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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1341054
異議申立番号 異議2017-700863  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-11 
確定日 2018-04-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6094542号発明「多孔質膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6094542号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6094542号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6094542号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年7月29日になされ、平成29年2月24日に特許権の設定登録がされ、同年3月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、特許異議申立人 柴田留理子(以下「異議申立人」という。)により、同年9月11日に特許異議の申立てがされ、同年11月14日付けで特許権者に取消理由が通知され、その指定期間内の平成30年1月12日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正(以下、「本件訂正」という。)請求がされ、同年1月26日付けで訂正請求があった旨が異議申立人に通知され、その指定期間内の同年3月1日付けで異議申立人から意見書が提出されたものである。


第2 本件訂正の適否についての判断
本件訂正の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、本件訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。

1. 請求の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを求める。


2. 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 多孔質膜と、前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータであって、
前記多孔質膜が、疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物がノニオン性界面活性剤であり、
前記多孔質膜に含まれる無機粉末の割合が、前記多孔質膜の50質量%を超え、
前記無機粉末が、アルミナであり、
前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜が、多孔質ポリオレフィンである非水電解液二次電池用セパレータ。」
とあるのを、
「 多孔質膜と、前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータであって、
前記多孔質膜が、疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物がノニオン性界面活性剤であり、
前記多孔質膜に含まれる無機粉末の割合が、前記多孔質膜の50質量%を超え、
前記無機粉末が、アルミナであり、
前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜が、多孔質ポリオレフィンである非水電解液二次電池用セパレータ(ただし、(i)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含む場合、及び、(ii)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含まず、且つ、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤をアルミナ100部に対して0.2部含む場合を除く。) 。」
に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2?4も訂正する。


3. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求
の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明から、「(i)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含む場合、及び、(ii)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含まず、且つ、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤をアルミナ100部に対して0.2部含む場合を除く」ものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(2) 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用されない。

(3) 一群の請求項について
訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を引用する請求項であり、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は一群の請求項であるところ、本件訂正は、一群の請求項に対して請求されているから、特許法120条の5第4項に適合する。


4. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり訂正することを認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
多孔質膜と、前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータであって、
前記多孔質膜が、疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物がノニオン性界面活性剤であり、
前記多孔質膜に含まれる無機粉末の割合が、前記多孔質膜の50質量%を超え、
前記無機粉末が、アルミナであり、
前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜が、多孔質ポリオレフィンである非水電解液二次電池用セパレータ(ただし、(i)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含む場合、及び、(ii)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含まず、且つ、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤をアルミナ100部に対して0.2部含む場合を除く。) 。
【請求項2】
ノニオン性の親水性基が、ポリオキシエチレン構造を有する請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項3】
バインダー樹脂が、水溶性の樹脂である請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の非水電解液電池用セパレータを用いた非水電解液二次電池。」


第4 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は、以下の甲第1号証を提出して、特許異議申立書において、以下の申立理由1?2によって、本件訂正前の請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1) 申立理由1(特許法第29条第1項第3号について(同法第113
条第2号))
本件訂正前の請求項1、3、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。

(2) 申立理由2(特許法第29条第2項について(同法第113条
第2号))
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2012/115252号


2. 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?4に係る発明に対して、平成29年11月14日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1) 本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2) 本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。


引用文献1:国際公開第2012/115252号(甲第1号証)


3. 当審の判断
(1) 引用文献1の記載事項(当審注:「…」は記載の省略を表す。)、
及び、引用文献1記載の発明
ア. 「[請求項1] 非導電性粒子、結着剤および水溶性重合体を含んでなり、
前記非導電性粒子の3軸径を、長径L、厚さt、幅bとしたとき、長径Lが0.1?20μm、幅bと厚さtとの比(b/t)が1.5?100であり、
前記結着剤が、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体であり、
前記水溶性重合体が、スルホン酸基を含み、重量平均分子量が1000?15000である二次電池用多孔膜。

[請求項8] 前記結着剤の含有量が、非導電性粒子100質量部に対し、0.1?20質量部であり、
前記水溶性重合体の含有量が、非導電性粒子100質量部に対し、0.01?0.8質量部である、
請求項1?7のいずれかに記載の二次電池用多孔膜。
[請求項9] さらに、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤を含む請求項1?8のいずれかに記載の二次電池用多孔膜。

[請求項16] 有機セパレータ上に、請求項1?9のいずれかに記載の多孔膜を有する二次電池用セパレータ。

[請求項18] 正極、負極、セパレータ及び電解液を備えてなり、前記セパレータが、請求項16に記載の二次電池用セパレータである、二次電池。」(請求の範囲)

イ. 「背景技術

リチウムイオン二次電池には、一般に正極と負極との間の短絡を防ぐ為にポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系の有機セパレータが用いられている。ポリオレフィン系の有機セパレータは200℃以下で溶融する物性を有している為、内部及び/または外部の刺激により電池が高温になると、収縮や溶融などの体積変化がおこり、その結果、正極及び負極の短絡、電気エネルギーの放出などにより爆発などが起こる恐れがある。
そこで、このような問題を解決するため、従来、電極や有機セパレータの上に、無機粒子などの非導電性粒子を含む多孔膜(以下、「多孔質膜」と記載することもある。)を形成させることが提案されている。
例えば、特許文献1では、絶縁性微粒子として板状粒子と、破断伸びが300%以上の結着剤とを有する多孔質膜が開示されている。特許文献1によれば、この多孔質膜は板状粒子が配向するため、球状の粒子を使用するよりも安全性に優れ、さらに、破断伸びが300%以上の結着剤を使用しているため多孔膜の伸びにも優れることが記載されている。

特許文献1:特表2008-210791号公報」([0002]?[0005])

ウ. 「発明が解決しようとする課題
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1記載の多孔膜は、薄膜化を行うと均一な膜にならず、摺動性が低く、電極やセパレータの製造工程、特に電極等を捲回したとき、多孔膜から非導電性粒子が脱離する、粉落ちが問題となることがわかった。
とりわけ板状粒子は、多孔膜を形成するためのスラリーの粘度を高くし、多孔膜の薄膜化を困難にする。また板状粒子自体もスラリー中での分散性に劣る。このため、板状粒子を含むスラリーを用いて均一な多孔薄膜を得ることは困難であった。
従って、本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、非導電性粒子として板状粒子を用いた場合であっても、薄膜化が可能で、かつ粉落ちのない多孔膜を提供することを目的としている。また本発明は、かかる多孔膜を形成するための保存安定性の高いスラリーを提供することを目的としている。さらに本発明は、かかる多孔膜を有する二次電池を提供することを目的としている。」([0006]?[0008])

エ. 「課題を解決するための手段
特許文献1に記載の多孔膜用スラリーは、粘度が高く、さらに保存安定性が低い。本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、非導電性粒子として板状粒子を用いると沈降しやすいため、このスラリーを用いて多孔膜を作製する際、乾燥工程時に結着剤が偏在化し、その結果、得られる多孔膜から粉落ちするなどの問題があることがわかった。さらに、特許文献1に記載の多孔膜用スラリーは、スラリー性状が薄膜化や塗工性に適しておらず、薄膜化や高速塗工が難しいことがわかった。
そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、特定形状を有する非導電性粒子、特定の単量体単位を有する結着剤、スルホン酸基を有する水溶性重合体及び水を含む多孔膜用スラリーを用いて多孔膜を形成することにより、多孔膜中の非導電性粒子の配向性が向上し、さらに摺動性が向上し、多孔膜が電極やセパレータ等と同時に巻回された際、粉落ちが抑制され、その多孔膜を備える二次電池のサイクル特性が向上することを見出した。
さらに、非導電性粒子の配向性が高くなるため、薄膜化した際の安全性を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
(1)非導電性粒子、結着剤および水溶性重合体を含んでなり、
前記非導電性粒子の3軸径を、長径L、厚さt、幅bとしたとき、長径Lが0.1?20μm、幅bと厚さtとの比(b/t)が1.5?100であり、
前記結着剤が、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体であり、
前記水溶性重合体が、スルホン酸基を含み、重量平均分子量が1000?15000である二次電池用多孔膜。」([0009]?[0011])

オ. 「[界面活性剤]
(界面活性剤A)
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(サンノプコSNウェット980)(曇点36℃)
(界面活性剤B)
ポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコSNウェット366)(曇点44℃)
(界面活性剤C)
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(エマルゲンLS-114)(曇点88℃)

(実施例1)
(試料の用意)
非導電性粒子として、…板状アルミナ粒子Aを用意した。
粘度調整剤として、…カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬社製、製品名BSH-12)を用いた。…
(多孔膜用スラリーの製造)
板状アルミナ粒子Aを100部、水溶性重合体Aを0.1部、及び粘度調整剤を0.1部混合し、更に水を固形分濃度が40質量%になるように混合して、ビーズミルを用いて分散させた。その後、結着剤を含む水分散液を固形分相当量で4部となる量、及び界面活性剤Aを0.2部添加し、多孔膜用スラリー1を製造した。なお、水溶性重合体、粘度調整剤、結着剤、界面活性剤の使用量は、いずれも板状アルミナ粒子A100部に対する割合である。

(セパレータの製造)
前記多孔膜用スラリー1を、…単層のポリエチレン製セパレータ上に、乾燥後の厚さが5μmになるようにグラビアコーターを用いて20m/minの速度で塗工し、次いで50℃の乾燥炉で乾燥し、巻き取ることによりポリエチレン製セパレータ上に多孔膜を形成した。
同様にして、もう片面にも多孔膜用スラリー1を塗布、乾燥を行い厚み25μmの多孔膜を備えるセパレータ(多孔膜付セパレータ)1を得た。…
<正極の製造>
…全厚みが100μmの正極合剤層を有する正極を得た。
<負極の製造>
…全厚みが60μmの負極合剤層を有する負極を得た。
<多孔膜付有機セパレータを有する二次電池の製造>
上記で得られた正極を直径13mmの円形に切り抜いて、円形の正極を得た。上記で得られた負極を直径14mmの円形に切り抜いて、円形の負極を得た。また、上記で得た多孔膜付有機セパレータを直径18mmの円形に切り抜いて、円形の多孔膜付有機セパレータを得た。
ポリプロピレン製パッキンを設けたステンレス鋼製のコイン型外装容器の内底面上に、円形の正極を載置し、その上に円形の多孔膜付セパレータを載置し、さらにその上に円形の負極を載置し、これらを容器内に収納した。…
容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmのリチウムイオン二次電池(コインセルCR2032)を製造した。電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPF6を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。得られた電池についてサイクル特性およびレート特性を測定した。結果を表2に示す。」([0213]?[0222])

カ. 「(実施例3、4)
粘度調整剤の配合量を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。なお、実施例4では、塗工速度を15m/minとした。
(実施例5?8)
界面活性剤の種類および配合量を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
(実施例9?11)
界面活性剤Aに代えて、界面活性剤Bを用い、水溶性重合体の配合量を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。

(実施例13)
界面活性剤Aに代えて、界面活性剤Bを用い、水溶性重合体の種類を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
(実施例14)
水溶性重合体の種類を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
(実施例15)
板状アルミナ粒子Aに代えて、板状アルミナ粒子Bを用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
(実施例16)
板状アルミナ粒子Aに代えて、板状アルミナ粒子Cを用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。」([0227]?[0234])

キ. 「(比較例1)
界面活性剤Aに代えて、界面活性剤Bを用い、水溶性重合体を配合しなかった以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。」([0235])

ク. 「…

」([0238])

ケ. 「 表1及び表2の結果から以下のことがわかる。本発明によれば、実施例1?16に示すように、水溶性重合体として、スルホン酸基を含むものを用いることにより、分散性及び保存安定性に優れる多孔膜用スラリーを得ることができ、この多孔膜用スラリーを用いて多孔膜を形成することにより、多孔膜の配向性や熱収縮性が向上し、粉落ちが抑制される。それにより、多孔膜を備える二次電池の高温サイクル特性、レート特性や安全性を高めることができる。
一方、スルホン酸基を含む水溶性重合体を用いない場合(比較例1?4)は、多孔膜スラリーの保存安定性及び分散性が劣るため、得られる多孔膜の熱収縮性や粉落ちが劣る。そのため、多孔膜を備える二次電池の高温サイクル特性、レート特性や安全性に劣る。」([0239]?[0240])

コ. 「(その他成分)
本発明の多孔膜は、上記非電導性粒子、結着剤および水溶性重合体を含み、さらに界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。これらは、多孔膜用スラリーの安定性向上のために添加される成分や、電池性能の向上のために添加される成分を含む。
界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤があげられる。

非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル…があげられる。

これらの中でも、非イオン界面活性剤が好ましく、なかでもポリオキシアルキレンアルキルエーテルが特に好ましい。…エーテル部は、ポリエチレングリコール型であることが好ましい。
これらの中でも、曇点が30?90℃…の非イオン界面活性剤が好適である。…

多孔膜用スラリー中の界面活性剤の含有量は、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、具体的には多孔膜用スラリー中の非電導性粒子100質量部に対し、0.01?3質量部…である。多孔膜用スラリー中の界面活性剤の含有量が多すぎると、特に多孔膜用スラリーを有機セパレータに適用した場合に、有機セパレータへのスラリーの浸透力が大きくなりすぎ、有機セパレータ裏面にまでスラリーが透過してしまうことがある。また、多孔膜用スラリー中の界面活性剤の含有量が少なすぎると、特に多孔膜用スラリーを有機セパレータに適用した場合に、有機セパレータによりスラリーがはじかれてしまうことがある。 」([0116]?[0123])

サ. 上記ア.によれば、請求項9を引用し、さらに、請求項8、請求項1を引用する、請求項16に注目すると、セパレータに係る、次の発明が記載されていると認められる。
「非導電性粒子、結着剤、水溶性重合体および曇点30?90℃の非イオン界面活性剤を含んでなり、前記非導電性粒子の3軸径を、長径L、厚さt、幅bとしたとき、長径Lが0.1?20μm、幅bと厚さtとの比(b/t)が1.5?100であり、前記結着剤が、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体であり、前記水溶性重合体が、スルホン酸基を含み、重量平均分子量が1000?15000であり、前記結着剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1?20質量部であり、前記水溶性重合体の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.01?0.8質量部である多孔膜を、有機セパレータ上に有する二次電池用セパレータ。」
また、上記ア.によれば、請求項16を引用する、請求項18に注目すると、二次電池に係る、次の発明も記載されていると認められる。
「正極、負極、前記二次電池用セパレータ及び電解液を備えてなる、二次電池。」

シ. ここで、上記オ.に示される界面活性剤A?Cは、いずれも、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤であることは技術常識であるから、上記オ.?カ.、ク.によれば、実施例1、実施例3?11、実施例13?16が、上記サ.に示した二次電池用セパレータについての実施例といえるところ、それらの実施例において、前記二次電池用セパレータは、非導電性粒子、結着剤、水溶性重合体、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の他に、粘度調整剤を含んでなり、前記非導電性粒子としての板状アルミナ粒子を備え、また、有機セパレータとしてのポリエチレン製セパレータを備える、リチウムイオン二次電池用セパレータとされ、また、前記曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の含有量は、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.05?0.8質量部であり、前記粘度調整剤の含有量は、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1?0.8質量部とされている。
また、上記オ.?カ.によれば、上記サ.に示した二次電池についての実施例である、実施例1、実施例3?11、実施例13?16では、いずれの実施例においても、前記二次電池は、リチウムイオン二次電池とされている。

ス. 上記シ.の検討を踏まえて、上記キ.?ケ.に示されている、比較例1をみてみると、比較例として、非導電性粒子としての板状アルミナ粒子、結着剤、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の他に、粘度調整剤を含むものの、水溶性重合体は含んでおらず、前記結着剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、4質量部であり、前記曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.2質量部であり、前記粘度調整剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1質量部である多孔膜を、有機セパレータとしてのポリエチレン製セパレータ上に有するリチウムイオン二次電池用セパレータも記載されており、また、当該セパレータを備えてなる、リチウムイオン二次電池も記載されていると認められる。

セ. 上記サ.?シ.の検討からすると、引用文献1には、セパレータに係る、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「非導電性粒子、結着剤、水溶性重合体および曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の他に、粘度調整剤を含んでなり、前記非導電性粒子としての板状アルミナ粒子を備え、前記非導電性粒子の3軸径を、長径L、厚さt、幅bとしたとき、長径Lが0.1?20μm、幅bと厚さtとの比(b/t)が1.5?100であり、前記結着剤が、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体であり、前記水溶性重合体が、スルホン酸基を含み、重量平均分子量が1000?15000であり、前記結着剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1?20質量部であり、前記水溶性重合体の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.01?0.8質量部であり、前記曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の含有量は、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.05?0.8質量部であり、前記粘度調整剤の含有量は、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1?0.8質量部である多孔膜を、有機セパレータとしてのポリエチレン製セパレータ上に有するリチウムイオン二次電池用セパレータ。」
また、引用文献1には、二次電池に係る、次の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されていると認められる。
「正極、負極、引用発明1のセパレータ及び電解液を備えてなる、リチウムイオン二次電池。」

ソ. また、上記サ.?ス.の検討からすると、引用文献1には、セパレータに係る、次の発明(以下、「引用発明1’」という。)も記載されていると認められる。
「非導電性粒子、結着剤および曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の他に、粘度調整剤を含んでなるものの、水溶性重合体は含んでおらず、前記非導電性粒子としての板状アルミナ粒子を備え、前記非導電性粒子の3軸径を、長径L、厚さt、幅bとしたとき、長径Lが0.1?20μm、幅bと厚さtとの比(b/t)が1.5?100であり、前記結着剤が、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体であり、前記結着剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、4質量部であり、前記曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.2質量部であり、前記粘度調整剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1質量部である多孔膜を、有機セパレータとしてのポリエチレン製セパレータ上に有するリチウムイオン二次電池用セパレータ。」
また、引用文献1には、二次電池に係る、次の発明(以下、「引用発明2’」という。)も記載されていると認められる。
「正極、負極、引用発明1’のセパレータ及び電解液を備えてなる、リチウムイオン二次電池。」


(2) 本件特許発明と引用発明との対比・判断
(2-1) 本件特許発明1と引用発明1との対比・判断
タ. 本件特許発明1と、上記(1)セ.に示した、引用発明1とを対比すると、引用発明1における「リチウムイオン二次電池用セパレータ」、「多孔膜」、「有機セパレータとしてのポリエチレン製セパレータ」は、それぞれ、本件特許発明1における「非水電解液二次電池用セパレータ」、「多孔質膜」、「前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜」であって「前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜が、多孔質ポリオレフィンである」ことに相当し、そして、引用発明1における「多孔膜を、有機セパレータとしてのポリエチレン製セパレータ上に有する」ことは、本件特許発明1における「多孔質膜と、前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された」ことに相当し、また、引用発明1における「曇点30?90℃の非イオン界面活性剤」、「非導電性粒子としての板状アルミナ粒子」、「結着剤」は、それぞれ、本件特許発明1における「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物」であって「ノニオン性界面活性剤であ」ること、「無機粉末」であって「アルミナであ」ること、「バインダー樹脂」に相当し、また、引用発明1においては、前記多孔膜は、前記結着剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1?20質量部であり、前記水溶性重合体の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.01?0.8質量部であり、前記曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の含有量は、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.05?0.8質量部であり、前記粘度調整剤の含有量は、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1?0.8質量部であるから、前記非導電性粒子100質量部に対する、前記結着剤、前記水溶性重合体、前記非イオン界面活性剤、前記粘度調整剤のそれぞれの含有量の上限値を合計しても22.4質量部にすぎず、前記非導電性粒子の100質量部には到達しないため、本件特許発明1における「前記多孔質膜に含まれる無機粉末の割合が、前記多孔質膜の50質量%を超え」るとの特定事項を満たしていることも明らかである。
してみると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違していることとなる。

<一致点>
多孔質膜と、前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータであって、
前記多孔質膜が、疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物がノニオン性界面活性剤であり、
前記多孔質膜に含まれる無機粉末の割合が、前記多孔質膜の50質量%を超え、
前記無機粉末が、アルミナであり、
前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜が、多孔質ポリオレフィンである非水電解液二次電池用セパレータ。

<相違点>
相違点1:前記多孔質膜について、
本件特許発明1は、「(ただし、(i)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含む場合、及び、(ii)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含まず、且つ、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤をアルミナ100部に対して0.2部含む場合を除く。)」との発明特定事項を備えるのに対し、
引用発明1は、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含む点。

チ. そこで、上記相違点1につき検討するに、本件特許の明細書によれば、本件特許発明1は、ポリオレフィンからなる多孔質膜に、無機粉末を含む多孔質膜を積層したセパレータは、カールし易く、電池組み立て時の作業性が低下するとの問題を、発明が解決しようとする課題(以下、単に、「課題」ということがある。)としており(【0004】)、当該課題を解決するために、前記無機粉末を含む多孔質膜にノニオン性の界面活性剤を有せしめることを課題解決手段に含めて、ポリオレフィンからなる多孔質膜と無機粉末を含む多孔質膜とが同じ環境に置かれたときの、前記無機粉末を含む多孔質膜の水分含有量を前記ポリオレフィンからなる多孔質膜の水分含有量と近くしたというものである(【0008】、【0083】?【0089】)。

ツ. これに対し、引用発明1は、上記(1)イ.?エ.によれば、絶縁性微粒子としての板状粒子と破断伸びが300%以上の結着剤とを有し、安全性に優れ、多孔膜の伸びにも優れる、従来のリチウムイオン二次電池用の多孔質膜では、薄膜化を行うと均一な膜にならず、摺動性が低く、電極やセパレータの製造工程、特に電極等を捲回したとき、多孔膜から非導電性粒子が脱離する、粉落ちが問題となることに鑑みてなされたものであって、非導電性粒子として板状粒子を用いた場合であっても、薄膜化が可能で、かつ粉落ちのない多孔膜を提供することを発明が解決しようとする課題としており、鋭意検討した結果、特定形状を有する非導電性粒子、特定の単量体単位を有する結着剤、スルホン酸基を有する水溶性重合体及び水を含む多孔膜用スラリーを用いて多孔膜を形成することにより、多孔膜中の非導電性粒子の配向性が向上し、さらに摺動性が向上し、多孔膜が電極やセパレータ等と同時に巻回された際、粉落ちが抑制され、その多孔膜を備える二次電池のサイクル特性が向上することを見出し、さらに、非導電性粒子の配向性が高くなるため、薄膜化した際の安全性を高めることができることを見出すことにより、完成するに至ったものとされ、
下記事項を課題解決手段として含むものとされている。
非導電性粒子、結着剤および水溶性重合体を含んでなり、
前記非導電性粒子の3軸径を、長径L、厚さt、幅bとしたとき、長径Lが0.1?20μm、幅bと厚さtとの比(b/t)が1.5?100であり、
前記結着剤が、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体であり、
前記水溶性重合体が、スルホン酸基を含み、重量平均分子量が1000?15000である二次電池用多孔膜。

テ. 上記タ.?ツ.の検討からすると、上記相違点1は、課題解決手段の相違に起因する、実質的な相違点であるから、本件特許発明1と引用発明1とは、互いに、同一の発明といえないことは明らかである。
また、引用発明1は、非導電性粒子、結着剤および水溶性重合体を含んでなり、前記水溶性重合体が、スルホン酸基を含み、重量平均分子量が1000?15000であるとの事項を課題解決手段に含むものであるから、当該事項を備えないものとすることができない発明、すなわち、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものとすることが合理的にできない発明である。

ト. してみると、本件特許発明1は、引用発明1と同一の発明であるとはいえないし、引用発明1に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-2) 本件特許発明2?3と引用発明1との対比・判断
本件特許発明2?3と、上記(1)セ.に示した、引用発明1とを対比するに、上記(2-1)タ.での検討と同様にして、少なくとも上記相違点1の点で相違していると認められる。
そして、上記相違点1に係る発明特定事項を備える本件特許発明2?3も、上記(2-1)タ.?テ.での検討と同様にして、引用発明1と同一の発明であるとはいえないし、引用発明1に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(2-3) 本件特許発明4と引用発明2との対比・判断
本件特許発明4と、上記(1)セ.に示した、引用発明2とを対比するに、上記(2-1)タ.での検討と同様にして、少なくとも上記相違点1の点で相違していると認められる。
そして、上記相違点1に係る発明特定事項を備える本件特許発明4も、上記(2-1)タ.?テ.での検討と同様にして、引用発明2と同一の発明であるとはいえないし、引用発明2に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-4) 本件特許発明1と引用発明1’との対比・判断
ナ. 本件特許発明1と、上記(1)ソ.に示した、引用発明1’とを対比すると、引用発明1’における「リチウムイオン二次電池用セパレータ」、「多孔膜」、「有機セパレータとしてのポリエチレン製セパレータ」は、それぞれ、本件特許発明1における「非水電解液二次電池用セパレータ」、「多孔質膜」、「前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜」であって「前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜が、多孔質ポリオレフィンである」ことに相当し、そして、引用発明1’における「多孔膜を、有機セパレータとしてのポリエチレン製セパレータ上に有する」ことは、本件特許発明1における「多孔質膜と、前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された」ことに相当し、また、引用発明1’における「曇点30?90℃の非イオン界面活性剤」、「非導電性粒子としての板状アルミナ粒子」、「結着剤」は、それぞれ、本件特許発明1における「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物」であって「ノニオン性界面活性剤であ」ること、「無機粉末」であって「アルミナであ」ること、「バインダー樹脂」に相当し、また、引用発明1’においては、前記多孔膜は、前記結着剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、4質量部であり、前記曇点30?90℃の非イオン界面活性剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.2質量部であり、前記粘度調整剤の含有量が、前記非導電性粒子100質量部に対し、0.1質量部であるから、前記非導電性粒子100質量部に対する、前記結着剤、前記非イオン界面活性剤、前記粘度調整剤のそれぞれの含有量を合計しても4.3質量部にすぎず、前記非導電性粒子の100質量部には到達しないため、本件特許発明1における「前記多孔質膜に含まれる無機粉末の割合が、前記多孔質膜の50質量%を超え」るとの特定事項を満たしていることも明らかである。
してみると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違していることとなる。

<一致点>
多孔質膜と、前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータであって、
前記多孔質膜が、疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物がノニオン性界面活性剤であり、
前記多孔質膜に含まれる無機粉末の割合が、前記多孔質膜の50質量%を超え、
前記無機粉末が、アルミナであり、
前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜が、多孔質ポリオレフィンである非水電解液二次電池用セパレータ。

<相違点>
相違点1’:前記多孔質膜について、
本件特許発明1は、「(ただし、(i)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含む場合、及び、(ii)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含まず、且つ、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤をアルミナ100部に対して0.2部含む場合を除く。)」との発明特定事項を備えるのに対し、
引用発明1は、水溶性重合体を含まず、且つ、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤をアルミナ100部に対して0.2部含む点。

ニ. 本件特許発明1は、上記(2-1)チ.に示したとおりのことを課題とし、その課題を解決したものである。

ヌ. これに対し、引用発明1’は、上記(1)イ.?オ.、キ.?ケ.によれば、絶縁性微粒子としての板状粒子と破断伸びが300%以上の結着剤とを有し、安全性に優れ、多孔膜の伸びにも優れる、従来のリチウムイオン二次電池用の多孔質膜では、薄膜化を行うと均一な膜にならず、摺動性が低く、電極やセパレータの製造工程、特に電極等を捲回したとき、多孔膜から非導電性粒子が脱離する、粉落ちが問題となることに鑑みてなされたものであって、非導電性粒子として板状粒子を用いた場合であっても、薄膜化が可能で、かつ粉落ちのない多孔膜を提供することを課題としているが、当該課題を解決できなかったものとされている。

ネ. 上記ナ.?ヌ.の検討からすると、上記相違点1’は、課題解決の相違に起因する、実質的な相違点であるから、本件特許発明1と引用発明1’とは、互いに、同一の発明といえないことは明らかである。
また、引用発明1’は、上記ヌ.の検討のとおり、課題を解決できなかったものとされているから、引用発明1’に基づいて発明をすることは、合理性を欠くことである。

ノ. してみると、本件特許発明1は、引用発明1’と同一の発明であるとはいえないし、引用発明1’に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-5) 本件特許発明2?3と引用発明1’との対比・判断
本件特許発明2?3と、上記(1)ソ.に示した、引用発明1’とを対比するに、上記(2-4)ナ.での検討と同様にして、少なくとも上記相違点1’の点で相違していると認められる。
そして、上記相違点1’に係る発明特定事項を備える本件特許発明2?3も、上記(2-4)ナ.?ネ.での検討と同様にして、引用発明1’と同一の発明であるとはいえないし、引用発明1’に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。

(2-6) 本件特許発明4と引用発明2’との対比・判断
本件特許発明4と、上記(1)ソ.に示した、引用発明2’とを対比するに、上記(2-4)ナ.での検討と同様にして、少なくとも上記相違点1’の点で相違していると認められる。
そして、上記相違点1’に係る発明特定事項を備える本件特許発明4も、上記(2-4)ナ.?ネ.での検討と同様にして、引用発明2’と同一の発明であるとはいえないし、引用発明2’に基づいて、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-7) 小括
したがって、上記2.の(1)?(2)の取消理由によっては、本件特許発明に係る特許を取り消すことができない。


(3) 申立理由について
上記1.に示した申立理由1?2は、引用文献1である甲第1号証に基づく、特許法第29条第1項第3号および同法同条第2項についての主張であるから、上記2.の(1)?(2)の取消理由に含まれているところ、上記(1)?(2)での検討と同様にして、上記1.に示した申立理由1?2によっては、本件特許発明に係る特許を取り消すことができない。


(4) 補足
ハ. 異議申立人は、平成30年3月1日付けの意見書に、甲第2号証(特開2013-145763号公報)を添付して、同意見書において、本件特許発明は、甲第2号証記載の発明を主発明とし、甲第1号証の段落[0116]?[0123]記載の技術事項を組み合わせることによって、当業者が容易になし得たものであるか、あるいは、特表2008-210791号公報や特開2007-280911号公報から、甲第1号証の従来技術にすぎないことは明らかであるから、当業者が容易になし得たものである旨主張している。

ヒ. しかしながら、本件特許発明は、本件訂正前の請求項1?4に記載した事項の記載表現を残したままで、甲第1号証に記載された発明のみを当該請求項に記載した事項から除外したものであるから、訂正の請求に付随して生じた事項を包含したものには該当しない。
そして、特許異議の申立ての期間が特許掲載公報発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえると、異議申立人の平成30年3月1日付けの意見書による、甲第2号証(特開2013-145763号公報)や特表2008-210791号公報や特開2007-280911号公報に記載された発明に基づく主張は、平成29年9月11日に提出された特許異議申立書には記載されていない、新たな異議申立理由に該当するため、採用し得ない。

フ. 仮に、本件特許発明を訂正の請求に付随して生じた事項を包含したものとして検討してみたとしても、甲第2号証記載の発明を主発明とし、甲第1号証の段落[0116]?[0123]記載の技術事項を組み合わせるとは、上記(1)コ.に示した甲第1号証の記載事項を甲第2号証記載の発明と組み合わせることを意味しているところ、上記(1)ア.?エ.、コ.に示した甲第1号証の記載によれば、上記(1)コ.に示した甲第1号証の記載事項は、多孔質膜と前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜とが積層された非水電解液二次電池用セパレータにおける前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含むとの事項(以下、この事項を「前提事項」という。)を備えることを前提としているから、前記のような組み合わせを行った非水電解液二次電池用セパレータは、前記の前提事項を備えることとなるが、本件特許発明は、上記第3に示したとおり、前記の前提事項を備える非水電解液二次電池用セパレータを除くものとなっているため、前記のような組み合わせを行っても本件特許発明には到達し得ない。
また、特表2008-210791号公報や特開2007-280911号公報に、本件特許発明そのものが記載されているわけではないから、本件特許発明が甲第1号証の従来技術にすぎないとの主張も合理性を欠くものである。
よって、仮に、本件特許発明を訂正の請求に付随して生じた事項を包含したものとして検討してみても、異議申立人の平成30年3月1日付けの意見書による主張は、合理性を欠くものであって、採用し得ない。


第5 むすび
以上のとおり、取消理由、特許異議の申立理由、及び、証拠によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことができない。
さらに、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜と、前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータであって、
前記多孔質膜が、疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物がノニオン性界面活性剤であり、
前記多孔質膜に含まれる無機粉末の割合が、前記多孔質膜の50質量%を超え、
前記無機粉末が、アルミナであり、
前記多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜が、多孔質ポリオレフィンである非水電解液二次電池用セパレータ(ただし、(i)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含む場合、及び、(ii)前記多孔質膜が、スルホン酸基を含み重量平均分子量が1000?15000である水溶性重合体を含まず、且つ、曇点30?90℃の非イオン界面活性剤をアルミナ100部に対して0.2部含む場合を除く。)。
【請求項2】
ノニオン性の親水性基が、ポリオキシエチレン構造を有する請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項3】
バインダー樹脂が、水溶性の樹脂である請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の非水電解液電池用セパレータを用いた非水電解液二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-12 
出願番号 特願2014-153627(P2014-153627)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 結城 佐織
小川 進
登録日 2017-02-24 
登録番号 特許第6094542号(P6094542)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 多孔質膜  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  
代理人 長谷川 和哉  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  
代理人 長谷川 和哉  

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