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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  H01M
審判 全部申し立て 特39条先願  H01M
管理番号 1340051
異議申立番号 異議2017-700251  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-10 
確定日 2018-03-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5992198号発明「非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法およびこれによって得られる非水電解質電池用負極活物質」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5992198号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第5992198号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5992198号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成14年9月26日に出願された特願2002-280303号の一部を平成20年7月10日に特願2008-180598号として新たな特許出願とし、更にその一部を平成24年5月7日に新たな特許出願としたものであって、平成28年8月26日にその特許権の設定登録がされ、同年9月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成29年3月10日に特許異議申立人 信越化学工業株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、平成29年5月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月31日に意見書の提出及び訂正の請求があり、この訂正の請求に対して申立人から同年9月4日に意見書が提出され、同年9月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年11月27日に意見書の提出及び訂正の請求があり、この訂正の請求に対して申立人から平成30年1月31日に意見書が提出されたものである。
なお、本件特許に係る出願は、分割の要件を満たしており、上記特願2002-280303号の出願の時、すなわち、平成14年9月26日にしたものとみなされるから、以下、平成14年9月26日を、「本件特許に係る出願の日」という。
また、平成29年11月27日に訂正の請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、同年7月31日にされた訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年11月27日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の訂正事項1?4のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に「複合化された複合体を負極活物質とする非水電解質二次電池用負極において、集電体上に負極活物質と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層の厚みが10μm以上150μm以下であり、前記負極活物質の粒径が5μm以上」とあるのを、「複合化された複合体を負極活物質粒子とする非水電解質二次電池用負極において、前記Si相を包含する前記SiO_(2)相が前記活物質粒子中に分散されており、集電体上に前記負極活物質粒子と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層の厚みが10μm以上150μm以下であり、前記負極活物質粒子の粒径が5μm以上」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。)。

(2) 訂正事項2
請求項1に「前記負極活物質のSi(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下である」とあるのを、「前記負極活物質粒子のSi(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)である」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。)。

(3) 訂正事項3
願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0010】に「複合化された複合体を負極活物質とする非水電解質二次電池用負極において、集電体上に負極活物質と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層の厚みが10μm以上150μm以下であり、前記負極活物質の粒径が5μm以上」とあるのを、「複合化された複合体を負極活物質粒子とする非水電解質二次電池用負極において、前記Si相を包含する前記SiO_(2)相が前記活物質粒子中に分散されており、集電体上に前記負極活物質粒子と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層の厚みが10μm以上150μm以下であり、前記負極活物質粒子の粒径が5μm以上」と訂正する。

(4) 訂正事項4
本件明細書の【0010】に「前記負極活物質のSi(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下である」とあるのを、「前記負極活物質粒子のSi(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)である」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に記載された「負極活物質」が「粒子」であることを明確にするとともに、「前記Si相を包含する前記SiO_(2)相」が「前記活物質粒子中に分散されて」いることを限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1に関連する記載として、本件明細書の発明の詳細な説明の【0020】には「SiO_(2)相は非晶質、結晶質などの構造が採用できるが、Si相に結合しこれを包含または保持する形で活物質粒子中に偏りなく分散されていることが好ましい。」と記載されていることから、「負極活物質」が「粒子」であること、及び、「前記Si相を包含する前記SiO_(2)相」が「前記活物質粒子中に分散されて」いることは本件明細書に記載されているといえる。
そして、訂正事項1による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1により、請求項1に記載された「負極活物質」が「負極活物質粒子」に訂正されたことに伴い、「前記負極活物質」を「前記負極活物質粒子」と訂正して、記載の整合を図るとともに、「前記負極活物質のSi(220)XRDピークの半価幅」に関して、「1.5°以上、8°以下」の範囲から、「1.5°以上3°以下」の範囲を除くものであるから、明瞭でない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3、4について
訂正事項3、4は、訂正事項1、2による訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2、3は、本件訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?3は一群の請求項であり、訂正事項3、4は、一群の請求項1?3の全てについて明細書を訂正するものである。
なお、本件訂正請求においては、請求項1?3の一群の請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

第3 訂正後の請求項1?3に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1?3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
SiとSiO_(2)と炭素質物の三相からなり前記SiO_(2)相は前記Si相に結合しこれを包含しており、かつこれらが複合化された複合体を負極活物質粒子とする非水電解質二次電池用負極において、前記Si相を包含する前記SiO_(2)相が前記活物質粒子中に分散されており、集電体上に前記負極活物質粒子と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層の厚みが10μm以上150μm以下であり、前記負極活物質粒子の粒径が5μm以上100μm以下で比表面積が0.5m^(2)/g以上15.0m^(2)/g以下であり、かつ、前記負極活物質粒子のSi(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
請求項1の非水電解質二次電池用負極において、
負極集電体が多孔質構造あるいは無孔の銅、ステンレス、ニッケルの導電性基板のいずれかであり、厚みが5μm以上、20μm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の負極を有することを特徴とする非水電解質二次電池。」

第4 平成29年5月30日付け取消理由について
平成29年5月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、当該取消理由において全て採用している。

(1-1) 取消理由1-1
本件発明1?3は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された特願2002-259040号(特開2004-47404号公報参照:申立人が提出した甲第1号証)の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をしたものと同一でなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消されるべきものである。

(1-2) 取消理由1-2
本件発明1?3は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許法第41条第3項の規定により出願公開がされたものとみなされる特願2002-174887号(申立人が提出した甲第3号証、特開2004-71542号公報参照:同甲第2号証)の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をしたものと同一でなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2) 取消理由2
本件発明1?3は、先願に係る特許第3952180号(申立人が提出した甲第12号証)の特許請求の範囲に記載された発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2004-47404号公報
甲第2号証:特開2004-71542号公報
甲第3号証:特願2002-174887号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面
甲第4号証:特開2002-260658号公報
甲第5号証:特開2002-255530号公報
甲第6号証:特開2000-235868号公報
甲第7号証:特開2002-75324号公報
甲第8号証:特開平9-97625号公報
甲第9号証:特開2002-151039号公報
甲第10号証:「カリティ X線回折要論」、松村源太郎訳、株式会社アグネ、昭和53年4月25日、第17版、p.98-104
甲第11号証:「『高等学校および中学校理科教員のための科学機器研修』粉末X線回折測定による固体構造の研究」、平成18年度・中学、高等学校理科教員のための科学機器研修会、平成18年12月9日、1?7頁、インターネット
<http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rck/kandori.pdf、http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rck/spp18.htm>
甲第12号証:特許第3952180号公報

第5 平成29年9月25日付け取消理由(決定の予告)について
平成29年9月25日付け取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

(1) 取消理由1-1
本件発明1?3は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された特願2002-259040号(特開2004-47404号公報参照:申立人が提出した甲第1号証)の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をしたものと同一でなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取消理由1-1には理由がある。

(2) 取消理由1-2
本件発明1?3は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許法第41条第3項の規定により出願公開がされたものとみなされる特願2002-174887号(申立人が提出した甲第3号証、特開2004-71542号公報参照:同甲第2号証)の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であるとはいえないから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえず、取消理由1-2には理由がない。

(3) 取消理由2
本件発明1?3は、先願に係る特許第3952180号(申立人が提出した甲第12号証)の特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一であるから、請求項1?3に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであり、取消理由2には理由がある。

第6 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願の日前に出願され、その出願後に出願公開された特願2002-259040号(甲第1号証参照)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、「導電性珪素複合体及びその製造方法並びに非水電解質二次電池用負極材」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
(1a) 「【請求項1】
珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする導電性珪素複合体。
【請求項2】
平均粒子径0.01?30μm、BET比表面積0.5?20m^(2)/g、被覆炭素量3?70重量%である請求項1記載の導電性珪素複合体。
【請求項3】
珪素微結晶の大きさが1?500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着していることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性珪素複合体。
【請求項4】
X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmであり、被覆炭素量が5?70重量%であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の導電性珪素複合体。
・・・
【請求項7】
酸化珪素を900?1400℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で不均化すると共に化学蒸着処理することを特徴とする請求項1記載の導電性珪素複合体の製造方法。
・・・
【請求項9】
酸化珪素をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900?1400℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物を不活性ガス気流下800?1400℃で加熱したものを、800?1400℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理することを特徴とする請求項1記載の導電性珪素複合体の製造方法。
【請求項10】
酸化珪素をあらかじめ500?1200℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを、不活性ガス雰囲気下900?1400℃で熱処理を施して不均化することを特徴とする請求項1記載の導電性珪素複合体の製造方法。
・・・
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の導電性珪素複合体を用いた非水電解質二次電池用負極材。
【請求項13】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の導電性珪素複合体と導電剤の混合物であって、混合物中の導電剤が1?60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25?90重量%である混合物を用いた非水電解質二次電池用負極材。」

(1b) 「【0016】
本発明の導電性珪素複合体粉末のBET比表面積は、0.5?20m^(2)/g、特に1?10m^(2)/gが好ましい。BET比表面積が0.5m^(2)/gより小さいと、表面活性が小さくなり、電極作製時の結着剤の結着力が小さくなり、結果として充放電を繰り返した時のサイクル性が低下するし、逆にBET比表面積が20m^(2)/gより大きいと、電極作製時に溶媒の吸収量が大きくなり、結着性を維持するために結着剤を大量に添加する場合が生じ、結果として導電性が低下し、サイクル性が低下するおそれがある。なお、BET比表面積はN_(2)ガス吸着量によって測定するBET1点法にて測定した値である。」

(1c) 「【0019】
次に、本発明における導電性珪素複合体の製造方法について説明する。
本発明の導電性珪素複合体粉末は、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなる、好ましくは0.01?30μm程度の平均粒子径を有するものであれば、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記I?IIIの方法を好適に採用することができる。
I:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末を原料として、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1050?1300℃、更に好ましくは1100?1200℃の温度域で熱処理することにより、原料の酸化珪素粉末を珪素と二酸化珪素の複合体に不均化すると共に、その表面を化学蒸着する方法、
II:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1100?1300℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を煙霧状シリカ、沈降シリカのような微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物等の好ましくは0.1?50μmの粒度まで粉砕したものをあらかじめ不活性ガス気流下で800?1400℃で加熱したものを原料に、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、800?1400℃、好ましくは900?1300℃、より好ましくは1000?1200℃の温度域で熱処理して表面を化学蒸着する方法、
III:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末をあらかじめ500?1200℃、好ましくは500?1000℃、より好ましくは500?900℃の温度域で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを原料として、不活性ガス雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1100?1300℃の温度域で熱処理を施して不均化する方法。」

(1d) 「【0025】
なお、上記Iの方法において、原料として一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素を用いた場合には、化学蒸着処理と同時に不均化反応を行わせ、二酸化珪素中に結晶構造を有するシリコンを微細に分散させることが重要であり、この場合、化学蒸着及び不均化を進行させるための処理温度、処理時間、有機物ガスを発生する原料の種類及び有機物ガス濃度を適宜選定する必要がある。熱処理時間((CVD/不均化)時間)は、通常0.5?12時間、好ましくは1?8時間、特に2?6時間の範囲から選ばれるが、この熱処理時間は熱処理温度((CVD/不均化)温度)とも関係し、例えば、処理温度を1000℃にて行う場合には少なくとも5時間以上の処理を行うことが好ましい。
【0026】
また、上記IIの方法において、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下に熱処理する場合の熱処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5?12時間、特に1?6時間の範囲とすることができる。なお、SiO_(x)の酸化珪素をあらかじめ不均化する場合の熱処理時間(不均化時間)は、通常0.5?6時間、特に0.5?3時間とすることができる。
【0027】
更に、上記IIIの方法において、SiO_(x)をあらかじめ化学蒸着処理する場合の処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5?12時間、特に1?6時間とすることができ、不活性ガス雰囲気下での熱処理時間(不均化時間)は、通常0.5?6時間、特に0.5?3時間とすることができる。」

(1e) 「【0029】
なお、上記熱CVD(熱化学蒸着処理)及び/又は不均化処理は、非酸化性雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、上記有機物ガス単独あるいは有機物ガスとAr、He、H_(2)、N_(2)等の非酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。
【0030】
この場合、回転炉、ロータリーキルン等の炉芯管が水平方向に配設され、炉芯管が回転する構造の反応装置が好ましく、これにより酸化珪素粒子を転動させながら化学蒸着処理を施すことで、酸化珪素粒子同士に凝集を生じさせることなく、安定した製造が可能となる。炉芯管の回転速度は0.5?30rpm、特に1?10rpmとすることが好ましい。なお、この反応装置は、雰囲気を保持できる炉芯管と、炉芯管を回転させる回転機溝と、昇温・保持できる加熱機構を有しているものであれば特に限定せず、目的によって原料供給機構(例えばフィーダー)、製品回収機構(例えばホッパー)を設けることや、原料の滞留時間を制御するために、炉芯管を傾斜したり、炉芯管内に邪魔板を設けることもできる。また、炉芯管の材質についても特に限定はされず、炭化珪素、アルミナ、ムライト、窒化珪素等のセラミックスや、モリブデン、タングステンといった高融点金属、SUS、石英等を処理条件、処理目的によって適宜選定して使用することができる。
【0031】
また、流動ガス線速u(m/sec)は、流動化開始速度u_(mf)との比u/u_(mf)が1.5≦u/u_(mf)≦5となる範囲とすることで、より効率的に導電性皮膜を形成することができる。u/u_(mf)が1.5より小さいと流動化が不十分となり、導電性皮膜にバラツキを生じる場合があり、逆にu/u_(mf)が5を超えると、粒子同士の二次凝集が発生し、均一な導電性皮膜を形成することができない場合がある。なお、ここで流動化開始速度は、粒子の大きさ、処理温度、処理雰囲気等により異なり、流動化ガス(線速)を徐々に増加させ、その時の粉体圧損がW(粉体重量)/A(流動層断面積)となった時の流動化ガス線速の値と定義することができる。なお、u_(mf)は、通常0.1?30cm/sec、好ましくは0.5?10cm/sec程度の範囲で行うことができ、このu_(mf)を与える粒子径としては一般的に0.5?100μm、好ましくは5?50μmとすることができる。粒子径が0.5μmより小さいと二次凝集が起こり、個々の粒子の表面を有効に処理することができない場合がある。」

(1f) 「【0032】
本発明で得られた導電性珪素複合体の粉末は、これを負極材(負極活物質)として、高容量でかつサイクル特性の優れた非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池を製造することができる。」

(1g) 「【0034】
なお、上記導電性珪素複合体粉末を用いて負極を作製する場合、導電性珪素複合体粉末に黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Si等の金属粉末や金属繊維、又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。」

(1h) 「【0043】
[実施例2]
酸化珪素(SiO_(x):x=1.02)を、ヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約0.8μmの粉末を得た。この酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン-アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。こうして得られたものは、蒸着炭素量が16.5%であり、水酸化カリウム水溶液との反応による水素量より求めたゼロ価の珪素である活性珪素は26.7%であった。また、X線回折(Cu-Kα)を行い、2θ=28.4°のSi(111)に帰属される回折線の半価幅からシェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約11nmであった。熱CVD後、導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、平均粒子径が約2.8μmの粉末を得た。これを用いて下記方法で電池評価を行った。結果を表1に示す。


(1i) 「【0044】
[電池評価]
リチウムイオン二次電池負極活物質としての評価はすべての実施例、比較例ともに同一で、以下の方法・手順にて行った。
まず、得られた導電性珪素複合体に人造黒鉛(平均粒子径D_(50)=5μm)を加え、人造黒鉛の炭素と蒸着した導電性珪素複合体中の炭素が合計40%となるように加え、混合物を製造した。この混合物にポリフッ化ビニリデンを10%加え、更にN-メチルピロリドンを加え、スラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cm^(2)に打ち抜き、負極とした。」

(1j) 「【0048】
[実施例3]
ブロック状又はフレーク状の酸化珪素を不活性ガス(アルゴン)雰囲気下で1300℃、1時間加熱し、珪素と二酸化珪素への不均化を行った。こうして得られたものについてX線回折(Cu-Kα)を行い、2θ=28.4°のSi(111)に帰属される回折線の半価幅からシェーラー法により求めた結晶の大きさは約55nmであった。このようにして熱処理を行った珪素-二酸化珪素複合物をヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約8μmの粉末を得た。この珪素複合物粉末を縦型管状炉(内径約50mmφ)を用いて、メタン-アルゴン混合ガス通気下で1100℃、3時間の熱CVDを行った。こうして、得られた導電性珪素複合体をらいかい器で解砕した。得られた導電性珪素複合体粉末の蒸着炭素量は11.3%、活性珪素量は28.1%、平均粒子径は8.6μmであり、シェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約60nmであった。」

2 本件特許に係る出願の日前に出願され、その出願後に出願公開がされたものとみなされる特願2002-174887号を優先権基礎とする出願である特願2003-161252(甲第2号証参照)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、「負極活物質、それを用いた負極、それを用いた非水電解質電池、ならびに負極活物質の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【請求項1】
SiとOとを含み、Siに対するOの原子比xが0<x<2で表され、CuKα線を用いたX線回折パターンにおいて、Si(220)面回折ピークの半値幅をBとするとき、B<3°(2θ)であることを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
前記負極活物質が、その表面に電子導電性材料を備えたことを特徴とする請求項1記載の負極活物質。
・・・
【請求項6】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質を備えた正極と、負極とを備えた非水電解質電池において、前記負極に請求項1または2記載の負極活物質、または請求項3または4記載の負極を用いたことを特徴とする非水電解質電池。」

(2b) 「【0020】
【発明の実施の形態】
Siに対するOの原子比をxとするとき、SiとOとからなる本発明負極活物質の組成式はSiO_(x)(0<x<2)で表され、さらにCuKα線を用いたX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が18°?23°、27°?30°および46°?49°の各範囲に回折ピークを示す。18°?23°に現れるピークはケイ素酸化物に、27°?30°および46°?49°に現れるピークは、それぞれSi(111)面およびSi(220)面回折ピークに由来する。したがって、本発明負極活物質は、ケイ素酸化物およびケイ素の両相を含む。また、そのケイ素が粒子として本発明負極活物質中に微分散していることが好ましく、さらにその粒子径が3?30nmであることが好ましい。さらに好適な粒子径は、5?20nmである。ケイ素粒子が微分散している方が、それが凝集している場合とくらべて、その粒子同士の電子伝導パスが良好に保たれるので好ましい。また、前者をもちいた電池の方が良好なサイクル性能を示す。ただしケイ素の粒子径は、透過型電子顕微鏡で観察される粒子50個の平均値で定義される。」

(2c) 「【0022】
また、本発明負極活物質においては、46°?49°の範囲に現れるSi(220)面回折ピークの半値幅をBとするとき、B<3°である。このとき、Si(111)面回折ピークの強度I_((111))に対するSi(220)面回折ピークの強度I_((220))の比(I_((220))/I_((111)))は0.5未満であることが好ましい。さらに、Si(111)面回折ピークの半価幅が3°未満であることが好ましい。上記xの値は、固体NMR、元素分析、エネルギー分散型エックス線検出器(FESEM/EDS)等で計算することができる。」

(2d) 「【0023】
3°≦Bである物質を非水電解質電池の負極活物質として用いた場合、本発明負極活物質を用いた場合とくらべて、電池のサイクル性能が著しく低下する。したがって、Si(220)面回折ピークの半値幅をBとするとき、B<3°とする必要がある。また、0.3°<B<3°とすることにより、電池のサイクル性能がさらに向上する。また、0.8°<B<2.3°とすることにより、それ以上に電池のサイクル性能が向上する。したがって、半値幅Bのさらに好適な値は0.3°<B<3°であり、それ以上に好適な値は0.8<B<2.3°である。」

(2e) 「【0027】
本発明負極活物質の形態としては、板、薄膜、粒子および繊維が例示される。本発明負極活物質を粒子として用いる場合、その数平均粒径r(μm)がr<10であることが好ましい。なお、粒子の数平均粒径は、それを溶媒中超音波分散した後、レーザー法によって求められる値である。」

(2f) 「【0030】
さらに、本発明負極活物質が、その表面の一部または全面に電子導電性材料を備えることが好ましい。電子導電性材料としては、炭素材料(A)、または金属を用いることができる。この金属はリチウムと合金化しないことが好ましい。炭素材料(A)としては黒鉛および低結晶性炭素、リチウムと合金化しない金属としては銅、ニッケル、鉄、コバルト、マンガン、クロム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属、または二種以上の金属からなる合金が例示される。これら電子導電性材料の中でもとくに炭素材料が好ましい。なぜなら、炭素は上記金属と異なり、その層間にリチウムを挿入・脱離することが可能であるため、炭素を備えた負極活物質を用いた電池の方が、上記金属を備えた負極活物質を用いた電池とくらべて、大きい放電容量を示すからである。また、活物質表面に備えた炭素の形状は薄膜または粒子のいずれでもよい。」

(2g) 「【0044】
本発明負極活物質の比表面積S(m^(2)/g)は、好ましくはS<50であり、さらに好ましくは1<S<10である。S≧50の場合、活物質表面上での電解液の分解が大きくなり、それにともなって不可逆容量の増大および電解液の枯渇が生じることによって電池のサイクル性能が著しく低下する。一方、S<10の場合、結着剤の量を大幅に少なくすることができ、その結果、電池のエネルギー密度が高くなる。また、1<Sとすることによって、高率放電性能が良好となる。
【0045】
本発明負極活物質の製造法としては、SiO_(x)(0<x<2)を非酸化性雰囲気中または減圧下、温度T(830<T(℃))で熱処理する工程を経る方法が挙げられる。さらに、前記製造法で、前記工程で得られた物質をフッ素含有化合物またはアルカリ水溶液と反応させることが好ましい。この理由は、SiO_(2)を溶解しうるフッ素含有化合物またはアルカリ水溶液と前記工程で得られる物質とを反応させることによって、その物質表面上に多量に存在するSiO_(2)量を低減することができ、その結果その電子伝導性を向上させることができるからである。また、この後工程を経ることによって、この物質を用いた電池の放電容量が大きくなる。SiO_(x)(0<x<2)としては、SiO_(1.5)(Si_(2)O_(3))、SiO_(1.33)(Si_(3)O_(4))、SiOなどの化学量論組成の物質、および、xが0より大きく2未満である任意の組成の物質が例示される。また、この組成で表されるならば、SiとSiO_(2)とを任意の割合で含む物質でもよい。非酸化性雰囲気に用いるガスとしては、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、水素などの還元性ガスおよびこれらの混合ガスが例示される。フッ素含有化合物には、フッ化水素、フッ化水素アンモニウム等、SiO_(2)を溶解しうるいかなる化合物も用いることができる。また、これらフッ素含有化合物を単体もしくは水溶液として用いてもよい。さらに、アルカリ水溶液としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む水酸化物を用いることができる。この水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示される。SiO_(2)の溶解を促進するために、アルカリ水溶液の温度が40℃以上であることが好ましい。フッ素含有化合物またはアルカリ水溶液の濃度が高すぎないことが好ましい。また、前記化合物または溶液による反応時間が長すぎないことが好ましい。その理由は、それらの濃度が高すぎる、または反応時間が長すぎる場合、SiO_(2)の溶解以外にSiの溶解も促進されるため、活物質中のSi含有率が大きく減少するからである。Si含有率が減少すると、それを用いた負極の放電容量が低下する。好適な濃度および反応時間はそれぞれ1gのSiO_(x)(0<x<2)当たり5mol以下、24h以下であり、とくに好ましくは0.5mol以下、6h以下である。」

(2h) 「【0052】
本発明の非水電解質電池で用いられる負極は、負極活物質を含む負極層および負極集電体からなる。負極層は、負極活物質および結着剤を溶媒中混合し、得られたスラリーを負極集電体に塗布し、さらに乾燥することにより製造することができる。また、負極層中に、負極活物質とは別に導電剤が含まれていてもよい。」

(2i) 「【0056】
正極または負極に用いられる結着剤としては、例えば、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)、P(VdF/HFP)(ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース、またはこれらの誘導体を、単独でまたは混合して用いることができる。」

(2j) 「【0058】
正極または負極の集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ステンレス、ニッケルを用いることができる。また、その形状としては、シート、発泡体、焼結多孔体、エキスパンド格子が例示される。さらに、集電体として、前記集電体に任意の形状で穴を開けたものを用いてもよい。」

(2k) 「【0067】
[実施例1]
数平均粒径8μmのSiO粒子を用いた。このSiOに関してX線回折測定をおこなうと、ブロードな回折パターンが得られ、その結晶構造が無定形であることがわかった。この無定形のSiO粒子を物質(X)とする。このSiO粒子をアルゴン雰囲気中、870℃で6h熱処理した。つぎに、この生成物を、生成物1g当たり0.1molのフッ化水素酸が存在する溶液中で3h浸漬した。さらに、この溶液をろ過し、ろ紙上の残留物を蒸留水でよく洗浄した。最後に、この残留物を60℃で乾燥させることにより、本発明負極活物質(e1)を得た。なお、数平均粒径の値を粒度分析装置(島津製作所(株)製SALD2000J)を用いて測定した。試料を水溶媒中20分超音波分散した。屈折率としては、2.00-0.05iを用いた。
【0068】
この負極活物質を用いて、非水電解質二次電池を製作した。
【0069】
まず、得られた負極活物質70質量%と、炭素材料(B)としてアセチレンブラック10質量%と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)20質量%とを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で分散させることによりペーストを作製した。このペーストを厚さ15μmの銅箔上に塗布し、つぎに、150℃で乾燥することにより、NMPを蒸発させた。この作業を銅箔の両面に対しておこない、さらに、両面をロールプレスで圧縮成型した。このようにして、両面に負極合剤層を備えた負極を製作した。」

(2l) 「【0079】
[実施例9]
物質(X)をアルゴン雰囲気中、1000℃で6h熱処理した。この生成物をフッ化水素酸で後処理することなく、本発明負極活物質(e9)とした。以後の工程は実施例1と同様にして実施例電池(E9)を得た。」

(2m) 「【0113】
[X線回折測定]
図1に、本発明活物質(e4)のX線回折パターンを示す。約22°、28°、47°に明瞭な回折ピークが出現することがわかる。また、28°および47°の回折ピークはそれぞれSi(111)面およびSi(220)面回折ピークに由来する。本発明負極活物質に関するその強度比I_((220))/I_((111))は、全て0.5未満であった。さらに、本発明負極活物質に関するSi(111)面回折ピークの半値幅は、全て3°未満であった。なお、X線回折測定装置として理学電機(株)製RINT2400を用いた。また、発散スリット幅を1.0°、散乱スリット幅を1.0°、受光スリット幅を0.15mm、スキャンスピードを1°/minとした。
【0114】
[組成分析]
XPS測定の結果、負極活物質(e9)が含むSiO_(x)の表面組成式はSiO_(1.55)であるのに対し、他の全ての活物質が含むSiO_(x)においてはSiO_(1.10)であった。」

(2n) 「【0117】
表1に、実施例1?41、および比較例1の計42種類の電池に関する充放電試験結果を示す。表には、SiO_(x)(0<x<2)のX線回折測定で求められた約47°のピークの半値幅、SiO_(x)(0<x<2)表面に備えた電子導電性材料の担持量、電子導電性材料が炭素の場合は、そのd(002)、SiO_(x)(0<x<2)と炭素材料(B)とが混合して用いられている場合は、炭素材料(B)の混合割合、1サイクル目の放電容量、およびサイクル容量維持率を示す。なお、ここでのサイクル容量維持率とは、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合を表す(百分率表示)。
【0118】
【表1】



(2o) 「【図1】



3 本件特許に係る出願の日前に出願され、その出願後に出願公開がされたものとみなされる特願2002-174887号(甲第3号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、「負極活物質、それを用いた負極板、それを用いた非水電解質二次電池、ならびに負極活物質の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【請求項1】 SiとOとを含み、Siに対するOの原子比xが0<x<2で表され、CuKα線を用いたX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が46°?49°の範囲に回折ピークを示す負極活物質であって、前記範囲に現れる主回折ピークの半値幅をBとするとき、B<3°(2θ)であることを特徴とする負極活物質。
・・・
【請求項7】 リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極活物質を備えた正極板と、負極板を備えた非水電解質二次電池において、前記負極板に請求項1、2または3記載の負極活物質、または請求項4または5記載の負極板を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。」

(3b) 「【0020】
【発明の実施の形態】
Siに対するOの原子比をxとするとき、SiとOとからなる物質の組成式はSiO_(x)(0<x<2)で表され、さらにCuKα線を用いたX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が18°?23°、27°?30°、46°?49°および55°?58°の各範囲に回折ピークを示す。また、46°?49°の範囲に現れる主回折ピークの半値幅をBとするとき、B<3°である。上記xの値は、固体NMR、元素分析、エネルギー分散型エックス線検出器(FESEM/EDS)等で評価することができる。なお、本明細書中に記載の主回折ピークとは、指定された範囲内において最も強度の強い回折ピークを意味する。
【0021】
上記半値幅が3°以上である物質を非水電解質二次電池の負極活物質として用いた場合、本発明負極活物質を用いた場合とくらべて、二次電池のサイクル性能が著しく低下する。したがって、46°?49°の範囲に現れる回折ピークの半値幅BをB<3°とする必要がある。また、0.3°<B<3°とすることにより、二次電池のサイクル性能がさらに向上する。また、0.8°<B<2.3°とすることにより、それ以上に二次電池のサイクル性能が向上する。したがって、半値幅Bのさらに好適な値は0.3°<B<3°であり、それ以上に好適な値は0.8<B<2.3°である。
【0022】
上記18°?23°に現れるピークはSiO_(2)に、27°?30°、46°?49°および55°?58°の各ピークはSiに由来すると考えられる。したがって、本発明負極活物質は、SiO_(2)およびSiの両相を含むと推察される。」

(3c) 「【0026】
本発明負極活物質の形態としては、板、薄膜、および粒子が例示される。本発明負極活物質を粒子として用いる場合、その平均粒径r(μm)がr<10であることが好ましい。なお、粒子の平均粒径は、それを15秒間超音波分散した後、レーザー法によって求められる値である。」

(3d) 「【0029】
さらに、本発明負極活物質表面の一部または全面に電子導電性材料を担持することが好ましい。電子導電性材料としては、炭素材料(A)、または金属を用いることができる。この金属はリチウムと合金化しないことが好ましい。炭素材料(A)としては黒鉛および低結晶性炭素、リチウムと合金化しない金属としては銅、ニッケル、鉄、コバルト、マンガン、クロム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブからなる郡から選ばれた少なくとも一種以上の金属からなる合金が例示される。これら電子導電性材料の中でもとくに炭素材料が好ましい。なぜなら、炭素は上記金属と異なり、その層間にリチウムを挿入・脱離することが可能であるため、炭素を担持した負極活物質を用いた電池の方が、上記金属を担持した負極活物質を用いた電池とくらべて、大きい放電容量を示すからである。また、担持した炭素の形状は薄膜または粒子のいずれでもよい。」

(3e) 「【0043】
本発明負極活物質の比表面積S(m^(2)/g)は、好ましくはS<50であり、さらに好ましくはS<10である。S≧50の場合、活物質表面上での電解液の分解が大きくなり、それにともなって不可逆容量の増大および電解液の枯渇が生じることによって二次電池のサイクル性能が著しく低下する。一方、S<10の場合、結着剤の量を大幅に少なくすることができ、その結果、電池のエネルギー密度が高くなる。
【0044】
本発明負極活物質は、SiO_(x)(0<x<2)を非酸化性雰囲気中または減圧下、温度T(830<T(℃))で熱処理する工程と、前記工程で得られた物質をフッ素含有化合物またはアルカリ水溶液と反応させる工程とを経て作製される。SiO_(x)(0<x<2)としては、SiO_(1.5)(Si_(2)O_(3))、SiO_(1.33)(Si_(3)O_(4))、SiOなどの化学両論組成の物質、および、xが0より大きく2未満である任意の組成の物質が例示される。非酸化性雰囲気に用いるガスとしては、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、水素などの還元性ガスおよびこれらの混合ガスが例示される。フッ素含有化合物には、フッ化水素、フッ化水素アンモニウム等、SiO_(2)を溶解しうるいかなる化合物も用いることができる。また、これらフッ素含有化合物を単体もしくは水溶液として用いてもよい。さらに、アルカリ水溶液としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む水酸化物を用いることができる。この水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示される。SiO_(2)の溶解を促進するために、アルカリ水溶液の温度が40℃以上であることが好ましい。」

(3f) 「【0048】
不活性雰囲気で珪素酸化物、例えばSiOを800℃以上で焼成すると、SiとSiO_(2)とに不均化することが知られている(理化学辞典、p495、第4版、岩波書店)。しかしながら、従来このような不均化した珪素酸化物を非水電解質二次電池の負極活物質として用いた報告例はなかった。この理由は、焼成後の生成物表面に絶縁性のSiO_(2)が多量に生成していたために、その生成物を活物質として用いた場合、電池のサイクル性能が著しく低かったからと推察される。本発明は、上記のようにして焼成して得られた生成物をさらにフッ素含有化合物またはアルカリ水溶液で後処理することにより、生成物表面のSiO_(2)量を低減させるものである。このようにして得られた最終生成物を負極活物質として用いた場合、上記後処理をしなかった活物質を用いた場合とくらべて、電池のサイクル性能がきわめて良好である。」

(3g) 「【0052】
本発明の非水電解質二次電池で用いられる負極板は、負極集電体および負極活物質を含む負極層からなる。負極層は、負極活物質および結着剤を溶媒中混合し、得られたスラリーを負極集電体に塗布し、さらに乾燥することにより製造することができる。また、負極層中に、負極活物質とは別に導電剤が含まれていてもよい。」

(3h) 「【0058】
負極板の集電体としては、鉄、銅、ステンレス、ニッケルを用いることができる。また、その形状としては、シート、発泡体、焼結多孔体、エキスパンド格子が例示される。さらに、集電体として、前記集電体に任意の形状で穴を開けたものを用いてもよい。」

(3i) 「【0065】
【実施例】
以下に、本発明の負極活物質を備えた非水電解質二次電池を実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
平均粒径8μmのSiO粒子を100g秤量した。このSiOに関してX線回折測定をおこなうと、ブロードな回折パターンが得られ、その結晶構造が無定形であることがわかった。この無定形のSiO粒子を物質(X)とする。このSiO粒子をアルゴン雰囲気中、870℃で6h熱処理した。つぎに、この生成物を0.5mol/lのフッ化水素酸溶液中で1h浸漬した。さらに、この溶液をろ過し、ろ紙上の残留物を蒸留水でよく洗浄した。最後に、この残留物を60℃で乾燥させることにより、本発明負極活物質(e1)を得た。
【0066】
この負極活物質を用いて、非水電解質二次電池を製作した。
【0067】
まず、得られた負極活物質70重量%と、炭素材料(B)としてアセチレンブラック10重量%と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)20重量%とを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で分散させることによりペーストを作製した。このペーストを厚さ15μmの銅箔上に塗布し、つぎに、150℃で乾燥することにより、NMPを蒸発させた。この作業を銅箔の両面に対しておこない、さらに、両面をロールプレスで圧縮成型した。このようにして、両面に負極合剤層を備えた負極板を製作した。」

(3j) 「【0077】
[実施例9]
物質(X)をアルゴン雰囲気中、1000℃で6h熱処理した。この生成物をフッ化水素酸で後処理することなく、本発明負極活物質(e9)とした。以後の工程は実施例1と同様にして実施例電池(E9)を得た。」

(3k) 「【0112】
[組成分析]
FESEM/EDS測定の結果、負極活物質(e9)が含むSiO_(x)のバルク組成式はSiO_(1.05)であり、他の全ての活物質が含むSiO_(x)においてはSiO0.90であった。また、XPS測定の結果、負極活物質(e9)が含むSiO_(x)の表面組成式はSiO_(1.20)であるのに対し、他の全ての活物質が含むSiO_(x)においてはSiO_(0.95)であった。」

(3l) 「【0114】
表1に、実施例1?41、および比較例1の計42種類の電池に関する充放電試験結果を示す。表には、SiO_(x)(0<x<2)のX線回折測定で求められた約47°のピークの半値幅、SiO_(x)(0<x<2)表面に担持した電子導電性材料の担持量、電子導電性材料が炭素の場合は、そのd(002)、SiO_(x)(0<x<2)と炭素材料(B)とが混合して用いられている場合は、炭素材料(B)の混合割合、1サイクル目の放電容量、およびサイクル容量維持率を示す。なお、ここでのサイクル容量維持率とは、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合を表す(百分率表示)。
【0115】
【表1】



(3m) 「【図1】



4 本件特許に係る出願の日前に頒布された特開2002-260658号公報(甲第4号証)には、「炭素質材料及びリチウム二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(4a) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リチウム二次電池用の炭素質材料及びリチウム二次電池に関するものである。」

(4b) 「【0064】[充放電試験用のテストセルの作成]上記の実施例1?4及び比較例1?4の炭素質材料に、ポリフッ化ビニリデンを混合し、更にN-メチルピロリドンを加えてスラリー液とした。このスラリー液を、ドクターブレード法により厚さ14μmの銅箔に塗布し、真空雰囲気中で120℃、24時間乾燥させてN-メチルピロリドンを揮発させた。このようにして、厚さ100μmの負極合材を銅箔上に積層した。なお、負極合材中のポリフッ化ビニリデンの含有量は8重量%であり、負極合材の密度は1.5g/cm^(3)以上であった。そして、負極合材を積層させた銅箔を直径13mmの円形に打ち抜いて実施例1?4及び比較例1?4の負極電極とした。」

(4c) 「【0069】更に、実施例1?3と実施例4とを放電容量で比較すると、実施例4が高い放電容量を示している。これは、実施例1?3の場合、Si微粒子とB_(2)O_(3)を混合して加熱したことにより、B_(2)O_(3)の酸素原子がSiを酸化し、SiB_(4)相の他にSiO_(2)相が比較的多く析出したため、Si相の含有量が相対的に減少したためと考えられる。一方、実施例4では、Si微粒子とBとを混合して加熱したため、実施例1?3に比べて酸素が少ない状況であり、雰囲気中の微小な残存酸素等によりわずかにSiO_(2)相が析出するものの、実施例1?3よりもその量は少なく、このためSi相の含有量が相対的に実施例1?3よりも高くなったためと考えられる。」

5 本件特許に係る出願の日前に頒布された特開2002-255530号公報(甲第5号証)には、「炭素質材料及びリチウム二次電池及び炭素質材料の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(5a) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リチウム二次電池用の炭素質材料及びリチウム二次電池に関するものである。」

(5b) 「【0063】[充放電試験用のテストセルの作成]上記の実験例1?2の炭素質材料に、ポリフッ化ビニリデンを混合し、更にN-メチルピロリドンを加えてスラリー液とした。このスラリー液を、ドクターブレード法により厚さ14μmの銅箔に塗布し、真空雰囲気中で120℃、24時間乾燥させてN-メチルピロリドンを揮発させた。このようにして、厚さ100μmの負極合材を銅箔上に積層した。なお、負極合材中のポリフッ化ビニリデンの含有量は8重量%であり、負極合材の密度は1.5g/cm^(3)以上であった。そして、負極合材を積層させた銅箔を直径13mmの円形に打ち抜いて実験例1?2の負極電極とした。」

(5c) 「【0068】表1に示すように、1サイクル目の放電容量は、実験例3よりも実験例1の方が低くなっていることがわかる。これは、Si微粒子を炭素製るつぼ中で加熱したことにより、Si微粒子のSi相中にSiC相及びSiO_(2)相が析出し、リチウムと合金を形成するSi相の含有量が相対的に減少したためと考えられる。図6には、加熱後のSi微粒子のX線回折パターンを示す。図6から明らかなように、Si相の他に、SiC相及びSiO_(2)相に由来する回折ピークが観察される。Si相の(111)面の回折強度をP_(Si)とし、SiO_(2)相の(111)面の回折強度をP_(SiO2)とし、SiC相の(111)面の回折強度をP_(SiC)としたとき、図6から、P_(SiO2)/P_(Si)=0.010であり、P_(SiC)/P_(Si)=0.042であることがわかる。」

6 本件特許に係る出願の日前に頒布された特開2000-235868号公報(甲第6号証)には、「非水電解液二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(6a) 「【0139】前記負極活物質層の厚さは、10?100μmの範囲にすることが好ましい。ここで、負極活物質層の厚さとは、セパレータと対向する負極活物質表面と集電体と接する負極活物質表面との距離を意味する。なお、負極集電体の両面に負極活物質層が担持されている場合、負極活物質層の片面の厚さを10?100μmにし、かつ負極活物質層の合計厚さを20?200μmの範囲にすることが望ましい。負極活物質層の厚さを10μm未満にすると、集電体重量比率と体積比率が高くなるため、エネルギー密度を十分に向上させることが困難になる恐れがある。厚さの好ましい下限値は、30μmで、更に好ましい下限値は50μmである。一方、負極活物質層の厚さが100μmを超えると、非水電解液が負極表面に集中しやすくなるため、サイクル寿命を十分に改善することが困難になる恐れがある。厚さの好ましい上限値は85μmで、更に好ましい上限値は60μmである。特に、負極活物質層の厚さは、10?60μmの範囲にすることが好ましい。この範囲内であると、大電流放電特性とサイクル寿命が大幅に向上する。更に好ましい範囲は、30?50μmである。」

(6b) 「【0145】前記負極活物質層は、前述したリチウムイオンを吸蔵・放出する炭素物質を含むものの代わりに、アルミニウム、マグネシウム、スズ、けい素等の金属か、金属酸化物か、金属硫化物か、もしくは金属窒化物から選ばれる金属化合物や、リチウム合金を含むものであってもよい。」

7 本件特許に係る出願の日前に頒布された特開2002-75324号公報(甲第7号証)には、「電 池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(7a) 「【0031】負極活物質(負極材料)としては、通常、グラファイトやコークス等の炭素系物質が挙げられる。この炭素系物質は、金属、金属塩、酸化物などとの混合体や、被覆体の形態として用いてもよい。負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物や硫酸塩、金属リチウム、Li-Al、Li-Bi-Cd、Li-Sn-Cd等のリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、シリコン等も使用できる。好ましくは、容量の面からグラファイト又はコークスである。負極活物質の平均粒径は、初期効率、レイト特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常12μm以下、好ましくは、10μm以下とする。この粒径が大きすぎると電子伝導性が悪化する。また、通常は0.5μm以上、好ましくは7μm以上である。」

(7b)「【0039】正極活物質層及び負極活物質層の厚さは容量的には厚い方が、レイト上は薄い方が好ましい。層厚は通常20μm以上、好ましくは、30μm以上、さらに好ましくは50μm以上、最も好ましくは80μm以上である。正極及び負極活物質層厚は、通常200μm以下、好ましくは150μm以下である。」

8 本件特許に係る出願の日前に頒布された特開平9-97625号公報(甲第8号証)には、「非水電解質二次電池およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(8a) 「【0027】同様にして負極を作製した。負極活物質として市販の一酸化ケイ素(SiO)45重量部と、導電剤 のグラファイト40重量部を乳鉢で粉砕・混合したものを、結着剤の架橋型アクリル酸樹脂15重量部を水300重量部に溶解した溶液に混合分散し、負極合剤スラリーを調整した。集電体として厚さ10μmの銅箔を用い、フェノール樹脂の酢酸エトキシエチルの溶液に炭素粉末を分散した導電性接着剤を、乾燥後厚さ10μm、密度約0.45g/cm^(3)で、銅箔の両面に塗布・乾燥・硬化し導電層とした。先に調整した負極スラリーを導電層を設けた集電体の両面に、乾燥・圧延後の合剤密度が1.6g/cm^(3)、片面の合剤厚さが27μmになるように塗布し、乾燥後ロールプレスを用いて圧延を行った。こうして作製した負極シートを、27.5×39mmのサイズに裁断して負極板とした。」

9 本件特許に係る出願の日前に頒布された特開2002-151039号公報(甲第9号証)には、「非水電解質二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(9a) 「【0028】なお、軽金属をイオン状態で吸蔵というのは、例えば黒鉛に対する軽金属イオンの電気化学的なインタカレーション反応に代表されるように、軽金属がイオン状態で存在するものをいい、軽金属の金属状態による析出とは異なる概念である。以下の説明では、説明を簡素化するために、軽金属であるリチウムをイオン状態で吸蔵及び離脱することを、単に軽金属を吸蔵及び離脱と表現する場合もある。このような負極材料としては、例えば、炭素材料,金属化合物,ケイ素,ケイ素化合物,LiN_(3)等のリチウム窒化物,あるいは高分子材料が挙げられ、これらのうちのいずれか1種又は2種以上が混合して用いられている。」

(9b) 「【0062】更に、例えば、リチウムを吸蔵及び離脱可能な負極材料を含む負極合剤層4aの正極3との対向方向における厚さは、10μm以上、300μm以下であることが好ましい。負極合剤層4aが厚すぎると厚さ方向において負極材料に析出するリチウムの量が不均一となり、充放電サイクル特性が劣化してしまうと共に、薄すぎると相対的にリチウムの析出量が多くなるので、従来のリチウム二次電池と同様の問題が生じてしまう虞がある。加えて、例えば、負極4が負極活物質としてリチウム金属あるいはリチウム合金等のリチウムを吸蔵及び離脱可能な負極材料以外の材料を含む場合には、負極活物質におけるリチウムを吸蔵及び離脱可能な負極材料の割合は、50質量%以上であることが好ましい。リチウムを吸蔵及び離脱可能な負極材料の割合が少ないと、従来のリチウム二次電池の問題を充分に改善できない虞がある。」

(9c) 「【0096】サンプル1
先ず、以下のようにして負極を作製した。
【0097】平均粒径が30μmである粒状黒鉛粉末を90重量%と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを10重量%とを混合して負極合剤を調製し、更にこれを1-メチル-2-ピロリドンに分散させてスラリー状とした。このスラリーを負極集電体である厚さ15μmの帯状の銅箔の両面に均一に塗布し、加熱を施して溶媒留去し、電極板を作製した。この電極板を適当な温度条件で加熱プレス成型し、総厚さが80μmの帯状負極を作製した。
【0098】次に、以下のようにして正極を作製した。」

10 本件特許に係る出願の日前に頒布された「カリティ X線回折要論」、松村源太郎訳、株式会社アグネ、昭和53年4月25日、第17版、p.98-104(甲第10号証)には、「3-7 理想的状態にない場合の回折」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
(10a) 「


(100?102頁)

11 本件特許に係る出願の日前に公知となった「『高等学校および中学校理科教員のための科学機器研修』粉末X線回折測定による固体構造の研究」、平成18年度・中学、高等学校理科教員のための科学機器研修会、平成18年12月9日、1?7頁、インターネット<http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rck/kandori.pdf、http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rck/spp18.htm>(甲第11号証)には、「粉末X線回折測定による固体構造の研究」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
(11a) 「


(4頁2行?下から7行)

12 本件特許の先願に係る特許第3952180号公報(甲第12号証)には、「導電性珪素複合体及びその製造方法並びに非水電解質二次電池用負極材」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(12a) 「【請求項1】
X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmである、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体。
・・・
【請求項4】
平均粒子径0.01?30μm、BET比表面積0.5?20m^(2)/g、被覆炭素量3?70重量%である請求項1?3のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
【請求項5】
珪素微結晶の大きさが1?500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着していることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
・・・
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の導電性珪素複合体を用いた非水電解質二次電池用負極材。
【請求項13】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の導電性珪素複合体と導電剤の混合物であって、混合物中の導電剤が1?60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25?90重量%である混合物を用いた非水電解質二次電池用負極材。」

(12b) 「【0015】
本発明の導電性珪素複合体粉末の平均粒子径は、0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上、特に好ましくは0.3μm以上で、上限として30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下が好ましい。平均粒子径が小さすぎると、嵩密度が小さくなりすぎて、単位体積当たりの充放電容量が低下するし、逆に平均粒子径が大きすぎると、電極膜作製が困難になり、集電体から剥離するおそれがある。なお、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均値D_(50)(即ち、累積重量が50%となる時の粒子径又はメジアン径)として測定した値である。」

(12c) 「【0019】
次に、本発明における導電性珪素複合体の製造方法について説明する。
本発明の導電性珪素複合体粉末は、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなる、好ましくは0.01?30μm程度の平均粒子径を有するものであれば、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記I?IIIの方法を好適に採用することができる。
I:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末を原料として、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1050?1300℃、更に好ましくは1100?1200℃の温度域で熱処理することにより、原料の酸化珪素粉末を珪素と二酸化珪素の複合体に不均化すると共に、その表面を化学蒸着する方法、
II:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1100?1300℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を煙霧状シリカ、沈降シリカのような微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物等の好ましくは0.1?50μmの粒度まで粉砕したものをあらかじめ不活性ガス気流下で800?1400℃で加熱したものを原料に、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、800?1400℃、好ましくは900?1300℃、より好ましくは1000?1200℃の温度域で熱処理して表面を化学蒸着する方法、
III:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末をあらかじめ500?1200℃、好ましくは500?1000℃、より好ましくは500?900℃の温度域で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを原料として、不活性ガス雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1100?1300℃の温度域で熱処理を施して不均化する方法。」

(12d) 「【0025】
なお、上記Iの方法において、原料として一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素を用いた場合には、化学蒸着処理と同時に不均化反応を行わせ、二酸化珪素中に結晶構造を有するシリコンを微細に分散させることが重要であり、この場合、化学蒸着及び不均化を進行させるための処理温度、処理時間、有機物ガスを発生する原料の種類及び有機物ガス濃度を適宜選定する必要がある。熱処理時間((CVD/不均化)時間)は、通常0.5?12時間、好ましくは1?8時間、特に2?6時間の範囲から選ばれるが、この熱処理時間は熱処理温度((CVD/不均化)温度)とも関係し、例えば、処理温度を1000℃にて行う場合には少なくとも5時間以上の処理を行うことが好ましい。」

(12e) 「【0044】
[電池評価]
リチウムイオン二次電池負極活物質としての評価はすべての実施例、比較例ともに同一で、以下の方法・手順にて行った。
まず、得られた導電性珪素複合体に人造黒鉛(平均粒子径D_(50)=5μm)を加え、人造黒鉛の炭素と蒸着した導電性珪素複合体中の炭素が合計40%となるように加え、混合物を製造した。この混合物にポリフッ化ビニリデンを10%加え、更にN-メチルピロリドンを加え、スラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cm^(2)に打ち抜き、負極とした。」

(12f) 「【0048】
[実施例3]
ブロック状又はフレーク状の酸化珪素を不活性ガス(アルゴン)雰囲気下で1300℃、1時間加熱し、珪素と二酸化珪素への不均化を行った。こうして得られたものについてX線回折(Cu-Kα)を行い、2θ=28.4°のSi(111)に帰属される回折線の半価幅からシェーラー法により求めた結晶の大きさは約55nmであった。このようにして熱処理を行った珪素-二酸化珪素複合物をヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約8μmの粉末を得た。この珪素複合物粉末を縦型管状炉(内径約50mmφ)を用いて、メタン-アルゴン混合ガス通気下で1100℃、3時間の熱CVDを行った。こうして、得られた導電性珪素複合体をらいかい器で解砕した。得られた導電性珪素複合体粉末の蒸着炭素量は11.3%、活性珪素量は28.1%、平均粒子径は8.6μmであり、シェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約60nmであった。」

第7 当審の判断
1 取消理由1-1について
(1) 先願発明
ア 甲第1号証の前記(1a)における【請求項1】?【請求項4】、【請求項13】には、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなり、平均粒子径0.01?30μm、BET比表面積0.5?20m^(2)/g、被覆炭素量3?70重量%であり、珪素微結晶の大きさが1?500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着しており、X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmである導電性珪素複合体と、導電剤の混合物であって、混合物中の導電剤が1?60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25?90重量%である混合物を用いた非水電解質二次電池用負極材が記載されている。

イ 甲第1号証の前記(1b)、(1f)、(1g)、(1i)によれば、導電性珪素複合体は、非水電解質二次電池の負極活物質であって、非水電解質二次電池用負極材に用いられる混合物は、導電性珪素複合体と導電材の他に、結着剤(ポリフッ化ビニリデン)が含まれており、負極は、厚さ20μmの銅箔上に、上記混合物を用いた非水電解質二次電池用負極材を形成したものであるといえ、この負極は、非水電解質二次電池用であることは明らかである。

ウ 以上から、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなり、平均粒子径0.01?30μm、BET比表面積0.5?20m^(2)/g、被覆炭素量3?70重量%であり、珪素微結晶の大きさが1?500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着しており、X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmであり、負極活物質である導電性珪素複合体と、導電剤と結着剤との混合物であって、混合物中の導電剤が1?60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25?90重量%である混合物を用いた負極材を、厚さ20μmの銅箔上に形成した非水電解質二次電池用負極。」(以下、「先願甲1発明」という。)

(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と先願甲1発明とを対比する。
(ア) 先願甲1発明の「負極活物質である導電性珪素複合体」は、「珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなり」「珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着して」いるもの、すなわち、珪素の微結晶が二酸化珪素に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなるものであるから、珪素、二酸化珪素、炭素の三相からなっており、二酸化珪素は珪素に結合しこれを包含しており、珪素、二酸化炭素、炭素は複合化されているといえる。
したがって、先願甲1発明の「珪素」、「二酸化珪素」、「炭素」は、それぞれ、本件発明1の「Si」、「SiO_(2)」、「炭素質物」に相当し、また、先願甲1発明の「珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなり」「珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着して」いる「負極活物質である導電性珪素複合体」は、本件発明1の「SiとSiO_(2)と炭素質物の三相からなり前記SiO_(2)相は前記Si相に結合しこれを包含しており、かつこれらが複合化された複合体」に相当する。

(イ) 前記(ア)で検討したように、先願甲1発明の「負極活物質である導電性珪素複合体」は、珪素の微結晶が二酸化珪素に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなるものであるから、負極活物質粒子であるといえる。
そうすると、先願甲1発明は、「導電性珪素複合体」を負極活物質粒子とする「非水電解質二次電池用負極」であると認められる。

(ウ) 先願甲1発明の「負極活物質である導電性珪素複合体と、導電剤と結着剤との混合物であって、混合物中の導電剤が1?60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25?90重量%である混合物を用いた負極材を、厚さ20μmの銅箔上に形成した非水電解質二次電池用負極」において、「銅箔」が集電体であることは技術常識(必要であれば、甲第8号証の前記(8a)、甲第9号証の前記(9c)など参照。)に照らして明らかであるから、先願甲1発明の「負極活物質である導電性珪素複合体と、導電剤と結着剤との混合物であって、混合物中の導電剤が1?60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25?90重量%である混合物を用いた負極材を、厚さ20μmの銅箔上に形成した」層は、本件発明1の「集電体上に前記負極活物質粒子と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層」に相当する。

(エ) 先願甲1発明においては、「負極活物質である導電性珪素複合体」、すなわち、負極活物質粒子の「平均粒子径」は「0.01?30μm」、「BET比表面積」は「0.5?20m^(2)/g」であり、一方、本件発明1においては、「前記負極活物質粒子の粒径が5μm以上100μm以下で比表面積が0.5m^(2)/g以上15.0m^(2)/g以下」であるから、両者は、「負極活物質粒子の粒径が5μm以上30μm以下で比表面積が0.5m^(2)/g以上15.0m^(2)/g以下」である点で重複する。

(オ) 以上から、本件発明1と先願甲1発明は、「SiとSiO_(2)と炭素質物の三相からなり前記SiO_(2)相は前記Si相に結合しこれを包含しており、かつこれらが複合化された複合体を負極活物質粒子とする非水電解質二次電池用負極において、前記負極活物質粒子の粒径が5μm以上30μm以下で比表面積が0.5m^(2)/g以上15.0m^(2)/g以下である非水電解質二次電池用負極。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、「前記Si相を包含する前記SiO_(2)相が前記負極活物質粒子中に分散されて」いるのに対し、先願甲1発明は、「珪素」を包含する「二酸化珪素」を有しているものの、当該「二酸化珪素」が負極活物質粒子中に分散されているかどうか不明である点。

相違点2:「集電体上に前記負極活物質粒子と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層の厚み」について、本件発明1は、「10μm以上150μm以下」であるのに対し、先願甲1発明は、不明である点。

相違点3:負極活物質粒子について、本件発明1は、「Si(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)である」のに対し、先願甲1発明は、「X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmである」ことは特定されているものの、「Si(220)XRDピークの半価幅」は、不明である点。

(カ) 相違点についての判断
a 相違点1について
(a) 前記(ア)、(イ)における検討によれば、先願甲1発明の「負極活物質である導電性珪素複合体」は、二酸化珪素が珪素を包含している構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなる負極活物質粒子であるといえるから、当該負極活物質粒子は、「二酸化珪素が珪素を包含している構造を有する粒子」の表面が炭素でコーティングされている一次粒子であると認められる。
したがって、先願甲1発明は、「珪素」を包含している「二酸化珪素」が負極活物質粒子中に分散されているものとはいえない。

(b) この点について申立人は、平成30年1月31日付け意見書の8頁2?21行において、甲第1号証の【0043】([実施例2])には、「この酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン-アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。」及び「熱CVD後、導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、平均粒子径が約2.8μmの粉末を得た。」と記載されており、熱CVD後、「導電性珪素複合体をらいかい器で解砕」することができ、また、その必要があるということは、当該段落熱CVD処理により「酸化珪素粒子が凝集することなく単一粒子の状態でカーボンによってコーティングされているもの」だけでなく、「SiO_(2)相中に微細なSi相が分散されている複合材料がさらに炭素材料中に分散されている構造」も同時に形成されることを明らかに示しており、また、「導電性珪素複合体をらいかい器で解砕」したとしても、全ての「導電性珪素複合体」が「酸化珪素粒子が凝集することなく単一粒子の状態でカーボンによってコーティングされているもの」になるわけではなく、「SiO_(2)相中に微細なSi相が分散されている複合材料がさらに炭素材料中に分散されている構造」が相当量含まれることは当業者にとって明らかである(らいかい器で解砕することによって、全ての「導電性珪素複合体」を「酸化珪素粒子が凝集することなく単一粒子の状態でカーボンによってコーティングされているもの」にすることは技術的に不可能である。)から、本件発明1の相違点1に係る発明特定事項も、甲第1号証に記載されている旨主張している。
そこで検討するに、甲第1号証の【0043】([実施例2]、前記(1h)参照)に記載されている製造方法は、先願甲1発明の実施例に関する記載であることは明らかであるから、上記【0043】の「この酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン-アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。・・・熱CVD後、導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、平均粒子径が約2.8μmの粉末を得た。」との記載は、先願甲1発明の「負極活物質である導電性珪素複合体」を得るための製造方法に関する記載であるといえる。
ここで、前記(a)における検討によれば、上記「負極活物質である導電性珪素複合体」は、「二酸化珪素が珪素を包含している構造を有する粒子」の表面が炭素でコーティングされた一次粒子としての負極活物質粒子であるから、上記【0043】の記載は、「二酸化珪素が珪素を包含している構造を有する粒子」の表面が炭素でコーティングされた一次粒子としての負極活物質粒子を得るための方法に関する記載である。
そうすると、「導電性珪素複合体をらいかい器で解砕」することによって、「二酸化珪素が珪素を包含している構造を有する粒子」の表面が炭素でコーティングされた一次粒子としての負極活物質粒子が得られるものであり、「らいかい器で解砕」する前の「導電性珪素複合体」は、「二酸化珪素が珪素を包含している構造を有する粒子」の表面が炭素でコーティングされた一次粒子としての負極活物質粒子が凝集しているものと認められる。そして、この凝集している上記負極活物質粒子を「らいかい器で解砕」しても、全てが解砕されるわけではなく、凝集している上記負極活物質粒子が不可避的に残るものと認められる。
しかし、「導電性珪素複合体をらいかい器で解砕」することによって不可避的に残った、凝集している上記負極活物質粒子を、非水電解質二次電池用負極に用いることは、甲第1号証に記載されているとはいえない。
したがって、「導電性珪素複合体をらいかい器で解砕」することによって不可避的に残った、凝集している上記負極活物質粒子を、先願甲1発明の負極活物質粒子として認定することはできない。
また、仮に、「導電性珪素複合体をらいかい器で解砕」することによって不可避的に残った、凝集している上記負極活物質粒子を、先願甲1発明の負極活物質粒子として認定し得るとしても、凝集している上記負極活物質粒子は、「二酸化珪素が珪素を包含している構造を有する粒子」の表面が炭素でコーティングされた負極活物質粒子が凝集した二次粒子であって、「二酸化珪素が珪素を包含している構造を有する粒子」が負極活物質粒子中に分散されているものではない。
したがって、甲第1号証には、本件発明1の相違点1に係る発明特定事項が記載されているとはいえないから、申立人の上記主張は採用できない。

(c) よって、相違点1は実質的な相違点である。

b 相違点2について
負極活物質層の厚みを「10μm以上150μm以下」との範囲とすることは、本件特許に係る出願の日前において周知の技術である(必要であれば、甲第4号証の前記(4b)、甲第5号証の前記(5b)、甲第6号証の前記(6a)、甲第7号証の前記(7b)、甲第8号証の前記(8a)、甲第9号証の前記(9b)など参照。)から、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、先願甲1発明に対して、上記周知技術を付加した特定事項にすぎず、かかる特定事項を備えることにより、新たな効果を奏するものではない。
したがって、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、課題解決のための具体化手段における微差にすぎず、実質的な相違点ではない。

c 相違点3について
本件訂正請求による訂正後の明細書(以下、「訂正明細書」という。)には、以下の記載がある。
「【0028】
炭化前の前駆体はSiOxおよび炭素質物を混合し調製するが、炭素質物としてピッチを用いる際には溶融ピッチ中にSiOxおよびグラファイト等を混合し冷却固化後、粉砕して表面を酸化し不融化した後、炭化焼成に供する。また、ポリマーを用いる場合にはモノマー中にグラファイト等およびSiOxを分散した状態で重合し固化したものを炭化焼成に供する。
【0029】
炭化焼成は、Ar中等の不活性雰囲気下にて行なわれる。炭化焼成においては、ポリマーまたはピッチが炭化されると共に、SiOxは不均化反応によりSiとSiO_(2)の2相に分離する。x=1のとき反応は下の式(1)で表される。
【0030】
2SiO → Si +SiO_(2) ・・・(1)
この不均化反応は800℃より高温で進行し、微小なSi相とSiO_(2)相に分離する。反応温度が上がるほどSi相の結晶は大きくなり、Si(220)のピークの半値幅は小さくなる。好ましい範囲の半値幅が得られる焼成温度は850℃?1600℃の範囲である。また、不均化反応により生成したSiは1400℃より高い温度では炭素と反応してSiCに変化する。SiCはリチウムの挿入に対して全く不活性であるためSiCが生成すると活物質の容量は低下する。従って、炭化焼成の温度は850℃以上1400℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは900℃以上1100℃以下である。焼成時間は、3時間から12時間の範囲が好ましい。

「【0060】
原料にはSiOxとして、平均粒径30μmの非晶質SiO、炭素質物として平均粒径6μmのグラファイトおよびフルフリルアルコールを用いた。混合比は重量比でSiO:グラファイト:フルフリルアルコールを3:0.5:5とした。フルフリルアルコールに対してその1/10重量の水を加えグラファイト、次いでSiOを加えてそれぞれ撹拌した。その後、希塩酸をフルフリルアルコールの1/10重量加え撹拌後放置し重合固化させた。
【0061】
得られた固形物を表1に示す温度・時間でAr中にて焼成し室温まで冷却後、粉砕機により粉砕し30μm径のふるいをかけて活物質を得た。この活物質について、後述するX線回折試験を行った。また、得られた活物質について負極活物質として、後述する充放電試験を行なった。
【0062】
【表1】


「【0065】
表2に充放電試験における1サイクル目の放電容量および50サイクル後の放電容量維持率、粉末X線回折から得たSi(220)ピークの半値幅を示す。
【0066】
【表2】



以上の記載によれば、本件発明1において、「負極活物質粒子」の「Si(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下・・・である」との事項は、SiOxを、不活性雰囲気下、焼成温度800℃以上1400℃以下、焼成時間3時間から12時間で焼成することによる不均化反応によって得られるものであるといえる。
一方、甲第1号証の前記(1c)、(1d)によれば、先願甲1発明の「導電性珪素複合体」は、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末を、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下900?1400℃、0.5?12時間の熱処理、又は、不活性雰囲気下で900?1400℃、0.5?6時間の熱処理を施して不均化することにより得られるものであるといえる。
そうすると、先願甲1発明の「導電性珪素複合体」の不均化反応のための製造条件は、不活性雰囲気、900℃以上1400℃以下、3時間から6時間との範囲で、本件発明1の「Si(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下・・・である」「負極活物質粒子」の不均化反応のための製造条件の範囲と重複している。
ここで、本件発明1の「Si(220)XRDピークの半価幅」は、「1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)」と特定されており、1.5°以上3°以下の範囲は除かれているところ、上記「Si(220)XRDピークの半価幅」につき、訂正明細書の上記【0030】には、「反応温度が上がるほどSi相の結晶は大きくなり、Si(220)のピークの半値幅は小さくなる」(当審注:本件発明1の「半価幅」と、【0030】の「半値幅」は同義である。)と記載されていることからすると、本件発明1における「Si(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)」との事項において、除かれている半価幅の範囲に対応する製造条件の温度範囲は、上記重複する温度範囲である900℃以上1400℃のうち、所定の温度以上の範囲であって、全ての温度範囲であるとはいえない。
そうすると、先願甲1発明の「導電性珪素複合体」は、本件発明1の「Si(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)である」との事項と重複する範囲を残しているものと認められる。
したがって、相違点3は実質的な相違点とはならない。

d 以上a?cから、本件発明1は、先願甲1発明と同一であるとはいえない。

イ 本件発明2?3について
本件発明2?3は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記アにおいて述べた理由と同じ理由により、先願甲1発明と同一であるとはいえない。

(3) まとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、いずれも先願甲1発明と同一であるとはいえないから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえず、取消理由1-1には理由がない。

2 取消理由1-2について
(1) 先願発明
ア まず、甲第2号証の記載事項と、甲第3号証の記載事項とを比較すると、甲2号証の前記(2a)?(2o)には、甲第3号証の前記(3a)?(3m)に記載された事項が記載されているといえる。

イ 甲第2号証の前記(2a)の【請求項1】、【請求項2】には、SiとOとを含み、Siに対するOの原子比xが0<x<2で表され、CuKα線を用いたX線回折パターンにおいて、Si(220)面回折ピークの半値幅をBとするとき、B<3°(2θ)であり、その表面に電子導電性材料を備えた負極活物質が記載されている。

ウ 甲第2号証の前記(2a)の【請求項6】によれば、請求項1又は2に記載の負極活物質は、非水電解質電池用であるといえる。

エ 甲第2号証の前記(2f)には、電子伝導性材料として炭素材料を用いることが記載されている。

オ 甲第2号証の前記(2e)には、負極活物質を粒子として用いる場合、その数平均粒径r(μm)がr<10であることが記載されおり、また、前記(2g)の【0044】には、負極活物質の比表面積S(m^(2)/g)がS<50であることが記載されている。

カ 甲第2号証の前記(2h)によれば、負極は、負極活物質を含む負極層及び負極集電体からなり、負極層は、負極活物質、結着剤及び導電剤を負極集電体上に形成したものであるといえるから、負極は、負極集電体上に負極活物質、結着剤及び導電剤とで形成される負極層を備えているものである。

キ 甲第2号証の前記(2j)には、負極の集電体に銅を用いることが記載されており、また、前記(2k)の【0069】には、負極活物質を含むペーストを、厚さ15μmの銅箔上に塗布、乾燥することにより負極を作製することが記載されているから、負極集電体は、厚さ15μmの銅箔からなるものであるといえる。

ク 以上から、甲第2号証には、「SiとOとを含み、Siに対するOの原子比xが0<x<2で表され、CuKα線を用いたX線回折パターンにおいて、Si(220)面回折ピークの半値幅をBとするとき、B<3°(2θ)であり、その表面に、炭素材料からなる電子導電性材料を備えた負極活物質粒子を用いた非水電解質電池用負極であり、前記負極活物質粒子の数平均粒径r(μm)がr<10で比表面積S(m^(2)/g)がS<50であり、15μmの負極銅箔からなる負極集電体上に前記負極活物質粒子、結着剤及び導電剤とで形成される負極層を備える、非水電解質電池用負極。」(以下、「先願甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と先願甲2発明とを対比すると、先願甲2発明の「CuKα線を用いたX線回折パターンにおいて、Si(220)面回折ピークの半値幅」は、本件発明1の「Si(220)XRDピークの半価幅」(以下、単に「半価幅」という。)に相当するものであるといえるところ、本件発明1の半価幅の範囲は、「1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)」であるのに対して、先願甲2発明の半価幅の範囲は3°未満であって、先願甲2発明の半価幅の範囲は、本件発明1の半価幅の範囲から除かれているから、本件発明1と先願甲2発明とは同一でないことは明らかである。

(イ) なお、申立人は、平成29年9月4日付け意見書の7頁11?17行において、甲第2号証の【0023】には、「3°≦Bである物質を非水電解質電池の負極活物質として用いた場合」、すなわち、Si(220)XRDピークの半価幅(以下、単に「半価幅」という。)が3°以上である場合が記載されており、甲第3号証の【0021】にも同様の記載がある旨主張している。
しかし、甲第2号証の【0023】(前記(2d)参照。)には、「3°≦Bである物質を非水電解質電池の負極活物質として用いた場合」の後に、本発明負極活物質を用いた場合とくらべて、電池のサイクル性能が著しく低下する。したがって、Si(220)面回折ピークの半値幅をBとするとき、B<3°とする必要がある。」と記載されており、当該記載は、3°≦Bである場合、すなわち、半価幅が3°以上である場合は、本発明負極活物質を用いた場合、すなわち、半価幅が3°未満である場合と比べて電池サイクル性能が著しく低下するというものであるから、甲第2号証には、半価幅が3°以上である場合が記載されているとはいえない。また、甲第3号証の【0021】(前記(3b)参照。)の記載についても同様である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件発明2?3について
本件発明2?3は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記アにおいて述べた理由と同じ理由により、先願甲2発明と同一であるとはいえない。

(3) まとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、いずれも先願甲2発明と同一であるとはいえないから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえず、取消理由1-2には理由がない。

3 取消理由2について
(1) 先願発明
甲第12号証の前記(12a)によれば、甲第12号証には、「X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmである、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなり、平均粒子径0.01?30μm、BET比表面積0.5?20m^(2)/g、被覆炭素量3?70重量%であり、珪素微結晶の大きさが1?500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着している導電性珪素複合体と、導電剤の混合物であって、混合物中の導電剤が1?60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25?90重量%である混合物を用いた非水電解質二次電池用負極材。」(以下、「先願甲12発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
甲第12号証は、甲第1号証に係る出願の特許公報であるところ、先願甲1発明の「負極材」が有する事項と、先願甲12発明の「非水電解質二次電池用負極材」が有する事項とは、語順が異なるものの全てにおいて共通しているから、先願甲1発明は、先願甲12発明の「非水電解質二次電池用負極材」を、「厚さ20μmの銅箔上に形成した非水電解質二次電池用負極」であるといえる。
そこで、本件発明1と先願甲12発明とを対比すると、前記1(2)ア(ア)?(オ)で検討したのと同様に、本件発明1と先願甲12発明とは、前記相違点1?3(ただし、「先願甲1発明」は、「先願甲12発明」と読み替える。以下、同様である。)で相違するのに加えて、本件発明1は、「非水電解質二次電池用負極」であるのに対し、先願甲12発明は、「非水電解質二次電池用負極材」である点で相違し(以下、「相違点4」という。)、その余の点で一致する。
そうすると、前記1(2)ア(カ)aで検討したのと同様に、相違点1は、本件発明1と先願甲12発明との実質的な相違点である。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、先願甲12発明と同一であるとはいえない。

イ 本件発明2?3について
本件発明2?3は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記アにおいて述べた理由と同じ理由により、先願甲12発明と同一であるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、いずれも先願甲12発明と同一であるとはいえないから、請求項1?3に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえず、取消理由2には理由がない。

第8 申立人の平成30年1月31日付け意見書における主張について
申立人は、平成30年1月31日付け意見書の9頁13行?10頁3行において、以下の主張をしている。
訂正により明らかとなった、「前記負極活物質粒子の粒径が5μm以上10μm以下」であることについて、粒径の測定方法が異なれば、粒径の定義が異なるため、訂正後の「負極活物質粒子」の「粒径」の数値範囲が一義的に決まらず、「粒径」の範囲が不明確である。
さらに、訂正後の請求項1に記載された「負極活物質粒子の粒径が5μm以上10μm以下」であるということは、負極活物質粒子の個々の粒子の粒径が、全て「5μm以上10μm以下」の範囲内であることを示しているのか、不明確である。また、例えば、訂正後の請求項1に係る発明において、負極活物質粒子の個々の粒子として、粒径が5μm未満の粒子を含むことも示しているのか、不明確である。

そこで検討するに、訂正前の請求項1には、「前記負極活物質の粒径が5μm以上10μm以下」と記載されていることからすると、「負極活物質」は「粒径」を有するものであるから、「粒子」であることは自明の事項である。
そうすると、訂正前の請求項1に係る発明に対しても、上記主張と同様の主張ができたものといえるところ、申立人は、訂正後に上記主張をしている。
したがって、申立人の上記主張は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとはいえず、申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して、実質的に新たな内容を含むものであると認められる。
よって、申立人の上記主張は、取消理由として採用しない。

第9 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法およびこれによって得られる非水電解質電池用負極活物質
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質を改良した非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法及びこれによって得られる非水電解質二次電池用負極活物質に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速なエレクトロニクス機器の小型化技術の発達により、種々の携帯電子機器が普及しつつある。そして、これら携帯電子機器の電源である電池にも小型化が求められており、高エネルギー密度を持つ非水電解質二次電池が注目を集めている。
【0003】
金属リチウムを負極活物質として用いた非水電解質二次電池は、非常に高いエネルギー密度を持つが、充電時にデンドライトと呼ばれる樹枝状の結晶が負極上に析出するため電池寿命が短く、またデンドライトが成長して正極に達し内部短絡を引き起こす等、安全性にも問題があった。そこでリチウム金属に替わる負極活物質として、リチウムを吸蔵・脱離する炭素材料、特に黒鉛質炭素が用いられるようになった。しかし、黒鉛質炭素の容量はリチウム金属・リチウム合金等に比べ小さく、大電流特性が低い等の問題がある。そこで、シリコン、スズなどのリチウムと合金化する元素、非晶質カルコゲン化合物などリチウム吸蔵容量が大きく、密度の高い物質を用いる試みがなされてきた。
中でもシリコンはシリコン原子1に対してリチウム原子を4.4の比率までリチウムを吸蔵することが可能であり、重量あたりの負極容量は黒鉛質炭素の約10倍となる。しかし、シリコンは、充放電サイクルにおけるリチウムの挿入脱離に伴なう体積の変化が大きく活物質粒子の微粉化などサイクル寿命に問題があった。
【0004】
従来、Si粒子の負極材料に炭素被覆を行い、上記問題点を解決することが試みられている(特許文献1参照)。かかる特許文献には、不純物としてSiO_(2)も含有されてもよい旨が記載されている。
【0005】
しかし、この公知例の負極材料の出発原料であるSi粉末は0.1μm以上の大きいもので、通常の充放電サイクルにおける活物質の微粉化や割れを防ぐことは困難である。例えば実施例では、出発原料のSiとして和光純製薬の試薬1級珪素粉末を使用しているが、これは結晶シリコンを粉末にしたもので、負極材料の粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークは0.1℃以下のきわめて低い値となる。この様な負極活物質材料では、さらなる高容量かつ高サイクル特性の電池を実現することは困難であった。
【0006】
即ち、本発明者らは鋭意実験を重ねた結果、負極活物質材料の炭素質物中にSiを分散させることによってサイクル特性の向上を図っても、ある一定の向上しか望め無いことを見出した。そして、その原因に関しては、分散するSiの結晶の大きさおよび、Si周囲の基質との結合性に因果関係が存在することを見出し、微結晶SiをSiと強固に結合するSiO_(2)に包含または保持された状態にして炭素質物中に分散させることで高容量化およびサイクル特性の向上を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2000-215887号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の非水電解質二次電池の負極活物質は、Si添加によっても一定の容量向上しか望めない非水電解質二次電池しか提供できないと言う問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点の解決を鑑みてなされたもので、Si添加によって従来実現していた電池よりもさらに高容量かつ高サイクル特性を達成可能な非水電解質二次電池用負極活物質及び非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施の形態の非水電解質二次電池用負極は、SiとSiO_(2)と炭素質物の三相からなり前記SiO_(2)相は前記Si相に結合しこれを包含しており、かつこれらが複合化された複合体を負極活物質粒子とする非水電解質二次電池用負極において、前記Si相を包含する前記SiO_(2)相が前記活物質粒子中に分散されており、集電体上に前記負極活物質粒子と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層の厚みが10μm以上150μm以下であり、前記負極活物質粒子の粒径が5μm以上100μm以下で比表面積が0.5m^(2)/g以上15.0m^(2)/g以下であり、かつ、前記負極活物質粒子のSi(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)であることを特徴とする。
【0011】
他の実施の形態は、前記実施の形態に記載の非水電解質二次電池用負極を有することを特徴とする非水電解質二次電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高容量である非水電解質二次電池の負極活物質を提供することができ、さらに高容量な非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる非水電解質二次電池の一例である円筒形非水電解質二次電池を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の負極活物質の詳細について記述する。
【0015】
本発明の負極活物質の望ましい態様は、SiとSiO_(2)と炭素質物の三相からなり、かつこれらが細かく複合化されたものである。Si相は多量のリチウムの挿入脱離し、負極活物質の容量を大きく増進させる。Si相への多量のリチウムの挿入脱離による膨張収縮を、Si相を他の2相のなかに分散することにより緩和して活物質粒子の微粉化を防ぐとともに、炭素質物相は負極活物質として重要な導電性を確保し、SiO_(2)相はSiと強固に結合し微細化されたSiを保持するバッファーとして粒子構造の維持に大きな効果がある。
【0016】
Si相はリチウムを吸蔵放出する際の膨張収縮が大きく、この応力を緩和するためにできるだけ微細化されて分散されていることが好ましい。具体的には数nmのクラスターから、大きくても300nm以下のサイズで分散されていることが好ましい。
【0017】
SiO_(2)相は非晶質、結晶質などの構造が採用できるが、Si相に結合しこれを包含または保持する形で活物質粒子中に偏りなく分散されていることが好ましい。
【0018】
炭素質物は、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、アモルファス炭素またはアセチレンブラックなどが良く、1つ又は数種からなり、好ましくはグラファイトとハードカーボンまたはソフトカーボンの混合物が良い。グラファイトは活物質の導電性を高める点で好ましく、ハードカーボン、ソフトカーボンは活物質全体を被覆し膨張収縮を緩和する効果が大きい。炭素質物はSi相、SiO_(2)相を内包する形状となっていることが好ましい。
【0019】
負極活物質の粒径は5μm以上100μm以下、比表面積は0.5m^(2)/g以上15.0m^(2)/g以下であることが好ましい。活物質の粒径および比表面積はリチウムの挿入脱離反応の速度に影響し、負極特性に大きな影響をもつが、この範囲の値であれば安定して特性を発揮することができる。
【0020】
また、活物質の粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅は、1.5°以上、8.0°以下であることが必要である。Si(220)面の回折ピーク半値幅はSi相の結晶粒が成長するほど小さくなり、Si相の結晶粒が大きく成長するとリチウムの挿入脱離に伴う膨張収縮に伴い活物質粒子に割れ等を生じやすくなるが、このため半値幅が1.5°以上、8.0°以下の範囲内であればこの様な問題が表面化することを避けられる。
【0021】
Si相、SiO_(2)相、炭素質物相の比率は、Siと炭素のモル比が0.2≦Si/炭素≦2の範囲であることが好ましい。Si相とSiO_(2)相の量的関係はモル比が0.6≦Si/SiO_(2)≦1.5であることが、負極活物質として大きな容量と良好なサイクル特性を得ることができるため望ましい。
【0022】
次に本実施の形態の非水二次電池用負極活物質材料の製造方法について説明する。
【0023】
Si原料はSiOx(0.8≦X≦1.5)を用いることが好ましい。特にSiO(x≒1)を用いることが、Si相とSiO_(2)相の量的関係を好ましい比率とする上で望ましい。形状は粉体で、粒径は1μm以上50μm以下であることが好ましい。SiOxは後に述べる焼成工程において微小なSi相とSiO_(2)相に分離するが、微小化し分散されたSi相への導電性を確保するために粒径は出来るだけ小さいことが好ましい。粒径が大きい場合、粒子中心部ではSi相を絶縁体のSiO_(2)相が厚く覆うことになり活物質としてのリチウムの挿入脱離の機能が阻害されるためである。従ってSiOxの粒径は50μm以下であることが好ましい。しかしSiOxの大気に触れる表面は酸化されてSiO_(2)となるため、粒径を極度に小さくした場合表面積が大きくなり表面がSiO_(2)となることで組成が不安定となる。従って粒径は1μm以上である事が好ましい。
【0024】
炭素質物の原料としては、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンブラック、ハードカーボンなどすでに炭化されている材料の他に、ピッチ、樹脂、ポリマーなど不活性雰囲気下で加熱されて炭素質物となるものも用いることが出来る。炭素質物としてはグラファイト、アセチレンブラックなど高い電気伝導性を持つ材料とポリマー、ピッチなどの炭化されていない材料を組み合わせて用いることが好ましい。ピッチ、ポリマーなどの材料は焼成前の段階でSiOxと共に溶融または重合を行なうことでSiOxを炭素質物内に内包する形状にすることが可能である。本発明の製造方法における炭化焼成温度は800℃?1400℃と比較的低温であるため炭化されたピッチまたはポリマーなどの黒鉛化は高くならず、活物質の導電性を高めるためにグラファイト、アセチレンブラック等が必要である。
【0025】
炭化前の前駆体はSiOxおよび炭素質物を混合し調製するが、炭素質物としてピッチを用いる際には溶融ピッチ中にSiOxおよびグラファイト等を混合し冷却固化後、粉砕して表面を酸化し不融化した後、炭化焼成に供する。また、ポリマーを用いる場合にはモノマー中にグラファイト等およびSiOxを分散した状態で重合し固化したものを炭化焼成に供する。
【0026】
炭化焼成は、Ar中等の不活性雰囲気下にて行なわれる。炭化焼成においては、ポリマーまたはピッチが炭化されると共に、SiOxは不均化反応によりSiとSiO_(2)の2相に分離する。x=1のとき反応は下の式(1)で表される。
【0027】
2SiO → Si +SiO_(2) ・・・(1)
この不均化反応は800℃より高温で進行し、微小なSi相とSiO_(2)相に分離する。反応温度が上がるほどSi相の結晶は大きくなり、Si(220)のピークの半値幅は小さくなる。好ましい範囲の半値幅が得られる焼成温度は850℃?1600℃の範囲である。また、不均化反応により生成したSiは1400℃より高い温度では炭素と反応してSiCに変化する。SiCはリチウムの挿入に対して全く不活性であるためSiCが生成すると活物質の容量は低下する。従って、炭化焼成の温度は850℃以上1400℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは900℃以上1100℃以下である。焼成時間は、3時間から12時間の範囲が好ましい。
【0028】
以上のような合成方法により本発明の負極活物質が得られる。炭化焼成後の生成物は各種ミル、粉砕装置、グラインダー等を用いて粒径、比表面積等を調製し、活物質として供される。
【0029】
以下、本発明の負極活物質を用いた非水電解質二次電池の作製について詳述する。
1)正極
正極は、活物質を含む正極活物質層が正極集電体の片面もしくは両面に担持された構造を有する。
【0030】
前記正極活物質層の片面の厚さは10μm?150μmの範囲であることが電池の大電流放電特性とサイクル寿命の保持の点から望ましい。従って正極集電体の両面に担持されている場合は正極活物質層の合計の厚さは20μm?300μmの範囲となることが望ましい。片面のより好ましい範囲は30μm?120μmである。この範囲であると大電流放電特性とサイクル寿命は向上する。
【0031】
正極活物質層は、正極活物質の他に導電剤を含んでいてもよい。
【0032】
また、正極活物質層は正極材料同士を結着する結着剤を含んでいてもよい。
【0033】
正極活物質としては、種々の酸化物、例えば二酸化マンガン、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えばLiCOO_(2))、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えばLiNi_(0.8)CO_(0.2)O_(2))、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn_(2)O_(4)、LiMnO_(2))を用いると高電圧が得られるために好ましい。
【0034】
導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などを挙げることができる。
【0035】
結着材の具体例としては例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVdF)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
【0036】
正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、正極活物質80?95重量%、導電剤3?20%、結着剤2?7重量%の範囲にすることが、良好な大電流放電特性とサイクル寿命を得られるために好ましい。
【0037】
集電体としては、多孔質構造の導電性基板かあるいは無孔の導電性基板を用いることができる。集電体の厚さは5?20μmであることが望ましい。この範囲であると電極強度と軽量化のバランスがとれるからである。
2)負極
負極は、負極材料を含む負極活物質が負極集電体の片面もしくは両面に担持された構造を有する。
【0038】
前記負極活物質層の厚さは10?150μmの範囲であることが望ましい。従って負極集電体の両面に担持されている場合は負極活物質層の合計の厚さは20?300μmの範囲となる。片面の厚さのより好ましい範囲は30?100μmである。この範囲であると大電流放電特性とサイクル寿命は大幅に向上する。
【0039】
負極活物質層は負極材料同士を結着する結着剤を含んでいてもよい。結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVdF)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
【0040】
また、負極活物質層は導電剤を含んでいてもよい。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などを挙げることができる。
【0041】
集電体としては、多孔質構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板を用いることができる。これら導電性基板は、例えば、銅、ステンレスまたはニッケルから形成することができる。集電体の厚さは5?20μmであることが望ましい。この範囲であると電極強度と軽量化のバランスがとれるからである。
3)電解質
電解質としては非水電解液、電解質含浸型ポリマー電解質、高分子電解質、あるいは無機固体電解質を用いることができる。
【0042】
非水電解液は、非水溶媒に電解質を溶解することにより調製される液体状電解液で、電極群中の空隙に保持される。
【0043】
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)とPCやECより低粘度である非水溶媒(以下第2溶媒と称す)との混合溶媒を主体とする非水溶媒を用いることが好ましい。
【0044】
第2溶媒としては、例えば鎖状カーボンが好ましく、中でもジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ-ブチロラクトン(BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、トルエン、キシレンまたは、酢酸メチル(MA)等が挙げられる。これらの第2溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。特に、第2溶媒はドナー数が16.5以下であることがより好ましい。
【0045】
第2溶媒の粘度は、25℃において2.8cmp以下であることが好ましい。混合溶媒中のエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの配合量は、体積比率で1.0%?80%であることが好ましい。より好ましいエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの配合量は体積比率で20%?75%である。
【0046】
非水電解液に含まれる電解質としては、例えば過塩素酸リチウム(LiClO_(4))、六弗化リン酸リチウム(LiPF_(6))、ホウ弗化リチウム(LiBF_(4))、六弗化砒素リチウム(LiAsF_(6))、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF_(3)SO_(3))、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)]等のリチウム塩(電解質)が挙げられる。中でもLiPF_(6)、LiBF_(4)を用いるのが好ましい。
【0047】
電解質の非水溶媒に対する溶解量は、0.5?2.0mol/Lとすることが望ましい。
3)セパレータ
非水電解液を用いる場合、および電解質含浸型ポリマー電解質を用いる場合においてはセパレータを用いることができる。セパレータは多孔質セパレータを用いる。セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリ弗化ピニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を用いることができる。中でも、ポリエチレンか、あるいはポリプロピレン、または両者からなる多孔質フィルムは、二次電池の安全性を向上できるため好ましい。
【0048】
セパレータの厚さは、30μm以下にすることが好ましい。厚さが30μmを越えると、正負極間の距離が大きくなって内部抵抗が大きくなる恐れがある。また、厚さの下限値は、5μmにすることが好ましい。厚さを5μm未満にすると、セパレータの強度が著しく低下して内部ショートが生じやすくなる恐れがある。厚さの上限値は、25μmにすることがより好ましく、また、下限値は1.0μmにすることがより好ましい。
【0049】
セパレータは、120℃の条件で1時間おいたときの熱収縮率が20%以下であることが好ましい。熱収縮率が20%を超えると、加熱により短絡が起こる可能性が大きくなる。熱収縮率は、15%以下にすることがより好ましい。
【0050】
セパレータは、多孔度が30?70%の範囲であることが好ましい。これは次のような理由によるものである。多孔度を30%未満にすると、セパレータにおいて高い電解質保持性を得ることが困難になる恐れがある。一方、多孔度が60%を超えると十分なセパレータ強度を得られなくなる恐れがある。多孔度のより好ましい範囲は、35?70%である。
【0051】
セパレータは、空気透過率が500秒/1.00cm^(3)以下であると好ましい。空気透過率が500秒/1.00cm^(3)を超えると、セパレータにおいて高いリチウムイオン移動度を得ることが困難になる恐れがある。また、空気透過率の下限値は、30秒/1.00cm^(3)である。空気透過率を30秒/1.00cm^(3)未満にすると、十分なセパレータ強度を得られなくなる恐れがあるからである。
【0052】
空気透過率の上限値は300秒/1.00cm^(3)にすることがより好ましく、また、下限値は50秒/1.00cm^(3)にするとより好ましい。
【0053】
本発明に係わる非水電解質二次電池の一例である円筒形非水電解質二次電池を、図1を参照して詳細に説明する。
【0054】
例えば、ステンレスからなる有底円筒状の容器1は底部に絶縁体2が配置されている。電極群3は、前記容器1に収納されている。前記電極群3は、正極4、セパレータ5、負極6及びセパレータ5を積層した帯状物を前記セパレータ5が外側に位置するように渦巻状に捲回した構造になっている。
前記容器1内には、電解液が収容されている。中央部が開口された絶縁紙7は、前記容器1内の前記電極群3の上方に配置されている。絶縁封口板8は、前記容器1の上部開口部に配置され、かつ前記上部開口部付近を内側にかしめ加工することにより前記封口板8は前記容器1に固定されている。正極端子9は、前記絶縁封口板8の中央に嵌合されている。正極リード1.0の一端は、前記正極4に、他端は前記正極端子9にそれぞれ接続されている。前記負極6は、図示しない負極リードを介して負極端子である前記容器1に接続されている。
なお、前述した図1において、円筒形非水電解質二次電池に適用した例を説明したが、角型非水電解質二次電池にも同様に適用できる。また、前記電池の容器内に収納される電極群は、渦巻き系に限らず、正極、セパレータ及び負極をこの順序で複数積層した形態にしてもよい。
【0055】
また、前述した図1においては、金属缶からなる外装体を使用した非水電解質二次電池に適用した例を説明したが、フィルム材からなる外装体を使用した非水電解質二次電池にも同様に適用することができる。フィルム材としては、熱可塑性樹脂とアルミニウム層を含むラミネートフィルムが好ましい。
以上説明した本発明に係わる非水電解質二次電池用負極活物質は、SiとSiO_(2)と炭素質物の三相を含む化合物であることを特徴とするものである。
このような負極活物質は高い充放電容量と長いサイクル寿命を同時に達成することができるため、放電容量が向上された長寿命な非水電解質二次電池を実現することができる。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の具体的な実施例を挙げ、その効果について述べる。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0057】
原料にはSiOxとして、平均粒径30μmの非晶質SiO、炭素質物として平均粒径6μmのグラファイトおよびフルフリルアルコールを用いた。混合比は重量比でSiO:グラファイト:フルフリルアルコールを3:0.5:5とした。フルフリルアルコールに対してその1/10重量の水を加えグラファイト、次いでSiOを加えてそれぞれ撹拌した。その後、希塩酸をフルフリルアルコールの1/10重量加え撹拌後放置し重合固化させた。
【0058】
得られた固形物を表1に示す温度・時間でAr中にて焼成し室温まで冷却後、粉砕機により粉砕し30μm径のふるいをかけて活物質を得た。この活物質について、後述するX線回折試験を行った。また、得られた活物質について負極活物質として、後述する充放電試験を行なった。
【0059】
【表1】

【0060】
(充放電試験)
得られた試料にアセチレンブラック5wt%、 ポリテトラフルオロエチレン3wt%を加えシート状としステンレスメッシュに圧着し、150℃で真空乾燥し試験電極とした。対極および参照極を金属Li、電解液を1MLiPF_(6)のEC・MEC(体積比1:2)溶液とした電池をアルゴン雰囲気中で作製し充放電試験を行った。充放電試験の条件は、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cm^(2)の電流密度で充電、さらに0.01Vで8時間の定電圧充電を行い、放電は1mA/cm^(2)の電流密度で3Vまで行った。
(X線回折測定)
得られた粉末試料について粉末X線回折測定を行い、Si(220)面のピークの半値幅を測定した。測定は株式会社マック・サイエンス社製X線回折測定装置(型式M18XHF22)を用い、以下の条件で行った。
【0061】
対陰極:Cu
管電圧:50kv
管電流:300mA
走査速度:1°(2θ)/min
時定数:1sec
受光スリット:0.15mm
発散スリット:0.5°
散乱スリット:0.5°
回折パターンより、d=1.92Å(2θ=47.2°)に現れるSiの面指数(220)のピークの半値幅(°(2θ))を測定した。また、Si(220)のピークが活物質中に含有される他の物質のピークと重なりをもつ場合には、ピークを単離し半値幅を測定した。
(比較例3)
実施例2におけるSiOを平均粒径0.5μmのSi粉末とし、Si:グラファイト:フルフリルアルコールを1:0.5:5の重量比で実施例と同様に合成した。この際、焼成温度は1000℃とした。得られた試料について、充放電試験およびX線回折測定を行なった。この得られた資料を負極活物質として使用した対極Li試験電池を実施例と同様に形成した。
【0062】
表2に充放電試験における1サイクル目の放電容量および50サイクル後の放電容量維持率、粉末X線回折から得たSi(220)ピークの半値幅を示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に挙げた結果から本発明の負極活物質は大きな放電容量および良好なサイクル特性を有することが理解される。すなわち、比較例1では焼成温度を700℃としたためSiOはSiとSiO_(2)に分離せず、そのため容量およびサイクル特性も低下した。比較例2では焼成温度を1400℃としたため、Si(220)ピークの半値幅は小さくなりサイクル特性が低下するとともに、生成したSiがCと反応しLiを吸蔵しないSiCとなったため容量が大幅に低下した。比較例3ではSi粒子が大きく小さい半値幅を有し、またSiO_(2)が存在しないためにサイクル特性が大幅に低下した。
【符号の説明】
【0065】
1・・・外装体、
3・・・電極群、
4・・・正極、
5・・・セパレータ、
6・・・負極、
8・・・封口板、
9・・・正極端子。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとSiO_(2)と炭素質物の三相からなり前記SiO_(2)相は前記Si相に結合しこれを包含しており、かつこれらが複合化された複合体を負極活物質粒子とする非水電解質二次電池用負極において、前記Si相を包含する前記SiO_(2)相が前記負極活物質粒子中に分散されており、集電体上に前記負極活物質粒子と導電材と結着剤とで形成される負極活物質層の厚みが10μm以上150μm以下であり、前記負極活物質粒子の粒径が5μm以上100μm以下で比表面積が0.5m^(2)/g以上15.0m^(2)/g以下であり、かつ、前記負極活物質粒子のSi(220)XRDピークの半価幅が1.5°以上、8°以下(但し1.5°以上3°以下を除く)であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
請求項1の非水電解質二次電池用負極において、
負極集電体が多孔質構造あるいは無孔の銅、ステンレス、ニッケルの導電性基板のいずれかであり、厚みが5μm以上、20μm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の負極を有することを特徴とする非水電解質二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-28 
出願番号 特願2012-106011(P2012-106011)
審決分類 P 1 651・ 4- YAA (H01M)
P 1 651・ 16- YAA (H01M)
最終処分 維持  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 河本 充雄
土屋 知久
登録日 2016-08-26 
登録番号 特許第5992198号(P5992198)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法およびこれによって得られる非水電解質電池用負極活物質  
代理人 松山 允之  
代理人 須藤 章  
代理人 好宮 幹夫  
代理人 須藤 章  
代理人 池上 徹真  
代理人 小林 俊弘  
代理人 松山 允之  
代理人 池上 徹真  

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