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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1341030
異議申立番号 異議2017-700167  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-23 
確定日 2018-04-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5982044号発明「悪臭抑制剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5982044号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第5982044号の請求項1,2に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第5982044号は、平成23年6月6日に出願された特願2011-126636号の一部を平成27年7月9日に新たな出願とした特願2015-137452号の特許請求の範囲に記載された請求項1,2に係る発明について、平成28年8月5日に設定登録、同年8月31日に登録公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許について、平成29年2月23日付けの特許異議の申立てが塩島利之(以下。「申立人」という。)からされ、以下の手続がされたものである。
平成29年 5月31日付けの取消理由通知
同年 8月 1日付けの意見書提出
同年10月12日付けの取消理由(決定の予告)通知
同年12月15日付けの訂正請求及び意見書提出
平成30年 2月 2日付けの意見書提出(申立人)

第2.訂正請求の認否

1.訂正の内容

本件訂正請求は、次の訂正事項1よりなる。

訂正事項1(下線部が訂正箇所)
特許請求の範囲の請求項1に、「γ-ウンデカラクトンを有効成分とする、スカトール臭又はインドール臭の抑制剤。」とあるのを、「γ-ウンデカラクトンを有効成分とする、スカトール臭又はインドール臭の抑制剤(ただし、ウンデシレン酸、ウンデシレン酸の塩、ウンデシレン酸のエステル誘導体、又はそれらの混合物を有効成分として併用する場合を除く)。」に訂正する。

2.訂正要件の判断

(1)訂正事項1は、請求項1に記載されたスカトール臭又はインドール臭の抑制剤の発明について、特定の有効成分と併用しないことを特定することにより、その特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。そして、本件明細書の【0026】【0027】には、上記発明が消臭効果を有する他の成分を含み得ることが記載されていたから、上記特定により新たな技術的事項が導入されるわけではないから、この訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)なお、申立人は意見書で、γ-ウンデカラクトン自体がウンデシレン酸の環状エステル誘導体であるから、これを除くような状況は存在せず、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮に当たらないこと、また、仮にそうでないとしても、本件明細書において「有効成分」とは「嗅覚受容体のアンタゴニスト」を意味するから、訂正事項1は、甲1に記載された発明を除くものものではなく、適法な「除くクレーム」ではないと主張している。
そこで検討するに、γ-ウンデカラクトンは、環状エステル化合物ではあるが、アルコールによるウンデシレン酸の脱水縮合反応により得られるエステル誘導体ではないから、両者は区別でき、その併用を除くような状況が当然に想定できる。次に、「有効成分」が「嗅覚受容体のアンタゴニスト」を意味するのは、請求項2の場合であり、請求項1においては、「有効成分」とは、スカトール臭又はインドール臭の抑制に有効な成分と解することができる。そして、先行技術が除かれるか否かは新規性の問題であって、「除くクレーム」の適法性とは無関係である。
したがって、上記主張はいずれも採用できない。

3.むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

第3.本件発明の認定

本件特許の請求項1,2に係る発明(以下、「本件発明1,2」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1,2に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

【請求項1】
γ-ウンデカラクトンを有効成分とする、スカトール臭又はインドール臭の抑制剤(ただし、ウンデシレン酸、ウンデシレン酸の塩、ウンデシレン酸のエステル誘導体、又はそれらの混合物を有効成分として併用する場合を除く)。
【請求項2】
γ-ウンデカラクトンを有効成分とする、OR5P3、OR2W1、OR5K1及びOR8H1から選択される嗅覚受容体のいずれか1に対する受容体拮抗剤。

第4.取消理由(申立理由)の概要

本件訂正前において、異議申立人が主張し、当審にて通知した取消理由及び引用文献は次のとおりである。、

取消理由1
本件発明1が、下記甲1,3,4に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

取消理由2
本件発明1は、下記甲1?4に記載された発明、本件発明2は、下記甲1,3?5に記載された発明に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

取消理由3
本件発明1,2に係る特許は、使用するγ-ウンデカラクトンの量が明らかでない点で、特許法第36条第4項第1項及び第6項第1号並びに第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

甲1:特表2004-500143号公報
甲2:特開昭63-310883号公報
甲3:特表2007-533815号公報
甲4:特開2003-190264号公報
甲5:東原和成
「嗅覚受容体の機能-G蛋白質共役型受容体最大のファミリー」
医歯薬出版株式会社、医学のあゆみ、Vol.212 No.1
2005.1.1 P.77-811.
(甲1?5は、特許異議申立書に添付された甲第1?5号証)

第5.取消理由1について

1.甲1について

(1)甲1には、次の記載がある。

【0012】
特にウンデシレン酸のエステル誘導体は優れた脱臭活性をもつことが知られている。ウンデシレン酸のポリオキシアルキレン及び単純アルキルエステルは動物の排出物の処理に有効であることが知られている。・・・

【0023】
一の態様において、ウンデシレン酸はメチル及び/又はエチルエステル形で用いられる好ましくは、ウンデシレン酸/誘導体を溶液中の芳香成分とプレミックスして、最終製品の最終組成分がウンデシレン酸/誘導体を約50重量%より少ないが約0.1重量%よりは多く含むように臭気中和性「プレミックス」又は「ONP」をつくる。・・・

【0055】
表13及び14には例4で用いた芳香成分用の構成成分をCAS番号と共に示す。

【0057】
【表14】

【0058】
例4:
異なる悪臭がくみ込んだ布の処理をONPスプレーと市販品で消費者の好みを比較検討
臭気中和用プレミックス(ONP)を表13及び14に従って芳香成分とウンデシレネートを用いてつくった。ここでウンデシレネートはメチルウンデシレネート25重量%とエチルウンデシレネート75重量%からなる。このONPを表15に従い、0%(対照)、1%及び2%濃度にて担体溶液に加えてテスト溶液をつくった。次いで100%綿デニム布を芳香成分のない洗剤で予備洗浄し、乾燥し、4×4インチ平方に切断しテスト布をつくった。0.1重量%のスケルトン(※下記注)のエチルアルコール溶液とガーリック抽出分からなる悪臭溶液をつくり、各悪臭溶液を同一配置をもつ2つの別々のポンプスプレーユニットの1つに入れた。各悪臭溶液の3つのスプレーを別々に、1.5インチの円形ステンシルを通して、別々のテスト布上にスプレーし、3分間放置乾燥した。別々のテスト布をもえているタバコによる煙チェンバーに入れてタバコの煙に20分間さらした。次に1.0%と2.0%のONP溶液と0%対照溶液を、2.0インチの円形のステンシルを通して、別々に乾燥布にスプレーした。各々は異なる(即ちスカトール、ガーリック、タバコの煙)悪臭をもつ。
※注「スカトール」の誤訳と認められる。
【0059】
また各乾燥悪臭用の別々のテスト布をオハイオ州シンシナティのプロクター・アンド・ギャンブル社製のFebreze(商標)脱臭剤で3回スプレーした。同様にして、同じポンプスプレーユニットを用いて1.0%、2.0%ONP溶液と対照溶液での処理を行った。18才から54才の25人の非喫煙女性をパネラーとして処理したテスト布と処理しないテスト布について5点法で臭気快適性を評価した(0=悪臭なし?5=極めて強い悪臭)。
表15?17に示すように、ONP溶液が顕著に優れた悪臭低下を示した。
【0060】
【表15】


(2)上記のとおり、甲1には、ウンデシレン酸のエステル誘導体が優れた脱臭活性を有し(【0012】)、この誘導体を芳香成分とプレミックスして臭気中和性プレミックスをつくること(【0023】)が記載され、その実施例である「例4」において、芳香成分としてガンマウンデカラクトンを用い(【0055】【0057】)、ウンデシレン酸のエステル誘導体としてメチルウンデシレネート及びエチルウンデシレネートを用いて作成された臭気中和用プレミックスが、悪臭である「スカトール」の臭気を低下させたこと(【0058】?【0060】)が記載されている。
したがって、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「芳香成分としてガンマウンデカラクトンを用い、脱臭活性成分としてウンデシレン酸のエステル誘導体を用いたスカトール臭気中和用プレミックス。」

(3)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明のスカトール臭気中和用プレミックスが、ウンデシレン酸のエステル誘導体を脱臭活性成分として用いるのに対し、本件発明1のスカトール臭又はインドール臭の抑制剤は、ウンデシレン酸のエステル誘導体を有効成分として併用する場合を除くものである点で相違する。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。

2.甲3,4について

甲3には、香料組成物を構成可能な一成分として「γ-アンデカラクトン」、当該香料組成物により防ぐことが可能な悪臭の一例として「スカトール」が記載されているものの、γ-アンデカラクトンが、スカトール臭の抑制に有効な成分であることを確認できるような具体的な記載はない。
また、甲4には、環境用芳香消臭組成物を構成可能な一成分として「γ-ウンデカラクトン」、当該環境用芳香消臭組成物によりマスキング可能な悪臭の一例として「排便時の臭い」が記載されているものの、γ-ウンデカラクトンが、スカトール臭の抑制に有効な成分であることを確認できるような具体的な記載はない。
したがって、本件発明1は、甲3.4に記載された発明とはいえない。

3.まとめ

以上のとおりであるから、取消理由1には理由がない。

第6.取消理由2について

1.本件発明1について

上述したように、甲3,4には、スカトール臭そのものの抑制にγ-ウンデカラクトンが有効な成分であることについて記載も示唆もない。また、甲2には、香料としてのγ-ウンデカラクトンの製造方法が記載されているにすぎない。
一方、甲1(【0012】【0023】)には、上述したように、ウンデシレン酸のエステル誘導体が優れた脱臭活性を有し、臭気中和用プレミックスにおける必須成分であることが記載され、γ-ウンデカラクトンは芳香成分の1つとして記載されているにすぎない。
してみると、スカトール臭気中和用プレミックスである甲1発明において、必須成分であるウンデシレン酸のエステル誘導体を除くことには阻害要因があり、また、γ-ウンデカラクトンが、スカトール臭に対して脱臭活性を有することも予期し得ないことといえる。
したがって、本件発明1は、甲1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本件発明2について

甲1,3?5に、「OR5P3、OR2W1、OR5K1及びOR8H1から選択される嗅覚受容体」について記載も示唆もないことから、本件発明2は、甲1,3?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、申立人は意見書で、甲1発明においても、γ-ウンデカラクトンは、鼻腔に取り込まれて臭気の抑制作用を奏するのだから、嗅覚受容体拮抗作用が生じていたと考えられると主張しているが、甲1には、上述したように、γ-ウンデカラクトンが脱臭活性を有することすら記載されていないのだから、嗅覚受容体拮抗作用を認識することなどできないし、臭気の抑制は、そもそも嗅覚受容体拮抗作用によってのみ生じるわけではない(要すれば、甲3の【0005】の記載等参照)から、上記主張は採用できない。

3.まとめ

以上のとおりであるから、取消理由2には理由がない。

第7.取消理由3について

1.発明の詳細な説明の記載

本件明細書には、試験物質として、γ-ウンデカラクトンを用いた実施例として、【0039】に、
「実施例4 悪臭受容体アンタゴニストの同定
実施例1で同定されたスカトール受容体を対象としてアンタゴニストの探索を行った。
実施例2と同様の手順でHEK293細胞にそれぞれ発現させたOR2W1、OR5K1、OR5P3、及びOR8H1に対して、300μMスカトール刺激下で121種類の試験物質(100μM)を適用し、嗅覚受容体のスカトール応答を抑制するアンタゴニストの探索を行った。」
こと、【0042】に、
「実施例5 悪臭抑制能の官能評価試験
実施例4で同定したアンタゴニストの悪臭抑制能を、官能試験によって確認した。
ガラス瓶(柏洋硝子No.11、容量110ml)に綿球を入れ、悪臭としてプロピレングリコールで100000倍に希釈したスカトール、及び試験物質を綿球に20μl滴下した。ガラス瓶を一晩室温で静置し、匂い分子をガラス瓶中に十分揮発させた。官能評価試験はパネラー4名で行い、悪臭を単独で滴下した場合の匂いの強さを5とし、試験物質を混合した場合の悪臭の強さを0から10(0.5刻み)の20段階で評価した。」
ことがそれぞれ記載されている。

2.記載不備に関する判断

上記記載によると、実施例4からは、300μMのスカトールに対し、100μMのγ-ウンデカラクトンが、嗅覚受容体のスカトール応答を抑制することを確認でき、実施例5から、プロピレングリコールで100000倍に希釈したスカトール20μlの悪臭を、γ-ウンデカラクトン20μlの滴下により抑制できることを確認できる。
してみると、発明の詳細な説明には、本件発明1,2において使用するγ-ウンデカラクトンの量について具体的な記載がなされているから、当業者は、特段の試行錯誤を要することなく、本件発明1,2の実施をすることができる。
また、上記記載及び技術常識からみて、スカトール臭の抑制のためにγ-ウンデカラクトンの量的限定が必要になるとは認められないから、γ-ウンデカラクトンの量について特定がなくとも、本件発明1,2は、発明の詳細な説明に記載された発明と認識することができ、また、物の発明として明確であるといえる。

3.まとめ

以上のとおりであるから、取消理由3には理由がない。

第8.むすび

以上のとおり、取消理由(申立理由)によっては、請求項1,2に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1,2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-ウンデカラクトンを有効成分とする、スカトール臭又はインドール臭の抑制剤(ただし、ウンデシレン酸、ウンデシレン酸の塩、ウンデシレン酸のエステル誘導体、又はそれらの混合物を有効成分として併用する場合を除く)。
【請求項2】
γ-ウンデカラクトンを有効成分とする、OR5P3、OR2W1、OR5K1及びOR8H1から選択される嗅覚受容体のいずれか1に対する受容体拮抗剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-06 
出願番号 特願2015-137452(P2015-137452)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森井 隆信  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 豊永 茂弘
大橋 賢一
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5982044号(P5982044)
権利者 花王株式会社
発明の名称 悪臭抑制剤  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 山本 博人  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 高野 登志雄  
代理人 村田 正樹  
代理人 高野 登志雄  

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