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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1340918 |
審判番号 | 不服2017-5803 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-04-21 |
確定日 | 2018-06-26 |
事件の表示 | 特願2015-148127「ハードコートフィルム及びハードコートフィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日出願公開、特開2015-212842、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2015-148127号(以下、「本件出願」という。)は、平成23年2月14日に出願された特願2011-28849号の一部を平成27年7月27日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成28年 4月28日付け:拒絶理由通知書 平成28年 7月25日付け:意見書、手続補正書 平成28年 8月 9日付け:拒絶理由通知書 平成28年12月14日付け:意見書 平成29年 1月13日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。) 平成29年 4月21日付け:審判請求書 平成30年 2月28日付け:拒絶理由通知書(以下、通知された拒絶の 理由を「当審拒絶理由」という。) 平成30年 5月 1日付け:意見書、手続補正書(以下、この手続補正書 による手続補正を「本件補正」という。) 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 理由1.(新規性) この出願の請求項1、2に係る発明は、下記の引用文献Aに記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2.(進歩性) この出願の請求項1-13に係る発明は、下記の引用文献A、引用文献Bに記載された発明、及び引用文献C-Hに記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 A.特開2010-122325号公報 B.特開2007-237483号公報 C.特開2000-112379号公報(周知技術を示す文献) D.特開2000-159916号公報(周知技術を示す文献) E.特開2010-151910号公報(周知技術を示す文献) F.国際公開第2010/074166号(周知技術を示す文献) G.特開2007-140229号公報(周知技術を示す文献) H.特開2009-52036号公報(周知技術を示す文献) 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 理由1.(新規性) 本件出願の特許請求の範囲の請求項1、2、4、9、11に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2.(進歩性) 本件出願の特許請求の範囲の請求項1-13に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明、及び引用文献2-5に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2009-42647号公報(当合議体において新たに引用した 文献) 2.特開2000-112379号公報(原査定時の引用文献C) 3.特開2000-159916号公報(原査定時の引用文献D) 4.特開2007-140229号公報(原査定時の引用文献G) 5.特開2010-151910号公報(原査定時の引用文献E) 第4 本願発明 本件出願の特許請求の範囲の請求項1-13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明13」という。)は、本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 基材と、前記基材の表面に形成された、樹脂を1種類単独で含む硬化性材料が硬化した単層のハードコート層(ただし、前記ハードコート層の前記基材とは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも前記基材側の領域に比べて、前記ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当たりの反応性官能基を表面に有する反応性無機微粒子の平均粒子数が多いスキン層を有するハードコート層を除く。)とを備え、 前記ハードコート層の前記基材とは反対側の表面部分の硬度が、前記ハードコート層の前記基材との界面部分の硬度よりも大きい、ハードコートフィルム。 【請求項2】 前記ハードコート層の表面の硬度がH以上である、請求項1記載のハードコートフィルム。 【請求項3】 前記ハードコートフィルムのカール高さが20mm以下である、請求項1又は2記載のハードコートフィルム。 【請求項4】 前記ハードコート層の厚みが30μm以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項5】 基材の硬度がB以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項6】 前記基材が位相差を有する、請求項1?5のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項7】 前記基材が延伸フィルムである、請求項6に記載のハードコートフィルム。 【請求項8】 前記基材が斜め延伸されたものである、請求項6又は7に記載のハードコートフィルム。 【請求項9】 前記基材が熱可塑性樹脂のフィルムであり、前記基材の厚みが10μm以上250μm以下である、請求項1?8のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項10】 前記基材が、2層以上の層を有する複層のフィルムである、請求項1?9のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項11】 前記ハードコート層が、微粒子を含む、請求項1?10のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項12】 請求項1?11のいずれか一項に記載のハードコートフィルムを備える、タッチパネル機能を有する液晶表示装置。 【請求項13】 請求項1?11のいずれか一項に記載のハードコートフィルムと偏光子とが貼り合わせられた、偏光板。」 第5 引用文献、引用発明等 1 当審拒絶理由に引用された引用文献1(特開2009-42647号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 a 「【請求項1】 透明基材フィルム上にハードコート層を設けてなるハードコートフィルムであって、 当該ハードコート層は、 平均粒径が5nm以上30nm以下の範囲にあり、少なくとも表面の一部を有機成分で被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基aを表面に有する反応性無機微粒子A、及び、 前記反応性無機微粒子Aの反応性官能基aとの架橋反応性を有する反応性官能基bを有するバインダー成分Bを含み、系内における硬化反応性も有する硬化性バインダー系、を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、 当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有しており、 当該スキン層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数の2倍以上であることを特徴とする、ハードコートフィルム。」 b 「【0001】 本発明は、ディスプレイ、例えば、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクションディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表面を保護する目的等で使用される、透明基材フィルム上にハードコート層を設けたハードコートフィルムに関する。 【背景技術】 【0002】 液晶ディスプレイ(LCD)又は陰極管表示装置(CRT)等の画像表示装置における画像表示面は、取り扱い時に傷がつかないように、耐擦傷性を付与することが要求される。これに対して、基材フィルムにハードコート(HC)層を形成させた光学積層体(以下、ハードコートフィルムと呼称する。)を利用することにより、画像表示装置の画像表示面の耐擦傷性を向上させることが一般になされている。 【0003】 一般的にプラスチック表面を硬質化する技術としては、オルガノシロキサン系、メラミン系等の熱硬化性樹脂をコーティングしたり真空蒸着法やスパッタリング法等で金属薄膜を形成する方法、あるいは多官能アクリレート系の活性エネルギー線硬化性樹脂をコーティングする方法などが挙げられる。 【0004】 ところで、ディスプレイの前面に貼り付けたり、配置したりして、外光の反射を防止し、映像を見やすくする目的などに使用される反射防止フィルムとして用いられる光学フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。 この光学フィルムは、透明プラスチックの基材フィルム上に硬化層が形成されている。硬化層表面(基材フィルム反対面)側に低屈折微粒子である中空シリカを偏在させることで、見かけ上の低屈折率層を形成し、優れた反射防止性が得られることが記載されている。中空シリカとしては、空腔部の割合を大きくして屈折率を更に低いものとするため、平均粒径が30nm以上のものを用いると記載され、実施例では平均粒径が40nmのものが用いられている。中空シリカを硬化層表面側に偏在させるため、中空シリカをフッ素含有化合物で表面処理し、表面自由エネルギーを小さくしている。」 c 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は上記実状に鑑みて成し遂げられたものであり、従来のハードコートフィルムより、耐擦傷性に優れるハードコートフィルムを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明に係るハードコートフィルムは、透明基材フィルム上にハードコート層を設けてなるハードコートフィルムであって、 当該ハードコート層は、平均粒径が5nm以上30nm以下の範囲にあり、少なくとも表面の一部を有機成分で被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基aを表面に有する反応性無機微粒子A、及び、前記反応性無機微粒子Aの反応性官能基aとの架橋反応性を有する反応性官能基bを有するバインダー成分Bを含み、系内における硬化反応性も有する硬化性バインダー系、を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、 当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有しており、 当該スキン層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数の2倍以上であることを特徴とする。 本発明によれば、反応性無機微粒子Aが、ハードコート層の透明基材フィルム側とは反対側の界面に密集してスキン層が形成され、当該スキン層は、反応性無機微粒子Aの反応性官能基aとバインダー成分Bの反応性官能基bによる架橋点の増加と、反応性無機微粒子Aの硬度により、高い硬度と膜強度を有し、優れたハードコート性を示すハードコートフィルムを得ることができる。 【0008】 本発明に係るハードコートフィルムにおいて、前記スキン層によるハードコート性向上効果をさらに高めるためには、前記スキン層の厚さは、前記透明基材フィルムとは反対側の界面から前記反応性無機微粒子Aの平均粒径の等倍から2倍までの厚さであることが好ましく、また、前記スキン層において、前記反応性無機微粒子Aが密集していることが好ましい。」 d 「【発明の効果】 【0021】 本発明に係るハードコートフィルムは、ハードコート層において、透明基材フィルムとは反体側界面及びその近傍の表層領域に、特定粒径を有し、且つ、ハードコート層を形成するバインダー成分と架橋結合を形成し得る反応性官能基を有する反応性無機微粒子を、偏在させることによって、ハードコート層のハードコート性を向上させたものであり、優れたハードコート性を備えている。 【発明を実施するための最良の形態】 【0022】 本発明のハードコートフィルムは、透明基材フィルム上にハードコート層を設けてなるハードコートフィルムであって、 当該ハードコート層は、 平均粒径が5nm以上30nm以下の範囲にあり、少なくとも表面の一部を有機成分で被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基aを表面に有する反応性無機微粒子A、及び、 前記反応性無機微粒子Aの反応性官能基aとの架橋反応性を有する反応性官能基bを有するバインダー成分Bを含み、系内における硬化反応性も有する硬化性バインダー系、を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、 当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有しており、 当該スキン層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数の2倍以上であることを特徴とするものである。 【0023】 ここで、スキン層とは、ハードコート層の透明基材フィルム側とは反対側の界面(いわゆる空気界面)から一定の深さに亘る表層領域に、反応性無機微粒子Aが偏在して形成された層状構造であり、ハードコート層の空気界面側の最表面を構成するものである。スキン層は、該ハードコート層の該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域と比較して、反応性無機微粒子Aを多く含有しており、ハードコート層において、透明基材フィルムとは反対側の界面から一定の深さを過ぎると、その厚み方向断面における単位面積当りの反応性無機微粒子Aの平均粒子数は、透明基材フィルム側に向かって急激に減少し、スキン層の境界の存在を明瞭に判別することができる。スキン層の厚み方向断面における単位面積当りの反応性無機微粒子Aの平均粒子数は、該スキン層を含むハードコート層全体の厚み方向断面における単位面積当りの平均粒子数の2倍以上となっている。 【0024】 図1に、本発明のハードコートフィルムの一形態例を示す。図1に示すハードコートフィルム10において、透明基材フィルム2の一方の面上には、直接、ハードコート層1が設けられている。ハードコート層1は、該ハードコート層1の透明基材フィルム2側とは反対側の界面に、反応性無機微粒子4が偏在してなるスキン層5を有している。 【0025】 ここで、本発明に係るハードコートフィルムのハードコート層1における反応性無機微粒子Aの分布状態について、図2を用いて説明する。 まず、ハードコート層1の厚さ方向断面において、透明基材フィルム2側の界面1a、該透明基材フィルムとは反対側の界面(空気側界面)1b、及び、ハードコート層1の厚さ方向に平行な2辺に囲まれた領域Sを切り取り、該領域Sの単位面積あたりの反応性無機微粒子Aの平均粒子数Pを、該ハードコート層1全体の厚さ方向断面における単位面積当りの反応性無機微粒子Aの平均粒子数とする。 領域Sにおいて、空気側界面から一定の深さD_(1)までの領域s_(1)における単位面積当りの平均粒子数p_(1)を測定すると、p_(1)>P×2である。空気側界面からの深さDをD_(1)よりも深くし、空気側界面から深さDまでの領域sにおける単位面積当りの平均粒子数pを測定していくと、単位面積当りの平均粒子数p_(m)が、p_(m)=P×2となる深さD_(m)がある。そして、空気側界面からの深さがD_(m)よりも深い、深さD_(m+1)までの領域s_(m+1)では、単位面積当りの平均粒子数p_(m+1)は、p_(m+1)<P×2となる。このとき、空気界面側から深さD_(m)までの領域s_(m)をスキン層5と考えることができる。」 e 「 」 2 上記1の記載a-eより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「透明基材フィルム上にハードコート層を設けてなるハードコートフィルムであって、 当該ハードコート層は、 平均粒径が5nm以上30nm以下の範囲にあり、少なくとも表面の一部を有機成分で被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基aを表面に有する反応性無機微粒子A、及び、 前記反応性無機微粒子Aの反応性官能基aとの架橋反応性を有する反応性官能基bを有するバインダー成分Bを含み、系内における硬化反応性も有する硬化性バインダー系、を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、 当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有しており、 当該スキン層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数の2倍以上である、ハードコートフィルム。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「透明基材フィルム」は、その機能からみて、本願発明1の「基材」に相当する。 イ 引用発明の「ハードコート層」は、透明基材フィルム上に設けられ、「平均粒径が5nm以上30nm以下の範囲にあり、少なくとも表面の一部を有機成分で被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基aを表面に有する反応性無機微粒子A、及び、前記反応性無機微粒子Aの反応性官能基aとの架橋反応性を有する反応性官能基bを有するバインダー成分Bを含み、系内における硬化反応性も有する硬化性バインダー系、を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からな」る。 ここで、引用発明の「硬化性樹脂組成物」は、その文言が意味するとおり、樹脂を含むものであり、また、硬化性の材料といえる。また、引用発明の「ハードコート層」は、その文言が意味するとおりの層であるところ、その製造工程からしてみると、実質的に単層のものといえる。 したがって、引用発明の「硬化性樹脂組成物」及び「ハードコート層」は、それぞれ本願発明1の「硬化性材料」及び「ハードコート層」に相当する。また、引用発明の「ハードコート層」と本願発明1の「ハードコート層」は、「前記基材の表面に形成された、樹脂を」「含む硬化性材料が硬化した単層の」ものである点で共通する。 ウ 引用発明の「ハードコート層」は、「当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有して」いるから、透明基材フィルムとは反対側の表面部分の硬度が、透明基材フィルムとの界面部分の硬度よりも大きいといえる(引用文献1の【0021】の記載からも確認できる事項である。)。 そうすると、引用発明の「ハードコート層」は、本願発明1の「前記ハードコート層の前記基材とは反対側の表面部分の硬度が、前記ハードコート層の前記基材との界面部分の硬度よりも大きい」という要件を満たしている。 エ 上記アないしウより、引用発明の「ハードコートフィルム」は、下記の相違点1及び2を除き、本願発明1の「ハードコートフィルム」に相当する。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。 「基材と、前記基材の表面に形成された、樹脂を含む硬化性材料が硬化した単層のハードコート層とを備え、 前記ハードコート層の前記基材とは反対側の表面部分の硬度が、前記ハードコート層の前記基材との界面部分の硬度よりも大きい、ハードコートフィルム。」 イ 相違点 本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。 (相違点1) 本願発明1においては、硬化性材料が「樹脂を1種類単独で含む」のに対し、引用発明においては、硬化性樹脂組成物が樹脂を1種類単独で含むのか明らかでない点。 (相違点2) 本願発明1のハードコート層は、「ハードコート層(ただし、前記ハードコート層の前記基材とは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも前記基材側の領域に比べて、前記ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当たりの反応性官能基を表面に有する反応性無機微粒子の平均粒子数が多いスキン層を有するハードコート層を除く。)」であるのに対し、引用発明のハードコート層は、「当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有して」いる点。 (3)判断 ア 本願発明1と引用発明は、上記相違点1及び2で実質的に相違するから、本願発明1と引用発明は、同一ではない。 したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるということができない。 イ 事案に鑑み、上記相違点2について検討する。 引用文献1の背景技術(【0002】-【0004】)、発明が解決しようとする課題(【0006】)、課題を解決するための手段(【0007】【0008】)、及び発明の効果(【0021】)に鑑みると、引用発明の「当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有しており」という構成は、引用発明において欠くべからざる構成であると理解することができる。 そうすると、引用発明を「当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性無機微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有」さないものに変更することには阻害要因があるといえ、これは引用文献2-引用文献5に記載された事項を勘案しても変わることはない。 したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-引用文献5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。 2 本願発明2-13について 本願発明2-13も、上記相違点2に係る本願発明1の構成を具備するから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明であるということができず、また、当業者が、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-引用文献5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。 第7 原査定についての判断 本願発明1-13は、いずれも「前記基材の表面に形成された、樹脂を1種類単独で含む硬化性材料が硬化した単層のハードコート層(ただし、前記ハードコート層の前記基材とは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも前記基材側の領域に比べて、前記ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当たりの反応性官能基を表面に有する反応性無機微粒子の平均粒子数が多いスキン層を有するハードコート層を除く。)」という発明特定事項を具備するところ、当該発明特定事項は、引用文献A-Hに記載も示唆もされておらず、また、周知の技術的事項でもない。 そうすると、本願発明1-13は、引用文献Aに記載された発明であるということができず、また、当業者が、引用文献Aに記載された発明又は引用文献Bに記載された発明、並びに、引用文献C-引用文献Hに記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によって、本件出願を拒絶することはできない。 他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-06-11 |
出願番号 | 特願2015-148127(P2015-148127) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 植野 孝郎 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
河原 正 関根 洋之 |
発明の名称 | ハードコートフィルム及びハードコートフィルムの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |