• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1340111
異議申立番号 異議2017-700476  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-15 
確定日 2018-03-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6051334号発明「デュタステリドを含む経口軟カプセル製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6051334号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第6051334号の請求項1ないし5、7、8、10、11に係る特許を維持する。 特許第6051334号の請求項6及び9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6051334号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成26年6月27日(パリ条約による優先権主張 2013年6月28日、2014年3月31日 いずれも(KR)韓国)を国際出願日とするものであって、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、平成28年12月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成29年5月15日に特許異議申立人 金山愼一により特許異議の申立てがされ、平成29年9月6日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月7日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 金山愼一から平成30年1月19日付けで意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア?ウのとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項1に
「(1)デュタステリドを含む充填材料と、
(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含み、
前記架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5?5重量%の量で含まれる、経口軟カプセル製剤。」
とあるのを
「(1)デュタステリドを含む充填材料と、
(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含み、
前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて60?75重量%の量で含まれ、
前記架橋阻害剤はグリシンであり、かつ、前記架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5?5重量%の量で含まれる、経口軟カプセル製剤。」
に訂正する。

イ 特許請求の範囲の請求項6を削除する。

ウ 特許請求の範囲の請求項9を削除する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アの訂正事項は、訂正前の請求項1に「前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて60?75重量%の量で含まれ」という記載と、「前記架橋阻害剤はグリシンであり」という記載を追加するものであるところ、明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の【0017】には「コハク化ゼラチンは、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて50?90重量%、好ましくは60?75重量%の量で使用され得る。」との記載があり、同【0020】には「架橋阻害剤の例としては、グリシン、クエン酸などを挙げることができ、架橋阻害剤のうちの2つ以上が組合わせて使用されてもよい。架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて約0.5?5重量%の量で使用され得る。」との記載があるから、「コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて60?75重量%の量で含まれ」という事項と「前記架橋阻害剤がグリシンであり」という事項は明細書に記載されているといえる。そうすると、アの訂正は、明細書に記載された事項の範囲内においてするものであると認められる。
そして、アの訂正事項は、明細書に記載された事項の範囲内において、コハク化ゼラチンの量と架橋阻害剤の種類及び量を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、イ、ウの訂正事項は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?5、7、8、10、11に係る発明(以下「本件発明1」「本件発明2」、・・・、「本件発明11」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5、7、8、10、11に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(1)デュタステリドを含む充填材料と、
(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含み、
前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて60?75重量%の量で含まれ、
前記架橋阻害剤はグリシンであり、かつ、前記架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5?5重量%の量で含まれる、経口軟カプセル製剤。
【請求項2】前記充填材料は、エマルジョンである、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項3】
前記充填材料は、ポリソルベート、プロピレングリコール、エタノールを10?20%含む植物油、カプリル酸/カプリン酸グリセリル、メチルセルロース、グリセロールのステアロイルモノエステル、グリセロールの単不飽和脂肪酸エステル、およびこれらの混合物からなる群から選択された溶媒を含む、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項4】
前記充填材料は、ポリソルベート、ソルビタン脂肪酸エステル、ヒマシ油、置換ヒマシ油、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、カプリル酸/カプリン酸のモノまたはジグリセリド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、およびこれらの混合物からなる群から選択された界面活性剤を含む、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項5】
前記充填材料は、水、エタノール、グリシン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソソルビド、セチルアルコール、およびこれらの混合物からなる群から選択された安定剤を含む、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項7】
前記可塑剤は、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、糖アルコール、単糖、二糖、オリゴ糖、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項8】
前記可塑剤は、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて5?45重量%の量で含まれる、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項10】
前記軟カプセルは、15分以内にデュタステリドの少なくとも85%を放出する、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項11】
前記軟カプセルは、30分以内にデュタステリドの少なくとも90%を放出する、請求項10に記載の経口軟カプセル製剤。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?11に係る特許に対して平成29年9月6日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。

(1)取消理由1
特許請求の範囲が、特許法第36条第6項第1号の要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、訂正前の本件特許の請求項1に係る発明(以下「訂正前発明1」という。)の解決しようとする課題について検討するに、本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下単に「発明の詳細な説明」という。)の段落【0008】には、「本発明の目的は、デュタステリドの生物学的利用能および溶解安定性ならびにカプセル製剤の密封性が向上した、自己乳化薬剤送達システムとしての経口軟カプセル製剤を提供することである。」と記載されていることから、訂正前発明1の解決しようとする課題は、「デュタステリドの生物学的利用能および溶解安定性ならびにカプセル製剤の密封性が向上した、自己乳化薬剤送達システムとしての経口軟カプセル製剤を提供すること」であるといえる。
また、発明の詳細な説明の段落【0018】には「本発明のコハク化ゼラチンを含む軟カプセル製剤は、豚または牛由来のゼラチンと比較して優れたデュタステリドの溶解安定性を示し、皮膜の厚みに従った軟カプセル製剤の密封性および崩壊時間の変化が小さいために、製造プロセス中に品質が維持されるという利点も有している。」と記載されているから、上記課題における「溶解安定性の向上」とは、「崩壊時間の変化が小さい」ことであるといえる。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0067】?【0071】には、訂正前発明1に含まれる例である実施例9について、40℃及び70%RH下で1ヶ月間保管後に崩壊時間が6.3分増加すること(当初8.6分、1ヶ月後14.9分)が示されており、当該崩壊時間の増加は、コハク化ゼラチンを含む訂正前発明1に比べて溶解安定性が劣る牛又は豚由来のゼラチン(段落【0018】)を用いた比較例(6.07?12.4分:段落【0044】?【0049】参照)の崩壊時間の増加と同程度であるから、訂正前発明1は、崩壊時間の変化が比較例と同程度であるもの、すなわち溶解安定性が向上していないものも含むといえる。
そうすると、訂正前発明1は当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
また、訂正前の他の請求項に係る発明の課題も訂正前発明1の課題と同様であるところ、上記実施例9は訂正前の請求項2?5,7?11に係る発明にも含まれるから、訂正前の請求項2?5、7?11に係る発明も当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
よって、訂正前の請求項1?5、7?11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由2
訂正前発明1の解決しようとする課題については、(1)で説示したとおりである。
そして、発明の詳細な説明に開示された訂正前発明1の具体的な例は、いずれも架橋防止剤としてグリシンを用いたものである。
ところで、訂正前発明1は架橋阻害剤の種類を特定しないものであるが、発明の詳細な説明には、架橋防止剤がゼラチンの架橋を防ぐ機構等が全く開示されていない上、コハク化ゼラチンに対する架橋防止において、グリシンと、クエン酸等他の化学物質が置換可能であるとの技術常識が存在するともいえない。また、発明の詳細な説明の段落【0060】?【0071】には、軟カプセル皮膜におけるグリシンの量が変化することによって、1ヶ月保管後の崩壊時間も変化することが示されており、課題解決においては架橋防止剤の量が重要であるといえるところ、架橋阻害剤が異なれば用量も異なる上、発明の詳細な説明には、他の架橋防止剤を用いた場合の用量を示唆する具体的な記載はない。
そうすると、上記グリシンを使用した具体的な例をグリシン以外の架橋防止剤を用いた場合に拡張乃至一般化することは困難であるから、訂正前発明1は当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
また、訂正前の請求項2?11に係る発明も、グリシン以外の架橋阻害剤を用いることを許容するものであるから、訂正前の請求項2?11に係る発明の課題も当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
よって、訂正前請求項1?11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由1、2について
ア 発明の詳細な説明には以下の記載がある。
(記載事項1)
「【0004】
自己乳化薬剤送達システムは、薬剤の生物学的利用能を向上させるためにデュタステリドなどの可溶性が低い薬剤を作製するプロセスで広く使用されている。」

(記載事項2)
「【0007】
本発明の発明者等は、デュタステリドの製剤に関する研究を行い、自己乳化薬剤送達システムを使用してデュタステリドが可溶化されたとしても特定の保管条件が可溶性の減少およびデュタステリドの溶解の遅延を生じさせることを発見した。軟カプセルを製造するために使用されるゼラチンは、アミノ酸間に架橋が形成されることにより薬剤の溶解を減速させることが知られている。しかし、この現象は、全ての製剤で起こるわけではなく、ゼラチンと接触する材料によって異なる。具体的には、デュタステリドを含む軟カプセルでは、ゼラチンとデュタステリドとの相互作用が、アミノ酸間の架橋を促進し、溶解の遅延を生じさせる。したがって、このような問題を除去することができる新規の方法が非常に必要とされていることは明らかである。」

(記載事項3)
「【0008】
発明の概要
したがって、本発明の目的は、デュタステリドの生物学的利用能および溶解安定性ならびにカプセル製剤の密封性が向上した、自己乳化薬剤送達システムとしての経口軟カプセル製剤を提供することである。」

(記載事項4)
「【0018】
本発明のコハク化ゼラチンを含む軟カプセル製剤は、豚または牛由来のゼラチンと比較して優れたデュタステリドの溶解安定性を示し、皮膜の厚みに従った軟カプセル製剤の密封性および崩壊時間の変化が小さいために、製造プロセス中に品質が維持されるという利点も有している。」

(記載事項5)
「【0027】
以下の実施例によって以下で本発明をより具体的に説明するが、これらは単に例示の目的で提供されており、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
実施例1ならびに比較例1および2:さまざまなタイプのゼラチンを有する軟カプセル製剤の調製
<充填材料の調製>
以下の表1に記載されている量に従って、デュタステリド(ドクターレディーズラボラトリーズ社)をカプムル(登録商標)MCM油(アビテック社)に溶解し、自己乳化システムを得るために、残りの成分を順次溶解した。
【0029】
<軟カプセル皮膜の調製>
以下の表1に記載されている量に従って、グリセリン、グリシンおよび蒸留水をゼラチンタンクに入れ、次いで、ホモミキサを使用して均一に懸濁させた。コハク化ゼラチン(ゲルテック社、200ブルーム)、牛ゼラチン(ゲルテック社、165ブルーム)および豚ゼラチン(ルスロ社、175ブルーム)のうちの1つと蒸留水とを添加して、湿らせた。
【0030】
このようにして調製された充填材料を、軟ゼラチンカプセル化マシン(BCM-GB、ボーチャン社)を使用して、韓国薬局方の一般的調製の章に記載されている従来の方法に従って、軟カプセルに充填し、実施例1ならびに比較例1および2の軟カプセル製剤を調製した。このプロセス中に、膜厚を0.8mmに維持するように、軟ゼラチンカプセル化プロセスの前に固体状態のゼラチンシートを調節した。
【0031】
【表1】



(記載事項6)
「【0042】
実施例1-1?1-5、比較例1-1?1-5および比較例2-1?2-5:さまざまなタイプのゼラチンおよびさまざまな厚みの軟カプセル皮膜を有する軟カプセル製剤の調製
さまざまな膜厚を有する軟カプセルに対するゼラチンのタイプの影響を評価するために、実施例1ならびに比較例1および2で得られた軟カプセル製剤の膜厚を以下の表8に従って変化させた。軟ゼラチンカプセル化プロセスの前にゼラチンシートの厚みを変化させることによって、膜厚を0.6mm、0.65mm、0.7mm、0.75mmおよび0.8mmに調節した。さまざまな厚みを有する軟カプセル製剤を調製し、実施例1-1?1-5、比較例1-1?1-5および2-1?2-5と命名した。実施例1-1は、0.6mmの膜厚を有する実施例1の製剤を指し、実施例1-2は、0.65mmの膜厚を有する実施例1の製剤を指し、実施例1-3は、0.7mmの膜厚を有する実施例1の製剤を指し、実施例1-4は、0.75mmの膜厚を有する実施例1の製剤を指し、実施例1-5は、0.8mmの膜厚を有する実施例1の製剤を指す。同様に、比較例1-1?1-5および2-1?2-5の各々は、以下の表8に記載されている厚みを有している。
【0043】
【表8】



(記載事項7)
「【0044】
実験例2:ゼラチンタイプおよび皮膜の厚みに従った崩壊時間の評価
さまざまなゼラチンタイプおよび皮膜の厚みを有する実施例1-1?1-5、比較例1-1?1-5および2-1?2-5の軟カプセル製剤を各々HDPEボトルにパッケージングし、40℃および70%下で保管し、次いで、韓国薬局方に記載されている崩壊試験方法に従って各製剤の崩壊時間を評価した。具体的には、サンプルは崩壊解されているものと判断され、ガラス管に残っているサンプル残留物がない場合、または、ガラス管にいくらかのサンプルは残っているが明確な円形形状を持たない軟性材料であるか、もしくは不溶性のコーティングまたはコーティング膜の破片である場合に、崩壊時間を判断した。結果を表9?11ならびに図2および図3に示す。
【0045】
【表9】

【0046】
【表10】

【0047】
【表11】

【0048】
上記の表9?11に示されているように、コハク化ゼラチンを含む実施例1-1?1-5は、当初および1ヵ月間の保管後の両方において、さまざまな膜厚を有する製剤の間で崩壊時間の小さな変化を示した。逆に、牛または豚ゼラチンを含む比較例1-1?1-5および2-1?2-5は、製剤の膜厚によって崩壊時間に大きな差があった。
【0049】
軟カプセル製剤を調製する際、皮膜の厚みが、製品品質に影響を及ぼす最も重要なパラメータのうちの1つであり、そのため、調製プロセス中はこのようなパラメータの許容可能な範囲がより広いことが有利である。他のタイプのゼラチンと比較して、コハク化ゼラチンを皮膜材料として使用した場合により大きな範囲の膜厚において崩壊時間の一貫性が維持されることが分かる。すなわち、皮膜材料としてコハク化ゼラチンを使用すると、調製プロセス中に生じ得る厚みのばらつきが製品品質に大きく影響を及ぼすことがない。」

(記載事項8)
「【0059】
実施例2?5:さまざまな量の架橋阻害剤を有する軟カプセル製剤の調製
軟カプセル製剤に対する架橋阻害剤の影響を評価するために、さまざまな量の架橋阻害剤(すなわちグリシン)を有する軟カプセル製剤を以下の表15に従って調製した。
【0060】
【表15】



(記載事項9)
【0061】
実験例4:架橋阻害剤の量に従った崩壊時間の評価
実施例1?5の軟カプセル製剤をHDPEボトルに別々にパッケージングし、40℃および70%RH下で1ヶ月間保管し、次いで、実験例2に記載された方法に従って各製剤の崩壊時間を評価した。結果を以下の表16に示す。
【0062】
【表16】

【0063】
上記の表16に示されているように、それぞれ0.1mg(0.16重量%)および0.3mg(0.48重量%)の量で架橋阻害剤としてグリシンを含む実施例2および3は、加速条件下で1ヵ月間保管した場合の架橋の形成に対する不十分な阻害活性のために、崩壊時間の大幅な増加を示した。したがって、架橋阻害剤としてのグリシンの量は、保管時間に対する崩壊時間の一貫性を維持するために、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて、好ましくは少なくとも0.50重量%であると結論付けることができる。」

(記載事項10)
「【0064】
実験例5:架橋阻害剤の量に従った軟カプセルの密封性の評価
軟カプセルの密封性に対する架橋阻害剤の量の影響を評価するために、以下の試験を行った。正確な測定のために、0.8mmの膜厚を有する実施例1?5の軟カプセルを調製した。次いで、実験例3に記載された方法に従って上方および下方接合部の密封率を測定した。密封率測定値を以下の表17に示す。
【0065】
【表17】

【0066】
上記の表17に示されているように、グリシンはカプセル皮膜の特性に負の影響を及ぼすので、架橋阻害剤としてのグリシンの量が増加するにつれて、密封率が減少した。特に、7.46重量%の量でグリシンを含む実施例5の密封率は、0.16?3.13重量%の量でグリシンを含む実施例1?4のものと比較して、大幅に減少した。したがって、密封率を考慮して、使用されるグリシンの量は、好ましくは多くても5重量%である。」

(記載事項11)
「【0067】
実施例6?9:さまざまな量のコハク化ゼラチンを有する軟カプセル製剤の調製
軟カプセル製剤に対するコハク化ゼラチンの影響を評価するために、以下の表18に従ってコハク化ゼラチンの量を変化させて、実施例1に基づいて軟カプセル製剤を調製した。
【0068】
【表18】

【0069】
実験例6:コハク化ゼラチンの量に従った崩壊時間の評価
実施例1および6?9の軟カプセル製剤をHDPEボトルに別々にパッケージングし、40℃および70%RH下で1ヵ月間保管し、次いで、実験例2に記載された方法に従って各製剤の崩壊時間を評価した。結果を以下の表19に示す。
【0070】
【表19】

【0071】
上記の表19に示されているように、76.36重量%の量でコハク化ゼラチンを含む実施例9の製剤は、架橋阻害剤としてのグリシンの量が好ましい量範囲の範囲内、すなわち0.50?5.0重量%であるという事実にもかかわらず、加速条件下で1ヶ月間保管した場合に崩壊時間の大幅な増加を示した。したがって、使用されるコハク化ゼラチンの量は、保管時間に対する崩壊時間の一貫性を維持するために、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて、好ましくは多くても75重量%であると結論付けることができる。」

(記載事項12)
「【0072】
実験例7:コハク化ゼラチンの量に従った軟カプセルの密封性の評価
軟カプセルの密封性に対するコハク化ゼラチンの量の影響を評価するために、以下の試験を行った。正確な測定のために、0.8mmの膜厚を有する実施例1および6?9の軟
カプセルを調製した。次いで、実験例3に記載された方法に従って上方および下方接合部の密封率を測定した。密封率測定値を以下の表20に示す。
【0073】
【表20】

【0074】
上記の表20に示されているように、少なくとも62.86重量%の量でコハク化ゼラチンを含む実施例1および7?9の製剤の密封率は優れていた。一方、54.12重量%の量でコハク化ゼラチンを含む実施例6の製剤の密封率は、大幅に低かった。したがって、密封率を考慮して、使用されるコハク化ゼラチンの量は、好ましくは少なくとも60重量%である。」

なお、表9(記載事項7)には、実施例1-5の崩壊時間(1ヶ月間の保管後)について、1回目の試験、2回目の試験、3回目の試験、平均がそれぞれ10.0、12.5、14.8、12.43と記載されているが、当該記載の値は、同じく表9に記載された同じ組成で膜厚が0.05mmずつ異なる実施例1-1?1-4(記載事項6)の崩壊時間(1ヶ月間の保管後)と比べて突出して大きな値である上、【0048】の「上記の表9?11に示されているように、コハク化ゼラチンを含む実施例1-1?1-5は、当初および1ヵ月間の保管後の両方において、さまざまな膜厚を有する製剤の間で崩壊時間の小さな変化を示した。」という記載(記載事項7)とも整合しない。そして、表15(記載事項8)と表19(記載事項11)には、実施例1-5と同じ組成、同じ膜厚である実施例1(記載事項5?6)の崩壊時間(1ヶ月間の保管後)について、1回目の試験、2回目の試験、3回目の試験、平均がそれぞれ5.4、3.8、3.8、4.3であることが記載されており、これら表15、19に記載された値は表9の実施例1-1?1-4の値とも近く、上記【0048】の記載とも整合するものであることを考慮すると、表9の実施例1-5の崩壊時間(1ヶ月間の保管後)の1回目の試験、2回目の試験、3回目の試験、平均の記載は、誤記である蓋然性が高い。

イ 記載事項1?3から、本件発明1の解決しようとする課題は、「デュタステリドの生物学的利用能および溶解安定性ならびにカプセル製剤の密封性が向上した、自己乳化薬剤送達システムとしての経口軟カプセル製剤を提供すること」であるといえる。
そして、発明の詳細な説明の段落【0018】には「本発明のコハク化ゼラチンを含む軟カプセル製剤は、豚または牛由来のゼラチンと比較して優れたデュタステリドの溶解安定性を示し、皮膜の厚みに従った軟カプセル製剤の密封性および崩壊時間の変化が小さいために、製造プロセス中に品質が維持されるという利点も有している。」と記載されているから(記載事項4)、上記課題における「生物学的利用能および溶解安定性の向上」とは、「崩壊時間の変化が小さい」ことであるといえる。

ウ 発明の詳細な説明(記載事項11)には、「(1)デュタステリドを含む充填材料と、(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含む経口軟カプセル製剤」であって、前記軟カプセル皮膜はコハク化ゼラチンを前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて62.86%含み、グリシンを0.95%含む例(実施例7;製造当初と1ヶ月保管後の崩壊時間の差(以下「崩壊時間の差」という。)は1.7分)、同じく前記軟カプセル皮膜はコハク化ゼラチンを68.80%含み、グリシンを0.80%含む例(実施例1;崩壊時間の差は-0.3分)、同じく前記軟カプセル皮膜はコハク化ゼラチンを73.10%含み、グリシンを0.69%含む例(実施例8;崩壊時間の差は0.8分)において、崩壊時間の差が1.7分以内であることが示されており、これらの例においては「崩壊時間の変化が小さい」すなわち「生物学的利用能および溶解安定性の向上」という効果が得られているといえる。
そして、発明の詳細な説明の記載からは、コハク化ゼラチンを含む軟カプセル皮膜においては、軟カプセル皮膜中のグリシンの量を増やすことにより、製造当初と1ヶ月保管後の崩壊時間の差を小さくでき、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.48%含む場合(実施例3;崩壊時間の差は5.6分)(記載事項8,9)でも、コハク化ゼラチン以外のゼラチンを用いた軟カプセル(比較例1、2;崩壊時間の差6.07?12.40分)(記載事項5?7)に比べて、製造当初と1ヶ月保管後の崩壊時間の差を短くすることができることが読み取れる。また、発明の詳細な説明には、軟カプセル皮膜中のコハク化ゼラチンの割合を75重量%以下とすることによって崩壊時間の差を短くすることができることも示されている(記載事項11)。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「(1)デュタステリドを含む充填材料と、(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含む経口軟カプセル製剤」において、「前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて75重量%以下の量で含まれ、前記架橋阻害剤はグリシンであり、かつ、前記架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5重量%以上の量で含まれる」という条件を満たせば、「生物学的利用能および溶解安定性の向上」という効果が得られると認識するといえる。

エ また、発明の詳細な説明には、軟カプセル皮膜中のグリシンの量の上限を5重量%とすること(記載事項10)および軟カプセル皮膜中のコハク化ゼラチンの割合を60重量%以上とすること(記載事項12)によって、密封率の低下を避けられることが示されているから、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「(1)デュタステリドを含む充填材料と、(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含む経口軟カプセル製剤」において、「前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて60重量%以上の量で含まれ、前記架橋阻害剤はグリシンであり、かつ、前記架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて5重量%以下の量で含まれる」という条件を満たせば「カプセル製剤の密封性が向上した」という効果が得られると認識するといえる。

オ イ?エで説示したとおり、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「(1)デュタステリドを含む充填材料と、(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含む経口軟カプセル製剤」について、「前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて75重量%以下の量で含まれ、前記架橋阻害剤はグリシンであり、かつ、前記架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5重量%以上の量で含まれる」という条件を満たせば、「生物学的利用能および溶解安定性の向上」という効果が得られると認識するとともに、「前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて60重量%以上の量で含まれ、前記架橋阻害剤はグリシンであり、かつ、前記架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて5重量%以下の量で含まれる」という条件を満たせば「カプセル製剤の密封性が向上した」という効果が得られると認識するのであるから、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「(1)デュタステリドを含む充填材料と、(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含む経口軟カプセル製剤。」であって「前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて60?75重量%の量で含まれ、前記架橋阻害剤はグリシンであり、かつ、前記架橋阻害剤は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5?5重量%の量で含まれる」ものである本件発明1が、「デュタステリドの生物学的利用能および溶解安定性ならびにカプセル製剤の密封性が向上した、自己乳化薬剤送達システムとしての経口軟カプセル製剤を提供すること」という課題を解決できると認識できるといえる。

カ 同様に、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明2?5、7、8、10、11についてもイで示した課題を解決できると認識できるといえる。

キ 上記取消理由通知に記載した取消理由について、特許異議申立人 金山愼一は平成30年1月22日付けで意見書(以下「意見書」という。)を提出しているから、以下、当該意見書における主張について検討する。
(ア)意見書における請求人の主張の概要は以下のとおりである。
(主張1)
発明の詳細な説明の【0061】?【0063】には、実施例2(軟カプセル皮膜におけるグリシンの量が0.16重量%)と実施例3(同0.48重量%)が課題を解決できない一方、実施例1(同0.80重量%)、実施例4(同3.13重量%)、実施例5(同7.46重量%)が課題を解決できることが記載されており、発明の詳細な説明で課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲は、「軟カプセル皮膜におけるグリシンの量が0.80重量以上の範囲」であるから、グリシンの量の下限が0.5重量%である本件発明1は課題を解決できないものである。
また、本件発明1に含まれる「グリシンの量0.5重量%」とは、その有効数字を考慮すると、通常、0.45?0.54重量%の数値を意味するから、課題を解決できないものである前記実施例3(同0.48重量%)は本件発明1と同一であるため、本件発明1には課題を解決できないものも含まれている。
したがって、本件発明1は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない。

(主張2)
発明の詳細な説明には、同一の組成を有し、同一の皮膜の厚さを有するものである実施例1-5と実施例1について、異なる崩壊時間の変化を示す実験結果が記載されているため、当業者にはいずれの実験結果が正しいかが不明であって、実施例1の軟カプセル製剤が課題を解決できるかを認識することができない。
したがって、本件発明1は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない。

(イ)以下のとおり、上記請求人の主張はいずれも採用できない。
(主張1について)
本件発明1の課題はイで説示したとおりであるところ、ウで説示したとおり、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.48%含む実施例3でも、コハク化ゼラチン以外のゼラチンを用いた軟カプセル(比較例1,2)に比べて、製造当初と1ヶ月保管後の崩壊時間の差を短くすることができるのであるから、前記実施例3は前記課題を解決できるものであるといえる。そして、ウで説示したとおり、発明の詳細な説明には、コハク化ゼラチンを含む軟カプセル皮膜において軟カプセル皮膜中のグリシンの量を増やすことにより、製造当初と1ヶ月保管後の崩壊時間の差を小さくできることも示されているといえるから、前記実施例3に比べて高い割合でグリシンを含むものである本件発明1は、上記課題を解決できるものである。
また、発明の詳細な説明の【0063】に「したがって、架橋阻害剤としてのグリシンの量は、保管時間に対する崩壊時間の一貫性を維持するために、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて、好ましくは少なくとも0.50重量%であると結論付けることができる。」との記載があること(記載事項9)をふまえれば、本件発明1における「0.5」との表記は、有効数字が2桁であることを表すものとはいえないことは明らかであるから、請求人の主張するように「「グリシンの量0.5重量%」とは、その有効数字を考慮すると、通常、0.45?0.54重量%の数値を意味する」とはいえない。

したがって、請求人の主張1は採用できない。

(主張2について)
アのなお書きで説示したとおり、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、表9の実施例1-5の崩壊時間(1ヶ月間の保管後)についての記載が誤記である蓋然性が高いと認識した上で、ウ?オで説示したとおり本件発明についてもイで示した課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、請求人の主張2も採用できない。

ク イ?キで説示したとおりであるから、訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たす。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許異議申立人 金山愼一は、訂正前発明1?11は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1?6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1?11に係る特許は取り消されるべきものである(以下「請求人申立理由1」という。)と主張するとともに、訂正前発明1?11は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?11に係る特許は取り消されるべきものである(以下「請求人申立理由2」という。)とも主張している。
甲第1号証:韓国公開特許第10-2009-0130580号公報
甲第2号証:国際公開第2010/092596号
甲第3号証:Pharmaceutical Technology,April 2003,pp.54,56,58,60,62,63
甲第4号証:特表2011-524353号公報
甲第5号証:特開2009-102368号公報
甲第6号証:特開2000-044465号公報

イ 上記理由について検討する。
(ア)請求人申立理由1について
甲第1号証の[0001]、[0007]、[0008]、[0010]?[0019]、[0024]、[0030]?[0032]、[0036]?[0043]、[0046]、[0047]、[0083]の記載から、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「(1)薬学的有効成分を含む充填材料と、
(2)コハク化ゼラチン、可塑剤およびクエン酸を含む軟カプセル皮膜とを含み、
前記クエン酸は、軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5?5重量%の量で含まれる、経口軟カプセル製剤」

そして、本件発明1と甲1発明を対比すると、「(1)薬学的有効成分を含む充填材料と、(2)コハク化ゼラチン、可塑剤を含む軟カプセル皮膜とを含む、経口軟カプセル製剤」という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では薬学的有効成分がデュタステリドであるのに対し、甲1発明では薬学的有効成分の種類が特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1では、軟カプセル皮膜に架橋阻害剤であるグリシンを軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5?5重量%含むのに対して、甲1発明では軟カプセル皮膜にクエン酸を軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5?5重量%含む点。

事案に鑑み、相違点2についてまず検討する。
甲第3号証や甲第4号証には、グリシンが架橋防止剤として機能することが開示されているといえる。
しかしながら、甲第1号証には、クエン酸を架橋防止剤として配合することも、甲1発明において架橋が問題となることも開示されていない。また、甲1発明においてコハク化ゼラチンの架橋が問題となることが、甲第2?6号証に記載されているわけでもないし、技術常識であったわけでもない。そうすると、甲1発明においてクエン酸をグリシンに置換する動機付けや、同じくグリシンを加える動機付けはないといえる。
また、(1)で説示したとおり、本件発明1は「デュタステリドの生物学的利用能および溶解安定性ならびにカプセル製剤の密封性が向上した、自己乳化薬剤送達システムとしての経口軟カプセル製剤を提供する」という効果を奏するものであるところ、甲第1?6号証には、当該効果が記載も示唆もされていない。
したがって、相違点2は、甲1発明と、甲第1?6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではないから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲第1?6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1をさらに特定したものである本件発明2?5、7、8、10、11についても、甲第1?6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 請求人申立理由2について
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ(実施可能要件)、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
そして、記載事項5によれば、発明の詳細な説明には、本件発明の製造方法が記載されているから、発明の詳細な説明の記載は本件発明に係る物を生産できる程度のものであるといえる。また、(1)で説示したとおり、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明が課題を解決できることを理解できるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明に係る物を使用することができる程度のものであるといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定された要件を満たす。

エ イ、ウで説示したとおりであるから、請求人申立理由1,2は、いずれも理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5、7、8、10、11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5、7、8、10、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、請求項6及び9に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項6及び9に対して、特許異議申立人 金山愼一がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)デュタステリドを含む充填材料と、
(2)コハク化ゼラチン、可塑剤および架橋阻害剤を含む軟カプセル皮膜とを含み、
前記コハク化ゼラチンは、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて60?75重量%の量で含まれ、
前記架橋阻害剤はグリシンであり、かつ、前記架橋阻害剤は軟カプセル皮膜の総重量に基づいて0.5?5重量%の量で含まれる、経口軟カプセル製剤。
【請求項2】
前記充填材料は、エマルジョンである、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項3】
前記充填材料は、ポリソルベート、プロピレングリコール、エタノールを10?20%含む植物油、カプリル酸/カプリン酸グリセリル、メチルセルロース、グリセロールのステアロイルモノエステル、グリセロールの単不飽和脂肪酸エステル、およびこれらの混合物からなる群から選択された溶媒を含む、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項4】
前記充填材料は、ポリソルベート、ソルビタン脂肪酸エステル、ヒマシ油、置換ヒマシ油、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、カプリル酸/カプリン酸のモノまたはジグリセリド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、およびこれらの混合物からなる群から選択された界面活性剤を含む、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項5】
前記充填材料は、水、エタノール、グリシン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソソルビド、セチルアルコール、およびこれらの混合物からなる群から選択された安定剤を含む、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記可塑剤は、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、糖アルコール、単糖、二糖、オリゴ糖、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項8】
前記可塑剤は、前記軟カプセル皮膜の総重量に基づいて5?45重量%の量で含まれる、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
前記軟カプセルは、15分以内にデュタステリドの少なくとも85%を放出する、請求項1に記載の経口軟カプセル製剤。
【請求項11】
前記軟カプセルは、30分以内にデュタステリドの少なくとも90%を放出する、請求項10に記載の経口軟カプセル製剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-15 
出願番号 特願2016-504265(P2016-504265)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横山 敏志幸田 俊希  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 穴吹 智子
山本 吾一
登録日 2016-12-02 
登録番号 特許第6051334号(P6051334)
権利者 ハンミ ファーム. シーオー., エルティーディー.
発明の名称 デュタステリドを含む経口軟カプセル製剤  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ