSを有する少なくとも1つの置換基を含む。別の実施形態において、「プッシュ」末端の末端フェニルは、少なくとも1つの電子供与性置換基を、結合対象のインターアリーレンに対してm-および/またはp-位の少なくとも1ヶ所に含む。一部の実施形態において、該電子供与基は、メチル基、イソプロピル基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピロリジン基、またはフェニル基であり得る。一部の実施形態において、濃青色発光化合物の「プル」末端の末端フェニルは、独立して、少なくとも1つの電子求引性置換基、例えば、フルオロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメチル部分を有するフェニル基などの少なくとも1つを含み得る。式1のいくつかの化合物は、このような「プッシュ-プル系」の例であり得る。」 摘示c:合成方法 「【0060】(実施例1:一般的な合成方法) 当業者には、開示した化合物を調製するための多くの方法が容易に明らかであるが(本明細書に示した教示に鑑みて)、一般的なスキーム1に、さまざまな化合物を調製するために使用され得る方法を示す。 スキーム1【化13】 ![]() 【0061】この方法では、アミンまたはヒドロキシル部分(-X-H)およびハロゲン置換基(Brなど)を有するビフェニル(化合物1)をR6’-Iに、塩基(例えば、Cs2CO3)などの触媒を用いてカップリングさせ、化合物2を形成する。次いで、化合物2のフェニル環上のハロゲン(臭素など)を、リチウム交換など金属交換(この後、ボロン酸での置換を行なってもよい)を含むプロセスによって活性化することができる。次いで、該化合物を、別の芳香族環(図示した実施形態に示したものなど)に、第2のハロゲン-金属カップリングによってカップリングして、式1の化合物の実施形態である化合物4を形成することができる。市販の供給源および/または標準的な化学反応によって利用可能なアリール環において、さまざまな置換が利用可能である。 スキーム2【化14】 ![]() 」 摘示d:素子 「【0065】(実施例2:素子の製作) 発光素子の製作:ITOコートしたガラス基材を、アセトン中、続いて2-プロパノールで超音波によってクリーニングし、110℃で約3時間ベークした後、酸素プラズマで5分間処理した。PEDOT:PSS(H.C.Starckから購入したBayton P)の層を、事前にクリーニングしてO2プラズマ処理した(ITO)基材上に約3000rpmでスピンコートし、約180℃で10分間アニールし、約40nmの厚さを得た。グローブボックスホスト真空蒸着システム内で、10^(-7)トール(1トール=133.322Pa)の圧力にて、4,4’,4”-トリ(N-(カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)をまず、PEDOT:PSS層の上面に、約0.06nm/sの堆積速度で堆積させ、約30nm厚の膜を得た。次いで、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)および濃青色発光体化合物8を同時に加熱し、TCTAの上面に、異なる堆積速度で堆積させ、8の層を約3wt%(約0.0018nm/s)で作製した後、1,3,5-トリス(N-フェニルベンズイミダゾル-2-イル]ベンゼン(TPBI)を約0.06nm/sの堆積速度で堆積させた。次いでCsFおよびAlを、それぞれ、約0.005nm/sおよび約0.2nm/sの堆積速度で連続して堆積させた。個々の各素子は、約0.14cm^(2)の面積を有した。 【0066】 (実施例3:素子の性能) 化合物8を含み、実施例1および2に従って製作した素子Aを試験し、(1)素子Aの 発光強度(波長の関数としての素子の強度[a.u.])を調べること;(2)素子AのCIE座標を調べること;ならびに(3)素子Aの効率(素子に印加される電圧の関数としての電流密度および輝度;ならびに電流密度の関数としての外部量子効率および輝度)を調べることにより素子の発光量を測定した。スペクトルはすべて、Ocean Optics HR 4000分光計(Ocean Optics,Dunedin,FLA,USA)により測定し、I-V-L特性は、Keithley 2400 SourceMeter(Keithley nstruments,Inc,Cleaveland,OH,USA)ならびにNewport 2832-C電力計および818UV検出器(Newport,Corp.,Irvine,CA,USA)により得た。素子の作動はすべて、窒素を充填したグローブボックス内部で行なった。素子(素子A)の例示的な構成を図1に示す。 【0067】図2は、素子AのエレクトロルミネセンススペクトルおよびCIE座標を示す。スペクトルは、約400?約500nmの間に有意な発光を示す。濃青色発光放射線の純度は、CIE座標(X=0.16,Y=0.10)によって示される。 【0068】また、図3および4に示されるように、素子Aは、慣用的なLED作動パラメータにおいて有効性を示す。図3は、素子Aの駆動電圧(ボルト)の関数としての電流密度(mA/cm^(2))および輝度(cd/m)が、発光ダイオードの許容範囲内であることを示す。 【0069】図4は、素子Aの電流密度の関数としての発光効率および外部量子効率(EQE[%])が、発光ダイオードの許容範囲内であることを示す。したがって、化合物8は発光素子における青色発光化合物としての有効性が示され、式1の他の化合物もおそらく同様の性能を発揮することを示す。 【0070】当業者には、数多くの種々の変形が、本発明の精神を逸脱することなく行なわれ得ることが理解されよう。したがって、本発明の諸形態は例示にすぎず、本発明の範囲の限定を意図するものではないことを明白に理解されたい。」 (3)本8発明の解決しようとする課題 本願明細書の段落0005(摘示a)を含む発明の詳細な説明の全体の記載からみて、本8発明の解決しようとする課題は『消費電力を効果的に低減させ、良好な安定性および高いルミネセンス効率を有する濃青色発光体として有用な請求項1に記載の化合物を含む発光素子の提供』にあるものと認められる。 (4)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比 本8発明は、本願請求項8の「請求項1に記載の化合物を含む発光層を含む発光素子。」との記載にあるように、本願請求項1に記載された「式」の化合物を発明特定事項として含むものである。 これに対して、本願明細書の段落0061(摘示c)の「実施例1」には、スキーム2として「 ![]() 」という化学構造の「化合物8」の合成例が記載され、同段落0065(摘示d)の「実施例2」には、当該「化合物8」を真空蒸着システム内で堆積させてなる素子の作製例が記載され、同段落0066(摘示d)の「実施例3」には、化合物8を含み、実施例1及び2に従って作成した素子Aを試験し、その発光強度、CIE座標、効率などの性能を調べた試験例が記載され、同段落0069(摘示d)には「化合物8は発光素子における青色発光化合物としての有効性が示され、式1の他の化合物もおそらく同様の性能を発揮することを示す。」との記載がなされている。 しかしながら、当該「化合物8」は、本願請求項1の「式」の定義を満たすものではない。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1の「式」の定義を満たす化合物を実際に合成し、当該化合物を含む素子を実際に製造し、当該化合物を含む素子が発光素子として期待通りの性能を示すことを確認した試験結果についての記載がない。 また、本願明細書の段落0069(摘示d)の「式1の他の化合物もおそらく同様の性能を発揮することを示す」との記載については、そもそも「おそらく」という表現を使用していることから推測を述べているにすぎず、そのことは措くとしても、式1のどの化合物が、どの程度まで消費電力を効果的に低減させ、良好な安定性及び高いルミネッセンス効率を有する濃青色発光体として有用な発光素子を提供するのかについて、具体的に記載するものではない。 してみると、本8発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に実質的に記載されているとは認められない。 (5)課題を解決できる範囲にあるか否か 例えば、平成28年9月15日付けの審判請求書の第4頁などでは『本願発明のように各ブランチが相違する化学構造をもつ化合物は、その合成手法や精製手法も難易度が高いものであり、かつ、実際に製造して実験しようとすること自体、たとえば、技術的、人的、時間的、経済的コストも生じ、上記認定のように机上で安易になしうるものではない。』との主張がなされているところ、一般に『本願請求項1に記載の式にあるような化学構造をもつ化合物については、その合成手法や精製手法の難易度が非常に高く、実際に製造できるか否かは実際に試験してみなければわからない』というのが当業者における通常の認識であると認められる。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1の「式」の定義を満たす化合物を実際に合成できることを裏付ける実施例などの記載がないので、本願明細書の発明の詳細な説明及び親出願の出願時の技術常識を参酌したとしても、本願請求項8の発光素子の提供に不可欠な「請求項1に記載の化合物」の全てを実際に合成でき、それを含む発光素子を提供できると当業者が認識できるとはいえない。 また、仮に「請求項1に記載の化合物」の全てが合成可能な範囲にあると解しても、当該化合物の全てが発光素子を製造するのに適した蒸着特性などの物性を有する範囲にあると解すべき具体的な根拠が見当たらない。 このため、本願請求項1を引用する請求項8の記載が、本8発明の『消費電力を効果的に低減させ、良好な安定性および高いルミネセンス効率を有する濃青色発光体として有用な請求項1に記載の化合物を含む発光素子の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとは認められない。 さらに、一般に『化学物質の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しない』というのが当業者の広く認識しているところであり、本願明細書の段落0032(摘示b)の記載においても、置換基の特性の度合いや違いよって、発光性分子の特性が、紫外光発光化合物(不可視領域)から濃青色発光化合物(可視領域)にシフトされ得る程度に影響され得ることが示唆されている。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1の「式」の定義を満たす化合物を発光素子を実際に作製し、その性能を評価した試験結果の記載がないので、本願明細書の発明の詳細な説明及び親出願の出願時の技術常識を参酌したとしても、 本願請求項1の式における「R^(6)」が、本願請求項1に記載された「ジフェニルアミノ、カルバゾリル-9-イル、ジフェニルアミノフェノキシ、またはカルバゾリル-9-イル-フェノキシ」である場合のものが、いずれも期待通りの発光特性を示す範囲にあると直ちに解することができず、 本願請求項1の式における「R^(2)およびR^(3)」が「F」以外のもの、並びに同「R^(4)およびR^(5)」が「H」以外のものが、いずれも期待通りの発光特性を示す範囲にあると直ちに解することができない。 このため、本願請求項1を引用する請求項8の記載が、本8発明の『消費電力を効果的に低減させ、良好な安定性および高いルミネセンス効率を有する濃青色発光体として有用な請求項1に記載の化合物を含む発光素子の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとは認められない。 (6)審判請求人の主張について 平成29年11月22日付けの回答書において、審判請求人は『様々な電子供与性基は他と同程度の電子供与特性、等しい電気的特性を有するか否かは問題にはなりません。異なる電子供与特性の置換基または異なる電気的特性の置換基は全て濃青色発光体として作用します。加えて、請求項に含まれる実施形態全てが、その程度まで程度の作用効果を有することを示す必要もありません。…請求項に記載の文言は全て明細書に記載されております。請求項記載の発明は、明細書に開示の範囲を逸脱しておりません。特に、請求項の記載は十分特定されており、明細書中の記載よりも非常に限定しています。また、請求項に記載の置換基は、明細書の開示及び技術常識に基づき、全て電子供与性基であることは合理的に理解されます。明細書の段落[0007]の開示では、実施例の記載も含め、当業者は請求項記載の置換基でも濃青色発光体として作用しうることを認識可能です。』と主張している。 しかしながら、上記「等しい電気的特性を有するか否かは問題にはなりません。」との主張、及び「異なる電気的特性の置換基は全て濃青色発光体として作用します。」との主張について、本願明細書の段落0032(摘示b)には、置換基の電気的特性が異なれば「発光性分子の軌道構造に、分子のエネルギーレベルが紫外光発光化合物から濃青色発光化合物にシフトされ得る程度に影響を及ぼし得ると考えられる」と記載されているので、異なる電気的特性の置換基が全て濃青色発光体として作用すると解することはできず、そのように解すべきとする親出願の出願時の技術常識も見当たらない。 また、上記「請求項に含まれる実施形態全てが、その程度まで程度の作用効果を有することを示す必要もありません。」との主張について、請求項に含まれる範囲のもの全てが、本8発明の解決しようとする課題を解決できる範囲にあると当業者が認識できる範囲にないとすれば、そのような請求項の記載がサポート要件を満たしていると解することはできない。 さらに、上記「明細書の段落[0007]の開示では、実施例の記載も含め、当業者は請求項記載の置換基でも濃青色発光体として作用しうることを認識可能です。」との主張について、本願明細書の「実施例」は、本8発明の「請求項1に記載の化合物」と異なる化合物を用いたものであり、本願明細書の段落0007(摘示a)の「濃青色発光体として有用であり得る化合物を提供する」との記載は、濃青色発光体として「有用であり得る」という可能性を示唆しているにすぎないので、このような記載によっては、本8発明の発光素子の全てが「濃青色発光体」として作用すると認識することができるとは認められない。 したがって、審判請求人の主張を参酌しても、本願請求項1を引用する請求項8の記載がサポート要件を満たす範囲にあると解することはできない。 (7)まとめ 以上総括するに、本願特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項8の記載は、発明の詳細な説明の記載又は親出願の出願当時の技術常識に照らし、本8発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められないから、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 したがって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものではないから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-03-06 |
結審通知日 | 2018-03-09 |
審決日 | 2018-03-26 |
出願番号 | 特願2015-103541(P2015-103541) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C07C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 緒形 友美、瀬下 浩一、井上 典之 |
特許庁審判長 |
守安 智 |
特許庁審判官 |
榎本 佳予子 木村 敏康 |
発明の名称 | 発光性トリアリール |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |