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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G06F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F |
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管理番号 | 1340483 |
審判番号 | 不服2017-8045 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-05 |
確定日 | 2018-06-05 |
事件の表示 | 特願2016-528346「ファイルロック方法、ファイルロック装置、プログラム、及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月30日国際公開、WO2015/196708、平成28年11月 4日国内公表、特表2016-534435、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2014年11月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年6月26日(以下,「優先日」という。),中国)を国際出願日として出願したものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成27年 1月14日 :国内書面,手続補正書の提出 平成28年 9月26日付け :拒絶理由の通知 平成28年12月20日 :意見書,手続補正書の提出 平成29年 2月27日付け :拒絶査定 平成29年 6月 5日 :審判請求書,手続補正書の提出 平成30年 3月 2日付け :拒絶理由の通知(当審) 平成30年 3月12日 :手続補正書の提出 第2 本願発明 本願請求項1-13に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明13」という。)は,平成30年3月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 モバイル端末が現在ユーザの,指紋情報,声紋情報,虹彩情報又は顔情報のうちの少なくとも前記声紋情報を含む生体認識情報を取得するステップと, 前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を用いて第1の所定ファイルをロックするステップと,を含み, 前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を取得するステップは, 前記モバイル端末が前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップを含み, 前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を用いて,第1の所定ファイルをロックするステップは, 前記モバイル端末が撮影された前記第1の所定ファイルを前記モバイル端末のローカルに記憶するときに,前記現在ユーザの生体認識情報を用いて前記第1の所定ファイルをロックするステップを含み, 前記生体認識情報が声紋情報である場合,前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップは, 前記モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力するステップと, 前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影するステップと, 前記モバイル端末は該音声信号を受信すると同時に,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップと,を含む ことを特徴とするモバイル端末によって実行されるファイルロック方法。」 なお,本願発明2-13の概要は以下のとおりである。 本願発明2-5は,本願発明1を減縮した発明である。 本願発明6は,本願発明1に対応する「ファイルロック装置」の発明であり,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。また,本願発明7-10は,本願発明6を減縮した発明である。 本願発明11は,本願発明1に実質的に対応する,プロセッサとメモリとを含む「ファイルロック装置」の発明である。 本願発明12は,本願発明1-5のいずれかに対応する「プログラム」の発明であり,本願発明1-5のいずれかとカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 本願発明13は,本願発明1-5のいずれかに対応する「記録媒体」の発明であり,本願発明1-5のいずれかとカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 第3 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2008-523650号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 A 「【請求項1】 デジタル画像撮影装置であって, ハウジング(20)と, デジタル画像撮影システム(22)と, 使用者の生体情報データを感知するように構成された生体情報読取機(70)と, 無線信号を遠隔データベースに送信し,前記遠隔データベースから許可信号を受信するように構成された無線通信回路(54)と, 前記デジタル画像撮影システム(22),前記無線通信回路(54)および前記生体情報読取機(70)の動作を管理し,イネーブルするように構成されたプロセッサ(26)と, を備え, 前記プロセッサ(26)は,生体情報データが使用者から読み出され,これが無線で遠隔データベースに送信されるようにして,前記遠隔データベースが前記感知された生体情報データを記憶されている生体情報データと比較できるようにし,前記感知された生体情報データが記憶されている生体情報データに対応するときに許可信号を送信するように構成され,前記プロセッサはさらに,前記遠隔データベースによって送信された許可信号に基づいて,前記デジタル画像撮影装置の使用者に関する一連の許可された動作を判断するよう構成され,前記プロセッサはさらに,前記使用者によって要求された動作を,前記要求された動作が前記一連の許可された動作の中に入っていれば実行するように構成されていることを特徴とするデジタル画像撮影装置。 …(中略)… 【請求項5】 請求項1に記載のデジタル画像撮影装置であって, 前記装置はデジタルカメラ,デジタル電話,デジタル画像カメラを備える装用可能な撮影装置,携帯情報端末あるいはこれらの組み合わせまたはその他のデジタル撮影装置または立体画像撮影装置であることを特徴とするデジタル画像撮影装置。 【請求項6】 請求項1に記載のデジタル画像撮影装置であって, 前記生体情報読取機は,網膜読取機,声紋読取機,指紋読取機あるいはそれらの組み合わせであることを特徴とするデジタル画像撮影装置。 【請求項7】 請求項1に記載のデジタル画像撮影装置であって, 前記生体情報読取機は,ディスプレイに組み込まれていることを特徴とするデジタル画像撮影装置。」 B 「【0044】 撮影プロセスは,コントローラ32がトリガ状態の存在を判断したことに応答して実行される。図1と図2の実施形態において,シャッタトリガボタン60が一杯に押された状態まで作動されるとトリガ信号が生成され,コントローラ32がこのトリガ信号を検出してトリガ状態が存在すると判断する。撮影プロセス中,コントローラ32は,信号プロセッサ26に画像センサ24から画像信号を取得させ,この画像信号を処理してデジタル画像からなるデジタル画像データを形成させるための撮影信号を送信する。このデジタル画像に対応する評価用画像は,画像信号に基づいて,信号プロセッサ26によってディスプレイ30の上に表示されるよう,任意で形成される。別の実施形態において,信号プロセッサ26は,各画像信号をデジタル画像に変換し,そのデジタル画像から評価用画像を導き出す。 【0045】 検証フェーズにおいて,対応する評価用画像はディスプレイ30に供給され,一定時間表示される。これにより,使用者は,そのデジタル画像が好ましい外観か否かを検証することができる。 【0046】 デジタル画像はまた,画像撮影以外の方法でデジタル画像撮影装置10によって受信される場合もある。たとえば,デジタル画像は,このような画像がメモリインタフェース50の中に挿入されたリムーバブルメモリの上に記録されているとき,デジタル画像撮影装置10に転送される。あるいは,デジタル画像は通信回路54によっても受信できる。たとえば,通信回路54が携帯電話ネットワークによって通信するように構成されている場合,通信回路54は,携帯電話番号あるいはその他,たとえば,デジタルカメラが搭載されている電話機の使用者等,携帯電話ネットワークの別の使用者が,画像成形装置10との通信リンクを確立し,通信回路54によって受信できる画像を送信するために使用する識別番号と関連させることができる。したがって,イメージング装置10の画像受信方法はさまざまであるため,上記のような他の手段で画像成形装置10に画像をインポートすることが可能なかぎり,イメージング装置10に画像撮影システムを搭載することは必須要件ではない。 【0047】 図3は,シーン14の画像を撮影するために使用される図1と図2の画像撮影装置10の透視図である。上記の図1で示したように,デジタル画像撮影装置10は,生体情報読取機70を備える。生体情報読取機70は,マイクロプロセッサ26と通信回路54に接続されている。生体情報読取機70が読み取る生体情報データは通信回路54に供給され,通信回路54がこの生体情報データを,生体情報データがすでに記憶されている遠隔データベースに送信する。 【0048】 生体情報読取機70は,使用者の目の映像を取得するように構成された網膜スキャナ72とすることができる。生体情報読取機70はまた,指紋読取機74でもよい。指紋読取機74が使用される場合,指紋読取機74は,シャッタトリガボタン60の上に配置することができる。別の実施形態において,生体情報読取機70を声紋読取機76としてもよく,これは網膜スキャナ72または指紋読取機74のいずれかもしくは両方と併用できる。 【0049】 生体情報読取機70は,一種類の生体情報データでも複数の種類のデータでも感知するように構成でき,および/またはひとつまたは複数の異なる種類の読取機とすることもできる。生体情報読取機70は,たとえば,これらに限定されないが,マイクロフォン,タッチパッド,アイモニタその他有益なセンサ等の使用者入力システム34やセンサ36の一部を内蔵することができる。」 C 「【0051】 使用者が画像撮影装置10を使用したいとき,生体情報読取機70は,使用しようとしている使用者の指紋,声紋,網膜スキャンあるいはそれらの組み合わせ等の生体情報データを取得する。通信回路54は,その生体情報データを無線でデータベース80に送り,新たに走査されたデータをすでに記憶されている生体情報データと比較する。一致すれば,許可された一連の動作がその使用者と関連付けられ,許可信号が画像撮影装置20に無線で送信される。通信回路54とコントローラ32は協働して許可信号を受信し,許可信号から許可された一連の動作を決定し,その使用者が,その一連の動作の中の動作だけを実行できるようにする。一連の動作に画像撮影が含まれている場合,撮影された画像は,デジタル画像撮影装置10のメモリに記憶されるか,あるいは同時に,またはその後,通信回路54を通じてデータベース80または希望に応じて他のデータベースや記憶装置に送られる。 …(中略)… 【0053】 別の実施形態において,デジタル画像撮影装置10は常にイネーブルされた状態で,選択された動作は実行されるが,適正な生体情報データの受信時に許可を受けるまで,撮影された画像を不可逆的に変更あるいは削除すること等の特定の動作をロックすることができる。このような実施形態において,画像撮影装置10は,許可を受けなくても画像を撮影するように設定することもできる。しかしながら,後に,撮影された画像をロック解除し,閲覧,編集その他使用できるようにするために適正な生体情報データに基づく許可が必要となるであろう。これは,たとえば,医師が手袋をしている場合や,無許可の補助員が画像の撮影を試みる場合に,画像撮影装置10は画像を撮影できるが,一時的に保存し,あるいは保存してロックするということが可能であるため有益である。」 D 「【0058】 次に,遠隔データベース80は,許可を伴う無線信号を送信し,この信号から,コントローラ32はその使用者が実行することを許可されている一連の動作を決定することができる。画像が撮影され,ビデオストーリーその他のストーリーの付属物として直ちに配信されるように転送される。任意で,コントローラ32は,使用者の生体情報データまたはその生体情報データに基づいて判断されるその他の識別データを,画像のデジタルファイルの中に,あるいは直接画像の上に埋め込み,あるいはその他関連付けることができる。画像と関連付けられた生体情報データは,周辺騒音レベルが高いために音声伝達がうまく機能しない場合に非常に有益である。デジタル画像撮影装置10は,遠隔的にイネーブルされ,たとえば,これらに限定されないが,画像撮影,画像表示,画像削除,画像撮影,画像受信,画像編集,画像撮影準備,画像印刷,画像共有,あるいはいかなる動作も実行しないことを含めた一連の動作のいずれでも実行することができる。画像は,生体情報データに基づいて,別の装置に配信できる。記者やカメラマンの音声もまた捕捉され,メタデータとして画像に追加できる。この音声メタデータは,デジタル形態に変換され,任意で,音声を暗号化してロックし,受信者が音声メタデータを明確な人間の声に変換し戻すこともできる。 …(中略)… 【0062】 生体情報データを,フィルム上に撮影された画像に取り付ける場合,その生体情報データを表すメタデータは,たとえば可視的形状あるいは現像段階で検出可能な立体形状等によって,フィルム上に潜像として記録できる。あるいは,印刷された画像の上または,フィルム画像から作られた写真の裏に生体情報データを埋め込むようにとの命令を現像機に与えることができる。あるいは,写真を「スマートフォト」,つまり,生体情報データを含むチップを有する写真とすることができる。「スマートフォト」により,重大で重要な写真の原本を有利に追跡することが可能である。指紋や声紋は,写真の裏に印刷される,あるいは画像のデジタルファイルに埋め込まれるメタデータとなりうる。さらに別の実施形態において,識別を目的として,声紋を画像のデジタルファイルの中に取り入れることができる。」 したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「 画像撮影装置は,携帯情報端末であって, 画像撮影装置は,生体情報データを感知する生体情報読取機として,網膜スキャナ,指紋読取機,声紋読取機を備え, 生体情報読取機は,マイクロホン,タッチパッド,アイモニタを内蔵し,又は,ディスプレイに組み込まれ,又は,指紋読取機がシャッタトリガボタン上に配置され, シャッタトリガボタンが押されると,トリガ信号を検出し,画像センサから,画像信号を取得し,指紋又は声紋を,画像のデジタルファイルに埋め込み, 画像撮影装置は,画像を撮影し保存してロックし,後で生体情報データに基づいて,撮影された画像をロック解除して,閲覧可能とする, ことを特徴とするデジタルファイルをロックする方法。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2014-67266号公報)の段落【0040】,【0046】及び図2の記載からみて,当該引用文献2には,「スマートフォンにおいて,タッチスクリーンを介して画面の撮影ボタンを操作して画像を撮影する」という技術的事項(以下,「引用文献2記載技術」という。)が記載されていると認められる。 3 引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2005-175627号公報)の段落【0017】の記載からみて,当該引用文献3には,「デジタルカメラにおいて,マイクロホンを介して,撮影の指示等の操作命令を音声で受け付け,音声操作を可能とする」という技術的事項(以下,「引用文献3記載技術」という。)が記載されていると認められる。 4 引用文献4-7について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2010-226506号公報)の段落【0006】,【0042】-【0044】,請求項1,4,引用文献5(特開2011-95980号公報)の段落【0016】-【0022】には,「指紋情報や網膜情報以外にも,虹彩情報や顔情報で画像ファイルを暗号化等でロックする」という技術的事項が記載されていると認められる。 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(特開2007-67783号公報)の段落【0023】,【0025】,【0037】-【0046】には,「携帯電話機が,正面カメラにより顔認証して機能を制御し,背面カメラにより風景を撮影する」という技術的事項が記載されていると認められる。 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7(米国特許出願公開第2014/0115725号明細書)の段落[0058],[0066],[0074],[0078],[0086],[0089]-[0092],[0116],図3,4Bには,「電子デバイスにおいて,ファイルをロックするための指紋入力を要求し,指紋が入力された時,指紋を登録してファイルをロックし,ロックされたファイルが選択され,ファイルのロックを解除する要求があった時,指紋入力を要求し,指紋によりユーザ認証が完了した時,すなわち,指紋がロック時と同一であった場合,ファイルをロック解除する」という技術的事項が記載されていると認められる。 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明の「画像撮影装置」は「携帯情報端末」であるから,本願発明1の「モバイル端末」に相当する。 また,引用発明の「画像撮影装置」は,「生体情報データを感知する生体情報読取機として,網膜スキャナ,指紋読取機,声紋読取機を備え」,「生体情報読取機は,マイクロホン,タッチパッド,アイモニタを内蔵し,又は,ディスプレイに組み込まれ,又は,指紋読取機がシャッタトリガボタン上に配置され」ることから,「画像撮影装置」は「生体情報データ」を取得することは明らかであり,引用発明の「生体情報データ」は本願発明1の「生体認識情報」に相当するといえる。 引用発明の「生体情報読取機」の中で,「指紋読取機」,「声紋読取機」は,ユーザの“指紋情報”,“声紋情報”を取得することから,“現在ユーザの,指紋情報又は声紋情報のうちの少なくとも1つの生体認識情報を取得する”といえる。 加えて,引用発明では,「指紋読取機がシャッタトリガボタン上に配置され」,「シャッタトリガボタンが押されると,トリガ信号を検出し,画像センサから,画像信号を取得し,指紋や声紋を,画像のデジタルファイルに埋め込」むことから,「シャッタトリガボタン」上に配置された「指紋読取機」は,撮影するユーザの生体情報データ(生体認識情報)である指紋情報を,「画像のデジタルファイル」を撮影すると同時に取得するとみることができるから,“第1の所定ファイルを撮影すると同時に,現在ユーザの生体認識情報を採集する”といえる。 そうすると,引用発明と,本願発明1の 「モバイル端末が現在ユーザの,指紋情報,声紋情報,虹彩情報又は顔情報のうちの少なくとも前記声紋情報を含む生体認識情報を取得するステップ」を有し, 「前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を取得するステップは, 前記モバイル端末が前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップを含」むこととは,後記する点で相違するものの, “モバイル端末が現在ユーザの,指紋情報又は声紋情報のうちの少なくとも1つの生体認識情報を取得するステップ”を有し, “前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を取得するステップは, 前記モバイル端末が前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップを含”む点で共通しているといえる。 イ 引用発明では,「シャッタトリガボタンが押されると,トリガ信号を検出し,画像センサから,画像信号を取得し,指紋又は声紋を,画像のデジタルファイルに埋め込み」,「画像撮影装置は,画像を撮影し保存してロック」するところ,「後で生体情報データに基づいて,撮影された画像をロック解除して,閲覧可能とする」ことから,ユーザの「生体情報データ」を用いて「画像のデジタルファイル」をロックすると解することができ,すると,引用発明では,ユーザが撮影した「画像のデジタルファイル」をローカル装置である「画像撮影装置」に保存するときに,取得した「指紋又は声紋」の「生体情報データ」を用いて「画像のデジタルファイル」をロックするといえる。 そうすると,引用発明の「シャッタトリガボタンが押されると,トリガ信号を検出し,画像センサから,画像信号を取得し,指紋又は声紋を,画像のデジタルファイルに埋め込み,画像撮影装置は,画像を撮影し保存してロック」することと, 本願発明1の「モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を用いて第1の所定ファイルをロックするステップ」を有し, 「前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を用いて,第1の所定ファイルをロックするステップは, 前記モバイル端末が撮影された前記第1の所定ファイルを前記モバイル端末のローカルに記憶するときに,前記現在ユーザの生体認識情報を用いて前記第1の所定ファイルをロックするステップを含」むこととに実質的な差異はない。 ウ 引用発明では,「シャッタトリガボタンが押されると,トリガ信号を検出し,画像センサから,画像信号を取得し,指紋又は声紋を,画像のデジタルファイルに埋め込」むところ,上記アでの検討より,“第1の所定ファイルを撮影すると同時に,現在ユーザの生体認識情報を採集する”といえる。 また,引用発明では,「声紋」を「画像のデジタルファイル」に埋め込む場合,ユーザの「声紋」を「声紋読取機」から取得し,ユーザの「声紋」の取得は「画像撮影装置」が受信する音声信号の中から抽出することは明らかであるから,引用発明では,「生体情報データ」として「声紋」を取得する場合には,「画像撮影装置」は,“音声信号を受信すると,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出する”といえる。 そうすると,引用発明と,本願発明1の 「前記生体認識情報が声紋情報である場合,前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップは, 前記モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力するステップと, 前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影するステップと, 前記モバイル端末は該音声信号を受信すると同時に,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップと,を含むこと」とは,後記する点で相違するものの, “前記生体認識情報が声紋情報である場合,前記現在ユーザの生体認識情報を取得するステップは, 前記モバイル端末は音声信号を受信すると,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップ,を含む”点で共通しているといえる。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「 モバイル端末が現在ユーザの,指紋情報又は声紋情報のうちの少なくとも1つの生体認識情報を取得するステップと, 前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を用いて第1の所定ファイルをロックするステップと,を有し, 前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を取得するステップは, 前記モバイル端末が前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップを含み, 前記モバイル端末が前記現在ユーザの生体認識情報を用いて,第1の所定ファイルをロックするステップは, 前記モバイル端末が撮影された前記第1の所定ファイルを前記モバイル端末のローカルに記憶するときに,前記現在ユーザの生体認識情報を用いて前記第1の所定ファイルをロックするステップを含み, 前記生体認識情報が声紋情報である場合,前記現在ユーザの生体認識情報を取得するステップは, 前記モバイル端末は音声信号を受信すると,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップ,を含む ことを特徴とするモバイル端末によって実行されるファイルロック方法。」 (相違点) (相違点1) 取得する現在ユーザの生体認識情報に関し,本願発明1では,「現在ユーザの,指紋情報,声紋情報,虹彩情報又は顔情報のうちの少なくとも前記声紋情報を含む生体認識情報を取得する」のに対して,引用発明では,「生体情報データを感知する生体情報読取機として,網膜スキャナ,指紋読取機,声紋読取機を備え」,生体情報データとして,指紋情報,声紋情報又は網膜情報を取得するものの,少なくとも声紋情報を含むことは明記されていない点。 (相違点2) 取得する生体認識情報が声紋情報である場合,本願発明1では,「モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力」し,「前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影し」,「前記モバイル端末は該音声信号を受信すると同時に,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出する」のに対して,引用発明では,声紋情報を抽出するためのユーザの音声信号を,音響制御シャッター起動のためのユーザの音声信号とし,音声信号を受信すると同時にユーザの声紋情報を抽出し,かつ解析認識して撮影コマンドを得ることについて特定されていない点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点2について 事案に鑑みて,上記相違点2を先に検討すると,引用発明では,「生体情報データ」として「声紋」を取得する場合には,「画像撮影装置」は,音声信号の中から現在ユーザの声紋情報を抽出するといえるところ,声紋情報を抽出するためのユーザの音声信号を,画像のデジタルファイルを撮影する契機となる音響制御シャッター起動のためのユーザの音声信号とすることについて言及されておらず,ユーザの声紋情報の取得の有無に関係なく,シャッターは起動されると解されることから,画像のデジタルファイルを撮影するためのシャッターとして音響制御シャッターを採用し,受信と同時に声紋情報を抽出するためのユーザの音声信号を,音響制御シャッター起動のためのユーザの音声信号とすることの動機付けも直ちには認められない。 加えて,引用文献2記載技術のような「スマートフォンにおいて,タッチスクリーンを介して画面の撮影ボタンを操作して画像を撮影する」旨の技術や,引用文献3記載技術のような,「デジタルカメラにおいて,マイクロホンを介して,撮影の指示等の操作命令を音声で受け付け,音声操作を可能とする」旨の技術が本願の優先日前に当該技術分野の周知技術であったとしても,受信と同時に声紋情報を抽出するためのユーザの音声信号を,画像のデジタルファイルを撮影する契機となる音響制御シャッター起動のためのユーザの音声信号とする旨の構成が周知技術であったとまではいえない。また,そのような構成は引用文献4-7にも記載されていない。 そうすると,引用発明において,取得する生体認識情報が声紋情報である場合,モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力し,現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影すること,すなわち,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。 イ まとめ 上記相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用文献2,3記載技術及び引用文献4-7に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2-5について 本願発明2-5は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の 「生体認識情報が声紋情報である場合,前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップは, 前記モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力するステップと, 前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影するステップと, 前記モバイル端末は該音声信号を受信すると同時に,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップと,を含む」 と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2,3記載技術及び引用文献4-7に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明6-10について 本願発明6は,本願発明1に対応する「ファイルロック装置」の発明であり,本願発明7-10は,本願発明6を減縮した発明であり,本願発明1の 「生体認識情報が声紋情報である場合,前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップは, 前記モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力するステップと, 前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影するステップと, 前記モバイル端末は該音声信号を受信すると同時に,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップと,を含む」 に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2,3記載技術及び引用文献4-7に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 4 本願発明11について 本願発明11は,本願発明1に実質的に対応する,プロセッサとメモリとを含む「ファイルロック装置」の発明であり,本願発明1の 「生体認識情報が声紋情報である場合,前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップは, 前記モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力するステップと, 前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影するステップと, 前記モバイル端末は該音声信号を受信すると同時に,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップと,を含む」 と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2,3記載技術及び引用文献4-7に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 5 本願発明12,13について 本願発明12は,本願発明1-5のいずれかに対応する「プログラム」の発明であり,本願発明13は,本願発明1-5のいずれかに対応する「記録媒体」の発明であり,本願発明1の 「生体認識情報が声紋情報である場合,前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップは, 前記モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力するステップと, 前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影するステップと, 前記モバイル端末は該音声信号を受信すると同時に,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップと,を含む」 と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2,3記載技術及び引用文献4-7に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は,請求項1,6,9,14,17-19について上記引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない,及び,請求項1,2,4-10,12-19について上記引用文献1-7に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 しかしながら,平成30年3月12日付け手続補正により補正された請求項1,6,11は,それぞれ 「生体認識情報が声紋情報である場合,前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップは, 前記モバイル端末内の撮影モジュールが起動すると,前記モバイル端末は音響制御シャッターオプションを出力するステップと, 前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影するステップと, 前記モバイル端末は該音声信号を受信すると同時に,該音声信号の中から前記現在ユーザの前記声紋情報を抽出するステップと,を含む」 という事項,前記事項に対応する構成を有するものとなっており,上記のとおり,本願発明1-13は,引用発明,引用文献2,3記載技術及び引用文献4-7に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。 したがって,原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について <特許法第36条第6項第2号について> (1)当審では,請求項1-13の「モバイル端末が現在ユーザの,指紋情報,声紋情報,虹彩情報又は顔情報を含む生体認識情報を取得する」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年3月12日付けの手続補正により,「モバイル端末が現在ユーザの,指紋情報,声紋情報,虹彩情報又は顔情報のうちの少なくとも前記声紋情報を含む生体認識情報を取得する」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 (2)当審では,請求項1-13の「前記モバイル端末が前記第1の所定ファイルを撮影すると同時に,前記現在ユーザの生体認識情報を採集するステップ」,「前記現在ユーザによってタッチパネルを介して音響制御シャッターオプションがクリックされてから,音声信号を生じると,前記モバイル端末はマイクロホンを介して該音声信号を受信し,該音声信号を解析認識して第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像を撮影するステップ」での「第1の所定ファイル」と「写真又は映像」との関係が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年3月12日付けの手続補正により,「第1の撮影コマンドを得て,写真又は映像である前記第1の所定ファイルを撮影する」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明1-13は,当業者が引用発明,引用文献2,3記載技術及び引用文献4-7に記載の周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-05-22 |
出願番号 | 特願2016-528346(P2016-528346) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06F)
P 1 8・ 113- WY (G06F) P 1 8・ 537- WY (G06F) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 戸島 弘詩、脇岡 剛 |
特許庁審判長 |
高木 進 |
特許庁審判官 |
辻本 泰隆 山崎 慎一 |
発明の名称 | ファイルロック方法、ファイルロック装置、プログラム、及び記録媒体 |
代理人 | 家入 健 |