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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D06B 審判 全部申し立て 2項進歩性 D06B |
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管理番号 | 1340174 |
異議申立番号 | 異議2018-700193 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-02 |
確定日 | 2018-05-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6198462号発明「印刷装置及び印刷方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6198462号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6198462号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成25年5月24日に特許出願され、平成29年9月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年3月2日に特許異議申立人岡幹男(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許6198462号の請求項1?10の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で布地の媒体へ印刷する印刷装置であって、 前記媒体上で前記目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを備え、 前記図柄は複数の模様により構成され、 前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられ、 前記インクジェットヘッドは、前記複数の模様のそれぞれにおいて前記目的色用インクの濃度が予め設定された一定の濃度となるようにインク滴を吐出するものであることを特徴とする印刷装置。 【請求項2】 前記印刷装置は、互いに色が異なる複数の前記目的色で表現される図柄を前記媒体へ印刷し、 前記複数の目的色に対応する複数の前記インクジェットヘッドを備え、 それぞれの前記インクジェットヘッドは、前記媒体上で対応する前記目的色となる色に調整された前記目的色用インクのインク滴を吐出することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。 【請求項3】 前記媒体に対し、一の前記インクジェットヘッドにより一の前記目的色用インクのインク滴を前記媒体へ吐出し、かつ、その後に他の前記インクジェットヘッドにより他の前記目的色用インクのインク滴を前記媒体へ吐出する場合、 前記他のインクジェットヘッドは、前記媒体へ着弾した前記一の目的色用インクが乾燥した後に、前記他の目的色用インクのインク滴を前記媒体へ吐出することを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。 【請求項4】 前記目的色用インクを貯留し、かつ、前記インクジェットヘッドへ前記目的色用インクを供給するインクボトルを更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の印刷装置。 【請求項5】 前記インクジェットヘッドは、前記目的色用インクのインク滴について、前記媒体の裏面側まで到達させるインクの量で吐出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置。 【請求項6】 前記インクジェットヘッドは、前記媒体上において前記目的色用インクで印刷をすべき印刷領域に対し、前記媒体の一方の面へインク滴を吐出した後、更に、前記媒体の他方の面へインク滴を吐出することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の印刷装置。 【請求項7】 前記媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用い、 前記インクジェットヘッドは、前記一方の面を前記インクジェットヘッドと対向させて前記保持部材に保持された前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記媒体の一方の面へインク滴を吐出し、 かつ、前記保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記媒体の他方の面へインク滴を吐出することを特徴とする請求項6に記載の印刷装置。 【請求項8】 予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で布地の媒体へ印刷する印刷方法であって、 前記媒体上で前記目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを用いて印刷を行い、 前記図柄は複数の模様により構成され、 前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを用い、 前記インクジェットヘッドに、前記複数の模様のそれぞれにおいて前記目的色用インクの濃度が予め設定された一定の濃度となるようにインク滴を吐出させることを特徴とする印刷方法。 【請求項9】 予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で媒体へ印刷する印刷装置であって、 前記媒体上で前記目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを備え、 前記媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用いて前記媒体を保持し、 前記インクジェットヘッドは、一方の面を前記インクジェットヘッドと対向させて前記保持部材に保持された前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記媒体上において印刷をすべき印刷領域に対し、前記媒体の一方の面へインク滴を吐出して前記図柄を印刷し、 かつ、前記保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記印刷領域に対し、前記媒体の他方の面へインク滴を吐出するもので、 前記図柄は複数の模様により構成され、 前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられ、 前記一方の面へのインク滴の吐出及び前記他方の面へのインク滴の吐出について、同じ色の前記目的色用インクで、かつ両面の図柄が重なるように印刷するものであることを特徴とする印刷装置。 【請求項10】 予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で媒体へ印刷する印刷方法であって、 前記媒体上で前記目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを用い、 前記媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用いて前記媒体を保持し、 前記インクジェットヘッドにより、一方の面を前記インクジェットヘッドと対向させて前記保持部材に保持された前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記媒体上において印刷をすべき印刷領域に対し、前記媒体の一方の面へインク滴を吐出して前記図柄を印刷し、 かつ、前記保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記印刷領域に対し、前記媒体の他方の面へインク滴を吐出し、 前記図柄は複数の模様により構成され、 前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを用い、 前記一方の面へのインク滴の吐出及び前記他方の面へのインク滴の吐出について、同じ色の前記目的色用インクで、かつ両面の図柄が重なるように印刷することを特徴とする印刷方法。」 第3 申立理由の概要 申立人は、以下の刊行物を証拠として提出し、大要、次の申立理由を主張している。 なお、甲第1号証等を、以下「甲1」等という。そして、甲1等に記載された発明あるいは事項を、以下、それぞれ「甲1発明」あるいは「甲1事項」という。 1.理由1 本件発明1、2及び8は、甲1-1発明である多色ヘッドインクジェットプリンターあるいは甲1-2発明である多色ヘッドインクジェットプリンターによる印刷方法であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、その発明に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきである。 2.理由2 本件発明1?10は、甲1-1発明である多色ヘッドインクジェットプリンターあるいは甲1-2発明である多色ヘッドインクジェットプリンタによる印刷方法に、例えば甲2に記載されたインクジェットプリントの技術分野における両面印刷をおこなうことの周知技術、並びに、例えば甲3及び甲4に記載されたインクの滲みや混色を適切に防止するために、先に噴射したインクを乾燥させてから次のインクを噴射することの周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきである。 < 刊 行 物 一 覧 > 甲1:北尾好隆、「特集IT染色革命 特色(事前混色)用シンクジェットシステムの開発」、加工技術、株式会社繊維社、2000年11月10日、Vol.35、No.11、7?20ページ 甲2:特開平11-315484号公報 甲3:特開平6-262774号公報 甲4:特開平8-5831号公報 第4 刊行物の記載 (1)甲1 ア.甲1の記載 甲1には、次の記載及び図示がある。なお、行数には、空白行は含まない。原文において、○囲み数字にて記載されているものについては、「○1」等と代用表記した。 (ア)「・・・現状のインクジェットプリント最大の問題点は単色染料インキ液滴の疎密集合で色を表現していることである。そのため,ベージュ等の淡色においてザラツキ性を生じ,その解決法として,吐出液滴をより小さくしている(高dpi化)のが一般的であり,その結果,染料インキの精製などにコストがかかっているのが現状である. 一方,インクジェットプリント品を見本品(マス見本,着分見本)として考えているユーザーは,現在,捺染で使用している安価な染料を用い,現状の捺染品と同等以上の品位の優れた製品を生産する方法を要望している.したがって,われわれは現状のインクジェットの短所の解決と,ユーザーの要望を実現する方法として, ○1市販染料の利用 ○2事前混色(特色)による色表現法の利用 の開発を目標に,反応染料インキについて以下の手順で行った. ・実験-I:市販インクジェット用染料インキ(反応染料)の分析 ・実験-II:市販反応染料の分析 ・実験-III:染料インキの調製法 ・実験-IV:使用可能染料の選択 ・実験-V:綿布の前処理方法 ・実験-VI:事前混色(特色)による色表現法」(7ページ左欄10行?右欄12ページ) (イ)「7.実験-VI:事前混色(特色)による色表現法 今回,開発しようとしている特色(事前混色)インクジェットは,第1表に示した現状のインクジェットプリントの短所を解決する方法である.この考えの利点は,現状の有版捺染のカラーデータとインクジェットプリントのカラーデータとに関連があり,かつ製品品位が優れていることである.それゆえ,その関連性を明確にするため,第1図に示す□(当審注:原文では点線による四角囲みで表記)内の相関を明らかにした.」(18ページ左欄11行?右欄5行) (ウ)「7-1 実験方法 第1図に示す□(当審注:原文では点線による四角囲みで表記)内の関連性を明確にするため,有版捺染単色カラーデータを用いて特色(事前混色)インクジェットプリントで表現できる色を求めることができるかを第4図に示す手法でCCM計算の精度から検討した. そして,使用染料およびインキ処方は第9表に示したとおりである. インクジェットで表現した色は,第5図に示す色三角で3種の染料の配合比率が偏りのないように選んだ19色であり,それらの配合比率を第14表に示した.」(18ページ右欄6?末行) (エ)「7-2 結果および考察 第4図に示したように,基礎データとして有版捺染単色カラーデータを用い,インクジェットで表現した色を有版捺染で表現するための色糊染料濃度をCCM計算から求めた.そして,その染料濃度で色糊を調整し,印捺・発色させた. そして,インクジェットで表現した色とCCM計算から求め,有版捺染で表現した色の色差(dE*)および視感判定結果を第15表に示す. この表からわかるように,色差数値はやや大きいが,視感反転ではほとんど問題がない結果である.」(19ページ左欄1?10行) (オ)「第2表 」 (カ)「第1図 」 (キ)「第4図及び第5図 」 (ケ)「第14表 」 (コ)「第9図 」 イ.甲1発明 以上のア.(ア)?(エ)に記載された事項、及び、ア.(オ)?(コ)に図示された事項を総合すると、甲1には、以下のインクジェットプリンターに係る発明である甲1-1発明及び印刷方法の発明である甲1-2発明が記載されている。 (ア)甲1-1発明 「予め設定された特色で表現される図柄をインクジェット方式で綿布へ印刷する多色ヘッドインクジェットプリンターであって、 前記綿布上で前記特色となる色に調整されたインクである特色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを備た、 インクジェットプリンター。」 (イ)甲1-2発明 「予め設定された特色で表現される図柄をインクジェット方式で綿布へ印刷する多色ヘッドインクジェット方式で綿布へ印刷する印刷方法であって、 前記綿布上で前記特色となる色に調整されたインクである特色用インクのインク滴を吐出する多色ヘッドを用い、 前記多色ヘッドにより、一方の面を前記多色ヘッドと対向させて前記綿布へインク滴を吐出することにより、前記綿布上において印刷をすべき印刷領域に対し、前記綿布の一方の面へインク滴を吐出して前記図柄を印刷する、 印刷方法。」 (2)甲2 甲2には、【請求項1】、【0001】、【0078】、【0081】及び【0082】の記載、並びに、【図12】及び【図13】の図示があり、布帛においてインクジェット方式で画像を形成するものにおいて、当該布帛に形成する表面画像と裏面画像とを一致させて形成する装置あるいは方法が記載されている。そして、当該装置あるいは方法において、表面をプリントする際と、裏面をプリントする際との両方において、共通するプラテンを用いて摩擦力により被記録媒体を保持し、プリントすることが記載されている。 (3)甲3 甲3には、【請求項2】、【請求項6】、【請求項7】、【0056】の記載があり、色調を異にするインクを用いて混色プリントを行うべくプリントヘッドを複数具備するインクジェットプリントの物の製造装置において、第1及び第2のプリントヘッド間の搬送経路において乾燥をおこなうことにより、プリントされたドットの滲みをより低減することが記載されている。 (4)甲4 甲4には、【請求項7】、【請求項9】、【0016】、【0019】の記載があり、インクジェットプリンタヘッドの三種のノズルから着色液を噴射する際に、1種の着色液の基板への噴射及び乾燥を行ってから、別の着色液の噴射及び乾燥を行うことにより、着色層間の混色が起こりにくくなることが開示されている。 第5 当審の判断 1.理由1について (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、少なくとも次の相違点1で相違する。 <相違点1> インクジェットヘッドについて、本件発明1は、複数の目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられ、印刷される図柄である複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画するとともに、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられたものであるのに対し、 甲1-1発明は、複数の特色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられたものであるか明らかではなく、印刷される図柄が複数の模様であるか否かも明らかではなく、インクジェットヘッドとして、複数の特色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられたものであるか否かも明らかではない点。 イ.判断 上記相違点1は、インクジェットヘッドにより印刷しようとする図柄の色や個数、そして、それぞれの図柄に対応したインクを吐出するインクヘッドについての相違であるから、実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は、甲1-1発明であるとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用するものであるところ、本件発明1は、上記(1)に示したように、甲1-1発明ではないから、本件発明2も甲1-1発明であるとはいえない。 (3)本件発明8について ア.対比 本件発明8と甲1-2発明とを対比すると、少なくとも以下の相違点2で相違する。 <相違点2> 本件発明8の印刷方法により、インクジェット方式で布地の媒体へ印刷される図柄は、予め設定された目的色で表現され、複数の模様により構成され、前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを用いるものであるのに対し、 甲1-2発明の印刷方法により、インクジェット方式で綿布へ印刷される図柄は、予め設定された特色で表現されるが、そもそも構成される模様が複数であるか否かが不明であり、さらに、複数の模様のそれぞれについて、インクジェットヘッドで用いる1色のみの特色インクで描画するか否か、インクジェットヘッドとして、複数の特色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを用いるか否かが不明である点。 イ.判断 上記相違点2は、媒体に印刷しようとする図柄の色や個数、そして、それぞれの図柄に対応したインクを吐出するインクヘッドを用いることについての相違であるから、実質的な相違点である。 したがって、本件発明8は、甲1-2発明であるとはいえない。 (4)小括 上記(1)?(3)で検討したとおり、本件発明1及び2は、甲1-1発明ではなく、本件発明8は、甲1-2発明ではないから、本件発明1、2及び8は、いずれも、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明1、2及び8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由に取り消すことはできない。 2.理由2について (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、上記1.(1)ア.に示した上記相違点1で相違する。 イ.判断 インクジェット方式の印刷装置において、上記相違点1に係る構成を備えることは、甲1には記載されていないし、示唆する記載もない。また、甲2?4においても記載されていないし、示唆する記載もない。 したがって、甲1-1発明について、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成を備えることで、複数の模様のそれぞれについて、専用のインクジェットヘッドからそれぞれ吐出する複数色のインクにより、目的色を直接かつ適切に表現できる。そのため、媒体へ着弾後のインクについて、色間滲みが生じること等を適切に防ぐことができる。また、その結果、例えば必要に応じて、媒体へ吐出するインクの量を増やすことも可能となる。そのため、媒体の各位置に対し、十分な量のインクを付着させることができる。また、これにより、布地の媒体に対し、インクジェット方式での捺染を適切に行うことができる。また、このように構成した場合、所望の目的色に対応する目的色用インクをはじめから用いているため、インクジェットヘッドの吐出量にばらつきや誤差が生じても、色のブレが生じることはない。また、媒体の各位置に十分な量のインクを付着させることができるため、糸の裏返りが生じても色変化が少なくなる。また、これにより、例えば、捺線が完了した後の媒体について、洗濯堅牢性を適切に高めることもできる。(本件特許明細書【0046】及び【0047】)。以上の格別な作用効果を奏する。 したがって、甲1-1発明について、相違点1における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)3ページの(構成要件1C)の欄において、甲1の18ページの、インクジェットにより19色の色を表現したことの記載から、甲1に記載された「19色の表現された色」は本件発明1の「複数の模様により構成された図柄」に相当する旨、主張している。 そして、申立書3?4ページの(構成要件1D)の欄において、甲1の第1図の、スキャニングにより原図を取り込み、特色分版を行い、インキ混合処方を計算し、インキを精密計算混合し、多色ヘッドインクジェットプリンターにて混合色均一集合の製品を作成する旨の、特色(事前混色)インクジェットプリント方法についての記載から、甲1に記載された「19色の色を、インキを精密計算した後に多色ヘッドインクジェットプリンタで印刷すること」は、本件発明1の「複数の模様のそれぞれについて、インクジェットヘッドで用いる一色のみの目的色用インクで描画すること」に相当する旨主張している。 しかし、甲1の9ページに多色ヘッドインクジェットプリンターとの記載があったとしても、甲1の12ページ表6には、「印字ヘッド4色」と記載されており、汎用のインクジェットプリンターを用いたと読みとれるから、4つの印字ヘッドに別の混合色インクをセットして使用しているとまでは読み取れない。複数の混合色インクを順次用いる場合があると仮定しても、汎用プリンターの場合、タンクと印字ヘッドが同時交換されるから、専用のインクジェットヘッドが設けられるとは限らない。 また、上記「19色」の色は、「第5図に示す色三角で3種の染料の配合比率が偏りのないように選んだ19色」(甲1、18ページ右欄14?16行)であり、当該19色の第5図の色三角における配置をみると、ほぼ全体に均一に分布している。そして、甲1の14ページに「基礎データとして有版捺染単色カラーデータを用い」と記載されるように、単色のインクジェットと対比するためのものである。当該19色による印刷をもって、「複数の模様のそれぞれについて、インクジェットヘッドで用いる一色のみの目的色用インクで描画する」に相当するということはできない。 よって、申立人の上記主張は当を得たものではなく、採用することはできない。 以上のとおり、本件発明1は、甲1-1発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件発明2?7について 本件発明2?7は、いずれも本件発明1を直接あるいは間接に引用する発明である。よって、本件発明1は、上記(1)に示したとおり、甲1-1発明及び甲2?4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明2?7のいずれも、甲1-1発明及び甲2?4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明8について ア.対比 本件発明8と甲1-2発明とを対比すると、上記1.(3)ア.に示した上記相違点2で相違する。 そして、インクジェット方式の印刷方法において、上記相違点2係る構成を備えることは、甲1には記載されていないし、示唆する記載もない。また、甲2?4においても、記載されていないし、示唆する記載もない。 したがって、甲1-2発明について、上記相違点2に係る本件発明8の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 そして、本件発明8は、上記相違点2に係る構成を備えることで上記(1)イ.に示した格別な作用効果を奏する。 よって、本件発明8は、甲1-2発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明9について ア.対比 本件発明9と甲1-1発明とを対比すると、少なくとも次の相違点3で相違する。 <相違点3> インクジェットヘッドについて、本件発明9は、複数の目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられ、印刷される図柄である複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画するとともに、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられたものであるのに対し、 甲1-1発明は、複数の特色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられたものであるか明らかではなく、印刷される図柄が複数の模様であるか否かも明らかではなく、インクジェットヘッドとして、複数の特色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられたものであるか否かも明らかではない点。 イ.判断 インクジェット方式の印刷装置において、上記相違点3に係る構成を備えることは、甲1には記載されていないし、示唆する記載もない。また、甲2?4においても記載されていないし、示唆する記載もない。 したがって、甲1-1発明について、相違点3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 そして、本件発明9は、上記相違点3に係る構成を備えることで、複数の模様のそれぞれについて、一のインクジェットヘッドから吐出するインクにより、目的色を直接かつ適切に表現できる。そのため、媒体へ着弾後のインクについて、色間滲みが生じること等を適切に防ぐことができる。また、その結果、例えば必要に応じて、媒体へ吐出するインクの量を増やすことも可能となる。そのため、媒体の各位置に対し、十分な量のインクを付着させることができる。また、このように構成した場合、所望の目的色に対応する目的色用インクをはじめから用いているため、インクジェットヘッドの吐出量にばらつきや誤差が生じても、色のブレが生じることはない。(本件特許明細書【0046】及び【0047】)。以上の格別な作用効果を奏する。 よって、本件発明9は、甲1-1発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明10について ア.対比 本件発明10と甲1-2発明とを対比すると、少なくとも次の相違点4で相違する。 <相違点4> 本件発明10の印刷方法により、インクジェット方式で媒体へ印刷される図柄は、予め設定された目的色で表現され、複数の模様により構成され、前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを用いるものであるのに対し、 甲1-2発明の印刷方法により、インクジェット方式で綿布へ印刷される図柄は、予め設定された特色で表現されるが、そもそも構成される模様が複数であるか否かが不明であり、さらに、複数の模様のそれぞれについて、インクジェットヘッドで用いる1色のみの特色インクで描画するか否か、インクジェットヘッドとして、複数の特色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを用いるか否かが不明である点。 イ.判断 インクジェット方式の印刷装置において、上記相違点4に係る構成を備えることは、甲1には記載されていないし、示唆する記載もない。また、甲2?4においても記載されていないし、示唆する記載もない。 したがって、甲1-2発明について、相違点4における本件発明10に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 そして、本件発明10は、上記相違点4に係る構成を備えることで、上記2.(4)イ.に示した格別な作用効果を奏する。 よって、本件発明10は、甲1-2発明及び甲2?4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)小括 上記(1)?(5)で検討したように、本件発明1?7及び9は、甲1-1発明並びに甲2?4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件発明8及び10は、甲1-2発明並びに甲2?4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、本件発明1?10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえず、それらの特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、上記申立理由によっては、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-05-18 |
出願番号 | 特願2013-110250(P2013-110250) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(D06B)
P 1 651・ 121- Y (D06B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加賀 直人 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
久保 克彦 井上 茂夫 |
登録日 | 2017-09-01 |
登録番号 | 特許第6198462号(P6198462) |
権利者 | 株式会社ミマキエンジニアリング |
発明の名称 | 印刷装置及び印刷方法 |
代理人 | 藤村 康夫 |
代理人 | 小林 直樹 |
代理人 | 折坂 茂樹 |