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審決分類 審判 一部申し立て 特29条の2  C01B
管理番号 1340134
異議申立番号 異議2017-700177  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-24 
確定日 2018-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5979340号発明「研磨用複合粒子、研磨用複合粒子の製造方法及び研磨用スラリー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5979340号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4、6〕について訂正することを認める。 特許第5979340号の請求項1?4、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5979340号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年 2月3日(優先権主張 平成27年 2月10日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年 8月 5日に設定登録がされ、その後、その特許のうち、請求項1?4、6に係る特許について、平成29年 2月24日に特許異議申立人 南沢 和美(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 5月 8日付け 取消理由通知
同年 7月10日 特許権者による意見書の提出
同年 8月21日 申立人による上申書の提出
同年10月10日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月 6日 訂正の請求、意見書の提出

なお、特許権者による訂正請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からの意見書の提出はなかった。


第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成29年12月6日付け訂正の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲のとおり訂正するものであって、以下の訂正事項1からなるものである(下線部は訂正箇所を示す)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「シリカ粒子の表面に金属酸化物を担持させた複合シリカ粒子からなり、
粉末X線回折測定による前記金属酸化物の、線源としてCuKα線を用いたX線回折における最大ピークの半価幅が0.45?1.0°であることを特徴とする研磨用複合粒子。」
とあるのを、

「シリカ粒子の表面に金属酸化物を担持させた複合シリカ粒子からなり、
粉末X線回折測定による前記金属酸化物の、線源としてCuKα線を用いたX線回折における最大ピークの半価幅が0.45?1.0°であることを特徴とする研磨用複合粒子。
(ただし、前記金属酸化物が、研磨用複合粒子の粉体を粉末X線回折測定にかけ、29?30°付近に出現するセリアの(1,1,1)面のピークの半価幅、回折角度を用い、シェラー式より得られる結晶子径を有する単結晶セリア粒子であるものを除く。
シェラー式:結晶子径(Å)=K×λ/(β×cosθ)
K:シェラー定数=0.94、λ:X線の波長=1.54056Å、β:半価幅、θ:回折角2θ/θ)」

と訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項1において「(ただし、前記金属酸化物が、研磨用複合粒子の粉体を粉末X線回折測定にかけ、29?30°付近に出現するセリアの(1,1,1)面のピークの半価幅、回折角度を用い、シェラー式より得られる結晶子径を有する単結晶セリア粒子であるものを除く。
シェラー式:結晶子径(Å)=K×λ/(β×cosθ)
K:シェラー定数=0.94、λ:X線の波長=1.54056Å、β:半価幅、θ:回折角2θ/θ)」の特定事項を追加することにより、「金属酸化物」が上記単結晶セリア粒子である場合を除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の請求項1においてシリカ粒子の表面に担持され、粉末X線回折測定される「金属酸化物」は、本件明細書に「酸化セリウム(セリア)」が挙げられ(段落【0028】)、結晶性の金属酸化物として単結晶のセリア粒子を包含することが明らかであるところ、当該訂正事項1により、単結晶セリア粒子を除外することは、新たな技術的事項を導入するものではないから、当該訂正事項1は,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項2?4、6は、訂正事項1に係る請求項1を引用するものであるから、本件訂正請求は一群の請求項である請求項1?4、6について請求されたものであると認める。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4、6〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4、6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」、「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4、6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
シリカ粒子の表面に金属酸化物を担持させた複合シリカ粒子からなり、
粉末X線回折測定による前記金属酸化物の、線源としてCuKα線を用いたX線回折における最大ピークの半価幅が0.45?1.0°であることを特徴とする研磨用複合粒子。
(ただし、前記金属酸化物が、研磨用複合粒子の粉体を粉末X線回折測定にかけ、29?30°付近に出現するセリアの(1,1,1)面のピークの半価幅、回折角度を用い、シェラー式より得られる結晶子径を有する単結晶セリア粒子であるものを除く。
シェラー式:結晶子径(Å)=K×λ/(β×cosθ)
K:シェラー定数=0.94、λ:X線の波長=1.54056Å、β:半価幅、θ:回折角2θ/θ)
【請求項2】
前記金属酸化物は、前記シリカ粒子の表面に均一に担持されている請求項1に記載の研磨用複合粒子。
【請求項3】
前記金属酸化物は、前記シリカ粒子上に層状又はアイランド状に担持されている請求項1又は2に記載の研磨用複合粒子。
【請求項4】
前記シリカ粒子が非晶質シリカ粒子である請求項1?3のいずれかに記載の研磨用複合粒子。」

「【請求項6】
請求項1?4のいずれかに記載の研磨用複合粒子が分散媒中に分散してなり、
前記分散媒中に分散した研磨用複合粒子のD50が3?1000nmであることを特徴とする研磨用スラリー。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4、6に係る特許に対して、平成29年 5月 8日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

訂正前の請求項1?4、6に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許の優先日後に出願公開がされた下記甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその優先日前の特許出願に係る発明をした者と同一ではなく、また本件特許の優先日の時において、本件特許の出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、訂正前の請求項1?4、6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、その発明についての特許は取り消すべきものである。


甲第1号証:特願2014-266690号の出願当初の明細書及び特許請 求の範囲の写し
甲第2号証:「JIS K 0131 X線回折分析通則」,平成11年1 2月10日

なお、申立人の提出した甲第3号証(特開2016-127139号公報)は、甲第1号証の公開公報である。


3 引用先願の明細書に記載された事項及び発明
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特願2014-266690号の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲)には、以下の記載がある。

a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質シリカ粒子と、
前記非晶質シリカ粒子の表面上に配置された結晶質セリア粒子を含み、
前記結晶質セリア粒子の透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が5nm以上40nm以下である、酸化珪素膜研磨用研磨粒子。 」

b「【実施例】
【0070】
1.研磨粒子の製造方法又はその詳細
実施例1?12、比較例1?4の研磨粒子の製造方法又は詳細は下記の通りである。
【0071】
(実施例1?3)
第一の粒子の原料である平均一次粒子径が80nmの球状シリカ粒子の20質量%水分散液を調製し、当該球状シリカ粒子水分散液に、CeO_(2)原料である硝酸セリウムを溶解させた水溶液(濃度;6%溶液)を滴下(供給速度;2g/min)し ・・・ セリアを球状シリカ粒子上に沈着させた。 ・・・ 滴下終了後、反応液を加熱により100℃・4時間熟成して、沈着させたセリアを結晶化させた。その後、得られた粒子について ・・・ 乾燥させた。 ・・・ 更に乾燥粉について1000℃で2時間焼成を行った後 ・・・ DLS粒子径が140nmの複合粒子を、実施例1?3の研磨粒子として得た。当該複合粒子をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察したところ、非晶質シリカ粒子表面が結晶質セリア粒子で被覆されていた。また、結晶質セリア粒子中のセリア濃度は、研磨粒子の形成に使用した原料から、ほぼ100質量%であると推察される。」

c「【0084】
3.各種パラメーターの測定方法
・・・ 複合粒子中の第二の粒子(結晶質セリア粒子)の平均一次粒子径 ・・・ は、以下の方法により測定した。
・・・
【0088】
(d)複合粒子中の第二の粒子の平均一次粒子径
非晶質シリカ粒子上の第二の粒子(結晶質セリア粒子)の平均一次粒子径は、TEM(透過型電子顕微鏡)より得られる画像を用い、非晶質シリカ粒子上の結晶質セリア粒子100個の粒子径を計測し、これらを平均して得た。別法として、複合粒子の粉体を粉末X線回折測定にかけ、29?30°付近に出現するセリアの(1,1,1)面のピークの半値幅、回折角度を用い、シェラー式より得られる結晶子径を平均一次粒子径としてもよい。
シェラー式:結晶子径(Å)=K×λ/(β×cosθ)
K:シェラー定数、λ:X線の波長=1.54056Å、β:半値幅、θ:回折角2θ/θ 」

d「【0095】
【表1】



(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、シェラー定数Kが0.94であること(12ページ)、及び「CuKα線」を線源として用いた場合のX線の波長が0.15405nmであること(25ページ)が記載されている。

(3)甲第1号証に記載された発明
記載事項a?cによれば、甲第1号証は、非晶質シリカ粒子の表面に結晶質セリア粒子が配置された複合粒子からなる研磨粒子について記載されている。
そして、記載事項b、dの実施例1には、結晶質セリア粒子の透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が15nmである研磨粒子が開示されている。
ここで、記載事項cによれば、結晶質セリア粒子の平均一次粒子径は、TEM(透過型電子顕微鏡)により得られる画像を用いて計測することに替えて、複合粒子の粉体を粉末X線回折測定にかけ、29?30°付近に出現するセリアの(1,1,1)面のピークの半値幅、回折角度を用い、シェラー式により得られる結晶子径を用いてよいとされている。これは、当該結晶質セリア粒子は、一つの粒子が単結晶からなるとみなせることを意味するといえる。
シェラー式は、
結晶子径(Å)=K×λ/(β×cosθ)
K:シェラー定数、λ:X線の波長=1.54056Å、β:半値幅、θ:回折角2θ/θ
であって、甲第2号証によれば、K=0.94であり、上記X線の波長1.54056ÅによるX線回折は「線源としてCuKα線を用いた」ものであるといえる。
本件発明1の「粉末X線回折測定による金属酸化物の、線源としてCuKα線を用いたX線回折における最大ピークの半価幅」とは、本件明細書【0076】によれば、「立方晶CeO_(2)の27.00?31.00°での最大ピークの半価幅」である。
そこで、セリアの最大ピークを2θ=29°として、シェラー式から単結晶である結晶質セリア粒子の半価幅を計算すると、0.57°となる。
そうすると、甲第1号証には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。
「非晶質シリカ粒子の表面に単結晶セリア粒子を配置させた複合粒子からなり、粉末X線回折測定による前記単結晶セリア粒子の、線源としてCuKα線を用いたX線回折における最大ピークの半価幅が、0.57°である、研磨粒子。」

4 判断
(1)本件発明1について
本件発明1と先願発明とを対比する。
先願発明の「非晶質シリカ粒子」、「単結晶セリア粒子」、「配置」、「複合粒子」、「研磨粒子」は、それぞれ本件発明1の「シリカ粒子」、「金属酸化物」、「担持」、「複合シリカ粒子」、「研磨用複合粒子」に相当し、本件発明1と先願発明1の「最大ピークの半価幅」自体は、一応一致する。
しかし、本件発明1は、「金属酸化物が、研磨用複合粒子の粉体を粉末X線回折測定にかけ、29?30°付近に出現するセリアの(1,1,1)面のピークの半価幅、回折角度を用い、シェラー式より得られる結晶子径を有する単結晶セリア粒子であるものを除く。
シェラー式:結晶子径(Å)=K×λ/(β×cosθ)
K:シェラー定数=0.94、λ:X線の波長=1.54056Å、β:半価幅、θ:回折角2θ/θ)」
というものであるところ、先願発明の上記「最大ピークの半価幅」は、29?30°付近に出現するセリアの(1,1,1)面のピークの回折角度を用いて、シェラー式より導出されたものであるから、先願発明の「単結晶セリア粒子」は、本件発明1で除外している上記「単結晶セリア粒子」に相当する。
そうすると、本件発明1と先願発明とは、シリカ粒子に担持された「金属酸化物」の結晶組織が実質的に相違しているといえる。
したがって、本件発明1は、先願発明と同一であるとはいえない。

(2)本件発明2?4、6について
本件発明2?4、6は、本件発明1の特定事項をすべて含むものである。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件発明2?4、6は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

5 まとめ
したがって、本件発明1?4、6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものではない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1?4、6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子の表面に金属酸化物を担持させた複合シリカ粒子からなり、
粉末X線回折測定による前記金属酸化物の、線源としてCuKα線を用いたX線回折における最大ピークの半価幅が0.45?1.0°であることを特徴とする研磨用複合粒子。(ただし、前記金属酸化物が、研磨用複合粒子の粉体を粉末X線回折測定にかけ、29?30°付近に出現するセリアの(1,1,1)面のピークの半価幅、回折角度を用い、シェラー式より得られる結晶子径を有する単結晶セリア粒子であるものを除く。
シェラー式:結晶子径(Å)=K×λ/(β×cosθ)
K:シェラー定数=0.94、λ:X線の波長=1.54056Å、β:半価幅、θ:回折角2θ/θ)
【請求項2】
前記金属酸化物は、前記シリカ粒子の表面に均一に担持されている請求項1に記載の研磨用複合粒子。
【請求項3】
前記金属酸化物は、前記シリカ粒子上に層状又はアイランド状に担持されている請求項1又は2に記載の研磨用複合粒子。
【請求項4】
前記シリカ粒子が非晶質シリカ粒子である請求項1?3のいずれかに記載の研磨用複合粒子。
【請求項5】
シリカ粒子を分散させてなる分散液に金属酸化物の原料となる金属塩を加え、中和反応により金属酸化物前駆体をシリカ粒子の表面に析出させる工程と、
加熱焼成前の粒子に含まれるフラックス成分の含有量を50?10000ppmとして700?950℃で加熱焼成する工程と、
前記加熱焼成後の粒子を粉砕する工程とを行うことを特徴とする研磨用複合粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1?4のいずれかに記載の研磨用複合粒子が分散媒中に分散してなり、
前記分散媒中に分散した研磨用複合粒子のD50が3?1000nmであることを特徴とする研磨用スラリー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-30 
出願番号 特願2016-530027(P2016-530027)
審決分類 P 1 652・ 16- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 塩谷 領大森坂 英昭  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 山本 雄一
後藤 政博
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5979340号(P5979340)
権利者 堺化学工業株式会社
発明の名称 研磨用複合粒子、研磨用複合粒子の製造方法及び研磨用スラリー  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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