ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01B |
---|---|
管理番号 | 1340121 |
異議申立番号 | 異議2017-700976 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-12 |
確定日 | 2018-04-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6114331号発明「耐屈曲電線及びワイヤハーネス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6114331号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6114331号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6114331号の請求項1-4に係る特許についての出願は、平成27年4月6日に特許出願され、平成29年3月24日にその特許権の設定登録がされ、その特許に対して、平成29年10月12日に特許異議申立人 山本 美智子により特許異議の申立てがされた。そして、平成29年12月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月2日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、特許異議申立人 山本 美智子から平成30年3月20日付けで意見書が提出されたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成30年2月2日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す。 (1)訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に「導電性の素線を複数本撚ることにより形成される集合撚線を更に複数本撚って形成される複合撚線を導体部とする耐屈曲電線」と記載されているのを、「純銅からなる導電性の素線を複数本撚ることにより形成される集合撚線を更に複数本撚って形成される複合撚線を導体部とする耐屈曲電線」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2-4も同様に訂正する)。 2.訂正要件についての判断 (1)一群の請求項要件 訂正前の請求項1-4は、請求項2-4が、訂正の対象である請求項1を引用する関係にあるから、これらの請求項は訂正前において一群の請求項に該当する。本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法120条の5第4項に規定する要件を満たす。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項は、訂正前の請求項1の「導電性の素線」が、「純銅からなる導電性の素線」として材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項の「導電性の素線」が「純銅からなる」ことに関して、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」という。)の発明の詳細な説明の段落【0022】に「・・・。なお、素線11cとして本実施形態では純銅を用いるものとする。」と、段落【0023】に「・・・。なお、47.2倍という値は、素線11cが純銅である場合により好適となる値である。すなわち、屈曲時に純銅で構成される素線11cに掛かる応力を小さくでき、撚り崩れが発生し耐屈曲性が低下してしまうことを防止できる値である。」と、段落【0027】に「・・・。なお、30倍という値は、素線11cが純銅である場合における集合撚線11を撚る際に好適となる値である。・・・」と、段落【0029】に「ここで、上記したように、集合撚線11の撚りピッチは小さいほど耐屈曲性が向上するため、可能であれば5倍未満とすることも考えられる。しかし、本実施形態では素線11cが純銅であるため、純銅を素線11cとする場合の製造時の限界を考慮すると、層心径D2の5倍以上とする必要がある。なお、素線11cがアルミニウム合金などの他の金属であれば、層心径D2の8倍が製造時の限界となってしまう。しかし、本実施形態のように素線11cに純銅を用いれば、集合撚線11の撚りピッチを、層心径D2の5倍以上8倍未満とすることができ、他の金属と比べて耐屈曲性を大きく向上させることとなる。」と、段落【0034】に「まず、実施例及び比較例においては、7本の純銅からなる素線のうち1本を中心とし、その周囲に6本の素線を撚ることで集合撚線を形成した。・・・」との記載がされいることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立について 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 純銅からなる導電性の素線を複数本撚ることにより形成される集合撚線を更に複数本撚って形成される複合撚線を導体部とする耐屈曲電線であって、 前記集合撚線それぞれは、前記素線の撚りピッチが、撚り外径の10倍以上47.2倍以下であり、 前記複合撚線は、前記集合撚線の撚りピッチが、層心径の5倍以上30倍以下であり、 前記素線の撚りピッチは前記集合撚線の撚りピッチ以下とされている ことを特徴とする耐屈曲電線。 【請求項2】 前記集合撚線の撚りピッチを、前記素線の撚りピッチで割り込んだ値であるピッチ比率が1.00以上1.52以下である ことを特徴とする請求項1に記載の耐屈曲電線。 【請求項3】 前記素線の撚り方向と、前記集合撚線の撚り方向とが同じである ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の耐屈曲電線。 【請求項4】 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の耐屈曲電線を含む ことを特徴とするワイヤハーネス。」 2.取消理由の概要 訂正前の請求項1-4に係る特許に対して平成29年12月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア.取消理由1 請求項1-4に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 イ.取消理由2 請求項1-4に係る発明は、下記の甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、請求項1-4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 ウ.取消理由3 請求項1-4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:特開2006-156346号公報 3.甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同じ。) a.「【0001】 本発明は、柔軟性に優れた複合撚線に関するものであり、特に、自動車等に用いられる柔軟性に優れた通電用複合撚線導体に関するものである。 【0002】 自動車等に用いられる通電用の複合撚線導体の材質は、従来、銅が主力であった。近年、省エネルギー、環境問題等の面から自動車等の軽量化が要求されている。そのため、通電用複合撚線導体についても軽量化が課題となっている。軽量方法として、銅に換えて比重の小さいアルミニウムを用いることが考えられる。」 b.「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 近年、電気自動車やハイブリッドカーなど、大容量のバッテリーを有する自動車が開発されている。このバッテリーからの送電するための導体としても、アルミニウム複合撚線が用いられている。これらは通電量が大きいために、従来よりも径の大きい複合撚線を用いる。しかし径が大きくなると車体取り付け時に作業しにくくなるという懸念がある。また、限られたスペースに配置する必要があるため、より柔軟性に優れた複合撚線導体が求められている。本発明は前記問題を解決し、柔軟性に優れた複合撚線導体を提供することを目的とする。」 c.「【0011】 本発明の第6の態様は、第5の態様の複合撚線導体において、中心集合撚線5、第1層集合撚線9、第1層複合撚線11、第2層集合撚線15、および第2層複合撚線17のすべてが同一方向に撚られていることを特徴とする複合撚線導体である。 なお、本発明において「層心径」とは、撚線の外径から素線1個の外径を減じた長さの径を意味する。」 d.「【発明を実施するための最良の形態】 【0013】 以下に、本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明の複合撚線導体1は、素線を複数本撚り合わせて集合撚線とし、前記集合撚線を複数本撚り合わせた複合撚線からなり、中心集合撚線5と、第1層集合撚線9および第1層複合撚線11と、第2層集合撚線15および第2層複合撚線17と、複数層の集合撚線および複合撚線のすべてが同一方向に撚られている複合撚線導体1である。 【0014】 図1(a)は、複合撚線導体1の一部を切断して示した部分斜視図である。図1(b)は、複合撚線導体1の断面略図である。図1(b)中の矢印は、下記で説明する素線3または素線7または素線13の撚り方向を示したものである。複合撚線導体1は、素線3を用いて、例えば左撚りして束ねた中心集合撚線5を中心にし、次いで、素線7を用いて左撚りして束ねた第1層集合撚線9を6本使用して左方向に撚って第1層複合撚線11となる。 【0015】 さらに素線13を用いて左撚りして束ねた第2層集合撚線15を12本用い、前記第1層複合撚線11の周囲に左方向に撚って第2層複合撚線17となる。前記第2層複合撚線17の表面に密着するように、被覆絶縁体21が被覆されている。 【0016】 前記中心集合撚線5の撚り方向は、その周囲に設けられた第1層複合撚線11の撚り方向と同方向にすると柔軟性が向上して好ましい。」 e.「【実施例】 【0033】 本発明の実施例として、以下の手順で撚り機を用い複合撚線導体を作製した。まず、直径が0.32mmのアルミニウムの素線3を13本用いて左撚りして束ねた中心集合撚線5を中心にし、その周囲に直径が0.32mmのアルミニウムの素線7を13本用いて左撚りして束ねた第1層集合撚線9を6本使用して左方向に撚って第1層複合撚線11とした。本発明例16?24では、このまま複合撚線導体として用いた。 【0034】 また、本発明例1?15では、前記第1層複合撚線11の周囲に、アルミニウムの素線13を13本用いて左撚りして束ねた第2層集合撚線15を12本使用して左方向に撚って第2層複合撚線17とした。比較のために素線の種類、撚り角度、ピッチを適宜変更して比較例1?22の複合撚線導体を作製した。 【0035】 作製した複合撚線導体1をJISC2133に準じ、図3に示すような柔軟性試験装置51を用いて評価した。まず、本発明例、比較例ともに長さ150mm、断面積が20mm^(2)の複合撚線導体1を各5本作製した。これらの複合撚線導体1の一端に160gの錘57をつけた状態で、前記複合撚線導体1の他端を導体固定具55により、直径が90mmのマンドレル53に固定した。複合撚線導体1の一端(錘57をつけた側)とマンドレル53との水平距離を変位量Lとして測定し、前記変位量Lが少ないほうが柔軟性に優れているとした。複合撚線導体1を取替え、同様の試験を5回行い、変位量Lの平均値を用いて比較した。表1、表2に前記比較結果を示す。なお、表1、2中、「ピッチ倍率」は「層心径(mm)/ピッチ(mm)」で示される倍率である。」 f.【0037】 【表2】 ア.上記e.の段落【0033】には「本発明例16」として、直径が0.32mmのアルミニウムの素線3を13本用いて左撚りして束ねた中心集合撚線5を中心にし、その周囲に直径が0.32mmのアルミニウムの素線7を13本用いて左撚りして束ねた第1層集合撚線9を6本使用して左方向に撚って第1層複合撚線11とした複合撚線導体が記載されている。 ここで、中心集合撚線5及び第1層集合撚線9は素線3及び素線7を13本用いて左撚りして束ねたものであり、第1層複合撚線11は、第1層集合撚線9を左方向に撚ったものであるから、中心集合撚線5及び第1層集合撚線9と、第1層複合撚線11の撚り方向は同じ方向と認められる。 イ.上記a.及び上記b.には、甲第1号証の複合撚線導体は、自動車用の柔軟性に優れたものであること、また、上記b.の記載によれば、複合撚線導体は、自動車のバッテリーからの送電するための導体として用いられること、が記載されている。 したがって、甲第1号証には、自動車のバッテリーからの送電するための導体として用いられる柔軟性に優れた複合撚線導体、が記載されているといえる。 ウ.上記c.には、層心径は撚線の外径から素線1個の外径を減じた長さの径であることが記載されている。 エ.また、上記e.の段落【0035】には「ピッチ倍率」は「層心径(mm)/ピッチ(mm)」であると記載されているが、上記f.の【表2】の記載によれば、「中心集合撚線」においては、「ピッチ」がおおよそ35mm程度であり、「ピッチ倍率」はおおよそ30倍前後であり、「ピッチ倍率」が「層心径(mm)/ピッチ(mm)」であるとすると、「層心径」は35×30となり1050mmとなるが、中心集合撚線は、直径が0.32mmのアルミニウムの素線3を13本用いて左撚りしたものであり、「層心径」は1?2mm程度と考えれ、明らかに大きな値となっており、ここで、「ピッチ倍率」が「ピッチ(mm)/層心径(mm)」とすれば、「層心径」は35/30となり1.16mm程度となることから、明らかに、該記載は「ピッチ倍率」は「ピッチ(mm)/層心径(mm)」の誤記と認められる。 オ.上記f.の【表2】によれば、「本発明例16」の複合撚線導体は、「中心集合撚線5」及び「第1層集合撚線9」の「ピッチ」及び「ピッチ倍率」が、各々「36.8mm」及び「28.0」であることが記載されている。 そして、上記エ.より、「ピッチ倍率」=「ピッチ(mm)/層心径(mm)」であるから、層心径(mm)=ピッチ(mm)/ピッチ倍率であって、「本発明例16」の層心径(mm)=36.8/28.0=1.31(mm)となる。 ここで、「本発明例16」の「中心集合撚線5」及び「第1層集合撚線9」の「外径」を考えると、上記ウ.によれば「層心径」が「撚線の外径から素線1個の外径を減じた長さの径」であるから、「外径」は「層心径」に「素線1個の外径」を加えたものであり、また、「中心集合撚線5」及び「第1層集合撚線9」における「素線1個の外径」は上記ア.より0.32mmである。 したがって、「本発明例16」の「中心集合撚線5」及び「第1層集合撚線9」の「外径」=0.32+1.31=1.63(mm)である。 してみると、「本発明例16」の「中心集合撚線5」及び「第1層集合撚線9」における「ピッチ」は、「外径」の22.5(=36.8/1.63)倍であるといえる。 カ.上記f.【表2】の記載によれば、「本発明例16」の「第1層複合撚線11」では「ピッチ倍率」が「19.0」であって、「ピッチ倍率」は「ピッチ(mm)/層心径(mm)」であるから、「第1層複合撚線11」における「ピッチ」は、「層心径」の19倍であるといえる。 キ.さらに、上記f.の【表2】によれば、「本発明例16」の「中心集合撚線5」及び「第1層集合撚線9」における「ピッチ」は36.8mmであって、「第1層複合撚線11」における「ピッチ」は50.0mmであることが記載されている。 上記記載事項(特に、下線部)によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が開示されていると認められる。 「直径が0.32mmのアルミニウムの素線3を13本用いて左撚りして束ねた中心集合撚線5を中心にし、その周囲に直径が0.32mmのアルミニウムの素線7を13本用いて左撚りして束ねた第1層集合撚線9を6本使用して左方向に撚って第1層複合撚線11とした複合撚線導体であって、 中心集合撚線5及び第1層集合撚線9と、第1層複合撚線11の撚り方向は同じ方向であり、 中心集合撚線5及び第1層集合撚線9におけるよりピッチは、外径の22.5(=36.8/1.63)倍であり、 第1層複合撚線11におけるピッチは、層心径の19倍であり、 中心集合撚線5及び第1層集合撚線9におけるピッチは36.8mmであって、第1層複合撚線11におけるピッチは50.0mmである、 自動車のバッテリーからの送電するための導体として用いられる柔軟性に優れた複合撚線導体。」 4.対比・判断 ア.取消理由通知に記載した取消理由について (ア)取消理由1(特許法第29条1項3号)について (a)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比すると以下のとおりである。 ・甲1発明の「アルミニウムの素線3」と、本件発明1の「純銅からなる導電性の素線」とは、「導電性の素線」の点で共通する。 ・甲1発明の「中心集合撚線5」及び「第1層集合撚線9」は、「直径が0.32mmのアルミニウムの素線3、7を13本用いて左撚りして束ねた」ものであるから、本件発明1の「導電性の素線を複数本撚ることにより形成される集合撚線」に相当する。 ・甲1発明の「複合撚線導体」は、「中心集合撚線5を中心にし、その周囲に」「第1層集合撚線9を6本使用して左方向に撚っ」たものであるから、本件発明1の「集合撚線を更に複数本撚って形成される複合撚線」に相当する。 ・甲1発明の「中心集合撚線5及び第1層集合撚線9におけるよりピッチは、外径の22.5(=36.8/1.63)倍」であることは、本件発明1の「前記集合撚線それぞれは、前記素線の撚りピッチが、撚り外径の10倍以上47.2倍以下であり」に含まれるものである。 ・甲1発明の「第1層複合撚線11におけるピッチは、層心径の19倍」であることは、本件発明1の「前記複合撚線は、前記集合撚線の撚りピッチが、層心径の5倍以上30倍以下であり」に含まれるものである。 ・甲1発明の「中心集合撚線5及び第1層集合撚線9」の「36.8mm」である「ピッチ」は、「アルミニウムの素線3」の撚りピッチであることは明らかであり、同様に、「第1層複合撚線11」の「50.0mm」である「ピッチ」は、「中心集合撚線5及び第1層集合撚線9」の撚りピッチであることは明らかであるから、「アルミニウムの素線3」の撚りピッチは、「中心集合撚線5及び第1層集合撚線9」の撚りピッチ以下と認められる。 ・甲1発明の「複合撚線導体」は、「自動車のバッテリーからの送電するための導体として用いられる」ものであるから電線といえ、また、柔軟性があることから耐屈曲性がある程度あることは明らかであるから、甲1発明の「複合撚線導体」は、請求項1に係る発明の「耐屈曲電線」に相当する。 そうすると、両者は、 <一致点> 「導電性の素線を複数本撚ることにより形成される集合撚線を更に複数本撚って形成される複合撚線を導体部とする耐屈曲電線であって、 前記集合撚線それぞれは、前記素線の撚りピッチが、撚り外径の10倍以上47.2倍以下であり、 前記複合撚線は、前記集合撚線の撚りピッチが、層心径の5倍以上30倍以下であり、 前記素線の撚りピッチは前記集合撚線の撚りピッチ以下とされている ことを特徴とする耐屈曲電線。」 の点で一致し、少なくとも次の点で相違する。 <相違点1> 上記「導電性の素線」が、本件発明1では、「純銅からなる導電性の素線」であるのに対して、甲1発明では、アルミニウムの素線である点。 このように、本件発明1は、甲1発明と少なくとも相違点1において相違するものであり、この点が周知技術であるともいえないことから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。 (b)本件発明2-4について 本件発明1を引用する本件発明2-4は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明ではない。 (イ)取消理由2(特許法第29条2項)について (a)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記「(ア)取消理由1(特許法第29条1項3号)について」の「(a)本件発明1について」で記したように、上記相違点1で相違する。 上記相違点1について検討するに、甲第1号証の段落【0002】の記載には「自動車等に用いられる通電用の複合撚線導体の材質は、従来、銅が主力であった。近年、省エネルギー、環境問題等の面から自動車等の軽量化が要求されている。そのため、通電用複合撚線導体についても軽量化が課題となっている。軽量方法として、銅に換えて比重の小さいアルミニウムを用いることが考えられる。」とあり、自動車用の複合撚線導体の材質としては、軽量化の点からアルミニウムが好ましいことが記載されており、また、甲第1号証には、実施例としてアルミニウムの素線を用いた複合撚線導体しか記載されておらず、そして、甲1発明の「複合撚線導体」は、「自動車のバッテリーからの送電するための導体として用いられる」ものであるから、甲1発明において、「複合撚線導体」の素線の材質を軽量である「アルミニウム」に代えて「純銅」を用いる動機付けが存在しないことから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 特許異議申立人は、平成30年3月20日付け意見書において、本件特許の出願時において、素線の材料として、「純銅」は周知の材料であったことは自明であり、甲第1号証の段落【0002】にも、複合撚線導体の材質として、「銅」が主力であることが記載されており、また、本件特許の出願時の技術常識において、素線の材料は、「銅」と「アルミニウム」にほぼ限定され、選択肢は非常に限られていたことから、甲1発明における素線の材料を「純銅」に置換えることは当業者にとって容易であった(2頁19-25行)旨主張している。 確かに、素線の材料として、「純銅」は周知の材料であり、甲第1号証の段落【0002】には、複合撚線導体の材質として、「銅」が主力であることが記載されている。 しかしながら、上記したように甲第1号証の段落【0002】の記載には自動車用の複合撚線導体の材質としては、軽量化の点からアルミニウムが好ましいことも記載されており、そして、甲1発明の「複合撚線導体」は、「自動車のバッテリーからの送電するための導体として用いられる」ものであるから、甲1発明において、「複合撚線導体」の素線の材質を軽量である「アルミニウム」に代えて「純銅」を用いる動機付けがなく、甲1発明における素線の材料を「純銅」に置換えることは当業者にとって容易であったとはいえない。 (b)本件発明2-4について 本件発明1を引用する本件発明2-4は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 (ウ)取消理由3(特許法第36条6項1号)について 本件発明1の「純銅からなる導電性の素線を複数本撚ることにより形成される集合撚線を更に複数本撚って形成される複合撚線」であって、「前記複合撚線は、前記集合撚線の撚りピッチが、層心径の5倍以上30倍以下であ」ることは、本件特許明細書等の段落【0029】には「ここで、上記したように、集合撚線11の撚りピッチは小さいほど耐屈曲性が向上するため、可能であれば5倍未満とすることも考えられる。しかし、本実施形態では素線11cが純銅であるため、純銅を素線11cとする場合の製造時の限界を考慮すると、層心径D2の5倍以上とする必要がある。なお、素線11cがアルミニウム合金などの他の金属であれば、層心径D2の8倍が製造時の限界となってしまう。しかし、本実施形態のように素線11cに純銅を用いれば、集合撚線11の撚りピッチを、層心径D2の5倍以上8倍未満とすることができ、他の金属と比べて耐屈曲性を大きく向上させることとなる。」と記載されている。 よって、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2-4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。 特許異議申立人は、平成30年3月20日付け意見書において、訂正により追加された「純銅」がどの程度の純度を指すのかは、本件特許明細書に記載されておらず、本件特許の出願時における技術常識から明らかであるともいえないことから、不明確であって、本件訂正発明1-4は製造することができず、課題を解決することができないことから、取消理由3が解消されていない(5頁11-17行)旨主張している。 しかしながら、通常、「純銅」が不純物をできるかぎり含んでいないものであることは明らかであって、不明確な記載とはいえず、課題が解決することができないとはいえないことから、上記主張は認められない。 イ.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、訂正前の請求項1-4に係る特許について、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨主張している。 (ア)本件発明1 a.特許異議申立書における主張 特許異議申立人の主張の概略は次の通りである。 少なくとも、素線11cの材質が「アルミニウム合金などの他の金属」であり、「集合撚線11の撚りピッチ」が「層心径の8倍」未満である場合、本件発明1-4に係る耐屈曲電線は製造できない。 したがって、訂正前の請求項1-4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書第4頁第5-8行、第18頁19-22行) b.判断 訂正により、素線の材質が「純銅」に限定されており、、「集合撚線11の撚りピッチ」が「層心径の8倍」未満である場合にも、本件発明1-4に係る耐屈曲電線は製造できるものであり、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものとはいえない。 したがって、特許異議申立人の主張には理由がない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立ての理由によっては、本件発明1乃至4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1乃至4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 純銅からなる導電性の素線を複数本撚ることにより形成される集合撚線を更に複数本撚って形成される複合撚線を導体部とする耐屈曲電線であって、 前記集合撚線それぞれは、前記素線の撚りピッチが、撚り外径の10倍以上47.2倍以下であり、 前記複合撚線は、前記集合撚線の撚りピッチが、層心径の5倍以上30倍以下であり、 前記素線の撚りピッチは前記集合撚線の撚りピッチ以下とされている ことを特徴とする耐屈曲電線。 【請求項2】 前記集合撚線の撚りピッチを、前記素線の撚りピッチで割り込んだ値であるピッチ比率が1.00以上1.52以下である ことを特徴とする請求項1に記載の耐屈曲電線。 【請求項3】 前記素線の撚り方向と、前記集合撚線の撚り方向とが同じである ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の耐屈曲電線。 【請求項4】 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の耐屈曲電線を含む ことを特徴とするワイヤハーネス。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-03-29 |
出願番号 | 特願2015-77623(P2015-77623) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H01B)
P 1 651・ 113- YAA (H01B) P 1 651・ 537- YAA (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
和田 志郎 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 山田 正文 |
登録日 | 2017-03-24 |
登録番号 | 特許第6114331号(P6114331) |
権利者 | 矢崎総業株式会社 |
発明の名称 | 耐屈曲電線及びワイヤハーネス |
代理人 | 益頭 正一 |
代理人 | 益頭 正一 |
代理人 | 中村 信雄 |
代理人 | 中村 信雄 |