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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1340988
審判番号 不服2015-15217  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-13 
確定日 2018-06-06 
事件の表示 特願2012-548438「マイクロ反応システムを使ったアシル化」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月21日国際公開、WO2011/086135、平成25年 5月16日国内公表、特表2013-517253〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2011年1月13日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2010年1月13日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成26年5月15日付けで拒絶理由が通知され、同年10月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年4月10日付けで拒絶査定がされ、同年8月13日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年9月14日付けで手続補正書(方式)が提出され、平成28年9月20日付けで審判合議体から拒絶理由が通知され、平成29年3月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年4月26日付けで審判合議体から拒絶理由が通知され、同年10月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成29年10月26日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項によって特定されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「内径が1mm?5mmである流体チャネルを含むシステムまたは内径が1mm以下である流体チャネルを含むマイクロ反応システムを使ってトコフェロールまたはトコトリエノールをカルボン酸無水物によりアシル化する方法であって、前記アシル化を、200℃?250℃の範囲内の温度で、水を含めたいかなる触媒も存在することなく最長30分間の滞留時間で行うことを特徴とする、方法。」

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
平成29年4月26日付けで当審が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、以下の理由2を含むものである。

理由2:この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:韓国公開特許2001-0090181号公報
刊行物2:社団法人日本化学会編、「化学便覧 応用化学編 第6版」、丸善株式会社、平成15年1月30日発行、第175?176頁
刊行物3:特開2005-262053号公報
刊行物4:国際公開第2006/073124号
刊行物2?4は、本願優先日時点の技術常識を示す文献である。

第4 当審の判断
当審は、当審拒絶理由のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2?5に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:韓国公開特許2001-0090181号公報
刊行物2:社団法人日本化学会編、「化学便覧 応用化学編 第6版」、丸善株式会社、平成15年1月30日発行、第175?176頁
刊行物3:特開2005-262053号公報
刊行物4:国際公開第2006/073124号
刊行物5:久保亮五 他3名著「岩波 理化学辞典 第4版」、株式会社岩波書店、1987年10月12日第4版第1刷発行、第849?850頁
刊行物2?5は、本願優先日時点の技術常識を示す文献である。

2 刊行物の記載事項
(1)刊行物1
刊行物1には、以下の事項が記載されている。(以下、刊行物1の記載事項を訳文で示す。訳文は当審が作成した。)
(1a)「無触媒下で139?250℃及び2?20気圧の反応条件下において、DL-α-トコフェロール及び無水酢酸からなる反応物を管型連続反応器に供給し、アシル化反応を実施することを特徴とする、高収率、高純度の酢酸DL-α-トコフェロールの製造方法。」(請求の範囲の請求項1)

(1b)「本発明は、酢酸DL-α-トコフェロールの製造方法に関するもので、無触媒下で139?250℃及び2?20気圧の反応条件の下で、DL-α-トコフェロール及び無水酢酸からなる反応物を管型連続反応器に供給してアシル化反応を実施する高収率、高純度の酢酸DL-α-トコフェロールの製造方法に関するものである。本発明の方法により、触媒を添加しなくても、従来技術と同様の程度の高収率、高純度の酢酸DL-α-トコフェロールを製造することができ、反応生成物内に触媒成分がないため、除去する必要がなく、製造コストを削減することができ、製造後に発生する産業廃棄器物を低減させることができる。」(要約)

(1c)「しかし、前述したように、触媒が存在しない場合は反応速度が遅いので、触媒がなくても触媒がある場合と同様の速度の反応が進行するように、本発明では、圧力及び温度を調整した。・・・反応速度があまりにも遅くなり、反応が完結するのに多くの時間がかかるという欠点があるため、本発明者らは、管型反応器を用いて、反応条件は加圧及び高温に調整し、触媒がない状態で反応を進行させても触媒がある場合と同様の反応速度を得ることができた。」(第3頁第18?24行)

(1d)「本発明で使用される管型の連続反応器の形態は、特に制限されるものではないが、本発明による反応が加圧下で行われるため、反応圧力に耐えることができ、反応器の前段には、反応物を反応温度まで加熱して反応器に連続的に供給することができる装置が備えられていることが望ましい。・・・」(第3頁第25?28行)

(1e)「又、反応器内の反応物の滞留時間も長くなるほど良いが、滞留時間が長くなると、同じ量の酢酸DL-α-トコフェロールを生成するために、より大きな反応器が必要になるので、通常、4時間以内に反応させることが望ましい。」(第4頁第3?5行)

(1f)「実施例1
触媒を使用せずに、管型反応器を使用して、管型反応器にビーズを詰め、ビーズを詰めた後の反応器の体積は130ccであった。DL-α-トコフェロール1kg(2.32モル)と無水酢酸500g(4.9モル)をビーカーに入れた後、常温で撹拌して混合させ、反応物を準備し、準備された反応物を反応器の温度を205℃に維持させながら時間当たり100ccで供給した。このとき、反応器の圧力は10気圧であった。その後、反応生成物の組成が一定になるまで2時間待ってから、気相クロマトグラフを介して反応進行程度を確認した。その結果、転換率は99.6%であった。」

(1g)「実施例2
DL-α-トコフェロール2kgと無水酢酸500gを反応物として使用し、250℃及び20気圧の反応条件の下で実施したことを除いては、前記実施例1と同様の方法で実施した。その結果、転換率は99.3%であった。」

(2)刊行物2
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「4.2.6 マイクロリアクター
マイクロリアクターは、微細加工技術を利用して作成した数十から1000μmの流路(マイクロチャネル)内で反応を行う装置である。」(第175頁右欄第10?13行)

(2b)「キャピラリ-をマイクロチャネルとすることもできるが、微細加工技術を応用すれば図4.18に示すように、リアクター内に流体制御部、伝熱部、温度制御部などのMEMS(マイクロマシン)の要素を組み込むことができる。複雑な三次元構造を作製するには、X線リソグラフィーと電気めっきを組み合わせた方法(LIGA法)や反応性イオンエッチング法などの加工法がある。マイクロ燃料電池の改質反応器や触媒スクリーニング装置としてマイクロリアクターが開発中であり、マイクロリアクターを集積化して生産量を増大できればマイクロ化学プラントとなる。

」(第175頁右欄第13?23行)

(2c)「a.マイクロリアクターの特徴
マイクロリアクターを従来の反応装置と比較すると、以下のような特徴がある。
○1(○の中に数字の1を表す。以下同じ。)単位体積あたりの表面積が大きい。
流路の壁面に触媒層を被覆したマイクロリアクターでは(下線は当審で付加した。以下同じ。)、粒状触媒を充填した反応器に比べて、触媒内の拡散抵抗が著しく小さい。また、マイクロチャネル内では表面力の影響が重力や慣性力に比べて強いので、水と油を静かに送入すると、比重差に関係なく安定な平行二相流が形成される。この現象は、抽出や相関移動触媒を用いた液-液反応系に利用できる。
○2加熱および冷却速度が速い。
化学反応を行うときに伝熱速度は重要である。大きな発熱を伴う触媒反応系では、触媒層の温度管理が不十分であると、反応の暴走やホットスポット発生の可能性がある。マイクロリアクターは熱容量が小さいので、加熱冷却速度を大きくすることができる。また、集積化したマイクロ化学プロセスの場合には、個々のリアクターで温度管理が可能なので、全体のプロセスを停止せずに、危険と判断されたマイクロリアクターをシャットダウンすることも可能である。
マイクロリアクターでは、従来の大型反応装置では困難であった、加熱・冷却や原料供給の周期操作が可能である。非定常操作の利点は理論的には明らかにされてきたが、マイクロリアクターを用いることで実際に利用できる。」(第175頁右欄下から16行?第176頁左欄第8行)

(3)刊行物3
刊行物3には、以下の事項が記載されている。
(3a)「【0001】
本発明はマイクロリアクターの複合反応方法及びマイクロリアクターに係り、特に複合反応において目的生成物を高い収率で得ることのできるマイクロリアクターの複合反応方法及びマイクロリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学工業、或いは医薬品、試薬等の製造に係る医薬品工業では、マイクロミキサー又はマイクロリアクターと呼ばれる微小容器を用いた新しい製造プロセスの開発が進められている。マイクロミキサー又はマイクロリアクターには、複数本のマイクロチャンネル(流体導入路)と繋がる微小空間(マイクロ流路)が設けられており、マイクロチャンネルを通して複数の流体(例えば反応原料を溶解した溶液)を微小空間に合流することで、複数の流体を混合し、又は混合と共に化学反応を生じさせる。マイクロミキサーとマイクロリアクターとは基本的な構造は共通とされているが、特に、複数の流体を混合するものをマイクロミキサーと言い、複数の溶液を混合する際に化学反応を伴うものをマイクロリアクターと言う場合がある。従って、本発明のマイクロリアクターはマイクロミキサーも含むものとする。
【0003】
次に、上記のようなマイクロリアクターによる反応が攪拌タンク等を用いたバッチ式の混合や反応と異なる点を説明する。即ち、液相の化学反応は、一般に反応液の界面において分子同士が出会うことによって起こるので、微小空間内で反応を行うと相対的に界面の面積が大きくなり、反応効率は著しく増大する。また、分子の拡散そのものも拡散時間は距離の二乗に比例する。このことは、微小空間のスケールを小さくするに従って反応液を能動的に混合しなくても、分子の拡散によって混合が進み、反応が起こり易くなることを意味する。また、微小空間においては、スケールが小さいために層流支配の流れとなり、溶液同士が層流状態となって流れながら流れに直交する方向に拡散し反応されていく。
【0004】
また、このようなマイクロリアクターを用いれば、例えば、反応の場として大容積のタンク等を用いた従来のバッチ方式と比較し、溶液同士の反応時間及び混合温度や反応温度の高精度な制御が可能になる。」

(4)刊行物4
(4a)「請求の範囲
[1] 芳香族化合物と活性ヨウ素化剤とを、高速混合器を備えた流通反応装置に導入して連続的に前記芳香族化合物の芳香核の水素をヨウ素で置換することを特徴とする、芳香族ヨウ素化合物の製造方法。
・・・
[9] 前記高速混合器がマイクロミキサーである、請求項1?8のいずれか1項に記載の芳香族ヨウ素化合物の製造方法」

(4b)「[0006] 一方、化合物の製造工程では各種の反応装置が使用されている。例えば、一般に数?数百μmのマイクロ流路を有するマイクロミキサーなどのマイクロ構造ユニットを有する流通反応装置 (総称して、一般に「マイクロリアクター」と称される)を使用してエマルジェン調合品が製造されている(日本特開2003-321325号公報を参照)。・・・
[0007] また、芳香族化合物へのフリーデルクラフツ型アルキル化反応を行う際に、マイクロミキサーを用いて混合効率を高め、モノアルキル化体を効率よく合成する方法も開示されている(日本特開2004-99443号公報を参照)。当該公報によれば、混ざり合う二つの液体を数ミリリットル以上の容積を有する反応容器内に供給して混合させると、比較的大きな流体の集合体が反応容器全体に粗く広がった後に、渦によって乱流拡散し、次第に細かくなって混合していくため、混合時間が反応時間よりも充分長ければ、局所的な濃度の粗密が反応に大きく影響を与えるが、マイクロ流路内では分子の拡散により混合が起きるため非常に速い混合が達成され、マイクロミキサーを用いることにより、高い選択性が得られるとしている。」

(4c)「[0013] 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、芳香族化合物と活性ヨウ素化剤とを用いて前記芳香族化合物の芳香核の水素をヨウ素で置換する反応に、高速混合器を備えた流通反応装置を用いて連続的に合成を行うこと が有効であることを見出した。また、この手法 (マイクロフロー式)によれば、反応する芳香族化合物の分子数に対するヨウ素原子の原子数の比率を低減させなくとも、所望のモル数のヨウ素が導入されたヨウ素化体が選択的に得られることを見出した。そして上記知見に基づき、本発明を完成させるに至った。」

(4d)「[0020] 本発明によれば、高速混合器を備えた流通反応装置を用いて連続的に芳香族ヨウ素化合物をヨウ素化することにより、取扱いが簡便で安全性が高い手法により色調に優れる芳香族ヨウ素化合物が高収率で製造されうる。なお、本発明の製造方法により 色調に優れる芳香族ヨウ素化合物が製造されうるメカニズムは完全には明らかとはなっていないが、所望のモル数のヨウ素により芳香族化合物の芳香核の水素が置換されることにより、所望の芳香族ヨウ素化合物 (例えば、モノヨウ素化体)の選択率が向上することによるものと推定される。ただし、上記のメカニズムはあくまでも推測に基づくものであって、実際には上記のメカニズム以外のメカニズムにより本発明の作用効果が得られていたとしても、本発明の技術的範囲は上記のメカニズムによって何ら限定されることはない。」

(4e)「[0029] 一般に、反応速度が拡散速度よりも速い場合は反応制御が困難となるため、撹拌等の手段により、拡散速度が反応速度よりも速くなるように反応液を混合する。流通反応装置の備える高速混合器は、この混合の手段のために用いられるものであり、拡散速度が反応速度よりも速くなるように反応液を混合できればその具体的な形態は特に制限されない。しかしながら、従来の機械的な撹拌や混合等の手段によって高められる拡散速度以上に反応速度が速い場合に、高速混合器として、マイクロ空間を利用することでより拡散速度を高めうる装置(マイクロミキサー)を備えた流通反応装置(マイクロリアクター)を用いて拡散速度を反応速度より速くすれば反応制御に有効であり、特に好適である。反応速度が拡散速度よりも速い反応系では、マクロ空間で反応を行なった場合、反応溶液が均一になる前に主反応が終了し、部分的に試薬が過剰に存在するため副反応が進行しやすいが、マイクロミキサーを使用すると、混合が迅速かつ均一に行なわれるため副反応が抑制されるためである。換言すれば、本発明の他の好ましい形態においては、流通反応装置の備える高速混合器において、芳香族化合物と活性ヨウ素化剤との混合時間が、芳香族化合物と活性ヨウ素化剤との反応時間よりも短い。かような形態によれば、副反応の進行前に芳香族化合物と活性ヨウ素化剤とが混合しうるため、選択性のより一層の向上が図られる。」

(4f)「[0030] 本発明において用いられるマイクロリアクターの具体的な形態について特に制限はないが、各流体の流路の等価直径は、好ましくは1?10,000μm、より好ましくは10?500μ、特に好ましくは20?100μmである。・・・」

(5)刊行物5
刊行物5には、以下の事項が記載されている。
(5a)「トコフェロール・・・ビタミンEの本体をなす物質.トコール(tocol)のメチル誘導体で、α
(トコールの化学式は省略)
トコフェロール(5,7,8-トリメチル体,生物学的効力最大),βトコフェロール(5,8-ジメチル体),γトコフェロール(7,8-ジメチル体),δトコフェロール(8-メチル体)の4種が知られている.・・・」(第894?895頁の「トコフェロール」の項目)

3 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、その請求の範囲の請求項1の記載から、「無触媒下で139?250℃及び2?20気圧の反応条件下において、DL-α-トコフェロール及び無水酢酸からなる反応物を管型連続反応器に供給し、アシル化反応を実施することを特徴とする、高収率、高純度の酢酸DL-α-トコフェロールの製造方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

4 対比・判断
(1)対比
トコフェロールは、トコールのメチル誘導体であって、メチル基の数、位置によってα、β、γ及びδの4種が知られていることは技術常識であり(摘記(5a)参照)、また、αトコフェロールには光学異性体が存在して、「DL」とは、そのラセミ体を意味することも技術常識であるから、引用発明の「DL-α-トコフェロール」は、本願発明の「トコフェロール」に該当する。さらに、引用発明の「無水酢酸」は、本願発明の「カルボン酸無水物」に該当することは明らかである。そして、刊行物1の実施例1及び2を含めて明細書全体には、触媒はもちろん水も反応系内に含むことは記載されていないのであるから、引用発明における「無触媒下で」との特定は、水をルイス酸触媒としてとらえる本願発明における「水を含めたいかなる触媒も存在することなく」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とでは、
「トコフェロールまたはトコトリエノールをカルボン酸酸無水物によりアシル化する方法であって、前記アシル化を、水を含めたいかなる触媒も存在することなく行うことを特徴とする、方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)アシル化する方法が、本願発明では、内径が1mm?5mmである流体チャネルを含むシステムまたは内径が1mm以下である流体チャネルを含むマイクロ反応システムを使うのに対して、引用発明では管状連続反応器を用いている点

(相違点2)本願発明では、最長30分間の滞留時間で行うのに対して、引用発明では滞留時間の特定がされていない点

(相違点3)アシル化する際の温度が、本願発明では、200℃?250℃の範囲内であるのに対して、引用発明では、139?250℃である点

(2)判断
ア 相違点1について
刊行物2には、マイクロリアクターは、数十から1000μmの流路内で反応を行う装置であることが記載され、また、マイクロリアクターの特徴として、単位体積当たりの表面積が大きく、加熱および冷却速度が速いことが記載されている(摘記(2a)(2c))。また、刊行物3には、背景技術の項目において、マイクロリアクターの一般的な技術内容として、液相の化学反応は、一般に反応液の界面において分子同士が出会うことによって起こるので、微小空間内で反応を行うと相対的に界面の面積が大きくなり、反応効率は著しく増大することが記載され、また、分子の拡散そのものも拡散時間は距離の二乗に比例する。このことは、微小空間のスケールを小さくするに従って反応液を能動的に混合しなくても、分子の拡散によって混合が進み、反応が起こり易くなることも記載され、溶液同士の反応時間、混合温度、反応温度の高精度な制御が可能になることも記載されている(摘記(3a))。刊行物2及び3に記載された技術的事項からみて当業者であれば、マイクロリアクターを用いた化学反応は、反応効率が向上すると理解できるといえる。

そして、刊行物1には、触媒がなくても触媒がある場合と同様の速度の反応が進行するように2?20気圧の圧力と139?250℃の温度を調整した上で反応を行うことが記載されていることからみて(摘記(1a)(1c)参照)、引用発明には、無触媒の反応において反応速度を上げるという課題は存在しているということができ、反応速度を上げることにより、反応効率が向上することは明らかである。また、刊行物1には、管状の連続反応器の形態は特に制限されるものではないことが記載されているのであるから(摘記(1d))、刊行物2において、マイクロリアクターは数十から1000μmの流路内で反応を行う装置という記載がされており(摘記(2a))、マイクロリアクターも管状の連続反応器の一例であるということができることを考慮すると、引用発明における無触媒の反応において、反応効率を向上させるという課題を解決するために、管状連続反応器に代えて、刊行物2及び3に記載された数十から1000μmの流路を有するマイクロリアクターを使用してアシル化反応を内径が1mm以下の流体チャネルを含むマイクロ反応システムで行うようにすることは、当業者であれば容易に想到できたことであるといえる。
また、刊行物4には、マイクロリアクターの流路の直径は1?10,000μmであること好ましいと記載されている(摘記(4f))ように、マイクロリアクターの内径はmmのオーダーのものも含めて広い範囲をもつ解釈もあり、引用発明において、内径が1mm?5mmである流体チャネルとすることも当業者であれば容易に想到できたことである。

イ 相違点2について
刊行物1には、滞留時間が長くなるとより大きな反応器が必要になるので、通常4時間以内に反応させることが望ましいと記載され(摘記(1e))、そして、実施例においては、2時間反応させることが記載されている(摘記(1f))。また、刊行物3には、相違点1でも述べたとおり、マイクロリアクターを使用すると反応効率が著しく増大することが記載されており(摘記(3a))、これにより、反応時間が短縮することができることは当業者に明らかであるから、引用発明において、マイクロリアクターを適用し、反応のための滞留時間を最長30分間と短く設定することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

ウ 相違点3について
刊行物1の実施例では、DL-α-トコフェロールを無水酢酸でアシル化する際に、反応器の温度を205℃及び250℃とすることが記載されているから、引用発明における139?250℃である温度範囲の中から、本願発明の200?250℃に含まれる温度範囲を特定することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

エ 効果について
本願の発明の詳細な説明の段落【0019】には、反応は高収率、高選択率であることが記載されているところ、実施例2においては、トコフェロールの転化率が高く、トコフェロール酢酸エステルの収率が高いことが、具体的なデータと共に示されている。
一方、刊行物1には、高収率、高純度のDL-α-トコフェロールアセテートの製造方法であることが記載され(摘記(1a))、具体例として、管状反応器を用いた場合でも転換率(本願の転化率に相当する。)は、実施例1では99.6%、実施例2では99.3%と、高水準の値であることが記載されている(摘記(1f)(1g))。また、刊行物3には、マイクロリアクターを用いることにより、反応効率が著しく増大することが記載されているから、本願発明のトコフェロールの転化率が高いという効果は、当業者の予測の範囲内であるといえる。
更に、刊行物4には、高速混合器として、マイクロミキサーを備えたマイクロリアクターを用いると、混合が迅速かつ均一に行なわれるため副反応が抑制されて、主反応が進行して選択性が向上することが記載されている(摘記(4b)(4d)(4e))から、本願発明の高選択率の効果も、当業者の予測の範囲内であるといえる。
したがって、本願発明のトコフェロール酢酸エステルが高選択率であり、転化率と選択率から計算される収率が高いという効果は、全体として当業者の予測の範囲内であるといえる。
以上のとおりであるから、本願発明が優れた効果を奏するということはできない。

(3)審判請求人の主張
審判請求人は、平成29年10月26日付けの意見書において、刊行物2には、触媒を用いる反応においてマイクロリアクターを用いることの利点が記載されているのに対して、引用発明では無触媒下でアシル化を行うものであり、無触媒下でアシル化を行う引用発明において、触媒を用いる刊行物2に記載されたマイクロリアクターを適用する動機付けがない旨を主張している。
また、刊行物3には、複合反応において目的生成物を高い収率で得ることを目的とするマイクロリアクターに関する発明が記載がされているのに対して、引用発明は、複合反応に関するものではなく、両者は発明の課題が異なるから、引用発明において、管状連続反応器に代えて、敢えてマイクロリアクターを用いる動機付けはない旨を主張する。

(4)審判請求人の主張の検討
刊行物2において審判請求人が指摘した合議体が指摘していない箇所には、「流路の壁面に触媒層を被覆したマイクロリアクターでは・・・」との、「大きな発熱を伴う触媒反応系では、」との触媒層を用いたマイクロリアクターに関する記載等が存在しているが、刊行物2のマイクロリアクターの概念を示す記載(摘記(2a)(2b))をみる限り、マイクロリアクターが触媒を用いることを前提とした装置であるとはいえないことは明らかである。そして、合議体が指摘した箇所は、触媒の有無に関係しないマイクロリアクターの内径の大きさ、その構造に依存したマイクロチャンネルの表面積の大きさや加熱冷却速度の速さに基づく反応に対する利点に関する部分である。したがって、マイクロリアクターの内径が数十から1000μmであることが技術常識である以上、無触媒下での製造方法である引用発明に技術常識であるマイクロリアクターの技術を適用することが当業者にとり容易であることは上記(2)アで述べたとおりである。
また、刊行物3の特許請求の範囲、発明の詳細な説明の段落【0008】【0009】には、確かに複合反応においてマイクロリアクターを使用することが記載されているが、合議体は、刊行物3の特許請求の範囲に記載された発明の背景技術を述べた箇所を指摘したのであり、その記載は、必ずしも複合反応を前提とするものではない。
そして、刊行物3には、この背景技術の箇所に、マイクロリアクターという微小空間内で反応すると、反応効率が著しく増大することが記載されており(摘記(3a))、この技術常識を引用発明に適用することが当業者にとり容易であることは上記(2)アで述べたとおりである。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
よって、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-19 
結審通知日 2018-01-09 
審決日 2018-01-23 
出願番号 特願2012-548438(P2012-548438)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水島 英一郎  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 加藤 幹
佐藤 健史
発明の名称 マイクロ反応システムを使ったアシル化  
代理人 池田 成人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 野田 雅一  
代理人 池田 正人  
代理人 山口 和弘  
代理人 清水 義憲  
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