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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01T
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01T
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  G01T
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01T
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01T
管理番号 1340148
異議申立番号 異議2018-700060  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-25 
確定日 2018-05-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6170284号発明「画像処理プログラム、記録媒体、画像処理装置、及び画像処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6170284号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6170284号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成24年6月22日に特許出願され、平成29年7月7日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年1月25日に特許異議申立人鈴木幸代(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6170284号の請求項1?9の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明9」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、独立項である本件特許発明1、8及び9は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像を記憶するコンピュータのための画像処理プログラムであって、
前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、予め設定された基準強度レベルに変換するように、前記複数の画像を正規化する正規化ステップと、
前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換し、前記変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップと、
をコンピュータに実行させ、
ここで、前記飽和基準値は、前記正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい
画像処理プログラム。」
「【請求項8】
被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像を記憶する記憶手段と、
前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、予め設定された基準強度レベルに変換するように、前記複数の画像の夫々の画素値を正規化する正規化手段と、
前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換し、前記変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御手段と、
を備え、
ここで、前記飽和基準値は、前記正規化手段により得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい、
画像処理装置。」
「【請求項9】
被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像を記憶する画像処理装置が、
前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、予め設定された基準強度レベルに変換するように、前記複数の画像の夫々の画素値を正規化する正規化ステップと、
前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換し、前記変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップと、
を行い、
ここで、前記飽和基準値は、前記正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい、
画像処理方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、次の甲第1号証?甲第9号証(以下「甲1」?「甲9」という。)を提出し、請求項1?9に係る特許について、特許法第29条第1項第2号及び第3号に該当し、並びに、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、また、特許法第36条第4項1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものであると主張している。

甲1:河上一公他「骨シンチグラフィ診断支援ソフト「BONENAVI(R)(丸囲いのR)」の紹介」核医学分科会誌、通巻第63号、2011年10月1日発行、p.41-51
甲2-1(以下「甲2」という。):若林大志他「骨シンチグラフィ診断支援ソフトウェアの臨床経験」INNERVISION、第26巻、第9号、2011年8月25日発行、p.107-110
甲2-2:(株)インナービジョンのウェブサイト
甲3-1(以下「甲3」という。):河上一公「骨シンチグラフィ診断支援ソフトBONENAVI(R)(丸囲いのR)」Rad Fan Vol.9、No.11(2011)、2011年8月31日発行、p.87-88
甲3-2:(株)メディカルアイのウェブサイト
甲4-1(以下「甲4」という。):「BONENAVIユーザーマニュアル」富士フイルムRIファーマ株式会社
甲4-2:「BONENAVIユーザーマニュアル」のプロパティを示す動画、申立人作成
甲5:日本核医学技術学会編「核医学画像処理」山代印刷(株)出版部、2010年11月10日発行、p.76-77
甲6:特開平5-312959号公報
甲7:「BONENAVIさわってみようマニュアル」富士フイルムRIファーマ株式会社、2011年4月作成
甲8:国際公開第2007/061235号
甲9:北章延他「骨SPECTにおける簡便な経時的差分画像処理法の試み-骨盤領域での基礎的な検討-」日本放射線技術学会誌、第66巻、第10号、2010年10月発行、p.1282-1289

そして、その具体的理由を整理すると、以下のとおりである。
1 申立理由1(甲1を主引用例とした場合)
本件特許発明1?9は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるか、甲1に記載された発明、及び甲5又は甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明である。

2 申立理由2(甲2を主引用例とした場合)
本件特許発明1?4及び7?9は、甲2に記載された発明、及び甲3に記載された事項、甲5又は甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件特許発明5は、甲2に記載された発明、及び甲3に記載された事項、甲5又は甲6に記載された事項、甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明である。

3 申立理由3(甲4を主引用例とした場合)
本件特許発明1?9は、甲4に記載された発明、及び甲1、2、8又は9に記載されている周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明である。

4 申立理由4(公然実施)
甲1?4及び7から、富士フイルムRIファーマ株式会社製の「BONENAVI」は本件出願前に日本国内又は外国において公然実施されたものであり、本件特許発明1?9は、その公然実施された「BONENAVI」の発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するものである。

5 申立理由5(サポート要件)
本件特許発明1?9は、発明の詳細な説明に記載したものでないことから、その特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
具体的には、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に、
「「前記飽和基準値は、前記正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい」ことは当然のことであるが、この範囲は広すぎる。例えば、飽和基準値が基準強度レベルより大きいが基準強度レベルとほぼ同じ値である(飽和基準値の範囲の下限)とするならば、ほぼ半分の正常領域が最大濃度で塗り潰されてしまい、ホットスポットと正常領域を鑑別することができない。逆に、飽和基準値が、最大の画素値より小さいが最大の画素値とほぼ同じ値である(飽和基準値の範囲の上限)とするならば、「正常骨領域のほとんどが白く表示され、読影者が表示された骨シンチグラム内の正常骨領域を認識できない場合がある。」(段落【0123】)という問題を解決することはできない。このように、「前記飽和基準値は、前記正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい」というだけでは、段落【0123】に記載された問題を解決することができない。」(10頁2?13行)と記載されている。

6 申立理由6(実施可能要件)
本件の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないことから、その特許が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
具体的には、申立書に、
「飽和基準値以上のカウント値を一律に最大濃度で表すということは、飽和基準値以上のカウント値の情報を失わせ、すべてホットスポットとして処理することになる。この点に鑑みれば、飽和基準値は、読影者による読影によらずに確実にホットスポットであると判断できるほど高いカウント値である必要がある。その一方で、段落【0123】の問題を解決するためには階調表現を行う範囲は狭い方がよいから、飽和基準値をあまり高いカウント値にすることはできない。このようなトレードオフの関係があるにもかかわらず、飽和基準値を「予め設定」しておくなどということができるのかどうか甚だ疑問であり、飽和基準値を予め設定する方法は何ら記載されていない。以上のように、本明細書を読んでも、「予め設定された飽和基準値」をどのように決めるのかが記載されていないため、当業者が本発明を実施することはできない。」(10頁20行?11頁2行)と記載されている。

第4 甲号証の記載事項
1 甲1について
(1)甲1の記載事項
本件出願前に頒布された刊行物である甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付した。
(甲1ア)「富士フイルムRIファーマ(株)はこの技術と^(99m)Tc-MDPによる日本人データベース^(4,5))を搭載したソフトウェア「BONENAVI」をEXINI Diagnosis社(スウェーデン)と共同開発した.
核医学の領域においては初となる骨シンンチグラフィ用の診断支援ソフトウェアであり,2011年5月より提供を開始した.視覚的に行われていた骨シンチグラムの読影に客観的指標が追加できるようになり,2011年8月までの3ヶ月間で300を超える施設に導入されている.」(41頁左欄14?26行)

(甲1イ)「2-1.表示スケールの統一(時系列解析)
同一患者の複数検査を同時に解析することが可能で,表示濃度スケールを統一した骨シンチグラムを時系列に並べて表示することができる.」(41頁右欄5?9行)

(甲1ウ)「3-3.正規化
セグメント内の膀胱部分と高集積部分を除いた平均カウントをもとにして,正面像および背面像についてのカウントの正規化を行う.同一患者の複数検査を解析する場合,それぞれのデータについて正規化を実施する.この正規化によって,表示スケールの統一化が可能となっている.」(43頁左欄下から5行?右欄4行)

(甲1エ)甲1には、図9及び図11?13として、以下の図面が記載されている。


(2)甲1発明
上記摘記(甲1ア)?(甲1ウ)をまとめると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「同一患者の複数検査を同時に解析することが可能で、表示濃度スケールを統一した骨シンチグラムを時系列に並べて表示する、骨シンンチグラフィ用の診断支援ソフトウェアであって、
セグメント内の膀胱部分と高集積部分を除いた平均カウントをもとにして、正面像および背面像についてのカウントの正規化を行うもので、同一患者の複数検査を解析する場合、それぞれのデータについて正規化を実施し、この正規化によって、表示スケールの統一化が可能となっている、ソフトウェア。」(以下「甲1発明」という。)

2 甲2について
(1)甲2の記載事項
本件出願前に頒布された刊行物である甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「骨シンチグラフィ診断支援ソフトウェアの臨床経験」(タイトル)

(甲2イ)「正規化:アトラスにおける膀胱と,高集積部位を除いた正常な骨格の平均カウントを正規化する。」(107頁右欄27?29行)

(甲2ウ)「また,解析操作中は時系列で表示スケールの統一された骨シンチグラムを並べて,ホットスポットの表示・非表示や前面・背面の切り替えを容易に行えるので,経過観察には有用である。」(108頁中欄5?9行)

(2)甲2発明
上記摘記(甲2ア)?(甲2ウ)をまとめると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「解析操作中は時系列で表示スケールの統一された骨シンチグラムを並べて、ホットスポットの表示・非表示や前面・背面の切り替えを容易に行え、経過観察には有用である、骨シンチグラフィ診断支援ソフトウェアであって、
アトラスにおける膀胱と、高集積部位を除いた正常な骨格の平均カウントを正規化する、ソフトウェア。」(以下「甲2発明」という。)

3 甲3について
本件出願前に頒布された刊行物である甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「1.表示スケールの統一(時系列解析)
同一患者の複数検査を同時に解析することが可能で、表示濃度スケールを統一した骨シンチグラムを時系列に並べて表示することができ、経時変化の評価を容易にしている。膀胱や注射漏れ等、骨以外の集積も自動的に判定している。」(87頁中欄6?12行)

4 甲4について
(1)公知日について
甲4は、富士フイルムRIファーマ株式会社が作成した「BONENAVIユーザーマニュアル」であるが、奥付もなく、その公知日は不明である。
申立人は、申立書で「甲第4-1号証は、PDFファイルを印刷したものであるが、PDFファイルのプロパティを見ると、「作成日時」が2011年4月15日となっている(甲4-2、0:01:30?0:01:32)。これは、甲第4-1号証が作成されたのが2011年4月15日であることを示している。また、甲第7号証は、甲第4-1号証の簡易版であるところ、甲第7号証に「2011年4月作成」と記載されている。通常、正式版を間引いたり要約するなどして簡易版が作成されるから、甲第4-1号証が2011年4月には作成されていたことが分かる。」と主張している。
しかしながら、申立人が作成した動画である甲4-2を参照したところ、「作成日:2011/04/15 11:50:12」「更新日:2011/04/18 9:45:53」となっているが、「ファイル:甲4号証」となっており、何のPDFファイルを「甲4号証」との名称にしたのか不明であり、「BONENAVIユーザーマニュアル」のPDFファイルの作成日及び更新日を変えないでファイル名だけを変えただけのものともいえないことから、「BONENAVIユーザーマニュアル」を富士フイルムRIファーマ株式会社が作成、更新した日時であると認められない。また、甲7の「BONENAVIさわってみようマニュアル」が、奥付のとおり、富士フイルムRIファーマ株式会社が2011年4月に作成したものであると認められるが、頒布あるいは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった時期は不明であるから、それをもってしても、「BONENAVIユーザーマニュアル」が、本件出願前に頒布された刊行物あるいは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められない。
してみれば、奥付もなくその公知日について不明である甲4について、上記申立人の主張のとおり、本件出願前に頒布された刊行物あるいは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認めることはできない。

(2)甲4の公知日は不明であるものの、甲4には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付した。
(甲4ア)「BONENAVIは画像セグメンテーション、ホットスポット検出、特徴検出、人工ニューラルネットワークなどの技術を用いて骨シンチ画像を定量化し客観的に評価することができるソフトウェアであり、富士フイルムRIファーマ株式会社とスウェーデンEXINI Diagnostics社が共同開発した骨シンチグラフィ用CADソフトウェアで、^(99m)Tc-MDPによる日本人データベースを搭載しています。」(1頁5?8行)

(甲4イ)「画像の表示
・骨シンチグラフィの正面像および背面像の表示を行います。
・画像濃度を自動的に正規化する機能を有します。」(8頁8?10行)

(甲4ウ)


」(18頁3?14行及び図面)

(甲4エ)「正面および背面タブ
正面タブには解析した骨シンチの正面像を時系列に並べて表示します。背面タブも同様に時系列に背面像を並べて表示します。検査日は画像の上に表示されます。」(20頁12?14行)

(甲4オ)「LANC@Tについて
はじめに
本ソフトウェアは画像データの管理、及び弊社ソフトウェアの各種解析が行える総合管理ツールです。」(51頁1?3行)

(甲4カ)


」(53頁7?10行及び図面)

(3)甲4発明
上記摘記(甲4ア)?(甲4カ)をまとめると、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「正面タブには解析した骨シンチの正面像を時系列に並べて表示し、背面タブも同様に時系列に背面像を並べて表示する、骨シンチ画像を定量化し客観的に評価することができるソフトウェアであって、
画像濃度を自動的に正規化する機能を有し、
正面像と背面像は、自動的に表示スケールが標準化され、画像表示の最小および最大値は、コントロールパネルの最小値(上)・最大値(下)のスライダーで調節でき、
さらに、総合管理ツールであるLANC@Tを使用した場合には、画像データのウィンドウレベルを変更できる、ソフトウェア。」(以下「甲4発明」という。)

5 甲5について
本件出願前に頒布された刊行物である甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5ア)「4.3 核医学画像に用いられる画像処理
・・・
4.3.1 画像表示と階調処理
・・・.表示する画素値の最小値,最大値は表示レベル(lower/upper)で設定する.最小値と最大値の間の画素値と輝度の関係は直線にするのが一般的であるが,種々の目的で階調処理により特性を持たせる場合もある.例えば,脳血流SPECT画像や心筋SPECT画像に対しては2乗曲線型の階調処理を行うことでコントラストを強調させることができる.図4.1にその効果を示す.」

(甲5イ)図4.1として、以下の図面が記載されている。


6 甲6について
本件出願前に頒布された刊行物である甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6ア)「【0011】
【作用】このように構成したシンチレーションカメラは、まず、イメージメモリにおけるX軸方向プロフィールとY軸方向プロフィールとからホールボディの体輪郭を認識し、この体輪郭における比例配分によって肺部の領域を決定するようになっている。
【0012】そして、この肺部の領域に相当するイメージメモリの領域から各画素データを抽出し、この抽出された各画素データのうちたとえば最大輝度値と最小輝度値とを求め、これら最大輝度値と最小輝度値に基づいて前記イメージメモリの各画素データを階調変換し、その後、これら階調変換された画素データに基づいて前記ホールボディを表示するようにしているものである。
【0013】すなわち、肺部の領域を基準として階調変換を行なっているものであるが、該肺部はラジオアイソトープが集積されやすい多数の骨とその間に存在し比較的アイソトープの集積され難い内臓とが混在された領域であることから、階調変換の基準として極端な輝度を有する領域を避けることができ、したがって、適切な階調がなされるようになる。」

(甲6イ)「【0041】そして、この肺部の領域に相当するイメージメモリ4の領域から各画素データを抽出し、この抽出された各画素データのうち最大輝度値と最小輝度値とを求め、これら最大輝度値と最小輝度値に基づいて前記イメージメモリ4の各画素データを階調変換し、その後、これら階調変換された画素データに基づいて前記ホールボディ10を表示するようにしているものである。」

7 甲7について
本件出願前に作成された(頒布あるいは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったかどうかまでは不明であるが)甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7ア)「「正面」または「背面」と記されたタブを開きます。解析した正面像または背面像が表示されます。」(8頁1?2行)

8 甲8について
本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8ア)「In order to reduce the effect of high-intensity lesions on bone scan images for optimization of the gray scale, an average pixel value of normal bone structures to normalize the gray scale of each image was used.」(12頁1?3行)
(訳:骨スキャン画像の高輝度病変の影響を減らしてグレースケールを最適化するために、各画像のグレースケールを正規化するのに正常骨構造の平均画素値を用いた。)

9 甲9について
本件出願前に頒布された刊行物である甲9には、以下の事項が記載されている。
(甲9ア)「本研究は複数(または単一)の正常部位のSPECT値の平均値をnormal reference value(以下、NRV)と定義し,その値を参照して正規化処理を行った.」(1284頁左欄25?27行)

第5 申立理由についての判断
1 申立理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「骨シンチグラム」は、被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を撮像した画像のことであるから、甲1発明の「時系列」の「骨シンチグラム」は、本件特許発明1の「被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像」に相当する。そして、甲1の「骨シンンチグラフィ用の診断支援ソフトウェア」により作動されるコンピュータがそれを記憶することは明かである。

(イ)骨シンンチグラフィにおいて、放射性薬剤は腫瘍等が転移した骨部分以外に膀胱に集積することは知られており、甲1発明の「セグメント内の膀胱部分と高集積部分を除いた」「セグメント」は、本件特許発明1の「健康な領域である正常領域」に相当するから、甲1発明の「セグメント内の膀胱部分と高集積部分を除いた平均カウントをもとにして、正面像および背面像についてのカウントの正規化を行うもので、同一患者の複数検査を解析する場合、それぞれのデータについて正規化を実施」することと、本件特許発明1の「前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、予め設定された基準強度レベルに変換するように、前記複数の画像を正規化する正規化ステップ」とは、「前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、あるレベルに変換するように、前記複数の画像を正規化する正規化ステップ」の点で共通している。

(ウ)甲1発明の「この正規化によって、表示スケールの統一化が可能となっている」「表示濃度スケールを統一した骨シンチグラムを時系列に並べて表示する」ことと、本件特許発明1の「前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換し、前記変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップ」とは、「表示スケールが変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップ」の点で共通する。

(ウ)甲1発明の「骨シンンチグラフィ用の診断支援ソフトウェア」は、本件特許発明1の「ステップ」「をコンピュータに実行させ」る「コンピュータのための画像処理プログラム」に相当する。

してみれば、本件特許発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像を記憶するコンピュータのための画像処理プログラムであって、
前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、あるレベルに変換するように、前記複数の画像を正規化する正規化ステップと、
表示スケールが変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップと、
をコンピュータに実行させる、画像処理プログラム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
正常領域の画素値の平均値をあるレベルに変換する際に、本件特許発明1では「予め設定された基準強度レベル」に変換するが、甲1発明では、そのレベルが不明である点。

(相違点2)
表示制御ステップにおける表示スケールの変換が、本件特許発明1では「前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換」するものであり、 「前記飽和基準値は、前記正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい」ものであるのに対し、甲1発明では、そのような変換を行っていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
(ア)同一性について
相違点2は、実質的な相違点であるから、甲1発明と本件特許発明1とは同一とはいえない。
なお、申立人は、申立書12頁13?16行で「図9、図11-13には、BONENAVIの表示スケールの統一機能により正常骨領域が認識できるようにグレースケール処理が行われていることが示されていることから、BONENAVIでは、最大の輝度値より小さい飽和基準値を基準としてスケール変換を行っていることが読み取れる。」と主張しているが、甲1発明は「この正規化によって、表示スケールの統一化が可能となっている」と記載されているように、正規化ステップの後に、正規化された複数の画像に対してさらに変換処理は行っておらず、上記摘記(甲1エ)の図9及び図11?13を見ても、上記相違点2に相当する技術的事項は読み取れない。

(イ)容易性について
a 上記甲5の記載事項を参照するに、表示する際の画素値の最小値、最大値を設定し、その最小値と最大値の間で直線型又は2乗曲線型の階調処理を行うことが記載されているだけであり、この処理は、少なくとも、「予め設定された飽和基準値」を設け「画像内の画素値のうち」「前記飽和基準値以上の画素値を」「スケールの最大濃度に変換」する点で、上記相違点2に係る技術的事項と異なるものである。ましてや、甲5に記載の処理は、正規化された画像内の画素値に対して行うことも記載されていない。
してみれば、甲5に記載されている技術的事項は、上記相違点2に係る技術的事項に相当するものではない。

b 上記甲6の記載事項を参照するに、肺部の領域に相当するイメージメモリの領域から各画素データを抽出し、この抽出された各画素データのうち最大輝度値と最小輝度値とを求め、これら最大輝度値と最小輝度値に基づいて前記イメージメモリの各画素データを階調変換することが記載されており、ある領域の画素データに対して最大輝度値と最小輝度値とを求め、これら最大輝度値と最小輝度値に基づいて各画素データを階調変換することは示されているが、この変換は、少なくとも、「予め設定された飽和基準値」を設け「画像内の画素値のうち」「前記飽和基準値以上の画素値を」「スケールの最大濃度に変換」する点で、上記相違点2に係る技術的事項と異なるものである。ましてや、甲6に記載の変換は、正規化された画像内の画素値に対して行うことも記載されていない。
してみれば、甲6に記載されている技術的事項は、上記相違点2に係る技術的事項に相当するものではない。

c 小括
上記相違点2の技術的事項は、上記a及びbのとおり、甲5又は甲6に記載されていないのであるから、甲1発明において相違点2とすることが、甲5又は甲6に記載された事項に鑑みても、当業者が容易になし得たこととすることはできない。
よって、本件特許発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1に記載された発明、及び甲5又は甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明でもなく、甲1発明、及び甲5又は甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、かつ、特許法第29条第2項に違反して特許された発明でもない。

(2)本件特許発明2?9について
本件特許発明2?7は、いずれも、本件特許発明1を引用してさらに限定した発明であり、本件特許発明8及び9は、上記第2で記載したとおり、本件特許発明1の発明特定事項を、前者については装置の発明とし、後者については方法の発明としたものであり、それらの技術的事項は本件特許発明1と同じであることから、本件特許発明2?9は、本件特許発明1と同様に、甲1発明でもなく、甲1発明、及び甲5又は甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、かつ、特許法第29条第2項に違反して特許された発明でもない。

2 申立理由2について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「骨シンチグラム」は、被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を撮像した画像のことであるから、甲2発明の「時系列」の「骨シンチグラム」は、本件特許発明1の「被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像」に相当する。そして、甲2の「骨シンンチグラフィ診断支援ソフトウェア」により作動されるコンピュータがそれを記憶することは明かである。

(イ)骨シンンチグラフィにおいて、放射性薬剤は腫瘍等が転移した骨部分以外に膀胱に集積することは知られており、甲2発明の「アトラスにおける膀胱と、高集積部位を除いた正常な骨格」は、本件特許発明1の「健康な領域である正常領域」に相当するから、甲2発明の「アトラスにおける膀胱と、高集積部位を除いた正常な骨格の平均カウントを正規化する」ことと、本件特許発明1の「前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、予め設定された基準強度レベルに変換するように、前記複数の画像を正規化する正規化ステップ」とは、「前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、あるレベルに変換するように、前記複数の画像を正規化する正規化ステップ」の点で共通している。

(ウ)甲2発明の「時系列で表示スケールの統一された骨シンチグラムを並べて、ホットスポットの表示・非表示や前面・背面の切り替えを容易に行え、経過観察には有用である」「表示」のステップと、本件特許発明1の「前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換し、前記変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップ」とは、「表示スケールが変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップ」の点で共通する。

(エ)甲2発明の「骨シンンチグラフィ診断支援ソフトウェア」は、本件特許発明1の「ステップ」「をコンピュータに実行させ」る「コンピュータのための画像処理プログラム」に相当する。

してみれば、本件特許発明1と甲2発明とは、
(一致点)
「被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像を記憶するコンピュータのための画像処理プログラムであって、
前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、あるレベルに変換するように、前記複数の画像を正規化する正規化ステップと、
表示スケールが変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップと、
をコンピュータに実行させる、画像処理プログラム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
正常領域の画素値の平均値をあるレベルに変換する際に、本件特許発明1では「予め設定された基準強度レベル」に変換するが、甲2発明では、そのレベルが不明である点。

(相違点4)
表示制御ステップにおける表示スケールの変換が、本件特許発明1では「前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換」するものであり、 「前記飽和基準値は、前記正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい」ものであるのに対し、甲2発明では、そのような変換を行っていない点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点4について検討する。
上記相違点4は、上記1の(1)のアで記載した相違点2と同じであるから、上記1の(1)のイで説示したとおり、上記相違点4の技術的事項は、甲5又は甲6に記載されていない。さらに、上記甲3の記載事項を参照するに、表示濃度スケールを統一した骨シンチグラムを時系列に並べて表示することが記載されているだけであり、上記相違点4の技術的事項を示すものではない。
してみれば、甲2発明において相違点4とすることが、甲3、甲5又は甲6に記載された事項に鑑みても、当業者が容易になし得たこととすることはできない。

(イ)まとめ
したがって、本件特許発明1は、相違点3について検討するまでもなく、甲2発明、及び甲3、甲5又は甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明でない。

(2)本件特許発明2?9について
本件特許発明2?9と本件特許発明1との関係は、上記1(2)で記載したとおりであるから、本件特許発明2?4及び6?9は、本件特許発明1と同様に、甲2発明、及び甲3、甲5又は甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明でない。
そして、本件特許発明1を引用してさらに限定した発明である本件特許発明5について、仮に甲7の公知日が本件出願前とし甲7に記載された事項を追加しても、本件特許発明1と同様に、甲2に記載された発明、及び甲3、甲5、甲6又は甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもないから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明でない。

3 申立理由3について
申立理由3については、本件特許発明1?9は、甲4に記載された発明、及び甲1、2、8又は9に記載されている周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明であることを理由とするものであるが、甲4の公知日が、上記第4の4(1)で説示したように、本件出願前に頒布された刊行物あるいは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものとすることはできないことから、申立理由3によって本件特許発明1?9を取り消すことはできない。

4 申立理由4について
富士フイルムRIファーマ株式会社製の「BONENAVI」は、甲1の摘記(甲1ア)「富士フイルムRIファーマ(株)はこの技術と^(99m)Tc-MDPによる日本人データベースを搭載したソフトウェア「BONENAVI」をEXINI Diagnosis社(スウェーデン)と共同開発した。核医学の領域においては初となる骨シンンチグラフィ用の診断支援装置ソフトウェアであり、2011年5月より提供を開始した。」における、「骨シンンチグラフィ用の診断支援ソフトウェア」と推認できることから、富士フイルムRIファーマ株式会社製の「BONENAVI」は、本件出願前である2011年5月に日本国内又は外国において公然実施されたものであるといえる。
そして、富士フイルムRIファーマ株式会社製の「BONENAVI」は、甲4の「BONENAVIユーザーマニュアル」のとおりに作動するものと推認できることから、上記第4の4(3)で記載した発明である甲4発明が、公然実施をされた発明であるといえる。

(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「骨シンチ画像」は、被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を撮像した画像のことであるから、甲4発明の「時系列」の「骨シンチ画像」は、本件特許発明1の「被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像」に相当する。そして、甲4の「ソフトウェア」により作動されるコンピュータがそれを記憶することは明かである。

(イ)甲4発明の「画像濃度を自動的に正規化する」ことと、本件特許発明1の「前記複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、予め設定された基準強度レベルに変換するように、前記複数の画像を正規化する正規化ステップ」とは、「前記複数の画像を正規化する正規化ステップ」の点で共通している。

(ウ)甲4発明の「自動的に表示スケールが標準化され、画像表示の最小および最大値は、コントロールパネルの最小値(上)・最大値(下)のスライダーで調節」し、「さらに、総合管理ツールであるLANC@Tを使用した場合には、画像データのウィンドウレベルを変更」し、「正面タブには解析した骨シンチの正面像を時系列に並べて表示し、背面タブも同様に時系列に背面像を並べて表示する」ことと、本件特許発明1の「前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換し、前記変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップ」とは、「表示スケールが変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップ」の点で共通する。

(エ)甲4発明の「骨シンチ画像を定量化し客観的に評価することができるソフトウェア」は、本件特許発明1の「ステップ」「をコンピュータに実行させ」る「コンピュータのための画像処理プログラム」に相当する。

してみれば、本件特許発明1と甲4発明とは、
(一致点)
「被験者の体内の放射性薬剤の分布状態を複数の時刻に夫々撮像した複数の画像を記憶するコンピュータのための画像処理プログラムであって、
前記複数の画像を正規化する正規化ステップと、
表示スケールが変換された複数の画像を前記複数の時刻に対応させて配置することにより表示画像を生成し、表示装置に前記表示画像を表示させる表示制御ステップと、
をコンピュータに実行させる、画像処理プログラム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点5)
正規化が、本件特許発明1では、「複数の画像から健康な領域である正常領域を検出し、前記正常領域の画素値の平均値を、予め設定された基準強度レベルに変換するように」行うものであるのに対し、甲4発明では、不明である点。

(相違点6)
表示スケールが変換された複数の画像が、本件特許発明1では、「前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、予め設定された飽和基準値よりも小さい画素値を、予め設定されたスケールに基づいて濃度に変換し、前記正規化された複数の画像内の画素値のうち、前記飽和基準値以上の画素値を前記スケールの最大濃度に変換し、前記変換された複数の画像」であり、その「前記飽和基準値は、前記正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい」ものであるのに対し、甲4発明では「自動的に表示スケールが標準化され、画像表示の最小および最大値は、コントロールパネルの最小値(上)・最大値(下)のスライダーで調節」し、「さらに、総合管理ツールであるLANC@Tを使用した場合には、画像データのウィンドウレベルを変更」したものである点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点6について検討する。
「自動的に表示スケールが標準化され、画像表示の最小および最大値は、コントロールパネルの最小値(上)・最大値(下)のスライダーで調節」し、「さらに、総合管理ツールであるLANC@Tを使用した場合には、画像データのウィンドウレベルを変更」することは、画像を表示する際の画素値の最小値、最大値を設定し、画像をその最小値と最大値の間で階調処理をして表示するというだけであり、本件特許発明1のように「予め設定された飽和基準値」を設け「画像内の画素値のうち」「前記飽和基準値以上の画素値を」「スケールの最大濃度に変換」することを行うものではない。
してみれば、相違点6は実質的な相違点である。

(イ)まとめ
したがって、本件特許発明1は、相違点5について検討するまでもなく、公然実施された甲4発明ではなく、特許法第29条第1項第2号に該当するものとはいえない。

(2)本件特許発明2?9について
本件特許発明2?9と本件特許発明1との関係は、上記1(2)で記載したとおりであるから、本件特許発明2?9は、本件特許発明1と同様に、公然実施された甲4発明ではなく、特許法第29条第1項第2号に該当するものとはいえない。

5 申立理由5について
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、発明が解決しようとする課題として、
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同一被験者について長期間に亘る複数の検査を行う場合、検査によって検出器の種類や被験者の体調や体位等の撮像条件が異なる場合がある。この場合、例えば、複数の画像における同等の異常が、大きく異なる画素値で表される場合がある。従って、これら複数の画像が並べて表示されたとしても、読影者がそれらの画像を比較して適切な判断をすることは容易ではない。」と記載され、さらに、
「【0123】
前述の正規化方法によれば、正規化カウント値を濃度として調整画像を表示することにより、正常骨領域のピクセルの濃度の範囲は揃えられる。但し、調整画像をそのまま表示しても、読影者による正常骨領域及びホットスポットの認識に適した濃度のスケールであるとは限らない。例えば、最大濃度に対応する正規化カウント値が高すぎると、正常骨領域のほとんどが白く表示され、読影者が表示された骨シンチグラム内の正常骨領域を認識できない場合がある。」と記載されている。
これに対し、本件特許発明1?9の「飽和基準値」について、
「【0125】
変換部50は、特定の飽和基準値がグレースケールの最大濃度に変換されるように、スケールレンジを決定する。飽和基準値は、特定の最大基準値に所定のレンジ係数を乗算した値である。最大基準値は例えば、前述の撮像画像データベースにおける骨シンチグラムを前述の正規化方法により正規化して得られる正規化カウント値に基づいて決定される。最大基準値は例えば、撮像画像データベースにおける最大の正規化カウント値と同じか大きい。レンジ係数は、0より大きく1より小さい。より好適な飽和基準値は、1000より大きく、撮像画像データベースにおける最大の正規化カウント値より小さい。
【0126】
図13は、スケールレンジを示す図である。この図において、横軸は調整画像のピクセルの正規化カウント値を示し、縦軸は調整画像のピクセルの濃度を示す。これにより、正規化カウント値がゼロであるピクセルの濃度は、ゼロの濃度で表示される。正規化カウント値が飽和基準値以上であるピクセルは、最大濃度で表示される。正規化カウント値がゼロより大きく飽和基準値より小さいピクセルは、その正規化カウント値に応じた階調、例えば直線階調またはログ階調等の曲線階調により表示される。
【0127】
変換部50によれば、調整画像の正規化カウント値を適切なグレースケールの濃度に変換することにより、読影者は表示された骨シンチグラム内の正常骨領域及びホットスポットを容易に認識することができる。なお、変換部50は、読影者による入力装置4の操作に基づいて、レンジ係数又は飽和基準値を調整しても良い。」と記載されており、図13として、以下の図が記載されている。



(2)判断
本件特許発明1?9において「飽和基準値は、前記正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、前記基準強度レベルより大きい」ものであるが、飽和基準値を「正規化ステップにより得られる最大の画素値」(上記図13における「最大基準値」)に近づけるということは、正規化カウント値が高い部分(癌転移等のいわゆるホットスポット領域)のカウント値に合わせて濃度が変化する(カウントが大きいほど濃度が濃い)ということであり、読影者は、ホットスポット領域における状況をより詳細に把握できるようになるといえる。一方、飽和基準値を「基準強度レベル」(上記図13における「1000」)に近づけるということは、正規化カウント値が高い部分についてはカウント値の値にかかわらず、全て同じ濃度(上記図13における「最大濃度」)にするということであり、ホットスポット領域における状況を詳細には把握しずらいが、正常骨領域が認識しやすくなる。
してみれば、ホットスポット領域における状況の把握、あるいは、正常骨領域の認識等、読影者の読影する対象等に応じて、飽和基準値は、「正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、基準強度レベルより大きい」範囲の間で変化しうるものであり、申立人が主張するようにこの範囲が広すぎることはなく、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
よって、件特許発明1?9は発明の詳細な説明に記載したものであり、その特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

6 申立理由6について
飽和基準値は、予め「正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、基準強度レベルより大きい」範囲の間で設定され、その後、上記5(1)の【0127】に記載されているとおり、読影者によって調整され得るものであるが、上記5(2)で説示したとおり、その予め設定される飽和基準値は、ホットスポット領域における状況の把握、あるいは、正常骨領域の認識等、読影者の読影する対象等に応じて「正規化ステップにより得られる最大の画素値より小さく、かつ、基準強度レベルより大きい」範囲の間で予め適宜設定されるものといえる。
してみれば、申立人の主張するように飽和基準値を予め設定する方法が発明の詳細な説明に記載されていないからといって、当業者が飽和基準値を予め設定することはできないとはいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?9について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、その特許が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?9に係る特許が、特許法第113条第2号又は同条第4号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-19 
出願番号 特願2012-141436(P2012-141436)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (G01T)
P 1 651・ 112- Y (G01T)
P 1 651・ 537- Y (G01T)
P 1 651・ 121- Y (G01T)
P 1 651・ 113- Y (G01T)
最終処分 維持  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
登録日 2017-07-07 
登録番号 特許第6170284号(P6170284)
権利者 イクシニ ダイアグノスティックス エイ ビー 富士フイルムRIファーマ株式会社
発明の名称 画像処理プログラム、記録媒体、画像処理装置、及び画像処理方法  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  

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