ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B65D 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B65D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B65D |
---|---|
管理番号 | 1340105 |
異議申立番号 | 異議2017-700398 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-04-20 |
確定日 | 2018-03-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6012804号発明「缶体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6012804号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。 特許第6012804号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6012804号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年3月31日に特許出願され、平成28年9月30日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議の申立期間内である平成29年4月20日に特許異議申立人横山佳孝(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)がされ、本件訂正請求に対して申立人から同年10月24日付けで意見書が提出され、同年12月14日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成30年1月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成30年1月18日に提出された手続補正書により補正された、本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「B=L+Y2-Y1を定義し」とあるのを、「B=L+Y1-Y2を定義し」に訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の段落0009に「B=L+Y2-Y1を定義し」とあるのを、「B=L+Y1-Y2を定義し」に訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の段落0023に 「α=(A+B)・E/Z 但し、 0<L<Y2の場合、 A=X・(L+Y1-Y2)/Y1,B=L+Y2-Y1 L≧Y2の場合、 A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,B=L+Y1-Y2」とあるのを、 「α=(A+B)・E/Z 但し、 0<L<Y2の場合、 A=X・(L+Y1-Y2)/Y1,B=L+Y1-Y2 L≧Y2の場合、 A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,B=L+Y1-Y2」に訂正する。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、上記補正により削除された。 (5)訂正事項5 訂正事項5は、上記補正により削除された。 (6)訂正事項6 明細書の段落0032の表4について、「L≧Y2」、「0<L<Y2」の両欄を削除する。また、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の欄に「2.22」とあるのを「2.23」に訂正する。 (7)訂正事項7 明細書の段落0033の表5について、「L≧Y2」、「0<L<Y2」の両欄を削除する。 (8)訂正事項8 明細書の段落0037に 「表4に示す評価指数αの値で、成形高さが2.85mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.6mmの範囲で全て0<L<Y2となり、評価指数αは1.66?2.23となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.89?2.23であった。」とあるのを、 「表4に示す評価指数αの値で、成形高さが2.85mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.4mmの範囲で全て0<L<Y2となり、d0=47.6mmでは、L≧Y2(L=2.60,Y2=2.58)となり、評価指数αは1.66?2.22となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.89?2.22であった。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項 (1)訂正事項1?3について 本件発明は、「上段の缶体における缶底の脚部が、その下段の缶体におけるタブ先端と缶蓋表面との隙間に入り込み、てこの作用でタブを持ち上げて不意の開口が発生してしまう問題」の解決を課題とするものであるから(段落0005)、0<L<Y2の場合には、上段の缶体1の脚部31内側のうち、凹部32の底部dと下端cとの間の部分に下段の缶体1におけるタブ21の先端fが接触し、L≧Y2の場合には上段の缶体1の脚部31内側のうち、凹部32の底部dまたはそれより上方の部分に下段の缶体1におけるタブ21の先端fが接触するものと解することができる。 また、本件発明は、「タブ21の先端fより下ろした垂線と缶蓋2の表面との交差部eから缶蓋2のシーミングパネル22の頂部gまでの距離Eと脚部31の接地部aと脚部31の外側に連接する缶胴4の下端bまでの距離Zとの関係が、E<Zの関係にあることを前提条件とする。」ものである(段落0018)。 そして、本件発明は、「積み重ねられた上段の缶体1がバランスを崩した場合に、下段の缶体1におけるタブ21の先端fが上段の缶体1の脚部31内側のどの辺りに接触するかを仮想的に評価するための値」として、「L=D・cos(θ1-θ2)」を定義するものである(段落0019?0021)。 さらに、本件発明は、この値Lを用い、0<L<Y2の場合とL≧Y2の場合で区分して、缶蓋2と缶底3との寸法関係によって不意の開口が発生し易いことを評価する評価指数α=(A+B)・E/Zを定義し、評価指数αの値が大きい程、不意開口の発生が起こり易いと評価するものであるするものである(段落0022?0024)。 ここで、 L≧Y2の場合、 「 A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,B=L+Y1-Y2」とされている(請求項2、段落0023)。 そして、下段の缶体の缶蓋近傍を示す図1と、上段の缶体の缶底近傍を示す図2とを重ねて「L=D・cos(θ1-θ2)」を書き込むと、下記の図のようになることが看て取れる。 また、Y1、Y2については、図3において次のように示されている。 これらのことから、L≧Y2の場合において、Bの意味は、「積み重ねられた上段の缶体1がバランスを崩した場合に、下段の缶体1におけるタブ21の先端fが上段の缶体1の脚部31内側のどの辺りに接触するかを仮想的に評価するための値」である「L」から、脚部31の接地部aから凹部32の下端cまでの高さである「Y2-Y1」を引いたもの、すなわちL-(Y2-Y1)=L+Y1-Y2」であり、タブ21の先端fが脚部31の凹部23の下端cからどれだけ上方に接触するかを仮想的に評価するものであることが明らかである。 そして、0<L<Y2の場合のBも、同じ「B」という記号を使っていることから、「L≧L2の場合」と同様に、タブ21の先端fが脚部31の凹部32の下端cからどれだけ上方に接触するかを仮想的に評価するものであると考えるのが自然である。 平成30年1月18日付け意見書に特許権者が掲載した下記の図は、このことを図示したものと解される。 さらに、0<L<Y2の場合にB=L+Y2-Y1であることは、評価指数α=(A+B)・E/Zにおいて、0<L<Y2の場合にB=L+Y2-Y1とすれば、段落0027の表1のE、段落0029の表2のZ、段落0030の表3のX、Y1、Y2をもとに評価指数αを計算すると、段落0032の表4、段落0033の表5のとおりとなることからも、裏付けられる。 よって、訂正事項1?3における「B=L+Y2-Y1」を「B=L+Y1-Y2」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に規定する誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。そして、訂正事項1?3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項6について ア.訂正前の明細書の段落0032の表4では、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」が、「0<L<Y2」の欄に区分されている。 しかし、当該表4は、サンプルAについての評価指数αの算出結果を示すものであって(段落0031)、サンプルAにおいてL=2.60(段落0027)である。Y2は段落0030の表3に示されるとおりのものであって、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の場合は、Y2=2.58である。 そうすると、L≧Y2となるサンプルAにおいて「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の場合が、0<L<Y2の欄に区分されることは、表4の記載を不明瞭にするものといえる。 よって、訂正事項6における「L≧Y2」、「0<L<Y2」の両欄を削除する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 イ.訂正前の明細書の段落0032の表4では、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の欄には、「2.23」とある。 しかし、該表4は、サンプルAについての評価指数αの算出結果を示すものであって(段落0031)、サンプルAにおいてE=11.56、L=2.60(段落0027)、Z=12.38(段落0029)である。X、Y1、Y2は段落0030の表3に示されるとおりのものであって、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の場合は、X=0.66、Y1=1.71、Y2=2.58である。 そうすると、サンプルAにおいて、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の場合は、L≧Y2であって、その評価指数αの正しい算出結果は、 α=(A+B)・E/Z ={X・(Y1+Y2-L)/Y1+(L+Y1-Y2)}・E/Z ={0.66・(1.71+2.58-2.60)/1.71+(2.60+1.71-2.58)} ・11.56/12.38 =2.224 ≒2.22 であることが明らかである。 よって、訂正事項6における「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の欄に「2.22」とあるのを「2.23」に訂正する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 ウ.そして、訂正事項6は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項7について 訂正事項7は、段落0033の表5の記載様式を訂正後の段落0032の表4の様式に合わせることで記載を明瞭にするものであり、実質的な内容の変更を含まない。よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項8について 訂正事項8は、段落0037の記載を訂正事項6の訂正内容と整合させることで記載を明瞭にするものであり、実質的な内容の変更を含まない。よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (5)一群の請求項 訂正事項2、3、6?8による明細書の訂正は、請求項1、2の全てに関連する訂正であるところ、請求項1、2の全てに対して請求されたものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 3.小括 以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1及び2について訂正を認める。 4.申立人の意見について (1)訂正事項1?3について 平成29年10月24日付け意見書において申立人は、訂正請求書において請求人が主張するBの定義は、本件明細書には全く存在していない旨を主張する。しかし、上記2.(1)のとおり、0<Y2<Lの場合においてもB=L+Y1-Y2であることは明らかである。 また、同意見書において申立人は、訂正事項1はBの定義を変更するものであって、特許請求の範囲を実質上変更したものであると主張する。しかし、訂正事項1が特許請求の範囲を実質上変更するものとはいえないことは、上記2.(1)に示したとおりである。 (2)訂正事項6、7について 同意見書において申立人は、訂正事項6、7が何を意図し、どのような意味を有しているのか不明であること、そもそも表4、5の意味するところがまったく不明である旨を主張する。 しかし、上記2.(2)ア.で示したとおり、訂正前の明細書の段落0032の表4では、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」が、「0<L<Y2」の欄に区分されているが、この場合は「0<L<Y2」ではないことが明らかであるから、「L≧Y2」、「0<L<Y2」の両欄を削除する訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、上記2.(2)イ.で示したとおり、訂正前の明細書の段落0032の表4に「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の欄で「2.22」とあるのが正しくは「2.23」であることも明らかであり、上記2.(3)で示したとおり、訂正事項7は、段落0033の表5の記載様式を訂正後の段落0032の表4の様式に合わせることで記載を明瞭にするものである。 (3)訂正事項8について 同意見書において申立人は、訂正事項8が本件明細書のどこに根拠があるのか不明である旨を主張する。しかし、訂正事項8は、段落0037の記載を訂正事項6の訂正内容と整合させることで記載を明瞭にするものであり、訂正事項6の訂正の根拠は上記2.(2)で示したとおりである。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 上記第2.のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 開口用のタブを備える缶蓋と、中央を内側に凹ませるドーム部と該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する脚部とを備える缶底を具備し、前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部を設けた缶体であって、 E<Zの条件で下記式、 L=D・cos(θ1-θ2), A=X・(L+Y1-Y2)/Y1, B=L+Y1-Y2を定義し、 0<L<Y2の場合に、 (A+B)・E/Z<1.88を満たすことを特徴とする缶体。 式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、 E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、 θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、 Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、 θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、 Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、 Y2:前記底部と前記接地部までの距離、 X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、 をそれぞれ示す。 【請求項2】 開口用のタブを備える缶蓋と、中央を内側に凹ませるドーム部と該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する脚部とを備える缶底を具備し、前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部を設けた缶体であって、 E<Zの条件で下記式、 L=D・cos(θ1-θ2), A=X・(Y1+Y2-L)/Y1, B=L+Y1-Y2を定義し、 L≧Y2の場合に、 (A+B)・E/Z<1.85を満たすことを特徴とする缶体。 式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、 E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、 θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、 Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、 θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、 Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、 Y2:前記底部と前記接地部までの距離、 X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、 をそれぞれ示す。」 2.取消理由の概要 本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成29年6月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 なお、特許異議申立書に記載された申立理由は、すべて通知した。 以下、甲第1号証等を「甲1」等と、甲1に記載された発明等を「甲1発明」等、甲1に記載された事項等を「甲1事項」等という。 (1)取消理由1 本件特許の明細書には、下記ア.?ウ.の不備が見られるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。またこのため、発明の課題をどのように解決でき、発明の詳細な説明に記載された具体例からどのように請求項1及び2に係る発明まで拡張ないし一般化できるのかを当業者が理解することができないから、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ア.段落0027の表1及び段落0029の表2におけるD、E、θ1、θ2の値は、段落0020における「L=D・cos(θ1-θ2)」の関係を満たしていない。 イ.段落0032の表4及び段落0033の表5における評価指数αの数値は、段落0027の表1、段落0029の表2及び段落0030の表3の数値と段落0023の数式に沿って計算される数値と整合しない。 ウ.本件発明1及び2は、評価指数αの下限値が定められておらず、その下限値がどの程度のものまで本件発明1及び2に含まれるのかが不明である。 エ.缶蓋の湾曲の度合いは缶体の内圧、缶蓋の材料や板厚、缶蓋の直径等により変化するが、本件発明1及び2では缶体の内圧、缶蓋の材料や板厚、缶蓋の直径等が定められておらず、どのように課題が解決できるのかが当業者には認識できない。 (2)取消理由2 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲1発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 甲1:実願昭57-74169号(実開昭58-177325号公報)のマイクロフィルム 甲2:特開2014-54999号公報 甲3:実用新案登録第2577010号公報 甲4:特開平1-182246号公報 3.判断 (1)取消理由1について ア.上記2.(1)ア.及びイ.については、上記第2.のとおり本件訂正が認められることにより、これらの不備は解消された。 イ.上記2.(1)ウ.について、評価指数α=(A+B)・E/Zの値は、タブ21の先端fから缶蓋2の表面(交差部e)までの距離Dに比例する値Lが大きい程、大きな値になり、不意開口の発生が起こり易いものである(段落0024参照)。よって、その値が小さいほど、缶体1の脚部31内側がタブ21の先端fの下に入り込みにくく、不意の開口が起こり難いものであるから、評価指数αの下限値を定める必要がないことは明らかである。 ウ.上記2.(1)エ.について、本件発明1、2は、耐内圧強度を高めるために設けた「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」によってタブ先端と缶蓋表面との隙間に脚部が入り込み易くなり、発生し易くなる不意の開口を抑止するものである(段落0005?0007参照)。よって、「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」によってタブ先端と缶蓋表面との隙間に脚部が入り込み易くなる程度を考慮すればよく、必ずしも缶蓋の湾曲の度合いを変化させる缶体の内圧、缶蓋の材料や板厚、缶蓋の直径等を考慮する必要がないことは明らかである。 ウ.小括 以上のとおり、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号に該当しないから、取り消すことはできない。 (2)取消理由2について ア.甲1発明 甲1(特に第3頁第5行?第4頁11行、第2、3図参照)の記載から、甲1には以下の甲1発明が記載されていると認められる。 「タブ(4)が取付けられた蓋(2)と、 中央を内側に凹ませるドーム部と 該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する環状凸部(9)とを備える底部を具備する缶(1)」 イ.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 《相違点1》 本件発明1が「前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けたものであるのに対し、甲1発明はこのような凹部を設けない点。 《相違点2》 本件発明1が 「E<Zの条件で下記式、 L=D・cos(θ1-θ2), A=X・(L+Y1-Y2)/Y1, B=L+Y1-Y2を定義し、 0<L<Y2の場合に、 (A+B)・E/Z<1.88を満たすことを特徴とする缶体。 式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、 E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、 θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、 Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、 θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、 Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、 Y2:前記底部と前記接地部までの距離、 X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、 をそれぞれ示す。」 であるのに対し、甲1発明がこのような構成を有しない点。 (イ)判断 甲1発明において、相違点1、2に係る構成とすることは、甲1にはもちろん、甲2?4にも記載されておらず、示唆する記載もない。 これに対し、本件発明1は、相違点1、2に係る構成を備えることで、「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けて耐内圧強度を高めながら(段落0003、0007参照)、当該凹みによって発生し易くなる不意の開口の発生を抑止できる(段落0005?0007参照)という作用効果を奏するものである。 よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)申立人の意見について 特許異議申立書において申立人は、相違点2については甲2事項、相違点3については缶胴について甲2の図4、缶蓋について甲3の図3の測定値が満たすものである旨を主張する。 しかし、缶底や缶蓋には様々な形状や寸法のものが存在することが技術常識であるところ、このような様々な形状や寸法の缶底や缶蓋の中から、甲1発明において、缶底についての甲2事項と、缶蓋についての甲3事項とを組み合わせて採用する動機付けは、存在しない。 これに対し本件発明1は、「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けて耐内圧強度を高めながら、不意の開口が発生するのを抑止できるという、甲1?4に接した当業者であっても予測できない作用効果を奏するものである。 ウ.本件発明2について (ア)対比 本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも、上記イ.(ア)で示した相違点1のほか、以下の相違点3で相違する。 《相違点3》 本件発明2が 「E<Zの条件で下記式、 L=D・cos(θ1-θ2), A=X・(Y1+Y2-L)/Y1, B=L+Y1-Y2を定義し、 L≧Y2の場合に、 (A+B)・E/Z<1.85を満たすことを特徴とする缶体。 式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、 E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、 θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、 Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、 θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、 Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、 Y2:前記底部と前記接地部までの距離、 X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、 をそれぞれ示す。」 であるのに対し、甲1発明がこのような構成を有しない点。 (イ)判断 甲1発明において、相違点1、3に係る構成とすることは、甲1にはもちろん、甲2?4にも記載されておらず、示唆する記載もない。 これに対し、本件発明2は、相違点1、3に係る構成を備えることで、「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けて耐内圧強度を高めながら(段落0003、0007参照)、当該凹みによって発生し易くなる不意の開口の発生を抑止できる(段落0005?0007参照)という作用効果を奏するものである。 よって、本件発明2は、甲1発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)申立人の意見について 特許異議申立書において申立人は、相違点2については甲2事項、相違点3については缶胴について甲2の図4、缶蓋について甲4の第2図の測定値が満たすものである旨を主張する。 しかし、缶底や缶蓋には様々な形状や寸法のものが存在することが技術常識であるところ、このような様々な形状や寸法の缶底や缶蓋の中から、甲1発明において、缶底についての甲2事項と、缶蓋についての甲4事項とを組み合わせて採用する動機付けは、存在しない。 これに対し本件発明2は、ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けて耐内圧強度を高めながら、当該凹みによって発生し易くなる不意の開口の発生を抑止できるという、甲1?4に接した当業者であっても予測できない作用効果を奏するものである。 エ.小括 以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1発明及び甲2?4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないから、取り消すことはできない。 第4.むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した上記取消理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 缶体 【技術分野】 【0001】 本発明は、缶体に関するものである。 【背景技術】 【0002】 省資源・低コスト化などの観点から、缶の薄肉化が図られており、それに伴う缶強度の低下を補うために、様々な缶形状が提案されている。特に、缶底の形状は、耐内圧強度を高めるために、中央を内側ドーム状に凹ませるドーム部を設けると共に、ドーム部の周囲に缶軸下方側に環状に突出する脚部を設ける形状を有したものが一般に知られている。 【0003】 また、炭酸飲料などの内圧が大きくなる内容物を充填する缶体では、更に耐内圧強度を高めるために、脚部とドーム部との内側連接部分を脚部の外側に向けて凹ませるボトムリフォームと呼ばれる成形が一般になされている(例えば、下記特許文献1,2参照)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】実開平01-130916号公報 【特許文献2】特開2014-54999号公報 【特許文献3】実公昭61-29625号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 炭酸飲料などを内容物とする缶体は、内容物を充填し缶蓋を巻き締めた後、缶体内部の内圧が高まって缶蓋が上方に湾曲することがあり、このような湾曲が生じると、缶蓋が備える開口用タブの先端が、湾曲した缶蓋の表面(シェル表面)から浮き上がった状態になる。これに対して、内容物が充填された缶体が積み重ねられた状態で、上段に積まれた缶体がバランスを崩すと、上段の缶体における缶底の脚部が、その下段の缶体におけるタブ先端と缶蓋表面との隙間に入り込み、てこの作用でタブを持ち上げて不意の開口が発生してしまう問題がある。前述したボトムリフォームがなされている缶底を有する缶体においては、ボトムリフォームによる凹みによってタブ先端と缶蓋表面との隙間に脚部が入り込み易くなるので、前述した不意の開口が発生し易くなる。 【0006】 このような不意の開口に対する回避策として、缶蓋の形態のみに着目して、シェルに、タブの先端付近に突出する突起を設け、缶底の脚部がタブの下に入り込むのを防ぐことが提案されているが(特許文献3参照)、これによると、缶蓋の加工にコストが掛かるだけでなく、タブの操作性が悪くなる問題が生じる。また、缶底の形態のみに着目すると、前述した不意の開口を避けるためにはボトムリフォームによる凹みを浅くせざるを得ず、炭酸飲料などを内容物とする場合に要求される高い耐内圧強度が得られなくなる。このような事情から、缶蓋の形態と缶底の形態を総合的に勘案して、高い耐内圧強度を確保しながら、不意の開口を抑止できる缶体の形態が求められている。 【0007】 本発明は、このような問題に対処することを課題とするものである。すなわち、炭酸飲料などの内容物を収める缶体において、耐内圧強度を高めながら、不意の開口が発生するのを抑止できる缶体を提供すること、が本発明の目的である。 【課題を解決するための手段】 【0008】 このような目的を達成するために、本発明による缶体は、以下の構成を具備するものである。 【0009】 開口用のタブを備える缶蓋と、中央を内側に凹ませるドーム部と該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する脚部とを備える缶底を具備し、前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部を設けた缶体であって、E<Zの条件で下記式、 L=D・cos(θ1-θ2),A=X・(L+Y1-Y2)/Y1, B=L+Y1-Y2を定義し、0<L<Y2の場合に、 (A+B)・E/Z<1.88を満たす缶体とする。 式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、 E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、 θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、 Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、 θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、 Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、 Y2:前記底部と前記接地部までの距離、 X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離 をそれぞれ示す。 【0010】 開口用のタブを備える缶蓋と、中央を内側に凹ませるドーム部と該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する脚部とを備える缶底を具備し、前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部を設けた缶体であって、 E<Zの条件で下記式、 L=D・cos(θ1-θ2),A=X・(Y1+Y2-L)/Y1, B=L+Y1-Y2を定義し、L≧Y2の場合に、 (A+B)・E/Z<1.85を満たす缶体とする。 式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、 E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、 θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、 Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、 θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、 Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、 Y2:前記底部と前記接地部までの距離、 X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、 をそれぞれ示す。 【発明の効果】 【0011】 このような特徴を有する本発明の缶体は、前述した缶蓋と缶底の寸法に関する条件を満たすことで、耐内圧強度が高められたボトムリフォーム缶であっても、積み重ねた缶体の下段に生じる不意の開口を効果的に抑止することができる。 【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】缶体における缶蓋の要部を示した縦断面輪郭図である。 【図2】缶体における缶底の要部を示した縦断面輪郭図である。 【図3】缶体における缶底のボトムリフォーム部(脚部周辺)を示した縦断面輪郭図である。 【発明を実施するための形態】 【0013】 以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1?図3は、本発明の実施形態に係る缶体の要部を示している。缶体1は、缶蓋2、缶底3、缶胴4を備えている。一例として、缶体1は、アルミ又はスチール材の2ピース缶であり、一体の缶底3と缶胴4を備え、缶胴4のフランジ部に対して、アルミ材のステイオンタブ方式の缶蓋2が2重巻き締めされている。缶体1は、内容物が充填されており、所定の内圧を有するものを対象としている。 【0014】 缶蓋2は、周知の構造であり、中央のシェル20に開口用のタブ21が装着されており、シェル20の周囲には缶胴4のフランジ部に2重巻き締めされることでシーミングパネル22が形成されている。缶底3は、中央を内側に凹ませるドーム部30とドーム部30の周囲で下側に向けて環状に突出する脚部31を備えている。缶底3におけるドーム部30と脚部31の連接部分には、脚部31の外側に向いた凹部32が成形されたボトムリフォーム部が形成されている。また、図2に示す例では、脚部31の外側部分と胴部4とは、曲率半径Rの湾曲部31Rで連接されている。 【0015】 この缶体1の形状は、以下の部位を特定することができるものであれば、輪郭の曲線形状や直線形状はどのようなものであってもよい。特定されるべき部位は、図1?図3に示すように、脚部31の接地部a(図2参照)、脚部31の外側に連接する缶胴4の下端b(図2参照)、凹部32の下端c(図3参照)、凹部32の底部d(図3参照)、タブの先端f(図1参照)、その先端fから下ろした垂線と缶蓋2の表面(シェル20の表面)との交差部e(図1参照)、シーミングパネル22の頂部g(図1参照)である。 【0016】 そして、前述した各部a?gを適宜選択することによって特定される寸法を以下のように定める。 【0017】 D:タブ21の先端fから缶蓋2の表面(交差部e)までの距離(D=D1+(1/2)T、D1はタブ21と缶蓋2の表面との隙間であり、Tはタブ厚さ)。 E:タブ21の先端fより下ろした垂線と缶蓋2の表面との交差部eから缶蓋2のシーミングパネル22の頂部gまでの距離。 θ1:交差部eとシーミングパネル22の頂部gとを結ぶ直線と垂線との角度。 Z:脚部31の接地部aと脚部31の外側に連接する缶胴4の下端bまでの距離。 θ2:接地部aと缶胴4の下端bとを結ぶ直線と垂線との角度。 Y1;凹部32の底部dと凹部32の下端cまでの距離。 Y2:底部dと接地部aまでの距離。 X:凹部32の下端cを通る垂線と底部dとの距離。 【0018】 ここで、本発明の実施形態は、タブ21の先端fより下ろした垂線と缶蓋2の表面との交差部eから缶蓋2のシーミングパネル22の頂部gまでの距離Eと脚部31の接地部aと脚部31の外側に連接する缶胴4の下端bまでの距離Zとの関係が、E<Zの関係にあることを前提条件とする。ここで特定するE<Zの関係は、缶体1を上段・下段に積み重ねて、上段の缶体1がバランスを崩した場合に、缶体1の胴部4がシーミングパネル22の頂部gに当接した状態で、脚部31の接地部aがタブ21と缶蓋2の表面との間の隙間D1に入り込むような状態にはならないことを示している。E≧Zの寸法関係になると、上段の缶体1がバランスを崩した場合に、缶体1の胴部4がシーミングパネル22の頂部gに当接した状態で、脚部31の接地部aがタブ21と缶蓋2の表面との間の隙間D1に入り込むような状態になる場合があるが、このような寸法関係になるものは、本発明の実施形態から除いている。 【0019】 そして、本発明の実施形態に係る缶体1は、前述した寸法により下記式によって求められる値Lを定義している。 【0020】 L=D・cos(θ1-θ2) 【0021】 この値Lは、積み重ねられた上段の缶体1がバランスを崩した場合に、下段の缶体1におけるタブ21の先端fが上段の缶体1の脚部31内側のどの辺りに接触するかを仮想的に評価するための値である。 【0022】 この値Lを用い、0<L<Y2の場合とL≧Y2の場合で区分して、下記式にて、缶蓋2と缶底3との寸法関係によって不意の開口が発生し易いことを評価する評価指数αを定義する。 【0023】 α=(A+B)・E/Z 但し、 0<L<Y2の場合、 A=X・(L+Y1-Y2)/Y1,B=L+Y1-Y2 L≧Y2の場合、 A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,B=L+Y1-Y2 【0024】 この評価指数αは、前述した缶蓋2の各部寸法(E,D,θ1)と前述した缶底3の各部寸法(Z,θ2,X,Y1,Y2)のみによって一義的に決まる値であり、缶蓋2の形状と缶底3の形状との関係を総合的に評価して、不意開口の発生が起こり易いか否かを評価することができる指数である。基本的には、評価指数αの値は、タブ21の先端fから缶蓋2の表面(交差部e)までの距離Dに比例する値Lが大きい程、大きな値になるので、評価指数αの値が大きい程、不意開口の発生が起こり易いと言える。評価指数αの上限値を適正な値に特定することで、不意開口が起こり難い缶体1の寸法(缶蓋と缶底の寸法)を設計することができる。 【0025】 以下に、缶蓋2の形状と缶底3の形状を様々に設定して内容物を充填した缶体1に対して、前述した寸法を実測して評価指数αを求め、不意開口が発生するか否かの試験結果を合わせて、評価指数αの適正な上限値を求める。 【0026】 <缶蓋形状> 缶蓋2の形状としては、2つのサンプル(「サンプルA」と「サンプルB」)の寸法を実測した。各サンプルから実測された寸法D,E,θ1,Lは表1に示すとおりである。 【0027】 【表1】 【0028】 <缶底形状> 缶底3の形状としては、脚部31の外側形状の寸法Z,θ2を表2に示すように一定とし、脚部31の内側形状(ボトムリフォーム形状)については、成形高さが1.95,2.41,2.85,3.3mmの異なる成形ロールの設定で、リフォーム径d0が46.6,46.8,47.0,47.2,47.4,47.6mmとなる成形を行って得られた缶体1に対して、凹部32の寸法(X,Y1,Y2)を実測した。実測した結果を表3に示す。ここで、リフォーム径d0は、凹部32の底部dに対応する直径であり、成形高さは、凹部32を成形する成形ロールの接触位置高さを示している。 【0029】 【表2】 【0030】 【表3】 【0031】 <評価指数αの算出> 缶蓋2のサンプル毎(サンプルA,サンプルB)、成形高さとリフォーム径毎に、L≧Y2となる場合と0<L<Y2となる場合とを区分して、評価指数αを算出した。算出結果を表4(サンプルAについての算出結果)及び表5(サンプルBについての算出結果)に示す。 【0032】 【表4】 【0033】 【表5】 【0034】 <不意開口発生を確認する試験> 上下2段に評価対象の缶体1を積み重ね、上段の缶体1がバランスを崩した状態(上段の缶体1における脚部31が下段の缶体1におけるタブ21の下に掛かった状態)を実現し、下段の缶体1を徐々に傾斜させて、上段の缶体1が落下した時の下段の缶体1の傾斜角度を計測する。ここで、計測される下段の缶体1の傾斜角度が大きいということは、タブ21下の隙間に脚部31が深く掛かった状態にあることを意味するので、不意開口発生の可能性が高い状態であると言える。具体的には、下段の缶体1の傾斜角度が30°以上傾斜しても上段の缶体が落下しない場合を不意開口発生の虞有り(不良)と評価し、表中において下線にて示した。 【0035】 <評価指数αの算出値と試験結果の関係> 表4に示す評価指数αの値で、成形高さが1.95mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.6mmの範囲で全てL≧Y2となり、評価指数αは1.53?1.88となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.88のみであった。 【0036】 表4に示す評価指数αの値で、成形高さが2.41mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.6mmの範囲で全てL≧Y2となり、評価指数αは1.64?2.01となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.86?2.01であった。 【0037】 表4に示す評価指数αの値で、成形高さが2.85mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.4mmの範囲で全て0<L<Y2となり、d0=47.6mmでは、L≧Y2(L=2.60,Y2=2.58)となり、評価指数αは1.66?2.22となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.89?2.22であった。 【0038】 表4に示す評価指数αの値で、成形高さが3.3mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.6mmの範囲で全て0<L<Y2となり、評価指数αは1.59?2.14となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.95?2.14であった。 【0039】 表5に示す評価指数αの値で、成形高さが1.95mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.6mmの範囲で全てL≧Y2となり、評価指数αは1.34?1.73となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は無かった。 【0040】 表5に示す評価指数αの値で、成形高さが2.41mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.6mmの範囲で全てL≧Y2となり、評価指数αは1.45?1.87となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.87のみであった。 【0041】 表5に示す評価指数αの値で、成形高さが2.85mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.6mmの範囲で全て0<L<Y2となり、評価指数αは1.41?1.93となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.93のみであった。 【0042】 表5に示す評価指数αの値で、成形高さが3.3mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm?47.6mmの範囲で全て0<L<Y2となり、評価指数αは1.34?1.84となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は無かった。 【0043】 以上示した評価指数αと試験結果との関係からすると、評価指数αの上限値を設定することで、不意開口発生を回避しうる缶蓋寸法と缶底寸法を総合的に設定可能なことが示されている。また、この試験結果から、L≧Y2の場合には、α<1.85(或いはα<1.86)で不意開口発生を回避しうることが判り、L>Y2の場合には、α<1.88(α<1.89)で不意開口発生を回避しうることが判る。 【0044】 このように本発明によると、不意の開口が発生する可能性があるか否かを、缶体1の缶蓋2の寸法と缶底3の寸法を総合的に勘案した評価指数αを用いることで、的確に評価することができる。これによって、評価指数αの適正範囲内で缶体1の形状や胴径(容量)などを自由に設計することができ、耐内部圧力が高く、不意の開口が発生しない缶体を様々な形状バリエーションで得ることが可能になる。 【符号の説明】 【0045】 1:缶体,2:缶蓋,3:缶底,4:缶胴, 20:シェル,21:タブ,22:シーミングパネル, 30:ドーム部,31:脚部,31R:湾曲部,32:凹部 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 開口用のタブを備える缶蓋と、中央を内側に凹ませるドーム部と該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する脚部とを備える缶底を具備し、前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部を設けた缶体であって、 E<Zの条件で下記式、 L=D・cos(θ1-θ2), A=X・(L+Y1-Y2)/Y1, B=L+Y1-Y2を定義し、 0<L<Y2の場合に、 (A+B)・E/Z<1.88を満たすことを特徴とする缶体。 式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、 E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、 θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、 Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、 θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、 Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、 Y2:前記底部と前記接地部までの距離、 X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、 をそれぞれ示す。 【請求項2】 開口用のタブを備える缶蓋と、中央を内側に凹ませるドーム部と該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する脚部とを備える缶底を具備し、前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部を設けた缶体であって、 E<Zの条件で下記式、 L=D・cos(θ1-θ2), A=X・(Y1+Y2-L)/Y1, B=L+Y1-Y2を定義し、 L≧Y2の場合に、 (A+B)・E/Z<1.85を満たすことを特徴とする缶体。 式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、 E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、 θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、 Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、 θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、 Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、 Y2:前記底部と前記接地部までの距離、 X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、 をそれぞれ示す。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-03-23 |
出願番号 | 特願2015-73707(P2015-73707) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B65D)
P 1 651・ 536- YAA (B65D) P 1 651・ 537- YAA (B65D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西堀 宏之、田中 佑果 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
谿花 正由輝 千壽 哲郎 |
登録日 | 2016-09-30 |
登録番号 | 特許第6012804号(P6012804) |
権利者 | 東洋製罐株式会社 日本ナショナル製罐株式会社 |
発明の名称 | 缶体 |
代理人 | 特許業務法人英知国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 英知国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 英知国際特許事務所 |