• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1340930
審判番号 不服2016-9756  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-29 
確定日 2018-06-07 
事件の表示 特願2014-507979「無線電力伝送システムおよび無線電力伝送方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日国際公開,WO2013/146929〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,2013年(平成25年)3月27日(国内優先権主張 2012年(平成24年)3月28日,2012年(平成24年)8月1日)を国際出願日とする出願であって,平成28年3月25日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年3月29日),これに対して,平成28年6月29日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,手続補正がなされた。
その後,当審より平成29年4月19日付けで拒絶理由を通知し(発送日:同年4月25日),これに対して同年6月26日に意見書及び手続補正書が提出され,再度当審により同年7月21日付けで拒絶理由を通知し(発送日:同年7月25日),同年9月12日に面接し,同年9月25日に意見書及び手続補正書が提出され,当審により同年10月12日付けで最後の拒絶理由を通知し(発送日:同年10月17日),これに対して応答期間内である同年12月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものであって,「無線電力伝送システムおよび無線電力伝送方法」に関するものと認められる。

第2 平成29年12月15日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年12月15日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の内容
本件補正により,本件補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】
複数の送電器と,
受電器と,を有し,
前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送システムであって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項2】
前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,
該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する,
ことを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項3】
さらに,他の受電器を有し,
前記他の受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該他の受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲が前記他の受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲の少なくとも一部と重なっていることが検出されると,前記受電器により検出された2以上の送電器および前記他の受電器により検出された2以上の送電器のうち1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定される,
ことを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
前記複数の送電器は,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力を送電するワイヤレス送電部をそれぞれ含み,
前記受電器は,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により送電された電力を受電するワイヤレス受電部を含む,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
さらに,電源部と,該電源部および前記ワイヤレス送電部を制御する送電制御部と,を有し,
前記ワイヤレス送電部は,LC共振器を含み,
前記送電制御部は,前記ワイヤレス送電部のLC共振器が,前記少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して無線により電力伝送を行っていない通常時に動作しないように制御する,
ことを特徴とする請求項4に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
さらに,前記ワイヤレス受電部から電力を取り出す受電回路部と,前記受電回路部を制御する受電制御部と,を有し,
前記ワイヤレス受電部は,LC共振器を含み,
前記受電制御部は,前記ワイヤレス受電部のLC共振器が,前記少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して無線により電力伝送を行っていない通常時に動作しないように制御する,
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
さらに,他の1以上の受電器を有し,
前記マスタ送電器は,バッテリ残量ゼロの前記受電器に対して電磁誘導を利用した電力伝送を行い,前記他の1以上の受電器のワイヤレス受電部のLC共振器を動作しないように制御する,
ことを特徴とする請求項4乃至請求項6いずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記複数の送電器の各々は,他の前記送電器および前記受電器との間で通信を行う第1通信回路部を含み,
前記受電器は,前記複数の送電器との間で通信を行う第2通信回路部を含む,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器による電力伝送が可能な範囲を示す複数の電力伝送範囲の情報と,
前記複数の送電器による通信が可能な範囲を示す複数の通信範囲の情報と,
前記受電器の位置を示す位置情報と,を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8いずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項10】
前記マスタ送電器は,さらに,
前記複数の電力伝送範囲内で,生体を感知する生体感知範囲の情報を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項9に記載の無線電力伝送システム。
【請求項11】
前記マスタ送電器は,さらに,
前記電力伝送の対象となる受電器の姿勢情報を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項12】
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器のうち,少なくとも2つの送電器の電力伝送範囲が重なり,該重なった電力伝送範囲に少なくとも1つの受電器が含まれるときに設定される,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項13】
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択される,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項14】
前記受電器がバッテリ残量ゼロのとき,該バッテリ残量ゼロの受電器は,前記複数の送電器の1つに接するように配置される,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項15】
前記複数の送電器は,それぞれ発振器および同期回路を含み,
前記複数の送電器のうち,1つの送電器はプライマリ送電器に設定されると共に,他の送電器はセカンダリ送電器に設定され,
前記受電器に対して,複数の送電器が電力伝送を行うとき,
前記プライマリ送電器は,前記発振器の周波数に従って電力伝送を行い,
前記セカンダリ送電器は,該セカンダリ送電器の前記同期回路を,前記プライマリ送電器の前記発振器の周波数に同期させ,その周波数が同期された前記セカンダリ送電器の前記同期回路の周波数に従って電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項16】
複数の送電器と,受電器と,を有し,前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送方法であって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送方法。
【請求項17】
複数の送電器と,
受電器と,を有し,
前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送システムであって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器による電力伝送が可能な範囲を示す複数の電力伝送範囲の情報と,
前記複数の送電器による通信が可能な範囲を示す複数の通信範囲の情報と,
前記受電器の位置を示す位置情報と,を受け取って該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項18】
複数の送電器と,受電器と,を有し,前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送方法であって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器による電力伝送が可能な範囲を示す複数の電力伝送範囲の情報と,
前記複数の送電器による通信が可能な範囲を示す複数の通信範囲の情報と,
前記受電器の位置を示す位置情報と,を受け取って該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送方法。
【請求項19】
複数の送電器と,
受電器と,を有し,
前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送システムであって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて,
該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項20】
複数の送電器と,受電器と,を有し,前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送方法であって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて,
該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送方法。」
という記載は,
「【請求項1】
複数の送電器と,
受電器と,を有し,
前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送システムであって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて,該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行い,
前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,
該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する,
ことを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項2】
前記複数の送電器は,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力を送電するワイヤレス送電部をそれぞれ含み,
前記受電器は,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により送電された電力を受電するワイヤレス受電部を含む,
ことを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項3】
さらに,電源部と,該電源部および前記ワイヤレス送電部を制御する送電制御部と,を有し,
前記ワイヤレス送電部は,LC共振器を含み,
前記送電制御部は,前記ワイヤレス送電部のLC共振器が,前記少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して無線により電力伝送を行っていない通常時に動作しないように制御する,
ことを特徴とする請求項2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
さらに,前記ワイヤレス受電部から電力を取り出す受電回路部と,前記受電回路部を制御する受電制御部と,を有し,
前記ワイヤレス受電部は,LC共振器を含み,
前記受電制御部は,前記ワイヤレス受電部のLC共振器が,前記少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して無線により電力伝送を行っていない通常時に動作しないように
制御する,
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
さらに,他の1以上の受電器を有し,
前記マスタ送電器は,バッテリ残量ゼロの前記受電器に対して電磁誘導を利用した電力伝送を行い,前記他の1以上の受電器のワイヤレス受電部のLC共振器を動作しないように制御する,
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4いずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
前記複数の送電器の各々は,他の前記送電器および前記受電器との間で通信を行う第1通信回路部を含み,
前記受電器は,前記複数の送電器との間で通信を行う第2通信回路部を含む,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器による電力伝送が可能な範囲を示す複数の電力伝送範囲の情報と,
前記複数の送電器による通信が可能な範囲を示す複数の通信範囲の情報と,
前記受電器の位置を示す位置情報と,を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6いずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記マスタ送電器は,さらに,
前記複数の電力伝送範囲内で,生体を感知する生体感知範囲の情報を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項7に記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
前記マスタ送電器は,さらに,
前記電力伝送の対象となる受電器の姿勢情報を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項10】
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器のうち,少なくとも2つの送電器の電力伝送範囲が重なり,該重なった電力伝送範囲に少なくとも1つの受電器が含まれるときに設定される,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項11】
前記受電器がバッテリ残量ゼロのとき,該バッテリ残量ゼロの受電器は,前記複数の送電器の1つに接するように配置される,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項12】
前記複数の送電器は,それぞれ発振器および同期回路を含み,
前記複数の送電器のうち,1つの送電器はプライマリ送電器に設定されると共に,他の送電器はセカンダリ送電器に設定され,
前記受電器に対して,複数の送電器が電力伝送を行うとき,
前記プライマリ送電器は,前記発振器の周波数に従って電力伝送を行い,
前記セカンダリ送電器は,該セカンダリ送電器の前記同期回路を,前記プライマリ送電器の前記発振器の周波数に同期させ,その周波数が同期された前記セカンダリ送電器の前記同期回路の周波数に従って電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項13】
複数の送電器と,受電器と,を有し,前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送方法であって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて,該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行い,
前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,
該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する,
ことを特徴とする無線電力伝送方法。」
と補正された(当審にて,補正された箇所に下線を付した。)。

2.新規事項について
(1)本件補正は,「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する」を本件補正後の請求項1の記載とすることを含むものである。
上記補正において,「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信」すること」,即ち,「受電器は,該受電器により検出された2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な送電器へ送信すること」及び「該受電器と通信可能な『少なくとも1つ』の送電器へ送信すること」が,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものか否かを検討する。
その際,まず,「受電器は,該受電器により検出された2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な送電器へ送信すること」が当初明細書等に記載した事項の範囲内おいてしたものか否かについて検討し,次に,「該受電器と通信可能な『少なくとも1つ』の送電器へ送信すること」とあり,「少なくとも1つ」は「1つ」でもよいので,複数の送信器から1つを選択しなければならないこととなるから,上記補正に含まれる「受電器は,該受電器により検出された2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な1つの送信器を選択して送信すること」が,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものか否かを検討する。

(2)「マスタ送電器」,「スレーブ送電器」,及び「マスタ送電器」と「スレーブ送電器」の設定に関する当初明細書等の記載事項
・「【請求項1】
複数の送電器と,
少なくとも1つの受電器と,を有し,
前記送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送システムであって,
前記複数の送電器の内,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定し,
前記マスタ送電器は,前記複数の送電器および前記少なくとも1つの受電器を制御して電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送システム。」
・「【請求項4】
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器による電力伝送が可能な範囲を示す複数の電力伝送範囲の情報と,
前記複数の送電器による通信が可能な範囲を示す複数の通信範囲の情報と,
前記受電器の位置を示す位置情報と,を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項3に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
前記マスタ送電器は,さらに,
前記複数の電力伝送範囲内で,生体を感知する生体感知範囲の情報を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項4に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
前記マスタ送電器は,さらに,
前記電力伝送の対象となる受電器の姿勢情報を受け取って前記電力伝送を行う,
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器の内,少なくとも2つの送電器の電力伝送範囲が重なり,該重なった電力伝送範囲に少なくとも1つの受電器が含まれるときに設定される,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器の内,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択される,
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。」
・「【請求項11】
複数の送電器と,少なくとも1つの受電器と,を有し,前記送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送方法であって,
前記複数の送電器の内,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定し,
前記マスタ送電器は,前記複数の送電器および前記少なくとも1つの受電器を制御して電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送方法。」
・「【0011】
前記無線電力伝送システムは,前記複数の送電器の内,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する。前記マスタ送電器は,前記複数の送電器および前記少なくとも1つの受電器を制御して電力伝送を行う。」
・「【図6A】図6Aは,複数の送電器および受電器間の対応を説明するための図(その1)である。
【図6B】図6Bは,図6Aにおける各受電器の状態を説明するための図である。
【図6C】図6Cは,複数の送電器および受電器間の対応を説明するための図(その2)である。
【図6D】図6Dは,複数の送電器および受電器間の対応を説明するための図(その3)である。
【図6E】図6Eは,複数の送電器および受電器間の対応を説明するための図(その4)である。
【図6F】図6Fは,複数の送電器および受電器間の対応を説明するための図(その5)である。」
・「【図19】図19は,本実施例の無線電力伝送システムにおける処理の第1例を説明するためのフローチャートである。」
・「【0018】
1次側1と2次側2は,通信回路部14と通信回路部24により,通信(近距離通信)を行う。ここで,1次側1のLC共振器11aと2次側2のLC共振器21aによる電力の伝送距離(電力伝送範囲PR)は,1次側1の通信回路部14と2次側2の通信回路部24による通信距離(通信範囲CR)よりも短く設定される(PR<CR)。」
・「【0038】
なお,後に詳述するが,複数の送電器の内,1つの送電器をマスタとし,他の送電器をスレーブにするということは,1つのマスタ送電器の演算処理装置(CPU)により,マスタ送電器およびスレーブ送電器に含まれる全てのLC共振器を制御することを意味する。」
・「【0041】
すなわち,本実施例の無線電力伝送システムは,複数の送電器と,少なくとも1つの受電器とを含み,受電器の位置(X,Y,Z)および姿勢(θ_(X),θ_(Y),θ_(Z))に応じて,その複数の送電器間の出力(強度および位相)を調整する。」
・「【0043】
本実施例の無線電力伝送システムでは,複数の送電器1A,1Bにおける1つの送電器1Aをマスタ(主)とすると共に,他の送電器1Bをスレーブ(従)と定め,例えば,複数の送電器および受電器の最適化等の処理は,マスタ(送電器1A)が決定するものとする。
【0044】
図6Aにおいて,参照符号PRaは送電器1Aの電力伝送範囲(マスタ送電圏)を示し,PRbは送電器1Bの電力伝送範囲(スレーブ送電圏)を示し,CRaは送電器1Aの通信範囲(マスタ通信圏)を示し,CRbは送電器1Bの通信範囲(スレーブ通信圏)を示す。
【0045】
従って,受電器2A?2Eは,次のようになる。すなわち,図6Bに示されるように,受電器2Aは,マスタ通信圏CRa外(×),スレーブ通信圏Crb外,マスタ送電圏PRa外およびスレーブ送電圏PRb外になり,単に送電器からの通信を待つことになる。
【0046】
次に,受電器2Bは,マスタ通信圏CRa内(○),スレーブ通信圏CRb外,マスタ送電圏PRa外およびスレーブ送電圏PRb外になり,マスタの送電器1Aとの通信を行うことにより,電力圏外(マスタおよびスレーブの送電圏外)であることが確認できる。
【0047】
また,受電器2Cは,マスタ通信圏CRa内,スレーブ通信圏CRb内,マスタ送電PRa圏外およびスレーブ送電圏PRb外になり,マスタおよびスレーブの送電器1A,1Bとの通信を行うことにより,電力圏外であることが確認できる。
【0048】
さらに,受電器2Dは,マスタ通信圏CRa内,スレーブ通信圏CRb内,マスタ送電圏PRa内およびスレーブ送電圏PRb外になり,送電器1A,1Bとの通信を行うことにより,1Aの電力圏内(マスタ送電圏PRa内)であることが確認できる。
【0049】
そして,受電器2Eは,マスタ通信圏CRa内,スレーブ通信圏CRb内,マスタ送電圏PRa内およびスレーブ送電圏PRb内になり,送電器1A,1Bとの通信を行うことにより,1A,1Bの電力圏内(送電圏PRa,PRb内)であることが確認できる。
【0050】
ここで,複数の送電器において,マスタになる1つの送電器を決定するが,その決定方法としては,後述するように,例えば,その通信圏内に最も多くの受電器が存在する,或いは,その送電圏内に最も多くの受電器が存在するといった条件により決定する。
【0051】
例えば,その通信圏内にそれぞれ1つの受電器が存在するといった同等の条件が成立する場合,例えば,受電器との間の通信強度といったさらなる条件を加えてマスタを決定するか,或いは,乱数表等を使用して任意の1つの送電器をマスタに決定してもよい。
【0052】
ところで,異なる製造メーカによる送電器は,例えば,その送電器の強度や位相の最適化ルールはそれぞれ異なる。そこで,本実施例の無線電力伝送システムでは,複数の送電器の内の1つをマスタとして決めることで,そのマスタになった送電器が他のスレーブの送電器を含め,最適化を制御する。
【0053】
図6C?図6Eは,複数の送電器および受電器間の対応を説明するための図(その2?4)であり,複数の送電器間におけるマスタ/スレーブの決め方を説明するものである。
【0054】
まず,複数の送電器において,マスタ送電器およびスレーブ送電器を設定するのは,送電器が互いに通信範囲(通信圏)内にあり,電力伝送範囲(送電圏)が重なっており,しかも,受電器により送電圏が重なっていることが検出される場合である。
【0055】
すなわち,図6Cは,送電器1Aの通信圏CRaおよび送電器1Bの通信圏CRbは重なっているが,送電器1Aの送電圏PRaおよび送電器1Bの送電圏PRbは重なっていない場合を示す。このとき,互いの送電圏PRa,PRbは重ならないので,両方の送電器1Aおよび1Bを,それぞれマスタ送電器として設定される。
【0056】
次に,図6Dは,送電器1Aの通信圏CRaおよび送電圏PRaと,送電器1Bの通信圏CRbおよび送電圏PRbが重なり,受電器2が送電圏PRaおよびPRbの両方に含まれる位置に存在する場合を示す。
【0057】
この図6Dの場合には,送電器1A,1Bが互いに通信圏CRa,CRb内にあり,送電圏PRa,PRbが重なっており,しかも,受電器2により送電圏PRa,PRbが重なっていることが検出される。
【0058】
従って,図6Dの場合には,送電器1A,1Bの内,一方(1A)をマスタ送電器に設定し,他方(1B)をスレーブ送電器に設定する。このとき,送電器1Bをマスタとし,送電器1Aをスレーブとしてもよいが,いずれかをマスタ送電器に設定する。
【0059】
さらに,図6Eは,送電器1Aおよび1Bは,上述した図6Dと同じ位置関係に配設されているが,受電器2が存在しない(通信圏CRaおよびCRbに存在しない)場合であり,このときは,両方ともマスタに設定する。
【0060】
なお,3つ以上の送電器に対しても,例えば,図6Dに相当する場合には,いずれか1つをマスタ送電器に設定する。なお,複数の送電器から1つのマスタ送電器を決定する手法は,様々なものが考えられるが,その一例を図6Fを参照して説明する。
【0061】
図6Fは,複数の送電器および受電器間の対応を説明するための図(その5)であり,4つの送電器1A?1Dが一列に並んだ場合を示すものである。ここで,送電器1Aの通信圏CRaは,送電器1Bを含むが送電器1Cおよび1Dを含まず,同様に,送電器1Dの通信圏CRdは,送電器1Cを含むが送電器1Aおよび1Bを含まない。
【0062】
また,送電器1Bの通信圏CRbは,送電器1Aおよび1Cを含むが送電器1Dを含まず,同様に,送電器1Cの通信圏CRcは,送電器1Bおよび1Dを含むが送電器1Aを含まない。
【0063】
この図6Fの場合,例えば,送電器1Bをマスタ(マスタ送電器)とし,他の送電器1A,1C,1Dをスレーブ(スレーブ送電器)に設定する。ここで,送電器1Cをマスタに設定することもできる。なお,送電器1Bをマスタに設定すると,送電器1Dに対して直接通信することは困難になるが,その場合,送電器1Dに対しては,送電器1Cを経由して通信を行い,最適化等の制御を行う。
【0064】
このように,本実施例の無線電力伝送システムにおいて,複数の送電器から1つのマスタを決める場合,最も多くの送電器と直接通信が可能なものをマスタと決めるのが好ましい。」
・「【0066】
図7は,受電器の姿勢情報を説明するための図であり,マスタとされた送電器1Aと2つの受電器2’および2”を示すものである。ところで,受電器2としては,例えば,二次元的な位置情報(X,Y,Z)だけで充電される2D充電の受電器2’と,三次元的な位置情報(X,Y,Z)および姿勢情報(θ_(X),θ_(Y),θ_(Z))により充電される3D充電の受電器2”が考えられる。」
・「【0082】
上述した図8A?図8Dおよび図8E?図8Hの処理,すなわち,送電器1における送電電力の強度や位相の制御,或いは,各受電器2A?2Cにおける制御は,マスタ送電器
1により行われる。なお,図8A?図8Dおよび図8E?図8Hでは,1つの送電器1のみが描かれているが,通常,複数の送電器から設定された1つのマスタ送電器が,上述した各処理の制御を行うことになる。」
・「【0094】
図11は,送電器(マスタ送電器)1Aが複数の受電器2Bおよび2Cへ電力伝送を行っている状態で,バッテリ残量ゼロの受電器2Dを送電器1Aの所定位置に接するように配置し,送電器1Aのバッテリ残量ゼロモードを指定した様子を示す。」
・「【0115】
ここで,プライマリ送電器とセカンダリ送電器の決め方は,例えば,前述したマスタ送電器をプライマリ送電器とし,スレーブ送電器をセカンダリ送電器としてもよいが,独立に,プライマリ送電器およびセカンダリ送電器を決めることもできる。
【0116】
すなわち,例えば,スレーブの1つをプライマリ送電器に設定し,マスタを含めた他のスレーブをセカンダリ送電器に設定してもよい。なお,図13Bおよび図13Cでは,1Aをプライマリ送電器に設定し,1Bをセカンダリ送電器に設定している。」
・「【0119】
ここで,セカンダリ送電器1Bの同期処理中,例えば,プライマリ送電器1Aの出力レベルを同期用に低くなるように変更することもできる。また,同期処理中は,例えば,マスタ送電器の指示により,送電対象にある全ての受電器の充電を停止することが好ましい。なお,受電器の充電を停止する場合,各受電器の共振系(LC共振器)はオフするのが好ましい。
【0120】
このように,プライマリ送電器1Aは,その発振器121Aの発振周波数が同期に使用されるということで,同期処理に関する指示は,マスタ送電器の指示に従って制御されるのはいうまでもない。」
・「【0133】
また,前述したように,プライマリ送電器とセカンダリ送電器の決め方は,例えば,マスタ送電器をプライマリ送電器とし,スレーブ送電器をセカンダリ送電器としてもよいが,独立に,プライマリ送電器およびセカンダリ送電器を決めることもできる。」
・「【0141】
また,セカンダリ送電器1BのPLL回路220Bを同期させてから増幅器122Bに接続する最初の同期処理は,例えば,マスタ送電器の指示により,送電対象にある全ての受電器の充電を停止することが好ましい。なお,受電器の充電を停止する場合,各受電器の共振系(LC共振器)はオフするのが好ましい。」
・「【0180】
さらに,1つの送電器でも複数のLC共振器を含むものは,複数の送電器と同等に扱う。従って,本実施例のように,複数の送電器の内,1つの送電器をマスタに設定するとい
うことは,1つの演算処理装置(CPU)により,マスタ送電器およびスレーブ送電器に含まれる全てのLC共振器を制御することを意味する。」
・「【0181】
図19は,本実施例の無線電力伝送システムにおける処理の第1例を説明するためのフローチャートであり,送電側が複数のLC共振器を含み,受電側が1つの受電器2の場合の処理を説明するものである。上述したように,1つの送電器1が複数のLC共振器11aを含むものもあるが,説明を簡略化するために,1つの送電器1が1つのLC共振器11aを有するものとして説明する。
【0182】
図19に示されるように,まず,送電側は,常時送信中(送電相手を確認中:ST101)で,複数の送電器1A,1B,1C,…が互いに検知する(ST102)。ここで,複数の送電器の内の1つをマスタ送電器1Aとし,他をスレーブ送電器1B,1C,…として,マスタ/スレーブを確定する(ST103)。なお,以下の処理において,判断は,全てマスタ送電器1A,すなわち,マスタ送電器1AのCPU134が行う。
【0183】
さらに,常時送信中(受電相手を確認中:ST104)において,受電側の受電器2が通信に応答し(認証チェック:ST105),送電側(マスタ送電器1A)に対して必要電力を通知する(ST106)。」
・「【0185】
送電側では,確認された位置(位置情報)と受電器2から送信された向き(姿勢情報)から相対位置関係を確定し,推定効率を確定し(ST109),整合条件の初期設定を行う(ST110)。
さらに,送電側(マスタ送電器1A)では,各送電コイル(複数の送電器1A,1B,1C,…の各LC共振器)の強度および位相の初期設定を行う(ST111)。そして,受電側(受電器2)では,受電の準備を開始,すなわち,共振コイル(LC共振器)21aをオンする(ST112)。」
・「【0188】
さらに,センサS3(異常検知センサ)を確認して,異常発熱が発生していないことを確認する(ST119)。ここで,異常検知センサS3は,送電器1に設けてもよいが,受電器2に設けることもでき,異常検知センサS3を受電器2に設けた場合には,マスタ送電器1Aに対して,異常検知センサS3による異常発熱の有無を送信することになる。」
・「【0215】
送電側では(マスタ送電器は),バッテリ残量ゼロの受電器が所定位置に置かれたとして相対位置関係を推定し(ST608),整合条件を初期設定する(ST609)。すなわち,バッテリ残量ゼロの受電器に対しては,例えば,電磁誘導による結合を使用して送電を行うことになる。
【0216】
さらに,各送電コイルの強度および位相を初期設定し(ST610),テスト送電(例えば,10%)して10%出力を確認し(ST611),センサS3(異常検知センサ)により異常の確認,すなわち,異常発熱が発生していないことを確認する(ST612)。
【0217】
マスタ送電器は,センサS2(人感センサ)を確認して,人がいる時は小電力モードとし(ST613),人がいない時は本格送電RT1(例えば,5W)して5W出力を確認する(ST614)。そして,センサS3(異常検知センサ)により異常の確認,すなわち,異常発熱が発生していないことを確認する(ST615)。」

(3)マスタ送電器とスレーブ送電器の設定に関して,当初明細書等の段落【0182】に,「図19に示されるように,まず,送電側は,常時送信中(送電相手を確認中:ST101)で,複数の送電器1A,1B,1C,…が互いに検知する(ST102)。ここで,複数の送電器の内の1つをマスタ送電器1Aとし,他をスレーブ送電器1B,1C,…として,マスタ/スレーブを確定する(ST103)。」と記載されている。また,図19では,マスタ/スレーブを確定するまでのST101?ST103の間に受電側において何の動作も行っていない。
当初明細書等の段落【0054】には,「複数の送電器において,マスタ送電器およびスレーブ送電器を設定するのは,送電器が互いに通信範囲(通信圏)内にあり,電力伝送範囲(送電圏)が重なっており,しかも,受電器により送電圏が重なっていることが検出される場合である。」と記載され,当初明細書等の段落【0064】には,「本実施例の無線電力伝送システムにおいて,複数の送電器から1つのマスタを決める場合,最も多くの送電器と直接通信が可能なものをマスタと決めるのが好ましい。」と記載されているが,「送電器が互いに通信範囲(通信圏)内にあり,電力伝送範囲(送電圏)が重なっており,しかも,受電器により送電圏が重なっていることが検出される場合」という条件を満たす場合に,送電圏が重なっていることを検出した受電器がその旨を送電器へ送信すること,即ち,受電器が通信可能な送電器へ送信することが明らかであるとしても,受電器は,「2以上の送電器の情報」を該受電器と通信可能な送電器へ送信することについては,当初明細書等のいずれにも記載されておらず,当初明細書等の記載からみて明らかな事項でもない。
さらに「受電器は,該受電器により検出された2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な1つの送信器を選択して送信すること」における「1つの送信器を選択して」送信することについても,当初明細書等のいずれにも記載されておらず,当初明細書等の記載からみて明らかな事項とはいえない。
請求人は,平成29年12月15日付け意見書にて,「例えば,本願の図6Aおよび図6Bを参照して説明する段落[0046]-[0049]に記載されるように,ここでは,送電器1Aをマスタとし,他の送電器1Bをスレーブと定めたときを説明していますが,マスタ/スレーブを決めるときも同様なのは明らかであります。すなわち,本願の新たな請求項1および13で規定する『前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する』構成は,上記段落[0046]-[0049]の記載を始めとする,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは,明らかなものと考えます。」旨主張する。
しかしながら,本願の図6Aおよび図6Bを参照して説明する段落【0044】?【0049】の記載は,請求人が認めるように「送電器1Aをマスタとし,他の送電器1Bをスレーブと定めた」後の説明である。
さらに,仮に,受電器と送電器が通信を行うことが明らかであるとしても,「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,『該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器』へ送信」すること,に含まれる「該受電器と通信可能な複数の送電器のうちの1つの送電器」を選択して送信することは,段落【0044】?【0049】に記載されていないし,明らかなものともいえない。
また,段落【0044】?【0049】以外の当初明細書等のいずれにも,「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,『該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち1つの送電器』へ送信」すること,つまり「該受電器と通信可能な複数の送電器のうちの1つの送電器」を選択して送信することは記載も示唆もされていない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。
そうすると,「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する」とする補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
(4)したがって,本件補正のうち請求項1についてする上記補正については,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(5)また,請求項13における同様の補正についても,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3.目的要件について
(1)本件補正が,特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
(2)特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」は,特許法第36条第6項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。
そして,補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって,かつ,補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され,補正前の請求項と補正後の請求項とは,一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
(3)本件補正前の請求項1?15,17,19に記載された発明は「無線電力伝送システム」に係るものであり,本件補正前の請求項16,18,20に記載された発明は「無線電力伝送方法」に係るものである。
(3-1)本件補正前の請求項20に記載された発明も,本件補正後の請求項13に記載された発明も,「無線電力伝送方法」に係るものであり,本件補正後の請求項13に記載された発明は,本件補正前の請求項20に記載された発明の「複数の送電器と,受電器と,を有し,前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送方法であって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,
前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて,
該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送方法。」という発明特定事項を全て含むものであって,本件補正前の請求項20に記載された発明は,本件補正前の請求項16に記載された発明の「複数の送電器と,受電器と,を有し,前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器から前記受電器に対して,磁界共鳴または電界共振を利用して無線により電力伝送を行う無線電力伝送方法であって,
前記受電器は,前記複数の送電器と通信可能であり,
前記受電器は,前記複数の送電器のうち電力伝送範囲が該受電器と重なる2以上の送電器を検出し,
前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され,
前記マスタ送電器は,該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行う,
ことを特徴とする無線電力伝送方法。」という発明特定事項の全てに加えて「前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて」という発明特定事項を含むものであるから,本件補正前の請求項20に係る発明が本件補正後の請求項13に対応するものとして検討する。
本件補正により,本件補正後の請求項13において,本件補正前の請求項20に,「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する」という事項を付加する補正をした。
この補正は,受電器が「該受電器により検出された2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信」することだけでなく,「該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,受電器により検出された2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する」ことまで限定された構成とするものであって,該受電器により検出された2以上の送電器の情報を該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器に送信することについては本件補正前の請求項20には限定されていない上に,この補正により該受電器により検出された2以上の送電器の情報を送信された「該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器」が,マスタ送電器とスレーブ送電器を設定するという発明を解決しようとする新たな課題を解決するものである。
そうであれば,この補正は,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一である「特許請求の範囲の減縮」には該当しない。
また,この補正は,請求項の削除,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的としたものではないことも明らかである。
(3-2)請求人は,平成29年12月15日付け意見書にて,本件補正前の請求項16に対して本件補正前の請求項2および13の構成を含めて本件補正後の請求項13と補正した旨主張しているので,本件補正前の請求項16に係る発明が本件補正後の請求項13に対応するものとして検討する。
本件補正により,本件補正後の請求項13において,本件補正前の請求項16に,「前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて」という事項と,「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する」という事項を付加する補正をした。
この補正は,上記(3-1)で検討した補正に加えて,「複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて」という,本件補正前の請求項16には特定されていない事項を限定するものであり,「複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択され」ることは本件補正前の請求項16には限定されていない上に,この補正により,マスタ送電器として,複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されるという発明の解決しようとする新たな課題を解決するものである。
そうすると,上記(3-1)で検討した理由に加え,解決しようとする課題が同一でないから,この補正は,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一である「特許請求の範囲の減縮」には該当しない。
また,この補正は,請求項の削除,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的としたものではないことも明らかである。
(4)したがって,上記の補正を含む本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。

4.小括
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項及び特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

5.独立特許要件
本件補正が,新規事項を追加するものでなく,かつ,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であると仮定して,本件補正後の前記請求項に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)請求項1,13では,受電器が1つである(請求項1の従属項の請求項5では,「さらに,他の受電器を有し」としており,請求項1,13では,「複数の送電器」としていることからも明らかである。)。
すると,2つ以上の受電器を排除していることになるが,通常,受電器は,人が携帯しているため,送電器の通信圏内や送電圏内に入ることを排除できないが,システムはどの様にして当該圏内に2つ以上の受電器が入るのを防ぐのか,明細書の発明の詳細な説明に何ら開示がなく不明である。
また,複数の送電器の送電圏内に2つ以上の受電器があるとしても,それぞれの受電器が検出した2以上の送電器の情報を該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つ(1つでもよい)の送電器へ送信し,該少なくとも1つ(1つでもよい)の送電器のうちのある送電器が,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する際に,それぞれの受電器が検出した2以上の送電器の情報が異なり,かつ,それぞれの受電器が情報を送信する少なくとも1つの送電器が異なる場合に,送信された送電器のそれぞれがマスタ送電器とスレーブ送電器を設定することになって,それぞれの送電器が設定するマスタ送電器とスレーブ送電器が異なることもあり得るため,マスタ送電器とスレーブ送電器がどのように設定されるのか不明である。
したがって,明細書の発明の詳細な説明は,請求項1,13に係る発明を,実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(2)請求項1,13には,「前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて」と記載されているが,「送電器」同士が通信機能を有することは記載されていない(請求項1,13では,受電器と送電器が通信可能であることは,記載されている。)ため,なぜ「通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器」が判別可能であるのか明確でない。
また,請求項1に「前記マスタ送電器は,前記複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択されて,該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行い,前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定すると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定する,」とあるが,「マスタ送電器」は,受電器より検出された2以上の送電器や2以上の送電器を検出した受電器と無関係に「複数の送電器のうち,通信可能な送電器の数が最も多くなる送電器が選択」されるとともに,「受電器は,該受電器により検出された2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し,該少なくとも1つの送電器のうちのある送電器は,前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器をマスタ送電器に設定」されており,どちらの選択・設定に基づいてマスタ送電器が決定されるのか何ら開示がなく不明であると共に,「該マスタ送電器および前記スレーブ送電器の出力強度および出力位相を決定し,前記マスタ送電器および前記スレーブ送電器は,それぞれ決定された前記出力強度および前記出力位相で,前記受電器へ電力伝送を行い」というマスタ送電器の行う動作が特定されているため,どちらの選択・設定に基づいて決定された「マスタ送電器」がマスタ送電器として動作するのか明確でない。
請求項13の記載も同様に明確でない。
したがって,請求項1,13の記載は,明確でない。
(3)請求項12には「前記複数の送電器のうち,1つの送電器はプライマリ送電器に設定されると共に,他の送電器はセカンダリ送電器に設定され」との記載があるが,「プライマリ送電器」と「セカンダリ送電器」を設定する主体が何なのかが特定されておらず,人が設定する場合を含むため,物の発明である「システム」の発明としては適切でない。
したがって,請求項12の記載は,明確でないともに,明細書の発明の詳細な説明を参照しても,構成が明確でない。
よって,この出願は,特許法第36条第6項第2項及び第4項第1号の規定に違反するものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(4)小括
以上のとおり,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願について
1.本願
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?20に係る発明は,平成29年9月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される,「第2 1.」の本件補正前の請求項1?20に記載されたとおりのものと認められる。

2.当審の拒絶理由の概要
当審において平成29年10月12日付けで通知した最後の拒絶理由の概要は,以下のとおりである。
「1)平成29年9月25日付けの手続補正書による補正は,下記の点で願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2)この出願は,明細書,特許請求の範囲又は図面の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。


<理由1>
1.請求項2に「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し」という事項が記載されているが,当該事項は,当初明細書等に記載された事項ではない。
請求人は,平成29年9月25日付け意見書にて,
「ii) 次に,本願の新たな請求項2は,図19,段落[0182]および段落[0054]等の記載に基づくものです。
図19の送電側フローチャートには,送電側のマスタ/スレーブを確定するステップ(ST103)の前に,送電器が送電相手を確認するステップ(ST101),複数の送電器1A,1B,1C,…が互いに検知するステップ(ST102)の記載があります。ST101およびST102において,送電器が,受電器により重なっていることを検出された送電器(段落[0054])を受電器から受信し,ST103において送電側のマスタ/スレーブを確定することは明らかです。」旨の主張するが,「ST101およびST102において,送電器が,受電器により重なっていることを検出された送電器(段落[0054])を受電器から受信」することは,当初明細書等には記載されておらず,また,未完成な発明を完成させようとするものであって,当初明細書等の記載からみて明らかな事項でもない。
2.請求項3に「前記受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲が前記他の受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲の少なくとも一部と重なっていることが検出されると,前記受電器により検出された2以上の送電器および前記他の受電器により検出された2以上の送電器のうち1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定される」との事項が記載されているが,複数の受電器で電力伝送範囲として検出された3以上の送電器をグループにして当該グループの内でマスタ送電器とスレーブ送電器を設定するようなことは,当初明細書等に記載された事項ではない。
当該事項は,請求人が平成29年9月25日付け意見書にて,補正の根拠として示した,図6F,段落【0018】,【0063】,【0054】等に記載されておらず,また,当該記載からみて自明な事項でもない。

したがって,かかる補正事項を含む本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
よって,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

<理由2>
1.請求項1,16?20には「前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され」と記載されている。
「マスタ送電器」と「スレーブ送電器」を何がどの様なルールに基づいて設定しているのかが,明細書の発明の詳細な説明の欄を参照しても不明(システムが決定するのであるから,何らかの演算があるはずであるが不明。)である。
しかも,請求項1,17,19では, 「マスタ送電器」と「スレーブ送電器」を設定する主体が,特定されておらず,人が設定する場合を含むため,物の発明である「システム」の発明としては適切でない。
また,請求項1,17,19に対応する請求項16,18,20の方法の発明としても,人が介在するような発明は適切でない。
2.明細書の段落【0050】,【0051】を参照すると,送電器の通信圏内に最も多くの受電器が存在する,或いは,その送電圏内に最も多くの充電器が存在するといった条件により決定することや,同等の条件が成立する場合に受電器との間の通信強度といった条件や乱数表等を使用して1つのマスタを決定してもよい旨の記載や段落【0064】を参照すると,複数の送電器から1つのマスタを決める場合,最も多くの送電器と直接通信可能なものをマスタと決める旨の記載もある。
そこで,段落【0054】の記載を前提として,送電器をマスタとスレーブを決める主体とした場合には,受電器が送電圏が重なっていることを検出したことを,送電器に送信する必要があるが,明細書の発明の詳細な説明を参照しても,その点についての記載はなく,また,自明なものとも認められない。
よって,送電器をマスタとスレーブを決める主体とする発明としては,未完成なものであり,請求項1?20に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明は記載されていない。
3.請求項1,16?20には,受電器が1つのものを特定している(請求項1を引用する請求項3では,「さらに,他の受電器を有し」としている点からも明らかである。)。
すると,2つ以上の受電器を排除していることになるが,通常,受電器は,人が携帯しているため,送電器の通信圏内や送電圏内に入ることを排除できないので,この前提はおかしいのではないか(システムはどの様にしてエリア内に2つ以上の受電器が入るのを防ぐのか。)。
そして,平成29年7月21日付けの拒絶理由で指摘したように,図6Aにおいて,2つの送電器1A,1Bの通信圏CRa,CRbであって,電力送電範囲PRa,PRbの共通部分の中に,2つの受電器2E,2Dが存在する場合には,それぞれの受電器がマスタ送電器とスレーブ送電器を設定すれば,受電器によって異なるマスタ送電器とスレーブ送電器が生じる可能性があるため,どの様にマスタ送電器とスレーブ送電器を設定できるのか不明である。
4.請求項15には「前記複数の送電器のうち,1つの送電器はプライマリ送電器に設定されると共に,他の送電器はセカンダリ送電器に設定され」との記載があるが,「プライマリ送電器」と「セカンダリ送電器」を設定する主体が何なのかが特定されておらず,人が設定する場合を含むため,物の発明である「システム」の発明としては適切でない。」

3.最後の拒絶理由に対する当審の判断
(1)新規事項について
ア.平成29年9月25日付けでした手続補正により,特許請求の範囲の請求項2について,「前記受電器は,該受電器により検出された前記2以上の送電器の情報を,該受電器と通信可能な前記複数の送電器のうち少なくとも1つの送電器へ送信し」とされた。
そして,前記「第2 2.(1)?(4)」において検討したのと同様の理由により,上記補正については,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
イ.平成29年9月25日付けでした手続補正により,特許請求の範囲の請求項3について,「前記受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲が前記他の受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲の少なくとも一部と重なっていることが検出されると,前記受電器により検出された2以上の送電器および前記他の受電器により検出された2以上の送電器のうち1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定される」とされた。
そして,「前記受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲が前記他の受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲の少なくとも一部と重なっていることが検出されると,前記受電器により検出された2以上の送電器および前記他の受電器により検出された2以上の送電器」は,それぞれの受電器により検出されたそれぞれの2つの送電器が全く同じ送電器でなければ,3以上の送電器となり,そのうちの1つをマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器をスレーブ送電器に設定されることになるから,「前記受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲が前記他の受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲の少なくとも一部と重なっていることが検出されると,複数の受電器で電力伝送範囲として検出された3以上の送電器をグループにして当該グループの内でマスタ送電器とスレーブ送電器を設定する」ことを含むことになる。
しかしながら,上記補正に含まれる前記受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲が前記他の受電器により検出された2以上の送電器の電力伝送範囲の(ア)「少なくとも一部と重なっていることが検出される」と,(イ)「複数の受電器で電力伝送範囲として検出された3以上の送電器をグループにして」(ウ)「当該グループの内でマスタ送電器とスレーブ送電器を設定する」ことは,以下において述べるように当初明細書等に記載された事項ではない。
請求人は平成29年9月25日付け意見書にて,図6F,段落【0018】,【0054】,【0063】等を補正の根拠と主張している。
これらの記載について検討すると,当初明細書等の段落【0018】には,「1次側1と2次側2は,通信回路部14と通信回路部24により,通信(近距離通信)を行う。ここで,1次側1のLC共振器11aと2次側2のLC共振器21aによる電力の伝送距離(電力伝送範囲PR)は,1次側1の通信回路部14と2次側2の通信回路部24による通信距離(通信範囲CR)よりも短く設定される(PR<CR)。」と記載され,当初明細書等の段落【0063】には,「この図6Fの場合,例えば,送電器1Bをマスタ(マスタ送電器)とし,他の送電器1A,1C,1Dをスレーブ(スレーブ送電器)に設定する。ここで,送電器1Cをマスタに設定することもできる。なお,送電器1Bをマスタに設定すると,送電器1Dに対して直接通信することは困難になるが,その場合,送電器1Dに対しては,送電器1Cを経由して通信を行い,最適化等の制御を行う。」と記載され,当初明細書等の段落【0054】には,「まず,複数の送電器において,マスタ送電器およびスレーブ送電器を設定するのは,送電器が互いに通信範囲(通信圏)内にあり,電力伝送範囲(送電圏)が重なっており,しかも,受電器により送電圏が重なっていることが検出される場合である。」と記載され,当初明細書等の図6Fには,送電器1Aの通信圏CRa,送電器1Bの通信圏CRb,送電器1Cの通信圏CRc,送電器1Dの通信圏CRdが記載されており,マスタ送電器1Bは送電器1A,1B,1Cの通信圏にあるが,送電器1Dの通信圏にはないものは図示されてはいるが,送電器1A,1B,1C,1Dの電力伝送範囲は示されていない。
そして,請求人が補正の根拠として示したこれらの記載及び図示内容を検討しても,上記(ア)?(ウ)の事項は,何ら記載されておらず,これらの記載からみて明らかな事項でもない。
また,前記「第2 2.(2)」の「マスタ送電器」,「スレーブ送電器」,及び「マスタ送電器」と「スレーブ送電器」の設定に関する当初明細書等の記載事項を参照しても,上記(ア)?(ウ)の事項は記載されておらず,これらの記載からみても明らかな事項でもない。
さらに,上記(ア)の検出と上記(ウ)の設定は,何が行っても良いことになるが,当初明細書等の記載事項を参照しても,そのような事項は,記載されていない。
したがって,かかる事項を含む上記補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
よって,上記補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条について
ア.請求項1,16?20には「前記受電器により検出された前記2以上の送電器のうち,1つの送電器はマスタ送電器に設定されると共に,他の送電器はスレーブ送電器に設定され」と記載されている。
「マスタ送電器」と「スレーブ送電器」を何がどの様なルールに基づいて設定しているのかが,明細書の発明の詳細な説明の欄を参照しても不明(システムが決定するのであるから,何らかの演算があるはずであるが開示がない。)である。
しかも,請求項1,17,19では, 「マスタ送電器」と「スレーブ送電器」を設定する主体が,特定されておらず,人が設定する場合を含むため,物の発明である「システム」の発明としては適切でない。
イ.仮に,段落【0054】の「複数の送電器において,マスタ送電器およびスレーブ送電器を設定するのは,送電器が互いに通信範囲(通信圏)内にあり,電力伝送範囲(送電圏)が重なっており,しかも,受電器により送電圏が重なっていることが検出される場合である。」という記載を前提として,送電器をマスタとスレーブを決める主体とした場合において,明細書の発明の詳細な説明を参照しても,受電器と送電器間の通信の内容として,受電器が送電圏が重なっていることを検出したことを送電器に送信することについての記載はないから,どの様にして送電器がマスタとスレーブを決めることができるのか不明であり,当業者にとって明らかなものとも認められない。
よって,マスタとスレーブを決める主体を送電器とした場合に,どの様にして送電器がマスタとスレーブを決めることができるのか不明なため,請求項1?20に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明は記載されていない。
ウ.請求項1,16?20では,受電器が1つである(請求項1を引用する請求項3では,「さらに,他の受電器を有し」としている点からも明らかである。)。
すると,2つ以上の受電器を排除していることになるが,通常,受電器は,人が携帯しているため,送電器の通信圏内や送電圏内に入ることを排除できないので,システムはどの様にしてエリア内に2つ以上の受電器が入るのを防ぐことができるのかが明細書の発明の詳細な説明を参照しても不明である。
また,平成29年7月21日付けの拒絶理由で指摘したように,図6Aにおいて,2つの送電器1A,1Bの通信圏CRa,CRbであって,電力送電範囲PRa,PRbの共通部分の中に,2つの受電器2E,2Dが存在する場合に,それぞれの受電器がマスタ送電器とスレーブ送電器を設定すれば,受電器によって異なるマスタ送電器とスレーブ送電器が生じる可能性があるため,システムがどの様にマスタ送電器とスレーブ送電器を設定するのか不明である。
エ.請求項15には「前記複数の送電器のうち,1つの送電器はプライマリ送電器に設定されると共に,他の送電器はセカンダリ送電器に設定され」との記載があるが,「プライマリ送電器」と「セカンダリ送電器」を設定する主体が何なのかが特定されておらず不明であり,人が設定する場合を含むため,物の発明である「システム」の発明としては適切でない。
また,「システム」の発明であれば,「プライマリ送電器」と「セカンダリ送電器」を設定する何らかの関数(演算)が必要なものと認められるが,そのような関数(演算)は開示されていない。
オ.よって,本願は,明細書,特許請求の範囲,及び図面の記載が上記ア.?エ.の点で不備であり,特許法第36条第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおり,平成29年9月25日付けでした手続補正書による補正は,特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしておらず,また,本願は,明細書,特許請求の範囲,及び図面の記載が特許法第36条第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-30 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2014-507979(P2014-507979)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 561- WZ (H02J)
P 1 8・ 55- WZ (H02J)
P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 575- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 慎  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 矢島 伸一
藤井 昇
発明の名称 無線電力伝送システムおよび無線電力伝送方法  
代理人 青木 篤  
代理人 宮本 哲夫  
代理人 伊坪 公一  
代理人 河野 努  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ