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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
管理番号 1341043
異議申立番号 異議2017-700725  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-24 
確定日 2018-04-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6064903号発明「導電性シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6064903号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6064903号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6064903号の請求項1?8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2012年5月30日(優先権主張2011年5月31日 日本国 2011年10月25日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年1月6日に特許権の設定登録がされ、同年1月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月24日に特許異議申立人 松山徳子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年9月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月2日に意見書が提出され、同年12月22日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年2月21日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、同日に申立人から上申書が提出され、上記訂正の請求に対して申立人から同年3月23日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に「前記導電層の厚みが、(i)150℃、2MPa、30分間の条件で、被着体と加熱プレスした場合に、加熱プレス前の当該導電層の厚みを100としたときに30以上、95以下の範囲になるもの、及び(ii)前記デンドライト状導電性微粒子(B)の平均粒子径D_(90)が、前記加熱プレス前の当該導電層の厚みに対して0.5倍以上、3倍以下の範囲になるもの、の少なくとも一方を満たし」とあるのを、「前記導電層の厚みが、(i)150℃、2MPa、30分間の条件で、被着体と加熱プレスした場合に、加熱プレス前の当該導電層の厚みを100としたときに30以上、95以下の範囲になるもの、を満たし」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?8も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、「導電層の厚み」に関し、「(i)150℃、2MPa、30分間の条件で、被着体と加熱プレスした場合に、加熱プレス前の当該導電層の厚みを100としたときに30以上、95以下の範囲になるもの」(以下、「条件(i)」という。)又は「(ii)前記デンドライト状導電性微粒子(B)の平均粒子径D_(90)が、前記加熱プレス前の当該導電層の厚みに対して0.5倍以上、3倍以下の範囲になるもの」(以下、条件(ii)という。)の少なくとも一方を満たすとの記載から、条件(ii)を削除して、条件(i)のみに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項1による訂正は、請求項1?8の一群の請求項に対して請求されたものである。
なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項に規定された要件を満たすので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。

第3 訂正後の請求項1?8に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1?8」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
熱硬化性樹脂(A)と、
デンドライト状導電性微粒子(B)と、を少なくとも含み、且つ空隙を有する導電層を具備し、
前記導電層の厚みが、(i)150℃、2MPa、30分間の条件で、被着体と加熱プレスした場合に、加熱プレス前の当該導電層の厚みを100としたときに30以上、95以下の範囲になるもの、を満たし、
前記デンドライト状導電性微粒子(B)の平均粒子径D_(50)が3μm以上、50μm以下であって、かつ、前記デンドライト状導電性微粒子(B)を前記導電層中に50重量%以上、90重量%以下の範囲で含有する加熱プレス貼着用の導電性シート。
【請求項2】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)の平均粒子径D_(90)は、前記平均粒子径D_(50)の1.5倍以上、5倍以下である請求項1記載の導電性シート。
【請求項3】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)のタップ密度が0.8g/cm^(3)以上、2.5g/cm^(3)以下であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性シート。
【請求項4】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)の見掛密度が0.4g/cm^(3)以上、1.5g/cm^(3)以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の導電性シート。
【請求項5】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)は、見掛密度ADとタップ密度TDの比率が、AD/TD=0.3?0.9であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の導電性シート。
【請求項6】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)は、核が銅であり、その表面に銀被覆層を有し、
前記銀被覆層が、デンドライト状導電性微粒子(B)100重量%中、1重量%以上、40重量%以下の割合であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の導電性シート。
【請求項7】
前記導電層上に、絶縁層が積層されている請求項1?6のいずれか1項に記載の導電性シート。
【請求項8】
前記導電層の厚みを100とするときに、前記絶縁層の厚みが50?200であることを特徴とする請求項7に記載の導電性シート。」

第4 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第5号証を提出し、以下の理由により、請求項1?8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずされたものである。

2 申立理由2
本件発明1?8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 申立理由3
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 申立理由4
本件発明1?8は、明確でないから、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

5 申立理由5
本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2003-45229号公報
甲第2号証:特開2005-146387号公報
甲第3号証:特開2007-291499号公報
甲第4号証:国際公開第01/64807号
甲第5号証:特開2006-269977号公報

第5 平成29年9月5日付け取消理由、及び、同年12月22日付け取消理由(決定の予告)の概要
当審において、請求項1?8に係る特許に対して通知した、平成29年9月5日付け取消理由、及び、同年12月22日付け取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1
本件発明の条件(i)及び条件(ii)は、本件発明が類似の性質又は機能を有するための条件とはいえず、本件発明の記載からは、一の発明を把握することができないから、本件発明は明確でない。
したがって、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 取消理由2
本件発明1において、条件(i),(ii)のうち条件(ii)のみを満たす場合には、必ずしも、「プリント配線板等の被着体に導電性シートを貼着する加熱プレス工程において、導電層の染み出しを最小限に低減できる加工性が良好な導電性シート及びその製造方法、並びに電子部品の提供すること」との課題(以下、「本件課題」という。)を解決できるとはいえないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、請求項1を引用する本件発明2?6も同様の理由より、発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

なお、前記第4の4における申立理由4は、上記取消理由1において採用されており、また、前記第4の5における申立理由5のうち、本件発明1?6についての申立理由は、上記取消理由2において採用されている。

第6 当審の判断
1 平成29年12月11日付け取消理由(決定の予告)に記載した取消理由について
(1) 取消理由1(特許法第36条第6項第2号)について
前記第5の1によれば、取消理由1は、訂正前の請求項1?8に係る発明の条件(i)及び条件(ii)は、本件発明が類似の性質又は機能を有するための条件とはいえず、本件発明の記載からは、一の発明を把握することができないから、訂正前の請求項1?8に係る発明は明確でないというものであったところ、本件訂正請求による訂正によって、本件発明は、条件(i),(ii)のうち条件(ii)が削除され、条件(i)のみを発明特定事項として備えることとなったから、取消理由1が解消していることは明らかである。
したがって、取消理由1には理由がない。

(2) 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
ア 前記第5の2によれば、取消理由2は、訂正前の請求項1?6に係る発明において、条件(i),(ii)のうち条件(ii)のみを満たす場合には、必ずしも本件課題を解決できるとはいえないから、訂正前の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないというものであったところ、本件訂正請求による訂正によって、本件発明1?6は、条件(i),(ii)のうち条件(ii)が削除され、条件(i)のみを発明特定事項として備えることとなったから、取消理由2が解消していることは明らかである。
したがって、取消理由2には理由がない。
なお、請求項1を引用する本件発明7、8については、取消理由は通知していないが、本件発明7、8も本件発明1と同様に本件課題を解決できるといえるから、発明の詳細な説明に記載したものである。

イ 申立人の主張について
申立人は、平成30年3月23日付けの意見書の2頁11行?最下行において、本件特許の審査における拒絶理由通知(起案日:平成28年2月12日)に対する意見書(提出日:平成28年3月16日、以下「平成28年3月16日付意見書」という。)の「5.本願発明と引用文献との比較」において、特許権者は、「・・・本願明細書の比較例11?13に示すように、単にデンドライト状粒子を採用したのみでは、本願の効果を奏することはできません。・・・」(参考資料1参照)との主張を行っており、また、本件特許の実施例1?22及び比較例11?13を比較して理解できることは、実施例14?22では絶縁信頼性が良好になり、比較例11?13では絶縁信頼性が良好にならないということであるため、平成28年3月16日付意見書を読んだ当業者は、「出願人(特許権者)は、特許を受けようとする発明の範囲を、絶縁信頼性が良好になる範囲に変更する意図があった」と考えるはずであるから、出願経過を参酌した場合、本件特許発明(特許査定時の発明)が解決しようとする課題は、「絶縁性が良好な導電性シートを提供すること」と解釈されるべきである旨主張している。
そこで検討するに、申立人が当該主張の根拠としている、平成28年3月16日付け意見書(参考資料1)の「5.本願発明と引用文献との比較」には、「本願明細書の比較例11?13に示すように、単にデンドライト状粒子を採用したのみでは、本願の効果を奏することはできません。」(以下、「意見書主張1」という。)との記載に続いて、「上述した本願請求項1の全ての構成要件を満たすことによって、加熱プレス前に空隙を多く含む導電層を形成できます。その結果、本願請求項1の導電性シートを、例えば、プリント配線板に加熱プレスする際、流動する熱可塑性樹脂等を当該空隙で吸収することが可能となります(段落[0014]参照)。これにより導電層の染み出しを防止し、加工性を改善できます。その結果、当該導電性シートを使用したプリント配線板等の電子部品は、染み出し由来の不良品を大幅に減少させ、歩留まり向上を実現できます。さらにはプリント配線板等の電子部品の回路のショートや、イオンマイグレーションを大幅に低減できるという優れた効果を奏します。」(以下、「意見書主張2」という。)と記載されている。
そして、本件特許明細書における比較例11?13(【表2B】参照。)の「絶縁信頼性」は、いずれも「×」であることからすると、意見書主張1から、本件発明の効果は、絶縁信頼性が良好になることともいえる。しかし、意見書主張1に続く意見書主張2においては、本件発明の効果として、導電層の染み出し防止については主張されているものの、絶縁性の信頼性については何ら主張されていないから、意見書主張1と意見書主張2とは、効果についての主張の内容が整合していない。
そうすると、同意見書を読んだ当業者は、直ちに、「出願人(特許権者)は、特許を受けようとする発明の範囲を、絶縁信頼性が良好になる範囲に変更する意図があった」と考えるとはいえない。
また、本件特許明細書【0100】の「表2A、表2Bの結果より、デンドライト状導電性微粒子の平均粒子径D_(90)が導電層の膜厚に対して0.5?3倍の範囲内に特定することで、従来形状の導電性微粒子よりも加熱プレス後の横方向への導電層の染み出しが少ない事がわかる。また、優れた屈曲性を示しているとともに、高い絶縁信頼性も実現できたことが確認された。」との記載においては、表2A(実施例14?22)及び表2B(比較例11?13)の結果から、デンドライト状導電性微粒子の平均粒子径D_(90)を導電層の膜厚に対して0.5?3倍の範囲内に特定すれば、すなわち、本件発明の条件(ii)を満たせば、導電層の染み出しが防止できるとともに、屈曲性及び絶縁信頼性が良好になることが説明されているといえるから、実施例14?22及び比較例11?13の記載から、本件発明の効果が、「絶縁信頼性が良好である」ことのみであるとはいえない。
そうすると、本件特許の出願経過を考慮しても、「絶縁性が良好な導電性シートを提供すること」のみが、本件発明が解決しようとする課題であるとはえいない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

2 取消理由通知において採用しなかった理由について
(1) 申立理由1、2(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について
ア 甲号証の記載事項
(ア) 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、「導電性接着剤およびそれを用いたICチップの実装方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(当審注:下線は当審が付与した。)。
(1a) 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の導電性接着剤を用いてICチップを実装すると、以下の様な不具合が発生する場合があった。
【0007】第1に、従来の導電性接着剤では電気抵抗率の安定性が不十分なため、ICチップとアンテナとの間で安定した導電性を実現できない場合があった。
【0008】第2に、従来の導電性接着剤では電気抵抗率が高すぎるため、導電性が不十分な場合があった。また、導電性粒子の含有量を増加して電気抵抗率を低減しようとすると、多量の導電性粒子を添加する必要があるため、バインダー樹脂の含有量が不足し、ICチップとアンテナとの間の接着強度が不足する場合があった。
【0009】第3に、従来の導電性接着剤では所望の粘度などを調整することが難しく、取扱い性が不足し、十分な生産効率を実現できない場合があった。
【0010】第4に、基材1の接着パッド2をアルミニウム薄膜をエッチングして形成する場合、図9に示す様に、接着パッド2の表面が酸化されて酸化皮膜からなる変質層7が発生し、接着パッド2とバンプ5との電気的接続が不良となる恐れがあった。また、接着パッド2の表面の微小な汚れや接続作業条件のバラツキなどで接続抵抗が高くなったり、不安定な接続状態になり易いという問題があった。
【0011】以上の様な状況に鑑み、本発明においては、ICチップを実装する際に、ICチップとアンテナとの間で、十分で安定した導電性、十分な接着強度を実現し、取扱い性に優れる導電性接着剤を提供することを目的とする。また、この様に優れた性能を有する導電性接着剤を用いてICチップを実装する方法を提供することを目的とする。」

(1b) 「【0019】また、少量の導電性粒子で高い導電性を実現できるため、十分量のバインダー樹脂を使用することができ、ICチップとアンテナとの間で十分な接着強度を実現できる。同時に低コスト化を図ることもできる。」

(1c) 「【0092】(ア)以上で得られた導電性接着剤1を、日本黒鉛(株)製の銅箔付PET(Cu:35μm/PET:75μm)の銅箔上に、スクリーン印刷法で10μmの厚さに塗布した。これを幅5mm及び長さ10cmに切断し、試験片を作製した。この試験片を2片用意し、導電性接着剤1からなる塗布層を圧着させ、100℃で20分加熱した。」

(1d) 「【0107】(実施例5)導電性接着剤6
タングステンよりなる原料金属粒子の表面を、ニッケルによりメッキ処理してデンドライト組織を形成させた後、更にデンドライト成長させて、針状の放射状突起を有する第1導電性粒子を作製した。得られた第1導電性粒子の平均粒子径は4μm、放射状突起部の放射方向の平均長は1.5μmであった。
【0108】次に、得られた第1導電性粒子を、含有量が60質量%となるようエポキシ樹脂からなるビヒクル中に混合し、導電性接着剤6を作製した。
【0109】一方、PET製の基材上に、アルミニウム薄膜をエッチングして接着パッドを作製した。得られた接着パッドの表面は酸化され、酸化皮膜からなる変質層が形成されていた。この接着パッド上に導電性接着剤6を塗布後、ICチップのバンプを圧着して、180℃で20秒加熱し、ICチップを実装した。
【0110】導電性接着剤6の取扱い性は良好であり、得られた実装品の性能を調べたところ、バンプと接着パッドとの間で、十分で安定した導電性、十分な接着強度が実現されていることが分かった。また、変質層は第1導電性粒子により貫通さており、高温多湿耐性や物理的衝撃耐性も十分であることが分かった。」

(イ) 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、「デンドライト状微粒銀粉及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【0040】
【表1】



(ウ) 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、「デンドライト状銀粉」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【0044】
【表1】



(エ) 本件特許に係る国際出願の優先日前に公知となった甲第4号証には、「導電性接着剤と電子部品の実装体及びその実装方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(4a) 「1.導電性フィラーとバインダー樹脂とを主成分とする導電性接着剤であって、前記導電性フィラーの含有比率は20wt%以上70wt%以下の範囲であする導電性接着剤。」(明細書33頁3?5行)

(4b) 「本発明は、導電性フィラー含有率を従来の導電性接着剤に比べて低くしたものである。これにより、部品および回路基板との接続界面での接着成分が多くなって、界面での接続強度が向上する。この結果、前記の導電性接着剤に対して、電子部品と導電性接着剤との接続界面、および回路基板の電極と導電性接着剤との接続界面の接着強度がさらに向上して、電子部品の接続信頼性が一層向上できる。
前記導電性接着剤においては、前記導電性フィラーの少なくとも一部には突起を有する金属フィラーを含むことが好ましい。
また前記導電性接着剤においては、突起を有する導電性フィラーがデンドライト状フィラーであることが好ましい。ここで「デンドライト状」とは、樹枝状に、主幹を中心に多数の枝が成長した形状のことである。このデンドライト状導電性フィラーの模式図を図1に示す。
・・・
導電性フィラーは、銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、ステンレス及びこれらの合金から選ばれる少なくとも一つの金属であることが好ましい。
導電性フィラーは、金属の表面に銀、金、パラジウム、シリカ及び樹脂から選ばれる少なくとも一つの物質を被覆したフィラーであってもよい。」(明細書6頁13行?7頁12行)

(オ) 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第5号証には、「シールドフレキシブル配線板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(5a) 「【請求項1】
絶縁性のベースフィルム、このベースフィルムに接して設けられた回路、この回路を被覆するカバーレイ、このカバーレイ上に設けられ、かつカバーレイに形成された貫通孔を通して回路と導通する導電性シールド層、及びこの導電性シールド層を被覆する絶縁保護層からなるシールドフレキシブル配線板であって、前記絶縁保護層内に、前記導電性シールド層をフレキシブル配線板外の導体と導通する接地部が形成されていることを特徴とするシールドフレキシブル配線板。」

(5b) 「【0027】
この回路の上には、ポリイミドフィルムからなり、厚み25μmのカバーレイ3、3’が貼り合わされている。カバーレイ3、3’には、レーザー照射や金型加工等により貫通孔4、4’が形成されている。このカバーレイ上4、4’には、スクリーン印刷により銀ペースト(導電性ペースト)が厚み15?25μmで塗布されており、銀ペーストからなるシールド層5、5’が形成されている。この銀ペーストは前記貫通孔4、4’を充填しており、従って、このシールド層5、5’は、それぞれ回路2、2’と導通している。
【0028】
銀ペーストにより形成されたシールド層5、5’の上には、スクリーン印刷により絶縁インクが厚み15?25μmで塗布されており、絶縁インクからなる絶縁保護層6、6’が形成されている。絶縁保護層6、6’には開口部7、7’が形成され、開口部7、7’には、金や半田等によるめっきが施された表面処理部8、8’が形成されている。スクリーン印刷によれば、この開口部7、7’は、簡易な操作により形成することができる。なお、表面処理部8、8’の厚みは、絶縁保護層6、6’の厚みよりも薄い場合が多い。その場合の、シールドフレキシブル配線板の断面図を、図1(b)に示す。」

イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記(1d)の記載によれば、実施例5の導電性接着剤6は、エポキシ樹脂と、針状の放射状突起を有する平均粒子径4μmの第1導電性粒子を少なくとも有しており、接着パッド上に塗布後、ICチップのバンプと熱圧着されるものであり、導電性接着剤中に第1導電性粒子が60質量%含有されているものである。
ここで、接着パッド上に塗布された導電性接着剤は、導電層であるといえ、また、当該導電層中には第1導電性粒子が60質量%含有されているといえる。
以上から、甲第1号証の実施例5における、接着パッド上に塗布された導電性接着剤に注目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「エポキシ樹脂と、針状の放射状突起を有する平均粒子径4μmの第1導電性粒子を少なくとも含む導電層であって、前記第1導電性粒子を前記導電層中に60質量%含有する、熱圧着される導電性接着剤。」(以下、「甲1発明」という。)

ウ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1は「加熱プレス貼着用の導電性シート」であるのに対し、甲1発明は「熱圧着される導電性接着剤」である点(以下、「相違点1」という。)で少なくとも相違している。

(イ) 相違点1について
a 本件発明1は、「加熱プレス貼着用の導電性シート」に関するものであるところ、本件特許明細書の「被着体は、導電性シートを貼り付ける対象物全般であり、例えば、プリント配線基板、フレキシブル基板等が挙げられる。」(【0019】)等の記載によれば、本件発明1の「加熱プレス貼着用の導電性シート」は、被着体に貼り付けられるシート状のものであるといえる。
一方、甲1発明の「熱圧着される導電性接着剤」は、前記イの検討によれば、接着パッド上に塗布されたものであるから、被着体に貼り付けられるシート状のものであるとはいえない。
したがって、甲1発明の「熱圧着される導電性接着剤」は、本件発明1の「加熱プレス貼着用の導電性シート」に相当しない。

b この点について、申立人は、平成30年3月23日付け意見書の6頁9?12行において、甲第1号証の【0109】には、接着パッド上に導電性接着剤を塗布することが記載されており、この際、導電性接着剤はシート状になるので、甲第1号証には、「加熱プレス貼着用導電性シート」が記載されている旨主張している。
しかし、本件発明1の「加熱プレス貼着用導電性シート」は、上記のとおり、被着体に貼り付けられるシート状のものであるのに対し、甲第1号証の導電性接着剤は、接着パッド上に塗布されたものであるから、被着体に貼り付けることはできない。
したがって、甲第1号証には、「加熱プレス貼着用導電性シート」が記載されているとはいえないから、申立人の上記主張は採用できない。

c 以上のとおりであるから、相違点1は実質的な相違点である。

d 相違点1について、申立人は、平成30年3月23日付け意見書の6頁19行?12頁12行において、同意見書に添付した参考資料3(特開2002-324427号公報)、参考資料4(国際公開第2009/063827号)を根拠として、導電性粒子及び樹脂からなる導電性接着剤を、用途や目的に応じて、フィルム状(シート状)とすることは技術常識であるから、当業者であれば、用途や目的に応じて、甲1発明の導電性接着剤をフィルム状(シート状)にして使用したはずである旨主張している。
そこで検討するに、甲第1号証の前記(1a)の記載によれば、従来の導電性接着剤を用いてICチップを実装すると、
[1]電気抵抗率の安定性が不十分なため、ICチップとアンテナとの間で安定した導電性を実現できない
[2]電気抵抗率が高すぎるため、導電性が不十分となり、導電性粒子の含有量を増加して電気抵抗率を低減しようとすると、多量の導電性粒子を添加する必要があるため、バインダー樹脂の含有量が不足し、ICチップとアンテナとの間の接着強度が不足する
[3]所望の粘度などを調整することが難しく、取扱い性が不足し、十分な生産効率を実現できない
などの不具合が発生する場合があったため、甲1発明は、ICチップを実装する際に、ICチップとアンテナとの間で、十分で安定した導電性、十分な接着強度を実現し、取扱い性に優れる導電性接着剤を提供することを課題とするものである。
また、甲第1号証の前記(1b)の記載によれば、甲1発明は、少量の導電性粒子で高い導電性を実現できるため、十分量のバインダー樹脂を使用することができ、ICチップとアンテナとの間で十分な接着強度を実現できるものであり、前記(1d)の【0110】の記載によれば、甲1発明は、取扱い性は良好であり、得られた実装品の性能を調べたところ、バンプと接着パッドとの間で、十分で安定した導電性、十分な接着強度が実現されるものである。
以上の記載から、甲1発明の導電性接着剤は、所望の粘度を有するペースト状であることを前提とするものであるといえる。
そうすると、ペースト状であることを前提とする甲1発明をシート状とすることには、阻害要因があるものと認められる。
したがって、仮に、導電性粒子及び樹脂からなる導電性接着剤を、用途や目的に応じて、フィルム状(シート状)とすることが技術常識であったとしても、甲1発明の導電性接着剤をシート状とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものとはいえず、このことは、甲第2号証?甲第第5号証に記載された事項により左右されるものではない。

e 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。

ウ 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるあるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2?8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。

(2) 申立理由3(特許法第36条第4項第1号)について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の23頁7行?24頁下から3行において、本件特許明細書には、デンドライト状導電性微粒子の平均粒子径の制御方法が記載されていないため、本件発明1?8を実施することができない旨主張している。
しかし、本件特許明細書の【0094】には、「表2A,表2Bのデンドライト銀、デンドライト銅粉、フレーク状銀、球状銀に関しては、福田金属箔粉工業社製を使用した。」と記載されており、同【0099】の【表2A】及び【表2B】(前記1(1)イ(ウ)参照。)には、様々な平均粒子径D_(50)及びD_(90)を有するデンドライト状導電性微粒子が記載されているから、本件特許に係る出願時には、様々な平均粒子径D_(50)及びD_(90)を有するデンドライト状導電性微粒子が市販されていたと認められる。
そうすると、本件特許に係る出願時において、当業者は、様々な平均粒径D_(50)及びD_(90)を有するデンドライト状導電性微粒子を購入することができたといえるから、所望の平均粒子D_(50)及びD_(90)を有するデンドライト状導電性微粒子を購入することによって、本件発明1?8に係る発明について実施ができることは明らかである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 特許異議申立人は、特許異議申立書の24頁下から2行?26頁7行において、本件特許明細書の【0095】には、「表2A,表2Bのデンドライト銀コート銅粉は、福田金属箔粉工業社製のデンドライト銅粉を使用し、以下の条件で銀被覆処理を行うことで、銅の核90重量%、銀被覆層10重量%のデンドライト銀コート銅粉を得た。」と記載されているものの、同明細書には、上記「以下の条件」が一切記載されていないから、当業者は、本件発明6に係るデンドライト状導電性微粒子を作製することができず、そのデンドライト状導電性微粒子を使用した導電性シートを製造することもできない旨主張している。
確かに、本件特許明細書には、「銀被覆処理」の「条件」については、記載されていない。
しかし、銅粉の形状がデンドライト状(樹枝状)であるか否かに限らず、銅粉に銀被覆処理を行う方法は、本件特許に係る国際出願時において、周知慣用の方法であるから(必要であれば、特開昭60-243277号公報の特許請求の範囲、2頁右下欄2?4行、特開昭63-81706号公報の3頁左上欄13?18行、特開2004-52044号公報の【0021】、【0023】?【0024】、国際公開第2008/059789号の[0019]、[0021]?[0022]等を参照されたい。)、本件特許明細書おいて、銀被覆処理の具体的な条件が記載されてなくても、当業者であれば、デンドライト銅粉に、上記周知慣用の銀被覆処理を行うことで、本件発明6に係るデンドライト状導電性微粒子を作製し得るものである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

第7 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂(A)と、
デンドライト状導電性微粒子(B)と、を少なくとも含み、且つ空隙を有する導電層を具備し、
前記導電層の厚みが、(i)150℃、2MPa、30分間の条件で、被着体と加熱プレスした場合に、加熱プレス前の当該導電層の厚みを100としたときに30以上、95以下の範囲になるもの、を満たし、
前記デンドライト状導電性微粒子(B)の平均粒子径D_(50)が3μm以上、50μm以下であって、かつ、前記デンドライト状導電性微粒子(B)を前記導電層中に50重量%以上、90重量%以下の範囲で含有する加熱プレス貼着用の導電性シート。
【請求項2】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)の平均粒子径D_(90)は、前記平均粒子径D_(50)の1.5倍以上、5倍以下である請求項1記載の導電性シート。
【請求項3】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)のタップ密度が0.8g/cm^(3)以上、2.5g/cm^(3)以下であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性シート。
【請求項4】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)の見掛密度が0.4g/cm^(3)以上、1.5g/cm^(3)以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の導電性シート。
【請求項5】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)は、見掛密度ADとタップ密度TDの比率が、AD/TD=0.3?0.9であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の導電性シート。
【請求項6】
前記デンドライト状導電性微粒子(B)は、核が銅であり、その表面に銀被覆層を有し、
前記銀被覆層が、デンドライト状導電性微粒子(B)100重量%中、1重量%以上、40重量%以下の割合であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の導電性シート。
【請求項7】
前記導電層上に、絶縁層が積層されている請求項1?6のいずれか1項に記載の導電性シート。
【請求項8】
前記導電層の厚みを100とするときに、前記絶縁層の厚みが50?200であることを特徴とする請求項7に記載の導電性シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-12 
出願番号 特願2013-517880(P2013-517880)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B)
P 1 651・ 536- YAA (H01B)
P 1 651・ 113- YAA (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山内 達人  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 宮本 純
河本 充雄
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6064903号(P6064903)
権利者 トーヨーケム株式会社 東洋インキSCホールディングス株式会社
発明の名称 導電性シート  
代理人 秦 恵子  
代理人 家入 健  
代理人 家入 健  
代理人 秦 恵子  
代理人 秦 恵子  
代理人 家入 健  

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