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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1340136
異議申立番号 異議2017-700162  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-22 
確定日 2018-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5979156号発明「液晶表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5979156号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第5979156号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5979156号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成24年12月27日を国際出願日とする出願であって、平成28年8月5日にその特許権の設定登録がされ、同年8月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成29年2月22日に特許異議申立人阿部紀子、同年2月23日に特許異議申立人鈴木美香及び特許異議申立人松岡規子により特許異議の申立てがされたものである。
以後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 4月25日:一回目の取消理由通知(4月28日発送)
同年 6月27日:訂正請求書・意見書
同年 7月11日:通知書(7月14日発送)
同年 8月 8日:意見書(阿部紀子)
同年 8月10日:意見書(鈴木美香)・意見書(松岡規子)
同年 9月 1日:二回目の取消理由通知(9月5日発送)
同年11月 1日:意見書(特許権者)
同年11月21日:三回目の取消理由通知(11月27日発送)
平成30年 1月26日:訂正請求書・意見書
同年 1月31日:通知書(2月5日発送)
同年 3月 7日:意見書(鈴木美香)

なお、平成30年1月31日付け通知書に対して、特許異議申立人阿部紀子及び特許異議申立人松岡規子からは、期間内に何ら応答がなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
平成30年1月26日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第5979156号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを求めるものである。

2 訂正の内容
(1)訂正事項1(なお、下線は、当審で付した。)
特許請求の範囲の請求項1に
「前記液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の偏光子保護フィルムの少なくとも一方は3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の偏光子保護フィルムの少なくとも一方はシクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムである、」と記載されているのを、

「前記液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の偏光子の射出光側に積層された偏光子保護フィルムは3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の偏光子の吸収軸に対して前記配向ポリエステルフィルムの配向主軸は垂直であり、
前記液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の偏光子保護フィルムの少なくとも一方はシクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムである、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記シクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムが、200nm以下のリタデーションを有する、請求項1に記載の液晶表示装置。」と記載されているのを、

「前記シクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムが、200nm以下のリタデーションを有し、前記液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の偏光子の入射光側に積層される、請求項1に記載の液晶表示装置。」に訂正する。

3 訂正の適否
訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1は、訂正前の「液晶セルに対して射出光側に配される偏光板」と「配向ポリエステルフィルム」の位置関係を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ また、願書に添付した明細書には、以下の記載がある。
「【0111】
PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に上述の一軸配向ポリエステルフィルムを偏光子の吸収軸とフィルムの配向主軸が垂直になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板Aを作成した。また、PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に製造例4で得られたポリプロピレンフィルムを偏光子の吸収軸とフィルムの配向主軸が垂直になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板Bを作成した。
【0112】
得られた偏光板Aを、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学、NSPW500CS)とする液晶表示装置の射出光側にポリエステルフィルムが視認側になるように設置した。さらに、得られた偏光板Bを、液晶表示装置の入射光側にポリプロピレンフィルムが光源側になるように設置し、液晶表示装置を製造した。」

上記記載からして、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2は、訂正前の「シクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルム」が偏光子保護フィルムであることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ また、願書に添付した明細書には、以下の記載がある。
「【0018】
…また、液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルムをシクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムとすることが好ましい態様である。」

上記記載からして、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)一群の請求項
訂正前の請求項1ないし10は、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前において「一群の請求項」に該当するものであるから、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものであって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

4 訂正の適否のまとめ
本件訂正請求は適法であることから、訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-10]について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし10に係る発明(以下「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は連続的な発光スペクトルを有する白色光源であり、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の偏光子の射出光側に積層された偏光子保護フィルムは3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の偏光子の吸収軸に対して前記配向ポリエステルフィルムの配向主軸は垂直であり、
前記液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の偏光子保護フィルムの少なくとも一方はシクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムである、
液晶表示装置。
【請求項2】
前記シクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムが、200nm以下のリタデーションを有すし、前記液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の偏光子の入射光側に積層される、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記オレフィン系樹脂フィルムがポリプロピレンフィルムである、請求項1又は2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記配向ポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が0.2以上1.2以下である請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードである、請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記配向ポリエステルフィルムが易接着層を有する、請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記配向ポリエステルフィルムが少なくとも3層以上からなり、
最外層以外の層に紫外線吸収剤を含有し、
380nmの光線透過率が20%以下である、請求項1?6のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項8】
液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムが3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記配向ポリエステルフィルムの射出光側面に、ハードコード層、防眩相、反射防止層、低反射層、低反射防眩層及び反射防止防眩層からなる群より選択される1種以上の層を有する、請求項1?7のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、極性基を含有するポリオレフィン樹脂を含む接着改良層が積層されている、請求項3?8のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項10】
前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレン系樹脂である、請求項9に記載の液晶表示装置。」

第4 三回目の取消理由通知書の取消理由について
1 取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1ないし8及び11に係る発明の特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

「【理由1】
本件発明1ないし本件発明8は、当業者が引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし本件発明8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。

【理由2】
本件発明11は、当業者が引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。

引用文献1:特開2011-59488号公報
引用文献2:特開昭60-26304号公報
引用文献3:特開2011-107198号公報 」

2 引用文献に記載された発明
(1)引用文献1(特開2011-59488号公報)には、図とともに、以下の記載がある(なお、下線は、当審で付した。)。

ア 「【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの片面に、第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと、を備え、
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとしたときに、(nx-nz)/(nx-ny)で表されるNz係数が2.0未満であることを特徴とする偏光板。
【請求項2】
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内の位相差値が200?1200nmもしくは2000?7000nmの値である請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
……
【請求項4】
前記偏光フィルムにおける前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている面とは反対側の面に、第二の接着剤層を介して積層された保護フィルムまたは光学補償フィルムを備える請求項1?3のいずれかに記載の偏光板。
【請求項5】
前記保護フィルムまたは前記光学補償フィルムは、環状オレフィン系樹脂フィルム、セルロース系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、鎖状オレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、およびアクリル系樹脂フィルムから選ばれる透明樹脂フィルムから構成される請求項4に記載の偏光板。」

イ 「【背景技術】
【0002】
……
【0008】
しかしながら、一方で、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとした偏光板を液晶表示装置に搭載した場合、トリアセチルセルロースフィルムを保護フィルムとする一般的な偏光板に比べて、その高いレタデーション値に由来する斜め方向からの色ムラ(干渉ムラ、虹ムラとも言う)が目立ち、視認性に劣るという問題を有している。…この手法を用いても色ムラの低減は不十分であり、より効果的な手法の確立が望まれていた。
【先行技術文献】
……
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって、液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ、かつ薄型化を実現し、コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することにある。また、本発明のもう一つの目的は、前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することにある。
【0011】
……
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Nz係数が2.0未満の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとして用いることで、液晶表示装置の表示時における色ムラが少なく優れた視認性を示し、かつ薄型化を実現し、コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することができる。また、本発明によれば、前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することができる。」

ウ 「【0069】
また、ここで配向主軸とは、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上の任意の点における分子配向方向をいい、ここでは遅相軸のことを指す。配向主軸(遅相軸)の延伸方向に対する歪みとは、遅相軸と延伸方向との角度差をいう。
【0070】
……
【0074】
本発明の偏光板においては、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸の軸ズレ角度は目的や生産上の制約等に応じて任意に選択することができる。たとえば、本発明の偏光板を、偏光性の強いバックライト光源を備える液晶表示装置のバックライト光源側(入射側)偏光板として適用する場合、延伸ポリエチレンテレフタレートの面内位相差に由来する正面方向からの干渉色の発現を防ぐため、偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度は小さい方が好ましい。好ましくは、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度は、0度以上15度以下の範囲とすることが好ましい。かかる場合においても、Nz係数を2.0未満とすることが、色ムラの低減に効果的である。
【0075】
……
【0076】
一方で、上記以外の場合には、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が大きいものも好ましく用いることができる。中でも、20度以上50度以下のズレ角度であるものがより好ましい。偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度を上記の範囲とすることで、より効果的に液晶表示装置の色ムラを低減することができる。」

エ 「【0154】
鎖状オレフィンモノマーからなるオレフィン系樹脂としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン系樹脂が挙げられる。中でも、プロピレンの単独重合体からなるポリプロピレン系樹脂が好ましい。また、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーを、通常、1?20重量%の割合で、好ましくは3?10重量%の割合で共重合させたポリプロピレン系樹脂も好ましい。」

オ 「【0217】
<液晶表示装置>
以上のようにしてなる偏光板、すなわち、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/第一の接着剤層/偏光フィルム/第二の接着剤層/[保護フィルムまたは光学補償フィルム]/粘着剤層/剥離フィルムとの層構造を有する偏光板は、粘着剤層から剥離フィルムを剥離して、液晶セルの片面または両面に貼合し、液晶パネルとすることができる。この液晶パネルは、液晶表示装置に適用することができる。
【0218】
本発明の偏光板は、たとえば、液晶表示装置において、光出射側(視認側)に配置される偏光板として用いることができる。光出射側とは、液晶セルを基準に、液晶表示装置のバックライト側とは反対側を指す。光出射側の偏光板として本発明の偏光板が採用される場合、当該偏光板は、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に、防眩層、ハードコート層、反射防止層、および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を備えることが好ましい。また、液晶表示装置の光入射側(バックライト側)に配置される偏光板は、本発明の偏光板であってもよいし、従来公知の偏光板であってもよい。
【0219】
……
【0222】
液晶表示装置を構成するバックライトも、一般の液晶表示装置に広く使用されているものでよい。たとえば、……蛍光管を使って白色光を発光する冷陰極蛍光ランプや、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などを採用することができる。
【0223】
……
【0228】
(c)液晶表示装置の作製
ソニー(株)製の垂直配向モードの液晶表示装置“BRAVIA”(対角寸法40インチ=約102cm)の液晶パネルから光出射側偏光板を剥がし、その代わりに、市販の偏光板(スミカランSRW842E-GL5、住友化学(株)製)を、オリジナルの偏光板と同じ軸方向で、その粘着剤層側にて貼り付けた。また、光入射側偏光板も剥がし、その代わりに、上記(b)で作製した粘着剤層付き偏光板からセパレートフィルムを剥がしたものを、オリジナルの偏光板と同じ軸方向で、その粘着剤層を用いて貼り付けた。得られた液晶表示装置について、目視にて観察したところ、斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は小さく、視認性は良好であった。」


カ 上記記載からして、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「発光ダイオードをバックライト光源とする液晶表示装置であって、
視認側の偏光板、液晶セル及びバックライト側の偏光板を備え、
前記視認側の偏光板及びバックライト側の偏光板は、
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの片面に、第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと、を備え、
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内の遅相軸(配向主軸)方向の屈折率をnx、面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとしたときに、(nx-nz)/(nx-ny)で表されるNz係数が2.0未満、面内の位相差値が2000?7000nmの値であり、
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている面とは反対側の面に、第二の接着剤層を介して積層されたポリプロピレンフィルムの保護フィルムを備えた、液晶表示装置。」

(2)引用文献2(特開昭60-26304号公報)には、図とともに、以下の記載がある。

ア 「2.特許請求の範囲
(1)膜面に平行な一方向に特に強く延伸されたポリエステルフィルムにおいて、Nyを特に強く延伸された方向の屈折率、Nxをこれに垂直方向の屈折率、Nzを膜厚方向の屈折率としたとき、


を満足し、かつ、フィルム厚さをdとしたとき

を満足するポリエステルフィルムが偏光フィルムの少なくとも片方の面に、接着剤の層を介して貼り合わされている偏光板。」

イ 「【発明の詳細な説明】
本発明は偏光板、詳しく言えばどの視野角度からの反射光または透過光でも着色干渉縞を発生しない透明保護層で保護された偏光板に関する。
偏光フィルムを外気に曝された環境条件で使用する場合や、液晶を用いた表示器に使用する場合などには、……従って、このフィルムで保護された偏光板を透かし物体を見る場合、方向により保護膜上に光の干渉による色むらが生じることがあり、例えば液晶を用いた表示器に使用する偏光板の保護膜などには適さない。
本発明の目的は、PETその他のポリエステル系フィルムの上記のような欠点を排除し、色むらの生じないポリエステルフィルムで保護された偏光板を提供することにある。かかる本発明の目的は、膜面に平行な一方向に特に強く延伸されたポリエステルフィルムにおいて、Nyを特に強く延伸された方向の屈折率、Nxをこれに垂直方向の屈折率、Nzを膜厚方向の屈折率としたとき、
……
を満足するポリエステルフィルムが偏光フィルムの少なくとも片方の面に接着剤の層を介して貼り合せることにより達成される。」(第1頁右欄ないし第2頁右上欄)

ウ 「次に本発明の基礎をなす理論について説明する。
第1図に示すように、…しかし、斜めの方向の場合、Δnが0.005近くになる場合もあり得るかも知れず、このような方向からフィルムを見た場合、着色干渉縞が現れる。これについて以下にさらに考察を進める。
……ここで式(6)と式(7)より、n1=1,n2=1.6(PETフィルムの平均的な屈折率)としてθ>90°となる条件を求めると、

が得られる。従って主屈折率Nx,Ny,Nzが式(8)を満足するようなフィルムであれば斜め方向からフィルムを見てもコントラストの強い着色干渉縞は現われない。さらにコントラストの弱くなった数次の干渉縞次数のものも無くし、完ぺきなものとするためには、最も斜めに傾けた場合、すなわち最も条件の悪い状態での縞次数を算出し、これが一定値以上にし、コントラストを無くする方向へもってゆけばよい。具体的には、N2=1.60,θ=90°(この時θ′=38.7°)とした時の縞次数を算出すればよい。
……
すなわち(8)式を満足し、かつ(12)式を満足するフィルムであれば、どの方向から見ても干渉縞は全く認められない偏光板を得ることができる。なお本発明にあたって試作したPETフィルムサンプルについて検証した(8)式,(12)式の右辺の値を次表に示す。
……
サンプルIではsinθ′=0.50であるためコントラストの強い干渉じまが認められた。またサンプルIIではsinθ′>0.8ではあるがN=2.2であるためコントラストの弱いうすい干渉縞が認められた。サンプルIIIではsinθ′>0.8,N=4ともに満足しており、どの方向から見ても干渉縞は全く認められなかった。」(第2頁右上欄ないし第4頁左上欄)

エ 「次に本発明の実施例を図面に基づいて説明する。第5図は、本実施例の断面図、第6図は本実施例の部分切欠斜視図である。両図において、偏光フィルム2は、沃素を吸着させたポリビニルアルコール系フィルムを約4倍の長さに伸延することによって沃素分子に配向を与えて偏光性を持たせた偏光フィルムで、両面にポリイソシアネート化合物による表面処理が施されている。保護膜1および3は、厚さ100μm、表面に平行な面内での主屈折率の差が0.14,厚さ方向の主屈折率が1.51となるよう伸延加工されたポリエチレンテレフタレートのフィルムで、伸延方向を偏光フィルムの偏光軸と直交するようポリエステル系の接着剤を用いて偏光フィルム2の両面にそれぞれ接着されている。図には接着剤の層は示されていない。図において実線の矢印は偏光フィルム2の偏光軸の方向を、点線の矢印は保護膜1および3の伸延の方向を示す。
次に本発明の他の実施例として、上記と全く同じ偏光フィルム,保護膜および接着剤を使用し、偏光フィルムの偏光軸と、保護膜の伸延方向とを一致させて偏光フィルムの両面に保護膜を接着させた偏光板の部分切欠斜視図を第7図に示す。第7図において、第6図に示した実施例に対応する構成要素には第6図の場合と同じ番号を付した。また、第7図においても実線の矢印は偏光フィルム2の偏光軸の方向を、点線の矢印は保護膜1および3の伸延の方向を示す。
以上に示した両実施例とも、理論的考察から期待される通り、これら偏光板を白色光の照射のもとに如何なる方向から観察しても着色干渉縞は観測されず、また、液晶表示器に用いる場合のように、これら両実施例による偏光板を互いに平行、かつ、各々の偏光軸が互いに直交するように保持して観察を行っても、着色干渉縞は全く観測されなかった。
以上の説明から明らかなように、本発明により、単独に用いても、また光軸が互いに直交するよう配置しても着色干渉縞の生じない偏光板が得られる。」(第4頁左下欄ないし第5頁左上欄)

オ 第6図及び第7図は、以下のものである。


カ 上記記載からして、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「膜面に平行な一方向に特に強く延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムにおいて、Nyを特に強く延伸された方向の屈折率、Nxをこれに垂直方向の屈折率、Nzを膜厚方向の屈折率としたとき、

を満足し、かつ、フィルム厚さをdとしたとき

を満足するポリエチレンテレフタレートフィルムが、
偏光フィルムの少なくとも片方の面に、特に強く延伸された方向を偏光軸に対して垂直又は平行になるように貼り合わされている、どの方向から見ても干渉縞の全く認められない、偏光板。」

(3)引用文献3(特開2011-107198号公報)には、図とともに、以下の記載がある。

ア 「【請求項1】
バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、
バックライト光源として白色発光ダイオードを用いるとともに、
前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項2】
前記白色発光ダイオードが、化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項3】
……
【請求項4】
前記高分子フィルムが、配向ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置の視認性改善方法。」

イ 「【0013】
本発明の方法では、連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオード光源において効率よく直線偏光を解消し、光源に近似したスペクトルが得られるため、サングラスなどの偏光板を通して液晶表示画面を観察する際でも、その観察角度によらず良好な視認性を確保できる。」

ウ 「【0016】
本発明の液晶表示装置(LCD)は少なくとも、バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを構成部材とする。前記のように液晶セルはバックライト光源側と視認側とで2つの偏光板に挟まれて配されるのが一般的であるため、液晶セルの視認側の反対側にも偏光板を配しても構わない。また、これら以外の他の構成、例えばカラーフィルター、レンズフィルム、拡散シート、反射防止フィルムなどを適宜有しても構わない。
【0017】
……
【0026】
本発明に用いられる高分子フィルムは、液晶セルの視認側に配した偏光板の視認側に、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して使用される。高分子フィルムを偏光板の視認側に配する方法は、偏光板の最外層に直接に高分子フィルムを積層しても構わないし、他の透明部材を介して配しても構わない。また、液晶表示装置の視認側最表面に高分子フィルムを設置、貼り合わせてもよい。高分子フィルムを直接、または他の透明部材を介して配する際は、粘着層を設けた高分子フィルムを用いることも好ましい態様である。」

エ 「【0049】
固有粘度が0.62dl/gのPET樹脂を水冷却した回転急冷ドラム上にフィルム形成ダイを通して押出し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを幅方向に100℃で4.0倍延伸した後、150℃で熱固定を行い、更に130℃から100℃に冷却しながら、幅方向に3%弛緩処理を行い、厚さ38μmの配向PETフィルム(PETフィルム-1)を得た。
【0050】
……
【0052】
上記の方法で得られた配向PETフィルムの特性を表1に示した。また、これらのフィルムを、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学、NSPW500CS)とする液晶表示装置(液晶セルが2枚の偏光板に挟まれた構成を有する)、及び冷陰極管をバックライト光源とする液晶表示装置(液晶セルが2枚の偏光板に挟まれた構成を有する)の上に置き、それぞれサングラスを通して画面を見た時の様子を表2に示した。
【0053】
上記の結果より、作成したフィルムは、白色LEDをバックライト光源として用いた場合には視認性改善効果が得られるものの、冷陰極管をバックライト光源として用いた場合には視認性の改善効果が得られないことが解った。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】



オ 上記記載からして、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

「バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板と、バックライト側に配した偏光板とを有する液晶表示装置であって、
バックライト光源として化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた、連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを用い、
前記液晶セルの視認側に配した偏光板の視認側の最外層に、
N_(x)1.5874、N_(y)1.6854、N_(z)1.5209、Δn0.0980、リタデーション3724nm、厚さ38μmの配向ポリエステルフィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように直接積層した、液晶表示装置。」

3 当審の判断
本件訂正により、訂正前の請求項11に係る発明は、削除されたことから、本件訂正発明1ないし本件訂正発明8が、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるかについて検討する。

(1)本件訂正発明1につい
ア 本件訂正発明1と引用発明1とを対比すると、以下の点で一致する。
<一致点>
「バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は発光スペクトルを有する白色光源であり、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の偏光子に積層された偏光子保護フィルムは3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の偏光子保護フィルムの少なくとも一方はポリオレフィン系樹脂フィルムである、
液晶表示装置。」

一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
発光スペクトルに関して、
本件訂正発明1は、「連続的な発光スペクトル」であるのに対して、
引用発明1は、連続的であるか否か不明である点。

<相違点2>
配向ポリエステルフィルムに関して、
本件訂正発明1は、
(ア)「偏光子の射出光側に積層され」、かつ、
(イ)「偏光子の吸収軸に対して配向ポリエステルフィルムの配向主軸は垂直である」のに対して、
引用発明1は、「偏光子の射出光側に積層された」ものであるか否か不明であり、「偏光子の吸収軸に対して配向ポリエステルフィルムの配向主軸は垂直である」か否かも不明である点。

イ 判断
(ア)まず、上記<相違点2>について検討する。
a 引用文献1には、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸の軸ズレ角度について、以下のように記載されている。

(a)「【0074】
本発明の偏光板においては、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸の軸ズレ角度は目的や生産上の制約等に応じて任意に選択することができる。たとえば、本発明の偏光板を、偏光性の強いバックライト光源を備える液晶表示装置のバックライト光源側(入射側)偏光板として適用する場合、延伸ポリエチレンテレフタレートの面内位相差に由来する正面方向からの干渉色の発現を防ぐため、偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度は小さい方が好ましい。」

(b)「【0076】
一方で、上記以外の場合には、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が大きいものも好ましく用いることができる。中でも、20度以上50度以下のズレ角度であるものがより好ましい。偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度を上記の範囲とすることで、より効果的に液晶表示装置の色ムラを低減することができる。」

ここで、偏光フィルムにおける、透過軸と吸収軸は垂直関係にあることを踏まえると、上記記載から、
「偏光性の強いバックライト光源を備える液晶表示装置のバックライト光源側(入射側)偏光板として適用する場合」以外、例えば、「偏光性のないバックライト光源を備える液晶表示装置の視認側の偏光板として適用する場合」は、偏光フィルムの吸収軸に対する遅相軸(配向主軸)の軸ズレ角度を、90度よりも小さくすることで、効果的に色ムラを低減できることが理解できる。

b してみると、引用発明1の「発光ダイオードをバックライト光源とする液晶表示装置」の「視認側の偏光板」においては、色ムラの低減という観点からして、偏光フィルムの吸収軸に対する遅相軸(配向主軸)の軸ズレ角度は、90度よりも小さい方が望ましいことであるから、軸ズレ角度を最大の90度(垂直)にする動機がない。

c ところで、引用文献2には、以下の引用発明2が記載されている。

「膜面に平行な一方向に特に強く延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムにおいて、Nyを特に強く延伸された方向の屈折率、Nxをこれに垂直方向の屈折率、Nzを膜厚方向の屈折率としたとき、

を満足し、かつ、フィルム厚さをdとしたとき

を満足するポリエチレンテレフタレートフィルムが、
偏光フィルムの少なくとも片方の面に、特に強く延伸された方向を偏光軸に対して垂直又は平行になるように貼り合わされている、どの方向から見ても干渉縞の全く認められない、偏光板。」

つまり、引用発明2は、偏光フィルムの透過軸(又は吸収軸)に対して配向主軸を垂直又は平行になるように貼り合わせた偏光板である。
しかしながら、引用文献2には、「視認側の偏光板」においては、垂直(軸ズレ角度を大きく)に貼り合わせるのか、平行(軸ズレ角度を小さく)に貼り合わせるのかについて記載されていないことから、色ムラの低減という観点からして、軸ズレ角度が90度よりも小さい方が望ましいとされる引用発明1の「視認側の偏光板」において、軸ズレ角度を最大の90度(垂直)にする動機付けにはならない。

d 以上の検討によれば、引用発明1において、上記<相違点2>に係る本件訂正発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が引用発明2に基づいて容易になし得たことであるとはいえない。

ウ よって、上記<相違点1>について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2ないし本件訂正発明8について
本件訂正発明2及び本件訂正発明8は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件訂正発明1と同様に、当業者が引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明することができたものではない。

(3)まとめ
本件訂正発明1ないし本件訂正発明8に係る特許は、三回目の取消理由通知書に記載した取消理由、つまり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。

(4)平成30年3月7日提出の意見書(鈴木美香)
特許異議申立人は、意見書において、以下のように主張することから、この点について検討する。

「丙第4号証に接した当業者であれば、液晶表示装置の色ムラをより抑制するために、引用文献1に記載された……垂直となるように貼り合わせることに関して、十分な動機付けがあるといえる。」(第10頁後段)

ア 丙第4号証(特開2009-300611号公報)には、以下の記載がある。

「【課題を解決するための手段】
【0006】
…すなわち、本発明は、偏光子と、該偏光子の一方主面に積層された第1の保護フィルムを有する偏光板に関する。該第1の保護フィルムは平均屈折率が1.58以上である。該第1の保護フィルムの平均屈折率を大きくすることによって、フィルム界面での屈折率差によって斜め方向に入射した光を正面方向に向けることができる。
【0007】
…このように第1の保護フィルムがヘイズを有すること、及び/又は光拡散層を有することにより、光が拡散され、集光された光が虹模様に着色することを抑制することができる。
【0008】

【0010】
本発明の偏光板においては、前記第1の保護フィルムがポリエステルフィルムであることが好ましい。」

「【0014】
さらに、本発明は前記液晶パネルと光源ユニットとを備える液晶表示装置に関する。本発明の液晶表示装置においては、前記液晶パネルの、前記偏光板が配置された側に光源ユニットを備えることが好ましい。」

「【0025】
一方で、複屈折と厚みの積で表されるレターデーション値が大きいフィルムを第1の保護フィルムとして用いた場合、液晶表示装置が干渉による虹模様の着色を生じる場合がある。このような着色を抑制する観点からは、第1の保護フィルムの遅相軸方向(フィルム面内の屈折率が最大となる方向)と、偏光子の吸収軸方向が略平行または略直交となるように配置することが好ましい。なお、略平行、略直交とは、両者のなす角度が丁度0°、あるいは90°である場合のみならず、±10°、好ましくは±5°の範囲であることを意味する。」

「【0085】
本発明の偏光板は液晶セルの片側又は両側に配置することができる。液晶セルの片面に本発明の偏光板を配置する場合、液晶セルの光源側、視認側のいずれに配置することもできるが、偏光板の集光特性を発揮させる観点からは、光源側、すなわち、液晶パネル100と光源ユニット200を組み立てる際の光源ユニット200が配置される側の主面に本発明の偏光板を配置することが好ましい。」

「【0116】
(ポリエステルフィルムを有する偏光板の作成)
前記偏光子の一方主面に、前記易接着層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、偏光子の他方主面に、セルロース系樹脂からなる位相差フィルム(富士フィルム製 商品名「商品名「WVBZ」)を、それぞれ、乾燥後の接着剤層厚みが80nmとなるように前記接着剤を塗布して、ロール機を用いて貼り合わせ、70℃で6分間乾燥させて偏光板を作成した。なお、易接着層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの配置は、ポリエステルフィルムの易接着層形成面と偏光子が対向するように積層した。このようにして得られた光学補償層付きの偏光板を『偏光板A』とする。」

「【0120】
[実施例2]
(偏光板の作製)
前記実施例1のポリエステルフィルムを有する偏光板(偏光板A)の作成において、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET1)に代えて、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ製 PTH38、ヘイズ 30%、以下「PET2」とする)を用いた以外は同様にして、光学補償層付きの偏光板(『偏光板C』とする)を得た。」

「【0127】
…また、図9に示したように、実施例の液晶表示装置は比較例の液晶表示装置と比較して正面コントラストが向上していることがわかる。さらに、実施例2のように、保護フィルムのヘイズを高くすることによって、虹模様の着色が抑制されていることがわかる。
【0128】
なお、上記実施例においては、液晶セルの光源側にのみポリエステルフィルムを有する集光偏光板(偏光板Aまたは偏光板C)を配置したが、本発明の液晶パネルおよび液晶表示装置はかかる構成に限定されず、液晶セルの視認側のみ、あるいは両主面に集光偏光板が配置された構成においても、同様の集光効果を得ることができる。」

イ 上記記載からして、以下のことが理解できる。
(ア)第1の保護フィルム(偏光子保護フィルム)の平均屈折率を大きくすることにより、光を正面方向に向けることができること。
(イ)第1の保護フィルム(偏光子保護フィルム)のヘイズを高くすることにより、虹模様の着色を抑制できること。
(ウ)第1の保護フィルム(偏光子保護フィルム)は、ポリエステルフィルムであることが好ましいこと。
(エ)レターデーション値が大きいフィルムを第1の保護フィルム(偏光子保護フィルム)とする場合に、偏光子の吸収軸方向に対して遅相軸方向が略平行または略直交となるように配置することにより、干渉による虹模様の着色を抑制できること。
(オ)第1の保護フィルム(偏光子保護フィルム)は、液晶セルの光源側の偏光子だけではなく、液晶セルの視認側の偏光子に適用しても、同様の集光効果を得ることができること。
(カ)実施例では、液晶セルの光源側にのみ第1の保護フィルム(偏光子保護フィルム)を有する偏光板(偏光板Aまたは偏光板C)を配置していること。
(キ)実施例では、偏光子の吸収軸と第1の保護フィルム(偏光子保護フィルム)の遅相軸の関係が不明であること。

ウ してみると、丙第4号証には、
虹模様の着色を抑制する手段として、以下の二つの手段が開示されているものと認められる。

(ア)偏光子保護フィルムのヘイズを高くする。
(イ)偏光フィルムの吸収軸に対して偏光子保護フィルムの遅相軸(配向主軸)を略平行または略直交となるように配置する。

エ しかしながら、丙第4号証には、「視認側の偏光板」においては、略垂直(軸ズレ角度を大きく)に貼り合わせるのか、略平行(軸ズレ角度を小さく)に貼り合わせるのかについて記載されておらず、また、色ムラの低減という観点からして、軸ズレ角度が90度よりも小さい方が望ましいとされる引用発明1の「視認側の偏光板」において、軸ズレ角度を最大の90度(垂直)にする動機はない。

オ 以上の検討によれば、本件訂正発明1は、当業者が引用発明1及び丙第4号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
本件訂正発明1ないし本件訂正発明8に係る特許は、三回目の取消理由通知書に記載した取消理由、つまり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
他に本件訂正発明1ないし本件訂正発明8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は連続的な発光スペクトルを有する白色光源であり、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の偏光子の射出光側に積層された偏光子保護フィルムは3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の偏光子の吸収軸に対して前記配向ポリエステルフィルムの配向主軸は垂直であり、
前記液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の偏光子保護フィルムの少なくとも一方はシクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムである、
液晶表示装置。
【請求項2】
前記シクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又は(メタ)アクリル樹脂フィルムが、200nm以下のリタデーションを有し、液晶セルに対して入射光側に配される偏光板の偏光子の入射光側に積層される、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記オレフィン系樹脂フィルムがポリプロピレンフィルムである、請求項1又は2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記配向ポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が0.2以上1.2以下である請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードである、請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記配向ポリエステルフィルムが易接着層を有する、請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記配向ポリエステルフィルムが少なくとも3層以上からなり、
最外層以外の層に紫外線吸収剤を含有し、
380nmの光線透過率が20%以下である、請求項1?6のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項8】
液晶セルに対して射出光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムが3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記配向ポリエステルフィルムの射出光側面に、ハードコード層、防眩相、反射防止層、低反射層、低反射防眩層及び反射防止防眩層からなる群より選択される1種以上の層を有する、請求項1?7のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、極性基を含有するポリオレフィン樹脂を含む接着改良層が積層されている、請求項3?8のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項10】
前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレン系樹脂である、請求項9に記載の液晶表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-26 
出願番号 特願2013-551787(P2013-551787)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯崎 忠昭廣田 かおり  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
星野 浩一
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5979156号(P5979156)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 液晶表示装置  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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