• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B66B
管理番号 1340861
審判番号 不服2016-15948  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-26 
確定日 2018-05-28 
事件の表示 特願2014-11955号「安全利用促進システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月3日出願公開、特開2015-140219号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月27日に出願された特願2014-11955号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成27年12月16日:拒絶理由通知
平成28年 3月22日:意見書・手続補正書
平成28年 7月13日:拒絶査定
平成28年10月26日:審判請求書・手続補正書
平成29年 7月18日:拒絶理由通知
平成29年10月12日:意見書・手続補正書
平成29年11月20日:拒絶理由通知
平成30年 2月13日:意見書

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年3月22日提出の手続補正書及び平成28年10月26日提出の手続補正書により補正された明細書及び平成29年10月12日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
建物の各階を人が移動する目的で設置される階段状の昇降機の安全な利用を促進するための安全利用促進システムであって、
乗降口付近以外における、人が足を乗せる踏段上での歩行を前記昇降機の乗客の移動速度と前記踏段の移動速度との比較結果に基づいて検出する歩行検出手段と、
該歩行検出手段により前記踏段上での歩行が検出されると、前記踏段の移動速度を80%?30%の範囲内まで遅くすることによって、前記乗客に対して実害を加える加害手段とを備えることを特徴とする安全利用促進システム。」

第3 拒絶の理由
平成29年11月20日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
本願発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2012-236660号公報
刊行物2:特開2010-64821号公報
刊行物3:特開2007-153502号公報

第4 刊行物
1.刊行物1
(1)刊行物1の記載事項
本願の出願前に頒布され、当審が通知した拒絶理由において引用された刊行物である、特開2012-236660号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

1a)「【請求項1】
乗客コンベア本体内で無端状に連結されて循環駆動される複数の踏段と、
前記踏段の左右両側の少なくとも一側に沿って所定の設置間隔で設けられ、前記踏段上の乗客を非接触で検出する複数のセンサと、
隣接する前記センサによる乗客の検出の時間差と当該隣接する前記センサの前記設置間隔とに基づいて当該乗客の移動速度を算出し、この算出した乗客の移動速度と前記踏段の移動速度とを比較することにより、当該乗客が前記踏段上を歩行しているか否かを判定する乗客検出部と、を備えたことを特徴とする乗客コンベアの安全装置。
【請求項2】
所定の前記設置間隔は、複数の前記踏段の間隔と同等に設定されることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの安全装置。
【請求項3】
前記乗客検出部により乗客が前記踏段上を歩行していると判定された場合に、当該乗客に対して注意を喚起する注意喚起手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の乗客コンベアの安全装置。
【請求項4】
乗客コンベアの進行経路に沿って複数設けられたスピーカを備え、
前記注意喚起手段は、前記乗客検出部により乗客が前記踏段上を歩行していると判定された場合に、前記踏段上を歩行していると判定された乗客が検出された前記センサの設置位置より進行方向側にある前記スピーカを用いて注意喚起を行うことを特徴とする請求項3に記載の乗客コンベアの安全装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項4】)

1b)「【0002】
一般に、乗客コンベアは乗客が踏段上を歩行することを前提としていない。しかしながら、慣習的に歩行者のために片側を空ける片側通行が行われてきたことや、踏段上を歩行することの問題点が周知されていない等の理由により、実際には乗客による踏段上の歩行が行われているのが実態である。ところが、上記したように乗客が踏段上を歩行することは前提とされていないため、踏段上の歩行者が他の利用客に接触してしまったり、歩行により生じる振動を検知して安全装置が動作し、予期せずに乗客コンベアが停止してしまったりするおそれがある。」(段落【0002】)

1c)「【0014】
図1において、1は、設置された上下階間で利用者を運搬する乗客コンベアの基本的な枠組を構成するトラスからなる乗客コンベア本体である。この乗客コンベア本体1の内部では、乗客が搭乗する複数の踏段2が、図示しない踏段チェーンによって無端状に連結されて循環移動している。また、図2にも示すように、踏段2の左右両側には欄干3が立設されており、この欄干3の外周には踏段2と同期して循環移動する無端状の移動手摺4が設けられている。そして、欄干3の下端部には、踏段2の左右両側に沿うようにして図2に示すスカートガード5(図1には図示せず)が取り付けられている。
【0015】
図1に示すように、欄干3又はスカートガード5の内側には、踏段2上の乗客を検出する複数の乗客検出用センサ6が設置されている。これらを、仮に、第1のセンサ6a、第2のセンサ6b、第3のセンサ6c・・・とする。これらの乗客検出用センサ6は、欄干3又はスカートガード5における、各踏段2の踏面より上方の位置に配置されている。さらに言えば、乗客コンベアの運転により各踏段2の踏面の蹴り上げ側の端部が描く軌跡よりも上方に位置するように配置されている。
【0016】
これらの乗客検出用センサ6は所定の間隔を空けて等間隔で配置されている。ここでは、この所定の間隔は、各踏段2の間隔と同等の間隔にされている。そして、乗客コンベアは下方階から上方階への上昇運転がなされている状態であって、第1のセンサ6a、第2のセンサ6b、第3のセンサ6cは、この順で下から上へと並んでいるとする。これらの乗客検出用センサ6は、可視光や赤外線等の電磁気や超音波等を用いて、非接触で踏段2上の乗客を検出するものである。」(段落【0014】ないし【0016】)

1d)「【0021】
乗客検出部8bは、乗客検出用センサ6(第1のセンサ6a、第2のセンサ6b、第3のセンサ6c・・・)の検出結果に基づいて、踏段2上の乗客の移動速度を算出するものである。そして、この算出した乗客の移動速度を、運転制御部8aから取得した乗客コンベアの運転速度すなわち踏段2の移動速度と比較することにより、踏段2上の乗客が歩行しているか否かを判定するものである。
【0022】
この乗客検出部8bにおける踏段2上の乗客が歩行しているか否かの判定について、図4を参照しながら説明する。各乗客検出用センサ6は、踏段2上の乗客を検出していない場合には出力レベルが低く、踏段2上の乗客を検出すると出力レベルが高くなるようになっている。
【0023】
上昇運転している乗客コンベアの踏段2上に乗客が搭乗している場合、踏段2の移動に伴って、複数の乗客検出用センサ6のうち下方にあるセンサから順に乗客を検出していく。すなわち、ここでは、まず、第1のセンサ6aが乗客を検出して出力レベルが高くなり矩形状パルスが出力される。そして、次に第2のセンサ6bが乗客を検出して第2のセンサ6bから矩形状パルスが出力され、続いて第3のセンサ6cが乗客を検出して第3のセンサ6cから矩形状パルスが出力される。
【0024】
乗客コンベア制御装置8の乗客検出部8bは、これらの乗客検出用センサ6の検出結果(出力)に基づいて、隣接する乗客検出用センサ6の検出タイミングの時間差から、踏段2上の乗客の移動速度を算出する。より詳しくは、まず、各乗客検出用センサ6の出力パルスの対応する位置同士、ここでは例えばパルスの立ち上がり部同士、の時間差を求める。具体的には、第1のセンサ6aが乗客を検出してから第2のセンサ6bが乗客を検出するまでの時間T1第2のセンサ6bが乗客を検出してから第3のセンサ6cが乗客を検出するまでの時間T2・・・といった具合である。そして、これらの時間差T1、T2・・・と各乗客検出用センサ6の設置間隔とから、乗客検出部8bは踏段2上の乗客の移動速度を算出する。
【0025】
乗客検出部8bは、運転制御部8aから現在の運転速度すなわち踏段2の移動速度を取得する。そして、先程算出した踏段2上の乗客の移動速度と、踏段2の移動速度とを比較し、踏段2上の乗客の移動速度が踏段2の移動速度より速い場合には、当該乗客は踏段2上を歩行していると判定する。そして、この判定結果は、乗客コンベア制御装置8の備える報知部8cへと送られる。
【0026】
報知部8cは、乗客検出部8bにより乗客が踏段2上を歩行していると判定された場合に、注意放送用スピーカ7(第1のスピーカ7a、第2のスピーカ7b・・・)から当該乗客に対して歩行禁止の旨を報知して注意喚起するものである。歩行禁止の旨の報知は、当該乗客コンベアに設置されている全ての注意放送用スピーカ7から行うようにしてもよいし、ある特定の注意放送用スピーカ7のみから行うようにしてもよい。」(段落【0021】ないし【0026】)

1e)「【0030】
以上のように構成された乗客コンベアの安全装置は、乗客コンベア本体内で無端状に連結されて循環駆動される複数の踏段の左右両側の少なくとも一側に沿って、踏段上の乗客を非接触で検出する複数のセンサを所定の設置間隔で設け、乗客検出部により、隣接するセンサによる乗客の検出の時間差と当該隣接するセンサの設置間隔とに基づいて当該乗客の移動速度を算出し、この算出した乗客の移動速度と踏段の移動速度とを比較することにより、当該乗客が踏段上を歩行しているか否かを判定するものである。このため、乗客コンベアの踏段上を歩行している乗客を非接触で検出することができる。
【0031】
また、乗客検出部により乗客が踏段上を歩行していると判定された場合に当該乗客に対して注意を喚起する放送等を実施するため、乗客に対する注意喚起効果を高めることが可能である。」(段落【0030】及び【0031】)

1f)図1には、乗客検出用センサ6a、6b、6c・・が乗客コンベアの乗降口付近以外に設けられることが図示されている。

(2)引用発明
上記(1)及び図1ないし図4の記載を総合すると、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「乗客コンベアが設置された上下階間で利用者を運搬するために設けられる、複数の踏段2が無端状に連結されて循環移動することによる乗客コンベアの安全な利用を促進するための乗客コンベアの安全装置であって、
乗降口付近以外における、乗客の踏段2上における歩行を踏段2上の乗客の移動速度と踏段2の移動速度を比較することにより判定する乗客検出部8bと、
乗客検出部8bにより乗客の踏段2上での歩行が判定されると、歩行禁止の旨を報知して注意喚起を行う注意放送用スピーカ7とを備える、乗客コンベアの安全装置。」

2.刊行物2
(1)刊行物2の記載事項
本願の出願前に頒布され、当審が通知した拒絶理由において引用された刊行物である、特開2010-64821号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の記載がある

2a)「【請求項1】
エスカレータ全体を監視可能な場所に設置された少なくとも2台のカメラと、
この2台のカメラにて撮影された各画像から3次元の情報を取得する3次元情報取得手段と、
この3次元情報取得手段によって得られた3次元情報を解析して、上記エスカレータを利用する乗客の位置を撮影範囲の奥行き方向を含めて検知する乗客検知手段と
を具備したことを特徴とするエスカレータ監視システム。
【請求項2】
上記エスカレータの運行情報に基づいて、上記乗客検知手段によって検知された乗客の挙動を検知する挙動検知手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ監視システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

2b)「【請求項4】
上記エスカレータの運行情報は、上記エスカレータの運転方向に関する情報を含み、
上記挙動検知手段は、
上記乗客検知手段によって検知された乗客が上記エスカレータの運転方向に所定速度以上で移動しながら前方の乗客を追い越している状態を検知することを特徴とする請求項2記載のエスカレータ監視システム。
【請求項5】
上記エスカレータの運行情報は、上記エスカレータの運転方向に関する情報を含み、
上記挙動検知手段は、
上記乗客検知手段によって検知された乗客が上記エスカレータの運転方向に所定速度以上で移動しながら前方の乗客と乗客との間をすり抜けている状態を検知することを特徴とする請求項2記載のエスカレータ監視システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項4】及び【請求項5】)

2c)「【0077】
(追い越し/すり抜け検知)
次に、本システムの画像処理装置24による挙動検知の1つである「追い越し/すり抜け検知」について説明する。
(・・・中略・・・)
【0085】
以下に、図13を参照して変システムの「追い越し検知」の処理動作について、詳しく説明する。
【0086】
図13は本システムの画像処理装置24による「追い越し検知」の処理動作を示すフローチャートである。なお、このフローチャートで示される処理は、画像処理装置24に搭載された図示せぬCPUがROM等のメモリに記憶された所定のプログラムを読み込むことにより実行される。
【0087】
まず、初期化処理として、ステレオカメラユニット21(カメラ22a,22b)とエスカレータ11との位置関係を画像処理装置24に設定しておくと共に、エスカレータ11の運転方向De、運転速度Veに関する情報を画像処理装置24に設定しておく(ステップB11)。
【0088】
画像処理装置24は、カメラ22a,22bにて撮影された各画像の解析処理により、エスカレータ11を利用する乗客10を検知すると(ステップB12)、その乗客10が立ち止まっているのか歩行しているのかを判定する(ステップB13)。
【0089】
この場合、複数の撮影画像から乗客10の移動速度を求め、その移動速度がエスカレータ11の運転速度Veと同じであれば、ステップ12上で立ち止まっているものと判定される。また、乗客10の移動速度がエスカレータ11の運転速度Veより速ければ、エスカレータ11の運転方向Deに歩行(あるいは走行)しているものと判定される。乗客10がステップ12上で立ち止まっているものと判定された場合には(ステップB14のNo)、画像処理装置24は、特に何もせず、そのまま監視を続ける。
【0090】
一方、乗客10が歩行(あるいは走行)しているものと判定された場合には(ステップB14のYes)、画像処理装置24は、エスカレータ11上に存在する他の乗客との相対位置を算出し、その相対位置から当該乗客10の並び順を求める(ステップB15)。そして、画像処理装置24は、当該乗客10の並び順を時系列で監視し、前方の乗客と入れ替わった場合に追い越しがあったものと判定し(ステップB16のYes)、その乗客10に注意を促すための警告処理を行う(ステップB17)。
【0091】
具体的には、画像処理装置24から制御装置25に対して警告信号を出力することにより、例えば「危険ですから、エスカレータを歩かないで下さい」といったようなメッセージをスピーカ26を通じて音声出力する。スピーカ26を通じて音声にて乗客10に注意を促す。なお、警告方法としては、音声に限らず、例えば図示せぬ表示器をエスカレータ11の交差部近辺に設置しておき、その表示器に乗り出し注意のメッセージを表示することでも良い。
【0092】
なお、ここでは追い越しを想定して説明したが、すり抜けの場合も同様に着目とする乗客の移動速度と並び順から判定することができる。ただし、図14のフローチャートに示すように、当該乗客が前方にいる乗客と乗客との間を追い越したことを条件として(ステップC11)、すり抜けと判定するものとする(ステップC12)。
【0093】
また、乗客10の追い越しやすり抜けを検知した場合に、その検知信号を制御装置25に出力して、エスカレータ11の運転速度を一時的に下げるか、あるいは、運転を停止させるようにしても良い。」(段落【0077】ないし【0093】)

(2)刊行物2に記載された技術
上記(1)並びに図1及び図11ないし14の記載からみて、刊行物2には次の技術(以下、「刊2技術」という。)が記載されている。

「エスカレータを利用する乗客を監視するエスカレータ監視システムにおいて、乗客10のエスカレータ上の歩行による追い越しやすり抜けを検知した場合、警告を行うために警告音声をスピーカ26を通じて出力するとともに、エスカレータ11の運転速度を一時的に下げる技術。」

3.刊行物3
(1)刊行物3の記載事項
本願の出願前に頒布され、当審が通知した拒絶理由において引用された刊行物である、特開2007-153502号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに次の記載がある

3a)「【請求項1】
踏板の移動速度を踏板速度設定値に基づいて制御する乗客コンベア制御盤を備えた乗客コンベア装置と、
上記乗客コンベア装置の乗り口側の上記踏板の上方に配設されて、上記乗り口側の上記踏板に向かって歩行する乗客を撮影するカメラと、
上記踏板速度設定値を上記乗客コンベア制御盤に送信する解析制御部と、
を備え、
上記解析制御部は、複数の上記踏板速度設定値、上記カメラで撮影される映像の静止画像データの取得間隔時間を決定する第1の画像取得間隔時間および上記乗客の歩行状態を判断するための通常歩行判定値が格納される第1の記憶手段と、
上記第1の画像取得間隔時間ごとに取得される上記静止画像データを格納する第2の記憶手段と、
上記第2の記憶手段に格納された前後の上記静止画像の重ね合わせ画像を解析して上記乗客の進行方向に対する横方向の揺れ幅を算出し、算出された上記揺れ幅と上記通常歩行判定値とを比較することにより上記乗客の上記歩行状態を判断して、複数の上記踏板速度設定値から上記歩行状態の判断結果に対応する上記踏板速度設定値を選択し、選択された上記踏板速度設定値のデータを乗客コンベア制御盤に送信する演算制御手段と、
を備えることを特徴とする乗客コンベア制御装置。
【請求項2】
上記複数の踏板速度設定値には、健常者の歩行速度に合わせた通常運転速度および上記通常運転速度より低速な遅運転速度が含まれ、上記演算制御手段は、上記乗客の上記揺れ幅が上記通常歩行判定値より大きければ上記乗客の上記歩行状態が異常であると判断するとともに、上記遅運転速度のデータを乗客コンベア制御盤に送信することによって上記踏板の移動速度の切り替えがなされることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

3b)「【0005】
しかしながら、従来のエスカレータは、踏板の移動方向における乗客の歩行速度を検出し、検出結果に応じて踏板の移動速度を制御するものである。例えば、踏板の移動方向に対して横揺れしながらも、一般健常者の標準的な歩行速度で歩行している酩酊者がエスカレータに乗る場合は、踏板の移動速度が定格速度で運転されるので、踏板の移動速度に対応しきれず、踏板への乗車が容易に出来ないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、踏板の移動方向に対して横揺れ方向の動きを含んだ乗客の歩行状態を判断し、乗客の歩行状態が異常であると判断された場合は乗客コンベアの踏板の移動速度を低速に制御し、酩酊した乗客などの歩行能力低下者でも踏板へ容易に乗降することができる乗客コンベア制御装置を得ることを目的とする。」(段落【0005】及び【0006】)

3c)「【0019】
通常歩行判定値は、後述するように、乗客の歩行状態が異常かどうかを判定するために使用されるもので、例えば15cmが設定値として格納されている。
【0020】
また、踏板速度設定値は、通常運転速度と遅運転速度の値が設定される。通常運転速度は、健常者の標準的な歩行速度に合わせて設定されて、例えば30m/分設定にされる。また、遅運転速度は、通常運転速度より低速な速度に設定されて、例えば20m/分に設定される。そして、後述するように、CPU19による乗客の歩行状態の判断結果に応じて通常運転速度または遅運転速度がエスカレータ制御盤14に送られて、エスカレータ制御盤14によって踏段9、即ち踏板7の移動速度が送られた通常運転速度または遅運転速度になるように制御される。」(段落【0019】及び【0020】)

(2)刊行物3に記載された技術
上記(1)及び図1ないし図7の記載からみて、刊行物3には次の技術(以下、「刊3技術」という。)が記載されている。

「踏板の移動速度を踏板速度設定値に基づいて制御する乗客コンベア装置において、乗客の歩行状態により、踏板速度を通常運転速度の30m/分、または遅運転速度の20m/分(すなわち通常運転速度の約67%)に設定する技術。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「乗客コンベアが設置された上下階間」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「建物の各階」に相当し、以下同様に、「利用者を運搬するために設けられる」ことは「人が移動する目的で設置される」ことに、「複数の踏段2が無端状に連結されて循環移動することによる乗客コンベア」は「階段状の昇降機」に、「乗客コンベアの安全装置」は「安全利用促進システム」に、「乗客の踏段2上における歩行」は「人が足を乗せる踏段上での歩行」に、「踏段2上の乗客の移動速度」は「昇降機の乗客の移動速度」に、「踏段2の移動速度」は「踏段の移動速度」に、「比較することにより判定する」ことは「比較結果に基づいて検出する」ことに、「乗客検出部8b」は「歩行検出手段」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「乗客検出部8bにより乗客の踏段2上での歩行が判定されると、歩行禁止の旨を報知して注意喚起を行う注意放送用スピーカ7」と、本願発明における「歩行検出手段により踏段上での歩行が検出されると、踏段の移動速度を80%?30%の範囲内まで遅くすることによって、乗客に対して実害を加える加害手段」とは、「歩行検出手段により踏段上での歩行が検出されると、乗客に対して警告を与える手段」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「建物の各階を人が移動する目的で設置される階段状の昇降機の安全な利用を促進するための安全利用促進システムであって、
乗降口付近以外における、人が足を乗せる踏段上での歩行を昇降機の乗客の移動速度と踏段の移動速度との比較結果に基づいて検出する歩行検出手段と、
歩行検出手段により踏段上での歩行が検出されると、乗客に対して警告を与える手段とを備える安全利用促進システム。」

[相違点]
「歩行検出手段により踏段上での歩行が検出されると、乗客に対して警告を与える手段」が、本願発明においては、「踏段の移動速度を80%?30%の範囲内まで遅くすることによって、乗客に対して実害を加える加害手段」であるのに対して、引用発明においては、「歩行禁止の旨を報知して注意喚起を行う注意放送用スピーカ7」である点。

以下、上記相違点について検討する。

[相違点について]
上記刊2技術は、「エスカレータを利用する乗客を監視するエスカレータ監視システムにおいて、乗客10のエスカレータ上の歩行による追い越しやすり抜けを検知した場合、警告を行うために警告音声をスピーカ26を通じて出力するとともに、エスカレータ11の運転速度を一時的に下げる技術」であって、乗客10によるエスカレータ上の追い越しやすり抜けなどの踏段上での「歩行」を前提とする危険行為のうち、特に、追い越しやすり抜けが行われた際に警告を行う技術である。
そうすると、引用発明において、乗客コンベアの踏段上における歩行が危険を伴うとの共通課題のもとで刊2技術を適用して、乗客検出部により乗客の踏段2上での歩行が判定されると、警告のために注意放送用スピーカ7より歩行禁止の旨を報知して注意喚起を行うとともに、乗客コンベアの運転速度を一時的に下げる手段を採用することには格別の困難性は認められない。
さらに、乗客コンベアの運転速度を一時的に下げる手段は、移動のための所要時間が余分にかかって利便性を低下させることによる実害を乗客に対して与えることにより警告を行うものであるから、警告のための手段であると同時に加害手段でもあることは当業者にとって明らかである。
そして、乗客コンベアの運転速度を下げる際に、通常運転時の30%ないし80%の範囲内の速度とすることは、利便性の低下を乗客が感じる限りにおいて当業者が適宜設定し得ることであって、刊3技術の乗客コンベアにおける踏板速度の減速割合が通常運転速度の約67%であることからみても格別なことではない。
したがって、引用発明において、刊2技術及び刊3技術を適用することにより、上記相違点に係る本願発明とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明は、全体としてみても引用発明、刊2技術及び刊3技術から予測される以上の格別の効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明、刊2技術及び刊3技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊2技術及び刊3技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-12 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2014-11955(P2014-11955)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌人今野 聖一  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 松下 聡
金澤 俊郎
発明の名称 安全利用促進システム  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ