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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1340558
審判番号 不服2016-18069  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-02 
確定日 2018-05-17 
事件の表示 特願2012- 46493「偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日出願公開、特開2013-182162〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2012-46493号(以下、「本件出願」という。)は、平成24年3月2日の特許出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。

平成28年 2月17日付け:拒絶理由通知書
平成28年 4月12日提出:意見書
平成28年 4月12日提出:手続補正書
平成28年 9月 7日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成28年12月 2日提出:審判請求書
平成28年12月 2日提出:手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1) 平成28年4月12日提出の手続補正書により補正された(以下、「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1?7は、以下のとおりである。

「 【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程、
前記積層フィルムを、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みが10μm以下になるように一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程、
前記延伸フィルムを二色性色素で染色して偏光子層を形成し、偏光性積層フィルムを得る染色工程、
前記偏光性積層フィルムにおいて、前記偏光子層の前記基材フィルムとは反対側の面に、透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下であり、面内位相差が100nm以上であり、かつ、前記偏光子層の吸収軸に対する遅相軸の角度θが20度以上70度以下である防湿層を形成して多層フィルムを得る防湿層形成工程、及び、
前記多層フィルムから前記基材フィルムを剥離する剥離工程、
を含む偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記防湿層形成工程において、前記偏光子層の前記基材フィルムとは反対側の面に、光硬化性接着剤層を介して防湿層を形成する請求項1に記載の偏光板の製造方法。
【請求項3】
防湿層の厚みが5?25μmである請求項1又は2に記載の偏光板の製造方法。
【請求項4】
前記防湿層形成工程において、前記偏光子層の前記基材フィルムとは反対側の面に、透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下であり、面内位相差が100nm以上である位相差フィルムを、その遅相軸が前記偏光子層の吸収軸に対して20度以上70度以下の角度θとなるように貼合する請求項1?3のいずれかに記載の偏光板の製造方法。
【請求項5】
前記位相差フィルムは、偏光子層への貼合面とは反対側の面に表面処理が施されているフィルムである請求項1?4のいずれかに記載の偏光板の製造方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の方法により偏光板を製造する工程と、
該偏光板における前記偏光子層の防湿層とは反対側の面に粘着剤層を設ける工程とを有する、粘着剤層付き偏光板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により粘着剤層付き偏光板を製造する工程と、該粘着剤付き偏光板を粘着剤層側で画像表示ユニットへ貼合する工程とを有する画像表示装置の製造方法。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?5は、以下のとおりである。 (下線は、当審で付したものであり、本件補正による補正箇所を示す。)

「 【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程、
前記積層フィルムを、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みが10μm以下になるように一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程、
前記延伸フィルムを二色性色素で染色して偏光子層を形成し、偏光性積層フィルムを得る染色工程、
前記偏光性積層フィルムにおいて、前記偏光子層の前記基材フィルムとは反対側の面に、光硬化性接着剤層を介して、透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下であり、面内位相差が100nm以上であり、厚みが5?25μmであり、かつ、前記偏光子層の吸収軸に対する遅相軸の角度θが20度以上70度以下である防湿層を形成して多層フィルムを得る防湿層形成工程、及び、
前記多層フィルムから前記基材フィルムを剥離する剥離工程、
を含む偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記防湿層形成工程において、前記偏光子層の前記基材フィルムとは反対側の面に、透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下であり、面内位相差が100nm以上である位相差フィルムを、その遅相軸が前記偏光子層の吸収軸に対して20度以上70度以下の角度θとなるように貼合する請求項1に記載の偏光板の製造方法。
【請求項3】
前記位相差フィルムは、偏光子層への貼合面とは反対側の面に表面処理が施されているフィルムである請求項1又は2に記載の偏光板の製造方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の方法により偏光板を製造する工程と、
該偏光板における前記偏光子層の防湿層とは反対側の面に粘着剤層を設ける工程とを有する、粘着剤層付き偏光板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により粘着剤層付き偏光板を製造する工程と、該粘着剤付き偏光板を粘着剤層側で画像表示ユニットへ貼合する工程とを有する画像表示装置の製造方法。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲ついて補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項2は、請求項1の記載を引用して記載されたものであり、本件補正前の請求項3は、請求項1又は請求項2の記載を引用して記載されたものである。したがって、本件補正前の請求項3に係る発明のうち請求項2の記載を引用した発明と、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明として相違するところがないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項3に係る発明のうち請求項2の記載を引用した発明を、独立形式に書き改めて記載したものである。そうしてみると、本件補正は、本件補正前の請求項1、請求項2を削除して、本件補正前の請求項3を、本件補正後の請求項1とするとともに、それに整合するよう本件補正前の請求項4?7を書き改めたものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる、同法第36条第5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。
したがって、本件補正は適法になされたものである。

3 本願の請求項1に係る発明
前記2で述べたとおり、本件補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年12月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(前記1(2)【請求項1】参照。)

第3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2009-98653号公報
引用文献2.特開2011-113018号公報
引用文献3.特開2011-76067号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2008-107501号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特許第4804588号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2009-98653号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は、当合議体が付したものである。以下同じ。)
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板に関する。当該偏光板はこれ単独で、またはこれを積層した光学フィルムとして液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置、CRT、PDP、OLED等の画像表示装置を形成しうる。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置(特に液晶表示装置)には偏光板が用いられている。偏光板は、明るく、色の再現性が良い画像を提供するために、高い透過率と高い偏光度を兼ね備えることが必要とされている。このような偏光板は、偏光子の片面または両面に透明保護フィルムを接着剤により貼り合わせたものが用いられている。透明保護フィルムとしては、透湿度の高いトリアセチルセルロース等が用いられる。
【0003】
偏光子は、従来、ポリビニルアルコール系フィルムに、二色性を有するヨウ素または二色性染料等の二色性物質を配向させることにより製造されている。具体的には、例えば、原反ロールから繰り出されるポリビニルアルコール系フィルムに、膨潤処理、染色処理、架橋処理、延伸処理、水洗処理、乾燥処理等を施すことにより得られる(特許文献1)。
【0004】
上記製造方法では、原反ロールのポリビニルアルコール系フィルムを用いるため、フィルムの取り扱い性等が考慮される結果、得られる偏光子の厚さを薄くするには限界があった。従って、上記製造方法により得られる偏光子の厚みは、通常、30μmを超えるものであった。しかし、偏光子の厚みが厚くなると、当該偏光子またはこれを用いた偏光板の収縮応力が大きくなって、これらを液晶表示装置等の画像表示装置に貼り合わせた際に、カールが発生して光漏れを生じることが問題となっている。かかる偏光板に生じるカールの問題は加湿環境下において偏光子に水分が出入りすることで顕著になる。一方、原反ロールのポリビニルアルコール系フィルムは、厚み30μm程度の薄膜であることから、延伸処理等によってフィルムが切断される等の生産性の問題もあった。
【0005】
上記加湿環境下でのカールの問題に対しては、偏光子の全面を低透湿性の透明保護フィルムで覆うことによって、加湿環境下での偏光子の水分の出入りを抑えることでカールを抑制することが知られている(特許文献2,特許文献3)。しかしながら、低透湿性の透明保護フィルムを用いても、偏光板の側面から浸入してくる水分を十分に抑制することはできない。更に、両面に透明保護フィルムを有する通常の偏光板において、低透湿性の透明保護フィルムを用いる場合には、偏光板の作製工程にあたって、偏光子中の水分を除去した後に透明保護フィルムを貼り合せる必要があるため、低透湿性の透明保護フィルムを用いることは水分除去に時間がかかり、生産性の観点から好ましくない。
【0006】
・・・中略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、偏光子を薄型化した場合にも、カールの発生を抑えられる偏光子を有する偏光板を提供することを目的とする。さらには、加湿環境下においてもカールの発生を抑えられる偏光板を提供することを目的とする。
【0008】
また本発明は当該偏光板を積層した光学フィルムを提供すること、さらには、当該偏光板、光学フィルムを用いた液晶表示装置等の画像表示装置を提供することを目的とする。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す偏光板により前記目的に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、基材層と親水性高分子層が積層されている積層体が延伸処理されている延伸積層体であって、かつ前記親水性高分子層には少なくとも二色性物質が吸着されている延伸積層体を含有することを特徴とする偏光板、に関する。
【0011】
・・・中略・・・
【0013】
前記偏光板において、基材層と親水性高分子層が積層されている積層体は、基材層と親水性高分子層が直接積層されているものを用いることができる。
【0014】
前記偏光板において、親水性高分子層を形成する親水性高分子としては、ポリビニルアルコール系樹脂が好適である。
【0015】
前記偏光板において、延伸積層体における親水性高分子層の厚みが、0.5?30μmであることが好ましい。
【0016】
・・・中略・・・
【0017】
前記偏光板において、延伸積層体における基材層の透湿度が、120g/m^(2)/24h以下であることが好ましい。
【0018】
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0020】
本発明の偏光板は、基材層と親水性高分子層が積層されている積層体を延伸処理して得られる延伸積層体であり、当該延伸積層体における親水性高分子層が、二色性物質が吸着されることで偏光子として機能する。前記偏光子である親水性高分子層は、基材層に積層されて、これらが一体として偏光板を形成しているため、薄層の親水性高分子層(偏光子)の形成が可能である。このように、本発明の偏光板が有する偏光子は、基材と一体化した薄型化が可能であることから、本発明の偏光板は液晶表示装置に貼り合わせた場合においても偏光板の収縮応力を小さく制御でき、偏光板にカールが発生することにより生じる光漏れを抑えることができる。
【0021】
また本発明の偏光板は、延伸積層体における基材層の透湿度を、120g/m^(2)/24h以下とすることにより、加湿環境下においても、基材層の表面からの水分の浸入を効果的に抑制することができる。更に本発明の偏光板は、偏光子が薄層の親水性高分子層であるため、偏光板の側面からの水分の浸入も抑制され、親水性高分子層である偏光子の水分による膨張収縮が抑制される。その結果、本発明の偏光板は、延伸積層体における基材層の透湿度を、120g/m^(2)/24h以下とすることにより、加湿環境下においてもカールが発生し難くなる。
【0022】
また、前述の通り、本発明の偏光板は、基材層と親水性高分子層が積層されている積層体を延伸処理して得られる延伸積層体であることから、基材層と親水性高分子層が一体化した状態の積層体として延伸される。そのため、本発明の偏光子(偏光板)は、従来のポリビニルアルコール系フィルムから得られる偏光子に比べて薄層のものが得られるにも拘らず、従来のポリビニルアルコール系フィルムのみを延伸することにより得られる偏光子に比べて、均一な延伸が可能であり、偏光子の配向性(吸収軸のバラツキ)を抑制でき、偏光子(偏光板)の特性を向上することができる。また、本発明の偏光板では、薄膜のポリビニルアルコール系フィルムを用いる代わりに、基材層と親水性高分子層が積層されている積層体に対して延伸処理が施されるため、延伸処理時におけるフィルム切断等の問題を低減でき、従来の偏光子の製造方法に比べて、生産性を向上することができる。また、本発明で得られた偏光板は、親水性高分子層の片側には基材層を有するため、当該基材層をそのまま、偏光子の透明保護フィルムとして用いることができ、この点から偏光板の生産性を向上することができる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の偏光板は、基材層と親水性高分子層が積層されている積層体が延伸処理されている延伸積層体を含有する。当該延伸積層体の親水性高分子層には少なくとも二色性物質が吸着されている。かかる本発明の偏光板に係る延伸積層体は、基材層と親水性高分子層が積層されている積層体に、延伸処理および二色性物質の吸着処理を施すことにより得ることができる。
【0024】
前記基材層としては、従来、偏光子の透明保護フィルムとして用いられていたものを用いることができる。基材層を構成する材料としては、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、・・・中略・・・ポリカーボネート樹脂、・・・中略・・・、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂、シクロ系乃至ノルボルネン構造を有する環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、(メタ)アクリル樹脂、・・・中略・・・、およびこれらの混合物があげられる。また前記基材層は、親水性高分子層との密着性を向上するため、プライマー層(下塗り層)等の薄層が形成されていてもよい。
【0025】
また、基材層の材料としては、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、例えば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニルならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物があげられる。具体例としてはイソブチレンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムがあげられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出品などからなるフィルムを用いることができる。これらのフィルムは位相差が小さく、光弾性係数が小さいため偏光板の歪みによるムラなどの不具合を解消することができ、また透湿度が小さいため、加湿耐久性に優れる。
【0026】
・・・中略・・・
【0027】
前記基材層は、延伸処理された後の透湿度(延伸積層体における透湿度)が、0?120g/m^(2)/24hであることが好ましく、更には0?80g/m^(2)/24hであることが好ましく、特に0?20g/m^(2)/24hであることが好ましい。透湿度が、120g/m^(2)/24hを超えると、加湿環境下、湿熱環境下において、基材層の表面より水分が浸入しやすくなり親水性高分子層が膨張して、偏光板がカールを引き起こし、透湿度が大きくなりすぎると、偏光板として実用に耐えない場合がある。
【0028】
なお、本発明における、延伸積層体における基材層の透湿度は、親水性高分子層を積層していない状態の基材層のみに対して、得られる偏光板と同様の延伸処理を施した基材層の透湿度である。
【0029】
延伸積層体における基材層の透湿度は、当該延伸積層体における基材層の厚みによって調整することができるが、より薄い厚みで上記低透湿性(透湿度0?120g/m^(2)/24h以下)を満足するには、基材層として低透湿性の材料を用いるのが好ましい。低透湿性の材料としては、前記例示の樹脂のなかでも、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、またはこれらの混合体を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の基材層の材料としては、低透湿性の観点から、特に、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂および(メタ)アクリル樹脂から選ばれるいずれか少なくとも1つを用いるのが好ましい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等があげられる。環状ポリオレフィン樹脂の具体的としては、好ましくはノルボルネン系樹脂である。環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、・・・中略・・・具体例としては、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα-オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体)、および、これらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、ならびに、それらの水素化物などがあげられる。環状オレフィンの具体例としては、ノルボルネン系モノマーがあげられる。
【0032】
環状ポリオレフィン樹脂としては、種々の製品が市販されている。具体例としては、日本ゼオン株式会社製の商品名「ゼオネックス」、「ゼオノア」、JSR株式会社製の商品名「アートン」、TICONA社製の商品名「トーパス」、三井化学株式会社製の商品名「APEL」があげられる。
【0033】
・・・中略・・・
【0039】
また、本発明の基材層の材料としては、位相差が小さい観点からは、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂および(メタ)アクリル樹脂から選ばれるいずれか少なくとも1つを用いるのが好ましい。
【0040】
・・・中略・・・
【0043】
基材層(延伸前)の厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1?500μm程度である。特に1?300μmが好ましく、5?200μmがより好ましい。基材層の厚さは、5?150μmの場合に特に好適である。一方、延伸積層体における基材層(延伸後の基材層)の厚さは、強度や取扱性等の作業性の点より、1?400μm程度であり、1?200μmであるのが好ましく、5?100μmであるのがより好ましい。延伸積層体における基材層の厚さは、基材層(延伸前)の厚さと延伸倍率により決定される。なお、一般に透湿度は、厚みの逆数に比例するため、延伸積層体の基材層の透湿度の制御は、前記透湿度の範囲になるように延伸前の基材層の厚さと延伸倍率を制御することにより決定することができる。」

エ 「【0044】
本発明の積層体において、親水性高分子層の形成に用いる親水性高分子としては、ポリビニルアルコール系材料があげられる。ポリビニルアルコール系材料としては、例えば、ポリビニルアルコールおよびその誘導体があげられる。・・・中略・・・ポリビニルアルコールの重合度は、100?10000程度が好ましく、1000?10000がより好ましい。ケン化度は80?100モル%程度のものが一般に用いられる。上記の他、親水性高分子としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化物、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等があげられる。前記親水性高分子としては、ポリビニルアルコール系材料のなかでも、ポリビニルアルコールを用いるのが好ましい。
【0045】
前記ポリビニルアルコール系樹脂中には、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含有することもできる。可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物等があげられ、たとえばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等があげられる。可塑剤等の使用量は、特に制限されないがポリビニルアルコール系樹脂中20重量%以下とするのが好適である。
【0046】
本発明で用いる積層体は、前記基材層と親水性高分子層が積層されているものである。当該積層体における親水性高分子層の厚さは、当該積層体を延伸処理することにより得られる延伸積層体における親水性高分子層(延伸物)の厚みに応じて適宜に設定することができる。前記延伸積層体における親水性高分子層(延伸物)の厚みは、偏光子を薄型として用いることを重視する観点から、0.5?30μmであることが好ましく、さらには1?20μm、さらには2?10μmである。親水性高分子層(延伸物)の厚みが0.5μm未満では、製造時の厚みバラツキの影響が大きくなり、外観不良が生じ易くなるので好ましくない。
【0047】
積層体における親水性高分子層の厚さは、延伸処理により延伸または収縮が生じて、上記の厚さになる。従って、積層体における親水性高分子層の厚さは、通常、1?50μm程度、さらには2?30μmとするのが好ましい。なお、積層体、延伸積層体における親水性高分子層の厚さの測定は、親水性高分子層を基材層から剥がした後に測定することができる。厚さの測定は、厚みゲージ等により行う。
【0048】
本発明で用いる積層体は、例えば、基材層に、親水性高分子を含有する水溶液を塗工した後に、乾燥することにより得ることができる。かかる塗工により、基材層と親水性高分子層は、プライマー層を介して、または、基材層と親水性高分子層が、直接、積層し、基材層と親水性高分子層が一体化した状態の積層体が得られる。前記水溶液は、親水性高分子の粉末または親水性高分子フィルムの粉砕物、切断物等を、適宜に加熱した水(熱水)に溶解することにより調製することができる。前記水溶液の基材層上への塗工は、塗工法は、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などを適宜に選択して採用できる。基材層がプライマー層を有する場合には当該プライマー層に、プライマー層を有しない場合には基材層に、直接、前記水溶液を塗工する。なお、乾燥温度は、通常、50?200℃、好ましくは80?150℃であり、乾燥時間は、通常、5?30分間程度である。
【0049】
また本発明で用いる積層体は、例えば、基材層の形成材と、親水性高分子層の形成材の共押出により形成することができる。かかる共押出により基材層と親水性高分子層が一体化した状態の積層体が得られる。共押出にあたっては、基材層の材料および親水性高分子層の材料を、それぞれ各層の形成材として共押出機に仕込み、共押出される基材層および親水性高分子層の厚さが、前記範囲になるように制御することが好ましい。
【0050】
本発明の偏光板は、前記基材層と親水性高分子層が積層されている積層体に、延伸処理および二色性物質による染色処理を施すことにより得られる。前記各処理が施された延伸積層体は、前記親水性高分子層への延伸処理と、二色性物質による染色処理により、得られる親水性高分子層には二色性物質が吸着されて偏光子として機能するようになる。
【0051】
延伸処理は、前記積層体に、通常、延伸処理は、一軸延伸を施すことにより行う。一軸延伸は、前記積層体の長手方向に対して行う縦延伸、前記積層体の幅方向に対して行う横延伸のいずれも採用することができる。本発明では横延伸により行うことが好ましい。横延伸では、幅方向に延伸を行いながら、長手方向に収縮させることもできる。横延伸方式としては、例えば、テンターを介して一端を固定した固定端一軸延伸方法や、一端を固定しない自由端一軸延伸方法等があげられる。縦延伸方式としては、ロール間延伸方法、圧縮延伸方法、テンターを用いた延伸方法等があげられる。延伸処理は多段で行うこともできる。また、延伸処理は、二軸延伸、斜め延伸などを施すことにより行うことができる。
【0052】
また、延伸処理は、湿潤式延伸方法と乾式延伸方法のいずれも採用できるが、本発明では乾式延伸方法を用いるのが、前記積層体を延伸する際の温度範囲を広く設定することができる点で好ましい。乾式延伸方法では、通常、前記積層体を、50?200℃程度、好ましくは80?180℃、さらに好ましくは100?160℃に加熱した状態で延伸処理が行われる。
【0053】
延伸処理では、前記積層体の元長に対して、総延伸倍率で1.5?17倍の範囲になるように行う。好ましくは1.5?10倍、さらに好ましくは1.5?8倍である。なお、前記総延伸倍率は、延伸処理工程以外の工程等において延伸を伴う場合には、それらの工程における延伸を含めた累積の延伸倍率をいう。総延伸倍率は、他の工程等における延伸倍率を考慮して適宜に決定される。総延伸倍率が低いと、配向が不足して、高い光学特性(偏光度)の偏光子が得られにくい。一方、総延伸倍率が高すぎると延伸切れが生じ易くなり、また偏光子が薄くなりすぎて、続く工程での加工性が低下するおそれがある。
【0054】
染色処理は、前記積層体の親水性高分子層に、二色性物質を吸着させることより行う。二色性物質としては、例えば、ヨウ素や有機染料等があげられる。有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック、等が使用できる。これらの二色性物質は、一種類でも良いし、二種類以上を併用して用いても良い。
【0055】
染色処理は、例えば、前記二色性物質を含有する溶液(染色溶液)に、前記積層体を浸漬することにより行う。前記染色溶液としては、前記二色性物質を溶媒に溶解した溶液が使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されても良い。二色性物質の濃度としては、0.01?10重量%の範囲にあることが好ましく、0.02?7重量%の範囲にあることがより好ましく、0.025?5重量%であることが特に好ましい。
【0056】
また、前記二色性物質としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、さらにヨウ化物を添加することが好ましい。このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらヨウ化物の添加割合は、前記染色溶液において、0.01?10重量%であることが好ましく、0.1?5重量%であることがより好ましい。これらのなかでも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(重量比)は、1:5?1:100の範囲にあることが好ましく、1:6?1:80の範囲にあることがより好ましく、1:7?1:70の範囲にあることが特に好ましい。
【0057】
前記染色溶液への積層体の浸漬時間は、特に限定されないが、通常は、15秒?5分間の範囲であることが好ましく、1分?3分間であることがより好ましい。また、染色溶液の温度は、10?60℃の範囲にあることが好ましく、20?40℃の範囲にあることがより好ましい。
【0058】
染色処理は、前記積層体の親水性高分子層に、二色性物質を吸着させて、二色性物質を配向させる。前記染色処理は、前記延伸処理の前、同時または後に施すことができるが、親水性高分子層に吸着させた二色性物質を良好に配向させる点から、染色処理は、前記積層体に延伸処理を施した後に行うのが好ましい。
【0059】
本発明の偏光板には、前記延伸処理および染色処理に加えて、架橋処理を施すことができる。
・・・中略・・・
【0064】
本発明の偏光板には、前記処理の他に、金属イオン処理を施すことができる。
・・・中略・・・
【0068】
前記処理が施された後には、得られた延伸積層体に、洗浄処理を施すことができる。
・・・中略・・・
【0071】
前記洗浄処理の後には乾燥処理を施すことができる。・・・中略・・・以上のようにして偏光子が得られる。
【0072】
本発明の偏光板(延伸積層体)は、親水性高分子層(偏光子)の片側に、基材層を有する。基材層は、偏光板の透明保護フィルムとして、そのまま用いることができる。一方、親水性高分子層における基材層のない側には、透明保護フィルムを貼り合わせることができる。また、親水性高分子層を基材層から剥離した後に、当該親水性高分子層の両側に透明保護フィルムを貼り合わせることができる。
【0073】
透明保護フィルムとしては、前記基材層として例示したものと同様の材料を用いることができうる。透明保護フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1?500μm程度である。特に1?300μmが好ましく、5?200μmがより好ましい。透明保護フィルムは、5?150μmの場合に特に好適である。
【0074】
本発明の偏光板は、実用に際して他の光学層と積層した光学フィルムとして用いることができる。その光学層については特に限定はないが、例えば反射板や半透過板、位相差板(1/2や1/4等の波長板を含む)、視角補償フィルムなどの液晶表示装置等の形成に用いられることのある光学層を1層または2層以上用いることができる。特に、本発明の偏光板に更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板、偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板、偏光板に更に視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板、あるいは偏光板に更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましい。」

オ 「【実施例】
【0077】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明の実施形態はこれらに限定されない。
【0078】
<位相差値の測定>
位相差値の測定は、平行ニコル回転法を原理とする位相差計〔王子計測機器(株)製,製品名「KOBRA21-ADH」〕を用いて、波長590nmの値について測定した、nx、ny、nzの値と、フィルム厚み(d)から、正面位相差Re、厚み方向位相差Rth、Nzを求めた。[ただし、フィルムの遅相軸方向、進相軸方向及び厚さ方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとし、d(nm)はフィルムの厚みとする。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率の最大となる方向とする。]。
【0079】
<透湿度の測定>
透湿度は、JIS Z0208の透湿度試験(カップ法)に準じて、温度40℃、湿度92%RHの雰囲気中、面積1m^(2)の資料を24時間に通過する水蒸気のグラム数を測定した。
【0080】
実施例1
(親水性高分子を含有する水溶液の調製)
(株)クラレ製のポリビニルアルコールフィルム(平均重合度2400,ケン化度99モル%、商品名:VF‐PS2400)を、1辺が5mm以下の小片に裁断し、95℃の熱水中に溶解して、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。
【0081】
(積層体の作成:親水性高分子層の形成)
基材層として、厚み80μmのアクリル系樹脂フィルム(ラクトン化ポリメチルメタクリレートフィルム,Re=2nm,Rth=0nm)を用いた。当該アクリル系樹脂フィルムは、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂[共重合モノマーの重量比:メタクリル酸メチル/2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル=8/2;ラクトン環化率約100%]90重量部とアクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂{トーヨーAS AS20,東洋スチレン(株)製}10重量部の混合物((株)日本触媒製)を溶融押出成膜した後、縦2.0倍に延伸することにより得た。
【0082】
上記アクリル系樹脂フィルムに、上記ポリビニルアルコール水溶液を塗工した後、120℃で10分間乾燥させて、親水性高分子層として、厚み5μmのポリビニルアルコール塗膜を形成した積層体を得た。
【0083】
(延伸処理)
上記積層体を、143℃の加熱下で、テンター装置を用いて、自由端一軸延伸により、幅方向に、延伸倍率5倍まで延伸して延伸積層体とした。このとき、チャック間距離は100mm、延伸速度は2mm/secとした。この延伸処理後において、ポリビニルアルコール塗膜の厚みは2μmであった。
【0084】
(染色処理)
次いで、前記延伸積層体を、張力を保持した状態で、30℃のヨウ素溶液(重量比:ヨウ素/ヨウ化カリウム/水=1/10/100)に60秒間浸漬した。その後、60℃で4分間乾燥を行い、偏光板を得た。得られた偏光板(延伸積層体)におけるポリビニルアルコール塗膜の厚みは2μm、基材層の厚みは39μmであった。
【0085】
実施例2
・・・中略・・・
【0086】
実施例3
実施例1において、基材層として、厚み50μmのアクリル系樹脂フィルム(実施例1と同材料)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、偏光板を得た。得られた偏光板(延伸積層体)におけるポリビニルアルコール塗膜の厚みは2μm、基材層の厚みは24μmであった。
【0087】
実施例4
・・・中略・・・
【0088】
実施例5
実施例1において、基材層として、厚み50μmのノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製,商品名:ゼオノアフィルム)を用いたこと、親水性高分子層として形成したポリビニルアルコール塗膜の厚みを15μmにしたこと、延伸処理における延伸倍率を3.3倍に変えたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、偏光板を得た。得られた偏光板(延伸積層体)におけるポリビニルアルコール塗膜の厚みは3μm、基材層の厚みは28μmであった。
【0089】
実施例6
・・・中略・・・
【0092】
実施例9
実施例1において、基材層として、厚み40μmのアクリル系樹脂フィルム(実施例1と同材料)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、偏光板を得た。得られた偏光板(延伸積層体)におけるポリビニルアルコール塗膜の厚みは2μm、基材層の厚みは18μmであった。
【0093】
実施例で得られた偏光板は、延伸処理における、切断等の不具合が認められなかった。
【0094】
[評価]
実施例で得られた偏光板について下記評価を行った。なお、加湿環境下のカールの測定、光学特性測定方法にあたっては、実施例で得られた偏光板は、実際の利用形態に近い形として、片側(偏光子層表面:親水性高分子層であるポリビニルアルコール塗膜の表面)に、剥離処理を施した厚み38μmのポリエステルフィルムを、アクリル系粘着剤層(20μm厚み)を介して積層したものを下記評価に供した。結果を表1に示す。
【0095】
(製造直後のカールの確認)
得られた偏光板は、偏光子(ポリビニルアルコール塗膜)が薄型であるにも拘らず、カールの発生が抑えられているものであった。かかる状態にあるものを、表1では「○」として表示した。
【0096】
(加湿環境下でのカールの測定)
偏光板の長辺が延伸方向となるように、100mm×150mmで切り抜いてサンプルとした。当該サンプルを温度40℃、湿度92%RHの恒温恒湿槽中に24時間放置した。次いで、当該サンプルを前記槽から取り出し、金属常盤上に凸面を下にして設置し、サンプルの端部4箇所の常盤からの距離を測定した。このとき、4箇所の平均値が50mm未満の場合をカールが抑制され偏光板として使用可能レベル(○)とした。一方、前記平均値が50mmを超える場合をカールが著しい偏光板として使用不可能レベル(×)とした。
【0097】
(光学特性測定方法)
得られた偏光板の光学特性を、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製のV7100)にて測定した。各直線偏光に対する透過率はグランテラ‐プリズム偏光子を通して得られた完全偏光を100%として測定した。単体透過率(Ts)、平行透過率(H_(0))および直交透過率(H_(90))を、波長550nmで測定し、その値から下記式により偏光度(P)を求めた。なお、これらの透過率は、JlSZ 8701の2度視野(C光源)により、視感度補正を行ったY値である。
偏光度(%)={(H_(0)-H_(90))/(H_(0)+H_(90))}^(1/2)×100
単体透過率(Ts)は、40%以上、偏光度は99%以上であるのが、液晶表示装置に適用できる目標値として設定される。実施例で得られた偏光板は、前記単体透過率(Ts)、偏光度の目標値を満足するものであった。かかる目標値を満足する状態にあるものを、表1では「○」として表示した。
【0098】
【表1】



(2) 引用発明
ア 上記(1)アないしオ(特にウ及びエ)より、引用文献1には、偏光板の製造方法として以下のものが記載されていると認められる。
「基材層と親水性高分子層が積層されている積層体が延伸処理されている延伸積層体を含有し、延伸積層体の親水性高分子層には少なくとも二色性物質が吸着されている偏光板の製造方法であって、以下の工程A?Cを含む偏光板の製造方法。
工程A:基材層に、親水性高分子を含有する水溶液を塗工した後に、乾燥することにより積層体を得る工程、
工程B:基材層と親水性高分子層が積層されている積層体に、延伸処理および二色性物質による染色処理を施すことにより偏光板を得る工程であって、各処理が施された延伸積層体は、親水性高分子層への延伸処理と、二色性物質による染色処理により、得られる親水性高分子層には二色性物質が吸着されて偏光子として機能し、延伸処理は、前記積層体に一軸延伸を施すことにより行うものであり、染色処理は、前記積層体に延伸処理を施した後に行う工程、
工程C:延伸積層体の親水性高分子層における基材層のない側に、透明保護フィルムを貼り合わせる工程、
ここで、基材層は、延伸処理された後の透湿度(延伸積層体における透湿度)が0?120g/m^(2)/24hであり、
基材層(延伸前)の厚さは5?150μmであり、延伸積層体における基材層(延伸後の基材層)の厚さは5?100μmであり、
積層体において、親水性高分子層の形成に用いる親水性高分子は、ポリビニルアルコール系材料であり、
延伸積層体における親水性高分子層(延伸物)の厚みは2?10μmであり、
透明保護フィルムとしては、基材層と同様の材料を用いることができ、透明保護フィルムの厚さは5?150μmである。」

2 引用文献2、3及び5の記載
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(特開2011-113018号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置をはじめとする画像表示装置に使用される偏光板及びその製造方法に関するものである。本発明の偏光板を実装した表示装置では、出射側の偏光が円偏光になるために方位角依存性が小さく、サングラスなどをかけた状態でどの方位から見ても良好な表示を保てる特徴を有している。」

イ 「【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は従来から、卓上計算機や電子時計などに使用されているが、さらに最近では、携帯電話などのモバイル機器から大型テレビに至るまで、画面サイズを問わずに使用されるようになってきており、急激にその用途が広がりつつある。また、液晶表示装置以外の画像表示装置としては特に、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示装置が、モバイル用途を中心に需要増加の傾向にある。液晶表示装置では通常、液晶セルの表裏に一対の偏光板が配置される。有機EL表示装置では、有機EL素子の視認側に、偏光板、特に楕円ないし円偏光板を配置して、反射防止機能を持たせることが多い。これらの画像表示装置に使用される偏光板についても、その展開に伴い、需要が増大しているばかりでなく、各用途に適する性能が求められている。
【0003】
上記のような画像表示装置に広く一般に使用されている伝統的な偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向している偏光フィルムの両面に、液状の接着剤を介して透明フィルム、特にトリアセチルセルロースフィルムを接着した構成で製造されている。これをそのまま、あるいは必要により、光学特性を有する位相差板や光学補償フィルムなどの種々の光学層を貼り合わせた形態で、感圧接着剤(粘着剤)を用いて液晶セルや有機EL素子などの画像表示素子に貼合され、画像表示装置とされる。
【0004】
上記のような液晶表示装置は、必ず液晶セルよりも視認側に偏光板を配置する構成となるため、出射する光が直線偏光となり、強い方向依存性を有してしまう。このため、偏光サングラスのような直線偏光のかかるフィルム越しに表示装置を見ると、ある角度で偏光板とクロスニコルの関係となってしまい、表示が視認出来なくなる問題がある。
【0005】
このような問題を回避するために、特許第2940031号(特許文献1)では、視認側の偏光フィルムの上にさらにλ/4波長板を貼ることで出射光を円偏光として方位角依存性をなくすことが提案されている。しかしながら、このような方法だと通常は、両面に透明フィルムの付いた偏光フィルムの上にさらに感圧式接着剤などを介してλ/4波長板などを貼合することになるため、薄型化の要求に対しては逆行してしまう、などの問題点がある。
【0006】
また、特開2008-83307号公報(特許文献2)では、偏光フィルムの上にセルロース系のλ/4波長板を配置することが提案されている。しかしながら、セルロースなどの透湿度の高いフィルムを用いた場合には、湿熱環境下で位相差値が変化することで見た目が変わってしまう、などの問題点もある。
【0007】
特開2009-122454号公報(特許文献3)では、偏光フィルムの上にλ/4を直接配置することが提案されているが、直接偏光フィルムの上に感圧紙機接着剤などを用いてλ/4を配置した場合には、耐熱環境下における偏光フィルムの収縮によってλ/4板の周囲が盛り上がって箱型になってしまう問題などがある。また、接着剤を用いて偏光フィルムと背接着した場合においても、偏光フィルムの両面ともに透湿度の高いフィルムなどを接着貼合する場合には偏光フィルムの性能が十分には出にくく、表示装置に実装した際に高いコントラスト比が得られない、などの問題がある。
【0008】
・・・中略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、サングラス着用時にも視認性に優れ、かつ、薄型であり、耐湿熱、耐熱環境下のいずれにおいても良好な外観と表示状態を保つことが出来る、高コントラスト偏光板を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明によれば、感圧式接着剤層、透明フィルム、第一の接着剤層、偏光フィルム、第二の接着剤層、及び透明なプラスチック基板がこの順に積層されており、前記透明なプラスチック基板は面内に100?200nmの位相差を有し、遅相軸が偏光フィルムの吸収軸に対して45±10°または135±10°であり、かつ、前記第一および第二の接着剤層が、23℃で100MPa以上の貯蔵弾性率である偏光板が提供される。
【0011】
この偏光板において、前記透明なプラスチック基板は、屈折率楕円体がn_(x)>n_(y)>n_(z)であり、透湿度が100(g/m^(2)・24hr)以下であり、かつ、引張弾性率が1,000?4,000MPa であることが好ましく、これを満たす材料として、シクロオレフィンなどを用いることが好ましい。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0014】
本発明における偏光板を実装した表示装置は、出射光が円偏光となるために、サングラスをかけた状態で表示装置を見ても、良好な表示状態を維持できる。さらに、耐熱、耐湿熱環境下においても良好な表示を維持できる。
【0015】
また、本発明の製造方法を適用した偏光板は、優れた偏光性能を示し、表示装置に実装した際に高いコントラスト比を得られる利点がある。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る偏光板の層構成の例を図1に断面模式図で示した。本発明では、図1に示すように、感圧接着剤層1、透明フィルム2、第一の接着剤層3、偏光フィルム4、第二の接着剤層5、透明なプラスチック基板6をこの順に積層して、偏光板を構成する。
そして、偏光フィルムの両面に形成される第一の接着剤層3、および、第二の接着剤層5は、23℃で100MPa以上の貯蔵弾性率を示すもので構成する。また、感圧接着剤層1の透明フィルム2に面する側と反対側には、セパレータを配置して、他の部材に貼り合わされるまで、その表面を仮着保護するのが通例である。
【0017】
以下、図1に示した各層について順に説明を進めていく。
【0018】
[透明フィルム2]
偏光フィルム4の片面には、透明フィルム2が接着されるが、この透明フィルム2としては、従来から偏光板の保護フィルムとして知られている各種の樹脂フィルムを使用することができる。一般的には、酢酸セルロース系樹脂フィルムが好適に用いられる。
【0019】
酢酸セルロース系樹脂は、セルロースの部分または完全酢酸エステル化物であって、たとえばトリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
【0020】
・・・中略・・・
【0023】
[感圧接着剤層1]
透明フィルム2のセル側にくる面には、感圧接着剤層1を配置する。この感圧接着剤層1には、従来から画像表示装置又はそれ用の光学フィルムに用いられてきた、粘着性を有し、透明性に優れる樹脂を主成分とするものが使用できる。例えば、アクリル系、ゴム系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系などの樹脂を主成分とする感圧接着剤が用いられる。
・・・中略・・・
【0030】
[透明なプラスチック基板6]
偏光フィルム4の片面には、透明なプラスチック基板6が接着される。この透明なプラスチック基板は、遅相軸が偏光フィルムの吸収軸に対して45±10°または135±10°にあり、100?200nmの位相差を有するものである。このため、透明なプラスチック基板6は、一軸延伸または二軸延伸されたものであることができる。延伸することで、透明なプラスチック基板6に任意の位相差値を付与することができる。延伸は、通常、フィルムロールを巻き出しながら連続的に行われ、加熱炉にて、ロールの進行方向、その進行方向と垂直の方向、あるいはその両方へ延伸される。加熱炉の温度は、通常、透明なプラスチック基板6のガラス転移温度近傍からガラス転移温度+100℃の範囲が、採用される。延伸の倍率は、通常1.1?6倍、好ましくは1.1?3.5倍である。
【0031】
透明なプラスチック基板6が延伸されたものである場合、その延伸方向は任意であるが、フィルムの流れ方向に対して、0°、45°、90°であるものが一般的である。延伸方向が0°であるフィルムの位相差特性は完全一軸性、45°、90°であるフィルムの位相差特性は弱い二軸性を帯びることが多い。中でも、延伸方向が45°であるフィルムは偏光フィルムとロールでライン貼合出来る点からもっとも好ましい。
【0032】
透明なプラスチック基板6には、従来から偏光板の保護フィルムとして知られている各種の樹脂フィルムを使用することができるが、なるべく透湿度が低いものの方が好ましく、100(g/m^(2)・24hr)以下であることが、接着時に偏光フィルムが急激に乾燥しないなどの理由から、好ましい。さらには、50(g/m^(2)・24hr)以下であることがより好ましい。急激に偏光フィルムが乾燥する場合には、後述するように、偏光性能が十分に出ないことがある。このような理由から、透湿度が低いシクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルムなど、当分野において従来より広く用いられてきているフィルムを挙げることができる。なかでも透明性と位相差の発現性が適当であるシクロオレフィン系樹脂はもっとも好ましい。
【0033】
シクロオレフィン系樹脂としては、適宜の市販品、たとえばTopas(Ticona社製)、アートン(JSR(株)製)、ゼオノア(ZEONOR)(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(ZEONEX)(日本ゼオン(株)製)、アペル(三井化学(株)製)などを好適に用いることができる。このようなシクロオレフィン系樹脂を製膜してフィルムとする際には、溶剤キャスト法、溶融押出法などの公知の方法が適宜用いられる。また、たとえばエスシーナ(積水化学工業(株)製)、SCA40(積水化学工業(株)製)、ゼオノアフィルム(日本ゼオン(株)製)などの予め製膜されたシクロオレフィン系樹脂製のフィルムの市販品を用いてもよい。
【0034】
シクロオレフィン系樹脂は、耐油性に乏しいものが多く、人間の皮脂などの脂分や極性の低い有機溶剤などが付着した状態で歪みがかかるとクラックが生じることがある。いわゆるソルベントクラックとも呼ばれている現象であるが、高分子鎖の配向が高いほど配向方向と直交する方向の強度が弱くなるために、クラックが発生しやすくなる。完全一軸性のものは配向度も高く、高分子鎖が一方向に揃っているために、クラックを生じやすい。このため、本発明のように偏光フィルムよりも外側にシクロオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムを用いる場合には、n_(x)>n_(y)>n_(z)であるような2軸性フィルムを用いることが好ましい。
【0035】
位相差値が上述の範囲にあり、かつ、遅相軸の角度も上述の範囲にある場合には、サングラスを装着したままで画面を見ても、暗くなる部分がなく表示が良好に見える。これよりも、位相差値が低い場合や高い場合には、表示装置を回した際に明らかに暗くなって見えにくくなる角度が出たり、虹色が見えたりする不具合がある。遅相軸の角度が上述の範囲にない場合にも同様に、角度依存性が大きくなる不具合がある。
【0036】
[接着剤層3、5]
本発明の構成では、偏光フィルム4の両側に接着剤層3、および、接着剤層5が配置される。接着剤層3と接着剤層5は、まったく同じものであってもかまわないし、違うもので構成されていても構わないが、高温環境下や高温高湿環境下での外観品質に優れる点から、23℃で100MPa以上の貯蔵弾性率である必要がある。
接着剤層3、および、接着剤層5の材質は23℃で100MPa以上の貯蔵弾性率であれば特に限定されず、水溶媒系接着剤、有機溶媒系接着剤、ホットメルト系接着剤、無溶剤型接着剤などを用いる事ができる。水溶媒系接着剤としては、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などが、有機溶媒系接着剤としては、たとえば二液型ウレタン系接着剤などが、無溶剤型接着剤としては、たとえば一液型ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤などが、それぞれ挙げられる。
【0037】
・・・中略・・・
【0038】
[偏光フィルム4]
偏光フィルム4は、入射する自然光から直線偏光を取り出す機能を有するものであり、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向されたものを用いることができる。
・・・中略・・・
【0039】
・・・中略・・・
この未延伸フィルムを、膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理、水洗処理の順に処理し、ホウ酸処理までの工程で一軸延伸を施し、最後に乾燥して得られる偏光フィルムの厚みは、たとえば5?50μmである。」

エ 「【0063】
偏光フィルム作製工程の最後には、乾燥処理が行われる。乾燥処理は、張力を少しずつ変えて多くの段数で行う方が好ましいが、設備上の制約などから、通常、2?3段で行われる。2段で行われる場合、前段における張力は600?1500N/mの範囲から、後段における張力は250?1200N/mの範囲から設定されることが好ましい。張力が大きくなりすぎると、フィルムの破断が多くなり、小さくなりすぎるとシワの発生が多くなり好ましくない。また、前段の乾燥温度を30?90℃の範囲から、後段の乾燥温度を40?100℃の範囲から設定することが好ましい。温度が高くなりすぎると、フィルムの破断が多くなり、また光学特性が低下し、温度が低くなりすぎるとスジが多くなり好ましくない。乾燥処理温度は、たとえば60?600秒とすることができ、各段における乾燥時間は同一でも異なっていてもよい。時間が長すぎると、生産性の面で好ましくなく、時間が短すぎると乾燥が不十分になり好ましくない。
【0064】
こうして、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色処理およびホウ酸処理が施されて、偏光フィルムが得られる。この偏光フィルムの厚みは、通常、5?40μmの範囲内である。
【0065】
(2) 偏光フィルムに式(2)、式(3)を満たす特性を付与する方法
本発明の偏光板は、用いられる偏光フィルムが下記式(2)で表される特性を有する。本特性を有する偏光フィルムは、偏光フィルムが特定の環境下に保持される事で得られる。すなわち、偏光フィルムの少なくとも流れ方向(吸収軸方向)の収縮が抑制された状態かつ、高温高湿度環境下に保持される必要がある。
・・・中略・・・
偏光フィルムの収縮が抑制されない状態では、一軸延伸されて作製された偏光フィルムは大きく収縮し偏光性能が失われる。偏光フィルムの収縮が抑制された状態は、偏光フィルムに張力を保持した状態で高温高湿槽に保持する方法、水分率の高い偏光フィルムの両面にフィルムを積層し、偏光フィルムの水分が高い状態で高温を付与する方法などが挙げられる。
・・・中略・・・
【0066】
後者の場合、偏光フィルムの両面に後述の透明保護フィルム等のフィルムを積層することで偏光フィルムの収縮が抑制される。また、この方法は積層された偏光板を加熱するだけで偏光フィルムが高温高湿下に置かれることとなるため、偏光フィルムを高温高湿環境下に保持する際に、高温高湿槽を設置する必要がなく、簡便であり好ましい。
【0067】
高温高湿環境下とは、通常、温度が40?90℃かつ湿度が50?95%RH、より好ましい範囲は、温度が60?80℃かつ湿度が60?90%RHの環境をいう。温度が40℃未満の場合、あるいは湿度が50%RH未満の場合には温湿度が不十分であるため式(3)記載の特性を得る事が困難となる。温度が90℃以上となると偏光フィルムが劣化し著しく青ヌケし易くなり、湿度が95%RH以上では結露し易くなる。
【0068】
高温高湿環境下に晒す時間は、通常10?1200秒、より好ましくは20?600秒である。時間が短いと十分な処理効果を得る事が出来ず、長すぎると偏光フィルムが劣化し著しく青ヌケし易くなり好ましくない。
【0069】
偏光フィルムの両面にフィルムを積層し、偏光フィルムの水分が高い状態で高温を付与する方法では、偏光フィルムが晒される温湿度環境を数値化することが困難であるため、貼合後に高温を付与する際の条件を規定する。かかる温度は70℃以上、好ましくは75℃以上であり、また通常100℃以下、好ましくは90℃以下である。温度が低すぎると十分な処理効果を得る事が出来ず、高すぎると偏光フィルムが劣化し著しく青ヌケし易くなり好ましくない。
【0070】
かかる処理は、貼合直後から40秒以内、好ましくは30秒以内、より好ましくは20秒以内に高温を付与する。高温を付与するまでの時間が長いと、偏光フィルムの水分が低下し、処理効果を得る事が難しくなる。
【0071】
貼合後に高温を付与する時間は、通常10?1200秒、好ましくは20?600秒である。時間が短いと十分な処理効果を得る事が出来ず、長すぎると偏光フィルムが劣化し著しく青ヌケし易くなり好ましくない。
【0072】
水分率の高い偏光フィルムとは、水分率が9%以上、好ましくは10%以上の偏光フィルムである。
・・・中略・・・
【0074】
上述した好適な範囲内の水分率を有する偏光フィルムは、たとえば偏光フィルムの乾燥温度および乾燥時間を制御することで得ることができ、低水分率の偏光フィルムは乾燥炉の温度を低く、および/または乾燥時間を短くする事で得られ、高水分率の偏光フィルムは乾燥炉の温度を高く、および/または乾燥時間を長くすることで得る事が出来る。
【0075】
本発明において、式(3)の性能を得ようとする場合、偏光フィルムの両面にフィルムを積層し、偏光フィルムの水分が高い状態で高温を付与する方法では、上述した温度、時間、水分率の組合せが重要である。」

オ 「【0077】
(3) 透明保護フィルム等のフィルムの偏光フィルムへの積層
偏光フィルムの両面に透明保護フィルム等のフィルムを積層する方法としては、接着剤層を介してまたは直接フィルムを積層させる。偏光フィルムの片面のみにフィルムを積層した場合、その後高温を付与しても偏光フィルムが高湿度環境下に保持され難いため好ましくない。
【0078】
フィルムの積層は、偏光フィルムとフィルムとをロールなどを用いて、片面づつ逐次に、または両面同時に貼合すれば良い。製造効率の面から両面同時貼合する事が好ましい。貼合温度は、通常15?30℃程度の範囲である。接着剤層を介して積層する場合には、たとえば、偏光フィルムおよび/または透明保護フィルムの表面に接着剤を均一に塗布し、塗布面にもう一方のフィルムを重ねてロールなどにより貼合し、乾燥する方法などが挙げられる。通常、接着剤は、その調製後、15?40℃の温度下で塗布される。
【0079】
偏光フィルムの両面にフィルムを積層する際に、フィルムは、少なくとも一方の面を透湿度の低い樹脂フィルムとする方がより好ましい。透湿度が低いと、積層し高温を付与する際に偏光フィルムが高湿度環境下に保持されやくなる。
【0080】
好ましい透湿度とは40℃、90%RH環境下で100(g/m^(2)・24hr)以下、更に好ましくは50(g/m^(2)・24hr)以下である。」

カ 「[実施例1]
【0083】
(偏光フィルムの作製)
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上で厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、乾式で約5倍に一軸延伸し、さらに緊張状態に保ったまま、60℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.1/5/100の水溶液に28℃で60秒間浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が10.5/7.5/100の水溶液に72℃で300秒間浸漬した。引き続き10℃の純水で5秒間洗浄した後、400Nの張力で保持した状態で、60℃で75秒、次いで75℃で30秒乾燥し、水分率が10.6%のヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。
【0084】
(接着剤の調製)
別途、100重量部の水に、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(クラレポバールKL318、(株)クラレ製)3重量部と、水溶性ポリアミドエポキシ樹脂(スミレーズレジン650、住化ケムテックス(株)製)(固形分濃度30%の水溶液)1.5重量部を溶解させて、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水系の接着剤(A)を調製した。また、カルボキシル基変性ポリビニルアルコールと水溶性ポリアミドエポキシ樹脂とをそれぞれ2重量部と1.0重量部とした接着剤(B)を調整した。
【0085】
(偏光板の作製)
先に得られた偏光フィルムの一方の面に、ケン化処理が施されたトリアセチルセルロースからなる厚み40μmのフィルム(KC4UY、コニカミノルタオプト(株)製)を上記接着剤(A)を用いて、また他方の面には、予めコロナ処理が施されたノルボルネン系樹脂製の位相差フィルム(ゼオノアフィルム ZD14-141158-A1340(日本ゼオン(株)製)、厚み:32μm)を上記接着剤(B)を用いて、ニップロールにより貼合した。貼合物の張力を430N/mに保ちながら、室温で貼合から5秒経過した後に、60℃で11秒、80℃で141秒、70℃で93秒の乾燥を連続で行ない偏光板を得た。この位相差フィルムを位相差測定器(KOBRA-WPR、王子計測機器(株)製)で測定したところ、R_(0)=140nmであり、さらに、n_(x)>n_(y)>n_(z)の関係を有しており、2軸性フィルムであった。また、この位相差フィルムの透湿度を測定したところ、10(g/m^(2)・24hr)未満の数値であり、十分に低い透湿度を有していた。
【0086】
・・・中略・・・
[各種評価]
【0099】
(各偏光板のSCRの測定)
上記実施例1および比較例1?3で得られた偏光板サンプルについて、位相差フィルムを剥がし、実質的に位相差特性を有しないトリアセチルセルロースフィルムは貼合されたままの状態で、日本分光(株)製の分光光度計(V7100)で波長450nm、550nm、600nmにおける各偏光板のSCRを測定した。結果を表1に示す。
【0100】
(液晶表示装置のコントラスト評価)
市販の液晶表示装置(携帯電話)の液晶画面のコントラストを(株)TOPCON製の分光放射計(SR-UL1)で測定した。結果を表2に示す。
実施例1の偏光板を用いた液晶表示装置は非常に良好なコントラスト比が得られたが、比較例1?3の偏光板を用いた液晶表示装置は実施例1と比べて低いコントラスト比しか得られなかった。
【0101】
(サングラス装着時の見た目評価)
上記で得られた液晶表示装置について、サングラスを装着して表示を見た際の、見た目について評価した。携帯電話をさまざまな角度から見たが、実施例1、比較例1?3のいずれの偏光板を貼り付けた表示装置でも、良好な表示が得られていた。
【0102】
(高温環境下、高温高湿度環境下での外観)
実施例、比較例で得られた偏光板について、ガラスに貼り付けた状態で高温乾燥環境下(85℃、乾燥環境)、高温高湿度環境下(60℃、90%RH)に100hr投入し、取り出し後の偏光板の外観を観察した。実施例1および比較例2、3の偏光板は、弾性率が100MPa以上の接着剤を用いたために、特に変化はなく、良好な外観を保っていた。しかしながら、弾性率が低い接着剤を用いた比較例1においては、高温環境下、高温高湿度環境下のいずれにおいても、偏光板の外周部が盛り上がって箱型に変形してしまう不具合が発生していた。

表1


表2



キ 「 【図1】



(2)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3(特開2011-76067号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0046】
本発明の偏光板は、以下のようにして得ることができる。
即ち、第1の保護フィルム(1)の一方の面に、第1の光硬化性接着剤を塗工し、第1の硬化性接着剤層(2’)を形成し、
第2の保護フィルム(5)の一方の面に、第2の光硬化性接着剤を塗工し、第2の硬化性接着剤層(4’)を形成し、
次いで、ポリビニルアルコール系偏光子(3)の各面に、第1の硬化性接着剤層(2’)及び第2の硬化性接着剤層(4’)を、同時に/または順番に重ね合わせ、
第2の保護フィルム(5)の側から活性エネルギー線を照射し、第1の硬化性接着剤層(2’)及び第2の硬化性接着剤層(4’)を硬化することによって製造することが好ましい。」

(3)引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献5(特許第4804588号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜を有する光学的表示装置に関する。特に、本発明は、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる、厚みが10μm以下の偏光膜を有する光学的表示装置に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を塗工形成し、該PVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材とともに延伸して偏光膜を製造する方法は、特許文献1?5に記載されているように既に知られている。しかし、主に液晶テレビ用の表示装置として求められる、コントラスト比が1000:1以上で、最大輝度500cd/m^(2)以上の光学特性を満たす表示装置に使用できる高機能の偏光膜は、これまでのところ実現されてはいない。
【0015】
したがって、本発明は、従来の偏光膜に比べて非常に薄く、しかも必要とされる光学特性を備えた偏光膜を有する光学的表示装置を提供することを目的とする。」

ウ 「【0062】
次に、貼合せ及び/又は転写工程によって、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に接着剤を塗布しながら、80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムを貼合せた後、非晶性PET基材を剥離し、3μm厚のPVA層を80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムに転写した。」

エ 「【0176】
[貼合せ/転写工程(I)]
本発明は、上述したように、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段階延伸工程で延伸されることにより、光学特性が上述の所望の条件を満足するように構成された、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光膜を使用する光学的表示装置を提供するものである。
【0177】
この光学的表示装置を形成するために、例えば非晶性PET基材のような熱可塑性樹脂基材上に製膜された、厚み10μm以下の、例えば上述した実施例により製造された厚み3μmの偏光膜3を含む光学フィルム積層体10が、光学フィルム積層体10のロールとして準備され、貼合せ/転写工程(I)において、ロールから繰り出された光学フィルム積層体10に対し、以下のような貼合せ処理と転写処理とを同時に行うことができる。
【0178】
製造される偏光膜3の厚みは、延伸による薄膜化によって10μm以下、通常は、僅か2?5μm程度にすぎない状態にされる。このような薄い偏光膜3を単層体として扱うことは難しい。従って、偏光膜3は、該偏光膜が製膜された熱可塑性機材、例えば非晶性PET基材上にそのまま残された状態で、光学フィルム積層体10として扱うか、又は、他の光学機能フィルム4に貼合せ/転写することによって光学機能フィルム積層体11として扱うことになる。」


第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
1 「樹脂層形成工程」
(1) 引用発明の「偏光板の製造方法」においては、「基材層と親水性高分子層が積層されている積層体」を「延伸処理」するのであるから、引用発明の「工程A」における「基材層」は「延伸前」のものである。
引用発明の「基材層(延伸前)の厚さは5?150μmであ」る。
そうすると、引用発明の「工程A」における「延伸前」の「基材層」は、その機能及び「5?150μm」の厚みからみて、本願発明の「基材フィルム」に相当する。

(2) 引用発明の「工程A」は、「親水性高分子を含有する水溶液」の「塗工」及び「乾燥」によって、「基材層」の一方の面に「親水性高分子」の層を形成して「積層体」を得るものである。
そして、引用発明の「積層体において、親水性高分子層の形成に用いる親水性高分子は、ポリビニルアルコール系材料であ」るから、引用発明の「工程A」における該「親水性高分子」の層は、「ポリビニルアルコール系材料」の層である。
してみると、引用発明の「工程A」における「親水性高分子」の層は、本願発明の「ポリビニルアルコール系樹脂層」に相当する。

(3) 上記(1)及び(2)より、引用発明の「工程A」により得られる「積層体」は、「基材フィルム」の面に「ポリビニルアルコール系樹脂層」を形成したものということができるから、引用発明の「工程A」における「積層体」は、本願発明の「積層フィルム」に相当する。
してみると、引用発明の「工程A」は、「基材フィルム」の一方の面に「ポリビニルアルコール系樹脂層」を形成し「積層フィルム」を得る工程ということができるから、本願発明の「樹脂層形成工程」に相当する。

(4) 上記(3)より、引用発明は「工程A」を備えている点において、本願発明の「基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る」「樹脂層形成工程」を備えているということができる。

2 「延伸工程」
(1) 引用発明の「工程B」は、「染色処理は、前記積層体に延伸処理を施した後に行う工程」であるから、引用発明の「工程B」は、先に、「積層体」に「延伸処理」を施す工程を行い、次いで、「延伸処理」された「積層体」に「二色性物質による」「染色処理」を施す工程を行うものである。

(2) 引用発明の「延伸積層体における親水性高分子層(延伸物)の厚みは2?10μmであ」る。
また、引用発明の「工程B」の「延伸処理は、前記積層体に一軸延伸を施すことにより行」うものである。
そうすると、引用発明の「工程B」の「積層体」に「延伸処理」を施す工程は、「積層体」に、「親水性高分子層」の厚みが「2?10μm」になるように「一軸延伸」を施して、「積層体」が延伸された「延伸積層体」を得る工程ということができる。

(3) 上記1及び(2)より、引用発明の「工程B」の「積層体」に「延伸処理」を施す工程は、「積層フィルム」を、「ポリビニルアルコール系樹脂層」の厚みが「10μm以下」になるように「一軸延伸」して「延伸積層体」を得る工程ということができる。
そうすると、引用発明の「工程B」の「延伸積層体」は、本願発明の「延伸フィルム」に相当し、引用発明の「工程B」の「積層体」に「延伸処理」を施す工程は、本願発明の「延伸工程」に相当する。

(4) 上記(3)より、引用発明は「工程B」の「積層体」に「延伸処理」を施す工程を備えている点において、本願発明の「前記積層フィルムを、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みが10μm以下になるように一軸延伸して延伸フィルムを得る」「延伸工程」を備えているということができる。

3 「染色工程」
(1) 引用発明の「工程B」の「染色処理」は、「積層体に延伸処理を施した後に」、「二色性物質による染色処理を施す」工程であり、「各処理が施された延伸積層体は、二色性物質による染色処理により、得られる親水性高分子層には二色性物質が吸着されて偏光子として機能」するものである。

(2) 上記(1)より、引用発明の「工程B」の「染色処理」は、「延伸積層体」を「二色性物質」で「染色」して、「二色性物質」を「吸着」した「親水性高分子層」を「偏光子」として形成しているということができる。
引用発明の「二色性物質」は、その機能からみて、本願発明の「二色性色素」に相当する。
引用発明の「偏光子」として機能する「親水性高分子層」は、本願発明の「偏光子層」に相当する。
また、「親水性高分子層」が「偏光子」として機能する「延伸積層体」は、全体としても偏光機能を有するから、引用発明の「工程B」の「染色処理」を施した「延伸積層体」は、本願発明の「偏光性積層フィルム」に相当する。

(3) 上記2及び(2)より、引用発明の「工程B」における「染色処理」は、「延伸フィルム」を「二色性色素」で「染色」して、「偏光子層」を形成し、「偏光性積層フィルム」を得る工程ということができる。
そうすると、引用発明の「工程B」における「染色処理」は、本願発明の「染色工程」に相当する。

(4) 上記(3)より、引用発明は「工程B」の「染色処理」を備えている点において、本願発明の「前記延伸フィルムを二色性色素で染色して偏光子層を形成し、偏光性積層フィルムを得る」「染色工程」を備えているということができる。

4 「防湿層形成工程」
(1) 引用発明の「工程C」は、「延伸積層体の親水性高分子層における基材層のない側に、透明保護フィルムを貼り合わせる工程」である。
この「親水性高分子層における基材層のない側」は、「親水性高分子層」の「基材層」とは反対側といいかえることができる。

(2) 引用発明の「工程C」の「延伸積層体の親水性高分子層における基材層のない側に、透明保護フィルムを貼り合わせ」た後では、「二色性物質」で「染色」できないから、「工程C」における「延伸積層体」は、「工程B」により「染色処理」が施された後のものである。

(3) 引用発明の「工程C」における「透明保護フィルム」は、「基材層と同様の材料を用いることができ、透明保護フィルムの厚さは5?150μmである」。

(4) 上記(1)?(3)より、引用発明の「工程C」は、「偏光性積層フィルム」において、「親水性高分子層」の「基材層」とは反対側の面に、「厚さ」が「5?150μmである」「透明保護フィルムを貼り合わせる工程」ということができる。
また、引用発明の「厚さ」が「5?150μmである」「透明保護フィルムを貼り合わせる工程」は、「層」を形成する「層」形成工程ということができる。
そうすると、引用発明の「工程C」により得られる「延伸積層体」(偏光性積層フィルム)に「透明保護フィルム」(層)を形成したものは、本願発明の「多層フィルム」に相当する。

(5) 上記1、3及び(4)より、引用発明の「工程C」は、「偏光性積層フィルム」において、「偏光子層」の「基材フィルム」とは反対側の面に、「層」を形成して、「多層フィルム」を得る「層」形成工程ということができる。
そうすると、引用発明の「工程C」は、本願発明の「防湿層形成工程」とは、「前記偏光性積層フィルムにおいて、前記偏光子層の前記基材フィルムとは反対側の面に、層を形成して多層フィルムを得る」「層形成工程」を備えている点で共通する。

5 偏光板及びその製造方法
以上1?4から、引用発明における「偏光板」及び「偏光板の製造方法」は、それぞれ本願発明の「偏光板」及び「偏光板の製造方法」に相当する。

6 上記1?5より、本願発明と引用発明とは、以下の構成において一致する。
「基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程、
前記積層フィルムを、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みが10μm以下になるように一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程、
前記延伸フィルムを二色性色素で染色して偏光子層を形成し、偏光性積層フィルムを得る染色工程、
前記偏光性積層フィルムにおいて、前記偏光子層の前記基材フィルムとは反対側の面に、層を形成して多層フィルムを得る層形成工程、
を含む偏光板の製造方法。」

7 本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
層形成工程が、
本願発明では、「透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下であり、面内位相差が100nm以上であり、厚みが5?25μmであり、かつ、前記偏光子層の吸収軸に対する遅相軸の角度θが20度以上70度以下である防湿層」を形成する「防湿層形成工程」であるのに対して、
引用発明では、「基材層と同様の材料を用いることができ」、「厚さは5?150μmである」「透明保護フィルム」を貼り合わせる工程であって、「透明保護フィルム」が、「透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下であり、面内位相差が100nm以上であり、厚みが5?25μmであり、かつ、前記偏光子層の吸収軸に対する遅相軸の角度θが20度以上70度以下である」かどうか不明である点。

(相違点2)
層形成工程において、層を形成する際、
本願発明では、光硬化性接着剤層を介しているのに対して、
引用発明では、貼り合わせているものの、光硬化性接着剤層を介しているのかどうか不明である点。

(相違点3)
本願発明は、「前記多層フィルムから前記基材フィルムを剥離する剥離工程」を含んでいるのに対して、
引用発明は、「前記多層フィルムから前記基材フィルムを剥離する剥離工程」を含んでいるかどうか不明である点。

第6 判断
1 相違点1について
(1) 引用文献1には、偏光板に位相差板(1/4波長板)が積層されている円偏光板とすることが好ましいことが記載されている(引用文献1段落【0074】(上記「第4」1(1)エ参照))。

(2) 引用発明が解決しようとする課題は、偏光子を薄型化をした場合にも、さらには、加湿環境下においてもカールの発生を抑えることができる偏光板を提供すること(引用文献1段落【0007】(上記「第4」1(1)ア参照))であり、引用発明は、基材層の延伸された後の透湿度を120g/m^(2)/24hrs以下としている点にその技術的特徴があるところ(引用文献1段落【0021】(上記「第4」1(1)イ参照))、親水性高分子層(偏光子層)の基材層(基材フィルム)のない側に設けられた「透明保護フィルム」についても、基材層と同様に、透湿度が120g/m^(2)/24hrs以下の低透湿性のものが好ましいことは、透明保護フィルム側の側面からの偏光子層への水分の侵入を抑制できることから明らかなことである。

(3) 引用発明においては、「透明保護フィルム」の厚みは「5?150μm」であるところ、より一層の薄型化が求められている携帯電話や携帯情報端末への適用する場合には、「透明保護フィルム」の厚みは、下限の5μmにできるだけ近い厚みのものが好ましいことは当業者にとって明らかなことである。
そして、引用発明の「透明保護フィルム」には、基材層と同様の材料を用いることができるものであるところ、引用文献1には、基材層として、低透湿性の観点からは、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィンおよび(メタ)アクリル樹脂などが好ましいこと、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等があげられ、環状ポリオレフィン樹脂は、好ましくはノルボルネン系樹脂であり、具体例としては、市販されている「ゼオノア」(日本ゼオン株式会社製)、「アートン」(JSR株式会社製)、「トーパス」(TICONA社製)等があげられることが記載されている(引用文献1段落【0029】?【0032】(上記「第4」1(1)ウ参照))。また、引用文献1には、実施例3あるいは実施例5として、厚みが24μm(厚み50μmのアクリル系樹脂フィルムを延伸したフィルム、透湿度119g/m^(2)/24hrs)の基材層、あるいは、厚みが28μm(厚み50μmのノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株),商品名:ゼオノアフィルム)を延伸倍率3.3倍で延伸したフィルム、透湿度11g/m^(2)/24hrs)の基材層を用いることが記載されている(引用文献1段落【0086】,【0088】,【0098】【表1】(上記「第4」1(1)オ参照))。

(4) 一方、引用文献2には、(i)円偏光化によりサングラス装着時の表示の視認性(液晶表示装置をサングラスを装着して見た際の見た目)を良好にし(引用文献2段落【0004】、【0009】、【0014】、【0035】、【0101】、【0102】表1及び表2(上記「第4」2(1)イ,ウ,カ参照))、(ii)透明フィルムの付いた偏光フィルムの上にさらに感圧式接着材などを介してλ/4波長板を貼合する必要がないため薄型化を図ることができ(引用文献2段落【0005】、【0009】(上記「第4」2(1)イ参照))、(iii)透湿度の高いセルロース系などからなるλ/4波長板を用いないため、湿熱環境下で位相差が変化することで(表示を見た際の)見た目が変わってしまうことがなく(引用文献2段落【0006】(上記「第4」2(1)イ参照))、(iv)透湿度が100g/m^(2)/24hr以下である低透湿なプラスチック基板を用いることにより、急激に偏光フィルムが乾燥することにより偏光性能が十分に出ないことを防ぐことができる(引用文献2段落【0032】上記「第4」2(1)ウ参照))偏光板を得ることを目的として、「感圧接着剤層、透明フィルム、第一の接着剤層、(ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを5?50μmに延伸、染色した)偏光フィルム、第二の接着剤層、透明なプラスチック基板がこの順に積層されてなる偏光板において、透明なプラスチック基板を、面内に100?200nmの位相差を有し、遅相軸が偏光フィルムの吸収軸に対して45±10°であり、透湿度が100g/m^(2)/24hrs以下とすること」(引用文献2段落【0010】,【0011】(上記「第4」2(1)イ参照)。以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されている。 また、透明なプラスチック基板の好適な材料としてシクロオレフィン(環状ポリオレフィン系樹脂)が記載され(引用文献2段落【0011】、【0032】、【0033】(上記「第4」2(1)イ、ウ参照))、その具体例として、R_(0)(面内位相差)=140nm、透湿度5g/m^(2)/24hrs未満の環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)製の位相差フィルム(ゼオノアフィルム ZD14-141158-A1340(日本ゼオン(株)製)、厚み:32μm)が記載されている(引用文献2実施例1段落【0085】(上記「第4」2(1)カ参照))。

(5) そして、引用発明と引用文献2記載技術とは、ともに偏光板に関するものであって、偏光板の薄型化や耐湿性向上を課題・目的としているところ、引用発明においては、上記(1)によれば、偏光板に位相差板(1/4波長板)を積層して円偏光板とすることが好ましく、上記(2)によれば、透明保護フィルムは、基材層と同様、透湿度が120g/m^(2)/24hrs以下の低透湿性のものが好ましいことを踏まえると、引用発明の透明保護フィルムに、上記引用文献2記載技術の透明プラスチック基板を適用し、例えば、透明保護フィルムとして、環状ポリオレフィン系樹脂のフィルムを用いることは、当業者であれば容易に着想し得る事項である(なお、引用文献1には、基材層の好ましい材料として環状ポリオレフィン系樹脂が記載されている(上記(3)参照))。
そして、その際、上記(3)のとおり携帯電話、携帯情報端末等への適用を考えると、「透明保護フィルム」の厚みは下限の5μmにできるだけ近い厚みのものが好ましく、また、引用文献1の実施例3あるいは実施例5には、基材層の厚みを24μm、28μm程度とすることが記載されていることをも踏まえると、基材層と同様の材料を用いることができ、位相差板(1/4波長板)の機能も有する透明保護フィルムである、環状ポリオレフィン系樹脂製フィルムの厚みとして、5?25μmの範囲内の厚みのものを選択することは、当業者の設計上の事項である。
ここで、一軸延伸ある二延伸等により環状ポリオレフィン系樹脂製フィルム等の透明プラスチック基板・フィルムに任意の位相差を付与できることは技術常識(例えば、引用文献2段落【0030】参照。)である。そして、面内位相差が100nm以上で厚みが5?25μmの範囲内にあり、低透湿性の観点から好ましいとされている環状ポリオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムであって、面内位相差が100nm以上で厚みが5?25μmの範囲内にあるものは、本件出願前に周知である。例えば、国際公開第2009/069799号(段落[0104](面内位相差140nm、厚み25μmのノルボルネン系樹脂からなる位相差フィルム〔積水化学工業(株)製の”エスシーナフィルム”:商品名〕(実施例1)))、特開2010-76128号公報(段落【0098】(面内位相差142nm、厚み平均23μmのTOPASフィルム(実施例10)))等に記載されている。
また、例えば、引用文献2に具体例として記載された厚みが32μm程度の環状ポリオレフィン系樹脂の位相差フィルムの透湿度は5g/m^(2)・24hr未満である(引用文献2段落【0102】表1参照)ところ、透湿度は概ね厚みの逆数に比例することが技術常識であるから、厚みが5?25μmの環状ポリオレフィン系樹脂の透湿度は、6.4g/m^(2)/24hrs未満(厚み25μm時)?32g/m^(2)/24hrs未満(厚み5μm時)程度となる。このように、厚みが5?25μmの環状ポリオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムの透湿度が200g/m^(2)/24hrs未満という本願発明の透湿度条件を満たすことは技術的にみて明らかである。
してみると、引用発明の工程C(層形成方法)において、透明保護フィルムとして、透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下であり、面内位相差が100nm以上であり、厚みが5?25μmであり、かつ、偏光子層の吸収軸に対する遅相軸の角度θが20度以上70度以下の環状ポリオレフィン系樹脂フィルムを用いて防湿層を形成すること、すなわち上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、引用文献2記載技術及び周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たことである。

なお、延伸処理により透明プラスチック基板・フィルムに位相差を付与したものとして、上記の環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの他にも、低透湿性とされるポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等からなる位相差フィルムであって、面内位相差が100nm以上で厚みが5?25μmの範囲内にあるものは、本件出願前に周知である。例えば、特開2009-276753号公報(段落【0108】【表1】(面内位相差137nm?144nm、厚み14.5?18.8μmのポリプロピレンフィルム(実施例1?3)))、特開2009-134257号公報(段落【0068】、【0081】【表1】(実施例1の面内位相差140nm、厚み8μmのポリプロピレン系位相差フィルム))、特開2008-268285号公報(段落【0064】(面内位相差168nm、厚み20μmのポリカーボネート系位相差板))、特開平10-300910号公報(段落【0047】(面内位相差100nm、厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(比較例1))等に記載されている。そして、厚みが5?25μm程度のポリプロピレンフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルム、あるいは厚みが20μm前後のポリカーボネートフィルムの透湿度は、200g/m^(2)/24hrs以下である。

2 相違点2について
(1) 偏光板の製造方法において、ポリビニルアルコール系偏光子層に、光硬化性接着剤層を介して保護フィルムを貼り合わせることは、本件出願前に周知の技術である(例えば、引用文献3の段落【0046】(上記「第4」2(2)ア参照)。

(2) そうすると、引用発明の「工程C」(層形成工程)において、親水性高分子層に、透明保護フィルムを貼り合わせる際に、上記(1)の周知技術に基づき、光硬化性接着剤層を介して貼り合わせるよう構成して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

3 相違点3について
(1) 引用文献1には、偏光板の透明保護フィルムに関し、段落【0072】に、「本発明の偏光板(延伸積層体)は、親水性高分子層(偏光子)の片側に、基材層を有する。基材層は、偏光板の透明保護フィルムとして、そのまま用いることができる。一方、親水性高分子層における基材層のない側には、透明保護フィルムを貼り合わせることができる。また、親水性高分子層を基材層から剥離した後に、当該親水性高分子層の両側に透明保護フィルムを貼り合わせることができる。」と記載されている。

(2) 一方、薄型の偏光子を単層体として扱うことは難しいため、薄型の偏光子を基材フィルムから保護フィルムに転写するにあたり、薄型の偏光子の基材フィルムのない面に、保護フィルムを積層した後に、基材フィルムを薄型の偏光子から剥離することは、本件出願前に周知の技術(例えば、引用文献5段落【0062】(上記「第4」2(3)ウ参照))である。

(3) そうすると、引用発明において、引用文献1の上記(1)の示唆に基づき、「親水性高分子層を基材層から剥離した後に、当該親水性高分子層の両側に透明保護フィルムを貼り合わせる」構成を採用するにあたり、偏光子層の厚みが2?10μmと薄いことから偏光子層の破断の恐れがあることに考慮して、上記(2)の周知技術に基づき、親水性高分子層における基材層のない側に透明保護フィルムを貼り合わせる「工程C」の後に、基材層(基材フィルム)を剥離する構成として、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

4 審判請求書における請求人の主張について
(1) 請求人は、審判請求書の「(3)補正後の本願発明が進歩性を有する理由」において、「(相違点5)本願発明においては、防湿層の厚みが5?25μmであるのに対し、引用文献1においては、透明保護フィルムの厚みが1?500μmである点。」に基づく進歩性の主張として、
「本発明において使用する防湿層の厚みは、5?25μmです。このように厚みの薄い防湿層を設けることは、剛性の低い層を偏光子層上に設けることに相当します。」、「ところで、引用文献1の発明が解決しようとする課題として、[0007]には「本発明は、偏光子を薄型化した場合にも、カールの発生を抑えられる偏光子を有する偏光板を提供することを目的とする」と記載されています。」、「そして、引用文献1の[0020]には、「このように、本発明の偏光板が有する偏光子は、基材と一体化した薄型化が可能であることから、本発明の偏光板は液晶表示装置に貼り合わせた場合においても偏光板の収縮応力を小さく制御でき、偏光板にカールが発生することにより生じる光漏れを抑えることができる」と記載されています。これは、偏光板を基材と一体化した状態で液晶表示装置に組み込むことにより、換言すれば基材層を剥離せずに液晶表示装置へ組み込むことにより、カールの発生が抑制できることを示唆するものです。実際、引用文献1の実施例においても、基材層は剥離されていません。」、「しかしながら、引用文献1に記載の発明において、上記[0072]の記載に基づいて、基材フィルムを剥離する工程を必須に含む態様とした場合、偏光板を基材と一体化した状態で液晶表示装置に組み込むことはできませんから、カールの発生を抑制するためには、その他の手法を用いる必要があります。ここで、偏光板を構成する層のうち、偏光子は収縮力が最も大きいこと、偏光子の収縮を抑えこむためには、剛性の高い、すなわち厚みの大きいフィルムを配置することが有利であることは本願出願時の技術常識であり、事実、引用文献1に記載の発明の実施例では、本願における防湿層として厚みが38μmのポリエステルフィルムを使用しています([0094])。」、「そうすると、引用文献1に記載の発明において、本願発明のように基材フィルムを剥離する工程を必須に含む態様とした場合、防湿層の厚みを5?25μmとすることは、カールの発生を誘引することにつながります。これは、引用文献1が解決しようとする課題とは相反しますから、引用文献1に記載の発明において相違点5に係る事項を想起するのは、当業者であっても容易ではないものと思料いたします。」、「なお、上記のとおり引用文献1の[0073]には、透明保護フィルムの厚みとして1?500μmと一応記載されています。しかしながら、相違点5に係る範囲(5?25μm)が1?500μmに占める割合はわずか数%であることに鑑みれば、引用文献1に記載された範囲は単に広範な範囲を開示するにとどまり、何ら相違点5に係る事項を示唆するものではないことは明らかです。」、「引用文献2には、感圧式接着剤層、透明フィルム、第一の接着剤層、偏光フィルム、第二の接着剤層、及び透明なプラスチック基板がこの順に積層されてなる偏光板が記載されています([0016])。・・・中略・・・また、透明なプラスチック基板の厚みは、実施例1において32μmであり([0085])、比較例1において40μmです([0090])。」、「したがって、引用文献2には、防湿層に相当する透明なプラスチック基板の厚みを5?25μmにすることは記載されていません。また、仮に引用文献2に基づいて透明なプラスチック基板の厚みを5?25μmにすることを想起したとしても、引用文献1に記載の発明にこれを適用するのは引用文献1の課題に反しますから、当業者であっても容易ではないものと思料いたします。」旨主張している。
しかしながら、引用発明の層形成方法において、透明保護フィルムとして、透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下であり、面内位相差が100nm以上であり、厚みが5?25μmであり、かつ、偏光子層の吸収軸に対する遅相軸の角度θが20度以上70度以下の環状ポリオレフィン系樹脂フィルムからなる防湿層を形成する防湿層形成工程とすることは、引用文献2記載技術及び本件出願の出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易になし得たものであることは、上記1で述べたとおりである。
また、引用文献1に記載された発明は、基材層に親水性高分子層が積層された状態で延伸処理することにより偏光子を薄くすること、基材層の透湿度を低くすることによりカールの発生を抑制するもの(引用文献1の【課題を解決するための手段】【0010】、【0017】、【発明の効果】【0020】、【0021】(上記「第4」1(1)イ参照))であって、基材層の剛性(、あるいは厚み)によりカールを防止するものではない。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(2) また、請求人は審判請求書の「(3)補正後の本願発明が進歩性を有する理由」において、「高温高湿環境下における偏光度の低下を抑制することができるという本願発明の効果([0118][表1]、[0014])について検討をします。本願発明において、防湿層の厚みが5?25μmです。一般に透湿度は、形成する素材が同じであればフィルムの厚みに反比例しますから、防湿層の厚みを5?25μmとすることは、一見本願発明の課題を解決する上で不利になるものと考えられますが、本願発明は厚みの薄い防湿層を使用しながらも、光硬化性接着剤層を介して防湿層を積層することにより、光硬化性接着剤層の持つ低透湿性が防湿層の役割を補填して、高温高湿環境下における偏光度の低下を抑制しています。」旨主張している。
しかしながら、本願明細書等には、光硬化性接着剤層に関し、水分の関与が少なくフィルムのカールを制御しやすいこと、乾燥を行わなくてもよい点で水系接着剤層よりも好ましいこと(段落【0081】)や、硬化後の光硬化性接着剤層の厚みは、通常、0.001?5μm、好ましくは0.01μm以上でかつ2μm以下、さらに好ましくは0.01μm以上でかつ1μm以上であること(段落【0091】)が記載されているだけであり、本願発明の「光硬化性接着剤層」が「低透湿性」であることは一切記載されておらず、また、その厚み、材料が特定されていない「光硬化性接着剤層」が、透湿度が200g/m^(2)/24hrs以下の厚みが5?25μmの防湿層と協働することにより、高温高湿環境下における偏光度の低下を抑制することができる程度の低透湿度を備えているという技術常識もない。
また、上記請求人の主張が、水系接着剤に比較して、光硬化性接着剤層が低透湿性を備えることに起因するものであるならば、当該効果は、引用文献1及び周知技術から当業者にとって予測可能なことであり格別のものではない。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

5 小括
よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術、及び引用文献3、引用文献5に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術、及び引用文献3、引用文献5に記載された周知技術に基づいて、本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-19 
結審通知日 2018-03-20 
審決日 2018-04-02 
出願番号 特願2012-46493(P2012-46493)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
鉄 豊郎
発明の名称 偏光板の製造方法  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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