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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C04B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C04B
管理番号 1340890
審判番号 不服2016-6597  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-06 
確定日 2018-06-26 
事件の表示 特願2014-115911「軽量な石膏ボード」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月 6日出願公開、特開2014-208589、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、2007年10月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年11月2日 米国)を国際出願日とする特願2009-535262号の一部を平成26年6月4日に新たな特許出願としたものであって、
平成27年3月12日付けで刊行物等提出書が提出され、同年4月20日付けで拒絶理由が通知され、同年11月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月28日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成28年5月6日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年6月29日付けで審判請求理由を補完する手続補正書が提出され、平成29年2月28日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年9月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月4日付けで刊行物等提出書が提出され、平成30年1月23日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年4月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.原査定の概要

原査定の理由は次の通りである。
(1)「走査電子顕微鏡写真像を用いて空隙を計測して前記硬化石膏芯の全空隙体積の少なくとも20%を占める100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」、「X線CTスキャニング技術(XMT)により得られた3次元画像を用いて空隙を計測して前記硬化石膏芯の全空隙体積の少なくとも20%を占める100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」、「ASTM基準C-473に従ってそれぞれ計測して、4?8の釘抜き抵抗対芯の固さの比」、「密度(pcf)対ASTM基準C-473に従って計測した平均の芯の固さ(lb)の比は3.2未満である」は、本願の原出願である特願2009-535262号の当初明細書等に記載された事項の範囲内ではなく、本願は分割の要件を満たしていないから、本願の出願日は現実の出願日である平成26年6月4日となり、本願請求項1?39に係る発明は、以下の引用文献1(本願の分割原出願の国際公開公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)本願は分割の要件を満たしていないから、本願の出願日は現実の出願日である平成26年6月4日となり、本願請求項1?39に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(3)本願請求項1?35、38、39に係る発明は、スラリーが、フォーム、予めゼラチン化した澱粉、ナフタレンスルホネート系分散剤、及びトリメタホスフェート化合物を含むことを特定しない点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(4)本願の発明の詳細な説明の記載は、スラリーが、フォーム、予めゼラチン化した澱粉、ナフタレンスルホネート系分散剤、及びトリメタホスフェート化合物を含むことを特定しない本願請求項1?35、38、39に係る発明に関して、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

引用文献1:国際公開第2008/063295号


第3.当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由1の理由は次の通りである。
(1)本願請求項1?12に係る発明は、(i)5ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する水空隙、(ii)少なくとも5ミクロンから50ミクロンの直径の細孔サイズを有する空気空隙、及び(iii)50ミクロンから100ミクロンの直径の細孔サイズを有する空気空隙の割合を特定しない点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(2)本願請求項13?17に係る発明は、(i)50ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する空隙、及び(ii)50ミクロンから100ミクロンの直径の細孔サイズを有する空隙の割合を特定しない点、及び「5ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する水空隙」を何ら特定しない点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)本願請求項1?13、16?17(請求項9?10を引用する場合の請求項12、請求項14?15を引用する場合の請求項16?17は除く。)に係る発明は、「ゼラチン化した澱粉」および「ナフタレンスルホネート」が使用されることを特定しない点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(4)軽量石膏ボードの密度について、12pcfより小さい密度は、本願の原出願である特願2009-535262号の当初明細書等に記載された事項の範囲内ではなく、本願は分割の要件を満たしていないから、本願の出願日は現実の出願日である平成26年6月4日となり、本願請求項1?17に係る発明は、原査定で引用された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(5)本願の発明の詳細な説明の記載は、本願請求項1、13に記載された「走査電子顕微鏡写真像を用いて空隙を計測」に関して、具体的な測定方法や画像処理の条件などが記載されていない点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

当審拒絶理由2は、当審拒絶理由1の理由(3)と意見書の主張とが噛み合わないと解される点について請求人に確認したところ、更なる補正の準備がある旨の主張があり、補正案の提出がされたこと(平成30年1月17日付け応対記録参照)に対応して通知されたものである。


第4.本願発明について

本願請求項1?16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明16」という。)は、平成30年4月12日付けで手続補正された特許請求の範囲1?16に記載された事項により特定される以下の通りの発明である。

【請求項1】
2つのカバーシートの間に配置される硬化石膏芯を含有する軽量石膏ボードであって、水/スタッコ比が0.7から1.3であり、予めゼラチン化した澱粉及びナフタレンスルホネート分散剤を含むスラリーから形成され、且つ、石膏結晶マトリックスを含有する前記硬化石膏芯は、(i)5ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する水空隙、(ii)少なくとも5ミクロンから50ミクロンの直径の細孔サイズを有する空気空隙、(iii)50ミクロンから100ミクロンの直径の細孔サイズを有する空気空隙、及び、(iv)走査電子顕微鏡写真像を用いて空隙を計測して前記硬化石膏芯の全空隙体積の少なくとも20%を占める100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙、から構成される細孔サイズ分布を有し、前記石膏結晶マトリックスは、前記硬化石膏芯が、ASTM C-473に従って計測して、少なくとも11ポンド(約5kg)の平均の芯の固さを有するように形成されており、且つ、前記ボードは12pcf(約190kg/m^(3))から31pcf(約500kg/m^(3))の密度を有することを特徴とする、軽量石膏ボード。
【請求項2】
前記空隙が、空気空隙及び水空隙を含み、前記空気空隙の平均細孔サイズが、直径で100ミクロンより小さい請求項1に記載の軽量石膏ボード。
【請求項3】
前記空気空隙対水空隙の体積比は、2.3:1から9:1である、請求項1又は2に記載の軽量石膏ボード。
【請求項4】
前記硬化石膏芯は、芯の体積の75%から92%の全空隙体積を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項5】
前記5ミクロン以上の細孔サイズを有する空気空隙と、5ミクロン未満の細孔サイズを有する空隙との体積比は、1.4:1から9:1である、請求項1から4のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項6】
前記ボードは、24pcf(約380kg/m^(3))?31pcf(約500kg/m^(3))の密度を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項7】
前記ボードは、1/2インチ(約1.3cm)の厚さであるときに、(i)1000lb/MSF(約5kg/m^(2))?1300lb/MSF(約6.3kg/m^(2))の乾燥重量を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項8】
前記ボードは、1/2インチ(約1.3cm)の厚さであるときに、(i)1000lb/MSF(約5kg/m^(2))?1300lb/MSF(約6.3kg/m^(2))の乾燥重量、(ii)ASTM基準C-473に従って計測して、少なくとも36lb(16kg)の機械方向の平均曲げ強度、及び/又は、少なくとも107lb(48.5kg)の機械方向の横方向の平均曲げ強度、又は、(iii)(i)及び(ii)の組み合わせを有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項9】
前記スラリーは、フォームをさらに含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項10】
前記ナフタレンスルホネート分散剤は、前記スタッコの重量に対して0.1重量%から3.0重量%の量で存在する、請求項1から9のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項11】
前記スラリーは、ナトリウムトリメタホスフェート、カリウムトリメタホスフェート、リチウムトリメタホスフェート、及び、アンモニウムトリメタホスフェートからなる群より選択されるトリメタホスフェート化合物であって、前記スタッコの重量に対して0.12重量%から0.4重量%の量で存在するトリメタホスフェート化合物をさらに含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項12】
2つのカバーシートの間に配置される硬化石膏芯を含有する軽量石膏ボードであって、前記硬化石膏芯が、水、スタッコ、予めゼラチン化した澱粉、ナフタレンスルホネート分散剤、及びナトリウムトリメタホスフェートを含む石膏含有スラリーから製造され、前記予めゼラチン化した澱粉は、前記スタッコの重量に対して0.5重量%から10重量%の量で存在し、前記ナトリウムトリメタホスフェートは、前記スタッコの重量に対して0.12重量%から0.4重量%の量で存在し、石膏結晶マトリックスを含有する前記硬化石膏芯は、(i)50ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する空隙、(ii)50ミクロンから100ミクロンの直径の細孔サイズを有する空隙、及び、(iii)走査電子顕微鏡写真像を用いて空隙を計測して前記硬化石膏芯の全空隙体積の少なくとも20%を占める100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空隙、から構成される細孔サイズ分布を有し、前記石膏結晶マトリックスは、前記硬化石膏芯が、ASTM C-473に従って計測して、少なくとも11ポンド(約5kg)の平均の芯の固さを有するように形成されており、且つ、前記ボードは12pcf(約190kg/m^(3))から35pcf(約560kg/m^(3))の密度を有することを特徴とする、軽量石膏ボード。
【請求項13】
前記スラリーは、フォームをさらに含む、請求項12に記載の軽量石膏ボード。
【請求項14】
前記ナフタレンスルホネート分散剤は、前記スタッコの重量に対して0.1重量%から3.0重量%の量で存在する、請求項12又は13に記載の軽量石膏ボード。
【請求項15】
前記硬化石膏芯の密度は、24pcf(約380kg/m^(3))?31pcf(約500kg/m^(3))である、請求項12から14のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。
【請求項16】
前記硬化石膏芯は、芯の体積の75%から92%の全空隙体積を有する、請求項12から15のいずれか1項に記載の軽量石膏ボード。


第5.分割の実体的要件について

原査定の理由(1)及び(2)において、本願の原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内ではないとされた、「ASTM基準C-473に従ってそれぞれ計測して、4?8の釘抜き抵抗対芯の固さの比」、及び「密度(pcf)対ASTM基準C-473に従って計測した平均の芯の固さ(lb)の比は3.2未満である」は、それぞれ、平成29年9月7日付けの手続補正、及び平成28年5月6日付けの手続補正により削除された。

また、原査定の理由(1)及び(2)において、本願の原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内ではないとされた「走査電子顕微鏡写真像を用いて空隙を計測して前記硬化石膏芯の全空隙体積の少なくとも20%を占める100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」、及び「X線CTスキャニング技術(XMT)により得られた3次元画像を用いて空隙を計測して前記硬化石膏芯の全空隙体積の少なくとも20%を占める100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」は、「100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」が原出願の当初明細書【0013】における「約10ミクロンより大きい平均直径を有する空隙」の範囲内にある空気空隙であると認められるところ、原出願の当初明細書【0018】に「好ましい態様では、硬化石膏芯内の空隙/細孔のサイズ分布は、約100ミクロンより大きい(20%)、約50ミクロンから約100ミクロン(30%)そして約50ミクロンより小さい(50%)である。すなわち、好ましい中位の空隙/細孔サイズは、約50ミクロンである。」と記載され、「100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」の体積占有率として「20%」という値が記載されていると認められること、原出願の当初明細書【0013】に「例えば、硬化石膏芯は、約80%から約92%の全空隙体積を有することができ、その場合少なくとも60%の全空隙体積が約10ミクロンより大きい平均直径を有する空隙からなり、そして少なくとも10%の全空隙体積が約5ミクロンより小さい平均直径を有する水空隙からなる。」と記載され、前記「少なくとも60%の全空隙体積が約10ミクロンより大きい平均直径を有する空隙からなり」において、空隙の平均直径の下限が「約10ミクロン」より引き上がれば、その下限より大きい空隙の体積占有率が「60%」から引き下がるという関係にあることは自明であり、「100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」の体積占有率が、少なくとも20%(60%未満)であることは当該記載と整合し得るものであること、及び「100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」が「全空隙体積の少なくとも20%を占める」とすることで新たな技術的意義を持たせるものでもないといえること、から、原出願の当初明細書【0013】における「少なくとも60%の全空隙体積が約10ミクロンより大きい平均直径を有する空隙からなり」を明りょうにしたにすぎないという意味を超えて、新たな技術的事項を導入するものとはいえず、原出願の当初明細書の範囲内でないとはいえない。

さらに、軽量石膏ボードの密度について、当審拒絶理由1の理由(4)において、本願の原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内ではないとされた、12pcfより小さい密度は、平成29年9月7日付けの手続補正により、本願発明1において「前記ボードは12pcf(約190kg/m^(3))から31pcf(約500kg/m^(3))の密度を有する」とされ、また本願発明12において「前記ボードは12pcf(約190kg/m^(3))から35pcf(約560kg/m^(3))の密度を有する」とされ、12pcfより小さい密度が削除された。

よって、原査定及び当審拒絶理由1において本願は分割の実体的要件を満たしていないとした理由はいずれも解消したから、本願は分割の実体的要件を満たす分割出願であると認められ、分割出願は原出願のときにしたものとみなされる。


第6.原査定及び当審拒絶理由についての判断

(1)特許法第29条(原査定及び当審拒絶理由1)について
(1-1)原査定の理由(1)及び(2)、当審拒絶理由1の理由(4)について
本願は分割の要件を満たす分割出願であると認められ、分割出願は原出願のときにしたものとみなされることから、本願の出願日を現実の出願日である平成26年6月4日であるとして、本願の分割原出願の国際公開公報である引用文献1を引用する原査定の理由(1)及び(2)、当審拒絶理由1の理由(4)は、いずれも成り立たない。

(2)特許法第36条(原査定、当審拒絶理由1、2)について
(2-1)原査定の理由(3)及び(4)について
(2-1-1)「予めゼラチン化した澱粉」及び「ナフタレンスルホネート分散剤」について
平成30年4月12日付けの手続補正により、本願発明1において「予めゼラチン化した澱粉及びナフタレンスルホネート分散剤を含むスラリーから形成され」と特定され、本願発明12において「前記硬化石膏芯が、水、スタッコ、予めゼラチン化した澱粉、ナフタレンスルホネート分散剤、及びナトリウムトリメタホスフェートを含む石膏含有スラリーから製造され」と特定されたことから、本願発明1及び本願発明1を引用する本願発明2?11、及び本願発明12及び本願発明12を引用する本願発明13?16は、いずれも、スラリーが「予めゼラチン化した澱粉」及び「ナフタレンスルホネート分散剤」を含むことを特定するものとなった。

(2-1-2)「フォーム」について
本願明細書【0013】に、「例えば、硬化石膏芯は、約80%から約92%の全空隙体積を有することができ、その場合少なくとも60%の全空隙体積が約10ミクロンより大きい平均直径を有する空隙からなり、そして少なくとも10%の全空隙体積が約5ミクロンより小さい平均直径を有する水空隙からなる。空気および水の空隙(全芯空隙体積)として約80%から約92%の硬化石膏芯の全空隙体積を有する、この方法で製造された低密度ボード芯が、ボードの切断、鋸挽き、丸のみによる削り、切り込み/折り、釘打ちまたはねじ留めまたは穴開けに曝された空隙中の小さいダストおよび他の屑のかなりの量を捕捉してダストの発生が顕著に低下しそして空気で運ばれないと思われる。」と記載されており、「ボードの切断、鋸挽き、丸のみによる削り、切り込み/折り、釘打ちまたはねじ留めまたは穴開けに曝された空隙中の小さいダストおよび他の屑のかなりの量を捕捉してダストの発生が顕著に低下しそして空気で運ばれない」との本願発明の効果が得られる軽量石膏ボードが「少なくとも60%の全空隙体積が約10ミクロンより大きい平均直径を有する空隙からな」ること、「少なくとも10%の全空隙体積が約5ミクロンより小さい平均直径を有する水空隙からなる」こと、が記載されている。

この点に関し、本願明細書【0015】に、「さらに、予めゼラチン化した澱粉およびナフタレンスルホネート分散剤の組み合わせ(有機相)が、硬化した石膏結晶をともに結合する糊のような作用を生じ、そしてこの処方物が、特別の空隙体積および空隙分布と組み合わされるとき、大きなサイズの破片が仕上げウォールボードの切り込み/折りに生ずることが意外なことに分かった。大きな石膏の破片は、一般に、空気で運ばれにくいダストを生ずる。対照的に、もし従来のウォールボードの形成物が使用されるならば、小さい破片が発生し従ってダストが一層生ずることになる。例えば、従来のウォールボードは、鋸による切断で、約20-30ミクロンの平均直径および約1ミクロンの最低直径を有するダスト破片を生ずる。対照的に、本発明の石膏ウォールボードは、鋸による切断で、約30-50ミクロンの平均直径および約2ミクロンの最低直径を有するダスト破片を生じ、切り込み/折りは、さらに大きな破片を生じさせる。」と記載されており、本願発明における軽量石膏ボードが、予めゼラチン化した澱粉およびナフタレンスルホネート分散剤の組み合わせ(有機相)が特別の空隙体積および空隙分布と組み合わされることにより、切り込み/折りの際に大きなサイズの破片を生ずるものであること、鋸による切断で「約30-50ミクロンの平均直径および約2ミクロンの最低直径を有するダスト破片」を生じさせること、切り込み/折りでは、「さらに大きな破片」を生じさせること、が記載されている。

また、本願明細書【0016】に、「より柔らかいウォールボードでは、ダストは水空隙および空気空隙の両方に捕捉される(例えば、単一の結晶ダストとして小さい石膏の針状物の捕捉)。より固いウォールボードは、空気空隙におけるダスト捕捉を選ぶ。それは、硬化石膏芯の大きな厚い切片または破片がこれらのボードの加工で発生するからである。この場合、ダスト破片は、水空隙にとり余りに大きいが、空気空隙には捕捉される。本発明の1つの態様に従って、硬化石膏芯内に好ましい空隙/細孔のサイズの分布を導入することによりダスト捕捉の増大を達成できる。空気および水の空隙の分布として、小さいおよび大きい空隙のサイズの分布を有することが好ましい。1つの態様において、好ましい空気空隙の分布は、石けんフォームを用いて製造できる。以下の実施例6および7参照。」と記載されており、軽量石膏ボードの加工で発生する大きな厚い切片または破片は、水空隙にとり余りに大きいが、空気空隙には捕捉されることが記載されている。

すると、本願発明における軽量石膏ボードが生じさせる「約30-50ミクロンの平均直径および約2ミクロンの最低直径を有するダスト破片」、及び「さらに大きな破片」は、その大部分が「約5ミクロンより小さい平均直径を有する水空隙」にとり「余りに大きい」ものといえ、その結果、その大部分が空気空隙に捕捉されるものと解されるから、本願明細書【0013】における上記記載において、本願発明の効果が得られる軽量石膏ボードが有すべき必須の空隙体積および空隙分布として記載されているのは、「少なくとも60%の全空隙体積が約10ミクロンより大きい平均直径を有する空隙からな」ることであり、本願発明における軽量石膏ボードは、この空隙体積および空隙分布が予めゼラチン化した澱粉およびナフタレンスルホネート分散剤の組み合わせ(有機相)と組み合わされることにより本願発明の解決すべき課題、すなわち、「ダストの発生が顕著に低下する低密度のウォールボードを製造する方法」を提供すること(本願明細書【0006】)の解決が図られると当業者が認識できるものと解される。

そして、「少なくとも60%の全空隙体積が約10ミクロンより大きい平均直径を有する空隙からな」ることは、「第5.分割について」の第2段落において記載した考え方と同様の考え方で、本願発明1における「前記硬化石膏芯の全空隙体積の少なくとも20%を占める100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空気空隙」、及び本願発明12における「前記硬化石膏芯の全空隙体積の少なくとも20%を占める100ミクロンを超える直径の細孔サイズを有する空隙」により、本願発明1?16において明りょうにされているものと認められるとともに、(2-1-1)に記載した通り、スラリーが「予めゼラチン化した澱粉」及び「ナフタレンスルホネート分散剤」を含むことも、本願発明1?16において特定されている。

すると、本願明細書【0014】等に記載されるように、「フォーム」は空気空隙を生ずるものであると解されるところ、本願発明1?16において、上記の通り、空気空隙の体積および分布を含め、本願発明の解決すべき課題の解決が図られる軽量石膏ボードが有すべき特定がなされていると認められ、当業者が実施できる程度に十分かつ明確に本願明細書の開示がされていると認められるから、本願発明1及び本願発明1を引用する本願発明2?8、10?11(本願発明9を引用する本願発明10?11を除く。)、及び本願発明12及び本願発明12を引用する本願発明14?16(本願発明13を引用する本願発明14?16を除く。)について、スラリーが、フォームを含むことを特定しない点をもって、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(2-1-3)「トリメタホスフェート化合物」について
本願明細書【0010】等にトリメタホスフェート化合物は任意成分であることが記載され、本願明細書【0033】に、「本発明者は、乾燥強さの予想されない増大(特にウォールボードにおいて)が、約0.1重量%から3.0重量%のナフタレンスルホネート分散剤の存在下、少なくとも約0.5重量%から約10重量%の予めゼラチン化した澱粉(好ましくは予めゼラチン化したとうもろこし澱粉)を用いることにより得ることができることをさらに見いだした(澱粉およびナフタレンスルホネートのレベルは処方物に存在する乾燥スタッコの重量に基づく)。この予想されない結果は、水溶性のトリメタホスフェートまたはポリホスフェートが存在してもまたはしなくても得ることができる。」と記載されており、トリメタホスフェート化合物が存在しない場合でも本願発明の効果が得られることが記載されていると認められるから、本願発明1?10について、スラリーが、トリメタホスフェート化合物を含むことを特定しない点をもって、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(2-1-4)小括
よって、本願発明1?16において、原査定の理由(3)及び(4)は解消した。

(2-2)当審拒絶理由1の理由(1)及び(2)について
本願発明1?16において、(2-1)で検討した通り、本願発明の解決すべき課題の解決が図られる軽量石膏ボードが有すべき特定がなされていると認められるから、本願発明1、及び本願発明1を引用する本願発明2?11について、(i)5ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する水空隙、(ii)少なくとも5ミクロンから50ミクロンの直径の細孔サイズを有する空気空隙、及び(iii)50ミクロンから100ミクロンの直径の細孔サイズを有する空気空隙の割合を特定しない点をもって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
また、同様に、本願発明12、及び本願発明12を引用する本願発明13?16について、(i)50ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する空隙、及び(ii)50ミクロンから100ミクロンの直径の細孔サイズを有する空隙の割合を特定しない点、及び「5ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する水空隙」を何ら特定しない点をもって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
よって、本願発明1?16において、当審拒絶理由1の理由(1)及び(2)は解消した。

(2-3)当審拒絶理由1の理由(3)、当審拒絶理由2の理由について
(2-1-1)で検討した通り、平成30年4月12日付けの手続補正により、本願発明1において「予めゼラチン化した澱粉及びナフタレンスルホネート分散剤を含むスラリーから形成され」と特定され、本願発明12において「前記硬化石膏芯が、水、スタッコ、予めゼラチン化した澱粉、ナフタレンスルホネート分散剤、及びナトリウムトリメタホスフェートを含む石膏含有スラリーから製造され」と特定されたことから、本願発明1及び本願発明1を引用する本願発明2?11、及び本願発明12及び本願発明12を引用する本願発明13?16は、いずれも、スラリーが「予めゼラチン化した澱粉」及び「ナフタレンスルホネート分散剤」を含むことを特定するものとなった。
よって、本願発明1?16において、当審拒絶理由1の理由(3)、当審拒絶理由2の理由は解消した。

(2-4)当審拒絶理由1の理由(5)について
平成29年9月7日付けの意見書による釈明により、石膏ボードの断面の走査電子顕微鏡写真像の撮影にあたっては、一般的な試料と同様に試料の樹脂包埋と研磨を行った後に走査電子顕微鏡写真像の撮影を行えば良いこと、及び参考資料2に記載の周知の画像解析法を用いて空隙の測定が可能であることが確認された。
よって、本願発明1?16において、当審拒絶理由1の理由(5)は解消した。


第7.刊行物等提出書に対する判断

平成27年3月12日付けの刊行物等提出書において、原査定及び当審拒絶理由1で引用した引用文献1(国際公開第2008/063295号)の公表特許公報である特表2010-509162号公報に加えて、特表2004-508259号公報、特表2004-529050号公報、特表2003-531096号公報、特表2005-531440号公報、特表平4-505601号公報、特開平10-330174号公報、国際公開第2004/039749号、特開昭56-120580号公報、特開昭54-112925号公報、特開2002-68820号公報、ASTM C1396/C1396M-11 Standard Specification for Gypsum Board(発行日:2011.7)が提出されたが、特表2010-509162号公報、ASTM C1396/C1396M-11 Standard Specification for Gypsum Board(発行日:2011.7)を除くいずれの文献にも、石膏材料を予めゼラチン化した澱粉及びナフタレンスルホネート分散剤を含むスラリーから形成することは記載も示唆もされていない。
また、特表2010-509162号公報、ASTM C1396/C1396M-11 Standard Specification for Gypsum Board(発行日:2011.7)は、「第5.分割について」に記載した通り、本願が分割の要件を満たす分割出願であると認められ、分割出願は原出願のときにしたものとみなされるから、本願の出願時における公知文献ではない。

また、平成29年10月4日付けの刊行物等提出書において、本願の平成29年9月7日付けの意見書及び手続補正書が提出され、提出の理由として、本願の平成29年9月7日付けの手続補正における請求項1は(i)、(ii)、(iii)の空隙の割合を、請求項13は(i)、(ii)の空隙の割合、及び「5ミクロン未満の直径の細孔サイズを有する水空隙」の割合を、ぞれぞれ特定するものではなく、当業者が加工中ダストの発生が顕著に減少する軽量石膏ボード、及び、その製造方法を提供するという課題を解決し得るとは認識できないとされているが、 「第6.原査定及び当審拒絶理由についての判断」の(2-2)で検討した通り、本願発明1?16において、本願発明の解決すべき課題を解決し得ると当業者が認識できる軽量石膏ボードが有すべき特定がなされていると認められる。


第8.むすび

以上のとおり、原査定の理由及び当審からの拒絶理由のいずれによっても本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-12 
出願番号 特願2014-115911(P2014-115911)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (C04B)
P 1 8・ 537- WY (C04B)
P 1 8・ 113- WY (C04B)
P 1 8・ 121- WY (C04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 真明永田 史泰  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 中澤 登
馳平 憲一
発明の名称 軽量な石膏ボード  
代理人 毛受 隆典  
代理人 木村 満  
代理人 森川 泰司  
代理人 桜田 圭  

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