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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G06F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G06F
管理番号 1340083
異議申立番号 異議2017-700496  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-18 
確定日 2018-03-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6031559号発明「透明導電性フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6031559号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-6〕について訂正することを認める。 特許第6031559号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6031559号の請求項1乃至6に係る特許についての出願は、平成23年3月8日(優先権主張平成22年12月27日)に出願された特願2011-50469号の一部を平成27年6月15日に新たな特許出願としたものであって、平成28年10月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年5月18日に特許異議申立人岩崎勇(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年8月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年10月30日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から平成29年12月19日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、特許請求の範囲の請求項3に係る「前記非晶質透明導電層を加熱して、透明導電層の膜厚が10?100nmである結晶性のインジウム・スズ複合酸化物に転化する熱処理工程」を「前記非晶質透明導電層をタッチパネルの形成前に加熱して、透明導電層の膜厚が10?100nmである結晶性のインジウム・スズ複合酸化物に転化する熱処理工程」に訂正するものである。

2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、段落【0068】に、「上記のような本発明の透明導電性フィルムは、各種装置の透明電極や、タッチパネルの形成に好適に用いられる。」、段落【0032】に、「(アモルファスITO膜の形成)アモルファスITO膜は気相法によって形成される。気相法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等があげられるが、均一な薄膜が得られる点からスパッタ法が好ましく、DCマグネトロンスパッタ法を好適に採用し得る。なお、「アモルファスITO」とは、完全に非晶質であるものに限られず、少量の結晶成分を有していてもよい。」、段落【0098】に、「(ITO膜の結晶化)上記の積層体から300mm四方の枚葉体を切り出し、200℃の加熱槽内で1時間加熱して、ITO膜の結晶化を行い、結晶性ITO膜を有する透明導電性フィルムを得た。」、段落【0078】に、「<重荷重ペン打点耐久性>(タッチパネルの作製)透明導電性フィルムを、MD方向を長辺とする60mm×140mmの長方形に切り出した。その両短辺上に銀ペーストを幅5mmでスクリーン印刷し、室温で24時間乾燥して、銀電極を形成した。銀電極が形成された透明導電性フィルムとガラス21上に表面粗さRa=0.9nmのITO膜22が形成されたITO導電ガラス(日本曹達製)とを、厚み180μmのスペーサ8を介してITO形成面同士が対向するように配置して、図5に模式的に示すようなタッチパネルを作製した。」と記載されている。
これらの記載から、発明の詳細な説明には、加熱処理によりITO膜が結晶化された透明導電性フィルムを得、該透明導電性フィルムを用いてタッチパネルを作製すること、すなわち、「非晶質透明導電層をタッチパネルの形成前に加熱して、・・・結晶性のインジウム・スズ複合酸化物に転化する熱処理工程」が記載されていると認められる。
したがって、本件訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、「熱処理工程」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、これら訂正は一群の請求項3-6に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔3-6〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1乃至6に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
可撓性透明基材、および可撓性透明基材上に形成された結晶性のインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層を備え、
前記可撓性透明基材は、ポリエステル系樹脂を含有する透明基体フィルムを含み、
前記透明導電層の膜厚は、10?100nmであり、
前記透明導電層は、加熱により結晶化されたものであり、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、-0.3%?-1.5%であり、
前記透明導電層の圧縮残留応力が0.4?2GPaであり、
前記透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上である、透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明導電層の膜厚は、10?20nmである、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
可撓性透明基材、および可撓性透明基材上に形成された結晶性のインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層を有する透明導電性フィルムの製造方法であって、
可撓性透明基材を準備する基材準備工程、
可撓性透明基材上に、非晶質のインジウム・スズ複合酸化物からなる非晶質透明導電層を形成する製膜工程、および
前記非晶質透明導電層をタッチパネルの形成前に加熱して、透明導電層の膜厚が10?100nmである結晶性のインジウム・スズ複合酸化物に転化する熱処理工程、を有し、
前記基材準備工程において、前記可撓性透明基材は、ポリエステル系樹脂を含有する透明基体フィルムを含み、
前記熱処理工程において、透明導電層を面内の少なくとも一方向における寸法変化が-0.3%?-1.5%となるように圧縮し、
前記熱処理工程において、少なくとも面内の一方向において透明導電層に圧縮応力が付与され、
前記熱処理工程でえられる透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上であることを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程において、前記透明導電層の膜厚は、10?20nmである、請求項3に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記圧縮応力の付与によって、結晶性透明導電層の圧縮残留応力を0.4?2GPaとすることを特徴とする、請求項3または4に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程における加熱温度が150℃?210℃であり、加熱時間が150分以下である、請求項3?5のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。」

なお、本件発明1乃至6は、いずれも、「透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上である」との発明特定事項を有する発明であるが、該発明特定事項を有する発明は、本件特許についての出願の原出願である特願2011-50469号の優先権の主張の基礎とされた先の出願である特願2010-290499号の明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されていないから、本件発明1乃至6についての当該優先権の主張は認められない。

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1乃至4に係る特許に対して平成29年8月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項3、4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項3、4に係る特許は、取り消すべきものである。
(2)請求項3、4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項3、4に係る特許は、取り消すべきものである。
(3)請求項1、2に係る発明における「前記透明導電層は、加熱により結晶化されたものであり、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、-0.3%?-1.5%であり」との発明特定事項は明確でないから、請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。

3.甲号証の記載
(1)甲第3号証
本件特許についての出願の原出願の出願日である平成23年3月8日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2011-28945号公報)には、以下の技術事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、透明プラスチックフィルム基材上に酸化インジウムを主とした透明導電膜をスパッタリング法により積層した透明導電性フィルム、特にペン入力用タッチパネルに用いた際にペン摺動耐久性に優れるとともにタッチパネルの上部電極として使用する際などにおいて平面性の良好なものが得られる透明導電性フィルムに関するものである。」

「【0008】
本発明の目的は、上記の従来の問題点に鑑み、タッチパネルに用いた際のペン摺動耐久性に優れ、特にポリアセタール製のペンを使用し、5.0Nの荷重で30万回の摺動試験後でも透明導電性薄膜が破壊されない透明導電性フィルムを産業上利用できる手段で提供するとともに、適度な熱収縮率を透明導電性フィルムに持たせることによって大型のタッチパネルの上部電極として使用する際などにおいて熱処理で適度に収縮させて平面性の良好ものに仕上げることができる透明導電性フィルムを提供することにある。」

「【0021】
本発明の透明導電性フィルムを得るためには以下の方法〔1〕、〔2〕、〔3〕が望ましい。
〔1〕透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に酸化インジウムの均一性の高い結晶粒を主とした透明導電膜が積層された透明導電性フィルムを成膜するには、カソードと「フィルムから一番近いアノード」(ただしフィルムを走行させるロールは除く)の間の距離に対するフィルムと「フィルムから一番近いアノード」の間の距離の比が0.07以上であることが望ましい。フィルムとカソードと「フィルムから一番近いアノード」の配置に関しては、図1参照。カソードと「フィルムから一番近いアノード」の間の距離に対するフィルムと「フィルムから一番近いアノード」の間の距離の比が0.07より小さいと、フィルムへのイオン照射量が多くなるため、フィルムから有機成分が多く揮発し、均一な結晶粒の形成が阻害される。
【0022】
〔2〕透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に酸化インジウムの均一性の高い結晶粒を主とした透明導電膜が積層された透明導電性フィルムを成膜するには、真空状態にしたときにフィルムが巻き締まりにくくすることが望ましい。具体的には、フィルムに保護フィルムを貼り合わせる、フィルムにナールをつける、フィルムを50?100N/mといった弱い力で巻くことなどが望ましい。ただし、フィルムを50N/m未満で巻くとフィルムを運ぶときに巻きズレが生じるので適さない。フィルムが巻き締まってしまうと、フィルム内部から有機成分が抜けていく箇所が少なくなってしまうので、透明導電膜を成膜するときに、フィルムから有機成分が多く揮発するため、透明導電膜の結晶粒が不均一になる。
【0023】
〔3〕透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に酸化インジウムの均一性の高い結晶粒を主とした透明導電膜が積層された透明導電性フィルムを成膜するには、透明導電膜を成膜する前に、フィルムをボンバード工程に通すことが望ましい。ボンバード工程とは、アルゴンガスなどの不活性ガスだけ、もしくは、酸素などの反応性ガスと不活性ガスの混合ガスを流した状態で、電圧を印加し放電を行い、プラズマを発生させることである。具体的には、SUSターゲットなどでRFスパッタリングにより、フィルムをボンバードすることが望ましい。ボンバード工程によりフィルムがプラズマにさらされるため、フィルムから有機成分が揮発し、透明導電膜を成膜するときにフィルムから揮発する有機成分が減少するため、透明導電膜の結晶粒サイズの均一性が増加し、ペン摺動性を向上させる。」

「【0053】
(4)透明導電膜の酸化インジウムの結晶粒径及び平均結晶粒径
上記透過型電子顕微鏡下で透明導電膜層に観察される多角形状の領域を酸化インジウムの結晶粒とし、結晶粒の面積を出し、結晶粒の面積を円周率πで割った値の平方根を2倍した値を結晶粒径とした。
上記透過型電子顕微鏡下で観察・写真撮影された透明導電膜の酸化インジウムの結晶粒について、すべての結晶粒径を算出し、すべての結晶粒径の平均値を平均結晶粒径とした。
【0054】
(5)透明導電膜の結晶質部に対する非晶質部の比
上記透過型電子顕微鏡下で透明導電膜層に観察・写真撮影された酸化インジウムのすべての結晶粒について面積を出し、観察・写真撮影した面積との差を非晶質部の面積として、結晶質部に対する非晶質部の比を算出した。
【0055】
(6)結晶粒径の変動係数
透過型電子顕微鏡下で透明導電膜層に観察されるすべての酸化インジウムの結晶粒径を算出し、それらから平均結晶粒径、標準偏差を計算する。標準偏差を平均結晶粒径で割った値を変動係数とする。
【0056】
(7)透明導電膜の厚み(膜厚)
透明導電性薄膜層を積層したフィルム試料片を1mm×10mmの大きさに切り出し、電子顕微鏡用エポキシ樹脂に包埋した。これをウルトラミクロトームの試料ホルダに固定し、包埋した試料片の短辺に平行な断面薄切片を作製した。次いで、この切片の薄膜の著しい損傷がない部位において、透過型電子顕微鏡(JEOL社製、JEM-2010)を用い、加速電圧200kV、明視野で観察倍率1万倍にて写真撮影を行って得られた写真から膜厚を求めた。
【0057】
(9)透明導電性フィルムの収縮率測定
JIS C 2151に準拠し、熱処理前の寸法Aと、120±3℃に保たれた恒温槽中に60分放置後の寸法Bを画像測定器(ミツトヨ社製:QS-L1020Z/AF)で測定して、下記式により収縮率Hを算出した。
H(%)=(A-B)/A×100
透明導電性フィルムの流れ方向および幅方向にサンプリング(20mm×150mm)を行い、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率H_(MD)と、透明導電性フィルムの幅方向の120℃60分における収縮率H_(TD)を測定した。」

「【0060】
〔実施例1?13〕
透明プラスチックフィルム基材は、両面に易接着層を有する二軸配向透明PETフィルム(東洋紡績社製、A4340、厚み188μm)を用いた。硬化型樹脂硬化層として、光重合開始剤含有アクリル系樹脂(大日精化工業社製、セイカビームEXF-01J)100質量部に、共重合ポリエステル樹脂(東洋紡績社製、バイロン200、重量平均分子量18,000)を3質量部配合し、溶剤としてトルエン/MEK(8/2:質量比)の混合溶媒を、固形分濃度が50質量%になるように加え、撹拌して均一に溶解し塗布液を調製した。二軸配向透明PETフィルムの両面に塗膜の厚みが5μmになるように、調製した塗布液をマイヤーバーを用いて塗布した。70℃で1分間乾燥を行った後、紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、UB042-5AM-W型)を用いて紫外線を照射(光量:300mJ/cm^(2))し、塗膜を硬化させた。
【0061】
透明導電性フィルムを得る手法は上記の〔1〕?〔3〕の方法を採用している。
これらの実施例における透明導電膜作製条件は表1に記載した。また、各実施例において共通の作製条件は以下の通り。
真空槽にフィルムを投入し、2.0×10^(-4)Paまで真空引きをした。次に、酸素分圧が1.5×10^(-2)Paになるように酸素を導入し、その後不活性ガスとしてアルゴンを導入し全圧を0.5Paにした。実施例7のボンバード工程における導入ガスも、前記と同じである。
酸化スズを含む酸化インジウム焼結ターゲット、あるいは酸化スズを含まない酸化インジウム焼結ターゲットに1W/cm^(2)の電力密度で電力を投入し、DCマグネトロンスパッタリング法により、透明導電膜を成膜した。膜厚についてはフィルムがターゲット上を通過するときの速度を変えて制御した。また、スパッタリング時の成膜雰囲気の不活性ガスに対する質量数28のガス分圧の比については、ガス分析装置(インフィコン社製、トランスペクターXPR3)を用いて測定した。
【0062】
まず上記方法で作製した透明導電性フィルムの収縮率を測定した。
以上のようにして得られた透明導電性フィルムを一方のパネル板として用い、他方のパネル板として、ガラス基板上にプラズマCVD法で厚み20nmのインジウム-スズ複合酸化物薄膜(酸化スズ含有量:10質量%)からなる透明導電性薄膜(日本曹達社製、S500)を成膜した透明導電性ガラスを用いて、この2枚のパネル板(250mm×190mm)を透明導電性薄膜が対向するように、直径30μmのエポキシビーズを介して配置し、パネル板の4辺を両面テープ(日東電工社製:No.500)を用いて貼り合せて、12インチサイズのタッチパネルを作製した。この後、平面性を向上させるためにタッチパネルを120℃60分の熱処理を行った。
このタッチパネルを用いてペン摺動耐久性試験およびタッチパネルの平面性を評価した。
さらにタッチパネルから透明導電性フィルムを切り出して、透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径、結晶質部に対する非晶質部の比、結晶粒径の変動係数、透明導電性フィルムの全光線透過率、表面抵抗値、透明導電膜の膜厚の測定を行った。」

「【0069】
【表2】



以上の記載によれば、甲第3号証には、透明導電性フィルムの製造方法について記載され、これについて次の事項が把握できる。
段落【0021】-【0023】の記載によれば、上記方法は、透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に酸化インジウムの透明導電膜を成膜するものであり、また、段落【0060】の記載によれば、上記透明プラスチックフィルム基材は、PETフィルムを用いたものであり、段落【0061】及び段落【0069】の【表2】の記載によれば、上記酸化インジウムは酸化スズを含むものであり、上記成膜は、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜である。
さらに、段落【0062】の記載によれば、上記方法は、上記DCマグネトロンスパッタリング法で作製した透明導電性フィルムの収縮率を測定し、得られた透明導電性フィルムを一方のパネル板として用い、他方のパネル板として、ガラス基板上にプラズマCVD法で厚み20nmのインジウム-スズ複合酸化物薄膜(酸化スズ含有量:10質量%)からなる透明導電性薄膜(日本曹達社製、S500)を成膜した透明導電性ガラスを用いて、この2枚のパネル板(250mm×190mm)を透明導電性薄膜が対向するように、直径30μmのエポキシビーズを介して配置し、パネル板の4辺を両面テープ(日東電工社製:No.500)を用いて貼り合せて、12インチサイズのタッチパネルを作製し、平面性を向上させるためにタッチパネルを120℃60分の熱処理を行い、このタッチパネルを用いてペン摺動耐久性試験、タッチパネルの平面性の評価を行い、さらにタッチパネルから透明導電性フィルムを切り出して、透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径、結晶質部に対する非晶質部の比、結晶粒径の変動係数、透明導電性フィルムの全光線透過率、表面抵抗値、透明導電膜の膜厚の測定を行い、その結果、段落【0053】-【0057】の記載、および、段落【0069】の【表2】の実施例10によれば、製造された透明導電性フィルムは、透明導電膜の膜厚が20nm、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率H_(MD)が0.51%、平均結晶粒径が35nm、結晶質部に対する非結晶質部の比が0.02、結晶粒径の変動係数が0.17のものである。

したがって、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲3発明]
「PETフィルムを用いた透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に、酸化スズを含む酸化インジウムの透明導電膜をDCマグネトロンスパッタリング法により成膜する透明導電性フィルムの製造方法であって、
上記DCマグネトロンスパッタリング法で作製した透明導電性フィルムの収縮率を測定し、得られた透明導電性フィルムを一方のパネル板として用い、他方のパネル板として、ガラス基板上にプラズマCVD法で厚み20nmのインジウム-スズ複合酸化物薄膜(酸化スズ含有量:10質量%)からなる透明導電性薄膜(日本曹達社製、S500)を成膜した透明導電性ガラスを用いて、この2枚のパネル板(250mm×190mm)を透明導電性薄膜が対向するように、直径30μmのエポキシビーズを介して配置し、パネル板の4辺を両面テープ(日東電工社製:No.500)を用いて貼り合せて、12インチサイズのタッチパネルを作製し、平面性を向上させるためにタッチパネルを120℃60分の熱処理を行い、このタッチパネルを用いてペン摺動耐久性試験、タッチパネルの平面性の評価を行い、さらにタッチパネルから透明導電性フィルムを切り出して、透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径、結晶質部に対する非晶質部の比、結晶粒径の変動係数、透明導電性フィルムの全光線透過率、表面抵抗値、透明導電膜の膜厚の測定を行った結果、製造された透明導電性フィルムは、透明導電膜の膜厚が20nm、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率H_(MD)が0.51%、平均結晶粒径が35nm、結晶質部に対する非結晶質部の比が0.02、結晶粒径の変動係数が0.17のものである、透明導電性フィルムの製造方法。」

(2)甲第4号証?甲第6号証
本件特許についての出願の原出願の出願日である平成23年3月8日前に頒布された刊行物である甲第4号証?甲第6号証には、次の技術事項が記載されている。

[甲第4号証]
「1.有機高分子成型物上に主として結晶質のインジウム酸化物からなる透明導電層を形成してなる導電性積層体において、該結晶質のインジウム酸化物の結晶粒径が0.3μm以下であることを特徴とする透明導電性積層体。
2.該透明導電層が、先ず、有機高分子成型物上に、主としてインジウム酸化物を含む波長550nmの吸光係数が1×10^(-3)?2×10^(-3)[Å^(-1)]、比抵抗が2×10^(-2)Ωcm以下の層を形成し、次いで該層を酸素雰囲気下の加熱処理により主として結晶質のインジウム酸化物からなる層に転化せしめたものであることを特徴とする請求項1記載の透明導電性積層体。
3.加熱処理温度が100?250℃である請求項2記載の透明導電性積層体。
3.発明の詳細な説明
[利用分野]
本発明は導電性積層体に関し、更に詳しくは有機高分子成型物上に主として結晶質のインジウム酸化物からなる透明導電層を形成してなる導電性積層体に関する。」(第1頁左下欄第5行-右下欄第6行)

「本発明はかかる現状に鑑みなされたもので、耐久性及び信頼性に優れた導電性積層体を目的としたものである。」(第2頁左下欄第15行-第17行)

「本発明に用いられる主としてインジウム酸化物からなる透明導電性層の膜厚は十分な導電性を得るためには、50Å以上であることが好ましく、100Å以上であれば更に好ましい。また、十分に透明度の高い被膜を得るためには、500Å以下である事が好ましく、400Å以下がより好ましい。」(第4頁左上欄第1行-第6行)

「[実施例1?2及び比較例1]
75μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に、有機ケイ素化合物のブタノール、イソプロパノール混合アルコール系溶液(濃度0.6重量%)をバーコーターで塗布し、140℃で1分間乾燥した。乾燥後の膜厚は300Åであった。
該フィルムを直流マグネトロンスパッタ装置内の基板保持台に固定し、真空度2×10^(-5)Torrまで真空槽を排気した。その後、Ar/O_(2)混合ガス(O_(2)25%)を槽内に導入し、真空度を4×10^(-3)Torrに保った後、In/Sn合金(Sn5重量%)よりなるターゲットを用い反応性スパッタリング法により堆積速度を変えて実施例1?2及び比較例1のサンプルの吸光係数及び比抵抗を有するインジウム・スズ酸化物膜を形成した。これらのサンプルを150℃に保った熱風乾燥器により加熱処理を行なった後、透明導電層の膜構造を透過型電子顕微鏡で調べた。
また、加熱処理後のサンプルの550nmにおける透過率,比抵抗,耐屈曲性および発光層と貼合わせた後の断線の程度を調べた。なお、耐屈曲性は、透明導電層が外側になる様に、直径5φの丸棒の周囲に沿って10回繰返し変形させて元に戻した後の抵抗値Rと変形させる前の抵抗値R_(0)の比R/R_(0)と定義する。
結果を表1に示す。
本発明による実施例1,2の透明導電性積層体は耐屈曲性に優れ、発光層と貼合わせた後の断線は皆無であった。」(第5頁左下欄第2行-右下欄第11行)

[甲第5号証]
「【請求項1】 有機高分子成形物上に非晶質のインジウム-錫酸化物からなる透明導電層を形成し、しかる後に加熱による熱処理によりインジウム-錫酸化物を結晶質に転化させて形成した透明導電性積層体において、熱処理後の結晶質のインジウム-錫酸化物の結晶粒径が15?100nmの範囲であることを特徴とする透明導電性積層体。
【請求項2】 熱処理温度が、100?250℃であることを特徴とする請求項1記載の透明導電性積層体。
【請求項3】 結晶質のインジウム-錫酸化物層の膜厚が、10?50nmの範囲であることを特徴とする請求項1?2のいずれかに記載の透明導電性積層体。」

「【0006】そこで本発明は、かかる現状に鑑みなされたもので、高分子成形物上に透明導電層を設けたペン入力時の高荷重耐久性(屈曲耐久性)、光線透過率および信頼性の優れた導電性積層体を得ることを目的とする。」

「【0021】
【実施例1?2、比較例】175μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に、有機硅素化合物のブタノール,イソプロパノール混合アルコール水溶液(濃度0.6重量%)をバーコーターで塗布し、140℃で1分間乾燥した。乾燥後の膜厚は30nmであった。このフィルムを直流方式マグネトロンスパッタ装置内の基板保持台に固定し、真空度6.7mPaまで真空槽を排気した。その後、Ar/O_(2)混合ガス(Ar80%)を槽内に導入し、真空度を0.27Paに保った後、In/Sn合金(Sn5重量%)よりなるターゲットを用い反応性スパッタリング法により堆積速度を変えて作成した後、150℃に保った熱風乾燥機により加熱処理を行い実施例1?2及び比較例1の結晶粒径を有するインジウム-錫酸化物を形成した。
【0022】そして得られたサンプルについて、透明導電層の膜構造を透過型電子顕微鏡で調べた。また、サンプルのシート抵抗値を2端子法により測定した。また、このシート抵抗値と膜厚との積より比抵抗を求めた。さらに、550nmにおける光線透過率、耐屈曲耐久性、及び耐屈曲耐久性試験後のサンプルの断線の程度を調べた。なお、耐屈曲耐久性は、透明導電層が外側になる様に、φ6mmの丸棒の周囲に沿って100gの荷重をかけ1分間変形させて元に戻した後の抵抗値Rと変形させる前の抵抗値R_(0)の比R/R_(0)と定義する。結果を表1に示す。
【0023】
【実施例3】175μmのポリエチレンテレフタレートフイルムの片面にプライマー塗工(信越化学製 商品名「PC-7A」)をメチルイソブチルケトンと酢酸nブチルが1:1の比で混合された溶媒で希釈した後135℃で4分間乾燥させた後、ハードコート材料として日本精化製の商品名「NSC-2451」をイソプロパノールで希釈して塗工後、135℃で3分間乾燥させてハードコート層が形成されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。プライマー層の膜厚は0.5μmであり、ハードコート層の膜厚は8μmであった。
【0024】かかるポリエチレンテレフタレートフィルムのハードコートが形成されていない面に有機珪素化合物(日本曹達製 商品名「アトロンNSi」)をイソプロピルアルコールで希釈して塗工し130℃で3分間乾燥させて、約50nmの厚さの下塗り層を形成した。透明導電膜は、実施例1で用いたものと同じスパッタリング装置を用い、真空度6.7mPaまで真空槽を排気した後Ar/O_(2)の混合ガス(Ar98.5%)を導入し真空度を4.0mPaに保持させた後充填度In_(2)O_(3)/SnO_(2)(SnO_(2)5mol %)の酸化物ターゲットに、1.2W/cm^(2)の直流電力を投入して反応性スパッタを行い、しかる後真空槽から取り出して大気中で150℃に保持した熱風乾燥機にて加熱処理を行い形成した。
【0025】得られた透明導電フィルムの特性を実施例1と同じ評価方法にて評価を実施した。結果を表1に記す。」

[甲第6号証]
「【請求項1】
酸化インジウムと酸化スズの合計に対して酸化スズを9重量%以下の割合で含有する酸化インジウム・スズを主成分としてなる結晶性透明導電性薄膜であって、
当該結晶性透明導電性薄膜は、窒素を0.45原子%以下の割合で含有することを特徴とする結晶性透明導電性薄膜。
【請求項2】
請求項1記載の結晶性透明導電性薄膜が、透明フィルム基材の片面に設けられていることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項3】
導電性薄膜を有する一対のパネル板を、導電性薄膜同士が対向するようにスペーサを介して対向配置してなるタッチパネルにおいて、パネル板の少なくとも一方が、請求項2記載の透明導電性フィルムからなることを特徴とするタッチパネル。
【請求項4】
請求項1記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法であって、
アルゴンガスと窒素ガスを含み、かつ、前記窒素ガスを、アルゴンガスと窒素ガスの合計に対して、3000ppm?13000ppmの範囲で含むアルゴン雰囲気中において、酸化インジウムと酸化スズとの混合物の焼結体を透明導電性薄膜形成材料に用いて気相法により、酸化インジウムと酸化スズの合計に対して酸化スズを9重量%以下の割合で含有する酸化インジウム・スズを成膜して、透明導電性薄膜を形成する工程、
および、当該透明導電性薄膜を加熱処理して結晶化する工程、を有することを特徴とする結晶性透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記アルゴン雰囲気は、酸素ガスを含有することを特徴とする請求項4記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項6】
結晶性透明導電性薄膜を、透明フィルム基材の片面に形成することを特徴とする請求項4または5記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記結晶化工程における加熱処理条件が、135?155℃で、2.5時間以下であることを特徴とする請求項4?6のいずれかに記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法。」

「【0005】
本発明は、高抵抗値を有し、かつ高温・高湿の環境下における信頼性の良好な結晶性透明導電性薄膜を提供することを目的とする。」

「【0023】
また結晶性透明導電性薄膜において、当該薄膜を形成する結晶の最大粒径は350nm以下であることが好ましい。前記最大粒径は250nm以下、さらには150nm以下であることが好ましい。結晶粒径が小さくなりすぎると、前記薄膜中に非結晶状態に類似した部分が多くなり、高温・高湿の環境下における信頼性が低下するため、結晶粒径が極端に小さくなりすぎないようにするのが望ましい。かかる観点から、結晶の最大粒径は、10nm以上、さらには、30nm以上であるのが好ましい。」

「【0025】
本発明の結晶性透明導電性薄膜の膜厚は、厚さが通常10nm以上、好適には10?300nmであるのがよい。前記膜厚は、さらには15?100nm、さらには20?70nmであるのが好ましい。前記膜厚が、厚さが10nmより薄いと、表面電気抵抗が1×10^(3)Ω/□以下となる良好な導電性を有する連続被膜となりにくく、厚すぎると、透明性の低下などをきたしやすい。」

「【0033】
前記フィルム基材は、その材質に特に限定はなく、適宜なものを使用することができる。具体的には、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、特に好ましいものは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などである。」

4.対比・判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア.特許法第29条第1項第3号、第2項について
本件発明3と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「透明導電性フィルムの製造方法」は、「PETフィルムを用いた透明プラスチックフィルム基材上の少なくとも一方の面に、酸化スズを含む酸化インジウムの透明導電膜をスパッタリングにより成膜」して製造するものであり、甲3発明の「PETフィルム」、「酸化スズを含む酸化インジウムの透明導電膜」は、それぞれ、本件発明3の「可撓性透明基材」、「結晶性のインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層」に相当するから、本件発明3と甲3発明とは、「可撓性透明基材、および可撓性透明基材上に形成された結晶性のインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層を有する透明導電性フィルムの製造方法」である点では一致する。

甲3発明は、「上記DCマグネトロンスパッタリング法で作製した透明導電性フィルムの収縮率を測定し、得られた透明導電性フィルムを一方のパネル板として用い、・・・タッチパネルを作製し、平面性を向上させるためにタッチパネルを120℃60分の熱処理を行い、・・・タッチパネルから透明導電性フィルムを切り出して、透明導電膜の酸化インジウムの平均結晶粒径、結晶質部に対する非晶質部の比、結晶粒径の変動係数、・・・透明導電膜の膜厚の測定を行った結果、製造された透明導電性フィルムは、透明導電膜の膜厚が20nm、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率H_(MD)が0.51%、平均結晶粒径が35nm、結晶質部に対する非結晶質部の比が0.02、結晶粒径の変動係数が0.17」というものである。すなわち、「120℃60分の熱処理」を行うのは、「タッチパネルを作製」した後である。
したがって、本件発明3と甲3発明とは、少なくとも、次の相違点を有している。

[相違点]
本件発明3が、「前記非晶質透明導電層をタッチパネルの形成前に加熱して、透明導電層の膜厚が10?100nmである結晶性のインジウム・スズ複合酸化物に転化する熱処理工程」を有し、「前記熱処理工程において、透明導電層を面内の少なくとも一方向における寸法変化が-0.3%?-1.5%となるように圧縮し、
前記熱処理工程において、少なくとも面内の一方向において透明導電層に圧縮応力が付与され、
前記熱処理工程でえられる透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上である」のに対し、甲3発明は、そのような「熱処理工程」を有さない点。

この相違点について検討する。
甲3発明の課題の一つは、明細書の【0008】の記載によれば、「適度な熱収縮率を透明導電性フィルムに持たせることによって大型のタッチパネルの上部電極として使用する際などにおいて熱処理で適度に収縮させて平面性の良好ものに仕上げることができる透明導電性フィルムを提供すること」であり、熱処理を行って収縮させるのは、透明導電性フィルムがタッチパネルに使用された際であるから、甲3発明において、120℃60分の熱処理を行ってタッチパネルの平面性を向上させるのは、タッチパネルの形成後でなければならないのは明らかである。
したがって、甲3発明において、タッチパネルを作製した後に行う「120℃60分の熱処理」をタッチパネルの形成前に行うようにすることは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、甲第4?6号証には、タッチパネルの形成前に熱処理を行うことが記載されており、仮に、甲3発明において、甲第4?6号証記載のもののように、タッチパネルの形成前に熱処理を行う動機があったとしても、そのような熱処理の工程の結果、「前記熱処理工程において、透明導電層を面内の少なくとも一方向における寸法変化が-0.3%?-1.5%となるように圧縮し、
前記熱処理工程において、少なくとも面内の一方向において透明導電層に圧縮応力が付与され、
前記熱処理工程でえられる透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上である」ようにすることが当業者が容易に想到し得ることであるといえる証拠はない。
そして、本件発明3は、上記相違点に係る発明特定事項を備えることにより、明細書記載の「重加重での打点特性に優れ、高い耐屈曲性を備えた透明導電性フィルムが得られる」という効果を奏するものである。
よって、本件発明3は、甲第3号証に記載された発明であるということも、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
また、本件発明4は、本件発明3の特定事項をすべて含み、さらに、「前記熱処理工程において、前記透明電極層の膜圧は、10?20nmである」と限定するものであるから、本件発明3と同じ理由により、甲第3号証に記載された発明であるということも、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

イ.特許法第36条第6項第2号について
透明導電層が加熱により結晶化されることや該結晶化によりその寸法が変化することは周知の技術事項であるが、加熱により結晶化し寸法が変化した透明導電層を、その構造や機能によって直接特定することは困難であり、実際的ともいえないから、不可能・非実際的事情があるものと理解できる。
そうすると、「前記透明導電層は、加熱により結晶化されたものであり、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、-0.3%?-1.5%であり」との特定があることによって、本件発明1、2が不明確となっているとまではいえない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、請求項1、2、5、6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1、2、5、6に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。
また、申立人は、特許異議申立書において、請求項1、2、5、6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、2、5、6に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。
これらの主張について検討する。
本件発明1は、「透明導電層の圧縮残留応力が0.4?2GPa」である、のに対し、上記甲3発明は、透明導電層の圧縮残留応力については特定されていない点で両者は相違する。
この相違点に関して、甲第3号証?甲第6号証のいずれにも、透明導電層の圧縮残留応力について記載乃至示唆されていない。甲第3号証には、透明導電性フィルムの流れ方向の120℃60分における収縮率H_(MD)については記載されているが、この収縮率H_(MD)と圧縮残留応力との関係は不明であり、収縮率H_(MD)に基づいて圧縮残留応力が0.4?2GPaという数値が直接導き出せる証拠はない。
したがって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるということも、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
本件発明2は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに限定するものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲第3号証に記載された発明であるということも、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
本件発明5、6は、本件発明3の特定事項をすべて含み、さらに限定するものであるから、上記(1)ア.で述べた本件発明3と同じ理由により、甲第3号証に記載された発明であるということも、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1乃至6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1乃至6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性透明基材、および可撓性透明基材上に形成された結晶性のインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層を備え、
前記可撓性透明基材は、ポリエステル系樹脂を含有する透明基体フィルムを含み、
前記透明導電層の膜厚は、10?100nmであり、
前記透明導電層は、加熱により結晶化されたものであり、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、-0.3%?-1.5%であり、
前記透明導電層の圧縮残留応力が0.4?2GPaであり、
前記透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上である、透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明導電層の膜厚は、10?20nmである、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
可撓性透明基材、および可撓性透明基材上に形成された結晶性のインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層を有する透明導電性フィルムの製造方法であって、
可撓性透明基材を準備する基材準備工程、
可撓性透明基材上に、非晶質のインジウム・スズ複合酸化物からなる非晶質透明導電層を形成する製膜工程、および
前記非晶質透明導電層をタッチパネルの形成前に加熱して、透明導電層の膜厚が10?100nmである結晶性のインジウム・スズ複合酸化物に転化する熱処理工程、を有し、
前記基材準備工程において、前記可撓性透明基材は、ポリエステル系樹脂を含有する透明基体フィルムを含み、
前記熱処理工程において、透明導電層を面内の少なくとも一方向における寸法変化が-0.3%?-1.5%となるように圧縮し、
前記熱処理工程において、少なくとも面内の一方向において透明導電層に圧縮応力が付与され、
前記熱処理工程でえられる透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上であることを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程において、前記透明導電層の膜厚は、10?20nmである、請求項3に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記圧縮応力の付与によって、結晶性透明導電層の圧縮残留応力を0.4?2GPaとすることを特徴とする、請求項3または4に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程における加熱温度が150℃?210℃であり、加熱時間が150分以下である、請求項3?5のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-14 
出願番号 特願2015-120224(P2015-120224)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G06F)
P 1 651・ 113- YAA (G06F)
P 1 651・ 537- YAA (G06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 笠田 和宏  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 山田 正文
千葉 輝久
登録日 2016-10-28 
登録番号 特許第6031559号(P6031559)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 透明導電性フィルムおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ユニアス国際特許事務所  

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