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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1340815
審判番号 不服2017-16228  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-01 
確定日 2018-06-19 
事件の表示 特願2013- 83787「波源方位推定システム、波源方位推定方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月30日出願公開、特開2014-206440、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月12日の出願であって、平成29年2月14日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月4日付けで手続補正がされ、同年7月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ(送達日:同年8月1日)、これに対し、同年11月1日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1、3-8に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1、5、7
・引用文献 1-2

・請求項 3、4、6、8
・引用文献等 1、3

引用文献等一覧
1.伊藤聡宏 外2名,“科学衛星で観測されたプラズマ波動のオンボード到来方向推定システムの検討”,電子情報通信学会2006年通信ソサイエティ大会講演論文集1,2006年9月7日,Page 15
2.特開2000-121716号公報
3.後藤由貴 外2名,“ガウス分布モデル波動分布関数法による伝搬ベクトル推定に関する研究”,電子情報通信学会論文誌B,Volume J84-B,Number 2, 2001年2月1日, Pages 263-271

第3 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成29年11月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
電子機器から離れた一点に設けられて、電波を受信するアンテナと、
妨害波の波源方位を推定する波源方位推定装置と
を備え、
前記波源方位推定装置は、
前記アンテナによって受信された電磁界多成分の測定を行う測定部と、
前記測定部による測定値に対して、MUSIC法による信号処理を行うことにより、妨害波の波源方位を推定する波源方位推定部と
を有し、
前記波源方位推定部は、
スペクトルマトリクスの成分となる周波数に対するエネルギー値を算出し、
前記エネルギー値を成分とするスペクトルマトリクスから1以上の固有値と固有ベクトルとを算出し、
前記固有値のうち最も小さい解の最小固有値に対応する固有ベクトルの数と、前記スペクトルマトリクスから得られる連立方程式の数とに基づいて、妨害波の波源数を算出し、
前記アンテナによって受信された妨害波のモードベクトルと、前記最小固有値に対応する固有ベクトルとに基づいて、評価関数を算出し、
前記評価関数のピークを前記波源数の数だけとって、そのときの方位を求めることにより、妨害波の波源方位を推定する
ことを特徴とする波源方位推定システム。
【請求項2】
電子機器から離れた一点に設けられたアンテナによって受信された電磁界多成分の測定を行う測定段階と、
得られた測定値に対して、MUSIC法による信号処理を行って、前記電子機器からの放射妨害波の波源方位を推定する波源方位推定段階と
を含み、
前記波源方位推定段階においては、
スペクトルマトリクスの成分となる周波数に対するエネルギー値を算出し、
前記エネルギー値を成分とするスペクトルマトリクスから1以上の固有値と固有ベクトルとを算出し、
前記固有値のうち最も小さい解の最小固有値に対応する固有ベクトルの数と、前記スペクトルマトリクスから得られる連立方程式の数とに基づいて、妨害波の波源数を算出し、
前記アンテナによって受信された妨害波のモードベクトルと、前記最小固有値に対応する固有ベクトルとに基づいて、評価関数を算出し、
前記評価関数のピークを前記波源数の数だけとって、そのときの方位を求めることにより、妨害波の波源方位を推定する
ことを特徴とする波源方位推定方法。
【請求項3】
コンピュータを、
電子機器から離れた一点に設けられたアンテナによって受信された電磁界多成分の測定を行う測定部、
前記測定部による測定値に対して、MUSIC法による信号処理を行うことにより、妨害波の波源方位を推定する波源方位推定部
として機能させ、
前記波源方位推定部は、
スペクトルマトリクスの成分となる周波数に対するエネルギー値を算出し、
前記エネルギー値を成分とするスペクトルマトリクスから1以上の固有値と固有ベクトルとを算出し、
前記固有値のうち最も小さい解の最小固有値に対応する固有ベクトルの数と、前記スペクトルマトリクスから得られる連立方程式の数とに基づいて、妨害波の波源数を算出し、
前記アンテナによって受信された妨害波のモードベクトルと、前記最小固有値に対応する固有ベクトルとに基づいて、評価関数を算出し、
前記評価関数のピークを前記波源数の数だけとって、そのときの方位を求めることにより、妨害波の波源方位を推定する
ことを特徴とするプログラム。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審による。以下同様。)

「科学衛星で観測されたプラズマ波動のオンボード到来方向推定システムの検討」(標題)

「 プラズマ中を伝搬する自然波動の伝搬ベクトル方向推定は、波動の生起・伝搬メカニズムの解明といった科学的目的だけでなく、リモートセンシングといった工学的な利用にも関わる重要な事項である。プラズマ波動においては、通常の到来方向推定法に加え、プラズマの分散関係を利用した波動分布関数(WDF)法のアルゴリズムを用いることができる。
一方で、科学衛星による波動観測は従来のアナログ受信器からデジタル受信器へと移り変わり、より高度な論理をオンボードで実現できるようになった。すなわち、従来地上の処理で求めていた波動の伝搬ベクトル方向推定を、衛星搭載受信器のオンボードで処理することが可能なレベルになった。WDF法を用いる場合、プラズマの分散関係を導く必要があるが、実際にはプラズマ周波数をリアルタイムに得られないため、衛星上で正確に取得するのは難しい。プラズマ周波数も求解の対象に含めるという解決策が考えられるが、計算量が大きくなるという問題がある。そこで本研究では対応策となる新たな手法を提案する。」(1 はじめに)

「 システムの概要を図1に示す。処理はすべて受信器のオンボードCPU上で動くソフトウェアにより実現する。衛星上での電磁界空間直交6成分の観測を仮定し、その他、プラズマ周波数・サイクロトロン周波数が得られるものとする。観測された波動に応じて、Means法、WDF法などの複数の手法から最適な方法を選択し、各周波数成分に対する到来方向もしくは到来方向に対するエネルギー分布(skymap)を求める。
WDF法は観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクスS_(ij)(ω)と、エネルギーの空間分布を表す波動分布関数F(ω,θ,φ)、分散関係から求まる積分核a_(ij)(ω,θ,φ)の間に、

という関係が成り立つのを利用する。既知のS_(ij)とa_(ij)から到来方向毎のエネルギー分布Fを求めることで、到来方向を推定する。」(2 システム概要)



上記図1から、システムはプラズマ波動を受信するアンテナ及びループアンテナ、サーチコイルとプラズマ波動受信器を備えていること、波動受信器はCPU/DSP,メモリを備えていること、CPU/DSP,メモリから到来方向推定処理へH,Eが供給されていること、到来方向推定処理にはMUSIC法が含まれること、が分かる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 プラズマ中を伝搬する自然波動の伝搬ベクトル方向推定は重要な事項であり、プラズマ波動においては、通常の到来方向推定法に加え、プラズマの分散関係を利用した波動分布関数(WDF)法のアルゴリズムを用いることができ、波動の伝搬ベクトル方向推定を、衛星搭載受信器のオンボードで処理することが可能であり(「1 はじめに」より)、
システムはプラズマ波動を受信するアンテナ及びループアンテナ、サーチコイルとプラズマ波動受信器を備え、波動受信器はCPU/DSP,メモリを備え(図1より)、
処理はすべて受信器のオンボードCPU上で動くソフトウェアにより実現し、衛星上での電磁界空間直交6成分の観測を仮定し、観測された波動に応じて、Means法、WDF法などの複数の手法から最適な方法を選択し、各周波数成分に対する到来方向もしくは到来方向に対するエネルギー分布(skymap)を求め、WDF法は観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクスS_(ij)(ω)と、エネルギーの空間分布を表す波動分布関数F(ω,θ,φ)、分散関係から求まる積分核a_(ij)(ω,θ,φ)の間に、

という関係が成り立つのを利用し、既知のS_(ij)とa_(ij)から到来方向毎のエネルギー分布Fを求めることで、到来方向を推定し(「2 システム概要」より)、
CPU/DSP,メモリから到来方向推定処理へH,Eが供給され、到来方向推定処理にはMUSIC法が含まれる(図1より)
プラズマ波動のオンボード到来方向推定システム(標題より)。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、【0019】の「λ_(1) ≧λ_(2 )≧,…≧λ_(K) ≧λ_(K+1) ≧=,…,=λ_(M) =σ^(2) …(9) 」の下線部の「≧」は、【0019】のその後及び【0020】の記載並びに技術常識から、不要な誤記であることが明らかであるから、上記下線部の「≧」を省いて認定した。また、ベクトルを太文字で表記している箇所は、システム上対応できないため、通常の文字で表記している。

「【0002】
【従来の技術】例えば、不法電波を取締まる場合には、その不法電波の発信元を特定する必要がある。このような場合、複数位置に電波到来方向推定装置を搭載した測定車を配置し、各測定車に搭載された電波到来方向推定装置で不法電波の到来方向を測定する。そして、各測定車の位置から同一不法電波の到来方向の延長線を引き、これらの各延長線上の交点位置を不法電波の発信位置と推定している。
【0003】このような機能を有する電波到来方向推定装置において、複数のアンテナを用いて、複数の電波の到来方向を同時に推定(測定)する場合は、一般に、MUSIC(Multiple Signal Classification)法を用いて実施する。
【0004】以下、このMUSIC法を用いた電波到来方向推定装置の構成及び演算手順を図3を用いて説明する。
【0005】図3において、一直線上に互いに等間隔dでM個のアンテナ1が例えば前述した測定車上に配設されている。そして、遠方のK個の発信位置2から、K個の電波が到来波3として、M個の各アンテナ1に入射される。なお、発信位置2は遠方であるので、一つの各到来波3の各アンテナ1に対する入射角(到来方向)は変化しないと見なす。そして、各アンテナ1相互の位置関係に起因して入射したときの位相が異るとする。
【0006】各受信部4は、各アンテナ1で受信した受信信号をMUSIC法演算処理部5へ送出する。MUSIC法演算処理部5は、到来波3の数Kと各到来波3の到来方向θとを推定演算して、表示器6へ表示する。
【0007】次に、このMUSIC法演算処理部5における各到来波3の到来方向(入射角)の詳細推定方法を説明する。
【0008】K個の各到来波3の各信号(到来波信号)をu_(i )(t) 、入射角到来方向(入射角)をθ_(i )(i=1,2,3, …,K)とし、M個の各アンテナ1を介して各受信部4で受信された各信号(受信信号)をx_(i )(t) とする(i=1,2,3, …,M)。さらに、各受信信号x_(i )(t) に含まれる雑音をn_(i )(t) とする(i=1,2,3, …,M)。
【0009】各アンテナ1の各受信信号には1番からK番までの全てのK個の到来波信号と各アンテナ間で無関係な1個の雑音が含まれるので、各受信信号x_(i )(t) は、i=1からi=Mまでまとめてベクトル表示した受信信号ベクトルx(t) で表すことができ、(1) ?(3) 式で表現できる。
【0010】但し、[ ]^(T )は転置行列を示す。なお、この明細書においては、ベクトルを小文字の太文字(x(t) ,u(t) ,n(t) ,a(θ),β)で示し、行列を大文字(A,E,P,R)で示す。
【0011】
x(t) =[x_(1) (t) ,…,x _(M) (t)]^(T )
=M^(1/2) [ a(θ_(1) ),a(θ_(2 )),…,a(θ_(K) )] u(t) +n(t)
…(1)
=Au(t) +n(t)
…(2)
=A[ u_(1) (t) ,…,u_(K) (t)]^(T) +[ n_(1) (t) ,…,n_(M) (t)]^(T)
…(3)
ここで、a(θ_(i) )(M次元)は、方向ベクトルと呼ばれ、1番目のアンテナ1を基準としたときの、各アンテナの位相差を表すベクトルであり、(4) 式で示される。
【0012】
a(θ_(i) )=M^(-1/2)[1,exp(-jkd cosθ_(i) ),…,exp {(-jk(M-1)d cosθ_(i) }]^(T)
…(4)
但し、k:伝搬定数(=2π/λ) λ;波長
すなわち、受信信号ベクトルを各アンテナ1における位相差を示す各方向ベクトルa(θ_(i) )と各到来波の信号を示す到来信号u(t) と各雑音n(t) とで示すことが可能である。
【0013】先ず、(1) ?(3) 式で示す受信信号ベクトルx(t) の相関行列Rを求める。なお、相関行列Rを求めるに際して、到来信号と雑音とは相関がないものとする。そして、相関行列Rは(5) ?(7) 式で求まる。但し、[ ] ^(H) は共役転置行列を示す。また、E[ ・ ]は期待値を示す。
【0014】
R=E[x(t) x^(H) (t) ] …(5)
=AE[u(t) u^(H) (t) ]A^(H) +E[n(t) n^(H) (t) ] …(6)
=APA^(H) +σ^(2) I …(7)
但し、σ^(2) は雑音電力である。
【0015】次に、このようにして導いた相関行列Rに対してアンテナ1の設置数であるM個の固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )を求める。
【0016】さらに、各固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )に対する固有ベクトル(β_(1) ,β_(2) ,…,β_(i) ,…,β_(M) )を算出する。すなわち、固有値λ_(i) と固有ベクトルβ_(i) とは、(8) 式で定義される。
【0017】
Rβ_(i) =λ_(i) β_(i) (i=1,2,3, …,M) …(8)
しかしながら、行列の次数が5次以上になると、計算機を用いた有限回の計算操作で、上述したM個の固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )を求めることができない。そこで、Jacobi法やQR法等の反復法でこれらの固有値を求める必要がある。
【0018】この反復法には、固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )を先に求めてから固有ベクトル(β_(1) ,β_(2) ,…,β_(i) ,…,β_(M) )を算出する方法と、固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )と固有ベクトル(β_(1) ,β_(2),…,β_(i) ,…,β_(M) )を同時に算出する方法とがある。
【0019】算出された各固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )を例えば値の大きい順にλ_(1) ,λ_(2) ,…とすると、
λ_(1) ≧λ_(2 )≧,…≧λ_(K) ≧λ_(K+1) =,…,=λ_(M) =σ^(2) …(9)
となる。この場合、雑音に対応する各固有値は全て等しいと見なせるので、雑音電力σ^(2) より大きい固有値λの数を到来波3の数Kと推定することができる。
【0020】すなわち、(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(K) )を到来波3の固有値と特定でき、(λ_(K+1) ,…,λ_(M) =σ^(2) )を雑音の固有値と特定できる。
【0021】そこで、(7) 式と(8) 式から雑音の固有値(λ_(K+1) ,…,λ_(M) =σ^(2) )に対応する固有ベクトル(β_(K+1) ,…,β_(M) )に対しては、(10)式が成立する。
【0022】
APA^(H) β_(i) =0 K+1≦i≦M …(10)
この(10)式は信号の方向ベクトルa(θ_(k) )と雑音に対する固有ベクトルβ_(i) とが直交することを意味するもので、(11)式のように変形できる。
【0023】
β_(i) ^(H) a(θ_(k) )=0 K+1≦i≦M 1≧k≧K
…(11)
そこで、(12)式の評価関数P(θ)を算出する。
【0024】
【数1】

すなわち、(12)式で示した評価関数P(θ)は、(11)式で示した信号の方向ベクトルa(θ)と雑音に対する固有ベクトルβ_(i ) との内積値をK+1番からM番まで加算して、逆数を取ったものである。
【0025】したがって、図4に示すように、(12)式で算出した評価関数P(θ)を、横軸に到来方向(角度)として表示したMUSICスペクトラムにおいては、K個のピーク波形の位置(ピーク位置)を探すことにより、K個の各到来波3の到来方向(入射角)θ_(1) ,θ_(2) …,θ_(K) が求まる。」

したがって、上記引用文献2には、
「各測定車に搭載された電波到来方向推定装置で不法電波の到来方向を測定する(【0002】より。以下同様。)際、
複数のアンテナを用いて、複数の電波の到来方向を同時に推定(測定)する場合は、一般に、MUSIC(Multiple Signal Classification)法を用いて実施し(【0003】)、
一直線上に互いに等間隔dでM個のアンテナ1が例えば前述した測定車上に配設され、発信位置2は遠方であるので、一つの各到来波3の各アンテナ1に対する入射角(到来方向)は変化しないと見なし、各アンテナ1相互の位置関係に起因して入射したときの位相が異るとし(【0005】)、
各受信部4は、各アンテナ1で受信した受信信号をMUSIC法演算処理部5へ送出し、MUSIC法演算処理部5は、到来波3の数Kと各到来波3の到来方向θとを推定演算し(【0006】)、
M個の各アンテナ1を介して各受信部4で受信された各信号(受信信号)をx_(i )(t) とし(i=1,2,3, …,M)(【0008】)、
各アンテナ1の各受信信号x_(i )(t) は、i=1からi=Mまでまとめてベクトル表示した受信信号ベクトルx(t) で表すことができ(【0009】)、
受信信号ベクトルx(t) の相関行列Rを求め(【0013】)、
相関行列Rに対してアンテナ1の設置数であるM個の固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )を求め(【0015】)、
各固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )に対する固有ベクトル(β_(1) ,β_(2) ,…,β_(i) ,…,β_(M) )を算出し(【0016】)、
算出された各固有値(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(i) ,…,λ_(M) )を例えば値の大きい順にλ_(1) ,λ_(2) ,…とすると、
λ_(1) ≧λ_(2 )≧,…≧λ_(K) ≧λ_(K+1) =,…,=λ_(M) =σ^(2) …(9)
となり、この場合、雑音に対応する各固有値は全て等しいと見なせるので、雑音電力σ^(2) より大きい固有値λの数を到来波3の数Kと推定することができ(【0019】)、
(λ_(1) ,λ_(2) ,…,λ_(K) )を到来波3の固有値と特定でき、(λ_(K+1) ,…,λ_(M) =σ^(2) )を雑音の固有値と特定でき(【0020】)、
評価関数P(θ)を算出し(【0023】)、
評価関数P(θ)は、信号の方向ベクトルa(θ)と雑音に対する固有ベクトルβ_(i ) との内積値をK+1番からM番まで加算して、逆数を取ったものであり(【0024】)、
評価関数P(θ)を、横軸に到来方向(角度)として表示したMUSICスペクトラムにおいては、K個のピーク波形の位置(ピーク位置)を探すことにより、K個の各到来波3の到来方向(入射角)θ_(1) ,θ_(2) …,θ_(K) が求まる(【0025】)」という技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、「2.波動分布関数法」より、概略、S_(ij)(ω)とF(ω,θ,φ)との間の関係が、積分形の非線形連立方程式であるため解析的に解けないことに対応して、観測値S_(ij)に基づきFをθ,φの関数として求めるために、最大エントロピー法を用いる技術が記載されている。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明における「プラズマ波動のオンボード到来方向推定システム」は、「波動の伝搬ベクトル方向推定」を行うものであって、「波動」の「到来方向を推定」するものであるから、本願発明1における「波源方位推定システム」と、「方位推定システム」である点で共通する。

イ 引用発明における「プラズマ波動を受信するアンテナ及びループアンテナ、サーチコイル」は、本願発明1における「電子機器から離れた一点に設けられて、電波を受信するアンテナ」と、「アンテナ」である点で共通する。

ウ 引用発明における「プラズマ波動受信器」は、「プラズマ波動を受信するアンテナ及びループアンテナ、サーチコイル」とともに「システム」を構成するものであって、「波動受信器はCPU/DSP,メモリを備え」、「処理はすべて受信器のオンボードCPU上で動くソフトウェアにより実現」するから、上記アでの検討もふまえれば、引用発明における「プラズマ波動受信器」は、本願発明1における「妨害波の波源方位を推定する波源方位推定装置」と、「方位を推定する方位推定装置」である点で共通する。

エ 引用発明は「衛星上での電磁界空間直交6成分の観測を仮定」しているところ、引用発明で「電磁界空間直交6成分」を「観測」することは、本願発明1における「電磁界多成分の測定を行う」ことに相当する。また、引用発明では、「プラズマ波動を受信する」のは「アンテナ及びループアンテナ、サーチコイル」であるから、「観測」される「電磁界空間直交6成分」は、「アンテナ及びループアンテナ、サーチコイル」によって「受信」されることになる。
さらに、引用発明では、「処理はすべて受信器のオンボードCPU上で動くソフトウェアにより実現」する、とされているところ、「オンボードCPU」に対応する「CPU/DSP,メモリ」「から到来方向推定処理へH,Eが供給されている」から、引用発明では、「オンボードCPU」が「電磁界空間直交6成分」であるところの「H,E」を「観測」しているといえる。
したがって、上記イでの検討をふまえれば、引用発明における「アンテナ及びループアンテナ、サーチコイル」によって「受信」された「電磁界空間直交6成分」を「観測」する「オンボードCPU」は、本願発明1における「前記アンテナによって受信された電磁界多成分の測定を行う測定部」に相当する。

オ 引用発明は、「観測された波動に応じて、Means法、WDF法などの複数の手法から最適な方法を選択し、各周波数成分に対する到来方向」「を求め」るものであって、「WDF法は観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクス」から「到来方向を推定」するものであるところ、「観測電磁界」は「観測」された「電磁界空間直交6成分」であり、「到来方向を推定」する処理は「到来方向推定処理」であって「到来方向推定処理」は信号処理に他ならないから、「観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクス」から「到来方向を推定」することは、「観測」された「電磁界空間直交6成分」に対して信号処理を行うことにより「到来方向を推定」することであるといえる。
また、引用発明では、「処理はすべて受信器のオンボードCPU上で動くソフトウェアにより実現」する、とされているから、「オンボードCPU」に対応する「CPU/DSP,メモリ」上で「到来方向推定処理」の「ソフトウェア」が動いていることになる。
したがって、上記ウ、エでの検討をふまえれば、引用発明における、「観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクス」から「到来方向を推定」する「到来方向推定処理」を行う「オンボードCPU」は、本願発明1における「前記測定部による測定値に対して、MUSIC法による信号処理を行うことにより、妨害波の波源方位を推定する波源方位推定部」と、「前記測定部による測定値に対して、信号処理を行うことにより、方位を推定する方位推定部」である点で共通する。

カ 引用発明は「観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクスS_(ij)(ω)」を算出するものであるところ、「スペクトルマトリクスS_(ij)(ω)」の各i,jの成分が「スペクトルマトリクスの成分」であり、「スペクトルマトリクスS_(ij)(ω)」は、ωの関数であるから「周波数に対する」ものであり、また、「エネルギーの空間分布を表す波動分布関数F(ω,θ,φ)」をθとφについて積分したものであるから「エネルギー値」であるといえる。
したがって、引用発明における「観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクスS_(ij)(ω)」を算出することは、本願発明1における「スペクトルマトリクスの成分となる周波数に対するエネルギー値を算出」することに相当する。

してみると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「 アンテナと、
方位を推定する方位推定装置と
を備え、
前記方位推定装置は、
前記アンテナによって受信された電磁界多成分の測定を行う測定部と、
前記測定部による測定値に対して、信号処理を行うことにより、方位を推定する方位推定部と
を有し、
前記方位推定部は、
スペクトルマトリクスの成分となる周波数に対するエネルギー値を算出する
方位推定システム。」

(相違点)
(相違点1)アンテナが、本願発明1では「電子機器から離れた一点に設けられて、電波を受信する」ものであるの対して、引用発明ではプラズマ波動を受信するものである点。
(相違点2)本願発明1では「妨害波の波源方位を推定する」のに対して、引用発明ではプラズマ波動の到来方向を推定する点。
(相違点3)方位を推定する信号処理が、本願発明1では「MUSIC法」であるのに対して、引用発明ではWDF法であって、
スペクトルマトリクスの成分となる周波数に対するエネルギー値に対して、本願発明1では
「前記エネルギー値を成分とするスペクトルマトリクスから1以上の固有値と固有ベクトルとを算出し、
前記固有値のうち最も小さい解の最小固有値に対応する固有ベクトルの数と、前記スペクトルマトリクスから得られる連立方程式の数とに基づいて、妨害波の波源数を算出し、
前記アンテナによって受信された妨害波のモードベクトルと、前記最小固有値に対応する固有ベクトルとに基づいて、評価関数を算出し、
前記評価関数のピークを前記波源数の数だけとって、そのときの方位を求めることにより、妨害波の波源方位を推定する」のに対して、引用発明では、S_(ij)とa_(ij)から到来方向毎のエネルギー分布Fを求めることで、到来方向を推定する点。

(2)相違点についての判断
本願発明1の内容に鑑み、上記相違点3を検討する。
引用発明では、「プラズマ波動においては、通常の到来方向推定法に加え、プラズマの分散関係を利用した波動分布関数(WDF)法のアルゴリズムを用いることができ」る、とされ、「到来方向推定処理にはMUSIC法が含まれ」、「観測された波動に応じて、Means法、WDF法などの複数の手法から最適な方法を選択し、各周波数成分に対する到来方向」「を求め」る、ともされている。
しかしながら、引用文献1には、WDF法とMUSIC法との関係が記載されておらず、「電磁界空間直交6成分の観測を仮定」した際の「観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクスS_(ij)(ω)」とMUSIC法との関係も記載されていない。
一方で、引用文献2に記載された技術は、「電波」を「一直線上に互いに等間隔dで」「配設され」た「M個のアンテナ」「で受信した受信信号を」用いるものであって、引用文献2に記載された技術における、「M個の各アンテナ1を介して各受信部4で受信された」「各受信信号x_(i )(t) 」を「まとめてベクトル表示した受信信号ベクトルx(t)」「の相関行列R」に対してなされるMUSIC法の処理を、「電磁界空間直交6成分の観測を仮定」している引用発明における「観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクスS_(ij)(ω)」に対して適用する動機付けを見出すことはできない。
また、引用文献3も、上記相違点3に関連する技術事項を記載するものではない。
そして、「電磁界空間直交6成分の観測を仮定」した際の「観測電磁界の自己相関、相互相関を表すスペクトルマトリクスS_(ij)(ω)」に対して、本願発明1における上記相違点3に係る構成を採ることは、当業者といえども容易に想到することはできないものである。
したがって、上記相違点1及び2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、それぞれ本願発明1に対応する方法及びプログラムの発明であり、本願発明1の上記相違点3に係る構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-05 
出願番号 特願2013-83787(P2013-83787)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼場 正光  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 中村 説志
須原 宏光
発明の名称 波源方位推定システム、波源方位推定方法及びプログラム  
代理人 伊藤 英輔  
代理人 森 隆一郎  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 松沼 泰史  
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