• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  E02B
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  E02B
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  E02B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  E02B
審判 一部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  E02B
審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  E02B
審判 一部申し立て 2項進歩性  E02B
管理番号 1341072
異議申立番号 異議2017-700788  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-14 
確定日 2018-04-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6083487号発明「水中構造物用構造体の水中配置構造および水中搬送方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6083487号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-14、16〕、15について訂正することを認める。 特許第6083487号の請求項1、7、15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6083487号の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成27年8月6日に出願した特願2015-156469号の一部を平成28年12月7日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月3日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年8月14日に特許異議申立人松波敏明(以下「申立人」という。)より、請求項1、7、15に対して特許異議の申立てがされ、平成29年11月6日付けで取消理由(発送日同年11月10日)が通知され、その指定期間内である平成30年1月9日に意見書の提出及び訂正請求がなされたものである。その後、申立人に対し、同年1月23日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を送付し、期間を指定し意見書を提出する機会を与えたが、意見書の提出はなされなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(31)のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
請求項1に、
「水中構造物の一部又は全部を構成する構造体の水中配置構造であって、
水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材とを備えており、
前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、
前記複数個の浮力体のぞれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、
前記構造体は、水中で中性浮力状態にあることを特徴とする、水中構造物用構造体の水中配置構造。」
とあるのを、
「水中構造物の一部又は全部を構成する構造体の水中配置構造であって、
水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材と、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段とを備えており、
前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、
前記複数個の浮力体のそれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、
前記構造体は、水中で中性浮力状態にあるとともに、その中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であり、
前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることを特徴とする、水中構造物用構造体の水中配置構造。」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3にある「請求項2」を「請求項1」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項5にある「請求項1乃至4のいずれか」を「請求項1、3又は4」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項6にある「請求項1乃至5」を「請求項1ならびに3及至5」に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項7に、
「水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、
構造体を準備する第1の工程と、
前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び浮力体を取り付ける第2の工程と、
前記調整手段ならびに前記錘及び前記浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」
とあるのを、
「水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、
構造体を準備する第1の工程と、
前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び複数個の浮力体を取り付ける第2の工程と、
前記調整手段ならびに前記錘及び前記複数個の浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有し、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、
中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を、前記複数個の浮力体のうち少なくともーつと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段により調整する工程を更に有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」
に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項8?14及び16も同様に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
請求項9に記載の「前記浮力体」を「前記複数個の浮力体」に訂正し、「請求項7又は8」を「請求項7」に訂正する。

(9)訂正事項9
請求項10に記載の「前記浮力体」を「前記複数個の浮力体」に訂正し、「請求項7又は8」を「請求項7」に訂正する。

(10)訂正事項10
請求項11に、
「前記浮力体は複数個の浮力体であり、前記第3の工程は、前記複数個の浮力体の一部の頂部よりも、残部の頂部の方が低い位置に配置した状態で前記構造体を水中搬送する工程を有することを特徴とする、請求項7乃至10のいずれかに記載の、構造体の水中搬送方法。」
とあるのを、
「前記第3の工程は、前記複数個の浮力体の一部の頂部よりも、残部の頂部の方が低い位置に配置した状態で前記構造体を水中搬送する工程を有することを特徴とする、請求項7、9又は10に記載の、構造体の水中搬送方法。」
に訂正する。

(11)訂正事項11
請求項12にある「請求項7及至11」を「請求項7ならびに9乃至11」に訂正する。

(12)訂正事項12
請求項13にある「請求項7及至12」を「請求項7ならびに9乃至12」に訂正する。

(13)訂正事項13
請求項14にある「請求項7及至13」を「請求項7ならびに9乃至13」に訂正する。

(14)訂正事項14
請求項15に、
「水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、
取付部材により構造体に取り付けた複数個の浮力体のそれぞれの全体が前記取付部材とともに水没するまで前記構造体を水没させることにより、前記構造体を水中で中性浮力状態に設定する工程と、
水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程と、
水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態にある前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく水中搬送する工程とを有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」
とあるのを、
「水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、
取付部材により構造体に取り付けた複数個の浮力体のそれぞれの全体が前記取付部材とともに水没するまで前記構造体を水没させることにより、前記構造体を水中で中性浮力状態に設定する工程と、
水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程と、
水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態にある前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく水中搬送する工程とを有し、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであることを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」
に訂正する。

(15)訂正事項15
請求項16にある「請求項7及至15」を「請求項7ならびに9乃至14」に訂正する。

(16)訂正事項16
明細書の段落【0007】を、
「請求項1に記載の発明は、水中構造物の一部又は全部を構成する構造体の水中配置構造であって、水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材と、前記複数個の浮力体のうち少なくともーつと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段とを備えており、前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、前記複数個の浮力体のそれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、前記構造体は、水中で中性浮力状態にあるとともに、その中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であり、前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることに特徴を有するものである。」
に訂正する。

(17)訂正事項17
明細書の段落【0013】を、
「請求項7に記載の発明は、水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、構造体を準備する第1の工程と、前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び複数個の浮力体を取り付ける第2の工程と、前記調整手段ならびに前記錘及び前記複数個の浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有し、前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段により調整する工程を更に有することに特徴を有するものである。」
に訂正する。

(18)訂正事項18
明細書の段落【0008】を削除する。

(19)訂正事項19
明細書の段落【0014】を削除する。

(20)訂正事項20
明細書の段落【0021】を、
「請求項15に記載の発明は、水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、取付部材により構造体に取り付けた複数個の浮力体のそれぞれの全体が前記取付部材とともに水没するまで前記構造体を水没させることにより、前記構造体を水中で中性浮力状態に設定する工程と、水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程と、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態にある前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく水中搬送する工程とを有し、前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであることに特徴を有するものである。」
に訂正する。

(21)訂正事項21
明細書の段落【0009】に記載の「請求項2に記載の発明」を「請求項1に記載の発明」に訂正する。

(22)訂正事項22
明細書の段落【0011】に記載の「請求項1乃至4のいずれかに記載の発明」を「請求項1、3又は4に記載の発明」に訂正する。

(23)訂正事項23
明細書の段落【0012】に記載の「請求項1乃至5のいずれかに記載の発明」を「請求項1ならびに3及至5のいずれかに記載の発明」に訂正する。

(24)訂正事項24
明細書の段落【0015】に記載の「請求項7又は8に記載の発明」を「請求項7に記載の発明」に訂正する。

(25))訂正事項25
明細書の段落【0016】に記載の「請求項7又は8に記載の発明」を「請求項7に記載の発明」に訂正し、「前記浮力体」を「前記複数個の浮力体」に訂正する。

(26)訂正事項26
明細書の段落【0017】に記載の「請求項7及至10のいずれかに記載の発明において、前記浮力体は複数個の浮力体であり」を「請求項7、9又は10に記載の発明」に訂正する。

(27)訂正事項27
明細書の段落【0018】に記載の「請求項7及至11のいずれかに記載の発明」を「請求項7ならびに9乃至11のいずれかに記載の発明」に訂正する。

(28)訂正事項28
明細書の段落【0019】に記載の「請求項7及至12のいずれかに記載の発明」を「請求項7ならびに9乃至12のいずれかに記載の発明」に訂正する。

(29)訂正事項29
明細書の段落【0020】に記載の「請求項7及至13のいずれかに記載の発明」を「請求項7ならびに9乃至13のいずれかに記載の発明」に訂正する。

(30)訂正事項30
明細書の段落【0022】に記載の「請求項7及至15のいずれかに記載の発明」を「請求項7ならびに9乃至14のいずれかに記載の発明」に訂正する。

(31)訂正事項31
明細書の段落【0036】、段落【0154】、段落【0157】、段落【0168】に記載された「調節手段」を「調整手段」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、水中配置構造の態様について、「調整手段」の構成を付加すると共に「構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきた」点、及び「複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置している」点を付加し限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項1は水中配置構造の態様について限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項1に関して、願書に添付した明細書には「【0008】・・・前記取付部材は、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調節手段を備えており、前記構造体の水中姿勢は、前記調整手段により調整可能であり、前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることに特徴を有するものである。」、「【0197】・・・構造体10の少なくとも一部を、構造体10の水中搬送を行う作業現場から離隔した工場で製造した後、搬送台車に載置し、トレーラTRLで牽引し、当該作業現場まで陸上輸送する(第1の工程S1)。」と記載されているから、訂正事項1は願書に添付した明細書に記載されているものと認められる。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?5について
訂正事項3?5は、上記訂正事項2の訂正に伴って、引用する請求項を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3?5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(4)訂正事項6について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項6は、水中搬送方法の態様について「調整する工程」を付加すると共に「構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきた」点及び「浮力体」を「複数個」とする点を付加し限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項6は水中搬送方法の態様について限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項6に関して、願書に添付した明細書には「【0069】・・・また、構造体10に複数個の浮力体が取り付けられている場合、特定の浮力体の取付深さのみをその調整手段により変更すると、取付深さを変更しなかったその他の浮力体との個数差、各浮力体の取付位置等との関係に応じて構造体10の水中姿勢が微妙に変化する。【0070】それ故、調整手段により浮力体の取付深さを変更することにより、浮上力Fを微調整することができ、所望の浮上力Fへの設定、ひいては沈降力Gとのバランスによる水中での中性浮力状態の設定をより正確に行うことができる。・・・」、「【0197】・・・構造体10の少なくとも一部を、構造体10の水中搬送を行う作業現場から離隔した工場で製造した後、搬送台車に載置し、トレーラTRLで牽引し、当該作業現場まで陸上輸送する(第1の工程S1)。」と記載されているから、訂正事項6は願書に添付した明細書に記載されているものと認められる。

(5)訂正事項7について
訂正事項7は、請求項8を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項8、9について
訂正事項8、9は、上記訂正事項6の訂正に伴って、請求項の記載を「複数個の(浮力体)」と整合させるものであると共に、上記訂正事項7の訂正に伴って、引用する請求項を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項8、9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(7)訂正事項10について
訂正事項10は、上記訂正事項6の訂正に伴って、請求項の記載を重複しないようにさせるものであると共に、上記訂正事項7の訂正に伴って、引用する請求項を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(8)訂正事項11?13、15について
訂正事項11?13、15は、上記訂正事項7の訂正に伴って、引用する請求項を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項15は、請求項15の引用を外すものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項11?13、15は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(9)訂正事項14について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項14は、水中搬送方法の態様について「構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきた」点を付加し限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項14は水中搬送方法の態様について限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項14に関して、願書に添付した明細書には「【0197】・・・構造体10の少なくとも一部を、構造体10の水中搬送を行う作業現場から離隔した工場で製造した後、搬送台車に載置し、トレーラTRLで牽引し、当該作業現場まで陸上輸送する(第1の工程S1)。」と記載されているから、訂正事項14は願書に添付した明細書に記載されているものと認められる。

(10)訂正事項16?30について
訂正事項16、17、18、19、20、30は、それぞれ上記訂正事項1、6、2、7、14、15の訂正に伴って、訂正事項21?23は、それぞれ上記訂正事項3?5の訂正に伴って、訂正事項24?29は、それぞれ上記訂正事項8?13の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項16?30は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(11)訂正事項31について
ア 訂正の目的の適否について
明細書の段落【0036】、【0154】、【0157】、【0168】に記載された「調節手段」は、願書に最初に添付した明細書の【0028】、【0045】の記載からみて、「調整手段」の誤記であることは明らかであるから、訂正事項31は、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項31は誤記を訂正したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項31は、誤記を訂正したものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されているものと認められる。

(12)独立特許要件について
上記1(1)、1(6)で説示したとおり、訂正事項1、6は、それぞれ特許異議の申立てがされていない請求項3?6及び請求項9?14、16に対しても訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定により、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項3?6、9?14、16に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
下記第3の4(1)、(2)において後記するように、訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項7に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものではない。そして、訂正後の請求項3?6に係る発明及び訂正後の9?14、16に係る発明は、それぞれ訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項7に係る発明に従属し、それぞれの発明特定事項をすべて含むものであるから、訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項7に係る発明と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
上記で検討した事項に加え、訂正後の請求項3?6に係る発明及び訂正後の請求項9?14、16に係る発明が、独立して特許を受けることができないとするその他の理由は見いだせない。
したがって、訂正後の請求項3?6に係る発明及び訂正後の請求項9?14、16に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができない発明とすることはできないから、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

(13)一群の請求項について
訂正前の請求項1?6は、請求項2?5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、訂正前の請求項7?14、16は、請求項8?14、16が、訂正の請求の対象である請求項7の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?6及び請求項7?14、16は、それぞれ訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?31は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号?第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項?第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-14、16〕、15について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の請求項1、7、15に係る発明
上記訂正請求により訂正された請求項1、7、15に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、以下のとおりのものである。(下線は訂正箇所を示す。)

本件発明1
「【請求項1】
水中構造物の一部又は全部を構成する構造体の水中配置構造であって、
水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材と、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段とを備えており、
前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、
前記複数個の浮力体のそれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、
前記構造体は、水中で中性浮力状態にあるとともに、その中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であり、
前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることを特徴とする、水中構造物用構造体の水中配置構造。」

本件発明7
「【請求項7】
水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、
構造体を準備する第1の工程と、
前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び複数個の浮力体を取り付ける第2の工程と、
前記調整手段ならびに前記錘及び前記複数個の浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有し、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、
中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を、前記複数個の浮力体のうち少なくともーつと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段により調整する工程を更に有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」

本件発明15
「【請求項15】
水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、
取付部材により構造体に取り付けた複数個の浮力体のそれぞれの全体が前記取付部材とともに水没するまで前記構造体を水没させることにより、前記構造体を水中で中性浮力状態に設定する工程と、
水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程と、
水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態にある前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく水中搬送する工程とを有し、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであることを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1、7に係る特許に対して平成29年11月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前において頒布された甲第1号証、又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件特許の請求項1、7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 刊行物の記載
甲第1号証:黒米郁、外2名、「水中格点工法による杭式橋脚の耐震補強」、土木学会関東支部技術研究発表会講演概要集、2002年、2002年29巻、p.934、935
甲第2号証:吉原到、外2名、「供用中の桟橋に適用した桟橋補強工法の施工事例」、土木学会第70回年次学術講演会(平成27年9月)、平成27年8月1日発行、p.401、402
甲第3号証:特開2008-37253号公報
甲第4号証:実願平4-65172号(実開平6-27868号)のCD-ROM
甲第5号証:特許第4864774号公報

(1)取消理由通知において引用した甲第1号証には、図面とともに次の記載があり、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
ア 「水中格点工法においては、小型の起重機船で格点材を吊り降ろし、浮体力(アクアリフター)を用いることで潜水士による設置が可能となり、水中作業は多くなるものの設備等への影響はほとんどない。また作業船についても容易に移動でき、拘束日数も少ない等の利点がある。
水中格点工法による施工方法は、図-5に示す手順で行った。ここでは、特に格点材の取り付けについて述べる。
格点材の運搬取付は、施工性および作業時間を考慮して4基ずつ行う。図-6に示すように、アクアリフターを取り付けた格点材を起重機船にて海面上に吊り降ろし、浮力調整後に潜水士によって受台上に仮置きする。次に、チェーンブロックによって格点材を鋼管杭に固定したうえで外管片割れの仮止めを行う。格点材4基分の仮置きが完了後、取付位置の微調整を行い、受台と格点材の水中溶接を行う。」(935頁21行?39行)

イ 図-6から、格点材には複数のアクアリフターが取り付けられており、アクアリフターはその全体が水没しており、格点材は水中で中性浮力状態にあることが看て取れる。

ウ 甲1発明
「複数のアクアリフターを取り付けた格点材を起重機船にて海面上に吊り降ろし、アクアリフターはその全体が水没しており、複数のアクアリフターを取り付けた格点材は、水中で中性浮力状態とし、浮力調整後に潜水士によって受台上に仮置きし、チェーンブロックによって格点材を鋼管杭に固定したうえで外管片割れの仮止めを行い、格点材4基分の仮置きが完了後、取付位置の微調整を行い、受台と格点材の水中溶接を行う、格点材の水中配置構造及び水中搬送方法」

(2)取消理由通知において引用した甲第2号証には、図面とともに次の記載があり、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
ア 「本工法の部材据付手順を図-4に示す。まず、桟橋上でストラット部材にフローターを艤装し、クレーンで進水する。ストラット部材を上部工直下の杭間まで移動・運搬し、設置位置で上部工からワイヤーで吊り替え、所定の位置に部材を設置する。
これら一連の作業は潜水士による人力作業となる。・・・従来このような作業では発砲スチロール製などのフローターを使用して中性浮力状態として作業を行うが、部材設置後フローターを外すとフローターが急浮上し、作業する潜水士に危険が伴う。その対策として、浮力を調整できるバルーン型のフローターを使用することもある」(402頁3行?12行)

イ 甲2発明
「ストラット部材にフローターを艤装し、クレーンで進水し、ストラット部材を浮力を調整できるバルーン型のフローターを使用して中性浮力状態として作業を行い、所定の位置に部材を設置するストラット部材の水中配置構造及び水中搬送方法」

(3)取消理由通知において引用した甲第3号証には、申立人が主張するとおり、以下の技術(以下「甲3技術」という。)が記載されていると認められる。

甲3技術
「水中で中性浮力状態を得るために錘を用いること」

(4)取消理由通知において引用した甲第4号証には、申立人が主張するとおり、以下の技術(以下「甲4技術」という。)が記載されていると認められる。

甲4技術
「2本の玉掛けロープを異なる長さに設定することにより、吊荷を傾けることができること」

(5)取消理由通知において引用した甲第5号証には、申立人が主張するとおり、以下の技術(以下「甲5技術」という。)が記載されていると認められる。

甲5技術
「ストラット部材4に取り付けられたフロータ6を水面に浮かべて、ストラット部材4を杭2、2の間に曳航すること」

4 取消理由通知に記載した取消理由(第29条第1項第3号第29条第2項)について
(1)本件発明1について(第29条第1項第3号第29条第2項)
ア 本件発明1と甲1発明又は甲2発明の対比
本件発明1と、甲1発明又は甲2発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1が「複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段」を備え、(構造体の)「中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であ」るのに対し、甲1発明又は甲2発明では、そのような特定がなされていない点。

イ 判断
相違点1について検討するに、「複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段」を備えること、及び「中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であ」ることは、甲第1号証?甲第5号証には何ら記載されておらず、そのような手段を備えることを示唆する記載もない。
したがって、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明ではなく、また、甲1発明又は甲2発明において相違点1に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(2)本件発明7について(第29条第2項)
ア 本件発明7と甲1発明の対比
本件発明7と、甲1発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点2>
本件発明7が「中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を、前記複数個の浮力体のうち少なくともーつと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段により調整する工程を更に有」するのに対し、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。

イ 判断
相違点2は、実質的に上記相違点1と同じであるので、上記(1)イと同様の理由により、甲1発明において、相違点2に係る本件発明7の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(3)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明と同一ではなく、その特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1、7は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(第29条第2項)について
申立人より、「本件発明15は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。」旨の特許異議の申立てがなされているので、以下に検討する。

(1)本件発明15と甲1発明の対比
本件発明15と、甲1発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点3>
本件発明15が「水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程」を有するのに対し、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。

(2)判断
相違点3について検討するに、本件発明15のように「複数の浮力体」とは「別の浮力体」を備え、「複数の浮力体」は水没させ、「別の浮力体の全体」は水没させないようにして水中搬送することは、甲第1号証?甲第5号証には何ら記載されておらず、そのような手段を備えることを示唆する記載もない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明15の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(3)小括
よって、本件発明15は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、平成29年11月6日付け取消理由通知及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1、7、15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、7、15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水中構造物用構造体の水中配置構造および水中搬送方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、桟橋、ドルフィン、橋脚などの水域に設置する構造物のうち水没した部分(以下「水中構造物」という)の一部又は全部を構成又は補強するための構造体(以下「水中構造物用構造体」又は「構造体」という場合がある)を水中搬送する方法に関する。この方法は、水域に既設の構造物のうち、水中の地盤に下端部が埋設された複数個の杭によって上部が支持してある構造物を補強するための補強梁などの構造体を当該複数個の杭近くまで水中搬送する場合に特に有益である。
【背景技術】
【0002】
水中構造物を補強する構造体を水中搬送する方法としては、図28に示すように、構造体A(ストラット部材4)と、複数個の浮力体B(フロータ6)と、構造体Aと複数個の浮力体Bとを連結する取付部材Cとを具備する水中配置構造Dを、構造体Aを水面L近くの水中に浮かべながら曳航する方法(特許文献1の段落0011乃至0013、図3参照)や、構造体A(上部構造体4)と、複数個の浮力体B(浮体13)と、構造体Aと複数個の浮力体Bとを連結する取付部材C(ブレース7)とを具備する水中配置構造Dを、構造体Aを水中に吊り下げながら、且つ、複数個の浮力体Bを、各浮力体B全体を水没させることなく移送する方法が知られている(特許文献2の段落0040、図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-223384号公報
【特許文献2】特開2007-217952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、いずれの方法も、構造体に取り付けた浮力体を水面下に一部だけ水没(半没)させて、残りの部分を水面上に浮上させながら構造体を水中搬送するものゆえ、水面又は水面近くの変動の影響を受け易く、構造体の水中姿勢は不安定になり易く、その搬送作業の効率も低下し易い。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、水中構造物を補強するための構造体を作業効率よく且つ安全に水中搬送する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、下記を特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明は、水中構造物の一部又は全部を構成する構造体の水中配置構造であって、水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材と、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段とを備えており、前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、前記複数個の浮力体のそれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、前記構造体は、水中で中性浮力状態にあるとともに、その中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であり、前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることに特徴を有するものである。
【0008】
(削除)
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記構造体に取り付けた錘を備えていることに特徴を有するものである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記錘は複数個あり、前記複数個の錘のうち少なくとも一つは、前記構造体との間の距離を調整することにより水底に着床可能な錨であることに特徴を有するものである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1、3又は4に記載の発明において、前記構造体は、少なくとも二つの区画部を備えており、隣接する区画部同士は、ヒンジ機構により接続してあり、前記ヒンジ機構の回転軸は、鉛直又は実質的に鉛直方向になるように調整してあることに特徴を有するものである。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1ならびに3乃至5のいずれかに記載の発明において、前記構造体の内部に対して給気、排気、給水及び排水のうち少なくとも一つを行うことにより前記構造体に作用する浮力を調整する浮力調整装置を備えていることに特徴を有するものである。
【0013】
請求項7に記載の発明は、水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、構造体を準備する第1の工程と、前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び複数個の浮力体を取り付ける第2の工程と、前記調整手段ならびに前記錘及び前記複数個の浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有し、前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段により調整する工程を更に有することに特徴を有するものである。
【0014】
(削除)
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記第2の工程は、クレーンにより前記構造体を水中に没入させ、水没状態に保持する工程と、水没している前記構造体に前記調整手段、前記錘及び前記浮力体を取り付ける工程とを有することに特徴を有するものである。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記第2の工程は、前記構造体を水没させる前に前記調整手段、前記錘及び前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つを、そして水没させた後に残りを、前記構造体に取り付ける工程を有することに特徴を有するものである。
【0017】
請求項11に記載の発明は、請求項7、9又は10に記載の発明において、前記第3の工程は、前記複数個の浮力体の一部の頂部よりも、残部の頂部の方が低い位置に配置した状態で前記構造体を水中搬送する工程を有することに特徴を有するものである。
【0018】
請求項12に記載の発明は、請求項7ならびに9乃至11のいずれかに記載の発明において、前記錘は複数個の錘であり、前記第3の工程は、その実行の開始時、過程及び終了時の少なくとも一つにおいて、前記複数個の錘の少なくとも一つを水底に着床させる工程を有することに特徴を有するものである。
【0019】
請求項13に記載の発明は、請求項7ならびに9乃至12のいずれかに記載の発明において、前記第3の工程は、前記構造体の内部に対して給気、排気、給水及び排水のうち少なくとも一つを行うことにより前記構造体に作用する浮力を調整する浮力調整工程を有することに特徴を有するものである。
【0020】
請求項14に記載の発明は、請求項7ならびに9乃至13のいずれかに記載の発明において、前記第3の工程は、前記構造体を前記水中構造物の近くに搬送する工程と、前記水中構造物の近くに搬送した前記構造体を中性浮力状態のまま前記水中構造物の側に引き込む工程と、前記水中構造物の側に引き込んだ前記構造体をその中性浮力状態を解除して前記水中構造物に取り付ける工程とを有することに特徴を有するものである。
【0021】
請求項15に記載の発明は、水中構造物の一部又は全部を構成する構造体の水中搬送方法であって、取付部材により構造体に取り付けた複数個の浮力体のそれぞれの全体が前記取付部材とともに水没するまで前記構造体を水没させることにより、前記構造体を水中で中性浮力状態に設定する工程と、水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程と、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態にある前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく水中搬送する工程とを有し、前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項16に記載の発明は、請求項7ならびに9乃至14のいずれかに記載の発明において、前記構造体は、少なくとも二つの区画部を備えており、隣接する区画部同士は、ヒンジ機構により接続してあり、前記ヒンジ機構の回転軸は、鉛直又は実質的に鉛直方向になるように調整してあることに特徴を有するものである。
【0023】
なお、本発明において、次に掲げる用語の意味又は解釈は、以下のとおりとする。
【0024】
「中性浮力状態」とは、対象物が水中で浮き上がりも沈みもしない状態をいう。
【0025】
「浮力体」とは、高い浮力を生じさせる物体をいい、その典型例は、樹脂発泡体や樹脂製中空密閉体である。一つの浮力体は、樹脂発泡体や樹脂製中空密閉体などの一つの塊であってもよく、一つの塊として挙動する塊の束であってもよい。
【0026】
「錘」とは、構造体の重さを増やすため又は重さの分布を変えるために付け加える物体をいい、形状や構造体への取り付け方(たとえは構造体に釣り下げるか否か)は問わない。
【0027】
「取付部材」とは、構造体に浮力体、錘等を取り付けるための部材をいい、その典型例は、ワイヤーロープ、金属棒、チェーンである。
【0028】
「調整手段」とは、構造体と浮力体との距離を調整する機能(変更し固定する機能を含む)を有する装置、器具その他の手段をいい、その典型例は、ロープワーク、レバーホイスト、チェーンブロックである。なお、構造体と浮力体との距離を、浮力体の「取付深さ」という場合がある。
【0029】
「取り付け」又は「取り付ける」こととは、ある物を他の物に設置、装着等することをいい、ある物が他の物に直接接して設置、装着等することのみならず、他の物品を介して当該他の物に間接的に設置、装着等することも、これに該当する。
【0030】
「搬送」又は「搬送する」こととは、船舶、人力等によりある物を移動させることをいい、構造体をクレーンで吊り揚げている場合には(特許文献2の図3参照)、クレーントーチの旋回により構造体を移動させることも、これに該当する。
【0031】
「水面」とは、大気との境界を構成する水の表面をいう。その場合の「水」は、淡水、汽水、湖水、海水、貯留水等のいずれの水であってもよい。
【0032】
「水面又は水面近くの変動」とは、たとえば、(1)降雨、放水などに起因するダム湖の湖面の変動、(2)上流における降雨やダム放水による下流河川の河面の変動、(3)潮位変化、波浪などに起因する海面の変動をいう。
【発明の効果】
【0033】
本発明においては、水中構造物用構造体は、浮力体による浮上力により、水面近くに浮かぶでもなく、浮力体により水中で吊り下げられるでもなく、水中で浮き上がりも沈みもしない状態(つまり、中性浮力状態)に置かれるので、水面又は水面近くの変動の影響を受け難く、故に構造体の水中搬送の円滑に行うことができ、その際に事故も起こり難くなる。従って、本発明(特に本発明の第1の形態及び第7の形態)によれば、水中構造物用構造体を作業効率よく且つ安全に水中搬送することができる。
【0034】
また、水中構造物用構造体を水中搬送する際、構造体が中性浮力状態にあると、比較的小さな駆動力で水中搬送することができ、比較的小型な構造体であれば、潜水作業者の人力で(たとえば構造体に括りつけたロープを手動ウィンチで巻き取ることにより)水中搬送を行うことも可能である。従って、本発明によれば、構造体の水中搬送に必要な駆動装置を小型にすることができ、場合によっては潜水作業者の人力による構造体の水中搬送も実現できる。
【0035】
また、本発明の個々の形態は、以下のような作用効果を奏する。
【0036】
本発明の第2の形態においては、複数個の浮力体の少なくとも一つが構造体とともに全体が水没しているので、水面又は水面近くの変動の悪影響がすべての浮力体に及ばず、構造体の水中姿勢が不安定になり難い。また、複数個の浮力体のうち少なくとも一つの取付深さを調整するための調整手段が構造体に取り付けられているので、構造体の水中での中性浮力状態を実現するための調整が容易になり、当該構造体の水中姿勢の設定、調整、維持等が容易になる。また、満潮、干潮などの潮位に応じて当該構造体の水中深度を変更することもできる。中性浮力状態にある構造体を目的場所まで水中搬送した後に、より望ましい水中姿勢に変更することもできる。それ故、この第2の形態によれば、効率良く、安全に水中搬送作業を行うのに適した水中構造物用構造体を実現することができる。
【0037】
本発明の第3の形態においては、錘の作用により構造体を沈めようとする鉛直下方の力(後述の沈降力G)を増やすことができるので、構造体を水中で中性浮力状態に設定するための調整の自由度が高まる。それ故、この第3の形態によれば、より効率良く、安全に水中搬送作業を行うのに適した水中構造物用構造体を実現することができる。
【0038】
なお、構造体に取り付ける錘を複数個にすると、錘の重量、個数、設置位置等の設定を通じて構造体に作用する沈降力Gやその分布を調整することができるので、構造体を水中で中性浮力状態に設定するための調整や水中姿勢の調整の自由度を高めることができる。
【0039】
本発明の第4の形態においては、複数個の錘を備えているので、構造体を水中で中性浮力状態に設定するための調整や水中姿勢の調整の自由度を高めることができ、故に効率良く、安全に水中搬送作業を行うのに適した水中構造物用構造体を実現することができる。また、複数個の錘のうち少なくとも一つに錨の機能を持たせ、錨の把駐力により、構造体を中和浮力状態のままで水中に係留することができるので、中性浮力状態にある構造体の水中搬送作業や当該構造体を用いて行う、その後の他の作業が水面又は水面近くの変動の悪影響により一時中断に追い込まれても、当該悪影響がなくなった後より短時間でその作業を再開することができる。それ故、この第4の形態によれば、全体として、構造体の水中での中性浮力状態及び水中姿勢を設定、調整、維持等する作業、当該構造体の水中搬送作業やその後に引き続く作業を効率よく行い、終えることができる水中構造物用構造体を実現することができる。
【0040】
水中構造物用構造体が少なくとも二つの区画部を備えており、隣接する区画部同士がヒンジ機構により接続してあり、しかも当該ヒンジ機構の回転軸が鉛直又は実質的に鉛直方向になるように調整してある場合、水中で、当該隣接する区画部の一方を他方に対してヒンジ機構の回転軸周りに回転させる作業を行うことは容易ではない。特に、人間に比べて構造体の重量が大きい又は人間の背丈とさほど変わらない大きさである場合には、その作業はかなり難しい。
【0041】
しかし、ヒンジ機構の回転軸が鉛直又は実質的に鉛直方向になるように調整してある場合、つまり、本発明の第5の構成によれば、その作業を比較的容易に行うことができる。この効果は、水中構造物用構造体が、隣接する区画部同士がヒンジ機構により接続してある構成ゆえに水中構造物を補強することができるものである場合に、特に有益である。
【0042】
なお、水中構造物用構造体が、その長尺方向を水平に保つことで、その構造体が備えるヒンジ機構の回転軸が鉛直又は実質的に鉛直方向になる構成である場合には、本発明の第5の形態は、構造体の長尺方向を水平になるように調整してあるものであってもよい。
【0043】
本発明の第6の形態によれば、浮力調整装置により構造体に作用する浮力、ひいては浮上力Fを調整することができ、構造体の水中での中性浮力状態の実現に資することができる。また、浮力調整装置による給水、排水、給気及び排気のうち少なくとも一つの対象となる構造体の内部空間の形状、個数、分布等によっては、浮力調整装置により構造体に作用する浮力の分布、ひいては浮上力Fの分布を調整することができるので、構造体の水中姿勢の設定、調整、維持等に資することができる。
【0044】
加えて、この第6の形態によれば、浮力調整装置がなければ当該中性浮力状態を実現するために必要であるはずの錘及び/又は浮力体の個数を減らすこと、ひいてはそれらの構造体への取り付け作業の労力を減らすことができる。水中において構造体に錘を取り付ける作業(特に潜水作業員の作業)の負荷を軽減できることは、実作業においては有益である。
【0045】
本発明の第8の形態によれば、構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び浮力体を取り付け、当該構造体を、その水中姿勢を当該調整手段により調整しながら、中性浮力状態を維持することができるので、当該構造体の水中姿勢の調整や維持が容易で、作業効率が良く、安全な構造体の水中搬送方法を実現することができる。この方法は、構造体の水中での中性浮力状態を実現するための調整や、当該構造体の水中姿勢の設定、調整、維持等が必要な場合(たとえば、構造体の水中搬送の際、構造体の長手方向を水平に保つことで水の抵抗を減らす必要がある場合、構造体の水中搬送後に引き続く水中構造物の建設工事又は補強工事の作業に適した構造体の水中姿勢を考慮したとき、構造体の水中姿勢を一定に保つことが好ましい場合)や、満潮、干潮などの潮位に応じて当該構造体の水中深度を変更する必要がある場合(たとえば、潮位に拘らず当該構造体を水中構造体の特定位置に近接させる、引き込む又は取り付ける必要がある場合)に、特に効果がある又は有益である。
【0046】
本発明の第9の形態によれば、水中構造物用構造体の少なくとも一部を所謂プレファブ化することができるので、構造体の更なる品質向上ならびに、現場作業の省力化、現場作業環境の改善、水中構造物の建設工事又は補強工事の工期短縮及びコスト低減を可能にする構造体の水中搬送方法を実現することができる。
【0047】
本発明の第10の形態によれば、クレーンにより構造体を水中に没入させ、水没状態に保持した後、水没している当該構造体に調整手段、錘及び浮力体を取り付けるので、陸側に置かれていた構造体を水中で中性浮力状態に設定するために必要な準備作業を効率的に又は短時間で終えることができ、最終的に、作業効率が良く、安全な構造体の水中搬送方法を実現することができる。
【0048】
本発明の第11の形態によれば、構造体を水没させる前に調整手段、錘及び浮力体のうち少なくとも一つを、そして水没させた後に残りを、当該構造体に取り付けるので、当該構造体を水中で中性浮力状態に設定するために必要な作業を、更に効率的に又は更に短時間で終えることができ、最終的に、作業効率が良く、安全な構造体の水中搬送方法を実現することができる。
【0049】
なお、構造体を水没させた後に錘を取り付ける作業を行うことは比較的労力を要するので、作業効率の低下の原因の一つになる。それ故、構造体に取り付ける錘の重量や設置箇所が予め判明している場合、第11の形態において、構造体を水没させる前に錘を取り付けておくことは、第10の形態と比べ、好ましい。
【0050】
本発明の第12の形態によれば、構造体に取り付けた複数個の浮力体のうち一部の頂部よりも残部の頂部の方が低い水位になるように配置した状態で当該構造体を水中搬送するので、水面又は水面近くの変動の悪影響がすべての浮力体に及ばず、構造体の水中姿勢の不安定化を低減することができ、従って作業効率が良く、安全な構造体の水中搬送方法を実現することができる。
【0051】
本発明の第13の形態によれば、構造体の水中搬送の複数個の錘の少なくとも一つにおいて、複数個の錘の少なくとも一つを水底に着床させることにより当該構造体を沈めようとする鉛直下方の力を変化させ、それにより当該構造体の水中姿勢を微調整し、望ましい姿勢を維持することができるので、さらに作業効率が良く、安全な構造体の水中搬送方法を実現することができる。
【0052】
なお、第12の形態及び第13の形態のそれぞれによれば、構造体の水中姿勢をより正確に一定に保つことができるので、構造体の水中搬送後に引き続く水中構造物の建設工事又は補強工事の作業により好適な構造体の水中搬送方法を実現することができる。
【0053】
本発明の第14の形態によれば、浮力調整工程により構造体自体の浮力を調整することができ、構造体の水中での中性浮力状態の実現に資することができる。また、この形態によれば、浮力調整工程がなければ当該中性浮力状態を実現するために必要であるはずの錘及び/又は浮力体の個数を減らすこと、ひいてはそれらの構造体への取り付け作業の労力を減らすこと、つまりは第2の工程の負荷を減らすことができる。第2の工程を軽減できることは、実作業においては特に有益である。
【0054】
本発明の第15の形態によれば、水中構造物の近くに搬送した構造体を中性浮力状態のまま当該水中構造物の側に引き込むので、その引き込みに必要な力は小さくて済み、水中構造物の特定位置(特に構造体の取付位置)への当該構造体の誘導作業の労力を減らすことができる。
【0055】
なお、構造体の中性浮力状態の解除の速度が小さく、中性浮力状態が徐々に解除して行く場合には、急激に解除する場合に比べて、構造体は急激な位置変動を起こし難い。一方、浮力調整装置を用いて浮力調整を行う場合には、構造体の内部に対する給気、排気、給水及び排水の少なくとも一つを行うので、制御し易く、構造体の中性浮力状態の解除の速度を小さく設定することも容易である。それ故、本発明の第15の形態において、浮力調整装置を用いて浮力調整を行い、構造体の中性浮力状態を徐々に解除する場合には、構造体の急激な位置変動を起こり難くすることができ、ひいては作業者(特に潜水作業者)は、構造体を使用する水中構造物の建設工事又は補強工事をより安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る水中構造物用構造体の水中配置構造の原理説明図である。
【図2】浮力調整装置の構成例の説明図である。
【図3】本発明の水中構造物用構造体の水中配置構造の第1の実施例の正面図である。
【図4】本発明の水中構造物用構造体の水中配置構造の第1の実施例の平面図である。
【図5】第1の実施例における浮力体の一例の正面図である。
【図6】第1の実施例における浮力体の一例の平面図である。
【図7】本発明の水中構造物用構造体の水中配置構造の第2の実施例の正面図である。
【図8】本発明の水中構造物用構造体の水中配置構造の第2の実施例の平面図である。
【図9】本発明の水中構造物用構造体の水中配置構造の第3の実施例の正面図である。
【図10】本発明の水中構造物用構造体の水中配置構造の第4の実施例の正面図である。
【図11】水中構造物用構造体の水中配置構造の第5の実施例(変形前)の正面図である。
【図12】水中構造物用構造体の水中配置構造の第5の実施例(変形前)の平面図である。
【図13】水中構造物用構造体の水中配置構造の第5の実施例(変形後)の正面図である。
【図14】水中構造物用構造体の水中配置構造の第5の実施例(変形後)の平面図である。
【図15】水中構造物用構造体の水中配置構造の第6の実施例(変形前)の正面図である。
【図16】水中構造物用構造体の水中配置構造の第6の実施例(変形前)の平面図である。
【図17】水中構造物用構造体の水中配置構造の第6の実施例(変形後)の正面図である。
【図18】水中構造物用構造体の水中配置構造の第6の実施例(変形後)の平面図である。
【図19】水中構造物用構造体の水中搬送方法の工程S1?S5の説明図である。
【図20】水中構造物を構成する柱の説明図である。
【図21】水中構造物用構造体の水中搬送方法の工程S5の説明図である。
【図22】水中構造物用構造体の水中搬送方法の工程S6の説明図である。
【図23】水中構造物用構造体の水中搬送方法の工程S7の説明図である。
【図24】水中構造物用構造体の水中搬送方法の工程S8の説明図である。
【図25】水中構造物用構造体の水中搬送方法の工程S9の説明図である。
【図26】水中構造物用構造体の水中搬送方法の工程S10の説明図である。
【図27】水中構造物用構造体の他の水中搬送方法の説明図である。
【図28】特許文献1に記載の水中構造物用構造体の水中配置構造の説明図であり、(a)は、側面図、(b)は、平面図である。
【図29】特許文献2に記載の水中構造物用構造体の水中配置構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明の実施形態又は実施例を示し、本発明を詳細に説明する。その際、必要に応じて図表を参照しつつ説明するが、各図表において同じ部分又は相当する若しくは共通する部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。いうまでもなく、本発明は、図面に記載された実施の形態や実施例に限定されるものではない。
【0058】
<水中構造物用構造体の水中配置構造の基本コンセプト>
図1は、本発明に係る水中構造物用構造体の水中配置構造の原理説明図である。
【0059】
(1)水中配置構造1では、水中構造物(図示せず)の一部又は全部を構成又は補強するための構造体10が水中で中性浮力状態におかれる。そのため、構造体10は、水面L近くに浮かぶでもなく、浮力体20により水中で吊り下げられるでもなく、水面Lに向かって浮上することもなく、水底BWW(図示せず)に向かって沈降することもない。そのため、構造体10に対し、水中姿勢の調整を初めとする水中搬送の準備作業のみならず、水中搬送作業自体も行い易くなる。構造体10が比較的小型であれば、構造体10の水中搬送を潜水作業者の人力で行うことも可能である。それ故、総じて水中搬送の作業が円滑化し、作業効率が向上し、安全になる。このことは、水中搬送又はその準備を行う際、作業者による水中作業が必要になるケースにおいて、作業者の潜水作業時間の短縮や身体的負担の軽減を実現することができるという点において、特に有益である。
【0060】
(2)構造体10の水中での中性浮力状態は、構造体10に作用する二つの力、つまり構造体10を水中から水面Lに向かって浮上させる力(浮上力F)と、水面Lから水中又は水底BW(図示せず)に向かって沈降させる力(沈降力G)とを等しく(F=Gにする)又は実質的に等しくする(実質的にF=Gにする)ことにより実現する。
【0061】
浮上力Fは、多くの場合、構造体10に直接又は間接的に作用する浮力及びその他の鉛直上方の力の合計である。構造体10に直接作用する浮力の代表例は、構造体それ自体に由来する浮力であり、構造体10に間接的に作用する浮力の代表例は、構造体10に取り付けた少なくとも一つの浮力体に作用する浮力である。構造体10の内部に閉じ込められている気体に起因して構造体10に作用する浮力は、見方により、構造体10に直接作用する浮力にも間接的に作用する浮力にも該当する。クレーンなどの搬送機械その他の牽引手段による上方への牽引力や(上昇水流が存在するのであれば)構造体10に作用する上昇水流の力は、その他の鉛直上方の力に該当する。
【0062】
沈降力Gは、多くの場合、構造体10に直接又は間接的に作用する重力ならびにその他の鉛直下方の力の合計である。構造体10に直接作用する重力の代表例は、構造体10の自重応分の重力であり、構造体10に間接的に作用する重力の代表例は、構造体10に取り付けた少なくとも一つの錘に作用する重力である。構造体10に取り付けられた錨が水底BW(図示せず)に噛み込むことで生じる把駐力や(降下水流が存在するのであれば)構造体10に作用する降下潮流の力は、その他の鉛直下方の力に該当する。
【0063】
なお、理屈のうえでは、構造体10に取付部材により取り付けた錘、錨ほか及び当該取付部材自体のそれぞれに作用する浮力も浮上力Fを構成し得るが、浮上力Fへの現実的寄与は小さく、構造体10に取付部材により取り付けた浮力体に作用する重力や当該取付部材自体に作用する重力なども沈降力Gを構成し得るが、沈降力Gへの現実的寄与は小さい。
【0064】
(3)全体が水没(全没)しているときに作用する浮力がより小さい浮力体をより小型の浮力体といい、その逆の浮力体をより大型の浮力体をいうとすると、浮力体がより大型であるほど、浮力体1個に作用する浮力は大きくなるので、より少ない数で必要な浮上力Fに近い浮力を確保できる反面、浮上力Fに等しい又は近い浮力に調整することが難しくなる。浮上力Fを確保するために浮力体を一つ余計に構造体10に取り付けると、それにより生じる浮力の超過分も大きくなるので、当該超過分を打ち消すためにより多くの又はより大きな重量の錘を構造体10に取り付けなければならなくなり、構造体10の水中搬送作業やその準備作業の効率が低下する。
【0065】
(4)他方、浮力体がより小型であるほど、浮力体一個に作用する浮力は小さくなるので、必要な浮上力Fに等しい又は近い浮力に調整することが容易になる反面、より多くの数の浮力体を用意しなければならなくなる。ただし、浮上力Fを確保するために浮力体を一つ余計に構造体10に取り付けた場合であっても、それにより生じる浮力の超過分はそれほど大きくはならないので、当該超過分を打ち消すためにより多くの又はより大きな重量の錘を構造体10に取り付ける必要はなくなる。
【0066】
それ故、より大型の浮力体とより小型の浮力体とを組み合わせて構造体に取り付け、前者により浮上力Fに近い浮力を確保し、後者により当該浮上力Fに等しい又はより近い浮力に調整する。この浮力体の組み合わせによれば、所望の浮上力Fへの設定を容易に行うことができ、沈降力Gを当該浮上力Fに等しく又は実質的に等しく設定するために必要な錘をより少なく又はより小さな重量のもので済ませることができるので、構造体の水中搬送作業やその準備作業の効率の低下を避けることができる。
【0067】
(5)大型の浮力体とより小型の浮力体とを組み合わせて構造体に取り付けると、互いに隣接する大型の浮力体の間により小型の浮力体が配置することができるので、平面視したとき、水面Lにおける浮力体の群が全体として嵩張らず、コンパクトになる。
【0068】
また、より小型の浮力体の全体を水没させるように配置すると、大型の浮力体の下部に当該より小型の浮力体を配置させることができるので、浮力体の群の立体配置は全体として嵩張らず、コンパクトになる。これらの場合、浮力体の群と構造体の周囲に存在する物体との接触が起こり難くなるので、構造体10の水中搬送やその準備を円滑に行うことができ、作業の効率と安全性を高めることできる。
【0069】
(6)構造体10と浮力体との間の距離(取付深さ)を調整するための調整手段を具備している場合、調整手段により浮力体の取付深さを変えると、浮力体が全没に至るまでは、浮力体と構造体10との間の距離が変化すると浮上力Fも多少変化する。その変化の程度は、構造体10に取り付けられた浮力体の数、調整手段により取付深さを変更した浮力体の数等によっても変化する。また、構造体10に複数個の浮力体が取り付けられている場合、特定の浮力体の取付深さのみをその調整手段により変更すると、取付深さを変更しなかったその他の浮力体との個数差、各浮力体の取付位置等との関係に応じて構造体10の水中姿勢が微妙に変化する。
【0070】
それ故、調整手段により浮力体の取付深さを変更することにより、浮上力Fを微調整することができ、所望の浮上力Fへの設定、ひいては沈降力Gとのバランスによる水中での中性浮力状態の設定をより正確に行うことができる。また、調整手段により構造体10の水中姿勢を微調整することができるので、構造体10の水中搬送やその準備をより円滑に行うことができ、作業の効率と安全性をより高めることできる。
【0071】
調整手段による構造体10の水中姿勢の微調整は、構造体10の水中姿勢をより厳密に整える必要がある場合に、特に有益である。
【0072】
総じて、浮上力Fを沈降力Gとバランスさせる場合には、浮上力Fの主たる部分をより大型の浮力体により設定し、残部の大部分をより小型の浮力体により設定し、さらなる残部を調整手段により微調整することで、構造体10の水中における中性浮力状態の設定・維持するのが合理的であり、好ましい。また、構造物10の水中姿勢を調整する場合には、浮上力Fの主たる部分を担う大型の浮力体及び残部の大部分を担う小型の浮力体の個数、取付位置等を適正に設定し(たとえば、構造体10の重量分布が均一であれば、鉛直上方から水面Lに向かって眺めた平面視において図3に示すように、大型及び小型の浮力体をできるだけ対称になるように配置し)、そのうえで調整手段により当該水中姿勢を微調整するのが合理的であり、好ましい。
【0073】
なお、大型、中型及び小型の浮力体を用いて構造体10の水中搬送を行う場合には、浮上力Fの主たる部分をより大型の浮力体により設定し、残部の大部分を中型の浮力体により、更に残部を小型の浮力体により設定し、さらなる残部を調整手段により微調整することで、構造体10の水中における中性浮力状態の設定・維持するのがより好ましい。また、構造物10の水中姿勢を調整する場合には、浮上力Fの主たる部分を担う大型、中型及び小型の浮力体の個数、取付位置等を適正に設定し、そのうえで調整手段により当該水中姿勢を微調整するのがより好ましい。
【0074】
(7)浮力調整装置90は、構造体10の内部に対する給水、排水、給気及び排気のうち少なくとも一つを行うことにより構造体10に作用する浮力を調整する装置である。浮力調整装置90は、たとえば、構造体10の内部に対して能動的に給水することにより当該内部から受動的に排気する又は当該内部から能動的に排気することにより当該内部へ受動的に給水する機能、当該内部に対して能動的に給気することにより当該内部から受動的に排水する又は当該内部から能動的に排水することにより当該内部へ受動的に給気する機能あるいはそれらの両機能を有する装置であり、それらの機能を果たすために必要な範囲で給水機構、排水機構、給気機構及び排水機構のうち少なくとも一つを具備する装置である。
【0075】
浮力調整装置によれば、構造体10に作用する浮力の変動を通じて、浮上力Fや浮上力Fと沈降力Gのバランスを調整することにより、構造体10の水中での中性浮力状態や望ましい水中姿勢の実現に資することができる。しかも、浮力調整装置90により構造体10に作用する浮力を増やすと、浮浮上力Fが相対的に増加する分だけ、浮力体を小型(浮力がより小さいもの)にでき、浮力体の取付数が多いケースではその取付数を低減することもできる。また、浮力調整装置90により構造体10に作用する浮力を減らすと、沈降力Gが相対的
に増加する分だけ、錘を小型(重量がより小さいもの)にすることができ、錘の取付数が多いケースではその取付数を低減できる場合もある。それ故で、浮力調整装置は、浮力体や錘の取付作業の負荷(特に潜水作業者の負荷)の軽減に資する。
【0076】
(8)構造体10の内部空間の形状、個数、分布等は、構造体10に作用する浮力、ひいては浮上力Fの大きさや分布、ひいては構造体10の水中姿勢に影響する。その影響ならびに構造体10の設計段階で既知であり構造体10に作用する浮力、ひいては浮上力Fの大きさや分布が予測可能であることに着目して、浮力調整装置による当該内部空間に対する給水、排水、給気及び排気のうち少なくとも一つの調整を積極的に利用すると、構造体10の水中姿勢を調整することができる。
【0077】
<水中構造物用構造体の水中配置構造の例>
(概 説)
水中構造物用構造体の水中配置構造1は、構造体10と一つ又は複数個の浮力体20を具備している。
【0078】
浮力体20は、取付部材30を用いてを構造体10に取り付ける。その場合、浮力体20の取付深さを調整するための調整手段40を取付部材30に取り付けてもよい。
【0079】
水中配置構造1は、一つ又は複数個の錘50及び/又は構造体10に作用する浮力を調整するための浮力調整装置90を具備していてもよい。錘50は、構造体10に直接又は取付部材60を用いて取り付ける。
【0080】
錘50は、錨80であってもよい。その場合、錘50を錨80として水底に着床させるための錨揚降装置70を取付部材60に取り付けてもよい。
【0081】
構造体10は、複数個の区画部に分かれていてもよい。たとえば、隣接する区画部がヒンジ機構を介して連結していてもよい。その場合、ヒンジ機構の回転軸が略鉛直方向になるように水中姿勢を調整する。
【0082】
(浮力調整装置)
図2は、浮力調整装置90の構成例の説明図である。
【0083】
浮力調整装置90は、構造体10の内部に対する給水、排水、給気及び排気のうち少なくとも一つを行うことにより、構造体10に作用する浮力を調整する装置である。ここで、構造体10の内部とは、具体的は、構造体10又は構造体10を構成する任意の区画部10Xの外殻に
より画される内部空間91を意味する。内部空間91は、構造体10又は構造体10を構成する区画部10Xの外殻により画される空間そのものであってもよく、構造体10の内部に取り付け
た気体及び/又は液体を収容するための一つ又は複数個の袋や容器であってもよい。
【0084】
図2中、浮力調整装置90は、内部空間91とその外部とを連通する配管901,903と、当該外部の配管901,903のそれぞれに開閉バルブ902,904を具備している。
【0085】
当初、内部空間91が気体で満ちている場合には、浮力調整装置90において、二つの開閉バルブ902,904を開に設定し、原則として、配管901,903の一方を通じて外部から内部空間91へ水を流入させるとともに配管901,903の他方を通じて内部空間91から外部へ気体を流出させる。それにより、所望の量の水を内部空間91に導入し、その導入を終えた後、二つの開閉バルブ902,904を閉にする。なお、内部空間91に水を流入させる場合、その流入の駆動力は静水圧であっても、ポンプを用いた強制力であってもよく、同時に起こる内部空間91からの気体の流出は、内部空間91に流入する水に押し出されることにより起こる流出であっても、ポンプを用いた強制力により助勢された外部への流出であってもよい。
【0086】
上記の操作によれば、内部空間91に満ちていた気体を水に置き換えることができるので、構造体10に作用する浮力、ひいては沈降力Gに対する浮上力Fを増加させることができる。
【0087】
当初、内部空間91が水で満ちている場合には、浮力調整装置90において、二つの開閉バルブ902,904を開に設定し、配管901,903の一方を通じて外部から内部空間91へ気体を流入させ、配管901,903の他方を通じて内部空間91から外部へ水を流出させる。それにより、所望の量の気体を内部空間91に導入し、その導入を終えた後、二つの開閉バルブ902,904を閉にする。なお、内部空間91に気体を流入させる場合、その流入は、ポンプを用いた強制力による気体の注入であれば足り、同時に起こる内部空間91からの水の流出は、内部空間91に流入する気体に押し出されることにより起こる流出であっても、ポンプを用いた強制力により助勢された外部への流出であってもよい。そのポンプの設置場所については特に制限はなく、陸上に設置しても、水中に設置してもよい。
【0088】
上記の操作によれば、内部空間91に満ちていた水を気体に置き換えることができるので、構造体10に作用する浮力、ひいては沈降力Gに対する浮上力Fを減少させることができる。
【0089】
それ故、上記二つの操作のいずれか一方又は両方の組み合わせによれば、水中の構造体10に作用する浮上力Fと沈降力Gとの絶対値の差がより小さくなるように、それら二つの力を調整することができる。
【0090】
上力Fと沈降力Gとを調整する役割を終えた後(たとえば、構造体10を水中で中性浮力状態におく作業が完了した後、構造体10を目的場所まで水中搬送する作業が完了した後、その目的場所で構造体10を水中構造物に設置する作業が完了した後)の浮力調整装置90については、他に支障がない限り、これを、取り外すことなく放置してもよく、少なくとも一部を当初の設置場所から除去してもよい。たとえば、配管901,903を気密又は水密に閉塞させたうえで不要部分を切除してもよく、その際、開閉バルブ902,904を残してもよく、一緒に除去してもよい。
【0091】
(第1の実施例)
図3は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第1の実施例の正面図である。図4は、図3に示した第1の実施例の平面図である。ここで、平面図とは、鉛直上方から水面Lに向かって眺めた図を意味する(以下同様)。
【0092】
第1の実施例に係る水中配置構造1は、図3に示すように、構造体10と、複数個の浮力体20a,20bと、構造体10と複数個の浮力体20a,20bとを連結するが取付部材30a,30bとを具備し、図4に示すとおり、図3の紙面奥側にも、浮力体20a,20bと、取付部材30a,30bと、調整手段40a,40bと並列的に、浮力体21a,21bと、構造体10と浮力体21a,21bとを連結する取付部材31a,31bと、構造体10と浮力体21a,21bとの間の距離を調整する調整手段41a,41bとを具備しており、複数個ある浮力体20a,20b,21a,21bはすべて、取付部材30a,30b,31a,31b及び調整手段40a,40b,41a,41bとともに全没、つまり全体が水面L以下に沈んでいる。この状態で、構造体10に作用する浮上力Fと沈降力GとはF=G又は実質的にF=Gの関係に設定されているので、構造体10は、水中で中性浮力状態に置かれる。そのため、第1の実施例に係る水中配置構造1は、本発明の各形態に係る水中配置構造が奏する共通する効果、つまり本発明の第1の形態の効果を奏する。
【0093】
なお、複数個ある浮力体の少なくとも一つは、複数個の浮力体の束で一体的に構成される浮力体であってもよい。たとえば、第1の実施例に係る水中配置構造1では、浮力体20a,20b,21a,21bのそれぞれは、図5及び図6に示すように、三つの浮力体20[1],20[2],20[3]と、これら三つの浮力体20[1],20[2],20[3]を概ね等しい三つの区分に配置させる位置決め部材20[4]と、位置決め部材20[4]により位置決めされた三つの浮力体20[1],20[2],20[3]をそれらの外周から拘束することで一体化する拘束部材20[5]とを具備している。そして、三つの浮力体20[1],20[2],20[3]は、それぞれの下部に設けたワイヤーロープ201[1],201[2],201[3]を介して連結リング20[6]に連結してある。なお、拘束部材20[5]により浮力体20[1],20[2],20[3]を拘束するだけで、そらら三つの浮力体が一体化し一つの浮力体のように挙動するのであれば、位置決め部材20[4]は省略できる。
【0094】
浮力体の少なくとも一つを複数の浮力体の束で構成してあれば、その場での作業により浮上力Fを変更できるというメリットがある。特に、連結リンク20[6]を採用すれば、その場での浮力体の増減が容易になり、場合によっては、位置決め部材20[4]や拘束部材20[5]の省略も可能になるので、現地作業(特にその場作業)の効率化に多いに役立つ。
【0095】
また、構造体10に作用する浮上力Fと沈降力Gは計算である程度正確に求めることができるが、現実には、計算どおりにはならない場合もある。また、浮力体20(20a,20b,21a,21b)及び調整手段40(40a,40b,41a,41b)のみでは、構造体1を水中で中性浮力状態に設定するのに時間を要して作業効率が低下する場合もある。そのような場合には、必要に応じて錘50及び/又は既述の浮力調整装置90を追加し、構造体10に作用する浮上力Fと沈降力Gとのバランスをとることで、F=G又は実質的にF=Gの状態にして、構造体1を水中で中性浮力状態に設定してもよい。
【0096】
以下の実施例においては、複数個の浮力体は、それらが一つの束となって一体的に構成され、あたかも一つの浮力体として挙動するものである限り、一つの浮力体とみなす。
【0097】
(第2の実施例)
図7は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第2の実施例の正面図である。図8は、図7に示した第2の実施例の平面図である。
【0098】
第2の実施例に係る水中配置構造1は、図7に示すように、構造体10と、複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20yと、構造体10と複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20yとを連結するが取付部材30a,30b,30c,30x,30yと、複数個の浮力体20a,20b,20cの構造体10との距離(取付深さ)を調整する調整手段40a,40b,40cとを具備し、図8に示すとおり、図7の紙面奥側にも、複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20y、取付部材30a,30b,30c,30x,30y及び調整手段40a,40b,40cとそれぞれ並列的に、浮力体21a,21b,21c,21x,21y、構造体10と浮力体21a,21b,21c,21x,21yとを連結する取付部材31a,31b,31c,31x,31y及び浮力体21a,21b,21cの取付深さを調整する調整手段41a,41b,41cを具備している。
【0099】
複数個ある浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yはすべて、取付部材30a,30b,30c,30x,30y,31a,31b,31c,31x,31y及び調整手段40a,40b,40c,41a,41b,41cとともに全没している。この状態で、構造体10に作用する浮上力Fと沈降力GとはF=G又は実質的にF=Gの関係に設定されているので、構造体10は、水中で中性浮力状態に置かれる。そのため、第2の実施例に係る水中配置構造1は、本発明の第1の形態の効果を奏する。
【0100】
第2の実施例に係る水中配置構造1では、複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yのうち少なくとも一つが構造体10とともに全体が水没しているので、実際の水面L又は水面L近くの変動の悪影響が全ての浮力体には及ばない。それ故、構造体10の水中姿勢が不安定になり難い。
【0101】
今、構造体10がすべての浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yとともに水面L以下に全没しているとき、水中に、水面Lと平行又は略平行な水平面L*(以下「仮想水面L*」という)を考える。すると、第2の実施例に係る水中配置構造1では、浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cのうち少なくとも一つの頂部が仮想水面L*と同水準にあるとき、浮力体20x,20y,21x,21yは、それぞれ、全体が仮想水面L*より下に配置する関係にある。そのため、浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cのうち少なくとも一つが実際の水面L近くに配置し、水面L又は水面L近くの変動(例えば波浪)の悪影響を受け易くなる状況になっても、つまり実際の水面Lと仮想水面L*との距離が小さい場合であっても、その他の浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yへの悪影響、とりわけ浮力体20x,20y,21x,21yへの悪影響は少なく、従って構造体10は不安定になり難い。
【0102】
また、調整手段40a,40b,40c,41a,41b,41cを用いれば、浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cのそれぞれの取付深さを調整することができ、それにより、構造体10の水中姿勢を、たとえば次のように調整することができる。
【0103】
(ア)調整手段40aにより取付部材30aを短くする、つまり浮力体20aと構造体10との間の距離(浮力体20aの取付深さ)を小さくすることにより、構造体10を相対的に浮力体20cの側に傾斜させる。
【0104】
(イ)調整手段40cにより取付部材30cを短くする、つまり浮力体20cと構造体10との間の距離(浮力体20cの取付深さ)を小さくすることにより、構造体10を相対的に浮力体20aの側に傾斜させる。
【0105】
(ウ)調整手段40bにより取付部材30bを短くする、つまり浮力体20bと構造体10との間の距離(浮力体20bの取付深さ)を小さくすることにより、構造体10の上記(ア)又は上
記(イ)の場合の傾斜を支え、安定化させる。
【0106】
(エ)上記(ア)乃至(ウ)の組み合わせにより、構造体10の長手方向を水平(又は仮想水面L*と平行)にしたり、傾斜(又は仮想水面L*と非平行に)させる。
【0107】
(オ)調整手段41aにより浮力体21aの取付深さを小さくすることにより、構造体10の主面10Pを相対的に浮力体20a,20b又は20c(特に対角線側の20c)の側に傾斜させる。
【0108】
(カ)調整手段41cにより浮力体21cの取付深さを小さくすることにより、構造体10の主面10Pを相対的に浮力体20c,20b又は20a(特に対角線側の20a)の側に傾斜させる。
【0109】
(キ)調整手段41bにより浮力体21bの取付深さを小さくすることにより、構造体10の主面10Pの上記(オ)又は上記(ウ)の場合の傾斜を支え、安定化させる。
【0110】
(ク)上記(オ)乃至(キ)の組み合わせにより、構造体10の主面10Pを水平面(又は仮想水面L*)と平行になる又は交差するように配置させる。
【0111】
上記(ア)乃至(エ)あるいは上記(オ)乃至(ク)の組み合わせにより、構造体10の水中姿勢を調整することができ、たとえば構造体10の水中姿勢を一定に保つ(たとえばその長手方向を水平に保つ)こともできる。勿論、水中で中性浮力状態にある構造物10の水中姿勢の調節もできる。それ故、水中配置構造1は、構造体10の水中搬送の現地作業の効率化や安全性向上に資する。
【0112】
総じて、第2の実施例に係る水中配置構造1は、本発明の第2の形態の効果を奏する。
【0113】
なお、浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cのうち少なくとも一つの頂部が仮想水面L*と同水準にあるとき、浮力体20x,20y,21x,21yが、それぞれ全体が仮想水面L*より下に配置するような関係においては、浮力体20x,20y,21x,21yは、浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cよりも小型又は体積が小さいことが望ましい。その場合、浮力体20x,20y,21x,21yは、より大型の又は体積がより大きい浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cの間又は下方に嵌まり込む又は隙間に入り込むので、嵩張らず、それにより複数個の浮力体全体の構造が安定化し、全体としてコンパクトでありながら十分に大きな浮力を確保することができるからである。この効果は、構造体10の水中搬送の現地作業の難度を低下させ、安全性を向上させるものゆえ、有益である。
【0114】
構造体10には、必要な数又は必要な総重量の錘を必要な取付場所に取り付けてもよい。それにより、本発明の第3の形態が奏する効果を得ることができる。たとえば、錘を追加すれば、構造体10に作用する沈降力Gとその分布又はそのバランスを変動させることができるので、構造体10の水中での中性浮力状態の実現や好適な水中姿勢の設定、調整、維持等の自由度の向上に役立つ。
【0115】
構造体10には、浮力調整装置90を取り付けてもよい。それにより本発明の第6の形態が奏する効果を得ることができる。浮力調整装置90により構造体10が具備する区画部10Zにある内部空間91Zに対して給水、排水、給気及び排気のうち少なくとも一つを行い、構造体10に作用する浮力を変動させれば、たとえば、構造体10の水中での中性浮力状態の実現や好適な水中姿勢の設定、調整、維持等の自由度が高めることができるので、その中性浮力状態の実現するための作業や水中姿勢の設定、調整、維持等するための作業が容易になる。
【0116】
複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21y間の相互接触や複数個の取付部材30a,30b,30c,30x,30y,31a,31b,31c,31x,31y間の絡まりを避けることが望ましい場合には、その接触や絡まりを阻止するための邪魔部材(図示せず)を設けてもよく、互いに近くにある浮力体の個々の移動の範囲を狭めることが望ましい場合には、その移動を緩く規制するための移動制限部材(図示せず)を設けてもよい。このことは、その他の実施例においても同様である。
【0117】
(第3の実施例)
図9は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第3の実施例の正面図である。
【0118】
第3の実施例に係る水中配置構造1は、図9に示すように、構造体10と、複数個の浮力体20a,20B,20c,20x,20yと、構造体10と複数個の浮力体20a,20B,20c,20x,20yとを連結するが取付部材30a,30B,30c,30x,30yと、複数個の浮力体20a,20B,20cの構造体10との距離(取付深さ)を調整する調整手段40a,40B,40cとを具備している。
【0119】
また、第3の実施例に係る水中配置構造1は、複数個の浮力体20a,20B,20c,20x,20y、取付部材30a,30B,30c,30x,30y及び調整手段40a,40B,40cとそれぞれ並列的に、図9に図示していない、浮力体21a,21B,21c,21x,21y、構造体10と浮力体21a,21B,21c,21x,21yとを連結する取付部材31a,31B,31c,31x,31y及び浮力体21a,21B,20Cの取付深さを調整する調整手段41a,41B,41cを具備している。
【0120】
なお、浮力体が生み出す浮力の大きさ(多くの場合、浮力体の体積)は、浮力体20B,21Bが最も大きく、浮力体20x,20y,21x,21yが最も小さく、残りの浮力体20a,20c,21a,21cが中間の大きさである。
【0121】
複数個ある浮力体20a,20B,20c,20x,20y,21a,21B,21c,21x,21yはすべて、取付部材30a,30B,30c,30x,30y,31a,31B,31c,31x,31y及び調整手段40a,40B,40c,41a,41b,41cとともに全没している。この状態で、構造体10に作用する浮上力Fと沈降力GとはF=G又は実質的にF=Gの関係に設定されているので、構造体10は、水中で中性浮力状態に置かれる。そのため、第2の実施例に係る水中配置構造1は、本発明の第1の形態の効果を奏する。
【0122】
第3の実施例に係る水中配置構造1では、複数個の浮力体20a,20B,20c,20x,20y,21a,21B,21c,21x,21yのうち少なくとも一つが構造体10とともに全体が水没しているので、その全没している浮力体には(従って全ての浮力体)には、実際の水面L又は水面L近くの変動の悪影響が及ばない。それ故、構造体10の水中姿勢が不安定になり難い。
【0123】
浮力体20a,20B,20c,21a,21B,21cのうち少なくとも一つ(つまり浮力体20B,21B)の頂部が仮想水面L*と同水準にあるとき、浮力体20x,20y,21x,21yは、それぞれ、全体が仮想水面L*より下に配置する関係にある。そのため、第3の実施例に係る水中配置構造1は、第2の実施例の場合と同様、実際の水面L又は水面L近くの変動(例えば波浪)の悪影響が浮力体20B,21B以外の浮力体、とりわけ浮力体20x,20y,21x,21yに及びにくくなり、構造体10は不安定になり難い。
【0124】
また、調整手段40a,40B,40c,41a,41B,41cを用いれば、浮力体20a,20B,20c,21a,21B,21cのそれぞれの取付深さを調整することができるので、第2の実施例の場合と同様、構造体10の水中姿勢を調整することができ、たとえば水中姿勢を一定に保つことができる。
【0125】
それ故、第3の実施例に係る水中配置構造1は、第2の実施例の場合と同様、本発明の第2の形態の効果を奏する。
【0126】
第3の実施例に係る水中配置構造1では、区画部10Cに錘50が取り付けてある。錘50は、構造体10に作用する沈降力Gを増加させるので、本発明の第3の効果を得ることができる。
【0127】
なお、図9では、構造体10に取り付けてある錘50は一つだけであるが、必要な数又は必要な総重量の錘を必要な取付場所に取り付けることにより、構造体10に作用する浮上力Fとその分布又はそのバランスを変動させてもよい。
【0128】
第3の実施例に係る水中配置構造1では、構造体10は、両端側の二つの区画部10A,10Bとそれ以外の区画部10Cの合計三つの区画部を備えており、当該三つの区画部のそれぞれは互いに不可動である。
【0129】
区画部10A,10Bには、それぞれ、浮力調整装置90A,90Bが取り付けてある。浮力調整装置90A,90Bは、それぞれ、区画部10A,10Bが備える内部空間91A,91Bに対して給水、排水、給気及び排気のうち少なくとも一つを行い、構造体10に作用する浮力とその分布又はバランス、ひいては構造体10に作用する浮上力Fとその分布又はそのバランスを変動させる。
【0130】
たとえば、浮力調整装置90A,90Bにより、水が充填されている内部空間91A,91Bの両方に気体を供給し、そこから既存の水を排出させると、区画部10A,10Bに作用する浮力を増やすことができ、構造体10の水中における中性浮力状態を作り出すために必要な浮上力Fを作り出すことができる。このことは、当該浮上力Fを作り出すために本来必要であるはずの浮力体の数を減らすことができることを意味している。
【0131】
逆に、浮力調整装置90A,90Bにより、気体が充満している内部空間91A,91Bの両方に水を供給し、既存の気体を排出させると、区画部10A,10Bに作用する浮力を減少させることができ、構造体10の水中における中性浮力状態を作り出すために必要な沈降力Gを作り出すことができる。このことは、当該沈降力Gを作り出すために本来必要であるはずの錘の数を減らすことができることを意味している。
【0132】
また、たとえば、内部空間91Aの容積と内部空間91Bの容積が仮に同じで、当初水が充填されていたとすると、内部空間91Aにより多くの気体を供給し、そこからより多くの既存水を排出させることにより、区画部10Aに作用する浮力の方を、区画部10Bに作用する浮力よりも大きくすることができ、それにより、構造体10を、区画部10Aの側から区画部10Bの側に傾斜させることができる。
【0133】
従って、第3の実施例に係る水中配置構造1は、第2の実施例の場合と同様、本発明の第6の形態の効果を奏する。
【0134】
浮力体の体積は、浮力体20x,20y,21x,21yが最も小さい。また、浮力体20a,20B,20c,21a,21B,21cのうち少なくとも一つ(図9では浮力体20B,21B)の頂部が仮想水面L*と同水準にあるとき、浮力体20x,20y,21x,21yは、それぞれ全体が仮想水面L*より下に配置する関係にある。このような浮力体20x,20y,21x,21yは、より大型の(体積がより大きい)浮力体20a,20B,20c,21a,21B,21cの間又は下方に嵌まり込む又は隙間に入り込むので、複数個の浮力体全体を嵩張らず、コンパクトにし、構造的に安定にする。それ故、第3の実施例に係る水中配置構造1によれば、構造体10の水中搬送の現地作業の難度を低下させ、安全性を向上させることができる。
【0135】
なお、構造体10が水中で中性浮力状態にあるため、水没している構造体10の所在が不明になるおそれがある場合には、目印を取り付ける。たとえば、図9に示すように、浮力体である目印用部材mを、水面Lから大気中に露出するように、取付部材60mを介して浮力体20c、ひいては構造体10に緩く(長さに余裕を与えて)取り付けて、構造体10とともに移動するようにし、構造体10の水中搬送を行う作業者又はその周囲の者が構造体10の存在場所を直感できるようにする。
【0136】
(第4の実施例)
図10は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第4の実施例の正面図である。
【0137】
第4の実施例に係る水中配置構造1は、図10に示すように、構造体10と、複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20yと、構造体10と複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20yとを連結するが取付部材30a,30b,30c,30x,30yと、複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20yの取付深さを調整する調整手段40a,40b,40c,40x,40yとを具備している。
【0138】
また、第3の実施例に係る水中配置構造1は、複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20y、取付部材30a,30b,30c,30x,30y及び調整手段40a,40b,40c,40x,40yとそれぞれ並列的に、図10に図示していない、浮力体21a,21b,21c,21x,21y、構造体10と浮力体21a,21b,21c,21x,21yとを連結する取付部材31a,31B,31c,31x,31y及び浮力体21a,21B,20Cの取付深さを調整する調整手段41a,41b,41c,41x,41yを具備している。
【0139】
なお、浮力体が生み出す浮力の大きさ(多くの場合、浮力体の体積)は、浮力体20x,20y,21x,21yが最も小さい。残りの浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cは概ね同じ大きさである。
【0140】
第4の実施例に係る水中配置構造1は、更に、複数個の錘50a,50b,50xと、複数個の錘50a,50b,50xと構造体10とを連結する取付部材60a,60b,60xとを備えている。
【0141】
複数個ある浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yはすべて、取付部材30a,30b,30c,30x,30y,31a,31b,31c,31x,31y及び調整手段40a,40b,40c,40x,40y,41a,41b,41c,41x,41yとともに全没している。この状態で、構造体10に作用する浮上力Fと沈降力GとはF=G又は実質的にF=Gの関係に設定されているので、構造体10は、水中で中性浮力状態に置かれる。そのため、第4実施例に係る水中配置構造1は、本発明の第1の形態の効果を奏する。
【0142】
第4の実施例に係る水中配置構造1では、複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yのうち少なくとも一つが構造体10とともに全体が水没しているので、水面L又は水面L近くの変動の悪影響が全ての浮力体には及ばない。それ故、構造体10の水中姿勢が不安定になり難い。
【0143】
浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cのうち少なくとも一つの頂部が仮想水面L*と同水準にあるとき、浮力体20x,20y,21x,21yは、それぞれ、全体が仮想水面L*より下に配置する関係にある。そのため、第2又は第3の実施例の場合と同様、水面L又は水面L近くの変動(例えば波浪)の悪影響が浮力体20x,20y,21x,21yに及びにくくなり、構造体10は不安定になり難い。
【0144】
また、調整手段40a,40b,40c,40x,40y,41a,41b,41c,41x,41yを用いれば、浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yのそれぞれの取付深さを調整することができるので、第2又は第3の実施例の場合と同様、構造体10の水中姿勢を調整することができ、たとえば水中姿勢を一定に保つことができる。
【0145】
それ故、第3の実施例に係る水中配置構造1は、第2又は第3の実施例の場合と同様、本発明の第2の形態の効果を奏する。
【0146】
第4の実施例に係る水中配置構造1は、複数個の錘50a,50b,50xと、複数個の錘50a,50b,50xと構造体10とを連結する取付部材60a,60b,60xとを備えており、取付部材60xは、錘50xと構造体10との間の距離を調整するための錘揚降調整手段70xを具備している。錘揚降調整手段70xを用いると、錘50xを錨80として水底BW(図示せず)に着床させることができ、構造体10は錨80の拘駐力により水中に係留可能になる。それ故、第4の実施例に係る水中配置構造1によれば、本発明の第4の形態が奏する効果を得ることができる。
【0147】
なお、錘50xが錨80として水底BWに着床している場合、錘50xの分だけ構造体10に作用する沈降力Gが減少し、浮上力Fが相対的に増加し、構図体10が増加し、錘50xの着床を妨げる。そこで、構造体10の水中での中性浮力状態の成立と、錨80による係留を両立させるため、構造体10に取り付ける錘を追加する、構造体10に取り付けてある浮力体を減らす、浮力調整装置90を備える場合には、構造体に作用する浮力を減らすなどにより、F=G又は実質的にF=Gにして、錘50xが水底BWに着床しつつも構造体10が中性浮力状態の
ままとなる状況を維持する。
【0148】
構造体10を水中で中性浮力状態に設定する作業の際には、多くの場合、浮力体20、錘50等を取り付ける前の構造体10又はある程度の浮力体20、錘50等の取り付け(仮取り付けを含む)が済んでいる構造体10をクレーンなどの搬送機械を使用して水面Lの上側から水面L中へ移動させ、水中の適所に位置するように吊り上げたままにするので、構造体10が水底BW(図示せず)方向に落下する事故が起きないように、安全に配慮する必要がある。
【0149】
そこで、構造体10を水中で中性浮力状態にする作業の際、構造体10を水面Lの上側から水面L中へ移動させる直前又は直後に、長さに余裕がある取付部材60p,60qを用いて、十分大きな浮上力Fを生み出す特大の浮力体20p,20qを構造体10に緩く(取付部材60p,60qが弛むように)連結しておく。すると、万が一、構造体10の落下する事故が発生しても、特大の浮力体20p,20qが生み出す浮力により、構造体10の沈降を、水面Lから、概ね、取付部材60p,60qを鉛直方向に延伸させた位置で停止させることができる、あるいは、構造体10の沈降速度を小さくすることができるので、当該事後が発生したその場からの作業者が避難する時間的余裕を得ることができるので、総じて、当該事故やそれに付随する被害や事故の規模を最小限に抑えることができる。
【0150】
図10に描写されている、特大の浮力体20p,20qを取り付けたままの第4の実施例に係る水中配置構造1は、構造体10を水中で中性浮力状態に設定する作業の際、作業の安全のために構造体10に取り付けた特大の浮力体20p,20qを、作業完了も構造体10から取り外していない状態のものである。構造体10を水中で中性浮力状態に設定した後、構造体10を水中搬送する作業を行う場合には、その水中搬送作業の安全のために、特大の浮力体20p,20qを取り付けたままにするのが好ましい。
【0151】
なお、特大の浮力体20p,20qは、目印用部材mとしての役割も果たす。
【0152】
第4の実施例に係る水中配置構造1においては、浮力体20a,20b,20c,21a,21b,21cのうち少なくとも一つの頂部が仮想水面L*と同水準にあるとき、浮力体20x,20y,21x,21yは、仮想水面L*以下に沈む(全没する)配置関係にある。そのような配置関係を実現するには、たとえば、まず、水面L下に全没している構造体10を用意し、その後構造体10に取り付けた又は構造体10に予め取り付けておいた浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yを一旦水面Lに浮上させ、引き続き、調整手段40x,40y,41x,41yを用いて、浮力体20x,20y,21x,21yのみを水面L下に引き込み、そのときの浮力体20x,20y,21x,21yの取付深さを固定すればよい。すると、構造体10を水中で中性浮力状態に設定したとき、すべての浮力体20a,20b,20c,20x,20y,21a,21b,21c,21x,21yが全没している状態においても、浮力体20x,20y,21x,21yの頂点は、残りの浮力体のいずれの頂部よりも上方に位置することがないので、上記の配置関係を実現することができる。
【0153】
なお、水面L下に全没している構造体10を用意する作業を行う際には、その作業及び引き続く作業の安全のため、既述の浮力体20p,20qを構造体10に予め取り付けておくことが望ましい。
【0154】
調整手段40a,40b,40c,40x,40yのうち少なくとも一つにより、複数個の浮力体20a,20b,20c,20x,20yのうち少なくとも一つの取付深さを調整すると、構造体10に作用する浮上力Fの分布を調整することができる。また、少なくとも一つの錘50を取り付けると、その錘の重量、個数、設置位置等の設定を通じて構造体10に作用する沈降力Gやその分布を調整することができる。それ故、調整手段40x,40y及び/又は錘50を用いれば、構造体10の水中での中性浮力状態の実現や好適な水中姿勢の設定、調整、維持等の自由度が高まり、その作業が容易になる。これらの特長によれば水中で中性浮力状態にある構造体10の水中姿勢を調節することができるので、水中配置構造1は、構造体10の水中搬送の現地作業の効率化や安全性向上に資する。
【0155】
少なくとも一つの錘50については、これを直接又は適当な取付部材(図示せず)により構造体10に取り付ける。錘50の構造体10へ取付数や取付場所については、構造体10の水中における中性浮力状態が実現でき、且つ、その水中姿勢が安定するものである限り、特に制限はない。
【0156】
(第5の実施例)
図11は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第5の実施例(変形前)の正面図であり、図12は、その平面図である。図13は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第5の実施例(変形後)の正面図であり、図14は、その平面図である。
【0157】
第5の実施例に係る水中配置構造1は、ヒンジ機構10Hを介して隣接し連結する二つの区画部10A,10Bを具備する構造体10と、複数個の浮力体20a,20b,20c,20d,20x,20y,22A,22Bと、当該複数個の浮力体と構造体10とを連結する取付部材30a,30b,30c,30d,30x,30y,32A,32Bと、浮力体20a,20b,20c,20d,22A,22Bのうち少なくとも一つと構造体10との間の距離を調整するための調整手段40a,40b,40c,40d,42A,42Bと、複数個の錘50A,50Bと、構造体10と複数個の錘50A,50Bとを連結する取付部材60A,60B(図示せず)とを具備しており、複数個の浮力体20a,20d、取付部材30a,30d及び調整手段40a,40dとそれぞれ並列的に、浮力体21a,21d、構造体10と浮力体21a,21dとを連結する取付部材31a,31d及び浮力体21a,21dの取付深さを調整する調整手段41a,41dを具備している。区画部10Aには、浮力体20a,20b,21a,21d,20x,22A及び錘50Aが取り付けてあり、区画部10Bには、浮力体20c,20d,20y,21d,22B及び錘50Bが取り付けてある。
【0158】
区画部10Aのヒンジ機構10Hと連結している側とは反対側の端部又はその近くには、複数個の浮力体20a,22A,21aが取り付けてあり、当該端部の過度の沈降を防止している。区画部10Bについても同様であり、そのヒンジ機構10Hと連結している側とは反対側の端部又はその近くには、複数個の浮力体20d,22B,21dが取り付けてあり、当該端部の過度の沈降を防止している。
【0159】
なお、浮力体が生み出す浮力の大きさ(多くの場合、浮力体の体積)は、浮力体20x,20yが最も小さく、浮力体20b,20cが最も大きい。残りの浮力体20a,20d,21a,21d,22A,22Bは、いずれも中程度の大きさであり、且つ、互いに概ね同じ大きさである。
【0160】
複数個ある浮力体20a,20b,20c,20d,20x,20y,21a,21d,22A,22Bはすべて、取付部材30a,30b,30c,30d,30x,30y,31a,31d,32A,32B、調整手段40a,40b,40c,40d,41a,41d,42A,423B及び錘50A,50Bとともに全没している。この状態で、構造体10に作用する浮上力Fと沈降力GとはF=G又は実質的にF=Gの関係に設定されているので、構造体10は、水中で中性浮力状態に置かれる。そのため、第5実施例に係る水中配置構造1は、本発明の第1の形態の効果を奏する。
【0161】
第5の実施例に係る水中配置構造1では、複数個の浮力体20a,20b,20c,20d,20x,20y,21a,21d,22A,22Bのうち少なくとも一つが構造体10とともに全体が水没しているので、水面L又は水面L近くの変動の悪影響が全ての浮力体には及ばない。それ故、構造体10の水中姿勢が不安定になり難い。
【0162】
浮力体20a,20b,20c,20d,21a,21d,22A,22Bのうち少なくとも一つの頂部が仮想水面L*と同水準にあるとき、浮力体20x,20yは、それぞれ、全体が仮想水面L*より下に配置する関係にある。そのため、第2乃至第4の各実施例の場合と同様、水面L又は水面L近くの変動(例えば波浪)の悪影響が浮力体20x,20yに及びにくくなり、構造体10は不安定になり難い。
【0163】
また、調整手段40a,40b,40c,40d,41a,41d,42A,42Bを用いれば、浮力体20a,20b,20c,20d,21a,21d,22A,22Bのそれぞれの取付深さを調整することができるので、第2乃至第4の各実施例の場合と同様、構造体10の水中姿勢を調整することができ、たとえば水中姿勢を一定に保つことができる。
【0164】
それ故、第3の実施例に係る水中配置構造1は、第2乃至第4の各実施例の場合と同様、本発明の第2の形態の効果を奏する。
【0165】
図11乃至14に示す水中配置構造1では、複数個の浮力体浮力体20a,20b,20c,20d,20x,20y,21a,21d,22A,22Bや錘50A,50Bの取付数、取付場所等の設定や当該複数個の浮力体の取付深さの調整手段40a,40b,40c,40d,41a,41d,42A,42Bによる調整を通じて、構造体10に水中姿勢は、二つの区画部10A,10Bのそれぞれの主面10PA,10PBが仮想水面L*と平行になり、且つ、ヒンジ機構10Hの回転軸方向が鉛直方向(仮想水面L*と垂直の方向)となるように調整してあると同時に、二つの区画部10A,10Bのそれぞれの外面14A,14Bが互い近接して略平行面を構成するように対面している状態(図11及び12参照)、つまり「閉じた状態」にあっても、二つの区画部10A,10Bのそれぞれの外面14A,14Bが互い離隔して非平行面を構成するように対面している状態(図13及び14参照)、つまり「開いた状態」にあっても、二つの区画部10A,10Bのそれぞれの主面10PA,10PBが仮想水面L*と平行になるように調整してある。それ故、二つの区画部10A,10Bがヒンジ
機構10Hの回転軸周りに相対的に回転する際、ヒンジ機構10Hに無理な力が作用しない。
【0166】
従って、構造体10は、水中において、中性浮力状態のままで、二つの区画部10A,10Bが「閉じた状態」から「開いた状態」へ無理なく変形することができ、また逆方向にも無理なく変形することができる。このような水中での構造体10の開閉変形は、構造体10を目的場所まで水中搬送した後、当該構造体10を使用して水中構造物を構成又は補強する作業を行う場合において、当該作業を容易にし、当該作業の効率化や安全性向上に資する。
【0167】
(第6の実施例)
図15は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第6の実施例(変形前)の正面図であり、図中(a)は、全ての浮力体が全没していない中間状態、(b)は、すべての浮力体が全没している状態(中性浮力状態)を描写したものである。図16は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第6の実施例(変形前)の平面図である。図17は、水中構造物用構造体の水中配置構造1の第6の実施例(変形後)の正面図であり、図18は、その平面図である。
【0168】
第6の実施例に係る水中配置構造1は、ヒンジ機構101Hを介して隣接し連結する二つの区画部100A,100C及びヒンジ機構102Hを介して隣接し連結する二つの区画部100B,100Cを具備する構造体10と、複数個の浮力体220a,220b,220c,220d,220A,220Bと、当該複数個の浮力体と構造体10とを連結する取付部材320a,320b,320c,320d,320A,320Bと、浮力体220a,220b,220c,220d,220A,220Bのうち少なくとも一つと構造体10との間の距離を調整するための調整手段420a,420b,420c,420d,420A,420Bと、錘500と、構造体10と錘500とを連結する取付部材600とを具備しており、複数個の浮力体220a,220b,220c,220d、取付部材320a,320b,320c,320d及び調整手段420a,420b,420c,420dとそれぞれ並列的に、複数個の浮力体221a,221b,221c,221d、当該複数個の浮力体と構造体10とを連結する取付部材321a,321b,321c,321d及び当該複数個の浮力体の取付深さを調整する調整手段421a,421b,421c,421dを具備している。
【0169】
区画部100Aには、浮力体220a,220b,220A,221a,221bが、区画部100Bには浮力体220c,220d,220B,221c,221dが、区画部100Cには、取付部材600により錘500が取り付けてあり、区画部100A,100Bに作用する浮上力が区画部100C、ひいては構造体10全体の過度の沈降を防止するように構成してある。
【0170】
なお、浮力体が生み出す浮力の大きさ(多くの場合、浮力体の体積)は、浮力体200A,200Bが最も小さく、残りの浮力体220a,220b,220c,220d,221a,221b,221c,221dは、いずれも互いに概ね同じ大きさである。
【0171】
区画部100Cは、玉掛用ワイヤーロープ120A,120B,120C,120Dを掛け止めるための被掛止部110A,110B,110C,110Dを具備している。玉掛用ワイヤーロープ120A,120B,120C,120Dのそれぞれの一端を被掛止部110A,110B,110C,110Dに掛け止め、それぞれの他端をクレーン(図示せず)のフック130に引っ掛けることで、クレーンによる構造体10の昇降(荷揚げ・荷降し)を含む搬送を行うことができる。構造体に浮力体、取付部材、錘、調整部材等のうち少なくとも一つが取り付けてある場合には、クレーンにより、浮力体、取付部材、錘、調整手段等のうち少なくとも一つを構造体10とともに昇降させることができる。
【0172】
なお、構造体10は、被掛止部110A,110B,110C,110D以外にも、玉掛作用に使用できる複数個の被掛止部を備えていてよい。区画部100Aは被掛止部110a,110cを、区画部100Bは被掛止部110b,110dを具備していてよく、被掛止部110A,110B,110C,110Dではなく、被掛止部110a,110b,110c,110dに玉掛用ワイヤーロープ120A,120B,120C,120Dを掛け止めてもよく、玉掛用ワイヤーロープを追加して、全ての被掛止部に玉掛用ワイヤーロープを掛け止めてもよい。
【0173】
構造体10を、クレーンを使用して水面Lの上側から、複数個の浮力体220a,220b,220c,220d,220A,220B,221a,221b,221c,221d、複数個の取付部材320a,320b,320c,320d,320A,320B,321a,321b,321c,321d、錘500、取付部材600、調整部材420a,420b,420c,420d,420A,420B,421a,421b,421c,421dとともに水面L中へ沈降させて行くと、浮力体220A,220Bは全没しているが、その他の浮力体は全没していない中間状態(図15(a)参照)に至る。そして、構造体10を更に沈降させて行くと、全ての浮力体が全没し、構造体10に作用する浮上力Fと沈降力Gとが均衡した(F=G又は実質的にF=Gになった)段階で、中性浮力状態に置かれる(図15(b)、図17参照)。そのため、図15(b)に示す第6実施例に係る水中配置構造1は、本発明の第1の形態の効果を奏す
る。
【0174】
図15(b)又は17に示す第6の実施例に係る水中配置構造1では、複数個の浮力体複数個の浮力体220a,220b,220c,220d,220A,220B,221a,221b,221c,221dのうち少なくとも一つが構造体10とともに全体が水没しているので、水面L又は水面L近くの変動の悪影響が全ての浮力体には及ばない。それ故、中性浮力状態にある構造体10の水中姿勢は、不安定になり難い。
【0175】
浮力体220a,220b,220c,220d,221a,221b,221c,221dのうち少なくとも一つの頂部が仮想水面L*と同水準にあるとき、浮力体220A,220Bは、それぞれ、全体が仮想水面L*より下に配置する関係にある。そのため、第2乃至第5の各実施例の場合と同様、水面L又は水面L近くの変動(例えば波浪)の悪影響が浮力体220A,220Bに及びにくくなり、中性浮力状態にある構造体10は水中で不安定になり難い。
【0176】
また、調整手段420a,420b,420c,420d,420A,420B,421a,421b,421c,421dを用いれば、浮力体220a,220b,220c,220d,220A,220B,221a,221b,221c,221dのそれぞれの取付深さを調整することができるので、第2乃至第5の各実施例の場合と同様、中性浮力状態にある構造体10の水中姿勢を調整することができ、たとえば水中姿勢を一定に保つことができる。
【0177】
それ故、図15(b)又は17に示す第6の実施例に係る水中配置構造1は、第2乃至第4の各実施例の場合と同様、本発明の第2の形態の効果を奏する。
【0178】
また、錘500を構造体10に取り付けているので、構造体10に作用する沈降力Gを増やすことができ、故に本発明の第3の形態の効果を奏する。
【0179】
加えて、本発明の第6の形態は、以下に説明する固有の効果を奏する。
【0180】
図15乃至18に示す水中配置構造1では、複数個の浮力体220a,220b,220c,220d,220A,220B,221a,221b,221c,221dや錘500の取付数、取付場所等の設定や、調整手段420a,420b,420c,420d,420A,420B,421a,421b,421c,421dによる個々の浮力体の取付深さの調整を通じて、構造体10に水中姿勢は、二つのヒンジ機構101H,102Hの各回転軸方向が鉛直方向(仮想水面L*と垂直の方向)になるように調整してある。また、二つの区画部100A,100Cのそれぞれの外面141A,140Aが互い対向している状態、つまり区画部100A,100Cが「閉じた状態」であっても(図15(b)及び16参照)、外面141A,140Aが互いに離隔している状態、つまり区画部100A,100Cが「開いた状態」であっても(図17及び18参照」)、ヒンジ機構101Hの回転軸方向は鉛直方向になるように調整してある。同様に、二つの区画部100B,100Cのそれぞれの外面141B,140Bが互い対向している状態、つまり区画部100B,100Cが「閉じた状態」であっても(図15(b)及び16参照)、外面141B,140Bが離隔している状態、つまり区画部100B,100Cが「開いた状態」であっても(図17及び18参照)、ヒンジ機構102Hの回転軸方向は鉛直方向になるように調整してある。それ故、二つの区画部100A,100Cがヒンジ機構101Hの回転軸周りに相対的に回転する際、ヒンジ機構101Hに無理な力が作用しない。同様に、二つの区画部100B,100Cがヒンジ機構102Hの回転軸周りに相対的に回転する際、ヒンジ機構102Hに無理な力が作用しない。
【0181】
従って、構造体10は、水中において中性浮力状態のままで、二つの区画部100A,100Cを「閉じた状態」から「開いた状態」へ、また「開いた状態」から「閉じた状態」へ無理なく変形させることができ、また逆方向にも無理なく変形することができ、同様に、二つの区画部100B,100Cが「閉じた状態」から「開いた状態」へ、また「開いた状態」から「閉じた状態」へ無理なく変形することができる。
【0182】
平面視したとき、外面141AがC形の凹面であり、外面141Bが逆C形の凹面である場合(図16及び18参照)、二つの区画部100A,100Cが「閉じた状態」にあると外面141Aの凹面の開口を外面140Aが封じるので、外面141Aは外面140Aとともに閉環を形成し(図16参照)、「開いた状態」にあると外面141Aの凹面の開口を外面140Aが封じないので、当該閉環を形成せず、強いていえば開いた環を形成する(図18参照)。同様に、二つの区画部100B,100Cが「閉じた状態」にあると、外面141Aは外面140Aとともに閉環を形成し、「開いた状態」にあると当該閉環を形成せず、強いていえば開いた環を形成する。
【0183】
今、外面141Aと外面140Aにより取り巻かれ、外面141Aと外面140Aが形成する閉環内に収容されるような寸法の柱P1を想定すると、二つの区画部100A,100Cを「開いた状態」にしてある構造体10を、中性浮力状態のままで、外面141A及び外面140Aに柱P1が近接するように配置又は移動させることができ、引き続き「閉じた状態」にすることで、外面141Aと外面140Aが形成する閉環内に柱P1を配置させることができる。その後、二つの区画部100A,100Cを「閉じた状態」にしたまま固定し、且つ、柱P1に固定すれば、構造体10を水中で柱P1に固定することができる。同様に、外面141Bと外面140Bにより取り巻かれ、外面141Bと外面140Bが形成する閉環内に収容されるような寸法の柱P2を想定すると、二つの区画部100A,100Cを「閉じた状態」にしてある構造体10を、中性浮力状態のままで、外面141B及び外面140Bに柱P2が近接するように配置又は移動させることができ、引き続き「閉じた状態」にすることで、構造体10を柱P2に水中で固定することができる。そして、それらを組み合わせれば、互いに離隔する柱P1と柱P2との間を橋渡すように、構造体10を柱P1,P2に取り付けて、固定することができる。
【0184】
構造体10を柱P1や柱P2に固定するためには、ボルト-ナット螺合機構に代表される周知の接続手段や溶接を採用すればよい。
【0185】
区画部100A,100Cを「開いた状態」にしたとき、外面141A及び外面140Aと柱P1との間に隙間ができる場合及び/又は区画部100B,100Cを「開いた状態」にしたとき、外面141B及び外面140Bと柱P2との間に隙間ができる場合には、構造体10を柱P1及び/又は柱P2に水中で固定する前及び/又は後の適時に、その隙間を埋める資材(たとえば鉄筋、スリーブ材、モルタル、コンクリートなど)を導入してもよい。
【0186】
なお、二つの区画部100A,100Cが「閉じた状態」にあり、外面141Aと外面140Aが形成する閉環内に柱P1が既に配置している場合には、構造体10が柱P1に固定されていない限り又は固定を解除した後、中性浮力状態のままで区画部100A,100Cを「開いた状態」にすれば、構造体10を柱P1から離脱させることができる。同様に、二つの区画部100B,100Cが「閉じた状態」にあり、外面141Bと外面140Bが形成する閉環内に柱P2が既に配置している場合には、構造体10が柱P2に固定されていない限り又は固定を解除した後、中性浮力状態のままで区画部100A,100Cを「開いた状態」にすれば、構造体10を柱P2から離脱させることができる。そして、それらを組み合わせれば、互いに離隔する柱P1と柱P2との間を橋渡すように取り付けてあった構造体10を、柱P1,P2から離脱させることができる。
【0187】
第6の実施例に係る水中配置構造1は、構造体10が、柱P1と柱P2との間を橋渡しして固定する役割を担う場合に好適である。第6の実施例によれば、構造体10を中性浮力状態のままで、隣接する二つの区画部の開閉の変形を無理なく行うことができるので、目的場所まで水中搬送した構造体10を使用して水中構造物を構成又は補強する作業を行う際又は柱に既に取り付けてある構造物10を取り外す作業を行う際、その作業の効率化や安全性向上させるに資することができ、非常に有益である。
【0188】
なお、ヒンジ機構101Hの回転軸方向は鉛直方向に維持したままで、二つの区画部100A,100Cを「閉じた状態」から「開いた状態」へ、また「開いた状態」から「閉じた状態」へ連続的に変形させことが難しい又はそのような連続的変形を可能にする条件の設定に時間がかかる場合には、「開いた状態」と「閉じた状態」との間の変形の都度、ヒンジ機構101Hの回転軸方向が鉛直方向になるように設定するとよい。同様に、ヒンジ機構102Hの回転軸方向は鉛直方向に維持したままで、二つの区画部100B,100Cを「閉じた状態」から「開いた状態」へ、また「開いた状態」から「閉じた状態」へ連続的に変形させことが難しい又はそのような連続的変形を可能にする条件の設定に時間がかかる場合には、「開いた状態」と「閉じた状態」との間の変形の都度、ヒンジ機構102Hの回転軸方向が鉛直方向になるように設定するとよい。
【0189】
<水中搬送方法の例>
図19乃至26は、本発明に係る水中構造物用構造体の水中搬送方法の説明図である。構造体10の一例として第6の実施例における構造体を選択し、これらの図及び第6の実施例を描写する図15乃至18に基づき、構造体を準備し、目的場所まで水中搬送し、その目的場所で水中構造物を構成又は補強する場合について、以下説明する。
【0190】
1.水中構造物
図19に示す水中構造物は、少なくとも二本の隣接する柱P1,P1と、構造体10の搬送を行うためのクレーンCRNなどの搬送機械を設置することができる広さと強度を有する床版BFとを具備している。床版BFは、構造体10の少なくとも一部を搬送台車に載置し、これを牽引するトレーラTRLが、当該搬送台車とともに載り込むことができるものであることが望ましい。
【0191】
二本の柱P1,P2は、それぞれ、中実又は中空の一本の柱状材でできているか、中実又は中空の柱状材が長尺方向にそって二本以上連結してなる一本の柱からできており、その下部は、水底BWへの打ち込み、水底BWに設置したコンクリート基台(図示せず)への連結等により、水底BWに固定してあり、その上端部は床版BFを、その床版BFのうえに載っている搬送機器、トレーラ等とともに下方から支え、水没から防いでいる。
【0192】
図20は、水中構造物を構成する柱の説明図であり、同図(a)は、隣接する二本の柱P1,P2の特徴部分の正面図であり、同図(b)は、同図(a)のZ-Z断面図である。図20において、柱P1は、水面L下に架台CR1を、架台CR1の下に足場WT1を備えており、柱P2は、水面L下に架台CR2を、架台CR2の下に足場WT2を備えており、二つの架台CR1,CR2及び二つの足場WT1,WT2は、それぞれ、互いに同じ水位に配置してある。柱P1は、架台CR1より上に被掛止部M1を複数個備えており、柱P2は、架台CR2より上に被掛止部M2を複数個備えており、二組の被掛止部M1,M2は、互いに同じ水位に配置してある。
【0193】
なお、足場WT1,WT2は、潜水作業者の水中作業の便のために設置するものゆえ、不可欠なものとはいえない。それ故、柱P1,P2は、足場WT1,WT2を備えない場合もある。
【0194】
柱P1,P2の長尺方向に沿って配置する架台CR1,CR2と被掛止部M1,M2との間の距離は、構造体10の、ヒンジ機構101H,102Hの回転軸方向に沿う区画部100A,100Bの長さ(高さ)より大きくなるように(例えば、当該距離は当該高さの1.8倍程度に)設定してある。
【0195】
2. 構造体
構造体10は、既述のとおり第6の実施例における構造体であるが、内部空間91(図示せず)を具備しており、当該内部空間91に対して給気、排気、給水及び排水のうち少なくとも一つを行うことにより構造体10に作用する浮力を調整する浮力調整装置(図示せず)を備えるものである。
【0196】
なお、構造体10が具備する区画部100Cに取付部材600により取り付けてある錘500は、大4の実施例における錘50xのように錨80として機能する錘であってもよく、その場合、取付部材600は、同実施例における錘揚降調整手段70xを具備する取付部材60xであってもよい(図10参照)。
【0197】
3.第1乃至第5の工程(図19及び21、図15及び16)
まず、構造体10の少なくとも一部を、構造体10の水中搬送を行う作業現場から離隔した工場で製造した後、搬送台車に載置し、トレーラTRLで牽引し、当該作業現場まで陸上輸送する(第1の工程S1)。
【0198】
次に、作業現場に輸送したものが構造体10である場合には、搬送台車に載置してある構造体10に対して、ヒンジ機構101Hを介して連結する二つの区画部100A,100Cならびヒンジ機構102Hを介して連結する二つの区画部100B,100Cがいずれも「閉じた状態」のままになるようにロープで固縛してあることを確認したうえで、玉掛け作業を施す。作業現場に輸送したものが構造体10の一部である場合には、その場で構造体10を組み立てる作業を行い、二つの区画部100A,100Cならび別の二つの区画部100B,100Cがいずれも「閉じた状態」のままになるようにロープで固縛したうえで、組み立てた構造体10に対して玉掛け作業を施す。そして、玉掛けを施した構造体10を、予め床版BLに設置しておいたクレーンにより引き揚げて、クレーントーチを旋回させることにより、床版BLが存在しない水面L上まで移動させる(第2の工程S2)。
【0199】
なお、玉掛け作業は、被掛止部110A,110B,110C,110D,110a,110b,110c,110dに玉掛用ワイヤーロープ(玉掛用ワイヤーロープ120A,120B,120C,120Dを含む)の一端を掛け止め、多端をクレーンのフック130を掛け止めることにより行うが、その際、専用の玉掛け装置があれば、それを使用してもよい。また、実務的に可能でれば、構造体10を水中で中性浮力状態にするために当該構造体10に取り付ける必要がある錘500、浮力体220a,220b,220c,220d,221a,221b,221c,221d,220A,220B、取付部材320a,320b,320c,320d,321a,321b,321c,321d,320A,320B、調整手段420a,420b,420c,420d,421a,421b,421c,421d,420A,420B等の少なくとも一部を、玉掛けを施した構造体10をクレーンにより引き揚げる前に、当該構造体10に取り付けて、当該構造体10と一緒にクレーンにより引き揚げて、床版BLが存在しない水面L上まで移動させてもよい。
【0200】
引き続き、クレーンCRNにより構造体10を降下させ、水面L下に進水させ、水面L近くで維持する。
【0201】
構造体10が具備する内部空間91(図示せず)には、水面L下に進水させる前に、空気を充満させておき、水面Lに進水させた後も充満させたままにしておく。そのために必要であれば、浮力調整装置(図示せず)を用いて内部空間91に空気を継続的に送り込んでもよい。空気を充満させおけば、内部空間91の容積応分の浮力を確保することができる。
【0202】
内部空間91に充満する空気に起因する浮力を考慮して、構造体10を水中で中性浮力状態にするために当該構造体10に取り付ける必要がある浮力体220a,220b,220c,220d,221a,221b,221c,221d,220A,220B、取付部材320a,320b,320c,320d,321a,321b,321c,321d,320A,320B、調整手段420a,420b,420c,420d,421a,421b,421c,421d,420A,420B、錘500、等(工程S2において、玉掛けを施した構造体10をクレーンにより引き揚げる前に取り付けてあるものは除く)を、当該構造体10に取り付ける(第3の工程S3)。この取付作業、引き続く水中搬送作業等における作業安全上必要な場合には、図10に示すように、浮力体20p,20qを取付手段60p,60qにより緩く(取付部材60p,60qの長さに余裕を持たせて、弛むように)構造体10に連結しておく。
【0203】
工程S3の段階では、構造体10の配置する位置の水深が比較的小さくいので、構造体10の水中での中性浮力状態や適正な水中姿勢を維持するために必要又は役立つ範囲で、より多く浮力体、調整手段、錘等を取り付けておき、引き続く工程(特に、より水深が大きい位置に構造体10が配置することが避けられない工程)における作業負荷を軽減するのが望ましい。
【0204】
その後、クレーンCRNにより、区画部100A,100C及び区画部100B,100Cがいずれも「閉じた状態」のままで構造体10を、(1)経路r1に沿って更に降下させて、または(2)経路r2に沿って、正面視したとき構造体10の区画部100Cが二本の柱P1,P2の間に概ね配置する位置まで水平移動させた後で更に降下させて、すべての浮力体、取付部材及び調整手段及び錘とともに全没する位置を維持する。その位置で調整手段420a,420b,420c,420d,421a,421b,421c,421d,420A,420Bにより浮力体の取付深さを調整し、浮力体220a,220b,220c,220d,221a,221b,221c,221dの少なくとも一つの頂部が仮想水面L*に達しているとき、浮力体220A,220Bが仮想水面L*下に全没するように設定する。そのうえで、錘500の取付数、取付場所等の設定や、調整手段420a,420b,420c,420d,420A,420B,421a,421b,421c,421dによる個々の浮力体の取付深さの更なる調整、図示しない浮力調整装置の操作を通じて、構造体10が水中で中性浮力状態になるように、且つ、二つのヒンジ機構101H,102Hの各回転軸方向が鉛直方向になるように設定する(第4の工程S4)。
【0205】
工程S4において、構造体10の降下は、錘の追加や浮力体の除去により実現できるが、浮力調整装置を使用して内部空間91に対する排気と給水を行うことにより、内部空間91に起因する浮力を低減させ、構造体10に作用する沈降力Gを相対的に増加させることがより簡便である。構造体10の水平移動は、別途設けた牽引手段により行うこともできるが、クレーンCRNの操作により行えば足りる。
【0206】
次いで、中性浮力状態にある構造体10を、(1)経路r1に沿って、区画部100A又は区画部100Bの最下部の水位と架台CR1,CR2の水位との差がdLになるまで降下させる。そして、正面視したとき構造体10の区画部100Cが二本の柱P1,P2の間に概ね配置する位置まで水平移動させるか、(2)経路r2に沿って、区画部100A又は区画部100Bの最下部の水位と架台CR1,CR2の水位との差がdLになるまで降下させる。なお、dLは、引き続く作業の効率を考えると、零以上の値であることが好ましく、dLが零であることがより好ましい。しかし、多少の作業効率の低下を厭わなければ、dLが負の値になる(区画部100A又は区画部100Bの最下部の水位が架台CR1,CR2の水位よりも低くなる)ようにしてしてもよい。
【0207】
いずれの経路であれ、中性浮力状態にある構造体10が、最終的に、正面視したとき構造体10の区画部100Cが二本の柱P1,P2の間に概ね配置するに至ったときには、図21に示すように、平面視したとき構造体10が、二本の柱P1,P2からある程度離隔して位置に配置するようにする(第5の工程S5)。より詳しくは、区画部100Cの長尺方向の主軸(以下「区画部100Cの主軸」という)と、二本の柱P1,P2のそれぞれの長尺方向の主軸(以下「柱軸」という)、合計二つの柱軸が構成する平面(以下「柱面」という)とが略平行となるとともに、区画部100Cの主軸と柱面との最短距離dHが零より大きくなり、且つ、区画部100A又は区画部100Bと二本の柱P1,P2の外接面との最短距離dH*も零より大きくなるようにする。
【0208】
工程S5において、構造体10の降下は、錘の追加や浮力体の除去により実現できるが、浮力調整装置を使用して内部空間91に対する排気と給水を行うのがより簡便である。ただし、錘の追加、浮力体の除去、浮力調整装置の使用は、一時的であれ中性浮力状態の喪失を意味するので構造体10の沈降が必要以上に進むおそれがあり危険である。そのため、万が一に備えて、構造体10の被掛止部に一端が掛け止めてある玉掛け用ワイヤーロープの他端をクレーンCRNのフック130に掛け止めたままにするのがよい。構造体10構造体10の水平移動は、別途設けた牽引手段により行うこともできるが、クレーンCRNの操作により行えば足りる。尤も、構造体10は中性浮力状態にあるので、構造体10と水中構造物との間をロープで繋ぎ、そのロープをウィンチで巻き取れば構造体10の水中搬送は容易に行うことができる。潜水作業者が当該ロープを手動ウィンチで巻き取っても、中性浮力状態にある構造体10の水中移動は可能である。
【0209】
4.第6及び第7の工程(図22及び23、図17及び18)
工程S5の実行により中性浮力状態にある構造体10が、図21に示す所定位置に配置するに至る直前までに又はその後できるだけ短期間で、架台CR1,CR2の直上の柱P1,P2の胴周りに鉄筋RF1,RF2を籠状に設置する作業を終わらせる。その鉄筋設置作業が完了した後、構造体10(特に区画部100C)と柱1P1,P2との位置を変えることなく、区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「閉じた状態」のままになるように固縛していたロープを緩める又は取り除き、図22に示すように、ヒンジ機構101H,102Hの各回転軸方向が鉛直方向に維持しながら区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「開いた状態」にする(第6の工程S6)。
【0210】
区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「開いた状態」にした後、図23(a)(b)に示すように、被掛止部110Aと被掛止部110bとの間及び被掛止部110Bと被掛止部110aとの間をロープRPxで結び、浮力体221bが取り付けてある場所近くの区画部100Aに被掛止部として機能する金具Ma(図示せず)を締め付け金具(図示せず)で取り付けて、当該金具と被掛止部221bとの間をロープで結び、浮力体221cが取り付けてある場所近くの区画部100Bに被掛止部として機能する金具Mb(図示せず)を締め付け金具(図示せず)で取り付けて、当該金具と被掛止部221bとの間をロープで結ぶことにより、「閉じた状態」に戻らないようする。
【0211】
なお、区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「開いた状態」にする作業を行う過程で、構造体10が水中姿勢のバランスを崩し、傾斜又は転倒する事態が生じる場合に備えて、構造体10の被掛止部に一端が掛け止めてある玉掛け用ワイヤーロープの他端をクレーンCRNのフック130に掛け止めたままにしておいてもよい。
【0212】
また、区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「開いた状態」にする作業で、構造体10を係留しておいた方が好ましいケースが事前に想定できる場合は、予め、錨80として機能する錘50x及び錘揚降調整手段70xを具備する取付部材60xを錨500及び取付部材600としてそれぞれ選択しておき、錘揚降調整手段70xを用いて錘50xを水底BWに着床させ、錨80の拘駐力を発生させることにより、上記の鉄筋設置作業が完了するまで、構造体10を水中に係留するようにしてもよい。その場合、錨80の着床により構造体10に作用する沈降力Gの相対的低下が懸念されるときは、構造体10の水中での中性浮力状態の維持と錨80による係留を両立させるため、構造体10に取り付ける錘を追加する、浮力調整装置により構造体10に作用する浮力を相対的に減少させる等により、沈降力Gの低下を防止する。
【0213】
次に、被掛止部110Cと、柱P1が具備する被掛止部M1との間を二本の柱P1,P2の間を経由してワイヤーロープRP1で結び、ワイヤーロープRP1を手動で巻き取るための手動ウィンチWn1を取り付け、被掛止部110Dと、柱P2が具備する被掛止部M2との間を二本の柱P1,P2の間を経由してワイヤーロープRP2で結び、ワイヤーロープRP2を手動で巻き取るための手動ウィンチWn2を取り付ける。そして、潜水作業者が手動ウィンチWn1,Wn2を操作してワイヤーロープRP1,RP2を巻き取る。これにより、中性浮力状態にある構造体10を、経路r3に沿って柱面に向かって移動させる。この移動によりdH*を零、更には負にし(つまり区画部100A又は区画部100Bが二本の柱P1,P2の外接面よりも紙面上側になるまで移動させ)
、dHを零に近づける。
【0214】
dHがある程度零に近づいた段階で、ワイヤーロープRP1,RP2及び手巻きウィンチWn1,Wn2を取り外し、今度は金具Ma(図示せず)と被掛止部110Cとの間を二本の柱P1,P2の間を経由することなく柱P1を巻き込むようにワイヤーロープRP3で結び、ワイヤーロープRP3を手動で巻き取るための手動ウィンチWn3を取り付ける。また、金具Mb(図示せず)と被掛止部110Dとの間を二本の柱P1,P2の間を経由することなく柱P2を巻き込むようにワイヤーロープRP4で結び、ワイヤーロープRP4を手動で巻き取るための手動ウィンチWn4を取り付ける。そして、潜水作業者が手動ウィンチWn3,Wn4を操作してワイヤーロープRP3,RP4を巻き取る。これにより、中性浮力状態にある構造体10を、経路r3に沿って区画部100Cの主軸が柱面上に達するまで更に移動させる(図23(c)参照)。この移動により、dHを零又は、引き続く作業に支障を与えない程度の実質的な零にする(第7の工程S7)。
【0215】
なお、区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「閉じた状態」に戻らないようにする作業の過程及び/又は経路r3に沿って構造体10を移動させ過程で、構造体10が水中姿勢のバランスを崩し、傾斜又は転倒する事態に備えて、構造体10の被掛止部に一端が掛け止めてある玉掛け用ワイヤーロープの他端をクレーンCRNのフック130に掛け止めたままにしておいてもよい。
【0216】
また、区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「閉じた状態」に戻らないようにする作業の過程で、構造体10を係留しておいた方が好ましいケースが事前に想定できる場合は、予め、錨80として機能する錘50x及び錘揚降調整手段70xを具備する取付部材60xを錨500及び取付部材600としてそれぞれ選択しておき、錘揚降調整手段70xを用いて錘50xを水底BWに着床させ、錨80の拘駐力を発生させることにより、上記の鉄筋設置作業が完了するまで、構造体10を水中に係留するようにしてもよい。その場合、錨80の着床により構造体10に作用する沈降力Gの相対的低下が懸念されるときは、構造体10の水中での中性浮力状態の維持と錨80による係留を両立させるため、構造体10に取り付ける錘を追加する、浮力調整装置により構造体10に作用する浮力を相対的に減少させる等により、沈降力Gの低下を防止する。
【0217】
5.第8の工程(図24、図15及至18)
次いで、区画部100A,100C及び区画部100B,100Cが「閉じた状態」に戻らないようにするために張り巡らしたロープRPx、経路r3に沿って構造体10を移動させるために取り付けたワイヤーロープRP3,4及び手動ウィンチWn3,Wn4を取り外す(図24(a)(b)参照)。区画部100A,100Bに設置してある被掛止部110a,110b,110c,110dに、クレーンCRNのフック130に一端が掛け止めてある玉掛用ワイヤーロープの他端が掛け止めてある場合には、その玉掛用ワイヤーロープも取り外す。区画部100Cに設置してある被掛止部110A,110B,110C,110Dに、クレーンCRNのフック130に一端が掛け止めてある玉掛用ワイヤーロープの他端が掛け止めてある場合は、引き続く作業に支障を与えない限り、取り外さなくてもよい。
【0218】
その後、図24(b)に示すように、ヒンジ機構101H,102Hの各回転軸方向が鉛直方向に維持しながら区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「閉じた状態」にする。この「閉じた状態」では、図24(c)に示すとおり、平面視したとき凹状をなす区画部100Aの外面141Aと、外面141Aの凹面の開口を封じる区画部100Cの外面140Aが形成する閉環内に柱P1が配置し、既設の鉄筋籠RF1の少なくとも一部も配置する。また、平面視したとき凹状をなす区画部100Bの外面141Bと、外面141Bの凹面の開口を封じる区画部100Cの外面140Bが形成する閉環内に柱P2が配置し、既設の鉄筋籠RF2の少なくとも一部も配置する。引き続き、この「閉じた状態」を維持するため、区画部100Aと区画部100Cとがヒンジ機構101Hの回転軸周りに回転して開かないように、ヒンジ機構101Hとは反対側の対面位置において仮止めする。同様に、区画部100Bと区画部100Cとがヒンジ機構102Hの回転軸周りに回転して開かないように、ヒンジ機構102Hとは反対側の、区画部100Bと区画部100Cとの対面位置において仮止めする(第8の工程S8)。仮止めの方法は、引き続く工程に支障を与えない限りいかなる方法でもよいが、ボルト締めにより又は締付金具を用いて行うのが簡便である。
【0219】
6.第9及び第10の工程(図25乃至26)
工程S8の中間段階(例えば、区画部100A,100C及び区画部100B,100Cを「閉じた状態」にする段階)や工程S8の最終段階の仮止めが完了する前後において、図25(a)に示すように、構造体10と柱P1,P2との間をワイヤーロープで結び、そのワイヤーロープを手動で巻き取るための手動ウィンチWn5を取り付ける。より詳しくは、例えば、二つの被掛止部110A,110Cのそれぞれと共通の被掛止部M1との間をワイヤーロープで結び、そのワイヤーロープを手動で巻き取るための手動ウィンチを取り付ける(その場合の合計二本のワイヤーロープ及び合計二個の手動ウィンチをそれぞれ代表するものが、図25中のワイヤーロープRP5及び手動ウィンチWn5である)。同様に、二つの被掛止部110B,110Dのそれぞれと共通の被掛止部M2との間をワイヤーロープで結び、そのワイヤーロープを手動で巻き取るための手動ウィンチを取り付ける(その場合の合計二本のワイヤーロープ及び合計二個の手動ウィンチをそれぞれ代表するものが、図25中のワイヤーロープRP6及び手動ウィンチWn6である)。
【0220】
次に、浮力体を小さいものから順に外す(図25(b)参照)、浮力調整装置(図示せず)を使用して構造体に作用する浮力を減少させる又は錘を追加するあるいはそれらの組み合わせにより、沈降力Gが浮上力Fを上回るように(換言すれば、中性浮力状態を解除し、構造体10が沈降するように)設定したうえで、手動ウィンチWn5,Wn6に巻き取ってあるワイヤーロープRP5,RP6を少しずつ巻き戻すことにより、図25(b)に示すように、構造体10を経路r4に沿って沈降させ、区画部100A,100B、ひいては構造体10を架台CR1,CR2上に着床させる(第9の工程S9)。
【0221】
なお、浮力調整装置(図示せず)を使用して構造体に作用する浮力を減少させる場合には、構造体の内部に対する給気、排気、給水及び排水の少なくとも一つを行うこととの関係上、浮力の制御を行い易く、構造体の中性浮力状態の解除の速度を小さく設定することも容易になる。そして、構造体の中性浮力状態を徐々に解除する場合には、構造体は急激な位置や姿勢の変動を起こし難いので、作業者(特に潜水作業者)が事故に巻き込まれる可能性が低下し、作業がより安全になる。それ故、工程S9において、構造体10を経路r4に沿って沈降させるために、構造体10の中性浮力状態を解除する際には、浮力調整装置を使用して徐々にその水中浮力状態を解除することが、より好ましい。
【0222】
次に、構造体10の架台CR1,CR2上への着床が完了した後、工程S8において仮止めしておいた区画部100Aと区画部100Cとを本止めし、同様に、区画部100Bと区画部100Cとを本止めする。また、構造体10を、架台CR1,CR2に固定する。本止め及び固定の方法の代表例は、水中溶接、ボルト締め、専用金具による狭締めである。
【0223】
区画部100A及び区画部100Cと柱P1との間及び区画部100B及び区画部100Cと柱P2との間のある、鉄筋RF1,RF2を擁する隙間を埋めるため、充填材を注入し、固化させる。その場合の充填材の代表例は、水中で固化するコンクリート、モルタル、合成樹脂である。
【0224】
この段階に至り、水中構造物の一部を構成する又は水中構造物を補強する部材、装置等としての構造体10の設置は概ね終了となる。その後は、使命を終えた浮力体、錘、取付部材、調整手段は取り外す(第10の工程S10)。その場合、取り外した浮力体に、取り外した錘、取付部材、調整手段等を取り付けて浮上させると回収作業が捗る。
【0225】
構造体10が具備する内部空間91(図示せず)は、最終的には、水で満たす。しかし、内部空間91の全部又は一部に充満させた空気を残し、当該空気に起因して構造体10に作用する浮力を生じさせ、それにより架台CR1,CR2を介して柱P1,P2に働く力を軽減するようにしてもよい。足場WT1,WT2を取り付けて一連の作業を行っていた場合には、原則として、これを除去する。
【0226】
7.まとめ
工程S4から工程S5にかけて実行する、経路r1の水平方向の移動及び経路r2の鉛直方向の移動(図19参照)ならびに工程S7において実行する、経路r3の水平方向の移動(図23参照)は、構造体10を中性浮力状態で水中搬送しているので、上記の水中搬送方法は、本発明の第7の形態の効果を奏する。
【0227】
上記の水中搬送方法は、工程S3及至る工程S5を実行するので、本発明の第8の形態の効果を奏し、工程S1を実行するので、本発明の第9の形態の効果を奏し、工程S3を実行するので、本発明の第10の形態の効果を奏する。
【0228】
また、構造体10を水中で中性浮力状態にするために必要な浮力体、錘等の一部を工程S2で構造体10に取り付け、残部を工程S3で構造体10に取り付ける場合があるので、上記の水中搬送方法は、本発明の第11の形態の効果を奏する。工程S3あるいは工程S2及び工程S3で取り付ける浮力体は複数個であり、その複数個の浮力体のうち一部の頂部が仮想水位L*に達しているとき、残部の浮力体は全体が仮想水位L*より下に配置しているので、上記の水中搬送方法は、本発明の第12の形態の効果を奏する。
【0229】
錨80として機能する錘50x及び錘揚降調整手段70xを具備する取付部材60xを錨500及び取付部材600としてそれぞれ選択する場合には、上記の水中搬送方法は、本発明の第13の
形態の効果を奏する。
【0230】
浮力調整装置を操作することで浮力調整工程を実行することができるので、本発明の第14の形態の効果を奏する。
【0231】
工程S8及び工程S9あるいは工程S8及至S10を実行する過程で、中性浮力状態にある構造体を水中構造物の側に引き込み、中性浮力状態を解除して水中構造物に取り付けるので、本発明の第15の形態の効果を奏する。
【0232】
<水中搬送方法の別の例>
図27は、本発明に係る水中構造物用構造体の他の水中搬送方法の説明図である。図中、水中で中性浮力状態にある構造体10を備える水中配置構造1は水面L下に全没しており
、当該水中配置構造1には、錘50kと、その錘50kを水面L下に吊下げるに足る浮力を生成
する浮力体20kとが取り付けてある。水中配置構造1は、既に浮上力Fと沈降力Gとが均
衡している状態にあるので、図27に描写してある構造体の水中配置構造を実現するためには、重量が小さい錘50kと、その小さな錘50kに見合う浮力を生成する浮力体(従って小さな浮力体)20kを用意し、水中配置構造1に取り付ければ足りる。
【0233】
図27に描写してある構造体の水中配置構造は、特許文献2に記載の構造体の水中配置構造と同じであるので、その水中搬送方法は、従来と同様である。
【0234】
この別の水中搬送方法によれば、本発明の第16の形態の効果を奏する。
【符号の説明】
【0235】
1,100,200 … 水中構造物用構造体の水中配置構造
10 … 構造体
20,21,220,221 … 浮力体
30,31,320,321 … 取付部材
40,41,420,421 … 調整手段
50,500 … 錘
510 … 錘取付部材
60 … 取付部材
70 … 錘揚降調整手段
80 … 錨
90 … 浮力調整装置
91 … 内部空間
110 … 被掛止部
120 … 玉掛用具
130 … クレーンのフック
L…水面
F…浮上力
G…沈降力
m…目印部材
P1,P2 … 水中構造物の柱
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中構造物の一部又は全部を構成する構造体の水中配置構造であって、
水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材と、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段とを備えており、
前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、
前記複数個の浮力体のそれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、
前記構造体は、水中で中性浮力状態にあるとともに、その中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であり、
前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることを特徴とする、水中構造物用構造体の水中配置構造。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記構造体に取り付けた錘を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の、水中構造物用構造体の水中配置構造。
【請求項4】
前記錘は複数個あり、
前記複数個の錘のうち少なくとも一つは、前記構造体との間の距離を調整することにより水底に着床可能な錨であることを特徴とする、請求項3に記載の、水中構造物用構造体の水中配置構造。
【請求項5】
前記構造体は、少なくとも二つの区画部を備えており、
隣接する区画部同士は、ヒンジ機構により接続してあり、
前記ヒンジ機構の回転軸は、鉛直又は実質的に鉛直方向になるように調整してあることを特徴とする、請求項1、3又は4に記載の、水中構造物用構造体の水中配置構造。
【請求項6】
前記構造体の内部に対して給気、排気、給水及び排水のうち少なくとも一つを行うことにより前記構造体に作用する浮力を調整する浮力調整装置を備えていることを特徴とする、請求項1ならびに3乃至5のいずれかに記載の、水中構造物用構造体の水中配置構造。
【請求項7】
水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、
構造体を準備する第1の工程と、
前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び複数個の浮力体を取り付ける第2の工程と、
前記調整手段ならびに前記錘及び前記複数個の浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有し、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであり、
中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段により調整する工程を更に有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
前記第2の工程は、クレーンにより前記構造体を水中に没入させ、水没状態に保持する工程と、水没している前記構造体に前記調整手段、前記錘及び前記複数個の浮力体を取り付ける工程とを有することを特徴とする、請求項7に記載の、構造体の水中搬送方法。
【請求項10】
前記第2の工程は、前記構造体を水没させる前に前記調整手段、前記錘及び前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つを、そして水没させた後に残りを、前記構造体に取り付ける工程を有することを特徴とする、請求項7に記載の、構造体の水中搬送方法。
【請求項11】
前記第3の工程は、前記複数個の浮力体の一部の頂部よりも、残部の頂部の方が低い位置に配置した状態で前記構造体を水中搬送する工程を有することを特徴とする、請求項7、9又は10に記載の、構造体の水中搬送方法。
【請求項12】
前記錘は複数個の錘であり、前記第3の工程は、その実行の開始時、過程及び終了時の少なくとも一つにおいて、前記複数個の錘の少なくとも一つを水底に着床させる工程を有することを特徴とする、請求項7ならびに9乃至11のいずれかに記載の、構造体の水中搬送方法。
【請求項13】
前記第3の工程は、前記構造体の内部に対して給気、排気、給水及び排水のうち少なくとも一つを行うことにより前記構造体に作用する浮力を調整する浮力調整工程を有することを特徴とする、請求項7ならびに9乃至12のいずれかに記載の、構造体の水中搬送方法。
【請求項14】
前記第3の工程は、前記構造体を前記水中構造物の近くに搬送する工程と、前記水中構造物の近くに搬送した前記構造体を中性浮力状態のまま前記水中構造物の側に引き込む工程と、前記水中構造物の側に引き込んだ前記構造体をその中性浮力状態を解除して前記水中構造物に取り付ける工程とを有することを特徴とする、請求項7ならびに9乃至13のいずれかに記載の、構造体の水中搬送方法。
【請求項15】
水中構造物の一部又は全部を構成するための構造体の水中搬送方法であって、
取付部材により構造体に取り付けた複数個の浮力体のそれぞれの全体が前記取付部材とともに水没するまで前記構造体を水没させることにより、前記構造体を水中で中性浮力状態に設定する工程と、
水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程と、
水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態にある前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく水中搬送する工程とを有し、
前記構造体の少なくとも一部は、陸上輸送されてきたものであることを特徴とする、構造体の水中搬送方法。
【請求項16】
前記構造体は、少なくとも二つの区画部を備えており、
隣接する区画部同士は、ヒンジ機構により接続してあり、
前記ヒンジ機構の回転軸は、鉛直又は実質的に鉛直方向になるように調整してあることを特徴とする、請求項7ならびに9乃至14のいずれかに記載の、構造体の水中搬送方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-18 
出願番号 特願2016-237416(P2016-237416)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (E02B)
P 1 652・ 856- YAA (E02B)
P 1 652・ 851- YAA (E02B)
P 1 652・ 121- YAA (E02B)
P 1 652・ 853- YAA (E02B)
P 1 652・ 857- YAA (E02B)
P 1 652・ 852- YAA (E02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西田 光宏  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
井上 博之
登録日 2017-02-03 
登録番号 特許第6083487号(P6083487)
権利者 JFEエンジニアリング株式会社
発明の名称 水中構造物用構造体の水中配置構造および水中搬送方法  
代理人 特許業務法人インテクト国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 インテクト国際特許事務所  
代理人 石橋 良規  
代理人 石橋 良規  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ