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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L |
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管理番号 | 1340741 |
審判番号 | 不服2016-15242 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-10-11 |
確定日 | 2018-05-22 |
事件の表示 | 特願2014-547477「複数の材料から構成されたカテーテルのための表面修飾」拒絶査定不服審判事件〔平成25年6月20日国際公開、WO2013/090695、平成27年1月22日国内公表、特表2015-502221〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年12月14日(パリ条約による優先権主張 2011年12月14日(米国))を国際出願日とする特許出願であって、平成26年8月28日に手続補正書が提出され、平成27年8月3日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月1日付けで拒絶査定がなされたのに対して、同年10月11日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成28年10月11日提出の手続補正書による補正の却下の決定 <補正の却下の決定の結論> 平成28年10月11日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 <理由> 1 補正の内容 本件補正は特許請求の範囲を補正するものであって、請求項1について、本件補正前において 「カテーテル本体、接合ハブ、少なくとも1つの延長ラインおよび少なくとも1つのコネクターをその構成部分として備えるカテーテルであって、前記構成部分のそれぞれが、外側表面、全平均R_(rms)表面粗さを有する内腔内表面を有する少なくとも1つの内腔およびバルクポリマーを備え、第1の前記構成部分の内腔内または外側表面、および第2の前記構成部分の外側または内腔内表面が、少なくとも50nmの平均乾燥厚さを有する親水性ポリマー層をそれらの上に備え、内腔内表面および親水性ポリマー層が、組み合わさって、修飾された表面を構成し、修飾された表面が、内腔内表面の全平均R_(rms)表面粗さ未満である全平均R_(rms)表面粗さを有し、かつそれをヒト血漿由来の70μg/mLのフィブリノーゲンおよび1.4μg/mLのI-125放射能標識化フィブリノーゲンを含む組成物中で37℃で60分間インキュベートするフィブリノーゲン結合アッセイにおいて、125ng/cm^(2)未満のフィブリノーゲン吸着を有し、そして、前記第1および第2の構成部分が異なる化学組成を有するバルクポリマーを備えることを特徴とする、カテーテル。」とあったものを、 「カテーテル本体、接合ハブ、少なくとも1つの延長ラインおよび少なくとも1つのコネクターをその構成部分として備えるカテーテルであって、前記構成部分のそれぞれが、外側表面、全平均R_(rms)表面粗さを有する内腔内表面を有する少なくとも1つの内腔およびバルクポリマーを備え、第1の前記構成部分の内腔内および外側表面、および第2の前記構成部分の外側および内腔内表面が、親水性ポリマー層をそれらの上に備え、前記親水性ポリマー層が、0.1mm^(2)のレベルで共形であり、双性イオンポリマーを含み、かつ少なくとも50nmの平均乾燥厚さを有しており、前記第1および第2の構成部分が、異なる化学組成を有するバルクポリマーを備え、前記カテーテルが、長期使用に適しており、血液透析カテーテル、末梢挿入型中心静脈カテーテル、または中心静脈カテーテルであり、前記親水性ポリマー層と前記内腔内表面または前記外側表面とが、組み合わさって、修飾された表面を構成し、前記修飾された表面が、内腔内表面の全平均R_(rms)表面粗さ未満である全平均R_(rms)表面粗さを有し、かつそれをヒト血漿由来の70μg/mLのフィブリノーゲンおよび1.4μg/mLのI-125放射能標識化フィブリノーゲンを含む組成物中で37℃で60分間インキュベートするフィブリノーゲン結合アッセイにおいて、125ng/cm^(2)未満のフィブリノーゲン吸着を有することを特徴とする、カテーテル。」とする補正(以下、「補正事項」という。)を含むものである。 2 補正の目的 補正事項は、以下のa-dを含むものである。 a 「少なくとも50nmの平均乾燥厚さを有する」「親水性ポリマー層」を備える箇所が「第1の前記構成部分の内腔内または外側表面、および第2の前記構成部分の外側または内腔内表面」であったものを「第1の前記構成部分の内腔内および外側表面、および第2の前記構成部分の外側および内腔内表面」とする。 b 係る「親水性ポリマー層」を「0.1mm^(2)のレベルで共形であり、双性イオンポリマーを含(む)」ものとする。 c カテーテルを「長期使用に適しており、血液透析カテーテル、末梢挿入型中心静脈カテーテル、または中心静脈カテーテル」とする。 d 「内腔内表面および親水性ポリマー層が、組み合わさって、修飾された表面を構成」との規定を「親水性ポリマー層と前記内腔内表面または前記外側表面とが、組み合わさって、修飾された表面を構成」とする。 補正事項aは、「または」で接続された選択肢をともに含むように減縮するもの、補正事項bは、出願当初の請求項33、46、64及び75の規定に沿って減縮するもの、補正事項cは、明細書【0055】、【0118】、【0110】及び【0089】の記載に沿って減縮するものである。 補正事項a-cは、補正の前後で産業上の利用分野および解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 補正事項dは、補正事項aにより「親水性ポリマー層」を備える箇所として第1、第2の各構成成分において外側表面も必須となったことに伴うものであり、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、補正事項は新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 したがって、補正事項は特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たしている。 3 独立特許要件 補正事項の目的は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか否かを検討する。 (1)本件補正後の本願請求項に係る発明 本件補正後の本願請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。 「カテーテル本体、接合ハブ、少なくとも1つの延長ラインおよび少なくとも1つのコネクターをその構成部分として備えるカテーテルであって、前記構成部分のそれぞれが、外側表面、全平均R_(rms)表面粗さを有する内腔内表面を有する少なくとも1つの内腔およびバルクポリマーを備え、第1の前記構成部分の内腔内および外側表面、および第2の前記構成部分の外側および内腔内表面が、親水性ポリマー層をそれらの上に備え、前記親水性ポリマー層が、0.1mm^(2)のレベルで共形であり、双性イオンポリマーを含み、かつ少なくとも50nmの平均乾燥厚さを有しており、前記第1および第2の構成部分が、異なる化学組成を有するバルクポリマーを備え、前記カテーテルが、長期使用に適しており、血液透析カテーテル、末梢挿入型中心静脈カテーテル、または中心静脈カテーテルであり、前記親水性ポリマー層と前記内腔内表面または前記外側表面とが、組み合わさって、修飾された表面を構成し、前記修飾された表面が、内腔内表面の全平均R_(rms)表面粗さ未満である全平均R_(rms)表面粗さを有し、かつそれをヒト血漿由来の70μg/mLのフィブリノーゲンおよび1.4μg/mLのI-125放射能標識化フィブリノーゲンを含む組成物中で37℃で60分間インキュベートするフィブリノーゲン結合アッセイにおいて、125ng/cm^(2)未満のフィブリノーゲン吸着を有することを特徴とする、カテーテル。」 (2)引用刊行物の記載事項 本願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな刊行物A-Fには、次の事項が記載されている。なお、刊行物A及びDは英語で記載されているところ、下記は当合議体が作成した邦訳である。 刊行物A:国際公開第2010/065960号(原査定の引用文献1) 刊行物B:特表平9-506665号公報(原査定の引用文献4) 刊行物C:特表2005-514192号公報(原査定の引用文献5) 刊行物D:米国特許第5403291号明細書(原査定の引用文献6) 刊行物E:特開2009-247507号公報(原査定の引用文献7) 刊行物F:特表2009-508542号公報(原査定の引用文献8) ア 刊行物A (ア)「本発明は、固定された非ファウリングコーティングの分野、とりわけ、生物学的物質の接着に抵抗し、グラフト-フロム法によって基質表面へ付加されるコーティングに関するものである。」(1頁4-6行) (イ)「したがって、本発明の目的は様々な基質、例えばポリマー及び金属酸化物、のための非ファウリングポリマーコーティングを提供することであり、改良された分子構造によって血液タンパク質の存在下及び/又はin vivoにおけるそれらの活性が保持され、また、固定された剤とタンパク質抵抗性化学物質を協同作用させて非特異的タンパク質吸着に対する抵抗を可能にする。 本発明のさらなる目的は高密度の非ファウリングポリマー物質を含有する非ファウリング組成物を提供することであり、及び/又は、ここで、非ファウリングポリマー物質のポリマー鎖間距離は非ファウリングコーティング中へのファウリング分子の侵入を減少させる。 本発明のさらなる実施態様は、バイオマテリアルで形成されたコーティング表面のグラフト-フロム法を提供し、ここで、該グラフトは該バイオマテリアル内から開始されて、高密度で安定な非ファウリングポリマーを供する。」(2頁22行-3頁2行) (ウ)「本明細書に記載の組成物は、…例えばタンパク質を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のような溶液、培地、血清又はin vivoからのタンパク質の吸着に対して、未コーティングの対照と比較して、…耐久性を有する。 本明細書に記載の組成物は長期間にわたって安定であり、タンパク質を含むPBS、培地、血清又はin vivoにおいて、それらの非ファウリング性、抗血栓性、及び/又は抗菌性特性…を、長期間…保持する。」(4頁1-11行) (エ)「II.組成物 A.基質 該非ファウリング物質は、様々な異なる基質又は基質上に固定された下塗り層でグラフト-フロムされうる。適切な物質の例としては、限定はされないが、…ポリマー、…が挙げられる。一実施態様において、該基質は金又はガラス以外の物質である。 … 適切なポリマー物質としては、限定はされないが、ポリスチレン及び置換ポリスチレン、例えばポリエチレンやポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリ(ウレタン)、ポリアクリレート及びポリメタクリレート、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミド、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリエーテル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリフルオロカーボン、PEEK、テフロン、シリコーン、エポキシ樹脂、KEVLAR(登録商標)、NOMEX(登録商標)、DACRON(登録商標)、ナイロン、ポリアルケン、フェノール樹脂、PTFE、天然及び合成エラストマー、接着剤及び密封剤、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、例えば多糖類や天然ラテックス共重合体のようなバイオポリマー、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。一実施態様において、該基質は、できればFDA又は他の適切な規制当局により既にin vivoでの使用について認可された適切な押出助剤及び可塑剤と混合された、医療グレードのポリウレタン又はCARBOTHANE(登録商標)(Lubrizol Corporationから市販されている脂肪族ポリカーボネート-ベースのポリウレタン)である。 … 基質は、…カテーテル(中心静脈、末梢-中心、ミッドライン、末梢、トンネル型、透析アクセス、尿路、神経、腹膜、大動脈内バルーンパンピング、血管形成術用バルーン、診断用、インターベンション用、ドラッグデリバリーなどを含む)、カテーテルコネクタ及びバルブ(無針コネクタを含む)、…のあらゆる部分の形態でありうるかもしくはその一部を形成しうる。 一実施態様において、該基質は、血管内挿入カテーテル、例えば、末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)、中心静脈カテーテル(CVC)、又は血液透析カテーテル、…である。別の実施態様において、該基質は、医療グレードのポリウレタン又はCARBOTHANE(登録商標)から形成されるか、あるいは医療グレードのポリウレタン又はCARBOTHANE(登録商標)でコーティングされた物質から形成された血管内挿入カテーテルである。」(14頁23行-17頁2行) (オ)「B.非ファウリング物質 非特異的タンパク質の吸着に対して抵抗性を有する表面は、例えば医療デバイスやインプラントのような医用材料の開発において重要である。そのようなコーティングは、インプラントと生理液の間の相互作用を制限する。流体が高濃度の生体タンパク質を含む環境、例えば血液接触アプリケーションにおいて、タンパク質吸着の防止により、該デバイス表面のファウリング及び/又は血栓形成が防止されうる。 1.双性イオン物質 双性イオンは、同じ分子内の非隣接原子上に形式正電荷及び形式負電荷を持つ分子である。双性イオン官能基を有する、天然及び合成ポリマーの両方とも、タンパク質接着に抵抗性を示す。一実施態様において、該双性イオンモノマーは、ホスホリルコリン部分、スルホンベタイン部分、カルボキシベタイン部分、それらの誘導体もしくはそれらの組み合わせを含む。… スルホベタインは、動物で見られる最も豊富で低分子量の有機化合物のうちの1つである、2-アミノエタンスルホン酸によく似ている。スルホベタインモノマーは通常、ホスホリルコリンよりも取り扱いが容易であり、得られたポリマーは通常、対応するホスホリルコリンアナログよりも合成が容易である。 ポリカルボキシベタインはまた、天然の双性イオンであるグリシンベタインのポリマーアナログである。ポリホスホリルコリン及びポリスルホベタインと同様、ポリカルボキシべタインは、バイオファウリングに対する並はずれた抵抗性を有する、別の類の双性イオンの生物模倣型ポリマーである。これらのポリマーは、カルボキシべタインに特有の抗血栓形成特性および抗凝固特性のおかげで、血液接触アプリケーションに特によく適している。これらの特性に加えて、得られるポリマーが生物活性分子の固定化に対する反応性官能基を有するように、カルボキシベタインモノマーを設計することが可能である。該表面上にカルボキシべタインブラシを作り出すことによって、タンパク質もしくは血小板の接着に抵抗性を有すること、および活性な抗凝固性基を有するという二重の機能が、いずれかのストラテジーを単独で用いるよりもさらに、表面上の血栓形成を減少させうる。 ポリスルホ-及びポリカルボキシべタインは、生物模倣であって、さらにバクテリア接着、バイオフィルム形成、および血清と血漿からの非特異的タンパク質の吸着に高い抵抗性を持つだけでなく、それらは無毒で、生体適合性でもあり、通常、複合培地もしくはin vivoにおいて、分解されうるポリホスホリルコリン及びポリ(エチレングリコール)の両者に比べて高い安定性も示す。これらの物質及びコーティングの適用により、例えば抗菌ペプチドのような生物学的活性物質の使用をさらに拡大することができる。」(18頁25行-20頁4行) (カ)「4.非ファウリング物質の密度 非ファウリング鎖の密度を増大させることによって、非ファウリング能が向上されうる。より高い濃度の開始剤を有することによって、鎖間距離が減少され、それにより能力が向上されうる。基質に、開始剤を吸収させるか、又は高密度の開始剤としての機能を果たすかあるいは高密度の開始剤を組み込む下塗りを持たせることにより、これを達成してもよい。より長いポリマー鎖及び/又は分枝状非ファウリング鎖は、能力をさらに向上させうる。 一実施態様において、該表面は表面上に高密度のポリマー鎖を有する。…、該ポリマー鎖間距離は、例えば、<5nm、<10nm、<50nm、又は<100nmといった、ファウリング物質のコーティング物質への侵入を減少させるものである。」(26頁18-32行) (キ)「2.ラジカルプロセス 一実施態様において、該非ファウリングポリマー物質は、ラジカル重合プロセスを用いて基質からグラフト-フロムされる。… 開始剤を必要とするそのようなグラフト-フロム法において、様々な方法を用いて該開始剤を基質表面に導入することができる。一実施態様において、溶媒又は溶媒混合物中に溶解されている開始剤は、生理学的吸着により基質の表面中及び/又は基質の表面上に導入される。該基質は、開始剤を含む溶媒又は溶媒混合物中に、所定の時間浸される。該基質及び/又は下塗り層は、最終的に、基質表面上又は付近に基質バルク中に開始剤を吸収して膨張し得る。基質に導入される開始剤の量は、溶媒溶液中の開始剤の濃度を変化させることによって、及び/又は基質が開始剤溶液中に浸され得る時間を変化させることによって、制御することができる。」(35頁1行-36頁4行) (ク)「実施例3:ジクミルペルオキシド-グルコン酸Fe(II)レドックス重合を用いた、双性イオンポリマーのポリウレタン上へのグラフト ジクミルペルオキシド浸漬 10フレンチのポリウレタンロッドを、アセトン又はメタノール中のジクミルペルオキシドの10%溶液中に2時間浸し、気流中乾燥させ、空気中で18時間維持する。 レドックス重合 10.5%のSBMA水溶液及びジクミルペルオキシド処理ポリウレタンロッドを、磁気撹拌しながら、フラスコに入れ、アルゴンで10分間パージした後、100mMのグルコン酸Fe(II)溶液を加える。SBMAとグルコン酸Fe(II)の最終溶液は、各々、10%(wt/wt)及び5mMである。さらに20分、アルゴンでパージし続ける。次いで、該反応を60℃で5時間進行させる。その後、該試料を取り出し、1xPBSで終夜洗浄する。ELISAによると、処理された試料は90%ものフィブリノーゲン吸着の減少を示す。 管腔を有する基質の非ファウリング活性を評価するために、14フレンチのポリウレタンダブルルーメンチューブを実施例3に従ってコーティングした。上記のアッセイを用いると、処理された試料は90%ものフィブリノーゲン吸着の減少を示す。 実施例4.レドックス及びUV SBMA-コーティングポリウレタンロッドのタンパク質吸着及びバイオフィルム形成 24時間コロニー形成アッセイ 実施例3で製造したレドックスSBMA、実施例1で製造したUV SBMA、および対照のCarbothaneロッドを、50%ウシ胎仔血清とともに18時間インキュベートした。次いで、試料を、黄色ブドウ球菌ATCC 25923とともに、1%TSB中に1-3x105CFU/mLの出発プランクトン濃度で、37℃にて撹拌しながら、24時間インキュベートした。24時間後、物質上に蓄積したバイオフィルムを超音波処理により除去し、バクテリア細胞の総数を希釈平板によって定量化した。さらに、アッセイの終わりにおけるプランクトン濃度をモニタリングして、アッセイアーチファクトを生み出しうる毒性浸出性化合物が確実に存在しないようにした。該プレートを37℃にて24時間インキュベートした後、コロニーをカウントし、各試料上に存在する生存細胞の数を決定した。各実験は、各物質の4つの試料を用いて、3回重複で実施した。 対照と比較して、コロニー形成において、レドックスSBMA試料は平均1.96log(SD 0.57log,p<0.001)減少を示し(n=44)、UV SBMAは平均2.34log(SD 0.22log,p<0.001)減少を示した(n=24)。」(48頁1行-49頁6行) (ケ)「1.基質を含有し、該基質上に固定された下塗り層を適宜含有してもよい組成物であって、該基質又は下塗り層に非ファウリングポリマー物質を共有結合させ、ここで、該ポリマー物質は該基質又は該下塗り層内でグラフト-フロムされる、組成物。 2.基質を含有し、該基質上に固定された下塗り層を適宜含有してもよい組成物であって、該基質又は下塗り層に非ファウリングポリマー物質を共有結合させ、ここで、該非ファウリングポリマー物質の濃度は約0.50μg/cm^(2)-約5mg/cm^(2)であるか、又はポリマー鎖間距離は非ファウリングポリマー物質中へのファウリング分子の侵入を減少させる、組成物。 3.該基質が、…ポリマー、…からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。 … 6.該ポリマーが、ポリスチレン及び置換ポリスチレン、ポリ(ウレタン)、ポリアクリレート及びポリメタクリレート、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミド、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリエーテル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリフルオロカーボン、PEEK、テフロン、シリコン、エポキシ樹脂、ポリアミド及びそのコポリマー、ナイロン、ポリアルケン、フェノール樹脂、PTFE、天然及び合成エラストマー、接着剤及び密封剤、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、多糖、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。 7.該ポリマーがポリウレタン又はポリカーボネート-ベースのポリウレタンである、請求項6に記載の組成物。 … 11.該基質がペルオキシドで処理された基質である、請求項1-10のいずれか1つに記載の組成物。 … 13.該非ファウリングポリマー物質が双性イオンポリマーである、請求項1-12のいずれか1つに記載の組成物。 … 17.該双性イオンポリマーが、スルホンベタインメタクリレート(SBMA)又はスルホンベタインアクリルアミドのホモポリマーである、請求項15に記載の組成物。 18.該双性イオンポリマーが、スルホンベタインメタクリレート(SBMA)又はスルホンベタインアクリルアミドを含有するコポリマーである、請求項15に記載の組成物。 … 26.該ポリマー物質がレドックス開始フリーラジカル重合により形成される、請求項1-24のいずれか1つに記載の組成物。 27.該非ファウリング物質が基質及び/又は下塗り層中に存在するラジカルにより重合される、請求項26に記載の組成物。 28.該ラジカルがペルオキシド及び金属塩を含有するレドックス対から形成される、請求項26に記載の組成物。 29.該ペルオキシドが基質中に吸収されている、請求項28に記載の組成物。 30.該ペルオキシドがジクミルペルオキシドであって、該金属塩がグルコン酸Fe(II)である、請求項28に記載の組成物。 31.該非ファウリングポリマー物質が、該基質の末端に結合し、ブラシ構造を形成する、請求項1-30のいずれか1つに記載の組成物。 … 36.該組成物が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地、血清、又はin vivo中において37℃で、少なくとも1、7、14、30、90、365、又は1000日間保存された後、未コーティングの基質と比べて、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%以上、ファウリングを減少させる、請求項1-35のいずれか1つに記載の組成物。 … 39.該組成物が抗菌性である、請求項1-38のいずれか1つに記載の組成物。 40.該組成物が抗血栓性である、請求項1-39のいずれか1つに記載の組成物。 41.該組成物が、PBS、培地、血清、又はin vivoにおいて、1、7、14、30、90、365、又は1000日間、表面接触角、非ファウリング、抗血栓性、及び/又は抗菌活性のような元来の物性の、少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%を保持する、請求項1-40のいずれか1つに記載の組成物。 42.該組成物が医療デバイスの形態である、請求項1-41のいずれか1つに記載の組成物。 43.該医療デバイスが、…カテーテル、カテーテルコネクタ及びバルブ、…からなる群から選択される、請求項42に記載の組成物。 44.該デバイスが、管腔、空洞、多孔質構造、又はそれらの組み合わせを含む、請求項43に記載の組成物。 45.該デバイスが、末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC)、中心静脈カテーテル(CVC)、及び血液透析カテーテルからなる群から選択される血管内挿入カテーテルである、請求項44に記載の組成物。 … 47.該基質、下塗り層又はその両方の中で、及び/又は該基質、下塗り層又はその両方の表面で、非ファウリングポリマー物質をグラフト-フロムすることを含む、請求項1-46のいずれか1つに記載の組成物の製造方法。 48.該非ファウリングポリマー物質が、基質、下塗り層、又はその両方の中で、及び/又は基質、下塗り層、又はその両方の表面で、1つ以上のフリーラジカル開始剤を用いてグラフト-フロムされる、請求項47に記載の方法。 … 50.該1つ以上の開始剤がレドックス開始剤対である、請求項48に記載の方法。 51.該1つ以上のフリーラジカル開始剤が、該基質、該下塗り層、又はそれらの組み合わせ中に吸収される、請求項49又は50に記載の方法。 52.該レドックス開始剤が、疎水性-親水性レドックス開始剤対を含有する、請求項50又は51に記載の方法。 53.該レドックス開始剤システムがペルオキシド及び金属塩を含有する、請求項52に記載の方法。 54.該ペルオキシドがジクミルペルオキシドであって、該金属塩がグルコン酸Fe(II)である、請求項53に記載の方法。」(請求の範囲) イ 刊行物B (ア)「1.人間または人間以外の動物の生きた組織と接触するプラスチック製品の表面上に…化学的にグラフトさせて上記表面上に親水性のグラフトポリマー被膜を形成させるプラスチック表面を改質するための組成物および方法であって、 γ線または電子ビーム照射によるグラフト重合を水溶液中で下記条件下で行うことを特徴とする方法: … 2.下記(d)?(g)の1つまたは複数の条件をさらに含む請求項1に記載の方法: … (e) ポリマー被覆の厚さを約100Å?100μmに維持する、 … 8.プラスチック製品が医療用器具である請求項1に記載の方法。」(特許請求の範囲) (イ)「本発明方法では医療用器具、例えば…、静脈または静脈カテーテル…、血管や心臓用デバイス(チューブ、カテーテル、バルーン)…、尿管/泌尿器装置(フォーリーカテーテル、ステント、チューブおよびバルーン)、気管カテーテル(気管および気管切開用のチューブおよびカフス)…を処理することができる。 … これらの機器、装置、インプラント等を改質すると、これらの表面が改良されて血液との親和性が増し、手術中またはハンドリング時の組織の付着や損傷を減らすことができる。さらに、本発明方法により細胞の吸着が減少するため炎症が減り、軟質組織インプラントの場合の繊維質カプセルの形成が抑制され、心臓・血管装置や人工器官の場合の凝血を防ぐことができる。本発明方法はさらに、細菌の吸着が減るため感染の危険性が減り、関節継手や腱等の人工装具での表対面擦傷と摩擦を減少させる。 … ポリウレタンはペーサのリード、静脈カテーテル、腸供給チューブ、血管グラフトなどで用いられる。このポリウレタンも本発明方法で有効に改質されて親水性表面となり、生休適合性が向上する。」(15頁10行-16頁18行) (ウ)「上記の各プロセス条件およびパラメータは、本発明で表面改質された眼球部品用ポリマーを得るのに特に好ましい特定の組み合わせを実現するために下記範囲内で変えることができる: … (f) グラフトの厚さ: 厚さが100?200Å未満のグラフト表面も非付着性かつ親水性であるので有用ではあるが、このグラフト表面はそれより厚い被覆と比較すると、組織との接触による外傷を減らす点では機械的な「柔らかさ」すなわちゲルの程度が不足する可能性がある。平滑、均質かつ光学面が光学的に透明で、迅速に水和する限り、大抵の用途で約300?500Å(0.03?0.05μm)以上で50μm程度までの厚さのグラフト被覆が好ましい。 膨潤溶媒を使用せず、しかも照射前に基材をモノマーに長く接触させないで、好ましいプロセス条件で作った場合の所望の特性を示すグラフト表面の厚さは約0.1?5μmである。しかし、酢酸エチルなどの膨潤剤をPMMAと供に用いた場合にはグラフトしたポリマーを100μm以上の厚さにするのが好ましい。 用途によっては厚い20?100μmの「スポンジ状」の被膜が好ましい場合もある。」(16頁26行-19頁10行) ウ 刊行物C (ア)「【請求項1】 支持体表面上にポリマーコーティングを形成する方法であって、 a)支持体表面を供給する工程; b)少なくとも1種の光開始剤基を含む非ポリマー性グラフト試薬を供給する工程; c)該グラフト試薬の存在下で、該表面と接触されるように、及び該光開始剤の活性化で重合されるように適合した少なくとも1種の重合可能なモノマー溶液を供給する工程;及び d)該表面を該グラフト試薬でコートするため、及び該グラフト試薬の活性化で該モノマーの重合を該表面に生じさせるために適した方法および条件で、該グラフト試薬及びモノマー溶液を該表面に適用する工程 を含む方法。 … 【請求項32】 請求項1に記載の方法によって形成されたポリマーコーティングを有する表面を含む装置。 【請求項33】 該装置が、…カテーテル類;…急性及び慢性の血液透析用カテーテル類、冷却/加熱用カテーテル類および経皮経管冠動脈流張衡(PTCA)用カテーテル類からなる群から選ばれるカテーテル類;…から選ばれるメディカル装置を含む、請求項32に記載の装置。 … 【請求項37】 該ポリマーコーティングが約100nm未満の厚さである、請求項32に記載の装置。 【請求項38】 該コートされた表面が、ポリオレフィン類、ポリスチレン類、ポリ(アルキル)メタクリレート類およびポリ(アルキル)アクリレート類、ポリアクリロ二トリル類、ポリ(ビニルアセテート)類、ポリ(ビニルアルコール)類、ポリビニルクロリドのような塩素含有ポリマー類、ポリオキシメチレン類、ポリカーボネート類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、フェノール樹脂類、アミノ-エポキシ樹脂類、ポリエステル類、シリコーン類、ポリエチレンテレフタレート類(PET)、ポリグリコール酸類、ポリ-(p-フェニレンテレフタルアミド)類、ポリフォスファゼン類、ポリプロピレン類、パリレン類、シラン類、及びシリコーンエラストマー類、加えてそれらのコポリマー類及び組合せからなる群から選ばれる材料によって供給される、請求項33に記載の装置。 … 【請求項40】 該ポリマーコーティングが、 …重合可能なモノマー類の重合によって形成される、請求項38に記載の装置。 【請求項41】 該ポリマーコーティングが、達成されるポリマーの結合によって形成される比較すべきポリマーコーティングに比較して、透過性、抗血栓性、減摩性、血液適合性、湿潤性/親水性、該表面への結合の耐久性、生体適合性、及びバクテリア付着抑制から選ばれる特性類の改良された組み合わせを供給する、請求項40に記載の装置。」 (イ)「【0126】 実施例11 化合物II/アクリルアミド-AMPSでグラフトコートされたPEBAX棒と光架橋可能な光ポリマーでグラフトコートされたPEBAX棒のコーティング厚みの変化の比較 PEBAX棒(Medical Profiles, Inc.)が、実施例6で記載されたように化合物IIとアクリルアミド/AMPSでグラフトコートされ、または、光ポリビニルピロリドン(SurModics Product PV05)、ポリビニルピロリドン(Kollidon 90F, BASF)、光ポリアクリルアミド(SurModics Product PA05)、及びエチレンビス(4-ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)ジブロミド(SurModics Product PR03)からなる「PhotoLink」カクテルでコートされた。コートされなかった基材のサンプルと共に、コートされたサンプルは、走査型電子顕微鏡(SEM)と原子間力顕微鏡(AFM)で試験された。 … 【0130】 未コートPEBAX棒は、最も高いピークと最も低いくぼみの間の差が約200nmである粗さを有する。グラフトコーティングでコートすると、小さい粗さが見えなくなり、大きな粗さのならされた形だけが残る。言い換えれば、グラフトコーティングでのコートで、表面の凹凸模様がより滑らかになり「砂丘地」(sand dune)型の凹凸模様のように見える。その結果は、コーティング厚みが10nmより厚いが、200nmのくぼみの測定に対するピークよりも目立って薄いことを示唆している。かくして、AFMの結果は電子顕微鏡の結果(100nmより薄いコーティング厚み)を立証している。PhotoLinkコーティングでのコートでは、PhotoLinkコーティングが基材の最も粗い部分(200nm)よりも厚く、PEBAX表面の粗さを覆い尽すので、PEBAX基材で現れた粗さの全てが見えなくなった。 【0131】 グラフトコートされた表面が減摩性と血液適合性の両方を呈するので、そのコーティングが非常に薄く100nm以下の厚さを示すと考えられ得る。」 エ 刊行物D (ア)「図に示されるように、本発明の全体的なカテーテル組立体10の望ましい形式は一般に、…米国特許4,583,968に見られる二腔血液透析カテーテルに類似している。カテーテル組立体10は一般にその末端に先端部材14を、そしてその近位端にY字形接合ハブ16を持つ、細長くやや楕円形の本体部分12を含む。図1に示されるように、Yコネクターの近位端は、延長部材18と20を含む。」(4欄33-43行) オ 刊行物E (ア)「【請求項1】 樹脂層と編組層を備える外カテーテルと、 前記外カテーテル内に挿入された内カテーテルを備えるカテーテル組立体であって、 前記内カテーテルが前記外カテーテルよりも硬いことを特徴とする医療用カテーテル組立体。 … 【請求項4】 前記外カテーテルが、内層と、内層を被覆する外層と、該内層と外層との間に編組層を備えていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の医療用カテーテル組立体。 【請求項5】 前記外カテーテルの外層の材料がポリアミドエラストマーであることを特徴とする請求項4に記載の医療用カテーテル組立体。 【請求項6】 前記内カテーテルの材料がポリアミドであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の医療用カテーテル組立体。」 (イ)「【実施例】 【0048】 (実施例1) 実施例1として、上記2-1.製造方法に例示した方法で外カテーテルを、また押し出し成形により内カテーテルを、特に以下の組成、寸法で作成した。また、この外カテーテルと内カテーテルの先端に係合関係を持たせた。 外カテーテル 内層:PFA(肉厚0.02mm) 外層:ポリアミドエラストマー(Pebax5533) 編組:ステンレス鋼細線 0.1×0.02mm 外径:2.07mm 内径:1.50mm 内カテーテル 材料:ポリアミド(Ny12) 外径:1.48mm 内径:0.90mm 後述する方法で曲げ弾性率を評価したところ、内カテーテルは3024MPaであった。 【0049】 尚、実際に実施しなかったが、実施例1とは外カテーテルと内カテーテルの硬さが逆転した医療用カテーテル組立体を作成した場合、キンク耐性が発現しない。」 カ 刊行物F (ア)「【請求項1】 スルホベタインまたはカルボキシベタイン材料の単分子層を含む表面を有する基材であって、前記表面が約1nm^(2)より大きな欠陥を有さず、約30ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する、前記基材。 【請求項2】 前記表面が約10ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する、請求項1に記載の基材。 【請求項3】 前記表面が約5ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する、請求項1に記載の基材。 【請求項4】 前記表面が約0.3ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する、請求項1に記載の基材。 【請求項5】 前記スルホベタイン材料がポリ(スルホベタイン)である、請求項1に記載の基材。 【請求項6】 前記スルホベタイン材料が、スルホベタインアクリレート、スルホベタインアクリルアミド、スルホベタインビニル化合物、スルホベタインエポキシド、およびそれらの混合物から成る群より選択される1またはそれ以上のモノマーから調製される、請求項1に記載の基材。 【請求項7】 前記モノマーがスルホベタインメタクリレートである、請求項6に記載の基材。 【請求項8】 前記カルボキシベタイン材料がポリ(カルボキシベタイン)である、請求項1に記載の基材。 【請求項9】 前記カルボキシベタイン材料が、カルボキシベタインアクリレート、カルボキシベタインアクリルアミド、カルボキシベタインビニル化合物、カルボキシベタインエポキシド、およびそれらの混合物から成る群より選択される1またはそれ以上のモノマーから調製される、請求項1に記載の基材。 【請求項10】 前記モノマーがカルボキシベタインメタクリレートである、請求項9に記載の基材。 … 【請求項32】 前記表面が、スルホベタインまたはカルボキシベタイン材料の単分子層を含み、約1nm^(2)より大きな欠陥を有さず、約30ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する、低汚損表面を有する移植可能な医療装置。」 (イ)「【0023】 発明の詳細な説明 本発明は、低汚損表面、低汚損表面を作製する上で有用な材料、低汚損表面を作製するための方法、および低汚損表面を使用するための方法を提供する。低汚損表面はスルホベタインおよびカルボキシベタイン材料を含む。 【0024】 本発明は、超低汚損表面を提供する。ここで使用する、「低汚損表面」および「超低汚損表面」という用語は、タンパク質吸着に耐性である表面を指す。タンパク質吸着に耐性である超低汚損表面はまた、細胞付着、細菌および他の微生物の付着、およびバイオフィルム形成に対しても耐性である。 【0025】 本発明の超低汚損表面は、表面を超低汚損にする1またはそれ以上の物質で処理された表面である。超低汚損表面を与えるために表面を処理するのに有用な適切な物質は、両性イオン物質を含む。両性イオン物質は、典型的には等量の正電荷と負電荷を含む電気的に中性の物質である。本発明の超低汚損表面を作製する上で有用な代表的両性イオン物質は、スルホベタイン材料(硫酸の負電荷とアンモニウムの正電荷)およびカルボキシベタイン材料(カルボキシの負電荷とアンモニウムの正電荷)を含む。 【0026】 1つの態様では、本発明は、スルホベタインまたはカルボキシベタイン材料で被覆された表面を有する基材を提供する。基材は、その上にスルホベタインまたはカルボキシベタイン材料の単分子層を備えた表面を有する。表面は、スルホベタインまたはカルボキシベタイン材料の少なくとも1つの完全な単分子層で被覆される。単分子層は自己組織化単分子層であり得る。 【0027】 本発明の表面の利点は、スルホベタインまたはカルボキシベタイン材料の十分に制御された密度から生じる。表面被覆材料の十分に制御された密度は本発明の表面の特徴である。被覆材料の十分に制御された密度は表面に低汚損特性を与える。ここで使用する、「十分に制御された密度」という用語は、被覆材料の少なくとも1つの完全な単分子層で被覆され、実質的に欠陥がない(すなわち単一欠陥が約1nm^(2)を超えない)表面を表わす。ここで使用する、「欠陥」という用語は、非汚損被覆材料(たとえば非汚損基)で覆われていない表面上の領域と定義される。一般に、表面上に物質の層が存在するとき、欠陥の大きさはタンパク質吸着に対する表面の耐性に関連する:欠陥のサイズが小さいほどタンパク質耐性が大きい。十分に制御された密度を有する本発明の代表的超低汚損表面は、単一欠陥が約1nm^(2)を超えない(すなわち各々の単一欠陥が約1nm^(2)未満である)、欠陥を含む。 【0028】 本発明の超低汚損表面は、スルホベタインまたはカルボキシベタイン被覆材料の十分に制御された密度を有する。本発明の表面はタンパク質吸着に対して耐性である。本発明のタンパク質吸着耐性の超低汚損表面の1つの尺度は、単位面積当たりの表面に吸着するフィブリノゲンの量である。本発明の表面は、約30ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する。1つの実施形態では、表面は約10ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する。1つの実施形態では、表面は約5ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する。1つの実施形態では、表面は約0.3ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する。」 (ウ)「【0103】 ここで述べる超低汚損表面および材料は、船殻コーティングなどの海洋用途、コンタクトレンズ、歯科インプラント、薬剤送達、移植材料およびインビボセンサーのためのコーティングなどの生物医学分野において使用し得る。従って、もう1つの態様では、本発明は、スルホベタインまたはカルボキシベタイン材料の単分子層を含み、約1nm^(2)より大きな欠陥を有さず、約30ng/cm^(2)未満のフィブリノゲン吸着を有する1またはそれ以上の表面を備えた、以下を含む装置および材料を提供する: … 本発明の超低汚損表面材料によって改変されたまたは本発明の方法によって作製された表面を有する、耳ドレナージ管、栄養管、緑内障ドレナージ管、水頭症シャント、人工角膜、神経誘導管、尿路カテーテル、組織接着剤、創傷包帯およびx線導管などの医療装置。」 (3)刊行物Aに記載された発明 刊行物Aには、基質としてポリマーを用いる「末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)、中心静脈カテーテル(CVC)、又は血液透析カテーテル」(上記(2)ア(エ)、(ケ))において、係る基質の表面に対してスルホベタインモノマーやカルボキシベタインモノマーのような双性イオンモノマーを用いてグラフト-フロム反応を行うことで、双性イオンポリマーを基質表面に共有結合させ(上記(2)ア(オ)、(ク)、(ケ))、基質の非ファウリング性、抗菌性、抗血栓性の向上を図ること(上記(2)ア(ア)-(ウ)、(ク)、(ケ))が記載されている。 また、「カテーテル」であるから、複数の構成部分を備えており、それぞれが外側表面と内腔内表面とを有する。 そうすると、刊行物Aには、以下の刊行物発明が記載されているものと認められる。 「複数の構成部分を備えるカテーテルであって、外側表面及び内腔内表面を有する基質を構成するポリマーの表面が双性イオンポリマー層をそれらの上に備え、前記カテーテルが、血液透析カテーテル、末梢挿入型中心静脈カテーテル、または中心静脈カテーテルであり、表面および双性イオンポリマー層が、組み合わさって、修飾された表面を構成する、カテーテル。」 (4)対比 補正発明と刊行物発明とを対比する。 グラフト-フロム反応を行うことで、双性イオンポリマーを表面に共有結合させる基質ポリマーは、バルクポリマーといえ、(上記(2)ア(キ))、実施例3(上記(2)ア(ク))で使用されるようなSBMA由来の双性イオンポリマーは親水性ポリマーである。 また、刊行物発明は長期間安定であり、非ファウリング性、抗血栓性、及び/又は抗菌性特性を長期間保持するものであり(上記(2)ア(ウ)、(ケ))、この非ファウリング性は、実施例3及び4(上記(2)ア(ク))からみて、フィブリノーゲン吸着を減少させるものと認められる。 これらの点を踏まえると、補正発明と刊行物発明とは、 「複数の構成部分を備えるカテーテルであって、外側表面及び内腔内表面を有する基質を構成するバルクポリマーの表面が親水性ポリマー層をそれらの上に備え、前記カテーテルが、長期使用に適しており、血液透析カテーテル、末梢挿入型中心静脈カテーテル、または中心静脈カテーテルであり、表面および親水性ポリマー層が、組み合わさって、修飾された表面を構成し、フィブリノーゲン吸着を減少させる、カテーテル。」 の点で一致し、次の点で相違するものといえる。 <相違点> a カテーテルにおいて、補正発明は、「カテーテル本体、接合ハブ、少なくとも1つの延長ラインおよび少なくとも1つのコネクターをその構成部分として備える」ものとしているのに対し、刊行物発明は、複数の構成部分について明示的な記載はない点。 b カテーテルの構成部分において、補正発明は、構成成分それぞれにおける「全平均R_(rms)表面粗さを有する内腔内表面」が、「内腔内表面の全平均R_(rms)表面粗さ未満である全平均R_(rms)表面粗さを有」するように修飾されたものであるのに対し、刊行物発明は、表面粗さについて明示的な記載はない点。 c カテーテルにおいて、補正発明は、「第1および第2の構成部分が、異なる化学組成を有するバルクポリマーを備え」ており、そして、各構成成分における親水性ポリマー層を備える表面は、補正発明では、「第1の前記構成部分の内腔内および外側表面、および第2の前記構成部分の外側および内腔内表面」としているのに対し、刊行物発明では、複数の構成部分の化学組成の相違について明示的な記載はなく、また、親水性ポリマー層で修飾される箇所は、単に基質の「表面」としている点。 d 親水性ポリマー層において、補正発明は、「0.1mm^(2)のレベルで共形であり」、「少なくとも50nmの平均乾燥厚さを有しており」としているのに対し、刊行物発明は、共形レベルや平均乾燥厚さについて明示的な記載はない点。 e 表面および親水性ポリマー層が組み合わさって修飾された表面の構成において、補正発明は、「親水性ポリマー層と前記内腔内表面または前記外側表面」とが組み合わさったものであるのに対し、刊行物発明は、単に親水性ポリマー層と「表面」とが組み合わさったものである点。 f 修飾された表面の物性において、補正発明は、「ヒト血漿由来の70μg/mLのフィブリノーゲンおよび1.4μg/mLのI-125放射能標識化フィブリノーゲンを含む組成物中で37℃で60分間インキュベートするフィブリノーゲン結合アッセイにおいて、125ng/cm^(2)未満のフィブリノーゲン吸着を有する」ものであるのに対し、刊行物発明は、フィブリノーゲン吸着についてはこれを減少させるものの、具体的にどの程度であるか明示的な記載はない点。 (5)判断 相違点について検討する。 ア 相違点aについて 刊行物Aには、表面に親水性ポリマー層を備えるバルクポリマーから構成される「基質」に関し、「基質は、…カテーテル(中心静脈、末梢-中心、ミッドライン、末梢、トンネル型、透析アクセス、尿路、神経、腹膜、大動脈内バルーンパンピング、血管形成術用バルーン、診断用、インターベンション用、ドラッグデリバリーなどを含む)、カテーテルコネクタ及びバルブ(無針コネクタを含む)、…のあらゆる部分の形態でありうるかもしくはその一部を形成しうる。」と記載されている(上記(2)ア(エ))。 そして、刊行物Dに記載されるとおり、カテーテルを、本体部分(補正発明の「カテーテル本体」に相当。)、接合ハブ、延長部材(同「延長ライン」に相当。)、コネクターをその構成成分として備えること(上記(2)エ(ア))は、本願優先日前において公知である。 してみると、刊行物発明に係るカテーテルは、「カテーテル本体、接合ハブ、少なくとも1つの延長ラインおよび少なくとも1つのコネクターをその構成部分として備える」ものとなしうるものであり、そうすることは当業者が容易に想到しうることと認められる。 イ 相違点e及びcについて 刊行物Aには、ポリウレタンロッドにジクミルペルオキシドを含浸処理したものに、SBMA(スルホベタインメタクリレート)を水溶液中で重合させることや、ポリウレタンダブルルーメンチューブについても同様に重合させることが記載されている(上記(2)ア(ク))。SBMAは親水性ポリマー層を構成するものであり、ダブルルーメンチューブは内腔内表面と外側表面を有するものであることに鑑みると、刊行物発明は、「親水性ポリマー層と前記内腔内表面または前記外側表面」とが組み合わさったものといえる。 また、刊行物Aには、基質に用いられるポリマー物質として、「ポリスチレン及び置換ポリスチレン、例えばポリエチレンやポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリ(ウレタン)、ポリアクリレート及びポリメタクリレート、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミド、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリエーテル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリフルオロカーボン、PEEK、テフロン、シリコーン、エポキシ樹脂、KEVLAR(登録商標)、NOMEX(登録商標)、DACRON(登録商標)、ナイロン、ポリアルケン、フェノール樹脂、PTFE、天然及び合成エラストマー、接着剤及び密封剤、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、例えば多糖類や天然ラテックス共重合体のようなバイオポリマー、並びにそれらの組み合わせ」が挙げられている(上記(2)ア(エ))。 そして、刊行物Eに記載されるとおり、カテーテルの構成部分の材料を、それぞれ独立して選択することは、本願優先日前において公知である。 してみると、刊行物発明に係る、「親水性ポリマー層と前記内腔内表面または前記外側表面」とが組み合わさったカテーテルにおいて、各構成部分の材料を、それぞれ独立して選択し、「内腔内および外側」の各表面について親水性ポリマー層を構成すること、すなわち補正発明でいう「第1の前記構成部分の内腔内および外側表面、および第2の前記構成部分の外側および内腔内表面」とすることは、当業者が容易に想到しうることと認められる。 ウ 相違点bについて カテーテルに使用される材料の表面の粗さを小さくし、表面における減摩性やバクテリア付着抑制、抗血栓性を企図することは、例えば、刊行物C(上記(2)ウ)や、特公平1-35669号公報(下記の記載事項を参照。)に記載されるように、本願優先日前において周知である。 <特公平1-35669号公報の記載事項> (ア)「この発明は、抗血栓の改良、さらに詳しくは血液接触部の抗血栓を改良してなる血液接触医療器具に関する。」(1欄12-14行) (イ)「塗布表面の粗さと抗血栓性とが密接な関連を有し、塗布表面が平滑であるほど抗血栓性に優ることが判る。」(10欄20-23行) そうすれば、刊行物発明において、本願明細書【0006】に記載されるような「微生物の付着、バイオフィルムの形成、血小板付着、または血栓形成を低減する」ように、カテーテルの外側表面及び内腔内表面の表面粗さを小さくすること、その際、どのような表面粗さの指標を採用するかは、当業者が容易に想到しうることと認められる。 エ 相違点dについて 補正発明に係る「0.1mm^(2)のレベルで共形」について検討する。 本願明細書【0031】には以下の記載がある。 「共形および共形性:特記しない限り、「共形」または「共形性」は、本明細書中でカテーテル構成要素の内腔内表面または外側表面などの表面上のポリマー層に関連して使用される場合、表面上に、ポリマー層でコーティングされていない、指定面積を超える大きさの特有の領域が存在しないことを意味するものとする。例えば、1mm^(2)のレベルで共形であるカテーテル構成要素は、…このような表面上でポリマー層を有する「海」によって取り囲まれ、このような表面上に1mm^(2)を超えてポリマー層を欠く「島」を有さない。」 この記載からみて、「共形」とは、カテーテル構成要素の表面がポリマー層で欠けなくコーティングされることを意味するものと解される。 これに対し、刊行物Aには、以下の記載がある(上記(2)ア(カ))。 「4.非ファウリング物質の密度 非ファウリング鎖の密度を増大させることによって、非ファウリング能が向上されうる。より高い濃度の開始剤を有することによって、鎖間距離が減少され、それにより能力が向上されうる。… 一実施態様において、該表面は表面上に高密度のポリマー鎖を有する。…、該ポリマー鎖間距離は、例えば、<5nm、<10nm、<50nm、又は<100nmといった、ファウリング物質のコーティング物質への侵入を減少させるものである。」 上記刊行物Aの記載は、刊行物発明における、グラフト-フロム法で基質に結合されるポリマー鎖が、例えば100nm未満の間隔となるように、係るカテーテル表面をポリマー層でコーティングすることを意味するものと解される。 そうすると、刊行物発明においても、非ファウリング能を備えるために、本願発明と同様の、「0.1mm^(2)のレベルで共形」を採用するものと認められる。このため、「0.1mm^(2)のレベルで共形であり」という点において、補正発明と刊行物発明との間に実質的な差異は見いだせない。仮にそうでないとしても、刊行物Fには、「スルホベタインまたはカルボキシベタイン材料の単分子層を含む表面を有する基材」における「表面」の欠陥をより小さくすることでフィブリノーゲン吸着能を小さくすることが記載されており(上記(2)カ)、本願発明と同様の、「0.1mm^(2)のレベルで共形」とすることは、当業者が容易に想到しうることと認められる。 次に、平均乾燥厚さについて検討する。 刊行物Bには、親水性グラフトポリマーで表面改質がなされるカテーテル等の医療用器具において、そのグラフトの厚さを、「大抵の用途で約300?500Å(0.03?0.05μm)以上で50μm程度まで」とすることが好ましいこと(上記(2)イ(ア)、(ウ))、表面改質することで、凝血の防止や細菌吸着の減少を図ることができる旨(上記(2)イ(イ))の記載がある。「大抵の用途で約300?500Å(0.03?0.05μm)以上で50μm程度まで」との記載は、「本発明で表面改質された眼球部品用ポリマーを得るのに特に好ましい特定の組み合わせを実現するために下記範囲内で変えることができる:」(上記(2)イ(ウ))との文言の後に存在するが、刊行物Bの特許請求の範囲において、表面改質される「人間または人間以外の動物の生きた組織と接触するプラスチック製品」は「眼球部品用ポリマー」に限定されず、「ポリマー被覆の厚さを約100Å?100μmに維持する」(上記(2)イ(ア))と規定されていることに鑑みると、上記数値範囲は「眼球部品用ポリマー」のみにおけるものではなく、刊行物Bに記載された用途の大抵のものに適応するものと認められる。 そうすると、カテーテル等の医療用器具において、「少なくとも50nmの平均乾燥厚さ」の親水性ポリマー層で被覆することは、本願優先日前において公知であったといえる。 そして、刊行物発明において、刊行物Bに記載されるように、親水性ポリマー層を「少なくとも50nmの平均乾燥厚さ」とすることは、当業者が容易に想到しうることと認められる。 オ 相違点fについて 刊行物Aには、「ジクミルペルオキシド-グルコン酸Fe(II)レドックス重合を用いた、双性イオンポリマーのポリウレタン上へのグラフト」において、「ポリウレタンダブルルーメンチューブ」のコーティングした際、「処理された試料は90%ものフィブリノーゲン吸着の減少を示す」ことが記載されており(上記(2)ア(ク))、刊行物発明はフィブリノーゲン吸着を相当程度抑制するものと認められる。 また、医療材料をポリスルホベタインやポリカルボキシベタインで被覆して、「約30ng/cm^(2)未満」というレベルまでフィブリノーゲン吸着能を低減すること(上記(2)カ)は、刊行物Fにより本願優先日前において公知である。 そうであれば、刊行物発明においても、補正発明と同等の「ヒト血漿由来の70μg/mLのフィブリノーゲンおよび1.4μg/mLのI-125放射能標識化フィブリノーゲンを含む組成物中で37℃で60分間インキュベートするフィブリノーゲン結合アッセイにおいて、125ng/cm^(2)未満のフィブリノーゲン吸着を有する」ものであるか、そうでないとしても、フィブリノーゲン吸着能を補正発明と同等とすることは、当業者が適宜なしうることと認められる。 (6)まとめ 以上のことから、補正発明は、刊行物発明及び刊行物B-Fに記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4 むすび 以上のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記のとおり、平成28年10月11日提出の手続補正書による手続補正は却下されたので、本願にかかる発明は、平成28年2月12日提出の手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1-18に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「カテーテル本体、接合ハブ、少なくとも1つの延長ラインおよび少なくとも1つのコネクターをその構成部分として備えるカテーテルであって、前記構成部分のそれぞれが、外側表面、全平均R_(rms)表面粗さを有する内腔内表面を有する少なくとも1つの内腔およびバルクポリマーを備え、第1の前記構成部分の内腔内または外側表面、および第2の前記構成部分の外側または内腔内表面が、少なくとも50nmの平均乾燥厚さを有する親水性ポリマー層をそれらの上に備え、内腔内表面および親水性ポリマー層が、組み合わさって、修飾された表面を構成し、修飾された表面が、内腔内表面の全平均R_(rms)表面粗さ未満である全平均R_(rms)表面粗さを有し、かつそれをヒト血漿由来の70μg/mLのフィブリノーゲンおよび1.4μg/mLのI-125放射能標識化フィブリノーゲンを含む組成物中で37℃で60分間インキュベートするフィブリノーゲン結合アッセイにおいて、125ng/cm^(2)未満のフィブリノーゲン吸着を有し、そして、前記第1および第2の構成部分が異なる化学組成を有するバルクポリマーを備えることを特徴とする、カテーテル。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の理由とされた、平成27年8月3日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のとおりである。 「1.(進歩性)この出願…に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 … <引用文献等一覧> 1.国際公開第2010/065960号 2.特開平05-076590号公報 3.Preparation of hydrophilic materials by radiation grafting of poly(ethylene-co-vinyl acetate), European Polymer Journal,2000年,vol.36,no.3,pp.591-599 4.特表平09-506665号公報 5.特表2005-514192号公報 6.米国特許第5403291号明細書 7.特開2009-247507号公報 8.特表2009-508542号公報 」 3 当審の判断 拒絶の理由において引用された本願優先日前に頒布された刊行物1及び4-8(前記刊行物A-Fである。)には、前記第2の3(2)ア-カに挙げた事項が記載されている。 そして、前記第2の3(1)に記載した補正発明は、本願発明の発明特定事項を限定したものであるから、本願発明に含まれるものである。 そうすると、前記第2の3(5)-(6)で検討したとおり、補正発明は、刊行物発明及び刊行物B-Fに記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、補正発明を含む本願発明は、刊行物1及び4-8に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-12-21 |
結審通知日 | 2017-12-25 |
審決日 | 2018-01-09 |
出願番号 | 特願2014-547477(P2014-547477) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石井 裕美子 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
安川 聡 小川 慶子 |
発明の名称 | 複数の材料から構成されたカテーテルのための表面修飾 |
代理人 | 田中 伸一郎 |
代理人 | 弟子丸 健 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 市川 さつき |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 小松 邦光 |
代理人 | 服部 博信 |