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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21F
管理番号 1340511
審判番号 不服2017-2674  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-24 
確定日 2018-05-16 
事件の表示 特願2012-206389「放射線の遮蔽方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月10日出願公開、特開2014- 62741〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月19日の出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 6月 7日:拒絶理由の通知
平成28年 8月22日:意見書、手続補正書の提出
平成28年11月25日:拒絶査定(同年12月6日送達)
平成29年 2月24日:審判請求書、手続補正書の提出
平成29年11月 1日:拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の 通知
平成29年12月14日:意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明は、平成29年12月14日付け手続補正で補正された請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
γ線の発生を伴う放射線発生源が地表に分布する以下の(1)および(2)の条件を満たす地域における以下の(3)に具体例として挙げられる建築物の前記地表から高さ1?20mの範囲内に床面が位置する室内において、硫酸バリウムからなる粉末状遮蔽材料を全量に対し40?95wt%含有して熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形した柔軟なシート状又は板状の放射線遮蔽材を室内者の局所的な行動空間領域に合わせて屋外の地表に分布するセシウム134及びセシウム137からの放射線を遮蔽するように前記床面の少なくとも一部に、屋外の地表に分布するセシウム134及びセシウム137からの放射線を室内の前記床面に斜めに通過させ、遮蔽材を通過する距離がt/sinθ(tは遮蔽材の厚さ、θは床面に対する放射線の侵入角度)とすることで、遮蔽効果が高くなるように敷設し、前記室内の床からの高さが0?0.5m以下の範囲の任意の位置での放射線量率を10%以上低減し、且つ、当該室内の床からの高さが0.5?1m以下の位置での放射線量率を5%以上低減することを特徴とする放射線の遮蔽方法。
(1)前記建築物の外壁面から100m以内の屋外領域の少なくとも1地点における地上1mの高さでの放射線量率が0.3μSv/h以上、かつ、前記建築物の外壁面から20m以内の屋外領域の地上1mの高さでの平均放射線量率が0.2μSv/h以上、
(2)前記建築物の外壁面から100m以内の屋外領域の少なくとも1地点における地上1mの高さでの放射線量率(B)と地上0.1mの高さでの放射線量率(A)との比の値(B/A)が0.8以下、
(3)戸建住宅、集合住宅。」

第3 引用文献の記載及び引用発明
当審拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された特開2007-212304号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

1 「【0002】
病院や各種の研究機関、検査機関において、放射線検査施設などの放射線(X線、γ線、電子線を含む。)を取り扱う施設(以下、「放射線取扱施設」という。)では、その施設内部から外部への放射線の漏洩を防止するために、施設の壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽材が用いられる。従来、放射線遮蔽材として、放射線遮蔽能に優れる鉛を含有するものが主に使用されている。」

2 「【0010】
本発明は、硫酸バリウムと、その硫酸バリウムのバインダーである熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとを含む放射線遮蔽に用いられるシートであって、硫酸バリウムを75質量%以上含有し、硬さがショアA硬さで95以下であり、密度が2.5g/cm^(3)以上であり、引張破壊伸びが20%以上である放射線遮蔽用シートを提供する。」

3 「【0016】
本発明によれば、鉛を用いなくても放射線遮蔽能に十分優れた放射線遮蔽シートであって、主面の面積が大きなシート状に加工し、更に取り扱うのに十分適した放射線遮蔽シートを提供することができる。」

4 「【0020】
合成によって得られた、あるいは市販品から入手した硫酸バリウムが固体粉末状である場合、固体粉末状のものをそのまま用いることができる。また、得られた硫酸バリウムが固体塊状である場合は、それを粉砕して粉末状に成形してから用いてもよい。硫酸バリウムの一次粒子径は、0.01?10μmであることが好ましく、0.5?5μmであることがより好ましい。その一次粒子径が0.01μm以上であると、0.01μmを下回る場合と比較して、粒子径の小さな硫酸バリウムが2次凝集を防止でき、シート状への加工時にブロッキングや金属体への粘着をより有効に防止できるため、その成形性を向上させることができる。一方、その一次粒子径が10μm以下であると、10μmを超える場合と比較して、シートの機械特性等の各種特性が向上すると共に、シートの外観をより好ましいものにすることができる。」

5 「【0043】
本実施形態の放射線遮蔽用シートの製造方法は、例えば以下のようにして行われる。まず、硫酸バリウム及びそのバインダーである熱可塑性樹脂等を始めとする各成分を、押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで溶融混練する。本実施形態の放射線遮蔽用シートは硫酸バリウムを多く含むため、硫酸バリウムをバインダー中に均一に分散させるのが困難である。そこで、溶融混練の際には強力な混練能を有するバンバリーミキサーを用いることが好ましい。」

6 「【0051】
以上説明した本実施形態の放射線遮蔽用シートは、その寸法が大きくなっても、加工性や取り扱い性が良好であるため、好ましくは病院や各種の研究機関、検査機関における放射線取扱施設の壁、床や扉に組み込まれて用いられると有効である。また、歯科用患者エプロン、X線防護衣などの、人体を放射線曝露から防護するために、その人体に装着するものに用いられてもよい。その他、放射線を遮蔽する必要がある各種器具や装置の材料として用いられてもよい。本実施形態の放射線遮蔽用シートは、各種放射線の中でも、特にX線に対する遮蔽能に優れているため、X線を遮蔽する必要がある各種器具や装置の材料に用いられると好ましい。」

7 上記1ないし6からみて、以下の発明が記載されている。

「硫酸バリウムを75質量%以上含有し、その硫酸バリウムのバインダーである熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとを含み、
硫酸バリウム及びそのバインダーである熱可塑性樹脂等を始めとする各成分を、溶融混練する際には強力な混練能を有するバンバリーミキサーを用いて製造し、
硫酸バリウムが固体粉末状である放射線遮蔽用シートが用いられ、放射線を遮蔽する方法であって、
壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽用シートが用いられ、
放射線を遮蔽する方法。」(以下「引用発明」という。)

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「硫酸バリウムが固体粉末状である」は、本願発明の「硫酸バリウムからなる粉末状遮蔽材料」に、引用発明の「バインダーである熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマー」は、本願発明の「熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー」に、引用発明の「放射線遮蔽用シート」は、本願発明の「柔軟なシート状又は板状の放射線遮蔽材」に、それぞれ相当する。

2 引用発明は「硫酸バリウム及びそのバインダーである熱可塑性樹脂等を始めとする各成分を、溶融混練する際には強力な混練能を有するバンバリーミキサーを用いて製造し」ていることから、硫酸バリウムをバインダー中に均一に分散させている。
そして、本願発明の「40?95wt%含有」である特定における当該範囲の上限値(95wt%)に臨界的意義は認められないことを踏まえると、引用発明の「硫酸バリウムを75質量%以上含有」することは、本願発明の「『硫酸バリウム』『を全量に対し40?95wt%含有』」の「硫酸バリウムを全量に対し75?95wt%含有」に相当する。
そうすると、引用発明の「硫酸バリウムを75質量%以上含有し、その硫酸バリウムのバインダーである熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとを含み、硫酸バリウム及びそのバインダーである熱可塑性樹脂等を始めとする各成分を、溶融混練する際には強力な混練能を有するバンバリーミキサーを用いて製造し、硫酸バリウムが固体粉末状である放射線遮蔽用シート」は、本願発明の「硫酸バリウムからなる粉末状遮蔽材料を全量に対し40?95wt%含有して熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形した柔軟なシート状又は板状の放射線遮蔽材」の「硫酸バリウムからなる粉末状遮蔽材料を全量に対し75?95wt%含有して熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形した柔軟なシート状又は板状の放射線遮蔽材」に相当する。

3 引用発明は「壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽用シートが用いられ」ることから、引用発明の「壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽用シートが用いられ、放射線を遮蔽する方法」は、本願発明の『放射線遮蔽材を』『敷設し、』『放射線量率を』『低減する』『放射線の遮蔽方法』」に相当する。

4 上記1ないし3からみて、本願発明と引用発明とは、
「硫酸バリウムからなる粉末状遮蔽材料を全量に対し75?95wt%含有して熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形した柔軟なシート状又は板状の放射線遮蔽材を敷設し、放射線量率を低減する放射線の遮蔽方法。」である点で一致し、以下の点で相違する

相違点:
放射線遮蔽材の使用場所及び使用目的/効果を、本願発明では、「『γ線の発生を伴う放射線発生源が地表に分布する以下の(1)および(2)の条件を満たす地域における以下の(3)に具体例として挙げられる建築物の前記地表から高さ1?20mの範囲内に床面が位置する室内において、』『室内者の局所的な行動空間領域に合わせて屋外の地表に分布するセシウム134及びセシウム137からの放射線を遮蔽するように前記床面の少なくとも一部に、屋外の地表に分布するセシウム134及びセシウム137からの放射線を室内の前記床面に斜めに通過させ、遮蔽材を通過する距離がt/sinθ(tは遮蔽材の厚さ、θは床面に対する放射線の侵入角度)とすることで、遮蔽効果が高くなるように敷設し、前記室内の床からの高さが0?0.5m以下の範囲の任意の位置での放射線量率を10%以上低減し、且つ、当該室内の床からの高さが0.5?1m以下の位置での放射線量率を5%以上低減する』『(1)前記建築物の外壁面から100m以内の屋外領域の少なくとも1地点における地上1mの高さでの放射線量率が0.3μSv/h以上、かつ、前記建築物の外壁面から20m以内の屋外領域の地上1mの高さでの平均放射線量率が0.2μSv/h以上、
(2)前記建築物の外壁面から100m以内の屋外領域の少なくとも1地点における地上1mの高さでの放射線量率(B)と地上0.1mの高さでの放射線量率(A)との比の値(B/A)が0.8以下、
(3)戸建住宅、集合住宅。』」としているのに対し、引用発明では、そのような特定がない点で相違する。

第5 判断
1 本願出願時において、福島第一原子力発電所の事故に起因するセシウム134及びセシウム137などの放射線発生源が国内の広範な地域に飛散し、屋外の地表に分布し、高い放射線量が検出されたことは周知の事実であり、このような地域の戸建住宅、集合住宅などの建築物の周囲又は近隣における地表面においても土壌、道路、側溝、草木、水溜まり、河川などに放射線発生源が多く存在すること、すなわち、上記福島第一原子力発電所の事故後の周辺地域が本願発明の(1)及び(2)を満たすことは周知の事実である。

2 引用発明では「壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽用シートが用いられる」ことが特定されていること、及び、本願出願時において当業者が認識、理解している上記周知の事実を考慮すれば、屋外の地表で高い放射線量が検出された地域において、室内者を考慮し2階以上の戸建住宅、集合住宅の床面の少なくとも一部に引用発明の壁、床、扉及び窓などに用いられる放射線遮蔽用シートを使用することは、当業者が容易に想到し得ることにすぎない。
その場合に、放射線遮蔽用シートを遮蔽効果が高くなるように敷設し、上記相違点に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜考慮する事項にすぎない。

3 作用効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明から当業者が予測できた程度のものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-02 
結審通知日 2018-03-13 
審決日 2018-03-26 
出願番号 特願2012-206389(P2012-206389)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関根 裕後藤 孝平  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 野村 伸雄
松川 直樹
発明の名称 放射線の遮蔽方法  
代理人 小松 秀彦  
代理人 小松 秀彦  

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