• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  F16F
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  F16F
審判 一部申し立て 2項進歩性  F16F
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16F
審判 一部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  F16F
審判 一部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  F16F
審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F16F
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16F
審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  F16F
審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F16F
管理番号 1340103
異議申立番号 異議2017-700187  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-27 
確定日 2018-03-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5980851号発明「免震システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5980851号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第5980851号の請求項1ないし3、5、6、10に係る特許を維持する。 特許第5980851号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第5980851号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成28年8月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年2月27日に特許異議申立人中川賢治(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成29年5月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年7月13日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、平成29年10月10日付けで異議申立人より意見書の提出がなされ、平成29年12月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月6日に意見書の提出及び訂正請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされたものである。
なお、特許法第120条の5第7項の規定により、平成29年7月13日の訂正請求は取り下げたものとみなすが、本件訂正は、平成29年7月13日の訂正請求による全ての訂正事項に加えて、特許請求の範囲の請求項の削除を行うと共にそれに整合させるために明細書の発明の詳細な説明の記載の削除を行うものである。

第2.本件訂正請求について
1.本件訂正の内容
本件訂正請求による本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1に「上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在な弾性部材と」とあるのを、「上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と」に訂正する。(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)

(2)訂正事項2:特許請求の範囲の請求項2に「上記圧縮材は、上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていることを特徴とする請求項1記載の免震システム。」とあるのを、「免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、上記免震対象物を支持する可動部と、上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その一端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷され、更に上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されているこを特徴とする免震システム。」に訂正する。

(3)訂正事項3:特許請求の範囲の請求項1に「上記弾性部材による弾性変形の反力に基づく圧縮力が」とあるのを、「上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が」に訂正する。

(4)訂正事項4:特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5:特許請求の範囲の請求項5に「請求項1記載の免震システム」とあるのを、「請求項2記載の免震システム」に訂正する。

(6)訂正事項6:特許請求の範囲の請求項6に「上記床の上に固定され」とあるのを、「上記床に固定され」に訂正する。

(7)訂正事項7:明細書の段落【0009】に「上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在な弾性部材と」とあるのを、「上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と」に訂正する。

(8)訂正事項8:明細書の段落【0010】に「請求項2記載の免震システムは、請求項1記載の発明において、上記圧縮材は、上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていることを特徴とする。」とあるのを、「請求項2記載の免震システムは、免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、上記免震対象物を支持する可動部と、上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その一端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷され、更に上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されているこを特徴とする。」に訂正する。

(9)訂正事項9:明細書の段落【0009】に「上記弾性部材による弾性変形の反力に基づく圧縮力が」とあるのを、「上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が」に訂正する。

(10)訂正事項10:明細書の段落【0012】の記載を削除する。

(11)訂正事項11:明細書の段落【0013】に「請求項1記載の発明において」とあるのを、「請求項2記載の発明において」に訂正する。

(12)訂正事項12:明細書の段落【0014】に「上記床の上に固定され」とあるのを、「上記床に固定され」に訂正する。

(13)訂正事項13:明細書の段落【0019】の記載を削除する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項、特許請求の範囲の拡張・変更、及び、独立特許要件違反の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に関連する記載として、本件訂正前の明細書の段落【0023】には、「案内機構32により他の方向に案内された線材に接続されたコイルばね33と」と記載されている。 したがって、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「弾性部材」について、「コイルばねからなる弾性部材」と限定するものといえるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2のうち、請求項2が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改める訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の「弾性部材」について、「コイルばねからなる弾性部材」とする訂正は、上記(1)で述べたとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の「その下端に」とあるのを、「その一端に」とする訂正は、本件訂正前の明細書の段落【0028】には「線材31は、ワイヤー、ロープ、紐等、あらゆる線状体で構成されてなり、その一端は、上述したように可動板21に接続される。また線材31は案内機構32を介してその延伸方向が案内され、他端がコイルばね33に接続されている。」と記載されていること、及び【図16】には、圧縮材35の一端に案内機構32が取り付けられることが見て取れることから、「その下端に」というは誤記であることは明らかであって、「その下端に」とあるのを「その一端に」とする訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の「上記弾性部材による弾性変形の反力に基づく圧縮力が」とあるのを、「上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が」とする訂正は、本件訂正前の明細書の段落【0043】には、「コイルばね33からの復元力を作用させることができ、」と記載されていることから、「反力」が「復元力」のことであると明瞭化するものといえるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、上記(2)で述べたとおり明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4の記載を削除しようとするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項1を引用する請求項2の訂正事項2に伴って、請求項5の引用関係を整合させるものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1及び2と同様に新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(6)訂正事項6について
訂正事項6に関連する記載として、本件訂正前の明細書の段落【0059】には、「可動板21を基台11上に載置する場合には、圧縮材35もその基台11上に固定するものであってもよい。この基台11は、床1ひいては地盤に固定されているため、圧縮材35も地盤に固定されているものとみなすことができる。」と記載されていることから、圧縮材は床に固定される基台上に取り付けられるものであると解される。
したがって、本件訂正前の請求項6において、「上記床の上に固定され」とあるのを、「上記床に固定され」とする訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7ないし12について
訂正事項7ないし12は、訂正事項1ないし6に伴って、それぞれ明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1ないし6と同様に新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(8)訂正事項13について
訂正事項13は、明細書から、存在しない請求項に関する記載である段落【0019】の記載を削除するものであって、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(9)一群の請求項
訂正前の請求項1の記載を請求項2ないし10は引用する関係にあるから、上記訂正事項1ないし13に係る訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(10)特許異議の申立てがされていない請求項に係る発明の独立特許要件について
訂正前の請求項7ないし9に対しては特許異議の申立てはなされていないので、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用する請求項7ないし9に係る訂正事項1及び3については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、訂正後の請求項1を直接的または間接的に引用する請求項7ないし9に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
以下の第3.4(1)ウ.(ア)に示すように、訂正後の請求項1に係る発明は取消理由によっては取消すことができないから、訂正後の請求項1に係る発明を全て含む請求後の請求項7ないし9に係る発明も取り消すことができず、請求後の請求項7ないし9に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができたものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定を満たしている。

3.むすび
したがって、上記訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明1ないし6及び10
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし6及び10に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」ないし「本件発明6」及び「本件発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6及び10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その下端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷されること
を特徴とする免震システム。
【請求項2】
免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その一端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷され、更に上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていること
を特徴とする免震システム。
【請求項3】
上記弾性部材は、予荷重が予め付加されてなること
を特徴とする請求項1項記載の免震システム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
上記圧縮材は、上記可動部が載置される床若しくは基台に、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて固定されていること
を特徴とする請求項2記載の免震システム。
【請求項6】
上記圧縮材は、上記床に固定され、かつ上記可動部が載置される基台上に取り付けられていること
を特徴とする請求項5項記載の免震システム。
【請求項10】
上記可動部には複数箇所に開口が設けられるとともに、当該各開口に一の圧縮材を設け、上記各案内機構に向けて延伸されてきた2本の線材の延伸方向を略一方向に向けて上記圧縮材へ案内してなり、
更に上記複数箇所の開口間で上記案内機構に向けて延伸される線材の延伸方向を互いに異ならせてなること
を特徴とする請求項1記載の免震システム。」

2.取消理由の概要
(1)訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし6及び10に係る特許に対して平成29年5月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
ア.特許法第36条第6項第2号について
(ア)請求項1に係る発明における「圧縮材」との用語、及び「弾性変形の反力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」との表現は不明確である。
請求項1をに係る発明引用する請求項2ないし6及び10に係る発明も同様の理由で明確でない。
(イ)請求項2に係る発明の「弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されている」という記載と、請求項2に係る発明が引用する請求項1に係る発明の「上記圧縮材は、・・・その下端に上記案内機構が取り付けられ」という記載が矛盾しているため請求項2に係る発明の記載は不明確である。
請求項5に係る発明の記載も同様の理由で不明確である。

イ.特許法第36条第6項第1号について
請求項6に係る発明の「上記圧縮材は、上記床の上に固定され、かつ上記可動部が載置される基台上に取り付けられている」との発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されていない。

ウ.特許法第29条第2項について
(ア)請求項1、4及び10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)請求項2、3及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明(引用発明)及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)平成29年7月13日付け訂正請求による特許請求の範囲の請求項4に係る特許に対して平成29年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
特許法第36条第6項第2号について
請求項4に係る発明では「弾性部材」は「定荷重ばね」であると特定しつつ、請求項4が引用する請求項1に係る発明では、「弾性部材」は「コイルばねからなる弾性部材」と記載されているため、請求項4に係る発明における「弾性部材」が「定荷重ばね」であるか「コイルばね」であるか明確でない。

3.甲各号証の記載
(1)甲第1号証:株式会社日経BPが運営するホームページ「日経アーキテクチュア」の2014年7月9日付の記事「厚さ5mmの床免震、『手術室だけでも』に応える」 」(http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20140708/670049))
甲第1号証には、「厚さ5mmの床免震、『手術室だけでも』に応える」に関して、図面(特に第1ページの左下の「シミズ安震フロアの断面図(資料:清水建設)の[平常時]、[地震時]」参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「清水建設と新日鉄住金は共同で、薄い鋼板を2枚重ねただけの簡単な構造の床免震システム『シミズ安震フロア』を開発した。厚さはわずか5mm弱。建物全体ではなく、例えば手術室だけを安価に免震構造にできる。」(第1ページ上)

イ.「地震時に免震プレートがフロアプレートの上を滑ることで、免震効果を発揮する。ばねは揺れの収束時に、免震プレートを元の位置に引き戻す役割がある。」(第2ページ中央)

ウ.シミズ安震フロアの断面図(資料:清水建設)の[平常時](以下、「平常時断面図」という。)から、フロアプレート上に免震プレートが設けられ、免震プレートにワイヤーが接続され、ワイヤーは滑車により他の方向に案内されることが見て取れる。

エ.平常時断面図から、定荷重ばねがケースに内に収容されることが見て取れ、弾性変形自在な定荷重ばねの一端がワイヤーに固定され、他端はケースに固定されることは明らかである。

オ.シミズ安震フロアの断面図(資料:清水建設)の[地震時](以下、「地震時断面図」という。)には、「ゆっくり揺れるので手術台の転倒、移動が生じない」、「フロアプレートの上を免震プレートがすべる」と記載されている。

カ.平常時断面図と地震時断面図とを併せてみれば、手術台は免震プレートに支持され、定荷重ばねが収容されたケースは、定荷重ばねが略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていることが見て取れる。

これらの記載事項、認定事項び図面の図示内容を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「手術台の地震動を吸収する床免震システムにおいて、
上記手術台を支持する免震プレートと、
上記免震プレートに一端が接続されたワイヤーの延伸方向を他の方向に案内するための滑車と、
上記滑車により他の方向に案内されたワイヤーに接続されて弾性変形自在な定荷重ばねからなる弾性部材と、
フロアプレートに対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端が接続されるケースとを備え、
上記ケースは、内部に弾性部材が収納され、内部に上記固定端が取り付けられる
床免震システム。」

また、同様に、本件発明2の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「手術台の地震動を吸収する床免震システムにおいて、
上記手術台を支持する免震プレートと、
上記免震プレートに一端が接続されたワイヤーの延伸方向を他の方向に案内するための滑車と、
上記滑車により他の方向に案内されたワイヤーに接続されて弾性変形自在な定荷重ばねからなる弾性部材と、
フロアプレートに対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端が接続されるケースとを備え、
上記ケースは、内部に弾性部材が収納され、内部に上記固定端が取り付けられ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されている
床免震システム。」

(2)甲第2号証:特開2013-64418号公報
甲第2号証には、「滑り免震機構」に関して、図面(特に【図1】、【図14】参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
本発明は建物や精密機器等を対象とする免震構造に関連し、特に免震対象物を滑り面を介して支持部上に滑動自在に支持する滑り免震機構に関する。」

イ.「【0020】
・・・(中略)・・・免震対象物1を免震床2を介して支持部(構造床)4上に水平変位自在に支持して設置するもので、・・・(後略)」

ウ.「【0024】
そして、本実施形態では、図1?図2に示すように、上記の定荷重ばね6を支持部4に設置したケース9内に収容してワイヤー10を介して免震対象物1に接続するが、その際、ワイヤー10に戻り止めのストッパー11を設けておくことにより定荷重ばね6を上記の予引張力Fが生じるような所定の限界変位を与えた状態でケース9内に収容する。・・・(後略)」

エ.「【0035】
特に、復元ばね5としては、上記のようにそのばね定数と免震対象物1の自重Wとにより定まる固有周期が4秒以上となるようなコイルばねを引張ばねとして用いることも好適である。
その場合には、図14(a)に示すようにコイルばね14に対して定荷重ばね6の場合と同様に上記の予引張力Fが生じるような所定の限界変位を与えた状態でケース9内に収納し、戻り止めのストッパー11によって限界変位以上の変位を許容しつつ限界変位以下に復元することを規制する状態で設置すれば良い。
このようなコイルばね14を復元ばね5として用いる場合には、その復元特性は(b)に示すように反力(復元力)が変位に依存するような特性を呈するものとはなるが、実質的に定荷重ばね6を用いる場合と同様に機能し同様の効果が得られるものとなる。」

(3)甲第3号証の1:2014年7月9日付毎日新聞の第7面
甲第3号証の1には、「病院を部分的免震」と題する記事が記載されている。

(4)甲第3号証の2:2014年7月9日付日刊工業新聞の第12面
甲第3号証の2には、「手術室、10日で免震化」と題する記事が記載されている。

(5)甲第3号証の3:2014年7月9日付読売新聞の第10面
甲第3号証の3には、「新免震技術を開発」と題する記事が記載されている。

(6)甲第3号証の4:2014年7月9日付日本経済新聞の第12面
甲第3号証の4には、「手術室向けの免震設備開発」と題する記事が記載されている。

(7)甲第4号証:特開2014-231862号公報
甲第4号証には、「滑り免震機構」に関して、図面(特に【図5】参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「【0028】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態の滑り免震機構1Bを図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図5に示すように、本実施形態の滑り免震機構1Bの復元力機構7は、復元材として円形孔8と滑り材5とを接続する複数(本実施形態においては4本)の直線状の部材である直線状弾性体15を有している。直線状弾性体15は、引張コイルばねであって、円形孔8の縁部と滑り材5における円形孔8の中心部Cとを接続している。具体的には、直線状弾性体15は、滑り材5上であって円形孔8の中心部Cに設けられたピン16を介して支持部3と接続されている。
なお、直線状弾性体15の本数は4本に限ることはなく、要求される復元力などに応じて適宜変更することができる。また、直線状弾性体15である引張コイルばねのばね定数(弾性率)も適宜変更することができる。」

4.判断
(1)訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし6及び10に係る特許に対して平成29年5月19日付けで特許権者に通知した取消理由についての判断
ア.特許法第36条第6項第2号について
本件訂正により、請求項1における「弾性変形の反力に基づく圧縮力」が「弾性変形の復元力に基づく圧縮力」と訂正された結果、「圧縮材」とは、「弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」ものであると明確となった。
また、本件訂正により、請求項2は請求項1を引用しないものとなるるとともに、「その下端に」が「その一端に」と訂正された結果、矛盾が解消され、請求項2は明確となった。

イ.特許法第36条第6項第1号について
本件訂正により、請求項6における「上記床の上に固定され」は、「上記床に固定され」と訂正された結果、請求項6の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。

ウ.特許法第29条第2項について
(ア)本件発明1について
a.対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、その機能、構造からみて、引用発明1における「手術台」は本件発明1における「免震対象物」に相当し、以下同様に、「床免震システム」は「免震システム」に、「免震プレート」は「可動部」に、「ワイヤー」は「線材」に、「滑車」は「案内機構」に、「フロアプレート」は「地盤又はこれと一体挙動する構造物」に、「ケース」は「圧縮材」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1における「定荷重ばねからなる弾性部材」は、「弾性部材」という限りで、本件発明1における「コイルばねからなる弾性部材」と共通する。
さらに、引用発明1における「ケース」はその軸方向の断面形状が明らかでないが、定荷重ばねが収容されるものであるから管体であるといえる。

以上の点からみて、本件発明1と引用発明1とは、
[一致点]
「免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在な弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端が接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられる
免震システム。」
である点で一致し、
次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「弾性部材」が「コイルばねからなる弾性部材」であって、「圧縮材」は、「その下端に案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」のに対し、引用発明1は、「弾性部材」が「定荷重ばねからなる弾性部材」であって、「ケース」はその端部に滑車が取り付けられるものでなく、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷されるものでない点。

b.判断
相違点1について検討する。
甲第2号証及び甲第4号証には、「弾性部材」が「コイルばねからなる弾性部材」であって、「圧縮材」は、「その下端に案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」ことが記載も示唆もない。
本件発明1は、上記相違点1に係る構成を備えることで、可動板21の過大変位を拘束することができるものである(本件特許明細書の特に段落【0042】を参照。)。
してみると、引用発明1並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項から、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明1並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)本件発明2について
a.対比
本件発明2と引用発明2とを対比すると、それらの発明特定事項は、本件発明1と引用発明1と同様の対応関係を有する。
したがって、本件発明2と引用発明2とは、
[一致点]
「免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在な弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端が接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されている
免震システム。」
である点で一致し、
次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明2は、「弾性部材」が「コイルばねからなる弾性部材」であって、「圧縮材」は、「その一端に案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」のに対し、引用発明2は、「弾性部材」が「定荷重ばねからなる弾性部材」であって、「ケース」はその端部に滑車が取り付けられるものでなく、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷されるものでない点。
[相違点3]
本件発明2は、「圧縮材」が「上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ」「床に固定されている」のに対し、引用発明2は、「ケース」が「上記免震プレートの周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ」「床に固定されている」ものではない点。

b.判断
相違点2について検討するに、上記相違点1の検討結果と同様に、引用発明2並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項から、上記相違点2に係る本件発明2の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明2は、相違点3を検討するまでもなく、引用発明2並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)本件発明3及び10について
本件発明3及び10は、本件発明1の全てを含んだものであるところ、本件発明1は、前記(ア)に記載したとおり、引用発明1並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3及び10も同様に引用発明1並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(エ)本件発明5及び6について
本件発明5及び6は、本件発明2の全てを含んだものであるところ、本件発明2は、前記(イ)に記載したとおり、引用発明2並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明5及び6も同様に引用発明2並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)平成29年7月13日付け訂正請求による特許請求の範囲の請求項4に係る特許に対して平成29年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由について
特許法第36条第6項第2号について
本件訂正により、請求項4が削除されたため、取消理由は解消した。

(3)異議申立人の主張について
異議申立人は、平成29年10月10日の意見書第2ページ第18行ないし第27行において、「3 本件において進歩性の判断において検討されるべきは、あくまでも定荷重ばねについて開示している甲第1号証において、この定荷重ばねをコイルばねに置き換えることが当業者にとって容易に想到できるか否かである。当然ながら、証拠を挙げるまでもなく、定荷重ばねもコイルばねも、ばねの一形態として極めて周知のものであり、ばねを採用するにあたって、これらは適宜選択されるものである。一方で、甲第1号証において、定荷重ばねをコイルばねに置き換えることにつき、阻害するような事情等もない。また、上述したように、コイルばねを採用することによる有利な作用効果も存在しない。」と主張する。
しかしながら、本件発明1と引用発明1との相違点を検討するにあたって、「弾性部材」が、「コイルばね」であるか、「定荷重ばね」であるかだけではなくて、弾性部材と密接に関連し、弾性部材が収納される「圧縮材」(引用発明1における「ケース」に相当。)が「その下端に案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」ものであるかどうかも併せて検討すべきものである。
したがって、「弾性部材」と、弾性部材が収納される「圧縮材」とを切り離して検討した異議申立人の主張を採用することはできない。

(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3、5、6及び10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3、5、6及び10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
免震システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震対象物の地震動を吸収する免震システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より提案されている建築物等の室内の免震床構造としては、例えば、特許文献1に示すように、フレームに複数個のボールベアリングを固定することにより、フレームを床スラブ上に移動自在とした免震床が提案されている。この特許文献1の開示技術では、特に金属パイプの下部においてボールベアリングを配設することにより、地震荷重が作用しても、かかるボールベアリングのころがり摩擦抵抗が小さいので、免震床にはほとんど振動が伝わらない。
【0003】
また、特許文献2に示すように、床材と精密機器等の間に、複数の溝が設けられた上部プレート及び下部プレートを設置し、当該溝内のボールの回転することにより、上部プレートを下部プレート上に移動自在とした免震床が提案されている。この特許文献2の開示技術では、地震荷重が作用しても、溝内のボールのころがり摩擦抵抗が小さいので、上部プレート上の精密機器等にはほとんど振動が伝わらない。
【0004】
特に近年においては、特許文献3に示すように、上面に複数の上向きの凸曲面部が整列して形成された平板状の基台上に、下面が略平坦に形成された平板状の滑走板を設置した免震床も提案されている。このような免震床によれば、大地震が発生した場合において、滑走板が基台上をスムーズに動いて免震性能を発揮させることが可能となる。
【0005】
更に特許文献4においては、免震対象物を滑り面を介して支持部上に滑動自在に支持する滑り免震機構が開示されており、更に免震対象物と支持部との間に復元ばねを設けて、これに予荷重を付与してなる。これにより、免震対象物の水平各方向への変位に追随して水平面内で回転可能な状態となり、復元ばねがない状態と比較して残留変位のみならず残留回転角をも低減させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-317658号公報
【特許文献2】特開2010-127455号公報
【特許文献3】特開2013-91997号公報
【特許文献4】特開2013-64418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献4の開示技術では、復元ばねが内蔵されたケースを免震対象物の周囲に配置する。このとき、当該特許文献4の図1に示すように、当該免震対象物の周囲においてケースを設置するためのスペースを相当分に亘り取る必要が出てくる。その結果、免震機構全体のシステム構成が大掛かりなものとなってしまい、特に狭小スペースにおいて免震対策を施す上で大きな障害となってしまうという問題点もある。
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、弾性部材(復元ばね)を設けることにより、免震性能を大きく損なうことなく残留変位等を可及的に小さくすることで効果的な免震を実現することができ、更にシステム全体の構成をよりコンパクトに纏め上げることにより狭小スペースにおいても免震対策を施すことが可能な免震システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の免震システムは、免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、上記免震対象物を支持する可動部と、上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その下端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷されることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の免震システムは、免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、上記免震対象物を支持する可動部と、上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その一端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷され、更に上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の免震システムは、請求項1記載の発明において、上記弾性部材は、予荷重が予め付加されてなることを特徴とする。
【0012】(削除)
【0013】
請求項5記載の免震システムは、請求項2記載の発明において、上記圧縮材は、上記床の上に固定され、かつ上記可動部が載置される基台上に取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の免震システムは、請求項5記載の発明において、上記圧縮材は、上記床に固定され、かつ上記可動部が載置される基台上に取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の免震システムは、請求項1記載の発明において、上記可動部のほぼ中央に形成された開口に複数の上記圧縮材を設けるとともに、上記各案内機構に向けて延伸されてきた複数本の線材の延伸方向を略一方向に向けて上記圧縮材へ案内してなることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の免震システムは、請求項1記載の発明において、上記可動部は、その略中央において、互いに異なる方向から延伸されてきた、複数本の線材を固定してなることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の免震システムは、請求項8記載の発明において、上記複数本の線材は、一の弾性部材に接続されていることを特徴とする。
【0018】
請求項10記載の免震システムは、請求項1記載の発明において、上記可動部には複数箇所に開口が設けられるとともに、当該各開口に一の圧縮材を設け、上記各案内機構に向けて延伸されてきた2本の線材の延伸方向を略一方向に向けて上記圧縮材へ案内してなり、更に上記複数箇所の開口間で上記案内機構に向けて延伸される線材の延伸方向を互いに異ならせてなることを特徴とする。
【0019】(削除)
【発明の効果】
【0020】
上述した構成からなる本発明によれば、免震性能を大きく損なうことなく残留変位等を可及的に小さくすることで効果的な免震を実現することができ、更にシステム全体の構成をよりコンパクトに纏め上げることにより狭小スペースにおいても免震対策を施すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は、本発明を適用した免震システムの側断面図であり、(b)はその平面図である。
【図2】案内機構の他の例について説明するための図である。
【図3】案内機構としての滑車に対して線材を案内させる例について説明するための図である。
【図4】案内機構について、首振り回転不能な回転車で構成し、弾性部材として定荷重ばねを使用した例を示す図である。
【図5】コイルばねの上端を係止させるための治具について説明するための図である。
【図6】本発明を適用した免震システム全体の平面図である。
【図7】コイルばねの引張荷重に対する伸びの関係を示す図である。
【図8】定荷重ばねの引張荷重に対する伸びの関係を示す図である。
【図9】(a)は、圧縮材として金属板を使用する場合における側面図であり、(b)は、その平面図である。
【図10】可動板の連続体のほぼ中央に貫通穴を設けて複数の免震システムを集約して設ける例について説明するための図である。
【図11】図10の構成の拡大側断面図である。
【図12】圧縮材内部に1本のコイルばねを収納し、圧縮材の下端に案内機構を複数個に亘り設ける例について説明するための図である。
【図13】縮材内部に1本のコイルばねを収納し、圧縮材の下端に案内機構を複数個に亘り設ける例について説明するための他の図である。
【図14】可動板の連続体の各辺から外側に向けて線材を延伸させ、これらを滑車を介して案内させながら、所望の箇所に集約させる構成について説明するための図である。
【図15】圧縮材を壁体に固定するのではなく、床に固定する例について説明するための図である。
【図16】圧縮材を壁体に固定するのではなく、床に固定する例について説明するための他の図である。
【図17】圧縮材を可動板に固定する例について説明するための図である。
【図18】圧縮材を可動板に固定する例について説明するための他の図である。
【図19】実際の免震対象物について本発明を適用することにより免震する構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した免震システムを実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
本発明を適用した免震システム10は、図1に示すように、床1の上面1aに設置された免震床7に設けられた免震対象物について、大地震が発生した場合に免震性能を効果的に発揮させるものである。この免震システム10は、免震床7に接続された線材31と、線材31の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構32と、案内機構32により他の方向に案内された線材に接続されたコイルばね33と、コイルばね33を係止するための棒状体34と、壁体36に固定された圧縮材35とを備えている。
【0024】
免震床7は、略平坦な面上に設置される基台11と、この基台11上に設置される可動板21とを備えている。
【0025】
基台11は、複数の凸曲面部12が、可動板21側に向けて規則的に配置される。基台11は、その材質は金属製からなり、特にステンレスで構成されることが望ましいが、これに限定されるものではなく、ガラス、樹脂等いかなるもので構成されていてもよい。ちなみに、この基台11は、摩擦係数をコントロールするために、或いは防食のために、所定の物性からなる皮膜がコーティングされていてもよい。また、この基台11の表面の摩擦係数の調整は、少なくとも凸曲面部12について、その表層に金属、セラミックス等の硬質材を被せてもよく、また、浸炭処理、ホウ化処理等の表面硬化処理を追加して施すことにより、その表面粗さをコントロールすることにより実現するようにしてもよいことは勿論である。
【0026】
凸曲面部12は、略円形となるように構成されていることが望ましいがこれに限定されるものではない。また、この凸曲面部12は、平面視において縦横に規則的に整列させてもよいが、これに限定されるものではなく、千鳥状に形成するようにしてもよい。また、凸曲面部12は、不規則に形成することもできるし、大きさの異なる凸曲面部12を規則的に配列して形成することもできる。なお本発明によれば基台11において凸曲面部12が形成されていることは必須ではなく、これらの構成を省略するようにしてもよい。また、本発明によれば特にこの基台11については必須の構成要素ではなく、これを省略するようにしてもよい。
【0027】
可動板21は、免震対象物が載置される。可動板21は、免震対象物を支持するものであればいかなる形態で構成されていてもよい。可動板21は、大地震が発生した場合に、載置される基台11に対して自在に可動することが可能である。この可動板21は、その材質を金属、ガラス、樹脂等としてもよく、その表層のみにステンレスを用いてもよい。ちなみに、基台11の構成を省略する場合には、この可動板21を床1に対して直接載置することとなる。可動板21には、線材31が設けられている。この可動板21の表面は、かかる線材31の一端を接続するための接続部材41が設けられている。この接続部材41は線材31を挿通可能な図示しない貫通孔が形成されてなり、当該図示しない貫通孔を貫通した線材31の他端には、当該貫通孔よりも径大とされた定着部材42が取り付けられている。このため、線材31に対して引張応力が負荷された場合においても、この定着部材42並びにこれに当接される接続部材41を介して、当該引張応力に追従して可動板21を引張方向に可動させることができる。なお、線材31と可動板21の接続方法は、上述した方法に限定されるものではなく、他のいかなる方法により接続されるものであってもよい。
【0028】
線材31は、ワイヤー、ロープ、紐等、あらゆる線状体で構成されてなり、その一端は、上述したように可動板21に接続される。また線材31は案内機構32を介してその延伸方向が案内され、他端がコイルばね33に接続されている。
【0029】
案内機構32は、例えば動滑車等で構成され、圧縮材35の下端に設けられている。案内機構32は、線材31の延伸方向を他の方向に向けて案内させる役割を担う。図1の例において、案内機構32は、ほぼ水平方向から延伸されてきた線材を壁体36に沿ってほぼ鉛直方向に向けて案内しているがこれに限定されるものではなく、他の水平方向(例えば図1でいうところの紙面奥行き方向)に向けて案内するようにしてもよい。
【0030】
図2は、案内機構32の他の例を示している。この案内機構32は、平面視で首振り回転自在な首振滑車であり、滑車321と滑車321が取り付けられる回転部322とを有している。ちなみに、滑車321は、その周方向に沿って溝が設けられてなり、線材31が滑車321から逸脱するのを防止可能となる。
【0031】
このような首振滑車からなる案内機構32により、可動板21の様々な水平方向の動きにより、線材31からの引張方向が地震により変動する場合においても、これに追従して回転部322が回転することが可能となる。
【0032】
また、案内機構32では、図3(a)に示すように、滑車321に対して線材31を巻回すことなく単にこれに当接させるのみで案内させるようにしてもよいし、図3(b)に示すように、滑車321に対して線材31を1回以上に亘り巻回させるようにしてもよい。滑車321に対して線材31を1回以上巻回させることにより、線材31が滑車321から外れてしまうのをより強固に防止することができ、しかも線材31からの引張方向が地震により変動する場合においても、これに対してしっかりと追従することが可能となる。
【0033】
図4の例では、この案内機構32について、平面視で首振り回転不能な回転車325で構成した例を示している。回転車325は、その中心軸326が軸方向外側に向けて突出されている。この回転車325は、軸方向両端に立設された縁部327に挟持されており、更にこの縁部327には中心軸326を挿通させるための図示しない孔部が設けられている。即ち、中心軸326はその図示しない孔部を介して縁部327に設けられている。このため、回転車325は、この縁部327に設けられた中心軸を回転軸として回転自在に構成されている。このような回転車325に線材31を案内させることにより、線材31に引張応力が負荷された場合に当該回転車325を自在に回転させることが可能となる。このとき線材31は、図4中の点線で記載されているように、回転車325上を移動自在とされている。地震時において線材31が様々な方向に引っ張られた場合においても、この回転車325上を移動することにより、これに追従することが可能となる。
【0034】
なお、この案内機構としては、これら滑車以外に低摩擦丸棒を使用してもよく、かかる場合には、この低摩擦丸棒の表面に四フッ化エチレン、ポリアセタール、ポリエチレン等を形成させておくようにしてもよい。
【0035】
コイルばね33は、引張応力が負荷された場合に、弾性変形自在な弾性部材である。このコイルばね33の代替として、例えばゴム等を始めとした他のいかなる弾性材料、部材を用いるようにしてもよい。このコイルばね33の代替として、後述する定荷重ばねを用いるようにしてもよい。
【0036】
コイルばね33は、棒状体34に係止されて鉛直方向に吊り下げられてなり、その下端には、鉛直上向きに延長されてきた線材31が接続されている。コイルばね33は、この線材31を介して鉛直下向きの引張応力が負荷された場合において、当該鉛直方向に向けて弾性変形することとなる。なおコイルばね33は、大地震が発生していない、いわゆる静止状態において、予め予荷重が負荷された状態とされていてもよい。
【0037】
圧縮材35は、図1の例によれば壁体36に対して固定されているが、これに限定されるものではなく、地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されていてもよい。地盤と一体挙動する構造物とは、例えば地盤上に建造された建築構造物やその床や天井、壁等である。これらは、最終的には何れも地盤に対して接続されて地盤と一体挙動するものであるため、圧縮材35は、これらに対して固定されるものであってもよい。
また免震対象物が建築構造物自体の場合もありえるが、かかる場合には、圧縮材35を地盤に直接固定することが多い。
【0038】
圧縮材35の壁体36への固定方法としては、圧縮材35に接合されたプレート43を壁体36の壁面において接合するようにしてもよい。プレート43の壁体36への接合方法としては、例えばボルトにより固定するようにしてもよい。ちなみにこのプレート43は、床1の上面1aにまで到達し、更に当該上面1aと平行となるようにL字状に折り曲げられた折曲げ部43aが形成されていてもよい。かかる場合には、このL字状の折曲げ部43aから床1に対してボルト等により固定されることとなる。
【0039】
圧縮材35は、例えば断面矩形状又は断面円形状の金属製の管体で構成されている。この金属製の管体の内部に、コイルばね33が収納されている。圧縮材35の下端には、案内機構32が取り付けられている。また圧縮材35の上部又は圧縮材35の上端よりも上方には、コイルばね33の固定端に相当する棒状体34が設けられる。この棒状体34は、例えば圧縮材35を構成する金属管に図示しない貫通孔を設け、これに挿通させることで固定するようにしてもよい。
【0040】
なお、圧縮材35に設けられる棒状体34に、このコイルばね33の上端を係止させる場合には、例えば図5に示すような治具51を用いるようにしてもよい。この治具51は、梃子の原理を利用したものであり、長手方向に延長された把持棒54の先端に位置する作用点に、回動自在に吊り下げられたフック52と、この作用点の近傍に設けられた凸部53とを有している。この治具51における凸部53を、圧縮材35を構成する金属管の上端に載置し、フック52にコイルばね33の上端を係止させた状態で、この把持棒54の作用点とは反対側の力点を下方に向けて押す。これにより、支点を構成する凸部53を介して梃子の原理によりコイルばね33が上方に引き上げられていく。このようにして上方にコイルバネ33を引き上げた後、棒状体34を圧縮材35の図示しない貫通孔に貫通させてこれにコイルばね33を係止させることとなる。
【0041】
図6は、本発明を適用した免震システム10全体の平面図を示している。可動板21が規則的に連続して全体として一枚の床を構成している。この可動板21の連続体の周囲には、上述した免震システム10が配置されている。この図5の例によれば、可動板21の連続体が矩形状とされており、これらの各辺に対して直交する方向に向けて線材31が延伸されている。即ち、この可動板21の連続体は、各線材31の延伸方向で見た場合において、それぞれ両側に免震システム10が設けられている構成となっている。換言すれば、仮にコイルばね33について予め予荷重が負荷された状態で、可動板21の連続体が静止している場合には、当該可動板21の連続体が線材31を介して両側から引っ張られて吊り合っている状態にある。
【0042】
次に、本発明を適用した免震システム10の動作について説明をする。地震時には、免震対象物を支持する可動板21が、基台11上を水平各方向に滑動する。特に大地震が発生した場合には、可動板21には過大変位が負荷される場合もあるが、当該可動板21は、線材31を介してコイルバネ33につながっている。過大変位に応じてコイルばね33には引張応力が負荷される結果、当該コイルばね33が圧縮材35の内部において延伸する。このコイルばね33の延伸に応じて、図1に示すように棒状体34と案内機構32との間において互いに圧縮応力が作用することとなる。この圧縮応力によりコイルばね33の延伸に対して対抗することが可能となる。その結果、コイルばね33が伸びきってしまうのを抑えることができることから、コイルばね33から線材31を介して接続されている可動板21の過大変位を拘束して元の位置に復元させるように作用させることが可能となる。
【0043】
しかも地震は、一方向のみの変位ではなく、双方向に向けた振動であるが、可動板21の両側に免震システム10が設けられているため、可動板21が一方に変位した場合には、これと反対側のコイルばね33からの復元力を作用させることができ、可動板21が他方に変位した場合には、これと反対側のコイルばね33からの復元力を作用させることが可能となる。これらの動作が繰り返し実行されることにより、可動板21の振動による変位が徐々に吸収されていくこととなる。
【0044】
特に本発明によれば、図6に示すように可動板21の連続体の周囲に免震システム10を設けることにより、地震による振動方向がいかなるものであっても、当該振動方向に配置されている免震システム10が作動することにより、これらの振動を吸収することが可能となる。
【0045】
このとき、コイルばね33において、地震が発生していない静止状態において、予め予荷重が負荷された状態とされていることにより、そのコイルばね33による復元力を効果的に発揮させることが可能となる。即ち、コイルバネ33に予荷重が負荷されていない場合には、可動板21が一方に変位した場合には、これと反対側のコイルばね33からの復元力はそれほど大きなものではない。これに対して、予めコイルばね33が引っ張られている状態の下で、更に可動板21が一方に変位した場合には、コイルばね33の復元力を更に増強させることが可能となり、可動板21の過大変位を拘束して元の位置に復元させるように作用させることが可能となる。また、本発明によれば、案内機構32を介して延伸方向を折り曲げることにより、本システムを設ける上で特段広い面積が必要とならない。即ち、本発明によれば、システム全体の構成をよりコンパクトに纏め上げることにより狭小スペースにおいても免震対策を施すことが可能となる
【0046】
また、本発明によれば、線形弾性変形するコイルばね33の代替として、定荷重ばね331を用いるようにしてもよい。定荷重ばね331は、例えば図4に示すようにボックス332の中に収納されていてもよい。定荷重ばね331に対して線材31を介して下向きに荷重が作用した場合に、ボックス332から定荷重ばね331が引き出されて延伸されていくこととなる。線材31からの荷重が無負荷状態となれば、定荷重ばね331がボックス332内に収納される方向に働くこととなる。この過程で、定荷重ばね331から線材31に負荷される荷重は一定となる。
【0047】
図7は、コイルばね33の引張荷重に対する伸びの関係を示している。引張荷重に対して伸びが線形に増加していることが示されている。これに対して図8は、定荷重ばね331の引張荷重に対する伸びの関係を示している。平常時では引張荷重に対して伸びが急激に増加し、地震時には、伸びに対して荷重が常に一定となる。
【0048】
このような定荷重ばね331を用いることにより、可動板21には一定荷重に基づく復元力が作用することとなり、振動除去の観点から好適なものとなる。
【0049】
本発明を適用した免震システム10は、更に図9に示すような形態に具現化されるものであってもよい。図1の形態では、圧縮材35として金属製の管体を利用し、その中にコイルばね33を収納するものであるのに対して、この図9の形態では、圧縮材35´として、金属板を利用している。図9(a)は、かかる圧縮材35´として金属板を使用する場合における側面図であり、図9(b)は、その平面図を示している。圧縮材35´は、2枚の金属板を互いに対抗させることで配置する。また圧縮材35´の周囲には、コイルばね33が巻回されて設けられている。即ち、このコイルばね33の中に2枚の金属板からなる圧縮材35´が収納されている形態となる。圧縮材35´には1又は複数段に亘って棒状体34を挿通させるための小孔が穿設されている。また、このコイルばね33を圧縮材35´に固定する際には、この小孔の何れかに挿入された棒状体34にコイルバネ33の上端のフックを係止することにより行う。また圧縮材35´を構成する2枚の金属板の間には、案内機構32が配設される。この案内機構32は、例えば滑車で構成されている場合、圧縮材35´を構成する2枚の金属板に滑車の回転軸を挿通させることで、これを回転自在に配置することが可能となる。このような滑車としての案内機構32に線材31はその延伸方向が案内され、他端がコイルばね33に接続されることとなる。
【0050】
このような圧縮材35´を用いる場合においても、コイルばね33の延伸に応じて、図1に示すように棒状体34と案内機構32との間において互いに圧縮応力を作用させることが可能となり、当該圧縮応力によりコイルばね33の延伸に対して対抗することが可能となる。
【0051】
図10は、本発明を適用した免震システム10の他の構成例を示している。この例では、可動板21の連続体のほぼ中央に貫通穴61を設ける。貫通穴61を介して露出する床1の上にはベースプレート62が固定される。このベースプレート62には、複数の免震システム10が集約されて設けられている。即ち、このベースプレート62には複数の圧縮材35が互いに近接されて、或いは互いに接触させた状態で固定される。このため、この圧縮材35は、地盤に対して固定されている状態といえる。なお、この例においては、複数本の線材31が延伸されているものであればよい。
【0052】
図11に示す断面図に示すように、各圧縮材35には、内部にコイルばね33を収納し、その上端が棒状体34を介して係止される。圧縮材35の下端には、同様に案内機構32が設けられている。各圧縮材35内のコイルばね33に接続される線材31は、延伸方向が互いに異なる方向とされている。図10に示す例では、線材31の延伸方向は互いに90°間隔となるように調整されている。この線材31の他端は、定着部材42並びに接続部材41を介して可動板21に固定される。即ち、この線材31の一端側は、地盤につながる圧縮材35に、他端側は、可動板21に接続される。
【0053】
このような構成においても、地震が発生した場合に、同様のメカニズムにより可動板21の過大変位を拘束して元の位置に復元させるように作用させることが可能となる。特に図10に示す例では、4つの圧縮材35をほぼ中央に集約して配置し、当該圧縮材35から互いに90°間隔で線材31が外側に向けて延伸されている。このため、地震時における振動があらゆる方向のものであっても、これに応じた延伸方向の線材31につながるコイルばね33を介して振動を吸収することが可能となる。なお、この線材31は少なくとも互いに異なる2方向に向けて延伸されていればよい。
【0054】
図12に示す例は、図10の変形形態であるが、可動板21には複数箇所に開口61が設けられるとともに、当該各開口61に一の圧縮材35を設け、各案内機構32に向けて延伸されてきた2本の線材31の延伸方向を略一方向に向けて圧縮材35へ案内する。複数箇所の開口61間で案内機構32に向けて延伸される線材31の延伸方向を互いに異ならせる。図12の例では、一の圧縮材35に連続する2本の線材31のなす角度は180°とされている。一の開口61における2本の線材31と、他の開口61における2本の線材31との間でなす角度は互いに異なるものとされている。貫通穴61を介して露出する床1の上にはベースプレート62が固定される。このベースプレート62には、図13の断面図に示すように1つの圧縮材35が固定される。この圧縮材35は、内部に1本のコイルばね33を収納し、その上端が棒状体34を介して係止される。圧縮材35の下端には、案内機構32が複数個に亘り設けられている。コイルばね33の下端のフックには複数本の線材31が取り付けられており、各線材31が互いに異なる案内機構32により案内されることとなる。その結果、線材31は互いに異なる延伸方向となるように、案内機構32を介して案内することが可能となる。各線材31の他端は、同様に可動板21に接続される。線材31の延伸方向のなす角度は直交方向とされていることが理想ではあるが、同一方向でなければよい。
【0055】
かかる構成によれば、地震が発生した場合において一方の線材31から引張応力が負荷された場合に、他方の線材31は常に撓むこととなる。このため、コイルばね33を複数の線材31間で共有しても特段の問題は生じないこととなる。また、1本の圧縮材35に対して4本の線材31が互いに異なる方向に延伸されていれば、地震後において原点に復帰するが、これに限定されるものではなく、1本のコイルばね33又は定荷重ばね331に2本の線材31がつながるものであってもよい。かかる場合において、可動板21が原点復帰する最低限の条件は、少なくとも平面的に分散した2箇所から、1つのコイルばね33又は定荷重ばね331に線材31を介して繋がれていることである。このとき、当該2箇所からの2本の線材31のなす角度は、互いに異なるものであれば良いが、180°であってもよいし望ましくは90°とされていてもよい。
【0056】
また図14の例では、可動板21の連続体の各辺から外側に向けて線材31を延伸させ、これらを滑車71を介して案内させながら、所望の箇所に集約させる構成である。実際に線材31は、可動板21の連続体の周囲を伝いながら所望の箇所に向けて案内されることとなる。一箇所に集約させた線材31については、図11又は図13の何れかの方法で圧縮材35に取り付けられる。これにより、上述と同様の作用効果を発揮させることが可能となる。この図14の例において可動板21が原点復帰する最低限の条件は、案内機構32を介して少なくとも外周に3箇所(図14の例では4箇所となっている)に、1つのコイルばね33又は定荷重ばね331に線材31が3本(図14の例では4本となっている)が繋がれていることが前提となる。可動板21を介して対向している両辺にそれぞれ固定される線材31同士が互いに180°異なる方向に延伸していることが望ましい。コイルバネ33等に予荷重が負荷されていてもよいし、負荷されていなくてもよい。また可動板21において互いに直交している辺にそれぞれ固定される線材31同士は、互いに90°異なる方向に延伸していることが望ましい。
【0057】
図15、16に示す例では、圧縮材35を壁体36に固定するのではなく、床1に固定する例を示している。この図15の形態において、上述した図1と同一の構成要素、部材に関しては同一の符号を付すことにより、以下での説明を省略する。
【0058】
圧縮材35は、水平に寝かせた状態で床1に固定される。このとき、圧縮材35の端部に設けられた取付用プレート43bを床1上に例えばボルト等により接合することで、当該圧縮材35を固定することが可能となる。可動板21の辺に対して略垂直方向に延伸されてきた線材31は、案内機構32を介して延伸方向が折り曲げられ、可動板21の辺と平行方向になるように案内される。圧縮材35に内蔵されたコイルばね33も可動板21の辺と平行方向において伸縮自在となるように配置され、案内機構32を介して案内されてきた線材31がこれに接続される。これにより、上述と同様の作用効果を発揮させることが可能となる。なお、かかる例においても同様に、図9に示すようなコイルばね33の内部に圧縮材35を内蔵する形態を採用するようにしてもよいことは勿論である。
【0059】
なお、圧縮材35は床1に固定される場合に限定されるものではない。例えば、可動板21を基台11上に載置する場合には、圧縮材35もその基台11上に固定するものであってもよい。この基台11は、床1ひいては地盤に固定されているため、圧縮材35も地盤に固定されているものとみなすことができる。
【0060】
図17、18の例では、圧縮材35を可動板21に固定する例を示している。可動板21のほぼ中央の表面において複数の圧縮材35を固定し、各圧縮材35に取り付けられるコイルバネ33から線材31を延伸させる。線材31は互いに異なる方向に向けて延伸され、例えば90°間隔で互いに直交する方向としてもよい。
【0061】
この図17の例では、案内機構32を圧縮材35に設けるようにしてもよいが、それ以外には、可動板21の連続体の周端において案内機構32を設けるようにしてもよい。この案内機構32は、地震時における可動板21の変位モードによる捩れに対しても対応できるように、首振り機能の付いた首振滑車を用いるようにしてもよい。この案内機構32により案内された線材31の周端は、壁体36又は床1に取り付けられている。
【0062】
かかる形態においても、コイルばね33の延伸に応じて、図18に示すように圧縮材35と案内機構32との間において互いに圧縮応力を作用させることが可能となり、当該圧縮応力によりコイルばね33の延伸に対して対抗することが可能となる。また、圧縮材35を可動板21に固定するものであったとしても、同様に地震による振動を吸収することが可能となる。
【0063】
また図19は、免震対象物90について実際に本発明を適用することにより免震する構成を示している。免震対象物90を移動自在なキャスター96を下部に配設した車両98上に載置する。この車両98には、ボックス91内において収納された定荷重ばね92が設けられている。この定荷重ばね92の下端には線材31が取り付けられている。線材31は、複数本取り付けられていてもよく、かかる場合には図19に示すように案内機構32を介して線材31を交差させつつ案内し、その終端を床1に固定するようにしてもよい。
【0064】
地震により、免震対象物90を載置した車両98は図中左右に変位することになるが、その左右の変位に応じて線材31が引っ張られ、定荷重ばね92が引き出されることとなる。かかる場合においても図4と同様のメカニズムに基づいて同様の作用効果を発揮させることが可能となる。特にこの図19の構成によれば、2本の線材31を互いに逆方向に向かって延伸しているため、復元力をより強化することが可能となる。 さらに本発明によれば、圧縮材35が、壁体36内、又は床1内に内蔵されるものであってもよい。この圧縮材35には、上述と同様に案内機構32が設けられている。これら圧縮材35や案内機構32の構成は、何れも壁体36内、又は床1内に内蔵されるものであるから、この案内機構32につながる線材31を壁体36外、又は床1外に延伸するための長孔が当該壁体36又は床1に設けられていてもよい。線材31を外部に出すための孔を長孔とすることにより、地震による捩れや揺らぎが作用した場合においても、その長孔内において線材31が移動することが可能となるため、捩れ等に追従することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1 床
7 免震床
10 免震システム
11 基台
12 凸曲面部
21 可動板
31 線材
32 案内機構
33 コイルばね
34 棒状体
35 圧縮材
36 壁体
41 接続部材
42 定着部材
43 プレート
51 治具
52 フック
53 凸部
54 把持棒
61 貫通穴
62 ベースプレート
71 滑車
90 免震対象物
91 ボックス
92、331 定荷重ばね
96 キャスター
98 車両
321 滑車
322 回転部
325 回転車
326 中心軸
327 縁部
332 ボックス
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その下端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷されること
を特徴とする免震システム。
【請求項2】
免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その一端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷され、更に上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていること
を特徴とする免震システム。
【請求項3】
上記弾性部材は、予荷重が予め付加されてなること
を特徴とする請求項1項記載の免震システム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
上記圧縮材は、上記可動部が載置される床若しくは基台に、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて固定されていること
を特徴とする請求項2記載の免震システム。
【請求項6】
上記圧縮材は、上記床に固定され、かつ上記可動部が載置される基台上に取り付けられていること
を特徴とする請求項5項記載の免震システム。
【請求項7】
上記可動部のほぼ中央に形成された開口に複数の上記圧縮材を設けるとともに、上記各案内機構に向けて延伸されてきた複数本の線材の延伸方向を略一方向に向けて上記圧縮材へ案内してなること
を特徴とする請求項1記載の免震システム。
【請求項8】
上記可動部は、その略中央において、互いに異なる方向から延伸されてきた、複数本の線材を固定してなること
を特徴とする請求項1記載の免震システム。
【請求項9】
上記複数本の線材は、一の弾性部材に接続されていること
を特徴とする請求項8記載の免震システム。
【請求項10】
上記可動部には複数箇所に開口が設けられるとともに、当該各開口に一の圧縮材を設け、上記各案内機構に向けて延伸されてきた2本の線材の延伸方向を略一方向に向けて上記圧縮材へ案内してなり、
更に上記複数箇所の開口間で上記案内機構に向けて延伸される線材の延伸方向を互いに異ならせてなること
を特徴とする請求項1記載の免震システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-16 
出願番号 特願2014-150232(P2014-150232)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (F16F)
P 1 652・ 854- YAA (F16F)
P 1 652・ 857- YAA (F16F)
P 1 652・ 852- YAA (F16F)
P 1 652・ 841- YAA (F16F)
P 1 652・ 121- YAA (F16F)
P 1 652・ 853- YAA (F16F)
P 1 652・ 851- YAA (F16F)
P 1 652・ 855- YAA (F16F)
P 1 652・ 856- YAA (F16F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 保田 亨介  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 小関 峰夫
中川 隆司
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5980851号(P5980851)
権利者 アイディールブレーン株式会社
発明の名称 免震システム  
代理人 安彦 元  
代理人 安彦 元  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ