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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F24F
管理番号 1340119
異議申立番号 異議2017-700764  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-04 
確定日 2018-04-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6074651号発明「全熱交換型換気装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6074651号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1-3]について訂正することを認める。 特許第6074651号の請求項1,3に係る特許を維持する。 特許第6074651号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6074651号の請求項1-3に係る特許についての出願は、平成24年8月28日に特許出願され、平成29年1月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年8月4日に特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年10月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月18日に意見書及び訂正請求書が提出され、申立人より平成30年2月16日付けで意見書が提出されたものである。
以下、平成29年12月18日付けの訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、これに係る訂正を「本件訂正」という。

第2 本件訂正の適否
1.本件訂正の内容
本件訂正請求書による訂正の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合に前記バイパス換気運転を停止させること」とあるのを、「その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合に前記バイパス換気運転を停止させ、前記制御部は、室外温度と室内温度の温度差が予め定められた温度差以上であるとの情報を得た場合に、前記給気ファンモータの回転数を増加させ、前記排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続すること」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「制御部は、室内のCO_(2)濃度を検知するCO_(2)センサーを備え、予め定められたCO_(2)濃度よりも小さい場合には、排気ファンモータの回転数を減少させることを特徴とした請求項1の全熱交換型換気装置。」を独立形式に改め、「室内の空気と屋外の空気を換気する際に熱交換するための全熱交換素子と、屋外の空気を室内に取り入れるための給気ファンモータと、室内の空気を屋外に排出するための排気ファンモータと、熱交換換気運転と熱交換せず外気を直接取り入れるバイパス換気運転を切り替えるダンパーを備えた全熱交換型換気装置において、前記ダンパーの切換え、前記ファンモータの運転、停止を制御する制御部を備え、前記制御部は、室内のCO_(2)濃度を検知するCO_(2)センサーを備え、前記制御部は、本体が停止後一定時間が経過した後、自動的に本体を短時間運転させ、本体内に備えた室外温度、室内温度の検出手段により情報を得た室外と室内の温度差を判断し、夏期において室内温度>室外温度、または冬期において室内温度<室外温度の場合に、ダンパーを前記バイパス換気運転に切換え、外気を室内に直接取り入れ、予め定められたCO_(2)濃度よりも小さい場合には、前記給気ファンモータの回転数を増加させ、前記排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続し、その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合に前記バイパス換気運転を停止させることを特徴とした全熱交換型換気装置。」に訂正する。

2.本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に「前記制御部は、室外温度と室内温度の温度差が予め定められた温度差以上であるとの情報を得た場合に、前記給気ファンモータの回転数を増加させ、前記排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続すること」なる発明特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該発明特定事項は訂正前の請求項2及び本件特許明細書の段落【0012】の記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
特許異議申立人は平成30年2月16日付け意見書(以下、「意見書」という。)において、訂正要件違反を主張する。
確かに、「排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続すること」については、訂正前の請求項2及び本件特許明細書の段落【0012】に直接の記載はない。
しかし、訂正前の請求項2及び本件特許明細書の段落【0012】には「排気ファンモータの回転数を減少させる」と記載されている。そして、「排気ファンモータの回転数を減少させる」ことが「排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続すること」を包含することは技術常識に照らして明らかである。
よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は訂正前の請求項2を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項1を引用する訂正前の請求項3の請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項に改めると共に、「排気ファンモータの回転数を減少させ」の記載を「給気ファンモータの回転数を増加させ、排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続し」に変更するものである。
ここで、当該変更により発明特定事項が追加されることになるから、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、排気ファンモータの回転数を減少させるにあたって、 給気ファンモータの回転数を増加させることは、本件特許明細書の段落【0013】に記載されている。
よって、当該変更は新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
特許異議申立人は意見書において、訂正要件違反を主張する。
確かに、「排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続すること」について、訂正前の請求項3及び本件特許明細書の段落【0013】に直接の記載はない。
しかし、訂正前の請求項3及び本件特許明細書の段落【0013】には「排気ファンモータの回転数を減少させる」と記載されており、「排気ファンモータの回転数を減少させる」ことが「排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続すること」を包含することは技術常識に照らして明らかである。
よって、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(4)一群の請求項に係る訂正か否かについて
訂正事項1ないし3に係る訂正前の請求項1ないし3について、請求項2及び3はそれぞれ請求項1を引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1-3についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1及び3に係る発明は、本件訂正請求書により訂正された請求項1及び3に記載された次のとおりのものと認められる。
そして、請求項1及び3に係る発明を、以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。

【請求項1】
室内空気と屋外の空気を換気する際に熱交換するための全熱交換素子と、
屋外の空気を室内に取り入れるための給気ファンモータと、
室内の空気を屋外に排出するための排気ファンモータと、
熱交換換気運転と熱交換せず外気を直接取り入れるバイパス換気運転を切り替えるダンパーを備えた全熱交換型換気装置において、
前記ダンパーの切換え、前記ファンモータの運転、停止を制御する制御部を備え、
前記制御部は、本体が停止後一定時間が経過した後、自動的に本体を短時間運転させ、本体内に備えた室外温度、室内温度の検出手段により情報を得た室外と室内の温度差を判断し、夏季において室内温度>室外温度、または冬期において室内温度<室外温度の場合に、ダンパーを前記バイパス換気運転に切換え、外気を室内に直接取り入れ、その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合に前記バイパス換気運転を停止させ、前記制御部は、室外温度と室内温度の温度差が予め定められた温度差以上であるとの情報を得た場合に、前記給気ファンモータの回転数を増加させ、前記排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続することを特徴とした全熱交換型換気装置。

【請求項3】
室内空気と屋外の空気を換気する際に熱交換するための全熱交換素子と、
屋外の空気を室内に取り入れるための給気ファンモータと、
室内の空気を屋外に排出するための排気ファンモータと、
熱交換換気運転と熱交換せず外気を直接取り入れるバイパス換気運転を切り替えるダンパーを備えた全熱交換型換気装置において、
前記ダンパーの切換え、前記ファンモータの運転、停止を制御する制御部を備え、
前記制御部は、室内のCO2濃度を検知するCO2センサーを備え、
前記制御部は、本体が停止後一定時間が経過した後、自動的に本体を短時間運転させ、本体内に備えた室外温度、室内温度の検出手段により情報を得た室外と室内の温度差を判断し、夏季において室内温度>室外温度、または冬期において室内温度<室外温度の場合に、ダンパーを前記バイパス換気運転に切換え、外気を室内に直接取り入れ、予め定められたCO2濃度よりも小さい場合には、前記給気ファンモータの回転数を増加させ、前記排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続し、その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合に前記バイパス換気運転を停止させることを特徴とした全熱交換型換気装置。

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3に係る発明に対して平成29年10月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由をすべて含んでいる。

本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

●刊行物一覧
甲第1号証:特開2011-231973号公報
甲第2号証:特開平8-303825号公報
甲第3号証:特開2012-17868号公報
甲第4号証:特開2011-75143号公報
甲第5号証:特開2007-100983号公報
甲第6号証:特開2009-8376号公報
甲第7号証:特開2001-304645号公報
甲第8号証:特開2005-156138号公報
甲第9号証:特開平11-264590号公報
甲第10号証:特開2000-88298号公報

3.刊行物の記載
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「本発明によれば、外気温度から室内温度を差し引いた温度差が、第2の温度情報が示す温度差よりも大きい場合に、外気冷房運転が行われるので、省エネルギー性の向上と過剰換気の抑制を図ることができるという効果を奏する。」(段落【0007】)

イ.「熱交換換気装置1は、筐体1a、熱交換装置2、給気側送風装置3、排気側送風装置4、外気温度読取装置5、室内温度読取装置6、風路切換装置7、駆動制御装置23を備える。」(段落【0010】)

ウ.「筐体1aには、外気を取り込む屋外側給気口11と、外気を室内に給気する室内側給気口10とが形成される。筐体1aの内部には、屋外側給気口11と室内側給気口10とを結ぶ給気風路13が形成される。筐体1aには、室内空気を取り込む室内側排気口12と、室内空気を屋外に排気する屋外側排気口9とが形成される。筐体1aの内部には、室内側排気口12と屋外側排気口9とを結ぶ排気風路14が形成される。」(段落【0012】)

エ.「熱交換装置2は、筐体1aの内部に収容され、給気風路13と排気風路14の交差する部分に配置される。熱交換装置2には、給気風路13と連通する給気通路2aと、排気風路と連通する排気通路2bが、それぞれ独立して形成される。熱交換装置2は、給気風路13および給気通路2aを通過する外気と、排気風路14および排気通路2bを通過する室内空気との間で熱交換をさせる。」(段落【0013】)

オ.「給気側送風装置3は、給気風路13に設けられる。給気側送風装置3は、運転時に屋外側給気口11から室内側排気口12に向かって空気を流動させる。排気側送風装置4は、排気風路14に設けられる。排気側送風装置4は、運転時に室内側排気口12から屋外側排気口9に向かって空気を流動させる。」(段落【0014】)

カ.「外気温度読取装置5は、給気風路13内に設けられる。外気温度読取装置5は、熱交換装置2よりも上流側に配置されて、外気温度を検出する。室内温度読取装置6は、排気風路14内に設けられる。室内温度読取装置6は、熱交換装置2よりも上流側に配置されて、室内温度を検出する。」(段落【0015】)

キ.「風路切換装置7は、排気風路14内の熱交換装置2よりも上流側に設けられる。風路切換装置7は、熱交換換気装置1による換気において、外気と室内空気との熱交換が行われる熱交換換気と、外気と室内空気との熱交換が行われない普通換気とを選択的に切換える。より具体的には、熱交換換気装置1に熱交換換気を行わせる場合、熱交換装置2の排気通路2bを塞ぐ位置(閉塞位置)に風路切換装置7が移動する。なお、バイパス風路27
を使用した換気運転を外気冷房運転と称す。」(段落【0016】)

ク.「駆動制御装置23は、熱交換換気装置1内の各装置を制御するためのものである。図4は、駆動制御装置23の概略構成を示すブロック図である。駆動制御装置23は、通信線19を介して取得する情報などに基づいて、熱交換換気装置1内の各装置を制御する。」(段落【0019】)

ケ.「開始時刻Tsは、外気冷房運転を開始する時刻を示す情報であり、終了時刻Teは、外気冷房運転を終了する時刻を示す情報である。ここで、本実施の形態1では、開始時刻Tsは直接時刻情報として設定されず、遅延時間(第1の時間情報)Tdを設定することで定まる情報となっている。すなわち、開始時刻Tsは、空気調和装置17が冷房運転を終了してから遅延時間Tdを経過した時刻として定められ、ステップS2では遅延時間Tdが設定されることとなる。例えば、遅延時間Td=3時間と設定した場合、冷房運転がPM11時に終了したとすると、開始時刻Tsはその3時間後であるAM2時となり、その時刻に外気冷房運転が開始される。終了時刻Teは、例えばAM7時程度に設定される。」(段落【0022】)

コ.「温度差T2は、外気冷房運転において普通換気を行うか否かを定める第2の基準となる情報である。室内温度と外気温度の温度差(室内温度-外気温度)が温度差T2よりも大きいとき、外気冷房運転において普通換気を行う。例えば温度差T2=3℃程度である。」(段落【0023】)

サ.「次に、外気冷房運転風量Anを設定する(ステップS6)。外気冷房運転風量Anは、外気冷房運転時の熱交換換気装置1の換気風量ノッチを示す。素早く室内を冷却したい場合には最大風量ノッチに設定し、消費電力を最小に抑制したい場合には最小風量ノッチに設定する。」(段落【0024】)

シ.「制御部26によって夏期であると判定された場合であって(ステップS8,Yes)、冷房運転が停止された場合には(ステップS9,Yes)、メモリ25内にその時刻を停止時刻Tfとして記憶させる。次に、停止時刻Tfに遅延時間Tdを加算した時刻を、開始時刻Tsとして設定する(ステップS10)。例えば、停止時刻TfがPM11時であり、遅延時間Tdが3時間である場合、開始時刻TsはAM2時に設定される。次に、現在の時刻が開始時刻Tsに達したかを判別する(ステップS11)。」(段落【0029】)

ス.「開始時刻Tsとなったときには(ステップS11,Yes)、室内温度読取装置6と外気温度読取装置5にて室内温度と外気温度を測定するために、予め設定された外気冷房運転風量Anで一定時間(例えば5分間)だけ給気側送風装置3と排気側送風装置4を駆動させる。温度読取装置5,6による温度読取時は、風路切換装置7を開放位置に位置させて、熱交換換気にて運転させる(ステップS12)。以下、温度を読取る換気運転のことをセンシング運転と称す。」(段落【0030】)

セ.「その後、メモリ25に予め設定されている終了時刻Teを過ぎているか否かを判別し、終了時刻Teを過ぎていなければ(ステップS13,No)、室内温度読取装置6と外気温度読取装置5にて測定された室内温度と外気温度による条件判定を行う(ステップS14)。ここでの条件判定は、室内温度読取装置6で読取った室内温度が予め設定された目標温度T1以上であるか、および室内温度読取装置6で読取った室内温度が外気温度読取装置5で読取った外気温度より高く、その差が予め設定された温度差T2より大きいか否かを判定するものである。両条件を満たした場合には(ステップS14,Yes)、次ステップへ移行する。」(段落【0031】)

ソ.「例えば、目標温度T1が22℃、温度差T2が3℃であり、センシング運転にて室内温度が30℃、外気温度が23℃であった場合、室内温度30℃は目標温度T1の22℃より高く、室内温度30℃と外気温度23℃の差は温度差T2の3℃よりも大きいため両条件を満たすこととなる。この場合、予め設定された外気冷房運転風量Anで給気側送風装置3と排気側送風装置4を駆動させるとともに、風路切換装置7を閉塞位置に移動させて、外気冷房運転を実行させる(ステップS15)。」(段落【0032】)

タ.「ステップS14で、室内温度が目標温度T1より低い場合、または室内温度と外気温度の差が温度差T2より小さい場合は、給気側送風装置3と排気側送風装置4を停止させて一定時間(例えば55分)経過後に(ステップS16)、再度ステップS12における5分間のセンシング運転を実施し、室内温度と外気温度の比較を行う。これは、一定時間経過する間に外気温度が低下し、外気冷房運転条件を満たすようになった場合を想定した判定である。」(段落【0033】)

以上の記載及び図1ないし3の記載から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「室内空気を屋外に排気する排気風路を流れる空気と、屋外の空気を室内に給気する給気風路を流れる空気との間で熱交換させる熱交換装置と、前記給気風路に設けられ、屋外から室内に向かって空気を流動させる給気側送風装置と、前記排気風路に設けられ、室内から屋外に向かって空気を流動させる排気側送風装置と、流路を切り替えることにより、外気と室内空気との熱交換が行われる熱交換換気運転と、外気と室内空気との熱交換が行われない外気冷房運転とを選択的に切り替える風路切換装置と、を備えた熱交換換気装置において、前記風路切換装置、前記給気側送風装置、及び前記排気側送風装置の駆動を制御する駆動制御装置を備え、前記駆動制御装置は、前記熱交換換気装置に併設される空気調和装置による冷房運転の終了後一定時間が経過した後、自動的に本体を短時間運転させ、本体内に備えた外気温度読取装置及び室内温度読取装置により情報を得た室外と室内の温度差を判定し、夏期において、室内温度が所定の目標温度以上であり、かつ室内温度>室外温度であって当該室内温度と当該室外温度との差が設定された温度差よりも大きい場合に、前記風路切換装置を移動させて前記外気冷房運転によって外気を室内に直接取り入れ、その後、室内温度が所定の目標温度よりも小さい、又は当該室内温度と室外温度との差が所定の温度差以下である場合に、前記外気冷房運転を停止させる熱交換換気装置」

(2)甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「ところで、夏場における外気温の変化を観察すると、夜明け近くにはかなり低下し、締め切った室内温度よりも低くなることがわかっている。そこで、空気調和機とともに熱交換換気機が併設された部屋においては、空気調和機により冷房を開始する前に、室温と外気温とを比較し、外気温の方が低い場合は、冷房に先立ち、換気機により部屋に籠もった熱気を温度の低い外気と入れ換えるようにすることが好ましい。」(段落【0004】)

イ.「この発明はかかる考察のもとになされたもので、換気機をタイマ運転制御することによって、締め切った部屋を使用開始する前に、部屋に籠もった熱気が換気されているように換気機を駆動させる駆動制御装置を提供することを主たる目的とする。また、この発明の他の目的は、夏場に限らず、冬場においても、室温よりも外気温が高い場合に、換気機を駆動させて、相対的に低い部屋内の空気と相対的に高い外気とを入れ換えるようにした換気機の駆動制御装置を提供することである。」(段落【0005】)

ウ.「熱交換換気機3には、給気通路および排気通路が備えられ、給気通路内に温度センサ8が備えられている。図2は、図1に示す熱交換換気機3に備えられた制御装置の構成を示すブロック図である。熱交換換気機3には、該換気機3の駆動制御中枢としての制御回路10が備えられている。制御回路10にはリモコン6からの信号が与えられる。また、温度センサ8の測定温度が与えられる。制御回路10は、リモコン6からの信号および予め定めるプログラム等に基づき、制御を実行する。また、制御回路10にはダンパ位置を変えてダクトを切り換えるダンパモータ11およびファンモータ12が接続されている。ダンパモータ11は、ダンパ位置を変えることによって、熱交換換気機3が排気通路が熱交換器を通る熱交換換気または熱交換器をバイパスする普通換気動作をするよう切り換える。」(段落【0020】)

エ.「この外気温度の測定に必要な運転時間が、測定運転時間T1 である。時間T1 は、たとえば2?3分程度に設定される。」(段落【0027】)

オ.「一例として、夏期の起動時刻は午前2?3時、停止時刻は午前8?9時、運転曜日は月?金曜日とされる。冬期の起動時刻は午前6?7時、停止時刻は午前8?9時、運転曜日は月?金曜日とされる。夏期の起動時刻および停止時刻を上述のようにするのは、通常、明け方には、気密性の高い閉め切った部屋の温度よりも、外気温の方が下がることが多いからである。それゆえ、たとえばオフィスの場合、営業日である月曜日から金曜日までの間は、空気調和機による運転に先立ち、熱交換換気機3によって、外気を導入した予冷運転を行うために、上述のような時刻が設定される。」(段落【0029】)

カ.「冬期において上述の起動時刻および停止時刻を設定するのは、朝日が昇ると、陽の当たらない閉め切った室内の温度よりも、陽の当たる外気温の方が高くなることがあるから、この外気温を導入して予熱を行えるようにしたためである。」(段落【0030】)

キ.「起動時刻になったときには、まず測定運転時間T1の間ファンモータ12が駆動されて、換気運転がされる(ステップS17)。」(段落【0035】)

ク.「冬期モードの場合も、ほぼ同じ制御が実行される。すなわち、ステップS22で測定された温度が室温としてメモリ13にセットされる(ステップS24)。そして冬期の運転曜日が読出されて、予約曜日であれば、さらに起動時刻か否かの判別がされる(ステップS25,S26)。起動時刻であれば、ダンパモータ11により普通換気の通路に切換えられるとともに、測定運転時間T1の間ファンモータ12が駆動される(ステップS27)。そして停止時刻か否かの判別がされ(ステップS28)、停止時刻でなければ、温度センサ8により測定される外気温度がメモリ13に設定されている室温と比較される(ステップS29)。外気温度が室温よりも高ければ、ファンモータ12が駆動され、普通換気運転が実行される(ステップS30)。」(段落【0038】)

(3)甲第3号証の記載
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「制御部は、室内の二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素センサーを持ち、室内の二酸化炭素濃度が予め定められた値以下の場合にのみ、給気用ファンモータ、排気用ファンモータの両方の回転を停止または回転数を減少させることを特徴とした、請求項1?請求項11に記載の全熱交換型の換気装置。」(請求項12)

イ.「また、本発明の請求項13記載の発明は、請求項1?請求項12の発明において、全熱交換型の換気装置の制御部は室内の二酸化炭素を計測するセンサーを備え、計測した二酸化炭素の濃度が予め定められた数値以下の場合にのみ全熱交換型の換気装置のファンモータの回転数を減少させるので、室内の空気の静浄度合いが良好な場合にのみ全熱交換型の換気装置のファンモータの回転数を減少させるという作用を有し、空気の清浄度を優先させた省エネルギーが得られるという効果が得られる。」(段落【0023】)

ウ.「全熱交換型の換気装置1は建物の室内10の天井裏9などに設置され、室内の空気と屋外の空気を熱交換するための全熱交換素子4を備え、屋外の空気を室内に取り入れるための給気ファンモータ3と室内の空気を屋外へ排出するための排気ファンモータ2を備えている。」(段落【0026】
)

エ.「また、制御部は室内の二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素センサー24を備えている。制御部は、二酸化炭素センサーにより計測した室内の二酸化炭素濃度が例えば800ppm以下などの、換気を停止しても良いと判断した場合にのみ全熱交換型の換気装置の換気量を減少させるように制御することで、室内の二酸化炭素の濃度を重視した換気を行うことができ、空気の清浄度を重視した、省エネルギー運転を提供できるという効果が得られる。」(段落【0030】)

(4)甲第4号証の記載
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「外気処理空気調和機10は、筐体11内に外気調温用の全熱交換ユニット30と、この全熱交換ユニット30に接続される空調ユニット60とを備えて構成されている。」(段落【0011】)

イ.「全熱交換ユニット30は、図2に示すように、内気RAと外気OAとの顕熱の熱交換を行う全熱交換素子31と、この全熱交換素子31の屋外側に設けられた排気ファン32と、当該全熱交換素子31の屋内側に設けられた給気ファン33と、筐体11と協働して、内気RAを屋外に全熱交換素子31を経て排出する排出経路34及び外気OAを屋内に全熱交換素子31を経て導入する導入経路35を形成する風路形成体36とを備える。」「また、本構成では、全熱交換ユニット30には、筐体11及び風路形成体36との協働により、内気RAを屋外に全熱交換素子31をバイパスして排出するバイパス経路39が形成されている。」(段落【0012】)

ウ.「さらに、外気処理空気調和機10の停止後(例えば、夜間や休日)に室温が外気温よりも高く空気調和機の設定温度よりも高くなった場合に、空調ユニット60の運転を停止したままで、排気ファン32を駆動し、内気RAを、バイパス開口17c、バイパス経路39を経由して屋外側吹出口15から排気EAとして屋外に排出し、給気ファン33を駆動し、外気OAを給気SAとして屋内に供給する、ナイトパージ運転を自動で行うよう設定することができる。さらに、ナイトパージ運転は室温が外気温もしくは空気調和機の設定温度よりも低くなった時に自動停止するように設定することができる。
これによって、冷暖房負荷を軽減するとともに、省資源、省エネルギー化を図ることができる。」(段落【0023】)

(5)甲第5号証の記載
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「全熱交換器40は、熱交換素子51、送風器53a及び53bを有している。通気口55aから取り入れられた外気は、送風器53bによって流路55に沿って流され、通気口55bから室内に送り込まれる。また、通気口54bから取り入れられた室内の空気は、送風器53aによって流路54に沿って流され、通気口54aから室外へと排出される。流路54及び55に沿って流れる空気はいずれも熱交換素子51を通過する。流路54及び55に沿って取り入れられる外気及び排出される室内の空気が熱交換素子51を共に通過する際に、熱交換素子51を介して外気及び室内の空気の間で全熱が交換される。」(段落【0021】)

(6)甲第6号証の記載
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「換気装置は、例えば、外郭2を構成する風洞3と、この風洞3内で2種類の羽根車(給気羽根車4と排気羽根車5)と、この2種類の羽根車を各々回転させる2種類の駆動用モータ(給気駆動用モータ6と排気駆動用モータ7)により換気機能を果たす構成となっている。」(段落【0077】)

イ.「室外温度が室内温度よりも低くなった場合は、外気冷房が可能となり、例えば室外温度と室内温度の差が基準温度差(一例として室内温度?室外温度=2K)が付いた場合には、外気冷房をする条件が整い、給気羽根車4と給気駆動用モータ6の回転速度を向上して、臨時給気を増加して外気冷房の効果を十分に得ることができる。」(段落【0095】)

ウ.「そして、給気羽根車4と給気駆動用モータ6の回転速度を向上して、外周風路12を通過する風量を増加するときに、排気羽根車5および排気駆動用モータ7は回転速度をそのままにしているため、内周風路8の静圧と外周風路12の静圧がアンバランスとなり、給気羽根車4と給気駆動用モータ6の回転速度の変化量が大きい場合には(一例として常時給気30m3/hに対して臨時給気120m3/hにした場合)、内周風路8と外周風路12の間の隙間から空気が短絡して、排気羽根車5および排気駆動用モータ7を動作している方が、有効換気量が低減する場合もある。このような場合は、排気羽根車5および排気駆動用モータ7を停止させることで、空気の短絡を防止して、有効換気量を比較的に多くすることができ、省エネに運転することができる。」(段落【0096】)

(7)甲第7号証の記載
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「熱交換換気機2は、給気Sと排気Eを熱交換器9で交差させ、給気Sと排気Eとの間で熱交換させる熱交換換気と、排気Eに熱交換器3を迂回させて上記の熱交換を回避する普通換気とを択一的に切り換えるようにしている。」(段落【0012】)

イ.「炭酸ガスセンサは図4に示すように、室1内の所定位置に配置されており、室1内の炭酸ガス濃度を検出する。再び図3を参照して、制御部36には、給気ファン15および排気ファン10をそれぞれ駆動するための給気ファン駆動回路37および排気ファン駆動回路38、並びにダンパ駆動用のモータ34を駆動するためのダンパ駆動回路39が接続されており、制御部36から各駆動回路37,38,39へ制御信号が出力されるようになっている。」(段落【0016】)

ウ.「上記の熱交換換気の実施に際して、ステップS10にて炭酸ガスの濃度のレベルを判定し、炭酸ガス濃度のレベルに応じて、給気ファン15および排気ファン10を最大風量HH、大風量H、中風量Mおよび低風量Lで運転し、炭酸ガス濃度が非常に低い場合はファン10,15の運転を停止して、換気を止める。」(段落【0020】)

(8)甲第8号証の記載
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「請求項1に記載の換気制御装置において、
制御手段(12)は、濃度検知手段(11)で測定された二酸化炭素濃度(C)の増減に伴って排気手段(30)の排気量を増減させるように構成されていることを特徴とする換気制御装置。」(請求項8)

イ.「請求項8に記載の換気制御装置において、
制御手段(12)は、規定濃度(Cs)を決定する外部情報が入力される設定入力部(40)を有し、濃度検知手段(11)で測定された二酸化炭素濃度(C)が上記規定濃度(Cs)よりも大きい場合に、排気手段(30)の排気量を多くする一方、上記二酸化炭素濃度(C)が上記規定濃度(Cs)よりも小さい場合に、排気手段(30)の排気量を小さくするように構成されていることを特徴とする換気制御装置。」(請求項9)

ウ.「一方、このようにして厨房空間内の二酸化炭素濃度が低くなった場合には、CO2濃度センサ(11)で検知された信号に基づき排気ファン(30)の排気量が減少される。このように厨房空間内の排気量が減少すると、排気ファン(30)の動力が低減される。」(段落【0088】)

(9)甲第9号証の記載
甲第9号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「図1において、1は室内外への空気の流れを発生させる例えば送風機とモータを備えた換気扇からなる換気機能部、2は換気機能部1の運転すべき能力を演算する能力演算部である。」(段落【0012】)

イ.「そこで、この第4実施形態では、常に教室内CO_(2)濃度と外気CO_(2) 濃度とを検出して比較し、教室内CO_(2)濃度が外気CO_(2)濃度と同程度まで低下したら、換気機能部1の運転を、通常量すなわち換気量(B)による運転に戻し、または完全停止させることで、無駄なエネルギの消費を防ぐようにしている。」(段落【0028】)

(10)甲第10号証の記載
甲第10号証には、以下の事項が記載されている。

ア.「夏場の夜間などの空気調和機が停止している時間帯では建物内の温度が上昇する。このため、朝の空気調和機の運転開始時に冷房負荷が集中する。そこで、夜間の冷たい外気を建物内に取り入れて、朝の運転開始時に生じる冷房負荷を軽減するナイトパージ装置が従来より利用されている。」(段落【0002】)

イ.「図5は、かかる従来のナイトパージ装置の構成を示す図である。同図に示すように、このナイトパージ装置では外気を建物内に取り入れるための換気装置1に該換気装置1の運転又は停止を手動で指示するための換気装置操作部2が取り付けられている。」(段落【0003】)

ウ.「こうすれば、例えば外気温度が十分に下がってから前記換気装置の運転を開始することができ、外気温度が建物内の温度よりも低くなった場合に直ちに換気装置の運転を開始する従来技術に比し、前記換気装置の運転時間を短くすることができる。また、十分に気温の下がった外気を建物内に取り入れることができるため、効率よく建物内の気温を下げることができる。」(段落【0008】)

4.判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。

[相違点1]
本件発明1は、制御部が、室外温度と室内温度の温度差が予め定められた温度差以上であるとの情報を得た場合に、給気ファンモータの回転数を増加させ、排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続するのに対し、甲1発明の駆動制御装置は、そのような制御を行っていない点

以下、上記相違点1について検討する。
本件発明1は、室外温度と室内温度の温度差が予め定めた温度差以上である場合に給気ファンモータの回転数を増加させ、排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続するという構成を備え、これにより、給気風量を排気風量よりも多く取り入れることにより、短時間で外気を利用した、空調負荷低減効果を得るものである(段落【0012】参照。)のに対し、甲第1号証にはそのような構成及び効果の記載はない。
申立人は、特許異議申立書において、甲第6号証に給気駆動用モータ(給気ファンモータ)の回転数を増加させ、排気駆動用モータ(排気ファンモータ)を停止する構成が記載されており、当該構成を甲1発明に適用することにより、本件発明1は当業者が容易に発明できたものであると主張している(36頁4行?37頁16行参照)。
しかし、甲第6号証記載のものは、「排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続する」という構成を備えていない。
また、甲第6号証記載のものは、給気用の外周風路と排気用の内周風路が隣接している換気装置において、給気駆動用のモータの回転速度を向上させて、外周風路の通過する風量が増加する場合に、内周風路の排気駆動用モータの回転速度をそのままにしていると内周風路と外周風路の静圧がアンバランスになり、内周風路と外周風路の間の隙間から空気が短絡することを防ぐために、排気駆動用モータを停止するものであり(上記3.(6)ウ.参照)、給気用風路と排気用風路が隣接していない甲第1号証(図1,2参照)に適用する動機付けはなく、また、あえて排気駆動用モータを停止させることなく、回転数を減少させつつ排気を継続するような構成を採用する動機付けがあるとは認められない。
よって、甲1発明に甲第6号証に記載された事項を適用して本願発明1のごとくすることを当業者が容易になし得たということはできない。
なお、申立人は意見書に添付した参考資料1(特開2004-270979号公報)に基づき、「排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続する」ことは周知な技術である旨主張している。
しかし、甲第1号証にはそもそも給気ファンモータ及び排気ファンモータの回転数を増減させることに関する記載がない以上、甲1発明に参考資料1に記載された技術を適用することはできない。
そして、その他引用刊行物にも、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項が記載されているものとは認められないから、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲第1?10号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たとは言えない。
よって、本件発明1を甲第1ないし10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたということはできない。

なお、申立人は、意見書において特許法第36条第6項第1号及び第2号違反の主張も行っている。
しかし、訂正後の請求項1は訂正前の請求項1を訂正前の請求項2に係る発明特定事項で限定したものであるといえることからすれば、当該主張は、異議申立て時に主張できたものであり、実質的に新たな取消理由に係る主張にあたる。
よって、特許異議申立期間が特許掲載公報発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえ、当該主張を採用することはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2と甲1発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。

[相違点2]
本件発明2は、制御部が室内のCO_(2)濃度を検知するCO_(2)センサーを備え、予め定められたCO_(2)濃度よりも小さい場合には、給気ファンモータの回転数を増加させ、排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続し、その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合にバイパス換気運転を停止させるのに対し、甲1発明の駆動制御装置は、そのような制御を行っていない点

以下、上記相違点2について検討する。
本件発明2は、予め定められたCO_(2)濃度よりも小さい場合には、給気ファンモータの回転数を増加させ、排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続し、その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合にバイパス換気運転を停止させることにより、必要換気量を確保しながら、短時間で外気を利用した空調負荷低減効果を得るものである(段落【0013】参照。)のに対し、甲第1号証にはそのような構成及び効果の記載はない。
申立人は、特許異議申立書において、甲第3,7ないし9号証に換気装置にCO_(2)センサーを設け、当該CO_(2)センサーによって検出されたCO_(2)濃度が所定の濃度よりも小さい場合に、給気ファン及び排気ファンの少なくとも何れかの回転数を低下させる構成が記載されており、当該構成を甲1発明に適用することにより、本件発明2は当業者が容易に発明できたものであると主張している(37頁17行?38頁23行参照)。
しかし、甲第3,7ないし9号証記載ものは、「予め定められたCO_(2)濃度よりも小さい場合には、給気ファンモータの回転数を増加させ、排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続し、その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合にバイパス換気運転を停止させる」という構成を備えていない。
そして、たとえ甲1発明及び甲第3,7ないし9号証記載の発明が換気装置という同一技術分野におけるものであり、甲1発明に、甲第3,7ないし9号証に記載された事項を適用することが容易だとしても、CO_(2)センサーによって検出されたCO_(2)濃度が所定の濃度よりも小さい場合に、単に給気ファン又は排気ファンの回転数を低下させ換気量を減少させるのみではなく、給気ファンモータの回転数を増加させ、排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続することまでが当業者にとって容易であるとはいえない。
本件発明2の、必要換気量を確保しながら、短時間で外気を利用した空調負荷低減効果を得るという効果は、当該相違点2に係る構成を採用したことにより始めて生じる効果である。
なお、申立人は当該相違点2について、参考資料1に基づき容易になし得る設計的事項にすぎないと主張しているが、甲第1号証及び甲第3,7ないし9号証には、そもそも排気ファンモータの回転数を減少させるにあたって、給気ファンモータの回転数を増加させる点についての記載がない以上、甲1発明に給気ファンと排気ファンの双方の回転数を制御する参考資料1記載の技術を適用する前提が存在しない。
また、その他引用刊行物にも、上記相違点2に係る本件発明2の特定事項が記載されているものとは認められないから、相違点2に係る本件発明2の構成は、甲1発明及び甲第1ないし10号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たとは言えない。
よって、本件発明2を甲第1ないし10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたということはできない。

なお、申立人は、意見書において特許法第36条第6項第1号及び第2号違反の主張も行っている。
しかし、訂正後の請求項3は訂正前の請求項1を訂正前の請求項3に係る発明特定事項で限定すると共に、さらに明細書に記載された構成で限定したものであるといえることからすれば、当該主張は、異議申立て時に主張できたものであり、実質的に新たな取消理由に係る主張にあたる。
よって、特許異議申立期間が特許掲載公報発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえ、当該主張を採用することはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1及び3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許は本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2に対して申立人がした特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の空気と屋外の空気を換気する際に熱交換するための全熱交換素子と、
屋外の空気を室内に取り入れるための給気ファンモータと、
室内の空気を屋外に排出するための排気ファンモータと、
熱交換換気運転と熱交換せず外気を直接取り入れるバイパス換気運転を切り替えるダンパーを備えた全熱交換型換気装置において、
前記ダンパーの切換え、前記ファンモータの運転、停止を制御する制御部を備え、
前記制御部は、本体が停止後一定時間が経過した後、自動的に本体を短時間運転させ、本体内に備えた室外温度、室内温度の検出手段により情報を得た室外と室内の温度差を判断し、夏期において室内温度>室外温度、または冬期において室内温度<室外温度の場合に、ダンパーを前記バイパス換気運転に切換え、外気を室内に直接取り入れ、その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合に前記バイパス換気運転を停止させ、前記制御部は、室外温度と室内温度の温度差が予め定められた温度差以上であるとの情報を得た場合に、前記給気ファンモータの回転数を増加させ、前記排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続することを特徴とした全熱交換型換気装置。
【請求項2】 削除
【請求項3】
室内の空気と屋外の空気を換気する際に熱交換するための全熱交換素子と、
屋外の空気を室内に取り入れるための給気ファンモータと、
室内の空気を屋外に排出するための排気ファンモータと、
熱交換換気運転と熱交換せず外気を直接取り入れるバイパス換気運転を切り替えるダンパーを備えた全熱交換型換気装置において、
前記ダンパーの切換え、前記ファンモータの運転、停止を制御する制御部を備え、
前記制御部は、室内のCO_(2)濃度を検知するCO_(2)センサーを備え、
前記制御部は、本体が停止後一定時間が経過した後、自動的に本体を短時間運転させ、本体内に備えた室外温度、室内温度の検出手段により情報を得た室外と室内の温度差を判断し、夏期において室内温度>室外温度、または冬期において室内温度<室外温度の場合に、ダンパーを前記バイパス換気運転に切換え、外気を室内に直接取り入れ、予め定められたCO_(2)濃度よりも小さい場合には、前記給気ファンモータの回転数を増加させ、前記排気ファンモータの回転数を減少させつつ排気を継続し、その後、室外温度と室内温度の差がなくなった場合に前記バイパス換気運転を停止させることを特徴とした全熱交換型換気装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-29 
出願番号 特願2012-187176(P2012-187176)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F24F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 信也  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 井上 哲男
田村 嘉章
登録日 2017-01-20 
登録番号 特許第6074651号(P6074651)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 全熱交換型換気装置  
代理人 鎌田 健司  
代理人 前田 浩夫  
代理人 鎌田 健司  
代理人 前田 浩夫  

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