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審決分類 |
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更 E03B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 E03B 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) E03B 審判 全部申し立て 2項進歩性 E03B 審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 E03B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 E03B |
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管理番号 | 1340076 |
異議申立番号 | 異議2016-701214 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-12-28 |
確定日 | 2018-03-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5993887号発明「給水・給湯管」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5993887号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-5について訂正することを認める。 特許第5993887号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5993887号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成13年9月4日に出願した特願2001-267153号の一部を、平成17年3月7日に新たな特許出願とした特願2005-62579号の一部を、さらに平成25年7月5日に新たな特許出願とした特願2013-141798号の一部を、さらにもう一度平成26年3月6日に新たな特許出願としたものであって、平成28年8月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年12月28日に特許異議申立人ジュネスプロパティーズ株式会社(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成29年5月17日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年7月24日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、申立人から平成29年9月7日に意見書が提出され、平成29年9月29日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年12月4日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、申立人から平成30年2月15日に意見書が提出されたものである。 なお、平成29年12月4日に訂正の請求がされたことにより、平成29年7月24日にされた訂正の請求は、取り下げたものとみなす。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 平成29年12月4日付け訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の(1)?(3)のとおりである。(訂正請求書に記載された訂正事項1を、下記のとおり訂正事項1及び2に分けた。下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接しており、前記流水管を加熱するためのヒーター線が内部に挿通され、可撓性を有するヒーター管」とあるのを、「前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係で非接着状態であり、前記流水管を加熱するためのヒーター線が内部に隙間をもって挿通され、横断面が円形の可撓性を有するヒーター管」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に、「前記断熱管は、前記流水管及び前記ヒーター管が挿通された状態で、前記流水管及び前記ヒーター管の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっており、」を追加する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2に「前記ヒーター管は、前記流水管の長手方向に沿って配置される、請求項1に記載の給水・給湯管。」とあるのを、「前記ヒーター管は、前記流水管より小径であり、前記流水管の長手方向に沿って配置される、請求項1に記載の給水・給湯管。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項1は、ヒーター管について、「流水管と直接接する位置関係で非接着状態であり、」「ヒーター線が内部に隙間をもって挿通され、」「横断面が円形」であるものに限定することからみて、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて 上記アで説示したように、訂正事項1はヒーター管を限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて (ア)明細書の発明の詳細な説明に「【0025】このような第1保温管20は、ポリブテン管21と、内部にヒーター線25を挿通したヒーター管27と並置し、断熱管29により表面を被覆して形成してあり、ポリブテン管21とヒーター管27とが直接接しているためヒーター線25の熱をポリブテン管21に直に伝えることができ、ポリブテン管21全体を暖めることができる。」と記載され、また【図6】及び【図7】を参照しても、ポリブデン管21とヒーター管27とは接着していることが読み取れないことから、「流水管と直接接する位置関係で非接着状態であ」ることは、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (イ)【図6】及び【図7】を参照すると、ヒーター管の断面において、ヒーター線25の外面とヒーター管27の内面との間には多くの隙間が存在することが看取できるから、「ヒーター線が内部に隙間をもって挿通され」ることは、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (ウ)【図6】及び【図7】を参照すると、ヒーター管27は、横断面が円形であることが看取できるから、「横断面が円形」であることは、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (エ)以上のとおり、訂正事項1は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項2は、給水・給湯管について、「前記断熱管は、前記流水管及び前記ヒーター管が挿通された状態で、前記流水管及び前記ヒーター管の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となって」いるものに限定することからみて、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて 上記アで説示したように、訂正事項2は給水・給湯管を限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて 【図7】を参照すると、断熱管29は、ポリブテン管21(流水管)の中心線とヒーター管27の中心線が並ぶ方向の外径寸法が、当該並ぶ方向と交差する方向の外径寸法のうち、最大のものと比較しても、より大きいことが看取できるから、訂正事項2は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項3は、ヒーター管について、「前記流水管より小径であ」るものに限定することからみて、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて 上記アで説示したように、訂正事項3はヒーター管を限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて 【図7】を参照すると、ヒーター管27は、ポリブデン管21(流水管)より小径であることが看取できるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (4) 訂正前の請求項2?5は、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。 (5)申立人の主張について ア 申立人は、平成30年2月15日付け意見書の3頁において、 (i)「前記断熱管は、前記流水管及び前記ヒーター管が挿通された状態で、前記流水管及び前記ヒーター管の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっており、」を加える訂正について、「図7を参酌しても、『ポリブデン管及びヒーター管の並び方向の外径寸法』及び『並び方向と交差する方向の外形寸法』がどの部分の寸法を指すのかが、全く不明です。また、図7は断熱管の断面を指していますが、構成要件1Dには、『断面』との記載は一切なく、外形寸法がどの部分の寸法であるのかが不明です。仮に、外形寸法が、断面を指し、並び方向が特定されたとしても、図7に記載の断熱管29の外形は曲面で構成されているため、いずれの部分が外形寸法であるかは以前として不明です。そして、並び方向及びそれと交差する方向が不明である以上、並び方向の外形寸法が交差する方向の外形寸法より大きい形状であることは、特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項とはいえず、新たな技術事項の導入になると思料いたします。」(3頁2?12行)、 (ii)ヒーター管が「横断面が円形」であることに限定した訂正について、「円形とは、真円及び楕円も含む概念であるところ、図7には真円のような形状しか記載されておりません。したがいまして、この点についても、請求項1に係る訂正は、新たな技術事項の導入になると思料いたします。」(3頁16行)と主張している。 イ 申立人の上記主張について検討する。 (ア)まず、上記(i)について検討すると、流水管及びヒーター管の並び方向とは、ポリブデン管の中心点とヒーター管の中心点を結んだ線と平行な方向であって、並び方向と交差する方向とは、当該線と直交する方向であることは明らかである。 そして、上記の当該線と平行な方向や当該線と直交する方向は、それぞれいくつか選択することができるものの、単に外形寸法といえば、それぞれの方向における最大の寸法部分であると解することができる。 よって、並び方向及びそれと交差する方向、それらの外形寸法に不明な点はないから、「前記断熱管は、前記流水管及び前記ヒーター管が挿通された状態で、前記流水管及び前記ヒーター管の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっており、」を追加する訂正は、新たな技術事項の導入にあたらない。 (イ)続いて、上記(ii)について検討すると、円形とは、一般的に略真円を意味するものであって、広く解釈したしても、真円に近い形状のものを含むと解することができる。 よって、ヒーター管が「横断面が円形」であることに限定することは、新たな技術事項の導入にあたらない。 (ウ)したがって、上記アの(i)及び(ii)の主張は採用することができない。 3 小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?5について訂正を認める。 第3 当審の判断 1 訂正後の請求項1ないし5に係る発明 本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 合成樹脂で構成され、柔軟性を有する流水管と、 前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係で非接着状態であり、前記流水管を加熱するためのヒーター線が内部に隙間をもって挿通され、横断面が円形の可撓性を有するヒーター管と、 内周において、前記流水管の外周及び前記ヒーター管の外周と接するように前記流水管及び前記ヒーター管を被覆した断熱管と、 を具備し、 前記断熱管は、前記流水管及び前記ヒーター管が挿通された状態で、前記流水管及び前記ヒーター管の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっており、 前記断熱管内に前記ヒーター管の外周と前記流水管の外周と前記断熱管の内周とで形成される空間を有する給水・給湯管。 【請求項2】 前記ヒーター管は、前記流水管より小径であり、前記流水管の長手方向に沿って配置される、請求項1に記載の給水・給湯管。 【請求項2】 前記ヒーター管は、前記流水管より小径であり、前記流水管の長手方向に沿って配置される、請求項1に記載の給水・給湯管。 【請求項3】 前記流水管は、ポリブテン又は架橋ポリエチレンを主素材とする合成樹脂で構成された請求項1又は請求項2に記載の給水・給湯管。 【請求項4】 前記ヒーター管は、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリアミド樹脂を主素材とする合成樹脂で構成される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の給水・給湯管。 【請求項5】 前記断熱管は、ポリウレタン、ポリエチレン又はEPDMを主素材とする合成樹脂で構成され、3mmから10mmの肉厚を有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の給水・給湯管。」 2 取消理由(決定の予告)の概要 (1)本件発明1ないし5は、当業者が甲4発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明1ないし5は、当業者が甲7発明、甲第8号証及び甲第4号証に記載された事項、周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。 3 刊行物の記載 (1)取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第1号証(特開平10-292448号公報)には、以下の事項が記載されている。(下線は「異議の決定」において付与した。以下同様。) ア 「【0008】 【作用】 本発明の配管構造では、配管の布設作業の際、複数の配管を結束状態で布設する予定の部分に、予め必要数の配管を結束させたものを用いることができるので、複数本の配管をまとめて布設することができる。 【0009】 【発明の実施の形態】 まず、図1に基づいて、実施の形態1の建物ユニットU1の配管構造について詳述する。図中1は給水配管で、この給水配管1は建物ユニットU1内で3方に分岐しており、分岐した先が、台所シンクKと、洗面台Sと、浴槽Bのそれぞれに接続されている。 【0010】図中2は給湯配管で、この給湯配管2も建物ユニットU1内で3方に分岐しており、分岐した先が、台所シンクKと、洗面台Sと、浴槽Bのそれぞれに接続されている。なお、前記給水配管1ならびに前記給湯配管2の分岐部には、公知のT字形管継手やY字形管継手等が使用されている。 【0011】また、前記給水配管1ならびに給湯配管2は、図11に示すように、粘着テープ3で分岐部以外の部分(ア部,イ部,ウ部,エ部,オ部)を2本結束した状態で建物ユニットU1の床下に布設されている。なお、前記粘着テープ3は、給水配管1ならびに給湯配管2の全長に亘って螺旋状に巻き付けてもよいし、給水配管1ならびに給湯配管2の所々に筒状に巻き付けてもよい。」 イ 「【0020】また、この排水配管6と給水配管1ならびに給湯配管2は、図12に示すように、断熱材7で分岐部以外の部分(カ部,キ部,ク部,ケ部,コ部)を3本結束した状態で建物ユニットU3の床下に布設されている。」 (2)取消理由通知において引用した甲第2号証(特開平6-294483号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、衛生器具等の枝管の配管、特に移動可能な便器に接続する給、排水等の枝管の配管に用いることができるマルチ配管に関する。」 イ 「【0011】 【作用】本発明のマルチ配管においては、柔軟性を有する複数の管が、柔軟性を有する管状外装材内に挿入され、全体として、柔軟性を有する一つの管体として一体化されているので、複数の管が1本のマルチ配管で配管され、管の分散や交錯がなく、見栄えがよくなり、施工が簡略化される。又、鞘管内に給、排水管等を配管するいわゆる鞘管ヘッダー式配管の場合においても、1本の鞘管ですみ、施工が簡略化される。 【0012】 【実施例】本発明のマルチ配管の実施例を図を参照して説明する。図1は本発明のマルチ配管の一例を示した断面図、図2は本発明のマルチ配管の他の例を示した断面図、図3はマルチ配管の更に他の例を示した断面図、図4は本発明のマルチ配管の施工態様の一例を示した断面図、図5は本発明のマルチ配管の施工態様の他の例を示した断面図である。図1において、1は軟質塩化ビニル製の呼び径10Aの給水枝管、2は軟質塩化ビニル製の呼び径20Aの排水枝管、3は給水枝管1と排水枝管2とを束ね、一体化する管状のゴム製外装材であり、4はこの給水枝管1と排水枝管2と外装材3とからなるマルチ配管である。図2において、5は軟質塩化ビニル製の呼び径20Aの排気管、6は給水枝管1と排水枝管2と排気管5とを束ね、一体化する管状のゴム製外装材であり、7はこの給水枝管1と排水枝管2と排気管5と外装材6とからなるマルチ配管である。図3において、8は呼び径8Aの給湯管、9は給水枝管1と排水枝管2と排気管5と給湯管8とをその管内に挿入して一体化する管状に成形された外装材であり、10はこの給水枝管1と排水枝管2と排気管5と給湯管8と外装材9とからなるマルチ配管である。」 ウ 図1は以下のとおり。 エ 図1を参照すると、排水枝管2は、給水枝管1よりも大径であること、及び、給水枝管1と排水枝管2を束ねたゴム製外装材の外径寸法について、給水枝管1と排水枝管2の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっていることが看取できる。 (3)甲第4号証 取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第4号証(独国特許出願公開第19728942号明細書)には、以下の事項が記載されている。 ア (1欄64行?2欄3行) 以下、翻訳文(申立人によるもの、以下同様。)。 「本発明の主な長所は、例えば水の搬送用の導管が提供されることで分かり、そこでは、特定の温度を下回るといわゆる随伴加熱器が始動し、そのことから、例えば導管の凍結が回避される。本発明の導入によって、温度を監視するためにどの加熱ケーブル型を投入するかが配管網の管理者に委ねられる。」 イ (2欄11?47行) 以下、翻訳文。 「搬送媒体が流れる内管を1で表す。この導管は、工業用水を連続して通すためにも、加熱水またはその他の媒体を連続して通すためにも使用できる。内管は、目的に合わせて架橋ポリエチレンから構成される。内管1と接触してこれに平行に延びる管2が設けられ、これは、平たい断面を有し、アルミニウム接着バンド3を用いて内管1に固定される。内管1への管2の固定は、示していない方法で、アルムニウムバンドを用いて渦巻き状に、好ましくはバンドエッジを重ねて内管1及び管2に巻き付けて行うこともできる。管2は、同じく目的に合わせて架橋ポリエチレンから構成される。好ましくはポリウレタンベースのフォームプラスチック製の断熱膜4は、内管1とアルミニウム接着バンド3とを包み込む。このフォームプラスチック膜上にポリエチレン製の箔5が、その上に同じくポリエチレン製の外被6が載置される。外被6ならびにその下に置かれた膜5および6は、その外面が環状の波形をしていて、これが導管に特定の可撓性を付与する。 2つの内管を互いに間隔を開けてフォームプラスチック膜4内に設けることも可能であり、その際、導管を遠距離加熱管または加熱管として使用する場合には、1つの内管を順流として、別の内管を戻り流として使用する。その場合、両内管にそれぞれ1つの管2を備えることができる。 図2は、管2を平たくして内管1への接触面を大きくしたことを示す。 管2は、示していない加熱ケーブルもしくは加熱ケーブルまたはデータケーブルを収容するために設けられる。加熱ケーブルもしくは加熱ベルトまたはデータケーブルを収容するために設けられる。加熱ケーブル、加熱ベルトまたはデータケーブルは、初めに投入位置に入れられるが、すでに工場で導管の製造前または製造後に管2内へ取り入れることもできる。」 ウ Fig2は以下のとおり。 エ Fig2を参照すると、断熱膜4の内周において、内管1の外周及びアルミニウム接着バンド3の外面と接していること、及び、断熱膜4内に内管1の外周と管2の外周とアルミニウム接着バンド3の内面とで形成した空間を有していること、が看取できる オ 上記アないしエの記載からみて、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認める。 「架橋ポリエチレンから構成され、工業用水や加熱水を通す内管1と、 内管1と接触してこれに平行に延び、アルミニウム接着バンド3を用いて内管1に固定され、加熱ケーブルを収容するために設けられ、平たくした架橋ポリエチレンから構成される管2と、 断熱膜4の内周において、内管1の外周及びアルミニウム接着バンド3の外面と接して、内管1とアルミニウム接着バンド3を包み込む、ポリウレタンベースのフォームプラスチック製の断熱膜4と、 を具備し、 このフォームプラスチック膜上にポリエチレン製の箔5が、その上に同じくポリエチレン製の外被6が載置され、外被6は、その外面が環状であって、 断熱膜4内に内管1の外周と管2の外周とアルミニウム接着バンド3の内面とで形成した空間を有している、工業用水や加熱水を連続して通す導管。」 (4)甲第7号証 取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第7号証(特開平8-247346号公報)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ガソリンスタンド等に設置される自動洗車機の送水ホースに関するもので、殊に、所定の位置に固定された送水ポンプからレールに沿って往復動する移動洗車体に接続される自動洗車機機の送水ホースに関するものである。」 イ 「【0007】 【作用】上記の構成によれば、線状発熱体2に通電させることにより送水ホースが暖められて不使用時におけるホース内の滞留水の凍結を未然に防止することができる。この場合、外部の断熱材3の存在によって放熱が緩和され熱効率を高めることができる。また夜間等の非営業時間帯において線状発熱体への通電をカットしている間にホース内の滞留水が凍結した場合でも、再使用時に線状発熱体への電源をONにすることにより、何等手を煩わすことなく簡単に解凍することができる。」 ウ 「【0009】而して前記送水ホースAは、図3に示すようにフレキシブルな天然樹脂又は合成樹脂によって形成された筒状のホース本体1と、該ホース本体の周りに被覆されたフレキシブルな断熱材3とによって形成され、この断熱材3とホース本体1との間に熱媒体となる線状発熱体2と、移動洗車体7への送電用電線4とが装着されている。」 エ 「【0013】ホース本体1と断熱材3との間に介在される線状発熱2並びに電線4は図4に示すようにホース本体1の外周面に螺旋状に巻回して配置するようにしてもよい。また線状発熱体の本数は1本に限らず2本またはそれ以上としてもよい。」 オ 図3及び図4は以下のとおり。 【図3】 【図4】 カ 第3図及び第4図を参照すると、断熱材3の内周において、ホース本体1の外周及び線状発熱体2の外周と接していること、断熱材3内に線状発熱体2と送電用電線4の外周とホース本体1の外周と断熱材3の内周とで形成される空間を有すること、及び断熱材3の外形が円形であることが看取できる。 また、上記エの「ホース本体1と断熱材3との間に介在される線状発熱2並びに電線4は図4に示すようにホース本体1の外周面に螺旋状に巻回して配置するようにしてもよい。」との記載を参考に【図3】及び【図4】をみれば、線状発熱体2とホース本体1とは、非接着状態であることは明らかである。 キ 上記アないしカの記載からみて、甲第7号証には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているものと認める。 「フレキシブルな天然樹脂又は合成樹脂によって形成された筒状のホース本体1と、 該ホース本体1の周りに被覆されたフレキシブルな断熱材3とによって形成され、 この断熱材3とホース本体1との間に、ホース本体1の外周面に螺旋状に巻回して配置するようにしてもよい、熱媒体となる線状発熱体2と送電用電線4とが装着され、 断熱材3は、内周において、ホース本体1の外周及び線状発熱体2の外周と接しており、 断熱材3内に線状発熱体2のと送電用電線4の外周とホース本体1の外周と断熱材3の内周とで形成される空間を有し、 断熱材3の外形は円形である、自動洗車機の送水ホース」 (5)甲第8号証 取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第8号証(実願昭58-166280号(実開昭60-73194号)のマイクロフィルム)には、以下の事項が記載されている。 ア 「(イ)産業上の利用分野 本考案は冷却装置に配管接続される排水管に設けられる排水管用ヒータに関し、特に前記排水管に表面に接着される排水管用ヒータに関する。」(明細書1頁15?18行) イ 「さらに第2図に示したように予めアルミ箔(11)にホットプレス方式により塩化ビニルヒータ(12)を蛇行させ接着し、排水管(8)の表面に略全長にわたり前記ヒータ(12)を備えたアルミ箔(11)を接着させ鎖線にて示したように、前記ヒータ(12)の効率を良くすると共に外部からの損傷を防止するために断熱材(13)にて排水管(8)及びヒータ(12)等を被覆した際には、ヒータ(12)はアルミ箔(11)に接着されていると共に断熱材(13)にて押えつけられているため、排水管(8)の運搬時又は露受皿(6)への接続時等にヒータ(12)を曲げたときには局部的に張力が加わり塩化ビニルヒータ(12)内に設けられた発熱線に断線が頻繁に発生するという欠点が発生していた。」(明細書3頁2?15行) ウ 「(ハ)考案の目的 本考案は冷却装置の露受皿に接続される排水管用のヒータに断線が発生することを防止すると共に、前記ヒータの発熱を排水管の凍結防止に一層効率よく利用することを目的とする。」(明細書3頁16?末行) エ 「(14)は本考案に係る排水管用ヒータで、排水管(8)の全長と略等しく全長が形成されたアルミ箔等の薄く変形自在な変形自在な熱伝導性部材(11)と、この熱伝導性部材(11)の表面を被覆する塩化ビニルコーティング(15)と、熱伝導性部材(11)の表面全長にわたり所定間隔を存して並行に、前記塩化ビニルコーティング(15)とのホットプレス化工により接着された可撓性の第1、第2チューブ(16)、(17)と、これら第1、第2チューブ(16)、(17)夫々の内径より外径が小さく形成され、通電により発熱するニクロム線等の発熱線を備えた芯材(18)と該芯材を被覆する塩化ビニル、シリコン等の外被部材(19)とから構成され、第1チューブ(16)の一端から他端へ通され外部にて略U字状にユーターンしてさらに第2チューブ(17)の一端から他端へ通された塩化ビニルヒータ等の凍結防止用ヒータ(2)と熱伝導性部材(11)の塩化ビニルコーティング(15)の反対面全面に塗布された接着剤(21)とから構成されている。 ・・・ 第5図及び第6図に示したように排水管(8)の略全長にわたり下面に上記排水管用ヒータ(14)は接着され、排水管(8)及び排水管用ヒータ(14)はウレタンフォーム等を円筒状に形成し全幅にわたり形成された取り付け用の切欠部から内部に取り込まれ、断熱材(26)により略全長にわたり被覆されている。尚、断熱材(26)の切欠部の接続部(26’)は排水管(8)及び排水管用ヒータ(14)を被覆してから固定テープ(27)により接続される。 従って、凍結防止用ヒータ(20)と第1、第2チューブ(16)、(17)の内面との間には間隙が形成されると共にユーターン部(20’)が設けられているため、凍結防止用ヒータ(20)は断熱材(26)を設けた際にも第1、第2チューブ(16)、(17)内を移動でき、排水管(8)を接続時又は運搬時に曲げても凍結防止用ヒータ(20)が排水管(3)と断熱材(26)との間に狭められ局部的に張力が加わることを防止でき、凍結防止用ヒータ(20)内の発熱線の断線を防止することができ、排水管(8)の凍結を確実に防止することができる。」(明細書4頁19行?6頁19行) オ 「(へ)考案の効果 本考案は冷却装置に接続され断熱材により被覆される排水管の凍結を防止する排水管用ヒータを、前記排水管の略全長にわたり接着される熱伝導性部材と、該熱伝導性部材の略全長にわたり接着された可撓性のチューブと、該チューブの内径より外径が小さく形成され該チューブに通される凍結防止用ヒータとから構成したものであるから前記排水管及び排水管用ヒータを断熱材により被覆して運搬又は冷却装置へ接続するときに前記排水管を曲げた場合、前記凍結防止用ヒータは前記チューブ内を曲部へ移動し該凍結防止用ヒータが前記排水管と断熱材とにより狭められ局部的に張力が加わることを防止でき、前記凍結防止用ヒータの断線を防止でき、前記排水管の凍結を確実に防止でき、又、前記凍結防止用ヒータは前記チューブ内を通っているため、前記凍結防止用ヒータの発熱の外部への発散を防止することができ、」(明細書7頁12行?8頁9行) カ 第4図及び第6図は以下のとおり。 第4図 第6図 (6)甲第9号証 申立人が平成30年2月15日付け意見書に添付して提出した甲第9号証(米国特許第3971416号明細書)には、以下の事項が記載されている。 ア (3欄1?41行) 以下、翻訳文。 「本発明をより詳細に考察すると、図1は、流体流路14を貫通するパイプ12を含むパイプアセンブリAの一実施形態を示す。ヒータハウジング16は、パイプ12の上部外側部分18に取り付けられ、好ましくは、パイプ12の中心長手軸20に平行にパイプの外側に沿って長手方向に延びる。 ヒータハウジング16は、実質的にチャネルまたはC字形の本体22と、パイプ12の外側部分18上に円周方向に延びる一対の弧状の一体形成フランジ24とを含む。フランジ24は、パイプ12上のハウジング16を安定化させるため、及びハウジングのパイプへの取り付けを容易にするために設けられている。好ましくは、フランジ24は、パイプの外部に溶接されるが、ハウジング16は、任意の都合のよい方法でパイプ12で取り付けることができる。取付け手段がどのようなものであっても、ハウジング16は、ハウジング本体22とパイプ外部部分18とが管軸に平行に延び、加熱手段または加熱要素Eを受ける空洞26を形成するように、パイプ外面部分18に開口するハウジング本体22の凹部を有するパイプ12に固定される。もちろん、キャビティ26の寸法は、キャビティ26内に素子を置くことができるように、加熱素子EのE寸法よりも大きい。 加熱要素Eが空洞26に操作可能に配置されることで、パイプ12の流路内の流体が加熱要素Eによって制御可能に加熱される。加熱要素Eは、好ましくは、抵抗タイプ加熱のため電気エネルギー源に接続された2つの導体28,30を有する要素である。図1に示すように、絶縁部32は2つの導体と、これら2つの導体28,30を収容する筐体34とを分離する。筐体34は、図1に示すように、扁平な楕円形状を有し、これによって導体とパイプ外装部18との接触面積が最大となるようにする。しかしながら、パイプアセンブリが使用される適用対象によっては、他の適切な加熱要素をパイプアセンブリAに使用したり、流路14内の流体を冷却するための要素を、加熱要素Eに加えて、またはその代わりに使用してもよいことを理解されたい。」 イ (4欄35行?5欄5行) 以下、翻訳文。 「図2は、本発明のパイプアセンブリAの第2実施態様を示す。以下で別様に記される場合を除いて、図2に示されているアセンブリは図1に示されているアセンブリAと実質的に同一であり、これらのアセンブリにおいて対応する要素を示すために図では同様の参照番号が使用されている。 図2に示されているアセンブリAは、アセンブリAのためのピークハウジングとして自身を貫通する空洞26を有する円筒状導管38を使用する。ハウジング38は、パイプ12の上側外面部分18上に取り付けられ、好ましくはパイプ12の中心縦軸20に平行にパイプ外面上を縦方向に延びる。 ハウジング38をパイプ12に据え付けるために複数のバンド40がパイプ12およびヒータハウジング38の周りに延びる。据え付けバンド40は、クリンプファスナー42によってぴんと張られて保持される。もちろん、図1に示されているアセンブリAの場合と同じく、ハウジング38をパイプ12に据え付けるために他の任意の適切な手段が使用され得る。ヒータハウジング38は図2の横断面図で44として示されている縦方向に延びる線のみにおいてパイプ12の外面18と接触するけれども、熱伝達接着手段46は、ピークハウジング38をパイプ12に接合して、加熱エレメントEからピークハウジング38を通してパイプ12の外面部分18への熱伝達を増進する。熱伝達接着手段46は、好ましくは、「Thermon」という商標(テキサス州サンマルコスのサーモンマニュファクチュアリング社(Thermon Manufacturing Company)の商標)の下で販売されThermon T-85熱伝達セメントとして特定されるタイプである。しかし、高い熱伝導率を有する任意の適切な接着剤を装置Aに使用することができる。熱伝達接着手段46の熱伝導率が高いので、図2に示されているパイプ装置Aの有効熱伝達エリアは熱伝達接着手段46とパイプ外面部分18との共通表面エリア全体にわたって広がる。図2の線48は、この有効熱伝達エリアの横断面図を示す。」 ウ Fig2は以下のとおり。 エ Fig2を参照すると、円筒状導管(ハウジング)38は、導体28,30が内部に隙間をもって挿通され、横断面が円形であることが看取できる。 4 甲第4号証を主引用例として検討 (1) 本件発明1について ア 対比、 本件発明1と甲4発明を対比する。 (ア)甲4発明の「架橋ポリエチレンから構成され、工業用水や加熱水を通す内管1」は、本件発明1の「合成樹脂で構成され、柔軟性を有する流水管」に相当する。 (イ)甲4発明の「内管1と接触してこれに平行に延び、アルミニウム接着バンド3を用いて内管1に固定され、加熱ケーブルを収容するために設けられ、架橋ポリエチレンから構成される管2」と、本件発明1の「前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係で非接着状態であり、前記流水管を加熱するためのヒーター線が内部に隙間をもって挿通され、横断面が円形の可撓性を有するヒーター管」とは、「前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係であり、前記流水管を加熱するためのヒーター線が内部に挿通され、可撓性を有するヒーター管」で共通する。 (ウ)甲4発明の「断熱膜4の内周において、内管1の外周及びアルミニウム接着バンド3の外面と接して、内管1とアルミニウム接着バンド3を包み込む、ポリウレタンベースのフォームプラスチック製の断熱膜4」と、本件発明1の「内周において、前記流水管の外周及び前記ヒーター管の外周と接するように前記流水管及び前記ヒーター管を被覆した断熱管」とは、「内周において、前記流水管の外周と接するように前記流水管及び前記ヒーター管を被覆した断熱管」で共通する。 (エ)甲4発明の「断熱膜4内に内管1の外周と管2の外周とアルミニウム接着バンド3の内面とで形成した空間を有している」ことと、本件発明1の「前記断熱管内に前記ヒーター管の外周と前記流水管の外周と前記断熱管の内周とで形成される空間を有する」こととは、「前記断熱管内に前記ヒーター管と前記流水管と前記断熱管の内周とで形成される空間を有する」ことで共通する。 (オ)甲4発明の「工業用水や加熱水を連続して通す導管」は、本件発明1の「給水・給湯管」に相当する。 (カ)以上のことから、本件発明1と甲4発明とは、 「合成樹脂で構成され、柔軟性を有する流水管と、 前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係であり、前記流水管を加熱するためのヒーター線が内部に挿通され、可撓性を有するヒーター管と、 内周において、前記流水管の外周と接するように前記流水管及び前記ヒーター管を被覆した断熱管と、 を具備し、 前記断熱管内に前記ヒーター管と前記流水管と前記断熱管の内周とで形成される空間を有する給水・給湯管。」で一致し、以下の6点で相違している。 〔相違点1〕流水管とヒーター管とは、本件発明1は、非接着状態であるのに対し、甲4発明は、直接的には非接着状態であるものの、管2はアルミニウム接着バンド3を用いて内管1に固定されている点。 〔相違点2〕断熱管は、その内周において、本件発明1は、ヒーター管の外周と接するのに対し、甲4発明は、アルミニウム接着バンド3の外面と接しているものの、管2とは接してない点。 〔相違点3〕本件発明1は、断熱管内にヒーター管の外周及び流水管の外周と断熱管の内周とで形成された空間を有するのに対し、甲4発明は、断熱膜4内に内管1の外周と管2の外周とアルミニウム接着バンド3の内面とで形成した空間を有する点。 〔相違点4〕ヒーター管の内部に挿通されたヒーター線について、本件発明1は、ヒーター管と隙間をもっているのに対し、甲4発明は、隙間をもっているかどうか不明な点。 〔相違点5〕ヒーター管について、本件発明1は、横断面が円形であるのに対し、甲4発明は、平たくしている点。 〔相違点6〕断熱管について、本件発明1は、前記流水管及び前記ヒーター管が挿通された状態で、前記流水管及び前記ヒーター管の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっているのに対し、甲4発明は、フォームプラスチック膜(断熱膜4)上にポリエチレン製の箔5が、その上に同じくポリエチレン製の外被6が載置され、外被6は、その外面が環状である点。 イ 判断 上記の各相違点のうち、まず相違点5及び相違点6について検討する。 (ア)相違点5 甲4発明の管2は、「内管1への接触面積を大きく」((3)イの翻訳文の18行)するために、平たくしていることからみて、ヒーター管の横断面で円形とすることが、本件特許の遡及日前に公知または周知の技術であったとしても、甲4発明の管2の横断面を、平たいものから円形とすることは、当業者が容易になし得たことではない。 (イ)相違点6 a 甲第2号証には、給水枝管1と排水枝管2を束ねたゴム製外装材の外径寸法について、給水枝管1と排水枝管2の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっていることが記載されている。 b そこで、甲第2号証に記載された外形寸法についてみると、給水枝管1と排水枝管2を並置し接した状態とした場合、両枝管1,2全体の外形寸法は、上記相違点6に係る本件発明1の構成と同様のものであって、ゴム製外装材3で2つの枝管1,2を束ね一体化した後の外形寸法も、上記相違点6に係る本件発明1の構成と同様のものとなる。 c これに対して、甲4発明では、内管1と管2全体の外形寸法も、上記相違点6に係る本件発明1の構成と同様のものであるが、その外側、つまり、内管1とアルミニウム接着バンド3(及び管2)を、ポリウレタンベースのフォームプラスチック製の断熱膜4が包み込み、このフォームプラスチック膜上に箔5が、その上に外被6が載置され、外被6はその外面が環状であることから、内管1と管2の外形寸法は、それらの外側の断熱膜4、箔5及び外被6によって環状、つまり横断面が円形となっている。 d してみると、甲4発明と甲第2号証に記載のものとは、両者共に、2本の管が並置されているものであるところ、それらの外形寸法の違いは、単に形状の違いではなく、2本の管の外側に配置されたものが、甲4発明では、ポリウレタンベースのフォームプラスチック製の断熱膜4、箔5及び外被6であるのに対し、甲第2号証では、ゴム製外装材であることが理由であると理解できる。 e そこで、甲4発明において、断熱膜4、箔5及び外被6を、甲第2号証に記載されたゴム製外装材に代えることが、当業者が容易になし得たかどうかについて検討する。 甲第2号証に記載のゴム製外装材は、給水枝管1と排水枝管2を束ねるものであるが、断熱を目的とするものかどうか不明である。 甲4発明は、「導管の凍結が回避される」ことを長所としている((3)アの翻訳文の1?3行)ことから、甲4発明の断熱膜4、箔5及び外被6の代わりに、断熱機能を有するかどうか不明な甲第2号証に記載されたゴム製外装材を適用するとは、当業者が容易に思い付くものではない。 また、申立人が提出した甲第1号証、甲第3号証、甲第6号証?甲第9号証にも、相違点6に係る本件発明1の構成は記載されておらず、示唆する記載もない。 (ウ)申立人の主張について 申立人は、平成30年2月15日付け意見書において、上記相違点5については、「ヒーター管を円形にすることは、単なる設計事項であり、例えば、甲第8号証の図6、甲第9号証の図2などに記載された周知技術です。」(6頁6?8行)と、上記相違点6については、甲第2号証の図1を示して、「上記図1には、断熱管(マルチ配管)において、2つの管の並び方向の外形寸法が、この並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっていることが明確に記載されています。・・・2つの流水管を束ねた断熱管の外形寸法の関係については、甲第2号証に明確に記載されていると思料いたします。」(7頁2?6行)、「甲第2号証と甲第4号証とは、技術分野が関連し、また、いずれも複数の配管を一体化するという目的、その目的を達成するための手段及び作用・機能も共通します。したがいまして、甲第2号証と甲第4号証を組み合わせることについては、明確な動機付けが存在します。」(7頁11行?8頁1行)と主張する。 しかしながら、上記(ア)及び(イ)で検討したとおりであるから、申立人の主張は採用することができない。 (エ)小括 以上のとおり、相違点5ないし相違点6に係る構成が、当業者が容易になし得たものではないことから、相違点1ないし相違点4の判断をするまでもなく、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証ないし甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2?5について 本件発明2ないし5は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに構成を限定するものであるから、上記(1)で検討したことと同様の理由により、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証ないし甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)甲第4号証を主引用例としたまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証ないし甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5 甲第7号証を主引用例として検討 (ア)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲7発明を対比する。 (ア)甲7発明の「フレキシブルな天然樹脂又は合成樹脂によって形成された筒状のホース本体1」は、本件発明1の「合成樹脂で構成され、柔軟性を有する流水管」に相当する。 (イ)甲7発明の「ホース本体1」と「断熱材3」とがフレキシブルであることからすると、それらの間に装着された「線状発熱体2」も、同様にフレキシブルであることは自明であるから、甲7発明の「線状発熱体2」と、本件発明1の「ヒーター線が内部に挿通され、可撓性を有するヒーター管」とは、「可撓性を有するヒーター」で共通する。 甲7発明の「この断熱材3とホース本体1との間に、ホース本体1の外周面に」「装着され」た「熱媒体となる線状発熱体2」と、本件発明1の「前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係で非接着状態であり、前記流水管を加熱するためのヒーター線が内部に挿通され、可撓性を有するヒーター管」とは、「前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係で非接着状態である、前記流水管を加熱するための、可撓性を有するヒーター」で共通する。 (ウ)甲7発明の「内周において、ホース本体1の外周及び線状発熱体2の外周と接して」いる「断熱材3」と、本件発明1の「内周において、前記流水管の外周及び前記ヒーター管の外周と接するように前記流水管及び前記ヒーター管を被覆した断熱管と、」とは、「内周において、前記流水管の外周と前記ヒーターの外周と接するように前記流水管及び前記ヒーターを被覆した断熱管」で共通している。 (エ)甲7発明の「断熱材3内に線状発熱体2の外周とホース本体1の外周と断熱材3の内周とで形成される空間を有する」ことと、本件発明1の「前記断熱管内に前記ヒーター管の外周と前記流水管の外周と前記断熱管の内周とで形成される空間を有する」こととは、「前記断熱管内に前記ヒーターの外周と前記流水管の外周と前記断熱管の内周とで形成される空間を有する」ことで共通する。 (オ)甲7発明の「送水ホース」と、本件発明1の「給水・給湯管」とは、「給水管」で共通する。 (カ)以上のことから、本件発明1と甲7発明とは、 「合成樹脂で構成され、柔軟性を有する流水管と、 前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係で非接着状態であり、前記流水管を加熱するための、可撓性を有するヒーターと、 内周において、前記流水管の外周及び前記ヒーター外周と接するように前記流水管及び前記ヒーターを被覆した断熱管と、 を具備し、 前記断熱管内に前記ヒーターの外周と前記流水管の外周と前記断熱管の内周とで形成される空間を有する給水・給湯管。」で一致し、以下の4点で相違している。 〔相違点7〕ヒーターについて、本件発明1は、ヒーター線が内部に隙間をもって挿通された、横断面が円形のヒーター管であるのに対し、甲7発明は、線状発熱体2である点。 〔相違点8〕本件発明1は、断熱管の内周において、流水管の外周とヒーター管の外周と接するように流水管とヒーター管を被覆し、断熱管内にヒーター管の外周と流水管の外周と断熱管の内周とで空間を形成したのに対し、甲7発明は、本件発明1のヒーター管が線状発熱体2であって、流水管の外周と接したり、空間を形成するものが線状発熱体2である点。 〔相違点9〕本件発明1は、給水・給湯管であるのに対し、甲7発明は、送水ホースを給湯に用いるかどうか不明な点。 〔相違点10〕断熱管について、本件発明1は、前記流水管及び前記ヒーター管が挿通された状態で、前記流水管及び前記ヒーター管の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交叉する方向の外形寸法より大きい形状となっているのに対し、甲7発明は、その横断面が円形である点。 イ 判断 (ア)相違点10 上記の各相違点のうち、まず、相違点10について検討する。 a 甲第2号証には、給水枝管1と排水枝管2を束ねたゴム製外装材の外径寸法について、給水枝管1と排水枝管2の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっていることが記載されている。 b そこで、甲第2号証に記載された外形寸法についてみると、給水枝管1と排水枝管2を並置し接した状態とした場合、両枝管1,2全体の外形寸法は、上記相違点10に係る本件発明1の構成と同様のものであって、ゴム製外装材3で2つの枝管1,2を束ね一体化した後の外形寸法も、上記相違点10に係る本件発明1の構成と同様のものとなる。 c これに対して、甲7発明では、ホース本体1と断熱材3との間に線状発熱体2と送電用電線4とが装着されており、そして、断熱材3内に線状発熱体2と送電用電線4の外周とホース本体1の外周と断熱材3の内周とで形成される空間を有し、断熱材3の外形は円形である。 d してみると、甲7発明において、ホース本体1と断熱材3との間には、線状発熱体2と送電用電線4の2本の線と空間が存在し、甲第2号証に記載のもののように単に2本の管を並置したものではないから、甲第2号証に記載された構成を適用することはできず、相違点10に係る本件発明1の構成のような外形寸法とはならない。 また、申立人が提出した甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第9号証にも、相違点10に係る本件発明1の構成は記載されておらず、示唆する記載もない。 (イ)申立人の主張について 申立人は、平成30年2月15日付け意見書において、上記相違点10について、「甲第2号証に記載されています。また、甲7発明及び甲2発明は、いずれも複数の管を束ねた断熱管に関するものであり、技術分野が関連すると思料いたします。したがいまして、甲7発明及び第2発明を組み合わせることには動機付けが存在すると思料いたします。」(12頁2?5行)と主張しているが、上記(ア)で検討したとおりであるから、申立人の主張を採用することはできない。 (ウ)小括 以上のとおり、相違点10に係る構成が、当業者が容易になし得たものではないことから、相違点7ないし相違点9の判断をするまでもなく、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証ないし甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2ないし5について 本件発明2ないし5は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに構成を限定するものであるから、上記(1)で検討したことと同様の理由により、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証ないし甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)甲第7号証を主引用例としたまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第6号証ないし甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立人は、訂正前の請求項1ないし5に係る特許について、取消理由通知において採用しなかった以下の理由(A)ないし(C)を、特許異議申立書において申し立てている。 (A)本件発明1ないし4は、甲第1号証、あるいは、甲第1号証及び甲第2号証に基いて、本件発明5は、さらに甲第3号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (B)本件発明1ないし4は、甲第2号証及び甲第4号証に基いて、本件発明5は、さらに甲第3号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (C)本件特許は、適法に分割して出願されたものではないので、本件特許の出願日は、原出願である甲第5号証の出願日に遡及しないから、本件特許発明1ないし5は、甲第5号証に記載された発明と同一、または甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)上記(1)の申立理由について検討する。 ア 上記4及び5で検討したとおり、相違点6、相違点10については、申立人が提出した証拠を参酌しても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 そうすると、上記(A)及び(B)の申立理由について検討しても、上記4及び5と同様の理由により、本件発明1ないし5は当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 イ 上記(C)の申立理由について、申立人は、本件発明1に「可撓性を有するヒーター管」とあるが、原出願である甲第5号証の出願当初の明細書等の記載によると、可撓性を持たせるためには、ヒーター管の長手方向に凹凸を設けた蛇腹状とする必要があるが、本件発明1では、可撓性を有するヒーター管であるにも関わらず、「長手方向に凹凸を設けた蛇腹状」であることが特定されていないため、当該特定でないヒーター管も含まれることになるから、原出願である甲第5号証の出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入にあたる旨、主張する(63頁下から2行?64頁16行)。 しかしながら、ヒーター管に関し、甲第5号証の【0019】に、「ヒーター管は、全体を、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はナイロンを主素材とする合成樹脂材により」と記載されているように、軟質の素材も挙げられており、また、元の素材に可撓性がなければ、蛇腹状としたからといって、管全体として可撓性となるものでもないから、蛇腹状であることが、必須の構成とまではいえない。 よって、本件特許は、適法な分割出願であるから、不適法な分割であることを前提とした申立理由(C)により、本件特許を取り消すことはできない。 7 訂正請求により必要となった取消理由について 申立人は、訂正後の請求項1について、「訂正後の請求項1は、『ポリブデン管及びヒーター管の並び方向の外形寸法』及び『並び方向と交差する方向の外形寸法』がどの部分の寸法を指すのかが、不明確です。」(3頁下から3?1行)と主張しているが、上記第2の3で検討したとおり、当該「並び方向」や「外形寸法」等について不明確な点はない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、さらには、平成30年2月15日付け意見書で主張した取消理由によっては、本件発明1ないし5を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 合成樹脂で構成され、柔軟性を有する流水管と、 前記流水管に並置され且つ前記流水管と直接接する位置関係で非接着状態であり、前記流水管を加熱するためのヒーター線が内部に隙間をもって挿通され、横断面が円形の可撓性を有するヒーター管と、 内周において、前記流水管の外周及び前記ヒーター管の外周と接するように前記流水管及び前記ヒーター管を被覆した断熱管と、 を具備し、 前記断熱管は、前記流水管及び前記ヒーター管が挿通された状態で、前記流水管及び前記ヒーター管の並び方向の外形寸法が前記並び方向と交差する方向の外形寸法より大きい形状となっており、 前記断熱管内に前記ヒーター管の外周と前記流水管の外周と前記断熱管の内周とで形成される空間を有する給水・給湯管。 【請求項2】 前記ヒーター管は、前記流水管より小径であり、前記流水管の長手方向に沿って配置される、請求項1に記載の給水・給湯管。 【請求項3】 前記流水管は、ポリブテン又は架橋ポリエチレンを主素材とする合成樹脂で構成された請求項1又は請求項2に記載の給水・給湯管。 【請求項4】 前記ヒーター管は、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリアミド樹脂を主素材とする合成樹脂で構成される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の給水・給湯管。 【請求項5】 前記断熱管は、ポリウレタン、ポリエチレン又はEPDMを主素材とする合成樹脂で構成され、3mmから10mmの肉厚を有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の給水・給湯管。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-03-09 |
出願番号 | 特願2014-44121(P2014-44121) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(E03B)
P 1 651・ 851- YAA (E03B) P 1 651・ 121- YAA (E03B) P 1 651・ 855- YAA (E03B) P 1 651・ 854- YAA (E03B) P 1 651・ 841- YAA (E03B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石井 哲 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 小野 忠悦 |
登録日 | 2016-08-26 |
登録番号 | 特許第5993887号(P5993887) |
権利者 | 株式会社ブリヂストン ブリヂストンタイヤ長野販売株式会社 |
発明の名称 | 給水・給湯管 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 加藤 和詳 |