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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1340655
審判番号 不服2017-9441  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-28 
確定日 2018-06-12 
事件の表示 特願2015- 94504「発光装置の作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日出願公開、特開2015-181115、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-94504号(以下、「本件出願」という。)は、平成22年5月19日に出願された特願2010-115175号の一部を平成27年5月5日(優先権主張 平成21年5月21日)に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成27年 5月 7日付け:手続補正書
平成28年 4月15日付け:拒絶理由通知書
平成28年 6月 6日付け:意見書
平成28年10月26日付け:拒絶理由通知書
平成28年11月21日付け:意見書、手続補正書
平成29年 3月28日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成29年 6月28日付け:審判請求書

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

理由1 本件出願の特許請求の範囲の請求項1-5に係る発明は、下記の引用文献1、引用文献2に記載された発明、及び引用文献3-5に記載された周知技術に基づいて、その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2000-311781号公報
2.特開2008-159309号公報
3.特開2009-31750号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2002-280170号公報(周知技術を示す文献)
5.実願昭61-42195号(実開昭62-153794号)の
マイクロフィルム(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成28年11月21日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
第1の部材上に発光素子を形成する工程と、
樹脂を有し、前記発光素子を覆う領域を有する第2の部材を形成する工程と、
前記第1の部材及び前記第2の部材を、屈曲した形状に加工する工程と、
前記屈曲した形状を有する前記第1の部材及び前記第2の部材を覆う領域を有する保護膜を形成する工程と、を有し、
無機材料を用いて前記保護膜を形成することを特徴とする発光装置の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の部材上に、トランジスタを有する素子層を形成する工程を有することを特徴とする発光装置の作製方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記トランジスタは酸化物半導体層を有することを特徴とする発光装置の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、
前記第1の部材と前記第2の部材の形状を固定する処理を行った後、前記保護膜を形成することを特徴とする発光装置の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、
前記保護膜として、前記第1の部材を覆う領域を有する第1の保護膜と、前記第2の部材を覆う領域を有する第2の保護膜と、を形成し、
前記第1の保護膜と前記第2の保護膜が、互いに積層された領域を有することを特徴とする発光装置の作製方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2000-311781号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。

a 「【請求項4】 剥離可能な平板上に可撓性を有する透明基板を接合し、この透明基板表面に透明電極のパターンを形成し、さらに発光層及び背面電極を形成した後、上記発光層及び背面電極を非透湿性部材により密封し、上記平板と透明基板とを剥離し、上記透明基板を所定形状に湾曲させて曲面を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。」

b 「【0015】この後、真空装置から平板26上の透明基板10を取りだし、外気にさらすことなく、乾燥窒素雰囲気のグローブボックス内に移す。そして、図1(C)に示すように、例えば0.2mm程度のポリイミド製の非透湿性フィルム30で透明基板10の発光層20が形成されている側を覆い、透明基板10の周縁部全周で溶着硬化させる。」

(2)上記(1)の記載a及びbから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「剥離可能な平板上に可撓性を有する透明基板を接合し、この透明基板表面に透明電極のパターンを形成し、さらに発光層及び背面電極を形成した後、上記発光層及び背面電極をポリイミド製の非透湿性部材により密封し、上記平板と透明基板とを剥離し、上記透明基板を所定形状に湾曲させて曲面を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2008-159309号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

a 「【0031】
さらに、図5に示したように、発光装置1の表裏に、樹脂層40が設けられた構成としてもよい。樹脂層40は、透明性を有する樹脂によって構成され、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂等の吸湿性の低いものが好ましい。また、樹脂層40の表面には、容器100が設けられていてもよい。容器100は、透明性を有する材料、例えばガラスやアクリル等により構成されている。樹脂層40は、発光装置1の表面と裏面のどちらか一方の面にのみ設けられていてもよい。
【0032】
次に、本実施の形態に係る発光装置の製造方法としての発光装置1の作製方法について説明する。
【0033】
まず、基板10の一面にバリア層13を形成したのち、このバリア層13上に、アノード電極層14、ホール注入層15、ホール輸送層16、発光層17、電子輸送層18、およびカソード電極層19をこの順に、例えば蒸着法等を用いて設けることにより、有機EL素子12を形成する。このとき、基板10には、柔軟性を有するフレキシブル基板を用いるようにし、この基板10を平坦にした状態で、有機EL素子12の各層の蒸着を行うようにする。次いで、これらの層を、バリア層20で封止することにより、図4に示した素子構造を有するフレキシブルデバイスを、複数個形成する。
【0034】
次に、このようにして形成した複数のフレキシブルデバイスを、所望の周期相当間隔wおよび振幅相当間隔dの波型形状となるように、それぞれ折り曲げる。続いて、この折り曲げた状態で、フレキシブルデバイスを固定することにより、複数のサブ基板を形成する。こののち、連結部30を介して、複数のサブ基板同士を連結する。あるいは、複数のフレキシブルデバイスを、平坦な状態で連結したのち、波型形状に折り曲げて固定するようにしてもよい。例えば、サブ基板と同素材の大判の基板上に透明接着剤でサブ基板を隙間のできないように並べて貼り付けたのち、波型形状に折り曲げるようにしてもよい。このとき、連結部30が、波型形状の振幅相当間隔dの中間部に配置されるようにすることが好ましい。これにより、図1に示した発光装置1を完成する。
【0035】
フレキシブルデバイスを波型形状に固定する際には、例えば、波型形状に折り曲げたフレキシブルデバイスを容器100の中に入れて、フレキシブルデバイスと容器100との隙間に硬化性樹脂を充填したのち、この硬化性樹脂を硬化させて樹脂層40を形成するようにする(図5)。なお、有機EL素子12は紫外光に弱いため、硬化性樹脂には、光硬化性よりも熱硬化性を有するものを用いることが好ましい。また、硬化性樹脂を容器100内でフレキシブルデバイスの片側のみに充填し、フレキシブルデバイスの表面あるいは裏面のどちらか一方にのみ樹脂層40を形成して固定するようにしてもよい。また、容器100は、樹脂層40を形成したのち、取り外すようにしてもよい。」

b 「【0049】
また、波型形状を固定する際に、樹脂層40によって装置の表裏を固めることにより、所望の波型形状を保持し易くなると共に、有機EL素子12を湿気等から保護することができる。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2009-31750号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項1】
基板上に少なくとも下部電極、少なくとも発光層を含む有機層、及び上部電極を順次有する有機EL素子を有する有機EL表示装置であって、前記上部電極上に少なくともゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層、ソース電極、及びドレイン電極を有し前記有機EL素子を駆動する薄膜電界効果型トランジスタを形成し、前記活性層が酸化物半導体を含有することを特徴とする有機EL表示装置。」

4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2002-280170号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項2】 保護フィルムを有するエレクトロルミネッセンス素子上に無機系塗料により形成された最外殻層を有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。」

5 引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(実願昭61-42195号(実開昭62-153794号)のマイクロフィルム)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「複合シール部材(13)は、EL素子(12)をそのリード(10)(11)を導出させてサンドイッチ式に挟んで気密封止する2枚のエポキシ樹脂等の樹脂製外皮フィルム(14)(15)と、この外皮フィルム(14)(15)の外面に被着形成された透明の酸化物ガラス膜(16)とで構成される。」(明細書第6頁第1行?第7行)

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「透明基板」は、その機能からみて、本願発明1の「第1の部材」に相当する。また、引用発明において、「透明電極のパターン」、「発光層」及び「背面電極」は、技術的にみて、発光素子を構成するといえる。
そうすると、引用発明の「透明基板表面に透明電極のパターンを形成し、さらに発光層及び背面電極を形成」することは、本願発明1の「第1の部材上に発光素子を形成する工程」に相当する。

イ 引用発明の「ポリイミド製の非透湿性部材」は、樹脂を有するといえる。
そうすると、引用発明の「上記発光層及び背面電極をポリイミド製の非透湿性部材により密封」することは、本願発明1の「樹脂を有し、前記発光素子を覆う領域を有する第2の部材を形成する工程」に相当する。

ウ 引用発明において、透明基板を所定形状に湾曲させれば、ポリイミド製の非透湿性部材も所定形状に湾曲されるといえる。また、本件出願明細書の【0041】及び【0237】の記載からみて、本願発明1でいう「屈曲した形状」には、「湾曲した形状」が含まれるといえる。
そうすると、引用発明の「上記透明基板を所定形状に湾曲させて曲面を形成すること」は、本願発明1の「前記第1の部材及び前記第2の部材を、屈曲した形状に加工する工程」に相当する。

エ 引用発明の「有機EL素子の製造方法」は、本願発明1の「発光装置の作製方法」に相当する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。

「第1の部材上に発光素子を形成する工程と、
樹脂を有し、前記発光素子を覆う領域を有する第2の部材を形成する工程と、
前記第1の部材及び前記第2の部材を、屈曲した形状に加工する工程と、
を有する発光装置の作製方法。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明1では、「前記屈曲した形状を有する前記第1の部材及び前記第2の部材を覆う領域を有する保護膜を形成する工程と、を有し、無機材料を用いて前記保護膜を形成する」のに対し、引用発明では、そのような特定がない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
発光装置の作製方法において、屈曲した形状に加工された後に、(発光素子が形成される)第1の部材及び(発光素子を覆う領域を有する)第2の部材を覆う領域を有する保護膜を無機材料を用いて形成することは、上記引用文献2-5に記載されていないし、また、公知技術や周知技術でもない。
また、本願発明1は、上記相違点に係る構成を有することにより、「発光パネルの形状加工による保護膜の破損などの形状不良を防ぐことができる」、「緻密な保護膜によって外部からの水分や他の不純物などを遮断し、発光装置の汚染を防ぐ」という効果(本件出願明細書段落【0020】参照。)を奏するものである。
そうすると、上記相違点に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

2 本願発明2-5について
本願発明2-5も、上記相違点に係る本願発明1の構成を具備するから、本願発明1と同じ理由により、当業者が、引用発明、引用文献2に記載された発明、及び引用文献3-5に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-28 
出願番号 特願2015-94504(P2015-94504)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩井 好子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
清水 康司
発明の名称 発光装置の作製方法  

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