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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H |
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管理番号 | 1340645 |
審判番号 | 不服2016-17508 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-24 |
確定日 | 2018-05-23 |
事件の表示 | 特願2014-218803「アンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月 7日出願公開、特開2015- 89129〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年10月28日(パリ条約による優先権主張2013年10月28日 韓国)の出願であって、平成27年11月16日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月21日付けで拒絶査定されたところ、同年11月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正されたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年11月24日にされた手続補正を却下する。 [理由] 1.本願発明と補正後の発明 平成28年11月24日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成28年2月23日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「 【請求項1】 放射金属と、 前記放射金属と接地との間に連結され、周波数によってインピーダンス値が変更されるが、所定の周波数で共振することにより前記放射金属と前記接地との間が開放されるようにする、第1インピーダンス部と、 前記放射金属と前記接地との間に連結され、周波数によってインピーダンス値が変更されるが、前記所定の周波数で共振することにより前記放射金属と前記接地との間が短絡されるようにする、第2インピーダンス部と、 を含むアンテナ装置であって、 前記第1インピーダンス部と前記第2インピーダンス部が組み合わさって、前記所定の周波数より低い周波数と、前記所定の周波数より高い周波数で共振するアンテナ装置。」 という発明(以下、「本願発明」という。)を、本件補正に係る手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「 【請求項1】 放射金属と、 前記放射金属と接地との間に連結され、周波数によってインピーダンス値が変更されるが、第1の周波数で共振することにより前記放射金属と前記接地との間が開放されるようにする、第1インピーダンス部と、 前記放射金属と前記接地との間に連結され、周波数によってインピーダンス値が変更されるが、前記第1の周波数で共振することにより前記放射金属と前記接地との間が短絡されるようにする、第2インピーダンス部と、 を含み、 前記第1インピーダンス部は、並列に連結された第1インダクタと第1キャパシタとを含み、 前記第2インピーダンス部は、直列に連結された第2インダクタと第2キャパシタとを含み、 前記第1インピーダンス部は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号においてインダクタ成分となり、前記第2インピーダンス部は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号においてキャパシタ成分となり、前記第1インピーダンス部の前記インダクタ成分と前記第2インピーダンス部の前記キャパシタ成分は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号において結合して共振し、 前記第1インピーダンス部は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号においてキャパシタ成分となり、前記第2インピーダンス部は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号においてインダクタ成分となり、前記第1インピーダンス部の前記キャパシタ成分と前記第2インピーダンス部の前記インダクタ成分は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号において結合して共振する アンテナ装置。」(下線は、補正箇所を示す。) という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。 2.補正の適否 (1)新規事項の有無、補正の目的要件、シフト補正の有無 上記補正の内容は、「第1インピーダンス部」、「第2インピーダンス部」に関し、それぞれ「前記第1インピーダンス部は、並列に連結された第1インダクタと第1キャパシタとを含」むこと、「前記第2インピーダンス部は、直列に連結された第2インダクタと第2キャパシタとを含」むことを限定する補正、及び、本件補正前の「前記第1インピーダンス部と前記第2インピーダンス部が組み合わさって、前記所定の周波数より低い周波数と、前記所定の周波数より高い周波数で共振する」ことを、「前記第1インピーダンス部は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号においてインダクタ成分となり、前記第2インピーダンス部は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号においてキャパシタ成分となり、前記第1インピーダンス部の前記インダクタ成分と前記第2インピーダンス部の前記キャパシタ成分は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号において結合して共振し、前記第1インピーダンス部は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号においてキャパシタ成分となり、前記第2インピーダンス部は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号においてインダクタ成分となり、前記第1インピーダンス部の前記キャパシタ成分と前記第2インピーダンス部の前記インダクタ成分は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号において結合して共振する」ことに限定する補正である。よって、上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 また、上記補正の内容は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものである。 したがって、上記補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)、及び同法第17条の2第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。また、同法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反しないことも明らかである。 (2)独立特許要件 上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるのかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 [補正後の発明] 補正後の発明は、上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において、「補正後の発明」として記載したとおりである。 [引用発明] 原査定の拒絶理由に引用された、特開2004-242269号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、平成28年7月21日付け拒絶査定において、「引用文献等一覧」の欄の記載を「1.特開2004-242269号公報 2.特開平4-233303号公報」とすべきところ、誤って「1.特開平4-233303号公報 2.特開2004-242269号公報」と記載したが、前記拒絶査定の内容は引用文献1が特開2004-242269号公報であることを前提としているものであり、審判請求書(同年12月29日に提出された手続補正書を参照。)において、請求人も引用文献1を特開2004-242269号公報として反論しているものと認められる。したがって、審査段階において、請求項1に対する特許法第29条第2項に基づく拒絶理由の引用文献が、特開2004-242269号公報であるとされていたことは明らかである。) あ.「【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は、共振回路で表現される負荷と電源とのインピーダンス整合を図る2周波整合回路に関するものである。」 い.「【0008】 【発明の実施の形態】 以下、この発明の実施の一形態を説明する。 実施の形態1. 図1はこの発明の実施の形態1による2周波整合回路を示す構成図であり、図において、負荷1はインダクタL及びキャパシタCから為る直列共振回路1aと抵抗R_(1)^(b)から構成され、負荷1は例えばアンテナとして用いられる。 第1の整合回路3はインダクタL_(1)^(b)及びキャパシタC_(1)^(b)から為る並列共振回路3aから構成され、負荷1の出力端子2と接続されている。第2の整合回路4は一端が接地されている直列共振回路4aと一端が接地されている並列共振回路4bの並列回路から為り、一端が第1の整合回路3と接続されている。なお、直列共振回路4aはインダクタL_(2)^(a)及びキャパシタC_(2)^(a)から為り、並列共振回路4bはインダクタL_(2)^(b)及びキャパシタC_(2)^(b)から為る。・・・」 う.「【0028】 実施の形態3. 図5はこの発明の実施の形態3による2周波整合回路を示す構成図である。図6は図5の2周波整合回路における反射振幅の周波数特性を示す説明図であり、図7は図5の2周波整合回路の入力端子6における反射係数のスミスチャート上の軌跡を表す説明図である。図5において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。 【0029】 次に動作について説明する。 この実施の形態3では、上記実施の形態1における2周波整合回路の伝送特性を具体的に説明する。 ここでは、説明の便宜上、整合を図る2つの周波数のうち、低い方の周波数を810-960MHz、高い方の周波数を1429-1522MHzとする。 上記の関係式(1)は、7つの周波数f1L、f0L、f2L、f0、f1H、f0H、f2Hをパラメータとして4つの式からなる。従って、7つの周波数のうち、3つの周波数を与えれば、残りの4つの周波数は関係式(1)から求められる。 【0030】 例えば、f1Lを810MHz、f2Lを960MHz、f0Hを1429MHzと1522MHzの相乗平均値(1475MHz)とすると、関係式(1)より、残りの周波数は、f0L=894MHz、f0=1148MHz、f1H=1373MHz、f2H=1627MHzとなる。 この実施の形態3における負荷1のインダクタL及びキャパシタCの値は、共振周波数が周波数f0=1148MHzと一致するように選択し、L=12.8nH、C=1.5pFとする。また、抵抗R=20Ωとする。 従って、上記の数式群(5)より、負荷1のQ値は4.64、係数δは0.61となる。 【0031】 係数δと整合回路の総数N(図5の場合、整合回路の総数Nは2)を上記の数式群(3)に代入し、上記の周波数範囲(810-960MHz、1373-1627MHz)において、最大の反射係数の大きさ|Γ|maxが最小となるチェビシェフリップルHを求めると0.26となる。従って、上記の数式群(4)から、g2=0.45、g3=1.91と求められる。 【0032】 そして、上記の数式群(2)にしたがって整合回路を構成するインダクタ及びキャパシタの値と、電源7の内部抵抗Rgの値とを求めると、L_(1)^(b)=3.29nH、C_(1)^(b)=5.84pF、L_(2)^(a)=8.56nH、C_(2)^(a)=2.25pF、L_(2)^(b)=2.19nH、C_(2)^(b)=8.77pF、Rg=38.3Ωとなる。なお、所定の周波数帯域内における最大の反射係数の大きさ|Γ|maxは-10dBと計算される。 【0033】 以上により得られた2周波整合回路の反射係数の大きさ、即ち、反射振幅の周波数特性は図6に示すようになる。図6において、破線は設定した周波数帯域(810-960MHz、1429-1522MHz)の下限及び上限の周波数を表し、一点鎖線は-10dBの反射振幅を表している。図6に示すように、810-960MHz、1429-1522MHzにおいて、反射振幅が-10dB以下になっている。 【0034】 また、図7は入力端子6における反射係数のスミスチャート上の軌跡を示しており、図7において、太線は設定した周波数帯域における反射係数の軌跡を表し、破線は-10dBの反射振幅となる範囲を表している。図7に示すように、810-960MHz、1429-1522MHzの両周波数帯域における反射係数の軌跡は、破線で示した範囲内に位置している。」 え.図5、6として2周波整合回路及びその周波数特性を示す以下の図面が記載されている。 ![]() 上記摘記事項並びにこの分野の技術常識を考慮すると、 a.実施の形態3について記載された上記摘記事項「う.」、「え.」には、「負荷1」に関して記載されていないが、【0028】によれば実施の形態1と共通する部分については説明が省略されているとのことなので、実施の形態1について記載された上記摘記事項「い.」を参照すると、「負荷1」は「アンテナ」である。 b.上記摘記事項「う.」、「え.」によれば、「第1の整合回路3」を介して「負荷1」と第2の整合回路の接地との間に「並列共振回路4b」が接続されており、当該「並列共振回路4b」は「インダクタL_(2)^(b)」(2.19nH)と「キャパシタC_(2)^(b)」(8.77pF)が並列接続されて構成されている。 c.上記摘記事項「う.」、「え.」によれば、「第1の整合回路3」を介して「負荷1」と第2の整合回路の接地との間に「直列共振回路4a」が接続されており、当該「直列共振回路4a」は「インダクタL_(2)^(a)」(8.56nH)と「キャパシタC_(2)^(a)」(2.25pF)が直列接続されて構成されている。 d.上記摘記事項「あ.」によれば、負荷と電源間の回路は2周波整合回路であるから、負荷と2周波整合回路を合わせた構成は、2周波整合回路を含むアンテナ装置ということができる。 したがって、引用文献には次のような発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 (引用発明) 「 アンテナである負荷1と、 前記負荷1と接地との間に第1の整合回路3を介して接続された並列共振回路4bと、 前記負荷1と接地との間に第1の整合回路3を介して接続された直列共振回路4aと、を含み、 前記並列共振回路4bは、インダクタL_(2)^(b)(2.19nH)とキャパシタC_(2)^(b)(8.77pF)とが並列に接続されて構成されており、 前記直列共振回路4aは、インダクタL_(2)^(a)(8.56nH)とキャパシタC_(2)^(a)(2.25pF)とが直列に接続されて構成されている、 2周波整合回路を含むアンテナ装置。」 [対比] 補正後の発明を引用発明と対比すると、 a.引用発明の「アンテナである負荷1」は、電波の放射を行う構成であることは明らかであり、アンテナを金属で構成することは常套手段であるから補正後の発明の「放射金属」に相当する。 b.引用発明の「並列共振回路4b」は、「インダクタL_(2)^(b)」と「キャパシタC_(2)^(b)」が並列接続された構成であるからそのインピーダンス値はj(ωL_(2)^(b)/(1-ω^(2)L_(2)^(b)C_(2)^(b)))となり、周波数が変化することによりωが変化しインピーダンス値も変化することは明らかである。また、当該「並列共振回路4b」の共振周波数は(1/2π√(L_(2)^(b)C_(2)^(b)))により求められ、計算により1148MHzとなることも明らかである。更に、「並列共振回路4b」は共振時には両端子間のインピーダンスが無限大となり、開放された状態となることも技術常識であり、この点は補正後の発明の「第1インピーダンス部」と同様である。 一方、引用発明の「直列共振回路4a」は、「インダクタL_(2)^(a)」と「キャパシタC_(2)^(a)」が直列接続された構成であるからそのインピーダンス値はj(ωL_(2)^(a)-1/ωC_(2)^(a))となり、周波数が変化することによりωが変化しインピーダンス値も変化することは明らかである。そして、当該「直列共振回路4a」の共振周波数は(1/2π√(L_(2)^(a)C_(2)^(a)))により求められ、計算により1147MHzとなることも明らかである。更に、「直列共振回路4a」は共振時には両端子間のインピーダンスがゼロとなり、短絡された状態となることも技術常識であり、この点は補正後の発明の「第2インピーダンス部」と同様である。 そうしてみると、引用発明の「並列共振回路4b」と「直列共振回路4a」は、回路素子の定数の設定上生じる微差は有するものの、ほぼ等しい共振周波数を有しており、これは補正後の発明の「第1の周波数」に相当する。 また、引用発明の「並列共振回路4b」及び「直列共振回路4a」は、「負荷1」と「接地」との間を直接連結しておらず、「第1の整合回路3」を介して接続するものであるが、「負荷1」と「接地」との間に接続されているといえる点では「放射金属」と「接地」との間に連結される補正後の発明の「第1インピーダンス部」及び「第2インピーダンス部」とそれぞれ対応する。 c.引用発明において、並列に接続されて並列共振回路4bを構成する、「インダクタL_(2)^(b)」と「キャパシタC_(2)^(b)」が、補正後の発明の「第1インダクタ」、「第1キャパシタ」にそれぞれ相当する。また、引用発明において直列に接続され直列共振回路4aを構成する、「インダクタL_(2)^(a)」と「キャパシタC_(2)^(a)」が、補正後の発明の「第2インダクタ」、「第2キャパシタ」にそれぞれ相当する。 したがって、補正後の発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「 放射金属と、 前記放射金属と接地との間に接続され、周波数によってインピーダンス値が変更されるが、第1の周波数で共振することによりその両端子間が開放されるようにする、第1インピーダンス部と、 前記放射金属と前記接地との間に接続され、周波数によってインピーダンス値が変更されるが、前記第1の周波数で共振することによりその両端子間が短絡されるようにする、第2インピーダンス部と、 を含み、 前記第1インピーダンス部は、並列に連結された第1インダクタと第1キャパシタとを含み、 前記第2インピーダンス部は、直列に連結された第2インダクタと第2キャパシタとを含む、 アンテナ装置。」 (相違点1) 一致点とした「第1インピーダンス部」及び「第2インピーダンス部」が「前記放射金属と接地との間に接続され」る点に関して、補正後の発明では連結、すなわち直接接続されており、「第1インピーダンス部」及び「第2インピーダンス部」が開放あるいは短絡状態になることにより、「放射金属」と「接地」との間が直接開放あるいは短絡されるのに対して、引用発明では「整合回路3」を介して接続されているため、「並列共振回路4b」、「直列共振回路4a」は負荷1を直接開放あるいは短絡するとはいえない点。 (相違点2) 補正後の発明では「前記第1インピーダンス部は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号においてインダクタ成分となり、前記第2インピーダンス部は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号においてキャパシタ成分となり、前記第1インピーダンス部の前記インダクタ成分と前記第2インピーダンス部の前記キャパシタ成分は、前記第1の周波数より低い周波数を有する信号において結合して共振し、 前記第1インピーダンス部は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号においてキャパシタ成分となり、前記第2インピーダンス部は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号においてインダクタ成分となり、前記第1インピーダンス部の前記キャパシタ成分と前記第2インピーダンス部の前記インダクタ成分は、前記第1の周波数より高い周波数を有する信号において結合して共振する」のに対して、引用発明では「並列共振回路4b」と「直列共振回路4a」の動作について特定がなく明らかではない点。 [判断] 上記相違点1について検討する。 引用発明は2周波整合を行うためのものであり、アンテナである負荷1は、上記摘記事項「い.」の記載によればインダクタL及びキャパシタCからなる直列共振回路1aと抵抗R_(1)^(b)から構成されるから、1つの共振周波数のピークを有するものである。一方、2つの共振周波数のピークを有するアンテナも常套手段にすぎない(例えば、原査定の拒絶理由に引用された特開平4-233303号公報に記載されたような2周波アンテナ。)。そうしてみると、2周波整合を行う、すなわち2つの周波数帯を用いる引用発明において、2周波アンテナを採用しようとすることは格別な事項とはいえず、また、2周波アンテナを使うにあたっては2周波の間の周波数(負荷の共振周波数)で開放となる第1の整合回路は格別必要ではなくなるから、これを取り外した構成とすることは当業者が適宜成し得る程度の事項にすぎない。 したがって、上記相違点1とした補正後の発明の構成は、当業者が引用発明から容易に想到できたものである。 次に、上記相違点2について検討する。 引用発明の並列共振回路4bのインピーダンスは、j(ωL_(2)^(b)/(1-ω^(2)L_(2)^(b)C_(2)^(b)))で得られることは技術常識であり、L_(2)^(b)=2.19nH、C_(2)^(b)=8.77pFとして計算すると、周波数が1148MHzより小さい場合に虚部が正になりインダクタ成分となるのに対し、大きい場合には虚部が負になりキャパシタ成分となる。 また、引用発明の直列共振回路4aのインピーダンスは、j(ωL_(2)^(a)-1/ωC_(2)^(a))で得られることは技術常識であり、L_(2)^(a)=8.56nH、C_(2)^(a)=2.25pFとして計算すると、周波数が約1147MHzより小さい場合に虚部が負になりキャパシタ成分となるのに対し、大きい場合には虚部が正になりインダクタ成分となる。 ここで、インダクタ成分とキャパシタ成分が交替する1148MHz、1147MHzは、並列共振回路4bと直列共振回路4aの共通する共振周波数と一致するといえる。 そして、並列共振回路4bと直列共振回路4aを合わせた回路のインピーダンスは、j(ωL_(2)^(b)(1-ω^(2)L_(2)^(a)C_(2)^(a))/(ω^(4)L_(2)^(a)C_(2)^(a)C_(2)^(b)L_(2)^(b)-ω^(2)(L_(2)^(a)C_(2)^(a)+C_(2)^(b)L_(2)^(b)+C_(2)^(a)L_(2)^(b))+1)) となり、ここで、L_(2)^(b)=2.19nH、C_(2)^(b)=8.77pF、L_(2)^(a)=8.56nH、C_(2)^(a)=2.25pFであるから、計算すると、前記共振周波数より低い周波数である893MHzと、前記共振周波数よりも高い周波数である1474MHzでインピーダンスが無限大となり、当該周波数で共振することは明らかである。 そうしてみると、引用発明も相違点2とした補正後の発明の構成に相当する構成を有しているといえるから、相違点2は実質的な相違点とはいえない。 そして、補正後の発明が奏する効果も、引用発明から容易に予測できる範囲のものである。 よって、補正後の発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によって、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。 3.結語 以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成28年11月24日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として記載したとおりのものである。 2.引用発明 引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の「2.補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項で引用発明として認定したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の「2.補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-12-25 |
結審通知日 | 2017-12-26 |
審決日 | 2018-01-10 |
出願番号 | 特願2014-218803(P2014-218803) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H03H)
P 1 8・ 575- Z (H03H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼橋 徳浩、石川 雄太郎、河合 弘明 |
特許庁審判長 |
北岡 浩 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 川口 貴裕 |
発明の名称 | アンテナ装置 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 川嵜 洋祐 |
代理人 | 今藤 敏和 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 五味渕 琢也 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 飯野 陽一 |
代理人 | 櫻田 芳恵 |
代理人 | 市川 祐輔 |
代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 青木 孝博 |