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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1340082
異議申立番号 異議2017-700607  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-14 
確定日 2018-03-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6054013号発明「貼付製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 1 特許第6054013号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂 正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正する ことを認める。2 特許第6054013号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第6054013号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成21年2月9日(優先権主張 平成20年2月27日)を国際出願日とする出願であって、平成28年12月9日にその発明について特許権の設定登録がなされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許の全請求項について、平成29年6月14日に特許異議申立人 谷口 文哉(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年9月21日付けで取消理由が通知され、同年11月1日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年12月21日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否の判断
1 訂正の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求める(以下、「本件訂正」という。)。

2 訂正の内容
本件訂正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり訂正するものである。

<本件訂正前>
「【請求項1】
塩基性薬物、金属塩、吸着剤及び粘着基剤を含有する貼付製剤であって、
前記金属塩は、前記塩基性薬物と結合して薬物塩を形成可能な物質の構成成分を含有するものであり、
前記金属塩の含有量は、前記貼付製剤に含まれる前記塩基性薬物と同一モルの薬物塩が形成された場合に、当該塩基性薬物と結合して薬物塩を形成する物質の構成成分のモル数又はそれ以下であり、
前記金属塩は、製造中又は製造後の貼付製剤中で生じたものであり、
前記吸着剤は、タルク、カオリン、ベントナイト、含水シリカ、フュームドシリカ、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、クロスポビドン、乳酸、酸化亜鉛、デキストリン及び乾燥水酸化アルミニウムゲルからなる群より選ばれる少なくとも1つである、貼付製剤。」

<本件訂正後>(なお、下線は訂正箇所を示す。)
「【請求項1】
塩基性薬物、金属塩、吸着剤及び粘着基剤を含有する貼付製剤であって、
前記金属塩は、前記塩基性薬物と結合して薬物塩を形成可能な物質の構成成分を含有するものであり、
前記金属塩の含有量は、前記貼付製剤に含まれる前記塩基性薬物と同一モルの薬物塩が形成された場合に、当該塩基性薬物と結合して薬物塩を形成する物質の構成成分のモル数又はそれ以下であり、
前記金属塩は、製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤と前記塩基性薬物の薬物塩との中和反応で生じたものであり、
前記吸着剤は、タルク、カオリン、ベントナイト、含水シリカ、フュームドシリカ、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、クロスポビドン、乳酸、酸化亜鉛、デキストリン及び乾燥水酸化アルミニウムゲルからなる群より選ばれる少なくとも1つである、貼付製剤。」

3 本件訂正の適否について
請求項1についての訂正は、本件訂正前に、金属塩について「前記金属塩は、製造中又は製造後の貼付製剤中で生じたもの」とされていたため、意図しない副反応などで生じた金属塩や貼付製剤の製造中に使われた塩基性薬物以外の材料から生じた金属塩が含まれるのか否か不明確であったものを、本件訂正により「前記金属塩は、製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤と前記塩基性薬物の薬物塩との中和反応で生じたもの」であることを明確にしたものである。
そして、このことは、本件特許明細書の「そこで、本発明の目的は、薬物塩を中和した場合に、生じる金属塩の経時的な凝集や成長が抑制された貼付製剤を提供することにある。」(【0007】)、「ここで、薬物が塩基性薬物である場合を例にとり、本発明の貼付製剤中の金属塩について説明する。塩基性薬物を『A』、薬物『A』と結合して薬物酸付加塩を形成可能な物質を『HX』、薬物酸付加塩を『A・HX』と表すと、上述した中和反応は、A・HX+MOH→A+MX+H_(2)Oと表すことができ、中和反応で生じた塩は『MX』となる。本発明の貼付製剤における金属塩は、この例では『MX』であり、これは、薬物『A』と結合して薬物塩を形成可能な物質『HX』の構成成分『X』を含有する。また、『MX』の含有量は、『A・HX』中の『HX』のモル数又はそれ以下となる。」(【0010】)、及び「・・・塩基性薬物の酸付加塩を原材料として使用し、中和剤と混和することにより薬物の中和反応を起こさせ、より組織吸収性が高い薬物のフリー体を粘着剤層3に存在させるとともに、薬物の中和反応により生じた金属塩を含有させることが好ましい。中和反応(脱塩反応)により生じる金属塩の種類は、薬物塩とそれを中和するための中和剤により決定される。・・・中和剤は、塩基性薬物の全部又は一部を遊離塩基(フリー体)の状態に変換するために配合される。・・・」(【0035】?【0037】)に記載されている。
したがって、本件訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、本件訂正に係る訂正前の請求項1?6は、請求項2?6がそれぞれ訂正の請求の対象である請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は一群の請求項ごとにされたものである。

4 申立人の主張について
申立人は、平成29年12月21日付け意見書の3頁から5行?4頁2行において、新たに加わった「中和剤」という用語が中和目的で添加したもの以外を含むか否か不明なため、新たに明瞭でない記載が含まれることになり、明瞭でない記載の釈明としては不充分であるから訂正要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件訂正は「金属塩」について明瞭でない記載の釈明を目的とすることは明らかであり、また、以下の第3の3(2)で述べるとおり、本件訂正後の請求項1に係る発明に不明瞭な点はないから、申立人の主張は採用できない。

5 小括
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。

第3 特許異議申立の判断
1 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?6に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
以下、これらをそれぞれ「本件訂正発明1」などといい、これらをまとめて「本件訂正発明」という場合もある。

「【請求項1】
塩基性薬物、金属塩、吸着剤及び粘着基剤を含有する貼付製剤であって、
前記金属塩は、前記塩基性薬物と結合して薬物塩を形成可能な物質の構成成分を含有するものであり、
前記金属塩の含有量は、前記貼付製剤に含まれる前記塩基性薬物と同一モルの薬物塩が形成された場合に、当該塩基性薬物と結合して薬物塩を形成する物質の構成成分のモル数又はそれ以下であり、
前記金属塩は、製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤と前記塩基性薬物の薬物塩との中和反応で生じたものであり、
前記吸着剤は、タルク、カオリン、ベントナイト、含水シリカ、フュームドシリカ、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、クロスポビドン、乳酸、酸化亜鉛、デキストリン及び乾燥水酸化アルミニウムゲルからなる群より選ばれる少なくとも1つである、貼付製剤。
【請求項2】
前記金属塩は、金属塩化物、金属臭化物、金属よう化物及び有機酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属塩である、請求項1記載の貼付製剤。
【請求項3】
前記金属塩は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一スズ、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、臭化ナトリウム及びコハク酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属塩である、請求項1又は2に記載の貼付製剤。
【請求項4】
前記塩基性薬物は、塩基性薬物酸付加塩から生じたものである、請求項1記載の貼付製剤。
【請求項5】
前記塩基性薬物酸付加塩は、塩基性薬物の、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、よう化水素酸塩、臭化水素酸塩、メシル酸塩、酒石酸塩又はコハク酸塩である、請求項4記載の貼付製剤。
【請求項6】
支持体と、当該支持体上に設けられ、請求項1?5のいずれか一項に記載の貼付製剤を含有する粘着剤層と、を備える貼付製剤。」

2 申立人の取消理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の甲第1?5号証及び参考資料を提示し、概略、次の取消理由1?5を主張する。なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。

(1)取消理由1
ア 本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された甲1又は甲2に記載された発明であるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当し取り消されるべきものである。

イ 本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された甲1又は甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2
本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された甲3又は甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由3
本件特許の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、これら請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4)取消理由4
本件特許の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に記載したものでないから、これら請求項に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(5)取消理由5
本件特許の請求項1?6に係る発明は、明確でないから、これら請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(6)証拠方法
甲第1号証:国際公開第02/38139号
甲第2号証:国際公開第96/16642号
甲第3号証:特開平11-209271号公報
甲第4号証:特開平11-209270号公報
甲第5号証:特表平7-506083号公報
参考資料:特許権者が平成27年6月9日に提出した審判請求書

3 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)当合議体が、本件特許の請求項1?6に係る発明に対して、平成29年9月21日付けで特許権者に通知した取消理由は、上記申立人の取消理由5(明確性要件違反)と同旨であり、本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、「金属塩」の意味するところが不明確であるというものであったところ、上記第2で検討したように本件訂正が認められることによりこの不備は解消する。

(2)申立人の主張について
ア 申立人は、平成29年12月21日付け意見書の3頁13?22行及び4頁3行?5頁6行において、本件訂正により新たに加わった「中和剤」という用語は、中和目的で添加したもの以外を含むか否か不明であり、また、塩基性薬物の薬物塩を中和する塩基であると解しても、「一部を遊離塩基の状態に変換する」との規定のため、どの程度の強さの塩基までをいうのか、すなわち、酢酸ナトリウムのような弱塩基を含むのか、本件特許明細書を読んでも全く明らかでなく、当業者の技術常識に照らしても明確に把握することができない旨主張する。

イ しかしながら、本件特許明細書【0004】?【0008】によれば、本件訂正発明は、従来、薬物の組織吸収性向上のために、薬物の酸付加塩を完全に脱塩する強塩基で中和(脱塩)する手法が知られていたところ、中和反応により生成した金属塩が好ましくない影響を及ぼすことを見出したことに基づくものであることが理解できる。そして、【0037】には、「中和反応に用いる中和剤としては、特に限定はされないが、薬物として、酸付加塩から生じた塩基性薬物を用いる場合は、塩基性薬物の酸付加塩を完全に脱塩せしめる強塩基がよく、特にアルカリ金属の水酸化物が好適に用いられる。具体的には、中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が例示でき、これらの中では水酸化ナトリウムが特に好ましい。中和剤は、塩基性薬物の全部又は一部を遊離塩基(フリー体)の状態に変換するために配合される。ここで、過剰な中和剤により薬物の分解を引き起こさないためには、薬物の酸塩基当量に対し、0.5?4当量の範囲で中和剤を配合することが好ましい。配合は、製造工程中1回で行ってもよいし、数回に分けて行ってもよい。」と記載されている。
これら、本件特許明細書の記載から、本件訂正発明の「中和剤」とは、請求項1の「前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤」との記載のとおり、塩基性薬物の薬物塩を完全に遊離塩基(フリー体)に中和(脱塩)できる強塩基を意味していることは当業者に明らかである。

ウ そして、「又は一部を」との記載があるからといって、有機酸の金属塩のような弱塩基は、完全に脱塩された遊離塩基をもたらすものとはいえないから、僅かに遊離塩基が生じることがあったとしても、本件訂正発明の「中和剤」に該当しないことは明らかである。
また、塩基性薬物の薬物塩を、本件訂正発明が意図する「全部又は一部を」完全に遊離塩基(フリー体)に中和(脱塩)する量の強塩基、すなわち0.5?4当量程度の量の強塩基であれば、中和反応が生じてフリー体が生成することは当業者に自明であるから、本件訂正発明の「中和剤」に該当することも明確である。

なお、申立人が提出した参考資料である特許権者の審判請求書に、「本願発明では、『薬物』とは、塩基性薬物Xの酸付加塩・・・と、『塩基性薬物の酸付加塩を完全に脱塩せしめる強塩基』・・・を組み合わせて生じた薬物のフリー体のことを指しています。」(8頁17?21行参照)と記載されているとおり、本件訂正発明の「中和剤」が「強塩基」を意味していることは特許権者の主張に沿うものである。

(3)小括
よって、本件訂正発明は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとはいえない。

4 取消理由通知において採用しなかった取消理由について
(1)取消理由1(甲1又は甲2に基づく、新規性進歩性要件違反)について
ア 甲1を主たる引用例とする取消理由について
(ア)甲1記載の発明
甲1は、アミノ基を有する高分子化合物、酸付加塩を形成している薬物、及びカルボン酸及び/又はその塩を含有する経皮吸収型製剤を含む貼付製剤に関する技術を開示するものであるところ(請求項1及び7参照)、その貼付製剤の具体例を示した実施例6(14頁12行?15頁2行参照)からみて、次の貼付製剤の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「塩酸アンブロキソール、酢酸、酢酸ナトリウム、ピロチオデカン、及び流動パラフィンを混合した後、酢酸エチル・トルエン混合溶媒に溶解したSIS、アクリル系ポリマー(Duro-Tak387-2287:ナショナルスターチ&ケミカル社商品名)、脂環族飽和炭化水素樹脂及びオイドラギットE100(レーム社商品名)と混合し、離型紙上に塗工後溶剤を乾燥除去し、支持体と貼り合わせて得られた貼付製剤。」

(イ)本件訂正発明1と甲1発明との対比
a 甲1発明の「SIS」(スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、8頁14?15行参照)及び「アクリル系ポリマー(Duro-Tak387-2287:ナショナルスターチ&ケミカル社商品名)」は、貼付製剤の粘着剤層の基剤であるから(8頁13行?9頁2行参照)、本件訂正発明1の「粘着基剤」に相当する。

b 甲1発明の「オイドラギットE100(レーム社商品名)」は、メタクリル酸メチル-メタクリル酸ブチル-メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体であるから(4頁13?15行参照)、本件訂正発明1の「吸着剤」の選択肢である「アミノアルキルメタクリレートコポリマー」に相当する。

c 甲1発明の「塩酸アンブロキソール」は、本件訂正発明1の「塩基性薬物の薬物塩」に相当する。

d 甲1発明の「貼付製剤」は、本件訂正発明1の「貼付製剤」に相当する。

e 甲1発明の「脂環族飽和炭化水素樹脂」は粘着付与樹脂であり(9頁3?11行参照)、「流動パラフィン」は可塑剤であり(7頁下から4行?8頁8行参照)、「ピロチオデカン」は吸収促進剤であるところ(6頁19行?7頁20行参照)、本件訂正発明1の貼付製剤は、粘着付与剤、可塑剤、吸収促進剤を含有して良いものであるから(【0042】?【0048】参照)、甲1発明がこれらを含むことは相違点とはならない。
また、酢酸エチル・トルエン混合溶媒は乾燥除去されるものであり、本件訂正発明1の貼付製剤を製造する際に用いて良いものでもあるから(【0055】?【0058】参照)、甲1発明がこれを含むことは相違点とはならない。

f よって、両発明は、少なくとも次の点で相違する。

本件訂正発明1は、貼付製剤に「塩基性薬物」及び「金属塩」が含有されており、前記「金属塩」については、
・「前記塩基性薬物と結合して薬物塩を形成可能な物質の構成成分を含有するもの」
・「含有量は、前記貼付製剤に含まれる前記塩基性薬物と同一モルの薬物塩が形成された場合に、当該塩基性薬物と結合して薬物塩を形成する物質の構成成分のモル数又はそれ以下」
・「製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤と前記塩基性薬物の薬物塩との中和反応で生じたもの」
と特定されているのに対し、
甲1発明は、上記a?c及びeでみた原料に加えて「酢酸ナトリウム」及び「酢酸」が含有されているものの、得られた貼付製剤中の成分は不明な点。

(ウ)相違点についての検討
a 甲1には、「・・・バリヤー能を持つ角質層は脂溶性が高いことから、一般に薬物塩等のイオン型薬物は透過性が著しく低い。そのため、皮膚の角質層を介する薬物の経皮吸収性を高める工夫が必要とされ、イオン性薬物では脱塩された分子型の薬物を用いるのが一般的である。・・・しかしながら、多くの塩基性薬物では分子型での薬物の安定性が悪いこと、抗酸化剤等の安定化剤に皮膚刺激性がある等の問題から、単に塩基性薬物塩を分子型にするだけのみでの経皮吸収型製剤の開発では多くの薬物にとって問題がある。また、その問題点を解決する手段としてカウンターイオンに低刺激性の有機酸を用いることにより、脂溶性の高いイオンペアーを形成させ薬物の皮膚透過性を向上させる試みがなされている。・・・しかしながら、塩基性薬物と有機酸とのイオンペアー形成に関しては薬物塩と有機酸塩のイオン種及び特性に依存することが多く、その組み合わせによってはイオンペアー形成が不完全である場合も起こり得る。また、経皮投与製剤として、薬物とアミノ基を有する高分子化合物を組み合わせた手法も報告されている。・・・これらオイドラギットEの使用目的は薬物溶解性の改善や製剤の付着性の向上であり、塩基性薬物塩の脱塩や、薬物と有機酸とのイオン対の形成促進及びそれによる生理活性物質の皮膚透過性の向上等を目的としたものではない。」(1頁18行?2頁22行)、「・・・塩基性官能基を有する薬物を塩型で含有する貼付製剤に、アミノ基を特定量以上有する高分子化合物を含有させると、分子型の薬物に変換されて皮膚透過性が向上し、そこに更に適当な有機酸を添加することにより、効率よくイオン対が形成され、皮膚への分配率が高められて、薬物の皮膚透過性が有意に向上し、しかも投与部位である皮膚に対して安全で、且つ、含量安定性、基剤の物理的安定性等に優れた貼付製剤を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。」(3頁5?11行)と記載されている。

b これらの甲1の記載からみて、アミノ基を特定量以上有する高分子化合物である甲1発明の「オイドラギットE100(レーム社商品名)」は、本件訂正発明1の「吸着剤」の選択肢である「アミノアルキルメタクリレートコポリマー」に相当する物質であるが、甲1においては、塩基性薬物の薬物塩を脱塩して分子型に変換するために配合されているものであり、さらに薬物の皮膚透過性を向上するために、「酢酸ナトリウム」及び「酢酸」も配合することで、分子型に変換された薬物と酢酸とのイオンペアーを形成するものであることがわかる。(なお、前記「分子型」は、本件訂正発明1の「遊離塩基の状態」に相当するといえる。)

c そうすると、甲1発明の貼付製剤には、「塩酸アンブロキソール」が「オイドラギットE100(レーム社商品名)」により脱塩されて生じた「アンブロキソール」(分子型)と、「酢酸ナトリウム」及び「酢酸」の「酢酸」とで形成されたイオンペアーが存在していると考えられ、遊離塩基の状態のアンブロキソールは、存在しているとしても僅かであると解され、実質的に存在しているとはいえない。
一方、本件訂正発明1の貼付製剤に含まれる「塩基性薬物」は、請求項1の記載から、塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換したもの、すなわち、薬物のフリー体であることは明らかである(上記3(2)イ及びウ参照)。
したがって、甲1発明の貼付製剤には、本件訂正発明1の貼付製剤が含有する「塩基性薬物」は含まれていない。

d また、塩酸アンブロキソール由来の塩酸と酢酸ナトリウム由来のナトリウムから塩化ナトリウム(金属塩)が生じているとしても、これは、本件訂正発明1で特定される「製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤と前記塩基性薬物の薬物塩との中和反応で生じた」「金属塩」ではない。
すなわち、甲1発明には、本件訂正発明1の「中和剤」に相当する原料(強塩基)は含まれていない。
したがって、甲1発明の貼付製剤には、本件訂正発明1の貼付製剤が含有する上記「金属塩」も含まれていない。

e したがって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、甲1発明において、「塩酸アンブロキソール」を脱塩して「アンブロキソール」に変換するために、「オイドラギットE100(レーム社商品名)」にかえて、あるいはそれに加えて、本件特許明細書に例示されている水酸化ナトリウムなどの中和反応により金属塩を生じる中和剤を採用する理由はなく、貼付製剤中で有機酸とのイオンペアーとした薬物をフリー体にする理由もない。

(エ)小括
よって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ということはできず、また、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
そして、本件訂正発明2?6は、本件訂正発明1を引用して更に限定を付すものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲1に記載された発明ということはできず、また、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ 甲2を主たる引用例とする取消理由について
(ア)甲2記載の発明
甲2は、塩基性薬物である生理活性物質、有機酸、疎水性高分子、粘着付与樹脂、可塑剤及び吸収促進剤を含む粘着剤層を有するマトリックス型貼付製剤に関する技術を開示するものであるところ(請求項1及び12参照)、そのマトリックス型貼付製剤の具体例を示した実施例3(15頁1?18行参照)からみて、次のマトリックス型貼付製剤の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「SIS(カリフレックスD-1111)、PIB(ビスタネックスMM-L-100)、PIB(ビスタネックスLMMH)、水添ロジンエステル(理化ハーキュレス(株)社製;フォーラル85)、流動パラフィン(クリストール352)、クロタミトン、ピロチオデカン、酢酸ナトリウム、塩酸チザニジン、珪酸アルミニウム、BHT(ヨシノックス)を熱融解させ、離型紙上に塗工した後、支持体と貼り合わせて得られたマトリックス型貼付製剤。」

(イ)本件訂正発明1と甲2発明との対比
a 甲2発明の「SIS(カリフレックスD-1111)」(スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体)、「PIB(ビスタネックスMM-L-100)」及び「PIB(ビスタネックスLMMH)」(ポリイソブチレン)は、マトリックス型貼付製剤の粘着剤層に配合される疎水性高分子であって、粘着剤層を形成するものであるから(7頁4?22行参照)、本件訂正発明1の「粘着基剤」に相当する。

b 甲2発明の「塩酸チザニジン」は、本件訂正発明1の「塩基性薬物の薬物塩」に相当する。

c 甲2発明の「マトリックス型貼付製剤」は、本件訂正発明1の「貼付製剤」に相当する。

d 甲2発明の「水添ロジンエステル(理化ハーキュレス(株)社製;フォーラル85)」は粘着付与樹脂であり(7頁23?8頁4行参照)、「流動パラフィン」及び「クロタミトン」は可塑剤であり(8頁12?25行参照)、「ピロチオデカン」は吸収促進剤であり(9頁7行?10頁15行参照)、「珪酸アルミニウム」は充填剤であり(11頁10?13行参照)、「BHT(ヨシノックス)」(ジブチルヒドロキシトルエン)は抗酸化剤であるところ(11頁1?9行参照)、本件訂正発明1の貼付製剤は、粘着付与剤、可塑剤、吸収促進剤、充填剤、抗酸化剤を含有して良いものであるから(【0042】?【0050】参照)、甲2発明がこれらを含むことは相違点とはならない。

e よって、両発明は、少なくとも次の点で相違する。

本件訂正発明1は、貼付製剤に「塩基性薬物」、「金属塩」及び「吸着剤」が含有されており、前記「金属塩」については、
・「前記塩基性薬物と結合して薬物塩を形成可能な物質の構成成分を含有するもの」
・「含有量は、前記貼付製剤に含まれる前記塩基性薬物と同一モルの薬物塩が形成された場合に、当該塩基性薬物と結合して薬物塩を形成する物質の構成成分のモル数又はそれ以下」
・「製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤と前記塩基性薬物の薬物塩との中和反応で生じたもの」
と特定されているのに対し、
甲2発明は、上記a、b及びdでみた原料に加えて「酢酸ナトリウム」が含有されているものの、得られた貼付製剤中の成分は不明な点。

(ウ)相違点についての検討
a 甲2には、「これらの薬物は、酸性または中性であるため、本発明のように、有機酸によりイオン対の形成を介して、生理活性物質の十分な皮膚透過性を向上させる製剤ではない。」(3頁6?9行)、「本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、マトリックス型貼付製剤の粘着剤層に、生理活性物質、有機酸及び吸収促進剤を配合することにより、薬物の皮膚透過性が有意に向上し、投与部位である皮膚に対する刺激性が著しく低くなることを見出し、本発明を完成させた。・・・本発明の粘着層中において使用される語句『有機酸』は、有機酸のみならず、その水性無機塩類を包含する。・・・このような有機酸及びその水性無機塩類の例としては、・・・特に、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウムが好ましい。」(3頁24行?5頁11行)、「本発明のマトリックス型貼付製剤の粘着剤層において配合される生理活性物質としては、有機酸とイオン対を形成する塩基性薬物であれば、いずれの種類のものであってもよい・・・」(5頁20?23行)と記載されている。

b これら甲2の記載からみて、甲2発明の貼付製剤は、「酢酸ナトリウム」と「塩酸チザニジン」から形成されたイオン対を含有しているものといえる。すなわち、チザニジンと酢酸とのイオン対と塩化ナトリウムが存在していると解され、フリー体であるチザニジンは存在しているとしても僅かであると解され、実質的に存在しているとはいえない。
そうすると、甲2の記載を参酌しても、甲2発明の貼付製剤には、「塩基性薬物」及び「吸着剤」は含有されていない。
また、甲2発明の貼付製剤に塩化ナトリウム(金属塩)が存在しているとしても、これは、本件訂正発明1で特定される「製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤と前記塩基性薬物の薬物塩との中和反応で生じた」「金属塩」ではない。すなわち、甲2発明には、本件訂正発明1の「中和剤」に相当する原料(強塩基)は含まれていない。

c よって、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明ではない。
また、甲2発明において、「吸着剤」を含有するものとするとともに、「塩酸チザニジン」の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するため」に「中和剤」を配合し、その「中和剤」と「塩酸チザニジン」との中和反応により生じた「金属塩」を含有するものとする理由はなく、貼付製剤中で有機酸とのイオン対とした薬物をフリー体にする理由もない。

d 申立人の主張について検討する。
申立人は、本件訂正発明1の吸着剤の選択肢の一つである「カオリン」が珪酸アルミニウムの一種であることを根拠に、甲2発明の「珪酸アルミニウム」は、本件訂正発明1の吸着剤の選択肢である「タルク、カオリン、ベントナイト、含水シリカ、フュームドシリカ」と同等のものであって、甲2発明には「吸着剤」が含有されている旨主張する(申立書19頁1?5行)。
しかしながら、本件特許明細書【0050】にも、珪酸アルミニウムは充填剤として例示されており、カオリンが珪酸アルミニウムの一種であるからといって、直ちに本件訂正発明1の「吸着剤」に相当するということはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小括
よって、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明ということはできず、また、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
そして、本件訂正発明2?6は、本件訂正発明1を引用して更に限定を付すものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲2に記載された発明ということはできず、また、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)取消理由2(甲3又は甲4に基づく、進歩性要件違反)について
ア 甲3を主たる引用例とする主張について
(ア)甲3記載の発明
甲3は、活性成分としてのトリヘキシフェニジル及び/又はその薬理学的に許容される塩を、常温で粘着性を有する粘着剤であり、支持体の片面に該粘着剤からなる層が形成されている皮膚接触基剤中に0.5?60重量%の範囲で含有する経皮吸収製剤に関する技術を開示するものであるところ(請求項1?2参照)、その経皮吸収製剤の具体例を示した実施例3(【0041】、【0045】?【0046】参照)からみて、甲3には次の経皮吸収製剤の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「アクリル系粘着剤(アクリル酸2-エチルヘキシルエステル/アクリル酸/ビニルピロリドン=75/3/22重量比の共重合体)の酢酸エチル溶液に、塩酸トリヘキシフェニジル、ミリスチン酸イソプロピル、水酸化ナトリウム及びイソシアネート系架橋剤を配合して得られた膏体溶液をセパレータとしてのポリエステルフィルムの片面に塗布、乾燥した粘着剤層を、支持体としてのポリエチレンフィルム(厚み25μm)の片面に貼り合わせた、経皮吸収製剤。」

(イ)本件訂正発明1と甲3発明との対比
a 甲3発明の「アクリル系粘着剤(アクリル酸2-エチルヘキシルエステル/アクリル酸/ビニルピロリドン=75/3/22重量比の共重合体)」は、本件訂正発明1の「粘着基剤」に相当する。

b 甲3発明の「塩酸トリヘキシフェニジル」は、本件訂正発明1の「塩基性薬物の薬物塩」に相当する。

c 甲3には、「皮膚接触基剤中に薬理学的に許容されるトリヘキシフェニジル塩と共に、水酸化ナトリウム・・・などのフリー化剤を併存させ、皮膚接触基剤中で上記トリヘキシフェニジル塩をそのフリー体であるトリヘキシフェニジルに変化させるのである。」(【0005】)と記載されている。
したがって、甲3発明の「水酸化ナトリウム」は、本件訂正発明1の「製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤」に相当し、「塩酸トリヘキシフェニジル」との中和反応により「塩化ナトリウム」が生じることは自明であって、これは本件訂正発明1で特定された「金属塩」に相当する。
また、「塩酸トリヘキシフェニジル」のフリー体である生じた「トリヘキシフェニジル」は、本件訂正発明1の「塩基性薬物」に相当する。

d 甲3発明の「経皮吸収製剤」は、支持体の片面に貼り合わせた粘着剤層からなるから、本件訂正発明1の「貼付製剤」に相当するといえる。

e 甲3発明の「ミリスチン酸イソプロピル」は、皮膚接着性や活性成分の皮膚透過性の向上、皮膚刺激性の低減などの効果を得るために配合されたものであり(【0024】、【0028】参照)、「イソシアネート系架橋剤」は架橋剤であるところ、本件訂正発明1の貼付製剤は、吸収促進剤、架橋剤を含有して良いものであるから(【0042】、【0048】、【0051】参照)、甲3発明がこれらを含むことは相違点とはならない。
また、甲3発明の「酢酸エチル」は製造工程で使用された溶媒であって、乾燥処理により除去されるものであることは自明であり、本件訂正発明1の貼付製剤を製造する際に用いて良いものでもあるから(【0055】?【0058】参照)、甲3発明がこれを含むことも相違点とはならない。

f よって、両発明は、少なくとも次の点で相違する。

本件訂正発明1は、貼付製剤に「吸着剤」を含有しているのに対し、甲3発明は、含有していない点。

(ウ)相違点についての検討
a 甲3には、「上記構成からなる皮膚接触基剤層には、必要に応じて抗酸化剤や各種顔料、各種充填剤、経皮吸収促進剤、安定化剤、薬物溶解補助剤、薬物溶解抑制剤などの添加剤を、皮膚接触基剤100重量部に対して2?50重量部程度の範囲で配合することができる。」(【0038】)と記載されているが、吸着剤を配合することについては記載も示唆もない。

b ところで、甲3には、「皮膚接触基剤中に薬理学的に許容されるトリヘキシフェニジル塩と共に、水酸化ナトリウム・・・などのフリー化剤を併存させ、皮膚接触基剤中で上記トリヘキシフェニジル塩をそのフリー体であるトリヘキシフェニジルに変化させるのである。経皮吸収性の点からは、皮膚接触基剤中に含有させる活性成分は、トリヘキシフェニジル>フリー化トリヘキシフェニジル>薬理学的に許容されるトリヘキシフェニジル塩の順に好ましいが、経日安定性の点からは必ずしもこの順にはならず、経皮吸収性と経日安定性とのバランスを考慮して種類を選択すればよい。」【0005】と、薬物の形態と経日安定性の関係について記載されている。
また、上記aのとおり各種充填剤を配合しうることも記載されている。

c そして、貼付製剤に関する技術を開示する甲5には、作用物質を含有する粘着マトリックス中に、二酸化ケイ素、ポリビニルピロリドン、あるいはビニルピロリドン-酢酸ビニル-コポリマーである結晶化抑制剤を含有させることで、粘着系中に難溶性又は不溶性であり、且つ結晶化しやすい、例えばステロイドホルモンなどの作用物質の結晶化を抑制することが記載されている(請求項1?4、2頁右下欄14行?3頁右上欄1行、3頁左下欄12?15行参照)。
また、貼付製剤に関する技術を開示する甲1及び甲2には、配合し得る充填剤の一つとしてケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩やケイ酸が例示されている(甲1の9頁21?24行、甲2の11頁10?13行参照)。

d しかしながら、上記bの甲3における薬物の形態と経日安定性についての言及は、薬物の結晶化に関するものではなく、塩の形態とするか否かの程度を述べているに留まる。
そうしてみると、薬物の結晶化について何ら着目していない甲3発明について、甲5の記載に基づき結晶化抑制剤である二酸化ケイ素、ポリビニルピロリドン、あるいはビニルピロリドン-酢酸ビニル-コポリマーをさらに配合するものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、甲3の充填剤を配合し得るとの記載及び甲1、2に充填剤の具体例として例示されるケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸、ケイ酸塩の記載からだけで、甲3発明において、充填剤としてタルク、カオリン、ベントナイト、含水シリカ又はフュームドシリカを選択して配合する理由は見いだせない。
ましてや、これらの物質を吸着剤として作用させることを目的として配合することが容易になし得たこととはいえない。

e それに対し、本件特許明細書に「本発明の目的は、薬物塩を中和した場合に、生じる金属塩の経時的な凝集や成長が抑制された貼付製剤を提供することにある。」(【0007】)、「本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、中和反応後に生じた薬物酸付加塩由来の塩は、貼付製剤の製造や中和反応を行なう際に使用した極性溶媒(水、メタノール、エタノール等)の微量な残留物を中心に凝集・成長する可能性があることを見出し、さらにこの凝集・成長は、粘着剤層中に吸着剤を含有させることにより抑制できることを見出した。」(【0008】)と記載されているとおり、本件訂正発明1は、吸着剤を含有させることで、中和反応により生じた金属塩の凝集や成長を抑制するという効果を奏するものである。
甲3は、甲3発明の経皮吸収製剤中で塩酸トリヘキシフェニジルを水酸化ナトリウムによってフリー体であるトリヘキシフェニジルに変化させる際に生じる塩化ナトリウム(金属塩)については何ら着目していないから、残存する極性溶媒を吸着する吸着剤を併存させることで塩化ナトリウムの凝集や成長を抑制できるという効果を予測することはできない。

f 申立人の主張について検討する。
申立人は、甲5に記載される結晶化抑制剤は、本件訂正発明1の吸着剤と作用・効果において同等であるから、二酸化ケイ素などのシリカを配合することは容易であること、結晶化抑制に関連付けなくても、充填剤として配合することは容易であるから、物の構成として容易であること、さらに、中和反応で生じる金属塩も薬物であるといえるから、その結晶化を抑制し得ることは合理的に予測できる旨主張する(申立書25頁下から9行?27頁19行)。
しかしながら、申立人の主張は、要するに、金属塩も薬物であるといえるから甲5に記載されている結晶化抑制剤が本件訂正発明1の吸着剤と同等であり、その効果も予測し得るとするものであって、甲5の記載に照らせばその前提において誤りであり、採用できない。

(エ)小括
よって、本件訂正発明1は、甲3発明及び甲1、2、5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
そして、本件訂正発明2?6は、本件訂正発明1を引用して更に限定を付すものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ 甲4を主たる引用例とする取消理由について
(ア)甲4には、上記アで検討した甲3発明における「塩酸トリヘキシフェニジル」が「塩酸ビペリデン」である点が異なるだけの甲4発明が記載されており(請求項1?2、実施例3参照)、その他の記載も上記アで検討した甲3と同様である。

(イ)したがって、本件訂正発明1と甲4発明とは、上記ア(イ)で検討したのと同様の相違点を有するところ、上記ア(ウ)で検討したのと同じ理由により容易になし得たこととはいえない。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明1は、甲4発明及び甲1、2、5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
そして、本件訂正発明2?6は、本件訂正発明1を引用して更に限定を付すものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)取消理由3及び4(サポート要件違反及び実施可能要件違反)について
ア 本件訂正発明は、塩基性薬物の薬物塩を中和反応によって遊離塩基の状態に変換させる際に生じる金属塩が、経時的に凝集・成長し、貼付製剤の製造効率、製剤安定性、製剤特性に好ましくない影響を及ぼすという問題があったところ、生じた金属塩が貼付製剤の製造などに使用した極性溶媒の微量な残留物を中心に凝集・成長するという知見に基づき、極性溶媒を吸着する吸着剤を含有させることで課題を解決するものである(【0004】?【0012】参照)。
そして、本件特許明細書には、本件訂正発明の特定の吸着剤を配合することで課題を解決し得ることが、複数の異なる吸着剤に関する実施例で示されている。
したがって、本件訂正発明にサポート要件及び実施可能要件に関する不備はない。

イ 申立人の主張について検討する。
申立人は、本件訂正発明の「塩基性薬物」という用語には、フリー体、酸付加塩、水和物、溶媒和物などを含む広い概念であるところ、これら全てについて上記課題を解決し得ると当業者は認識し得ないこと、弱塩基を用いた場合にはどのようにして発明を実施すれば良いのか理解できるように記載されていない旨主張する(申立書29頁7行?30頁20行)。
しかしながら、上記3で述べたとおり、本件訂正発明の「塩基性薬物」は「塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換」されたものであること、またそのように変換できる「中和剤」(強塩基)を用いることが理解でき、その他の態様が含まれるという解釈に基づく申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
よって、請求項1?6に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号の要件に違反してされたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性薬物、金属塩、吸着剤及び粘着基剤を含有する貼付製剤であって、
前記金属塩は、前記塩基性薬物と結合して薬物塩を形成可能な物質の構成成分を含有するものであり、
前記金属塩の含有量は、前記貼付製剤に含まれる前記塩基性薬物と同一モルの薬物塩が形成された場合に、当該塩基性薬物と結合して薬物塩を形成する物質の構成成分のモル数又はそれ以下であり、
前記金属塩は、製造中又は製造後の貼付製剤中で前記塩基性薬物の薬物塩の全部又は一部を遊離塩基の状態に変換するために配合された中和剤と前記塩基性薬物の薬物塩との中和反応で生じたものであり、
前記吸着剤は、タルク、カオリン、ベントナイト、含水シリカ、フュームドシリカ、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、クロスポビドン、乳酸、酸化亜鉛、デキストリン及び乾燥水酸化アルミニウムゲルからなる群より選ばれる少なくとも1つである、貼付製剤。
【請求項2】
前記金属塩は、金属塩化物、金属臭化物、金属よう化物及び有機酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属塩である、請求項1記載の貼付製剤。
【請求項3】
前記金属塩は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一スズ、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、臭化ナトリウム及びコハク酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属塩である、請求項1又は2に記載の貼付製剤。
【請求項4】
前記塩基性薬物は、塩基性薬物酸付加塩から生じたものである、請求項1記載の貼付製剤。
【請求項5】
前記塩基性薬物酸付加塩は、塩基性薬物の、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、よう化水素酸塩、臭化水素酸塩、メシル酸塩、酒石酸塩又はコハク酸塩である、請求項4記載の貼付製剤。
【請求項6】
支持体と、当該支持体上に設けられ、請求項1?5のいずれか一項に記載の貼付製剤を含有する粘着剤層と、を備える貼付製剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-13 
出願番号 特願2010-500640(P2010-500640)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 安川 聡
関 美祝
登録日 2016-12-09 
登録番号 特許第6054013号(P6054013)
権利者 久光製薬株式会社
発明の名称 貼付製剤  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 木元 克輔  
代理人 城戸 博兒  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 木元 克輔  
代理人 清水 義憲  
代理人 池田 正人  
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