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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1340028
審判番号 不服2016-18881  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-15 
確定日 2018-05-07 
事件の表示 特願2015- 22469「2チャンバガス放電レーザにおけるレーザ制御の方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月18日出願公開、特開2015-111718〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願の特許請求の範囲の記載
1 手続の経緯
本願は、2009年10月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 優先権主張番号12/255,347 優先日2008年10月21日 アメリカ合衆国、優先権主張番号12/255,367 優先日2008年10月21日 アメリカ合衆国、及び、優先権主張番号12/225,385 優先日2008年10月21日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2011-533167号の一部を平成27年2月6日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年12月 4日付け :拒絶理由の通知
平成28年 3月 7日 :意見書・手続補正書の提出
同年 8月12日付け :拒絶査定(同年同月18日送達)
同年12月15日 :審判請求
同年 同月22日 :審判請求書の手続補正書の提出

2 本願の特許請求の範囲の記載

平成28年3月7日に提出された手続補正書によれば、本願の特許請求の範囲の請求項1?27には、次のとおり記載されている。

「【請求項1】
レーザ制御システムであって、
発振器ガスチャンバと、
増幅器ガスチャンバと、
前記発振器ガスチャンバ内の電極の第1の対及び前記増幅器ガスチャンバ内の電極の第2の対に電気パルスを送出するように作動的に接続された第1の電圧入力と、を備え、
前記ガスチャンバの出力が、線量演算子に対する台形ウィンドウ周波数応答によって計算されるエネルギ線量であり、
レーザ制御システムが、 前記第1の電圧入力を変更するために前記第1の電圧入力に接続された制御回路 を更に含み、
前記線量演算子に対する周波数応答が、少なくとも1つの最小値を有し、
レーザ制御システムが、
前記1つの最小値の下で開始するように配置されたエネルギディザ及びタイミングディザのうちの少なくとも一方と、
前記第1の電圧入力を変更するために前記ガスチャンバの出力を前記制御回路に通信するフィードバック制御ループと、を更に含むことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記制御回路は、Eが、レーザエネルギ、uが、MopaOpPoint、kが、MopaOpPointの前記ガスチャンバ間の発射時間の差に関する導関数、前記MopaOpPointが1/E*dV/dt、Vが前記第1の電圧入力、かつtが前記ガスチャンバ間の発射時間の差である場合に、方程式V=Eu^(2)/2kに従って、前記第1の電圧入力を変更することを特徴とする、請求項1に記載のレーザ制御システム。
【請求項3】
エネルギディザ及びタイミングディザのうちの前記少なくとも一方は、前記1つの最小値の下で開始されるエネルギディザを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のレーザ制御システム。
【請求項4】
前記エネルギディザからの周期信号が、n回の発射の長さであり、振幅Aを有し、かつk=0からn-1、n_(d)が前記ディザの1つの完全なサイクル内の余弦周期の数である場合に、V[k]=Acos(2πn_(d)k/n)を満たすことを特徴とする、請求項3に記載のレーザ制御システム。
【請求項5】
エネルギディザ及びタイミングディザのうちの前記少なくとも一方は、前記1つの最小値の下で開始するように配置されることを特徴とする、請求項1に記載のレーザ制御システム。
【請求項6】
前記制御回路は、Kが、エネルギ誤差の二乗及びエネルギ線量誤差の二乗の加重和を最小にする線形2次レギュレータの解として計算される状態フィードバックベクトル、かつxdが、線量演算子の状態を特徴付けるベクトルである場合に、V_(dose)=-Kxdとして計算されるエネルギ線量フィードバック回路を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のレーザ制御システム。
【請求項7】
前記制御回路は、エネルギ移行の関数を更に含み、 複数の繰返し数ビンが、非ゼロ値に対して初期化されることを特徴とする、請求項1に記載のレーザ制御システム。
【請求項8】
前記繰返し数ビンは、類似の繰返し数を有するトレーニング済みビンの値に初期化されることを特徴とする、請求項7に記載のレーザ制御システム。
【請求項9】
前記制御回路は、線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする線形2次レギュレータを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のレーザ制御システム。
【請求項10】
レーザ制御システムであって、
発振器ガスチャンバと、
増幅器ガスチャンバと、
前記発振器ガスチャンバ内の電極の第1の対及び前記増幅器ガスチャンバ内の電極の第2の対に電気パルスを送出するように作動的に接続された第1の電圧入力と、を備え、
前記ガスチャンバの出力が、線量演算子に対する台形ウィンドウ周波数応答によって計算されるエネルギ線量であり、
レーザ制御システムが、
前記第1の電圧入力を変更するために前記第1の電圧入力に接続され、Eが、レーザエネルギ、uが、MopaOpPoint、kが、MopaOpPointの前記ガスチャンバ間の発射時間の差に関する導関数、前記MopaOpPointが1/E*dV/dt、Vが前記第1の電圧入力、かつtが前記ガスチャンバ間の発射時間の差である場合に、方程式=Eu^(2)/2kに従って前記第1の電圧入力を変更する制御回路と、
前記第1の電圧入力を変更するために前記ガスチャンバの出力を前記制御回路に通信するフィードバック制御ループと、を更に含むことを特徴とするシステム。
【請求項11】
前記第1の電圧入力は、Erefが、レーザシステム10の公称エネルギにほぼ設定され、かつV_(ref)が、E_(ref)でレーザを発射するのにほぼ必要とされる電圧である場合に、V=(dV/dE)_(ref)*(E_(target)-E_(ref)+ε(E_(target)-E_(ref))^(2)+V_(ref)としてエネルギターゲットから計算される入力を更に含むことを特徴とする、請求項10に記載のレーザ制御システム。
【請求項12】
線量演算子に対する周波数応答が、少なくとも1つの最小値を有し、前記制御回路は、前記1つの最小値の下で開始されるエネルギディザを更に含むことを特徴とする、請求項10に記載のレーザ制御システム。
【請求項13】
前記エネルギディザからの周期信号が、n回の発射の長さであり、振幅Aを有し、かつk=0からn-1、n_(d)が前記ディザの1つの完全なサイクル内の余弦周期の数である場合に、V[k]=Acos(2πn_(d)k/n)を満たすことを特徴とする、請求項12に記載のレーザ制御システム。
【請求項14】
線量演算子に対する周波数応答が、少なくとも1つの最小値を有し、タイミングディザが、前記1つの最小値の下で開始するように配置されることを特徴とする、請求項10に記載のレーザ制御システム。
【請求項15】
前記制御回路は、Kが、エネルギ誤差の二乗及びエネルギ線量誤差の二乗の加重和を最小にする線形2次レギュレータの解として計算される状態フィードバックベクトル、かつxdが、線量演算子の状態を特徴付けるベクトルである場合に、V_(dose)=-Kxdとして計算されるエネルギ線量フィードバック回路を更に含むことを特徴とする、請求項10に記載のレーザ制御システム。
【請求項16】
前記制御回路は、エネルギ移行の関数を更に含み、複数の繰返し数ビンが、非ゼロ値に対して初期化されることを特徴とする、請求項10に記載のレーザ制御システム。
【請求項17】
前記繰返し数ビンは、類似の繰返し数を有するトレーニング済みビンの値に初期化されることを特徴とする、請求項16に記載のレーザ制御システム。
【請求項18】
前記制御回路は、線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする線形2次レギュレータを更に含むことを特徴とする、請求項10に記載のレーザ制御システム。
【請求項19】
レーザ制御システムであって、
発振器ガスチャンバと、
増幅器ガスチャンバと、
前記発振器ガスチャンバ内の電極の第1の対及び前記増幅器ガスチャンバ内の電極の第2の対に電気パルスを送出するように作動的に接続された第1の電圧入力と、を備え、
前記ガスチャンバの出力が、線量演算子に対する台形ウィンドウ周波数応答によって計算されるエネルギ線量であり、
レーザ制御システムが、
前記第1の電圧入力を変更するために前記第1の電圧入力に接続され、Kが、エネルギ誤差の二乗及びエネルギ線量誤差の二乗の加重和を最小にする線形2次レギュレータの解として計算される状態フィードバックベクトル、かつxdが、線量演算子の状態を特徴付けるベクトルである場合に、V_(dose)=-Kxdとして計算されるエネルギ線量フィードバック回路を更に含む制御回路と、
前記第1の電圧入力を変更するために前記ガスチャンバの出力を前記制御回路に通信するフィードバック制御ループと、を更に含むことを特徴とするシステム。
【請求項20】
前記制御回路は、Eが、レーザエネルギ、uが、MopaOpPoint、kが、MopaOpPointの前記ガスチャンバ間の発射時間の差に関する導関数、前記MopaOpPointが1/E*dV/dt、Vが前記第1の電圧入力、かつtが前記ガスチャンバ間の発射時間の差である場合に、方程式V=Eu^(2)/2kに従って前記第1の電圧入力を変更することを特徴とする、請求項19に記載のレーザ制御システム。
【請求項21】
線量演算子に対する周波数応答が、少なくとも1つの最小値を有し、前記制御回路は、前記1つの最小値の下で開始されるエネルギディザを更に含むことを特徴とする、請求項19に記載のレーザ制御システム。
【請求項22】
前記エネルギディザからの周期信号が、n回の発射の長さであり、振幅Aを有し、かつk=0からn-1、n_(d)が前記ディザの1つの完全なサイクル内の余弦周期の数である場合に、V[k]=Acos(2πn_(d)k/n)を満たすことを特徴とする、請求項21に記載のレーザ制御システム。
【請求項23】
線量演算子に対する周波数応答が、少なくとも1つの最小値を有し、タイミングディザが、前記1つの最小値の下で開始するように配置されることを特徴とする、請求項19に記載のレーザ制御システム。
【請求項24】
前記第1の電圧入力は、Erefが、レーザシステム10の公称エネルギにほぼ設定され、かつV_(ref)が、E_(ref)でレーザを発射するのにほぼ必要とされる電圧である場合に、V=(dV/dE)_(ref)*(E_(target)-E_(ref)+ε(E_(target)-E_(ref))^(2)+V_(ref)としてエネルギターゲットから計算される入力を更に含むことを特徴とする、請求項19に記載のレーザ制御システム。
【請求項25】
前記制御回路は、エネルギ移行の関数を更に含み、複数の繰返し数ビンが、非ゼロ値に対して初期化されることを特徴とする、請求項19に記載のレーザ制御システム。
【請求項26】
前記繰返し数ビンは、類似の繰返し数を有するトレーニング済みビンの値に初期化されることを特徴とする、請求項25に記載のレーザ制御システム。
【請求項27】
前記制御回路は、前記線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする前記線形2次レギュレータを更に含むことを特徴とする、請求項19に記載のレーザ制御システム。」

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

「(略)
3.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
(略)
●理由3(実施可能要件)について

・請求項 1-27
・備考
(略)
さらに、「図4は、開示する主題の第1の例示的な実施形態の態様による図3に示すウィンドウの線量演算子の周波数応答のグラフの例示である。」とあるものの、「線量演算子」の意味や関数自体が不明であり、当該演算子の「周波数応答」も理解できない。
(略)
段落[0020]の「(略)」という記載について、「システムの状態」が「外乱動特性及び線量演算子に同等」とは、どうしてそう言えるのか、全く不明である。
また、「エネルギサーボ機構162は、線量演算子の挙動に応答して電圧調節を行うことに向けられる。」という記載も、「挙動に応答して電圧調節」はどのようにして行われるのか、理解できない。
さらに、「状態フィードバックベクトルK及び線量演算子の状態を特徴付けるベクトルxd」というそれぞれのパラメータが、物理的に何を意味しているのが、理解できない。

段落[0021]の「(略)」とあるが、「一定エネルギでのMOPA/MOPRAタイミングに関する電圧の導関数」、「MopaOpPoint180」、「u = 1/E * dV/dt」が何を技術的に意味しているのか不明であり、さらに、この三者がいずれも等価であるのか、異なるのか不明な文章である。
(略)
段落[0022]の「(略)」という記載についても、技術的な意味が全く分からず、その効果も理解できない。
(略)
段落[0028]の「(略)」についても、繰返し数の20%が線量演算子のゼロ内にある場合に、線量にどうして影響を与えないのか、理解できない。

段落[0032]の「台形ウィンドウでガスチャンバの出力のエネルギ線量を計算する(ブロック204)。」について、どのようにしてエネルギ線量を計算するのか、具体的に記載がなく、理解できない。
また、「制御回路で第1の電圧入力を変更し、線量演算子に対する周波数応答は、少なくとも1つのゼロを有する(ブロック206)。」についても、線量演算子が不明であり、どういう条件や状態であるのか不明である。
さらに、「エネルギディザ及びタイミングディザの少なくとも一方をゼロの1つの下で開始する(ブロック208)。」という記載についても、どういうことをいっているのか、制御内容を理解できない。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-27に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

●理由4(明確性)について
(略)
・請求項 6、15、19-27
・備考
請求項6、15、19の「エネルギ誤差の二乗及びエネルギ線量誤差の二乗の加重和を最小にする線形2次レギュレータの解として計算される状態フィードバックベクトル」、「線量演算子の状態を特徴付けるベクトル」、「線量演算子」が何を意味するのか明確に把握できない。

・請求項 7、8、16、17、25、26
・備考
請求項7、16、25の「制御回路は、エネルギ移行の関数を更に含み、複数の繰返し数ビンが、非ゼロ値に対して初期化される」という点についても、日本語として意味をなしておらず、発明の構成が把握できない。

・請求項 8、17、26
・備考
請求項8、17、26の「繰返し数ビンは、類似の繰返し数を有するトレーニング済みビンの値に初期化される」についても、意味を把握できない。

・請求項 9、18、27
・備考
請求項9、18、27の「線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする線形2次レギュレータ」についても、意味が把握できない。

(略)」

第3 当審の判断

1 当合議体も、本願の特許請求の範囲の記載では、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、また、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載では、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分であるとはいえないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

2 発明の明確性の要件(特許法第36条第6項第2号)について

(1) 請求項6、9、15、18、19、27について

請求項6、9、15、18、19、27に記載された、「線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする線形2次レギュレータ」の技術的意味について検討する。

ア 明細書の記載事項について
明細書には、「線量演算子」について、【0020】に、
「【0020】
レーザシステム4の効果は、図5に示すように、静的利得を通じて電圧入力152をエネルギ(エネルギ測定値172により評価)に変形することである。更に、エネルギ信号に追加される1組の外乱が存在する。従って、システムの状態は、外乱動特性及び線量演算子に同等とすることができる。」と記載されている。

イ 判断
請求項6、9、15、18、19、27に記載された「線量演算子」の技術的意味について検討する。
まず、「演算子」とは、「(operator)関数を他の関数に対応させる演算記号。例えば、微分記号は関数をその導関数に対応させる演算子である。作用素。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版] として広く用いられる用語であるが、「演算子」として機能するには、関数の「引数」に相当するものが必要である。
したがって、「線量演算子」が、本願明細書に記載された「レーザ制御システム」に関するどのような種類の「量」を引数とするのかについて記載や示唆がされているか、もしくは自明であるかについて検討する。

a 上記アで摘記した記載には、「線量演算子」が、「レーザ制御システム」に関するどのような「量」を引数とするかについて記載されておらず、明細書の他の箇所にも記載がない。

b 上記アの「システムの状態は、外乱動特性及び線量演算子に同等とすることができる。」という記載から、「システムの状態」、「外乱動特性」、及び、「線量演算子」は同じ内容、もしくは関連性があることが読み取れる。
しかしながら、明細書には「システムの状態」、及び、「外乱動特性」について他に記載がないため、「システムの状態」、「外乱動特性」が、「レーザ制御システム」に関するどのような「量」に関連するものであるかについては記載されていない。
したがって、「線量演算子」に関する引数に対応するもの、または、示唆するものが読み取れるとはいえない。

c 審判請求人は、審判請求書の手続補正書において、次の主張を行っている。
(ア)「『線量演算子』とは、エネルギ線量を計算するための計算モデル又は機能として、半導体リソグラフィ(特に、EUVリソグラフィ)の分野においてよく知られている用語である。」

(イ)「『線量演算子』がエネルギ線量を計算するための計算モデル又は機能であることは、本願明細書の段落0020の記載と整合するものです。」

これら主張のとおり、「線量演算子」が「エネルギ線量を計算するための計算モデル又は機能として、半導体リソグラフィ(特に、EUVリソグラフィ)の分野においてよく知られている用語」であるとしても、上記bで検討したように、明細書の記載からみて、「線量演算子」が、「レーザ制御システム」に関するどのような「量」を引数として用いるものであるかについて一義的に定まるとはいえない。

d 上記a?cからみて、「線量演算子」は、「レーザ制御システム」の「システムの状態」、「外乱動特性」、または、「エネルギ線量を計算するための計算モデル又は機能」とまで読みとれるとしても、「レーザ制御システム」に関するどのような量を、演算子の引数として有するかについて記載も示唆もなく、自明ともいえない。

したがって、請求項6、9、15、18、19、27に記載された「線量演算子」が、技術的にみてどのような演算子を表すのかが、依然として不明りょうである。

(2) 請求項9、18、27について

請求項9、18、27には、「線量演算子の状態を特徴付けるベクトル」、「線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする線形2次レギュレータ」という構成が記載されているが、これらの構成における「線量演算子」の技術的意味について検討する。

ア 明細書の記載事項について
「線形2次レギュレータ」について、明細書の【0019】?【0020】に、
「【0019】
IISquaredフィードバックの代案は、線量フィードバックである。ハード利得を有するIISquaredコントローラと同様に、線量フィードバックコントローラは、線量を最小にすることを目的とするが、非矩形線量ウィンドウ(例えば、台形線量ウィンドウ)で性能を改善する制御法を使用する。線量フィードバックは、寸法決めパラメータ及び利得のベクトルにより制御される。線量フィードバックコントローラは、線量モード及びシグマモードでのみ利用可能であり、かつ「線形2次レギュレータ」を利用してエネルギ線量及びエネルギ誤差172の2次和を最小にすることができる。100%の積分フィードバックの代わりに線形2次レギュレータの利用は、エネルギ線量誤差を約25%低減することが試験で示されている。
【0020】
・・・(中略)・・・
エネルギサーボ機構162は、線量演算子の挙動に応答して電圧調節を行うことに向けられる。エネルギ線量フィードバックは、状態フィードバックベクトルK及び線量演算子の状態を特徴付けるベクトルxdの内積として計算することができる。
Vdose = -K xd
ここで、Kは、エネルギ誤差の二乗及びエネルギ線量誤差の二乗の加重和を最小にする線形2次レギュレータの解として計算される。」と記載されている。

イ 判断
請求項9、18、27に記載された「線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする線形2次レギュレータ」の技術的意味について検討する。

(ア) 上記(1)で判断したとおり、「線量演算子」が表す内容が不明りょうである以上、「線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする」ことが、「線量演算子」の何を近似する「フィルタ」であり、その「状態」を何にフィードバックするかも不明である。

(イ) 審判請求人は、審判請求書の手続補正書で「Kは、エネルギ誤差の二乗及びエネルギ線量誤差の二乗の加重和を最小にする『線形2次レギュレータ』の解として計算されるため、『線形2次レギュレータ』の意味も明確であるものと思料致します。」と主張している。
上記アで摘記した記載及び上記主張からみて、「線形2次レギュレータ」は、「エネルギ誤差の二乗及びエネルギ線量誤差の二乗の加重和を最小にする」機能を有することが読みとれる。
しかしながら、「線量演算子」の内容が不明である以上、「線形2次レギュレータ」の「線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする」ことと、「エネルギ誤差の二乗及びエネルギ線量誤差の二乗の加重和を最小にする」こととの間に関連性を見いだせない。
そして、他の記載にも「線量演算子を近似するフィルタの状態」についての具体的な構成がなく、自明ともいえない。

したがって、請求項9、18、27に記載された「線量演算子を近似するフィルタの状態をフィードバックする線形2次レギュレータ」が表す内容が、依然として不明りょうである。

(3) 請求項7、8、16、17、25、26について

請求項7、16、25に記載された「複数の繰返し数ビンが、非ゼロ値に対して初期化されること」、及び、
請求項8、17、26に記載された「類似の繰返し数を有するトレーニング済みビンの値に初期化される」の技術的意味について検討する。

ア 明細書の記載事項について
「ビン」について、明細書の【0016】?【0017】に、
「【0016】
フィードフォワードブロック158は、トリガ間隔160に基づいて電圧調節を提供する。トリガ間隔160は、「電圧入力-エネルギ出力」関係に影響を与える繰返し数、発射回数、及び負荷サイクルを計算するのに使用される。トリガ間隔160の電圧調節量は、これらの値の関数として計算される。より具体的には、フィードフォワードブロック158によって供給される電圧信号は、以下によって示すことができる。
V = f_(0)(D) + f_(1)(R,n)
ここで、Dは、負荷サイクルであり、Rは、繰返し数であり、nは、発射回数である。フィードフォワード電圧は、2つの項を有することに注意されたい。1つの項であるf_(0)は、負荷サイクル及び/又はバースト間隔に依存し、別の項、f_(1)は、発射回数及び繰返し数に依存する。設計上、f_(1)は、各バーストの第1の発射で完全にゼロである。従って、f_(0)だけで、バーストの第1の発射に対してフィードフォワード電圧が決まる。この項は、一般的にバーストを通して持続する効率の変化に対してレーザを調節することを意図している。f_(1)項は、あらゆる移行の形状を捕捉するものである。この法則は、負荷サイクル又はバースト間隔の影響が、バースト内の全ての発射に対して等しい量だけエネルギ対発射回数を上下させることであることを仮定している。エネルギ移行の形状は、繰返し数だけに依存することが仮定されている。f_(1)(R,n)関数により、エネルギ移行の形状が補償される。
【0017】
f_(1)(R,n)関数は、表対繰返し数及び発射回数として維持される。単一の積分器が、ビンを適合させさせるために使用される。従来的に、ビンは、ゼロに初期化され、レーザ制御が繰返し数で正しく移行を逆転する前にいくつかのバーストが必要であった。ゼロでこれらのビンを初期化する代わりに、フィードフォワードビンは、周波数が最も近いトレーニング済みビンの値で初期化することができる。エネルギ移行の形状が得られるように正しい値により近い値でビンを初期化すると、より迅速かつ正確にレーザ制御により繰返し数で移行を逆転することができる。」と記載されている。

イ 判断
(ア) 請求項7、16、25に記載された「複数の繰返し数ビンが、非ゼロ値に対して初期化されること」の技術的意味について検討する。

a 「ビン」に関し、上記アで摘記した記載の「単一の積分器が、ビンを適合させさせるために使用される」ことからみて、何かの値を積分した結果が「ビン」単位で表される旨は読みとれる。
そして、審判請求人が審判請求書の手続補正書で主張する「『ビン』は、統計学の分野において、データの離散化を示すものとしてよく用いられている“Data binning”と実質的に同一の意味で使用する」ことと整合しているため、「ビン」とは何かの値を積分した結果を表す単位であると解することができる。

b 一方、「繰返し数ビン」について、統計学や各種技術分野において知られた用語ではない。
しかしながら、上記イで摘記した「 f_(1)(R,n)関数は、表対繰返し数及び発射回数として維持される。」、及び、「従来的に、ビンは、ゼロに初期化され、レーザ制御が繰返し数で正しく移行を逆転する前にいくつかのバーストが必要であった。」の記載における「繰返し数」に関連していると解することができる。

c 次に、「複数の繰返し数ビン」が「非ゼロ値に対して初期化されること」の技術的意味について検討する。
「繰返しビン」の「初期化」に関連する明細書の記載として、上記イで摘記した「ゼロでこれらのビンを初期化する代わりに、フィードフォワードビンは、周波数が最も近いトレーニング済みビンの値で初期化することができる。エネルギ移行の形状が得られるように正しい値により近い値でビンを初期化すると、より迅速かつ正確にレーザ制御により繰返し数で移行を逆転することができる。」がある。
これらの記載によると、「周波数が最も近いトレーニング済みビンの値で初期化する」、「エネルギ移行の形状が得られるように正しい値により近い値でビンを初期化する」とある。

しかしながら、「周波数が最も近いトレーニング済みビン」とは、何の「周波数」に最も近いものを表すのか、そして、「トレーニング済みビン」とは何を表すのかについて、上記アで摘記した記載、及び、明細書の他の記載を参酌しても不明であり、自明ともいえない。

そして、「エネルギ移行の形状」については、「エネルギ移行」自体が何を表すのか、明細書の他の記載を参酌しても不明であり、自明ともいえないから、「エネルギ移行の形状」も不明である。

よって、上記のとおり、明細書の「初期化」に関する記載内容が不明である以上、「複数の繰返し数ビン」が「非ゼロ値に対して初期化されること」が、明細書の記載を参酌しても、どのような技術を表すのかが不明である。

したがって、請求項7、16、25に記載された「複数の繰返し数ビンが、非ゼロ値に対して初期化されること」が表す内容が、依然として不明りょうである。

(イ) 請求項8、17、26に記載された「類似の繰返し数を有するトレーニング済みビンの値に初期化される」ことの技術的意味について検討する。

よって、上記(ア)で指摘したとおり、明細書の記載を参酌しても、「トレーニング済みビン」が何を表すのかが不明であり、「繰返し数ビン」の「初期化」に関する記載内容も不明である。

したがって、上記(ア)と同様の理由により、請求項8、17、26に記載された「類似の繰返し数を有するトレーニング済みビンの値に初期化される」ことが表す内容が、依然として不明りょうである。

(4) 発明の明確性の要件(特許法第36条第6項第2号)についてのまとめ

請求項6?9、15?19、25?27、及び、請求項19を引用する請求項20?24に係る発明は、明確でない。

3 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について

明細書において、「線量演算子」をその構成に含むレーザ制御システムが、当業者により実施可能であるかについて検討する。

(1) 判断

上記2で検討したとおり、明細書の【0020】及び関連する記載からみて、「線量演算子」が機能するのに必要な「引数」に関する記載が見当たらず、「引数」が自明ともいえない。

そして、審判請求人が審判請求書の手続補正書で主張するように、「線量演算子」が「エネルギ線量を計算するための計算モデル又は機能として、半導体リソグラフィ(特に、EUVリソグラフィ)の分野においてよく知られている用語」であることを参酌しても、上記「引数」に関する事項が発明の詳細な説明に記載されていないので、発明の詳細な説明は、請求項1?27に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。

(2) 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)についてのまとめ

本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?27に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第4 むすび
したがって、本願の特許請求の範囲の請求項6?9、15?27の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本願は発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-01 
結審通知日 2017-12-04 
審決日 2017-12-18 
出願番号 特願2015-22469(P2015-22469)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01S)
P 1 8・ 537- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 祥恵  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 居島 一仁
近藤 幸浩
発明の名称 2チャンバガス放電レーザにおけるレーザ制御の方法及び装置  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  

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