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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1340070
異議申立番号 異議2017-700528  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-29 
確定日 2018-03-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6032917号発明「錠剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6032917号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の明細書、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第6032917号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6032917号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成24年 3月29日に出願したものであって、平成28年11月 4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 小宮邦彦により特許異議の申立てがされるとともに、特許異議申立人 宮島和美により特許異議の申立てがされ、平成29年 7月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年10月 2日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、特許異議申立人 宮島和美から平成29年12月13日付けで意見書が提出されるとともに、特許異議申立人 小宮邦彦から平成29年12月14日付けで意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア?キのとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法であって、当該保形性の悪い成分がグルコサミン又はその塩であり、当該セルロースの平均L/D値が3以上であることを特徴とする方法。」と記載されているのを、「保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法であって、当該保形性の悪い成分がグルコサミン又はその塩であり、当該セルロースの平均L/D値が3.33以上であることを特徴とする方法。」に訂正する。

イ.訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0081】に「表1にグルコサミンを有効成分とする錠剤(実施例A1?A12、及び比較例a1?a3)の組成を、また表2にアスコルビン酸を有効成分とする錠剤(実施例B1?B12、及び比較例b1?b3)の組成を記載する。」と記載されているのを、「表1にグルコサミンを有効成分とする錠剤(実施例A1、A2、A5、A6、A9、A10、参考例A3、A4、A7、A8、A11、A12、及び比較例a1?a3)の組成を、また表2にアスコルビン酸を有効成分とする錠剤(参考例B1?B12、及び比較例b1?b3)の組成を記載する。」に訂正する。

ウ.訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0089】に「調製した錠剤(実施例A1?A12及びB1?B12、比較例a1?a3及びb1?b3)」と記載されているのを、「調製した錠剤(実施例A1、A2、A5、A6、A9、A10、参考例A3、A4、A7、A8、A11、A12及び参考例B1?B12、比較例a1?a3及びb1?b3)」に訂正する。

エ.訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0091】に「保形性の悪い成分としてグルコサミンを使用した実施例を表1に示し、保形性の悪い成分としてアスコルビン酸を使用した実施例を表2に示す。」と記載されているのを、「保形性の悪い成分としてグルコサミンを使用した実施例及び参考例を表1に示し、保形性の悪い成分としてアスコルビン酸を使用した参考例を表2に示す。」に訂正する。

オ.訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0092】に記載された【表1】の「実施例A3」、「実施例A4」、「実施例A7」、「実施例A8」、「実施例A11」、「実施例A12」と記載されているのを、それぞれ、「参考例A3」、「参考例A4」、「参考例A7」、「参考例A8」、「参考例A11」、「参考例A12」に訂正する。

カ.訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0093】に記載された【表2】の「実施例」と記載されているのを「参考例」に訂正する。

キ.訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0094】に「(実施例A1?12及び実施例B1?12)」と記載されているのを、「(実施例A1、A2、A5、A6、A9、A10、参考例A3、A4、A7、A8、A11、A12及び参考例B1?B12)」に訂正する。

(2)一群の請求項、明細書の訂正と関係する請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明では、「セルロースの平均L/D値」が、「3以上」とされているところ、これをさらに「3.33以上」と特定するものである。
また、「セルロースの平均L/D値」について、「3.33以上」とする点に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、「セルロースの平均L/D値として、好ましくは3?4であり、より好ましくは3?3.5である。」(段落056)との記載があり、また、保形性の悪い成分がグルコサミンである実施例が記載されている表1の実施例A2、A6、A10のセルロースの平均L/D値が3.33であり、実施例A1、A5、A9のセルロースの平均L/D値が3.50であることが記載されているから、訂正前の請求項1に係る発明において、「セルロースの平均L/D値」について、「3.33以上」であることは明細書に記載されているものと認める。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ)訂正事項2?7
訂正事項2?7は、訂正事項1に係る訂正に伴い、訂正前の明細書において「実施例」と記載していた実施の態様のうち、訂正事項1に係る訂正に伴い、訂正後の請求項1の発明から外れる実施態様を「参考例」と記載するものであるから、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との間に生じた不整合を解消するための訂正である。
したがって、訂正事項2?7は、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ.一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正は、いずれも訂正前の請求項1?2について訂正するものであるところ、請求項2は請求項1を引用している関係にあるから、訂正前の請求項1?2は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。

ウ.明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項2?7に係る訂正は、いずれも請求項1?2に関係する訂正であり、訂正事項2?7は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行うものである。

(3)小括
よって、上記訂正請求による訂正事項1?7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の明細書、請求項〔1?2〕について訂正することを認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求による訂正後の請求項1、2に係る発明(以下、請求項順に、「本件発明1」、「本件発明2」、または、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法であって、当該保形性の悪い成分がグルコサミン又はその塩であり、当該セルロースの平均L/D値が3.33以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記保形性の悪い成分を80質量%以上の割合で含む、請求項1に記載の方法。」

(2)平成29年 7月31日付け取消理由について
ア.平成29年 7月31日付け取消理由の概要
当合議体が、訂正前の請求項1?2に係る特許に対して特許権者に通知した平成29年 7月31日付け取消理由は、概略、以下のとおりである。

請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

刊行物一覧
刊行物1:グルコサミン加工食品「大正グルコサミン」の発売開始のニュースリリース、大正製薬株式会社、[公開日:2008年2月4日、出力日:2017年5月22日]、インターネット<http://www.taisyo.co.jp/company/release/2008/2008020401.html>
(特許異議申立人 小宮邦彦による特許異議申立書の甲第1号証-1である。)
刊行物2:橋田充 編「経口投与製剤の処方設計」、平成10年4月15日、株式会社薬業時報社発行、第176頁
(特許異議申立人 小宮邦彦による特許異議申立書の甲第4号証の一部である。)
刊行物3:特開2012-62279号公報
(特許異議申立人 小宮邦彦による特許異議申立書の甲第8号証である。)
刊行物4:特開2006-36644号公報
(特許異議申立人 小宮邦彦による特許異議申立書の甲第7号証である。)
刊行物5:特開2005-225782号公報
(特許異議申立人 小宮邦彦による特許異議申立書の甲第6号証、特許異議申立人 宮島和美による特許異議申立書の甲第8号証である。)
刊行物6:OBAE,K. et al,Improving of compactibility and friability in high dose tablets using novel microcrystalline cellulose CeolusTM KG-1000,ExcipientFest Americas,2008年,
URL,http://www.phexcom.cn/UploadFiles/200899112410254.pdf
(特許異議申立人 小宮邦彦による特許異議申立書の甲第2号証、特許異議申立人 宮島和美による特許異議申立書の甲第1号証である。)

イ.刊行物の記載
イ-1 刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の記載がある。
・記載事項1-1
「製薬会社が提供する品質にこだわったサプリメント「大正グルコサミン」通販限定で新発売」(標題)
・記載事項1-2
「大正製薬株式会社(社長 上原 明)は、通信販売限定で「大正グルコサミン」を2月4日より発売開始いたします。」(1行)
・記載事項1-3
「「大正グルコサミン」は、品質にこだわったグルコサミン単一素材のサプリメントで、グルコサミンの1日の目安摂取量である1,500mgをわずか6粒で補給することができます。」(2?3行)
・記載事項1-4
「グルコサミン1,500mg(1日目安量)を6粒に凝縮」(◇製品特長)
・記載事項1-5
「製品名 大正グルコサミン
製品区分 栄養補助食品
・・・・・
原材料 グルコサミン(エビ、カニ由来)、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、CMC-Ca、微粒酸化ケイ素、ステアリン酸Ca
内容量59.4g(330mg×6粒×30袋)
希望小売価格2,520円(税込)」(◇製品概要)

イ-2 刊行物2の記載事項
刊行物2には、以下の記載がある。
・記載事項2-1
「第4章 医薬品添加物と処方設計
・・・・・
4-1.医薬品添加物の種類と使用法
・・・・・
1 医薬品添加物の種類
・・・・・
表4-1-2 経口投与製剤に使用するおもな添加物の種類と使用目的および代表例
賦形剤 散剤、錠剤など固形製剤の増量、形状付与の目的で添加されるもの 乳頭、結晶セルロース、D-マンニトール、トウモロコシデンプンなど
・・・・・
3 製剤化に必要な添加物
1 賦形剤
(1)賦形剤とは
賦形剤は、散剤とこれを適宜成形した顆粒剤および錠剤などに対して用いられる医薬品添加物であって、・・・・・
(2)賦形剤の種類
乳糖、トウモロコシデンプン、結晶セルロース、D-マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、白糖などがよく使用されている。
・・・・・
(5)結晶セルロース
・・・・・
b)使用法と留意点 本品は・・・・・打錠機で成形すれば、粒子が絡み合い水素結合などを生じて容易に成形が可能である一方、水中ではその結合が破壊し速やかに崩壊する等の理由から、結合性、崩壊性を兼ね備えた賦形剤として繁用されている。・・・・・」(p97?101)
・記載事項2-2
「5-3.錠剤
1 はじめに
経口固形製剤のうち錠剤は最も汎用されている剤形であり,表5-3-1に示すように,1996年度の薬価基準収載品目数は全体の45.6%を占めている。
・・・・・
この錠剤という剤形は古く1886年告示の日局1から収載されているが・・・・・
2 一般的な製法
圧縮錠剤とコーティング錠剤の一般的な製法について解説する。
1 圧縮錠剤(以下、錠剤と記す)の製法
・・・・・
(1)直接粉末圧縮法(以下、直打法と記す)
・・・・・
(2)湿式顆粒圧縮法
・・・・・」(p176?180)

イ-3 刊行物3の記載事項
刊行物3には、以下の記載がある。
・記載事項3-1
「グルコサミン摂取の形態としては、様々なものがあるが、その一つである錠剤は、携帯が容易であり、また摂取時に量を計測せずとも一定量を服用することが出来るので、最もよく用いられている形態の一つである。
しかしながら、グルコサミンおよびその塩の結晶粉末は打錠性が悪いという問題があった。すなわち、一般に結晶粉末は、流動性が悪く、打錠機の臼への均一な充填が悪くなり、キャッピング、ラミネーション等の打錠障害の発生頻度が高まったり、錠剤の重量にバラツキが生じたり等の不具合が生じてしまう。また、グルコサミンまたはその塩の結晶粉末を一度造粒して打錠に用いる場合、グルコサミンの含有量が多くなると流動性が悪く、直打用に適した顆粒を造るのが困難であった。そのため高含有錠剤の製造も困難であった。」(段落0003)
・記載事項3-2
「従って、本発明の目的は、上記先行技術に存在する問題点を回避して、実用上十分に流動性に優れ、打錠加工に適する、グルコサミンを高含有する造粒粉末または顆粒、及びその製造方法を提供することにある。」(段落0008)
・記載事項3-3
「上記目的を達成するために、本発明者は研究を重ね、(a)グルコサミンまたはその塩と、(b)リン酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の滑沢剤とを含む組成物は、造粒して顆粒にしたときの流動性が非常に優れ、打錠障害が発生し難いことを見出した。また、この組成物は、グルコサミンの含有率が高い場合にも、流動性に優れる造粒粉末又は顆粒にすることができ、その結果、グルコサミンを高含有する錠剤を効率よく製造できることを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の造粒粉末又は顆粒、及びその製造方法を提供する。」(段落0009)
・記載事項3-4
「グルコサミンおよびその塩は、結晶又は非結晶のいずれであってもよい。結晶は流動性の良い顆粒を製造し難いが、本発明によれば、グルコサミン結晶を用いても、流動性の良い造粒粉末又は顆粒が得られる。従って、本発明では、グルコサミンの結晶、結晶粉末を好適に使用できる。」
・記載事項3-5
「本発明の造粒粉末又は顆粒は、グルコサミンの含有比率が高く、しかも実用上十分に流動性が良いため、グルコサミンの含有量が多い錠剤を、打錠障害を発生させないで製造することができる。従って、産業上極めて優れたものである。」(段落0038)

イ-4 刊行物4の記載事項
刊行物4には、以下の記載がある。
・記載事項4-1
「グルコサミン含有サプリメントの製品形態としては様々なものがあるが、そのひとつである錠剤は保存性、携帯性に優れ、時間、場所を問わず手軽に摂取可能であることから、最もよく用いられているものの一つである。しかしながら、グルコサミンの結晶粉体は、打錠性が悪いという問題があった。すなわち、グルコサミンの結晶粉体は、流動性が悪く打錠機への均一な充填に困難性を伴うため、打錠加工によって得られる錠剤の均質性を確保することがむずかしい。また、硬度を得にくい物性を有しているため、打錠圧を高くしなければ希望する錠剤硬度が得られず、打錠機への負荷も大きくなる。更に、得られる錠剤の形状安定性も低くその流通過程において破損が生じ商品価値が低下するという問題もあった。」(段落0003)
・記載事項4-2
「したがって、本発明の目的は、上記先行技術に付随する問題を回避して、流動性に優れ、且つ、打錠加工後に適度に高い錠剤硬度が得られるグルコサミン顆粒の製造方法、該製造方法によって得られるグルコサミン顆粒、及び該顆粒を用いて得られるグルコサミン錠剤を提供することにある。」(段落0009)
・記載事項4-3
「本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、造粒加工時に糖類を含有する溶液を噴霧することにより、打錠性に優れたグルコサミン顆粒が得られる事を見出し、本発明を完成するに至った。」(段落0010)
・記載事項4-4
「即ち、本発明のグルコサミン顆粒の製造方法は、粉末状に調製したグルコサミン及び/又はその塩類に、グルコサミン及び/又はその塩類以外の糖類を含有する溶液を噴霧した後、又は噴霧しつつ、造粒加工することを特徴とする。」(段落0011)
・記載事項4-5
「造粒加工を施さずに直接打錠加工した比較例のグルコサミン錠剤Dは、製品の流通過程に耐久しうる硬度を有しておらず、また、比較例のグルコサミン錠剤Eの硬度は、グルコサミン錠剤Dよりは改善されているものの製品の流通過程に耐久しうる硬度としては不十分であった。一方、本発明によって得られた実施例のグルコサミン錠剤A、グルコサミン錠剤B、及びグルコサミン錠剤Cの硬度は、いずれも比較例に対して十分な改善が確認され、製品の流通過程に耐久しうる硬度を有していた。また、グルコサミン錠剤Aとグルコサミン錠剤Bを比較すると、グルコサミン顆粒調製時のデキストリン使用量が同じであっても、噴霧液に使用するデキストリン量を増やしたグルコサミン錠剤Aの方が高い硬度を示した。この事から、デキストリンを噴霧液として噴霧することによる、グルコサミン錠剤加工時の錠剤硬度の上昇効果が確認された。」(段落0042)
・記載事項4-6
「本発明によって得られたグルコサミン顆粒は、流動性、打錠性に優れており、打錠加工用のグルコサミン原料として幅広く利用可能である。また、高濃度のグルコサミンを含有するグルコサミン錠剤を、品質に均一性・安定性を具え、安心して服用できる栄養補給用サプリメントとして市場に提供することができる。」(段落0043)

イ-5 刊行物5の記載事項
刊行物5には、以下の記載がある。
・記載事項5-1
「グルコサミンは、甲殻類の外骨格に含まれるキチンを塩酸等で加水分解して得られるものであり、変形関節炎等の鎮痛、症状改善、美肌効果、血流改善効果等が認められている。近年は食品分野における需要拡大を見込み、グルコサミンの原料粉体がタブレット、ハードカプセル、ドリンク剤等に使用されている。」(段落0002)
・記載事項5-2
「前述したグルコサミンの結晶末は、タブレット製造用の原料粉体として用いるには取り扱い性が非常に困難な素材である。すなわち、一般に結晶末は潰れにくく結着性が低くなることから、原料粉体同士の繋がりが弱いため、製造されたタブレットは、硬度が低くなり、柔らかく脆いものとなってしまう。従って、タブレットの硬度を高めるため、結着剤を多く配合したり、打錠機による打錠圧を増したり等の工夫が必要となる。しかし、この場合には、タブレット中におけるグルコサミンの含有量が低下したり、打錠機に係る負担が大きくなったり等の不具合が生じてしまう。一方、タブレットの硬度を高めるため、原料粉体の結着性を高める工夫も考えられるが、この場合には原料粉体の物性、特に流動性が悪くなり、キャッピング、ラミネーティング等の打錠障害の発生頻度が高まったり、タブレット重量にムラが生じたり等の不具合が生じてしまう。」(段落0004)
・記載事項5-3
「本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、有効成分としてグルコサミンを含有しつつ、取り扱い性を簡易なものとすることが可能なタブレット用組成物を提供することにある。」(段落0005)
・記載事項5-4
「上記の目的を達成するために、請求項1に記載のタブレット用組成物の発明は、グルコサミン結晶末の粉砕物を含有することを要旨とする。
上記構成によれば、粉砕物は、その性状がグルコサミンの結晶末とは異なり、粒度が同程度のグルコサミン結晶末に比べて結着性に優れたものとなる。従って、当該粉砕物は、グルコサミンとしての効能もさることながら、タブレット製造時に適度な結着性を発揮することにより、所謂結着剤(バインダー)として有用なものとなる。その結果、有効成分としてグルコサミンを含有しつつ、取り扱い性を簡易なものとすることが可能である。」(段落0006)
・記載事項5-5
「当該粉砕物は、前記結晶末とともにタブレット中に含有させることが好ましい。すなわち、当該粉砕物は、その結着性の高さから結晶末に比べて流動性に劣り、前記結晶末以外に使用した賦形剤の種類、打錠時の製造条件等に起因して、打錠障害を発生させるおそれがある。一方、当該粉砕物を前記結晶末とともに使用した場合、粉砕物と結晶末とはグルコサミンからなる同種のものであることから、互いに対する結着性が他物質への結着性に比べて高く、当該粉砕物の結着力を抑えつつ、適度な結着性を発揮させやすくなる。」(段落0023)
・記載事項5-6
「前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ タブレットの製造時には、流動性の高い原料粉体を使用することが好適ではあり、効率的であるものの、流動性の高いグルコサミンの結晶末のみから製造されたタブレットは硬度に劣る。逆に、タブレットに適度な硬度を付与しようとすれば、原料粉体の結着性を上げざるを得ず、その結果として、グルコサミンの含有量の低下、原料粉体の流動性の低下、打錠障害の発生等を招く。このようにグルコサミンは、製造時における流動性の向上、製造後におけるタブレットの硬度維持という課題を全て満たしつつ、タブレット製造用の原料粉体として用いるには取り扱い性が非常に困難な素材である。実施形態のタブレット用組成物によれば、グルコサミンの結晶末を粉砕して得られた粉砕物を含有している。この粉砕物は、タブレットを形成する原料粉体等を繋げるに必要十分であり、適度な結着性を有しいている。従って、粉砕物は、タブレット用組成物として流動性の低下を抑えつつ、タブレットの硬度の維持又は向上を図ることができ、取り扱い性が良好であるため、効率的にグルコサミンのタブレットを製造することができる。
・ また、粉砕物は結晶末と同じくグルコサミンから製造されたものであることから、タブレット中のグルコサミンの含有量を高くすることができる。
・ また、タブレット中のグルコサミンの含有量が高いことから、使用者においてはタブレットの摂取量の低減を図ることができる。その結果、グルコサミンを必要量だけ摂取するために1度の摂取時に多量のタブレットを服用するには及ばず、継続的な摂取が可能となる。
・ また、粉砕物と結晶末との両方を含有させることにより、粉砕物が過剰な結着力を発生することを抑えることが可能であり、流動性の向上を図ることができるため、取り扱い性をさらに簡易なものとすることができる。
・ また、粉砕物の粒度を5?100μmとし、タブレット中の含有率を50?85重量%とすることにより、適度な結着性を維持しつつ、タブレット中におけるグルコサミンの含有量を高めることができる。」(段落0025?0028

イ-6 刊行物6の記載事項
刊行物6には、以下の記載がある。
・記載事項6-1
「新規な微結晶性セルロース セオラス^(TM) KG-1000を用いる高用量錠剤における圧縮性と摩損度の改善」(標題)
・記載事項6-2
「背景
錠剤化
錠剤は、その高い生産性と嚥下が容易であるために、最も好ましい固体剤形である。
錠剤化の問題は、しばしば、API(医薬品有効成分)の低い圧縮性により生ずる。
特に、賦形剤の配合量が制限される高用量錠剤の場合には、錠剤化の問題を防ぐことは困難である。」(第3頁)
・記載事項6-3
「はじめに
KG-1000開発
これらの錠剤化問題を解決するために錠剤圧縮におけるMCC粒子の性質の影響を調査した。
MCCのL/D値が、錠剤硬度に影響を及ぼすMCCの最も重要な因子の一つであることが明らかになった。
KG-1000は、特に、少量のMCCで、圧縮性と摩損度を改善するように作られている。」(第4頁)
・記載事項6-4
「圧縮成形性に関するL/D比の影響



」(第11頁)
・記載事項6-5
セオラス^(TM) PH-101、KG-802、KG-1000のL/D値が順に1.8、2.8、3.5であることが記載されている(第14頁右図の横軸の数値)

・記載事項6-6
「セオラス^(TM) KG-1000の重要な特徴
■高い圧縮性
追加の顆粒状添加剤としてわずか5%の添加で、圧縮性と摩損度を改善する。
スティッキングやキャッピングなどの錠剤化問題の防止に貢献する。」(第16頁)
・記載事項6-7
「セオラス^(TM) KG-1000の応用データ
1.ラクトース錠剤の直接打錠
2.高変形性顆粒化/錠剤化、追加の顆粒状MCC添加(MCC添加率:5%)
3.ビタミンC 80%製剤の直接打錠
4.高用量薬剤のローラー圧縮
5.ビタミンE製剤の直接打錠」(第17頁)
・記載事項6-8
「ビタミンC80%製剤のための直接打錠
■問題点:
低圧縮性薬剤量が増加するにつれて、スティッキングやキャッピングなどの錠剤化の問題が起こりうる。さらに、ターンテーブル速度が増加するにつれて、錠剤の硬度及び摩損度は低下する。

錠剤化の問題の防止に対するKG-1000の効果が観察された。さらに、KG-1000が、より速いターンテーブル速度において、錠剤の硬度及び摩損度の改善に寄与していることが観察された。」(第25頁)
・記載事項6-9
実験手順とのタイトルの下、80重量%アスコルビン酸(破砕結晶粉末、平均粒子サイズ:170μm)、3重量%計算カルシウムとを混合し(回転式混合器で5分間)、15重量%MMC(セオラス^(TM) KG-1000、KG-802、PH-102(旭化成、プロソルブ^(TM) SMCC90(JRS))、2重量%CCS(クロスカルメロースナトリウム)を添加、回転式混合器で25分間混合し、3重量%CCSMg-St(混合粉末に対して)添加、回転式混合器で5分間混合し、ロータリー錠剤機LIBRA2(菊水)、12パンチ、30又は50rpm、600mg(φ12mm)、重量送り機を使用、打錠圧力:10?20kNで錠剤化し、錠剤重量、硬度、摩損度、崩壊時間を評価することが記載されている(第26頁)。
・記載事項6-10
「錠剤硬度



」(第29頁)
・記載事項6-11
「錠剤の摩損度



」(第31頁)
・記載事項6-12
「錠剤化の問題



KG-1000は錠剤化の問題の防止に有効である。」(第32頁)

ウ.判断
(ア)請求項1
刊行物1には、製品名「大正グルコサミン」がサプリメントであること(記載事項1-1、1-2)が、また、「大正グルコサミン」が粒であること(記載事項1-5)が記載されている。そして、記載事項1-5によれば、「大正グルコサミン」は、原材料として、グルコサミン、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、CMC-Ca、微粒酸化ケイ素、ステアリン酸Caを含むものであり、また、記載事項1-3、1-4によれば、グルコサミンの1日の目安摂取量である1,500mgを6粒で補給することができるものであるから、一粒あたり1500/6=250mgのグルコサミンを含むものであるといえる。そして、記載事項1-4によれば、一粒は330mgであるから、「大正グルコサミン」一粒あたりに含まれるグルコサミンの含有割合は、250/330×100=76質量%であるといえる。
しかし、刊行物1には、錠剤についての明示の記載はないし、また、上記粒の製造方法に関する記載もないから、「大正グルコサミン」が圧縮成形されたものであるか否かさえ明らかでない。そして、刊行物1には、「大正グルコサミン」が栄養補助食品として区分されるものであることが記載されているが(記載事項1-5)、食品形態としての粒が、錠剤であるとか、圧縮成形されたものであるとか直ちにいえるものでもない。
そうすると、刊行物1には、「グルコサミン76質量%、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、CMC-Ca、微粒酸化ケイ素、ステアリン酸Caを含有する粒からなるサプリメント」が記載されており、また、記載事項1-1、1-2、1-5によれば、当該固形製剤は、製造、販売されていることからみて、刊行物1には、当該サプリメントを得る方法も記載されているといえる。
以上によれば、刊行物1には、「グルコサミン76質量%、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、CMC-Ca、微粒酸化ケイ素、ステアリン酸Caを含有する粒からなるサプリメントを得る方法」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

引用発明の「グルコサミン」は、本件発明1の「保形性の悪い成分がグルコサミン又はその塩」に相当することは明らかである。また、引用発明の「結晶セルロース」は、本件発明1の「セルロース」に相当し、また、本件特許発明1の「錠剤」、引用発明の「粒からなるサプリメント」はともに「固形の剤」の一形態である。
ところで、本件発明1は、「保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法」を発明特定事項とする発明である。そして、本件明細書の「本発明は、保形性の悪い成分を含有しながらも、錠剤として十分な硬度を有し、キャッピングの発生が抑制されてなる錠剤を提供することを目的とする。より好ましくは、保形性の悪い成分を全体の80質量%以上含有しながらも、上記製剤特性に優れた錠剤を提供することを目的とする。」(段落0006)との記載に照らせば、本件発明1の発明特定事項である「十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する」とは、錠剤という製剤の特性に関する規定であり、また、「保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法」とは、上記特性を有する錠剤を得る方法、と言い換えることができるものと認める。

そうすると、本件発明1と引用発明は、
「グルコサミン及びセルロースを含有する固形の剤を得る方法。」で一致し、本件発明1の固形の剤は「錠剤」であるのに対して、引用発明の固形の剤は「粒からなるサプリメント」である点(相違点1)、本件発明1のセルロースは、「平均L/D値が3.33以上」であるのに対して、引用発明のセルロースは、結晶セルロースである点(相違点2)、本件発明1は、「錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法」であるのに対して、引用発明は、粒からなるサプリメントを得る方法である点(相違点3)、及び、本件発明1の錠剤は、「保形性の悪い成分」を含有し、「保形性の悪い成分がグルコサミン又はその塩」であるのに対して、引用発明の粒からなるサプリメントは、そのような特定がなされていない点(相違点4)で相違する。

以下、上記相違点について検討する。

本件発明1が、「保形性の悪い成分を含有しながらも、錠剤として十分な硬度を有し、キャッピングの発生が抑制されてなる錠剤を提供することを目的とする。」(段落0006)ものであることや、キャッッピングが打錠の際に起こる現象であることを踏まえると、本件発明1において、錠剤という形態を採用すること、当該錠剤が、保形性の悪い成分を含有し、当該保形性の悪い成分がグルコサミン又はその塩であること、及び、十分な硬度を有し、キャッピングの発生を抑えることは密接不可分の関係にあるものといえる。また、「平均L/D値が3以上のセルロースを用いることで、他に結合剤などの担体や添加剤を配合しなくても、硬度1.5kgf以上の錠剤として好ましい硬度を有し、かつキャッピングの発生が抑えられた錠剤を製造することができた」(段落0094)との本件明細書の記載があることを考慮すると、本件発明1において、セルロースの平均L/D値が3.33以上、と特定することと、錠剤という形態を採用し、当該錠剤が十分な硬度を有し、キャッピングの発生を抑えることもまた密接不可分の関係にあるといえる。
そうすると、上記相違点1?4は、互いに密接不可分の関係にあるといえるから、相違点1?4を一体のものとして、以下、検討する。

刊行物6に、前記イ-6で摘示した事項が記載されており、それら記載事項によれば、同刊行物には、「L/D値が3.5である微結晶セルロースが、低い圧縮性により生ずる医薬品有効成分の錠剤化の問題の改善に寄与する」という技術的事項が記載されていると認められる(記載事項6-1?6-7)。
しかし、引用発明は、錠剤を得る方法に係る発明ではないから、刊行物1の記載から、グルコサミンの錠剤化における成形性の問題を認識することはできない。
また、刊行物2に、医薬品の経口固形製剤として錠剤が最も汎用されている剤形であるとの一般的な記載(記載事項2-1)があるとはいえ、引用発明は、医薬品ではなく食品である(記載事項1-5)から、引用発明の粒からなる形態に換えて当然に錠剤が採用されるものとはいえない。
そして、刊行物3?5には、グルコサミンの原料粉末が錠剤に使用されているとの記載や(記載事項5-1)、グルコサミン摂取形態として錠剤は最もよく用いられているものの一つであるとの記載(記載事項3-1、4-1)がある。しかし、これら刊行物には、グルコサミンを多量に含む錠剤において、希望する錠剤硬度を有し、均一性、安定性を備えた品質のグルコサミン錠剤を製造することが困難であること(記載事項3-1、4-1、5-2)、それら困難を解決するために特定の技術的手段を採用したこと(記載事項3-5、4-3、5-4)が記載されているから、刊行物1の記載に接した当業者といえども、76重量%と多量のグルコサミンを含む引用発明の粒からなるサプリメントを、刊行物3?5に記載されている上記手段を採用することなく、錠剤とすることを想到するとは到底認められない。
ましてや、錠剤化に特有の問題の改善のための刊行物6記載の技術的手段を、錠剤とは異なる形態である、粒からなるサプリメントに係る引用発明に適用することは、いかに当業者といえども格別の創意を要することなくなし得たものとはいえない。

よって、刊行物1?6に記載された発明に接した当業者といえども、格別の創意工夫を要することなく、上記相違点1?4について本件発明1の発明特定事項を採用し得たものとは認められないから、本件発明1は、刊行物1?6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)請求項2
本件発明2は、本件発明1において、保形性の悪い成分を80質量%以上の割合で含むとの発明特定事項を追加したものである。
本件発明2と引用発明を対比すると、上記(ア)で挙げた相違点1?4に加え、保形性の悪い成分の割合が、本件特許発明2は80質量%以上であるのに対して、引用発明は76質量%である点(相違点5)で相違する。

しかし、本件発明1は、上記(ア)に説示したとおり、刊行物1?6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1をさらに特定した本件発明2も、刊行物1?6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.特許異議申立人 小宮邦彦の申立理由について
(ア)特許異議申立人 小宮邦彦の申立理由の概要
特許異議申立人 小宮邦彦は、特許異議申立書に添付して、甲第1号証?甲第10号証を提出し、同申立書において、請求項1?2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、及び本件出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。

甲第1号証-1:グルコサミン加工食品「大正グルコサミン」の発売開始のニュースリリース、大正製薬株式会社、[公開日:2008年2月4日、出力日:2017年5月22日]、インターネット<http://www.taisyo.co.jp/company/release/2008/2008020401.html>
甲第1号証-2:グルコサミン加工食品「対象グルコサミン」の製品カタログ、大正製薬株式会社、[公開日:2008年2月4日、出力日:2017年5月22日]、インターネット<http://www.catalog-taisho.com/20400.php>
甲第2号証:OBAE,K. et al,Improving of compactibility and friability in high dose tablets using novel microcrystalline cellulose CeolusTM KG-1000,ExcipientFest Americas,2008年,
URL,http://www.phexcom.cn/UploadFiles/200899112410254.pdf
甲第3号証:旭化成ケミカルズ株式会社、「旭化成ケミカルズの食品添加物・食品素材」、2009年7月発行、第3、4、及び8頁
甲第4号証:橋田充 編 「経口投与製剤の処方設計」、平成10年4月15日、株式会社薬業時報社発行、第97?101、176?180頁
甲第5号証:国際公開第2002/002643号
甲第6号証:特開2005-225782号公報
甲第7号証:特開2006-36644号公報
甲第8号証:特開2012-62279号公報
甲第9号証:特開2012-285381号公報
甲第10号証:特開2007-238486号公報
甲第11号証:東京地裁平成27年(ワ)第1025号(特許権侵害差止請求事件)の判決文、平成27年10月29日判決言渡
甲第12号証:日本薬局方解説書編集委員会(編) 「第十三改正日本薬局方 -条文と注釈-」、株式会社廣川書店、平成8年4月15日初版発行、第2252?2258頁

特許異議申立人 小宮邦彦の申立理由は、より具体的には以下のとおりである。
(ア)-1 請求項1に対する申立理由
甲第1号証-1、甲第1号証-2に記載されているグルコサミン加工食品は、グルコサミンを76質量%含有する粒状の固形剤であり、グルコサミンのほかに、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、微粒酸化ケイ素、及びステアリン酸カルシウムを含有している。このうち結晶セルロースは錠剤製造時に用いられる賦形剤として、カルメロロースカルシウムは崩壊剤として、ヒドロキシプロピルセルロースは結合剤として、微粒酸化ケイ素は流動化剤として、ステアリン酸カルシウムは滑沢剤として、それぞれ汎用されている。ここで、甲第1号証には、該グルコサミン加工食品が錠剤であることの明示の記載はないが、(i)甲第1号証-2に開示されている外観が錠剤に近似していること、(ii)錠剤は、経口固形製剤の中で最も汎用されている剤形であることに加えて、大量生産が可能で経済的であることを初めとする様々な利点があるため、加工食品の剤形として好適であること(甲第4号証)、(iii)グルコサミンの他に含まれている成分がいずれも錠剤を製造する際に主薬に添加される添加物として汎用されているものであること(甲第4号証)から、該グルコサミン加工食品は錠剤である蓋然性が極めて高いとして、甲第1号証には、「グルコサミンと、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、微粒酸化ケイ素、及びステアリン酸カルシウムを含有する錠剤」が開示されている。
そして、錠剤は、主薬たる成分に、賦形剤やその他必要に応じて粉末状の結合剤等を加えた混合粉末を圧縮成形して製造されるが(甲第4号証、刊行物2に同じ、記載事項2-2)、その際に汎用されている方法として、直打法、湿式顆粒圧縮法等の具体的な方法は、日局にも開示されており、製剤の技術分野で周知技術であるといえ、これら周知技術を鑑みれば、甲第1号証には、「グルコサミンと、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、微粒酸化ケイ素、及びステアリン酸カルシウムを含有する錠剤を製造する方法」(甲1発明)が記載されているといえる。
そして、甲1発明と本件発明1は、方法の使用の結果、グルコサミンとセルロースを」含有する錠剤が得られる点で共通し、本件発明1の方法では、グルコサミンと共に錠剤に含有させるセルロースが、平均L/D値が3.33以上であるものに限定されており(相違点1)、グルコサミン及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法であると規定されている(相違点2)のに対して、甲1発明の方法では何ら規定されていない点で相違するが、上記相違点は、甲第1号証及び甲第2号証の記載、並びに本件特許の出願時の技術常識に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

(ア)-2 請求項2に対する申立理由
本件発明2は、本件発明1のうち、錠剤のグルコサミン含有割合が80質量%以上に限定されている。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、前記相違点1及び2に加えて、製造される錠剤に含まれるグルコサミンの割合が80質量%以上であるのに対して、甲1発明の方法では、製造される錠剤に含まれるグルコサミンの割合が76質量%である点で相違するが、上記相違点は、甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

(イ)特許異議申立人 小宮邦彦の申立理由についての判断
(イ)-1 (ア)-1について
まず、甲1発明の認定の妥当性について、以下、検討する。
甲第1号証-1、甲第1号証-2は、共に、「大正グルコサミン」との名称で通信販売されている製品についてのものであり、原材料、内容量の欄に同じ内容が記載されている。しかし、甲第1号証-1は、そのURLの表示、及び記載内容から、大正製薬サイトに掲載された2008年2月4日付けニュースリリースであると認められる一方、甲第1号証-2には、その公開日時について、明示の記載も、推測させる記載もない。そして、甲第1号証-1には、同号証記載の「大正グルコサミン」の希望小売価格は2520円(税込)と記載されているのに対し、甲第1号証-2には、2800円(消費税抜)と記載されており、販売価格が異なるものであることに照らせば、両者の公開時期が同じであるとは到底認められない。また、甲第1号証-2の「大正グルコサミン」が、販売当初から変更されることなく同一製品として供給されているものであることを証する証拠は提出されていない。
そうすると、甲第1号証-1記載の製品と甲第1号証-2記載の製品とが同一の製品であるということはできないから、甲第1号証-1と甲第1号証-2とは同一の製品についての情報を記載したものということはできない。
したがって、特許異議申立人 小宮邦彦が甲1発明認定の根拠とする(i)の主張は失当である。
そして、甲第1号証-1の記載をみても、同号証記載の「大正グルコサミン」が錠剤であるとの記載や示唆はなく、甲第1号証-1の記載のみから、同号証記載の「大正グルコサミン」が錠剤であると認めることはできない。

また、特許異議申立人 小宮邦彦は、錠剤が加工食品の剤形として好適であること、錠剤に汎用される添加物を示す証拠として、甲第4号証を挙げる。しかし、甲第4号証には、もっぱら医薬品の製剤に関する事項が記載されているにすぎず(記載事項2-1、2-2)、錠剤が加工食品の剤形として好適であることや、甲第1号証-1記載の原材料が加工食品の剤形としての錠剤に汎用される添加物であることは、記載されていない。
よって、特許異議申立人 小宮邦彦が甲1発明認定の根拠とする(ii)、(iii)の主張も失当である。

以上のとおり、甲第1号証に、特許異議申立人 小宮邦彦が主張する、上記錠剤を製造する方法に係る、甲1発明が記載されていると認めることはできない。そして、特許異議申立人 小宮邦彦が主張する申立理由は、甲1発明が記載されていることを前提とするものであり、該前提自体に誤りがあることは上記説示のとおりである。

したがって、本件発明1は、特許異議申立人 小宮邦彦が提出した甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、並びに本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人 小宮邦彦は、さらに、グルコサミンを含有する錠剤の硬度不足やキャッピング発生率を改善するために、様々な試みが行われており、また、本件出願時において、グルコサミンを含有する錠剤について、硬度不足とキャッピング発生を改善することが、当業者にとって一般的な課題であることを裏付ける証拠として甲第9号証、甲第10号証を(申立書p25)、また、錠剤の圧縮成形用賦形剤として結晶セルロースが汎用されており、また、成形性に乏しい活性成分を錠剤化する場合や活性成分の配合量が多い場合に生じる十分な錠剤硬度が得られないとか、摩損や破損(キャッピング)といった問題を解決するために、優れた成形性を有する圧縮成形用賦形剤が必要であることを裏付ける証拠として甲第5号証を(申立書p25?26)提出する。また、 特許異議申立人 小宮邦彦は、甲第3号証には、旭化成ケミカル株式会社の製品である、商品名セオラスST-100、セオラスST-02がともに、圧縮成形性という機能を有すること(甲第3号証p3、4)、セオラスST-100、セオラスST-02の成形性が順に、2.0、1.5であること(甲第3号証p8)、セオラスUF、ST、FDが有する圧縮成形性という機能と硬度の高いタブレットが得られるという用途とが関連付けて記載されている(甲第3号証p8)ことを指摘した上で、本件発明1が、甲第3号証に記載された効果について、錠剤の硬度改善とキャッピング抑制の効果とL/D値に相関があるという作用を解明したにすぎないと主張する(申立書p28?29)。
しかし、たとえ、グルコサミンを含有する錠剤の硬度不足やキャッピング発生率を改善することが当業者にとって一般的な課題であることや、錠剤特有の問題を解決するために優れた圧縮成形用賦形剤が必要であることが、上記各号証の記載から本件特許の出願時に知られていたといえるとしても、甲第1号証-1に錠剤が記載されていると認めることができず、それゆえ、錠剤に特有の問題を当業者が認識しないことは、すでに説示したとおりであるから、上記判断は変わらない。ましてや、本件発明1がすでに記載されていた効果の作用を解明したにすぎないものでもない。
そして、特許異議申立人 小宮邦彦は、主引用発明に課題が明記されていない場合でも、同じ技術分野における自明な課題を解決する技術的手段を組み合わせることができるとして進歩性が否定された裁判例として、甲第11号証を提示する。しかし、上記説示のとおり、甲第1号証-1には、錠剤が記載されておらず、解決すべき課題を当業者は認識できないのであるから、たとえ、同じ技術分野における自明な課題を解決する技術的手段を組み合わせることができるとしても、当業者が本件発明1を容易に発明することができたといえる余地はない。また、甲第12号証は、日本薬局方を出典とする刊行物であり、医薬品として使用される結晶セルロースについての同号証の記載から、食品についての技術常識を認識することはできないし、そもそも、上記説示のとおり、甲第1号証-1には錠剤が記載されていないのであるから、同号証の記載は上記判断に影響しない。よって、これら各甲号証の記載内容を参酌しても、上記判断は変わらない。

したがって、特許異議申立人 小宮邦彦による、本件発明1についての進歩性欠如の主張は理由がない。

(イ)-2 (ア)-2について
本件発明2は、本件発明1について、保形性の悪い成分について、「80質量%の割合で含む」ことをさらに特定したものである。そして、本件発明1は、上記説示したとおり、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、並びに本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2も、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、並びに本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、特許異議申立人 小宮邦彦による、本件発明2についての進歩性欠如の主張は理由がない。

イ.特許異議申立人 宮島和美の申立理由について
(ア)特許異議申立人 宮島和美の申立理由の概要
特許異議申立人 宮島和美は、特許異議申立書に添付して、甲第1号証?甲第10号証を提出し、同申立書において、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2?7号証に記載された事項に基いて、また、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2?10号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。

甲第1号証:OBAE,K. et al,Improving of compactibility and friability in high dose tablets using novel microcrystalline cellulose CeolusTM KG-1000,ExcipientFest Americas,2008年,
URL,http://www.phexcom.cn/UploadFiles/200899112410254.pdf
甲第2号証:特開平11-152233号公報
甲第3号証:高分子論文集、Vol.56、No.3、第141?150頁、1999年
甲第4号証:特開2012-31166号公報
甲第5号証:特開2011-37840号公報
甲第6号証:特開2012-41293号公報
甲第7号証:申立人による本件特許明細書(特許第6032917号公報)の表1及び表2の一部抜粋及び数値の割り算結果
甲第8号証:特開2005-225782号公報
甲第9号証:国際公開第2009/151090号
甲第10号証:特開2003-146889号公報

特許異議申立人 宮島和美の申立理由は、より具体的には以下のとおりである。
(ア)-1 請求項1に対する申立理由
甲第1号証には、保形性の悪い成分として知られるアスコルビン酸80重量%と、L/D値が3.5のセルロース(旭化成ケミカルズ(株)製、セオラス^(TM) KG-1000)とを配合させることにより、L/D値が2.8のセルロースを配合させた錠剤よりも硬度が高く、キャッピングが抑制された錠剤が得られたこと等が記載されている(p14右表、p25?32)。

上記記載によれば、甲第1号証には、「保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法であって、当該保形性の悪い成分がアスコルビン酸又はその塩であり、当該セルロースの平均L/D値が3.5であることを特徴とする方法」の発明(以下、甲1発明」という。)が記載されている。
そして、甲1発明と本件発明1は、保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法であって、当該セルロースの平均L/D値が3.33以上であることを特徴とする方法」である点で共通し、保形性の悪い成分が、本件発明1の方法では、「グルコサミン又はその塩」であるのに対し、甲1発明では「アスコルビン酸又はその塩」である点(相違点1)で相違する。
しかし、
(i)甲第2号証に、有効成分である主剤が何であれ、一般にL/Dを大きくすればするほど得られる錠剤の硬度が高くなることが示唆されており(段落0013)、また、甲第3号証に、セルロース粒子のL/Dを大きくし、結晶配光度δを高くすると、錠剤強度が大きくなり、錠剤の圧縮成形性すなわち保形性が向上する原理が記載されており(要約)、実際に、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証に、それぞれ有効成分として、クエン酸第二鉄、種々の薬物、乳酸菌を用いて、平均L/D値が3.5と高い結晶セルロースを含む錠剤について、錠剤硬度や成形性(摩損度)が優れていることが記載されていることから、甲第2?6号証の記載を総括すると、そこには、成分が何であれ、セルロース粒子の平均L/D値を大きくすれば一般に錠剤に十分な硬度を与えられることが記載又は示唆されている。
(ii)しかも、グルコサミンは、健康食品等の錠剤の成分として極めて一般的なものであるから、錠剤の成分としてグルコサミンを選択しようとすることは、当業者ならば当然行うことである。
(iii)甲第1号証記載において保形性の悪い成分として知られているアスコルビン酸を、同じく保形性の悪い成分として知られているグルコサミンに置き換えることは、当業者にとって極めて容易である。
以上のとおりであるから、相違点1は当業者が容易に想到し得たといえ、本件発明1は、甲1発明、及び甲第2?6号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(iv)本件明細書に記載される本件発明の効果について、特許異議申立人 宮島和美が整理した甲第7号証を勘案すれば、本件発明1が、平均L/D値が3.33以上であるセルロースとグルコサミンとの組合わせ効果や、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものではない。

(ア)-2 請求項2に対する申立理由
本件発明2と甲1発明とを対比すると、相違点1に加えて、「保形性の悪い成分」について、本件発明2では「80質量%以上の割合」であることが要件となっているが、甲1発明では明らかでない点(相違点2)で相違するが、甲第8?10号証の記載により、有効成分の量を検討することは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲であり、相違点2は、当業者が適宜設定すべき設計事項にすぎない。

(イ)特許異議申立人 宮島和美の申立理由についての判断
(イ)-1 (ア)-1について
まず、甲1発明の認定の妥当性について検討する。
甲第1号証は取消理由通知において引用した刊行物6に相当する。そして、記載事項6-9によれば、80重量%アスコルビン酸(破砕結晶粉末)と3重量%ケイ酸カルシウムと15重量%MMC(セオラス^(TM )KG-1000)、及び2重量%クロスカルメロースを含有する錠剤を打錠して製造する方法が刊行物6に、すなわち、甲第1号証に記載されているといえる。ここで、セオラス^(TM)KG-1000のL/D値は3.5であることが理解でき(記載事項6-4)、また、記載事項6-9記載のうち、たとえば、回転数50、打錠圧力20kNで打錠して製造された錠剤は、その硬度が約60Nを超え、キャッピング率がほぼ0%であることが記載されている(記載事項6-10、6-12)。
そうすると、上記記載事項によれば、甲第1号証には、「80重量%アスコルビン酸及びセルロースを含有する、60Nを超える硬度、ほぼ0%のキャッピング率を有する錠剤を打錠して製造する方法」の発明(以下、「甲1’発明」という)が記載されているといえる。
一方、甲第1号証には、特許異議申立人 宮島和美が主張する、保形性の悪い成分、についての記載はみあたらず、ましてや、甲第1号証の記載のみから、80%アスコルビン酸が保形性の悪い成分であるであると認定することはできない。よって、特許異議申立人 宮島和美の「保形性の悪い成分」を含有するとの甲1発明の認定には誤りがある。

本件明細書には、請求項1記載の錠剤の「十分な硬度」が、いかなる値を意味しているのかについて明示の記載はないが、段落0065に、「本発明の錠剤の硬度は、含まれる保形性の悪い成分の種類にも因るが、1.5kgf程度以上であることが好ましい。より好ましくは5?15kgf程度であり、更に好ましくは8?12kgf程度である。」との一般的記載があり、より具体的に、「保形性の悪い成分として、例えばアスコルビン酸又はその塩を用いた場合には、それを含む錠剤の硬度は、1.5kgf程度以上であることが好ましい。より好ましくは、3?10kgf程度、更に好ましくは、6?8.5kgf程度である。」との記載があることに照らせば、記載事項6-9記載の錠剤の硬度約60Nは、おおよそ、少なくとも2.0kgfを超えることは明らかであるから(硬度換算については、たとえば、特開2005-225782、甲第8号証の段落0012参照)、本件発明1にいう「十分な硬度」に、また、該錠剤のキャッピング率ほぼ0%は、同じく「キャッピング率の発生が抑制されている」に、相当するといえる。
また、本件明細書には、請求項1記載の「保形性の悪い成分」には、少なくとも(c)結晶状成分が含まれること(段落0019)、該結晶状成分としてアスコルビン酸(段落0039)が記載されている。
よって、本件発明1と甲1’発明とを対比すると、「保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法であって、当該セルロースの平均L/D値が3.33以上であることを特徴とする方法」である点で一致し、保形性の悪い成分が、本件発明1の方法では、「グルコサミン又はその塩」であるのに対し、甲1発明では「80%アスコルビン酸」である点(相違点1)で相違する。

以上のとおり、甲第1号証には、特許異議申立人 宮島和美が主張する、保形性の悪い成分についての記載はみあたらず、特許異議申立人 宮島和美の「保形性の悪い成分」を含有するとの甲1発明の認定には誤りがあるものの、甲1’発明と本件発明1との一致点、相違点1は、上記(ア)-1記載の、甲1発明と本件発明1との一致点、相違点1と、実質的には同じといえる。

そこで、上記相違点1について、以下、検討する。

(i)について
甲第2号証には、以下の記載がある。
・「平均重合度が100?375、75μm篩を通過し38μm篩上に残留する粒子が全重量の70%以上、かつ、粒子の長径短径比の平均値が2.0以上であることを特徴とする結晶セルロース。」(請求項1)
・「本発明は、医薬用途において使用される結晶セルロースであって、圧縮成形性が改良された結晶セルロースに関する。」(段落0001)
・「製薬メーカーにおいては、原料粉体の錠剤化に際し、錠剤中の主剤(粉体原料)の配合量が多い場合、例えば、医薬品分野における小形錠製造の場合などには、賦形剤の配合量が著しく制限されるため所望の錠剤の強度を得られない問題・・・・・がある。」(段落0003)
・「上記の問題を解決するためには、結晶セルロースの特性については、少量でより高い成形性を付与する、あるいは低打圧でも高い成形性を付与するなど成形性の大幅な改善が必要となる。」(段落0004)
・「前述のように結晶セルロースの成形性の向上は、製薬メーカーの現状の問題を克服し、さらには従来不可能であった薬物の錠剤化を可能にする等製剤設計に大きく寄与するものである。」(段落0007)
・「結晶セルロース粒子の粒子形状と錠剤の破壊強度との関係についても精査した結果、粒子形状が棒状になるほど、すなわち、粒子の長径短径比が大きくなるほど錠剤の破壊強度が高くなることを見いだした。すなわち、錠剤の破壊強度の向上に寄与する粒子は棒状粒子であり、これらの粒子を多く存在させることにより錠剤の破壊強度が高まることが明らかになった」(段落0013)
・「本発明の結晶セルロースは、錠剤等に用いたとき、圧縮成形性がきわめて優れており、かつ崩壊性も良好であることから、医薬用途において有用である。」(段落0034)

上記記載によれば、段落0003?0004、0007に記載される問題認識の下、段落0013記載の知見を得て、請求項1に係る発明がなされ、その結果、段落0034記載の効果が達成されたことが理解される。
甲第2号証には、実施例として、細断した市販DPパルプから得たセルロース粒子を乾燥、粉砕して得られた試料A(粒子の長径短径比が2.413、1.954である結晶セルロース)について、粉体物性、錠剤物性が記載されているにとどまり(段落0029?0033)、該結晶セルロースに主剤(粉体原料)を配合した錠剤の製造例は記載されていないから、本件明細書の上記記載は、医薬成分を含有しないセルロース含有錠剤について確認された結果から導き出されたものと認められる。
また、甲第3号証には、L/D値が1.587、1.833、1.903、1.584であるアビセル(登録商標)PH101粒子、又はL/D値が1.699、2.51、2.258、1.739であるセオラス(登録商標)KG-801粒子の約0.3gを打錠機を用いて成形した錠剤について、充てん率P_(f)と錠剤強度Tの関係、錠剤の内部構造、錠剤中のMCC粒子の配向性、結晶配向度δと錠剤強度Tの関係、結晶配向度とMCC粒子のL/Dの関係を考察し、その結果を、「結晶セルロース(MCC)を圧縮成形した錠剤の錠剤強度Tは粒子形態すなわちL/D(L,粒子長径;D,粒子短径)の影響を受ける。・・・・・L/Dが大きな棒状粒子からなる錠剤ほどδが高く、圧縮の過程において、L/Dが大きいMCCほど錠剤内部で圧縮面平行に配向する傾向があった。粒子がそのように配向するほど粒子間接触面積が大きくなり、大きなTが発現すると考えられた。」(要旨)と記載している。
しかし、上記結論を導き出すにあたり、製造、検討された錠剤は、MCC粒子のみからなるものであり、結晶セルロースに医薬品の有効成分などの他成分を含有するものではない。
以上のとおり、甲第2、3号証に記載の発明は、いずれも、医薬用途を念頭にしているものとはいえ、それら各甲号証には、錠剤化される成分に関する記載はない。また、医薬品の有効成分に結晶セルロースを添加した場合の錠剤特性についての記載はないし、その場合の錠剤特性が、有効成分如何にかかわらず、上記の各甲号証の結晶セルロース単独で成形された錠剤の錠剤特性と同じであると直ちにいえるものではない。
そうすると、甲第2、3号証に、錠剤化される成分が何であれ、セルロース粒子の平均L/D値を大きくすれば一般に錠剤に十分な硬度を与えられることが記載又は示唆されている、と認めることはできない。
また、アスコルビン酸と結晶セルロースとを含有する錠剤(第25?33頁)のほか、ラクトースと結晶セルロースを含有する錠剤(第18?19頁)、APAP(アセトアミノフェン)と結晶セルロースとを含有する錠剤(第20?24頁、第34?38頁)、及びビタミンEと結晶セルロースとを含有する錠剤(第39?42頁)についての甲第1号証の記載、並びに、クエン酸第二鉄(特許請求の範囲)、種々の薬物(特許請求の範囲、段落0010、実施例)、乳酸菌と結晶セルロースとを含有する錠剤(特許請求の範囲段落0055)についての、それぞれ、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証の記載等の、限られた数の配合例が散見されることをもって、これを一般化し、セルロース粒子の平均L/D値を大きくすれば錠剤化される成分の種類にかかわらず、錠剤に十分な硬度を与えられることを当業者が直ちに理解するものでもない。
よって、特許異議申立人 宮島和美が主張するように、甲第2?6号証の記載から、錠剤化される成分が何であれ、セルロース粒子の平均L/D値を大きくすれば一般に錠剤に十分な硬度を与えられることが記載又は示唆されている、と認めることはできない。

(ii)について
そして、仮に、特許異議申立人 宮島和美が前記(ア)-1(i)で主張するように、甲第2?6号証の記載から、錠剤化される成分が何であれ、セルロース粒子の平均L/D値を大きくすれば一般に錠剤に十分な硬度を与えられることが記載又は示唆されている、といえるとしても、そのことが直ちに、錠剤化される成分として、グルコサミン又はその塩を選択する動機付けになるものではない。
錠剤化される成分についてなんらの記載もない甲第2、3号証や、グルコサミンについて記載されていない甲第1号証、甲第4?6号証の記載に基いて、当業者がといえども、錠剤化される成分として、グルコサミン又はその塩を想到し得たということはできない。

特許異議申立人 宮島和美は、グルコサミンが錠剤成分として選択される理由として、グルコサミンが健康食品等の錠剤の成分として極めて一般的なものであることを挙げる。しかし、数ある錠剤化される成分の中から、当然にグルコサミンが選択されるとする特段の理由はみあたらない。

(iii)について
特許異議申立人 宮島和美は、甲第1号証記載において保形性の悪い成分として知られているアスコルビン酸を、同じく保形性の悪い成分として知られているグルコサミンに置き換えることは、当業者にとって極めて容易であるから、相違点1は当業者が容易に想到し得たと主張する。
しかし、甲第1号証に、保形性の悪い成分、との記載はなく、80%アスコルビン酸が保形性の悪い成分として甲第1号証に記載されている、と認めることができないことは上記説示のとおりであるから、たとえ、グルコサミンが保形性の悪い成分として知られていたとしても、甲1’発明の錠剤成分である80%アスコルビン酸を、保形性が悪い、という属性を有する成分であるとして捉え、同じ範疇に属する成分であるグルコサミンに換えることは、いかに当業者といえども容易に想到し得ることとはいえない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、及び甲第2?6号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(iv)について
本件発明1の効果に関する、特許異議申立人 宮島和美の上記主張は、要するに、本件発明1が、平均L/D値が3.33以上であるセルロースをアスコルビン酸と組み合わせた場合と比較して効果が顕著でないこと、甲第1?6号証に記載されたその他の成分と組み合わせた場合から予測される効果にすぎないことをいうものである。
しかし、特許異議申立人 宮島和美の上記主張(i)?(iii)がいずれも失当である、少なくとも、上記主張(ii)、(iii)が失当であることは上記説示のとおりであるから、効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、本件発明2についての進歩性欠如を主張するための証拠として提出された甲第8?10号証の記載を参酌してみても、甲第8号証には、「グルコサミン結晶末の粉砕物を含有することを特徴とするタブレット用組成物。」に係る発明が記載されており(請求項1)、実施例として、グルコサミン結晶末の粉砕物と微結晶セルロースを含有する錠剤が記載されているものの、そこに記載された技術は、グルコサミン結晶末の粉砕物を圧縮成形すると、グルコサミン結晶末を用いた場合と比べて、打錠障害を発生させることなく、適度な硬度の錠剤が得られた(段落0030)、というものであり、該記載に接した当業者は、結晶末形状のグルコサミンが打錠障害を起こす場合があること、得られた錠剤の硬度が低下する場合があることを理解するといえるとしても、グルコサミン又はその塩を甲1発明のアスコルビン酸と置き換えることを容易に想到し得たとはいえない。また、甲第9、10号証には、それぞれ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムと結晶セルロースとを含有する錠剤が記載されているにとどまる。
よって、甲第8?10号証の記載を参酌したとしても、上記判断に影響しない。

したがって、特許異議申立人 宮島和美による、本件発明1についての進歩性欠如の主張は理由がない。

(イ)-2 (ア)-2について
本件発明2は、本件発明1について、保形性の悪い成分について、「80質量%の割合で含む」ことをさらに特定したものである。そして、本件発明1は、上記説示したとおり、甲第1号証に記載された発明、甲第2?10号証に記載された事項、及び本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2も、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2?10号証に記載された事項、及び本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、特許異議申立人 宮島和美による、本件発明2についての進歩性欠如の主張は理由がない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立人 小宮邦彦が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、及び特許異議申立人 宮島和美が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
錠剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤に関する。より詳細には、本発明は、保形性の悪い成分を含む錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や健康食品の剤形として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤等がある。このうち錠剤は、取扱いや服用が容易であるため汎用されている剤形である。
【0003】
しかし、例えばグルコサミンのような保形性の悪い素材を打錠して錠剤を製造する場合、所望の硬度が得られず錠剤が割れるという問題、打錠できたとしても錠剤の一部が外れるキャッピングと呼ばれる現象が発生するという問題が生じ、製品不良の原因となる。そこで、その様な製品不良を解決する方法として、錠剤の打錠時の保形性を補い、錠剤に適当な硬度を持たせる目的で、錠剤に配合する結合剤や賦形剤等の含量を増やす方法が知られている。しかしながら、その様に錠剤中の結合剤や賦形剤等の含量を増やすと、錠剤中の有効成分の含量は少なくなるため、有効成分の効果を十分に得るためには、多くの錠剤を服用しなければならないという問題が生じる。
【0004】
かかる問題点を解決する方法として、従来、グルコサミン及び/又はその塩類とN-アセチルグルコサミンとの混合物を造粒加工した後に、打錠する方法(特許文献1)、グルコサミン及び/又はその塩類に、これ以外の糖類を含有する溶液を噴霧した後、又は噴霧しながら造粒加工した上で打錠する方法(特許文献2)、グルコサミン等の圧縮成形性に劣る粉末に微細化された造粒用結合剤を均一に付着させた後に、造粒物を打錠する方法(特許文献3)等により、保形性が悪い有効成分を多く含みながらも十分な硬度を備えた錠剤を製造する方法が提案されている。しかしながら、特許文献1では高価なN-アセチルグルコサミンを使用するため錠剤の製造原価が高くなるという問題があり、特許文献2及び3ではグルコサミン粉末に別途調製した水溶液等を噴霧して造粒する工程が必須であるため製造工程が複雑になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-238486号公報
【特許文献2】特開2006-36644号公報
【特許文献3】特開2010-285381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、保形性の悪い成分を含有しながらも、錠剤として十分な硬度を有し、キャッピングの発生が抑制されてなる錠剤を提供することを目的とする。より好ましくは、保形性の悪い成分を全体の80質量%以上含有しながらも、上記製剤特性に優れた錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、保形性の悪い成分と共に、一定以上の平均L/D値を有するセルロースを含有させることにより、上記目的に適う製剤特性に優れた錠剤が得られることを見出し、本発明を完成させるにいたった。即ち、本発明は、以下の実施態様を有するものである。
【0008】
項1. 保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤であって、当該セルロースの平均L/D値が3以上であることを特徴とする錠剤。
【0009】
項2. 前記保形性の悪い成分が、グルコサミン又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、及び植物の乾燥粉砕物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記項1記載の錠剤。
【0010】
項3. 前記保形性の悪い成分を80質量%以上の割合で含む、前記項1又は2に記載する錠剤。
【0011】
項4. 前記保形性の悪い成分が、(a)圧縮成形性に劣る成分、(b)水分含量が1質量%以下である成分、(c)結晶状成分、及び(d)かさ密度が0.8g/ml以上である成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記項1記載の錠剤。
【0012】
項5. 錠剤の硬度が1.5kgf以上である、前記項1記載の錠剤
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保形性の悪い成分とともに配合するセルロースとして、平均L/D値が3以上のセルロースを用いることで、錠剤として十分な硬度を備えるとともに、キャッピングの発生が抑制された錠剤を提供することができる。このため、本発明によれば、錠剤の製品不良の発生を抑えることができる。
【0014】
また、本発明によれば、錠剤中に上記特定のセルロースを配合することで、保形性の悪い成分を十分な硬度を備えた錠剤として成形することが可能となるため、錠剤の調製に通常必要とされる他の結合剤等の添加剤を配合しないか、またはその配合量を少なくすることができる。このため、保形性の悪い成分を高含量含む錠剤を調製することができる。
【0015】
従って、有効成分が保形性の悪い成分である場合には、錠剤中の有効成分の含有量を高めることができるので、一錠あたりの剤形の大きさを小さくしたり、または一回服用あたりの錠剤数を減らすことができ、その結果、錠剤を服用する者の負担を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の錠剤及びその製造方法について説明する。
【0017】
(1)錠剤
本発明の錠剤は、保形性の悪い成分及びセルロースを含有し、当該セルロースの平均L/D値が3以上であることを特徴とする。
【0018】
(1-1)保形性の悪い成分
本発明の錠剤は、前述するように保形性の悪い成分を含有する。
【0019】
本発明が対象とする保形性の悪い成分には、少なくとも(a)圧縮成形性に劣る成分、(b)水分含量が1質量%以下である成分、(c)結晶状成分、及び(d)かさ密度が0.8g/ml以上である成分が含まれる。
【0020】
以下、これらの成分について説明するが、これらの成分のいずれか少なくとも1つに該当する場合、本発明が対象とする「保形性の悪い成分」ということができる。
【0021】
(a)圧縮成形性に劣る成分
圧縮成形性とは、粉末に圧力をかけた際に粉末の粒子同士が相互に結合する性質を示し、無定形の粉末を特定の形状に押し固めることが可能な特性をいう。
【0022】
圧縮成形性に劣る成分は、成分そのものが相互に結合する性質が本来的に小さく、適当な硬度の錠剤に成形するためには、比較的高い割合で結合剤等を存在させなければならず、その結果、当該成分自体の錠剤中の含有率を向上させることが困難であるものをいう。具体的には、例えば、後述する実験例で示すように、結合剤として平均L/D値が2.8以下のセルロースを用いた場合に、錠剤中の含有率を80質量%を越えて増大させることができない成分は圧縮成形性に劣るものに該当する。
【0023】
また圧縮成形性に劣る成分としては、圧縮度が20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下である成分を挙げることができる。ここで圧縮度とは、粉末の流動性や打錠性を表わす流動性指数であり、下記の方法で求めることができる。
【0024】
(圧縮度の求め方)
本発明の圧縮成形性に劣る成分の圧縮度(%)は次式で示される。
【0025】
圧縮度(%)=[(ρP-ρA)/ρP]×100
(ただし:ρA=疎充填の状態のかさ密度(g/cm^(3))、ρP=タッピング後の密充填した場合のかさ密度(g/cm^(3)))
尚、圧縮度の定義や測定条件等は、日経技術図書株式会社出版、粉体工学会編集「改訂増補、粉体物性図説 昭和60年12月発行、第151-152頁記載の方法である。
【0026】
例えば、圧縮成形性に劣る成分をパウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)で測定することができる。具体的な測定方法としては、直径5.03cm、高さ5.03cm(容積100g/cm^(3))の円筒容器へ24メッシュの篩いを通して上方から均一に供給し、上面をすり切って秤量することによって疎充填の状態のかさ密度(ρA、見かけのかさ密度)を測定する。次に、この容器の上に円筒キャップをはめ、この上縁まで粉体を加えてタップ高さ1.8cmのタッピングを180回行なう。終了後、キャップを外して容器の上面で粉体をすり切って秤量し、タッピング後の密充填した場合のかさ密度(ρP、タッピング密度)を測定する。得られた数値を上記式に代入することによって圧縮度(%)を求めることができる。
【0027】
圧縮成形性に劣る成分として、例えば、グルコサミン又はその塩、カルシウム、キトサン、キチン、コンドロイチン硫酸、N-アセチルグルコサミン、MSM、西洋ヤナギ、アミノ酸(アルギニン、タウリン、グルタミン酸、ヒスチジン、分岐鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン))、クエン酸、酢酸、キチンダイマー、キチンペンタマー、キトサンヘキサマー、オリゴグルコサミン、トウガラシ、高麗人参、ビール酵母、パン酵母、酵母亜鉛、酵母セレン等を挙げることができる。
【0028】
ここで、グルコサミンは、グルコースの2位の水酸基がアミノ基に置換した2-アミノグルコースであり、生体成分である糖蛋白質、糖脂質、ムコ多糖類等の重要な生体成分中に幅広く分布する代表的な天然アミノ糖である。グルコサミンの塩としては、薬学的に許容される塩であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではないが、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸等の無機酸との塩;クエン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸または乳酸等の有機酸との塩を例示することができる。好ましくはグルコサミン塩酸塩やグルコサミン硫酸塩等のグルコサミンの無機酸塩である。
【0029】
グルコサミンまたはその塩には、関節痛の緩和効果、血流促進効果、及び美肌効果があることが知られている。このため、グルコサミンまたはその塩は、上記作用機能を有するサプリメント(食品)、医薬部外品または医薬品の有効成分として有用である。
【0030】
(b)水分含量が1質量%以下である成分
水分含量が1質量%以下である成分は、ゲル化力、粘着力等が十分に発揮されず、一般的に保形性が悪い。
【0031】
成分中の水分含量は、下記の方法により測定することができる。
【0032】
(水分含量の測定方法)
まず、対象とする試料成分を温度25℃、相対湿度40%下で、成分中の水分が平衡に達する日数(1日間)放置する。次いで、得られた試料1gについて各々重量(湿重量)を測定した後、第16改正日本薬局方に規定の一般試験方法「乾燥減量試験方法」に従って、常圧条件下、105℃で4時間加熱処理し、再び重量(乾燥重量)を測定する。かかる試験法において得られた湿重量から乾燥重量を差し引いて、下式により乾燥減量(%)を算出する。
【0033】
乾燥減量(%)=
[(試料成分の湿重量-試料成分の乾燥重量)/試料成分の湿重量]×100
【0034】
斯くして得られる乾燥減量(%)を、試料成分の水分含量(1g、105℃、4時間)と規定することができる。この試験方法によれば、例えば、温度25℃、相対湿度40%下で1日間放置した試料成分の重量約1gを精密に量り、105℃で4時間乾燥するとき、その減量が成分1gにつき10mg以下である場合に、水分含量が1質量%以下と判断することができる。
【0035】
水分含量が1質量%以下である成分としては、例えば、前述するグルコサミン又はその塩の他、植物の乾燥粉砕物、ドロマイト等が挙げられる。
【0036】
ここで、植物の乾燥粉砕物としては、植物体の乾燥物を適切な大きさに細砕し粉末化したもの、または植物体の細砕物を定法に従って乾燥したものを例示することができる。ここで乾燥方法は、特に制限されず、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を用いることができる。また、本発明の植物の乾燥粉砕物には、植物の搾汁または抽出液を、上記噴霧乾燥、真空乾燥または凍結乾燥等の乾燥処理により粉末化したものも含まれる。
【0037】
(c)結晶状成分
結晶状成分は、塑性変形性が悪いという理由から、一般に保形性が悪い。結晶状成分の中でも、針状結晶構造、角柱状結晶構造、または板状結晶構造を有する成分は、特に保形性が悪い。
【0038】
対象物が結晶状成分であるか否かは、通常、走査型電子顕微鏡等による顕微鏡観察で判断することができる。
【0039】
結晶状成分としては、例えば、アスコルビン酸又はその塩、アミノ酸等が挙げられる。特に、アスコルビン酸又はその塩は針状結晶構造を有する。
【0040】
ここでアスコルビン酸としては、D-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸、DL-アスコルビン酸の別を問わないが、好ましくはL-アスコルビン酸である。また、アスコルビン酸の塩としては、アスコルビン酸の薬学的に許容される塩であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではないが、具体的にアスコルビン酸ナトリウム等のアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0041】
(d)かさ密度が0.8g/ml以上である成分
かさ密度は、単位かさ体積あたりの試料成分の質量を意味する。より具体的には、第16改正日本薬局方に規定されるように、タップしない(ゆるみ)状態での試料成分の質量と粒子間空隙容積の因子を含んだ試料成分の体積との比である。
【0042】
当該かさ密度は、体積が既知の容器に試料成分を充填して、その質量を測定することにより決定することができる。具体的には、第16改正日本薬局方に規定される一般試験方法「かさ密度測定方法」のうち、第1法(メスシリンダーを用いる方法)を用いて測定し決定することができる。
【0043】
本発明において、かさ密度が0.8g/ml以上の範囲にある成分は、保形性の悪い成分ということができる。成分のかさ密度が0.8g/mlを超えると、錠剤に成形する際に粒子間の隙間が大きくなり、錠剤中に配合する保形性の悪い成分の含有率を十分に向上させることが困難になる傾向がある。
【0044】
以上説明するように、上記(a)圧縮成形性に劣る成分、(b)水分含量が1質量%以下である成分、(c)結晶状成分、(d)かさ密度が0.8g/ml以上である成分のいずれか少なくとも1つに該当すれば、当該成分は本発明でいう保形性が悪い成分に該当する。このような成分としては、前述するように、グルコサミン又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、植物の乾燥粉砕物、ドロマイト、カルシウム、キトサン、キチン、コンドロイチン硫酸、N-アセチルグルコサミン、MSM、西洋ヤナギ、アミノ酸(アルギニン、タウリン、グルタミン酸、ヒスチジン、分岐鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン))、クエン酸、酢酸、キチンダイマー、キチンペンタマー、キトサンヘキサマー、オリゴグルコサミン、トウガラシ、高麗人参、ビール酵母、パン酵母、酵母亜鉛、酵母セレン等を挙げることができる。
【0045】
なお、本発明の錠剤は、これらの保形性が悪い成分を1種含むものであってもよいし、また2種以上の保形性が悪い成分を任意に組み合わせて含むものであってもよい。
【0046】
保形性が悪い成分の平均粒度
本発明が対象とする保形性が悪い成分は、上記例示される成分のいずれか少なくとも一つに該当すれば、その形状は問わず、粉末状、粉砕状または顆粒状を有するものであっても良い。
【0047】
これらの大きさ(粒度)は、特に制限されないが、その平均粒子径として、好ましくは1?2000μmを挙げることができる。好ましくは5?1500μmであり、より好ましくは10?1000μmである。
【0048】
ここで平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。レーザー回折・散乱法とは、粒子に対してレーザー光を当てたときに粒子サイズによって回折散乱光の光強度分布が異なることを利用して粒子サイズを測定する方法であり、通常、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「レーザー式粒度分析計SALD-2200」)を用いることにより求めることができる。
【0049】
保形性が悪い成分の含有割合
保形性の悪い成分は、成形された錠剤中にできるだけ密に充填されることが好ましい。
【0050】
当該保形性の悪い成分の本発明の錠剤における含有割合は、特に制限されないものの、それが錠剤の有効成分である場合、70質量%以上、更には80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは85質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0051】
なお、有効成分は、人体に投与または摂取された後に、体内で意図される生理作用または薬理活性を発揮する物質であり、その意味で機能性物質とも称される。
【0052】
(1-2)平均L/D値が3以上のセルロース
本発明の錠剤で用いるセルロースは、平均L/D値が3以上である。このセルロースは、本発明の錠剤中で、上記保形性の悪い成分の結合剤として機能する。
【0053】
当該セルロースは、上記平均L/D値を満たすものであれば、その形態を特に問うものではないが、形状としては、粉末状、粒子状及び結晶状を挙げることができる。
【0054】
セルロースの平均L/D値は、粉末状、粒子状または結晶状を有するセルロースの長径(L)(長軸の長さ)と短径(D)(短軸の長さ)との比であり、走査型電子顕微鏡(例えば、(株)日立製作所社製、S-800A型)を用いた顕微鏡観察により、長径(L)と短径(D)を測定することで求めることができる。
【0055】
具体的には、先ず、対象とするセルロース(粒子状、粉末状等)を検鏡用試料台に載物し、イオンスパッタ装置等により金や白金等の金属を蒸着して検鏡試料とする。次いで、この検鏡試料を例えば加速電圧5KVで拡大倍率3000倍で観察し、得られた画像から、無作為抽出した50個の粒子の長径(L)及び短径(D)を測定し、L/D値を算出して、その平均値を採用する。或いは、無作為抽出した50個の粒子の長径(L)及び短径(D)を測定し、それらの平均値(平均長径(L)、平均短径(D))から平均L/D値を算出する。
【0056】
本発明の錠剤で使用するセルロースは、その平均L/D値が3以上であればよく、その上限値は特に制限されるものではないが、上限値としては5程度が好ましい。セルロースの平均L/D値として、好ましくは3?4であり、より好ましくは3?3.5である。
また本発明の錠剤で使用するセルロースは、平均L/D値が3以上であればよく、その限りにおいて、その大きさ(粒子径)を特に制限するものではないが、平均粒子径として、通常10?250μm程度、好ましくは25?200μm程度、より好ましくは40?100μm程度を挙げることができる。なお、平均粒子径の定義並びに測定方法は、前述した通りである。
【0057】
本発明の錠剤中の上記セルロースの含有割合としては、制限されないが、前述する保形性の悪い成分の含有割合との関係で、通常30質量%以下を挙げることができる。好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。尚、本発明の錠剤に含まれる当該セルロースの含有量の下限値は、4質量%程度が好ましい。
【0058】
また、当該セルロースは、本発明の錠剤に含まれる保形性の悪い成分100質量部に対して、制限されないものの、4?25質量部程度の割合で配合することが好ましい。より好ましい割合として5?15質量部程度、特に好ましい割合として6?10質量部程度を挙げることができる。
【0059】
その他の成分
本発明の錠剤には、本発明の効果を損なわないことを限度として、上記成分(保形性の悪い成分、平均L/Dが3以上のセルロース)以外の成分を配合することもできる。かかる他の成分としては、例えば、前述する保形性の悪い成分以外の機能性物質、錠剤の製造に際して使用される薬剤的に許容される担体または添加剤を挙げることができる。
【0060】
ここで、機能性物質としては、例えば、ヒアルロン酸、セラミド、コラーゲン、赤しょうがエキス、各種ポリフェノール(りんご由来、茶由来、グァバ由来、松由来、ブドウ由来等)、等も併用することができる。その他、オクタコサノール、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等などが挙げられる。
【0061】
また、薬剤的に許容される担体または添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、抗酸化剤等を含むことができる。これらの担体または添加剤に該当する各種成分は公知であり、これらを任意に選択し、使用することができる。例えば、滑沢剤としては、タルク、精製タルク、ステアリン酸マグネシウム、植物硬化油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びショ糖脂肪酸エステルを挙げることができる。好ましくはステアリン酸マグネシウムである。
【0062】
上記その他の成分の錠剤中の含有量は、前述するように、本発明の効果(保形性の悪い成分を多く含有する、十分な硬度を有する、キャッピングの発生が抑制される等)を妨げない範囲であればよく、通常30質量%程度以下、好ましくは20質量%程度以下、より好ましくは10質量%程度以下である。
【0063】
錠剤の硬度・形状・大きさ
本発明の錠剤は、前記保形性の悪い成分の含有量が高いにもかかわらず、錠剤として十分な硬度を有していることを特徴とする。
【0064】
本発明の錠剤の硬度は、含まれる保形性の悪い成分の種類にも因るが、1.5kgf程度以上であることが好ましい。より好ましくは5?15kgf程度であり、更に好ましくは8?12kgf程度である。
【0065】
具体的には、保形性の悪い成分として、例えばグルコサミン又はその塩を用いた場合には、それを含む錠剤の硬度は、2kgf程度以上であることが好ましい。より好ましくは5?15kgf程度、さらに好ましくは8?12kgf程度である。また、保形性の悪い成分として、例えばアスコルビン酸又はその塩を用いた場合には、それを含む錠剤の硬度は、1.5kgf程度以上であることが好ましい。より好ましくは、3?10kgf程度、更に好ましくは、6?8.5kgf程度である。
【0066】
錠剤硬度が上記範囲内であれば、製造中、輸送中、服用摂取時等に錠剤の剤形が崩れることなく、十分な剤形維持性を有し、PTP包装にも対応可能である。錠剤の硬度は、ロードセル式硬度計を用いて、複数個(例えば10個)の錠剤の硬度を測定し、その平均値を求めることで決定することができる。
【0067】
本発明の錠剤は、その形状、大きさ等について特に制限はされない。形状については、例えば、丸型、楕円型、三角型、四角型等のあらゆる形状を挙げることができる。大きさについては、例えば、直径5mm?20mm、好ましくは7?10mm;重量100mg?2000mgの剤形とすることができる。
【0068】
また本発明の錠剤は、素錠(裸錠)であってもよいし、薬剤の安定化、及び矯味や矯臭等の目的で表面にコーティングを施したコーティング錠であってもよい。コーティング錠には糖衣錠や、水溶性、腸溶性または胃溶性の高分子基剤を含むフィルムで被覆したフィルムコーティング剤(胃溶錠、腸溶錠)が含まれる。
【0069】
さらに本発明の錠剤は、その用途を限定されず、医薬品であっても、医薬部外品であっても、また食品であってもよい。さらに用法も限定されず、内服用錠剤、口腔用錠剤(トローチ錠、バッカル錠、舌下錠、チュアブル錠、口腔内崩壊錠)、外用錠剤であってもよい。
【0070】
(2)錠剤の製造方法
本発明の錠剤は、当業界の慣用法に従って、直接打錠法または顆粒打錠法によって製造することができる。好ましくは、混合した原料を一旦顆粒にしてから打錠する顆粒打錠法である。
【0071】
直接打錠法により錠剤を製造する場合、制限されないが、まず保形性の悪い成分とセルロース(平均L/D値は3以上である)とを、打錠機の回転盤の臼中に供し、上杵及び下杵で圧縮することにより製造することができる。前記混合物には、前述する「その他の成分」、例えば機能性物質、または薬学的に許容された担体または添加剤(前記セルロース以外の結合剤、賦形剤、崩壊剤及び滑沢剤等)を任意成分として配合してもよい。
【0072】
顆粒打錠法により錠剤を製造する場合、制限されないが、まず保形性の悪い成分とセルロース(平均L/D値は3以上である)との混合粉体に、水及び/又は有機溶媒を加えて一旦造粒し、必要に応じて整粒した後、調製した顆粒を打錠機に供し、上杵及び下杵で圧縮(打錠)することにより製造することができる。前記混合粉体には、前述する「その他の成分」、例えば機能性物質、または薬学的に許容された担体または添加剤(前記セルロース以外の結合剤、賦形剤、及び崩壊剤等)を任意成分として配合してもよく、また整粒後、打錠前に薬学的に許容された担体または添加剤(前記セルロース以外の結合剤、賦形剤、及び崩壊剤等)を任意成分として配合してもよい。
【0073】
上記造粒は、通常、慣用の造粒機を用いて行われる。かかる造粒機としては、例えば、流動層造粒機、撹拌造粒機、押出し造粒機等を挙げることができる。造粒は、特に制限されないが、例えば、上記造粒機の造粒槽内で、上記保形性の悪い成分とセルロースとを混合し、その混合物に、水やエタノール等のバインダーを均一に噴霧しながら行うことができる。この際、造粒槽中の吸気温度、噴霧液の温度等の造粒時の条件は適宜設定できるが、通常、吸気温度は40?90℃が好ましく、40?70℃がより好ましい。また、噴霧液の温度は10?80℃が好ましく、20?60℃がより好ましい。
【0074】
この様にして得られた造粒物(顆粒)は、必要に応じて乾燥し、含有する水や有機溶媒を除去する。ここで乾燥温度は、20?90℃が好ましい。より好ましくは30?85℃であり、65?80℃が更に好ましい。斯くして顆粒の水分含量が、好ましくは3質量%以下になるように、より好ましくは2質量%以下になるように乾燥する。
【0075】
乾燥した顆粒は、必要に応じて、例えば18?22メッシュ、好ましくは12?20メッシュとなるように適宜整粒を行うことができる。
【0076】
次いで上記顆粒を打錠して、錠剤の形状に成形する。打錠は、例えば、上記顆粒を筒状の臼に充填し、充填された顆粒をすりきり板で一定量にすりきり、上下の杵で圧縮して行われる。打錠機は、高速回転式錠剤機等の公知の装置を制限なく使用することができる。
【0077】
打錠圧等の操作条件については、製造する錠剤の形状、大きさ等により異なるので、特に限定はされないが、例えば、直径5?20mm、曲率半径6?24mmの杵を装着した打錠機を使用し、上記保形性の悪い成分及びセルロースを含む混合物の顆粒を打錠加工する。例えば100?2000mg/錠の丸型錠剤を製造する場合、打錠圧を600?2500kgf/cm^(2)の条件で、打錠成形することが好ましい。
【0078】
この様にして製造される錠剤は、上記保形性の悪い成分を含みながらも、錠剤硬度として1.5?15kgf程度を保持することが可能である。より好ましい本発明の錠剤は、上記保形性の悪い成分を70質量%以上、好ましくは80質量%以上含みながらも、錠剤の硬度として1.5?15kgf程度を保持することが可能である。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
【0080】
実験例
(1)錠剤成分
グルコサミン:プロテインケミカル(株)製のグルコサミンGM-C、平均粒子径100μm、かさ密度0.3g/ml
VC(アスコルビン酸):DSMニュートリションジャパン(株)製のアスコルビン酸微粉末、平均粒子径80μm、かさ密度0.7g/ml
セルロースA:旭化成ケミカルズ(株)製のセルロースST-100、平均L/D値3.5、平均粒子径50μm
セルロースB:旭化成ケミカルズ(株)製のセルロースST-02、平均L/D値2.8、平均粒子径50μm
ステアリン酸カルシウム:滑沢剤、日油(株)製のオーブライトCA-65、平均粒子径8μm
セルロースの平均L/D値(長径(L)と短径(D)との比)
セルロースA(ST-100、平均L/D値3.5)及びセルロースB(ST-02、平均L/D値2.8)の混合比から、錠剤中に含まれるセルロースの平均L/D値を算出した。
【0081】
(2)錠剤の調製
表1にグルコサミンを有効成分とする錠剤(実施例A1、A2、A5、A6、A9、A10、参考例A3、A4、A7、A8、A11、A12、及び比較例a1?a3)の組成を、また表2にアスコルビン酸を有効成分とする錠剤(参考例B1?B12、及び比較例b1?b3)の組成を記載する。なお、錠剤は、顆粒打錠法に従って製造した。
【0082】
顆粒の調製
グルコサミン粉末又はアスコルビン酸を、混合して、顆粒(造粒物)を調製した。造粒には、攪拌造粒装置(株式会社パウレック社製、VG-300型、仕込み量:粉体で200kg)を用い、チョッパー:3600rpm、ブレード:140rpm、温度:25℃の条件で造粒した。グルコサミンについては、加水率3.0質量%で造粒した。VC(アスコルビン酸)については混合のみを行った。
【0083】
得られた造粒末を、コーミル(株式会社パウレック社製、1.0φスクリーン、30Hz)で整粒した。
【0084】
コンテナミキサーにて混合した(20rpm)。
【0085】
錠剤の調製
顆粒に、表1及び2に示す配合量となる様に、セルロース(ST-100、ST-02)及び滑沢剤としてステアリン酸カルシウム(St-Ca)を混合して打錠末を得た。打錠機(畑鉄工所製「HT-AP12SS-U」)を用いて、油圧プレス機にて2.0tの圧力をかけて、打錠末を専用の金型(菊水製作所製)で打錠加工し、8mm丸φ250mgの錠剤を得た。
【0086】
(3)錠剤の評価試験
錠剤の硬度の測定
ロードセル式錠剤硬度計(岡田精工(株)製、ポータブルチェッカーPC-30型)を用いて、得られた錠剤の硬度を、室温25℃、湿度40%の条件下で、打錠後すぐ測定した(n=3)。結果を表1及び2に併せて示す。
【0087】
錠剤のキャッピング発生率の測定
摩損度試験機(富山産業(株)製、TFT-1200型)を用い、室温25℃、湿度40%、45rpm、3分の条件で、打錠後すぐに得られた錠剤のキャッピングの発生率を測定した。キャッピング発生率から、錠剤製品としての許容性を下記の基準に従って評価した。結果を表1及び2に併せて示す。
【0088】
◎:キャッピングが発生しない(発生率0%)。
○:キャッピングの発生率が35%未満であり、錠剤製品として許容できる。
△:キャッピングの発生率が35%以上?65%未満であり、錠剤製品として不良である。
×:キャッピングの発生率が65%以上であり、錠剤製品として不良である。
【0089】
総合評価
下記の基準により、調製した錠剤(実施例A1、A2、A5、A6、A9、A10、参考例A3、A4、A7、A8、A11、A12及び参考例B1?B12、比較例a1?a3及びb1?b3)を総合評価した。結果を表1及び2に併せて示す。
【0090】
A:硬度が8kgf以上であり、キャッピング発生率の評価が◎である。
B:硬度が5?8kgf未満であり、キャッピング発生率の評価が◎または○である。 C:硬度が1.5?5kgf未満であり、キャッピング発生率の評価が◎または○である。
D:硬度が1.5kgf未満であるか、またはキャッピング発生率の評価が△または×である。
【0091】
保形性の悪い成分としてグルコサミンを使用した実施例及び参考例を表1に示し、保形性の悪い成分としてアスコルビン酸を使用した参考例を表2に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
<考察>
表1及び2に示すように、試験結果から、グルコサミンやアスコルビン酸のように保形性の悪い成分を80質量%以上含む場合であっても、平均L/D値が3以上のセルロースを用いることで、他に結合剤などの担体や添加剤を配合しなくても、硬度1.5kgf以上の錠剤として好ましい硬度を有し、かつキャッピングの発生が抑えられた錠剤を製造することができた(実施例A1、A2、A5、A6、A9、A10、参考例A3、A4、A7、A8、A11、A12及び参考例B1?B12)。これに対して、比較例a1?a3及びb1?b3に示すように、平均L/D値が2.8以下のセルロースでは、上記のような特性を備えた錠剤を製造することはできなかった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保形性の悪い成分及びセルロースを含有する錠剤の十分な硬度を得る、及び/又は、キャッピングの発生を抑制する方法であって、当該保形性の悪い成分がグルコサミン又はその塩であり、当該セルロースの平均L/D値が3.33以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記保形性の悪い成分を80質量%以上の割合で含む、請求項1に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-27 
出願番号 特願2012-78287(P2012-78287)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深谷 良範  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 穴吹 智子
山本 吾一
登録日 2016-11-04 
登録番号 特許第6032917号(P6032917)
権利者 小林製薬株式会社
発明の名称 錠剤  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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