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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1341046
異議申立番号 異議2017-700675  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-11 
確定日 2018-04-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6056432号発明「パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール、パワーモジュール用基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6056432号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-9〕について訂正することを認める。 特許第6056432号の請求項1ないし7及び9に係る特許を維持する。 特許第6056432号の請求項8に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6056432号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成24年12月6日に特許出願され、平成28年12月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年7月11日に特許異議申立人 飯田進により特許異議の申立てがされ、平成29年10月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月8日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成30年2月13日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下(1)及び(2)のとおりである。
(1)請求項1ないし4からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」とあるのを、
「Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記パワーモジュール用基板の製造工程は、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることにより、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」に訂正する。

イ.訂正事項2
明細書の段落【0009】に
「このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴としている。」とあるのを、
「このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、前記パワーモジュール用基板の製造工程は、前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることにより、前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴としている。」に訂正する。

(2)請求項5ないし9からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成するAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成するとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。」とあるのを、
「Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。」に訂正する。

イ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

ウ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に
「前記Ag及び酸化物形成元素層含有ペーストは、前記酸化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項8に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。」とあるのを、
「前記Ag及び酸化物形成元素層含有ペーストは、前記酸化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。」に訂正する。

エ.訂正事項6
明細書の段落【0014】に
「本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成するAg及び酸化物形成元素層形成工程と、このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成するとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴としている。」とあるのを、
「本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴としている。」に訂正する。

オ.訂正事項7
明細書の段落【0018】を削除する。

2.訂正の適否についての判断
(1)請求項1ないし4からなる一群の請求項に係る訂正について
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4において、請求項2ないし4は、訂正する請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ.訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において銅板とセラミックス基板との間に「形成されている」ものとして記載されている「酸化物層」及び「Ag-Cu共晶組織層」に関して、それらの形成工程を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項1のうち、
「前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0043】等に記載されており、
「このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0044】等に記載されており、
「積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0045】、【0100】?【0102】(【表4】?【表6】)等に記載されており、
「この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0046】等に記載されており、
「前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすること」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0045】、【0051】等に記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ.訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)関係する請求項について
明細書の訂正である訂正事項2に関係する一群の請求項の全て(請求項1ないし4)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項1について上記イ(イ)で示したのと同様の理由で、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)で示したとおり、訂正事項2は上記訂正事項1と整合をとるためのものであるから、上記訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)請求項5ないし9からなる一群の請求項に係る訂正について
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項5ないし9において、請求項6ないし9は、訂正する請求項5を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項5ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ.訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項5における「Ag及び酸化物形成元素層形成工程」における当該層の具体的形成手法及び厚さについて特定し、また、「加熱工程」における圧力の数値範囲を特定し、「凝固工程」の後のAg-Cu共晶組織層の厚さの数値範囲を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項3のうち、
「前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程」については、願書に添付した明細書の段落【0043】等に記載されており、
「積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程」については、願書に添付した明細書の段落【0045】、【0100】?【0102】(【表4】?【表6】)等に記載されており、
「前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成すること」については、願書に添付した明細書の段落【0045】、【0051】等に記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項3は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ.訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

エ.訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5は、訂正事項4によって請求項8を削除するのにともない、請求項9の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項5は、引用請求項数を減少するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項5は、引用請求項数を減少するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

オ.訂正事項6について
(ア)訂正の目的について
訂正事項6は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)関係する請求項について
明細書の訂正である訂正事項6に関係する一群の請求項の全て(請求項5ないし9)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項3について上記イ(イ)で示したのと同様の理由で、訂正事項6は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)で示したとおり、訂正事項6は訂正事項3と整合をとるためのものであるから、当該訂正事項3と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

カ.訂正事項7について
(ア)訂正の目的について
訂正事項7は、上記訂正事項4に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)関係する請求項について
明細書の訂正である訂正事項7に関係する一群の請求項の全て(請求項5ないし9)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項7は、上記訂正事項4によって削除される請求項8の記載と対応する明細書の記載を削除するものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)で示したとおり、訂正事項7は上記訂正事項4と整合をとるためのものであるから、上記訂正事項4と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合する。
また、本件特許異議の申立ては、本件訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正事項1及び3ないし5に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正請求は適法なものであり、訂正後の請求項〔1ないし4〕、〔5ないし9〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(下線は訂正された箇所を示す。)

「【請求項1】
Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記パワーモジュール用基板の製造工程は、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることにより、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記酸化物層は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の酸化物を含有していることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項5】
Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物形成元素は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることを特徴とする請求項5に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記Ag及び酸化物形成元素層形成工程では、Ag及び酸化物形成元素以外に、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素を配設させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記Ag及び酸化物形成元素層含有ペーストは、前記酸化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して平成29年10月5日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)請求項1ないし6に係る発明は、引用文献1(甲第3号証)及び引用文献2(甲第1号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項7及び8に係る発明は、引用文献1ないし引用文献3(甲第4号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項9に係る発明は、引用文献1ないし引用文献4(甲第5号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<引用文献一覧>
1.特開2012-64801号公報(甲第3号証)
2.特開昭60-239373号公報(甲第1号証)
3.特開平11-12051号公報(甲第4号証)
4.特開2005-112677号公報(甲第5号証)

(2)請求項5ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

3.引用文献1の記載
引用文献1(甲第3号証:特開2012-64801号公報)には、「ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(1)「【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。」
(2)「【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)、Al_(2)O_(3)(アルミナ)、Si_(3)N_(4)(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板の一方の面側に第一の金属板が接合されるとともに、セラミックス基板の他方の面側に第二の金属板を介してヒートシンクが接続されたヒートシンク付パワーモジュール用基板が用いられる。
このようなヒートシンク付パワーモジュール基板では、第一の金属板に回路パターンが形成され、この第一の金属板の上に、はんだ材を介してパワー素子の半導体チップが搭載される。」
(3)「【0090】
次に、本発明の第3の実施形態について、図16から図18を参照して説明する。
図16に示すパワーモジュール201は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板210と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板210の搭載面222A上にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3(電子部品)と、を備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、搭載面222Aとはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0091】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板210は、セラミックス基板221と、このセラミックス基板221の一方の面(図16において上面)に接合された第一の金属板222と、セラミックス基板221の他方の面(図16において下面)に接合された第二の金属板223とを備えたパワーモジュール用基板220と、ヒートシンク211と、を備えている。
【0092】
セラミックス基板221は、第一の金属板222と第二の金属板223との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いSi_(3)N_(4)(窒化ケイ素)で構成されている。また、セラミックス基板221の厚さは、0.2?1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0093】
第一の金属板222は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、タフピッチ銅の圧延板とされている。また、その板厚は0.1?1.0mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
この第一の金属板222には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図16において上面)が、半導体チップ3が搭載される搭載面222Aとされている。
(中略)
【0101】
以下に、前述の構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板210の製造方法について説明する。
【0102】
まず、図20及び図21に示すように、銅からなる第一の金属板222と、セラミックス基板221とを接合する(銅板接合工程S201)。ここで、Si_(3)N_(4)からなるセラミックス基板221と第一の金属板222とは、いわゆる活性金属法によって接合されている。この活性金属法では、図21に示すように、セラミックス基板221と第一の金属板222との間に、Ag-Cu-Tiからなるろう材225を配設して、セラミックス基板221と第一の金属板222とを接合するものである。
なお、本実施形態では、Ag-27.4質量%Cu-2.0質量%Tiからなるろう材225を用いて、10^(-3)Paの真空中にて、850℃で10分加熱することによって、セラミックス基板221と第一の金属板222とを接合している。
(中略)
【0109】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板210によれば、上述の第1、第2の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板と同様の作用効果を奏することになり、第一の金属板222の上に搭載された半導体チップ3等の発熱体からの熱を効率良く促進することができ、かつ、熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板221の割れの発生を抑制し、信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュール用基板210を提供することが可能となる。
【0110】
また、Ag-Cu-Tiのろう材225を用いた活性金属法によって、第一の金属板222とセラミックス基板221とを接合しているので、第一の金属板222及びセラミックス基板221に酸素を介在させることなく、パワーモジュール用基板220を構成することができる。」

したがって、第3の実施形態に着目して、上記(1)及び(3)並びに図面の記載を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「Si_(3)N_(4)で構成されたセラミックス基板221と銅又は銅合金からなる第一の金属板222を、Ag-Cu-Tiからなるろう材225を用いた活性金属法によって接合する、パワーモジュール用基板の製造方法。」

4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア.特許法第29条第2項について
(ア)本件発明5について
まず、本件発明5について検討する。
本件発明5と引用発明とを対比すると、引用発明の「パワーモジュール用基板」「セラミックス基板221」「銅又は銅合金からなる第一の金属板222」は、本件発明5の「パワーモジュール用基板」「セラミックス基板」「銅または銅合金からなる銅板」にそれぞれ相当するから、本件発明5と引用発明は以下の点で相違し、その余の点で一致する。

<相違点1>
セラミックス基板が、本件発明5においては「Al_(2)O_(3)」からなるのに対して、引用発明においては「Si_(3)N_(4)」で構成されている点。
<相違点2>
セラミックス基板と銅板の接合に関して、本件発明5においては、(a)「前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程」及び(b)「積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程」を有するとともに、(c)「凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とする」のに対して、引用発明においては、「Ag-Cu-Tiからなるろう材225を用いた活性金属法によって接合する」ことが特定されているだけである点。
特に、引用発明においては、上記(a)のように「Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布すること」及び「乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とする」こと、上記(b)のように加熱時に「6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧する」こと、上記(c)のように「凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とする」ことは特定されていない点。

そこで、上記各相違点について検討すると、まず相違点1については、アルミナ(Al_(2)O_(3))からなるセラミックス基板は、パワーモジュール用基板としてごく普通に用いられている(例えば、引用文献1の上記3.(2)で摘示した記載を参照。)から、引用発明の上記セラミックス基板221として、アルミナ(Al_(2)O_(3))からなるセラミックス基板を用いることは、当業者にとって格別の創意工夫を要することではない。

次に、相違点2について検討する。
引用文献2(甲第1号証:特開昭60-239373号公報)には、アルミナ部材と銅板(金属部材)とを接合する方法について記載されており([発明の概要]及び[発明の実施例]の欄を参照。)、具体的には、
前記アルミナ部材又は前記銅板に、Ag-Ti又はAg-Ti-Cuからなる厚さ0.5?10μmの層を堆積することにより、前記アルミナ部材と前記銅板の接合部に前記層を介在させ(第3頁右上欄第11行?同頁右下欄第5行)、
次いで、前記アルミナ部材と前記銅板を接合面で重ね合わせ(第3頁右下欄第6行?第7行)、
低圧(0?1kg/mm^(2))を加えて加熱し、この熱処理により、前記アルミナ部材と前記銅板の間に、Ag-Cu-Tiの合金融液が生成され(第3頁右下欄第7行?第14行)、
この後冷却することにより前記アルミナ部材と前記銅板とが強固に接合され(第3頁右下欄第14行?第16行)、
上記加熱工程において、前記合金融液を前記銅板に拡散させる(第4頁左上欄第1行?第2行)
ことが記載されている。
そして、引用文献2には、前記加熱(熱処理)の工程において、前記アルミナ部材の表面に酸化物層が形成されることは明記されていないが、本件発明5と同様に、前記合金融液に含まれる活性金属であるTiが前記アルミナ部材と反応して酸化物層を形成することは、当業者にとって自明のことであり、そうすると、前記Tiは、酸化物形成元素であるということができる。
しかしながら、引用文献2には、Ag-Ti又はAg-Ti-Cuからなる層を介在させる手法として「Ag,Ti,Cuの金属箔を用いて介在させる方法、或はAg,Ti,Cuをスパッタリング法,蒸着法,めっき法等によりアルミナ部材又は金属部材に堆積して介在させる方法」が記載されているだけで、本件発明5の上記(a)のように「Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布すること」は記載されておらず、したがって、「乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とする」ことも記載されていない。また、引用文献2には、上記(a)のようにして形成したAg及び酸化物形成元素層を介して、上記(b)のように「6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力」で加圧することも記載されていない。さらに、上記(a)及び(b)の工程を経た上で、上記(c)のように「凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とする」ことも記載されていない。
そして、相違点2に係る上記(a)ないし(c)の事項により、本件発明5は、「冷熱サイクル負荷時にAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板と銅板との熱膨張係数の差に起因するせん断応力が作用した場合であっても、銅板側が適度に変形することになり、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の割れを抑制することができる。」(本件の特許明細書の【0010】)という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明5は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、取消理由通知で引用した引用文献3(甲第4号証:特開平11-12051号公報)及び引用文献4(甲第5号証:特開2005-112677号公報)、並びに、特許異議申立人が提出した甲第2号証(化学大辞典)にも、上記(a)ないし(c)の事項は記載されていないから、引用文献3及び引用文献4並びに甲第2号証の記載を参酌しても、本件発明5は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明6、7及び9について
本件発明6、7及び9は本件発明5の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)で述べたのと同様の理由で、本件発明6、7及び9は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(ウ)本件発明1ないし5について
本件発明1も、上記(ア)で挙げた相違点2に係る上記(a)ないし(c)の事項を含む「パワーモジュール用基板の製造工程」を発明特定事項として備えているから、上記(ア)で述べたのと同様の理由で、本件発明1は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本件発明2ないし4は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし4も、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし7及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

イ.特許法第36条第6項第1号について
本件特許明細書に「比較例1、2、51、52においては、共晶組織厚さが15μmを超えており、少ないサイクル数でAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板にクラックが発生した。」(【0113】)と記載されているように、比較例1、2、51、52は、共晶組織厚さが15μmを超えているため、セラミック基板の割れの発生を抑制するという課題(【0008】)を解決することはできていない。
これに対して、本件訂正請求による訂正前の請求項5に記載の製造方法においては、共晶組織厚さについて特定されていないので、前記比較例1、2、51、及び52も含み得るものであったが、本件訂正請求による訂正後の請求項5(本件発明5)の製造方法においては、「凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とする」という発明特定事項を有しているから、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さがいずれも15μmを超える比較例1、2、51、及び52は、本件発明5の製造方法には含まれない。
したがって、上記比較例1、2、51、及び52の評価結果を根拠にして、訂正後の請求項5及びその従属請求項である訂正後の請求項6、7及び9の記載に課題解決手段が反映されていないということはできない。
よって、請求項5ないし7及び9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1、2、5、及び6に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、2、5、及び6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、請求項3、4、7ないし9に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3ないし5号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3、4、7ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張している。
しかしながら、甲第1号証(引用文献2)には、「アルミナと金属との接合方法」について記載されてはいるが、「パワーモジュール用基板」及び「パワーモジュール用基板の製造方法」については記載されておらず、さらに、上記(1)ア(ア)で説示したように上記(a)ないし(c)の事項も記載されていない。
したがって、請求項1、2、5、及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
また、上記(1)ア.(ア)で説示したとおり、特許異議申立人が提出した他のいずれの文献にも、上記(a)ないし(c)の事項は記載されていないから、請求項3、4、7及び9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3ないし5号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。

(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成30年2月13日付け意見書において、訂正後の請求項1及び5に記載の「Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペースト」はCuを含み得るものであるため、「冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制できる」という課題を解決できるかが不明であるから、請求項1ないし7及び9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである旨を主張している。
しかしながら、訂正後の請求項1及び5に係る発明は、いずれも「Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とする」という発明特定事項を有しており、本件特許明細書全体の記載からみて、そのような厚みとすることによって、「冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制できる」という課題を解決できることは明らかであるから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

なお、特許異議申立人は、上記意見書において、本件特許明細書に記載の比較例51の評価結果を用いて特許法第36条第4項第1号に規定する要件についても意見を述べている。しかしながら、特許法第36条第4項第1号に規定する要件は、特許異議申立書に記載の申立て理由に含まれておらず、かつ、上記(1)イで説示したように、訂正前の請求項5に記載の製造方法は上記比較例51も含み得るものであったことを勘案すれば、訂正請求の内容に付随して生じた理由であるともいえないから、上記意見は実質的に新たな理由を提示するものである。
よって、特許異議申立人の上記意見を採用することはできない。仮に、上記意見が訂正請求の内容に付随して生じたものであったとしても、上述したとおり、訂正後の請求項1及び5に係る発明は、いずれも「Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とする」という発明特定事項を有しており、上記比較例51が含まれないことは明らかであるから、特許異議申立人の上記意見を採用することはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし7及び9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正によって本件請求項8は削除されたため、本件請求項8に係る特許についての本件特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないから却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール、パワーモジュール用基板の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール、パワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)、Al_(2)O_(3)(アルミナ)、Si_(3)N_(4)(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面側に第一の金属板が接合されて構成された回路層と、セラミックス基板の他方の面側に第二の金属板が接合されて構成された金属層と、を備えたパワーモジュール用基板が用いられる。
このようなパワーモジュール基板では、回路層の上に、はんだ材を介してパワー素子等の半導体素子が搭載される。
【0003】
例えば、特許文献1には、第一の金属板(回路層)及び第二の金属板(金属層)としてアルミニウム板を用いてなるパワーモジュール用基板が提案されている。
また、特許文献2、3には、第一の金属板(回路層)及び第二の金属板(金属層)を銅板とし、この銅板を、Ag-Cu-Ti系のろう材を用いた活性金属法によってセラミックス基板に接合してなるパワーモジュール用基板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3171234号公報
【特許文献2】特開昭60-177634号公報
【特許文献3】特許第3211856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されたパワーモジュール用基板においては、回路層を構成する第一の金属板としてアルミニウム板が用いられている。ここで、銅とアルミニウムとを比較すると、アルミニウムの熱伝導率が低いことから、回路層としてアルミニウム板を用いた場合には、銅板を用いた場合に比べて回路層上に搭載された電気部品等の発熱体からの熱を拡げて放散することができない。このため、電子部品の小型化や高出力化により、パワー密度が上昇した場合には、熱を十分に放散することができなくなるおそれがあった。
【0006】
ここで、特許文献2,3においては、回路層を銅板で構成していることから、回路層上に搭載された電気部品等の発熱体からの熱を効率的に放散することが可能となる。
ところで、特許文献2,3に記載されたように、銅板とセラミックス基板とを活性金属法によって接合した場合には、銅板とセラミックス基板との接合部に、Ag-Cu-Ti系のろう材が溶融して凝固することによってAg-Cu共晶組織層が形成されることになる。
【0007】
このAg-Cu共晶組織層は非常に硬いことから、上述のパワーモジュール用基板に冷熱サイクルが負荷された際に、セラミックス基板と銅板との熱膨張係数の差に起因するせん断応力が作用したときに、Ag-Cu共晶組織層が変形せずに、セラミックス基板に割れ等が発生するといった問題があった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板に銅または銅合金からなる銅板が接合されてなり、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制できるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、前記パワーモジュール用基板の製造工程は、前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることにより、前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴としている。
【0010】
この構成のパワーモジュール用基板においては、銅または銅合金からなる銅板とAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板との接合部において、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされているので、冷熱サイクル負荷時にAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板と銅板との熱膨張係数の差に起因するせん断応力が作用した場合であっても、銅板側が適度に変形することになり、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の割れを抑制することができる。
また、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板に含有された酸素と反応することで前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されることになり、前記セラミックス基板と酸化物層とが強固に結合することができる。
【0011】
また、前記酸化物層は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の酸化物を含有していることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板と前記酸化物層とが強固に結合することになり、セラミックス基板と銅板とを強固に接合することができる。
【0012】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、前述のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴としている。
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、パワーモジュール用基板で発生した熱をヒートシンクによって放散することができる。また、銅板とセラミックス基板とが確実に接合されているので、パワーモジュール用基板の熱をヒートシンク側へと確実に伝達することが可能となる。
【0013】
本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載された電子部品と、を備えたことを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、回路層上に搭載された電子部品からの熱を効率的に放散することができ、電子部品のパワー密度(発熱量)が向上した場合であっても、十分に対応することができる。
【0014】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴としている。
【0015】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成しているので、溶融金属領域の厚さを薄く抑えることができ、Ag-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることができる。また、前記加熱工程において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成する構成としているので、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板と銅板とを強固に接合することができる。
【0016】
前記酸化物形成元素は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板の表面に、Ti、Hf、Zr、Nbの酸化物を含む酸化物層を形成することができ、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板と銅板とを強固に接合することが可能となる。
【0017】
前記Ag及び酸化物形成元素層形成工程では、Ag及び酸化物形成元素以外に、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素を配設させることが好ましい。
この場合、前記加熱工程において、前記溶融金属領域をさらに低い温度で形成することができ、Ag-Cu共晶組織層の厚さをさらに薄くすることができる。
【0018】(削除)
【0019】
前記Ag及び酸化物形成元素層含有ペーストは、前記酸化物形成元素の水素化物を含有していてもよい。
この場合、酸化物形成元素の水素化物の水素が還元剤として作用するので、銅板の表面に形成された酸化膜等を除去でき、Agの拡散及び酸化物層の形成を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板に銅または銅合金からなる銅板が接合されてなり、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制できるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びパワーモジュール用基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一の実施形態であるパワーモジュール用基板、及び、このパワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュールの概略説明図である。
【図2】図1における回路層とAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の接合界面の拡大説明図である。
【図3】本発明の第一の実施形態において、回路層となる銅板とセラミックス基板を接合する際に使用されるAg及び酸化物形成元素を含有する銅板接合用ペーストの製造方法を示すフロー図である。
【図4】本発明の第一の実施形態であるパワーモジュール用基板、及び、このパワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の第一の実施形態であるパワーモジュール用基板、及び、このパワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図6】セラミックス基板と銅板との接合工程を示す拡大説明図である。
【図7】本発明の第二の実施形態であるパワーモジュール用基板の概略説明図である。
【図8】図7における回路層及び金属層とセラミックス基板の接合界面の拡大説明図である。
【図9】本発明の第二の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図10】本発明の第二の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図11】本発明の他の実施形態であるパワーモジュール用基板、及び、このパワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図12】本発明の他の実施形態であるパワーモジュール用基板、及び、このパワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図13】本発明の他の実施形態であるパワーモジュール用基板、及び、このパワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図14】実施例における膜厚の測定箇所を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態であるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュールについて、添付した図面を参照して説明する。なお、以下本発明の実施形態に記載したセラミックス基板はAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板のことである。
【0028】
(第一の実施形態)
まず、第一の実施形態について説明する。図1に、本実施形態であるパワーモジュール用基板10を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板50及びパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3(電子部品)と、緩衝板41と、ヒートシンク51とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiめっき層(図示なし)が設けられている。
【0029】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl_(2)O_(3)(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2?1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0030】
回路層12は、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図5において上面)に、銅板22が接合されることにより形成されている。回路層12の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。また、この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。
本実施形態においては、銅板22(回路層12)は、純度99.99質量%以上の無酸素銅(OFC)の圧延板とされている。なお、この銅板は銅合金の圧延板とされてもよい。
ここで、セラミックス基板11と回路層12との接合には、後述するAg及び酸化物形成元素を含有する銅板接合用ペーストが使用されている。
【0031】
金属層13は、図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面(図5において下面)に、アルミニウム板23が接合されることにより形成されている。金属層13の厚さは0.6mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
本実施形態においては、アルミニウム板23(金属層13)は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板とされている。
【0032】
緩衝板41は、冷熱サイクルによって発生する歪みを吸収するものであり、図1に示すように、金属層13の他方の面(図1において下面)に形成されている。緩衝板41の厚さは0.5mm以上7.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.9mmに設定されている。
本実施形態においては、緩衝板41は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板とされている。
【0033】
ヒートシンク51は、前述のパワーモジュール用基板10からの熱を放散するためのものである。本実施形態におけるヒートシンク51は、パワーモジュール用基板10と緩衝板41を介して接合されている。
本実施形態においては、ヒートシンク51は、アルミニウム及びアルミニウム合金で構成されており、具体的にはA6063合金の圧延板とされている。また、ヒートシンク51の厚さは1mm以上10mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、5mmに設定されている。
【0034】
図2に、セラミックス基板11と回路層12との接合界面の拡大図を示す。セラミックス基板11の表面には、銅板接合用ペーストに含有された酸化物形成元素の酸化物からなる酸化物層31が形成されている。
そして、この酸化物層31に積層するようにAg-Cu共晶組織層32が形成されている。ここで、Ag-Cu共晶組織層32の厚さは15μm以下とされている。
【0035】
次に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板50の製造方法について説明する。
上述のように、セラミックス基板11と回路層12となる銅板22の接合には、Ag及び酸化物形成元素を含有する銅板接合用ペーストが使用されている。そこで、まず、銅板接合用ペーストについて説明する。
【0036】
銅板接合用ペーストは、Agおよび酸化物形成元素を含む粉末成分と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、可塑剤と、還元剤と、を含有するものである。
ここで、粉末成分の含有量が、銅板接合用ペースト全体の40質量%以上90質量%以下とされている。
また、本実施形態では、銅板接合用ペーストの粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0037】
酸化物形成元素は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることが好ましく、本実施形態では、酸化物形成元素としてTiを含有している。
ここで、粉末成分の組成は、ペーストを適度な厚みで塗布するため、酸化物形成元素(本実施形態ではTi)の含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物とされていることが望ましい。本実施形態では、Tiを10質量%含んでおり、残部がAg及び不可避不純物とされている。
【0038】
また、本実施形態においては、Ag及び酸化物形成元素(Ti)を含む粉末成分として、AgとTiとの合金粉末を使用している。この合金粉末は、アトマイズ法によって作製されたものであり、作製された合金粉末を篩い分けすることによって、粒径を40μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下に設定している。
なお、この合金粉末の粒径は、例えば、マイクロトラック法を用いることで測定することができる。
【0039】
樹脂は、銅板接合用ペーストの粘度を調整するものであり、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、アクリル樹脂、アルキッド樹脂等を適用することができる。
溶剤は、前述の粉末成分の溶媒となるものであり、例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、テルピネオール、トルエン、テキサノ-ル、トリエチルシトレート等を適用できる。
【0040】
分散剤は、粉末成分を均一に分散させるものであり、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等を適用することができる。
可塑剤は、銅板接合用ペーストの成形性を向上させるものであり、例えば、フタル酸ジブチル、アジピン酸ジブチル等を適用することができる。
還元剤は、粉末成分の表面に形成された酸化皮膜等を除去するものであり、例えば、ロジン、アビエチン酸等を適用することができる。なお、本実施形態では、アビエチン酸を用いている。
なお、分散剤、可塑剤、還元剤は、必要に応じて添加すればよく、分散剤、可塑剤、還元剤を添加することなく銅板接合用ペーストを構成してもよい。
【0041】
ここで、銅板接合用ペーストの製造方法について、図3に示すフロー図を参照して説明する。
まず、前述のように、Agと酸化物形成元素(Ti)とを含有する合金粉末をアトマイズ法によって作製し、これを篩い分けすることによって粒径40μm以下の合金粉末を得る(合金粉末作製工程S01)。
また、溶剤と樹脂とを混合して有機混合物を生成する(有機物混合工程S02)。
そして、合金粉末作製工程S01で得られた合金粉末と、有機物混合工程S02で得られた有機混合物と、分散剤、可塑剤、還元剤等の副添加剤と、をミキサーによって予備混合する(予備混合工程S03)。
次いで、予備混合物を、複数のロールを有するロールミル機を用いて練り込みながら混合する(混錬工程S04)。
混錬工程S04によって得られた混錬物を、ペーストろ過機によってろ過する(ろ過工程S05)。
このようにして、上述の銅板接合用ペーストが製出されることになる。
【0042】
次に、この銅板接合用ペーストを用いた本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板50の製造方法について、図4から図6を参照して説明する。
【0043】
(Ag及び酸化物形成元素層形成工程S11)
まず、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、スクリーン印刷によって、前述の銅板接合用ペーストを塗布して乾燥させることにより、Ag及び酸化物形成元素層24を形成する。なお、Ag及び酸化物形成元素層24の厚さは、乾燥後で60μm以上300μm以下とされている。
【0044】
(積層工程S12)
次に、銅板22をセラミックス基板11の一方の面側に積層する。すなわち、セラミックス基板11と銅板22との間に、Ag及び酸化物形成元素層24を介在させているのである。
【0045】
(加熱工程S13)
次いで、銅板22、セラミックス基板11を積層方向に加圧(圧力1?35kgf/cm^(2))した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。すると、図6に示すように、Ag及び酸化物形成元素層24のAgが銅板22に向けて拡散する。このとき、銅板22の一部がCuとAgとの反応によって溶融し、銅板22とセラミックス基板11との界面に、溶融金属領域27が形成されることになる。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10^(-6)Pa以上10^(-3)Pa以下の範囲内に、加熱温度は790℃以上850℃以下の範囲内に設定している。
【0046】
(凝固工程S14)
次に、溶融金属領域27を凝固させることにより、セラミックス基板11と銅板22とを接合する。なお、凝固工程S14が終了した後では、Ag及び酸化物形成元素層24のAgが十分に拡散されており、セラミックス基板11と銅板22との接合界面にAg及び酸化物形成元素層24が残存することはない。
【0047】
(金属層接合工程S15)
次に、セラミックス基板11の他方の面側に金属層13となるアルミニウム板23を接合する。本実施形態では、図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面側に、金属層13となるアルミニウム板23が厚さ5?50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔25を介して積層される。なお、本実施形態においては、ろう材箔25は、融点降下元素であるSiを含有したAl-Si系のろう材とされている。
次に、セラミックス基板11、アルミニウム板23を積層方向に加圧(圧力1?35kgf/cm^(2))した状態で加熱炉内に装入して加熱する。すると、ろう材箔25とアルミニウム板23の一部とが溶融し、アルミニウム板23とセラミックス基板11との界面に溶融金属領域が形成される。ここで、加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。
次に、アルミニウム板23とセラミックス基板11との界面に形成された溶融金属領域を凝固させることにより、セラミックス基板11とアルミニウム板23とを接合する。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出される。
【0048】
(緩衝板及びヒートシンク接合工程S16)
次に、図5に示すように、パワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面側(図5において下側)に、緩衝板41と、ヒートシンク51と、を、それぞれろう材箔42,52を介して積層する。
本実施形態では、ろう材箔42,52は、厚さ5?50μm(本実施形態では14μm)とされ、融点降下元素であるSiを含有したAl-Si系のろう材とされている。
次に、パワーモジュール用基板10、緩衝板41、ヒートシンク51を積層方向に加圧(圧力1?35kgf/cm^(2))した状態で加熱炉内に装入して加熱する。すると、金属層13と緩衝板41との界面及び緩衝板41とヒートシンク51との界面に、それぞれ溶融金属領域が形成される。ここで、加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。
【0049】
次に、金属層13と緩衝板41との界面及び緩衝板41とヒートシンク51との界面にそれぞれ形成された溶融金属領域を凝固させることにより、パワーモジュール用基板10と緩衝板41とヒートシンク51とを接合する。
これにより、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板50が製出されることになる。
【0050】
そして、回路層12の表面に、はんだ材を介して半導体素子3を載置し、還元炉内においてはんだ接合する。
これにより、はんだ層2を介して半導体素子3が回路層12上に接合されたパワーモジュール1が製出されることになる。
【0051】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10によれば、銅板22からなる回路層12とセラミックス基板11との接合部において、Ag-Cu共晶組織層32の厚さが15μm以下とされているので、冷熱サイクル負荷時にセラミックス基板11と回路層12との熱膨張係数の差に起因するせん断応力が作用した場合であっても、回路層12側が適度に変形することになり、セラミックス基板11の割れを抑制することができる。
また、セラミックス基板11の表面に酸化物層31が形成されているので、セラミックス基板11と回路層12とを確実に接合することができる。
【0052】
また、本実施形態では、セラミックス基板11がAl_(2)O_(3)で構成されているので、銅板接合用ペーストに含有された酸化物形成元素とセラミックス基板11とが反応することによって、セラミックス基板11の表面に酸化物層31が形成されることになり、セラミックス基板11と酸化物層31とが強固に結合することになる。
さらに、酸化物層31が、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の酸化物を含有しており、本実施形態では、具体的に酸化物層31がTiO_(2)を含有しているので、セラミックス基板11と酸化物層31とが強固に結合することになり、セラミックス基板11と回路層12とを強固に接合することができる。
【0053】
また、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板50及びパワーモジュール1によれば、パワーモジュール用基板10で発生した熱をヒートシンク51によって放散することができる。また、回路層12とセラミックス基板11とが確実に接合されているので、回路層12の搭載面に搭載された半導体素子3から発生する熱をヒートシンク51側へと確実に伝達させることができ、半導体素子3の温度上昇を抑制することができる。よって、半導体素子3のパワー密度(発熱量)が向上した場合であっても、十分に対応することができる。
【0054】
さらに、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板50及びパワーモジュール1は、パワーモジュール用基板10とヒートシンク51との間に緩衝板41が配設されているので、パワーモジュール用基板10とヒートシンク51との熱膨張係数の差に起因する歪を緩衝板41の変形によって吸収することができる。
【0055】
また、本実施形態においては、セラミックス基板11の接合面にAgと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層24を形成するAg及び酸化物形成元素層形成工程S11と、このAg及び酸化物形成元素層24を介してセラミックス基板11と銅板22と積層する積層工程S12と、積層されたセラミックス基板11と銅板22を積層方向に加圧するとともに加熱し、セラミックス基板11と銅板22との界面に溶融金属領域27を形成する加熱工程S13と、この溶融金属領域27を凝固させることによってセラミックス基板11と銅板22とを接合する凝固工程S14と、を有しており、加熱工程S13において、Agを銅板22側に拡散させることによりセラミックス基板11と銅板22との界面に溶融金属領域27を形成しているので、溶融金属領域27の厚さを薄く抑えることができ、Ag-Cu共晶組織層32の厚さを15μm以下とすることができる。さらに、加熱工程S13において、セラミックス基板11の表面に酸化物層31を形成する構成としているので、セラミックス基板11と銅板22とを強固に接合することができる。
【0056】
さらに、本実施形態では、Ag及び酸化物形成元素層形成工程S11において、Ag及び酸化物形成元素を含有する銅板接合用ペーストを塗布する構成としているので、セラミックス基板11の接合面に、確実にAg及び酸化物形成元素層24を形成することが可能となる。
【0057】
また、本実施形態で使用した銅板接合用ペーストにおける粉末成分の組成が、酸化物形成元素の含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物とされているので、セラミックス基板11の表面に酸化物層31を形成することができる。このように、酸化物層31を介してセラミックス基板11と銅板22からなる回路層12が接合されているので、セラミックス基板11と回路層12との接合強度の向上を図ることができる。
【0058】
また、本実施形態では、粉末成分を構成する粉末、すなわち、Agと酸化物形成元素(Ti)とを含有する合金粉末の粒径が40μm以下とされているので、この銅板接合用ペーストを薄く塗布することが可能となる。よって、接合後(凝固後)に形成されるAg-Cu共晶組織層32の厚さを薄くすることが可能となる。
【0059】
また、粉末成分の含有量が、40質量%以上90質量%以下とされているので、Agを銅板22へと拡散させて確実に溶融金属領域27を形成し、銅板22とセラミックス基板11とを接合することができる。また、溶剤の含有量が確保されることになり、セラミックス基板11の接合面に銅板接合用ペーストを確実に塗布でき、Ag及び酸化物形成元素層24を確実に形成することができる。
【0060】
また、本実施形態では、必要に応じて分散剤を含有しているので、粉末成分を分散させることができ、Agの拡散を均一に行うことができる。また、酸化物層31を均一に形成することができる。
さらに、本実施形態では、必要に応じて可塑剤を含有しているので、銅板接合用ペーストの形状を比較的自由に成形することができ、セラミックス基板11の接合面に確実に塗布することができる。
また、本実施形態では、必要に応じて還元剤を含有しているので、還元剤の作用により、粉末成分の表面に形成された酸化皮膜等を除去でき、Agの拡散及び酸化物層31の形成を確実に行うことができる。
【0061】
(第二の実施形態)
次に、第二の実施形態について説明する。図7に、本実施形態であるパワーモジュール用基板110を示す。
このパワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図7において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図7において下面)に配設された金属層113と、を備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl_(2)O_(3)(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2?1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0062】
回路層112は、図10に示すように、セラミックス基板111の一方の面(図10において上面)に、銅板122が接合されることにより形成されている。回路層112の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。また、この回路層112には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図7において上面)が、半導体素子が搭載される搭載面とされている。
本実施形態においては、銅板122(回路層112)は、純度99.99質量%以上の無酸素銅(OFC)の圧延板とされている。
【0063】
金属層113は、図10に示すように、セラミックス基板111の他方の面(図10において下面)に、銅板123が接合されることにより形成されている。金属層113の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
本実施形態においては、銅板123(金属層113)は、純度99.99質量%以上の無酸素銅(OFC)の圧延板とされている。
【0064】
ここで、セラミックス基板111と回路層112との接合、及び、セラミックス基板111と金属層113との接合には、後述するAg及び酸化物形成元素を含有する銅板接合用ペーストが使用されている。
【0065】
図8に、セラミックス基板111と回路層112及び金属層113との接合界面の拡大図を示す。セラミックス基板111の表面には、銅板接合用ペーストに含有された酸化物形成元素の酸化物からなる酸化物層131が形成されている。
また、本実施形態では、第一の実施形態で観察されたAg-Cu共晶組織層が明確に観察されない構成とされている。
【0066】
次に、前述の構成のパワーモジュール用基板110の製造方法について説明する。
上述のように、セラミックス基板111と回路層112となる銅板122は、Ag及び酸化物形成元素を含有する銅板接合用ペーストが使用されている。そこで、まず、銅板接合用ペーストについて説明する。
【0067】
本実施形態で用いられる銅板接合用ペーストは、Ag及び酸化物形成元素を含む粉末成分と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、可塑剤と、還元剤と、を含有するものである。
そして、粉末成分は、Ag及び酸化物形成元素以外に、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有するものとされており、本実施形態では、Snを含有している。
【0068】
ここで、粉末成分の含有量が、銅板接合用ペースト全体の40質量%以上90質量%以下とされている。
また、本実施形態では、銅板接合用ペーストの粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0069】
酸化物形成元素は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることが好ましく、本実施形態では、酸化物形成元素としてZrを含有している。
ここで、粉末成分の組成は、酸化物形成元素(本実施形態ではZr)の含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素(本実施形態ではSn)の含有量が0質量%以上50質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物とされている。ただし、Agの含有量は25質量%以上である。本実施形態では、Zr;40質量%、Sn;20質量%を含んでおり、残部がAg及び不可避不純物とされている。
【0070】
また、本実施形態においては、粉末成分として、要素粉末(Ag粉末、Zr粉末、Sn粉末)を用いている。これらのAg粉末、Zr粉末、Sn粉末は、粉末成分全体が上述の組成となるように、配合されているのである。
これらのAg粉末、Zr粉末、Sn粉末は、それぞれ粒径を40μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下に設定している。
なお、これらのAg粉末、Zr粉末、Sn粉末の粒径は、例えば、マイクロトラック法を用いることで測定することができる。
【0071】
ここで、樹脂、溶剤は、第一の実施形態と同様のものが適用されている。また、本実施形態においても、必要に応じて分散剤、可塑剤、還元剤が添加されている。
また、本実施形態で用いられる銅板接合用ペーストは、第一の実施形態で示した製造方法に準じて製造されている。すなわち、合金粉末の代わりに、Ag粉末、Zr粉末、Sn粉末を用いた以外は、第一の実施形態と同様の手順で製造されているのである。
【0072】
次に、この銅板接合用ペーストを用いた本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法について、図9及び図10を参照して説明する。
【0073】
(Ag及び酸化物形成元素層形成工程S111)
まず、図10に示すように、セラミックス基板111の一方の面及び他方の面に、スクリーン印刷によって、前述の本実施形態である銅板接合用ペーストを塗布し、Ag及び酸化物形成元素層124,125を形成する。なお、Ag及び酸化物形成元素層124,125の厚さは、乾燥後で60μm以上300μm以下とされている。
【0074】
(積層工程S112)
次に、銅板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層する。また、銅板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する。すなわち、セラミックス基板111と銅板122、セラミックス基板111と銅板123との間に、Ag及び酸化物形成元素層124,125を介在させているのである。
【0075】
(加熱工程S113)
次いで、銅板122、セラミックス基板111、銅板123を積層方向に加圧(圧力1?35kgf/cm^(2))した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。すると、Ag及び酸化物形成元素層124のAgが銅板122に向けて拡散するとともに、Ag及び酸化物形成元素層125のAgが銅板123に向けて拡散する。
【0076】
このとき、銅板122のCuとAgとが反応によって溶融し、銅板122とセラミックス基板111との界面に、溶融金属領域が形成される。また、銅板123のCuとAgとが反応によって溶融し、銅板123とセラミックス基板111との界面に、溶融金属領域が形成される。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10^(-6)Pa以上10^(-3)Pa以下の範囲内に、加熱温度は790℃以上850℃以下の範囲内に設定している。
【0077】
(凝固工程S114)
次に、溶融金属領域を凝固させることにより、セラミックス基板111と銅板122、123とを接合する。なお、凝固工程S114が終了した後では、Ag及び酸化物形成元素層124,125のAgが十分に拡散されており、セラミックス基板111と銅板122、123との接合界面にAg及び酸化物形成元素層124、125が残存することはない。
【0078】
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製出される。
このパワーモジュール用基板110には、回路層112の上に半導体素子が搭載されるとともに、金属層113の他方側にヒートシンクが配設されることになる。
【0079】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110によれば、銅板122からなる回路層112とセラミックス基板111との接合部において、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされており、本実施形態では、明確に観察されなくなっているので、冷熱サイクル負荷時にセラミックス基板111と回路層112との熱膨張係数の差に起因するせん断応力が作用した場合であっても、回路層112側が適度に変形することになり、セラミックス基板111の割れを抑制することができる。
また、セラミックス基板111の表面に酸化物層131が形成されているので、セラミックス基板111と回路層112とを確実に接合することができる。
【0080】
また、Agの銅板122,123への拡散によって溶融金属領域が形成されることから、セラミックス基板111と銅板122、123との接合部において溶融金属領域が必要以上に形成されなくなり、接合後(凝固後)に形成されるAg-Cu共晶組織層の厚さが薄くなるのである。よって、セラミックス基板111における割れの発生を抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態では、酸化物形成元素としてZrを含有しているので、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板111とZrが反応して酸化物層131が形成されることになり、セラミックス基板111と銅板122,123とを確実に接合することができる。
そして、本実施形態では、粉末成分として、Ag及び酸化物形成元素(本実施形態ではZr)以外に、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素(本実施形態ではSn)を含有しているので、溶融金属領域をさらに低い温度で形成することができ、形成されるAg-Cu共晶組織層の厚さをさらに薄くすることが可能となる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、酸化物形成元素としてTi、Zrを用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、Hf,Nb等の他の酸化物形成元素であってもよい。
また、銅板接合用ペースト(Ag及び酸化物形成元素層含有ペースト)に含まれる粉末成分がTiH_(2)、ZrH_(2)等の酸化物形成元素の水素化物を含んでいてもよい。この場合、酸化物形成元素の水素化物の水素が還元剤として作用するので、銅板の表面に形成された酸化膜等を除去でき、Agの拡散及び酸化物層の形成を確実に行うことができる。
また、第二の実施形態において、添加元素としてSnを添加したものとして説明したが、これに限定されることはなく、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素を用いてもよい。
【0083】
粉末成分を構成する粉末の粒径を40μm以下としたもので説明したが、これに限定されることはなく、粒径に限定はない。
また、分散剤、可塑剤、還元剤を含むものとして説明したが、これに限定されることはなく、これらを含んでいなくてもよい。これら分散剤、可塑剤、還元剤は、必要に応じて添加すればよい。
【0084】
さらに、アルミニウム板とセラミックス基板、あるいは、アルミニウム板同士をろう付けにて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、鋳造法、金属ペースト法等を適用してもよい。また、アルミニウム板とセラミックス基板、アルミニウム板と天板、あるいは、その他のアルミニウム材間に、Cu,Si,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga,Liを配し、過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Bonding)を用いて接合してもよい。
【0085】
また、図5、図6及び図10に示す製造方法で製造されたパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板に限定されることはなく、他の製造方法で製造されたパワーモジュール用基板等であってもよい。
【0086】
例えば、図11に示すように、セラミックス基板211の一方の面にAg及び酸化物形成元素層224を介して回路層212となる銅板222を接合し、セラミックス基板211の他方の面にろう材箔225を介して金属層213となるアルミニウム板223を接合するとともに、アルミニウム板223の他方の面にろう材箔252を介してヒートシンク251を接合してもよい。このようにして、パワーモジュール用基板210と、ヒートシンク251と、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板250が製造されることになる。
【0087】
また、図12に示すように、セラミックス基板311の一方の面にAg及び酸化物形成元素層324を介して回路層312となる銅板322を接合し、セラミックス基板311の他方の面にろう材箔325を介して金属層313となるアルミニウム板323を接合することで、パワーモジュール用基板310を製造し、その後、金属層213の他方の面にろう材箔352を介してヒートシンク351を接合してもよい。このようにして、パワーモジュール用基板310と、ヒートシンク351と、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板350が製造されることになる。
【0088】
さらに、図13に示すように、セラミックス基板411の一方の面にAg及び酸化物形成元素層424を介して回路層412となる銅板422を接合し、セラミックス基板411の他方の面にろう材箔425を介して金属層413となるアルミニウム板423を接合するとともに、アルミニウム板423の他方の面にろう材箔442を介して緩衝板441を接合し、この緩衝板441の他方の面にろう材箔452を介してヒートシンク451を接合してもよい。このようにして、パワーモジュール用基板410と、緩衝板441と、ヒートシンク451と、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板450が製造されることになる。
【実施例】
【0089】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。表1、表2、表3に示す条件で各種ペーストを作成した。なお、表1では、粉末成分として合金粉末を使用した。表2では、粉末成分として各元素の粉末(要素粉末)を使用した。表3では、粉末成分として各元素の粉末(要素粉末)を使用し、酸化物形成元素については酸化物形成元素の水素化物の粉末を使用した。なお、表3には、酸化物形成元素の水素化物の要素粉混合比の他に、酸化物形成元素の含有量(活性金属含有量)も併せて記載した。
また、分散剤としてアニオン性界面活性剤を、可塑剤としてアジピン酸ジブチルを、還元剤としてアビエチン酸を用いた。
粉末成分以外の樹脂、溶剤、分散剤、可塑剤、還元剤の混合比率は、質量比で、樹脂:溶剤:分散剤:可塑剤:還元剤=7:70:3:5:15とした。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
この表1、表2、表3に示す各種ペーストを用いてセラミックス基板と銅板とを接合することによって、図10に示す構造及び製造方法で製造されたパワーモジュール用基板、図11、図12に示す構造及び製造方法で製造されたヒートシンク付パワーモジュール用基板、図5、図13に示す構造及び製造方法で製造されたヒートシンク付パワーモジュール用基板を作製した。
【0094】
図10に示すパワーモジュール用基板においては、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の一方の面及び他方の面に、上述の各種ペーストを用いて銅板を接合し、回路層及び金属層が銅板で構成されたパワーモジュール用基板とした。なお、銅板として無酸素銅の圧延板を使用した。
【0095】
図11、図12に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板は、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の一方の面に、上述の各種ペーストを用いて銅板を接合して回路層とした。
また、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の他方の面に、アルミニウム板をろう材を介して接合して金属層を形成した。なお、アルミニウム板として純度99.99質量%以上の4Nアルミを使用し、ろう材としてAl-7.5質量%Si、厚さ20μmのろう材箔を用いた。
さらに、金属層の他方の面側に、ヒートシンクとしてA6063からなるアルミニウム板を、ろう材を介してパワーモジュール用基板の金属層側に接合した。なお、ろう材としてAl-7.5質量%Si、厚さ70μmのろう材箔を用いた。
【0096】
図5、図13に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板は、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の一方の面に、上述の各種ペーストを用いて銅板を接合して回路層とした。
また、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の他方の面に、アルミニウム板をろう材を介して接合して金属層を形成した。なお、アルミニウム板として純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムを使用し、ろう材としてAl-7.5質量%Si、厚さ14μmのろう材箔を用いた。
さらに、金属層の他方の面に、緩衝板として4Nアルミニウムからなるアルミニウム板をろう材を介して接合した。なお、ろう材としてAl-7.5質量%Si、厚さ100μmのろう材箔を用いた。
また、緩衝板の他方の面側に、ヒートシンクとしてA6063からなるアルミニウム板を、ろう材を介してパワーモジュール用基板の金属層側に接合した。なお、ろう材としてAl-7.5質量%Si、厚さ100μmのろう材箔を用いた。
【0097】
なお、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板と銅板との接合は、表4、表5、表6に示す条件で実施した。
また、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板とアルミニウム板をろう付けする際の接合条件は、真空雰囲気、加圧圧力12kgf/cm^(2)、加熱温度650℃、加熱時間30分とした。さらに、アルミニウム板同士をろう付けする際の接合条件は、真空雰囲気、加圧圧力6kgf/cm^(2)、加熱温度610℃、加熱時間30分とした。
【0098】
Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板のサイズを表4、表5、表6に示す。
銅板のサイズは、37mm×37mm×0.3mmとした。
金属層となるアルミニウム板のサイズは、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の場合は37mm×37mm×2.1mmとし、ヒートシンク及び緩衝板付パワーモジュール用基板の場合は37mm×37mm×0.6mmとした。
ヒートシンクとなるアルミニウム板のサイズは、50mm×60mm×5mmとした。
緩衝板となるアルミニウム板のサイズは、40mm×40mm×0.9mmとした。
【0099】
また、表4、表5、表6に、上述の各種ペーストを用いて構成したパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、ヒートシンク及び緩衝板付パワーモジュール用基板の構造及び製造方法について記載した。
構造「DBC」が図10に示すパワーモジュール用基板、
構造「H-1」が図11に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板、
構造「H-2」が図12に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板、
構造「B-1」が図13に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板、
構造「B-2」が図5に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板、である。
【0100】
【表4】

【0101】
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
ここで、膜厚換算量(換算平均膜厚)を次のように測定し表7、表8、表9に示した。
まず、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板と銅板との界面に、表1、表2、表3に示す各種ペーストを塗布して乾燥した。乾燥された各種ペーストにおける各元素の膜厚換算量(換算平均膜厚)を測定した。
膜厚は、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製STF9400)を用いて、塗布した各種ペーストに対し、図14に示す箇所(9点)を各3回測定した平均値とした。なお、予め膜厚が既知のサンプルを測定して蛍光X線強度と濃度の関係を求めておき、その結果を基準として、各試料において測定された蛍光X線強度から各元素の膜厚換算量を決定した。
【0104】
【表7】

【0105】
【表8】

【0106】
【表9】

【0107】
上述のようにして得られたパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板について、セラミックス割れ、冷熱サイクル負荷後の接合率、酸化物層の有無、Ag-Cu共晶組織層の厚さを評価した。評価結果を表10、表11、表12に示す。
【0108】
セラミックス割れは、冷熱サイクル(-45℃←→125℃)を500回繰り返す毎にクラックの発生の有無を確認し、クラックが確認された回数で評価した。
冷熱サイクル負荷後の接合率は、冷熱サイクル(-45℃←→125℃)を4000回繰り返した後のパワーモジュール用基板を用いて、以下の式で算出した。なお、3500回を満たさないうちにクラックが発生した場合には、4000回繰り返した後の接合率については評価しなかった。
接合率 = (初期接合面積-剥離面積)/初期接合面積
【0109】
酸化物層は、EPMA(電子線マイクロアナライザー)による酸化物形成元素のマッピングから銅板/Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板界面での酸化物形成元素の存在を確認して実施した。
Ag-Cu共晶組織層の厚さは、銅板/Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板界面のEPMA(電子線マイクロアナライザー)による反射電子像から、倍率2000倍の視野(縦45μm;横60μm)において接合界面に連続的に形成されたAg-Cu共晶組織層の面積を測定し、測定視野の幅の寸法で除して求め、5視野の平均をAg-Cu共晶組織層の厚さとした。なお、銅板とAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板との接合部に形成されたAg-Cu共晶組織層のうち、接合界面から厚さ方向に連続的に形成されていない領域を含めずに、Ag-Cu共晶組織層の面積を測定した。
【0110】
【表10】

【0111】
【表11】

【0112】
【表12】

【0113】
比較例1、2、51、52においては、共晶組織厚さが15μmを超えており、少ないサイクル数でAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板にクラックが発生した。
また、従来例1及び従来例51では、共晶組織厚さが15μmを超えており、比較例と同様に少ないサイクル数でAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板にクラックが発生した。
一方、共晶組織厚さが15μm以下とされた本発明例1-20、51-70、81-86においては、Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板におけるクラックの発生が抑制されていることが確認される。
以上の結果から、本発明例によれば、冷熱サイクル負荷時におけるAl_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の割れの発生を抑制できるパワーモジュール用基板を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0114】
1 パワーモジュール
3 半導体素子(電子部品)
10、110、210、310、410 パワーモジュール用基板
11、111、211、311、411 セラミックス基板
12、112、212、312、412 回路層
13、113、213、313、413 金属層
22、122、123、222、322、422 銅板
23、223、323、423 アルミニウム板
31、131 酸化物層
32 Ag-Cu共晶組織層
41、441 緩衝板
50、250、350、450 ヒートシンク付パワーモジュール用基板
51、251、351、451 ヒートシンク
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記パワーモジュール用基板の製造工程は、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることにより、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記酸化物層は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の酸化物を含有していることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項5】
Al_(2)O_(3)からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm^(2)以上35kgf/cm^(2)以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物形成元素は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることを特徴とする請求項5に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記Ag及び酸化物形成元素層形成工程では、Ag及び酸化物形成元素以外に、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素を配設させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記Ag及び酸化物形成元素層含有ペーストは、前記酸化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-06 
出願番号 特願2012-267300(P2012-267300)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 原田 貴志  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 酒井 朋広
國分 直樹
登録日 2016-12-16 
登録番号 特許第6056432号(P6056432)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール、パワーモジュール用基板の製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 細川 文広  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 細川 文広  
代理人 高橋 詔男  

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